(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】ダンプトラックの油圧アクチュエータ制御装置
(51)【国際特許分類】
F04B 49/06 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
F04B49/06 321Z
(21)【出願番号】P 2021554542
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2019043927
(87)【国際公開番号】W WO2021090486
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100174366
【氏名又は名称】相原 史郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴照
(72)【発明者】
【氏名】石原 和典
(72)【発明者】
【氏名】池田 純
(72)【発明者】
【氏名】清水 自由理
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-228874(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064343(WO,A1)
【文献】特開2011-168960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/06
B60P 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより回転駆動され、レギュレータにより容量を調整される可変容量型の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから作動油を供給されて第1の圧力目標値に基づき駆動される熱交換器を冷却する冷却ファンを回転駆動する油圧モータと、
前記油圧ポンプから作動油を供給されて第2の圧力目標値に基づき駆動される荷物を積載する荷台を昇降させるホイストシリンダと、
前記油圧ポンプからの作動油を前記油圧モータまたはホイストシリンダに選択的に供給する選択弁と、
前記第1または第2の圧力目標値になるように前記油圧ポンプのレギュレータ及び前記選択弁を駆動制御する演算制御部と
を備えたダンプトラックの油圧アクチュエータ制御装置において、
前記油圧ポンプから吐出される作動油の圧力をポンプ吐出圧力として検出するポンプ吐出圧力センサと、
前記選択弁を経て前記油圧モータに供給される作動油の圧力をアクチュエータ供給圧力として検出するアクチュエータ供給圧力センサと、
前記ポンプ吐出圧力及び前記アクチュエータ供給圧力に基づき
、前記冷却ファンを正常に作動させることができない前記油圧モータ
の異常の有無または
前記ホイストシリンダを所望の速度で動作できない前記ホイストシリンダの異常の有無を判定する異常判定部と、
前記異常判定部により前記油圧モータまたは前記ホイストシリンダに異常があると判定された場合に、前記レギュレータを駆動して前記油圧ポンプの容量を最小に制御する演算制御部と
を備えたことを特徴とする前記ダンプトラックの油圧アクチュエータ制御装置。
【請求項2】
前記レギュレータ及び前記選択弁が駆動制御されて前記第1及び第2の圧力目標値が達成されているときに発生する前記ポンプ吐出圧力及び前記アクチュエータ供給圧力を、それぞれ圧力判定値として記憶する記憶部をさらに備え、
前記異常判定部は、前記ポンプ吐出圧力センサにより検出されたポンプ吐出圧力及び前記アクチュエータ供給圧力センサにより検出されたアクチュエータ供給圧力と前記各圧力判定値とのそれぞれの比較に基づき、前記ポンプ吐出圧力及び前記アクチュエータ供給圧力が正常な値であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の油圧アクチュエータ制御装置。
【請求項3】
前記異常判定部は、前記油圧アクチュエータ制御装置の異常として、前記油圧アクチュエータ制御装置を構成する各機器の電源失陥、前記演算制御部の故障、前記油圧モータ及びホイストシリンダの故障、前記ホイストシリンダを操作するための操作装置の故障、前記演算制御部と前記油圧ポンプとを接続する信号線の断線、前記演算制御部と前記選択弁とを接続する信号線の断線、前記演算制御部と前記操作装置とを接続する信号線の断線、前記油圧アクチュエータ制御装置の各箇所の油漏れまたは詰まり、前記ポンプ吐出圧力センサまたは前記アクチュエータ供給圧力センサの故障の内、少なくとも何れか一つを判定し、
前記異常判定部により前記油圧
アクチュエータ制御装置に異常があると判定された場合に、オペレータに異常を通知する表示装置をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の油圧アクチュエータ制御装置。
【請求項4】
前記異常判定部は、前記ポンプ吐出圧力及び前記アクチュエータ供給圧力がそれぞれ正常な値であるか否かの判定結果と、前記油圧アクチュエータ制御装置の異常の有無及び異常内容との関係をまとめた異常判定表に基づき、前記油圧アクチュエータ制御装置の異常の有無及び異常内容を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の油圧アクチュエータ制御装置。
【請求項5】
前記油圧ポンプは、前記レギュレータの駆動制御のために入力される制御量の減少に伴って容量を低下させるポジティブコントロール型である
ことを特徴とする請求項1に記載の油圧アクチュエータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンプトラックの油圧アクチュエータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山等で稼働するダンプトラックは、ラジエータやオイルクーラ等の熱交換器を冷却する冷却ファンを油圧モータにより駆動しており、作動油の供給源である油圧ポンプの吐出圧力または吐出流量を調整することにより、油圧モータの回転数を制御する構成を採っている。(油圧モータ回転数は油圧ポンプの吐出流量に比例するため、レギュレータで油圧ポンプ容量を調整することによって油圧モータ回転数を任意に制御することができる。)一方、このダンプトラックは、ホイストシリンダによって荷台を昇降させ、荷降ろしを行うため、ホイストシリンダに作動油を供給する油圧ポンプを備える。ダンプトラックは荷を積み込む積込場と、荷を降ろす荷降ろし場を往復し、荷を運搬している。一般に、積込場と荷降ろし場の間を往復する時間に比べ、ホイストシリンダによる荷台の昇降時間は非常に短く、ホイストシリンダに作動油を供給する油圧ポンプは、大部分の時間使用されないでいる。そのため、ホイストシリンダに作動油を供給する油圧ポンプを、冷却ファンの駆動源にも使用する技術が提案されている。(例えば特許文献1)
