(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】支柱の交換方法、及び冶具
(51)【国際特許分類】
E01F 15/06 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
E01F15/06 A
(21)【出願番号】P 2021074245
(22)【出願日】2021-04-26
【審査請求日】2021-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】511259289
【氏名又は名称】株式会社ネクスコ・メンテナンス関東
(73)【特許権者】
【識別番号】521181035
【氏名又は名称】株式会社くい丸
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】安蔵 康二
(72)【発明者】
【氏名】大橋 佳久
(72)【発明者】
【氏名】君岡 銀兵
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-111414(JP,A)
【文献】特開2011-184879(JP,A)
【文献】特開2007-270467(JP,A)
【文献】特開2019-085770(JP,A)
【文献】特開平01-116105(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0222254(US,A1)
【文献】特開2011-208491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 3/00-8/02
E01F 13/00-15/14
E01F 1/00
E04H 17/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のワイヤーロープを
路面に設置された複数の支柱により支持するワイヤーロープ式防護柵の支柱の交換方法であって、
前記複数のワイヤーロープは、各ワイヤーロープが前記路面に沿った方向に緊張状態で延伸する区間を有し、各ワイヤーロープにおける前記区間が前記路面に設置された支柱の突出方向に並び、かつ前記区間内の複数の位置のそれぞれにおいて単一の支柱が前記複数のワイヤーロープを支持するように、前記複数の支柱により支持され、
前記複数の支柱のうち少なくとも1つの支柱は、設置時
に前記路面上に突出する部分における上端側が開放さ
れ前記複数のワイヤーロープが通過する溝を有し、
前記交換方法は、
前記複数のワイヤーロープの前記区間内のうちの、非交換対象の支柱により支持される第1の支持位置と、交換により新たに設置された支柱により支持される第2の支持位置との間であって、各支柱から離隔した位置に、少なくとも1つの第1の冶具を取り付けることであって、前記第1の冶具は、複数のワイヤーロープ
のそれぞれを
係合させることにより緊張状態であるときの各ワイヤーロープの間隔と対応した所定の間隔で
前記複数のワイヤーロープを保持する
ように構成された保持部と、前記保持部により前記複数のワイヤーロープを保持した状態であるときに
ジャッキからの前記路面から遠ざかる方向に働く外力を受ける
ことが可能なように構成された受け部と、を有
し、
前記第1の冶具を取り付けることは、前記保持部に前記複数のワイヤーロープのそれぞれを緊張状態のまま係合させることを含む、ことと、
前記複数のワイヤーロープの前記区間内のうちの、前記第1の支持位置に近接した位置に、第2の冶具を取り付けることであって、前記第2の冶具は、複数のワイヤーロープのそれぞれを係合させることにより前記所定の間隔で前記複数のワイヤーロープを保持するように構成された保持部と、前記保持部により前記複数のワイヤーロープを保持した状態であるときに前記第1の支持位置で前記複数のワイヤーロープを支持する非交換対象の支柱との相対位置の変化が規制されるように当該支柱と係合可能なように構成された係合部と、を有し、前記第2の冶具を取り付けることは、前記保持部に前記複数のワイヤーロープのそれぞれを緊張状態のまま係合させることと、前記係合部を支柱と係合させることとを含む、ことと、
ジャッキにより前記
第1の冶具の前記受け部に
前記路面から遠ざかる方向に働く外力を加え、緊張状態の前記複数のワイヤーロープ
の各々を
、前記所定の間隔のまま、前記支柱により支持されるときの前記路面からの位置よりも前記路面から遠方となる位置に移動させることと、
緊張状態の前記複数のワイヤーロープを
