IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シスメックス株式会社の特許一覧

特許7165802免疫細胞の免疫刺激応答性を測定する方法、免疫細胞における免疫シナプスの形成能を判定する方法及び細胞分析装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】免疫細胞の免疫刺激応答性を測定する方法、免疫細胞における免疫シナプスの形成能を判定する方法及び細胞分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20221027BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20221027BHJP
   G01N 15/14 20060101ALI20221027BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20221027BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20221027BHJP
   C12N 15/115 20100101ALN20221027BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
G01N33/543 575
G01N15/14 C
G01N21/64 Z
C07K16/28
C12N15/115 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021197992
(22)【出願日】2021-12-06
(62)【分割の表示】P 2017078407の分割
【原出願日】2017-04-11
(65)【公開番号】P2022037058
(43)【公開日】2022-03-08
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】柳田 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】三輪 桂子
(72)【発明者】
【氏名】岡 祐馬
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-104944(JP,A)
【文献】特開2013-183664(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0030619(US,A1)
【文献】HOSSEINI BH、外9名,Immune synapse formation determines interaction forces between T cells and antigen-presenting cells,Proc Natl Acad Sci U S A,米国,2009年10月20日,Vol.106,no.42,Page.17852-17857,doi: 10.1073/pnas.0905384106. Epub 2009 Oct 12.
【文献】T YOKOSUKA、外7名,Spatiotemporal regulation of T cell costimulation by TCR-CD28 microclusters and protein kinase C the,Immunity,2008年10月17日,Vol.29,No.4,Page.589-601,doi: 10.1016/j.immuni.2008.08.011. Epub 2008 Oct 9.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 15/14
G01N 21/64
C07K 16/28
C12N 15/115
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)測定対象の免疫細胞と免疫刺激因子とを接触させる工程と、
(ii)前記測定対象の免疫細胞に、前記測定対象の免疫細胞とは異なる物質との接触により接触面を形成させる工程と、
(iii)前記接触を物理的及び/又は化学的に解消する工程と、
(iv)前記測定対象の免疫細胞と、前記接触をしていた面における表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体とを接触させる工程と
を含み、
前記測定対象の免疫細胞とは異なる物質が、非生物材料の固相及び/又は前記測定対象の免疫細胞とは異なる細胞であり、
前記測定対象の免疫細胞が、T細胞及び/又はNK細胞である、
免疫細胞を標識する方法。
【請求項2】
工程(i)の免疫刺激因子が、工程(iv)の前記接触をしていた面における表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体として共用され、
工程(i)と工程(iv)とが同時に実施される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記表面抗原が、TCRα/β、CD3、CD40L、OX40、CD28、CTLA4、PD-1及びICOSの少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記表面抗原が共刺激分子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記捕捉体が、光学シグナルを生じうる物質と、前記表面抗原に直接的又は間接的に結合する物質とを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記表面抗原に直接的又は間接的に結合する物質が、抗体、抗体フラグメント、一本鎖抗体又はアプタマーである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(i)測定対象の免疫細胞と免疫刺激因子とを接触させる工程と、
(ii)前記測定対象の免疫細胞に、前記測定対象の免疫細胞とは異なる物質との接触により接触面を形成させる工程と、
(iii)前記接触を物理的及び/又は化学的に解消する工程と、
(iv)前記測定対象の免疫細胞上の前記接触をしていた面に形成された免疫シナプス、又は前記接触をしていた面において前記測定対象の免疫細胞に結合した免疫刺激因子を、光学シグナルを生じうる捕捉体により標識する工程と
を含み、
前記測定対象の免疫細胞とは異なる物質が、非生物材料の固相及び/又は前記測定対象の免疫細胞とは異なる細胞であり、
前記測定対象の免疫細胞が、T細胞及び/又はNK細胞である、
免疫細胞を標識する方法。
【請求項8】
前記捕捉体が、光学シグナルを生じうる物質と、前記免疫シナプスを構成する分子又は前記免疫刺激因子に結合する物質とを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫シナプスを構成する分子が、TCRα/β、CD3、CD40L、OX40、CD28、CTLA4、PD-1及びICOSの少なくとも1つを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記免疫刺激因子が、免疫刺激抗体、免疫刺激ペプチド、主要組織適合性分子(MHC分子)、及びMHC分子と抗原ペプチドの複合体の少なくとも1つを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記測定対象の免疫細胞とは異なる物質が、他家細胞、抗原提示細胞、癌細胞、容器、マルチウェルプレート、スライド又はビーズである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記測定対象の免疫細胞がT細胞である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(i)の免疫刺激因子が、工程(ii)の前記測定対象の免疫細胞とは異なる物質上に存在する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記接触を、攪拌、超音波処理又は化学的処理により解消させる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記測定対象の免疫細胞を、細胞の大きさ、凝集度及び/又は比重に基づいて、細胞を含む試料から分取する工程をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫細胞の免疫刺激応答性を測定する方法、免疫細胞における免疫シナプスの形成能を判定する方法及び細胞分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫は、生体が体内の自己又は非自己を識別して非自己を排除するために行う細胞性及び体液性の生物学的反応の総称である。免疫系は、生命活動において非常に重要な生理的メカニズムである。免疫系の細胞は、サイトカインと呼ばれるタンパク質を分泌したり、細胞傷害性機能を発揮したりすることで、免疫系の活性化や抑制に関与する。
【0003】
免疫系は、移植療法の成否を左右し得る他家細胞に対する拒絶反応に深く関わっている。近年、ヒトにおける疾患を、免疫系を利用して治療を行う免疫療法の有用性が示され、免疫系の状態を把握する重要性がますます高まっている。
【0004】
免疫系の状態の分析方法として、サイトカイン分泌に基づいた分析方法が知られている。この分析方法では、免疫系の細胞の免疫刺激後に前記細胞を培養する必要があり、免疫刺激後からサイトカインの検出まで多大な時間(数十時間)と労力を要する。
【0005】
近年、免疫細胞と標的細胞とが接触した場合に、その接触面で免疫細胞に形成される構造体が注目されている。この構造体は、神経細胞により形成されるシナプス構造と機能的及び形態学的に類似していることから免疫シナプスと呼ばれる。免疫シナプスは、免疫刺激シグナルの増幅に関与することが示唆され、免疫シナプスの形成能はサイトカインを分泌する能力と相関することが知られている(非特許文献1)。また、免疫シナプスの形成は、サイトカイン分泌に比べて短時間(数十分)で生じることが知られている(非特許文献1)。
【0006】
免疫シナプスを測定する方法として、例えば、ガラス基板上の免疫刺激因子を用いて免疫細胞を刺激し、ガラス基板との接触面を維持した状態で、T細胞における免疫シナプスを全反射照明蛍光顕微鏡にて測定する方法が知られている(非特許文献2)。また、標的細胞との間で形成された接触面を維持した状態で、T細胞における免疫シナプスをイメージングフローサイトメトリーにて測定する方法が知られている(非特許文献3)。非特許文献2において、免疫シナプスの検出は共刺激分子CD28を指標にして行われ、非特許文献3では免疫シナプスの検出はCD3を指標にして行われている。非特許文献2及び非特許文献3
では、いずれも免疫細胞は対象物との間の接触面が維持された状態で観察されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Carlin LM.ら, Blood, vol.106, p.3874-3879, 2005
【文献】Yokosuka T.ら, Immunity, vol.29, p.589-601, 2008
【文献】Hosseini BH.ら, Proc Natl Acad Sci USA, vol.106, p.17852-17857, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
免疫系の状態を把握すること、すなわち、各種免疫刺激に対する免疫系の細胞の応答性を迅速かつ簡便に把握することは、様々な免疫系に関わる治療を行う上で非常に重要である。
【0009】
従来、免疫刺激に対する免疫系の細胞の応答性を分析するために、サイトカインの分泌を指標とした分析方法が用いられていた。しかしながら、この分析方法では、免疫刺激後、サイトカインが分泌されるまで免疫細胞を培養しなければならず、煩雑で時間を要していた。
【0010】
免疫系の細胞の各種免疫刺激に対する応答性の測定に、全反射照明蛍光顕微鏡を用いた場合、測定できる細胞数は少なく、測定に手間もかかるため、簡便に測定することができず、自動化装置には適してはいなかった。
【0011】
したがって、当該分野には、各種免疫刺激に対する免疫系の細胞の応答性を迅速かつ簡便に把握することに関する要求があった。
【0012】
本発明者らは、前記課題を解消すべく、サイトカイン分泌に比べて短時間で変化が生じ、免疫刺激シグナルの増幅に関与することが示唆されていた免疫シナプスに着目した。しかしながら、免疫シナプスは、標的細胞との結合面で免疫細胞に形成される緩やかな結合であるため(非特許文献3)、測定前及び測定中に解離することが懸念された。実際、免疫シナプスは、これまで、標的細胞と免疫細胞との接触面が解消された状態では、免疫細胞の免疫刺激に対する応答性の指標として用いられていなかった。
【0013】
本発明者らは、免疫刺激に対する免疫細胞の応答性を迅速に検出する方法について、免疫シナプスの形成に関与することが知られていた各種因子に着目して検討を重ねた。その結果、各種因子の中で共刺激分子などの表面抗原を指標にした場合、免疫細胞と対象物との接触面が解消されたとしても免疫細胞における免疫シナプスの形成能を判定できることを見出し、本発明を成した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様は、(i)測定対象の免疫細胞と免疫刺激因子とを接触させる工程と、(ii)測定対象の免疫細胞に、測定対象の免疫細胞とは異なる物質との接触面を形成させる工程と、(iii)測定対象の免疫細胞と、接触面における表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体とを接触させる工程と、(iv)捕捉体から生じた光学シグナルを検出する工程と、(v)検出した光学シグナルに基づいて、光学シグナルを検出するまでに接触面が解消された測定対象の免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定する工程とを含む、免疫細胞の免疫刺激応答性を測定する方法を提供する。
【0015】
