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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】動物繊維の処理方法、及び繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 16/00 20060101AFI20221028BHJP
   A47G 27/02 20060101ALI20221028BHJP
   D06M 13/364 20060101ALI20221028BHJP
   D06M 15/00 20060101ALI20221028BHJP
   D06M 101/10 20060101ALN20221028BHJP
【FI】
D06M16/00 B
A47G27/02 D
D06M13/364
D06M15/00
D06M101:10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018079482
(22)【出願日】2018-04-17
(65)【公開番号】P2019183353
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-11-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月10日 2017高分子学会東北支部研究発表会に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】593022021
【氏名又は名称】山形県
(73)【特許権者】
【識別番号】300023741
【氏名又は名称】オリエンタルカーペット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129159
【弁理士】
【氏名又は名称】黒沼 吉行
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 健
(72)【発明者】
【氏名】小川 聖志
(72)【発明者】
【氏名】今野 俊介
(72)【発明者】
【氏名】平田 充弘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 壱実
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 博明
(72)【発明者】
【氏名】国井 浩嘉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝
(72)【発明者】
【氏名】工藤 正信
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-144105(JP,A)
【文献】特開平04-174778(JP,A)
【文献】国際公開第2004/070106(WO,A1)
【文献】特開2011-152244(JP,A)
【文献】特開昭59-021772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00-16/00,
19/00-23/18
A47G 27/00-27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物繊維を用いて形成された繊維製品の処理方法であって、
当該動物繊維は、塩素化イソシアヌル酸塩を用いた8~24%o.w.f.で、pH3~8の次亜塩素水で改質処理することにより繊維表面のスケールが除去されており、
当該改質処理後にpH8~12で、タンパク質又はポリペプチドの加水分解酵素を用いた酵素処理を行うことにより、黄色度を当該酵素処理前よりも低くしていることを特徴とする、繊維製品の処理方法。
【請求項2】
前記動物繊維は酸化剤を用いた改質処理によって繊維表面のスケールが除去されると共に染色されており、
測色計で求めた分光反射率から算出した表面染色濃度(K/S)が、改質処理を行っていない動物繊維を用いて形成して染色した繊維製品の2倍以上である、請求項1に記載の繊維製品の処理方法。
【請求項3】
前記動物繊維は、羊毛から成る1/3紡毛糸であって、前記塩素化イソシアヌル酸塩を用いた次亜塩素水での改質処理は、回転バック染色機で行う、請求項1または2に記載の繊維製品の処理方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の繊維製品の処理方法は、前記動物繊維の糸から成るパイルで形成されたカーペットの処理方法であって、
圧縮弾性率は95%以下であり、表生地の画像解析から得られるエントロピおよびコントラストを、当該改質処理前よりも低くしていることを特徴とするカーペットの処理方法。
【請求項5】
塩素化イソシアヌル酸塩を用いた8~24%o.w.f.で、pH3~8の次亜塩素水で改質処理することにより繊維表面のスケールを除去し、当該改質処理後にpH8~12で、タンパク質又はポリペプチドの加水分解酵素を用いた酵素処理を行った動物繊維の糸から成るパイルで形成されたカーペットの処理方法であって、
圧縮弾性率は95%以下であり、表生地の画像解析から得られるエントロピおよびコントラストを、当該改質処理前よりも低くしていることを特徴とするカーペットの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維における表皮(以下、「スケール」とも言う)が除去された動物繊維で構成される繊維製品、その処理方法、及びカットパイル組織のカーペットに関する。
【背景技術】
【0002】
動物繊維の塩素化イソシアヌル酸塩など塩化物イオンを供与し得る化合物が含まれた水溶液への浸漬処理は、クチクル細胞で構成される表皮(スケール)を除去することが可能な方法として知られている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
また、部分的に酸化した羊毛原綿、または紡織した羊毛布をプロテアーゼで減量加工を行うと、チクチク感がなく、清涼感にあふれる風合いを与える動物繊維構造物が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、動物繊維の塩素処理、特に綛糸またはチーズ糸などの糸加工においては、損傷によって黄変が生じるおそれがあった(例えば、非特許文献2)。
【0005】
また、動物繊維の損傷を極力抑えながらスケール部を均一に分解除去した動物繊維とすることにより、完全な防縮性を備えるとともに、その表面が滑らかで、且つ光沢を有し、また柔軟な風合いを有することが提案されている(例えば、特許文献2)。
【0006】
カットパイル織物のパイル面に外観上の差異が生じないようにする方法においては、例えば、熱融着性繊維と非熱融着性繊維の合撚糸を用いてパイルの方向性をなくすことで、見る方角によるパイル面の濃淡光沢差を解消する提案されている(例えば、特許文献3)。
【0007】
しかし、動物繊維で構成されるカットパイル組織のカーペットにおいて、紡毛糸を改質することで光沢感や風合いを向上させることは課題とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-60780号公報
【文献】特開平10-121318号公報
【文献】特開2000―70104号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Meier,P.E.;Weigmann,H.D. Textile Res.J.1973,43,74-82.