前記所定の間隔のまま移動させた状態で、前記溝を有する新たな支柱を
前記第2の支持位置と対応する前記路面の位置に設置することと、
前記
ジャッキを操作して前記
第1の冶具
及び緊張状態の前記複数のワイヤーロープを
前記路面に近づける方向に移動させ
、前記複数のワイヤーロープ
の各々を
設置された前記新たな支柱の前記溝に進入させることと、
前記第1の冶具及び前記第2の冶具を前記複数のワイヤーロープから取り外すことと、
を含むことを特徴とするワイヤーロープ式防護柵の支柱の交換方法。
【請求項2】
前記第1の支持位置は、前記区間内のワイヤーロープの延伸方向において前記第2の支持位置を挟んで隣接する2つの位置であり、前記第2の冶具を取り付けることは、2つの前記第1の支持位置のそれぞれに近接した2つの位置に、前記第2の冶具をそれぞれ取り付ける、
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤーロープ式防護柵の支柱の交換方法。
【請求項3】
前記第1の冶具を取り付けることは、前記区間内のワイヤーロープの延伸方向において前記第2の支持位置を挟んで隣接した2つの位置に、前記第1の冶具をそれぞれ取り付ける、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤーロープ式防護柵の支柱の交換方法。
【請求項4】
前記第1の冶具の前記保持部と前記第2の冶具の前記保持部とは、前記複数のワイヤーロープを保持するための構成が共通であり、
前記第1の冶具の前記受け部と前記第2の冶具の前記係合部とは、それぞれ、複数のワイヤーロープに取り付けたときに前記路面と向かい合う第1の面と、前記第1の面と向かい合う第2の面とを含む内周面を有し形状が共通の開口部であり、
前記第2の冶具を取り付けることは、前記非交換対象の支柱にプレートを取り付けることであって、前記プレートは、前記非交換対象の支柱に取り付けたときに支柱の径外方向に突出し、かつ前記第2の冶具の前記開口部に挿入可能な形状の張り出し部を有し、前記係合部を支柱に係合させることは、前記非交換対象の支柱に取り付けられた前記プレートの前記張り出し部を前記第2の冶具の前記開口部に挿入して前記プレートと前記第2の冶具とを係合させることを含む、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のワイヤーロープ式防護柵の支柱の交換方法。
【請求項5】
前記非交換対象の支柱が前記溝を有し、前記プレートは、前記支柱における前記溝の最奥部よりも前記路面に近い位置に取り付けられる、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のワイヤーロープ式防護柵の支柱の交換方法。
【請求項6】
複数のワイヤーロープを路面に設置された複数の支柱により支持するワイヤーロープ式防護柵であって、前記複数のワイヤーロープは、各ワイヤーロープが前記路面に沿った方向に緊張状態で延伸する区間を有し、各ワイヤーロープにおける前記区間が前記路面に設置された支柱の突出方向に並び、かつ前記区間内の複数の位置のそれぞれにおいて単一の支柱が前記複数のワイヤーロープを支持するように、前記複数の支柱により支持され、前記複数の支柱のうち少なくとも1つの支柱は、設置時に前記路面上に突出する部分における上端側が開放され、前記複数のワイヤーロープが通過する溝を有する、ワイヤーロープ式防護柵の支柱を交換する際に用いる冶具であって、
複数のワイヤーロープのそれぞれを係合させることにより緊張状態であるときの各ワイヤーロープの間隔と対応した所定の間隔で前記複数のワイヤーロープを保持するように構成された保持部と、
複数のワイヤーロープに取り付けたときに前記路面と向かい合う第1の面と、前記第1の面と向かい合う第2の面とを含む内周面を有する開口部と、
を有し、
前記開口部の前記第1の面は、前記複数のワイヤーロープの前記区間内の位置に前記冶具が取り付けられたときに、支柱を交換する際に利用するジャッキからの前記路面から遠ざかる方向に働く外力を受けることが可能なように構成され、
前記開口部の前記第2の面は、前記複数のワイヤーロープの前記区間内の位置に前記冶具が取り付けられ、かつ非交換対象の支柱に取り付けられたプレートから支柱の径外方向に突出した張り出し部が前記冶具の前記開口部に挿入された状態で、前記冶具とともに前記複数のワイヤーロープを前記路面から遠ざかる方向に移動させたときに、前記プレートの前記張り出し部と係合して、前記非交換対象の支柱を前記冶具とともに前記路面から遠ざかる方向に移動可能なように構成されている、
