(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】米飯類用日持向上剤及び米飯類の日持向上方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20221028BHJP
A23L 3/3508 20060101ALI20221028BHJP
A23L 3/358 20060101ALI20221028BHJP
C12J 1/00 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
A23L7/10 E
A23L3/3508
A23L3/358
C12J1/00 A
(21)【出願番号】P 2019030056
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000101215
【氏名又は名称】アサマ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122574
【氏名又は名称】吉永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 瑞夫
(72)【発明者】
【氏名】古賀 元樹
(72)【発明者】
【氏名】片平 亮太
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-022161(JP,A)
【文献】特開平11-221065(JP,A)
【文献】特開2016-029914(JP,A)
【文献】特開平09-140365(JP,A)
【文献】特開2002-315552(JP,A)
【文献】特開2006-087389(JP,A)
【文献】醸造酢の日本農林規格 平成28年2月24日農林水産省告示第489号,2016年,pp.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12J 1/00-1/10
A23L 3/00-3/54
A23L 7/00-7/25
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸度が10~20
重量%の範囲にある高酸度醸造酢に含まれる酢酸を無機のナトリウム塩で部分中和してなる、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢であって、 酢酸/酢酸ナトリウムの比率が
質量比で0.15~0.21の範囲内である
高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を含有することを特徴とする、
米飯類用日持向上剤。
【請求項2】
前記無機のナトリウム塩が炭酸水素ナトリウム又は炭酸ナトリウムである、請求項1に記載の
米飯類用日持向上剤。
【請求項3】
前記高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢が液状である、請求項1又は2に記載の
米飯類用日持向上剤。
【請求項4】
前記高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢が粉末状である、請求項1又は2に記載の
米飯類用日持向上剤。
【請求項5】
さらに、トウガラシ抽出物、ペクチン分解物、ホップ抽出物、プロタミン、ポリリジン、ナイシン、卵白リゾチーム、甘草抽出物;ベタイン、グリシン、アラニン;乳酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、グルコン酸及びこれら有機酸の無機塩;酢酸カルシウム、酢酸カリウム、低級脂肪酸エステル、シュガーエステル;ビタミンB1ラウリル硫酸塩;からなる群から選択された少なくとも1種を含有する、請求項
4に記載の米飯類用日持向上剤。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の
米飯類用日持向上剤を
米飯類に添加することを特徴とする、米飯類の日持向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の味を損ねることなく優れた食品を得るために用いる食品の日持向上を目的とした高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢及び該高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を用いた食品、特に炊飯した米飯類の常温流通に対応可能な日持向上方法並びに日持向上を目的とした製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
米飯類を製造する場合、米飯類の日持向上の目的で様々な有機酸が用いられている。なかでも醸造酢は、古くから食品の日持向上の目的にも利用されてきた。
【0003】
しかしながら、醸造酢は日持ちを良くするために、食品への添加量を増やすと、酸味や酸臭がでて食品の風味を損なうことがある。
【0004】
現状では醸造酢だけではなく、食酢、酢酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸などの有機酸が提案されている。
【0005】
