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特許7165943π電子共役単位とカルバゾール基を有する化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】π電子共役単位とカルバゾール基を有する化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/86 20060101AFI20221028BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20221028BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
C07D209/86
C09K11/06 645
H05B33/14 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018200383
(22)【出願日】2018-10-24
(65)【公開番号】P2019085401
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2017212234
(32)【優先日】2017-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 正幸
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 一剛
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
(72)【発明者】
【氏名】東山 大地
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-133075(JP,A)
【文献】特開平08-003547(JP,A)
【文献】特開2018-070586(JP,A)
【文献】特開2018-065784(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0140603(US,A1)
【文献】国際公開第2018/202840(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/025186(WO,A1)
【文献】独国特許発明第102016120373(DE,B3)
【文献】独国特許発明第102016108334(DE,B3)
【文献】独国特許発明第102016108332(DE,B3)
【文献】独国特許発明第102016110004(DE,B3)
【文献】独国特許発明第102016108327(DE,B3)
【文献】特開2014-183226(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03385264(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03399004(EP,A1)
【文献】国際公開第2018/047948(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/153510(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/145995(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/041933(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/037069(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/190885(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/001820(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/001821(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/161437(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102017102662(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102017102363(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016112377(DE,A1)
【文献】独国特許発明第102017114372(DE,B3)
【文献】独国特許発明第102017114250(DE,B3)
【文献】独国特許発明第102017119592(DE,B3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 209/86
C09K 11/06
H01L 51/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記1)及び/又は2)を満足するベンゼン環に2つ以上のカルバゾール基が結合しており、該カルバゾール基の全てが、3位及び6位にCF3基を有している化合物の2つ以上が、一方の化合物のカルバゾール基と他方の化合物のカルバゾール基との間で直接結合された連結構造を有することを特徴とする化合物。
[但し、下記1)を満足するベンゼン環に2つのカルバゾール基が結合しているときは、前記ベンゼン環にハメットの置換基定数σparaが正となる置換基(E)が2つ結合している。]
1)ハメットの置換基定数σparaが正となる置換基(E)が前記ベンゼン環に結合しており、
前記ハメットの置換基定数σparaが正となる置換基(E)が、フッ素原子、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、ホスフィンオキシド基、スルホニル基、パーフルオロアルキル基、アミド基、アルコキシ基、ピリジル基、ピリミジル基、またはトリアジル基のいずれかである。
2)前記ベンゼン環に加えて更に芳香族炭化水素環又は芳香族性複素環を有し、-CO-、-SO2-、又は-CF2-が前記ベンゼン環と前記芳香族炭化水素環又は芳香族性複素環とを連結している。
【請求項2】
前記ハメットの置換基定数σparaが正となる置換基(E)は、-CNまたは-CF3である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物を含む発光層を基板上に有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
有機エレクトロルミネッセンス素子である請求項に記載の有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π電子共役単位とカルバゾール基を有する化合物に関する。詳細には、例えば、有機発光素子などの発光層を構成する材料として好適に用いることができる新規な化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの有機発光素子の発光効率を高める研究が盛んに行われている。例えば、有機EL素子を構成する電子輸送材料、正孔輸送材料、発光材料などを新たに開発して組み合わせることによって、発光効率を高める工夫が種々なされてきている。その中には、パーフルオロアルキル基で置換されたカルバゾール基を有する化合物を用いた有機EL素子に関する研究も見受けられる。例えば、非特許文献1には、3,5,3’,5’-テトラメチル-4,4’-ビス{(2,7-ジトリフルオロメチル)カルバゾール-9-イル}ビフェニルが、有機EL素子のマトリックス材料として用いられることが記載されている。また、特許文献1には、下記一般式(3)で表されるシアノベンゼン誘導体が、有機発光素子の発光材料として用いられることが記載されている。下記一般式(3)において、R81~R85の1つはシアノ基であり、R81~R85の2つは特定の置換基で置換されていてもよい9-カルバゾール基であり、その他の2つは水素原子を表すことが記載されている。また、同文献には、9-カルバゾール基に置換しうる置換基群の中にハロゲン原子とアルキル基、置換基群に列挙された基の組み合わせからなる置換基が挙げられている。
【0003】
【化1】
【0004】
また、特許文献2には、蛍光発光性ドーパントとして下記式で表される化合物F-9が記載されている。
【0005】
【化2】
【0006】
同文献には、下記一般式(I)で表されるホスト化合物を有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層に用いることが記載されている。下記一般式(I)において、X101は、NR101、酸素原子、硫黄原子、CR102103又はSiR102103を表し、y1~y8はCR104又は窒素原子を表し、R101~R104は水素原子又は置換基を表し、Ar101及びAr102は芳香環を表すことが記載されている。また、同文献には、R101~R104が表す置換基群の中に、芳香族炭化水素環基、フルオロメチル基、シアノ基が挙げられており、置換基はさらに置換基群の中の置換基で置換されていてもよいことが記載されている。