本発明の第2の態様は、(i)測定対象の免疫細胞と免疫刺激因子とを接触させる工程と、(ii)測定対象の免疫細胞に、測定対象の免疫細胞とは異なる物質との接触面を形成させる工程と、(iii)測定対象の免疫細胞と、接触面における共刺激分子に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体とを接触させる工程と、(iv)捕捉体から生じた光学シグナルを検出する工程と、(v)検出した光学シグナルに基づいて、測定対象の免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを自動的に判定する工程とを含む、免疫細胞の免疫刺激応答性を測定する方法を提供する。
【0016】
本発明の第3の態様は、(i)測定対象の免疫細胞と免疫刺激因子とを接触させる工程と、(ii)測定対象の免疫細胞に、測定対象の免疫細胞とは異なる物質との接触面を形成させる工程と、(iii)測定対象の免疫細胞と、接触面における表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体とを接触させる工程と、(iv)捕捉体から生じた光学シグナルを検出する工程と、(v)検出した光学シグナルに基づいて、光学シグナルを検出するまでに接触面が解消された測定対象の免疫細胞における表面抗原の局在を判定する工程とを含む、免疫細胞における免疫シナプスの形成能を判定する方法を提供する。
【0017】
本発明の第4の態様は、免疫刺激を受けた測定対象の免疫細胞と、前記免疫細胞の表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体との複合体であって、前記捕捉体が、前記免疫細胞と前記免疫細胞とは異なる物質との接触面における表面抗原に結合されている前記複合体を導入する導入部と、該導入部から供給された複合体を撮像する撮像部と、撮像部により撮像された画像に基づいて、撮像を実施するまでに接触面が解消された測定対象の免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定する解析部とを含む、細胞分析装置を提供する。
【0018】
本発明の第5の態様は、免疫刺激を受けた測定対象の免疫細胞と、前記免疫細胞の表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体との複合体であって、前記捕捉体が、前記免疫細胞と前記免疫細胞とは異なる物質との接触面における表面抗原に結合されている前記複合体を導入する導入部と、該導入部から供給された複合体に光を照射し、生じた複合体からの光学シグナルを検出する検出部と、検出した光学シグナルに基づいて、光学シグナルを検出するまでに接触面が解消された測定対象の免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定する解析部とを含む、細胞分析装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、各種免疫刺激に対する免疫細胞の応答性を、免疫シナプスの形成能に基づいて分析することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る工程(i)~(iii)の模式図である。
図2】実施形態1に係る細胞分析装置の構成を示す図である。
図3】実施形態1に係る測定装置の構成を示す図である。
図4】実施形態1に係る撮像部の構成を示す図である。
図5】実施形態1に係るカメラの受光面上の領域を示す模式図である。
図6】実施形態1に係る情報処理装置の構成を示す図である。
図7】実施形態1に係る検体の測定処理及び解析処理を示すフローチャートである。
図8】実施形態1に係る測定データを示す画像である。
図9】実施形態1に係る測定データに基づく計測過程を示す模式図である。
図10】実施形態1に係る解析処理を示すフローチャートである。
図11】実施形態1(a、b及びc)及び実施形態2(d)に係る解析処理を示す2Dスキャッタグラムである。
図12】共刺激分子の分布状態が異なる細胞から得られる蛍光シグナルのパルスデータを説明するための模式図である。
図13】蛍光シグナルのパルスデータから得られた解析用パラメータの2Dスキャッタグラムを説明するための模式図である。
図14】刺激なしの場合(a)と刺激ありの場合(b)のCD28のT細胞における分布を示す透過光画像、蛍光画像及びそれらの重ね合わせ画像である。
図15】T細胞におけるCD28の分布を示す画像及び2Dスキャッタグラム。刺激なしの場合(a)及び刺激ありの場合(c)のT細胞の微分干渉像(DIC)、蛍光画像(CD28)及びそれらの重ね合わせ画像(Merge)である。刺激なしの場合(b)及び刺激ありの場合(d)の、細胞における蛍光シグナルを示すエリア(X軸)及び細胞のサイズ(Y軸)を示す2Dスキャッタグラムである。
図16】T細胞におけるサイトカイン分泌と免疫シナプスの形成との相関を示すグラフである。
図17】刺激なしの場合(a及びc)と刺激ありの場合(b及びd)のCD3及びCD40LのT細胞における分布を示す蛍光画像である。
図18】T細胞におけるCD3の分布を示す画像及び2Dスキャッタグラム。刺激なしの場合(a)及び刺激ありの場合(c)のT細胞の透過光像、蛍光画像及びそれらの重ね合わせ画像(Merge)である。刺激なしの場合(b)及び刺激ありの場合(d)の、細胞の総蛍光シグナル強度(X軸)及び蛍光シグナルを示すエリア(Y軸)を示す2Dスキャッタグラムである。
図19】T細胞におけるCD40Lの分布を示す画像及び2Dスキャッタグラム。刺激なしの場合(a)及び刺激ありの場合(c)のT細胞の透過光像、蛍光画像及びそれらの重ね合わせ画像(Merge)である。刺激なしの場合(b)及び刺激ありの場合(d)の、細胞の総蛍光シグナル強度(X軸)及び蛍光シグナルを示すエリア(Y軸)を示す2Dスキャッタグラムである。
図20】実施例2おける計測処理及び解析処理の一例を示す2Dスキャッタグラムである。aは、細胞のサイズ(X軸)及びアスペクト比(Y軸)を示す2Dスキャッタグラムである。bは、細胞の総蛍光シグナル強度(X軸)及びカウント(Y軸)を示す2Dスキャッタグラムである。
図21】刺激なしの場合(a、c、e及びg)と刺激ありの場合(b、d、f及びh)のCD3、CD28、CD40L及びOX40のT細胞における分布を示す、透過光画像と蛍光画像との重ね合わせ画像である。
図22】T細胞におけるCD3の分布を示す画像及び2Dスキャッタグラム。刺激なしの場合(a)及び刺激ありの場合(c)のT細胞の透過光像、蛍光画像及びそれらの重ね合わせ画像(Merge)である。刺激なしの場合(b)及び刺激ありの場合(d)の、細胞の総蛍光シグナル強度(X軸)及び蛍光シグナルを示すエリア(Y軸)を示す2Dスキャッタグラムである。
図23】T細胞におけるCD28の分布を示す画像及び2Dスキャッタグラム。刺激なしの場合(a)及び刺激ありの場合(c)のT細胞の透過光像、蛍光画像及びそれらの重ね合わせ画像(Merge)である。刺激なしの場合(b)及び刺激ありの場合(d)の、細胞の総蛍光シグナル強度(X軸)及び蛍光シグナルを示すエリア(Y軸)を示す2Dスキャッタグラムである。
図24】T細胞におけるCD40Lの分布を示す画像及び2Dスキャッタグラム。刺激なしの場合(a)及び刺激ありの場合(c)のT細胞の透過光像、蛍光画像及びそれらの重ね合わせ画像(Merge)である。刺激なしの場合(b)及び刺激ありの場合(d)の、細胞の総蛍光シグナル強度(X軸)及び蛍光シグナルを示すエリア(Y軸)を示す2Dスキャッタグラムである。
図25】T細胞におけるOX40の分布を示す画像及び2Dスキャッタグラム。刺激なしの場合(a)及び刺激ありの場合(c)のT細胞の透過光像、蛍光画像及びそれらの重ね合わせ画像(Merge)である。刺激なしの場合(b)及び刺激ありの場合(d)の、細胞の総蛍光シグナル強度(X軸)及び蛍光シグナルを示すエリア(Y軸)を示す2Dスキャッタグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一の態様は、免疫細胞の免疫刺激応答性を測定する方法に関する。この態様において、工程(i)及び(ii)は、免疫刺激因子の存在下で、測定対象の免疫細胞に、測定対象の免疫細胞とは異なる物質との間で接触面を形成させることを含む。この実施形態において、測定対象の免疫細胞と免疫刺激因子とを接触させる工程(i)に続いて、測定対象の免疫細胞に、前記物質との接触面を形成させる工程(ii)が行われてもよい。あるいは、前記物質の表面に免疫刺激因子が存在する場合には、工程(i)と工程(ii)を同時に行ってもよい。この場合でも、厳密には、工程(i)の後に工程(ii)が行われている。工程(i)及び(ii)を行うことにより、活性化した免疫細胞の上記接触面において免疫シナプスが形成される。
【0022】
工程(iii)では、形成した免疫シナプスを検出するために、上記の接触面を形成させた免疫細胞に対して、接触面における表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体(以下、単に「捕捉体」ともいう)を接触させる。該捕捉体は、接触面における表面抗原のうち、免疫シナプスを構成する分子と結合することが好ましい。工程(iii)を行うことにより、免疫細胞において、免疫シナプスを構成する分子と、捕捉体との複合体が形成される。
【0023】
次いで、工程(iv)では、免疫細胞上の該複合体に含まれる捕捉体からの光学シグナルを検出する。光学シグナルの検出手段は、特に限定されないが、個々の細胞について分析可能な手段が好ましい。そのような光学シグナルの検出手段としては、例えばフローサイトメーター及びイメージングサイトメーターなどが挙げられる。好ましい実施形態において、工程(iv)は、フローサイトメーター又はイメージングサイトメーターを用いて、免疫細胞の表面抗原に結合した捕捉体から生じた光学シグナルを検出する。
【0024】
後述の工程(v)では、接触面が解消された免疫細胞について免疫刺激応答性を判定するので、工程(vi)における光学シグナルの検出を行う前に、免疫細胞に対して、後述の接触面を解消させる操作を行ってもよい。免疫細胞とは異なる物質として、後述の非生物材料の物質(例えば容器、マルチウェルプレート、スライドなど)を用い、工程(iv)をフローサイトメーター又はイメージングサイトメーターを用いて行う場合、本実施形態の方法は、接触面を解消させる工程を含むことが好ましい。必要に応じて、接触面の解消後、免疫細胞を常法により固定してもよい。固定により、接触面が解消された免疫細胞において、表面抗原の局在を維持できる。細胞の固定には、パラホルムアルデヒド、低級アルコールなどを含む固定液を用いることが好ましい。
【0025】
さらなる実施形態では、検出された光学シグナルに基づいて、免疫細胞が、接触面が解消された免疫細胞であるか否かを判別してもよい。これにより、接触面が解消された免疫細胞に由来する光学シグナルを抽出して、工程(v)の判定に用いることができる。例えば、免疫細胞とは異なる物質として他家細胞を用いた場合、フローサイトメーターによる測定では、接触面が解消された免疫細胞と、他家細胞との接触が維持された免疫細胞と間で、細胞の大きさに関する光学シグナル(例えば前方散乱光の強度又はパルス幅)に差異が生じる。イメージングサイトメーターによる測定では、撮像した細胞の画像から、接触面が解消された免疫細胞と、他家細胞との接触が維持された免疫細胞とを区別できる。
【0026】
例示を目的として、本実施形態に係る工程(i)~(iii)を模式的に示した図1aを参照する。図1aは、免疫刺激因子として後述の免疫刺激抗体を用い、免疫細胞とは異なる物質としてプレートを用いる例を示す。該プレートは、例えば、細胞培養に用いられる容器の底面、マルチウェルプレートのウェル底面、顕微鏡観察に用いられるスライドの表面などに相当する。図1aでは、工程(i)において免疫細胞と免疫刺激抗体とを接触させる。こ
の例において、免疫刺激抗体は、免疫細胞の表面抗原の一種である共刺激分子に結合する抗体である。工程(i)に続いて、工程(ii)では、免疫刺激抗体と接触した状態の免疫細胞
をプレートに接触させて、免疫細胞にプレートとの間の接触面を形成させる。工程(iii)では、免疫細胞における共刺激分子を検出するために、工程(i)で用いた免疫刺激抗体に対する二次抗体を用いる。この二次抗体は、光学シグナルを生じうる物質で標識されている。この例では、工程(iii)において接触面は解消されているが、接触面が維持された状態で免疫細胞と捕捉体とを接触させてもよい。なお、図1aは、本発明の1つの実施形態にかかる工程(i)~(iii)の例示であって、本発明はこれに限定されない。
【0027】
工程(v)において、工程(iv)で検出された光学シグナルに基づいて、接触面が解消された免疫細胞が、免疫刺激応答性を有するか否かを判定する。本実施形態において、工程(v)は、検出された光学シグナルに基づいて、免疫細胞における表面抗原の分布を反映する値を計測し、計測した値を閾値と比較することにより、免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定してもよい。ここで、表面抗原の分布を反映する値としては、例えば、捕捉体が蛍光物質を含む場合、表面抗原に結合した捕捉体からの蛍光シグナルのパルス幅、その蛍光パルスの高さ及びパルス面積などが挙げられる。
【0028】
捕捉体が蛍光物質を含む場合、工程(v)では、工程(iv)で検出した蛍光シグナルに基づいて蛍光画像を取得し、該蛍光画像に基づいて判定を行ってもよい。すなわち、蛍光画像において、表面抗原の分布を反映する蛍光シグナルを示すエリアを計測して、計測した値を閾値と比較することにより、免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定する。本明細書において、「蛍光シグナルを示すエリア」とは、蛍光画像において所定の閾値を超える輝度値を示す画素(ピクセル)の数を意味する。この実施形態において、限定するものではないが、前記エリアが閾値よりも小さい場合に、免疫細胞が免疫刺激応答性を有すると判定してもよい。
【0029】
