(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】複合シート及びその製造方法、並びに、積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20221027BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20221027BHJP
H01L 23/40 20060101ALI20221027BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H01L23/40 A
H05K1/03 630J
(21)【出願番号】P 2022549211
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035424
(87)【国際公開番号】W WO2022071236
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2020163279
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】南方 仁孝
(72)【発明者】
【氏名】和久田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】金子 政秀
(72)【発明者】
【氏名】坂口 真也
(72)【発明者】
【氏名】山口 智也
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181606(WO,A1)
【文献】特開2019-145744(JP,A)
【文献】国際公開第2017/155110(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/196496(WO,A1)
【文献】特公平5-82760(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/373
H01L 23/36
H01L 23/40
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが2mm未満である多孔質の窒化物焼結体と、
前記窒化物焼結体の気孔に充填されている樹脂と、を含み、
最大高さ粗さRzが20μm未満である主面を有する、複合シート。
【請求項2】
前記気孔における前記樹脂の充填率が85体積%以上である、請求項1に記載の複合シート。
【請求項3】
前記窒化物焼結体が窒化ホウ素焼結体を含む、請求項1又は2に記載の複合シート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の複合シートと金属シートとが積層されている積層体。
【請求項5】
厚みが2mm未満である多孔質の窒化物焼結体の気孔に樹脂組成物を含浸する含浸工程と、
前記窒化物焼結体の主面に付着する前記樹脂組成物を平滑化して、前記主面の一部が露出した樹脂含浸体を得る平滑化工程と、
前記樹脂含浸体を加熱して前記気孔に含浸した前記樹脂組成物を硬化又は半硬化して
、最大高さ粗さRzが20μm未満である主面を有する複合シートを得る硬化工程と、を有する、複合シートの製造方法。
【請求項6】
前記平滑化工程では、均し部材、研磨部材、研磨装置、熱水、前記樹脂組成物と相溶する溶剤、及び、熱風からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いて、前記窒化物焼結体の前記主面に付着する前記樹脂組成物を平滑化する、請求項5に記載の複合シートの製造方法。
【請求項7】
前記硬化工程で得られる前記複合シートの樹脂の充填率が85体積%以上である、請求項5
又は6に記載の複合シートの製造方法。
【請求項8】
前記窒化物焼結体が窒化ホウ素焼結体を含む、請求項5~
7のいずれか一項に記載の複合シートの製造方法。
【請求項9】
請求項5~
8のいずれか一項に記載の製造方法で得られた前記複合シートと金属シートとを積層し、加熱及び加圧する積層工程を有する、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合シート及びその製造方法、並びに、積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱することが求められる。このような要請から、従来、電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層の高熱伝導化を図ったり、電子部品又はプリント配線板を、電気絶縁性を有する熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付けたりすることが行われてきた。このような絶縁層及び熱インターフェース材には、放熱部材として、樹脂と窒化ホウ素等のセラミックスとで構成される複合体が用いられる。
【0003】
このような複合体として、多孔質のセラミックス焼結体(例えば、窒化ホウ素焼結体)に樹脂を含浸させた複合体が検討されている(例えば、特許文献1参照)。また、回路基板と樹脂含浸窒化ホウ素焼結体とを有する積層体において、窒化ホウ素焼結体を構成する一次粒子と回路基板とを直接接触させて、積層体の熱抵抗を低減し、放熱性を改善することも検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/196496号
【文献】特開2016-103611号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の半導体装置等における回路の高集積化に伴って、各部品は小型化とともに放熱特性に優れることが求められる。放熱部材が十分に放熱性能を発揮するためには、他部材との密着性を高めて、熱抵抗を低減する必要があると考えられる。
【0006】
本開示は、他部材との密着性に優れ、熱抵抗を低減することが可能な複合シート及びその製造方法を提供する。また、本開示は、そのような複合シートを用いることによって積層方向における熱抵抗を低減することが可能な積層体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一つの側面において、厚みが2mm未満である多孔質の窒化物焼結体と、窒化物焼結体の気孔に充填されている樹脂と、を含み、最大高さ粗さRzが20μm未満である主面を有する、複合シートを提供する。このような複合シートは、主面における最大高さ粗さRzが小さいことから、他部材と接続したときに隙間の発生が抑制され、十分に窒化物焼結体と他部材とを密着することができる。したがって、上記複合シートは、小型化して他部材との接触面積が小さくなっても、接触界面における熱抵抗を低減することができる。
【0008】
