(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】骨髄由来抑制細胞関連疾患の予防および治療用途
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20221028BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20221028BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221028BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20221028BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20221028BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221028BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221028BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20221028BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
A61K39/395 N
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C07K16/46
A61K39/395 D
A61P37/04
A61P35/00
A61P29/00
A61P35/02
A61P31/04
(21)【出願番号】P 2020564084
(86)(22)【出願日】2019-05-14
(86)【国際出願番号】 KR2019006007
(87)【国際公開番号】W WO2019221574
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】10-2018-0054977
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0055950
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522387607
【氏名又は名称】クンホ、エイチティー、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Kumho HT, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソスル
(72)【発明者】
【氏名】ホン、チョンウォン
(72)【発明者】
【氏名】ジ、ギルヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユン、サンスン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ヒョン-ゴン
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-510636(JP,A)
【文献】特表2007-530679(JP,A)
【文献】特表2016-520548(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0212095(US,A1)
【文献】国際公開第2018/067825(WO,A1)
【文献】特表2018-502114(JP,A)
【文献】Clinical Cancer Drugs,2015年,Vol.2, pp.100-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell、MDSC)で発現するCD66cに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む、免疫活性増強剤
であって、
前記免疫活性増強剤が、MDSCの細胞死滅を誘導することによって、MDSCの免疫抑制能を除去または減少させるものであり、
前記抗体またはその抗原結合断片が、以下の相補性決定領域(complementarity determining region;CDRs):
配列番号1または配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号2または配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR-H2、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3、
配列番号4、配列番号11または配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L3
を含む、
免疫活性増強剤。
【請求項2】
前記免疫活性増強剤が、MDSCの活性、生成または死滅を調節することによってMDSCの免疫抑制能を除去または減少させるものである、請求項1に記載の免疫活性増強剤。
【請求項3】
前記免疫活性増強剤が、T細胞、NK細胞、または制御性T細胞(regulatory T cell)の活性に対するMDSCの抑制能を調節するものである、請求項1に記載の免疫活性増強剤。
【請求項4】
前記抗体が、マウス抗体、キメラ抗体またはヒト化抗体である、請求項1に記載の免疫活性増強剤。
【請求項5】
前記抗体が、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4 Fcドメインを含むものである、請求項1に記載の免疫活性増強剤。
【請求項6】
前記抗体が脱フコース化抗体である、請求項1に記載の免疫活性増強剤。
【請求項7】
前記抗体が、以下の相補性決定領域(complementarity determining region;CDRs)を含む、抗-CD66c抗体またはその抗原結合断片である、請求項1に記載の免疫活性増強剤:
(i)配列番号
1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号
2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3、
配列番号
4のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、およ
び
配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L3
、
(ii)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3、
配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L3、
(iii)配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR-H2、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3、
配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L3、または
(iv)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3、
配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L3。
【請求項8】
前記抗体の重鎖可変領域が、配列番号22、23、24、25、26または27のアミノ酸配列を含むフレームワーク(V-FR1)、配列番号32、33、34、35、36または37のアミノ酸配列を含むフレームワーク(V-FR2)、配列番号42、43、44、45、46または47のアミノ酸配列を含むフレームワーク(V-FR3)、および配列番号52、53、54、55、56または57のアミノ酸配列を含むフレームワーク(V-FR4)からなる群より選択された少なくとも一つのフレームワークを含むものである、請求項1に記載の免疫活性増強剤。
【請求項9】
前記抗体の軽鎖可変領域が、配列番
号29、30または31のアミノ酸配列を含むフレームワーク(L-FR1)、配列番
号39、40または41のアミノ酸配列を含むフレームワーク(L-FR2)、配列番
号49、50、または51のアミノ酸配列を含むフレームワーク(L-FR3)、および配列番
号59、60または61のアミノ酸配列を含むフレームワーク(L-FR4)からなる群より選択された少なくとも一つのフレームワークを含むものである、請求項1に記載の免疫活性増強剤。
【請求項10】
前記抗体が、配列番号7、14、15、16、17または18のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;および配列番
号19、20、または21のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の免疫活性増強剤。
【請求項11】
前記抗原結合断片が、前記抗-CD66c抗体のscFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2である、請求項1に記載の免疫活性増強剤。
【請求項12】
請求項
1~11のいずれか一項に記載の免疫活性増強剤を含む、MDSC関連疾患または症状の予防、治療または改善用の薬学組成物
であって、
前記MDSC関連疾患が、リンパ球を除いたHLA-DR Low/(-)、CD11b+、CD33+表現型を示し、CD66cが陽性であるMDSCの細胞数が正常細胞に比べて増加された疾患である、
薬学組成物。
【請求項13】
前記T細胞、NK細胞(natural killer cell)、または制御性T細胞(regulatory T cell)の活性に対するMDSCの抑制能を調節するものである、請求項
12に記載の薬学組成物。
【請求項14】
前記MDSC関連疾患が、癌または炎症性疾患である、請求項
12に記載の薬学組成物。
【請求項15】
前記MDSC関連疾患が、クルーズ・トリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、リーシュマニア・メジャ(Leishmania major)、ヘルミンス(helminths)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、またはポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)の感染、トキソプラズマ症、または多菌性敗血症である、請求項
12に記載の薬学組成物。
【請求項16】
前記MDSC関連疾患が、胃癌、乳癌、肺癌、大腸癌、肝癌、胆嚢癌、腎臓癌、膵臓癌、甲状腺癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頚癌、膀胱癌、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia)、急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia)、急性単球性白血病(acute monocytic leukemia)、またはホジキンリンパ腫(Hodgkin’s lymphoma)、または非ホジキンリンパ腫である、請求項
12に記載の薬学組成物
【請求項17】
前記癌細胞の成長または癌転移誘導を抑制するものである、請求項
16に記載の薬学組成物。
【請求項18】
前記抗体が、MDSCで発現するCD66cおよびCD66bを認知するIgG1タイプ抗体である、請求項
12に記載の薬学組成物。
【請求項19】
前記薬学組成物が、MDSCで発現するCD66cに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片に加えて、NK細胞またはNK細胞由来細胞治療剤を追加的に含むものである、請求項
12に記載の薬学組成物。
【請求項20】
骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell、MDSC)で発現するCD66cに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含み、CD66cが陽性であるMDSCを探知する、MDSC関連疾患の診断用組成物
であって、
前記MDSC関連疾患が、リンパ球を除いたHLA-DR Low/(-)、CD11b+、CD33+表現型を示し、CD66cが陽性であるMDSCの細胞数が正常細胞に比べて増加された疾患であり、
前記抗体またはその抗原結合断片が、以下の相補性決定領域(complementarity determining region;CDRs):
配列番号1または配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号2または配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR-H2、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3、
配列番号4、配列番号11または配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L3
を含む、
診断用組成物。
【請求項21】
前記診断の試料が、対象の生体試料である、請求項
20に記載の組成物。
【請求項22】
前記抗体またはその抗原結合断片が、以下の相補性決定領域(complementarity determining region;CDRs)を含む、
請求項
20に記載の組成物
:
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3、
配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L3、
(ii)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3、
