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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】骨格筋細胞及びその誘導方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20221028BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20221028BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221028BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20221028BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20221028BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N5/077
C12N5/10
A61P21/00
A61K35/34
A61L27/38 110
A61L27/38 300
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018559641
(86)(22)【出願日】2017-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2017047305
(87)【国際公開番号】W WO2018124292
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2016255208
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】若尾 純子
(72)【発明者】
【氏名】岸田 綱郎
(72)【発明者】
【氏名】田尻 達郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 修
【審査官】原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】Molecular and Cellular Biology,1991年,Vol.11,p.2842-2851
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物、及びL-myc遺伝子もしくはその発現産物を含む、哺乳動物の体細胞を骨格筋細胞にコンヴァートする為の組成物。
【請求項2】
前記体細胞が線維芽細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記体細胞がヒトの体細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
MyoDファミリー遺伝子がMyoD1遺伝子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
骨格筋損傷の治療や骨格筋の再生のための、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
ベクターの形態である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
哺乳動物の体細胞に、MyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物、及びL-myc遺伝子もしくはその発現産物を導入する工程を含む、骨格筋細胞をインビトロで誘導する方法。
【請求項8】
前記体細胞が線維芽細胞である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記体細胞が、ヒトの体細胞である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
MyoDファミリー遺伝子がMyoD1遺伝子である、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物(但しヒトを除く)の体細胞に、MyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物、及びL-myc遺伝子もしくはその発現産物を導入する工程を含む、骨格筋細胞を誘導する方法。
【請求項12】
前記体細胞が線維芽細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
MyoDファミリー遺伝子がMyoD1遺伝子である、請求項11又は12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
骨格筋損傷の治療や骨格筋の再生のための、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、骨格筋細胞及びその誘導方法に関し、詳しくはダイレクト・リプログラミングによる骨格筋細胞の誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉は動物の運動に必須の組織であり、収縮能をもつ繊維状の多核細胞から構成されている。骨格筋の分化誘導において、単核の筋芽細胞が分化しつつ融合し多核の筋細胞が形成される。骨格筋の分化誘導は、MyoDファミリーやMEF2ファミリーなどの転写因子により制御されていることが知られている。
