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特許7165958擁壁の補強排水装置、及び擁壁の補強排水工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】擁壁の補強排水装置、及び擁壁の補強排水工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20221028BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20221028BHJP
   E02D 3/10 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
E02D29/02 312
E02D17/20 103H
E02D17/20 106
E02D3/10 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022090234
(22)【出願日】2022-06-02
【審査請求日】2022-07-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500088416
【氏名又は名称】有限会社聖工業
(73)【特許権者】
【識別番号】522220120
【氏名又は名称】有限会社久保間
(74)【代理人】
【識別番号】100185270
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 貴史
(74)【代理人】
【識別番号】100225347
【弁理士】
【氏名又は名称】鬼澤 正徳
(72)【発明者】
【氏名】磯西 洋吾
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-194226(JP,A)
【文献】特開昭62-082113(JP,A)
【文献】特開2012-046873(JP,A)
【文献】実開昭59-192550(JP,U)
【文献】特開昭55-165328(JP,A)
【文献】特開2018-131754(JP,A)
【文献】中国実用新案第213204293(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E02D 17/20
E02D 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
擁壁の外部から土壌の内部に亘って配置されるドレーンパイプと、
前記ドレーンパイプのうち、前記土壌の内部に配置される箇所の先端に設けられた壁部と、
前記ドレーンパイプのうち、前記壁部と前記擁壁との間で前記土壌の内部に配置される箇所を径方向に貫通して設けられ、かつ、前記ドレーンパイプの外部と内部とをつなぐ排水孔と、
を有する擁壁の補強排水装置において、
前記ドレーンパイプの内部に挿入され、かつ、前記壁部に接続されて前記壁部を前記擁壁に近付けるように前記ドレーンパイプの中心線に沿った方向に引っ張る引っ張り部材と、
前記ドレーンパイプのうち、前記壁部と前記排水孔との間に設けられ、かつ、前記壁部が引っ張られると、前記ドレーンパイプの半径方向で外側に向けて開かれる拡径部と、
前記壁部に設けられ、かつ、前記引っ張り部材が接続される接続孔と、
前記壁部が引っ張られ、かつ、前記引っ張り部材が前記ドレーンパイプの内部から抜き出された後に前記ドレーンパイプの内部に挿入され、かつ、前記拡径部の内部空間へモルタルカプセルを送り込む輸送用パイプと、
を有し、
前記中心線に沿った方向における前記輸送用パイプの全長は、前記擁壁の外部から前記拡径部の内部空間に至る全長を有し、
前記輸送用パイプの内径は、前記接続孔の内径より大きく、かつ、前記モルタルカプセルの外径より大きく、
前記接続孔の内径は、前記モルタルカプセルの外径より小さい、
擁壁の補強排水装置。
【請求項2】
請求項1記載の擁壁の補強排水装置において、
前記拡径部は、前記ドレーンパイプの円周方向に配置された複数の腕片を有し、
前記複数の腕片は、前記壁部が引っ張られると前記ドレーンパイプの前記半径方向で外側に向けてそれぞれ開かれ、