配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L3、
(iii)配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR-H2、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3、
配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L3、または
(iv)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3、
配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L3。
【請求項23】
前記MDSC関連疾患が、クルーズ・トリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、リーシュマニア・メジャ(Leishmania major)、ヘルミンス(helminths)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、またはポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)の感染、トキソプラズマ症、多菌性敗血症、胃癌、乳癌、肺癌、大腸癌、肝癌および胆嚢癌、腎臓癌、膵臓癌、甲状腺癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頚癌、膀胱癌、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia)、急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia)、急性単球性白血病(acute monocytic leukemia)、ホジキンリンパ腫(Hodgkin’s lymphoma)、または非ホジキンリンパ腫である、請求項
20に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄由来抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell、MDSC)で発現するCD66cに対する抗体またはその抗原結合断片を含む免疫活性増強剤、および前記免疫活性増強剤を用いたMDSC関連疾患の予防、治療または改善に関する用途に関するものである。具体的に、本発明は、CD66cに特異的に結合する単一クローン抗体を用いてMDSCの生成、死滅または活性を調節してMDSCの免疫抑制能を減少させる効果を誘導することによって、MDSC関連疾患の予防、治療あるいは改善用途または診断用途を提供する。
【背景技術】
【0002】
最近、癌の治療において抗体や免疫細胞ワクチンを用いた免疫療法治療に対する研究が活発に行われているが、癌細胞の免疫回避および抑制作用はこのような治療効果を阻害させる。癌細胞は自己に対する免疫反応を防ぐために各種免疫細胞の活動を低下させ、不活性樹状細胞、制御性T細胞(Treg)、腫瘍関連マクロファージ(Tumor-associated macrophage、TAM)のような免疫抑制機能を有する細胞を誘導するが、このような免疫抑制細胞の一つとして最近は骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell、MDSC)の役割が知られながら大きく注目されている。
【0003】
MDSCは、免疫抑制機能を有する骨髄由来未成熟骨髄細胞の集合と定義され、健康な個体では数が制約的であるが、慢性/急性感染、癌などの病的な状態で末梢血液、リンパ器官、脾臓、癌組織などに蓄積されると報告されている。
【0004】
MDSCは、T細胞およびNK細胞の免疫反応を抑制し、免疫抑制細胞(immunosuppressive cell)であるTreg細胞の生成を誘導することによって、癌細胞の成長を促進させ、また癌細胞の遠隔転移を誘導することもできると確認された。
【0005】
今まで知られたMDSCの免疫抑制機序は大きく4つの形態に分けられるが、第1は、リンパ球が必要とする栄養素を欠乏させる方法である。第2の形態は、酸化ストレスを形成するものであって、活性酸素や活性窒素を作ってT細胞の増殖から機能まで多様な過程を阻害する。第3は、リンパ球の移動(trafficking)と生存に影響を与える方式である。T細胞がリンパ節に再循環(recirculation)する過程を阻害したり、腫瘍の中心にT細胞が移動することを妨害したりして、T細胞死滅を誘導するなどの機序が知られている。第4は、抗原特異ナチュラルTreg(natural Treg)細胞を増殖させ、ナイーブ(naive)CD4+ T細胞をTregに転換する過程を促進すると知られている。
【0006】
MDSCの最も大きい特徴の一つは、形態、表現型、および機能において多様性を有するということである。MDSCの標識マーカとしては、Lineage(-)、HLA-DR LOW/(-)、CD11b(+)、CD33(+)が知られている。このような標識マーカは、樹状細胞、大食細胞、顆粒性白血球の前駆体細胞のような多様な異なる種類の骨髄性細胞で共通的に発現しており、MDSCは免疫抑制機能を有する骨髄性由来細胞の集合群と定義されてきた。このようなMDSCの多様性は、MDSCの起源および特性を研究するに当たり、互いに異なる分析につながって大きい混乱を与えてきた。そこで、MDSCの細部群を明らかにしようとする研究が進行されて現在MDSCは80%の多核球性(granulocytic)MDSCと20%の単核球性(monocytic)MDSCからなることが明らかになった。この二つの細胞は模様と表現型でのみ差を示すのではなく、免疫を抑制する機序も異なると明らかになったが、多核球性MDSCは活性酸素を媒介としてT細胞間の接触を通じて抗原特異的な免疫抑制を誘導する反面、単核球性MDSCは主にアルギナーゼ(arginase)の高発現および多様な免疫抑制サイトカインを媒介として免疫抑制機能を示す。
【0007】
最近、研究を通じて癌患者で作られる免疫抑制環境にMDSCの蓄積が関与することが報告されており、これはほぼ全ての癌腫で共通的に示された。MDSCが増加する程度は、癌の病期が進行されるほど大きくなるということが多くの研究を通じて裏付けられている。そこで、MDSCの増加程度を、癌患者の低い生存率と治療反応率に対する予後指標として活用しようとする研究が活発に進行中である。癌の病態生理でMDSCが重要な役割を果たしていることは明確であるように見える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一例は、MDSCで発現するCD66cに結合する抗体およびその抗原結合断片を含む免疫増強剤、免疫活性化剤、またはMDSCによる免疫抑制能を減少または除去するための組成物に関するものである。
【0009】
本発明の一例は、MDSCで発現するCD66cに結合する抗体およびその抗原結合断片を含むMDSC関連疾患の予防、治療、または改善用薬学的組成物またはその用途に関するものである。
【0010】
本発明の一例は、MDSCで発現するCD66cに結合する抗体およびその抗原結合断片をこれを必要とする対象に投与する段階を含む対象の免疫反応を増加させたり活性化させる方法を提供する。
【0011】
本発明の追加の一例は、MDSCで発現するCD66cに結合する抗体およびその抗原結合断片をMDSCと接触する段階を含む、MDSCの活性を抑制する方法に関するものである。
【0012】
また、本発明の一例は、前記免疫増強剤または免疫活性化剤を、MDSC関連疾患を有する対象に投与する段階を含む、MDSC関連疾患の予防、治療、または改善方法に関するものである。
【0013】
本発明の一例は、、MDSCで発現するCD66cに結合する抗体およびその抗原結合断片を含む免疫増強剤または免疫活性化剤を、MDSC関連疾患を有する対象に投与する段階を含む、MDSC関連疾患の予防、治療、または改善方法に関するものである。
【0014】
本発明によるMDSCで発現するCD66cに結合する抗体およびその抗原結合断片は、MDSCの免疫抑制能を除去または減少させたり、MSDCの細胞数を減少させ、具体的にMDSCの活性、生成または死滅を調節したり、死滅を誘導して達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、MDSCで発現するCD66cに結合する抗体およびその抗原結合断片を含む免疫増強用、免疫活性化用、またはMDSCによる免疫抑制能を減少または除去するための用途に関するものである。
【0016】
また、本発明の追加の一例は、MDSCで発現するCD66cに結合する抗体およびその抗原結合断片を含むMDSC関連疾患、例えば、癌、感染性疾患の予防、治療または軽減用途に関するものである。
【0017】
具体的に、MDSCで発現するCD66cに特異的に結合する抗体を用いてMDSCによる免疫抑制反応を減少させる効果を誘導することによって、MDSC関連疾患の予防または治療および診断用途に関するものである。前記抗体は、多クローン抗体または単クローン抗体であってもよく、マウス抗体、キメラ抗体またはヒト化抗体であってもよい。
【0018】
他の例は、前記抗-CD66c抗体またはその抗原結合断片を暗号化する核酸分子を提供する。
【0019】
他の例は、前記核酸分子を含む組換えベクターを提供する。前記組換えベクターは、前記核酸分子を宿主細胞で発現させるための発現ベクターとして用いることができる。
【0020】
他の例は、前記核酸分子または前記組換えベクターを含む組換え細胞を提供する。前記組換え細胞は、前記核酸分子または前記組換えベクターを宿主細胞に形質転換させて得られたものであってもよい。
【0021】
他の例は、前記抗-CD66c抗体またはその抗原結合断片の製造方法を提供する。前記製造方法は、前記核酸分子を宿主細胞で発現させる段階を含むことができる。前記発現させる段階は、前記組換え細胞を培養する段階を含むことができ、任意に、前記得られた細胞培養物から抗体を分離および/または精製する段階を追加的に含むことができる。
(a)前記核酸分子または前記組換えベクターに形質転換された組換え細胞を準備する段階;
(b)前記核酸分子の十分な発現のための条件および/または期間で前記組換え細胞を培養する段階;および
(c)前記(b)段階で得られた培養物から抗-CD66c抗体またはその抗原結合断片を分離および/または精製する段階。
【発明の具体的説明】
【0022】
以下、本発明をより詳しく説明する。
具体的な一例で、前記製造方法は、MDSCで発現するCD66cに結合する抗体およびその抗原結合断片を含む免疫増強剤、免疫活性化剤、またはMDSCによる免疫抑制能を減少または除去するための組成物に関するものである。
【0023】
MDSCは、免疫抑制機能を有する骨髄由来未成熟骨髄細胞の集合と定義され、健康な個体では数が制約的であるが、慢性/急性感染、癌などの病的な状態で末梢血液、リンパ器官、脾臓、癌組織などに蓄積されると報告されている。
【0024】
MDSCは、T細胞およびNK細胞の免疫反応を抑制し、免疫抑制細胞(immunosuppressive cell)であるTreg細胞の生成を誘導することによって、癌細胞の成長を促進させ、また癌細胞の遠隔転移を誘導することもできると確認された。今まで知られたMDSCの免疫抑制機序は、リンパ球が必要とする栄養素を欠乏させる方法、リンパ球の移動(trafficking)と生存に影響を与える方法、活性酸素や活性窒素を作ってT細胞の増殖から機能まで多様な過程を阻害する酸化ストレスを形成する方法、T細胞がリンパ節に再循環(recirculation)する過程を阻害したり、腫瘍の中心にT細胞が移動することを妨害したりして、T細胞死滅を誘導するなどの機序が知られている。また、抗原特異的ナチュラルTreg(natural Treg)細胞を増殖させ、na_ve CD4+ T細胞をTregに転換する過程を促進すると知られている。
【0025】
MDSCは、免疫抑制機能を有する骨髄由来未成熟骨髄細胞の集合と定義され、健康な個体では数が制約的であるが、慢性/急性感染、癌などの病的な状態で末梢血液、リンパ器官、脾臓、癌組織などに蓄積されると報告されている。癌腫においてMDSC蓄積と免疫抑制機能は大腸癌、繊維肉腫、胸腺種、肺癌、中皮腫、リンパ腫、前立腺癌、頭頸部癌、黒色腫などで報告された(Gabrilovich DI, et al., Coordinated regulation of myeloid cells by tumors, Nat Rev Immunol. 12(4):253-68 (2012))。MDSCは癌だけでなく、クルーズ・トリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、リーシュマニア・メジャ(Leishmania major)、ヘルミンス(helminths)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)などの感染またはトキソプラズマ症、多菌性敗血症の疾患でも蓄積されて免疫抑制を誘発すると知られている(Garbrilovich DI, et al., Myeloid-derived suppressor cells as regulators of the immune systems. Nat Rev Immunol. 9(3):162-74 (2009))。
【0026】
本明細書でMDSCは、非リンパ球性HLA-DRLow/(-)、CD11b+、およびCD33+表現型を示すものであり、前記表現型を示しながらCD66c発現するMDSCが本願発明による抗-CD66c抗体またはその抗原結合断片の標的になることができる。具体的に、本発明による組成物は、非リンパ球性HLA-DRLow/(-)、CD11b+、CD33+表現型を示すMDSCの中でCD66c陽性MDSCが蓄積された前記疾患をターゲットしてMDSCによる免疫欠乏、免疫低下または免疫損傷を改善または治療するための方案を提示する。例えば、本発明は、点図表(dot plot)で細胞の大きさによりリンパ球を除いて単核球と顆粒球領域だけを指定した後、HLA-DRの発現がないかまたは低い群を選択し、その群でCD11bとCD33に陽性であるグループをMDSCと指定することができる。