特開2015-123003号公報には、食酢含有米飯であって、食酢含有米飯に含まれる酸1質量部あたり0.05~1質量部の割合で冷水可溶な澱粉分解物が含有されていることを特徴とする食酢含有米飯が提案されている(特許文献1)。
【0006】
特開2015-126697号公報には酢酸と糖類とコハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、と高甘味度甘味料とが含有される米飯用顆粒状調味料及びその製造方法並びに米飯調味用食品が提案されている(特許文献2)。
【0007】
特開2016-106625号公報には、食用油脂5%以上30%以下、食酢、オクテニルコハク酸化処理澱粉を含有し、pHが2以上4.5以下である水中油型乳化液で被覆された米飯を提案している(特許文献3)。
【0008】
特開2001-8646号公報には、グルコン酸液を炊き水として容器に加える米飯食品の製造法を提案している(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-123003号公報
【文献】特開2015-126697号公報
【文献】特開2016-106625号公報
【文献】特開2001-8646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、欧米を含めて日本でも消費者の声として、食品の製造に、化学合成品を避け天然素材の利用を求める声があり、醸造酢の利用は、この流れに沿うことが出来るものと思われる。本発明者らは醸造酢を部分中和し、酢酸ナトリウムを生成させ、酸味、酸臭を減らした酢酸ナトリウム含有醸造酢を食品、特に米飯類の日持向上に生かすことを考えた。
【0011】
高酸度の醸造酢を、それに含まれる酢酸と等モルの炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムで中和すると、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢ができる。この時のpHは7~8になっている。あいにく、この高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢には、酢酸ナトリウム固有の欠点であるエグ味がついて、食品に添加するには味が好ましくない。
【0012】
そこで、本発明は、酢酸ナトリウムのエグ味が抑制された高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢及び該高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を用いた食品用、特に常温流通に対応可能な米飯類用日持向上剤並びに米飯類の日持向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、酢酸ナトリウム由来のエグ味を減らすことを目的として種々検討したところ、意外にも、少量の酢酸の酸味がこのエグ味を減殺するとの知見を得た。すなわち、醸造酢の中和に際して酢酸を少量残すように中和(部分中和)することで上記課題を解決することを見出した(特願2018-237227)。
【0014】
本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、高酸度醸造酢に含まれる酢酸を無機のナトリウム塩で中和してなる、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢であって、酢酸/酢酸ナトリウムの比率が質量比で0.15~0.21の範囲内であることを特徴とする、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、前記高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を含有することを特徴とする、米飯類用日持向上剤を提供するものである。
【0016】
さらに、本発明は、前記高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を米飯類に添加することを特徴とする、米飯類の日持向上方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、醸造酢(調味酢)という長年利用されてきた安全性の高い調味料から、中和により生成された酢酸ナトリウムのエグ味を、少量の酢酸を残存させることにより抑えた、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を製造することができるため、安全で日持向上効果に優れ、かつ、米飯類の風味を損なわない米飯類用日持向上剤並びに米飯類の日持向上方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢について説明する。本実施形態の高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢は、高酸度醸造酢に含まれる酢酸を無機のナトリウム塩で中和してなる、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢であって、酢酸/酢酸ナトリウムの比率が質量比で0.15~0.21の範囲内である。