上記窒化物焼結体の気孔における樹脂の充填率が85体積%以上であってもよい。このように高い充填率を有することによって、加熱及び加圧して他部材と接着する際の変形量を小さくすることができる。このため、寸法安定性を十分に高くすることができる。また、気孔に充填される樹脂が半硬化物である場合、樹脂の充填率が十分に高いことから、加熱及び加圧して他部材と接着すると、複合シートの内部から樹脂成分が十分にしみ出す。このようにしみ出だした樹脂成分が密着性の向上に寄与し、熱抵抗を一層低減することができる。
【0009】
上記窒化物焼結体は窒化ホウ素焼結体を含んでもよい。窒化ホウ素は、高い熱伝導性及び絶縁性等を有している。このため、窒化ホウ素焼結体を備える複合シートは半導体装置等の部品として好適に用いることができる。
【0010】
本開示は、一つの側面において、上述の複合シートと金属シートとが積層されている積層体を提供する。この積層体は、上述の複合シートを備えることから、複合シートと金属シートとの密着性に優れる。したがって、この積層体は熱抵抗を低減することができる。
【0011】
本開示は、一つの側面において、厚みが2mm未満である多孔質の窒化物焼結体の気孔に樹脂組成物を含浸する含浸工程と、窒化物焼結体の主面に付着する樹脂組成物を平滑化して、主面の一部が露出した樹脂含浸体を得る平滑化工程と、樹脂含浸体を加熱して気孔に含浸した樹脂組成物を硬化又は半硬化して複合シートを得る硬化工程と、を有する、複合シートの製造方法を提供する。
【0012】
上記製造方法では、厚みが2mm未満である多孔質の窒化物焼結体の気孔に樹脂組成物を含浸していることから、窒化物焼結体の気孔に樹脂が十分に充填した複合シートを得ることができる。そして、窒化物焼結体の主面に付着する樹脂組成物を平滑化して、主面の一部が露出していることから、十分に窒化物焼結体と他部材とを密着することができる。したがって、上記製造方法で得られる複合シートは、小型化して他部材との接触面積が小さくなっても、接触界面における熱抵抗を低減することができる。
【0013】
上記平滑化工程では、均し部材、研磨部材、研磨装置、熱水、樹脂組成物と相溶する溶剤、及び、熱風からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いて、窒化物焼結体の主面に付着する樹脂組成物を平滑化してよい。これによって、窒化物焼結体の主面を十分に露出させて平滑な主面を形成することができる。したがって、窒化物焼結体と他部材とを密着性を一層向上し、熱抵抗を一層低減することができる。
【0014】
上記硬化工程では、最大高さ粗さRzが20μm未満である主面を有する複合シートを得てもよい。このような複合シートは、主面における最大高さ粗さRzが小さいことから、他部材と接続したときに隙間の発生を抑制し、十分に窒化物焼結体と他部材とを密着することができる。
【0015】
上記硬化工程で得られる複合シートの樹脂の充填率は85体積%以上であってよい。このように高い充填率を有することによって、加熱及び加圧して他部材と接着する際の変形量を小さくすることができる。このため、寸法安定性を十分に高くすることができる。また、気孔に充填される樹脂が半硬化物である場合、樹脂の充填率が十分に高いことから、加熱及び加圧して他部材と接着すると、複合シートの内部から樹脂成分が十分にしみ出す。このようにしみ出だした樹脂成分が接着性の向上に寄与し、熱抵抗を一層低減することができる。
【0016】
上記窒化物焼結体は窒化ホウ素焼結体を含んでもよい。窒化ホウ素は、高い熱伝導性及び絶縁性等を有している。このため、窒化ホウ素焼結体を備える複合シートは半導体装置等の部品として好適に用いることができる。
【0017】
本開示は、一つの側面において、上述の製造方法で得られた複合シートと金属シートとを積層し、加熱及び加圧する積層工程を有する、積層体の製造方法を提供する。このような製造方法で得られる積層体は、上述の複合シートを用いることから、複合シートと金属シートとの密着性に優れる。したがって、この積層体は積層方向における熱抵抗を低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、他部材との密着性に優れ、熱抵抗を低減することが可能な複合シート及びその製造方法を提供することができる。また、本開示によれば、そのような複合シートを用いることによって積層方向における熱抵抗を低減することが可能な積層体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る複合シートの斜視図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る積層体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、場合により図面を参照して、本開示の幾つかの実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0021】
図1は、一実施形態に係る複合シート10の斜視図である。複合シート10は、厚みtが2mm未満である多孔質の窒化物焼結体20と、窒化物焼結体20の気孔に充填されている樹脂と、を含む。窒化物焼結体20は、窒化物の一次粒子同士が焼結して構成される窒化物粒子と気孔とを含有する。複合シート10の主面10a及び主面10bの最大高さ粗さRzは20μm未満である。主面10a及び主面10bは、窒化物焼結体20の主面の一部が露出するとともに、当該主面の凹部が樹脂で埋設されている。したがって、主面10a及び主面10bは、窒化物焼結体20の表面(主面)と樹脂とで構成されている。
【0022】
主面10a及び主面10bにおける最大高さ粗さRzは、15μm未満であってよく、12μm未満であってもよい。これによって、主面10a及び主面10bと他部材とを十分に密着することができる。他部材は、例えば金属シートであってよく、金属製の冷却フィン又は金属回路であってもよい。主面10a及び主面10bにおける最大高さ粗さRzは、アンカー効果による接着力向上の観点から、1μm以上であってよく、5μm以上であってもよい。
【0023】
主面10a及び主面10bにおける算術平均粗さRaは、1.4μm未満であってよく、1.2μm未満であってもよい。これによって、主面10a及び主面10bと他部材とを十分に密着することができる。製造の容易性の観点から、主面10a及び主面10bにおける算術平均粗さRaは、0.2μm以上であってよく、0.4μm以上であってもよい。
【0024】
主面10a及び主面10bの両方が、上述の最大高さ粗さRz(算術平均粗さRa)の範囲内でなくてもよい。変形例では、主面10a及び主面10bのどちらか一方が、上述の最大高さ粗さRz(算術平均粗さRa)の範囲内であればよい。
【0025】
本開示における最大高さ粗さRz及び算術平均粗さRaは、ISO 25178に準拠して測定される面粗さであり、市販の測定装置(例えば、株式会社キーエンス製のダブルスキャン高精度レーザ測定器LT-9000、及び、同社製の高精度形状測定システムKS-1100)を用いて以下の条件で測定することができる。複合シートの主面の全体に亘ってレーザを500μm/sで走査し、1μmピッチで高さを測定して最大高さ粗さRz及び算術平均粗さRaを求める。
【0026】