【0003】
横隔膜全欠損などの筋の先天異常、筋ジストロフィなどの筋の遺伝疾患、高度外傷や外科治療にともなう筋の欠損などの疾患に対して、筋を再生して移植できれば有効な新規再生医療になる可能性がある。
【0004】
マウス線維芽細胞に、骨格筋特異的な転写因子、MyoDファミリーの遺伝子を導入すると、筋芽細胞様の細胞が誘導できることは以前から知られている。しかし、ヒトの線維芽細胞ではMyoDファミリーの遺伝子を導入してもマウスと同程度に筋芽細胞は誘導できないという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Davis RL, Weintraub H, Lassar AB. Expression of a single transfected cDNA converts fibroblasts to myoblasts.Cell. 1987 Dec 24; 51(6):987-1000.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、筋の欠損を伴う疾患などに対する治療に応用可能な骨格筋細胞を誘導する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、哺乳動物の体細胞にMyoD遺伝子及びL-myc遺伝子を組み合わせて導入することで、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を経由することなく、直接(ダイレクト・リプログラミングにより)骨格筋細胞が得られることを見出した。本発明は係る斯かる発見に基づき、更なる検討を重ねて完成したものである。
【0008】
本発明は、以下の発明を包含する。
【0009】
項1、哺乳動物の体細胞に、MyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物及びMycファミリー遺伝子もしくはその発現産物を導入する工程を含む、骨格筋細胞を誘導(調製)する方法。
【0010】
項2、前記体細胞が線維芽細胞である、項1に記載の方法。
【0011】
項3、前記体細胞が、ヒトの体細胞である、項1に記載の方法。
【0012】
項4、MyoDファミリー遺伝子がMyoD1遺伝子であり、Mycファミリー遺伝子がL-myc遺伝子である、項1又は2に記載の方法。
【0013】
項5、哺乳動物の体細胞に由来し、外来性のMyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物及びMycファミリー遺伝子もしくはその発現産物を有す骨格筋細胞。
【0014】
項6、項1~4のいずれか1項に記載の方法により得られる、請求項5に記載の骨格筋細胞。
【0015】
項7、項1~4のいずれか1項に記載の方法で得られる細胞、又は、項4に記載の骨格筋細胞を含む、骨格筋の欠損、不足若しくは機能低下に基づく疾患を治療するための、移植材料。
【0016】
項8、MyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物及びMycファミリー遺伝子もしくはその発現産物を含む、骨格筋細胞を誘導(調製)するための組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ダイレクト・リプログラミングにより体細胞から短期間で骨格筋細胞を調製することができる。この骨格筋細胞は、移植する本人の体細胞から容易に誘導できるので、得られた骨格筋細胞を移植した場合にも免疫学的な拒絶応答などの問題は生じない。また、iPS細胞やES細胞を経由することなく直接体細胞から骨格筋細胞を誘導できるため、癌化などの多能性幹細胞に起因する問題を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実験方法の概要を示す。
図2】Myogenin遺伝子およびCKM遺伝子のmRNA発現計測結果を示す。
図3-1】蛍光免染の結果を示す(CKM)。
図3-2】蛍光免染の結果を示す(Dystrophin)。
図3-3】蛍光免染の結果を示す(Myogenin)。
図4】多核の筋管細胞の出現の観察結果を示す。
図5】多核の筋管細胞の出現を評価結果を示す。
図6】Myogenin遺伝子、CKM遺伝子及びMHC3遺伝子のmRNA発現計測結果を示す。
図7】DMD遺伝子のmRNA発現の経時的計測結果を示す。
図8A】実施例8の手法の概要を示す。
図8B】移植1週間後の移植部位と摘出した組織のmacroscopic imagesを示す。
図9-1】線維芽細胞を移植した組織の免疫組織化学染色の結果を示す。パラフィン切片、×200倍拡大。
図9-2】MyoD1とL-Mycとを導入した細胞を移植した組織の免疫組織化学染色の結果を示す。パラフィン切片、×200倍拡大。
図10】デスミン陽性細胞の測定結果を示す。値は平均値±標準偏差。各群N=3 mice。*P<0.05 vs. 非導入細胞移植群。
図11】CKM陽性細胞の測定結果を示す。値は平均値±標準偏差。各群N=3ウェル。*P<0.05 vs. 非導入細胞。
図12】(A)核染色の結果を示す。(B)3個よりも多くの核を有する細胞数の総細胞数に対するパーセンテージの測定結果を示す。
図13】(A)多核細胞の出現の測定結果を示す。(B)Myogenin遺伝子、CKM遺伝子及びDystrophin遺伝子のmRNA発現計測結果を示す。