【0007】
【化3】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Chem.Mater.2015,27,P.1772-1779
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5366106号公報
【文献】国際公開第2015/022987号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、各文献にはパーフルオロアルキル基で置換されたカルバゾール基を有する化合物、またはそのような構造を有する化合物を包含する一般式が記載されている。しかし、本発明者らが、各文献に記載された化合物の発光効率を評価したところ、いずれも充分満足のいくものとは言えないことが判明した。
【0011】
即ち、非特許文献1に記載の3,5,3’,5’-テトラメチル-4,4’-ビス{(2,7-ジトリフルオロメチル)カルバゾール-9-イル}ビフェニルは、有機エレクトロルミネッセンス素子のマトリックス材料としての使用が想定されており、発光材料に用いることは記載されていない。そのため、同文献には、その発光効率について一切記載されていない。また、この化合物は分子内にアクセプター性基を有していないため、HOMOとLUMOを効果的に分離することができず、HOMOとLUMOの分離によってもたらされる高い発光効率は期待できないと考えられる。
【0012】
また、特許文献1には、上記一般式(3)で表される化合物(カルバゾール-9-イル基を有するシアノベンゼン誘導体)が記載されている。しかし同文献には、カルバゾール-9-イル基の置換基としてパーフルオロアルキル基が好ましいことは記載されておらず、そのような構造を有する化合物の具体例も記載されていない。
【0013】
また、特許文献2について、化合物F-9を発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子を実際に作製して発光効率を評価したところ、充分な発光効率が得られないことが判明した。更に、特許文献2の上記一般式(I)で表される化合物はホスト化合物として使用されるものであり、同文献には、その発光効率については何ら検討がなされていない。
【0014】
上記有機発光素子には、発光効率の向上の他に、使用時に発光強度の経時減衰が少なく、耐久性が高いことが求められる。さらに、上記有機発光素子を屋外で使用する場合、日光等の外光に対する光安定性に優れていることも求められる。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みて成されたものであり、その目的は、例えば、有機発光素子などの発光層の材料として用いたときに、発光効率を高めることができ、しかも光安定性に優れる新規の化合物を提供することにある。なお、本明細書において、光安定性に優れる化合物とは、光によって励起した際に生じる励起状態分子の安定性が高い化合物を意味する。発光材料の励起状態が安定である場合、それを用いて作製した素子の光安定性が増すとともに、素子駆動時の耐久性も向上することが期待される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を達成した本発明は、以下の通りである。
[1] 1つ以上のベンゼン環を含み、下記1)及び/又は2)を満足するπ電子共役単位(A)のベンゼン環に2つ以上のカルバゾール基が結合しており、該カルバゾール基の全てが、3位及び6位にCF3基を有していることを特徴とする化合物。
1)ハメットの置換基定数σparaが正となる置換基(E)が前記π電子共役単位(A)に結合している。
2)前記π電子共役単位(A)が前記ベンゼン環に加えて更に芳香族炭化水素環又は芳香族性複素環を有し、-CO-、-SO2-、又は-CF2-が前記ベンゼン環と前記芳香族炭化水素環又は芳香族性複素環とを連結している。
[2] [1]に記載の化合物の2つ以上が、一方の化合物のカルバゾール基と他方の化合物のカルバゾール基との間で直接結合された連結構造を有する化合物。
[3] 前記π電子共役単位(A)が、下記式(A1)~(A14)のいずれかである[1]または[2]に記載の化合物。下記式中、環Aはベンゼン環を示し、環Bはベンゼン環又は6員の芳香族性複素環を示し、環Cは5員の芳香族性複素環を示す。Dはホウ素原子、窒素原子又はP(=O)を示す。R4は単結合、-CH2-、または-O-を示す。環A又は環Bで表される1つ又は2つ以上のベンゼン環に、3位及び6位にCF3基を有するカルバゾール基(以下、3,6-CF3-カルバゾール基という)が結合しており、環A、環B、及び環Cの少なくとも1つに前記置換基(E)が結合している。環A、環B、及び環Cには脂肪族炭化水素基が結合していてもよい。
【化4】

[4] 前記ハメットの置換基定数σparaが正となる置換基(E)は、-CNまたは-CF3である[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の化合物を含む発光層を基板上に有することを特徴とする有機発光素子。
[6] 有機エレクトロルミネッセンス素子である[5]に記載の有機発光素子。
【発明の効果】
【0017】
本発明の化合物は、1つ以上のベンゼン環を含み、特定の条件を満足するπ電子共役単位(A)のベンゼン環に2つ以上のカルバゾール基が結合し、該カルバゾール基の全てが、3位及び6位にCF3基を有する新規の化合物である。本発明の化合物は、例えば、有機発光素子などの発光層を構成する材料として用いることによって、発光効率が高く、光安定性に優れた有機発光素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成例を示す概略断面図である。
図2図2は、化合物1のDMSO-d6溶液の1H-NMRスペクトルである。
図3図3は、化合物2の重アセトン溶液の1H-NMRスペクトルである。
図4図4は、化合物3の重アセトン溶液の1H-NMRスペクトルである。
図5図5は、化合物4のアセトン-d6溶液の1H-NMRスペクトルである。
図6図6は、化合物5のアセトン-d6溶液の1H-NMRスペクトルである。
図7図7は、化合物6のDMSO-d6溶液の1H-NMRスペクトルである。
図8図8は、化合物の濃度とPLQYとの関係を示すグラフである。
図9図9は、化合物の濃度とPLQYとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0020】
本発明の化合物は、1つ以上のベンゼン環を含み、下記1)及び/又は2)を満足するπ電子共役単位(A)のベンゼン環に2つ以上のカルバゾール基が結合しており、該カルバゾール基の全てが、3位及び6位にCF3基を有していることを特徴とする。
1)ハメットの置換基定数σparaが正となる置換基(E)(以下、単に電子吸引性基(E)という場合がある)が前記π電子共役単位(A)に結合している。
2)前記π電子共役単位(A)が前記ベンゼン環に加えて更に芳香族炭化水素環又は芳香族性複素環を有し、-CO-、-SO2-、又は-CF2-が前記ベンゼン環と前記芳香族炭化水素環又は芳香族性複素環とを連結している。
【0021】
即ち、本発明の化合物は、π電子共役単位(A)を中心骨格として有しており、該π電子共役単位(A)は、1つ以上のベンゼン環を含んでいる。そして、該π電子共役単位(A)に含まれるベンゼン環に2つ以上のカルバゾール基が結合している。このとき、カルバゾール基は、後述するように、π電子共役単位(A)に含まれる同一のベンゼン環に結合していてもよいし、異なるベンゼン環に結合していてもよく、全てのカルバゾール基が同一のベンゼン環に結合していることが好ましい。
【0022】
上記π電子共役単位(A)は、上記1)及び/又は2)の要件を満足する必要があり、少なくとも上記1)の要件を満足することが好ましい。以下、1)および2)の要件について説明する。
【0023】
1)の要件
上記π電子共役単位(A)に、ハメットの置換基定数σparaが正となる置換基(E)が結合することによって、本発明の化合物を、例えば、有機発光素子などの発光層を構成する材料として用いたときに、発光効率を高めると共に、光安定性を向上できる。
【0024】
上記ハメットの置換基定数σparaは、L.P.ハメットによって提唱されたものであり、パラ置換安息香酸の酸解離平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したものである。具体的には、パラ置換安息香酸における置換基と酸解離平衡定数の間に成立する下記式における置換基に特有な定数(σpara)である。
σpara=logK-logK
【0025】