複合シート10における樹脂の充填率は85体積%以上であってよい。これによって、加熱及び加圧による接着の際に、加熱及び加圧して他部材と接着する際の変形量を小さくすることができる。このため、寸法安定性を十分に高くすることができる。同様の観点から、樹脂の充填率は88体積%以上であってよく、90体積%以上であってよく、92体積%以上であってもよい。
【0027】
本開示における「樹脂」は、主剤及び硬化剤を含む樹脂組成物の半硬化物(Bステージ)であってよく、半硬化物よりもさらに硬化が進行した硬化物(Cステージ)であってもよい。半硬化物は、樹脂組成物の硬化反応が一部進行したものである。したがって、半硬化物は、樹脂組成物中の主剤及び硬化剤が反応して生成する熱硬化性樹脂等を含んでもよい。上記半硬化物は、樹脂成分として、熱硬化性樹脂に加えて主剤及び硬化剤等のモノマーを含んでもよい。複合シート10に含まれる樹脂が硬化物(Cステージ)であるか、半硬化物(Bステージ)であるかは、例えば、示差走査熱量計によって確認することができる。実施例に記載の方法で求められる樹脂の硬化率は10~70%であってよく、20~60%であってもよい。
【0028】
気孔に充填されている樹脂が半硬化物である場合、樹脂の充填率が十分に高いと、加熱及び加圧して他部材と接着する際に、複合シート10の内部から樹脂成分が十分にしみ出す。このようにしみ出だした樹脂成分が接着性の向上に寄与する。これによって、複合シート10と他部材との接触界面における熱抵抗を一層低減することができる。
【0029】
樹脂は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド樹脂、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリフタルアミド、及びポリアセタールからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでいてよい。これらのうちの1種を単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0030】
複合シート10がプリント配線板の絶縁層に用いられる場合、耐熱性及び回路への接着強度向上の観点から、樹脂はエポキシ樹脂を含んでよい。複合シート10が熱インターフェース材に用いられる場合、耐熱性、柔軟性及びヒートシンク等への密着性向上の観点から、樹脂はシリコーン樹脂を含んでよい。
【0031】
複合シート10における樹脂の体積比率は、複合シート10の全体積を基準として、30~60体積%であってよく、35~55体積%であってもよい。複合シート10における窒化物焼結体20を構成する窒化物粒子の体積比率は、複合シート10の全体積を基準として、40~70体積%であってよく、45~65体積%であってもよい。このような体積比率の複合シート10は、優れた密着性と強度を高水準で両立することができる。
【0032】
窒化物焼結体20の気孔の平均細孔径は5μm以下であってよく、4μm以下であってよく、3.5μm以下であってもよい。このような窒化物焼結体20は、気孔のサイズが小さいことから、窒化物粒子の粒子同士の接触面積を十分に大きくすることができる。したがって、複合シート10の内部の熱抵抗を十分に低減することができる。窒化物焼結体20の気孔の平均細孔径は0.5μm以上であってよく、1μm以上であってもよく、1.5μm以上であってもよい。このような窒化物焼結体20は、接着する際に加圧すると十分に変形できるため、樹脂が半硬化物である場合に樹脂成分のしみ出し量を多くすることができる。このため、接着性を一層向上することができる。気孔の平均細孔径の一例は、0.5~5μmである。
【0033】
窒化物焼結体20の気孔の平均細孔径は、以下の手順で測定することができる。まず、複合シート10を加熱して樹脂を除去する。そして、水銀ポロシメーターを用い、0.0042MPaから206.8MPaまで圧力を増やしながら窒化物焼結体20を加圧したときの細孔径分布を求める。横軸を細孔径、縦軸を累積細孔容積としたときに、累積細孔容積が全細孔容積の50%に達するときの細孔径が平均細孔径である。水銀ポロシメーターとしては、株式会社島津製作所製のものを用いることができる。
【0034】
窒化物焼結体20の気孔率、すなわち、窒化物焼結体20における気孔の体積(V1)の比率は、30~65体積%であってよく、35~55体積%であってよい。気孔率が大きくなり過ぎると窒化物焼結体20の強度が低下する傾向にある。一方、気孔率が小さくなり過ぎると複合シート10が他部材と接着される際にしみ出す樹脂が少なくなる傾向にある。
【0035】
気孔率は、窒化物焼結体20の体積及び質量から、かさ密度[B(kg/m3)]を算出し、このかさ密度と窒化物の理論密度[A(kg/m3)]とから、下記式(1)によって求めることができる。窒化物焼結体20は、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、又は窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種を含んでよい。窒化ホウ素の場合、理論密度Aは2280kg/m3である。窒化アルミニウムの場合、理論密度Aは3260kg/m3である。窒化ケイ素の場合、理論密度Aは3170kg/m3である。
気孔率(体積%)=[1-(B/A)]×100 (1)
【0036】
窒化物焼結体20が窒化ホウ素焼結体である場合、かさ密度Bは、800~1500kg/m3であってよく、1000~1400kg/m3であってもよい。かさ密度Bが小さくなり過ぎると窒化物焼結体20の強度が低下する傾向にある。一方、かさ密度Bが大きくなり過ぎると樹脂の充填量が減少して複合シート10が他部材と接着される際にしみ出す樹脂が少なくなる傾向にある。
【0037】
窒化物焼結体20の厚みtは、2mm未満であってよく、1.6mm未満であってもよい。このような窒化物焼結体20を含む複合シート10は、小型化することが可能である。また、小型化しても、他部材との密着性に優れることから高い放熱性能を維持することができる。このような複合シート10は、半導体装置の部品として好適に用いられる。窒化物焼結体20の作製を容易にする観点から、窒化物焼結体20の厚みtは、0.1mm以上であってよく、0.2mm以上であってもよい。
【0038】
複合シート10の厚みは、窒化物焼結体20の厚みtと同じであってもよいし、窒化物焼結体20の厚みtよりも大きくてもよい。複合シート10の厚みは、2mm未満であってよく、1.6mm未満であってもよい。複合シート10の厚みは、0.1mm以上であってよく、0.2mm以上であってもよい。複合シート10の厚みは、主面10a,10bに直交する方向に沿って測定される。複合シート10の厚みが一定ではない場合、任意の10箇所を選択して厚みの測定を行い、その平均値が上述の範囲であればよい。窒化物焼結体20の厚みが一定でない場合も、任意の10箇所を選択して厚みの測定を行い、その平均値が厚みtとなる。複合シート10の主面10a,10bのサイズは特に限定はなく、例えば、500mm2以上であってよく、800mm2以上であってよく、1000mm2以上であってもよい。
