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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】アルミニウム合金箔
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20221027BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20221027BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20221027BHJP
【FI】
C22C21/00 M
C22C21/00 A
C22F1/00 622
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 661A
C22F1/00 661C
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/04 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021096078
(22)【出願日】2021-06-08
(62)【分割の表示】P 2018504581の分割
【原出願日】2017-03-09
(65)【公開番号】P2021139051
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2016048715
(32)【優先日】2016-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐一
(72)【発明者】
【氏名】本居 徹也
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-021205(JP,A)
【文献】特開2014-047367(JP,A)
【文献】特開2013-014837(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021170(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00
C22F 1/00
C22F 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分が、質量%で、Fe:1.3%以上2.0%以下(但し、1.3%を除く。)、Cu:0.1%以上0.5%以下、Mn:0.05%以下、Si:0.01%以上0.6%以下を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
箔厚が20μm以下であり、
以下の式1を満たす、アルミニウム合金箔。
El≧100×t/UTS・・・式1
但し、上記式1中、tは箔厚(μm)、UTSは引張強さ(MPa)、Elは伸び(%)である。
【請求項2】
上記引張強さが、250MPa以上である、請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項3】
集電体用である、請求項1または2に記載のアルミニウム合金箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金箔に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二次電池、電気二重層キャパシター、リチウムイオンキャパシター等の蓄電デバイスにおける電極の集電体などとして、アルミニウム合金箔が使用されている。例えば、リチウムイオン二次電池では、通常、集電体としてのアルミニウム合金箔の表面に、電極活物質を含む合材スラリーを塗布し、乾燥させ、プレス機にて圧縮加工を施すことにより正極が製造される。製造された正極は、一般に、セパレータ、負極と積層された状態、または、積層状態のまま巻回された状態とされてケースに収容される。
【0003】
近年、電池容量の向上等を目的として、集電体に用いられるアルミニウム合金箔の薄肉化が求められている。薄肉化されたアルミニウム合金箔では、電極製造工程での抗張力の低下によるアルミニウム合金箔の破断が起こらないように、アルミニウム合金箔の高強度化が求められる。
【0004】