さらなる実施形態において、工程(v)は、前記エリア内の総蛍光シグナル強度、免疫細胞のサイズ及びそのアスペクト比を含む群から選択される少なくとも1つをさらに計測し、その計測した値を閾値と比較することを含んでもよい。本明細書において、前記エリアの又は細胞の「総蛍光シグナル強度」は、蛍光画像において所定の閾値を超える輝度値を示すエリア内の各ピクセルの輝度値の積分値を意味する。本明細書において、「細胞のサイズ」は、透過光画像において所定の閾値よりも低い輝度値を示す細胞膜の領域が検出され、検出された細胞膜で囲まれた細胞を反映した画像のピクセル数を意味する。本明細書において、細胞の「アスペクト比」は、透過光画像における細胞粒子を反映する画像の縦と横の長さ(ピクセル数)の比を意味する。
【0030】
さらなる実施形態において、検出された光学シグナルに基づいた、免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かの判定は、蛍光シグナルのパルス幅、散乱光シグナルのパルス幅、細胞あたりの蛍光シグナル領域を反映する値、及び細胞の大きさを反映する値から選択される少なくとも1つを計測し、その計測した値を閾値と比較することにより、免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定することを含む。
【0031】
本明細書において、「免疫シナプス」は、免疫細胞と標的細胞との間の接触面において該免疫細胞に形成される、免疫細胞活性化に役割を果たす部分とされる分子複合体を意味する。この分子複合体は、受容体(例えば、T細胞受容体(TCR)又はNK細胞受容体)、該受容体の補助因子(例えばCD3)、種々の共刺激分子(例えばCD28)、接着分子(例えばインテグリン)及びシグナル分子が集まって形成されることが知られている。
【0032】
本明細書において、「接触面」は、測定対象の免疫細胞と、測定対象の免疫細胞とは異なる物質とが接触している領域を意味する。ここで、測定対象の免疫細胞と、測定対象の免疫細胞とは異なる物質との接触は、測定対象の免疫細胞の表面上に存在する分子と、測定対象の免疫細胞とは異なる物質の表面上に存在する分子との相互作用を介した間接的な接触も含む。上述のとおり、本実施形態の方法では、接触面において免疫シナプスが形成される。よって、免疫細胞上の接触面は、免疫シナプスが形成されている領域ともいえる。接触面は、限定するものではないが、測定対象の免疫細胞が自己とは異なる物質に自発的に接触することで形成されてもよい。あるいは、接触面は、測定対象の免疫細胞を、測定対象の免疫細胞とは異なる物質に接触させることで形成されてもよい。
【0033】
本明細書において、「測定対象の免疫細胞」は、自己と非自己を識別し非自己を排除する機構を担う細胞種を意味する。測定対象の免疫細胞は、限定するものではないが、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞及びそれらの混合物であってよい。なお、抗原提示細胞は、本明細書でいう測定対象の免疫細胞には含まれず、後述の「測定対象の免疫細胞とは異なる物質」に含まれる。
【0034】
本明細書において、「測定対象の免疫細胞とは異なる物質」は、免疫細胞と接触した場合に該免疫細胞に対して接触面を提供し得る物質をいう。測定対象の免疫細胞とは異なる物質は、非生物材料であってもよいし、生物材料であってもよい。非生物材料である物質は、限定するものではないが、容器、マルチウェルプレート、スライド、ビーズなどであってよい。生物材料である物質は、限定するものではないが、他家細胞、抗原提示細胞、癌細胞などであってよい。他家細胞、抗原提示細胞及び癌細胞は、株化細胞であってもよい。また、他家細胞及び癌細胞は、それらを含む組織の形態にあってもよい。「他家細胞」は非自己の細胞であり、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞及びそれらの混合物であってもよい。
【0035】
本実施形態において、測定対象の免疫細胞と、測定対象の免疫細胞とは異なる物質とを接触させる手法は、特に限定されない。例えば、測定対象の免疫細胞を、培地と共に容器又はマルチウェルプレートのウェルに入れて沈降させることで接触させてもよい。この場合、測定対象の免疫細胞を入れた容器又はマルチウェルプレートを遠心してもよい。また、免疫細胞をスライド上に載せて接触させてもよい。さらなる実施形態において、測定対象の免疫細胞とは異なる物質が、ビーズ、他家細胞、抗原提示細胞、癌細胞などの粒子の形状にある場合、それらの物質を測定対象の免疫細胞に添加することにより接触させてもよい。接触面は、測定対象の免疫細胞と、測定対象の免疫細胞とは異なる物質とが接触した状態を維持することにより形成できる。接触状態を維持する時間としては、例えば2分以上60分以下、好ましくは10分以上45分以下、より好ましくは20分以上40分以下、特に好ましくは30分間である。
【0036】
本明細書において、「表面抗原」は、細胞膜上に存在するタンパク質、糖鎖、脂質及びそれらの組み合わせである。表面抗原の種類は、表面抗原に結合可能な捕捉物質が存在するか、又はそのような捕捉物質を製造できるかぎり、特に限定されない。好ましい表面抗原は、免疫細胞における免疫シナプスを構成する分子である。そのような分子としては、例えば、TCRα/β、CD3、CD28、CD40L(CD40 ligand)、OX40、CTLA4(cytolytic T lymphocyte associated antigen-4)、PD-1(programmed cell death-1)及びICOS(inducible co-stimulatory molecule)などが挙げられる。後述の共刺激分子も、免疫細胞の表面抗原の一種である。
【0037】
本実施形態において、測定対象の免疫細胞は、T細胞及びNK細胞から選択される少なくとも1種である。さらなる実施形態において、測定対象の免疫細胞はT細胞又はNK細胞である。好ましい実施形態において、測定対象の免疫細胞はT細胞である。
【0038】
T細胞は、限定するものではないが、ヘルパーT細胞(「CD4+T細胞」とも称される)、サプレッサーT細胞、制御性T細胞、細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte(CTL)、「CD8+T細胞」とも称される)などのエフェクターT細胞、ナイーブT細胞、及び遺伝子改変された細胞であってよい。エフェクターT細胞は、限定するものではないが、インビボ及びインビトロで活性化された細胞であってよい。これらのT細胞は、1種単独で用いてもよく、又は2種以上を含むT細胞亜集団として用いてもよい。
【0039】
本実施形態において、測定対象の免疫細胞は、生物試料から調製してもよい。例えば、血液(例えば末梢血及び臍帯血)又は骨髄液から、公知の細胞分離法により、免疫細胞を単離してもよい。そのような細胞分離法としては、細胞の大きさ、凝集度及び/又は比重に基づいて、細胞を含む生物試料から所望の細胞を分取する方法が挙げられる。例えば、市販のセルソーターを用いれば、細胞の大きさ又は凝集度に基づいて細胞を分取できる。また、比重勾配遠心法により、細胞の比重に基づいて細胞を分取できる。本実施形態では、生物試料から単離した細胞を、常法にしたがって培養して増殖させてもよい。さらなる実施形態において、免疫細胞は、生物試料、例えば血液(例えば末梢血及び臍帯血)又は骨髄液の形態で用いられてよい。生物試料は、限定するものではないが、哺乳動物から、例えばヒト及び非ヒト哺乳動物(例えばイヌ、ネコなどのコンパニオン動物、ウマ、ウシなどの家畜動物)から得られた試料であってよい。
【0040】
さらなる実施形態において、測定対象の免疫細胞は試料中に存在してよい。したがって、この実施形態は、本発明の方法を、測定対象の免疫細胞を含む試料に対して実施する方法を提供する。より具体的には、この実施形態は、(i)前記試料中の免疫細胞と免疫刺激因子とを接触させる工程と、(ii)前記試料中の免疫細胞に、前記免疫細胞とは異なる物質との接触面を形成させる工程と、(iii)前記試料中の免疫細胞と、接触面における表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体とを接触させる工程と、(iv)前記捕捉体から生じた光学シグナルを検出する工程と、(v)検出した光学シグナルに基づいて、前記試料中の接触面が解消された免疫細胞が免疫刺激応答性であるか否かを判定する工程とを含む、免疫細胞を含む試料の免疫応答性を測定する方法を提供する。免疫細胞を含む試料は、上記の生物試料であってもよい。
【0041】
この実施形態において、工程(v)では、工程(iv)で検出した光学シグナルに基づいて、免疫細胞における、捕捉体が結合した表面抗原の分布を反映する値を計測し、計測した値を閾値と比較することにより、前記免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定してもよい。捕捉体が蛍光物質を含む場合、工程(v)では、工程(iv)で検出した蛍光シグナル
に基づいて蛍光画像を取得し、該蛍光画像に基づいて判定を行ってもよい。蛍光画像において、表面抗原の分布を反映する蛍光シグナルを示すエリアを計測して、該エリアに基づいて、例えば、前記試料における免疫刺激応答性を有する細胞の割合を算出してもよい。そして、その割合を、健常者由来の試料について標準化された免疫刺激応答性を有する免疫細胞の割合と比較することで、判定を行ってもよい。例えば、その試料の前記割合が、標準化された割合よりも高い値である場合、その試料は免疫応答性が高い又は免疫応答性があると判定されてよい。
【0042】
本明細書中において、免疫細胞に対する「免疫刺激」は、免疫細胞と免疫刺激因子とを接触させること、及び該免疫細胞に、免疫細胞とは異なる物質との接触面を形成させることを含む。本実施形態では、免疫刺激は、免疫細胞と免疫刺激因子単独とを接触させることにより行ってもよい。さらなる実施形態では、免疫刺激は、免疫細胞と、前記物質上に存在する免疫刺激因子と接触させることにより行ってもよい。この場合、免疫細胞は、免疫刺激因子と接触すると同時に、前記物質にも接触する。
【0043】
本明細書において、「免疫刺激因子」は、免疫細胞に作用して該免疫細胞の活性化を誘導し得る物質を意味する。免疫細胞の活性化は、例えば、免疫細胞の増殖、その運動性の亢進又はサイトカイン分泌を意味する。免疫刺激因子は、限定するものではないが、免疫刺激抗体、免疫刺激ペプチド、主要組織適合性分子(Major histocompatibility molecule(MHC分子))、ならびに他家細胞、抗原提示細胞及び癌細胞上に存在する各種免疫刺激因子であってよい。免疫刺激因子は、1種単独で又は2種以上を組み合わせてもよく、あるいは免疫刺激因子単体又は他の物質もしくは物質との複合体の形態で用いられてもよい。免疫刺激因子は、例えば、MHC分子と抗原ペプチドの複合体の形態、ビーズ、容器などの非生物材料上に固定された形態、抗原提示細胞上に提示された形態であってもよい。
【0044】
本実施形態において、免疫刺激因子は、免疫刺激抗体、免疫刺激ペプチド、MHC分子、及びMHC分子と抗原ペプチドの複合体から選択される少なくとも1種である。さらなる実施形態において、免疫刺激因子は、免疫刺激抗体、免疫刺激ペプチド、MHC分子、又はMHC分子と抗原ペプチドの複合体であってよい。特定の実施形態において、免疫刺激因子は免疫刺激抗体である。
【0045】
本明細書において、「免疫刺激抗体」は、免疫細胞を特異的に刺激して、免疫細胞の活性化を誘導し得る抗体を意味する。免疫刺激抗体は、限定するものではないが、抗TCRα/β抗体、抗CD3抗体、抗CD40L抗体、抗OX40抗体、抗CD2抗体、抗CD28抗体、抗CD137抗体、抗CTLA4抗体、抗PD-1抗体、抗ICOS抗体及び抗インテグリン抗体(抗CD2抗体)であってよい。これらの免疫刺激抗体は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。免疫刺激抗体は、抗体単体で又は他の物質、例えばビーズ、マルチウェルプレート、スライド、容器などの非生物材料上に固相化された状態で用いられてもよい。
【0046】
1つの実施形態において、免疫刺激抗体は、抗TCRα/β抗体、抗CD3抗体、抗CD40L抗体、抗OX40抗体、抗CD2抗体、抗CD28抗体、抗CD137抗体、抗CTLA4抗体、抗PD-1抗体、抗ICOS抗体及び抗インテグリン抗体(抗CD2抗体)から選択される少なくとも1種である。さらなる実施形態において、免疫刺激抗体は、抗CD3抗体及び抗CD28抗体から選択される少なくとも1種である。特定の実施形態において、免疫刺激抗体は、抗CD3抗体及び抗CD28抗体である。
【0047】
抗体は、特に限定しない限り、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれであってもよい。また、抗体は、抗体フラグメント、一本鎖抗体及びそれらの誘導体であってもよい。
【0048】
本明細書において、「免疫刺激ペプチド」は、免疫細胞を刺激して、免疫細胞の活性化を誘導し得るペプチドを意味する。免疫刺激ペプチドは、例えば抗原ペプチド(結核菌の抗原ペプチドなど)である。
【0049】
本実施形態において、免疫刺激ペプチドは、抗原ペプチドである。抗原ペプチドは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。特定の実施形態において、抗原ペプチドは、MHC分子上に提示されたMHC分子との複合体の形態で用いられてもよい。
【0050】
本明細書において、「主要組織適合性分子(MHC分子)」は、臓器、組織及び細胞の同種移植に際し、最も強い拒絶反応をひき起こすアロ抗原性を担う分子を意味する。ヒトではHLA分子、マウスではH-2分子がMHC分子に相当する。MHC分子には、クラスI分子とクラスII分子がある。MHCクラスI分子は、ほとんどすべての有核細胞上に発現し、細胞内で産生されるペプチドと複合体を形成し、これをCTL(CD8陽性T細胞)の受容体に提示する。MHCクラスII分子は、マクロファージ、B細胞などのいわゆる抗原提示細胞上にのみ発現し、外来抗原由来のペプチドをヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)の受容体に提示する。
【0051】
本実施形態において、免疫刺激因子が、MHC分子又はMHC分子と抗原ペプチドの複合体である場合、該MHC分子は、MHCクラスI分子及びMHCクラスII分子のいずれであってもよい。MHC分子又はMHC分子と抗原ペプチドの複合体は、例えば、抗原提示細胞、癌細胞などの細胞膜に存在する形態で用いられてよい。