ことを特徴とする冶具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支柱の交換方法、及び冶具に関し、より具体的には、ワイヤーロープ式防護柵の支柱の交換方法、及び冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
車道を走行する車両が車線を逸脱することにより発生する事故の重大化を防ぐ方法の一つとして、対向車線の境界にワイヤーロープ式の防護柵が設置する方法がある。ワイヤーロープ式の防護柵は、ターンバックル等の器具により緊張状態にした複数段のワイヤーロープと、複数段のワイヤーロープを支持する支柱とで構成される。
【0003】
この種の防護柵に車両が衝突して支柱が破損又は変形した場合、支柱を交換する作業は、一般的には、ワイヤーロープの緊張状態を解いて(すなわちワイヤーロープを緩めて)行うことが多い。ところが、このような支柱の交換作業では、ワイヤーロープの緊張状態を解く作業、及び新たな支柱を設置した後でワイヤーロープを緊張状態にする作業が必要であるため、交換作業に要する時間が長くなる。
【0004】
関連技術として、特許文献1には、ワイヤーロープを通すためのスリットが形成された1本の支柱を、地中に埋設されたスリーブに挿入される下部支柱と、下部支柱の上部に接続される上部支柱とに分割することにより、ワイヤーロープに張力を付与したまま支柱を交換する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された方法では、張力が付与されたワイヤーロープを上部支柱のスリットに通した状態で下部支柱と上部支柱とを接続する作業を行う。このような作業では、ワイヤーロープを上部支柱のスリットに通すために、張力が付与されたワイヤーロープをいくらか持ち上げる必要があり、作業員の作業負荷が増大する。また、下部支柱と上部支柱とを接続する作業を行う作業員とは別にワイヤーロープを持ち上げた状態で維持するための作業員が必要となり、人手が増大する。
【0007】
1つの側面において、本発明は、ワイヤーロープ式の防護柵における支柱の交換を効率よく行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様に係る支柱の交換方法は、上下方向に並ぶ緊張状態の複数のワイヤーロープを前記ワイヤーロープの延伸方向に沿って設置された複数の支柱により支持するワイヤーロープ式防護柵の支柱の交換方法であって、前記複数の支柱のうち少なくとも1つの支柱は、設置時における上端側が開放され、前記複数のワイヤーロープが通過する溝を有し、前記交換方法は、複数のワイヤーロープを所定の間隔で保持する保持部と、前記保持部により前記複数のワイヤーロープを保持した状態であるときに上方向に働く外力を受ける受け部と、を有する冶具の前記保持部により、緊張状態の前記複数のワイヤーロープを保持することと、加力装置により前記冶具の前記受け部に上方向に働く外力を加え、緊張状態の前記複数のワイヤーロープを上方に移動させることと、緊張状態の前記複数のワイヤーロープを上方に移動させた状態で、前記溝を有する新たな支柱を設置することと、前記加力装置を操作して前記冶具を下降させ、上方に移動させた緊張状態の前記複数のワイヤーロープを下方に移動させて前記新たな支柱の前記溝に進入させることと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
上述の態様によれば、ワイヤーロープ式の防護柵における支柱の交換を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ワイヤーロープ式の防護柵の構成例を説明する概略図である。
【
図2】支柱の外観構成の一例を説明する斜視図である。
【
図3】ワイヤーロープの支持方法の一例を説明する図である。
【
図4】一実施形態に係る支柱の交換作業で使用する冶具の外観構成の一例を説明する斜視図である。
【
図5】一実施形態に係る支柱の交換作業においてワイヤーロープを持ち上げる方法の一例を説明する図である。
【
図6】冶具を用いてワイヤーロープを持ち上げた状態の防護柵の一例を示す図である。
【
図7】新たな支柱を設置してワイヤーロープを戻す作業の一例を説明する図である。
【
図8】冶具を支柱に係合させる方法の一例を説明する図である。
【
図9】冶具を支柱に係合させて行う支柱の交換作業の一例を説明する図である。
【