上式において、Kは置換基を持たない安息香酸の酸解離平衡定数、Kはパラ位が置換基で置換された安息香酸の酸解離平衡定数を表す。ハメットの置換基定数σparaに関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,vol.91,P.165-195(1991)を参照できる。
【0026】
上記ハメットの置換基定数σparaが正となる置換基(E)は、その置換基がアクセプター性基(電子吸引性基)であることを意味する。一方、上記ハメットの置換基定数σparaが負となる置換基は、その置換基がドナー性基(電子供与性基)であることを意味する。
【0027】
本発明の化合物に含まれる上記電子吸引性基(E)のハメットの置換基定数σparaは、その値が正であれば特に限定されないが、0.05以上が好ましく、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.3以上である。上記ハメットの置換基定数σparaの上限は、通常、3以下であり、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下である。
【0028】
上記ハメットの置換基定数σparaが正となる置換基としては、例えば、フッ素原子、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、ホスフィンオキシド基、スルホニル基、パーフルオロアルキル基(特にトリフルオロメチル基)、ホスフィンオキシド基、アミド基、アルコキシ基、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジル基等を挙げることができ、フッ素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基が特に好ましい。
【0029】
なお、発光性、耐久性、電気化学的安定性の点から、電子吸引性基(E)として、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基以外の基を選択することが好ましいが、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基を有していても発光性、耐久性、電気化学的安定性に対して実用性を損なうほどの悪影響が及ばない場合はこれらの基を選択してもよい。
【0030】
2)の要件
上記π電子共役単位(A)が、ベンゼン環に加えて更に芳香族炭化水素環又は芳香族性複素環を有する。そして、上記ベンゼン環と上記芳香族炭化水素環又は芳香族性複素環は、-CO-、-SO2-、又は-CF2-によって連結されている。-CO-、-SO2-、および-CF2-は、電子吸引性を示し、上記ベンゼン環と上記芳香族炭化水素環又は芳香族性複素環を、-CO-、-SO2-、又は-CF2-によって連結し、分子内の共役を広げることによって、本発明の化合物を、例えば、有機発光素子などの発光層の材料として用いたときに、発光効率が高くなると共に、光安定性が向上する。
【0031】
(芳香族炭化水素環)
上記芳香族炭化水素環は、単環であってもよく、縮合環であってもよく、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環等が挙げられ、ベンゼン環が好ましい。
【0032】
(芳香族性複素環)
上記芳香族性複素環は、単環であってもよく、縮合環であってもよく、例えば、下記式で表される含窒素芳香族性複素環、含硫黄芳香族性複素環、含酸素芳香族性複素環等が挙げられ、これらは2つ以上のヘテロ原子を環構成原子として有していてもよく、該2つ以上のヘテロ原子は同一であってもよく異なっていてもよい。
【0033】
【化5】
【0034】
【化6】
【0035】
【化7】
【0036】
【化8】
【0037】
中でも、ベンゼン環を一つ含む縮合型複素環であるか、ヘテロ原子を1個以上含む5員または6員の単環型芳香族性複素環が好ましく、より好ましくはチオフェン環、チアゾール環、ピリジン環、ピロール環、イミダゾール環、フラン環、オキサゾール環等である。
【0038】
本発明の化合物は、1つ以上のベンゼン環を含み、上記1)及び/又は2)を満足するπ電子共役単位(A)のベンゼン環に2つ以上のカルバゾール基が結合しており、該カルバゾール基の全ては、3位及び6位にCF3基を有している(3,6-CF3-カルバゾール基)。上記カルバゾール基の全てが、3位及び6位にCF3基を有していることによって、本発明の化合物を、例えば、有機発光素子の発光層の材料として用いたときに、発光効率が高くなると共に、光安定性が向上する。
【0039】
上記3,6-CF3-カルバゾール基は、上記π電子共役単位(A)に2つ以上含有する必要があり、好ましくは3つ以上、より好ましくは4つ以上である。
【0040】
上記1)の要件を満足する場合、π電子共役単位(A)は、電子吸引性基(E)を1つ以上含有する必要があり、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上である。
【0041】
上記1)の要件を満足する場合、上記π電子共役単位(A)において、3,6-CF3-カルバゾール基及び電子吸引性基(E)が結合していない置換位置は、水素原子のままでもよく、炭化水素基が結合していてもよく、好ましくは水素原子のままである。上記π電子共役単位(A)の置換位置(水素原子結合可能位置)は、全て、3,6-CF3-カルバゾール基及び電子吸引性基(E)が結合していることが好ましい。但し、3,6-CF3-カルバゾール基及び電子吸引性基(E)の置換位置や結合数を変えることによって、発光波長を調整できる。そのため、目的波長の発光を得るために、置換位置や結合数を任意に変えてもよい。
【0042】
π電子共役単位(A)が2つ以上のベンゼン環を有している場合、上記2つ以上の3,6-CF3-カルバゾール基は、異なるベンゼン環に結合していてもよいが、同一の(1つの)ベンゼン環に結合していることが好ましい。
【0043】
上記2つ以上の3,6-CF3-カルバゾール基が同じベンゼン環に結合している場合、2つ以上の3,6-CF3-カルバゾール基の2つ以上(例えば2~4、好ましくは3~4)はベンゼン環の隣接する炭素原子に結合していることが好ましい。隣接する炭素原子に結合することによって、化合物内のアクセプター部・ドナー部間に立体的なねじれが生じ、軌道の重なり程度がより適度に制御でき、発光効率をより改善できる。
【0044】
3,6-CF3-カルバゾール基が同じベンゼン環に2つ結合している場合の結合位置は、1,2-位、1,3-位または1,4-位のいずれでもよく、なかでも1,2-位または1,4-位が好ましい。また、3,6-CF3-カルバゾール基が同じベンゼン環に3つ結合している場合の結合位置は、1,2,3-位、1,2,4-位、1,2,5-位または1,3,5-位のいずれでもよく、なかでも1,2,3-位、1,2,4-位または1,2,5-位が好ましい。また、3,6-CF3-カルバゾール基が同じベンゼン環に4つ結合している場合の結合位置は、1,2,3,4-位、1,2,3,5-位または1,2,4,5-位のいずれでもよく、なかでも1,2,3,5-位または1,2,4,5-位が好ましい。いずれの場合も3,6-CF3-カルバゾール基が置換していない位置には、電子吸引性基(E)が結合していることが好ましい。
【0045】
本発明の化合物は、上記π電子共役単位(A)が、ベンゼン環を含む単環型芳香環が直接結合によって或いは6員の芳香族性複素環、5員の芳香族性複素環、窒素原子、又は>P(=O)-結合を介して連結した構造を有する単位であってもよいし、2つ以上のベンゼン環が-CO-、-SO2-、又は-CF2-で連結している構造を有する単位であってもよい。2つ以上のベンゼン環が-CO-、-SO2-、又は-CF2-で連結している構造を有する単位である場合は、該ベンゼン環は単環としてのベンゼン環であってもよいし、縮環構造の一部であってもよい。本発明の化合物は、上記π電子共役単位(A)が、ベンゼン環を含む単環型芳香環が直接結合によって或いは6員の芳香族性複素環、5員の芳香族性複素環、窒素原子、又は>P(=O)-結合を介して連結した構造を有する単位であることが好ましい。
【0046】
本発明には、2つ以上の前記化合物が、一方の化合物の3,6-CF3-カルバゾール基と他方の化合物の3,6-CF3-カルバゾール基との間で直接結合された連結構造を有するものも含まれるが、連結構造を有さないものが好ましい。
【0047】
本発明の化合物についてより具体的に説明すると、本発明の化合物は、例えば、下記式(I)又は(II)で示すことができ、式(I)で示す化合物であることが好ましい。下記式中、(A)は1つ以上のベンゼン環を含み、上記1)及び/又は2)を満足するπ電子共役単位を示す。nは2~6の整数である。
【0048】
【化9】

【0049】
上記π電子共役単位(A)は、ベンゼン環を含む単環型芳香環が直接結合によって或いは6員の芳香族性複素環、5員の芳香族性複素環、窒素原子又は>P(=O)-結合を介して連結した構造を有する単位が挙げられ、例えば、下記式(A1)~(A14)に示す単位が挙げられる。
【0050】
【化10】