【0039】
複合シート10の主面10a及び主面10bは切断面ではないことが好ましい。これによって、主面10a及び主面10bを十分に平滑にして、他部材との密着性を向上し、複合シート10と他部材との接触界面における熱抵抗を十分に低減することができる。
【0040】
本実施形態の複合シート10の主面10a,主面10bは四角形であったが、このような形状に限定されない。例えば、主面は四角形以外の多角形であってもよいし、円形であってもよい。また、角部が面取りされた形状であってもよいし、一部を切り欠いた形状であってもよい。また、厚さ方向に貫通する貫通孔を有していてもよい。
【0041】
図2は、一実施形態に係る積層体100を厚さ方向に切断したときの断面図である。積層体100は、複合シート10と、複合シート10の主面10aに接着されている金属シート30と、複合シート10の主面10bに接着されている金属シート40とを備える。金属シート30,40は、金属板であってよく、金属箔であってもよい。金属シート30,40の材質は、アルミニウム及び銅等が挙げられる。金属シート30,40の材質及び厚みは互いに同じであってよく、異なっていてもよい。また、金属シート30,40の両方備えることは必須ではなく、積層体100の変形例では、金属シート30,40の一方のみを備えていてもよい。
【0042】
積層体100を構成する複合シート10に含まれる窒化物焼結体と金属シート30,40とは直接接していてよい。積層体100は、薄型の複合シート10を備えるため、全体の厚みを小さくすることができる。積層体100は、複合シート10を備えることから、複合シート10と金属シート30の接触界面、及び、複合シート10と金属シート40の接触界面における熱抵抗を十分に低減することができる。したがって、積層体100は積層方向における熱抵抗を十分に低減することができる。このような積層体は、薄型であるうえに熱抵抗も十分に低減されるため、例えば放熱部材として、半導体装置等に好適に用いることができる。ASTM-D5470に準拠して測定される、積層方向における積層体100の熱抵抗は、0.8K/W以下であってよく、0.5K/W以下であってもよい。
【0043】
一実施形態に係る複合シートの製造方法は、厚みが2mm未満である多孔質の窒化物焼結体を調製する焼結工程と、窒化物焼結体の気孔に樹脂組成物を含浸する含浸工程と、窒化物焼結体の主面に付着する樹脂組成物を平滑化して、窒化物焼結体の主面の一部が露出した樹脂含浸体を得る平滑化工程と、樹脂含浸体を加熱して気孔に含浸した樹脂組成物を硬化又は半硬化して複合シートを得る硬化工程と、を有する。
【0044】
焼結工程で用いる原料粉末は、窒化物を含む。原料粉末に含まれる窒化物は、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を含有してよい。窒化ホウ素を含有する場合、窒化ホウ素は、アモルファス状の窒化ホウ素であってよく、六方晶状の窒化ホウ素であってもよい。窒化物焼結体20として窒化ホウ素焼結体を調製する場合、原料粉末として、例えば、平均粒径が0.5~10μmであるアモルファス窒化ホウ素粉末、又は、平均粒径が3.0~40μmである六方晶窒化ホウ素粉末を用いることができる。
【0045】
焼結工程では、窒化物粉末を含む配合物を成形して焼結し窒化物焼結体を得てもよい。成形は、一軸加圧で行ってよく、冷間等方加圧(CIP)法で行ってもよい。成形の前に、焼結助剤を配合して配合物を得てもよい。焼結助剤としては、例えば、酸化イットリア、酸化アルミニウム及び酸化マグネシウム等の金属酸化物、炭酸リチウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、並びにホウ酸等が挙げられる。焼結助剤を配合する場合は、焼結助剤の配合量は、例えば、窒化物及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、又は0.1質量部以上であってよい。焼結助剤の配合量は、窒化物及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、20質量部以下、15質量部以下又は10質量部以下であってよい。焼結助剤の添加量を上記範囲内とすることで、窒化物焼結体の平均細孔径を後述の範囲に調整し易くなる。
【0046】
配合物は、例えば、ドクターブレード法によってシート状の成形体としてよい。成形方法は特に限定されず、金型を用いてプレス成形を行って成形体としてもよい。成形圧力は、例えば5~350MPaであってよい。成形体の形状は、厚さが2mm未満のシート状であってよい。このようなシート状の成形体を用いて窒化物焼結体を製造すれば、成形体及び窒化物焼結体を切断することなく、厚さが2mm未満のシート状の複合シートを製造することができる。また、ブロック状の成形体又は窒化物焼結体を切断してシート状とする場合に比べて、複合シートの主面を平滑にすることができる。また、加工による材料ロスを低減することができる。したがって、平滑な主面を有する複合シートを高い歩留まりで製造することができる。
【0047】
焼結工程の焼結温度は、例えば、1600℃以上であってよく、1700℃以上であってもよい。焼結温度は、例えば、2200℃以下であってよく、2000℃以下であってもよい。焼結時間は、例えば、1時間以上であってよく、30時間以下であってもよい。焼結時の雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下であってよい。
【0048】
焼結には、例えば、バッチ式炉及び連続式炉等を用いることができる。バッチ式炉としては、例えば、マッフル炉、管状炉、及び雰囲気炉等を挙げることができる。連続式炉としては、例えば、ロータリーキルン、スクリューコンベア炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、及び大形連続炉等を挙げることができる。このようにして、窒化物焼結体を得ることができる。窒化物焼結体はブロック状であってよい。
【0049】
窒化物焼結体がブロック状である場合、2mm未満の厚さとなるように加工する切断工程を行う。切断工程では、窒化物焼結体を、例えばワイヤーソーを用いて切断する。ワイヤーソーは、例えば、マルチカットワイヤーソー等であってよい。このような切断工程によって、例えば厚みが2mm未満のシート状の窒化物焼結体を得ることができる。このようにして得られる窒化物焼結体は切断面を有する。
【0050】
窒化物焼結体の切断工程を行うと、切断面に、微細なクラックが生じ得る。一方、窒化物焼結体の切断工程を経ずに得られる複合シートは、切断面を有しないため、微細なクラックを十分に低減し、平滑な主面を容易に得ることができる。したがって、窒化物焼結体の切断工程を経ずに得られる複合シートは、他部材との密着性に優れる傾向にある。また、切断等の加工を行うと、材料ロスが発生する。このため、窒化物焼結体の切断面を有しない複合シートは、材料ロスを低減することができる。これによって、窒化物焼結体及び複合シートの歩留まりを向上することができる。