図10】冶具に外力を加える加力装置の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では、ワイヤーロープ式の防護柵に関する既知の構成及び機能等の詳細な説明を省略する。また、参照する図面における各構成要素の寸法は、それらの形状の特徴や構成要素間の関係をわかりやすくすることを優先しており、実施する際の寸法とは必ずしも一致しない。
【0012】
図1は、ワイヤーロープ式の防護柵の構成例を説明する概略図である。
図2は、支柱の外観構成の一例を説明する斜視図である。
図3は、ワイヤーロープの支持方法の一例を説明する図である。なお、
図3には、1つの支柱における上端側の一部分の片側断面図(図面上側)と、平面図(図面下側)とを示している。
【0013】
図1に例示したワイヤーロープ式の防護柵(以下、単に「防護柵」ともいう)1は、路面9に設置される複数の支柱2(2A、2B、2C、及び2D)と、複数の支柱2によって支持される5段のワイヤーロープ3(3A、3B、3C、3D、及び3E)と、を含む。1段目から5段目までの各段のワイヤーロープ3は、それぞれ、ターンバックル4により接続された複数のワイヤーロープを含み、その端部は路面9に埋設されたアンカー部5に連結されている。複数の支柱2は、例えば、対向車線の境界に沿って所定の間隔で設置される。5段のワイヤーロープ3は、路面9上に、上下方向に所定の間隔で、ターンバックル4及びアンカー部5により所定の張力が付与された状態(以下「緊張状態」ともいう)で支柱2により支持される。なお、ワイヤーロープ3の段数は、
図1に例示した5段に限らず、他の段数であってもよい。また、
図1に例示した防護柵1は、対向車線の境界に限らず、例えば、車道の幅員方向の端に沿って設置されてもよい。
【0014】
支柱2は、例えば、
図2に示したように、円筒状の金属製の部材であり、軸心方向が上下方向になるように路面9に設置される。支柱2は、路面9に設置したときに上端部になる端部が開放され、軸心方向に沿って伸びる竹割構造の溝201を有し、5段のワイヤーロープ3は、溝201を通るように設置される。溝201を通る5段のワイヤーロープ3は、上下方向で隣り合うワイヤーロープ3の間隔Pが所定の間隔(例えば、約20cm~約30cmの範囲内の間隔等)になるように支持される。例えば、上下方向で隣り合うワイヤーロープ3は、
図3に示したように、支柱2に取り付けられたスペーサー6により、間隙Gを保った状態で支柱2に支持され、これによりワイヤーロープ3の間隔Pが所定の間隔に保たれる。
図3に例示したスペーサー6は、支柱2の溝201の延伸方向に沿って移動可能であり、かつ支柱2の径方向への移動を規制するように支柱2と係合する係合部(図示しない)を有する。このようなスペーサー6を用いる場合には、防護柵1を設置する際に、張力を付与する前のワイヤーロープ3とスペーサー6とを交互に支柱2の溝201に挿入した後、ターンバックル4等によりワイヤーロープ3に張力を付与する。なお、支柱2の溝201の形状、及びスペーサー6の形状は、
図2及び
図3に例示したような形状に限らず、他の形状であってもよい。例えば、支柱2の溝201は、溝201の延伸方向に沿ったワイヤーロープ3の位置決めに利用可能な係止部を有する形状であってもよい。例えば、スペーサー6は、複数段のワイヤーロープ3を支柱2の溝201に通した状態で溝201に装着可能なものであってもよい。
【0015】
また、路面9に設置された支柱2の上端部には、例えば、
図3に示したように、意図しないワイヤーロープ3の溝201外への離脱等を防止するためのキャップ7を被せてある。
【0016】
図1~
図3を参照して上述した防護柵1は、例えば、車道における対向車線の境界に沿って各段のワイヤーロープ3が延伸するように設置される。この種の防護柵1は、車両が衝突した場合に支柱2が破損又は変形することにより衝突の衝撃を吸収し、事故の重大化を防ぐことができる。しかしながら、支柱2が破損又は変形した場合には支柱2を交換する作業を行う必要がある。防護柵1における支柱2の交換方法として一般的な従来の方法では、ターンバックル4を操作してワイヤーロープ3の緊張状態を解く作業及びターンバックル4を操作してワイヤーロープ3を緊張状態に戻す作業が必要となる。また、上述した特許文献1に記載の方法においては、下部支柱と上部支柱とを接続するための作業において、緊張状態のワイヤーロープ3を持ち上げる等、作業員の作業負荷が増大する。
【0017】
図4は、一実施形態に係る支柱の交換作業で使用する冶具の外観構成の一例を説明する斜視図である。
