IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東莞顛覆産品設計有限公司の特許一覧

特許7165785高エントロピー合金のスキー用具における用途
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】高エントロピー合金のスキー用具における用途
(51)【国際特許分類】
   A63C 5/12 20060101AFI20221027BHJP
   A63C 1/30 20060101ALI20221027BHJP
   A63C 5/00 20060101ALI20221027BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A63C5/12 C
A63C1/30
A63C5/00 Z
A63C5/00 B
C22C30/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021107026
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2022107494
(43)【公開日】2022-07-21
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】202110029250.8
(32)【優先日】2021-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517371936
【氏名又は名称】東莞顛覆産品設計有限公司
【氏名又は名称原語表記】DONGGUAN REVOLUTION PRODUCT DESIGN CO., LTD
【住所又は居所原語表記】Unit 616, D Buiding, Jilian Apartment, No. 1 of Qinyuan Road, Songshan Lake High-Tech Industrial Development Zone Dongguan, Guangdong 523000 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】李揚徳
(72)【発明者】
【氏名】▲パン▼愛蓮
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/084763(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107349595(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104862510(CN,A)
【文献】東ドイツ国経済特許第299901(DD,A1)
【文献】仏国特許発明第937394(FR,A)
【文献】特開2019-163535(JP,A)
【文献】米国特許第02264535(US,A)
【文献】中国特許出願公開第109518062(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第01108451(EP,A2)
【文献】XIAO, Jin-Kun,外 3 名,“Microstructure and tribological properties of plasma sprayed FeCoNiCrSiAlx high entropy alloy coatings”,Wear,Elsevier B.V.,Science Direct,2020年01月28日,Volumes 448-449,特にp.1-10,[2022年9月30日検索],インターネット <URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0043164819314966?via%3Dihub>,<DOI:10.1016/j.wear.2020.203209>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63C 5/00- 5/16
A63C 3/00- 3/14
A63C 1/00- 1/42
C22C 30/00-30/06
B62B 17/00-17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高エントロピー合金を用いたスキー用具であって、
前記スキー用具の摩擦係数は、温度の低下に伴って減少し、
-5℃~-15℃の温度範囲において、前記スキー用具の摩擦係数は0.042~0.039であり、-5℃での摩擦係数は、0.042であり、-10℃での摩擦係数は、0.040であり、-15℃での摩擦係数は、0.039である、ことを特徴とするスキー用具
【請求項2】
スキー用具は、本体部及び前記本体部の底部に位置する底部部材を備え、高エントロピー合金は、スキー用具の底部部材に用いられることを特徴とする請求項1に記載のスキー用具。
【請求項3】
高エントロピー合金は、スノーボード底部部材に用いられることを特徴とする請求項2に記載のスキー用具。
【請求項4】
高エントロピー合金は、スキーカートの底部部材に用いられることを特徴とする請求項2に記載のスキー用具。