【文献】Milligan,B. Textile Res.J.1966,36,1012-1015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであり、次亜塩素酸処理等によって動物繊維表面の表皮(スケール)を除去しながらも、黄変の問題を解決した繊維製品とカーペット、及び繊維製品の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、少なくとも前記課題を解決するべく、動物繊維(獣毛繊維と羊毛繊維)を用いて形成された繊維製品であって、当該動物繊維は、繊維表面のスケールが除去されており、黄色度が28以下である繊維製品を提供する。かかる繊維製品は、塩素化イソシアヌル酸塩などによる改質処理において、繊維製品の黄色度が28以下となるように処理することによっても製造できる。
【0012】
また本発明では、前記動物繊維は酸化剤を用いた改質処理によって繊維表面のスケールが除去されると共に染色されており、測色計で求めた分光反射率から算出した表面染色濃度(K/S)が、改質処理を行っていない動物繊維を用いて形成して染色した繊維製品の2倍以上である繊維製品を提供する。
【0013】
また本発明では、前記本発明に係る繊維製品が、前記動物繊維の糸から成るパイルで形成されたカーペットであって、圧縮弾性率は95%以下であり、表生地の画像解析から得られるエントロピーが4.4以下(望ましくは4.2以下)で、コントラストが2以下であるカーペットを提供する。
【0014】
また本発明では、繊維製品の処理方法であって、塩素化イソシアヌル酸塩を用いた次亜塩素水でpH3~8で処理した後に、pH8~12で酵素処理を行うことにより、黄色度を28以下とする繊維製品の処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の繊維表面の表皮(スケール)が除去された動物繊維は、未改質の動物繊維に比べ繊維軸垂直方向に対する繊維間の空隙量が低減するため、パイル組織からなる織物では光沢性を向上させることができる。また、塩素化イソシアヌル酸塩による処理では、次亜塩素水による処理後、酵素処理を行うことで、高い漂白効果が得られる。さらに、これによって得られた繊維製品は、未改質の動物繊維に比べ濃色性や風合いを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実例1で得た繊維製品(糸)の電子顕微鏡写真
図2】実例2で得た繊維製品(糸)の電子顕微鏡写真
図3】実例3で得た繊維製品(糸)の電子顕微鏡写真
図4】実験例4~6の繊維製品における染色時間と表面染色濃度(K/S)520nmの関係を示すグラフ
図5】実験例4~6の繊維製品における染色時間と染料吸尽率の関係を示すグラフ
図6】実験例7で製造したカーペットの写真(左側)とこれを2値化した画像
図7】実験例8で製造したカーペットの写真(左側)とこれを2値化した画像
図8】実験例9で製造したカーペットの写真(左側)とこれを2値化した画像
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0018】
本実施の形態では、動物繊維(獣毛繊維と羊毛繊維)を用いて形成された繊維製品であって、当該動物繊維は、繊維表面のスケールが除去されており、黄色度を28以下とした繊維製品の実施形態について具体的に説明する。
【0019】
かかる繊維製品の製造に際しては、前記動物繊維を、塩素系化合物を用いた改質処理によって繊維表面のスケールを除去することができる。当該塩素系化合物としては、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素化イソシアヌル酸塩、を使用することができ、望ましくは塩素化イソシアヌル酸塩を使用する。この塩素化イソシアヌル酸塩としては、下記式(I)で表される化合物、例えばジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム2水塩、トリクロロイソシアヌル酸が挙げられる。
【0020】
【化1】