図5は、一実施形態に係る支柱の交換作業においてワイヤーロープを持ち上げる方法の一例を説明する図である。
【0018】
本実施形態に係る防護柵1の支柱2の交換作業では、
図4に例示したような冶具8を用いる。
図4に例示した冶具8は、金属製の四角管の側面に、複数の進入溝801が軸心方向に沿って設けられている。複数の進入溝801のそれぞれは、四角管の1つの側面から軸心方向と垂直な方向に延伸し、1本のワイヤーロープ3が延伸方向に沿って移動可能なように形成されている。また、各進入溝801の最奥部には、例えば、最奥部まで進入させたワイヤーロープ3が退出することを防止するために軸心方向に拡張された係止部が設けられている。
【0019】
複数の進入溝801の最奥部の形状は、ワイヤーロープ3の間隔P0が、防護柵1におけるワイヤーロープ3の間隔Pと同一又は略同一になるように形成される。別の言い方をすると、複数の進入溝801の最奥部の形状は、例えば、複数段のワイヤーロープ3における隣り合うワイヤーロープ3同士の間隙G0が所定の値以上になるように設計される。より具体的には、複数の進入溝801の最奥部の形状は、例えば、一般的な人の腕の太さと比べて大きい値(例えば、10cm以上)になるように形成されてもよい。なお、複数の進入溝801の最奥部の形状は、上述した形状に限らず、適宜変更可能である。複数の進入溝801の最奥部の形状は、例えば、ワイヤーロープ3同士の間隙が段階的に変化する形状(例えば、nを自然数としたときのn段目のワイヤーロープ3とn+1段目のワイヤーロープ3との間隙がn+1段目のワイヤーロープ3とn+2段目のワイヤーロープ3との間隙よりも小さくなるような形状)であってもよい。
図4に例示した冶具8における複数の進入溝801は、複数のワイヤーロープ3を所定の間隔で保持する保持部の一例である。
【0020】
また、
図4に例示した冶具8は、軸心方向の一方の端部に、加力装置からの軸心方向の外力を受ける受け部としての開口部810、811が設けられている。開口部810、811は、例えば、
図5に例示したようなジャッキ11のアーム部1101を挿通可能な寸法に形成される。
図5に例示したジャッキ11は、冶具8の受け部に対して外力を加える加力装置の一例である。加力装置としてのジャッキ11は、
図5に例示したような形状のものに限らず、他の形状のものであってもよい。
【0021】
図5に例示した2つの冶具8のうち、左側の冶具8は、例えば、複数段のワイヤーロープ3を持ち上げる作業を開始した直後の路面9に対する位置を例示しており、右側の冶具8は、複数段のワイヤーロープ3を持ち上げて新たな支柱を設置する作業を行うときの路面9に対する位置を例示している。
図5に破線で示した水平線は、路面9から高さHの位置を示しており、路面9に新たに設置された支柱の上端部の位置の一例を示している。
【0022】
本実施形態に係る防護柵1における複数段のワイヤーロープ3は、
図1~
図3を参照して上述したように、路面9に設置された支柱2の溝201を通っており、各ワイヤーロープ3の路面9からの高さは、路面9に設置された支柱2の高さHよりも低い。このような各ワイヤーロープ3の路面9からの高さが路面9に設置された支柱2の高さHよりも低い状態で各ワイヤーロープ3が支柱2の溝201を通るように新たな支柱2を設置することは難しい。このため、本実施形態に係る支柱2の交換作業では、
図5に例示したように、複数段のワイヤーロープ3の間隔を所定の間隔以上で保持する冶具8をワイヤーロープ3に取り付け、加力装置(例えば、ジャッキ11)により冶具8を持ち上げる(押し上げる)。
図5に例示したジャッキ11は、手動式のハイリフトジャッキの一例であり、例えば、図示しないレバーを第1の位置に合わせてハンドル1102を操作することにより、アーム部1101がジャッキアップされる(段階的に上昇する)。また、ジャッキ11は、例えば、図示しないレバーを第2の位置に合わせてハンドル1102を操作することにより、アーム部1101がジャッキダウンされる(段階的に下降する)。
【0023】
ジャッキ11で冶具8を持ち上げる際には、例えば、
図5に示したように、最下段のワイヤーロープ3の路面9からの高さが、新たに設置する支柱2の高さH以上になるように持ち上げる。このように、ジャッキ11により冶具8を押し上げることにより、張力が付与された緊張状態のワイヤーロープ3を、人手により直接持ち上げる場合と比べて軽い力で、新たな支柱2を設置可能な高さまで移動させることができる。また、緊張状態のワイヤーロープ3の路面9からの高さはジャッキ11により維持することができるため、新たな支柱2を設置する作業を行っている間に、別の作業員がワイヤーロープ3を支え持つ必要がない。
