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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】PLL回路
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/099 20060101AFI20221028BHJP
【FI】
H03L7/099
H03L7/099 150
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018189013
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2020057993
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】399011195
【氏名又は名称】ザインエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】源代 裕治
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-072646(JP,A)
【文献】特開2003-110425(JP,A)
【文献】特開2008-236557(JP,A)
【文献】特開2011-211318(JP,A)
【文献】特開2006-180428(JP,A)
【文献】特開2017-199999(JP,A)
【文献】特開2015-133560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 7/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタおよびキャパシタを含み、これらインダクタおよびキャパシタによる共振現象により、入力される制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力し、複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドが選択されることによって、前記周波数と前記制御電圧値との間のFV特性が可変である電圧制御発振器と、
前記電圧制御発振器から出力される発振信号または該発振信号を分周した信号を帰還発振信号として入力するとともに、周波数変調された入力信号をも入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器から出力される位相差信号を入力して、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流を出力するチャージポンプと、
前記チャージポンプから出力される充放電電流を入力し、この充放電量に応じて増減される前記制御電圧値を前記電圧制御発振器へ出力するループフィルタと、
前記電圧制御発振器において設定可能な前記複数の周波数バンドのうちの何れかの周波数バンドが選択された状態において、周波数変調された前記入力信号を入力するとともに、前記入力信号の周波数変調によって周波数が変動する前記帰還発振信号を入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の周波数差が閾値以下であるか否かを判定する周波数差判定部と、
前記電圧制御発振器において設定可能な前記複数の周波数バンドのうち、前記周波数差判定部により前記周波数差が前記閾値以下であると判定された周波数バンドと、前記周波数差判定部により前記周波数差が前記閾値超であると判定された周波数バンドとの境界に基づいて、前記電圧制御発振器における周波数バンドを選択して前記FV特性を調整するFV特性調整部と、
を備えるPLL回路。
【請求項2】
入力される制御電圧値に基づいて設定される遅延を有する複数個の遅延素子がリング状に接続されたリングオシレータを含み、このリングオシレータの発振現象により、入力される制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力し、複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドが選択されることによって、前記周波数と前記制御電圧値との間のFV特性が可変である電圧制御発振器と、
前記電圧制御発振器から出力される発振信号または該発振信号を分周した信号を帰還発振信号として入力するとともに、周波数変調された入力信号をも入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器から出力される位相差信号を入力して、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流を出力するチャージポンプと、
前記チャージポンプから出力される充放電電流を入力し、この充放電量に応じて増減される前記制御電圧値を前記電圧制御発振器へ出力するループフィルタと、
前記電圧制御発振器において設定可能な前記複数の周波数バンドのうちの何れかの周波数バンドが選択された状態において、周波数変調された前記入力信号を入力するとともに、前記入力信号の周波数変調によって周波数が変動する前記帰還発振信号を入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の周波数差が閾値以下であるか否かを判定する周波数差判定部と、
前記電圧制御発振器において設定可能な前記複数の周波数バンドのうち、前記周波数差判定部により前記周波数差が前記閾値以下であると判定された周波数バンドと、前記周波数差判定部により前記周波数差が前記閾値超であると判定された周波数バンドとの境界に基づいて、前記電圧制御発振器における周波数バンドを選択して前記FV特性を調整するFV特性調整部と、
を備えるPLL回路。
【請求項3】
前記FV特性調整部は、高周波側の前記境界および低周波側の前記境界の双方に基づいて、前記複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドを選択して前記FV特性を調整する、
請求項1または2に記載のPLL回路。
【請求項4】
前記FV特性調整部は、高周波側の前記境界および低周波側の前記境界のうちの何れか一方に基づいて、前記複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドを選択して前記FV特性を調整する、
請求項1または2に記載のPLL回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、PLL(Phase Locked Loop)回路は、位相比較器、チャージポンプ、ループフィルタおよび電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator、VCO)を備え、これらによりループが構成されている。PLL回路は、入力される発振信号の周波数を定数倍した周波数を有する発振信号を出力する周波数シンセサイザとして用いられる。また、PLL回路は、CDR(Clock Data Recovery)装置において入力されるデジタル信号に埋め込まれたクロックを復元することができる。
【0003】