【0003】
一般的に吐出圧力や吐出流量は、レギュレータにより油圧ポンプの傾転角を調整して制御される。レギュレータで傾転角を制御して油圧ポンプ容量を調整することによって油圧モータ回転数を任意に制御することができる。
【0004】
ところが、何らかの理由により、例えば制御装置の故障或いは制御装置と油圧ポンプのレギュレータとを接続する信号線の断線等(以下、油圧ポンプのレギュレータ制御系の異常と称する)が発生すると、適切な制御圧力をレギュレータ内のピストンに供給できなくなる。このため油圧ポンプ容量を適切に制御できなくなり、油圧ポンプの吐出圧力や吐出流量を変化させて油圧モータ回転数を適切に制御できなくなる。
【0005】
このような異常が発生してファンの回転数が必要以上に高速回転となってしまう場合には、エネルギー消費量の増加、ファン騒音の増加、ファンや油圧モータ等の油圧機器の寿命の早期減少、故障リスクの増加を招く。また、ファンの回転数が不安定になってしまう場合も、ファンや油圧モータ等の油圧機器に繰返し応力が発生することから、寿命の早期減少や故障リスクの増加を招く。
【0006】
以上のような不具合の対策として、特許文献2には、レギュレータ制御系の異常発生時に油圧ポンプ傾転を油圧回路の圧力差によって制御し、ファンを最大値と最小値の中間の回転数で運転するようにしたファン制御装置が記載されている。詳しくは、作動油の圧力とバネ力のバランスによりレギュレータに供給する圧力を調整する第2圧力設定弁を設け、何らかの理由によりレギュレータ制御系の異常が発生した場合に、第2圧力設定弁の設定圧力に基づいてレギュレータを作動させることにより、ファンの回転数を最大と最小の中間の回転数で運転している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許公開公報2010/0303643
【文献】特開2006-097575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2の技術では、レギュレータ制御系の異常発生時に、ファンの回転数を最大と最小の中間の回転数で運転しているものの、油圧ポンプの吐出圧力や吐出流量の最大値が高い場合は、エネルギー消費量、ファン騒音、ファンや油圧モータ等の油圧機器の寿命の早期減少、故障リスクの何れも高い水準のままである。
【0009】
また、油圧アクチュエータ制御装置に関する異常は、油圧ポンプのレギュレータ制御系の異常だけではない。例えば油圧ポンプと油圧モータとの間に油圧バルブ等の機器が設けられている場合には、これらの機器やこれらの機器の制御系に異常が発生する場合もあり、これとは別に、油圧モータ或いは油圧モータにより駆動されるファン等に異常が発生する場合もある。これらの異常発生時においても、ファンの回転数を適切に制御できないため、上記と同じくエネルギー消費量の増加、ファン騒音の増加、ファンや油圧モータ等の油圧機器の寿命の早期減少、故障リスクの増加を招いてしまう。
【0010】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、レギュレータ制御系の異常発生時のみならずその他の油圧アクチュエータ制御装置各部の異常を判定でき、異常に起因する不具合を未然に防止することができるダンプトラックの油圧アクチュエータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明のダンプトラックの油圧アクチュエータ制御装置は、エンジンにより回転駆動され、レギュレータにより容量を調整される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから作動油を供給されて第1の圧力目標値に基づき駆動される熱交換器を冷却する冷却ファンを回転駆動する油圧モータと、前記油圧ポンプから作動油を供給されて第2の圧力目標値に基づき駆動される荷物を積載する荷台を昇降させるホイストシリンダと、前記油圧ポンプからの作動油を前記油圧モータまたはホイストシリンダに選択的に供給する選択弁と、前記第1または第2の圧力目標値になるように前記油圧ポンプのレギュレータ及び前記選択弁を駆動制御する演算制御部とを備えたダンプトラックの油圧アクチュエータ制御装置において、前記油圧ポンプから吐出される作動油の圧力をポンプ吐出圧力として検出するポンプ吐出圧力センサと、前記選択弁を経て前記油圧モータに供給される作動油の圧力をアクチュエータ供給圧力として検出するアクチュエータ供給圧力センサと、前記ポンプ吐出圧力及び前記アクチュエータ供給圧力に基づき、前記冷却ファンを正常に作動させることができない前記油圧モータの異常の有無または前記ホイストシリンダを所望の速度で動作できない前記ホイストシリンダの異常の有無を判定する異常判定部と、前記異常判定部により前記油圧モータまたは前記ホイストシリンダに異常があると判定された場合に、前記レギュレータを駆動して前記油圧ポンプの容量を最小に制御する演算制御部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のダンプトラックの油圧アクチュエータ制御装置によれば、レギュレータ制御系の異常発生時のみならずその他の油圧アクチュエータ制御装置各部の異常を判定できるので、オペレータに異常を知らせることでオペレータに適切な対応を促し、異常に起因する不具合を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態の油圧アクチュエータ制御装置が適用されたダンプトラックの荷台を運搬位置とした状態を示す側面図である。
【
図2】同じくダンプトラックの荷台を排出位置とした状態を示す側面図である。
【
図3】ダンプトラックの油圧アクチュエータ制御装置を示す油圧回路図である。
【
図4】油圧ポンプのレギュレータに入力されるポンプ制御量とポンプ容量との関係を示したグラフである。
【
図5】油圧モータのモータ供給流量とモータ回転数との関係を示したグラフである。
【
図6】油圧モータのモータ供給流量とモータ供給圧力との関係を示したグラフである。
【
図7】ダンプトラックの油圧ポンプ動作時のファン回転時の圧力とホイストシリンダ動作時の圧力を示したグラフである。
【