図14】細胞を移植した組織の免疫組織化学染色の結果を示す。
図15】各種マーカー遺伝子のmRNA発現計測結果を示す。値は平均値±標準偏差。各群N=3。*P<0.05 vs. 非導入細胞。
図16】ミトコンドリア(MitoTracker Red)の検出結果を示す。
図17】Desmin及びCKMの蛍光免染の結果を示す。
図18A】骨格筋の発生に関与する遺伝子群のヒートマップとクラスタリング解析の結果を示す。
図18B】骨格筋の収縮に関与する遺伝子群のヒートマップとクラスタリング解析の結果を示す。
図18C】ミオシンフィラメントに関する遺伝子群のヒートマップとクラスタリング解析の結果を示す。
図18D】アクチンフィラメントに関する遺伝子群のヒートマップとクラスタリング解析の結果を示す。
図19】rBC2LCN-FITCの染色の結果を示す。
図20】Myogenin遺伝子及びCKM遺伝子のmRNA発現計測結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、哺乳動物の分化した体細胞を骨格筋細胞にコンヴァートすることで、骨格筋細胞を誘導する方法に関する。「コンヴァート」とは、体細胞を目的の骨格筋細胞へと変換することを意味する。本発明の方法の好ましい態様の1つは、「ダイレクトリプログラミング」、「ダイレクトコンヴァージョン」ともよばれる、iPS細胞の作製に代表される細胞の初期化の工程を経ることなく、体細胞を骨格筋細胞にコンヴァートする方法である。
【0020】
骨格筋細胞への誘導は、インビトロ(in vitro)またはインビボ(in vivo)のいずれでも行うことができる。
【0021】
正常の骨格筋の発生過程においては、筋芽細胞が融合して多核の筋管細胞となり、さらに筋繊維と成熟する。また、正常な骨格筋組織には幹細胞として機能しうる筋サテライト細胞が存在する。本明細書では、筋芽細胞、筋サテライト細胞、筋管細胞、筋管、筋繊維、成熟筋繊維等を総称して骨格筋細胞または筋細胞と呼ぶ。
【0022】
骨格筋とは、動物の筋肉のうち心筋と平滑筋以外の筋肉をいう。骨格筋は、横紋筋及び平滑筋のうち、横紋筋に属する。骨格筋細胞は多核細胞であり、多数の筋芽細胞から筋繊維がつくられる。
【0023】
骨格筋細胞は間葉系幹細胞に由来する。生体内の分化においては、間葉系幹細胞が筋芽細胞へと分化し、筋芽細胞が多数融合することで筋管細胞が形成される。
【0024】
骨格筋細胞が得られたことは、Myogenin、creatine kinase muscle (CKM)、Myosin heavy chain 3(MHC3)などの骨格筋特異的マーカーの遺伝子発現やタンパク質発現、多核、筋繊維の形成などの形態的特徴、収縮能などの機能等により評価することができる。
【0025】
体細胞
体細胞は、哺乳動物由来であればよい。骨格筋細胞を生体に移植する場合には、移植される被験体由来の体細胞(自家細胞)を用いることが、感染や拒絶応答等の危険を低減させるために好ましい。しかしながら、筋の欠損などに対して移植するなどの目的の場合、自家細胞でなく、他人や他の動物の体細胞からあらかじめ準備しておいた骨格筋細胞を移植に用いることができる。またはあらかじめ準備しておいた他人や他の動物の体細胞から骨格筋細胞を作り、移植に用いることができる。すなわち、骨格筋細胞のバンクを作っておき移植目的に供することができる。このような場合、拒絶応答等の危険を低減させるために、あらかじめMHCをタイピングしておくことができる。また、あらかじめ骨格筋細胞の細胞特性や造腫瘍性などを確認しておくことができる。
【0026】
本明細書において、哺乳動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタなどが挙げられ、特にヒトが挙げられる。
【0027】
本発明の方法(ダイレクト・リプログラミング)の対象となる体細胞としては、特に限定されるものではない。
【0028】
体細胞は、容易に生体より採取できる体細胞を使用することができる。例えば線維芽細胞、ケラチノサイト、口腔粘膜上皮細胞、鼻腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、胃粘膜上皮細胞、腸管粘膜上皮細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、歯肉細胞(歯肉線維芽細胞、歯肉上皮細胞)、歯髄細胞、歯根膜細胞、骨髄細胞、骨髄由来間質細胞、白血球、リンパ球、結膜上皮細胞、破骨細胞などが挙げられ、好ましくは線維芽細胞、ケラチノサイト、口腔粘膜上皮細胞、歯肉細胞、白血球、リンパ球などが挙げられる。本発明において、生体から採取した上記の細胞を用いることが好ましい。
【0029】
遺伝子若しくはその発現産物
本発明の方法では、体細胞にMyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物及びMycファミリー遺伝子もしくはその発現産物を導入する。ここで、「発現産物」としては、MyoDファミリー遺伝子及びL-myc遺伝子のmRNA又はタンパク質が挙げられる。
【0030】