【0019】
本実施形態において、「高酸度醸造酢」とは、酸度が10重量%以上の醸造酢をいい、15重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であってもよい。但し、中和剤の溶解性の観点から、上限は30重量%程度である。
【0020】
本実施形態において、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢における「高濃度」とは、液状の場合は、酢酸ナトリウムの0℃の水に対する溶解度である26%付近を意味し、粉状の場合は60%以上であることを意味する。
【0021】
本実施形態において、前記無機のナトリウム塩は、炭酸水素ナトリウム又は炭酸ナトリウムであることが好ましい。
【0022】
本実施形態において、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢は液状であることが好ましい。液状であれば、一般的な醸造酢と同様の使い方ができる。
【0023】
本実施形態において、高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢は粉末状であることもできる。粉末状であれば、濃度を60%以上まで高めることができる。
【0024】
本実施形態に係る高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢は、目安として酢酸濃度が10~20%の範囲にある高酸度醸造酢を無機のナトリウム塩で部分中和することにより製造することができる。
【0025】
部分中和の条件は、酢酸/酢酸ナトリウムの比率が質量比で0.15~0.21の範囲内となるようにするが、使用目的により、醸造酢の酸度と部分中和の程度を適宜選択することが好ましい。
【0026】
次に、本発明の米飯類用日持向上剤について説明する。本実施形態に係る米飯類用日持向上剤は、上述した高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を含有することを特徴とする。
【0027】
本実施形態において対象となる米飯類の範囲としては、うるち米やもち米など生米に水や調味料などを加え、蒸す、煮る、焼くといった調理工程を介した炊飯米をさす(但し、炊飯時に生米重量に対し、3.5倍以上の水を加えて米を柔らかく炊いた粥を除く)。具体的には、白飯、赤飯、おこわ、具混ぜご飯、炊き込みご飯、パエリア等を挙げることができる。また、米飯類は、常温、チルド、冷凍のいずれの形態でもよい。
【0028】
本実施形態の米飯類用日持向上剤の形態は特に限定されない。例えば、粉末状、粒状、顆粒状、錠剤、液状、ペースト状としてよい。粉末状、粒状又は顆粒状とした場合、保管コストや輸送コストを大きく減少させることができるので好ましい。
【0029】
本実施形態において、米飯類用日持向上剤の添加量は、生米の重量に対し0.1~3重量%であることが好ましく、0.5~2.4重量%であることがより好ましく、0.9~1.8重量%であることがさらに好ましい。
【0030】
本実施形態の米飯類用日持向上剤は、天然抗菌物質や日持向上効果のある食品添加物を含有することができる。天然抗菌物質や日持向上効果のある食品添加物としては、トウガラシ抽出物、ペクチン分解物、ホップ抽出物、プロタミン、ポリリジン、ナイシン、卵白リゾチーム、甘草抽出物などの天然物由来の添加物;ベタイン、グリシン、アラニンなどのアミノ酸系添加物;乳酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、グルコン酸などの有機酸及びこれらの無機塩;酢酸カルシウム、酢酸カリウム、低級脂肪酸エステル、シュガーエステル、ビタミンB1ラウリル硫酸塩;などがある。いずれも食品添加物規格品を用いることが好ましい。
【0031】
次に、本発明の米飯類の日持向上方法について説明する。本実施形態に係る米飯類の日持向上方法は、上述した高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を米飯類用日持向上剤として米飯類に添加することを特徴とする。
【0032】
添加のタイミングは特に限定されることなく、米飯類の調理前、調理中、調理後のいずれかに、必要量の高濃度酢酸ナトリウム含有醸造酢を米飯類に添加すればよい。
【0033】
酢酸/酢酸ナトリウムの比率(質量比)(以下 A/B比)0.15で米飯類の日持向上に適用すると、お粥では少々感じられた酸味が、米飯類では感じられなくなる。お粥と米飯類、すなわち粥と炊飯米の状態の違いであるが、炊飯米は表面上の水分が少なく、水分を米粒の中にしっかり抱き込んでいるためと推察される。お粥では0.14が酸味を許容できる限界値であるが、米飯類ではA/B比0.15以上の大きなA/B比でも酸味やエグ味が抑えられ、それに従って日持向上効果も向上する。すなわち、A/B比が大きくなれば、より高い日持向上効果が期待できる。
【実施例】
【0034】
1.酢酸が酢酸ナトリウム含有醸造酢の風味に及ぼす影響(その1)
(1)20重量%酢酸ナトリウム含有醸造酢の調製