図8】選択弁の制御及び油圧ポンプの制御の内容を決定し、異常判定を行い、異常と判定された場合には油圧ポンプの容量を最小に制御する流れを示したフローチャートである。
【
図9】目標ファン回転数に応じたポンプ制御及びバルブ制御の流れを示したフローチャートである。
【
図10】目標ホイストシリンダ操作量に応じたポンプ制御及びバルブ制御の流れを示したフローチャートである。
【
図11】最小ポンプ容量制御の流れを示したフローチャートである。
【
図12】油圧アクチュエータ制御装置の異常判定に用いられる異常判定表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を鉱山等で使用される超大型のダンプトラックの油圧アクチュエータ制御装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の油圧アクチュエータ制御装置が適用されたダンプトラックの荷台を運搬位置とした状態を示す側面図、
図2は同じくダンプトラックの荷台を排出位置とした状態を示す側面図、
図3はダンプトラックの油圧アクチュエータ制御装置を示す油圧回路図である。ダンプトラック1は、鉱山等で採掘された砕石や土砂等(以下、掘削物と称する)の運搬に使用され、以下の説明では、ダンプトラックに搭乗したオペレータを主体として前後、左右、上下方向を表現する。
【0015】
ダンプトラック1の車体フレーム2上には掘削物を積載する荷台9が配設され、荷台9は左右一対のヒンジ10及び左右一対のホイストシリンダ11を介して車体フレーム2に連結されている。各ホイストシリンダ11の伸縮に応じて、ヒンジ10を中心として荷台9が
図1に示す運搬位置と
図2に示す排出位置との間で昇降するようになっている。
【0016】
車体フレーム2上の前部には運転室8が設けられると共に、動力源として原動機であるエンジン12が搭載され、エンジン冷却水を冷却するラジエータ13(
図3に示す)が配設され、ラジエータ13は冷却水路13a,13bを介してエンジン12との間で冷却水を循環している 。エンジン12で発生した熱は、冷却水によりラジエータ13に輸送され、油圧モータ18で回転するファン19により発生した風により大気中に放出される。以下に述べるように、エンジン12は油圧ポンプ16の駆動源としても機能し、油圧ポンプ16から吐出された作動油によりホイストシリンダ11または油圧モータ18が駆動されるようになっている。
【0017】
そして、掘削物が掘削される採掘地点では、運搬位置に切り換えられているダンプトラック1の荷台9上に油圧ショベル等により掘削物が積載される。積載を完了するとダンプトラック1は排土地点まで走行し、荷台9を排出位置に切り換えて掘削物を排出した後、再び掘削地点に戻って掘削物が積載され、以上の動作を繰り返す。
【0018】
本実施形態においては、ホイストシリンダ11及び油圧モータ18を駆動するために、ダンプトラック1には油圧アクチュエータ制御装置15が備えられている。以下、この油圧アクチュエータ制御装置15の構成について
図3に基づき説明する。
【0019】
油圧アクチュエータ制御装置15は、上記したエンジン12、油圧ポンプ16、選択弁17、油圧モータ18、冷却ファン19、エンジン回転数センサ20、作動油タンク21、ポンプ管路22、冷却ファン管路23、作業機管路24、チェック弁25、リリーフ弁26、ポンプ吐出圧力センサ27、モータ供給圧力センサ28、ホイストレバー30、及び制御装置31からなる。
制御装置31は、入力部31a、出力部31b、記憶部31c、演算制御部31d、及び異常判定部31eからなる。
【0020】
油圧ポンプ16は駆動源としてのエンジン12の回転軸12aに接続され、エンジン12と同等の回転数で回転する。エンジン12は、ホイストシリンダ11や油圧ポンプ16の操作状態に応じた回転数で回転する。エンジン12の回転軸12aにはエンジン回転数センサ20が付設され、回転軸12aの回転数(以下、エンジン回転数N1(min-1)と称する)が検出される。
【0021】
油圧ポンプ16の吸入ポートは作動油タンク21と接続され、油圧ポンプ16の吐出ポートはポンプ管路22を介して選択弁17の流入ポートに接続されている。選択弁17の流出ポートは作業機管路24を介してホイストシリンダ11に接続されると共に、冷却ファン管路23を介して油圧モータ18の流入ポートに接続されている。
【0022】
選択弁17は、2つの流出ポートの開口面積を任意に制御する弁駆動体17aを備える。以下の説明では、油圧モータ18側の流出ポートの開口面積A1(mm2)に基づき選択弁17の切換状態を表現する。従って、開口面積A1が最大A1maxのときには、油圧モータ18側の流出ポートが全開、ホイストシリンダ11側の流出ポートが全閉となり、開口面積A1がゼロのときには、上記と逆の開閉状態になる。
【0023】
従って、エンジン12の駆動により油圧ポンプ16は作動油タンク21内の作動油を吸い込んで選択弁17へ吐出し、選択弁17の切換状態に応じて作動油が油圧モータ18側またはホイストシリンダ11側に選択的に供給される。
【0024】
ポンプ管路22には油圧アクチュエータ制御装置15の油圧回路の最大圧力を規定するリリーフ弁26が設けられ、リリーフ弁26の流入ポートがポンプ管路22に接続され、リリーフ弁26の流出ポートが作動油タンク21に接続されている。ポンプ管路22にはポンプ吐出圧力センサ27が接続され、油圧ポンプ16の吐出ポートからの吐出圧力(以下、ポンプ吐出圧力Pp(MPa)と称する)を検出する。冷却ファン管路23にはモータ供給圧力センサ28が接続され、選択弁17の吐出ポートからの吐出圧力、換言すると油圧モータ18への供給圧力(以下、モータ供給圧力Pm(MPa)と称し、本発明のアクチュエータ供給圧力に相当)を検出する。
【0025】
油圧モータ18の回転軸18aには冷却ファン19が接続され、冷却ファン19にはラジエータ13が対向配置されている。油圧モータ18により冷却ファン19が回転駆動され、冷却ファン19が生起した冷却風によりラジエータ13の内部を流通するエンジン冷却水が冷却される。油圧モータ18と作動油タンク21との間には、油圧モータ18に向かう作動油の流れを許し逆向きの流れを阻止するチェック弁25が設けられている。ラジエータ13の冷却水路13bには、エンジン冷却水の温度Twを検出する冷却水温センサ29が付設されている。
【0026】
制御装置31の入力部31aには、エンジン回転数センサ20、ポンプ吐出圧力センサ27、モータ供給圧力センサ28、及び冷却水温センサ29が接続されると共に、信号線30aを介してホイストレバー30が接続されている。また制御装置31の出力部31bには、信号線16bを介して油圧ポンプ16のレギュレータ16aが接続されると共に、信号線17bを介して選択弁17の弁駆動体17aが接続されている。