〔X1、X2、X3はナトリウム原子、塩素原子を示す。〕
【0021】
本実施の形態における動物繊維は羊毛及び獣毛を含んでおり、獣毛としてはカシミヤ、モヘア、アルパカ、アンゴラ、キャメル、ビキューナ、アルパカ、ヤク、ラビット、アイベックス、グァナコ、キヴィアック、チルー、カシゴラ、タヌキ、ラクーン、ミンク、セーブル、フォックス、ポッサム、オポッサム、ビーバー、アザラシ、ヌートリア、フェレット等の毛が挙げられる。また、これら獣毛及び羊毛を混合して使用することも可能である。
【0022】
本実施の形態における繊維製品としては、糸(紡毛糸及び梳毛糸を含む)の他、織物、ニット生地、レース生地、不織布等の布地、及びコート、セーター、シャツ、ズボン、水着、ドレス、ブラウス、スカート、事務服及び作業服、上衣、子供服、下着、寝衣、羽織及び着物、靴下、手袋、帯、足袋、帽子、ハンカチ、マフラー、スカーフ、風呂敷、エプロン、ネクタイ、羽織ひも、床敷物、毛布、膝掛け、上掛け、布団カバー、敷布、布団、カーテン、テーブル掛け、タオル、毛布カバー及び枕カバーなどの布製品が挙げられる。
【0023】
そして前記黄色度は、JIS K 7103に基づき、以下の式(II)より算出することができる。
【0024】
【数1】
〔X、Y、ZはJIS Z 8720で定義される色温度6774Kの補助イルミナントCにおける測定試料の三刺激値を表す。〕
【0025】
また本実施形態では、前記の繊維製品の染色処理において、測色計で求めた分光反射率から算出した表面染色濃度(K/S)が、未改質の紡毛糸に対し2倍以上となる染色品を提供する。かかる染織品は、前記動物繊維は酸化剤を用いた改質処理によって繊維表面のスケールが除去されると共に染色されており、測色計で求めた分光反射率から算出した表面染色濃度(K/S)が、改質処理を行っていない動物繊維を用いて形成して染色した繊維製品の2倍以上である繊維製品として提供することができる。
【0026】
上記表面染色濃度(K/S)は、測色計で求めた分光反射率から、Kubelka-Munkの下記式(III)で算出することができる。
【0027】
【数2】
〔Kは吸収係数、Sは散乱係数、Rは分光反射率を示す。〕
【0028】
また本実施の形態では、前記の染色品を用いて、製織された織物のパイルを切断することで得られる、圧縮弾性率95%以下(望ましくは、93%以下)であり、表生地の画像解析から得られるエントロピーが4.4以下(望ましくは、4.2以下)、コントラストが2以下(望ましくは、1.8以下)であるカーペットを提供する。即ち、前記繊維製品が、前記動物繊維から成る紡毛糸から成るパイルで形成されたカーペットであって、その圧縮弾性率は95%以下(望ましくは、93%以下)であり、表生地の画像解析から得られるエントロピーが4.4以下(望ましくは、4.2以下)で、コントラストが2以下(望ましくは、1.8以下)であるカーペットを提供する。
【0029】
上記圧縮弾性率はJIS L 1021-6附属書1(参考)に準拠して圧縮試験を行い、試験条件下における厚さを求めた後、以下の式(IV)から算出することができる。
【0030】
【数3】
〔tは圧縮前の標準圧力(2.0kPa)下の厚さ(mm)、tは一定圧力(98kPa)下で5分経過後の厚さ(mm)、t'は除重後再び標準圧力(2.0kPa)をかけたときの厚さ(mm)を示す。〕
【0031】
上記表生地の画像は試料に対する照明及びカメラの位置をASTM D 2401に基づき写真撮影を行うことで得ることができ、前記表生地の画像解析から得られるエントロピーは、この撮影画像(表生地の画像)を解析して、以下の式(V)から求めることができる。エントロピーを4.4以下(望ましくは4.2以下)とすることにより、表面色の均一さを保つことができる。
【0032】
【数4】
〔Pδ(i,j)は、明度iの点から変異δ=(d,θ)の点の明度がjである確率を示す。〕
【0033】
また上記表生地の画像解析から得られるコントラストは、以下の式(VI)から求めることができる。
【0034】
【数5】
〔Pδ(i,j)は、明度iの点から変異δ=(d,θ)の点の明度がjである確率を示す。〕