PLL回路は以下のように動作する。電圧制御発振器に制御電圧値が入力されると、この制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号が電圧制御発振器から出力される。電圧制御発振器から出力される発振信号、または、この発振信号を分周した信号が、帰還発振信号として位相比較器に入力される。また、この帰還発振信号に加えて他の入力信号(発振信号またはデジタル信号)も位相比較器に入力される。位相比較器において、入力信号と帰還発振信号との間の位相差が検出されて、この検出された位相差を表す位相差信号がチャージポンプへ出力される。
【0004】
この位相差信号を入力するチャージポンプから、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流が出力される。この充放電電流はループフィルタに入力される。ループフィルタは、チャージポンプから出力される充放電電流に応じて電荷蓄積量が増減される容量素子を含む。ループフィルタは、この電荷蓄積量に応じた制御電圧値を電圧制御発振器へ出力する。ループフィルタから出力される制御電圧値が電圧制御発振器に入力されて、この制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号が電圧制御発振器から出力される。
【0005】
このようなループを有するPLL回路において、位相比較器により検出される位相差が小さくなるように、ループフィルタから出力されて電圧制御発振器に入力される制御電圧値が或る値に収束していく。そして、電圧制御発振器から、入力される発振信号の周波数を定数倍した周波数を有する発振信号が出力され、或いは、入力されるデジタル信号に埋め込まれたクロックが復元されて出力される。
【0006】
電圧制御発振器としては様々なタイプのものがある。そのなかでも、LC-VCOは、インダクタおよびキャパシタを含み、これらインダクタおよびキャパシタによる共振現象により、入力される制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力する。他のタイプの電圧制御発振器と比較すると、LC-VCOのジッタは少ない。したがって、10Gbps以上の周波数の場合には、様々なタイプがある電圧制御発振器のなかでもLC-VCOの使用が好適である。
【0007】
他のタイプの電圧制御発振器と比較すると、LC-VCOでは、制御電圧値の変化に対する出力発振信号の周波数の変化は小さい。LC-VCOでは、キャパシタの容量値を変更すると、出力発振信号の周波数(F)と制御電圧値(V)との間のFV特性を変更することができる。また、LC-VCOに入力される制御電圧値の範囲は限られており、この範囲から制御電圧値が外れていると入出力間の周波数の比例関係は成立しない。
【0008】
ところで、伝送される信号の周波数は、スペクトラム拡散(Spread Spectrum、SS)により時間的に変動する場合がある。信号の周波数が一定である場合、その信号から放射される電磁波のエネルギは、その周波数に集中することから、電磁妨害(Electro Magnetic Interference、EMI)が問題となる。これに対して、SSにより信号の周波数を意図的に変調すれば、その信号から放射される電磁波のエネルギは、周波数帯域が広がり、ピークが小さくなる。SSによりEMIの問題を低減することができる。信号のビットレートが高い場合や、伝送距離が長い場合には、SSにより信号の周波数を変調するのが望ましい。SSによる周波数の変調度として、±1.0%以上が求められる場合がある。
【0009】
例えば、パラレルデータをシリアルデータに変換して出力するシリアライザ装置は、周波数が低い第1クロックが指示するタイミングでパラレルデータをラッチし、周波数が高い第2クロックが指示するタイミングでシリアルデータを出力する。このようなシリアライザ装置において、SSを印加してシリアルデータを出力する場合がある。この場合、シリアライザ装置において用いられるPLL回路は、SSが印加された第1クロックを入力して、この第1クロックの周波数の定数倍の周波数を有しSSが印加された第2クロックを生成し出力する。
【0010】
シリアルデータのビットレートが高く、第2クロックの周波数が高い場合、前述したとおり、PLL回路に含まれる電圧制御発振器としてLC-VCOを用いるのが好ましい。しかし、PLL回路に入力される第1クロックにおけるSSによる周波数の変調が大きいと、LC-VCOに入力される制御電圧値の変動も大きくなり、PLL回路から出力される第2クロックの周波数は第1クロックの周波数に比例しない事態が生じる。このような事態を回避するには、LC-VCOにおいて、キャパシタの容量値を適切に設定して、複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドを選択することで、FV特性を適切なものとすることが重要である。
【0011】
FV特性を適切に設定することを意図した発明が特許文献1,2に開示されている。特許文献1に開示された発明は、第1クロックの周波数変動の範囲において第1クロックの周波数と第2クロックの周波数とが常に比例関係となるように、LC-VCOにおいてキャパシタの容量値を設定する。特許文献2に開示された発明は、第1クロックの周波数変動の範囲においてLC-VCOに入力される制御電圧値が常に所定範囲内に存在するように、LC-VCOにおいてキャパシタの容量値を設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2003-78410号公報
【文献】米国特許第7102446号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1に開示された発明では、当初設定時にはLC-VCOのFV特性が適切であったとしても、電圧または温度の変動があった場合にLC-VCOのFV特性が悪化する場合がある。すなわち、特許文献1に開示された発明は、電圧・温度(VT)ドリフトマージンを十分に確保することができない場合がある。
【0014】
また、特許文献2に開示された発明では、LC-VCOに入力される制御電圧値を監視する範囲が広いと、特許文献1に開示された発明が有する上記問題と同様の問題がある。逆に、LC-VCOに入力される制御電圧値を監視する範囲が狭いと、SSによる周波数変調が大きく制御電圧値の変動幅が大きいとき、制御電圧値が常に所定範囲内に存在するようなFV特性を見出すことができない場合がある。また、LC-VCOに入力される制御電圧値を監視する範囲が狭いときに、制御電圧値が少しでも所定範囲内に存在するようなFV特性を選択すると、その選択したFV特性は好適なものであるとは限らない。このような問題点は、LC-VCOだけでなく、入力される制御電圧値に基づいて設定される遅延を有する複数個の遅延素子がリング状に接続されたリングオシレータを含む電圧制御発振器においても存在する。