【0051】
含浸工程では、厚みが2mm未満である窒化物焼結体の気孔に樹脂組成物を含浸して樹脂含浸体を得る。窒化物焼結体は、厚みが2mm未満のシート状であるため、樹脂組成物が内部にまで含浸されやすい。また、窒化物焼結体に樹脂組成物を含浸する際の粘度を含浸に適した範囲に調節すれば、樹脂の充填率を十分に高くすることができる。樹脂組成物を窒化物焼結体の主面に滴下して含浸させる場合、気孔における樹脂の充填率を十分に高くする観点から、窒化物焼結体の主面への樹脂組成物の滴下量は、窒化ホウ素焼結体の気孔の総体積の1.1倍以上であってよく、1.3倍以上であってもよい。当該滴下量は、製造コスト低減の観点から、窒化ホウ素焼結体の気孔の総体積の2倍以下であってよく、1.8倍以下であってもよい。
【0052】
窒化物焼結体に樹脂組成物を含浸する際の樹脂組成物の粘度は、440mPa・s以下であってよく、390mPa・s以下であってよく、340mPa・s以下であってもよい。このように樹脂組成物の粘度を低くすることによって、樹脂組成物の含浸を十分に促進することができる。窒化物焼結体に樹脂組成物を含浸する際の樹脂組成物の粘度は、15mPa・s以上であってよく、20mPa・s以上であってもよい。このように樹脂組成物の粘度に下限を設けることによって、一旦気孔内に含浸した樹脂組成物が気孔から流出することを抑制することができる。樹脂組成物の粘度は、加熱することによってモノマー成分を一部重合して調節してもよい。樹脂組成物の上記粘度は、窒化物焼結体20に樹脂組成物を含浸する際の樹脂組成物の温度T1における粘度である。この粘度は、回転式粘度計を用いて、剪断速度が10(1/秒)であり、温度T1の条件下で測定される。したがって、温度T1を変えることによって、窒化物焼結体に樹脂組成物を含浸する際の樹脂組成物の粘度を調節してもよい。
【0053】
窒化物焼結体に樹脂組成物を含浸する際の温度T1は、例えば樹脂組成物を硬化する温度T2以上、且つ温度T3(=T2+20℃)未満であってよい。温度T2は、例えば、80~140℃であってよい。窒化物焼結体に樹脂組成物を含浸は、加圧下で行ってよく、減圧下で行ってもよい。含浸する方法は特に限定されず、樹脂組成物中に窒化物焼結体20を浸漬してもよいし、窒化物焼結体の主面に樹脂組成物を塗布することで行ってもよい。
【0054】
含浸工程は、減圧条件下及び加圧条件下のどちらで行ってもよく、減圧条件下での含浸と、加圧条件下での含浸とを組み合わせて行ってもよい。減圧条件下で含浸工程を実施する場合における含浸装置内の圧力は、例えば、1000Pa以下、500Pa以下、100Pa以下、50Pa以下、又は20Pa以下であってよい。加圧条件下で含浸工程を実施する場合における含浸装置内の圧力は、例えば、1MPa以上、3MPa以上、10MPa以上、又は30MPa以上であってよい。
【0055】
窒化物焼結体における気孔の細孔径を調整することによって、毛細管現象による樹脂組成物の含浸を促進してもよい。このような観点から、窒化物焼結体の平均細孔径は0.5~5μmであってよく、1~4μmであってもよい。
【0056】
樹脂組成物は、例えば硬化又は半硬化反応によって上述の複合シートの説明で挙げた樹脂となるものを用いることができる。樹脂組成物は溶剤を含んでいてもよい。溶剤の配合量を変えることで樹脂組成物の粘度を調整してもよいし、硬化反応を一部進行させて樹脂組成物の粘度を調整してもよい。溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等の脂肪族アルコール、2-メトキシエタノール、1-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-エトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール等のエーテルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン、トルエン、キシレン等の炭化水素が挙げられる。これらのうちの1種を単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0057】
樹脂組成物は、熱硬化性であり、例えば、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、硬化剤と、を含有してよい。
【0058】
シアネート基を有する化合物としては、例えば、ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナート、及びビス(4-シアネートフェニル)メタン等が挙げられる。ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナートは、例えば、TACN(三菱ガス化学株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0059】
ビスマレイミド基を有する化合物としては、例えば、N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミド、及び4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド等が挙げられる。N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミドは、例えば、BMI-80(ケイ・アイ化成株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0060】
エポキシ基を有する化合物としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、及び多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。例えば、HP-4032D(DIC株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレン等であってもよい。
【0061】
硬化剤は、ホスフィン系硬化剤及び/又はイミダゾール系硬化剤を含有してもよい。ホスフィン系硬化剤はシアネート基を有する化合物又はシアネート樹脂の三量化によるトリアジン生成反応を促進し得る。ホスフィン系硬化剤としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、及びテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレートは、例えば、TPP-MK(北興化学工業株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0062】