【0035】
また本実施の形態では、塩素化イソシアヌル酸塩による動物繊維の改質処理において、次亜塩素水で処理後に酵素処理を行う、繊維製品の製造方法乃至は処理方法を提供する。
【0036】
前記次亜塩素水は、例えば塩素化イソシアヌル酸塩を水に溶解させることで得られることができる。
【0037】
塩素化イソシアヌル酸塩の使用量は、3%o.w.f.以上であり、好ましくは3~24%o.w.f.である。24%o.w.f.より大きい場合、動物繊維の脆化によって、黄色度が28より大きくなるおそれがあり、3%o.w.f.未満であるとスケールの除去が困難になるためである。
【0038】
また、塩素化イソシアヌル酸塩の水溶液のpHは3以上、8以下が好ましく、より好ましくは酸性であって、例えばpH3以上、5以下とすることができる。水溶液のpHが8をこえると黄色度が28より大きくなるおそれがあり、pHが3未満であると動物繊維が損傷するおそれがある。
【0039】
動物繊維の次亜塩素酸水での処理は10℃以上50℃以下の温度で、10分以上120分以下の時間で行うのが好ましく、特に10℃以上25℃以下の温度で、10分以上30分以下の時間で処理するのが好ましい。処理温度が50℃を超える高い温度であったり、または処理時間が120分を超える長い時間であると、動物繊維の損傷によって黄色度が28より大きくなるおそれがあり、また処理温度が10度未満であったり、処理時間が10分未満であるとスケールの除去が不十分になるおそれがある。
【0040】
前記酵素としては、タンパク質やポリペプチドの加水分解酵素(加水分解反応を触媒する酵素)が挙げられ、特に繊維用加工剤としては、例えばノボザイムズジャパン株式会社のサビナーゼ、ニュートラーゼ、山宗実業株式会社のアプローゼ、洛東化成工業株式会社のエンチロンなどが使用できる。
【0041】
酵素の使用量は、0.1g/L以上であり、好ましくは1g/L以上である。0.1g/Lより小さい場合、動物繊維と十分に反応せず、繊維製品において、それぞれ圧縮弾性率が95%、エントロピーが4.4を超え、コントラストが2を超えるおそれがある。
【0042】
酵素処理液のpHは8以上12以下が好ましく、より好ましいpHは9以上11以下である。酵素処理液のpHが8未満であると動物繊維と十分に反応せず、繊維製品において、それぞれ圧縮弾性率が95%、エントロピーが4.4を超え、コントラストが2を超えるおそれがあり、酵素処理液のpHが12を超えると動物繊維の溶解が進むためである。
【0043】
酵素処理における処理温度は40℃以上70℃以下で、処理時間は10分以上120分以下の時間で行うのが好ましく、特に、処理温度45℃以上65℃以下で、処理時間は20分以上60分以下の時間で行うのが好ましい。処理温度が40℃未満であるか、若しくは70℃を超える温度、又は処理時間が10分未満であると、動物繊維と十分に反応せず、繊維製品において、それぞれ圧縮弾性率が95%、エントロピーが4.4を超え、コントラストが2を超えるおそれがある。
【実施例1】
【0044】
この実施例では、処理方法の違いによる黄色度の違いを確認した。即ちこの実施例において、〔実験例1〕では以下に示す処理方法で得た繊維製品(糸)、〔実験例2〕では実験例1で使用した原糸、〔実験例3〕では実験例1で使用したFasolanDCの代わりに次亜塩素酸ナトリウムを使用して実験例1と同条件で改質した繊維製品(糸)を使用し、各実験例で得た糸の黄色度を測定した。その結果を表1に示す。
【0045】
〔実験例1における処理方法〕
実験例1における繊維表面(スケール)が除去された動物繊維で構成され、黄色度が28以下の繊維製品(糸)は以下の方法で作製した。
【0046】
羊毛から成る1/3紡毛糸の綛6kgを浴量450Lの回転バック染色機で加工を行った。そして塩素化イソシアヌル酸塩の処理は、以下の酸化処理液を調整し、この処理液を用いて40℃で30分行った。
「酸化処理液」
ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(二葉商事株式会社製 商品名「FasolanDC」):8%o.w.f.