【0052】
本明細書において、「表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体」は、免疫細胞の表面抗原に結合する物質と、光学シグナルを生じうる物質とを含む。表面抗原に結合する物質としては、限定するものではないが、免疫細胞の表面抗原に結合する抗体、抗体フラグメント、一本鎖抗体、アプタマーなどが例示される。本実施形態において、捕捉体は、光学シグナルを生じるうる物質と、表面抗原に結合する抗体、抗体フラグメント、一本鎖抗体又はアプタマーとを含む。
【0053】
表面抗原に結合する物質は、表面抗原に直接的に結合してもよく、又は表面抗原に間接的に結合してもよい。本明細書において、「表面抗原に間接的に結合する」とは、一又は複数の分子を介して表面抗原に結合することを意味する。表面抗原に間接的に結合する物質は、限定するものではないが、表面抗原に結合した他の物質に結合する。即ち、表面抗原に間接的に結合する物質は、該他の物質を介して表面抗原に間接的に結合する。
【0054】
光学シグナルを生じうる物質としては、限定するものではないが、蛍光物質が例示される。蛍光物質としては、公知の蛍光色素、蛍光タンパク質などを特に制限なく用いることができる。光学シグナルを生じうる物質は、限定するものではないが、表面抗原に結合する捕捉体に化学的に結合されてよい。そのような捕捉体としては、例えば、表面抗原に直接結合する蛍光標識抗体などが挙げられる(図1b及びcの捕捉体を参照)。
【0055】
本実施形態において、表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体は、表面抗原に直接的に結合する物質と、光学シグナルを生じうる物質とを含む。この実施形態において、捕捉体は、限定するものではないが、表面抗原に直接的に結合する抗体、抗体フラグメント、一本鎖抗体、又はアプタマーであって、光学シグナルを生じうる物質が結合されたものであってよい。
【0056】
あるいは、捕捉体は、表面抗原に間接的に結合する物質と、光学シグナルを生じうる物質とを含んでもよい。この実施形態において、捕捉体は、表面抗原に結合した他の物質に結合する抗体、抗体フラグメント、一本鎖抗体、又はアプタマーであって、光学シグナルを生じうる物質が結合されたものであってよい。限定するものではないが、たとえば、表面抗原に特異的に結合する抗体を、表面抗原に対して一次抗体として結合させ、次いで、該一次抗体に特異的に結合する抗体を二次抗体として結合させる。ここで、光学シグナルを生じうる物質は、該二次抗体に結合されている。この例において、二次抗体が、表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体となる(図1aの捕捉体を参照)。また、一次抗体は、免疫刺激抗体であってもよい。
【0057】
上記の捕捉体が結合する表面抗原は、免疫細胞の共刺激分子であってもよい。本明細書において、「共刺激分子」は、免疫細胞が活性化するに際してT細胞受容体(TCR)を介した抗原特異的なシグナルに加えて、T細胞を活性化するための補助シグナルをT細胞に与え得るT細胞に存在する物質を意味する。本明細書において、「共刺激分子」は、NK細胞に存在する場合、NK細胞の活性化受容体を介した標的細胞のリガンド特異的なシグナルに加えて、NK細胞を活性化するための補助シグナルをNK細胞に与え得る物質を包含する。共刺激分子は、限定するものではないが、CD28、OX40、CD40L、CTLA4、PD-1及びICOSであってよい。
【0058】
本実施形態において、免疫細胞とは異なる物質は、生物材料、例えば他家細胞、抗原提示細胞、及び癌細胞から選択される少なくとも1種である。さらなる実施形態において、免疫細胞とは異なる物質は、他家細胞、抗原提示細胞又は癌細胞である。特定の実施形態において、免疫細胞とは異なる物質は、他家細胞である。特定の実施形態において、免疫細胞とは異なる物質は、抗原提示細胞である。特定の実施形態において、免疫細胞とは異なる物質は、癌細胞である。
【0059】
免疫細胞とは異なる物質として、他家細胞、抗原提示細胞、癌細胞などの免疫細胞以外の細胞を用いる場合、工程(i)における免疫刺激因子は、前記細胞上に存在するMHC分子などの各種免疫刺激因子である。例えば、免疫細胞と異なる物質が他家細胞の場合、限定するものではないが、免疫刺激因子は、少なくともMHC分子を含む。免疫細胞と異なる物質が抗原提示細胞の場合、限定するものではないが、免疫刺激因子は、少なくともMHCクラスII分子と抗原ペプチドの複合体を含む。免疫細胞と異なる物質が癌細胞の場合、限定するものではないが、免疫刺激因子は、少なくともMHCクラスI分子と癌抗原ペプチドの複合体を含む。
【0060】
工程(i)は、免疫細胞と、他家細胞、抗原提示細胞及び癌細胞から選択される少なくとも1種の免疫細胞とは異なる物質とを接触させることで、前記免疫細胞と前記物質上の免疫刺激因子とを接触させることを含む。工程(ii)は、工程(i)で接触させた免疫細胞と前記物質との接触状態を維持することで、前記免疫細胞に、前記物質との接触面を形成させることを含む。
【0061】
本実施形態において、免疫細胞とは異なる物質は、非生物材料、例えば、ライフサイエンス分野において通常用いられる器具が好ましい。そのような器具としては、容器、マルチウェルプレート、スライド、又はビーズなどが挙げられる。容器としては、例えばディッシュ、ボトル、チューブなどが挙げられる。この実施形態によれば、前記物質は非生物材料であるため、前記物質として生物材料を用いる場合に比べて、取り扱いが容易であり、また長期保管が可能である等の産業上の利点を有する。特定の実施形態において、前記物質である容器、マルチウェルプレート、スライド又はビーズは、免疫刺激因子をその表面に含んでいる。例えば、免疫刺激因子が免疫刺激抗体である場合、容器、マルチウェルプレート、スライド又はビーズの表面に該抗体を固相化してもよい。あるいは、前記物質である容器、マルチウェルプレート、スライド又はビーズは、免疫刺激因子をその表面に含んでいない。
【0062】
本実施形態において、工程(i)において、免疫刺激因子と免疫細胞とを接触させた後に、工程(ii)における前記免疫細胞とは異なる物質は、その表面にさらなる免疫刺激因子を含んでいてもよい。この実施形態では、付加的な免疫刺激を目的として、工程(i)の免疫刺激因子と同種又は異種の免疫刺激因子を、その表面に有する物質を工程(ii)に用いてもよい。例えば、工程(i)において、免疫刺激因子として、共刺激分子に対する抗体を用い、工程(ii)において、免疫細胞とは異なる物質として、抗CD3抗体をウェル表面に固相化したマルチウェルプレートを用いることができる。あるいは、工程(ii)における前記物質は、その表面にさらなる免疫刺激因子を含まなくてもよい。
【0063】
本実施形態において、工程(i)の免疫刺激因子として免疫刺激抗体を用いる場合、この免疫刺激因子は、工程(iii)の捕捉体として共用されてよい。この実施形態において、免疫刺激因子は、例えば、抗CD28抗体、抗CD3抗体、抗CD40L抗体、抗OX40抗体、抗CTLA4抗体、抗PD-1抗体、抗ICOS抗体、それらの抗体フラグメント、一本鎖抗体、及びそれらの1種以上の組み合わせに、光学シグナルを生じうる物質が標識された複合体であってよい。そのような標識された免疫刺激抗体を用いれば、工程(i)での免疫細胞への免疫刺激と、工程(iii)での該免疫細胞の表面抗原の捕捉とを同時に行うことができる。
【0064】
したがって、本発明のさらなる実施形態は、(i)免疫細胞と免疫刺激因子とを接触させる工程と、(ii)免疫細胞に、前記免疫細胞とは異なる物質との接触面を形成させる工程と、(iv)前記捕捉体から生じた光学シグナルを検出する工程と、(v)検出した光学シグナルに基づいて、前記免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定する工程とを含み、前記免疫刺激因子が、光学シグナルを生じうる物質で標識された免疫刺激抗体である、免疫細胞の免疫刺激応答性を測定する方法を提供する。この実施形態によれば、免疫刺激因子が、免疫細胞における表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体としての役割も果たすので、試薬の数及び工程数を削減できる。このため、この実施形態はコスト面及び労力の面での利点を有する。
【0065】
本実施形態において、工程(i)の免疫刺激因子は、工程(ii)における免疫細胞とは異なる物質上に存在してもよい。この実施形態において、免疫刺激因子は、免疫刺激抗体、免疫刺激ペプチド、MHC分子などの分子、又はMHC分子と抗原ペプチドなどの複合体であることが好ましい。前記免疫刺激因子は、限定するものではないが、容器、マルチウェルプレート、スライド又はビーズ上に固相化されていてよい。例えば、免疫刺激因子が、免疫刺激抗体又は免疫刺激ペプチドである場合、固相化の態様は特に限定されず、例えば物理的吸着であってもよい。あるいは、免疫刺激因子をビオチンで修飾し、免疫細胞とは異なる物質の表面にアビジン(又はストレプトアビジン)を固定すれば、ビオチンとアビジン(又はストレプトアビジン)との結合を介して、免疫刺激因子を前記物質に固相化できる。また、免疫刺激因子が、他家細胞、抗原提示細胞、癌細胞などが有するMHC分子、又はMHC分子と抗原ペプチドなどの複合体である場合、該細胞を、容器、マルチウェルプレート、スライド又はビーズに接着又は堆積させてもよい。この実施形態において、前記物質上の免疫刺激因子は、免疫細胞と接触して、前記免疫細胞の活性化を誘導し得る。この実施形態によれば、工程(i)は、免疫細胞と、免疫刺激因子を表面に固相化した前記物質とを接触させることで、前記免疫細胞と前記物質上の免疫刺激因子とを接触させることを含む。工程(ii)は、工程(i)で接触させた前記免疫細胞と前記物質との接触状態を維持することで、前記免疫細胞に、前記物質との接触面を形成させることができる。
【0066】
したがって、本発明のさらなる実施形態は、(i)免疫細胞と、前記免疫細胞とは異なる物質上の免疫刺激因子とを接触させる工程と、(ii)免疫細胞に、前記物質との接触面を形成させる工程と、(iii)前記免疫細胞と、表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体とを接触させる工程と、(iv)前記捕捉体から生じた光学シグナルを検出する工程と、(v)検出した光学シグナルに基づき、接触面が解消された前記免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定する工程とを含む、免疫細胞の免疫刺激応答性を測定する方法を提供する。この実施形態によれば、免疫細胞を、免疫刺激因子を表面に固相化した物質と接触させるだけで、工程(i)及び工程(ii)を実質的に同時に行うことができる。したがって、この実施形態は、工程数を削減できるという利点を有する。
【0067】
図1bは、上記の実施形態に関する工程(i)~(iii)を模式的に示した図である。図1bにおいて、免疫刺激因子は免疫刺激抗体であり、免疫細胞とは異なる物質はプレートであり、免疫刺激抗体はプレート上に固相化されていることを示す。図1bに示されるように、免疫細胞と、免疫刺激抗体が固相化されたプレートとを接触させることにより、該抗体による免疫刺激(工程(i))と、接触面の形成(工程(ii))とを実質的に同時に行うことができる。次いで、工程(iii)では、表面抗原に直接的に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体を、免疫細胞上の免疫シナプスに結合させる。この例では、工程(iii)において接触面は解消されているが、接触面が維持された状態で免疫細胞と捕捉体とを接触させてもよい。図1bは、本発明の1つの実施形態にかかる工程(i)~(iii)の例示であって、本発明はこれに限定されない。
【0068】
さらなる実施形態において、免疫刺激因子は、限定するものではないが、ビーズ上に固相化されてもよい。例えば、免疫刺激抗体が固相化されたビーズを用いれば、免疫細胞の刺激と、免疫細胞の単離とを同時に行うことができる。免疫細胞が生物試料に含まれる場合、該試料に上記のビーズを添加すると、該試料中の免疫細胞は、免疫刺激抗体によりビーズに捕捉される。そして、ビーズを含む生物試料を遠心分離することにより、該試料から免疫細胞を分離できる。ビーズが磁性ビーズであれば、ビーズを含む生物試料を磁気分離してもよい。このとき、分離された免疫細胞は、ビーズ上の免疫刺激抗体により免疫刺激されている。この実施形態では、免疫細胞と上記ビーズとの接触面が測定前及び測定中に解消されてもよい。
【0069】
図1cは、上記の実施形態に関する工程(i)~(iii)を模式的に示した図である。図1cにおいて、免疫刺激因子は免疫刺激抗体であり、免疫細胞とは異なる物質はビーズであり、免疫刺激抗体はビーズ上に固相化されていることを示す。図1cに示されるように、免疫細胞と、免疫刺激抗体が固相化されたビーズとを接触させることにより、該抗体による免疫刺激(工程(i))と、接触面の形成(工程(ii))とを実質的に同時に行うことができる。次いで、工程(iii)では、表面抗原に直接的に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体を、免疫細胞上の免疫シナプスに結合させる。この例では、工程(iii)において接触面は解消されていないが、接触面が解消された免疫細胞と捕捉体とを接触させてもよい。図1cは、本発明の1つの実施形態にかかる工程(i)~(iii)の例示であって、本発明はこれに限定されない。
【0070】
本明細書において、「接触面が解消された免疫細胞」は、免疫細胞と、免疫細胞とは異なる物質との間で形成された接触領域が消失した状態にある免疫細胞を意味する。すなわち、免疫細胞が、免疫細胞とは異なる物質から分離した状態にあることを意味する。接触面を解消させる手法としては、限定するものではないが、免疫細胞及び培養液等を含む容器に対するピペッティング、タッピング、攪拌、振盪、超音波処理などの物理的処理、界面活性剤などの化学薬品を用いる化学的処理、及び酵素などの生化学品を用いる生化学的処理であってよい。
【0071】