【0027】
本発明によるMDSCで発現するCD66cに結合する抗体およびその抗原結合断片または前記抗体または抗原結合断片を含む免疫増強剤を用いてMDSC関連疾患の予防、治療または改善用薬学的組成物または用途を提供することができる。
【0028】
本発明による抗-CD66c抗体によるMDSCの溶解効果を全血(whole blood)とPMBCで全てCEACAM6陽性である細胞をMDSC細胞数減少または細胞死滅を誘導することができ、好ましくはADCC方式でMDSCの細胞水減少または細胞死滅を誘導することができる。全血にはCEACAM6ターゲット抗原が陽性である好中球とMDSCが混合されており、MDSCのみを選択的に溶解したとみることは難しいが、好中球を除去して得られた末梢血液単核細胞(PBMC)に対して抗-CD66c抗体によるMDSCの選択的な溶解が可能である。
【0029】
前記MDSC関連疾患は、MDSCによる免疫抑制活性を示す疾患として、CD66c陽性であるMDSCが増加された疾患の基準である正常細胞と比較して増加した疾患であり、例えば、特定の疾患を有する対象でCD66c陽性であるMDSCの数または活性が、対応する正常対象の試料の単位体積当たりMDSCの数または活性を100%基準にする時、約200%以上、約300%以上、約500%以上、約700%以上、約1、000%以上、約1,500%以上であってもよく、例えば約200~5,000%、または200%~3,000%、200~1,500%などであってもよい。例えば、MDSC関連疾患を有すると疑われる対象および正常人の試料、血液を取って、フローサイトメーターでMSDCの試料内細胞数を分析して、MDSC関連疾患を有すると疑われる対象のMDSCの細胞数が正常人の細胞数と比較して増加の有無を決定する。具体的に、試料(例、血液)の単位体積当たりMSDC細胞の数が正常人に比べて増加した場合であってもよく、正常対象の試料の単位体積当たりMDSCの数または活性を100%基準にする時、約200%以上、約300%以上、約500%以上、約700%以上、約1,000%以上、約1,500%以上であってもよく、例えば約200~5,000%、または200%~3,000%、200~1,500%などであってもよい。
【0030】
具体的なMDSCは、例えば非リンパ球性HLA-DR Low/(-)、CD11b+、CD33+表現型を示すMDSCの中でCD66c陽性MDSCが増加されたまたは蓄積された疾患または前記MDSC細胞数が正常細胞数に比べて増加した疾患であってもよい。前記MDSC関連疾患の例は、慢性/急性感染および癌などを含み、具体的にMDSCによる免疫抑制能を示す慢性/急性感染および癌であってもよく、例えば非リンパ球性HLA-DRLow/(-)、CD11b+、CD33+表現型を示すMDSCの中でCD66c陽性MDSCが蓄積された疾患、またはMDSCの中でCD66c陽性MDSCが蓄積された感染疾患および癌などを含む。
【0031】
前記MDSC関連感染疾患は、クルーズ・トリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、リーシュマニア・メジャ(Leishmania major)、ヘルミンス(helminths)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)などの感染またはトキソプラズマ症、多菌性敗血症の疾患であってもよい。
【0032】
例えば、前記MDSC関連癌は、CD66c陽性であるMDSCが増加された癌であってもよく、固形癌および血液癌を含み、前記固形癌の例は、大腸癌、繊維肉腫、胸腺種、肺癌、中皮腫、リンパ腫、前立腺癌、頭頸部癌、黒色腫、胃癌、肝癌、または乳癌であってもよく、好ましくは大腸癌、胃癌または肝癌であってもよい。前記癌および癌転移の予防、抑制、または治療用途は例えば、癌細胞成長を抑制することができる。前記血液癌(hematopoietic malignancy)の例は急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia)、急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia)、急性単球性白血病(acute monocytic leukemia)、またはホジキンリンパ腫(Hodgkin’s lymphoma)、非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin’s lymphoma)であってもよい。
【0033】
本発明は、MDSCで発現するCD66cに結合する抗体およびその抗原結合断片に関するものであって、CD66c(Cluster of Differentiation 66c)は、CEACAM 6(carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule 6)またはNCA(non-specific cross-reacting glycoprotein antigen)-90としても知られた蛋白質であり、細胞接着(cell adhesion)と関連した重要な蛋白質と知られており、これに限定されないが、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列(Genbank Protein No.AAH05008)で表示され得る。
【0034】
本明細書で“抗体”とは、免疫系内で抗原の刺激により作られる物質を意味するものであって、その種類は特に制限されない。前記抗体は、非自然的に生成されたもの、例えば、組換え的または合成的に生成されたものであり得る。前記抗体は、動物抗体(例えば、マウス抗体など)、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であり得る。前記抗体は、単クローン抗体または多クローン抗体であり得る。
【0035】
前記抗-CD66c抗体または抗原結合断片は、先に説明したCD66cの特定の抗原決定部位に特異的に結合するものであって、動物抗体(例えば、マウス抗体)、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびこれらの抗原結合断片からなる群より選択されたものであり得る。前記動物抗体は、ヒト以外の動物種に由来したものであってもよく、例えば、ラット、マウス、ヤギ、モルモット、ロバ、ウサギ、馬、ラマ、ラクダ、鳥類(例えば、鶏、鴨など)などに由来したものであり得るが、これに限定されるのではない。このような動物抗体からキメラ抗体および/またはヒト化抗体を製作する技術は関連技術分野によく知られている。前記ヒト化抗体は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA、IgD、IgEまたは任意のサブクラス(subclass)のような任意の適したアイソタイプであってもよく、好ましくはIgG1またはIgG2アイソタイプであってもよく、より好ましくは脱フコース化されたIgG1またはIgG2アイソタイプであってもよい。
【0036】
また本明細書で抗体は、特別な言及がない限り、抗原結合能を保有する抗体の抗原結合断片も含むものと理解され得る。本明細書で“相補性決定領域(Complementarity-determining regions、CDR)”とは、抗体の可変部位の中で抗原との結合特異性を付与する部位を意味する。先に説明した抗体の抗原結合断片は、前記相補性決定領域を一つ以上含む抗体断片であり得る。用語、“CDR(complementarity determining region)”は免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の高可変領域(hypervariable region)のアミノ酸配列を意味する。重鎖および軽鎖はそれぞれ3つのCDRを含むことができる(CDRH1、CDRH2、CDRH3およびCDRL1、CDRL2、CDRL3)。前記CDRは抗体が抗原またはエピトープに結合することにおいて主要な接触残基を提供することができる。一方、本明細書において、用語“特異的に結合”または“特異的に認識”は、当業者に通常公知されている意味と同一なものであって、抗原および抗体が特異的に相互作用して免疫学的反応をすることを意味する。
【0037】
用語、“抗原結合断片”は、免疫グロブリン全体構造に対するその断片であって、抗原が結合できる部分を含むポリペプチドの一部を意味する。例えば、scFv、(scFv)2、scFv-Fc、Fab、Fab’またはF(ab’)2であってもよいが、これに限定されない。
【0038】
本発明による抗-CD66cは、CD66cを特異的に認識および/または結合し、抗体はマウス抗体、キメラ抗体またはヒト化抗体を含む。本発明でキメラ抗体は、可変領域配列が一つの種に由来し、不変領域配列が他の種に由来した抗体、例えば、可変領域配列がマウス抗体に由来し、不変領域配列がヒト抗体に由来した抗体を意味する。本発明でヒト化抗体とは、ヒトで免疫性が少ないながら非ヒト抗体の活性を保有する抗体を意味する。これは、例えば、非ヒトCDR領域を維持させ、抗体の残りの部分をヒト対応部(counterparts)で置換することによって製造できる。例えば、下記文献が参照される:Morrison et al, Proc. Natl. Acad. ScL USA, 81:6851-6855(1984); Morrison and Oi, Adv. Immunol., 44:65-92 (1988); Verhoeyen et al, Science, 239:1534-1536 (1988); Padlan, Molec. Immun., 28:489-498 (1991); Padlan, Molec. Immun., 31(3):169-217 (1994)。
【0039】
本発明で抗体切片は、抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)を含んでCD66cエピトープを選択的に認識することができるものであればこれに制限がないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、dsFvおよびCDRからなる群より選択されたものであり得る。特に、前記scFvは、前記重鎖可変部位(VH)および軽鎖可変部位(VL)をリンカーポリペプチドで連結して単鎖(single chain)に作った抗体切片である。
【0040】
用語“ヒンジ領域(hinge region)”は、抗体の重鎖に含まれている領域として、CH1およびCH2領域の間に存在し、抗体内抗原結合部位の柔軟性(flexibility)を提供する機能をする領域を意味する。例えば、前記ヒンジは、ヒト抗体に由来したものであってもよく、具体的に、IgA、IgE、またはIgG、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4に由来したものであってもよい。
【0041】
抗-CD66c抗体は、多クローン抗体または単クローン抗体であってもよく、例えば、単クローン抗体であってもよい。単クローン抗体は、当業界に広く知られた方法の通り製造され得る。例えば、ファージディスプレイ(phage display)技法を用いて製造され得る。
【0042】
前記ヒト化抗体は、マウス抗体やキメラ抗体とは異なり、人体投与時、免疫原性の原因を大幅減らす差別性以外にも、安定性の面でキメラ8F5抗体より10倍以上の高い安定性を示した。具体的には、高い温度、例えば温度62℃でANS結合による蛍光値変異率が200%未満で、安定性が高い。
【0043】
具体的な苛酷条件で抗体物性の変異によりキメラ8F5抗体は1,406%のANS反応性変化を示した反面、ヒト化抗体は114%、133%程度の相対的に微小な変化を示して非常に蛋白質の面で安定化されたことが分かる。
【0044】
前記キメラ8F5およびヒト化抗体はT細胞の活性化を増加させ、これはT細胞活性因子による活性化増大および互いに異なるヒトの同種樹状細胞とT細胞の混合によるT細胞活性条件でも活性増大を示す場合が挙げられる。このようなT細胞活性化誘導は癌細胞との共同培養時に癌細胞の死滅を誘導し、多様な癌細胞と共同培養条件でT細胞活性化を誘導する場合が挙げられる。
【0045】
本発明による抗体またはその断片は、腫瘍退縮(tumor regression)活性および腫瘍細胞株に対して直接的な抑制効果を有する。本明細書で腫瘍の退縮は腫瘍大きさの減少および/または腫瘍細胞の成長阻害、中断または減少などを誘導または促進することを含む。腫瘍の大きさ減少は例えば、本発明の抗体またはその断片を含む組成物を処理する前を100%を基準にして、前記抗体またはその断片を含む組成物を投与した場合に得られた腫瘍の大きさが97%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下の大きさを有する場合などが挙げられる。
【0046】
本発明による抗体は、抗体-依存性細胞介在性細胞毒性(ADCC、Antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)と補体系依存細胞毒性(CDC、complement-dependent cytotoxicity)を有し、好ましくはADCC特性を有する。
【0047】
本発明による抗体またはその抗原結合断片は、ナチュラルキラー(natural killer)細胞またはNK細胞由来細胞治療剤を併用してMDSC関連疾患を改善または治療することができる。
【0048】
具体的に、本発明による抗-CD66c抗体は、癌細胞殺害能がナチュラルキラー細胞との併用により増加し、これによって、CEACAM6陽性である癌細胞だけでなく、またCEACAM6陽性であるMDSCの効果的な除去のためにNK細胞またはNK細胞治療剤との併用処理の効果に優れている。
【0049】
具体的な実験として、EZ-cytox enhanced cell viability kit(Daeil Lab)を用いて細胞生存率を測定した結果、2種の癌細胞株の全てでナチュラルキラー細胞の併用による細胞死滅効果が単独処理時に比べて増加すると確認された(