本発明の方法において、MyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物及びMycファミリー遺伝子もしくはその発現産物に加えて、マイクロRNA、siRNA、shRNAやそれらを発現するDNAを併せて使用することもできる。また、種々のタンパク質を併せて使用することもできる。骨格筋細胞を得ることができる効率の観点、及び簡便性の観点から、MyoDファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の2遺伝子、例えばMyoD1遺伝子及びL-myc遺伝子の2遺伝子のみを使用することが好ましい。
【0031】
MyoDファミリー遺伝子は、筋肉の分化の制御に関与するbHLH(basic helix loop helix)型転写因子をコードする一群の遺伝子である。MyoDファミリー遺伝子としては、MyoD1、Myf5、myogenin、MRF4が挙げられる。本発明において、MyoDファミリー遺伝子は好ましくはMyoD1遺伝子である。
【0032】
Mycファミリー遺伝子も、bHLH(basic helix loop helix)型転写因子をコードする。Mycファミリー遺伝子としては、c-myc、N-myc、L-Mycが挙げられる。本発明において、Mycファミリー遺伝子は好ましくはL-Mycである。
【0033】
上記遺伝子は、いずれも、脊椎動物で高度に保存されている遺伝子であり、本明細書では、特に動物名を示さない限り、ホモログを含めた遺伝子を表すものとする。また、polymorphism(多型)を含め、変異を有する遺伝子であっても、野生型の遺伝子産物と同等の機能を有する遺伝子もまた、含まれるものとする。
【0034】
例えば、ヒト(Homo sapiens)のMyoD1遺伝子、L-myc遺伝子のcDNA塩基配列及びこれがコードするタンパク質のアミノ酸配列は、米国生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)が提供するGenBankに、下記のアクセッション番号で登録されている(複数のリビジョン(revision)が登録されている場合、最新のリビジョンを指すと理解される。):
ヒトMyoD1遺伝子cDNA配列:NM_002478(例えば、NM_002478.4)、
ヒトMyoD1タンパク質アミノ酸配位列:NP_002469(例えば、NP_002469.2);
ヒトL-myc遺伝子cDNA配列:NM_001033081、NM_001033082、NM_005376(例えば、NM_001033081.2、NM_001033082.2、NM_005376.4)、
ヒトL-mycタンパク質アミノ酸配位列:NP_001028253.1、NP_001028254.2、NP_005367.2(例えば、NP_001028253、NP_001028254、NP_005367)。
【0035】
導入
本発明の方法は、特定の遺伝子を選択する以外は、公知のダイレクト・リプログラミングの手法に準じて行うことができ、例えば以下のいずれかの文献の方法に準じて行うことができる:
1: Direct Reprogramming of Fibroblasts into Functional Cardiomyocytesby Defined Factors; Masaki Ieda, Ji-Dong Fu, Paul Delgado-Olguin, Vasanth Vedantham, Yohei Hayashi, Benoit G. Bruneau, and Deepak Srivastava Cell 142: 375-386, 2010.
2: Direct conversion of fibroblasts to functional neurons by defined factors. Thomas Vierbuchen, Austin Ostermeier, Zhiping P. Pang, Yuko Kokubu, Thomas C. Sudhof& Marius Wernig. Nature 46
3: 1035-1041, 20103: Induction of human neuronal cells by defined transcription factors. Pang ZP, Yang N, Vierbuchen T, Ostermeier A, Fuentes DR, Yang TQ, Citri A, Sebastiano V, Marro S, Sudhof TC, Wernig M. Nature 476: 220-223, 2011.
4: Generation of hyaline cartilaginous tissue from mouse adult dermal fibroblast culture by defined factors Kunihiko Hiramatsu, Satoru Sasagawa, Hidetatsu Outani, Kanako Nakagawa, Hideki Yoshikawa, and Noriyuki Tsumaki, Journal of Clinical Investigation, 121: 640-657, 2011.
5: Induction of functional hepatocyte-like cells from mouse fibroblasts by defined factors. Pengyu Huang, Zhiying He, Shuyi Ji, Huawang Sun, Dao Xiang, Changcheng Liu, Yiping Hu, XinWang & Lijian Hui, . Nature 475:386-389, 2011.