第4ピロ燐酸ソーダ:2%o.w.f.
低温湿潤剤(二葉商事株式会社製 商品名「Kieralon Wash LNB」):0.2%o.w.f.
芒硝:10%o.w.f.
酢酸:33%o.w.f.
【0047】
その後の脱塩素処理は、前記酸化処理液に2%重亜硫酸ソーダ、2%チオ硫酸ソーダを加え40℃で30分行った。
【0048】
そして脱塩素処理後に行った酵素処理では、脱塩素処理時の処理液に3g/Lの酵素(洛東化成工業株式会社社製 商品名「エンチロンSA-100」)、0.7g/L第3燐酸ソーダを加えてpH10.3とし、50℃で40分行った後、80℃で15分かけて失活させることで、繊維表面(スケール)が除去された動物繊維からなる糸を得た(黄色度25.5)。
【0049】
上記繊維製品(糸)の黄色度はエックスライト株式会社製、積分球方式分光測色計SP88を用いて分光反射率を求め、前記式(II)から算出した。
分光反射率の測定結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
また、上記実施例1~3で得た繊維製品(糸)の電子顕微鏡写真を図1~3にそれぞれ示す。
【0052】
この実施例からも明らかなように、塩素化イソシアヌル酸ソーダと酵素で処理した繊維製品(実験例1)は黄色度が28以下であったが、次亜塩素酸ソーダと酵素で処理した繊維製品(実験例3)には、スケールがある程度は除去されているものの黄色度は30.99であり、28を超えていた。また処理を行っていない原糸(実験例2)では黄色度は28以下であったもののスケールがそのまま残っていた。
【実施例2】
【0053】
この実施例では、実施例1における実験例1~3の繊維製品について染色を行い、それぞれの表面染色濃度と染料吸尽率の違いを確認した。
【0054】
即ち、〔実験例4〕では実験例1の繊維製品(塩素化イソシアヌル酸塩及び酵素で処理した羊毛から成る1/3紡毛糸)3gを、浴比1:60にて、1%o.w.f.ラニール レッドB、5%o.w.f.無水芒硝を加え、80℃で30分間、処理を行い、水洗、自然乾燥を経て染色糸を得た〔表面染色濃度(K/S)520nm8.3、染料吸尽率〕。
【0055】
そして〔実験例5〕では実験例1で使用した原糸を上記実験例4と同じ方法で染色した繊維製品(染色糸)、〔実験例6〕では実験例3で使用した繊維製品(即ち、FasolanDCの代わりに次亜塩素酸ナトリウムを使用して改質した繊維製品)を上記実験例4と同じ方法で染色した繊維製品(染色糸)を使用して、その表面染色濃度と染料吸尽率を算出した。
【0056】
その結果は、図4に実験例4~6の繊維製品における染色時間と表面染色濃度(K/S)520nmの関係を示し、図5に実験例4~6の繊維製品における染色時間と染料吸尽率の関係を示した。
【0057】
上記の表面染色濃度(K/S)520nmは、エックスライト株式会社製、積分球方式分光測色計SP88を用いて分光反射率を求め、前記式(III)から算出した。
【0058】
染料吸尽率(%)は、株式会社島津製作所製、紫外可視分光光度計MultiSpec-1500にて517nmの吸光度を測定し、下記式(VII)から算出した。
【0059】
【数6】
〔Abs.染色前は染色前の染料の吸光度、Abs.染色後は染色後の染料の吸光度を示す。〕
【0060】
この実施の例の結果から、前記実施例1の結果において黄色度が28以下である実験例1及び2の繊維製品を染色した場合には、本実施の形態に係る繊維製品(実験例4)は、表面染色濃度及び染料吸尽率が、何れも原糸を用いた場合よりも向上していることが確認できた。
【実施例3】
【0061】