図12aおよび
図12b)。本発明による抗-CD66c抗体によるMDSCの選択的溶解結果とNK細胞またはNK細胞治療剤の併用効果を通じて、CEACAM6陽性である癌細胞およびCEACAM6陽性であるMDSCを全て標的にして除去することができる。本発明による抗-CD66c抗体は、それぞれMDSCと癌細胞で、他の標的細胞に対してADCCを示すが、実際2種類の細胞が共に増加されている癌患者の場合、本発明による抗-CD66c抗体で2種類の標的を同時に除去することができ、またNK細胞治療剤との併用で癌細胞およびMDSC標的を同時除去する効能がより向上する。
【0050】
本発明による抗体は、抗体に結合された糖残基であるFUCOSEを一部または全部除去したものであってもよい。本発明によるフコース除去抗体は、MDSCの細胞死滅効果を有し、一例で本発明による抗体は、低フコース形態または脱フコース(defucose)形態の抗体がfucose形態の抗体に比べてMDSC殺傷に対する効能に優れて免疫活性増強効能が大きい。本明細書に使用されるように、“正常フコース”または“正常フコース含有量”はフコース含有量が典型的に90%以上である抗体を指称するす。本発明による低フコースまたは脱フコース形態の抗体は、フコース含有量が約10%以下である抗体、約7%以下、または約5%以下であってもよく、例えば0~約10%、0~約7%、または0~約5%範囲であってもよい。
【0051】
具体的に、本発明に適用される抗体は、以下の相補性決定領域(complementarity determining region;CDRs)を含む、抗-CD66c抗体またはその抗原結合断片であり得る:
配列番号1または配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号2または配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR-H2、
配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3、
配列番号4、配列番号11または配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
配列番号6または配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L3である。
【0052】
前記抗体の重鎖可変領域は、配列番号22、23、24、25、26または27のアミノ酸配列を含むフレームワーク(V-FR1)、配列番号32、33、34、35、36または37のアミノ酸配列を含むフレームワーク(V-FR2)、配列番号42、43、44、45、46または47のアミノ酸配列を含むフレームワーク(V-FR3)、および配列番号52、53、54、55、56または57のアミノ酸配列を含むフレームワーク(V-FR4)からなる群より選択された少なくとも一つのフレームワークを含むものである抗-CD66c抗体またはその抗原結合断片であり得る。
【0053】
前記抗体の軽鎖可変領域は、配列番号28、29、30または31のアミノ酸配列を含むフレームワーク(L-FR1)、配列番号38、39、40または41のアミノ酸配列を含むフレームワーク(L-FR2)、配列番号48、49、50、または51のアミノ酸配列を含むフレームワーク(L-FR3)、および配列番号58、59、60または61のアミノ酸配列を含むフレームワーク(L-FR4)からなる群より選択された少なくとも一つのフレームワークを含むものである抗-CD66c抗体またはその抗原結合断片であり得る。
【0054】
前記抗体は、配列番号7、14、15、16、17または18のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;および配列番号8、19、20、または21のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗-CD66c抗体またはその抗原結合断片であり得る。
【0055】
本発明によるマウス抗体またはキメラ抗体の一例は、配列番号1~3のアミノ酸配列を含むVH領域のCDRを決定するアミノ酸配列および配列番号4~6のアミノ酸配列を含むVL領域のCDRを決定するアミノ酸配列からなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を含む抗体またはその抗原結合断片であり得る。前記マウス抗体またはキメラ抗体の一例によるCDR配列と可変領域配列を下記表1に整理する。
【0056】
具体的に、本発明の抗体の一例は、VH領域のCDRを決定するアミノ酸配列として配列番号1(CDR1)、配列番号2(CDR2)および配列番号3(CDR3)および/またはVL領域のCDRを決定するアミノ酸配列である配列番号4(CDR1)、配列番号5(CDR2)および配列番号6(CDR3)のアミノ酸配列を含む。
【0057】
前記マウス抗体またはキメラ抗体は、配列番号7のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号8のアミノ酸配列を含むVL領域を含むものであり得る。
【0058】
本発明によるマウス抗体またはキメラ抗体を有効性分として含むMDSC関連疾病またはその症状の改善、予防または治療用薬学組成物、キットまたは治療方法に関するものである。
【0059】
本発明によるマウス抗体またはキメラ抗体、例えば寄託番号KCLRF-BP-00230のハイブリードマから生産された抗-CD66c抗体のCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む抗-CD66c抗体またはその抗原結合断片を含むMDSC関連疾病またはその症状の予防または治療用薬学組成物に関するものである。前記ハイブリードマ細胞は、韓国細胞株銀行(Korean Cell Line Research Foundation、KCLRF)に‘8F5’として2010年2月22日付で寄託番号KCLRF-BP-00230で寄託されたものであり、KR10-1214177登録公報に詳しく記載されている。
【0060】
本発明は、前記マウス抗体またはキメラ抗体を用いて抗-CD66c抗体8F5のアミノ酸配列とヒト抗体配列をフレームワーク配列に基づいて製造する。ヒト化組換え抗体候補の中から発現程度と凝集(aggregation)有無、細胞結合程度を基準にして、ヒト化候補抗体の中から、発現が正常に行われ、蛋白質自体の不安定性により形成される凝集(aggregation)が少なく、またターゲット抗原陽性の細胞に結合する能力がキメラ抗体と類似したヒト化抗体候補を選別する。具体的に細胞結合様相はキメラ抗体と類似した水準であって、抗体陽性率(%gated)と蛍光平均値(mean)をかけ、これをキメラ抗体と相対比較して±20%範囲内に含まれる候補抗体を選別する。したがって、本発明で選定された抗体群は通常ヒト化抗体生成時、ヒト化抗体のフレームワーク領域(Framework region)にマウス抗体CDR部位配列を挿入した時に元の蛋白質構造の変更で抗体結合力が急激に低下するという結果を考慮した時、非常に優れたヒト化抗体を選別したと言える。
【0061】
好ましくは、キメラ抗体と比較して細胞結合力を基準にして高い結合力を示す5種類のヒト化組換え抗体を選択し、これらをELISA方法でCD66c抗原および類似CD66抗原に対する結合力分析を実施する。
【0062】
また、本願発明によるヒト化抗体は、キメラ抗体に比べて優れた安定性を示し、例えばANS反応性変異%が200%未満で安定した抗体であり、200%未満は変化が非常に微小であると見なされ、それ以上は有意義な蛋白質構造変更が行われてANS反応性が観察されたと解釈され得る。したがって、本発明によるヒト化抗体は、キメラ抗体と比較して類似した抗原結合力および細胞結合力を有し、抗体蛋白質自体の物理的安定性が増加し、このような事実は治療用抗体のドラッガビリティ(druggability)の面で非常に優れた特徴と言える。
【0063】
ANS試薬に対する抗体の蛍光値変異率は、低温条件(例、4℃)で測定した蛍光値と、高温条件(例、62℃)で測定した蛍光値との差(difference)を、低温条件で測定した蛍光値で割った値を意味する。
[数式]
蛍光値変異率=(高温条件で測定した蛍光値-低温条件で測定した蛍光値)/(低温条件で測定した蛍光値)
【0064】
具体的な抗体蛍光値変異率を得る方法として、冷蔵条件(4℃)および62℃温度でそれぞれ4時間放置した後にANS試薬反応性を蛍光リーダーで分析して蛍光値で表示し、前記数式を用いて蛍光値変異率を測定することができる。
【0065】
本発明によるヒト化抗体の一例は、配列番号9~13のアミノ酸配列を含む重鎖または軽鎖可変領域のCDRを決定するアミノ酸配列からなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を含むことができ、追加的にマウス抗体またはキメラ抗体の一例は、配列番号1~3のアミノ酸配列を含むVH領域のCDRを決定するアミノ酸配列および配列番号4~6のアミノ酸配列を含むVL領域のCDRを決定するアミノ酸配列からなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を含む抗体であり得る。
【0066】
具体的に、ヒト化抗体の一例は、配列番号1または9のアミノ酸配列を含むVH領域のCDR1を決定するアミノ酸配列、配列番号2または10のアミノ酸配列を含むVH領域のCDR2を決定するアミノ酸配列、配列番号3のアミノ酸配列を含むVH領域のCDR3を決定するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域であり得る。
【0067】
またヒト化抗体の一例は、配列番号4、11または12のアミノ酸配列を含むVL領域のCDR1を決定するアミノ酸配列、配列番号5のアミノ酸配列を含むVL領域のCDR2を決定するアミノ酸配列、配列番号6または配列番号13のアミノ酸配列を含むVL領域のCDR3を決定するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域であり得る。
【0068】
ヒト化抗体の一例は、配列番号7および配列番号14~18のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域からなる群より選択された重鎖可変領域と、配列番号8および配列番号19~21のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域からなる群より選択された軽鎖可変領域を含むことができ、但し、配列番号7および配列番号8を含む抗体は除外される。
【0069】
前記ヒト化抗体の一例によるCDR配列と可変領域配列を下記表1に整理する。
【表1】
【0070】
本発明によるヒト化抗体の一例のフレームワーク配列を下記表2および3に示し、前記抗体は、重鎖可変領域のフレームワーク1~4、および軽鎖可変領域のフレームワーク1~4からなる群より選択された1種以上のフレームワークを含む抗体であり得る。
【0071】
具体的に、重鎖可変領域でフレームワーク1のアミノ酸配列は配列番号23~27を含むことができ、フレームワーク2のアミノ酸配列は配列番号32~37を含むことができ、フレームワーク3のアミノ酸配列は配列番号43~47を含むことができ、およびフレームワーク4のアミノ酸配列は配列番号53~57を含むことができる。
【0072】
軽鎖可変領域でフレームワーク1のアミノ酸配列は配列番号29~31を含むことができ、フレームワーク2のアミノ酸配列は配列番号39~41を含むことができ、フレームワーク3のアミノ酸配列は配列番号49~51を含むことができ、およびフレームワーク4のアミノ酸配列は配列番号59~61を含むことができる。前記ヒト化抗体の一例によるフレームワーク配列を下記表に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