好ましい実施形態において、接触面は、ピペッティング、タッピング、攪拌、振盪、超音波処理などの物理的処理により解消させる。特定の実施形態において、前記手法はピペッティングである。本実施形態において、接触面を解消させた場合、工程(iv)は、フローサイトメーターを用いて捕捉体から生じた光学シグナルを検出してもよい。
【0072】
本明細書において「フローサイトメーター」は、水流中の細胞に励起光を照射し、個々の細胞から発せられる蛍光や散乱光を測定することで、細胞集団中の個々の細胞の大きさや膜タンパク質の発現量の分布を測定するための測定装置を意味する。フローサイトメーターは、一般に、一般的な蛍光顕微鏡観察と比べ、短時間に多くの細胞数を客観的に測定でき(最大数万細胞/秒)、高感度に定量的な測定が可能で同時に多重パラメータを取得できる等の利点を有する。本明細書において、フローサイトメーターは、細胞を個別に測定できるように液中に細胞を整列させた状態での、細胞測定を可能にする流路系を有する。そのような流路系はフローセルと呼ばれる流体力学に基づいた部品により実現されてよい。フローセルは、一般的に、試料液の流れ(sample flow)を包むようなシース液の流れ(sheath flow)を利用した流体力学的絞込み(hydrodynamic focusing)により実現されるが、これに限定されるものではない。例えば、マイクロキャピラリーや音響絞込み(acoustic focusing)により実現されてもよい。
【0073】
本発明において、フローサイトメーターは、市販品を特に制限なく使用することができる。本明細書において、フローサイトメーターは、カメラを利用した撮像部を備え、液中を流れる細胞の画像を取得可能な、いわゆる「イメージングフローサイトメーター」を含む。実施形態1で後述するように、イメージングフローサイトメーターによれば、撮像された細胞の画像に基づいて、細胞のサイズやアスペクト比を含む多重パラメータを得ることができる。本明細書において、フローサイトメーターは、イメージングフローサイトメーター又は撮像を行わないフローサイトメーターの両方を含む。好ましい実施形態において、フローサイトメーターは、イメージングフローサイトメーターである。本発明において、フローサイトメーターは市販品であっても特に制限なく使用できる。
【0074】
本実施形態において、工程(iv)は、免疫細胞とは異なる物質が、他家細胞、抗原提示細胞、及び癌細胞から選択される少なくとも1種であるか、又はビーズである場合、免疫細胞と、免疫細胞とは異なる物質と、捕捉体との複合体を、フローサイトメーター又はイメージングサイトメーターで測定して、該複合体中の捕捉体から生じた光学シグナルを取得してもよい。あるいは、免疫細胞とは異なる物質が、容器、マルチウェルプレート又はスライドである場合、免疫細胞と、免疫細胞とは異なる物質との接触面を解消させ、免疫細胞と捕捉体との複合体を、フローサイトメーター又はイメージングサイトメーターで測定して、該複合体中の捕捉体から生じた光学シグナルを取得してもよい。
【0075】
本明細書において「イメージングサイトメーター」は、短時間(数秒から数分)に多数(数千個から数百万個)の細胞個々の蛍光イメージや、散乱光、透過光イメージを取得して、定量測定できる統計的に精度の高い細胞測定装置を意味する。細胞画像処理にて、1個の細胞毎の情報を抽出できる測定装置である。本発明において、イメージングサイトメーターは市販品を特に制限なく使用できる。
【0076】
さらなる実施形態において、対象における免疫系の活性化状態を評価する方法が提供される。この実施形態において、上記した本発明を、前記対象から得られた免疫細胞を含む生物試料に対して実施する工程を含む。すなわち、この実施形態の評価方法は、(i)生物試料中の免疫細胞と免疫刺激因子とを接触させる工程と、(ii)生物試料中の免疫細胞に、前記免疫細胞とは異なる物質との接触面を形成させる工程と、(iii)生物試料中の免疫細胞と、免疫細胞における表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体とを接触させる工程と、(iv)前記捕捉体から生じた光学シグナルを検出する工程と、(v)検出した光学シグナルに基づいて、前記試料が免疫刺激応答性であるか否かを判定する工程を含む。
【0077】
さらに、この実施形態の評価方法は、捕捉体が蛍光物質を含み、工程(v)において、工程(iv)で検出した蛍光シグナルに基づいて蛍光画像を取得し、該蛍光画像に基づいて判定を行ってもよい。蛍光画像において、表面抗原の分布を反映する蛍光シグナルを示すエリアを計測して、該エリアに基づいて、例えば、前記生物試料における免疫刺激応答性を有する免疫細胞の割合を算出してもよい。そして、その割合を、健常者由来の生物試料について標準化された免疫刺激応答性を有する免疫細胞の割合と比較することで、判定を行ってもよい。この実施形態において、例えば、その試料の前記割合が、標準化された割合よりも高い値である場合、その試料は免疫応答性が高い又は免疫応答性があると判定されてよい。あるいは、この評価方法では、対象から得られた免疫細胞を含む生物試料における免疫刺激応答性を有する免疫細胞の割合と、同一の対象由来の従前の生物試料についての割合と比較してもよい。例えば、その試料の前記割合が、従前の割合よりも高い値である場合、その対象の免疫応答性が向上した又は免疫応答性があると判定されてよい。
【0078】
本発明の他の態様は、免疫細胞における共刺激分子に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体を用いる、免疫細胞の免疫刺激応答性を測定する方法に関する。
【0079】
この態様の方法では、捕捉体として、免疫細胞における共刺激分子に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体を用いることを除いて、上述した態様の方法で述べたことと同様である。捕捉体が結合する共刺激分子としては、例えば、CD28、OX40、CD40L、CTLA4、PD-1及びICOSが挙げられる。
【0080】
本発明の他の態様は、免疫細胞の活性化状態を分析するための細胞分析装置に関する。本発明のこの態様に係る実施形態について、添付する図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明はすべて例示であって制限的なものではなく、添付する特許請求の範囲に記載の発明をいかようにも限定するものではない。
【0081】
<細胞分析装置の実施形態1>
図2を参照して、細胞分析装置1は、測定装置2と情報処理装置3を備える。測定装置2は、免疫細胞の表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体と、免疫細胞との複合体を含む試料を、フローサイトメーターにより光学的に測定する。情報処理装置3は、測定装置2による測定結果を解析し、解析結果を表示部320に表示する。
【0082】
図3を参照して、測定装置2は、導入部201と、撮像部203と、信号処理部210と、CPU204と、通信インターフェース205と、メモリ206とを有する。信号処理部210は、アナログ信号処理部211と、A/Dコンバータ212と、デジタル信号処理部213と、メモリ214とを有する。
【0083】
この実施形態において、導入部201は、容器とポンプ(図示せず)を備えている。容器中の試料は、ポンプにより、シース液と共に撮像部203のフローセル203c(図4参照)に供給される。導入部201は、CPU204の指示に従って、撮像部203に試料を供給する。実施形態1において、測定試料は、ヒト末梢血由来のクローンT細胞に抗CD28抗体との接触を含む免疫刺激を与えた後に、細胞を固定化して、前記抗CD28抗体に結合するフィコエリトリン(PE)標識抗マウスIgG抗体を用いて2次染色した複合体を用いる。
【0084】
撮像部203は、導入部201から供給された試料に対してレーザー光を照射し、複合体を撮像し、生成された透過光画像と蛍光画像の画像情報を電気信号としてアナログ信号処理部211に出力する。アナログ信号処理部211は、CPU204の指示に従って、撮像部203から出力された電気信号を増幅し、A/Dコンバータ212に出力する。
【0085】
A/Dコンバータ212は、アナログ信号処理部211によって増幅された電気信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号処理部213に出力する。デジタル信号処理部213は、CPU204の指示に従って、A/Dコンバータ212から出力されるデジタル信号に対して所定の信号処理を施し、測定データが生成される。生成された測定データはメモリ214に格納される。
【0086】
メモリ214に格納された測定データは、フローセル203cを複合体が通過した際に生じた透過光及び蛍光に基づく透過光画像及び蛍光画像を含む。
【0087】
CPU204は、メモリ214に格納された測定データを通信インターフェース205に出力する。CPU204は、通信インターフェース205を介して情報処理装置3から制御信号を受信し、その制御信号に従って測定装置2の各部を制御する。
【0088】
通信インターフェース205は、CPU204から出力された測定データを情報処理装置3に送信し、情報処理装置3から出力される制御信号を受信する。メモリ206は、CPU204の作業領域として用いられる。
【0089】
図4を参照して、撮像部203は、光源203a、203bと、フローセル203cと、集光レンズ203d、203eと、対物レンズ203fと、光学ユニット203gと、集光レンズ203hと、カメラ203iとを備えている。
【0090】
この実施形態において、光源203aは、半導体レーザー光源である。光源203aから照射される光は、波長λ1のレーザー光である。集光レンズ203dは、光源203aから照射された光を集光してフローセル203c中の試料に導く。光源203aから照射された波長λ1の光は、フローセル203cの内部を通過する試料に照射され、これにより、免疫細胞から波長λ1の透過光が生じる。
【0091】
光源203bは、半導体レーザー光源である。光源203bから照射される光は、波長λ2のレーザー光である。この実施形態において、波長λ2は約488 nmである。集光レンズ203eは、光源203bから照射された光を集光して、フローセル203c中の試料に導く。光源203bから照射された波長λ2の光は、フローセル203cの内部を通過する試料に照射され、これによりPEから波長λ3の蛍光が生じる。
【0092】
対物レンズ203fは、波長λ1の透過光と波長λ3の蛍光を集光する。光学ユニット203gは、2枚のダイクロイックミラーが組み合わせられた構成を有する。光学ユニット203gの2枚のダイクロイックミラーは、波長λ1の透過光及び波長λ3の蛍光を、互いに異なる角度で反射し、後述するカメラ203iの受光面203ia(図5参照)上において分離される。集光レンズ203hは、波長λ1の透過光及び波長λ3の蛍光を集光する。カメラ203iは、波長λ1の透過光及び波長λ3の蛍光を受光して、フローセル203c中の試料の画像情報を電気信号として、アナログ信号処理部211に出力する。カメラ203iは、TDI(Time Delay Integration)カメラであってよい。TDIカメラであれば、より精度の高い画像情報を取得できる。
【0093】
図5に示すように、カメラ203iは、受光面203ia上の受光領域203ib、203icにおいて、それぞれ、波長λ1の透過光及び波長λ3の蛍光を受光する。受光面203iaは、カメラ203iに配されたCMOSイメージセンサ等の撮像素子の受光面である。受光面203iaに照射される光の位置は、試料がフローセル203cの移動に合わせて、矢印で示すように、それぞれ受光領域203ib、203ic内で移動する。このように、光学ユニット203gによって、2つの光が受光面203ia上において分離されるため、CPU204は、カメラ203iが出力する画像信号から各光に対応する信号を抽出できる。
【0094】
図6を参照して、情報処理装置3は、本体300と、入力部310と、表示部320から構成される。本体300は、CPU301と、ROM302と、RAM303と、ハードディスク304と、読出装置305と、入出力インターフェース306と、画像出力インターフェース307と、通信インターフェース308とを有する。
【0095】
CPU301は、ROM302に格納されているコンピュータプログラム及びRAM303にロードされたコンピュータプログラムを実行する。RAM303は、ROM302及びハードディスク304に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。RAM303は、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU301の作業領域としても利用される。
【0096】
ハードディスク304には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムなど、CPU301に実行させるための種々のコンピュータプログラム及びコンピュータプログラムの実行に用いられるデータが格納されている。また、ハードディスク304には、測定装置2から受信した測定データが格納されている。
【0097】
ハードディスク304には、測定データに基づいて試料に含まれる免疫細胞の数、細胞のサイズ、アスペクト比、蛍光シグナルを示すエリア、前記エリア内の総蛍光シグナル強度などを含む解析用パラメータを計測し、試料についての解析を行うためのプログラムや、解析結果を表示部320に表示させる表示プログラムが格納されている。これらプログラムが格納されることで、後述の解析処理や表示処理が行われる。すなわち、CPU301は、前記プログラムにより、後述する図7bの処理を実行する機能が付与されている。
【0098】
読出装置305は、CDドライブ、DVDドライブ等によって構成される。読出装置305は、CD、DVDなどの記録媒体に記録されたコンピュータプログラム及びデータを読み出すことができる。
【0099】
入出力インターフェース306には、マウス、キーボードなどで構成される入力部310が接続されており、ユーザが入力部310を使用して、情報処理装置3に対する指示を入力する。画像出力インターフェース307は、ディスプレイ等で構成される表示部320に接続されており、画像データに応じた映像信号を、表示部320に出力する。表示部320は、入力された映像信号をもとに、画像を表示する。