6: Direct conversion of mouse fibroblasts to hepatocyte-like cells by defined factors. Sayaka Sekiya & Atsushi Suzuki. Nature 475:390-393, 2011.
7: Direct conversion of human fibroblasts into functional osteoblasts by defined factors. Yamamoto K, Kishida T, Sato Y, Nishioka K, Ejima A, Fujiwara H, Kubo T, Yamamoto T, Kanamura N & Mazda O. Proc Natl Acad Sci USA. 112:6152-6157, 2015.
8: Reprogrammed Functional Brown Adipocytes Ameliorate Insulin Resistance and Dyslipidemia in Diet-Induced Obesity and Type 2 Diabetes. Kishida T, Ejima A, Yamamoto K, Tanaka S, Yamamoto T, Mazda O. Stem Cell Reports. 5: 569-581, 2015.
9: Generation of directly converted human osteoblasts that are free of exogenous gene and xenogenic protein. Yamamoto K., Sato Y., Honjo K., Ichioka H., Oseko F., Sowa Y., Yamamoto T., Kanamura N., Kishida T., Mazda O. J Cell Biochem 117:2538-2545, 2016 .
10: 国際公開公報WO2014/010746号
上記の文献1~10の内容は本明細書に参考として援用される。
【0036】
具体的には、目的遺伝子を、1又は複数の発現ベクターに組み込み、対象とする体細胞に発現ベクターを導入し、細胞内で発現させることが好ましい。
【0037】
遺伝子を導入する方法としては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどのウイルス性ベクターを感染させる方法のほか、遺伝子とその発現産物の導入の場合には、カチオニック・リポソーム、カチオニック・ポリマー、電気穿孔法等の非ウイルスベクターで、プラスミドベクターやエピゾーマルベクター、遺伝子の発現産物(mRNA、タンパク質)をトランスフェクションする方法も用いることができる。また、mRNAを導入することもできる。これら遺伝子導入に用いる手段をすべて包括して、本明細書ではベクターと呼ぶ。
【0038】
導入効率と導入遺伝子の安定保持の観点からはウイルスベクターが好ましく、癌化のリクを抑えるためにはプラスミドが好ましい。
【0039】
また、目的の遺伝子とともに薬剤選択マーカーとなる遺伝子(ピューロマイシン耐性、ブラストサイジンS耐性、ネオマイシン耐性、ハイグロマイシン耐性など)を導入し、その後薬剤選択を行うことによって、目的遺伝子を発現する細胞を選択してから用いることができる。
【0040】
本発明の遺伝子の導入は、プラスミドで行ってもよく、ウイルスベクター、たとえばレトロウイルスベクターを用いてもよい。導入効率と導入遺伝子の安定保持の観点からはウイルスベクターが好ましく、癌化のリスクを抑えるためにはプラスミドが好ましい。
【0041】
体細胞に導入される遺伝子はLTRプロモーターにより転写させることもできるし、ベクター内部の別のプロモーターから発現させてもよい。例えばCMVプロモーター、EF-1αプロモーター、CAGプロモーターなどの構成的発現プロモーター、または所望の誘導性プロモーターを利用することができる。また、LTRの一部を他のプロモーターに置換したキメラプロモーターを利用してもよい。
【0042】
また、導入因子が遺伝子の発現産物(例えばタンパク質)の場合には、Protein Transduction Domain(PTD)と呼ばれるペプチドなどを発現産物である蛋白質に結合させ、培地に添加することにより、体細胞内に導入してもよい。
【0043】
培養