前記複数の腕片が開かれた状態における外径は、前記ドレーンパイプにおける前記拡径部と前記擁壁との間の箇所の外径より大きい、擁壁の補強排水装置。
【請求項3】
擁壁を貫通する挿入孔を形成し、かつ、前記挿入孔につながる掘削孔を土壌に形成する第1工程と、
前記第1工程の後に行われ、先端に壁部を備え、かつ、先端と後端との間に排水孔を備えたドレーンパイプの内部に引っ張り部材を挿入し、かつ、前記引っ張り部材を前記壁部の接続孔に挿入して前記引っ張り部材と前記壁部とを接続した状態で、前記ドレーンパイプを、前記挿入孔及び前記掘削孔に亘って配置する第2工程と、
前記第2工程の後に行われ、前記引っ張り部材を前記ドレーンパイプの中心線に沿った方向に引っ張ることにより、前記排水孔と前記壁部との間に設けられている拡径部を外側に向けて拡径させた後、前記引っ張り部材を前記ドレーンパイプの内部から抜き出す第3工程と、
前記第3工程の後に行われ、前記ドレーンパイプの内部に、前記接続孔の内径より大きい内径を有する輸送用パイプを挿入して、前記ドレーンパイプの先端を前記拡径部の内部空間に配置させる第4工程と、
前記第4工程の後に行われ、前記輸送用パイプの内径より小さく、かつ、前記接続孔の内径より大きい外径を有するモルタルカプセルを前記輸送用パイプ内へ圧送することにより、前記モルタルカプセルを前記壁部に衝突させて破砕し、前記拡径部の内部空間にモルタルを充填させた後、前記輸送用パイプを前記ドレーンパイプの内部から抜き出す第5工程と、
を有する、擁壁の補強排水工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、擁壁を補強し、かつ、擁壁から排水する工事において用いられる、擁壁の補強排水装置、及び擁壁の補強排水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
擁壁を補強し、かつ、擁壁から排水する工事において用いられる技術の一例が、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された斜面安定化装置及び工法は、先端側が地山中に定着され、頭部側が斜面表面に固定される複数のアンカーを切、盛土法面や土留め擁壁などの斜面地山中に埋設することにより補強するものである。また、アンカーは、多数の貫通集水孔を有する中空管体と、中空管体の先端側定着部以外の部分の外周に設けられる透水性を有する排水材と、を備えている。
【0003】
さらに、中空管体を先端側が頭部側よりも上方に位置するように地山中に打設し、地山中の地下水を記排水材と集水孔とを介して中空管体内に取り込んだ後に、中空管体内を流下させて外部に排出することが、特許文献1に記載されている。中空管体は、内周及び外周面に、周方向に所定の間隔を隔てて外方に突出し、かつ、軸方向に延設された複数の補強用リブを有し、アンカーは、地山中に形成された削孔内に、排水材及び中空管体を挿入設置される。その後、中空管体内に設置した注入パイプを介して、中空管体の先端側から地山に向けてグラウト材(モルタル)を注入、硬化させることで、その先端側を地山中に定着させることが、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4296660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、特許文献1に記載されている斜面安定化装置及び工法においては、擁壁の補強機能及び排水機能において、未だ改善の余地がある、という課題を認識した。
【0006】
本開示の目的は、擁壁の補強機能及び排水機能を向上させることの可能な、擁壁の補強排水装置、及び擁壁の補強排水工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、擁壁の外部から土壌の内部に亘って配置されるドレーンパイプと、前記ドレーンパイプのうち、前記土壌の内部に配置される箇所の先端に設けられた壁部と、前記ドレーンパイプのうち、前記壁部と前記擁壁との間で前記土壌の内部に配置される箇所を径方向に貫通して設けられ、かつ、前記ドレーンパイプの外部と内部とをつなぐ排水孔と、を有する擁壁の補強排水装置において、前記ドレーンパイプの内部に挿入され、かつ、前記壁部に接続されて前記壁部を前記擁壁に近付けるように前記ドレーンパイプの中心