イミダゾール系硬化剤はオキサゾリンを生成し、エポキシ基を有する化合物又はエポキシ樹脂の硬化反応を促進する。イミダゾール系硬化剤としては、例えば、1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾール、及び2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾールは、例えば、2E4MZ-CN(四国化成工業株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0063】
ホスフィン系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、5質量部以下、4質量部以下又は3質量部以下であってよい。ホスフィン系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上又は0.5質量部以上であってよい。ホスフィン系硬化剤の含有量が上記範囲内であると、樹脂含浸体の調製が容易であり、かつ、樹脂含浸体から切り出される複合シートの他部材への接着に要する時間をより短縮することができる。
【0064】
イミダゾール系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以下、0.05質量部以下又は0.03質量部以下であってよい。イミダゾール系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.001質量部以上又は0.005質量部以上であってよい。イミダゾール系硬化剤の含有量が上記範囲内であると、樹脂含浸体の調製が容易となる。
【0065】
樹脂組成物は、主剤及び硬化剤とは別の成分を含んでよい。その他の成分としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びアルキド樹脂等のその他の樹脂、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、表面調整剤、並びに湿潤分散剤等からなる群より選ばれる少なくとも一種を更に含んでもよい。これらのその他の成分の含有量は、樹脂組成物全量を基準として、合計で、例えば、20質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよい。
【0066】
平滑化工程では、窒化物焼結体の主面に付着する樹脂組成物を平滑化する。当該主面から樹脂組成物の一部を除去して樹脂含浸体を調製してもよい。樹脂組成物の平滑化は、均し部材、研磨部材及び研磨装置からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いて行ってよい。均し部材は、窒化物焼結体の主面に付着する樹脂組成物を均しながら主面上で延ばすことが可能な部材である。均し部材としては、スクレーパー、紙ワイパー、ゴム製のヘラ等が挙げられる。研磨部材としては、砥石、及び紙やすり等が挙げられる。研磨装置としては、アルミナブラスト等を行うブラスト装置が挙げられる。このような部材又は装置を用いる手法によって、円滑に主面の凹凸を低減し、表面粗さを調整することができる。
【0067】
窒化物焼結体の主面に付着する樹脂組成物の平滑化方法は、上述の方法に限定されない。例えば、樹脂組成物と相溶する溶剤、熱水、又は、熱風を用いて樹脂組成物の一部を除去することで行ってもよい。樹脂組成物の平滑化(除去)は、これらのうちのいずれか一つの方法で行ってもよいし、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。樹脂組成物と相溶する溶剤としては、樹脂組成物に含まれる上述の溶剤が挙げられる。熱水は、80℃以上であってよく、90℃以上であってもよい。熱風は、100℃以上であってよく、120℃以上であってもよい。熱風は、例えば、送風機を用いて空気を吹き付けて樹脂組成物を吹き飛ばしてもよい。
【0068】
平滑化工程の後に、気孔内に含浸した樹脂組成物を硬化又は半硬化させる硬化工程を有する。硬化工程では、樹脂組成物(又は必要に応じて添加される硬化剤)の種類に応じて、加熱、及び/又は光照射により、樹脂組成物を半硬化させる。「半硬化」(Bステージともいう)とは、その後の硬化処理によって、更に硬化させることができるものをいう。半硬化の状態であることを利用し金属シート等の他部材と仮圧着して、その後加熱することによって複合シートと金属シートを接着してもよい。半硬化物にさらに硬化処理を施すことで「完全硬化」(Cステージともいう)の状態としてもよい。これによって、複合シートが変形し難くなり、他部材と接続する際の寸法を安定的に維持することができる。
【0069】
硬化工程において、加熱によって樹脂組成物を硬化又は半硬化させる場合の加熱温度は、例えば80~130℃であってよい。樹脂組成物の硬化(半硬化)によって得られる硬化物(半硬化物)は、樹脂成分として、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂、並びに硬化剤を含有してよい。半硬化物は、樹脂成分として、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びアルキド樹脂等のその他の樹脂、並びに、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、表面調整剤、及び湿潤分散剤等に由来する成分を含有してもよい。
【0070】
このようにして得られた複合シートは、例えば2mm以下の厚みを有する。このため、薄型且つ軽量であり、半導体装置等の部品として用いられたときに装置の小型化及び軽量化を図ることができる。また、複合シートの主面が十分に平滑であり、窒化物焼結体の主面が十分に露出していることから、複合シートの主面に接着される他部材と窒化物焼結体との密着性を向上し、熱抵抗を十分に低減することができる。また、上述の製造方法では、窒化物焼結体を切断することなく複合シートを製造することができる。したがって、信頼性に優れる複合シートを高い歩留まりで製造することができる。なお、複合シートに金属シートを積層して積層体としてもよいし、複合シートをそのまま放熱部材として用いてもよい。
図1に示す複合シート10を上述の製造方法で製造してよい。
【0071】
一実施形態に係る積層体の製造方法は、複合シートと金属シートとを積層し、加熱及び加圧する積層工程を有する。複合シートは上述の製造方法で製造することができる。金属シートは、金属板であってよく、金属箔であってもよい。
【0072】
積層工程では、複合シートの主面上に金属シートを配置する。複合シートと金属シートの主面同士を接触させた状態で、主面同士が対向する方向に加圧するとともに、加熱する。なお、加圧と加熱は必ずしも同時に行う必要はなく、加圧して圧着した後に加熱してもよい。加圧圧力は例えば2~10MPaであってよい。このときの加熱温度T4は、樹脂組成物が半硬化する温度をT2としたときに、T4≧T2+20℃であってよく、T4≧T2+40℃であってもよい。これによって、複合シートと金属シートとを強固に接着することができる。硬化した硬化物の分解を抑制する観点から、加熱温度T4は、T4≦T2+150℃であってよく、T4≦T2+100℃であってもよい。