酸性中和の中身、すなわち中和により生成した酢酸ナトリウム(以下ナトリウムを「Na」と略記する)の味に、少量の酢酸が酢酸Na含有醸造酢の風味に及ぼす影響について詳細に検討を行った。酸度20、15、10重量%と3段階の高酸度醸造酢を用いた。具体的には、酸度20重量%品は内堀醸造(株)の醸造酢スーパービネガー20(商品名、酸度20重量%)、酸度15%品はキューピー醸造(株)の醸造酢HDV(商品名、酸度15重量%)、酸度10%品はキューピー醸造(株)の醸造酢DV(商品名、酸度10重量%)を用いた。炭酸水素Naの溶解性が高まるように20重量%醸造酢を使用した時は40℃に加温して参考例1~3の調製に用いた。
【0035】
表1は20重量%高酸度醸造酢を部分中和して、食品用日持向上剤として参考例1~5を調製したものである。表1の見方を説明する。参考例3の場合、酢酸濃度17重量%とは、20重量%醸造酢の17重量%すなわち100gの醸造酢中の3.4gの酢酸が残るように中和する。すなわち20-3.4=16.6gの酢酸を中和に回すことになる。16.6gの酢酸は16.6/60=0.277モルであり、この酢酸を中和するのに0.277モル(23.3g)の炭酸水素Naを使う。従って中和により0.277モルの酢酸Na(22.7g)ができる。なお、醸造酢中の酸度含量は、酸度と濃度がほぼ一致するため、参考例での計算は濃度表示で行った。
【0036】
3.4gの酢酸と22.7gの酢酸Naの比率をみたところ、3.4/22.7=0.15であった。参考例1~5では、20重量%醸造酢100gあたり酢酸が0.4~4.8g残るように中和した。生成した酢酸Naの範囲は27~21重量%であった。すなわち、参考例1~参考例5のA/B比はそれぞれ0.02、0.12、0.15、0.21及び0.24であった。
【0037】
【0038】
(2)官能検査
表2は参考例1~5までの調製品について、炊飯米(白飯)に添加して官能検査を行ったものである。白飯の調製方法は以下の通りである。すなわち、無洗米100g、水道水140g、炊飯用米油1gに参考例1~5の米飯類用日持向上剤を、それぞれ対生米換算で0.9%(全体量に対して0.38%)を添加溶解し、30分浸漬後、ホシザキ電気のスチームコンベクションオーブンで、130℃、30分炊飯した。なお、予備試験により、添加量は0.9%が適当を思われたので0.9%添加を採用した。官能検査は酢酸および酢酸ナトリウムによる酸味とエグ味に対して評価を行い、採点法(0点;感じない、1点;注意すれば感じる、2点;少し感じる、3点;はっきりと感じる)にて各参考例の評価を行った。パネラー10名に対して官能検査を行い、その採点結果の平均値を-、±、+に変換して表2に示した。また、総合評価は、パネラー10名の酸味及びエグ味の採点結果の平均値が共に2.0点未満の場合は合格品として「可」、酸味及びエグ味の採点結果の平均値どちらか一方または共に2.0点以上の場合は不合格品として「不可」を表した。
【0039】
なお、白飯の比較対象として、白粥に米飯類用日持向上剤を添加して同様に官能検査を行った。白粥の調製方法は以下の通りである。すなわち、白飯140gに水200gを加えた小鍋を用意し、この鍋に参考例1~5の日持向上剤をそれぞれ1.3gずつ(全体量に対して0.38%)加え、15分間加熱して粥とした。
【0040】
【0041】
白飯については、参考例2(A/B比0.12)、参考例3(A/B比0.15)及び参考例4(A/B比0.21)の調製品が、酸味、エグ味とも好ましいもの(可)であった。すなわち中和後の酢酸濃度は2.8~4.4%、酢酸Na濃度は24~21%の範囲にあった。本発明者らは中和後の残存酢酸と中和生成された酢酸Naの比率に注目したところ、総合評価が可の調製品は酢酸/酢酸Naの比率が0.12~0.21の範囲にあった。なお、参考例1(A/B比0.02)はエグ味を感じ、参考例5(A/B比0.24)は酸味が強かったため、好ましいものとはいえなかった。
【0042】
一方、白粥については、参考例1でエグ味で不可、参考例2は、酸味、エグ味とも可であった。参考例3~5で酸味が出たため不可であった。
【0043】
(3)炊飯米の保存試験
表1の参考例1(比較例1)、参考例2(比較例2)、参考例3(実施例1)、参考例4(実施例2)、参考例5(比較例3)の食品用日持向上剤を炊飯米の保存試験に供した。無洗米100g、水道水140g、米油1gを計量し、大きめの耐熱性容器に入れた。同じ物を5個用意した。これに参考例1~5の高濃度酢酸Na含有醸造酢を0.9gずつ加えて5試験区すなわち比較例1、比較例2、比較例3、実施例1、実施例2とした。30分間の浸漬後、スチームコンベクションオーブン(ホシザキ電気)で、130℃、30分間炊飯した。10分間蒸らし、蓋付きトレイに炊飯米100gを移し、別途市販の白飯から分離したグラム陰性桿菌を、白飯1g当り10CFU(10CFU/g)になるよう接種して、25℃にて保存して経時的に生菌数を測定した。結果を表3に示す。
【0044】
白粥についても、官能検査の時と同様に調製と保存試験を行った。すなわち、白飯140gに水200gを加えた小鍋を用意し、この鍋に参考例1~5の日持向上剤をそれぞれ1.3gずつ(全体量に対して0.38%)加え、15分間加熱して粥とした。余熱を取ってから、市販の白飯から分離したグラム陰性桿菌を粥1gあたり10CFU接種して25℃にて保存し、経時的に生菌数を測定した。
【0045】
【0046】