線に沿った方向に引っ張る引っ張り部材と、前記ドレーンパイプのうち、前記壁部と前記排水孔との間に設けられ、かつ、前記壁部が引っ張られると、前記ドレーンパイプの半径方向で外側に向けて開かれる拡径部と、前記壁部に設けられ、かつ、前記引っ張り部材が接続される接続孔と、前記壁部が引っ張られ、かつ、前記引っ張り部材が前記ドレーンパイプの内部から抜き出された後に前記ドレーンパイプの内部に挿入され、かつ、前記拡径部の内部空間へモルタルカプセルを送り込む輸送用パイプと、を有し、前記中心線に沿った方向における前記輸送用パイプの全長は、前記擁壁の外部から前記拡径部の内部空間に至る全長を有し、前記輸送用パイプの内径は、前記接続孔の内径より大きく、かつ、前記モルタルカプセルの外径より大きく、前記接続孔の内径は、前記モルタルカプセルの外径より小さい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、擁壁の補強機能及び排水機能を、更に向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(A),(B)は、擁壁の補強排水工法の第1工程を示す側面断面図である。
図2】擁壁の補強排水装置を構成する要素の断面図である。
図3】(A),(B)は、第2工程の前半を示す側面断面図である。
図4】(A)は、第2工程の後半を示す側面断面図、(B)は、第3工程の前半を示す側面断面図である。
図5】(A)は、第3工程の後半を示す側面断面図、(B)は、擁壁の補強排水工法の第4工程を示す側面断面図である。
図6】擁壁の補強排水工法の第5工程の前半を示す側面断面図である。
図7】擁壁の補強排水工法の第5工程の後半を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示における擁壁の補強排水装置、及び擁壁の補強排水工法(補強排水方法)の実施形態を、図面に基づいて説明する。実施形態を説明するための全図において、同一部には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
[擁壁の補強排水装置]
図1に示すように、擁壁10は、土壌11の一表面に沿って高さ方向に設けられる。土壌11は、斜面、切り土、盛り土等のうちの何れでもよい。土壌11は、軟岩及び硬岩を除く一般的な土砂または地山である。擁壁10は、鉄筋コンクリート、無筋コンクリート、鋼板製のシートパイル等のうちの何れでもよい。擁壁10の補強及び排水工事に用いる補強排水装置が、図2に示されている。補強排水装置12は、自走式貫孔機13、ドレーンパイプ14、引っ張り棒15、及び圧送用パイプ17、図4(B)に示すセンターホールジャッキ16を有する。自走式貫孔機13は、エアコンプレッサの圧縮空気で作動するピストンと、ピストンにより打撃される本体ヘッド部18と、を有し、本体ヘッド部18により、図1(A)に示す土壌11を破砕して、図1(B)のように土壌11に掘削孔19を形成する装置である。
【0012】
図2に示すドレーンパイプ14は、土壌11に形成された掘削孔19に配置される部材であり、ドレーンパイプ14は、金属製、例えば、鉄製、アルミニウム製である。ドレーンパイプ14は、中心線A1を中心とする部材であり、ドレーンパイプ14は、複数の構成部を互いに接続して設けられている。ドレーンパイプ14は、例えば、第1構成部20、第2構成部21、第3構成部22を有する。図3(A)のように、第1構成部20、第2構成部21、第3構成部22は、何れも中心線A1を中心として配置され、かつ、中心線A1に沿った方向に並べて1列に配置されている。第2構成部21は、第1構成部20と第3構成部22との間に配置されている。第1構成部20と第2構成部21とがねじ結合され、第2構成部21と第3構成部22とがねじ結合されている。このため、第1構成部20と第2構成部21とは、着脱が可能であり、第2構成部21と第3構成部22とは、着脱が可能である。
【0013】