前記ヒト化抗体は、配列番号14~18のアミノ酸配列からなる群より選択されるVH領域および配列番号19~21のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含むものであり得る。具体的に、前記ヒト化抗体の例は、配列番号15のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号21のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含む抗体(Vk8+VH6)、配列番号18のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号21のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含む抗体(Vk8+VH11)、配列番号16のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号19のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含む抗体(Vk5+VH7)、配列番号17のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号20のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含む抗体(Vk7+VH6)、配列番号15のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号20のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含む抗体(Vk7+VH10)、配列番号16のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号20のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含む(Vk7+VH7)、配列番号14のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号20のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含む抗体(Vk7+VH5)、および配列番号16のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号21のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含む抗体(Vk8+VH7)であり得る。前記抗体の具体的な組み合わせおよびアミノ酸配列は、下記表6に示す。前記抗体の好ましい一例は、配列番号15のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号21のアミノ酸配列を含むVL領域を含む抗体(Vk8+VH6)、配列番号18のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号21のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含む抗体(Vk8+VH11)、配列番号16のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号19のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含む抗体(Vk5+VH7)、配列番号17のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号20のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含む抗体(Vk7+VH6)、配列番号15のアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号20のアミノ酸配列からなる群より選択されたVL領域を含む抗体(Vk7+VH10)であり得る。
【0076】
CD66C抗体または抗体切片は、多様な標識基(labeling agent)、毒性物質または抗腫瘍剤と結合することができる。当該技術分野において周知方法により本発明の抗体は前記標識基、毒素、または抗腫瘍剤と結合できることは当業者に明らかである。このような結合は、抗体または抗原の発現後、付着部位に化学的に行うことも可能であり、あるいはDNAレベルで本発明の抗体または抗原内に結合産物を操作して入れてもよい。次いで、本明細書において以下に記載する適切な宿主系においてDNAを発現させ、そして発現させた蛋白質を回収して、必要によって再生させる。結合は当該技術水準において知られたリンカーを通じて達成してもよい。特にこの技術と共に酸性条件あるいは還元条件下でまたは特定のプロテアーゼに対する露出時に毒素または抗腫瘍剤を放出する、多様なリンカーを用いることができる。特定の様態においては標識基、毒素、または抗腫瘍剤を多様な長さのスペーサアームにより結合させ、潜在的な立体障害を減少させることが好ましい場合もある。
【0077】
CD66cの抗原決定部位に対する抗体または抗体切片は、CD66c蛋白質、CD66cの抗原決定部位、CD66cの抗原決定部位を含むCD66c蛋白質一部、またはCD66cの抗原決定部位を発現する細胞を抗原として用いて通常の方法で製造可能である。一例として、CD66c抗体製造方法は、(a)CD66c蛋白質、CD66cの抗原決定部位、CD66cの抗原決定部位を含むCD66c蛋白質一部、またはCD66cの抗原決定部位を発現する細胞を動物に注入して免疫化させる段階、(b)CD66cに特異的な抗体を生産する脾臓細胞を収得する段階および(c)前記脾臓細胞を骨髄腫細胞と融合させて、CD66cに対する抗体を生産するハイブリードマ細胞を選別する段階を含むCD66c抗体を生産する生産株製造方法を通じて実施可能である。前記生産株は、生体外(in vitro)で培養するか、生体内に注入して抗体を分離することができる。一例として、マウスの腹腔内に挿入して腹水から分離、精製する。単クローン抗体の分離および精製は、培養上澄液または腹水をイオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52など)、抗免疫グロブリンカラムまたはプロテインAカラムなどのアフィニティークロマトグラフィーを用いて実施することができる。
【0078】
本発明による抗体が結合する抗原決定部位は、MDSC特異的な発現を示す。したがって、抗-CD66c抗体はMDSCの検出に有用に使用できるだけでなく、毒性物質を含ませてMDSCだけを特異的に細胞殺傷(cytotoxicity)させることができる。
【0079】
他の例は、本発明による抗体のCD66cを含むMDSCの検出のためのマーカとしての用途を提供し、そこで、CD66cに対する抗体またはその抗原結合断片を用いてMDSC検出およびMDSC関連疾患の診断用途または診断の情報を提供する用途で使用され得る。
【0080】
例えば、CD66cに対する抗体またはその抗原結合断片を用いて前記抗体の抗原決定部位と相互作用する物質を含むMDSCの検出用組成物を提供する。前記相互作用する物質は、CD66cに位置する抗原決定部位と相互作用可能な全ての物質、例えば、化学物質(small molecular chemical)、抗体、抗体の抗原結合断片、アプタマーなどからなる群おり選択された1種以上であり得る。
【0081】
本発明の診断組成物は、多様な細胞、組織または他の適切な試料における、CD66cの好ましくない発現または過剰発現の検出として、試料を本発明の抗体と接触させることおよび試料においてCD66cの存在を検出することを含む検出に有用である。したがって、本発明の診断組成物を以下で定義する発病または疾患状態を評価するために用いてもよい。特にCD66cを発現する、MDSCを本発明の抗体、抗体断片または誘導体でターゲッティングしてもよい。本発明の抗体が結合した細胞は、したがって補体系などの免疫系機能によって、または細胞介在性細胞毒性によって攻撃され、したがって、CD66cの好ましくない発現または過剰発現を示す細胞の数が減少するか、またはこのような細胞が死滅する。
【0082】
具体的な例として、本発明によるCD66cに対する抗体またはその抗原結合断片を用いたMDSC関連疾患の診断方法または診断用組成物を提供する。
【0083】
MDSC関連疾患、例えば癌を診断するために、本発明によるCD66cに対する抗体またはその抗原結合断片を用いる場合、癌組織または癌細胞の自体でのCEACAM6抗原発現と関係なく癌組織周辺の浸潤されたMDSCを標的にして診断および治療に活用することができる。本発明によるCD66cに対する抗体は固形癌細胞で発現するCD66cに結合するだけでなく、固形癌でCD66cを発現しない癌でも、癌によるMDSC増加状態をMDSCで発現するCD66cを標的にして探知して癌を探知することができる。具体的に、癌細胞でCEACAM6が陽性である肺腺癌(lung adenocarcinoma)と癌細胞自体ではCEACAM6が陰性である扁平上皮癌(lung squamous cell carcinoma)、泌尿器系癌(Urinary bladder cancer)および皮膚癌(Melanoma malignancy)組織にCEACAM6免疫そめた結果、癌組織の非腫瘍部位にCEACAM6陽性であるMDSCがあることを確認した(
図13)。
【0084】
したがって、癌細胞の細胞表面のCEACAM6陽性度と関係なく、癌患者ではMDSCが増加する傾向を示し、これは実施例8の結果のように微細腫瘍環境に浸潤されているMDSCを検出して確認できる。これはMDSCを選択的に溶解可能であることを示した実施例5.2の結果と共に考慮した時、癌細胞上のCEACAM6陽性度と関係なくMDSCを標的にして診断および治療目的に使用できることを示す。癌種により癌細胞の細胞表面のCEACAM6発現有無は異なり得るが、これと関係なく大部分の癌種でMDSCは増加するため、本願発明によるCD66c抗体を用いてMDSCを標的治療を通じて大部分の癌種を対象にした汎用の診断および治療的目的で用いることができる。
【0085】
本発明の一様態においては本発明の抗体、抗体断片または誘導体を標識基に結合させる。このような抗体は診断アプリケーションに特に適合する。
【0086】
本発明による組成物は、単独活性薬剤として投与することができ、または他の薬剤と組み合わせて投与することができる。
【0087】
MDSC検査方法は、(a)CD66c抗体をMDSCを含む試料に反応させ、(b)前記抗体に対して陽性反応を示す試料をMDSCと判断することである。前記試料は、リンパ液、骨髄、血液または血球であってもよいが、これに限定されるのではない。前記CD66c抗体を用いてMDSC関連疾患を検査する場合、前記CD66c抗体は、抗原-抗体反応性を確認できる物質で標識されたものであり得る。使用可能な前記物質としては、放射性同位元素、蛍光物質、発光物質、クロモゲン(chromogen)、またはその他染色物質などがある。
【0088】
また本発明のCD66c抗体は、MDSC疾患を診断するための診断キットとして提供されてもよい。前記診断キットは、CD66c抗体以外に、抗原-抗体反応検出手段を含むことができる。前記検出手段は、フローサイトメトリー、免疫組織化学染色、酵素結合免疫吸着分析(enzyme linked immunosorbent assay:ELISA)、放射線免疫測定法(radioimmunoassay:RIA)、酵素免疫分析(enzyme immunoassay:EIA)、蛍光免疫分析(Floresence immunoassay:FIA)および発光免疫分析(luminescence immunoassay:LIA)からなる群より選択された方法を実施するための通常の物質であり得る。
【0089】
前記固形癌の治療効果は、癌細胞(特に、癌幹細胞)またはこれを含む癌組織の成長抑制(量的減少)、死滅(apoptosis)効果だけでなく、移動(migration)、浸湿(invasion)、転移(metastasis)などを抑制し、これによる癌の悪化を抑制する効果を含む。本発明による抗体は、STING agonistまたは5-Fuと併用処理して効果を極大化するために、本発明の抗体と併用処理時により高い効果を得ると期待できる。
【0090】
本明細書で、“対象”または“患者”は、MDSC関連疾患の軽減、予防および/または治療を必要とする患者を意味するものであって、全ての哺乳類、例えば人間、猿などの霊長類、マウス、ラットなどのげっ歯類であってもよく、MDSC関連疾患を患っているか、MDSC関連疾患の症状を有するか、MDSC関連疾患発病の危険がある患者であってもよい。
【0091】
本発明による抗体あるいは抗体切片の投与は、許容された全ての薬物投与方法により施行できる。具体的に例えば、CD66c抗体を有効性分として含む治療剤をMDSC関連疾患を有する対象、つまり、人間または動物に経口または非経口、好ましくは非経口で投与することである。前記治療剤は薬理学的に許容可能な賦形剤を含んでもよく、その投与量は患者の状態により適切に調節することが好ましいが、一例として、1日3mg~6,000mgであってもよい。治療剤の剤型は、液剤、散剤、乳剤、懸濁剤または注射剤であってもよいが、これに限定されるのではない。
【0092】
本発明は、CD66c抗原決定部位に対する抗体、抗体切片(F(ab’)2、FabおよびFvなど)、およびリガンドからなる群より選択された抗体を用いてMDSC関連疾患を治療する方法を提供する。抗体あるいは抗体切片は、好ましくは単クローンまたは多クローン抗体からなる群より選択され、好ましくはヒトと動物で由来したものである。前記CD66c抗体または抗体切片は、前記で言及した毒素物質がさらに含まれたものであってもよい。毒素物質は、抗体に融合、接合、結合、またはリンクされてもよく、これは公知の技術で実施可能である。
【0093】
本発明の医薬組成物は、単独活性薬剤として投与してもよく、またはその他薬剤と組み合わせて、好ましくは当該技術分野において問題の疾患の治療に適したものが知られているものと組み合わせて投与してもよい。また、本発明の抗体を投与する方法は、他の抗癌治療、例えば化学的療法、放射線療法、細胞治療剤と並行して行うことができる。前記化学的療法または細胞治療剤に使用される多様なMDSC関連疾患を治療と知られた治療剤を使用することができる。
【発明の効果】
【0094】
本発明は、骨髄由来抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell、MDSC)で発現するCD66cに対する抗体またはその抗原結合断片を含む免疫活性増強剤、および前記免疫活性増強剤を用いたMDSC関連疾患の予防、治療または改善に関する用途を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【
図1】マウス8F5抗体から抗体遺伝子をクローニングしてキメラ組換え抗体で発現させて、CD66c抗原陽性であるA549細胞表面に結合することを示す結果である。
【
図2a】96種のヒト化組換え抗体の中から1次選定された8種のヒト化組換え抗体に対するHPLC分析結果であって、各抗体別に左側OD220nm、右側OD280nm分析した結果を示している。抗体の凝集(aggregation)および切片などの抗体由来不純物を含むか否かを示す結果である。
【
図2b】96種のヒト化組換え抗体の中から1次選定された8種のヒト化組換え抗体に対するHPLC分析結果であって、各抗体別に左側OD220nm、右側OD280nm分析した結果を示している。抗体の凝集(aggregation)および切片などの抗体由来不純物を含むか否かを示す結果である。
【
図2c】96種のヒト化組換え抗体の中から1次選定された8種のヒト化組換え抗体に対するHPLC分析結果であって、各抗体別に左側OD220nm、右側OD280nm分析した結果を示している。抗体の凝集(aggregation)および切片などの抗体由来不純物を含むか否かを示す結果である。
【