比較例1(参考例1)は72時間後に腐敗した。比較例2(参考例2)は、72時間後に106CFU/g近くになっていた。チルド保存とは異なり、25℃保存のためと考えられる。一般に106CFU/g近くになると腐敗寸前と判断される。従って比較例2(参考例2)は、保存性の点で不可であった。実施例1(参考例3)、実施例2(参考例4)、比較例3(参考例5)が白飯の保存性に優れていたが、比較例3(参考例5)は酸味が出て官能的に不可であった。A/B比0.15~0.21の実施例1と実施例2は72時間後でも正常であり、優れた保存効果が確認された。
【0047】
白粥については、比較例1(参考例1)がエグ味で不可、比較例2(参考例2)は酸味とエグ味は可であったが、72時間後に腐敗した。比較例3(参考例5)は酸味で不可。A/B比0.15~0.21の実施例1(参考例3)と実施例2(参考例4)は72時間後でも正常であり、優れた保存効果が確認された。
【0048】
2.酢酸が酢酸Na含有醸造酢の風味に及ぼす影響(その2)
(1)15重量%酢酸Na含有醸造酢の調製
20重量%高酸度醸造酢を用いて作った酢酸Na含有醸造酢の調製と同じ手法で、今度は15重量%高酸度醸造酢を用いて酢酸Na含有醸造酢を調製した。調製データを参考例6~9に、表4として示す。
【0049】
【0050】
(2)官能検査
表5は、表4に基づいて作った酢酸Na含有醸造酢の官能検査の結果である。官能検査は1(2)と同様の手法で行った。なお、参考例6~9の日持向上剤の添加量は生米換算で、0.9×(20/15)=1.2%添加した。参考例6~9までの調製品の中で、酸味、エグ味とも好ましかったもの(可)は参考7及び8であった。すなわち中和後の酢酸濃度は2.6~3.3、酢酸Na濃度は17~16%の範囲にあった。可の調製品の、中和後の残存酢酸と中和生成された酢酸Naの比率(A/B)は0.15~0.21の範囲にあった。
【0051】
【0052】
(3)炊飯米の保存試験
表4の参考例6~9の米飯類用日持向上剤を白飯の保存試験に供した。保存試験は1(3)と同様の手法で行った。結果を表6に示す。
【0053】
【0054】
比較例4(参考例6)は炊飯米の保存効果が弱かった。実施例3(参考例7)、実施例4(参考例8)、比較例5(参考例9)が白飯の保存性に優れていたが、参考例9は酸味が出て官能的に不可であった。A/B比0.15~0.21の実施例3と実施例4は72時間後でも正常であり、優れた保存効果が確認された。
【0055】
3.酢酸が酢酸Na含有醸造酢の風味に及ぼす影響(その3)
(1)10%酢酸Na含有醸造酢の調製
1(1)の20%高酸度醸造酢を用いて造った酢酸Na含有醸造酢の調製と同じ手法で、今度は10%高酸度醸造酢を用いて酢酸Na含有醸造酢を調製した。参考例10~13までの調製データを表7に示す。
【0056】
【0057】
(2)官能検査
表8は、表7に基づいて作った酢酸Na含有醸造酢の官能検査の結果である。官能検査は1(2)と同様の手法で行った。参考例10~13までの調製品の中で、酸味、エグ味とも好ましかったもの(可)は参考例11、参考例12であった。すなわち中和後の酢酸濃度は1.7~2.2重量%、酢酸Na濃度は11重量%であった。可の調製品のA/B比は0.15~0.21の範囲にあった。
【0058】
【0059】
(3)炊飯米の保存試験
表7の参考例10~13の食品用日持向上剤を白飯の保存試験に供した。保存試験は1(3)と同様の手法で行った。なお、参考例10~13の日持向上剤の添加量は、生米換算で、0.9×(20/10)=1.8%添加した。結果を表9に示す。
【0060】
【0061】
比較例6(参考例10)は白飯の保存効果が弱かった。実施例5(参考例11)、実施例6(参考例12)、比較例7(参考例13)が白飯の保存性に優れていたが、比較例7(参考例13)は酸味が出て官能的に不可であった。A/B比0.15の実施例5と0.21の実施例6は72時間後でも正常であった。
【0062】
表10に表1~9までの結果をまとめた。本試験は高酸度醸造酢の中和によって生ずる高濃度酢酸Na含有醸造酢のエグ味の改良を試みたものである。10~20重量%の高酸度醸造酢(10、15、20重量%の3水準の高酸度醸造酢)で高濃度酢酸Na含有醸造酢を調製し、官能検査を行った。また、残存酢酸(A)と生成酢酸Na(B)の比率について調べた。
【0063】
【0064】
参考例1~13までの調製、米飯類による日持向上効果の試験、官能検査を通じて明らかになったことは、(1)少量の酢酸が酢酸Naのエグ味のマスキング効果を有していた:(2)酢酸Naのエグ味の許容範囲がA/B比で0.15以上であった:(3)酸味の許容範囲はA/B比で0.21以下であった。醸造酢の濃度に関係なく、エグ味と酸味の両面から、「可」の範囲はA/B比で0.15~0.21であった。
【0065】
すなわち本発明の高濃度酢酸Na含有醸造酢は、10~20重量%の高酸度醸造酢の中和に際し、少量の酢酸を残すこと、その量は残存酢酸と生成酢酸Naの濃度比が質量比で0.15~0.21の範囲であることにより、酢酸Naのエグ味を減殺し、米飯類の日持向上効果を発揮することが明らかとなった。なお、高酸度醸造酢の酸度が10重量%未満又は20重量%を超える場合であっても、酢酸/酢酸Naの比率が質量比で0.15~0.21の範囲内であれば、発明の目的が達成される。