【0024】
図6は、冶具を用いてワイヤーロープを持ち上げた状態の防護柵の一例を示す図である。
図7は、新たな支柱を設置してワイヤーロープを戻す作業の一例を説明する図である。なお、
図6及び
図7では、加力装置としてのジャッキ11の図示を省略している。
【0025】
本実施形態に係る支柱2の交換作業では、例えば、
図6に示すように、路面9における新たな支柱2を設置する位置(スリーブ901の位置)の近傍で、複数段のワイヤーロープ3に冶具8を取り付け、加力装置(ジャッキ11)により冶具8を持ち上げる(押し上げる)。冶具8は、上述のように、新たな支柱2を設置する位置における最下段のワイヤーロープ3の路面9からの高さが支柱2の高さよりも高くなるまで押し上げる。このとき、各ワイヤーロープ3のうちの、新たに設置される支柱2と隣接する既設の支柱2の溝201を通る部分は、上方に押し上げられて溝201から退出する。なお、新たな支柱2を設置するスリーブ901に設置されていた破損又は変形した支柱を除去する作業は、ワイヤーロープ3を持ち上げる作業の前に行ってもよいし、ワイヤーロープ3を持ち上げる作業の後で行ってもよい。ワイヤーロープ3を持ち上げる作業の前及び後のどちらで行うかは、例えば、支柱2の破損や変形の度合いに応じて決定する。
【0026】
加力装置によりワイヤーロープ3を持ち上げた後、
図7の(a)に例示したように、ワイヤーロープ3を持ち上げた状態のまま、路面9のスリーブ901に新たな支柱2を挿入する。その後、加力装置を操作して冶具8を下降させ、
図7の(b)に例示したように、複数段のワイヤーロープ3のそれぞれを支柱2の溝201に進入させる。そして、複数段のワイヤーロープ3の路面9からの高さを作業前の高さに戻した後、冶具8をワイヤーロープ3から取り外すと、ワイヤーロープ3を支柱2の溝201に通す作業が終了する。加力装置として上述した手動式のハイリフトジャッキを用いた場合、新しい支柱2をスリーブ901に挿入した後、アーム部の移動方向を切り替えるレバーを第2の位置に合わせてハンドルを操作し、冶具8の開口部810、811に挿通させたアーム部を段階的に下降させることができる。このため、緊張状態のワイヤーロープ3と支柱2の溝201との位置合わせをしながらジャッキのアーム部を下降させ、ワイヤーロープ3を支柱2の溝201に進入させることができる。従って、持ち上げて支柱2の溝201から退出した緊張状態のワイヤーロープ3を再び溝201に進入させる作業を作業員が手作業で行う場合と比べて、作業効率がよく、作業員の作業負荷の増大が抑制される。
【0027】
このように、本実施形態に係る支柱2の交換作業では、加力装置を利用して、複数段のワイヤーロープ3を所定の間隔が保たれた状態で持ち上げ(押し上げ)、その状態を維持して新たな支柱2を路面9に設置する。ワイヤーロープ3を持ち上げた状態は加力装置により維持されるので、作業員の作業負荷が増大することはない。また、作業員が緊張状態のワイヤーロープ3を支え持つことがないので、新たな支柱2を設置する作業を安全に効率よく行うことができる。
【0028】
図6及び
図7を参照して上述した支柱2の交換作業では、新たな支柱2を設置する位置の近傍で1つの冶具8を利用してワイヤーロープ3を持ち上げているが、利用する冶具8の数や設置位置は、適宜変更可能である。例えば、2つの冶具8を所定の間隔でワイヤーロープ3に取り付け、2つの冶具8のそれぞれを加力装置(例えば、ジャッキ11)で個別に持ち上げることにより、個々の加力装置が冶具8を介して緊張状態のワイヤーロープ3から受ける反発力を低減することができ、加力装置の破損等を防ぐことができる。また、2つ以上の冶具8のそれぞれを加力装置(例えば、ジャッキ11)で個別に持ち上げることにより、ワイヤーロープ3の持ち上げられた区間を長くすることができ、例えば、複数本の支柱2を交換する必要がある場合等の交換作業を効率よく行うことができる。
【0029】
また、支柱2の交換作業で複数の冶具8を用いる場合、その複数の冶具8のうちの1つ以上の冶具8は、交換の対象ではない既設の支柱2を上下方向に移動可能なように支柱2と係合させてもよい。例えば、
図4を参照して上述した四角管状の冶具8では、ワイヤーロープ3の延伸方向と直交する方向で対向する2つの面に、ジャッキ11のアーム部1101からの外力を受ける受け部としての開口部810、811を形成している。また、