【0015】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、電圧制御発振器のFV特性をより好適に設定することができるPLL回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のPLL回路は、(1) インダクタおよびキャパシタを含み、これらインダクタおよびキャパシタによる共振現象により、入力される制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力し、複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドが選択されることによって、周波数と制御電圧値との間のFV特性が可変である電圧制御発振器と、(2) 電圧制御発振器から出力される発振信号または該発振信号を分周した信号を帰還発振信号として入力するとともに、入力信号をも入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号を出力する位相比較器と、(3) 位相比較器から出力される位相差信号を入力して、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流を出力するチャージポンプと、(4) チャージポンプから出力される充放電電流を入力し、この充放電量に応じて増減される制御電圧値を電圧制御発振器へ出力するループフィルタと、(5) 帰還発振信号および入力信号を入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の周波数差が閾値以下であるか否かを判定する周波数差判定部と、(6) 電圧制御発振器において設定可能な複数の周波数バンドのうち、周波数差判定部により周波数差が閾値以下であると判定された周波数バンドと、周波数差判定部により周波数差が閾値超であると判定された周波数バンドとの境界に基づいて、電圧制御発振器における周波数バンドを選択してFV特性を調整するFV特性調整部と、を備える。
【0017】
或いは、本発明のPLL回路は、(1) 入力される制御電圧値に基づいて設定される遅延を有する複数個の遅延素子がリング状に接続されたリングオシレータを含み、このリングオシレータの発振現象により、入力される制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力し、複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドが選択されることによって、周波数と制御電圧値との間のFV特性が可変である電圧制御発振器と、(2) 電圧制御発振器から出力される発振信号または該発振信号を分周した信号を帰還発振信号として入力するとともに、入力信号をも入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号を出力する位相比較器と、(3) 位相比較器から出力される位相差信号を入力して、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流を出力するチャージポンプと、(4) チャージポンプから出力される充放電電流を入力し、この充放電量に応じて増減される制御電圧値を電圧制御発振器へ出力するループフィルタと、(5) 帰還発振信号および入力信号を入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の周波数差が閾値以下であるか否かを判定する周波数差判定部と、(6) 電圧制御発振器において設定可能な複数の周波数バンドのうち、周波数差判定部により周波数差が閾値以下であると判定された周波数バンドと、周波数差判定部により周波数差が閾値超であると判定された周波数バンドとの境界に基づいて、電圧制御発振器における周波数バンドを選択してFV特性を調整するFV特性調整部と、を備える。
【0018】
FV特性調整部は、高周波側の境界および低周波側の境界の双方に基づいて、複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドを選択してFV特性を調整するのが好適である。FV特性調整部は、高周波側の境界および低周波側の境界のうちの何れか一方に基づいて、複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドを選択してFV特性を調整するのも好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のPLL回路は、電圧制御発振器のFV特性をより好適に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、PLL回路1の構成を示す図である。
図2図2は、電圧制御発振器40の一回路例を示す図である。
図3図3は、電圧制御発振器40のFV特性の一例を示す図である。
図4図4は、サイクルスリップについて説明する図である。
図5図5は、周波数差判定部60の回路構成例を示す図である。
図6図6は、周波数差判定部60の回路構成例を示す図である。
図7図7は、電圧制御発振器40Aの一回路例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0022】
図1は、PLL回路1の構成を示す図である。PLL回路1は、位相比較器10、チャージポンプ20、ループフィルタ30、電圧制御発振器40、分周器50、周波数差判定部60およびFV特性調整部70を備える。
【0023】
電圧制御発振器40は、インダクタおよびキャパシタを含み、これらインダクタおよびキャパシタによる共振現象により、ループフィルタ30から入力される制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力する。電圧制御発振器40はLC-VCOである。電圧制御発振器40は、複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドが選択されることによって、出力発振信号の周波数(F)と制御電圧値(V)との間のFV特性が可変である。
【0024】
位相比較器10は、電圧制御発振器40から出力される発振信号を分周器50によりN分周した信号を帰還発振信号として入力するとともに、入力信号をも入力する。なお、分周器50は設けられなくてもよく、この場合には、電圧制御発振器40から出力される発振信号が、位相比較器10に入力される帰還発振信号となる。位相比較器10に入力される入力信号は、クロックであり、または、クロックが埋め込まれたデジタル信号であってもよい。位相比較器10は、これら帰還発振信号と入力信号との間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号をチャージポンプ20へ出力する。
【0025】
チャージポンプ20は、位相比較器10から出力される位相差信号を入力して、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流を出力する。
【0026】
ループフィルタ30は、チャージポンプ20から出力される充放電電流を入力し、この充放電量に応じて増減される制御電圧値VCを電圧制御発振器40へ出力する。ループフィルタ30は、少なくともキャパシタを含み、チャージポンプ20から出力される充放電電流に応じて電荷をキャパシタに蓄積し、その蓄積電荷量に応じた制御電圧値VCを出力する。
【0027】