【0100】
情報処理装置3は、通信インターフェース308により測定装置2から送信された測定データの受信が可能となる。受信された測定データは、ハードディスク304に格納される。
【0101】
図7は、測定装置2のCPU204と情報処理装置3のCPU301の制御を示すフローチャートである。図7aは、測定装置2のCPU204による制御処理を示すフローチャートであり、図7bは、情報処理装置3のCPU301による制御処理を示すフローチャートである。
【0102】
情報処理装置3のCPU301の制御処理に関して、図7bを参照する。CPU301は、入力部310を介してユーザからの測定開始指示があると(ステップS11:YES)、測定装置2に測定開始信号を送信する(ステップS12)。続いて、CPU301は、測定データを受信したかを判定する(ステップS13)。測定データが受信されていないと(ステップS13:NO)、処理が待機される。
【0103】
測定装置2のCPU204の制御処理に関して、図7aを参照する。CPU204は、情報処理装置3から測定開始信号を受信すると(ステップS21:YES)、前記試料の測定を行う(ステップS22)。測定処理(ステップS22)では、導入部201からフローセル203cへシース液と共に、前記捕捉体と免疫細胞との複合体を含む測定試料が供給され、フローセル203cにおいてシース液に包まれた測定試料の試料流が形成される。形成された試料流に光源203a、203bからのレーザビームが照射され、フローセル203cにビームスポットが形成される。前記免疫細胞がビームスポットを通過すると、透過光及び蛍光が発生する。生じた透過光及び蛍光はカメラ203iによりそれぞれ撮像されて、電気信号に変換される。
【0104】
これらの電気信号は、A/Dコンバータ212によって、デジタル信号に変換され、デジタル信号処理部213によって、信号処理が施される。これにより、フローセル203cを通過した複合体ごとに、透過光画像及び蛍光画像を含む測定データが得られる。測定データはメモリ214に格納される。試料の測定が終了すると、CPU204は、測定処理により生成された測定データを情報処理装置3へ送信し(ステップS23)、処理を終了する。
【0105】
再び、図7bを参照する。情報処理装置3のCPU301は、測定装置2から測定データを受信すると(ステップS13:YES)、ハードディスク304に測定データを格納し、かかる測定データに基づいて解析処理を行う(ステップS14)。続いて、CPU301は、S14で取得した解析結果を表示部320に表示する(ステップS15)。その後、処理は終了する。
【0106】
図8図10を参照し、情報処理装置3のCPU301が測定データに基づいて行う解析処理(図7bのステップS14)の1例についてさらに説明する。図8は、前記免疫細胞を測定して得られた測定データのうち、透過光画像、蛍光画像(CD28)及びそれらの重ね合せ画像を示す。図8aの蛍光画像で示されるように、免疫刺激を与えない場合、共刺激分子CD28は免疫細胞の細胞膜上に一様に分布する傾向を示す。図8bの蛍光画像で示されるように、免疫刺激を与えた場合、共刺激分子CD28は免疫細胞の細胞膜上の一部に局在する傾向を示す。理論に拘泥されることを意図するものではないが、共刺激分子が局在を示す細胞膜部分が、その免疫細胞とは異なる物質との間で、その免疫細胞に形成されていた接触面と考えられる。すなわち、この共刺激分子が局在を示す部分が、この細胞がそれと異なる物質との間で形成された免疫シナプスを示すと考えられる。
【0107】
CPU301は、図7aのステップS22において撮像した全ての細胞の透過光画像及び蛍光画像に基づいて、解析用パラメータを計測する(図7bのステップS14)。解析用パラメータは、限定するものではないが、細胞のサイズ(ピクセル数)、細胞のアスペクト比、細胞における蛍光シグナルを示すエリア(ピクセル数)、前記エリア内の総蛍光シグナル強度(細胞の総蛍光シグナル強度)及びそれらの比が挙げられる。図9は、情報処理装置3のCPU301が図8bで示した透過光画像及び蛍光画像の計測処理(図7bのステップS14)の模式図を示す。得られた測定データは、ハードディスク304に格納される。なお、細胞のサイズ、アスペクト比、蛍光シグナルを示すエリア、及び総蛍光シグナル強度の各用語の意味については、上述のとおりである。
【0108】
図10は、情報処理装置3のCPU301のステップS15における解析処理を示すフローチャートである。CPU301は、ステップS14で計測した解析用パラメータをX軸とY軸にそれぞれ割り当てた2次元ヒストグラム(2Dスキャッタグラム)を作成して、所定の範囲内に存在するドットに対応する細胞の測定データを抽出して解析する。
【0109】
この実施形態において、CPU301は、最初に、X軸に細胞サイズを割り当て、Y軸に細胞のアスペクト比を割り当てた2Dスキャッタグラムを作成し(図11a)、所定の範囲(R1)にある細胞の測定データを抽出する(ステップS51)。範囲(R1)は、細胞サイズ(X軸)において細胞単独の大きさを反映する所定の範囲でゲーティングし、かつアスペクト比(Y軸)において細胞が単独で存在することを反映する所定の範囲でゲーティングする。これにより、細胞より小さい細胞片などの物質や細胞単独よりも大きい細胞の凝集塊に由来するデータが除外される。
【0110】
2Dスキャッタグラムに表示されたドットの1つ1つが個々の細胞の計測値を示す。CPU301は画像中のR1と表示された領域内にある計測値を示す細胞の測定データを抽出する。なお、この実施形態において、2Dスキャッタグラムに表示されたドットには、図7aのステップS22で測定された個々の細胞の測定データがリンクされている。CPU301は、ユーザにより2Dスキャッタグラムに表示されたドットが指定された場合、そのドットに対応する細胞の測定データ(透過光画像及び/又は蛍光画像)をハードディスク304から読み出して、表示部320に表示する。
【0111】
CPU301は、ステップS51で抽出された細胞の測定データについて、X軸に細胞の総蛍光シグナル強度を割り当て、Y軸に蛍光画像のシャープネス(画像の鮮明さ)を割り当てた2Dスキャッタグラムを作成し(図11b)、所定の範囲(R2)にある細胞の測定データをさらに抽出する(ステップS52)。範囲(R2)は、細胞の総蛍光シグナル強度(X軸)において所定量の共刺激分子CD28の発現量を反映する範囲でゲーティングし、シャープネス(Y軸)において所定の画像のシャープネスを反映する範囲でゲーティングする。これにより、所定量の共刺激分子CD28を発現している細胞のデータが抽出され、所定量の共刺激分子CD28を発現していない細胞のデータは除外される。
【0112】
続いて、CPU301は、ステップS52で抽出された細胞の測定データについて、X軸に蛍光シグナルを示すエリアを割り当て、Y軸に細胞のサイズを割り当てた2Dスキャッタグラムを作成し(図11c)、所定の範囲(R4)にあるドットの数を計数する(ステップS53)。範囲(R4)は、蛍光シグナルを示すエリア(X軸)において共刺激分子CD28の局在を反映する所定の範囲でゲーティングし、かつ細胞サイズ(Y軸)において細胞単独の大きさを反映する所定の範囲でゲーティングする。範囲(R4)にあるドットの数を計数することにより、免疫刺激に対して応答性を有する免疫細胞の数が計数される。この実施形態において、範囲(R4)にあるドットに対応する細胞は、免疫シナプスが形成されている傾向があり、その細胞はこの実施形態における免疫刺激に対して応答性を有すると判定される。
【0113】
CPU301は、さらに、図11c全体に示されたドットの数(図11bの範囲(R2)にあるドットの数に対応する)を計数し、範囲(R2)内のドットの数に対する範囲(R4)内のドットの数の割合([範囲(R4)内のドット数]/[範囲(R2)内のドット数])を算出する(ステップS54)。これにより、所定量の共刺激分子CD28を発現する個々の免疫細胞のうち、免疫刺激応答性を有する免疫細胞の割合が算出される。
【0114】
以上の解析処理により得られた各範囲内のドット数や割合についての解析結果が表示部320に表示される。
【0115】
この解析結果は、例えば健常者由来の生物試料について標準化された免疫刺激応答性を有する免疫細胞の割合と比較することで、さらに解析されてよい。このさらなる解析において、例えばその試料の前記割合が標準化された割合よりも高い値である場合、その試料は免疫応答性が高いと判定され得る。別には、この解析結果は、同一の対象由来の従前の生物試料についての免疫刺激応答性の免疫細胞の割合と比較することで、さらに解析されてよい。このさらなる解析において、例えばその試料の前記割合が従前の割合よりも高い値である場合、その対象の免疫応答性が向上したと判定され得る。
【0116】
かくして、1つの実施形態において、免疫細胞と、前記免疫細胞における表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体との複合体を導入する導入部と、前記導入部から供給された前記複合体を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像された画像に基づいて、前記免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定する解析部とを含む、細胞分析装置が提供される。特定の実施形態において、前記解析部は、前記画像に基づいて、前記表面抗原の分布を反映する値を取得し、取得した値を閾値と比較することにより、前記免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定する。他の実施形態において、前記捕捉体が蛍光物質を含み、前記画像が蛍光画像を含み、前記表面抗原の分布を反映する値が、前記蛍光画像に基づいた表面抗原の分布を反映する蛍光シグナルを示すエリアを含み、前記エリアが前記閾値よりも小さい場合に、前記免疫細胞は免疫刺激応答性を有すると判定する、細胞分析装置が提供される。他の実施形態において、前記画像が透過光画像を含み、前記解析部が、前記透過光画像に基づいて前記免疫細胞の大きさを反映した値を取得し、前記免疫細胞の大きさを反映した値と前記表面抗原の分布を反映する値とに基づいて、前記免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定する、細胞分析装置が提供される。
【0117】
以上に示した解析処理は、測定データに基づく解析処理の一例に過ぎず、異なる解析処理を用いることができる。
【0118】
<細胞分析装置の実施形態2>
実施形態1の解析処理のステップS53に代えて、CPU301は、ステップS52で抽出された測定データについて、X軸に細胞の総蛍光シグナル強度を割り当て、Y軸に蛍光シグナルを示すエリアを割り当てた2Dスキャッタグラムを作成し(図11d)、所定の範囲(R3)にある測定データ数を計数してもよい。範囲(R3)は、細胞の総蛍光シグナル強度(X軸)において細胞あたりの共刺激分子CD28の所定の発現量を反映する範囲でゲーティングし、かつ蛍光シグナルを示すエリア(Y軸)において共刺激分子CD28の局在を反映する所定の範囲でゲーティングする。範囲(R3)における測定データを計数することにより、免疫刺激に対して応答性の免疫細胞の数が計数される。この実施形態において、範囲(R3)にあるドットに対応する細胞は、免疫シナプスが形成されている傾向があり、その細胞はこの実施形態における免疫刺激に対して応答性を有すると判定される。
【0119】
この実施形態において、CPU301は、さらに、ステップS54に代えて、図11d全体に示されたドットの数(図11bの範囲(R2)にあるドットの数に対応する)を計数し、範囲(R2)内のドットの数に対する範囲(R3)内のドットの数の割合([範囲(R3)内のドット数]/[範囲(R2)内のドット数])を算出してもよい。これにより、所定量の共刺激分子CD28を発現する個々の免疫細胞のうち、免疫刺激応答性を有する免疫細胞の割合が算出される。
【0120】
<細胞分析装置の実施形態3>
実施形態1の解析処理のステップS53に代えて、CPU301は、ステップS52で抽出された細胞の測定データについて、X軸に蛍光シグナルを示すエリアについての階級値を割り当て、Y軸に度数を割り当てたヒストグラムを作成して、表示部320に表示してもよい。CPU301は、さらにステップS54に代えて、このヒストグラムから、ステップS52で抽出された測定データの、蛍光シグナルを示すエリアの平均値、中央値、最頻値を算出してもよい。得られた平均値、中央値、最頻値を、例えば、健常者由来の生物試料から得られた、免疫細胞において蛍光シグナルを示すエリアの標準化された平均値、中央値、最頻値と比較することで、さらに解析されてよい。このさらなる解析において、例えばその試料の前記最頻値を示す階級値(蛍光シグナルを示すエリア)が、標準化された最頻値を示す階級値(蛍光シグナルを示すエリア)よりも小さい場合、これは共刺激分子CD28が局在していることを示唆し、結果的に、その試料は免疫刺激に対して応答性が高いと判定され得る。
【0121】
実施形態3で示したように、測定データの解析において2Dスキャッタグラムを作成しなくても免疫細胞の免疫応答性を解析できる。しかしながら、実施形態1において説明したように、2Dスキャッタグラムで示されるドットは個々の免疫細胞の測定データをリンクさせることができ、例えば、各ドットを指定してその免疫細胞の透過光画像及び蛍光画像を含む測定データを表示させることできる。したがって、2Dスキャッタグラムによる解析では追加して画像に基づいた詳細な解析を個々の細胞に対して実施し得る点で、好ましい解析処理方法である。
【0122】
<細胞分析装置の実施形態4>