【0027】
油圧ポンプ16は可変容量型ポンプであり、斜板の傾転角が変化すると押し退け容積(以下、ポンプ容量qp(cc/rev)と称する)が変化する。油圧ポンプ16の斜板はレギュレータ16aによって駆動される。油圧ポンプ16の吐出流量(以下、ポンプ吐出流量Qp(L/min)と称する)は、ポンプ容量qpとエンジン回転数N1を乗じたものとなる。
レギュレータ16aは例えば電磁駆動式のアクチュエータであり、制御装置31の出力部31bから出力される制御量(以下、ポンプ制御量Cp(A)と称する)に応じて斜板を変化させる。ポンプ制御量Cpは、出力部31bにおいて例えばレギュレータ16aを駆動する指令電流の形でレギュレータ16aに加えられる。
【0028】
選択弁17は流入ポートに供給される作動油を流出ポートへ通過させる。弁駆動体17aは制御装置31の出力部31bから出力される指令電流(以下、バルブ制御量Cv(A)と称する)に応じて作動油の供給先を選択的に切り換える。
【0029】
図4は
図3に示す油圧ポンプ16の、レギュレータ16aに入力されるポンプ制御量Cpとポンプ容量qpとの関係を示したグラフである。
ここで、ポンプ制御量Cpが第1ポンプ制御量Cp1以下となる場合、油圧ポンプ16のポンプ容量qpは油圧ポンプ16の最小のポンプ容量qpminとなる。また、ポンプ制御量Cpが第1ポンプ制御量Cp1と第3ポンプ制御量Cp3の間の何れかの値(以下、第2ポンプ制御量Cp2と称する)をとる場合、第2ポンプ制御量Cp2に応じたポンプ容量qpiとなる。また、ポンプ制御量Cpが第3ポンプ制御量Cp3以上となる場合、油圧ポンプ16のポンプ容量qpは油圧ポンプ16の最大のポンプ容量qpmaxとなる。
以上の説明から明らかなように、本実施形態の油圧アクチュエータ制御装置15に適用される油圧ポンプ16は、ポンプ制御量Cpの減少に伴ってポンプ容量qpを低下させる特性のポジティブコントロール型として構成されている。
【0030】
なお、本実施形態の選択弁17は、バルブ制御量Cvの減少に伴って開口面積A1を増加させるノーマルオープン型2位置選択弁であるが、これに代えて逆の特性であるノーマルクローズ型の2位置選択弁を使用してもよい。
【0031】
図5は
図3に示す油圧モータ18の、モータ供給流量Qmとモータ回転数Nmとの関係を示したグラフである。
ここで、モータ供給流量Qmが第1モータ供給流量Qm1となる場合、モータ回転数Nmは第1モータ供給流量Qm1に比例した第1モータ回転数Nm1となる。また、モータ供給流量Qmが第2モータ供給流量Qm2となる場合、モータ回転数Nmは第2モータ供給流量Qm2に比例した第2モータ回転数Nm2となる。また、モータ供給流量Qmが第3モータ供給流量Qm3となる場合、モータ回転数Nmは第3モータ供給流量Qm3に比例した第3モータ回転数Nm3となる。このように、モータ回転数Nmはモータ供給流量Qmに比例する。
【0032】
図6は
図3に示す油圧モータ18の、モータ供給流量Qmとモータ供給圧力Pmとの関係を示したグラフである。
ここで、モータ供給圧力Qmが第1モータ供給流量Qm1となる場合、モータ供給圧力Pmは第1モータ供給流量Qm1の2乗に比例した第1モータ供給圧力Pm1となる。また、モータ供給圧力Qmが第2モータ供給流量Qm2となる場合、モータ供給圧力Pmは第2モータ供給流量Qm2の2乗に比例した第2モータ供給圧力Pm2となる。また、モータ供給圧力Qmが第3モータ供給流量Qm3となる場合、モータ供給圧力Pmは第3モータ供給流量Qm1の2乗に比例した第3モータ供給圧力Pm3となる。このように、モータ供給圧力はモータ供給流量Qmの2乗に比例する。
【0033】
図7は、ファン19を動作させている時の圧力とホイストシリンダ11を動作させている時の油圧ポンプ16の吐出圧力を示したグラフである。
図7において、時刻t0からt1の間はファン19を動作させている状態であり、この時の油圧ポンプ16から吐出される作動油の圧力は、ファン19および油圧モータ18の回転速度に応じた圧力となる。時刻t1からt2の間はホイストシリンダ11を動作させている状態であり、この時の油圧ポンプ16から吐出される作動油の圧力は、ホイストシリンダ11が荷台9を持ち上げるのに必要な圧力となる。なお、ホイストシリンダ11が必要とする圧力は、荷台9に積載されている掘削物の質量によって変化する。また、荷台9および積載されている掘削物の質量が変化しなければ、油圧ポンプ16からホイストシリンダ11へ供給する作動油の量を増減させた場合、動作速度は変化するが動作に必要な圧力は変化しない。これは一般にパスカルの原理として知られている。すなわち、油圧ポンプ16から吐出される作動油の流量を減少させると、動作速度が遅くなるものの、ホイストシリンダ11を動作させることは可能であることが分かる。
【0034】
以上のように、選択弁17を制御して油圧ポンプ16から吐出される作動油を油圧モータ18に供給し、エンジン12の回転数N1に応じて油圧ポンプ16のポンプ容量qpを制御してポンプ吐出圧力Pp及びポンプ吐出流量Qpを制御することで、油圧モータ18のモータ回転数Nm、ひいては冷却ファン19の回転数Nfr(min-1)を制御することができる。また、選択弁17を制御して油圧ポンプ16から吐出される作動油をホイストシリンダ11に供給し、エンジン回転数N1に応じて油圧ポンプ16のポンプ容量qpを制御してポンプ吐出圧力Pp及びポンプ吐出流量Qpを制御することで、ホイストシリンダ11の動作を制御することができる。ところが、油圧ポンプ16がホイストシリンダ11を動作している時に、何らかの理由により、例えば制御装置31の故障或いは制御装置31と油圧ポンプ16のレギュレータ16aとを接続する信号線の断線等、油圧ポンプ16のレギュレータ制御系の異常が発生すると、適切な制御圧力をレギュレータ16a内のピストンに供給できなくなる。このため油圧ポンプ容量qpを適切に制御できなくなり、必然的にホイストシリンダ11への作動油の供給量が変化し、ホイストシリンダ11を所望の速度で動作できなくなる。
このような異常が発生してホイストシリンダ11の動作が必要以上に高速となってしまう場合には、急激な荷重変化による故障リスクの増加、荷の急速な落下に伴う騒音の増加および事故リスクの増加を招く。また、ホイストシリンダ11の動作が遅くなってしまう場合も、ホイスト動作時間の増加により、作業全体の遅れにつながる。
【0035】