【0051】
[式中、環Aはベンゼン環を示し、環Bはベンゼン環又は6員の芳香族性複素環を示し、環Cは5員の芳香族性複素環を示す。
Dはホウ素原子、窒素原子又はP(=O)を示す。
4は単結合、-CH2-、または-O-を示す。
環A又は環Bで表される1つ又は2つ以上のベンゼン環に、3位及び6位にCF3基を有するカルバゾール基(3,6-CF3-カルバゾール基)が結合しており、環A、環B、及び環Cの少なくとも1つに前記電子吸引性基(E)が結合している。
環A、環B、及び環Cには炭素数1~10の脂肪族炭化水素基が結合していてもよい。]
【0052】
上記6員の芳香族性複素環としては、例えば、下記式で表される含窒素芳香族性複素環等が挙げられる。
【0053】
【化11】
【0054】
上記5員の芳香族性複素環としては、例えば、下記式で表される含窒素芳香族性複素環、含硫黄芳香族性複素環、含酸素芳香族性複素環等が挙げられる。
【0055】
【化12】
【0056】
上記環A又は環Bで表される1つ又は2つ以上のベンゼン環には、3位及び6位にCF3基を有するカルバゾール基(3,6-CF3-カルバゾール基)が結合しており、好ましくは、上記環Aで表される1つのベンゼン環に3,6-CF3-カルバゾール基が結合していることがよい。
【0057】
上記環A、環B、及び環Cの少なくとも1つに前記電子吸引性基(E)が結合しており、好ましくは、少なくとも上記環Aに前記電子吸引性基(E)が結合していることがよい。
【0058】
上記脂肪族炭化水素基はアルキル基が好ましく、該脂肪族炭化水素基の炭素数は、1~8が好ましく、より好ましくは2~6である。
【0059】
上記アルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などを挙げることができる。
【0060】
上記π電子共役単位(A)は、上記式(A1)で表される単位が好ましい。
【0061】
上記π電子共役単位(A)が、上記式(A1)で表される単位であるとき、下記式(A1-1)~(A1-13)の化合物が例示できる。なお、下記式中、Eaは、水素原子、脂肪族炭化水素基、又は前記電子吸引性基(E)のいずれかを示し、少なくとも1つは該電子吸引性基(E)である。全てのEaが電子吸引性基(E)であることが好ましく、該電子吸引性基(E)としてはフッ素原子、ニトリル基、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0062】
【化13】
【0063】
【化14】
【0064】
【化15】
【0065】
上記式(A1-1)~(A1-13)で表される化合物のなかでも、化合物の2つが、一方の化合物の3,6-CF3-カルバゾール基と他方の化合物のカルバゾール基との間で直接結合していない上記式(A1-1)~(A1-10)で表される化合物がより好ましい。更に好ましくは、ベンゼン環に4つの3,6-CF3-カルバゾール基が結合している式(A1-7)~(A1-9)で表される化合物であり、特に好ましくは上記式(A1-8)または(A1-9)で表される化合物である。
【0066】
上記π電子共役単位(A)が、上記式(A2)~(A14)で表される単位であるとき、下記式の化合物が例示できる。なお、下記式中、Eaは、水素原子、脂肪族炭化水素基、又は前記電子吸引性基(E)のいずれかを示し、少なくとも1つは該電子吸引性基(E)である。全てのEaが電子吸引性基(E)であることが好ましく、該電子吸引性基(E)としてはフッ素原子、ニトリル基、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0067】
【化16】
【0068】
【化17】
【0069】
【化18】
【0070】
【化19】
【0071】
【化20】
【0072】
上記π電子共役単位(A)は、2つ以上のベンゼン環が-CO-、-SO2-、又は-CF2-で連結している構造を有する単位であってもよい。
【0073】
2つ以上のベンゼン環が-CO-、-SO2-、又は-CF2-で連結している構造を有する単位である場合は、該ベンゼン環は単環としてのベンゼン環であってもよいし、縮環構造の一部であってもよい。
【0074】
[ベンゼン環が単環の場合]
上記ベンゼン環が単環としてのベンゼン環である場合の単位としては、例えば、下記式(B1)~(B10)に示す単位が挙げられる。
【0075】
【化21】
【0076】
[式中、環Aはベンゼン環を示し、環Bはベンゼン環又は6員の芳香族性複素環を示す。
1は-CO-、-SO2-、又は-CF2-を示し、R2は、単結合、-CH2-、-CO-、-SO2-、又は-CF2-を示す。
環A又は環Bで表される1つ又は2つ以上のベンゼン環に、3位及び6位にCF3基を有するカルバゾール基(3,6-CF3-カルバゾール基)が結合しており、環A又は環Bの少なくとも1つに前記電子吸引性基(E)が結合している。
環A及び環Bには炭素数1~10の脂肪族炭化水素基が結合していてもよい。]
【0077】
上記6員の芳香族性複素環としては、例えば、下記式で表される含窒素芳香族性複素環等が挙げられる。
【0078】
【化22】
【0079】
上記脂肪族炭化水素基はアルキル基が好ましく、該脂肪族炭化水素基の炭素数は、1~8が好ましく、より好ましくは2~6である。
【0080】
上記π電子共役単位(A)が、上記式(B1)~(B10)で表される単位であるとき、下記式の化合物が例示できる。
【0081】
【化23】
【0082】
【化24】
【0083】
【化25】
【0084】
[ベンゼン環が縮環構造の一部の場合]
上記ベンゼン環が縮環構造の一部である場合の単位としては、例えば、下記式(C1)~(C14)に示す単位が挙げられる。但し、縮環中の2つ以上のベンゼン環が-CO-、-SO2-、又は-CF2-で連結している構造を有する単位を除く。
【0085】
【化26】
【0086】
[式中、環Aはベンゼン環を示し、環Bはベンゼン環又は6員の芳香族性複素環を示し、環Cは5員の芳香族性複素環を示す。
3は炭素数1~10の脂肪族炭化水素基を示す。
環A又は環Bで表される1つ又は2つ以上のベンゼン環に、3位及び6位にCF3基を有するカルバゾール基(3,6-CF3-カルバゾール基)が結合しており、環A、環B、及び環Cの少なくとも1つに前記電子吸引性基(E)が結合している。
環A、環B、及び環Cには脂肪族炭化水素基が結合していてもよい。]
【0087】
上記6員の芳香族性複素環としては、例えば、下記式で表される含窒素芳香族性複素環等が挙げられる。
【0088】
【化27】
【0089】
上記5員の芳香族性複素環としては、例えば、下記式で表される含窒素芳香族性複素環、含硫黄芳香族性複素環、含酸素芳香族性複素環等が挙げられる。
【0090】
【化28】
【0091】
上記脂肪族炭化水素基はアルキル基が好ましく、該脂肪族炭化水素基の炭素数は、1~8が好ましく、より好ましくは2~6である。
【0092】
上記π電子共役単位(A)が、上記式(C1)~(C14)で表される単位であるとき、下記式の化合物が例示できる。なお、下記式中、Eaは、水素原子、脂肪族炭化水素基、又は前記電子吸引性基(E)のいずれかを示し、少なくとも1つは該電子吸引性基(E)である。全てのEaが電子吸引性基(E)であることが好ましく、該電子吸引性基(E)としてはフッ素原子、ニトリル基、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0093】
【化29】
【0094】
【化30】
【0095】
【化31】
【0096】
本発明の化合物の分子量は、例えば、上記化合物を含む有機層を蒸着法によって製膜して利用することを意図する場合には、2000以下が好ましく、1500以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましく、800以下がさらにより好ましい。分子量の下限値は、通常、247以上であり、好ましくは290以上である。上記化合物は、分子量にかかわらず塗布法で製膜してもよい。塗布法を用いれば、分子量が2000を超える比較的大きな化合物であっても成膜することが可能である。
【0097】
[合成方法]
本発明の化合物は新規化合物である。
【0098】
本発明の化合物の合成法は特に制限されず、既知の合成法や条件を適宜組み合わせることによって上記化合物を合成できる。
【0099】
本発明の化合物は、例えば、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾールとフッ化物を反応させることによって合成できる。具体的な反応条件等については後述の合成例を参考にできる。
【0100】
[有機発光素子]
本発明の化合物は、有機発光素子の発光材料として用いたときに、発光効率を高めると共に、光安定性を向上できる。また、本発明の化合物は、上記のカルバゾール基におけるCF3基の置換位置が3位及び6位であることにより、カルバゾール基がCF3基で置換されていないベンゼン誘導体と同等の高い励起状態の安定性を有する。このため、本発明の化合物を発光層の発光材料に用いた有機発光素子は、極めて高い耐候性(耐光性)を有し、屋外で使用した場合でも良好な光安定性を維持できる。