周波数差判定部60は、帰還発振信号および入力信号を入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の周波数差が閾値以下であるか否かを判定する。FV特性調整部70は、電圧制御発振器40において設定可能な複数の周波数バンドのうち、周波数差判定部60により周波数差が閾値以下であると判定された周波数バンドと、周波数差判定部60により周波数差が閾値超であると判定された周波数バンドとの境界を求める。そして、FV特性調整部70は、この求めた境界に基づいて、電圧制御発振器40における周波数バンドを選択してFV特性を調整する。周波数差判定部60およびFV特性調整部70の詳細については後述する。
【0028】
図2は、電圧制御発振器40の一回路例を示す図である。この図に示される回路例では、電圧制御発振器40は、NMOSトランジスタM1,M2、抵抗器R1,R2、キャパシタC11~C15、キャパシタC21~C25、スイッチSW0~SW2およびインダクタLを含む。
【0029】
NMOSトランジスタM1,M2それぞれのソースは接地電位端に接続されている。NMOSトランジスタM1のドレインは、NMOSトランジスタM2のゲートに接続されている。NMOSトランジスタM2のドレインは、NMOSトランジスタM1のゲートに接続されている。
【0030】
キャパシタC11,C12,C22,C21は、この順に直列に接続されて、NMOSトランジスタM1,M2それぞれのドレインの間に設けられている。キャパシタC12,C22の容量値は可変である。直列に接続された抵抗器R1,R2は、キャパシタC11,C12間の接続点とキャパシタC21,C22間の接続点との間に設けられている。抵抗器R1,R2間の接続点に電圧Vrが入力される。
【0031】
キャパシタC13,スイッチSW0,キャパシタC23は、この順に直列に接続されて、NMOSトランジスタM1,M2それぞれのドレインの間に設けられている。キャパシタC14,スイッチSW1,キャパシタC24は、この順に直列に接続されて、NMOSトランジスタM1,M2それぞれのドレインの間に設けられている。キャパシタC15,スイッチSW2,キャパシタC25は、この順に直列に接続されて、NMOSトランジスタM1,M2それぞれのドレインの間に設けられている。
【0032】
キャパシタC13~C15およびキャパシタC23~C25それぞれの容量値の間には、例えば次のような関係がある。Cは、キャパシタC13,C23の容量値である。
C15=C25=2
C14=C24=2C
C13=C23=C
【0033】
インダクタLは、NMOSトランジスタM1,M2それぞれのドレインの間に設けられている。インダクタLに電源電圧VDDが与えられる。
【0034】
3個のスイッチSW0~SW2それぞれのオン/オフは、FV特性調整部70から与えられるFV特性制御信号により設定される。FV特性制御信号は3ビットのデータで表すことができる。キャパシタC13~C15およびキャパシタC23~C25を含むキャパシタバンクCbankの全体の容量値は、FV特性制御信号(すなわち、3個のスイッチSW0~SW2それぞれのオン/オフ設定状態)に応じたものとなる。キャパシタC12,C22間の接続点に制御電圧値VCが入力される。NMOSトランジスタM2のドレインから発振信号が出力される。この出力発振信号の周波数は、制御電圧値VCに応じたものとなる。また、FV特性は、FV特性制御信号に応じたものとなる。
【0035】
この図2に示される構成では、電圧制御発振器40において選択可能な周波数バンドの数は、キャパシタバンクCbankの設定可能な容量値の数に等しく8(=2)である。キャパシタバンクCbankの設定可能な容量値の数を増やすことで、電圧制御発振器40において選択可能な周波数バンドの数を増やすことができる。電圧制御発振器40は、複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドが選択されることによって、その選択された周波数バンドのFV特性を有する。
【0036】
図3は、電圧制御発振器40のFV特性の一例を示す図である。横軸は、電圧制御発振器40に入力される制御電圧値VCである。縦軸は、電圧制御発振器40から出力される発振信号の周波数である。この図では、9個の周波数バンドB1~B9それぞれについて、出力発振信号の周波数と制御電圧値VCとの間のFV特性が示されている。
【0037】
また、この図では、SSを印加した場合における制御電圧値VCの中央値V0が実線で示され、制御電圧値VCの変動の範囲(V0±ΔV)が一点鎖線で示されている。SSを印加した場合における出力発振信号の周波数の中央値F0が実線で示され、出力発振信号の周波数の変動の範囲(F0±ΔF)が一点鎖線で示されている。
【0038】
電圧制御発振器40は、FV特性制御信号によって複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドが選択され、また、その選択された周波数バンドのFV特性に従って、入力される制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力することができる。しかし、何れの周波数バンドにおいても、出力発振信号の周波数が制御電圧値に対して略線形関係を有する領域は限られており、その線形領域の両外に非線形領域が存在する。SSに因る変動範囲は線形領域内であることが重要である。
【0039】
図3に示されている9個の周波数バンドB1~B9のうち、両端の周波数バンドB1,B9は、SSに因る変動範囲は非線形領域を含む。周波数バンドB2~B8は、SSに因る変動範囲は、非線形領域を含まず、線形領域のみを含む。すなわち、周波数バンドB2~B8は、SSに因る出力発振信号の周波数の変動の全範囲を含む。FV特性制御信号により周波数バンドB2~B8のうちの何れかが選択された場合、出力発振信号の周波数は、入力信号の周波数またはビットレートに対して線形関係となる。したがって、周波数バンドB2~B8のうちの何れかが選択されるべきである。
【0040】
SSに因る出力発振信号の周波数の変動の全範囲を含む周波数バンドが複数とおり存在する場合、それら複数の周波数バンドのうち何れの周波数バンドが選択されてもよい。しかし、VTドリフトマージンを十分に確保するためには、複数の周波数バンドのうちでも、より好適な周波数バンド(図3の例では中央にある周波数バンドB5)を選択するのが好ましい。
【0041】
そこで、周波数差判定部60は、帰還発振信号および入力信号を入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の周波数差が閾値以下であるか否かを判定する。これは、電圧制御発振器40において選択されている周波数バンドがSSに因る出力発振信号の周波数の変動の全範囲を含むか否かを判定することと実質的に等価である。
【0042】
そして、FV特性調整部70は、電圧制御発振器40において設定可能な複数の周波数バンドのうち、周波数差判定部60により周波数差が閾値以下であると判定された周波数バンドと、周波数差判定部60により周波数差が閾値超であると判定された周波数バンドとの境界を求める。これは、周波数バンドがSSに因る出力発振信号の周波数の変動の全範囲を含むか否かの境界を求めることと実質的に等価である。FV特性調整部70は、この求めた境界に基づいて、電圧制御発振器40における好適な周波数バンドを選択してFV特性を調整する。