特許文献2の技術では、作業機およびステアリング側の油圧回路を遮断できる構造となっていないため、作業機およびステアリング側の油圧回路に故障が発生した場合に、ファンモータを駆動する油圧回路へ故障の影響が表れ、ファンを正常に動作させることができない。また、オペレータに異常の発生を通知する構造となっていないため、オペレータが異常の発生に対して適切な判断(例えばダンプトラックの走行を続けてメンテナンス可能な場所まで走行すべきか、直ちに停車すべきか、等)を下し、また対応を行うことができない。これらの課題についての解決手段は、異常判定部31eの判定結果に応じた異常情報をオペレータに伝達する表示装置32を備えることであるが、その動作については後ほど説明する。
【0036】
次に、制御装置31の演算制御部31dにより実行される異常判定処理及び演算制御部31dが異常を判定した場合の制御について説明する。
図8は
図3に示す実施形態において、演算制御部31dが選択弁17の制御及び油圧ポンプ16の制御の内容を決定し、異常判定部31eが異常判定を行い、異常と判定された場合には油圧ポンプ16の容量qpを最小に制御する流れを示したフローチャートである。なお、油圧アクチュエータ制御装置15が搭載されたダンプトラック1が停止状態から始動された場合、フローチャート内の目標ポンプ容量フラグの初期値はOFF、最小ポンプ容量フラグの初期値はON、作業機ポンプ容量制御フラグの初期値はOFF、油圧ポンプ16の容量qpはレギュレータ16aにより最小のポンプ容量qpminにされている。
【0037】
まずステップ101において、演算制御部31dは各種検出情報及び制御量を取得し、記憶処理を実行する。詳しくは、演算制御部31dはエンジン回転数センサ20により検出されたエンジン回転数N1、ポンプ吐出圧力センサ27により検出されたポンプ吐出圧力Pp、モータ供給圧力センサ28により検出されたモータ供給圧力Pm、冷却水温センサ29により検出された冷却水温度Tw、及びホイストレバー30の出力を、入力部31aから入力して記憶部31cに記憶する。
【0038】
またステップ101では、演算制御部31dはポンプ制御に適用するポンプ制御量Cp、バルブ制御に適用するバルブ制御量Cv、及び目標ファン回転数Nfrを取得し、記憶部31cに記憶する。なお、目標ファン回転数Nfrは、冷却水温度Twと目標ファン回転数Nfrとの関係を規定する図示しない制御マップに基づき算出され、ポンプ制御量Cp及びバルブ制御量Cvの算出処理の内容については後述する。
【0039】
その後はステップ102へ進み、異常判定部31eがホイストシリンダ11が操作中であるか否かを判定し、操作中でないとしてNo(否定)の判定を下したときにはステップ103に進む。ステップ103では、演算制御部31dが目標ファン回転数Nfrに応じた油圧ポンプ16の容量qp及び選択弁17の開口面積A1の制御を行う。この制御の内容は
図9に基づき後述する。
【0040】
続くステップ104では、異常判定部31eが後述する
図12の異常判定表に基づき、ポンプ吐出圧力Pp及びモータ供給圧力Pmの実測値が正常な値であるか否かを判定し、その判定結果から油圧アクチュエータ制御装置15の異常の有無及び異常内容を判定する。この処理の内容は後述する。その後ステップ105で、ステップ104の判定結果に基づき異常判定部31eは油圧アクチュエータ制御装置15が正常か否かを判断する。
【0041】
即ち、ステップ104で異常なしと判定されているときには、異常判定部31eは油圧アクチュエータ制御装置15が正常であると見なしてステップ105でYes(肯定)の判定を下し、当該ルーチンを終了する。また、ステップ104で異常ありと判定されているときには油圧アクチュエータ制御装置15に異常が発生していると見なし、ステップ105でNoの判定を下してステップ110に進む。ステップ110では、制御装置31の出力部31bから表示装置32へファン異常の通知を表示させるよう制御指令を送り、ステップ106へ進む。ここでは演算制御部31dがポンプ容量qpを最小にする制御(以下、最小ポンプ容量制御と称する)を実行し、その後にルーチンを終了する。最小ポンプ容量制御の内容は
図11に基づき後述する。
【0042】
一方、ステップ102でホイストシリンダ11が操作中であるとして異常判定部31eがYesの判定を下したときにはステップ107に進む。ステップ107では、演算制御部31dがホイストレバー30への入力から求めた目標ホイストシリンダ操作量に対応するポンプ容量qp及び選択弁17の開口面積A1の制御を行う。この制御の内容は
図10に基づき後述する。
【0043】
続くステップ108では前記ステップ104と同じく、異常判定部31eは
図12の異常判定表に基づき、ポンプ吐出圧力Pp及びモータ供給圧力Pmの実測値が正常な値であるか否かを判定し、その判定結果から油圧アクチュエータ制御装置15の異常の有無及び異常内容を判定する。その後ステップ109で、ステップ104の判定結果に基づき油圧アクチュエータ制御装置15が正常であるか否かを判断し、Yesのときには当該ルーチンを終了し、Noのときにはステップ111に進む。ステップ111では、制御装置31の出力部31bから表示装置32へホイスト異常の通知を表示させるよう制御指令を送り、ステップ106に進んで演算制御部31dが最小ポンプ容量制御を実行する。
【0044】
次いで、前記した
図8のステップ103で実行される目標ファン回転数Nfrに応じたポンプ制御及びバルブ制御の詳細を説明する。
図9は目標ファン回転数Nfrに応じたポンプ制御及びバルブ制御の流れを示したフローチャートである。
まずステップ201で演算制御部31dが最小ポンプ容量フラグをOFFし、続くステップ202で目標ファン回転数Nfrとエンジン回転数N1に基づき、目標ファン回転数Nfrに応じた油圧ポンプ16の容量qpとなるポンプ制御量Cpを算出し、その後にステップ203へ進む。ステップ203では異常判定部31eが作業機ポンプ容量フラグがONになっているかを判断し、当該フラグがOFFであるとしてNoの判定を下したときにはステップ207へ進む。
【0045】
また、異常判定部31eは作業機ポンプ容量フラグがONであるとしてステップ203でYesの判定を下したときにはステップ204に進み、現在レギュレータ16aに出力しているポンプ制御量Cpが、最小ポンプ容量qpminに対応する第1ポンプ制御量Cp1以下であるか否かを判断する。判定がYesのときにはステップ206に進み、作業機ポンプ容量フラグをOFFにする。また、ステップ204の判定がNoのときにはステップ205に進み、演算制御部31dがポンプ制御量Cpを第1ポンプ制御量Cp1まで低下させてレギュレータ16aに出力し、その後にステップ206に進む。