図3a】96種のヒト化組換え抗体の中から1次選定された8種のヒト化組換え抗体に対するCD66c抗原陽性細胞表面結合を確認した結果であって、キメラ抗体と比較して類似した程度の細胞表面結合を示す。
【
図3b】96種のヒト化組換え抗体の中から1次選定された8種のヒト化組換え抗体に対するCD66c抗原陽性細胞表面結合を確認した結果であって、キメラ抗体と比較して類似した程度の細胞表面結合を示す。
【
図3c】96種のヒト化組換え抗体の中から1次選定された8種のヒト化組換え抗体に対するCD66c抗原陽性細胞表面結合を確認した結果であって、キメラ抗体と比較して類似した程度の細胞表面結合を示す。
【
図3d】96種のヒト化組換え抗体の中から1次選定された8種のヒト化組換え抗体に対するCD66c抗原陽性細胞表面結合を確認した結果であって、キメラ抗体と比較して類似した程度の細胞表面結合を示す。
【
図3e】96種のヒト化組換え抗体の中から1次選定された8種のヒト化組換え抗体に対するCD66c抗原陽性細胞表面結合を確認した結果であって、キメラ抗体と比較して類似した程度の細胞表面結合を示す。
【
図4a】96種のヒト化組換え抗体の中から選定された5種のヒト化組換え抗体に対するCD66c抗原に対する結合力をELISA通じて確認した結果であって、
図4aはCECACAM6(CD66c)抗原に対する結果であり、
図4bはCEACAM1(CD66a)抗原に対する結果である。
【
図4b】96種のヒト化組換え抗体の中から選定された5種のヒト化組換え抗体に対するCD66c抗原に対する結合力をELISA通じて確認した結果であって、
図4aはCECACAM6(CD66c)抗原に対する結果であり、
図4bはCEACAM1(CD66a)抗原に対する結果である。
【
図5a】96種のヒト化組換え抗体の中から選定された5種のヒト化組換え抗体に対する苛酷温度条件での抗体安定性を確認した結果である。
【
図5b】96種のヒト化組換え抗体の中から選定された5種のヒト化組換え抗体に対する苛酷温度条件での抗体安定性を確認した結果である。
【
図6a】CHOで発現させたヒト化組換え抗体のCD66c抗原陽性細胞A549の細胞表面結合を示す結果である。
【
図6b】CHOで発現させたヒト化組換え抗体のCD66c抗原陽性細胞A549の細胞表面結合を示す結果である。
【
図6c】CHOで発現させたヒト化組換え抗体のCD66c抗原陽性細胞A549の細胞表面結合を示す結果である。
【
図6d】CHOで発現させたヒト化組換え抗体のCD66c抗原陽性細胞A549の細胞表面結合を示す結果である。
【
図7】上段はMDSC分析方法に対する理解を助けるための模式図であって、点図表(dot plot)で細胞の大きさによりリンパ球を除いて単核球と顆粒球領域のみを指定した後に、HLA-DRの発現がないかまたは低い群を選択し、その群よりCD11bとCD33に陽性であるグループをMDSCで特定した点図表模式図であり、下段は指定されたMDSC群よりDNP002の陽性率を確認した結果である。
【
図8】DNP002処理後、MDSC死滅効果を分析した代表的な結果であって、脱フコースDNP002によりMDSCが顕著に減少したことを示す。CD66bは多核球性(granulocytic)MDSCで発現するが、単核球性(monocytic)MDSCで発現しないため、MDSC亜型区分に使用する。
図8で特定のMDSCの大部分はCD66b陽性であるため、多核球性MDSCと区分でき、DNP002処理により多核球性MDSCが顕著に減少した。
【
図9】5人の患者で脱フコースDNP002処理後、MDSC死滅効果を分析したものであって、5人の患者の全てでDNP002によりMDSC群の数が対照群と比較して減少することを百分率で比較して示す結果として、グラフで横軸に記載されたP#1はpatient’s whole blood #1を意味し、縦軸は相対的なMDSC viability%変化を意味する。
【
図10】胃癌患者の血液で分離されたPBMCにDNP002抗体を処理した後、MDSC死滅効果をフローサイトメーターを用いて分析した結果を示す。
【
図11a】DNP002のisotypeによるMDSC死滅効果を比較した結果であって、脱フコース(afucosylated)IgG1タイプのDNP002が血液内MDSC死滅を最も効果的に誘発する現像を確認した結果である。
【
図11b】5人の胃癌患者でDNP002のisotypeによるMDSC死滅効果を比較した結果であって、患者の全てで脱フコース(afucosylated)IgG1タイプのDNP002が血液内MDSC死滅を最も高く示したことを対照群と比較して百分率で比較して示す結果として、グラフで横軸に記載されたP#1はpatient’s whole blood #1を意味し、縦軸は相対的なMDSC viability%変化を意味する。
【
図12a】DNP002のターゲット抗原であるCEACAM6が陽性である胃癌細胞株A549と膵臓癌細胞株AsPC-1にDNP002抗体単独、NK細胞単独、およびDNP002抗体とNK細胞の併用条件で分析した細胞死滅効果に対する結果である。
【
図12b】DNP002のターゲット抗原であるCEACAM6が陽性である胃癌細胞株A549と膵臓癌細胞株AsPC-1にDNP002抗体単独、NK細胞単独、およびDNP002抗体とNK細胞の併用条件で分析した細胞死滅効果に対する結果である。
【
図13】癌細胞でCEACAM6が陽性である肺腺癌(lung adenocarcinoma)と癌細胞自体ではCEACAM6が陰性である扁平上皮癌(lung squamous cell carcinoma)、泌尿器系(Urinary bladder cancer)および皮膚癌(Melanoma malignancy)組織にCEACAM6免疫染色した結果、癌組織の非腫瘍部位にCEACAM6陽性であるMDSCがあることを確認した写真である。
【実施例】
【0096】
下記の実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、発明の権利範囲が下記の実施例に限定されるのではない。
【0097】
<実施例1>抗-CD66cキメラ抗体の製造
1.1. 抗-CD66c抗体遺伝子配列クローニング
8F5抗体遺伝子は、Mouse Ig-Primer Set(Millipore、Cat.#:69831)を用いてクローニングした。8F5ハイブリードマから分離したRNAからMouse Ig-Primer Setを用いてPCRを行い、これをpGem-Tベクター(Promega、Cat.#:A3600)に挿入した後、シーケンシングを通じてDNA塩基配列を確認し、IMGT site(www.imgt.org)を通じてマウス抗体遺伝子を確認した。分析された8F5抗体の重鎖および軽鎖可変領域配列は次の通りである。
【0098】
【0099】
1-2.キメラ抗体製造
前記製作された抗-CD66cマウス抗体8F5のアミノ酸配列に基づいて、抗-CD66cキメラ抗体を製作した。
【0100】
1-2-1. プラスミド製作
抗-CD66cキメラ抗体の発現のために、重鎖発現用プラスミドと軽鎖発現用プラスミドをそれぞれ製作した。軽鎖発現用プラスミドはpOptiVEC(Invitrogen社)ベクターを使用し、重鎖発現用プラスミドはpcDNA3.3(Invitrogen社)ベクターを使用した。
【0101】
追加的なアミノ酸挿入なく抗体それぞれの可変領域コーディングcDNAと不変領域コーディングcDNAを連続的なアミノ酸配列として発現されるようにするために、前記クローニングした可変領域のコーディング塩基配列と知られたヒト(human)IgG1不変領域(重鎖)およびカッパ(kappa)不変領域(軽鎖)コーディング塩基配列を連結した遺伝子切片のそれぞれを合成(Bioneer社)した。このように合成した重鎖および軽鎖発現遺伝子は制限酵素Xho IとSal Iに切断した後、軽鎖遺伝子切片はpOptiVecベクターに、重鎖遺伝子切片はpcDNA3.3ベクターにそれぞれライゲーション(ligation)して完全な抗体発現用プラスミドを製作した(pcDNA3.3-anti-CD66c重鎖発現プラスミドおよびpOptiVEC-anti-CD66c軽鎖発現プラスミド)。
【0102】
1-2-2. 形質転換
前記製作されたpcDNA3.3-anti-CD66c重鎖発現プラスミドとpOptiVEC-anti-CD66c軽鎖発現プラスミドをCHO細胞由来のDG44細胞(Invitrogen)にトランスフェクション(transfection)させて形質転換過程を行った。
【0103】
先ず、トランスフェクション(transfection)3日前に浮遊状態のDG44細胞を5%FBSが含まれているMEMa培地に適応させることによって付着状態細胞に変換させて形質転換効率を高めることができるように適応させた。形質転換はViaFect transfection regent(Promega、Cat.#:E4981)を使用して6ウェルプレート(well plate)で行った。形質転換一日前に1X105 cells/wellの濃度で継代培養して付着状態で適応されたDG44細胞を準備し、形質転換に使用されたDNAの量はpcDNA3.3-anti-CD66c重鎖発現プラスミドとpOptiVEC-anti-CD66c軽鎖発現プラスミドそれぞれ2ug、1.5ugずつ1.5:1比率の組み合わせで使用した。形質転換は48時間行った。形質転換された細胞群を分析するためにフローサイトメーター(flow cytometer)を用いた。
図1のようにキメラ抗体の発現はA549非小細胞肺癌細胞株で確認した。
図1は、マウス8F5抗体から抗体遺伝子をクローニングしてキメラ組換え抗体で発現させて、CD66c抗原陽性であるA549細胞表面に結合することを示す結果である。
【0104】
<実施例2>ヒト化抗-CD66c単クローン抗体の製作
2.1 In silico Humanizationによる組換え抗体配列選定
マウスCD66c抗体、8F5(重鎖アミノ酸配列:7重鎖コーディングDNA:SEQ ID NO:62;軽鎖アミノ酸配列:SEQ ID NO:8;軽鎖コーディングDNA:SEQ ID NO:63)の重鎖、軽鎖それぞれのCDR部位配列(CDRH1:ASGYSFTDYTMN)SEQ ID NO:1、CDRH2:SEQ ID NO:2(LINPFHGGTVSNQRFKV);CDRH3:SEQ ID NO:3(VRGDPVRHYYALAY);CDRL1:SEQ ID NO:4(GASENVYGTL);CDRL2:SEQ ID NO:5(GATNLAD);CDRL3:SEQ ID NO:6(VATYYCQNVLSAPYT)をできるだけ類似するように維持して抗原結合力が同等であるか優れていれば、ヒト抗体遺伝子をコーディングしている生殖細胞系列(germline)の配列を基盤にしてフレームワーク領域(Framework region)に対する部位配列を組換えたヒト化抗体配列をin silico方法で選別した。マウスCD66c抗体8F5の重鎖、軽鎖のそれぞれ配列と最も類似性が高くてヒト化組換え抗体配列の主鎖(backbone)で使用したヒト抗体生殖細胞系列(germline)遺伝子は下表5の通りである。前記マウスCD66c抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域のアミノ酸配列と核酸配列、そして重鎖可変領域と軽鎖可変領域のCDR配列を下記表6に示す。
【0105】
【0106】
前記ヒト抗体生殖細胞系列(germline)遺伝子配列を用いて選定したヒト化8F5抗体配列として、重鎖可変領域12種、軽鎖可変領域8種を選別し、当該配列は下表3の通りであり、前記選別されたヒト化抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域のアミノ酸配列、CDR配列およびフレームワーク配列を下記表6~表8に示し、キメラ抗体とヒト化抗体の重鎖および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を表1に示した。マウス抗体とヒト化抗体は、重鎖CDR3と軽鎖CDR2配列が同一であることが好ましい。下記表6で太字および下線で表示した部分はCDR抗体配列である。表7で太字および下線で表示した部分は変更されたアミノ酸を示す。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
2.2ヒト化組換え抗体の発現および分析
選別された抗体配列は、それぞれヒトIgG1重鎖不変領域とカッパ(kappa)軽鎖不変領域と連結してヒトIgG1形態に293T細胞で発現させた。トランスフェクション(transfection)した後、7日後に培養液はKanCap A resin(Kaneca社)を用いてヒト化組換え抗体を精製した。
【0111】
精製した抗体はOD280nm測定で定量し、SDS-PAGEを行った。また、Sepax Zenix-C SEC-300 size exclusion column(Sepax technologies社)でHPLCを行って280nmと220nmで分析することによって、抗体の純度および凝集(aggregation)の有無を分析した(
図2a~
図2c)
【0112】
2.3 ヒト化組換え抗体の細胞結合および抗原結合分析
2-3-1 細胞結合分析
発現させた96種のヒト化組換え抗体をそれぞれ同量(1ug)をCD66c陽性細胞であるA549非小細胞肺癌細胞株が入っている試験管に入れて4℃で30分間反応させた後にPBSで水洗し、FITC-conjugated goat anti-Human IgG(DiNona Inc、Korea)を入れて4℃で15分間反応した。再びPBSで水洗した後、フローサイトメーター(Stratedigm、S1000EXi)で分析してその結果を下記に記載した。
【0113】
96種のヒト化組換え抗体候補の中から発現程度と凝集(aggregation)の有無、細胞結合程度を基準にして8種を一次選定した(表9および表10、
図3a~
図3e)。下記表9および表10は1次選定された抗CD66cヒト化抗体およびキメラ8F5の分析結果であって、表10はフローサイトメーター(Flow cytometer)の分析結果を示す。
【0114】
【0115】