以上の解析処理では、撮像された画像データに基づいた解析を例に示したが、撮像された画像データ以外の測定データからも免疫刺激応答性の免疫細胞を解析することができる。例えば、実施形態1における測定装置2(図4)において、光学ユニット203gと、カメラ203に代えて、ダイクロイックミラー203j、203kと、前方散乱受光部203lと蛍光受光部203mを用いる。光源203aから照射された波長λ1の光は、フローセル203cの内部を通過する試料に照射され、これにより、免疫細胞から波長λ1の前方散乱光が生じる。光源203bから照射された波長λ2の光は、フローセル203cの内部を通過する試料に照射され、これによりPEから波長λ3の蛍光が生じる。なお、実施形態4における試料は実施形態1で用いた複合体である。波長λ1の前方散乱光はダイクロイックミラー203jにより反射されて、前方散乱受光部203lにより受光される。波長λ3の蛍光はダイクロイックミラー203jを透過して、ダイクロイックミラー203kにより反射されて蛍光受光部203kにより受光される。前方散乱受光部203l及び蛍光受光部203mはフォトマルチプライヤである。この例において、図7aのステップS22で得られる光学シグナルは前方散乱光シグナル及び蛍光シグナルであり、図7bのステップS14では解析用パラメータとして「パルス幅(w)」、「パルス面積(A)」及び「パルスの高さ(H)」が得られる。図12を参照しつつ、これらの解析用パラメータについて説明する。
【0123】
図12は、例示として、共刺激分子CD28が細胞膜上に一様に分布している細胞(図12a)及び細胞膜上で局在を示す細胞(図12b)が、蛍光シグナルを検出する領域(図示せず)を矢印方向に通過する間に検出される蛍光シグナルをそれぞれ示す模式図である(図12c及び12d)。
【0124】
本明細書において、図12c及び12dで示すような蛍光強度のパルスにおいて、閾値としたベースラインを超えて蛍光シグナルが得られた時間が「パルス幅(w)」といい、蛍光強度においてパルスのピークを示した場合の蛍光強度を「パルスの高さ(H)」という。「パルス面積(A)」は、ベースラインと蛍光シグナル強度曲線との間の面積をいう。
【0125】
この例において、図12aの細胞と図12bの細胞とで同じ量の共刺激分子CD28が細胞膜上に発現されており、図12cと図12dのパスル面積(A)は等しい値となる。ここで、パルス幅(w)及びパルス高さ(H)は、共刺激分子の分布パターンにより相違する。共刺激分子が細胞膜上に一様に分布している場合に比べて(図12a)、共刺激分子が細胞膜上に局在している場合(図12b)、そのパルス幅(w)は狭くなり、一方で、パルスの高さ(H)は高くなる(図12c及び12d)。
【0126】
図13は、この実施形態において複数の免疫細胞を測定して2Dスキャッタグラムを作成した場合の模式図である。図13aは、X軸にパルスの高さ(H)を割り当て、Y軸にパルス幅(w)を割り当てた2Dスキャッタグラムであり、図13bは、X軸にパルスの高さ(H)を割り当て、Y軸にパルス面積(A)を割り当てた2Dスキャッタグラムである。
【0127】
上記したように、共刺激分子が細胞膜上に一様に分布している場合(図12a)、共刺激分子が細胞膜上で局在している場合と比べて(図12b)、そのパルス幅(w)は広がる傾向を示し、パルスの高さ(H)は低くなる傾向を示す(図12c及び12d)。そのため、図13aで示される2Dスキャッタグラムでは、破線の丸で囲われた領域に入るデータが、共刺激分子が細胞膜上に一様に分布している細胞を反映するデータであり、一方、実線の四角で囲った領域に入るデータが、共刺激分子が細胞膜上で局在している細胞を反映するデータである傾向を示す。図13bで示される2Dスキャッタグラムでは、破線の四角で囲われた領域に入るデータが、共刺激分子が細胞膜上に一様に分布している細胞を反映するデータであり、一方、実線の四角で囲った領域に入るデータが、共刺激分子が細胞膜上で局在している細胞を反映するデータである傾向を示す。
【0128】
かくして、1つの実施形態において、免疫細胞と、前記免疫細胞における表面抗原に結合し且つ光学シグナルを生じうる捕捉体との複合体を導入する導入部と、前記導入部から供給された前記複合体に光を照射し、生じた前記複合体からの光学シグナルを検出する検出部と、検出した光学シグナルに基づいて、前記免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定する解析部とを含む、細胞分析装置が提供される。特定の実施形態において、前記捕捉体が蛍光物質を含み、前記検出部は、前記複合体から生じた蛍光シグナルを検出し、前記解析部が、前記蛍光シグナルに基づいて、前記表面抗原の分布を反映する値を取得し、取得した値を閾値と比較することにより、前記免疫細胞が免疫刺激応答性を有するか否かを判定し、前記表面抗原の分布を反映する値が、前記複合体からの蛍光シグナルのパルス幅、その蛍光パルスの高さ及びパルス面積の少なくとも一つを含む、細胞分析装置が提供される。
【0129】
実施例で示されるように、捕捉体が結合した表面抗原や共刺激分子が細胞膜上で局在を示す細胞は、免疫応答性を示す免疫細胞と判定される。したがって、図13a及び13bにおいて、実線の四角で囲われた領域に入るデータを示す細胞は、免疫応答性を示す細胞であると判定され得る。この実施形態において例示されるように、撮像された画像データに基づいた解析処理だけでなく、上記したような解析処理によっても免疫刺激応答性を有する免疫細胞を測定できることが理解される。
【0130】
なお、ここに示す解析用パラメータ及び解析処理は一例に過ぎず、測定データから異なる解析用パラメータを計測してもよく、また計測された解析用パラメータに対して異なる解析処理が行われてもよい。例えば、パルス面積は、パルスの時間曲線下面積を反映する値であれば近似値であってもよく、時間積分値には限定されない。パルス面積は、パルス幅とピークの高さの積であってもよいし、パルス幅とピークの高さから求めた三角形の面積であってもよい。また、時間積分値を計測する形態において、底辺はベースラインでなくてもよく、適宜設定できる。例えば、ベースラインから所定の閾値を越えた値を底辺としてもよい。
【0131】
以下、具体的な実施例を記載するが、それらは本発明の好ましい実施形態を示すものであり、添付する特許請求の範囲に記載の発明をいかようにも限定するものではない。本明細書に記載の具体的な実施形態、材料、組成物及び方法から容易に認識される均等物、又は変更、改変もしくは変形が本発明の範囲内にあることが意図される。
【実施例
【0132】
実施例1: CD28を指標とする免疫細胞の免疫刺激応答性の測定
(1) クローンT細胞の調製
5×106のCD4陽性細胞(Stemcell Technologies: ST-70026)およびCD8陽性細胞(フナコシ: 0508-100, コスモバイオ: PB08C-1)を、1μg/mLのLEAF(商標) Purified anti-human CD3 Antibody(Biolegend: 317315)、10 ng/mLのRecombinant human IL-2(rhIL-2)(R&D systems: 202-IL-500)、0.2μg/ mL のPhytohemagglutinin-L(PHA)(SIGMA: L4144-5MG)と2%ヒト血清(SIGMA: H4522-100ML)を添加したYssel’s培地(Gemini Bio-Products:400102)に播種し、1×106の末梢血単核球細胞および1×104 のJY細胞と14日間、共培養した。14日後、T細胞を限界希釈法にて0.3、1.0及び3.0 cells/ wellとなるように96 ウェルプレートに播種し、1×104の末梢血単核球細胞とコロニーが形成されるまで培養した。コロニーが形成されたウェルからT細胞を回収し、クローンT細胞を得た。以下、得られたT細胞を「調製クローンT細胞」とも呼ぶ。
【0133】
(2) 抗体の固相化
24ウェルプレートに、抗CD3抗体(BioLegend #300414 Clone:UCHT1)の溶液(0.01 mg/ml)を1ウェルあたり300μl添加して、抗CD3抗体をウェル表面に固相化した。以下、得られたプレートを「抗CD3抗体固相化プレート」とも呼ぶ。
【0134】
(3) 免疫細胞の刺激及び測定
抗CD3抗体固相化プレートに、調製クローンT細胞を1ウェルあたり約5×105 cellsとなるように加えた。そして、抗CD28抗体(BioLegend #302914 Clone:CD28.2)を終濃度0.01 mg/mlとなるようにウェル中の細胞に加えた。そのプレートを遠心分離した後(200 G、30秒)、37℃で30分間インキュベートした。調製クローンT細胞を、ピペッティングによりウェル表面から回収した。回収したT細胞を、1%パラホルムアルデヒド(PFA)を含む固定液を用いて固定化した。固定化したT細胞を、PE標識抗マウスIgG抗体(BioLegend #405307)を用いて免疫染色した。染色したT細胞(5×105 cells/20μl)を、Imaging FCM(ImageStreamX MarkII Imaging Flow Cytometer:Amnis)を用いて測定した。
【0135】
比較のため、T細胞の表面抗原に結合する抗体(抗CD28抗体及び抗CD3抗体)との接触及び異なる物質(プレートのウェル)との接触による免疫刺激を細胞に与えない場合についても検討した。上記(1)で調製したクローンT細胞を、上記の免疫刺激を行わずに、上記の固定液を用いて固定した後、抗CD28抗体を用いて染色した。固定したT細胞を、PE標識抗マウスIgG抗体を用いて2次染色し測定した。
【0136】
T細胞に対して、上記の免疫刺激を与えなかった場合、T細胞においてCD28は細胞膜上に一様に分布した(図14a参照)。上記の免疫刺激を与えた後に、T細胞とウェルとの接触面を解消させた場合、CD28はT細胞の細胞膜上で局在を示した(図14b参照)。このように、上記の免疫刺激を与えた後にT細胞とウェルとの接触面が解消された状態であっても、共刺激分子CD28を指標にすることで、免疫シナプスの検出ができた。
【0137】
(4) データ解析
Imaging FCMを用いて測定して得られた、上記の免疫刺激なしのT細胞を含むサンプルの測定データ(図15a及びb)と、上記の免疫刺激ありのT細胞を含むサンプルの測定データ(図15c及びd)の多重パラメータ解析を行った。
【0138】
詳細な計測処理及び解析処理は、実施形態1において示した。簡単には、Imaging FCMを用いて測定した透過光画像、蛍光画像(CD28)に基づいて画像解析し(図9)、細胞のサイズ(ピクセル数)、細胞のアスペクト比、細胞における蛍光シグナルを示すエリア(ピクセル数)及び前記エリア内の総蛍光シグナル強度(細胞の総蛍光シグナル強度)を計測した。最初に、X軸に細胞サイズを割り当て、Y軸に細胞のアスペクト比を割り当てた2Dスキャッタグラムを作成し、所定の範囲(R1)にあるドットに対応する細胞の測定データを抽出する(図10のステップS51)。次いで、範囲(R1)内の測定データについて、細胞の総蛍光シグナル強度が所定の範囲(R2)にあるドットに対応する測定データをさらに抽出した(図10のステップS52)。範囲(R2)内の測定データについて、R4と表示された領域内(図15b及び15d)にあるドットの数をそれぞれ計数した(図10のステップS53)。また、図15b及び15dのスキャッタグラム上にあるドットの数(範囲(R2)内にあるドットの数)を計数した。そして、範囲(R2)内のドットの数に対する範囲(R4)内のドットの数の割合を、下記の式(1)により算出した(図10のステップS54)。この結果を以下の表1にまとめる。
【0139】
[割合(R4/R2)]={[範囲(R4)内のドット数]/[範囲(R2)内のドット数]}×100 ・・・式(1)
【0140】
【表1】
【0141】
本明細書の実施例によれば、免疫細胞に対して、免疫刺激因子との接触及び異なる物質との間の接触面形成を含む免疫刺激を与えた場合に形成され得る免疫シナプスは、共刺激分子を指標にその検出を行えば、たとえその接触面が維持されていない状態であっても、その免疫細胞の持つ免疫応答性の情報が正確に得られることが分かった。このことは、免疫シナプスが、標的細胞との結合面で免疫細胞に形成される緩やかな結合であることを考慮すれば、驚くべき結果であった。
【0142】
かくして、本願発明によれば、免疫シナプスに基づいて免疫細胞の免疫刺激応答性を測定できるため、従来のサイトカイン産生に基づく免疫細胞の応答性の分析方法よりも、迅速かつ簡便に、免疫細胞の活性化状態を測定できることが理解される。
【0143】
本明細書の実施例において、イメージングフローサイトメーターを用いて免疫細胞の免疫刺激応答性を測定できたことにより、多数の細胞を測定でき、統計的に精度の高い免疫応答性の測定が可能であることが実証された。上記実施例では、イメージングフローサイトメーターを用いて免疫細胞の免疫刺激応答性を測定したが、実施例で用いた測定装置と同様に多数の細胞を測定できるイメージングサイトメーターによっても測定可能であることが理解される。また、上記実施形態4で述べたように、撮像を行わないフローサイトメーターによっても、実施例で用いた測定装置と同様に多数の免疫細胞の免疫刺激応答性を測定できることが理解される。かくして、本願発明によれば、免疫細胞の活性化状態を、多数の細胞で迅速かつ簡便に測定できるため、統計的に精度の高い薬効評価に有用であることが理解される。
【0144】
上記実施例では、イメージングフローサイトメーターを使用したため、各細胞の測定データの解析において、各測定データには個々の細胞の画像データをリンクさせることができる。したがって、測定データに基づいて、所定の解析処理を行って細胞を選抜した後に、さらに、その細胞の画像データを併せて免疫刺激応答性を評価できる。例えば、上記実施例の、免疫シナプスが形成されている傾向の高い細胞を選抜するための解析処理において、免疫刺激ありのサンプルにおいて範囲(R4)に入った細胞が約81%存在した(表1)。ここで、図15dにおいて、範囲(R4)に入った細胞に対応するドットを指定して、その細胞の画像データを表示させ、その画像データを併せて評価することで、より詳細に免疫細胞の免疫刺激に対する応答性を評価できる。このさらなる評価は、イメージングフローサイトメーターと同様、細胞の画像を撮像するイメージングサイトメーターによっても評価可能であることが理解される。
【0145】
本発明に係る測定方法及び細胞分析装置によれば、例えば、免疫刺激因子として免疫刺激抗体を用いた場合には、がん免疫や自己疾患などに関連する対象の体内の免疫細胞の活性化状態を、特異抗原ペプチドを用いた場合には感染症やアレルギー疾患などに関連する対象の体内の免疫細胞の活性化状態を、加えて、他家細胞もしくは他家MHCを用いた場合には移植医療や再生医療に対する対象の免疫応答性を、迅速かつ簡便に評価し得るため有用である。上記したように、解析処理に、個々の細胞の画像データをさらに利用可能なイメージングフローサイトメーター及びイメージングサイトメーターはさらなる利点を有することが理解される。