【0046】
続くステップ207では異常判定部31eは目標ポンプ容量フラグがOFFであるか否かを判断し、Noのときには当該ルーチンを終了する。また、ステップ207の判定がYesのときにはステップ208へ進み、現在選択弁17に出力しているバルブ制御量Cvが、最大の開口面積A1maxに対応する第1バルブ制御量Cv1以下であるか否かを判断する。ステップ208の判定がYesのときにはステップ210に進む。また、ステップ208の判定がNoのときにはステップ209に進み、バルブ制御量Cvを所定の変化率で第1バルブ制御量Cv1まで低下させて選択弁17に出力し、その後にステップ210に進む。
【0047】
ステップ210では、異常判定部31eは現在レギュレータ16aに出力しているポンプ制御量Cpが、目標ファン回転数Nfrに応じた油圧ポンプ16の容量qpとなる値であるか否かを判断する。ステップ210の判定がYesのときにはステップ212に進み、目標ポンプ容量フラグをONにした後にルーチンを終了する。また、ステップ210の判定がNoのときにはステップ211に進み、前記ステップ205の処理により第1ポンプ制御量Cp1まで低下させたポンプ制御量Cpを、所定の変化率で目標ファン回転数Nfrに応じた油圧ポンプ16の容量qpとなる値まで増加させてレギュレータ16aに出力し、その後にステップ212に進む。
【0048】
次いで、前記した
図8のステップ107で実行される目標ホイストシリンダ操作量に応じたポンプ制御及びバルブ制御の詳細を説明する。
図10は目標ホイストシリンダ操作量に応じたポンプ制御及びバルブ制御の流れを示したフローチャートである。
まず、ステップ301で目標ポンプ容量フラグと最小ポンプ容量フラグをOFFにし、作業機ポンプ容量フラグをONにする。続くステップ302では、ホイストレバー30の出力とエンジン回転数N1に基づき、目標ホイストシリンダ操作量に応じた油圧ポンプ16の容量qpとなるポンプ制御量Cpを算出し、その後にステップ303へ進む。
【0049】
ステップ303では異常判定部31eが現在選択弁17に出力しているバルブ制御量Cvが、ホイストシリンダ11側の開口面積が最大(ファン側の開口面積A1=ゼロ)となる第3バルブ制御量Cv3以上であるか否かを判断する。ステップ303の判定がYesのときにはステップ305に進み、前記ステップ302で算出したポンプ制御量Cpを出力した後に当該ルーチンを終了する。また、ステップ303の判定がNoのときにはステップ304に進み、バルブ制御量Cvを所定の変化率で第3バルブ制御量Cv3まで増加させて選択弁17に出力し、その後にステップ305に進む。
【0050】
次いで、前記した
図8のステップ106で実行される最小ポンプ容量制御の詳細を説明する。
図11は最小ポンプ容量制御の流れを示したフローチャートである。
まず、ステップ401で目標ポンプ容量フラグ及び作業機ポンプ容量フラグをOFFにする。続くステップ402では、最小ポンプ容量制御時のポンプ制御量Cpとして予め設定された第1ポンプ制御量Cp1を記憶部31cから読み込み、ステップ403に進む。
ステップ403では、現在レギュレータ16aに出力しているポンプ制御量Cpが、第1ポンプ制御量Cp1以下であるか否かを判断し、判定がYesのときにはステップ405に進み、最小ポンプ容量フラグをONにした後に当該ルーチンを終了する。
【0051】
また、ステップ403の判定がNoのときにはステップ404に進み、ポンプ制御量Cpを所定の変化率で第1ポンプ制御量Cp1まで低下させてレギュレータ16aに出力し、その後にステップ405に進む。
【0052】
次に、以上の
図8~11のフローチャートにより実行される油圧アクチュエータ制御装置15の作動状況を説明する。
全体的な制御は
図8のルーチンに従って実行され、ステップ102でホイストシリンダ11が操作中でない場合には、ステップ103から
図9のルーチンに移行する。そして、ステップ210,211の処理により目標ファン回転数Nfrに応じてポンプ容量qpが制御され、ステップ208,209の処理により目標ファン回転数Nfrに応じて選択弁17の開口面積A1が制御される。従って、油圧ポンプ16から所期の作動油が吐出されて選択弁17の切換に応じて冷却ファン管路23側に案内され、作動油の供給を受けた油圧モータ18により冷却ファン19が回転駆動される。これにより冷却ファン19が目標ファン回転数Nfrで回転駆動されて冷却風を生起し、ラジエータ13の内部を流通するエンジン冷却水が冷却される。
【0053】
また、
図8のステップ102でホイストシリンダ11が操作中の場合には、ステップ107から
図10のルーチンに移行する。そして、ステップ302,305の処理により目標ホイストシリンダ操作量に応じてポンプ容量qpが制御され、ステップ303,304の処理により目標ホイストシリンダ操作量に応じて選択弁17の開口面積A1が制御される。従って、油圧ポンプ16から所期の作動油が吐出されて選択弁17の切換に応じて作業機管路24側に案内され、作動油の供給を受けたホイストシリンダ11によりホイストシリンダ11が駆動されて荷台9が昇降する。
【0054】
なお、ホイストシリンダ11の操作終了により
図8のステップ107からステップ103に切り換えられたときには、まず、
図9のステップ204,205の処理によりポンプ容量qpが最小ポンプ容量qp1に抑制される。その後にステップ208,209の処理により、開口面積A1の増加により選択弁17がホイストシリンダ11側からファン19側へと切り換えられ、これと並行してステップ210,211の処理により、ポンプ容量qpが目標ファン回転数Nfrに対応する値へと調整される。
【0055】
また、ホイストシリンダ11の操作開始により
図8のステップ103からステップ107に切り換えられたときには、
図10のステップ303,304の処理により、開口面積A1の低下により選択弁17がファン19側からホイストシリンダ11側へと徐々に切り換えられる。以上の処理は、油圧アクチュエータ制御装置15の作動状態の急変を防止するための対策である。
【0056】
一方、
図8のステップ104またはステップ106で異常判定部31eが油圧アクチュエータ制御装置15に異常発生と判定した場合には、ステップ106から
図11のルーチンに移行する。そして、ステップ402~404の処理により、ポンプ容量qpが最小ポンプ容量qpminへと徐々に低下し、これにより油圧ポンプ16によるポンプ吐出圧力Pp及びポンプ吐出流量Qpが低下する。
【0057】