【請求項5】
前記高エントロピー合金は、鋳造高エントロピー合金、単結晶高エントロピー合金又は繊維薄板高エントロピー合金であることを特徴とする請求項1~4に記載のスキー用具。
【請求項6】
高エントロピー合金を用いたアイススケート靴のブレードであって、
前記アイススケート靴のブレードの摩擦係数は、温度の低下に伴って減少し、
-5℃~-15℃の温度範囲において、前記アイススケート靴のブレードの摩擦係数は0.035~0.032であり、-5℃での摩擦係数は、0.035であり、-10℃での摩擦係数は、0.033であり、-15℃での摩擦係数は、0.032である、ことを特徴とするアイススケート靴のブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エントロピー合金材料の応用技術分野に関し、特に、高エントロピー合金のスキー用具における用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人々の生活の質の向上に伴い、より多くの若者がローラースケート、スケートボード、スクーター、スキー等のアウトドアスポーツに挑戦し、熱中するようになっている。これらのスポーツは、体を鍛えるだけではなく、良い社交活動となっている。このようなアウトドアスポーツの中でも、スキーは設備や会場に対する要求が高く、比較的マイナースポーツではあるが、高級スポーツとして若者の中で人気が高まっている。
【0003】
スノーボードは、スキー運動において、欠かせないスポーツ用具であり、一般的に、アルペンボード、ノルディックスキーボード、スキージャンプ用スノーボード、フリースタイル用スノーボード、シングルスノーボード等の様々な種類に分けられる。通常、スノーボードは、底部部材を有するボードを備え、底部部材は、スノーボードの下面部分であり、雪面に接触する部分でもあり、高い耐摩耗性だけではなく、低い摩擦係数が求められている。現在、ほとんどの底部は、プラスチック又は木材の素材からなり、溶融プロセスと押出プロセスの2種類の製造方法がある。溶融プロセスにより製造される底部は、寿命が長く、メンテナンスが容易であるが、スノーボードの速度が遅く、ワックスがけの量は最も少ない。溶融プロセスにより製造されるスノーボードは、これとは正反対であり、圧縮ボードは、溶融ボードより優れており、より丈夫であり、より速く、ワックスかけも容易あるが、製造プロセスが複雑で、高価であり、メンテナンスも容易でない。
【0004】
2004年中、研究者たちは伝統的な合金開発の枠組みから抜け出し、多元高エントロピー合金(Multi principal high entropy alloy)という新しい合金設計の概念を提案した。これは、複数の種類の主要元素とし、主要元素は5種類以上であり、各主要元素の原子割合は5~35%であり、いずれの元素の原子割合が50%を超えないものが主要元素である。高エントロピー合金は、高強度、高硬度、高耐摩耗性、高耐腐食性、高耐熱性、高電気抵抗性など、従来の合金にはない優れた特性を有するものであり、電子材料に多く用いられている。そこで、本発明者は、高エントロピー合金をスノーボード又はスキー用具に用いる場合、非常に優れた速度を示し、より少ないエネルギーで駆動でき、かなり優れた省エネ効果を有することを確認した。且つ、低温環境にあるため、高エントロピー合金材料の強度がより高く、高エントロピー合金のスキー用具において、幅広い用途があることがわかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の欠点を解決するために、本発明は、高エントロピー合金のスキー用具における用途を提供する。
【0006】
好ましくは、スキー用具は、本体部及び前記本体部底部に位置する底部部材を備え、高エントロピー合金は、スキー用具の底部部材に用いられる。
【0007】
好ましくは、高エントロピー合金は、スノーボードの底部部材に用いられる。
【0008】
好ましくは、高エントロピー合金は、アイススケート靴のブレードに用いられる。
【0009】
好ましくは、高エントロピー合金は、スキーカートの底部部材に用いられる。
【0010】
好ましくは、前記高エントロピー合金は、AlNiCuZrFeCr及びこれらからなる高エントロピー合金であるか、又はAlCoCrFeNi及びこれらからなる高エントロピー合金である。
【0011】
好ましくは、前記高エントロピー合金は、鋳造高エントロピー合金、単結晶高エントロピー合金又は繊維薄板高エントロピー合金である。本発明者は、繊維薄板高エントロピー合金をスキー用具に用いた時に、機械的なダメージを受けることなく、容易にロール状に曲げることができ、特にアーチ型ヘッドを含む底部部材には最適であり、摩擦係数が優れているだけでなく、柔軟性や曲げ加工性にも優れており、アーチ型ヘッドの形成が容易になり、加工コストを削減し、底部部材の品質が向上することを確認した。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果は、
高エントロピー合金を用いてスキー用具を製造することにより、スキー用具が比較的小さい摩擦係数を有し、非常に優れる速度を示し、少ないエネルギーで駆動でき、かなり優れる省エネ効果が得られ、