【0101】
本発明の化合物を、例えば、有機発光素子を構成する発光層の発光材料として用いることによって、有機フォトルミネッセンス素子(有機PL素子)や有機EL素子などの優れた有機発光素子を提供できる。
【0102】
上記有機PL素子は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。一方、上記有機EL素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。上記有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な有機EL素子の構造例を図1に示す。図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表わす。
【0103】
以下、有機EL素子の各部材および各層について説明する。なお、基板と発光層の説明は有機PL素子の基板と発光層にも該当する。
【0104】
(基板)
本発明の有機EL素子は、基板に支持されていることが好ましい。基板の種類は特に制限されず、従来から有機EL素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0105】
(陽極)
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(例えば、4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものを好ましく用いることができる。
【0106】
陽極に用いる電極材料の具体例としては、Au等の金属、CuI、酸化インジウムスズ(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In23-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(例えば、100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに陽極の膜厚は材料にもよるが、通常、10~1000nm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0107】
(陰極)
有機EL素子における陰極としては、仕事関数の小さい(例えば、4eV以下)金属(電子注入性金属と称することがある。)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものを用いることができる。
【0108】
陰極に用いる電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し、好都合である。
【0109】
また、陽極の説明で挙げた導電性透明材料を陰極に用いることで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製できる。
【0110】
(発光層)
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層である。
【0111】
発光層には、発光材料を単独で用いても良く、発光材料としては、本発明の化合物を用いることができる。
【0112】
本発明の有機EL素子および有機PL素子が高い発光効率を発現するためには、発光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、発光材料中に閉じ込めることが重要である。従って、発光層には、発光材料に加えてホスト材料を用いることが好ましい。
【0113】
上記ホスト材料としては、励起一重項エネルギー、励起三重項エネルギーの少なくとも何れか一方が本発明の化合物よりも高い値を有する有機化合物を用いることができる。その結果、本発明の化合物に生成した一重項励起子および三重項励起子を、本発明の化合物の分子中に閉じ込めることが可能となり、その発光効率を充分に引き出すことが可能となる。もっとも、一重項励起子および三重項励起子を充分に閉じ込めることができなくても、高い発光効率を得ることが可能な場合もあるため、高い発光効率を実現しうるホスト材料であれば特に制約なく本発明に用いることができる。
【0114】
本発明の有機EL素子または有機発光素子において、発光は、発光層に含まれる発光材料から生じる。この発光は、蛍光発光および遅延蛍光発光の両方を含む。但し、発光の一部或いは部分的にホスト材料からの発光があってもかまわない。
【0115】
上記ホスト材料を用いる場合、発光材料である本発明の化合物が発光層中に含有される量は0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、また、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0116】
発光層におけるホスト材料としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。
【0117】
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に必要に応じて設けられる層である。
【0118】
注入層としては、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。正孔注入材料および電子注入材料については後述する。
【0119】
(阻止層)
阻止層は、発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)および/または励起子が発光層外へ拡散することを阻止できる層である。
【0120】
上記発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)が発光層外へ拡散することを阻止できる層(電子阻止層もしくは正孔阻止層)のうち、電子阻止層は、発光層および正孔輸送層の間に配置されることができ、電子が正孔輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する層である。正孔阻止層は、発光層および電子輸送層の間に配置されることができ、正孔が電子輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する層である。
【0121】
また、阻止層は、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止するために用いることができる。即ち、電子阻止層および正孔阻止層は、それぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備えることができる。本明細書でいう電子阻止層または励起子阻止層は、一つの層で電子阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。
【0122】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔を輸送する機能を有する。電子阻止層は正孔を輸送しつつ、電子が正孔輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中で電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。電子阻止層の材料については後述する。
【0123】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは、広い意味では電子を輸送する機能を有する。正孔阻止層は電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中で電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。正孔阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0124】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。
【0125】
上記励起子阻止層は、発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。すなわち、励起子阻止層を陽極側に有する場合は、陽極と発光層の間に、発光層に隣接して該層を挿入することができ、励起子阻止層を陰極側に有する場合は、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。
【0126】
また、陽極と、発光層の陽極側に隣接する励起子阻止層との間には、正孔注入層や電子阻止層などを有することができる。
【0127】
陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層などを有することができる。
【0128】
阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0129】