先行する特許文献1には、Mn:0.10~1.50質量%、Fe:0.20~1.50質量%を含有し、MnとFeの合計が1.30~2.10質量%で残部がAlおよび不可避不純物からなる鋳塊に均質化処理を施した後、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延を施し、中間焼鈍後の圧下率を95%以上とした厚さ5~25μmのアルミニウム合金箔素材を、70~200℃で10分以上熱処理して得られる、アルミニウム合金箔が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、Fe:1.4~1.7質量%、Cu:0.1~0.5質量%を含有し、Si:0.4質量%以下に抑制し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、サブグレインのサイズが厚み方向で0.8μm以下、圧延方向で45μm以下である、アルミニウム合金箔が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-40659号公報
【文献】特開2014-47367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術は、以下の点で問題がある。すなわち、アルミニウム合金箔は、一般に、強度の上昇や箔厚の減少に伴って伸びが低下する。そのため、薄肉化されたアルミニウム合金箔は、通常、伸びの低下が顕著となる。伸びの低いアルミニウム合金箔は、強度が高くても破断しやすい。そのため、伸びの低いアルミニウム合金箔を、例えば、リチウムイオン二次電池における正極の集電体等に用いた場合には、充放電に伴う活物質の膨張収縮による変形にアルミニウム合金箔が追従することができず、アルミニウム合金箔の破断が生じやすい。また、伸びの低いアルミニウム合金箔は、電極製造工程でも、破断が生じやすい。
【0008】
なお、特許文献2では、中間焼鈍時の結晶粒数と固溶状態とを制御し、サブグレインのサイズを微細化することにより、アルミニウム合金箔の伸びの向上を図っている。しかしながら、このアルミニウム合金箔は、箔厚12μmにおける引張強さ280MPa前後での伸びが3.4%以下であり、十分に高い伸びを有しているとはいえない。
【0009】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、箔厚を薄くした場合でも、高い伸びと強度とを両立させることが可能なアルミニウム合金箔を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、化学成分が、質量%で、Fe:1.3%以上2.0%以下(但し、1.3%を除く。)、Cu:0.1%以上0.5%以下、Mn:0.05%以下、Si:0.01%以上0.6%以下を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
箔厚が20μm以下であり、
以下の式1を満たす、アルミニウム合金箔にある。
El≧100×t/UTS・・・式1
但し、上記式1中、tは箔厚(μm)、UTSは引張強さ(MPa)、Elは伸び(%)である。
【発明の効果】
【0011】
上記アルミニウム合金箔は、上記特定の化学成分、箔厚を有しており、上記特定の式1を満たしている。そのため、上記アルミニウム合金箔は、箔厚を薄くした場合でも、高い伸びと強度とを両立させることができる。さらに、上記アルミニウム合金箔は、比抵抗を低く維持することもできる。したがって、上記アルミニウム合金箔を、例えば、蓄電デバイスにおける電極の集電体として用いた場合には、箔厚が薄くても、電極製造工程や電池の充放電が繰り返された際などでも、アルミニウム合金箔の破断が起こり難い。また、上記アルミニウム合金箔は、比抵抗が低いため、エネルギー効率のよい蓄電デバイスの実現に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記アルミニウム合金箔における化学成分(単位は質量%、以下の化学成分の説明では単に「%」と略記)の意義および限定理由は以下の通りである。
【0013】
Fe:1.3%以上2.0%以下(但し、1.3%を除く。)
Feは、アルミニウム合金箔の強度を向上させるとともに、アルミニウム合金箔の回復を促進させるAl-Fe系化合物の形成のために必要な元素である。これらの機能は、Feの固溶量と析出状態の双方を制御し、アルミニウム合金箔製造時の加工ひずみの導入量を制御することによって得ることができる。
【0014】
アルミニウム合金箔中に固溶しているFeは、転位の移動を抑制し、アルミニウム合金箔の強度が低下し過ぎることを防ぐ。一方、Al-Fe系化合物として析出した化合物は、Al素地(マトリックス)と整合性を持たない化合物として全体に多数分散することにより、冷間圧延時に加工組織の回復促進に寄与する。冷間圧延時には加工ひずみが導入されるが、同時に、加工組織の回復もわずかながら進行する。詳細な機構は不明であるが、Al-Fe系化合物の存在によって回復が促進されることで絶えず加工ひずみを導入できる余地が生まれ、その結果、箔厚を薄くした場合にも、高い伸びが維持されるものと考えられる。
【0015】