次いで、
図8のステップ104,108で実行される油圧アクチュエータ制御装置15の状態判定について説明する。
図12は油圧アクチュエータ制御装置15の異常判定に用いられる異常判定表である。
図12に示す異常判定表は、異常判定部31eが油圧アクチュエータ制御装置15の状態を判定するために用いられ、予め制御装置31の記憶部31cに記憶されている。この異常判定表は、冷却ファン19の作動時(#01~06)とホイストシリンダ11の作動時(#07~09)とのそれぞれの状況において、ポンプ吐出圧力センサ27の出力、モータ供給圧力センサ28の出力、各出力に基づき想定される状態、オペレータへの警告表示、及びポンプ制御の実行状況の関係をまとめたものである。
【0058】
ポンプ吐出圧力センサ27の出力及びモータ供給圧力センサ28の出力は、予め設定されたポンプ吐出圧力判定値及びモータ供給圧力判定値とそれぞれ比較され、比較結果に基づき油圧アクチュエータ制御装置15の状態が想定される。ポンプ吐出圧力判定値及びモータ供給圧力判定値は、油圧アクチュエータ制御装置15が正常に作動しているとき(目標ファン回転数Nfrや目標ホイストシリンダ操作量が達成されているとき)に発生するはずのポンプ吐出圧力Pp及びモータ供給圧力Pmとしてそれぞれ設定された閾値である。異常判定表では、これらの圧力判定値とポンプ吐出圧力Pp及びモータ供給圧力Pmの実測値との比較結果に基づき、実測値が圧力判定値を中心とする所定範囲内(正常)か、或いは所定範囲から増加側や低下側に乖離している(異常)かが判定される。無論、これらの圧力判定値も異常判定表と共に制御装置31の記憶部31cに記憶されている。
【0059】
なお、ポンプ吐出圧力判定値及びモータ供給圧力判定値は、油圧アクチュエータ制御装置15の作動状況に対応してそれぞれ複数設定されている。即ち、冷却ファン19の作動時には、目標ファン回転数Nfrの増減に応じてポンプ吐出圧力Ppやモータ供給圧力Pmが変動し、ホイストシリンダ11の作動時には、目標ホイストシリンダ操作量の増減に応じてポンプ吐出圧力Ppが変動すると共に、モータ供給圧力Pmが後述するゼロ判定値以下まで低下する。そこで、目標ファン回転数Nfrや目標ホイストシリンダ操作量に対応して複数の圧力判定値が予め設定され、それらの中から現在の油圧アクチュエータ制御装置15の作動状況に対応する圧力判定値が選択されて判定処理に適用される。
【0060】
#01~06は冷却ファン19の作動時を想定しており、このときには目標ファン回転数Nfrに応じて油圧ポンプ16の容量qp及び選択弁17の開口面積A1が制御され、油圧ポンプ16から作動油を供給された油圧モータ18により冷却ファン19が回転駆動されている。そして、油圧アクチュエータ制御装置15が正常に作動している場合、ポンプ吐出圧力センサ27及びモータ供給圧力センサ28の設置箇所では、前記した圧力判定値を中心とする所定範囲内にある圧力が各センサ27,28により検出される。
【0061】
異常判定表に示すように#01では、ポンプ吐出圧力Ppの実測値がポンプ吐出圧力判定値を中心とする所定範囲内にあり、モータ供給圧力Pmの実測値がモータ供給圧力判定値を中心とする所定範囲内にある。従って、油圧ポンプ16から所期の作動油が吐出されて選択弁17の切換に応じて冷却ファン管路23側に案内され、作動油の供給により油圧モータ18が冷却ファン19を目標ファン回転数Nfrで回転駆動しており、油圧アクチュエータ制御装置15が正常に作動していると見なせる。従って、この#01の場合には
図8のステップ105でYesの判定が下され、ステップ110によるファン異常の通知は実行されない。また、続くステップ106による異常への対処制御も実行されず、通常の制御が継続される。
【0062】
#02では、ポンプ吐出圧力Ppの実測値はポンプ吐出圧力判定値を中心とする所定範囲内にあるものの、モータ供給圧力Pmの実測値がモータ供給圧力判定値から増加側または低下側に乖離している。その要因としては、例えばモータ供給圧力センサ28の故障による誤検出等が推測できる。
【0063】
#03では、ポンプ吐出圧力Ppの実測値がポンプ吐出圧力判定値から増加側または低下側に乖離し、モータ供給圧力Pmの実測値はモータ供給圧力判定値を中心とする所定範囲内にある。その要因としては、例えばポンプ吐出圧力センサ27の故障による誤検出等が推測できる。
【0064】
#04では、ポンプ吐出圧力Pp及びモータ供給圧力Pmの何れの実測値も対応する圧力判定値から低下側に乖離している。その要因としては、例えば油圧アクチュエータ制御装置15の各機器に正常に電源が供給されていない状況(以下、単に電源失陥と称する)、制御装置31の故障、油圧ポンプ16や選択弁17の故障、制御装置31の出力部31bと油圧ポンプ16のレギュレータ16aとを接続する信号線16bの断線、制御装置31の出力部31bと選択弁17の弁駆動体17aとを接続する信号線17bの断線、油圧アクチュエータ制御装置15の各箇所のホースや配管からの油漏れ等が推測できる。
【0065】
#05では、ポンプ吐出圧力Pp及びモータ供給圧力Pmの何れの実測値も対応する圧力判定値から増加側に乖離している。その要因としては、例えば電源失陥、制御装置31の故障、油圧ポンプ16や選択弁17の故障、制御装置31の出力部31bと油圧ポンプ16のレギュレータ16aとを接続する信号線16bの断線、制御装置31の出力部31bと選択弁17の弁駆動体17aとを接続する信号線17bの断線、油圧アクチュエータ制御装置15の各箇所のホースや配管の詰まり、何らかの要因により冷却ファン19に抵抗が作用したときの回転妨害等が推測できる。
【0066】
#06では、ポンプ吐出圧力Pp及びモータ供給圧力Pmの実測値が上記#01~05以外の検出状況となっている。その要因としては、例えばポンプ吐出圧力センサ27またはモータ供給圧力センサ28の何れかの故障による誤検出等が推測できる。
そして、以上の#02~06の場合には、
図8のステップ105でNoの判定が下され、ステップ110でファン異常が通知されると共に、通常の制御に代えて対処制御として
図11の最小ポンプ容量制御が実行され、ポンプ容量qpが最小ポンプ容量qpminに制御される。そして、ホイストシリンダ11の操作が開始されると、最小ポンプ容量制御を終了して通常の制御に戻る。
【0067】
一方、#07~09はホイストシリンダ11の作動時を想定しており、このときには目標ホイストシリンダ操作量に応じて油圧ポンプ16の容量qp及び選択弁17の開口面積A1が制御され、油圧ポンプ16から作動油を供給されたホイストシリンダ11により荷台9が昇降されている。この場合においても、油圧アクチュエータ制御装置15が正常に作動しているとすれば、ポンプ吐出圧力センサ27の設置箇所ではポンプ吐出圧力判定値と一致する圧力が検出され、モータ供給圧力センサ28の設置箇所ではゼロ付近まで圧力が低下する。