(正孔輸送層)
正孔輸送層は、正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0130】
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。
【0131】
正孔輸送材料としては公知の材料を用いることができ、例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0132】
(電子輸送層)
電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する電子輸送材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0133】
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。
【0134】
電子輸送材料としては、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0135】
有機EL素子を作製する際には、本発明の化合物を、発光層に用いるだけでなく、発光層以外の層に用いてもよい。即ち、本発明の化合物は、例えば、上記の注入層、阻止層、正孔阻止層、電子阻止層、励起子阻止層、正孔輸送層、電子輸送層などに用いてもよい。その際、発光層に用いる化合物と、発光層以外の層に用いる化合物は、同一であっても異なっていてもよい。これらの層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらも採用できる。
【0136】
以下、有機EL素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示する。但し、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。なお、以下の例示化合物の構造式におけるR、R1~R7は、各々独立に水素原子または置換基を表す。Lは、芳香環を表す。nは3~5の整数を表す。
【0137】
まず、発光層のホスト材料としても用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0138】
【化32】
【0139】
【化33】
【0140】
【化34】
【0141】
【化35】
【0142】
【化36】
【0143】
次に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0144】
【化37】
【0145】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0146】
【化38】
【0147】
次に、正孔阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0148】
【化39】
【0149】
次に、電子阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0150】
【化40】
【0151】
次に、正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0152】
【化41】
【0153】
【化42】
【0154】
【化43】
【0155】
【化44】
【0156】
【化45】
【0157】
【化46】
【0158】
次に、電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0159】
【化47】
【0160】
【化48】
【0161】
【化49】
【0162】
【化50】
【0163】
さらに添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。下記化合物を、例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0164】
【化51】
【0165】
上述した方法によって作製した有機EL素子は、素子の陽極と陰極の間に電界を印加することによって発光する。このとき、励起一重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長の光が、蛍光発光および遅延蛍光発光として確認される。また、励起三重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長の光が、りん光として確認される。通常の蛍光発光は、遅延蛍光発光よりも蛍光寿命が短いため、発光寿命は蛍光と遅延蛍光で区別できる。一方、りん光については、本発明の化合物のような通常の有機化合物では、励起三重項エネルギーは不安定で熱等に変換され、寿命が短く直ちに失活するため、室温では殆ど観測できない。通常の有機化合物の励起三重項エネルギーを測定するためには、極低温の条件での発光を観測することによって測定可能である。
【0166】
本発明の有機EL素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構造からなる素子のいずれにおいても適用できる。
【0167】
本発明によれば、発光層に本発明の化合物を含有させることにより、発光効率が大きく改善された有機発光素子が得られる。本発明の有機EL素子などの有機発光素子は、さらに様々な用途へ応用できる。例えば、本発明の有機EL素子を用いて、有機EL表示装置を製造できる。詳細については、時任静士、安達千波矢、村田英幸共著「有機ELディスプレイ」(オーム社)を参照できる。また、本発明の有機EL素子は、特に需要が大きい有機EL照明やバックライトにも応用できる。
【実施例
【0168】
以下に合成例および実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0169】
なお、発光スペクトルの測定は、蛍光分光光度計(堀場製作所製のFluoroMax-4)を用いて行った。発光特性の評価は、分光計(浜松ホトニクス製のPMA-12)、小型蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス製のQuantaurus-Tau「C11367-21」)、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス製のQuantaurus-QY「C11347-01」)を用いて行った。耐光性の評価は、キセノン光源(朝日分光製のMAX-303)と300~400nmの透過フィルターを組み合わせて行った。
【0170】
(化合物1の合成)
200mLナスフラスコに、水素化ナトリウム(60質量%、336mg)を入れ、ヘキサンで洗浄した。次に、テトラヒドロフラン(70mL)、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾール(2.12g)を加え、室温で1時間撹拌した後、テトラフルオロイソフタロニトリル(308mg)を加え、さらに室温で13時間撹拌した。次に、水(50mL)を加え、析出物をろ取した。ろ取物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して精製し、下記式で示される化合物1(2.0g、収率94%)を得た。化合物1のDMSO-d6溶液の1H-NMRスペクトルを図2に示す。
【0171】
【化52】
【0172】
(化合物2の合成)
200mLナスフラスコに、水素化ナトリウム(60質量%、336mg)を入れ、ヘキサンで洗浄した。次に、テトラヒドロフラン(70mL)、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾール(2.12g)を加え、室温で1時間撹拌した後、テトラフルオロテレフタロニトリル(308mg)を加え、さらに室温で18時間撹拌した。次に、水(50mL)を加え、析出物をろ取した。ろ取物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して精製し、下記式で示される化合物2(2.0g、収率94%)を得た。化合物2の重アセトン溶液の1H-NMRスペクトルを図3に示す。
【0173】
【化53】
【0174】
(化合物3の合成)
200mLナスフラスコに、炭酸セシウム(2.45g)、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾール(1.52g)、パーフルオロ-p-キシレン(286mg)、DMSO(40mL)を入れ、室温で12時間撹拌した。次に、水(20mL)を加え、析出物をろ取した。ろ取物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して精製し、下記式で示される化合物3(1.16g、収率82%)を得た。化合物3の重アセトン溶液の1H-NMRスペクトルを図4に示す。
【0175】
【化54】
【0176】
(化合物4の合成)