この実施例では、実施例1における実験例1~3の繊維製品を用いてカーペットを製造し、それぞれの圧縮弾性率、エントロピー及びコントラストの違いを確認した。
【0062】
即ち、〔実験例7〕では実験例1の繊維製品(塩素化イソシアヌル酸塩及び酵素で処理した1/3紡毛糸)を5本取り、27×22段でパイル組織に打ち込んだ後、12mmにパイルを切断してカーペット(以下、試験片という)を得て、以下の測定方法により圧縮弾性率、エントロピー及びコントラストを得た(圧縮弾性率91.5%、エントロピー4.19、コントラスト1.60)。
【0063】
上記圧縮弾性率は、材料試験機に株式会社島津製作所製オートグラフAG-100kNX、5kNロードセルを使用し、φ100mmの試験用圧盤を治具に圧縮速度10mm/分にて下記の手順で試験を行った。
【0064】
試験片に対し、標準圧力下(2.0kPa)での厚さ(t)を測定後、98kPaの一定圧力を加え、5分経過後の厚さ(t)を測定した。測定後直ちに荷重を除き、5分経過後の標準圧力下(2.0kPa)での厚さ(t')を測定した。これを前記の式(IV)に代入して圧縮弾性率求めた。
【0065】
上記エントロピーは、試験片に対する照明及びカメラの位置をASTM D 2401に基づいて設定して写真撮影を行い、その撮影画像を解析して、表生地の画像情報を前記の式(V)から求めた。
【0066】
上記コントラストは、試験片に対する照明及びカメラの位置をASTM D 2401に基づいて設定して写真撮影を行い、その撮影画像を解析して、表生地の画像情報を前記の式(VI)から求めた。
【0067】
そして〔実験例8〕では実験例1で使用した原糸を用いて上記実験例7と同じ方法でカーペットを製造し、その圧縮弾性率、エントロピー及びコントラストを前記実験例7と同様の測定方法により得た。また〔実験例9〕では、実験例3で使用した繊維製品(即ち、FasolanDCの代わりに次亜塩素酸ナトリウムを使用して改質した繊維製品)を用いて上記実験例7と同じ方法でカーペットを製造し、その圧縮弾性率、エントロピー及びコントラストを前記実験例7と同様の測定方法により得た。
実験例7~9で製造したカーペットの圧縮弾性率、エントロピー、コントラストの結果を表2に示す。またこの実験例7~9で製造したカーペットの写真(左側)とこれを2値化した画像を図6~8に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
この実施例3の結果から、塩素化イソシアヌル酸ソーダ及び酵素で処理した繊維製品(カーペット)の圧縮弾性率が低く、処理していない繊維製品や次亜塩素酸ソーダ及び酵素で処理した繊維製品(カーペット)に比べて柔軟性(しなやかさ)が増していることから、風合いに優れた繊維製品であることを確認できた。更に実験例7のカーペットは、実験例8及び9のカーペットと比べてコントラストが小さく、エントロピーも小さいことから、平滑性、染色性に優れた繊維製品であることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の繊維表面の表皮(スケール)が除去された動物繊維を用いることで、平滑性、染色性、風合いに優れた繊維製品を提供できる。繊維製品は、光沢や風合いに優れた織物、ニット、カーペットなど、付加価値の高い繊維工業製品として利用できる。
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図2
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図4
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図8