本発明の方法において、哺乳動物の分化した体細胞を、遺伝子の導入後、培地中で培養することができる。例えば、インビトロで骨格筋細胞を誘導(調製)する場合の好適な態様である。
【0044】
培養は、細胞及び培地を格納するための適切な容器中で行なうことができる。好適な培養を行なう手法として、約37℃程度および二酸化炭素濃度約5%程度の条件下で培養する手法が例示されるが、これに限定されるものではない。上記条件での培養は、例えば公知のCO2インキュベータを用いて行なうことができる。
【0045】
培養を行う期間は、本発明の効果を損なわない範囲で、特に限定されるものではない。例えば、12時間~1ヶ月程度、1日~3週間程度、3日間~2週間程度とすることができる。必要に応じて、培地交換を行うことができる。培養条件は、常法に準じることが好ましい。
【0046】
培養において、必要において継代を行うことができる。継代を行う場合は、コンフルエント状態に到達する前または直後に細胞を回収し、細胞を新しい培地に播種する。また、本発明の培養において、培地を適宜交換することもできる。
【0047】
培地
本発明の方法で用いる培地は、特に限定されない。DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)、EMEM(Eagle's minimal essential medium)、αMEM(alpha Modified Minimum Essential Medium)などの通常の液体培地を用いることができる。必要に応じて、血清成分(Fetal Bovine Serum(FBS)、Human Serum(HS))、ストレプトマイシン、ペニシリンなどの抗菌薬、Non-Essential Amino Acids(NEAA)等の成分を添加することができる。
【0048】
IGF-1などの成長因子を添加することもできる。
【0049】
本発明の方法により骨格筋細胞を調製できる効率が高いとの観点から、培地として骨格筋細胞を分化させるための分化誘導培地を用いることが好ましい。「骨格筋細胞を分化させるための分化誘導培地」とは、多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞など)を骨格筋細胞へと分化させることができる成分を含む培地を指す。
【0050】
骨格筋細胞を分化させるための分化誘導培地としては、特に限定されない。例えば、筋芽細胞分化用培地(IGF-1 10ng/ml、100U/mL Penicillinと100μg/ml Streptomycinを加えた1% Non-Essential Amino Acids(NEAA)、5%Horse Serum添加αMEM培地)が挙げられる。しかしこれらに限定されない。
【0051】
誘導(調製)
かくして、体細胞から骨格筋細胞が誘導される。
【0052】
誘導された骨格筋細胞は、ある態様においては、外来性のMyoDファミリー遺伝子及Mycファミリー遺伝子を有する。ここで、「外来性」とは、主に上記の導入手段の結果導入された遺伝子又はその発現産物の態様であって、天然の態様とは異なる態様を指す。例えば、天然のプロモーター以外のプロモーターに発現を制御される遺伝子、天然以外の染色体上の位置、若しくは、染色体外に存在する遺伝子の態様などが挙げられる。
【0053】
骨格筋細胞は、骨格筋細胞以外の細胞(例えば、元の体細胞。)との混合物として得られる場合がある。このような場合、骨格筋細胞と骨格筋細胞以外の細胞とを、必要に応じて、分離することができる。分離をするための手段は特に限定されない。例えば、セルソーターやマグネティックビーズを用いて分離することができる。
【0054】
本発明により誘導された骨格筋細胞は、例えば、後述の移植材料として好適に用いることができる。
【0055】
本発明により誘導された骨格筋細胞はまた、骨格筋細胞を用いたさまざまな研究や技術開発等に用いることができる。例えば、骨格筋の発生、分化、形態形成の機構、これらに対する力学的ストレス、栄養、ホルモンなどの影響の解析などの基礎研究に有用である。
【0056】
本発明により誘導された骨格筋細胞を用いれば、さまざまな疾患や遺伝的背景を有するヒトや動物から簡便、迅速、安価に骨格筋細胞を樹立できるので、疾患や遺伝的背景に関連した骨格筋細胞の異常を生化学的、分子生物学的、免疫学的等手法により解析することが可能であり、これにより疾患の発症機序の解明などの研究や診断法の開発に役立てることができる。またこのような骨格筋細胞を用いて、薬剤の開発、薬剤の毒性試験等を行えば、種々の疾患に対する新規治療法の開発に役立てることができる。