【0043】
周波数差判定部60は、帰還発振信号と入力信号との間の位相誤差が2πを超える現象(サイクルスリップ)を検出することにより、帰還発振信号と入力信号との間の周波数差が閾値以下であるか否かを判定することができる。
【0044】
図4は、サイクルスリップについて説明する図である。横軸は、時間である。この図では、上から順に、入力信号の立ち上がりタイミング、帰還発振信号の立ち上がりタイミング、チャージポンプ(CP)に与えられる電流、帰還発振信号と入力信号との間の本来の位相誤差、および、チャージポンプ(CP)から見た位相誤差、が示されている。この図に示される例では、入力信号の周波数に対して帰還発振信号の周波数が低く、入力信号の立ち上がりタイミングに対する帰還発振信号の立ち上がりタイミングの遅れは次第に大きくなっていき、CPに与えられる電流量は次第に多くなっていく。しかし、帰還発振信号と入力信号との間の本来の位相誤差が2πに到達してサイクルスリップが生じると、入力信号の立ち上がりタイミングに対する帰還発振信号の立ち上がりタイミングの遅れは一旦小さくなった後に再び次第に大きくなっていき、CPに与えられる電流量は一旦少なくなった後に再び次第に多くなっていく。
【0045】
入力信号の立ち上がりタイミングと帰還発振信号の立ち上がりタイミングとは交互に現れるべきであるが、何れか一方の信号の立ち上がりタイミングが連続して現れるとサイクルスリップが生じる。周波数差判定部60は、このようなサイクルスリップを検出することで、帰還発振信号と入力信号との間の周波数差が閾値以下であるか否かを判定する。
【0046】
図5および図6は、周波数差判定部60の回路構成例を示す図である。周波数差判定部60の回路の前段部分(サイクルスリップ検出部分)が図5に示され、後段部分(周波数差判定部分)が図6に示されている。
【0047】
Dフリップフロップ111のRn入力端は、NORゲート133の出力端と接続されている。Dフリップフロップ111のD入力端は、Hレベルの信号が入力される。Dフリップフロップ111は、入力信号INCLKの立ち上がりタイミングでラッチ動作をする。
【0048】
Dフリップフロップ112のRn入力端は、リセット指示信号RSTnが入力される。Dフリップフロップ112のD入力端は、Dフリップフロップ111のQ出力端と接続されている。Dフリップフロップ112は、入力信号INCLKの立ち上がりタイミングでラッチ動作をする。
【0049】
NANDゲート113の一方の入力端は、Dフリップフロップ112のQN出力端と接続されている。NANDゲート113の他方の入力端は、Dフリップフロップ115のQN出力端と接続されている。
【0050】
セレクタ114の一方の入力端は、NANDゲート113の出力端と接続されている。セレクタ114の他方の入力端は、Lレベルの信号が入力される。セレクタ114は、ORゲート134の出力端から出力される信号の論理レベルに応じて、2つの入力端のうち何れかの入力端に入力される信号と同じレベルの信号を出力端から出力する。
【0051】
Dフリップフロップ115のRn入力端は、リセット指示信号RSTnが入力される。Dフリップフロップ115のD入力端は、セレクタ114の出力端と接続されている。Dフリップフロップ115は、入力信号INCLKの立ち上がりタイミングでラッチ動作をする。
【0052】
Dフリップフロップ116のRn入力端は、リセット指示信号RSTnが入力される。Dフリップフロップ116のD入力端は、Dフリップフロップ115のQ出力端と接続されている。Dフリップフロップ116は、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでラッチ動作をする。
【0053】
Dフリップフロップ121のRn入力端は、NORゲート133の出力端と接続されている。Dフリップフロップ121のD入力端は、Hレベルの信号が入力される。Dフリップフロップ121は、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでラッチ動作をする。
【0054】
Dフリップフロップ122のRn入力端は、リセット指示信号RSTnが入力される。Dフリップフロップ122のD入力端は、Dフリップフロップ121のQ出力端と接続されている。Dフリップフロップ122は、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでラッチ動作をする。
【0055】
NANDゲート123の一方の入力端は、Dフリップフロップ122のQN出力端と接続されている。NANDゲート123の他方の入力端は、Dフリップフロップ125のQN出力端と接続されている。
【0056】
セレクタ124の一方の入力端は、NANDゲート123の出力端と接続されている。セレクタ124の他方の入力端は、Lレベルの信号が入力される。セレクタ124は、ORゲート134の出力端から出力される信号の論理レベルに応じて、2つの入力端のうち何れかの入力端に入力される信号と同じレベルの信号を出力端から出力する。
【0057】
Dフリップフロップ125のRn入力端は、リセット指示信号RSTnが入力される。Dフリップフロップ125のD入力端は、セレクタ124の出力端と接続されている。Dフリップフロップ125は、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでラッチ動作をする。
【0058】
Dフリップフロップ126のRn入力端は、リセット指示信号RSTnが入力される。Dフリップフロップ126のD入力端は、Dフリップフロップ125のQ出力端と接続されている。Dフリップフロップ126は、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでラッチ動作をする。
【0059】
ANDゲート131の一方の入力端は、Dフリップフロップ111のQ出力と接続されている。ANDゲート131の他方の入力端は、Dフリップフロップ121のQ出力と接続されている。INVゲート132は、リセット指示信号RSTnを論理反転した信号を出力する。NORゲート133の一方の入力端は、ANDゲート131の出力端と接続されている。NORゲート133の他方の入力端は、INVゲート132の出力端と接続されている。
【0060】
ORゲート134の一方の入力端は、Dフリップフロップ116のQ出力端と接続されている。ORゲート134の他方の入力端は、Dフリップフロップ126のQ出力端と接続されている。
【0061】
ORゲート135の一方の入力端は、Dフリップフロップ116のQ出力端と接続されている。ORゲート135の他方の入力端は、Dフリップフロップ126のQ出力端と接続されている。
【0062】
Dフリップフロップ117のRn入力端は、リセット指示信号RSTnが入力される。Dフリップフロップ117のD入力端は、Dフリップフロップ116のQ出力端と接続されている。Dフリップフロップ117は、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでラッチ動作をする。
【0063】