Fe含有量が1.0%未満になると、Al素地(マトリックス)と整合性を持たないAl-Fe系化合物の分布密度が小さくなり、アルミニウム合金箔の回復促進効果が不十分となって高い伸びが得られなくなる。一方、Fe含有量が2.0%を超えると、鋳造時に数百μmを越える粗大なAl-Fe系化合物が形成され、箔圧延時にピンホール(穴あき)生成の原因となり、健全な箔材の製造が困難となる。上記の観点から、Fe含有量は、1.3%以上(但し、1.3%を除く。)とされる。また、Fe含有量は、好ましくは、1.9%以下、より好ましくは、1.8%以下、さらに好ましくは、1.7%以下とすることができる。
【0016】
Cu:0.1%以上0.5%以下
Cuは、アルミニウム合金箔の強度向上に寄与する元素である。Cu添加による比抵抗の増加の影響は元々低い。Cuは、Al-Fe系化合物にも一部固溶する性質があり、上述のようにFe含有量の比較的多い系では、含有量に対する比抵抗の増加はさらに抑えられる。Cu含有量は、添加による強度向上効果を得る観点から、0.1%以上とする。なお、Cu含有量が0.1%未満になると、十分な強度向上効果が得られなくなる。一方、Cu含有量が0.5%を超えると、強度が高くなり過ぎて圧延が困難になる。上記の観点から、Cu含有量は、好ましくは、0.12%以上、より好ましくは、0.14%以上とすることができる。また、Cu含有量は、箔製造時の圧延安定性の観点から、好ましくは、0.45%以下、より好ましくは、0.4%以下、さらに好ましくは、0.35%以下、さらにより好ましくは、0.3%以下とすることができる。
【0017】
Mn:0.05%以下
Mnは、アルミニウム合金箔の強度向上に寄与する元素であるが、一方で比抵抗を大きく増加させる。そのため、電極の集電体として用いた場合に、エネルギー効率が低下するため好ましくない。よって、Mn含有量を0.05%以下とする。Mn含有量は、好ましくは、0.03%以下、より好ましくは、0.01%以下であるとよい。なお、通常使用されるAl地金には不純物としてMnが含まれていることが多い。そのため、Mn含有量を0.001%未満に規制するためには、高純度地金を使用することになる。したがって、Mn含有量は、経済性などの観点から、好ましくは、0.001%以上とすることができる。
【0018】
上記化学成分は、質量%で、Si:0.01%以上0.6%以下をさらに含有する。この場合の意義および限定理由は以下の通りである。
【0019】
Si:0.01以上0.6%以下
Siは、アルミニウム合金箔の強度向上に寄与する元素である。Si含有量は、添加による強度向上効果を得る観点から、0.01%以上とすることができる。なお、通常使用されるAl地金には不純物としてSiが含まれていることが多い。そのため、0.01%未満のSiは、不可避的不純物として含まれていてもよい。もっとも、Si含有量を0.01%未満に規制するためには高純度の地金を使用することになる。したがって、経済性の観点から、Si含有量は、好ましくは、0.01%以上、より好ましくは、0.02%以上、さらに好ましくは、0.03%以上とすることができる。一方、Siは、含有量が多くなると、粗大なSi単相粒子を形成する。とりわけ、Si含有量が0.6%を超えると、粗大なSi単相粒子が形成されやすくなり、20μm以下の箔厚ではピンホールや箔切れの問題が生じやすくなる。そのため、Si含有量は、好ましくは0.6%以下、より好ましくは、0.5%以下、さらに好ましくは、0.4%以下とすることができる。
【0020】
上記化学成分は、Cr、Ni、Zn、Mg、B、V、Zr等の元素が不可避的不純物として含まれていてもよい。なお、これら元素は、アルミニウム合金箔の伸びを劣化させるおそれがある。そのため、これら元素は、それぞれ0.02%以下、これら元素の総量は、0.07%以下に規制することが好ましい。
【0021】
上記アルミニウム合金箔は、箔厚が20μm以下である。箔厚が20μmを超えると、近年要求されている箔の薄肉化(箔厚ゲージダウン)に対応することができない。上記アルミニウム合金箔は、箔厚が20μm以下であるので、例えば、箔の薄肉化の要求が大きい蓄電デバイスの電極の集電体用途に特に好適である。
【0022】
上記アルミニウム合金箔は、例えば、集電体として使用した際に、電池容量を増やす目的で電池全体の体積に占める活物質の割合をより多くするなどの観点から、箔厚は、好ましくは、18μm以下、より好ましくは、15μm以下とすることができる。なお、箔厚の下限は特に限定されないが、集電体としての使用に適するなどの観点から、箔厚は、8μm以上とすることができる。
【0023】
上記アルミニウム合金箔は、以下の式1を満たしている。
El≧100×t/UTS・・・式1