200mLナスフラスコに、水素化ナトリウム(60質量%、240mg)を入れ、ヘキサンで洗浄した。次に、テトラヒドロフラン(40mL)、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾール(1.52g)を加え、室温で1時間撹拌した後、ペンタフルオロベンゾニトリル(174mg)を加え、さらに室温で22時間撹拌した。次に、水(50mL)を加え、析出物をろ取した。ろ取物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して精製し、下記式で示される化合物4(950mg、収率66%)を得た。化合物4のアセトン-d6溶液の1H-NMRスペクトルを図5に示す。
【0177】
【化55】
【0178】
(化合物5の合成)
50mLナスフラスコに、水素化ナトリウム(60質量%、96mg)を入れ、ヘキサンで洗浄した。次に、テトラヒドロフラン(16mL)、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾール(606mg)を加え、室温で1時間撹拌した後、2,3,5,6-テトラフルオロベンゾニトリル(70mg)を加え、さらに室温で17時間撹拌した。次に、水(10mL)、クロロホルム(3mL)を加え、析出物をろ取した。ろ取物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して精製し、下記式で示される化合物5(350mg、収率67%)を得た。化合物5のアセトン-d6溶液の1H-NMRスペクトルを図6に示す。
【0179】
【化56】
【0180】
(化合物6の合成)
50mLナスフラスコに、水素化ナトリウム(60質量%、96mg)を入れ、ヘキサンで洗浄した。次に、テトラヒドロフラン(10mL)、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾール(606mg)を加え、室温で1時間撹拌した後、4,5-ジフルオロフタロニトリル(148mg)を加え、さらに室温で38時間撹拌した。次に、水(10mL)を加え、析出物をろ取した。ろ取物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して精製し、下記式で示される化合物6(600mg、収率91%)を得た。化合物6のDMSO-d6溶液の1H-NMRスペクトルを図7に示す。
【0181】
【化57】
【0182】
(比較化合物1~3の合成)
比較化合物1として下記式に示されるRが水素原子の化合物、比較化合物2として下記式に示されるRがt-Buの化合物、比較化合物3として下記式に示されるRがCNの化合物、をそれぞれ製造した。詳細には、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾールの代わりに、比較化合物1ではカルバゾールを用い、比較化合物2では3,6-ビス(t-ブチル)カルバゾールを用い、比較化合物3では3,6-ジシアノカルバゾールを用いる以外は、上記化合物1と同じ条件で比較化合物1~3を製造した。
【0183】
【化58】
【0184】
(比較化合物4の合成)
比較化合物4として、下記式で示される化合物を製造した。詳細には、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾールの代わりに、カルバゾールを用いる以外は、上記化合物2と同じ条件で比較化合物4を製造した。
【0185】
【化59】
【0186】
(比較化合物5の合成)
比較化合物5として、下記式で示される化合物を製造した。詳細には、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾールの代わりにカルバゾールを用い、テトラフルオロテレフタロニトリルの代わりにパーフルオロパラキシレンを用いる以外は、上記化合物3と同じ条件で比較化合物5を製造した。
【0187】
【化60】
【0188】
(比較化合物6の合成)
比較化合物6として、下記式で示される化合物を製造した。詳細には、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾールの代わりに、カルバゾールを用いる以外は、上記化合物4と同じ条件で比較化合物6を製造した。
【0189】
【化61】
【0190】
(比較化合物7の合成)
比較化合物7として、下記式で示される化合物を製造した。詳細には、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾールの代わりに、カルバゾールを用いる以外は、上記化合物5と同じ条件で比較化合物7を製造した。
【0191】
【化62】
【0192】
(比較化合物8の合成)
比較化合物8として、下記式で示される化合物を製造した。詳細には、3,6-ジトリフルオロメチルカルバゾールの代わりに、カルバゾールを用いる以外は、上記化合物6と同じ条件で比較化合物8を製造した。
【0193】
【化63】

【0194】
[有機EL素子の製造、発光特性の評価]
【0195】
(実施例1)
Ar雰囲気のグローブボックス中で、化合物1のトルエン溶液および化合物1のアセトン溶液を調製し、溶媒効果を評価した。濃度は、いずれも10-5mol/Lとした。
【0196】
また、10-5Paオーダーの真空度にて石英基板上に、化合物1の薄膜(単独膜)を100nmの厚さで蒸着し、有機EL素子を製造した。
【0197】
また、10-5Paオーダーの真空度にて石英基板上に、化合物1と2,8-Bis(diphenylphosphoryl)dibenzo[b,d]thiophene(PPT)との薄膜(ドープ膜)を100nmの厚さで蒸着し、有機EL素子を製造した。化合物1とPPTは、異なる蒸着源から蒸着させた。ドープ膜における化合物1の濃度は10質量%とした。同様に、ドープ膜における化合物1の濃度を、5質量%、25質量%、50質量%に変えて、有機EL素子を製造した。
【0198】
また、10-5Paオーダーの真空度にて石英基板上に、化合物1の薄膜を100nmの厚さで蒸着し、グローブボックス中にてその薄膜をガラスおよびUV硬化樹脂で封止し、封止素子を製造した。
【0199】
(実施例2)
化合物1の代わりに化合物2を用いること以外は、実施例1と同様にして、化合物2のトルエン溶液、化合物2の薄膜(単独膜)を有する有機EL素子、化合物2とPPTとの薄膜(ドープ膜)を有する有機EL素子、および化合物2の薄膜を有する封止素子を製造した。ドープ膜における化合物2の濃度は、10質量%、25質量%、50質量%とした。なお、化合物2は、アセトンに不溶であった。
【0200】
(実施例3)
化合物1の代わりに化合物3を用いること以外は、実施例1と同様にして、化合物3のトルエン溶液、化合物3のアセトン溶液、化合物3の薄膜(単独膜)を有する有機EL素子、および化合物3とPPTとの薄膜(ドープ膜)を有する有機EL素子、を製造した。ドープ膜における化合物3の濃度は10質量%のみとした。なお、化合物3の薄膜を有する封止素子は製造せず、光安定性については評価しなかった。
【0201】
(実施例4)
化合物1の代わりに化合物4を用いること以外は、実施例1と同様にして、化合物4のトルエン溶液、化合物4の薄膜(単独膜)を有する有機EL素子、化合物4とPPTとの薄膜(ドープ膜)を有する有機EL素子、および化合物4の薄膜を有する封止素子を製造した。ドープ膜における化合物4の濃度は10質量%のみとした。なお、化合物4については、発光効率(PLQY)は評価しなかった。また、化合物4のアセトン溶液は製造しなかった。
【0202】
(実施例5)
化合物1の代わりに化合物5を用いること以外は、実施例1と同様にして、化合物5のトルエン溶液、化合物5の薄膜(単独膜)を有する有機EL素子、化合物5とPPTとの薄膜(ドープ膜)を有する有機EL素子、および化合物5の薄膜を有する封止素子を製造した。ドープ膜における化合物5の濃度は10質量%のみとした。なお、化合物5については、発光効率(PLQY)は評価しなかった。また、化合物5のアセトン溶液は製造しなかった。
【0203】
(実施例6)
化合物1の代わりに化合物6を用いること以外は、実施例1と同様にして、化合物6の薄膜(単独膜)を有する有機EL素子、化合物6とPPTとの薄膜(ドープ膜)を有する有機EL素子、および化合物6の薄膜を有する封止素子を製造した。ドープ膜における化合物6の濃度は10質量%のみとした。なお、化合物6については、発光効率(PLQY)は評価しなかった。また、化合物6のトルエン溶液、および化合物6のアセトン溶液は製造しなかった。
【0204】
(比較例1、2)
化合物1の代わりに比較化合物1または2を用いること以外は、実施例1と同様にして、比較化合物1または2のトルエン溶液、比較化合物1または2のアセトン溶液、比較化合物1または2の薄膜(単独膜)を有する有機EL素子、比較化合物1または2とPPTとの薄膜(ドープ膜)を有する有機EL素子、および比較化合物1または2の薄膜を有する封止素子を製造した。ドープ膜における比較化合物1の濃度は、5質量%、10質量%、25質量%、50質量%とした。ドープ膜における比較化合物2の濃度は、10質量%、50質量%とした。