【0068】
異常判定表に示すように#07では、ポンプ吐出圧力Ppの実測値がポンプ吐出圧力判定値を中心とする所定範囲内にあり、モータ供給圧力Pmの実測値が、モータ供給圧力判定値とは別に、閾値としてゼロ付近の正側に設定されたゼロ判定値(<モータ供給圧力判定値)未満になっている。作動油が供給されない状態でも、油圧回路の油圧は内部に存在する作動油により完全にゼロまでは低下しない。この点を鑑みてゼロ判定値が設定されており、ゼロ判定値以下の油圧が検出された場合には、油圧モータ18側に作動油が供給されていないものと推測できる。
【0069】
このため、油圧ポンプ16から所期の作動油が吐出されて選択弁17の切換に応じて作業機管路24側に案内され、作動油の供給によりホイストシリンダ11が駆動されており、油圧アクチュエータ制御装置15が正常に作動していると見なせる。従って、この#07の場合には
図8のステップ109でYesの判定が下され、ステップ110によるファン異常の通知は実行されず、続くステップ106による異常への対処制御も実行されない。
【0070】
#08では、ポンプ吐出圧力Ppの実測値はポンプ吐出圧力判定値を中心とする所定範囲内にあるものの、モータ供給圧力Pmの実測値がゼロ判定値以上になっている。その要因としては、例えばモータ供給圧力センサ28の故障による誤検出等が推測できる。
【0071】
#09では、ポンプ吐出圧力Pp及びモータ供給圧力Pmの実測値が上記#07,08以外の検出状況となり、その要因としては、例えばポンプ吐出圧力センサ27またはモータ供給圧力センサ28の何れかの故障による誤検出、電源失陥、制御装置31の故障、ホイストシリンダ11の故障、油圧ポンプ16や選択弁17の故障、ホイストレバー30の故障、制御装置31の出力部31bと選択弁17の弁駆動体17aとを接続する信号線17bの断線、制御装置31の入力部31aとホイストレバー30とを接続する信号線30aの断線、或いは油圧アクチュエータ制御装置15の各箇所のホースや配管からの油漏れ等が推測できる。
【0072】
そして、以上の#08,09の場合には、
図8のステップ109でNoの判定が下され、ステップ110でファン異常が通知されると共に、
図11の最小ポンプ容量制御が実行される。そして、ホイストシリンダ11の操作が中止されてファン動作が開始されると、通常の制御に戻る。
【0073】
以上のように本実施形態のダンプトラック1の油圧アクチュエータ制御装置15によれば、油圧ポンプ16のレギュレータ制御系の異常のみならず、油圧アクチュエータ制御装置15を構成する油圧回路全体の異常(即ち、上記した#02~06及び#07,08で列挙した全ての異常)を適切に判定することができる。そして、ファンまたはホイストの異常と判定した場合には、最小ポンプ容量制御の実行により油圧ポンプ16の容量qpを最小ポンプ容量qpminに制御するため、特許文献2の技術に比較して異常に起因する不具合をより確実に防止することができる。
即ち、ファンの回転数を最大と最小の中間の回転数で運転する特許文献2の技術では十分にファン回転数を抑制できないため、特に油圧ポンプの吐出圧力や吐出流量の最大値が高い場合には、異常に起因する不具合を防止できない。これに対して本実施形態ではポンプ容量qpを最小ポンプ容量qpminに制御するため、十分にファン回転数Nfrを抑制することができる。従って、油圧ポンプ16を駆動するエンジン12の負荷の低減によりエネルギー消費を抑制でき、ファン回転数Nfrの抑制により騒音を低減でき、さらに冷却ファン19や油圧モータ18等の油圧機器の消耗や故障リスクを抑制することができる。
【0074】
また、ファン異常判定と判定した場合にはファン異常である旨を表示装置32を通してオペレータへ通知し、ホイスト異常判定と判定した場合にはホイスト異常である旨を表示装置32を通してオペレータへ通知する。そのため、例えばファン異常判定の場合にはダンプトラックを直ちに停車させたり、例えばホイスト異常の場合にはホイスト動作を中断または完了させた後、速やかにメンテナンスを行うエリアまで走行して戻るなど、異常箇所に応じた対応の判断をオペレータが下すことができる。
また、選択弁17によりファン19またはホイストシリンダ11のいずれか一方だけを動作させることができる。そのため、仮にファン19およびファン19に連なる油圧回路、またはホイストシリンダ11およびホイストシリンダ11に連なる油圧回路のいずれかに異常が発生した場合でも、正常な他方の油圧回路を動作させる場合に油圧ポンプ16容量を最大にしたとしても、一方の異常箇所へ作動油が供給されることは無いため、正常な他方の動作を妨げることが無い。
【0075】
ところで、例えば電源失陥、制御装置31の故障、或いは制御装置31と油圧ポンプ16とを接続する信号線16bの断線等が発生した場合には、制御装置31から油圧ポンプ16にポンプ制御量Cpが出力されなくなる(Cp=ゼロ)可能性があり、その場合には積極的な制御によりポンプ容量qpを最小ポンプ容量qpminに制御できなくなる。しかし、本実施形態の油圧ポンプ16は、ポンプ制御量Cpの減少に伴ってポンプ容量qpを低下させるポジティブコントロール型であるため、ポンプ制御量Cpがゼロになると、自ずとポンプ容量qpが最小ポンプ容量qpminまで低下する。従って、万一上記のような状況に陥った場合であっても、異常に起因する不具合を確実に防止することができる。
但し、本発明の油圧ポンプ16はポジティブコントロール型に限るものではなく、これに代えてネガティブコントロール型の油圧ポンプを使用してもよい。
【0076】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば本発明の熱交換器を、エンジン冷却水を冷却するラジエータ13としたが、これに限るものではなく、例えばエンジンオイルを冷却するオイルクーラとしてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 ダンプトラック
11 ホイストシリンダ
12 エンジン
15 油圧アクチュエータ制御装置
16 油圧ポンプ
16a レギュレータ
16b,17b,30a 信号線
17 選択弁
18 油圧モータ
27 ポンプ吐出圧力センサ
28 モータ供給圧力センサ
30 ホイストレバー
31 制御装置
31c 記憶部
31d 演算制御部
31e 異常判定部