図4に例示した四角管状の冶具8には、開口部810、811が形成された端部側の、ワイヤーロープ3の延伸方向で対向する2つの面に、冶具8を支柱2と係合させることに用いる開口部815、816を形成している。
【0030】
図8は、冶具を支柱に係合させる方法の一例を説明する図である。
図9は、冶具を支柱に係合させて行う支柱の交換作業の一例を説明する図である。なお、
図9では、加力装置としてのジャッキ11の図示を省略している。
【0031】
冶具8を既設の支柱2に係合させる場合には、例えば、
図8に示すように、支柱2に取り付けたプレート12の張り出し部1201を冶具8に形成された開口部815、816に挿通させる。プレート12の支柱2への取付方法は、冶具8を持ち上げたときに張り出し部1201が冶具8から受ける外力による支柱2の軸心方向へのプレート12のすべりが生じないような方法であればよく、特定の方法に限定されない。また、プレート12の張り出し部1201と開口部815、816とは、張り出し部1201を開口部815、816に挿通したときに、開口部810、811に挿通するジャッキ11のアーム部1101と張り出し部1201とが干渉しないようになっていればよい。
【0032】
また、冶具8を支柱2に係合させる場合、
図8に例示したように、ワイヤーロープ3の間に介在させるスペーサー6を、締結具13を用いて支柱2に締結させる。このように、支柱2に取り付けたプレート12の張り出し部1201を冶具8の開口部815、816に挿通し、かつワイヤーロープ3間のスペーサー6を支柱2に締結させると、加力装置により冶具8を持ち上げたときに、支柱2に取り付けられたプレート12が冶具8の開口部815、816の下端から上向きの力を受けるとともに、支柱2に締結されたスペーサー6がワイヤーロープ3から上向きの力を受ける。このため、
図9に例示したように、冶具8を持ち上げることにより、ワイヤーロープ3とともに既設の支柱2が持ち上げられる。
【0033】
ワイヤーロープ3とともに既設の支柱2を持ち上げた場合、複数段のワイヤーロープ3が支柱2の溝201を通り、かつスペーサー6により所定の間隙Gが保たれた状態で、新たな支柱2を設置することができる。このため、新たな支柱2を設置した後、ワイヤーロープ3を下降させ、持ち上げた既設の支柱2を路面9のスリーブ901に挿入することにより、ワイヤーロープ3及び支柱2が持ち上げる前の状態に戻る。従って、
図8及び
図9を参照して上述した支柱2の交換作業では、作業員が持ち上げたワイヤーロープ3を既設の支柱2の溝201に戻すことに関する作業(例えば、ワイヤーロープ3を溝201に再度侵入させるための位置合わせをすること、スペーサー6によりワイヤーロープ3の間隙を調整すること等)を省略することができる。よって、
図6及び
図7を参照して上述したように持ち上げられたワイヤーロープ3が支柱2の溝201から退出する場合と比べて、例えば、ワイヤーロープ3を下降させるときの作業を、より安全により効率よく行うことができる。
【0034】
なお、本実施形態に係る支柱2の交換作業で用いる加力装置は、上述したジャッキ11のような冶具8を押し上げる装置に限らず、例えば、
図10に例示したクレーン14のような冶具8を引き上げる装置であってもよい。
図10は、冶具に外力を加える加力装置の変形例を説明する図である。
【0035】
クレーン14等により冶具8を引き上げる場合、例えば、冶具8をワイヤーロープ3に取り付ける際に、
図4に示した向きと上下を反転させて取り付ける。このとき、加力装置からの外力を受ける受け部としての開口部810、811は、ワイヤーロープ3よりも上方に位置する。このため、例えば、開口部810、811にベルト、ワイヤー、フック等を掛けてクレーン14で吊ることにより、冶具8に上向きの外力を加えて冶具8を持ち上げることができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係るワイヤーロープ式の防護柵1の支柱2の交換方法では、複数のワイヤーロープ3を所定の間隔で保持する保持部(進入溝801)と、保持部により複数のワイヤーロープ3を保持した状態であるときに上方向に働く外力を受ける受け部(開口部810、811)と、を有する冶具8の保持部801により、緊張状態の複数のワイヤーロープ3を保持し、加力装置により冶具8の受け部810、811に上方向に働く外力を加え、緊張状態の複数のワイヤーロープ3を上方に移動させる。そして、緊張状態の複数のワイヤーロープ3を上方に移動させた状態で、上端部が開放した溝201を有する新たな支柱2を設置した後、加力装置を操作して冶具8を下降させ、緊張状態の複数のワイヤーロープ3を支柱2の溝201に進入させる。