第2構成部21には、全周に亘って排水孔23が設けられている。排水孔23は、スリットであり、排水孔23は、第2構成部21を半径方向に貫通している。排水孔23は、中心線A1に沿った方向に間隔をおいて複数設けられ、かつ、排水孔23は、第2構成部21の円周方向に間隔をおいて複数設けられている。第3構成部22は、複数の腕片24を有し、複数の腕片24は、第3構成部22の円周方向に間隔をおいて設けられている。全ての腕片24には、それぞれ切り込みが設けられ、それぞれの腕片24は、図4(B)のように、ドレーンパイプ14の径方向で外側に向けて折れ曲がる、つまり、拡径することが可能である。
【0014】
また、図3(A)のように、ドレーンパイプ14の先端、つまり、第3構成部22のうち、中心線A1に沿った方向で第2構成部21が連結された端部とは反対に位置する端部に、壁部25が固定されている。壁部25は環状であり、かつ、第3構成部22に対して溶接により固定されている。つまり、壁部25は、複数の腕片24の端部に接続されている。壁部25は、金属製、例えば、鋼製、アルミニウム製である。壁部25は、図6に示すモルタルカプセル27を破砕するためのものである。壁部25は、中心線A1を中心とする接続孔26を有し、接続孔26の内周面には、係合部、例えば、雌ねじが設けられている。第3構成部22の腕片24が折り曲げられていない状態において、第1構成部20、第2構成部21及び第3構成部22は、内径が同一であり、第1構成部20、第2構成部21及び第3構成部22は、外径が同一である。
【0015】
図3(A)に示す引っ張り棒15は、第3構成部22の腕片24を折り曲げるための道具であり、引っ張り棒15は、金属製、例えば、鋼製である。引っ張り棒15は、中心線A1に沿った方向の全長L1が、ドレーンパイプ14の中心線A1に沿った方向の全長L2より大きい。引っ張り棒15の先端28の外周面に、係合部、例えば、雄ねじが設けられている。引っ張り棒15を中心線A1を中心として回転させると、引っ張り棒15の雄ねじを、接続孔26の雌ねじに噛み合わせること、及び、引っ張り棒15の雄ねじを、接続孔26の雌ねじから解放させること、が可能である。
【0016】
図4(B)に示すセンターホールジャッキ16は、引っ張り棒15を把持し、かつ、油圧を利用して、引っ張り棒15を中心線A1に沿った方向に所定のストロークで牽引する装置である。圧送用パイプ17は、図6のように、モルタルカプセル27を第3構成部22の内部空間B1へ送る道具である。圧送用パイプ17は、硬質合成樹脂製、例えば、ポリエチレン樹脂製である。圧送用パイプ17の輸送孔29の内径φ1は、接続孔26の内径φ2より大きい。図5(B)のように、圧送用パイプ17の中心線A1に沿った方向の全長L3は、第1構成部20及び第2構成部21の中心線A1に沿った方向の全長L4より大きい。
【0017】
[擁壁の補強排水工法]
次に、補強排水装置12により擁壁10を補強し、かつ、土壌11から排水する工事の一例を説明する。
【0018】
(第1工程)
先ず、図示しないコア抜き機械を用いて、図1(A)のように、擁壁10に、中心線A2を中心とする挿入孔30を設ける。挿入孔30の内径は、自走式貫孔機13の外径を超えるサイズである。そして、図1(B)のように、自走式貫孔機13を挿入孔30に挿入するとともに、予め設計された位置まで、自走式貫孔機13を中心線A2に沿った方向に前進させて、土壌11に掘削孔19を形成する。その後、自走式貫孔機13を掘削孔19内で後退させ、自走式貫孔機13を土壌11及び擁壁10から抜き出す。土壌11に設けられる掘削孔19は、その中心線A2が水平線と平行でもよいし、中心線A2が、入り口よりも奥端の方が高くなるように、水平線に対して傾斜されてもよい。中心線A1が水平線に対して傾斜される鋭角側の傾斜角度は、一例として1度である。
【0019】
(第2工程)
第1工程の後に行われる第2工程では、図3(A)に示すドレーンパイプ14及び引っ張り棒15を用意し、かつ、ドレーンパイプ14の第1構成部20の端部に、定着プレート31を仮付けする。定着プレート31は、金属製、一例として、鋼製であり、定着プレート31は、軸孔32を有する。ドレーンパイプ14及び引っ張り棒15を中心線A1を中心として同軸上に配置し、かつ、中心線A1に沿った方向に並べて配置した後、引っ張り棒15を軸孔32へ挿入する。そして、引っ張り棒15の先端28を、第1構成部20の内部空間B2、第2構成部21の内部空間B3、第3構成部22の内部空間B1を通過させた後、引っ張り棒15を回転させて、引っ張り棒15の先端28の雄ねじを、壁部25の雌ねじに係合させ、図3(B)のように、引っ張り棒15を壁部25に接続する。この時点において、第3構成部22の腕片24は、中心線A1に沿った方向に延ばされている。