但し、式1中、tは箔厚(μm)、UTSは引張強さ(MPa)、Elは伸び(%)である。なお、箔厚tは、最終冷間圧延後の厚さのことである。また、式1の右辺における100の単位は、MPa/μmである。
【0024】
箔厚が20μm以下の場合に、アルミニウム合金箔の伸びElが、100×t/UTSの値を下回ると、高い伸びと強度とを両立させることができず、アルミニウム合金箔が破断しやすくなる。式1を満たさないアルミニウム合金箔を、例えば、リチウムイオン二次電池における正極の集電体等に用いた場合には、充放電に伴う活物質の膨張収縮による変形にアルミニウム合金箔が追従することができず、アルミニウム合金箔の破断が生じやすくなる。これに対して、式1を満たす上記アルミニウム合金箔は、冷間圧延時の回復が促進される結果、箔厚を20μm以下に薄くしても、高い伸びと強度とを両立させることができる。なお、引張強さおよび伸びは、JIS Z2241に準拠して測定される値である。
【0025】
上記アルミニウム合金箔は、さらに、以下の式2を満たしているとよい。
ρ≦0.002×UTS+0.006・・・式2
但し、式2中、ρは比抵抗(μΩ・cm)、UTSは引張強さ(MPa)である。なお、ρは、最終冷間圧延後の比抵抗のことである。また、式2の右辺における0.002の単位は、μΩ・cm/MPaであり、0.006の単位は、μΩ・cmである。
【0026】
比抵抗は、主に、上記アルミニウム合金箔に含まれる元素の固溶量と相関がある物性値であり、強度を向上させるために固溶量を増加させると増加する。上記アルミニウム合金箔は、強度を向上させるための元素として、主に、Cuを用いることで比抵抗を低く維持している。そのため、上記アルミニウム合金箔は、導電性に優れる。それ故、上記アルミニウム合金箔を蓄電デバイスの集電体に用いた場合には、高電流で充放電した際に、エネルギー効率が低下する等の問題が起こり難い。なお、比抵抗は、JIS H0505に準拠し、ダブルブリッジ法により測定される値である。比抵抗の測定は、雰囲気温度の影響を除去するため、液体窒素中で行う。
【0027】
上記アルミニウム合金箔は、引張強さが250MPa以上であることが好ましい。引張強さが250MPa未満になると、強度が不足し、電極製造工程において破断する場合がある。引張強さは、より好ましくは、265MPa以上、さらに好ましくは、280MPa以上であるとよい。
【0028】
上記アルミニウム合金箔は、例えば、リチウムイオン二次電池等の二次電池、電気二重層キャパシター、リチウムイオンキャパシターなどの蓄電デバイスにおける集電体として好適に用いることができる。より具体的には、例えば、上記アルミニウム合金箔をリチウムイオン二次電池の集電体として用いる場合、集電体としてのアルミニウム合金箔の表面には、主に電極活物質を含む合材が付けられる。具体的には、アルミニウム合金箔の表面に、電極活物質を含む合材スラリーが塗工され、乾燥後、合材層の圧密化および集電体との密着性の向上を目的としてプレス処理される。上記アルミニウム合金箔は、箔厚が薄くても、これら電極製造工程や電池に使用した際に破断が起こり難く、また、比抵抗が低いことから、エネルギー効率のよい蓄電デバイスを実現するのに有用である。
【0029】
上記アルミニウム合金箔は、例えば、次のようにして製造することができる。すなわち、上記アルミニウム合金箔は、上記特定の化学成分からなるアルミニウム合金鋳塊を、均質化処理を実施または実施せずに熱間圧延した後、箔圧延を含む冷間圧延を行うことにより得ることができる。均質化処理は、具体的には、400℃以上620℃以下で1~20時間程度加熱することで実施することができる。
【0030】
上記アルミニウム合金箔の製造方法において、熱間圧延は350℃以下の温度で実施することができる。なお、熱間圧延時の温度は、温度測定が容易な熱間圧延の開始時と終了時における温度が350℃以下とされる。熱間圧延を350℃以下の温度で実施することにより、再結晶が起こるのを防ぎ、熱間圧延時の加工ひずみを蓄積させることができる。冷間圧延時の回復を促進させる要素としては、Al-Fe系化合物の存在の他に、加工ひずみの蓄積の程度も関与している。加工ひずみが蓄積されるほど、転位が動きやすくなり、回復が促進される。熱間圧延時の温度の下限値は、特に限定されるものではないが、変形抵抗増大による圧延機への負荷増加を抑制するなどの観点から、150℃とすることができる。
【0031】
また、熱間圧延の開始温度に到達してからの保持時間は、特に限定されるものではないが、Al-Fe-Si系化合物の析出を抑制しやすくなるなどの観点から、12時間以内とすることができる。なお、熱間圧延は、一回で行ってもよいし、粗圧延後に仕上圧延を行う等、複数回に分けて行ってもよい。
【0032】