Dフリップフロップ127のRn入力端は、リセット指示信号RSTnが入力される。Dフリップフロップ127のD入力端は、Dフリップフロップ126のQ出力端と接続されている。Dフリップフロップ127は、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでラッチ動作をする。
【0064】
Dフリップフロップ137のRn入力端は、リセット指示信号RSTnが入力される。Dフリップフロップ137のD入力端は、ORゲート135の出力端と接続されている。Dフリップフロップ137は、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでラッチ動作をする。
【0065】
INVゲート141は、Dフリップフロップ137のQ出力端から出力される信号を論理反転した信号を出力する。セレクタ142の一方の入力端は、INVゲート141の出力端と接続されている。セレクタ142の他方の入力端は、カウンタ144の出力端と接続されている。セレクタ142は、Dフリップフロップ143のQ出力端から出力される信号の論理レベルに応じて、2つの入力端のうち何れかの入力端に入力される信号と同じレベルの信号を出力端から出力する。
【0066】
Dフリップフロップ143のRn入力端は、リセット指示信号RSTnが入力される。Dフリップフロップ143のD入力端は、セレクタ142の出力端と接続されている。Dフリップフロップ143は、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでラッチ動作をする。
【0067】
カウンタ144は、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでカウントアップ動作をする。カウンタ144のカウントアップ動作は、リセット指示信号RSTnにより初期化され、また、Dフリップフロップ137のQ出力端から出力される信号がHレベルとなることでも初期化される。カウンタ144は、カウント値が或る閾値に達するまではLレベルの信号を出力し、カウント値が閾値に達したとき以降はHレベルの信号を出力する。
【0068】
このような回路構成を有する周波数差判定部60の動作は次のとおりであ。動作開始時にリセット指示信号RSTnによって全てのDフリップフロップおよびカウンタ144が初期化される。初期化状態では、全てのDフリップフロップのQ出力端から出力される信号はLレベルであり、全てのDフリップフロップのQN出力端から出力される信号はHレベルであり、カウンタ144のカウント値は0である。
【0069】
Dフリップフロップ111,121それぞれのQ出力端から出力される信号が共にHレベルになると、ANDゲート131の出力信号がHレベルになり、NORゲート133の出力信号がLレベルになるので、Dフリップフロップ111,121の双方が初期化される。
【0070】
Dフリップフロップ111のQ出力端から出力される信号は、Dフリップフロップ112により、入力信号INCLKの立ち上がりタイミングでラッチされる。Dフリップフロップ121のQ出力端から出力される信号は、Dフリップフロップ122により、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでラッチされる。
【0071】
入力信号INCLKの立ち上がりタイミングと帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングとが交互に現れているとき、Dフリップフロップ111,121それぞれのQ出力端から出力される信号はLレベルであり、Dフリップフロップ112,122それぞれのQN出力端から出力される信号はHレベルである。また、NANDゲート113,123それぞれの出力端から出力される信号はLレベルであり、セレクタ114,124それぞれの出力端から出力される信号はLレベルであり、Dフリップフロップ115,125それぞれのQN出力端から出力される信号はHレベルである。
【0072】
入力信号INCLKの立ち上がりタイミングの後に、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングが現れることなく、入力信号INCLKの立ち上がりタイミングが続けて現れたとき(すなわち、帰還発振信号FBCLKが遅い場合)、Dフリップフロップ111のQ出力端から出力される信号はHレベルであるので、Dフリップフロップ112のQN出力端から出力される信号はLレベルになる。そして、NANDゲート113の出力端から出力される信号はHレベルになり、セレクタ114の出力端から出力される信号はHレベルになり、Dフリップフロップ115のQN出力端から出力される信号はLレベルになり、Dフリップフロップ115のQ出力端から出力される信号はHレベルになる。その後の帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングで、Dフリップフロップ116のQ出力端から出力される信号CSslowはHレベルになる。この信号CSslowがHレベルになることは、帰還発振信号FBCLKが遅いことに因りサイクルスリップが生じたことを表している。
【0073】
逆に、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングの後に、入力信号INCLKの立ち上がりタイミングが現れることなく、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングが続けて現れたとき(すなわち、帰還発振信号FBCLKが早い場合)、Dフリップフロップ121のQ出力端から出力される信号はHレベルであるので、Dフリップフロップ122のQN出力端から出力される信号はLレベルになる。そして、NANDゲート123の出力端から出力される信号はHレベルになり、セレクタ124の出力端から出力される信号はHレベルになり、Dフリップフロップ125のQN出力端から出力される信号はLレベルになり、Dフリップフロップ125のQ出力端から出力される信号はHレベルになる。その後の帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングで、Dフリップフロップ126のQ出力端から出力される信号CSfastはHレベルになる。この信号CSfastがHレベルになることは、帰還発振信号FBCLKが早いことに因りサイクルスリップが生じたことを表している。
【0074】
信号CSslowまたは信号CSfastがHレベルになると、ORゲート134から出力される信号はHレベルになり、セレクタ114,124における入力選択が変化する。これにより、信号CSslowおよび信号CSfastの双方ともLレベルになる。信号CSslowまたは信号CSfastがHレベルである期間は、帰還発振信号FBCLKの2周期分である。
【0075】
信号CSslowがHレベルになると、その後の帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでDフリップフロップ117のQ出力端から出力される信号はHレベルになる。Dフリップフロップ117のQ出力端から出力される信号がHレベルになることは、帰還発振信号FBCLKが遅いことに因りサイクルスリップが生じたことを表している。
【0076】