【0116】
前記選定された8種の抗体は発現程度と凝集(aggregation)有無、細胞結合程度を表9に示し、具体的に1次選定された8種抗体に対する発現程度と分子量を整理したものである。また、表10のフローサイトメトリー結果をみると、8種のヒト化組換え抗体がキメラ抗体と比較して±20%の細胞結合力を示してキメラ抗体と非常に類似した細胞結合力を示すことを確認した。これによって96種のヒト化候補抗体の中から発現が正常に行われ、蛋白質自体の不安定性により形成される凝集(aggregation)が少なく、またターゲット抗原陽性の細胞に結合する能力がキメラ抗体と類似したヒト化抗体8種を1次選別した。
【0117】
特に細胞株結合力は数値上では差があるように見えるが、
図3のように実際細胞結合様相はキメラ抗体と類似した水準であって、抗体陽性率(%gated)と蛍光平均値(mean)をかけ、これをキメラ抗体と相対比較して±20%範囲内に含まれる8種を選別したものであり、通常ヒト化抗体生成時、ヒト化抗体のフレームワーク領域(Framework region)にマウス抗体CDR部位配列を挿入した時に元の蛋白質構造の変更で抗体結合力が急激に低下するという結果を考慮した時、非常に優れたヒト化抗体を選別したと言える。
【0118】
2-3-2 抗原結合分析
前記のように選定した8種のヒト化組換え抗体の中から、キメラ抗体に比べて細胞結合力を基準にして高い結合力を示す5種類のヒト化組換え抗体を選択し、これらをELISA方法でCD66c抗原および類似CD66抗原に対する結合力分析を実施した。
【0119】
【0120】
CD66c(CEACAM6;SinoBiological社)とCEACAM1抗原(SinoBiological社)を96ウェルプレート(well plate)にウェル当たり100ngずつコーティングした後、ブロッキング(blocking)した。一次抗体量は10ug/mlから3倍ずつ希釈して37℃温度で1時間結合させ、二次抗体としてgoat anti-Human Ig-HRP接合体(Jackson ImmunoResearch社)を1:10000で希釈して37℃温度で30分間結合させた。各段階の間は3回ずつ水洗過程を経てTMB反応した。1N H2SO4溶液でTMB溶液と同量(100ul)処理して反応中止した後、450nmでOD値を測定した。
【0121】
前記実験結果として96種のヒト化組換え抗体の中から選定された5種のヒト化組換え抗体に対するCD66c抗原に対する結合力を
図4a、表12および
図4b、表13に示し、
図4aと表12はCECACAM6(CD66c)抗原に対する結果であり、
図4bと表13はCEACAM1(CD66a)抗原に対する結果である。
【0122】
図4a、表12および
図4b、表13の抗原に対する結合力結果から、CEACAM6に対しては全ての抗体がキメラ抗体と類似した結合様相を示し、CEACAM1に対しては弱い結合と結合しないグループに両分された。
【0123】
【0124】
【0125】
2.4ヒト化組換え抗体の安定性分析
前記抗原および細胞結合様相を通じて選定した、前記実施例3.3の5種のヒト化組換え抗体を高い温度条件に放置して抗体の安定性を分析する実験を行った。
【0126】
安定性測定は8-アニリノ-1-ナフタレンスルホン酸(8-anilino-1-naphthalenesulfonic acid)(以下、ANS;Sigma社)を用いた結合実験を通じて確認した。ANSは、蛋白質変性時に露出される疎水性部位に結合する時とそうではない時との蛍光波長が異なるため、このような波長変化を測定することによって蛋白質の変性有無を確認することができる化合物である。
【0127】
ヒト化組換え抗体をPBS(phosphate buffered saline)を用いて0.2mg/ml濃度に全て合わせた後、苛酷条件として50℃温度で4時間放置した。0.2mg/mlのANS溶液を、測定するための抗体希釈液500ul当たり20ul入れて混合した後、5分後に蛍光リーダーで励起(excitation)、460nm蛍光(emission)条件で分析した。追加的に70℃温度で30分間さらに放置した条件でもANS試薬反応を測定した。
【0128】
前記表11に示す5種のヒト化組換え抗体に対する苛酷温度条件での抗体安定性を確認した結果を
図5aおよび
図5bに示した。つまり、苛酷条件として50℃温度で4時間抗体を放置した後にANS試薬反応性を蛍光で測定し、追加的に70℃温度で30分間さらに放置した条件でもANS試薬反応を測定した結果を示す。
図5aの実験結果に示したように、50℃温度で4時間放置条件では5種の抗体の大部分がANS反応が微小であったが、70℃温度で追加30分放置条件では大部分の抗体の蛍光値が大きく増加した。その中ではprotein ID:3058組換え抗体が最も低い蛍光値増加傾向を示して、5種類の組換えヒト化抗体の中で温度変化に対して最も安定した結果を示した。
【0129】
また、ANS試薬反応性変化率を測定するために、冷蔵条件(4±2℃)および62℃温度でそれぞれ4時間放置した後にANS試薬反応性を前記と同様な方法で蛍光リーダーで分析した。また、ANS試薬に対する抗体の蛍光値変異率は、低温条件(例、4℃)で測定した蛍光値と、高温条件(例、62℃)で測定した蛍光値との差(difference)を、低温条件で測定した蛍光値で割った値を意味する。
【0130】
[数式]
蛍光値変異率=(高温条件で測定した蛍光値-低温条件で測定した蛍光値)/(低温条件で測定した蛍光値)
【0131】
図5bのように苛酷条件の温度(50℃)で温度をさらに上げた62℃温度で4時間放置後、ANS試薬反応性を確認した。5種が組換えヒト化抗体とキメラ抗体の両方とも冷蔵条件ではANS反応値が微小であったが、温度を上昇することによってANS蛍光値が増加した。しかし、キメラ8F5は62℃温度条件保管実験によりANS試薬反応性が1,406%まで増加し、同時に沈殿物が発生して不安定な結果を示した。しかし、ヒト化抗体5種はキメラ抗体よりANS試薬反応性変化が顕著に低く測定され、沈殿物が発生しなかった。特に、Protein ID 3019ヒト化抗体とProtein ID 3058ヒト化抗体は、それぞれ114%、133%にANS反応性の変化が測定されて最も安定な抗体と評価された。ANS試薬反応性が大きくなるという意味は蛋白質構造上内側に配置されていた疎水性アミノ酸の露出が増加するという意味であり、これは蛋白質構造の変性とこれによる蛋白質凝集(aggregate)、つまり、沈殿物生成の原因になる。本発明によるヒト化抗体は、ANS反応性変異%が200%未満で安定な抗体であり、200%未満は変化が非常に微小であると見なされ、それ以上は有意義な蛋白質構造変更が行われてANS反応性が観察されたと解釈できる。したがって、本発明によるヒト化抗体は、キメラ抗体に比べて類似した抗原結合力および細胞結合力を有し、抗体蛋白質自体の物理的安定性が増加し、このような事実は治療用抗体のドラッガビリティ(druggability)の面で非常に優れた特徴と言える。
【0132】
2.5 ヒト化組換え抗体のCHO細胞発現および分析
前記実施例2.3で選定された5種のヒト化組換え抗体を実際大部分の治療用抗体を発現させるために使用するCHO細胞に発現させて分析した。選定された5種のヒト化組換え抗体を構成するための軽鎖および重鎖可変領域DNA配列をコドン最適化過程を経た後、合成してヒトIgG1不変領域遺伝子とoverlay PCR方法で連結してXhoIとEcoRI遺伝子切片でpcDNA3.4ベクター(Life Technology社)にクローニングした。前記表11は、CHO細胞発現のために選別されたヒト化抗体の軽鎖および重鎖組み合わせを示す。
【0133】
可変-不変領域遺伝子PCRのために使用したDNA primer配列は下表14の通りである。
【表14】
【0134】
5種のヒト化組換え抗体は、ExpiCHO(trademark) Expression System Kit(ThermoFisher社;Cat.No:A29133)を用いて一過性トランスフェクション(Transient transfection)させ、発現させた抗体は
図6a~
図6cのようにCD66c陽性細胞であるA549非小細胞肺癌細胞株に結合させてフローサイトメーター(Flow cytometer)で分析した。5種類のヒト化組換え抗体は全てキメラ抗体と類似した結合力を示した。前記測定したフローサイトメーター(Flow cytometer)蛍光値をCHO培養液の抗体発現量で割って、相対的な抗体発現量に対する細胞表面結合力(relative cell binding)を表示したものを図式化すれば
図6dの通りであった。したがって、ヒト化組換え抗体は、CHO細胞でも適切に発現することを確認した。抗体の細胞表面結合力を求め、これを100%にして相対的な変化を示したものが
図6dである。
【0135】
<実施例3>DNP002抗体のCHO細胞発現および分析
大部分の治療用抗体を発現させるために使用するCHO細胞で抗CD66cに対するヒト化抗体であるDNP002を発現させて分析した。DNP002抗体の亜型による機能差を確認するためにIgG1タイプとIgG2タイプの抗体を製造した。
【0136】
ヒト化組換え抗体を構成するための軽鎖および重鎖可変領域DNA配列をコドン(codon)最適化過程を経た後、合成してヒトIgG1またはIgG2不変領域遺伝子とoverlayPCR方法で連結し、XhoIとEcoRI遺伝子切片でpcDNA3.4ベクター(Life Technology社)にクローニングした。
【0137】
【0138】
脱フコース(afucosylated)DNP002ヒト化抗体を製造するために、DNP002 IgG1タイプの抗体発現時、2F-PF(2F-Peracetyl-Fucose;Merck、Cat#:344827)を培養液に50uMで投与して培養し、Mabselect sure Protein A column(GE Healthcare Lifescience、Cat#:11003494)使用して精製した。精製した抗体はリン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline)で透析し、280nm吸光値を吸光係数1.4で割って“mg/mL”濃度単位に変換し、その後、試験に使用した。
【0139】
脱フコース化はフコースに結合特性があるBiotinylated Lens culinaris agglutinin(Vector laboratories、Cat#:B-1045)反応性を相対的に比較して評価した。フコースが結合されているIgG1 DNP002は、Biotinylated Lens culinaris agglutininと反応し、SA-HRP(Jackson immunoresearch、Cat#:016-030-084)によりTMB発色を誘導したが、脱フコース化DNP002は相対的な発色が微小であった(表16)。
【0140】
【0141】
<実施例4>MDSCでDNP002抗体の反応性調査
MDSCに対するDNP002抗体の反応性をフローサイトメトリー分析(flow cytometric analysis)を通じて確認した。
【0142】
具体的に胃癌患者の血液を準備した後、各蛍光が異なって結合されたMDSCの標識抗原に対する抗体(抗-HLA-DR-FITC、CD11b-PE、CD33-PE抗体)と共に、APCが結合されたDNP002抗体を全血100uLに添加して20分間4℃で反応させた。赤血球溶解バッファー1X RBC Lysis Buffer(ThermoFisher、Cat#:00-4333-57)5mlを添加して室温で30分間反応させた後、遠心分離して分解されたRBCを除去し、再びPBSで水洗した後、フローサイトメトリー分析を施行した。染色強度は蛍光強度に対するlogで測定し、10乗単位で表示した。
【0143】
結果分析は、点図表(dot plot)で細胞の大きさによりリンパ球を除いて単核球と顆粒球領域のみを指定した後、HLA-DRの発現がないかまたは低い群を選択し、その群でCD11bとCD33に陽性であるグループをMDSCと指定した。指定されたMDSC群でDNP002の陽性率を確認した(
図7)。
【0144】
具体的に、
図7で上段に示すグラフの中で左側から右側方向に、1)FSCおよびSSC点図表(dot plot)でmonocytesとgranulocytesのみを区画化(gating)、つまり、lymphocytesを除外。(FSC:forward scatter、分析する細胞のサイズを示す変数、SSC:side scatter、分析する細胞のgranularityを示す変数として、細胞内granuleがある程度を示す変数)であり、2)HLA-DR Lowあるいは(-)グループを区画化したものであり、3)前記1番、2番区画化の中でCD11bとCD33が陽性であるグループがMDSCである。DNP002陽性であるMDSCは90.9%(
図7の右側点図表(dot plot)内で右上部位)であり、DNP002陰性であるMDSCは4.4%(
図7の右側点図表(dot plot)内で左上部位)である。MDSCは単核球性MDCSと多核球性(granulocytic)MDSCに亜型に区分され、多核球性MDSCはCD66bを発現するが、単核球性MDCSはCD66bを発現せず、MDSC亜型区分にCD66b発現有無は有用に使用することができる。
【0145】
図7は、MDSCを特定する方法(リンパ球除外、HLA-DR Low/(-)、CD11b+、CD33+)と特定のMDSCでDNP002(anti-CD66c)が反応していることを証明する結果である。MDSCにDNP002が結合するため、MDSC特定する方法でDNP002を使用することができ(
図7)、DNP002はADCC効果を誘発してMDSCを除去することができる(
図8)。下記試験結果でDNP002が結合したMDSCは90.9%である。
【0146】
図8は、CD66b陽性である多核球性MDSCがDNP002処理により殺傷され、その比率が減少した現像を示す。