上記アルミニウム合金箔の製造方法では、熱間圧延後、冷間圧延することによりアルミニウム合金箔を得る。この際、冷間圧延の途中には焼鈍を行わない。途中焼鈍を行うことで加工ひずみが解放され、冷間圧延時に回復が起こり難くなり、最終箔厚でのアルミニウム合金箔の伸びの低下に繋がるからである。なお、冷間圧延終了後に最終焼鈍を実施すると、加工ひずみが解放され、アルミニウム合金箔の強度が低下する。そのため、冷間圧延終了後に、最終焼鈍は実施しないことが好ましい。
【0033】
冷間圧延後の箔厚は、上述の通り、20μm以下とされる。箔厚は、好ましくは、18μm以下、より好ましくは、15μm以下とすることができる。なお、箔厚の下限は特に限定されないが、集電体としての使用に適するなどの観点から、箔厚は、8μm以上とすることができる。なお、冷間圧延は、一回または複数回以上行うことができる。冷間圧延における最終圧延率は、回復を促進させる観点から、好ましくは、98%以上、より好ましくは、99%以上であるとよい。なお、上記最終圧延率は、100×(冷間圧延前の熱間圧延板の板厚-最終の冷間圧延後のアルミニウム合金箔の箔厚)/(冷間圧延前の熱間圧延板の板厚)から算出される値である。
【0034】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例
【0035】
実施例のアルミニウム合金箔について以下に説明する。
【0036】
(実施例1)
表1に示す化学成分のアルミニウム合金を半連続鋳造法にて造塊し、面削することにより厚さ480mmのアルミニウム合金鋳塊を準備した。なお、表1に示す化学成分のアルミニウム合金のうち、合金A~Mが実施例に適する化学成分のアルミニウム合金であり、合金N~Sが比較例としての化学成分のアルミニウム合金である。
【0037】
【表1】
【0038】
上記準備したアルミニウム合金鋳塊を、均質化処理を施すことなく熱間圧延し、厚さ5.0mmの熱間圧延板を得た。この際、熱間圧延は、粗圧延と仕上圧延を連続して行った。また、上記熱間圧延において、粗圧延に供する前のアルミニウム合金鋳塊は、350℃に加熱して6時間保持することによって粗圧延の開始温度(熱間圧延の開始温度)を350℃とした。また、粗圧延の終了温度(熱間圧延の途中温度)は320℃、仕上圧延の終了温度(熱間圧延の終了温度)は180℃とした。このように本例では、上記熱間圧延の開始温度および終了温度だけでなく、熱間圧延の途中温度である粗圧延の終了温度、つまり、仕上圧延の開始温度も350℃以下とした。
【0039】
次いで、途中で焼鈍を行うことなく冷間圧延を繰り返し行い、箔厚:t(μm)が8~20μmのアルミニウム合金箔を得た。なお、上記冷間圧延における最終圧延率は、100×(冷間圧延前の熱間圧延板の板厚5.0mm-最終の冷間圧延後のアルミニウム合金箔の箔厚(mm))/(冷間圧延前の熱間圧延板の板厚5.0mm)より求められる。
【0040】
次に、得られたアルミニウム合金箔を試験材として、引張強さ:UTS(MPa)、伸び:El(%)および比抵抗:ρ(μΩ・cm)を測定した。具体的には、引張強さおよび伸びは、JIS Z2241に準拠し、試験材からJIS5号試験片を採取して測定した。そして、以下の式1を満足するか否かを確認した。
El≧100×t/UTS・・・式1
【0041】
また、比抵抗:ρは、JIS H0505に準拠し、ダブルブリッジ法により測定した。なお、雰囲気温度の影響を除去するため、比抵抗:ρの測定は液体窒素中で行った。そして、以下の式2を満足するか否かを確認した。
ρ≦0.002×UTS+0.006・・・式2
【0042】
また、箔圧延状況について調査するため、試験材の背面から照明を当て、光のもれの有無によりピンホールの発生状況もあわせて調査した。
【0043】
これらの結果をまとめて表2に示す。なお、試験材E1~E13が実施例であり、試験材C1~C6が比較例である。なお、試験材C5は、Cu含有量が0.5%を超える合金Rを用いたため、強度が高過ぎて箔厚20μm以下で評価可能なアルミニウム合金箔を得ることができなかった。そのため、引張強さ、伸びおよび比抵抗の測定は実施できなかった。
【0044】
【表2】
【0045】
表2に示されるように、試験材C1は、Si含有量が0.6%を超える合金Nを用いたため、粗大なSi単相粒子が形成され、これによるピンホールが発生した。
【0046】
試験材C2は、Fe含有量が1.0%を下回る合金Oを用いたため、分散するAl-Fe系化合物が少なく、冷間圧延時に回復が促進されずに伸びが低かった。そのため、試験材C2は、式1の関係を満足しなかった。
【0047】
試験材C3は、Fe含有量が2.0%を超える合金Pを用いたため、鋳造時に粗大化合物が形成され、箔圧延時にピンホールが発生した。
【0048】
試験材C4は、Cu含有量が0.1%を下回る合金Qを用いたため、加工硬化し難く、引張強さが250MPaを下回った。なお、試験材C4の引張強度は、他の試験材に比べて、最も低い値であった。