【0205】
(比較例3)
化合物1の代わりに比較化合物3を用いること以外は、実施例1と同様にして、比較化合物3の薄膜(単独膜)を有する有機EL素子、比較化合物3とPPTとの薄膜(ドープ膜)を有する有機EL素子、および比較化合物3の薄膜を有する封止素子を製造した。ドープ膜における比較化合物3の濃度は、5質量%、10質量%、25質量%、50質量%とした。なお、比較化合物3については、比較化合物3のトルエン溶液、比較化合物3のアセトン溶液は製造せず、溶媒効果は評価しなかった。
【0206】
(比較例4)
化合物1の代わりに比較化合物4を用いること以外は、実施例1と同様にして、比較化合物4のトルエン溶液、比較化合物4の薄膜(単独膜)を有する有機EL素子、比較化合物4とPPTとの薄膜(ドープ膜)を有する有機EL素子、および比較化合物4の薄膜を有する封止素子を製造した。ドープ膜における比較化合物4の濃度は、5質量%、10質量%、25質量%、50質量%とした。なお、比較化合物4は、アセトンに不溶であった。
【0207】
(比較例5)
化合物1の代わりに比較化合物5を用いること以外は、実施例1と同様にして、比較化合物5のトルエン溶液、比較化合物5のアセトン溶液、比較化合物5の薄膜(単独膜)を有する有機EL素子、および比較化合物5とPPTとの薄膜(ドープ膜)を有する有機EL素子、を製造した。ドープ膜における比較化合物5の濃度は、5質量%、10質量%、25質量%、50質量%とした。なお、比較化合物5の薄膜を有する封止素子は製造せず、光安定性は評価しなかった。
【0208】
(比較例6)
化合物1の代わりに比較化合物6を用いること以外は、実施例1と同様にして、比較化合物6のトルエン溶液、化合物6の薄膜(単独膜)を有する有機EL素子、比較化合物6とPPTとの薄膜(ドープ膜)を有する有機EL素子、および比較化合物6の薄膜を有する封止素子を製造した。ドープ膜における比較化合物6の濃度は10質量%のみとした。なお、比較化合物6のアセトン溶液は製造しなかった。
【0209】
(比較例7)
化合物1の代わりに比較化合物7を用いること以外は、実施例1と同様にして、比較化合物7のトルエン溶液、化合物6の薄膜(単独膜)を有する有機EL素子、比較化合物7とPPTとの薄膜(ドープ膜)を有する有機EL素子、および比較化合物7の薄膜を有する封止素子を製造した。ドープ膜における比較化合物7の濃度は10質量%のみとした。なお、比較化合物7のアセトン溶液は製造しなかった。
【0210】
(比較例8)
化合物1の代わりに比較化合物8を用いること以外は、実施例1と同様にして、比較化合物8とPPTとの薄膜(ドープ膜)を有する有機EL素子、および比較化合物8の薄膜を有する封止素子を製造した。ドープ膜における比較化合物8の濃度は10質量%のみとした。なお、比較化合物8については、発光効率(PLQY)は評価しなかった。また、比較化合物8のトルエン溶液、比較化合物8のアセトン溶液、および比較化合物8の薄膜(単独膜)を有する有機EL素子は製造しなかった。
【0211】
(発光特性の評価)
各実施例および各比較例で得られたトルエン溶液、アセトン溶液、単独膜およびドープ膜に、励起光を照射し、発光スペクトルを測定し、励起光による発光極大波長(λmax)を求めた。また、フォトルミネッセンス量子収率(以下、PL量子収率またはPLQYと表記することがある)を求めた。
【0212】
トルエン溶液およびアセトン溶液に対しては窒素バブリング後に励起光を照射した。単独膜とドープ膜に対してはアルゴン雰囲気で励起光を照射した。照射した励起光の波長は、トルエン溶液に対しては340nm、アセトン溶液に対しては380nm、単独膜に対しては340~360nm、ドープ膜に対しては280nmとした。発光極大波長(λmax)およびPLQYを下記表1に示した。
【0213】
また、測定した発光スペクトルの半値幅を算出した。算出結果を下記表1に示す。
【0214】
下記表1に示した各化合物のトルエン溶液とアセトン溶液の結果について、発光極大波長(λmax)および発光スペクトルの半値幅から明らかなように、No.1とNo.3は、発光極大波長(λmax)および発光スペクトルの半値幅が溶媒の種類を変えてもほぼ同じで、No.1とNo.3の化合物は、溶媒の影響を受けにくく、極性溶媒中においてもスペクトルシフトは起こりにくいことがわかる。一方、No.7、8、11については、発光極大波長(λmax)および発光スペクトルの半値幅が溶媒の種類を変えると大きく変動しており、溶媒の影響を受けやすく、極性溶媒中においてスペクトルシフトが起こりやすいことがわかる。
【0215】
下記表1に示した各化合物のトルエン溶液の結果について、No.1とNo.7、No.2とNo.10をそれぞれ比較すると、カルバゾール基の3位および6位に-CF3を結合させることにより、発光スペクトルの半値幅はほとんど変化せず、発光極大波長(λmax)は低波長側へシフトすることが分かる。また、No.3とNo.11、No.4とNo.12、No.5とNo.13をそれぞれ比較すると、上記No.1とNo.7、No.2とNo.10と同様、発光極大波長(λmax)は低波長側へシフトしたうえで、発光スペクトルの半値幅も小さくなり、スペクトル形状がシャープになることが分かる。
【0216】
下記表1に示した各化合物のトルエン溶液の結果について、PLQYから明らかなように、No.1とNo.7、No.3とNo.11の結果をそれぞれ比較すると、カルバゾール基の3位および6位に-CF3を結合させることによって、PLQYを高くすることができ、発光効率を高められることが分かる。アセトン溶液の結果についても同様、No.1とNo.7、No.3とNo.11をそれぞれ比較すると、カルバゾール基の3位および6位に-CF3を結合させることによって、PLQYを高くすることができ、発光効率を高められることが分かる。
【0217】
下記表1に示した各化合物の単独膜およびドープ膜についても同様の傾向が読み取れる。即ち、No.1とNo.7、No.2とNo.10、No.3とNo.11、No.4とNo.12、No.5とNo.13、No.6とNo.14をそれぞれ比較すると、カルバゾール基の3位および6位に-CF3を結合させることにより、発光スペクトルの半値幅はほとんど変化しないか、小さくなり、発光極大波長(λmax)は低波長側へシフトすることが分かる。また、PLQYから明らかなように、No.1とNo.7、No.2とNo.10、No.3とNo.11の結果をそれぞれ比較すると、カルバゾール基の3位および6位に-CF3を結合させることによって、PLQYを高くすることができ、発光効率を高められることが分かる。
【0218】
次に、上記化合物を用いて得られたドープ膜について、各化合物の濃度とPLQYとの関係を図8、9に示す。図8は、化合物1、または比較化合物1~3を用いた結果を示すグラフである。図9は、化合物2、または比較化合物4を用いた結果を示すグラフである。
【0219】
図8、9から次のように考察できる。置換基がHの結果とCF3の結果を比較すると、カルバゾール基の3位および6位にCF3基を導入することによって、PLQYが高くなり、発光効率を高められることが分かる。
【0220】
また、図8から明らかなように、PLQYの値は、置換基がHの場合に比べて、置換基としてtert-ブチル基やCN基を導入することによって低下するのに対し、置換基としてCF3を導入することによって向上している。よって、カルバゾール基の3位および6位にCF3基を導入することの効果は、バルキーな影響ではなく、CF3基特有の効果であると考えられる。
【0221】
【表1】
【0222】
(光安定性の評価)
得られた封止素子に、大気下で300~400nmのキセノン光を連続照射し、発光強度の経時変化を測定した。キセノン光の照射を開始した直後における発光強度を1としたとき、発光強度が0.3に減衰するまでの時間(減衰時間)を上記表1に示す。
【0223】
上記表1から明らかなように、No.7~9の結果を比較すると、カルバゾール基の3位および6位にtert-ブチル基やCN基を導入すると、発光強度が0.3に減衰するまでの時間が短くなり、光安定性が劣化することが分かる。一方、No.1とNo.7の結果を比較すると、カルバゾール基の3位および6位に-CF3を結合させることによって、発光強度が0.3に減衰するまでの時間を長くすることができ、光安定性を向上できることが分かる。また、No.2とNo.10、No.5とNo.13についても同様に、カルバゾール基の3位および6位に-CF3を結合させることによって、発光強度が0.3に減衰するまでの時間を長くすることができ、光安定性を向上できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0224】
本発明の化合物は、有機発光素子などの発光層を構成する材料として用いることによって、発光効率が高く、光安定性に優れた有機発光素子を実現できる。
【符号の説明】
【0225】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9