すなわち、本実施形態に係るワイヤーロープ式の防護柵1の支柱2の交換方法では、複数のワイヤーロープ3に所定の張力が付与された状態(緊張状態)のまま、破損又は変形した支柱の代わりとなる新たな支柱2を路面9に設置することができる。したがって、例えば、ワイヤーロープ3を新たな支柱2の溝201に進入させるためにターンバックル4を緩めてワイヤーロープ3の張力を下げる作業や、その後のターンバックル4を締めてワイヤーロープ3に所定の張力を付与する作業を省略することができる。このため、本実施形態に係る支柱2の交換方法では、新たな支柱2を路面9に設置するための作業に要する時間を短縮することができる。
【0037】
また、加力装置を利用して複数のワイヤーロープ3を持ち上げた状態で新たな支柱2を設置することができるので、新たな支柱2を設置する作業を行う際に緊張状態のワイヤーロープ3を持ち上げて支え持つ作業を作業員が行う必要はなく、作業に要する作業員の数の増大や、作業員の作業負荷の増大を抑えることができる。また、ジャッキ11やクレーン14等の加力装置を利用して、所定の間隔が維持されるようワイヤーロープ3を持ち上げるため、持ち上げたワイヤーロープ3の反発等により作業員の体の一部や作業服がワイヤーロープ3に挟まれること等を防げ、支柱2の交換作業を安全に効率よく行うことができる。
【0038】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするために具体例を示したものであり、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るワイヤーロープ式の防護柵1の支柱2の交換方法、及び支柱2の交換に用いる冶具8は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0039】
例えば、複数段のワイヤーロープ3を持ち上げることに用いる冶具8は、
図4等を参照して上述したような形状のものに限らず、複数段のワイヤーロープ3を所定の間隙G0が維持されるように保持することが可能な形状であればよい。また、冶具8は、少なくとも加力装置により持ち上げられた状態であるときに、複数段のワイヤーロープ3を所定の間隙G0が維持されるように保持することが可能であればよい。したがって、冶具8は、上述したような金属製の管に限らず、柱状のもの、金属の鎖状のもの、樹脂製品、金属と樹脂を組み合わせたもの、及び皮革製品等であってもよい。
【0040】
また、複数段のワイヤーロープ3を持ち上げることに用いる冶具8は、ワイヤーロープ3を保持する保持部としての進入溝801の数が、持ち上げる対象であるワイヤーロープ3の本数よりも多くてもよい。また、冶具8に複数の進入溝801を設ける場合、各進入溝801の最奥部の形状は、同一であってもよいし、2通り以上であってもよい。
【0041】
また、冶具8とともに既設の支柱2を持ち上げる方法は、
図8等を参照して上述したようなプレート12を既設の支柱2に取り付けるとともに冶具8に係合させる方法に限らず、冶具8を既設の支柱2に直接取り付けて(固定して)もよい。
【符号の説明】
【0042】
1 防護柵
2、2A、2B、2C、2D 支柱
201 竹割構造の溝
3、3A、3B、3C、3D、3E ワイヤーロープ
4 ターンバックル
5 アンカー部
6 スペーサー
7 キャップ
8 冶具
801 進入溝
810、811 開口部
815、816 開口部
9 路面
901 スリーブ
11 ジャッキ
1101 アーム部
12 プレート
1201 張り出し部
13 締結具
14 クレーン
【要約】
【課題】ワイヤーロープ式の防護柵における支柱の交換を効率よく行う。
【解決手段】上下方向に並ぶ緊張状態の複数のワイヤーロープを複数の支柱により支持するワイヤーロープ式防護柵の支柱の交換方法であって、複数のワイヤーロープを所定の間隔で保持する保持部と、保持部により複数のワイヤーロープを保持した状態であるときに上方向に働く外力を受ける受け部と、を有する冶具の保持部により、緊張状態の複数のワイヤーロープを保持することと、加力装置により冶具の受け部に上方向に働く外力を加え、緊張状態の複数のワイヤーロープを上方に移動させることと、緊張状態の複数のワイヤーロープを上方に移動させた状態で、上端側が開放し複数のワイヤーロープが通過する溝を有する新たな支柱を設置することと、加力装置を操作して冶具を下降させ、緊張状態の複数のワイヤーロープを下方に移動させて新たな支柱の溝に進入させることとを含む。
【選択図】
図5