信号CSfastがHレベルになると、その後の帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでDフリップフロップ127のQ出力端から出力される信号はHレベルになる。Dフリップフロップ127のQ出力端から出力される信号がHレベルになることは、帰還発振信号FBCLKが早いことに因りサイクルスリップが生じたことを表している。
【0077】
信号CSslowまたは信号CSfastがHレベルになると、ORゲート135から出力される信号はHレベルになり、その後の帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでDフリップフロップ137のQ出力端から出力される信号はHレベルになる。Dフリップフロップ137のQ出力端から出力される信号がHレベルになることは、帰還発振信号FBCLKが早いか遅いかに拘わらずサイクルスリップが生じたことを表している。Dフリップフロップ137のQ出力端から出力される信号がHレベルである期間は、帰還発振信号FBCLKの2周期分である。
【0078】
Dフリップフロップ137のQ出力端から出力される信号がHレベルになると、カウンタ144は初期化され、カウンタ144のカウント値は0になる。このとき、カウンタ144のカウント値は閾値に達していないので、カウンタ144から出力される信号はLレベルであり、Dフリップフロップ143のQ出力端から出力される信号LOCKはLレベルである。信号LOCKがLレベルである期間にセレクタ142から出力される信号は、カウンタ144から出力される信号である。
【0079】
カウンタ144は、帰還発振信号FBCLKの立ち上がりタイミングでカウントアップ動作をする。カウンタ144のカウント値が閾値に達するより前に、Dフリップフロップ137のQ出力端から出力される信号が再びHレベルになると、カウンタ144は再初期化される。したがって、この場合には、信号LOCKがLレベルである状態が継続することになる。
【0080】
Dフリップフロップ137のQ出力端から出力される信号が再びHレベルになるより前に、カウンタ144のカウント値が閾値に達すると、カウンタ144から出力される信号はHレベルに転じ、信号LOCKはHレベルに転じる。信号LOCKがHレベルである期間にセレクタ142から出力される信号は、Dフリップフロップ137のQ出力端から出力される信号がINVゲート141により論理反転された信号である。
【0081】
このように、周波数差判定部60は、信号LOCKがHレベルになるか否かにより、帰還発振信号FBCLKと入力信号INCLKとの間の周波数差が閾値以下であるか否かを判定することができる。カウンタ144における閾値は、周波数差に関する閾値に相当する。カウンタ144における閾値を変更することは、帰還発振信号FBCLKと入力信号INCLKとがロック状態であると判断する際の基準となるサイクルスリップ不発生期間の長さを変更することに相当する。サイクルスリップ不発生期間が帰還発振信号FBCLKの周期の10倍であることは、帰還発振信号FBCLKと入力信号INCLKとの間の周波数差が10%未満であることに相当する。
【0082】
FV特性調整部70は、電圧制御発振器40において設定可能な複数の周波数バンドのうちから、周波数差判定部60による判定の結果に基づいて、帰還発振信号と入力信号との間の周波数差が閾値以下であるか否かの境界を求めて、電圧制御発振器40における好適な周波数バンドを選択する。境界の求め方および好適な周波数バンドの選択方法は、様々な態様があり得る。以下では、図3に示された9個の周波数バンドB1~B9を例にして、境界の求め方および好適な周波数バンドの選択の方法を説明する。
【0083】
境界を求める第1の方法は、高周波側から低周波側へ順に並べられた複数の周波数バンドの一方側から順に、帰還発振信号と入力信号との間の周波数差が閾値以下であるか否かを周波数差判定部60により判定して、これにより境界を求める方法である。図3に示された9個の周波数バンドB1~B9を例にすると、周波数差判定部60により、先ず周波数バンドB1について周波数差が閾値超であると判定され、次に周波数バンドB2について周波数差が閾値以下であると判定され、続いて周波数バンドB3~B8それぞれについて周波数差が閾値以下であると判定され、最後に周波数バンドB9について周波数差が閾値超であると判定される。これらの判定結果から、周波数バンドB2,B8が境界にあることが分かる。
【0084】
境界を求める第2の方法は、高周波側から低周波側へ順に並べられた複数の周波数バンドの一方側から順に周波数差が閾値以下であるか否かを周波数差判定部60により判定するとともに、他方の側からも順に周波数差が閾値以下であるか否かを周波数差判定部60により判定して、これにより境界を求める方法である。図3に示された9個の周波数バンドB1~B9を例にすると、周波数差判定部60により、周波数バンドB1について周波数差が閾値超であると判定され、次に周波数バンドB2について周波数差が閾値以下であると判定される。続いて、周波数差判定部60により、周波数バンドB9について周波数差が閾値超であると判定され、次に周波数バンドB8について周波数差が閾値以下であると判定される。これらの判定結果から、周波数バンドB2,B8が境界にあることが分かる。
【0085】
境界を求める第3の方法は、高周波側から低周波側へ順に並べられた複数の周波数バンドの一方側から順に周波数差が閾値以下であるか否かを周波数差判定部60により判定して一方の境界を求め、その後、その境界にある周波数バンドから所定数だけ先の周波数バンドの前後において周波数差が閾値以下であるか否かを周波数差判定部60により判定して他方の境界を求める方法である。図3に示された9個の周波数バンドB1~B9を例にすると、周波数差判定部60により、周波数バンドB1について周波数差が閾値超であると判定され、次に周波数バンドB2について周波数差が閾値以下であると判定される。これにより、周波数バンドB2が一方の境界にあることが分かる。その後、この周波数バンドB2から例えば5つだけ先の周波数バンドB7の前後において、周波数差が閾値以下であるか否かを周波数差判定部60により判定していく。すなわち、周波数差判定部60により、周波数バンドB7について周波数差が閾値以下であると判定されると、次に、先の周波数バンドB8について周波数差が閾値以下であると判定され、最後に周波数バンドB9について周波数差が閾値超であると判定される。これにより、周波数バンドB8が他方の境界にあることが分かる。なお、周波数差判定部60により、周波数バンドB7について周波数差が閾値超であると判定された場合、前の周波数バンドB6,B5,・・・の順に周波数差が閾値以下であるか否かが判定されていく。
【0086】
好適な周波数バンドを選択する第1の方法は、2つの境界(高周波側の境界、低周波側の境界)の双方に基づいて、複数の周波数バンドのうちから何れかの好適な周波数バンドを選択する方法である。図3に示された9個の周波数バンドB1~B9を例にすると、一方の境界(周波数バンドB2)および他方の境界(周波数バンドB8)の何れからも十分に離れていて、VTドリフトマージンを十分に確保することができる周波数バンドを選択する。好適には、2つの境界の間の中央にある周波数バンドB5を選択する。
【0087】