図8で上段(control)の点図表はDNP002を処理する前の試料であり、下段(DNP002)はDNP002処理後にMDSCが減少した結果である。CD66bは単核球性(monocytic)MDSCと多核球性(granulocytic)MDSCを区分できるマーカである。下記試験結果で大部分のMDSCはCD66b陽性である多核球性MDSCであり、多核球性MDSCがDNP002により効果的に殺傷された。
【0147】
胃癌患者19人の血液を分析した結果、全体PBMC内MDSC上のDNP002の陽性率は平均34.3~76.7%に示され、平均55.1%の陽性率を示した。下記表17は、19人の胃癌患者サンプルをもってDNP002抗体のMDSC反応性を分析したものである。
【0148】
【0149】
<実施例5>DNP002によるMDSC溶解効果
5.1.全体血液細胞(whole blood)内DNP002によるMDSC溶解効果
DNP002によるMDSC殺害効果を確認するために5人の胃癌患者血液に赤血球溶解バッファー1X RBC Lysis Buffer(ThermoFisher、Cat#:00-4333-57)を添加して赤血球を溶解させた後、12ウェルプレート(well plate)にウェル当たり1X105ずつ分注して準備した。DNP002抗体を各ウェルに10ug/mLになるように添加し、37℃インキュベータで一日培養した。培養後、PBSで洗浄し、各蛍光が異なって結合されたMDSC標識抗原に対する抗体(抗HLA-DR、CD11b、CD33抗体)と20分間4℃で反応させた。PBSで水洗した後、フローサイトメトリー分析を施行した。染色強度は蛍光強度に対するlogで測定し、10乗単位で表示した。
【0150】
前記実験結果として、
図8は、DNP002抗体が血液内MDSCの細胞死滅を効果的に誘導してDNP002抗体処理前に比べてMDSC比率が顕著に減少した代表的な結果を示す。
図9は、
図8と同一の試験を5人の胃癌患者血液試料でそれぞれ試験して図表化した結果である。Open barはDNP002処理前のMDSC比率を意味し、closed barはDNP002処理後のMDSCの相対的比率を意味する。DNP002処理後に5人の患者試料の全てでMDSC比率が明白に減少したことを確認できる。
【0151】
5.2.PBMC(末梢血液単核細胞)内DNP002によるMDSC溶解効果
DNP002抗体のMDSCターゲット殺害能力をより明確にするために、成熟した好中球(neutrophil)を除いてMDSCのみを得て、好中球による影響なくDNP002抗体のMDSC死滅効果を確認した。
【0152】
具体的に、2人の胃癌患者血液をFicoll-Paque PLUS(Ge healthcare、Cat#:17-1440-02)溶液を用いてMDSCが含まれているPBMC層のみを分離した。このようなFicoll溶液を通じた血液細胞の比重分離は効果的に成熟好中球を除外させてより正確なMDSC死滅効果を確認できるようにする。準備されたPBMCは12ウェルプレート(well plate)にウェル当たり1X10
5ずつ分注し、DNP002抗体を各ウェルに10μg/mLになるように添加して37℃インキュベータで48時間培養した。この時、PD-1に対する抗体であるNivolumab(Bristol-Myers Squibb)を対照群として用いてMDSC殺害能を比較した。培養後、細胞をPBSで洗浄し、フローサイトメトリー分析を通じてMDSC群の増減を確認した(
図10)。
【0153】
フローサイトメトリー分析結果、DNP002を処理した群はそうではない群と比較して平均約49%の細胞死滅効果を示した。反面、対照群として用いたNivolumabは約24%のMDSC死滅効果を示すにとどまった。MDSC死滅効果は2人の患者から分離したMDSCの全てで同一に示された。したがって、本実験を通じてDNP002抗体によるMDSC殺傷効果が相当であることを確認できる。
【0154】
DNP002によるMDSCの溶解効果を全血(実施例5.1)とPBMC(末梢血液単核細胞;実施例5.2)のそれぞれに対して確認した。全血およびPBMCにはADCCを誘発できる患者本人のNK細胞があり、DNP002を媒介としてCEACAM6陽性である細胞をADCCで溶解することができる。しかし、全血にはCEACAM6ターゲット抗原が陽性である好中球とMDSCが混合されており、MDSCのみを選択的に溶解したとみることは難しい。DNP002によるMDSCの選択的な溶解を明確にするために、好中球を遠心分離で層分離させてなくしたPBMCを対象として追加実験した(実施例5.2)。そこで、DNP002によるMDSC溶解が明確であることを確認した。
【0155】
<実施例6>抗体isotypeによるMDSC溶解効果
DNP002抗体のMDSCターゲット殺害能力を確認するために3つの類型のDNP002抗体製剤を準備した。抗体はisotypeによりNK細胞に発現したFcrRIII(CD16)の親和度に差が発生し、親和度に比例して抗体依存性細胞介在性細胞毒性(ADCC)が増加する。IgG2 isotypeはFcrRIIIに対する親和度が非常に低いため、ADCC効能がない反面、IgG1 isotypeはFcrRIIIに対する親和度が高いため、ADCC効能に優れている。抗体のADCC効能はisotypeだけでなく、抗体297番目アスパラギンアミノ酸に連結された糖鎖構造により変わるとみており、特に糖鎖にフコースがない場合、ADCC効能が増加する(Shitara K., et al, J Immunol Mehtods. 2005 Nov 30;306(1-2) IgG subclass-independent improvement of antibody-dependent cellular cytotoxicity by fucose removal from Asn297-linked oligosaccharides)。
【0156】
DNP002抗体のisotypeおよび脱フコースによるMDSCターゲット殺傷能力を確認するためにin vitro試験を行った。5人の胃癌患者血液に赤血球溶解バッファー1X RBC Lysis Buffer(ThermoFisher、Cat#:00-4333-57)を添加してRBC溶解した後、12ウェルプレート(well plate)にウェル当たり1X105ずつ分注して準備した。DNP002 IgG1タイプとIgG2タイプおよび脱フコース(aflucosylated)IgG1タイプの3種類の抗体をそれぞれウェルに10ug/mLになるように添加して37℃インキュベータで一晩培養した。培養後、PBSで洗浄し、各蛍光が異なって結合されたMDSC標識抗原に対する抗体(抗HLA-DR、CD11b、CD33抗体)と20分間4℃で反応させた。PBSで水洗した後、フローサイトメトリー分析を施行した。染色強度は蛍光強度に対するlogで測定し、10乗単位で表示した。
【0157】
試験対象である胃癌患者5人の全てでIgG2、IgG1、脱フコース(afucosylated)IgG1タイプの順にMDSC死滅効果が増加することと観察された(
図11a、11b)。Isotypeと脱フコース(afucosylated、フコース含有量が10%以下)によりMDSC死滅効果に差が発生することは抗体とFcrRIII間の親和度による差と判断され、NK細胞によるADCC効果によりMDSCが殺傷されたと理解できる。
【0158】
図11aに示したように、MDSCを効果的に除去できるDNP002製剤類型を確認した代表的な試験結果である。上段(control)と比較してDNP002 IgG2は相当部分のMDSCが残存しているが、DNP002 IgG1はMDSC比率を顕著に減少させた。本試験でDNP002 IgG1によるMDSC殺傷効果が相当であるが、IgG2による殺傷効果は微小であることを確認でき、IgG2 isotypeはADCC効能がIgG1 isotypeに比べてないか/非常に低いため、DNP002 IgG1によるMDSC殺傷効果はADCCによると推論することができる。
【0159】
図11bに示したように、
図9と同一の試験を5人の胃癌患者血液試料で試験して図表化した結果であり、グラフの横軸は5人の胃癌患者のそれぞれを示す(P#1、P#2、P#3、P#4、P#5)。Control、IgG2、IgG1、IgG1-afucosylatedの順にMDSC殺傷効果が観察された。IgG2 isotypeはADCC機能がないため、MDSC殺傷効果がないかまたは微小であるが、ADCC機能があるIgG1と脱フコース化によりADCC機能を強化したIgG1-afucosylatedではMDSC殺傷効果に優れている。
【0160】
<実施例7>DNP002とナチュラルキラー細胞の併用による癌細胞死滅効果
DNP002抗体とナチュラルキラー細胞(Natural killer cell)の併用効果を確認するためにin vitro試験を行った。3人の正常血液からFicoll-Paque PLUS(Ge healthcare、Cat#:17-1440-02)溶液を用いてPBMCを分離した後、CD56 micro bead(Miltenyi Biotec、Cat#:130-050-401)を用いてCD56陽性ナチュラルキラー細胞のみを分離した。
図12aおよび
図12bで横軸はそれぞれ前記ナチュラルキラー細胞の起源である血液の供与者(donor)3人を意味する。
【0161】
96ウェルプレート(well plate)にDNP002のターゲット抗原であるCEACAM6が陽性である胃癌細胞株A549と膵臓癌細胞株AsPC-1をウェル当たり1x104ずつ分注して準備した後、先に分離したナチュラルキラー細胞をウェル当たり2x105ずつ分注してDNP002抗体を10μg/mLになるように処理して37℃で6時間培養した。
【0162】
EZ-cytox enhanced cell viability kit(Daeil Lab)を用いて細胞生存率を測定した結果、2種の癌細胞株の全てでDNP002抗体とナチュラルキラー細胞の併用による細胞死滅効果が単独処理時と比較して増加すると確認された(
図12aおよび
図12b)。
【0163】
これはDNP002の癌細胞殺害能がナチュラルキラー細胞との併用により相当に増幅したことを示す。これによって、CEACAM6陽性である癌細胞だけでなく、またCEACAM6陽性であるMDSCの効果的な除去のためにNK細胞またはNK細胞治療剤との併用処理が優れることを示す。
【0164】
実施例5.2結果のようにDNP002によるMDSCの選択的溶解結果と実施例7のNK細胞またはNK細胞治療剤の併用効果を通じて、CEACAM6陽性である癌細胞およびCEACAM6陽性であるMDSCを全て標的にして除去できることが分かる。実施例5.2と実施例7がそれぞれMDSCと癌細胞で、他の標的細胞に対してADCCを示したが、実際2種類の細胞が共に増加されている癌患者の場合、DNP002で2種類の標的を同時に除去することができ、また癌細胞およびMDSC標的を同時除去する効能を倍加するためにNK細胞治療剤との併用が可能であることを示す。
【0165】
<実施例8>CEACAM6が陰性である癌患者の微細腫瘍環境でMDSCの検出
CEACAM6抗原は癌細胞だけでなく、MDSCにも発現するため、DNP002抗体を用いて癌細胞だけでなく、MDSCを検出することができる。これを確認するためにCEACAM6抗原が陽性であるか陰性である癌患者組織で癌細胞でなく、MDSCが検出されるのかを免疫組織化学染色(Immunohistochemistry)法で確認した。
【0166】
免疫組織化学染色法は次のような方法で行った。キシレン(xylene)に10分ずつ3回、100%アルコール(alcohol)に10分ずつ2回、80%、70%アルコール(alcohol)に5分、3分間脱パラフィン(deparaffin)し、3次蒸溜水に洗浄する。次いで、0.03% H2O2で室温で10分間浸漬してペルオキシダーゼブロッキング(Peroxidase Blocking)後、3次蒸溜水で洗浄する。直ちに1Xクエン酸緩衝液(Citrate buffer、pH6.0)にスライドを入れて20分間沸かして水道水に重湯して徐々に冷ました後、3次蒸溜水で洗浄し、再び1X PBSで一回洗浄後、組織がある部位にDNP002のモクローンである8F5抗体をスライド1枚当たり150ul(10ug/ml)ずつ室温で90±5分間反応させる。反応後、1X PBSで5分ずつ4回洗浄する。二次抗体をスライド1枚当たり100ulずつ室温で20分間反応させ、反応後、1X PBSTで5分ずつ4回洗浄してDABクロモゲン(Chromogen)をスライド1枚当たり100ulずつ室温で3分間発色させて水道水に10分間洗浄する。マイヤーヘマトキシリン(Mayer’s Hematoxylin)をスライド1枚当たり100ulずつ室温で3分間対比染色して流れる水道水に10分間洗浄する。次いで、脱水(dehydration)した後にマウンティング(mounting)をする。
【0167】
癌細胞でCEACAM6が陽性である肺腺癌(lung adenocarcinoma)と癌細胞自体ではCEACAM6が陰性である扁平上皮癌(lung squamous cell carcinoma)、泌尿器系癌(Urinary bladder cancer)および皮膚癌(Melanoma malignancy)組織にCEACAM6免疫染色した結果、癌組織の非腫瘍部位にCEACAM6陽性であるMDSCがあることを確認した(
図13)。これは癌組織または癌細胞の自体でのCEACAM6抗原発現と関係なく癌組織周辺の浸潤されたMDSCを標的にして診断および治療に活用できることを示す。
【0168】
癌細胞の細胞表面のCEACAM6陽性度と関係なく、癌患者ではMDSCが増加する傾向を示し、これは実施例8の結果のように微細腫瘍環境に浸潤されているMDSCを検出して確認できる。これはMDSCを選択的に溶解できることを示した実施例5.2の結果と共に考慮した時、癌細胞上のCEACAM6陽性度と関係なくMDSCを標的にして診断および治療目的に使用できることを示す。癌種により癌細胞の細胞表面のCEACAM6発現有無が異なり得るが、これと関係なく大部分の癌種でMDSCは増加するため、DNP002を用いてMDSCを標的治療を通じて大部分の癌種を対象にした汎用の診断および治療的目的で利用できることを示す。
【配列表】