【0020】
図3(B)のように、ドレーンパイプ14の中心線A1と、掘削孔19の中心線A2とを同軸上に配置させ、ドレーンパイプ14を中心線A1に沿った方向に移動させる。そして、ドレーンパイプ14を掘削孔19へ挿入した後、ドレーンパイプ14を図4(A)のように停止させる。ドレーンパイプ14が停止されると、第1構成部20の一部、及び定着プレート31は、擁壁10の外部C1に位置する。なお、第2工程においては、予め、ドレーンパイプ14のみを掘削孔19へ挿入し、その後、引っ張り棒15をドレーンパイプ14内へ挿入し、引っ張り棒15を壁部25に接続してもよい。
【0021】
(第3工程)
第2工程の後に行われる第3工程では、図4(B)に示すセンターホールジャッキ16で引っ張り棒15を把持し、かつ、引っ張り棒15を中心線A1に沿った方向に牽引し、かつ、引っ張り棒15を停止させる。この過程で、定着プレート31は、擁壁10の外面に押し付けられる。また、引っ張り棒15に加えられた牽引力が壁部25に伝達され、壁部25が第2構成部21へ向けて中心線A1に沿った方向に所定量移動し、かつ、図4(B)のように壁部25が停止する。壁部25が移動する過程で、複数の腕片24は、中心線A1を中心として外側にそれぞれ折り曲げられ、かつ、停止する。つまり、中心線A1に対して垂直な平面内で、複数の腕片24は、中心線A1を中心として放射状に、かつ、等間隔で配置される。このようにして、第3構成部22の内部空間B1の容積が、中心線A1を中心として外側に拡大(拡径)される。
【0022】
次いで、センターホールジャッキ16が撤去され、かつ、引っ張り棒15が回転されて、引っ張り棒15か壁部25から取り外される。さらに、引っ張り棒15が、図5(A)のように、ドレーンパイプ14から抜き出される。また、定着プレート31が、ドレーンパイプ14から取り外される。
【0023】
(第4工程)
第3工程の後に行われる第4工程では、図5(B)のように、圧送用パイプ17が中心線A1を中心として配置される。そして、圧送用パイプ17がドレーンパイプ14の内部へ挿入され、図6のように、圧送用パイプ17が停止される。圧送用パイプ17の先端は、第3構成部22の内部空間B1に位置し、圧送用パイプ17の一部は、擁壁10の外部C1に位置する。そして、圧送用パイプ17の輸送孔29へモルタルカプセル27を入れた後、圧送用パイプ17に接続されたエアコンプレッサから圧縮空気が吐出される。すると、モルタルカプセル27は、空気圧により内部空間B1へ圧送される。モルタルカプセル27は、壁部25に衝突して破砕され、図7のように、モルタル33が内部空間B1の隅々に充填され、かつ、腕片24同士の間に充填される。また、モルタル33は、内部空間B1で固化する。さらに、圧送用パイプ17をドレーンパイプ14から抜き出し、ドレーンパイプ14の内部、具体的には第1構成部20の内部空間B2に、へちま材34を配置する。その後、定着プレート31をドレーンパイプ14の端部へ取り付けると、擁壁10を補強及び排水する工事が終了する。
【0024】
[実施形態の効果]
本開示の補強排水工法を行うと、図7のように、モルタル33が第3構成部22の内部空間B1を埋めており、第3構成部22の複数の腕片24が拡径されている。複数の腕片24が開いた状態における外径φ3は、ドレーンパイプ14のうち、複数の腕片24と擁壁10との間の箇所の外径φ4より大きい。このため、ドレーンパイプ14が、中心線A1に沿った方向において、土壌11から抜けようとする向きの力を受けると、第3構成部22、具体的には、複数の腕片24が土壌11に係合される。したがって、ドレーンパイプ14が土壌11から抜けることを防止でき、擁壁10が土壌11に対して取り付けられた状態を、安定して確保及び補強できる。また、土壌11中の水分は、排水孔23を通ってドレーンパイプ14内に進入し、ドレーンパイプ14内の水は、第1構成部20の内部空間B2を通って擁壁10の外部C1へ排出される。
【0025】