【0073】
このようにして得られた積層体は、半導体装置等の製造に用いることができる。一方の金属シート上に半導体素子を設けてもよい。他方の金属シートは冷却フィンと接合されてもよい。
図2に示す積層体100を上述の製造方法で製造してよい。
【0074】
以上、幾つかの実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、焼結工程では、成形と焼結を同時に行うホットプレスによって窒化物焼結体を得てもよい。
【実施例】
【0075】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
<窒化物焼結体の作製>
新日本電工株式会社製のオルトホウ酸100質量部と、デンカ株式会社製のアセチレンブラック(商品名:HS100)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、黒鉛製のルツボ中に充填し、アーク炉にて、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(B4C)を得た。得られた塊状物を、ジョークラッシャーで粗粉砕して粗粉を得た。この粗粉を、炭化珪素製のボール(φ10mm)を有するボールミルによってさらに粉砕して粉砕粉を得た。
【0077】
調製した粉砕粉を、窒化ホウ素製のルツボに充填した。その後、抵抗加熱炉を用い、窒素ガス雰囲気下で、2000℃、0.85MPaの条件で10時間加熱した。このようにして炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得た。
【0078】
粉末状のホウ酸と炭酸カルシウムを配合して焼結助剤を調製した。調製にあたっては、100質量部のホウ酸に対して、炭酸カルシウムを45.0質量部配合した。このときのホウ素とカルシウムの原子比率は、ホウ素100原子%に対してカルシウムが15.5原子%であった。焼成物100質量部に対して焼結助剤を20質量部配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して粉末状の配合物を調製した。
【0079】
配合物を、粉末プレス機を用いて、150MPaで30秒間加圧して、シート状(縦×横×厚さ=50mm×50mm×0.45mm)の成形体を得た。成形体を窒化ホウ素製容器に入れ、バッチ式高周波炉に導入した。バッチ式高周波炉において、常圧、窒素流量5L/分、2000℃の条件で5時間加熱した。その後、窒化ホウ素製容器から窒化ホウ素焼結体を取り出した。このようにして、シート状(四角柱状)の窒化ホウ素焼結体を得た。窒化ホウ素焼結体の厚みは0.5mmであった。厚みtはノギスで測定した。
【0080】
<気孔率の測定>
得られた窒化ホウ素焼結体の体積及び質量を測定し、当該体積及び質量からかさ密度B(kg/m3)を算出した。このかさ密度Bと窒化ホウ素の理論密度(2280kg/m3)とから、以下の計算式(2)によって気孔率を求めた。結果を表1に示す。
気孔率(体積%)=[1-(B/2280)]×100 (2)
【0081】
<複合シートの作製>
市販のエポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名:エピコート807)100質量部に対し、市販の硬化剤(日本合成化学工業株式会社製、商品名:アクメックスH-8)を10質量部配合して、樹脂組成物を調製した。調製した樹脂組成物を120℃で15分間加熱した後、その温度を維持したままスポイトを用いて、120℃に加熱された窒化ホウ素焼結体の上側の主面上に滴下して樹脂組成物を含浸した。樹脂組成物の滴下量は、窒化ホウ素焼結体の気孔の総体積の1.3倍とした。樹脂組成物の一部は、窒化ホウ素焼結体に含浸せず、主面上に残存した。
【0082】
大気圧下、窒化ホウ素焼結体の上側の主面上に残存する樹脂組成物を、ステンレス製のスクレーパー(株式会社ナルビー製)を用いて平滑化した。余剰分の樹脂組成物を除去し、主面が平滑である樹脂含浸体を得た。
【0083】
樹脂含浸体を、大気圧下、160℃で30分間加熱して樹脂組成物を半硬化させた。このようにして、四角柱状の複合シート(縦×横×厚み=50mm×50mm×0.5mm)を作製した。複合シートのサイズはノギスで測定した。複合シートの主面の一部には、窒化ホウ素焼結体が露出していた。
【0084】
上記半硬化物を構成する樹脂の硬化率を、以下の手順で求めた。まず、硬化前(未硬化)の状態の樹脂組成物1gを昇温し、完全に硬化するまでに生じる発熱量Q(J/g)を、示差走査熱量計を用いて測定した。次に、複合シート1gを同様に昇温し、完全に硬化するまでに生じる発熱量R(J/g)を、同じ示差走査熱量計を用いて測定した。また、複合シートを600℃で1時間加熱して樹脂成分を揮発させ、加熱前後の質量差から複合シートに含まれる熱硬化性を有する成分の含有量c(質量%)を求めた。
【0085】
上述の手順で求めた発熱量Q、R及び含有量cを用い、下記式(3)によって複合シートに含まれる樹脂の硬化率を求めた。その結果、樹脂の硬化率は36%であった。
硬化率(%)={1-[(R/c)×100]/Q}×100・・・(3)
【0086】
<最大高さ粗さRz及び算術平均粗さRaの測定>
ステンレス製のスクレーパーで平滑にした主面における最大高さ粗さRz及び算術平均粗さRaを測定した。Rz及びRzはISO 25178に準拠して測定される面粗さである。測定には、株式会社キーエンス製のダブルスキャン高精度レーザ測定器LT-9000(商品名)、及び、同社製の高精度形状測定システムKS-1100(商品名)を用いた。複合シートの主面の全体に亘ってレーザを500μm/sで走査し、1μmピッチで高さを測定して最大高さ粗さRz及び算術平均粗さRaを求めた。結果は表1に示すとおりであった。
【0087】
<樹脂(半硬化物)の充填率の測定>
複合シートに含まれる樹脂の充填率を、以下の式(4)によって求めた。結果は表1に示すとおりであった。
【0088】
複合シートにおける樹脂の充填率(体積%)={(複合シートのかさ密度-窒化ホウ素焼結体のかさ密度)/(複合シートの理論密度-窒化ホウ素焼結体のかさ密度)}×100 …(4)
【0089】
窒化ホウ素焼結体及び複合シートのかさ密度は、JIS Z 8807:2012の「幾何学的測定による密度及び比重の測定方法」に準拠し、窒化ホウ素焼結体又は複合シートの各辺の長さ(ノギスにより測定)から計算した体積と、電子天秤により測定した窒化ホウ素焼結体又は複合シートの質量に基づいて求めた(JIS Z 8807:2012の9項参照)。複合シートの理論密度は、下記式(5)によって求めた。
【0090】
複合シートの理論密度=窒化ホウ素焼結体の真密度+樹脂の真密度×(1-窒化ホウ素焼結体のかさ密度/窒化ホウ素の真密度) … (5)
【0091】
窒化ホウ素焼結体及び樹脂の真密度は、JIS Z 8807:2012の「気体置換法による密度及び比重の測定方法」に準拠し、乾式自動密度計を用いて測定した窒化ホウ素焼結体及び樹脂の体積及び質量より求めた(JIS Z 8807:2012の11項の式(14)~(17)参照)。