好適な周波数バンドを選択する第2の方法は、2つの境界(高周波側の境界、低周波側の境界)のうちの何れか一方に基づいて、複数の周波数バンドのうちから何れかの好適な周波数バンドを選択する方法である。図3に示された9個の周波数バンドB1~B9を例にすると、一方の境界(周波数バンドB2)および他方の境界(周波数バンドB8)の何れか一方から十分に離れていて、VTドリフトマージンを十分に確保することができる周波数バンドを選択する。なお、上記の境界を求める第1~第3の方法では、2つの境界(B2、B8)を求めているが、この好適な周波数バンドを選択する第2の方法と組み合わせる場合は、何れか一方の境界のみを求めてもよい。
【0088】
以上のように、本実施形態のPLL回路1は、電圧制御発振器40のFV特性をより好適に設定することができる。
【0089】
これまで電圧制御発振器としてLC-VCOを用いる場合について説明した。しかし、本発明は、図1に示されるPLL回路1において、入力される制御電圧値VCに基づいて設定される遅延を有する複数個の遅延素子がリング状に接続されたリングオシレータを含む電圧制御発振器を用いる場合にも適用することができる。この電圧制御発振器は、このリングオシレータの発振現象により、制御電圧値VCに応じた周波数を有する発振信号を出力する。この電圧制御発振器も、複数の周波数バンドのうちから何れかの周波数バンドが選択されることによって、周波数と制御電圧値との間のFV特性が可変である。
【0090】
一般に、リングオシレータを含む電圧制御発振器は、前述したようなLC-VCOに比べて、FV特性の傾きが大きく、VTドリフトマージンを十分に確保することが容易である。一方で、リングオシレータを含む電圧制御発振器は、高速動作させたときのジッタが大きくなる傾向がある。この電圧制御発振器は、大きなジッタが許容される数Gbps程度のシステムにおいては大きなSSをかけることができるので好適である。
【0091】
図7は、電圧制御発振器40Aの一回路例を示す図である。電圧制御発振器40Aは、図1に示されるPLL回路1において電圧制御発振器40に替えて用いられ得る。この図に示される回路例では、電圧制御発振器40Aは、リングオシレータRO、カレントミラー回路CM、カレントバンク回路CB、および、制御スイッチとしてのNMOSトランジスタM30を含む。
【0092】
リングオシレータROは、複数個(この図では7個)の遅延素子D1~D7がリング状に接続された構成を有する。遅延素子D1~D7は、インバータ回路であってもよいし、差動バッファであってもよい。遅延素子D1~D7それぞれの遅延は、カレントミラー回路CMから与えられる駆動電流IROにより設定される。
【0093】
カレントミラー回路CMは、PMOSトランジスタM33、PMOSトランジスタM34、アンプA30、キャパシタC30および抵抗器R30を含む。PMOSトランジスタM33,M34それぞれのソースは、電源電圧VDDが入力される。PMOSトランジスタM33のドレインは、アンプA30の非反転入力端子と接続されている。PMOSトランジスタM34のドレインは、アンプA30の反転入力端子と接続されており、また、リングオシレータROの遅延素子D1~D7それぞれに対して駆動電流を与える。アンプA30の出力端子は、PMOSトランジスタM33,M34それぞれのゲートと接続され、また、キャパシタC30および抵抗器R30を介してPMOSトランジスタM33のドレインと接続されている。
【0094】
カレントバンク回路CBは、互いに並列的に設けられた複数個(この図では3個)のユニットU1~U3を含む。各ユニットは、スイッチSW30、NMOSトランジスタM31、NMOSトランジスタM32、キャパシタC31およびキャパシタC32を含む。NMOSトランジスタM31のドレインは、スイッチSW30を介してPMOSトランジスタM33のドレインと接続されている。NMOSトランジスタM31のソースは、NMOSトランジスタM32のドレインと接続されている。NMOSトランジスタM32のソースは、接地電位とされている。キャパシタC31の一端はNMOSトランジスタM31のゲートと接続され、キャパシタC31の他端は接地電位とされている。キャパシタC32の一端はNMOSトランジスタM32のゲートと接続され、キャパシタC32の他端は接地電位とされている。NMOSトランジスタM31のゲートは、バイアス電圧VB1が入力される。NMOSトランジスタM32のゲートは、バイアス電圧VB2が入力される。各ユニットU1のスイッチSW30は、FV特性制御信号の値に応じてオン/オフの状態が設定される。
【0095】
制御スイッチとしてのNMOSトランジスタM30のドレインは、PMOSトランジスタM33のドレインと接続されている。NMOSトランジスタM30のソースは接地電位とされている。NMOSトランジスタM30のゲートは、制御電圧値VCが入力される。
【0096】
この電圧制御発振器40Aでは、FV特性制御信号によりカレントバンク回路CBの3ビットのスイッチSW30のオン/オフが設定されることで、カレントバンク回路CBを流れる電流の量IDIGが設定される。この電流量IDIGの設定により、カレントミラー回路CMのPMOSトランジスタM33,M34それぞれに流れる電流の量IROが設定され、PMOSトランジスタM34のドレインからリングオシレータROの遅延素子D1~D7それぞれに対して与えられる駆動電流の量IROが設定される。これにより、周波数バンドが選択される。
【0097】
また、電圧制御発振器40Aでは、制御スイッチであるNMOSトランジスタM30のゲートに与えられる制御電圧値VCにより、このNMOSトランジスタM30に流れる電流の量IANAが調整される。この電流量IANAの調整により、リングオシレータROの遅延素子D1~D7それぞれに対して与えられる駆動電流の量IROが調整される。これにより、制御電圧値VCに応じた発振周波数に調整される。
【0098】
なお、本実施形態のPLL回路は、テレビ受信器およびモニタ装置などの表示装置に用いられるディスプレイ・インターフェース、ならびに、カメラおよびビデオなどの撮像装置に用いられるカメラ・インターフェースなどの、高精細度の映像信号を伝送する映像伝送インターフェースに適用され得る。一般的に、上述したような映像伝送インターフェースが用いられる電子機器では、その重量を軽くするために表面を金属で覆うことがなく、その一方で、トータルのコストを抑えるために基板やケーブルをしっかりと電磁シールドすることもできない。それ故、人体や周辺の電子機器への電磁波の影響を低減するために、他の通信インターフェースに比べて比較的大きな変調強度(±1%以上)のSSクロックが求められる。本実施形態のPLL回路、電圧制御発振器のFV特性をより好適に設定することができるので、上述したような映像伝送インターフェースに適用しても、人体や周辺の電子機器への電磁波の影響を低減するために他の通信インターフェースに比べて比較的大きな変調強度(±1%以上)のSSクロックを生成することができる。
【符号の説明】
【0099】
1…PLL回路、10…位相比較器、20…チャージポンプ、30…ループフィルタ、31…抵抗器、32…キャパシタ、33…キャパシタ、34…バッファ、40,40A…電圧制御発振器、50…分周器、60…周波数差判定部、70…FV特性調整部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7