【0049】
試験材C6は、Mn含有量が0.05%を超える合金Sを用いたため、比抵抗が高くなった。
【0050】
これらに対し、試験材E1~E13は、いずれも、上述した化学成分、箔厚を有しており、上記特定の式1を満たしている。そのため、試験材E1~E13によれば、箔厚を20μm以下と薄くした場合でも、高い伸びと強度とを両立できることが確認された。また、試験材E1~E13は、さらに、上記特定の式2も満たしている。そのため、試験材E1~E13によれば、上記に加え、比抵抗を低く維持できることも確認された。
【0051】
(実施例2)
本例は、熱間圧延時の温度条件や均質化処理の有無、冷間圧延時における途中焼鈍の影響などを主に調査したものである。
【0052】
表1に示される化学成分のアルミニウム合金Aを半連続鋳造法にて造塊し面削することにより、厚さ480mmのアルミニウム合金鋳塊を準備した。
【0053】
アルミニウム合金鋳塊Aを用いて、表3に示される製造条件にて箔厚12μmのアルミニウム合金箔を製造した。得られたアルミニウム合金箔について、実施例1と同様にして、引張強さ、伸び、比抵抗および箔圧延状況(ピンポール発生の有無)を調査した。これらの結果をまとめて表4に示す。なお、試験材E14~E17が実施例であり、試験材C7~C9が比較例である。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
表4に示されるように、試験材C7およびC8は、熱間圧延時における熱間圧延の開始温度が350℃を超えていた。そのため、試験材C7およびC8は、熱間圧延時の加工ひずみの蓄積が少なく、冷間圧延時の回復が不十分となり、伸びが低かった。そのため、試験材C7およびC8は、式1の関係を満足しなかった。
【0057】
試験材C9は、熱間圧延の開始前に350℃以下であったが、冷間圧延の途中、板厚1mmのときに350℃を超える380℃という高温で途中焼鈍を行って作製されたものである。そのため、試験材C9は、途中焼鈍により加工ひずみが解放された結果、冷間圧延時の回復が不十分となり、伸びが低かった。そのため、試験材C9は、式1の関係を満足しなかった。
【0058】
これらに対し、試験材E14~E17は、いずれも、上述した化学成分、箔厚を有しており、上記特定の式1を満たしている。そのため、試験材E14~E17によれば、箔厚を20μm以下と薄くした場合でも、高い伸びと強度とを両立できることが確認された。また、試験材E14~E17は、さらに、上記特定の式2も満たしている。そのため、試験材E14~E17によれば、上記に加え、比抵抗を低く維持できることも確認された。
【0059】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
以下、参考形態の例を付記する。
項1.
化学成分が、質量%で、Fe:1.0%以上2.0%以下、Cu:0.1%以上0.5%以下、Mn:0.05%以下を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
箔厚が20μm以下であり、
以下の式1を満たす、アルミニウム合金箔。
El≧100×t/UTS・・・式1
但し、上記式1中、tは箔厚(μm)、UTSは引張強さ(MPa)、Elは伸び(%)である。
項1.のアルミニウム合金箔において、Fe含有量が1.0%未満になると、Al素地(マトリックス)と整合性を持たないAl-Fe系化合物の分布密度が小さくなり、アルミニウム合金箔の回復促進効果が不十分となって高い伸びが得られなくなる。一方、Fe含有量が2.0%を超えると、鋳造時に数百μmを越える粗大なAl-Fe系化合物が形成され、箔圧延時にピンホール(穴あき)生成の原因となり、健全な箔材の製造が困難となる。上記の観点から、Fe含有量は、好ましくは、1.1%以上、より好ましくは、1.2%以上とすることができる。また、Fe含有量は、好ましくは、1.9%以下、より好ましくは、1.8%以下、さらに好ましくは、1.7%以下とすることができる。
項2.
上記化学成分が、質量%で、Si:0.01%以上0.6%以下をさらに含有する、項1に記載のアルミニウム合金箔。
項3.
さらに、以下の式2を満たす、項1または項2に記載のアルミニウム合金箔。
ρ≦0.002×UTS+0.006・・・式2
但し、式2中、ρは比抵抗(μΩ・cm)、UTSは引張強さ(MPa)である。
項4.
上記引張強さが、250MPa以上である、項1~項3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金箔。
項5.
集電体用である、項1~項4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金箔。