【0146】
参考例: 免疫細胞における免疫シナプスの形成とサイトカイン産生との間の相関
(1) サイトカイン産生細胞の測定
実施例1と同様にして、プレートの各ウェルに抗CD3抗体を固相化して、抗CD3抗体固相化プレートを作製した。また、実施例1と同様にして、ヒト末梢血からクローンT細胞を調製した。抗CD3抗体固相化プレートに、クローンT細胞を1ウェルあたり約5×105 cellsとなるように加えた。そして、抗CD28抗体(BioLegend #302914 Clone:CD28.2)を終濃度0.01 mg/mlとなるようにウェル中の細胞に加え、37℃で4時間インキュベートした。その後、各ウェルにブレフェルジンAを終濃度10μg/mlとなるように加え、2時間インキュベートした。その後、プレートを氷上に静置し、各ウェル中の細胞を回収した。回収したT細胞を、1%PFAを含む固定液で固定し、次いで、0.5%サポニン及び1%BSAを含むPBS溶液で膜透過処理を行った。処理後の細胞を、Alexa Fluor(登録商標)488標識抗IFN-γ抗体(BioLegend # 502517 Clone:4S.B3)を用いて免疫染色した。染色したT細胞をフローサイトメーター(BD biosciences:Accuri(商標))で測定した。測定データを常法により解析して、測定したT細胞におけるIFN-γ陽性細胞の割合を取得した。
【0147】
(2) 免疫シナプスを形成した細胞の測定
上記(1)で使用したT細胞と同一のウェルから播種したT細胞を用い、CD28を指標として、免疫シナプスを形成した細胞を測定した。測定データを解析して、測定したT細胞における免疫シナプスを形成した細胞の割合を取得した。なお、測定及びデータ解析は、実施例1と同様にして行った。
【0148】
(3) 結果
縦軸をIFN-γ陽性細胞の割合(%)とし、横軸を免疫シナプス形成細胞の割合(%)として、データをプロットした。得られたグラフを図16に示す。図16から分かるように、免疫刺激を受けたクローンT細胞において、免疫シナプスの形成とINF-γ産生との間に相関が認められた(R2=0.8371)。よって、接触面が解消された免疫細胞における免疫シナプスを検出することにより、サイトカイン産生に基づく従来法と同様に、免疫刺激により活性化された免疫細胞を検出できることが示された。
【0149】
実施例2: CD3及びCD40を指標とする免疫細胞の免疫刺激応答性の測定
(1) 免疫細胞の刺激及び測定
実施例1と同様にして、プレートの各ウェルに抗CD3抗体を固相化して、抗CD3抗体固相化プレートを作製した。また、実施例1と同様にして、ヒト末梢血からクローンT細胞を調製した。抗CD3抗体固相化プレートに、調製クローンT細胞を1ウェルあたり約5×105 cellsとなるように加えた。そして、抗CD28抗体(BioLegend #302914 Clone:CD28.2)及びPE標識抗CD40L抗体(BD biosciences # 340477 Clone: 89-76)をそれぞれ終濃度が0.01 mg/ml及び0.01mg/mlとなるようにウェル中の細胞に加えた。そのプレートを遠心分離した後(200 G、60秒)、37℃で30分間インキュベートした。ウェル中の上清みを除去した後、調製クローンT細胞をピペッティングにより分散させ、ウェル表面から回収した。回収したT細胞を、1%PFAを含む固定液を用いて固定化した。固定化したT細胞を、APC標識抗CD3抗体(BioLegend # 300411 Clone: UCHT1)を用いて免疫染色した。なお、このT細胞は、PE標識抗CD40L抗体で免疫刺激されたので、抗CD40L抗体でも免疫染色された状態にある。染色したT細胞(5×105 cells/20μl)を、Imaging FCM(ImageStreamX MarkII Imaging Flow Cytometer:Amnis)を用いて測定した。
【0150】
比較のため、抗CD40L抗体、抗CD28抗体及び抗CD3抗体との接触及びプレートのウェルとの接触による免疫刺激を細胞に与えない場合についても検討した。上記(1)で調製したクローンT細胞を、上記の免疫刺激を行わずに、氷上で上記の固定液を用いて固定した。固定したT細胞を、APC標識抗CD3抗体及びPE標識抗CD40L抗体を用いて免疫染色し、Imaging FCMを用いて測定した。
【0151】
調製クローンT細胞に上記の免疫刺激を与えなかった場合、T細胞においてCD3及びCD40Lはいずれも、細胞膜上に一様に分布した(図17a及びc、図18a及びb、図19a及びb参照)。上記の免疫刺激を与えた後に、T細胞とウェルとの接触面を解消させた場合、CD3及びCD40Lはいずれも、T細胞の細胞膜上で局在を示した(図17b及びd、図18c及びd、図19c及びd参照)。このように、上記の免疫刺激を与えた後にT細胞とウェルとの接触面が解消された状態であっても、T細胞の表面抗原であるCD3又はCD40Lを指標にすることで、免疫シナプスの検出ができた。
【0152】
(2) データ解析
Imaging FCMを用いて測定して得られた、上記の免疫刺激なしのT細胞を含むサンプルの測定データ(図18a及びb)と、上記の免疫刺激ありのT細胞を含むサンプルの測定データ(図18c及びd)の多重パラメータ解析を行った。実施例2における計測処理及び解析処理の一例を、図20に示した。簡単には、Imaging FCMを用いて測定した透過光画像、蛍光画像(CD3及びCD40L)に基づいて画像解析し、細胞のサイズ(ピクセル数)、細胞のアスペクト比、細胞における蛍光シグナルを示すエリア(ピクセル数)及び該エリア内の総蛍光シグナル強度(細胞の総蛍光シグナル強度)を計測した。最初に、X軸に細胞サイズを割り当て、Y軸に細胞のアスペクト比を割り当てた2Dスキャッタグラム(図20a参照)を作成し、所定の範囲(Cells)にあるドットに対応する細胞の測定データを抽出した。次いで、範囲(Cells)内の測定データについて、細胞の総蛍光シグナル強度が所定の範囲(Tcells)にあるドットに対応する測定データをさらに抽出した(図20b参照)。範囲(Tcells)内の測定データについて、IS_CD3及びIS_CD40Lと表示された領域内(図18c及びd、図19c及びd参照)にあるドットの数をそれぞれ計数した。また、図18c及びd、図19c及びdのスキャッタグラム上にあるドットの数(範囲(Tcells)内にあるドットの数)を計数した。そして、範囲(Tcells)内のドットの数に対する範囲(IS_CD3又はIS_CD40L)内のドットの数の割合を、下記の式(2)より算出した。結果を以下の表2及び表3に示した。なおISはImmune Synapseの略語である。
【0153】
[割合(IS形成細胞/Tcells)]={[範囲(IS_CD3又はIS_CD40L)内のドット数]/[範囲(Tcells)内のドット数]}×100 ・・・(2)
【0154】
【表2】
【0155】
【表3】
【0156】
表2及び3に示されるように、免疫刺激抗体による刺激をしたT細胞では、免疫シナプスを形成したT細胞の割合が、免疫刺激をしなかった場合に比べて、明らかに高くなることが示された。よって、CD3又はCD40Lを指標とする免疫シナプスの検出により、免疫刺激抗体による免疫刺激に対する免疫細胞の応答性を測定できることが示された。
【0157】
実施例3: 他家細胞による免疫刺激に応答する免疫細胞の測定
(1) 他家細胞及びクローンT細胞
他家細胞として、所定のドナー由来のiPS細胞(他家iPS細胞)から作製した網膜色素上皮細胞(RPE細胞)を用いた。RPE細胞は、株式会社ヘリオスより提供された。24ウェルプレートにRPE細胞を1ウェルあたり約5×105 cellsとなるように播種し、37℃、5%CO2にて7日間インキュベートした。これにより、ウェル底面にRPE細胞を接着させたプレートを得た。クローンT細胞は、以下の方法で調整した。5×106のCD4陽性細胞(Stemcell Technologies: ST-70026)およびCD8陽性細胞(フナコシ: 0508-100, コスモバイオ: PB08C-1)を、1μg/mLのLEAF(商標) Purified anti-human CD3 Antibody(Biolegend: 317315)、10 ng/mLのRecombinant human IL-2(rhIL-2)(R&D systems: 202-IL-500)、0.2 μg/ mL のPhytohemagglutinin-L (PHA)(SIGMA: L4144-5MG)と2% ヒト血清(SIGMA: H4522-100ML)を添加したYssel’s培地(Gemini Bio-Products:400102)に播種し、1.2×105のRPE細胞と14日間、共培養した。
14日後、T細胞を限界希釈法にて0.3, 1.0および3.0 cells/ wellとなるように96 ウェルプレートに播種し、1×104のRPE細胞とコロニーが形成されるまで培養した。コロニーが形成されたウェルからT細胞を回収し、クローンT細胞を得た。
【0158】
(2) 免疫細胞の刺激及び測定
RPE細胞を播種したプレートに、調製クローンT細胞を1ウェルあたり約5×105 cellsとなるように加えた。そのプレートを遠心分離した後(200 G、120秒)、37℃で30分間インキュベートした。ウェル中の上清みを除去した後、調製クローンT細胞をピペッティングにより分散させ、ウェル表面から回収した。回収したT細胞を、1%PFAを含む固定液を用いて固定化した。固定化したT細胞を、APC標識抗CD3抗体(BioLegend # 300411 Clone: UCHT1)、抗CD28抗体(BioLegend #302914 Clone:CD28.2)、PE標識抗CD40L抗体(BD biosciences # 340477 Clone: 89-76)又はPE標識抗OX40抗体(BioLegend #350003 Clone: Ber-ACT35)を用いて免疫染色した。抗CD28抗体で免疫染色したT細胞は、さらにPE標識抗マウスIgG抗体(BioLegend #405307)を用いて免疫染色した。染色したT細胞(5×105 cells/20μl)を、Imaging FCM(ImageStreamX MarkII Imaging Flow Cytometer:Amnis)を用いて測定した。
【0159】
比較のため、他家細胞との接触による免疫刺激を細胞に与えない場合についても検討した。上記(1)で調製したクローンT細胞を、他家細胞との接触を行わずに、氷上で上記の固定液を用いて固定した。固定したT細胞を、APC標識抗CD3抗体、抗CD28抗体、PE標識抗CD40L抗体又はPE標識抗OX40抗体を用いて免疫染色し、Imaging FCMを用いて測定した。
【0160】
調製クローンT細胞に、他家細胞との接触による免疫刺激を与えなかった場合、T細胞においてCD3、CD28、CD40L及びOX40はいずれも、細胞膜上に一様に分布した(図21a、c、e及びg、図22a及びb、図23a及びb、図24a及びb、図25a及びb参照)。上記の免疫刺激を与えた後に、T細胞と他家細胞との接触面を解消させた場合、CD3、CD28、CD40L及びOX40は、T細胞の細胞膜上で局在を示した(図21b、d、f及びh、図22c及びd、図23c及びd、図24c及びd、図25c及びd参照)。このように、他家細胞との接触による免疫刺激を与えた後に、T細胞と該他家細胞との接触面が解消された状態であっても、T細胞の表面抗原であるCD3、CD28、CD40L又はOX40を指標にすることで、免疫シナプスの検出ができた。
【0161】
(3) データ解析
Imaging FCMを用いて測定して得られた、上記の免疫刺激なしのT細胞を含むサンプルの測定データ(図18a及びb)と、上記の免疫刺激ありのT細胞を含むサンプルの測定データ(図18c及びd)の多重パラメータ解析を行った。計測処理及び解析処理は、実施例2と同様である。簡単には、Imaging FCMを用いて測定した透過光画像、蛍光画像(CD3、CD28、CD40L又はOX40)に基づいて画像解析し、細胞のサイズ(ピクセル数)、細胞のアスペクト比、細胞における蛍光シグナルを示すエリア(ピクセル数)及び該エリア内の総蛍光シグナル強度(細胞の総蛍光シグナル強度)を計測した。最初に、X軸に細胞サイズを割り当て、Y軸に細胞のアスペクト比を割り当てた2Dスキャッタグラムを作成し、所定の範囲(Cells)にあるドットに対応する細胞の測定データを抽出した。次いで、範囲(Cells)内の測定データについて、細胞の総蛍光シグナル強度が所定の範囲(Tcells)にあるドットに対応する測定データをさらに抽出した。範囲(Tcells)内の測定データについて、IS_CD3、IS_CD28、IS_CD40L及びIS_OX40と表示された領域内(図22b及びd、図23b及びd、図24b及びd、図25b及びd参照)にあるドットの数をそれぞれ計数した。また、各スキャッタグラム上にあるドットの数(範囲(Tcells)内にあるドットの数)を計数した。そして、範囲(Tcells)内のドットの数に対する範囲(IS_CD3、IS_CD28、IS_CD40L及びIS_OX40)内のドットの数の割合を、下記の式(3)より算出した。結果を以下の表4~7に示した。
【0162】
[割合(IS形成細胞/Tcells)]={[範囲(IS_CD3、IS_CD28、IS_CD40L又はIS_OX40)内のドット数]/[範囲(Tcells)内のドット数]}×100 ・・・(3)
【0163】
【表4】
【0164】
【表5】
【0165】
【表6】
【0166】
【表7】
【0167】
表4~7に示されるように、他家細胞による免疫刺激をしたT細胞では、免疫シナプスを形成したT細胞の割合が、免疫刺激をしなかった場合に比べて、明らかに高くなることが示された。よって、CD3、CD28、CD40L又はOX40を指標とする免疫シナプスの検出により、他家細胞による免疫刺激に対する免疫細胞の応答性を測定できることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25