【0092】
<積層体の作製>
シート状の銅箔(縦×横×厚み=100mm×20mm×0.035mm)と、シート状の銅板(縦×横×厚み=100mm×20mm×1mm)との間に、上述の複合シート(縦×横×厚み=50mm×20mm×0.5mm)を配置して、銅箔、複合シート及び銅板をこの順に備える積層体を作製した。当該積層体を200℃及び5MPaの条件下で5分間加熱及び加圧した後、200℃及び大気圧の条件下で2時間加熱処理した。これによって積層体を得た。
【0093】
<熱抵抗の評価>
ASTM-D5470に準拠して、積層方向における積層体の熱抵抗を測定した。測定には、樹脂材料熱抵抗測定装置(株式会社日立テクノロジーアンドサービス製)を使用した。比較例1で得られた複合シートを用いて調製される積層体の熱抵抗(単位:K/W)を基準として、実施例1で得られた複合シートを用いて調製される積層体の熱抵抗を以下のとおり相対値で評価した。結果は表1に示すとおりであった。
A:比較例1の熱抵抗を1としたときの相対値が0.8未満
B:比較例1の熱抵抗を1としたときの相対値が0.8以上1未満
C:比較例1の熱抵抗を1としたときの相対値が1以上
【0094】
(実施例2)
スクレーパーの代わりに100℃の熱風を用いたこと以外は実施例1と同様にして複合シートを作製した。すなわち、窒化ホウ素焼結体の上側の主面上の樹脂組成物に対し、ブロアーを用いて100℃の熱風(空気)を吹き付けて主面上の樹脂組成物を平滑化した。余剰の樹脂組成物を吹き飛ばし、主面が平滑である樹脂含浸体を調製した。実施例1と同様に、複合シートの各測定、積層体の作製及び評価を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0095】
(実施例3)
スクレーパーの代わりにサンドペーパー(JIS R6010(2000)で規定される粒度:P2000)を用いたこと以外は実施例1と同様にして複合シートを作製した。すなわち、窒化ホウ素焼結体の上側の主面上の樹脂組成物に対し、上記サンドペーパーを用いて窒化物焼結体の主面上の樹脂組成物を平滑化し、主面が平滑である樹脂含浸体を調製した。実施例1と同様に、複合シートの各測定、積層体の作製及び評価を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0096】
(実施例4)
スクレーパーの代わりに紙ワイパー(日本製紙クレシア株式会社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして複合シートを作製した。すなわち、窒化ホウ素焼結体の上側の主面上の樹脂組成物を、紙ワイパーを用いて拭き取って平滑化した。余剰の樹脂組成物を除去し、主面が平滑である樹脂含浸体を調製した。実施例1と同様に、複合シートの各測定、積層体の作製及び評価を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0097】
(実施例5)
スクレーパーの代わりに約100℃の熱水を用いたこと以外は実施例1と同様にして複合シートを作製した。すなわち、窒化ホウ素焼結体の上側の主面上に樹脂組成物を塗布した後、熱水中に5分間浸漬した。これによって、主面上にある余剰の樹脂組成物を洗い流し、主面が平滑である樹脂含浸体を調製した。熱水中から取り出した樹脂含浸体を用いて、実施例1と同様に、複合シートの各測定、積層体の作製及び評価を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0098】
(実施例6)
スクレーパーの代わりに約20℃の溶剤(アセトン)を用いたこと以外は実施例1と同様にして複合シートを作製した。すなわち、窒化ホウ素焼結体の上側の主面上に樹脂組成物を塗布した後、約20℃の溶剤中に5分間浸漬した。これによって、主面上にある余剰の樹脂組成物を洗い流し、主面が平滑である樹脂含浸体を調製した。溶剤中から取り出した樹脂含浸体を用いて、実施例1と同様に、複合シートの各測定、積層体の作製及び評価を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0099】
(比較例1)
実施例1と同じ手順で、炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物と焼結助剤とを調製し、これらを配合して粉末状の配合物を調製した。この配合物を、粉末プレス機を用いて、150MPaで30秒間加圧して、ブロック状(縦×横×厚さ=50mm×50mm×48mm)の成形体を得た。この成形体を窒化ホウ素製容器に入れ、バッチ式高周波炉に導入した。バッチ式高周波炉において、常圧、窒素流量5L/分、2000℃の条件で5時間加熱した。その後、窒化ホウ素製容器から窒化ホウ素焼結体を取り出した。このようにして、ブロック状(四角柱状)の窒化ホウ素焼結体を得た。窒化ホウ素焼結体のサイズは、縦×横×厚さ=50mm×50mm×50mmであった。得られた窒化ホウ素焼結体の気孔率を実施例1と同じ手順で測定した。結果を表1に示す。
【0100】
実施例1と同じ手順で樹脂組成物を調製し、樹脂組成物を窒化ホウ素焼結体の上側の一方面上に滴下して樹脂組成物を含浸し、ブロック状の樹脂含浸体を得た。樹脂組成物の滴下量は、窒化ホウ素焼結体の気孔の総体積の1.3倍とした。
【0101】
樹脂含浸体を、大気圧下、160℃で30分間加熱して樹脂組成物を半硬化させてブロック状の複合体を得た。複合体を、マルチカットワイヤーソーを用いて厚さ方向に沿って切断し、厚みが0.5mmである薄板状の複合シートを70枚作製した。このうち、両主面が切断面である複合シートを1枚選び、主面の最大高さ粗さRz及び算術平均粗さRa、並びに樹脂の充填率の測定を行った。各測定は、実施例1と同様にして行った。また、この複合シートを用い、実施例1と同様にして積層体を作製し、熱抵抗を評価した。結果は表1に示すとおりであった。
【0102】
【0103】
実施例1~6及び比較例1の複合シートは、いずれも、主面の一部に窒化ホウ素焼結体が露出していた。当該主面の他部は樹脂で覆われていた。実施例1~実施例6の複合シートの主面の最大高さ粗さRzは、比較例1の複合シートの主面の最大高さ粗さRzよりもかなり小さくなっていた。実施例1~実施例6の複合シートを用いて作製した積層体の熱抵抗は十分に低かった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本開示によれば、他部材との密着性に優れ、熱抵抗を低減することが可能な複合シート及びその製造方法が提供される。本開示によれば、そのような複合シートを用いることによって積層方向における熱抵抗を低減することが可能な積層体及びその製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0105】
10…複合シート、10a,10b…主面、20…窒化物焼結体、30,40…金属シート、100…積層体。