スキー用具の使用環境の温度が比較的低いため、低温環境において、高エントロピー合金材料の強度がより高いため、スキー用具の耐摩耗性と耐衝撃性が向上し、
繊維薄板高エントロピー合金をスキー用具に用いた時に、機械的なダメージを受けることなく、容易にロール状に曲げることができ、特にアーチ型ヘッドを含む底部部材には最適であり、摩擦係数が優れているだけでなく、柔軟性や曲げ加工性にも優れており、アーチ型ヘッドの形成が容易になり、加工コストを削減し、底部部材の品質が向上する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、本発明の実施例を参照しながら、本発明の実施例の技術的解決策について明確かつ完全に説明するが、これらの実施例は、本発明の一部の実施例に過ぎず、全ての実施例ではないことは明らかである。本発明の実施例に基づき、当業者が創造的な労力をかけずに得られた他のすべての実施形態は、本発明の保護範囲に入るものである。
【0014】
本発明は、高エントロピー合金のスキー用具における用途に関するものである。高エントロピー合金材質を用いて製造されるスキー用具は、雪上での滑走速度を向上させ、且つ強度も向上させ、メンテナンスコストを削減する。同時に、高エントロピー合金の靱性が良いため、スキー用具の加工プロセスがより簡単になる。好ましくは、スキー用具は、本体部及び前記本体部の底部に位置する底部部材を含み、高エントロピー合金は、スキー用具の底部部材に用いられる。なお、底部部材は、雪面に接触する部材である。高エントロピー合金材質により製造される底部部材を本体部の底部に設けることで、高エントロピー合金材質を有効に節約するとともに、上記のような優れる効果を達成することができる。
【0015】
スキー用具は、雪上を滑走するためのスノーボード、アイススケート靴及びスキーカート等であってもよいが、これらに限定されない。一実施例において、高エントロピー合金は、スノーボードの底部部材に用いられ、薄板構造に製造し、その厚さは、0.5mm~1.5mmであってもよいか、これに限定されない。他の実施例において、高エントロピー合金は、アイススケート靴のブレードに用いられる。更に他の実施例において、高エントロピー合金は、スキーカートの底部部材に用いられる。
【0016】
高エントロピー合金は、AlNiCuZrFeCr及びこれらからなる高エントロピー合金、AlCoCrFeNi及びこれらからなる高エントロピー合金であってもよいが、これに限定されない。更に、高エントロピー合金は、鋳造高エントロピー合金、単結晶高エントロピー合金、繊維薄板高エントロピー合金である。本発明者は、繊維薄板高エントロピー合金をスキー用具に用いる場合、機械的な損傷を与えることなく、容易にロール状に折り曲げることができるため、特にアーチ型ヘッドを含む底部部材として適しており、非常に優れる摩擦係数を有するとともに、且つ柔軟性がよく、優れる曲げ加工性を有し、アーチ型ヘッドをより形成しやすく、加工コストを低減し高底部部材の品質を向上させる。
【0017】
本発明の高エントロピー合金のスキー用具における用途を更に詳しく説明するために、以下に具体的な実施例を例示する。
【0018】
実施例1
スノーボードを製造し、当該スノーボードは、パネル、底部部材及びパネルと底部部材との間に位置するコアを備え、底部部材は、コアの下に設けられる。底部部材は、Al0.3CoCrFeNi高エントロピー合金で製造され、厚さは1mmである。
【0019】
実施例2
アイススケート靴を製造し、当該アイススケート靴は、靴本体及び前記靴本体の底部に位置するブレードを備え、ブレードは、Al0.3CoCrFeNi高エントロピー合金で製造される。
【0020】
比較例1
スノーボードを製造し、当該比較例1と実施例1とは基本的に同じであるが、底部部材は、木材材質の押出により製造されたことが相違点であり、その厚さは1mmである。
それ以外は、実施例1と同様であるため、ここで説明を省略する。
【0021】
比較例2
アイススケート靴を製造し、比較例2と実施例とは基本的に同じであるが、ブレードは、ステンレス材料で製造されることが相違点である。
それ以外は、実施例2と同様であるため、ここで説明を省略する。
【0022】
実施例1-2及び比較例1-2のスノーボード及びアイススケート靴について、-5℃、-10℃及び-15℃温度での摩擦係数を測定し、表1に示す。
【0023】
【0024】
表1から、本発明において高エントロピー合金を用いてスキー用具を製造すると、その摩擦係数は、比較例1-2より小さいため、高エントロピー合金をスキー用具に用いることで、比較的小さい摩擦係数を有するようになり、非常に優れる速度を示し、より少ないエネルギーで駆動可能であり、かなり良い省エネルギー効果が達成できる。且つ、温度の低下に伴い、摩擦係数は増加するのではなく減少するため、高エントロピー合金はスキー用具において幅広い用途が期待される。
【0025】
以上の開示は、本発明の好ましい例に過ぎず、当然ながら本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の特許出願の範囲に従って行われた同等の変更も、本発明の範囲に属すものである。