さらに、内部空間B2にへちま材34が配置されるため、ドレーンパイプ14の内部に蛇が進入したり、ドレーンパイプ14の内部に蜂の巣が作られたりすることを防止できる。したがって、ドレーンパイプ14の目詰まりを防止でき、ドレーンパイプ14の排水機能が低下することを抑制できる。なお、へちま材34は、内部空間B2及び内部空間B3に亘って配置することもできる。このようにすると、土壌11の一部が排水孔23を塞ぐことを抑制でき、排水機能の低下を更に抑制できる。
【0026】
ところで、擁壁10を補強及び排水する作業の工程中において、圧送用パイプ17の先端は、第3構成部22の内部空間B1に配置される。つまり、第2構成部21の排水孔23の内側に、圧送用パイプ17が位置する。このため、モルタルカプセル27が内部空間B1で破裂した場合に、モルタル33の一部が、排水孔23に進入することを防止できる。したがって、排水孔23の排水機能が低下することを防止できる。また、モルタル33の全部を内部空間B1に確実に留まらせることができ、ドレーンパイプ14が土壌11から抜けにくくなり、擁壁10の補強機能が向上する。また、壁部25の接続孔26の内径φ2は、圧送用パイプ17の内径φ1より小さく、かつ、モルタルカプセル27の外径φ5より小さい。このため、モルタルカプセル27が確実に壁部25に衝突し、第3構成部22の内部空間B1で破砕される。したがって、擁壁10を補強する機能が低下することを抑制できる。
【0027】
[補足事項]
本実施形態で説明した事項の技術的意味の一例は、次の通りである。補強排水装置12は、補強排水装置の一例である。擁壁10は、擁壁の一例であり、土壌11は、土壌の一例である。ドレーンパイプ14は、ドレーンパイプの一例である。壁部25は、壁部の一例である。第2構成部21は、“ドレーンパイプのうち、壁部と記擁壁との間で土壌の内部に配置される箇所”の一例である。排水孔23は、排水孔の一例である。中心線A1は、ドレーンパイプの中心線の一例である。引っ張り棒15は、引っ張り部材の一例である。第3構成部22は、“ドレーンパイプのうち、壁部と記排水孔との間”の一例である。複数の腕片24は、拡径部の一例である。接続孔26は、接続孔の一例である。
【0028】
内部空間B1は、“拡径部の内部空間”の一例である。モルタルカプセル27は、モルタルカプセルの一例である。圧送用パイプ17は、輸送用パイプの一例である。圧送用パイプ17の全長L3は、“輸送用パイプの全長”の一例である。圧送用パイプ17の輸送孔29の内径φ1は、“輸送用パイプの内径”の一例である。接続孔26の内径φ2は、“接続孔の内径”の一例である。モルタルカプセル27の外径φ5は、“モルタルカプセルの外径”の一例である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本実施形態の補強排水装置、及び補強排水工法は、擁壁を補強し、かつ、擁壁から排水する工事において利用可能である。
【符号の説明】
【0030】
10…擁壁、11…土壌、12…補強排水装置、14…ドレーンパイプ、15…引っ張り棒、17…圧送用パイプ、21…第2構成部、22…第3構成部、23…排水孔、24…腕片、25…壁部、26…接続孔、27…モルタルカプセル、A1…中心線、B1…内部空間、L3…全長、φ1,φ2…内径、φ5…外径
【要約】
【課題】擁壁の補強機能及び排水機能を向上させることの可能な補強排水装置を提供する。
【解決手段】擁壁10の外部C1から土壌11の内部に亘って配置されるドレーンパイプ14と、ドレーンパイプ14の先端に設けられた壁部25と、ドレーンパイプ14を径方向に貫通して設けられた排水孔23と、を有する擁壁の補強排水装置12において、ドレーンパイプ14に挿入され、かつ、壁部25を引っ張る引っ張り部材と、ドレーンパイプ14に設けられた第3構成部22と、壁部25に設けられた接続孔26と、第3構成部22の内部空間B1へモルタルカプセル27を送り込む圧送パイプ17と、を有し、圧送パイプ17の全長は、擁壁10の外部C1から第3構成部22の内部空間B1に至る全長を有し、圧送用パイプ17の内径φ1は、接続孔26の内径φ2より大きく、かつ、モルタルカプセル27の外径φ5より大きく、接続孔26の内径φ2は、モルタルカプセル27の外径φ5より小さい。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7