【0057】
移植材料
本発明により得られる骨格筋細胞は、種々の疾患を治療するために用いることができる。この場合、骨格筋細胞は移植材料の形態で提供されうる。
【0058】
移植材料とは、筋組織(特に、筋繊維)の修復、再建のために生体内に導入する、骨格筋を含有する材料をいう。本発明で得られた骨格筋細胞は、移植材料の作製に使用することができる。骨格筋細胞自体も移植材料になる。したがって、骨格筋細胞を細胞製剤として患者に移植することもできるし、人工材料からなる基材(スキャホルド(例えば、羊膜、生体適合ポリマーなど))とともに移植したり、スキャホルドとともに培養してから移植することができる。
【0059】
上記の治療する対象となる疾患としては、
外傷や損傷による筋損傷、サルコペニア、先天性横隔膜ヘルニア、臍帯ヘルニア、腹壁破裂、臍ヘルニア、腹部手術後の腹壁瘢痕ヘルニアなどの骨格筋細胞の欠損、不足に基づく疾患;
プルーンベリー症候群、ポーランド症候群、直腸肛門奇形(鎖肛)、鼠径ヘルニア、長期臥床後の廃用症候群などの骨格筋の機能低下に基づく疾患;
皮膚筋炎・多発筋炎、封入体筋炎、ウイルス感染に伴う筋炎、マイコプラズマ感染に伴う筋炎などの炎症性筋疾患;
糖原病II型(Pompe病)、糖原病III型、糖原病V型(McArdle病)、糖原病VII型(垂井病)などの代謝性筋疾患;
筋ジストロフィ、ミオパチー、重症筋無力症、先天性筋無力症候群、ミトコンドリア病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、その他の筋疾患
などが挙げられる。
【0060】
本明細書において、特に明示のない限り、「治療」という用語は、患者が特定の疾患又は障害を患っている間に行う処置を意図し、これによって疾患若しくは障害の重症度、又は1つ若しくは複数のその症状が軽減されるか、又は疾患若しくは障害の進行が遅延又は減速することを意味する。本明細書において、「治療」には「予防」を含むものとする。
【0061】
本発明で得られる骨格筋細胞はまた、疾患の治療に限らず、美容や機能増強の目的で用いることもできる。その際、ヒトに対する処置も、本明細書では便宜上治療と呼び、「患者」は「健常者」あるいは「ヒト」、「疾患」は「美容」若しくは「機能」と読み替えることができる。
【0062】
本発明はまた、ヒトだけでなく、イヌ、ネコ等の愛玩動物やウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ニワトリ等の家畜を含む哺乳動物の疾患の治療にも用いることが可能である。その場合、「患者」を「患畜」あるいは「哺乳動物」と読み替えることとする。
【0063】
組成物
前述するように、MyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物及びMycファミリー遺伝子もしくはその発現産物を体細胞に導入することにより、骨格筋細胞を誘導できる。従って、本発明は、さらに、MyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物及びMycファミリー遺伝子もしくはその発現産物を含む、骨格筋細胞を誘導するための組成物を提供する。当該骨格筋細胞を誘導するための組成物は、体細胞から骨格筋細胞を誘導するために使用される因子を含むものであり、MyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物及びMycファミリー遺伝子もしくはその発現産物が体細胞に導入可能な形態で含まれていることが望ましい。上記遺伝子が体細胞に導入可能な形態として、具体的には、上記遺伝子が組み込まれたベクターが例示される。ここで、上記遺伝子は、各々別のベクターに組み込まれていてもよく、1つのベクターに2種以上の遺伝子が同時に組み込まれていてもよい。
【0064】
使用することができるベクターの種類等については、前述の通りである。
【0065】
上記組成物は、例えば遺伝子治療における医薬(治療薬)として使用することができる。
【0066】
インビボ(in vivo)でのダイレクト・リプログラミング
骨格筋の欠損部位に存在する線維芽細胞などに、MyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物及びMycファミリー遺伝子もしくはその発現産物を導入することで、当該損傷部位において骨格筋細胞をダイレクト・リプログラミングによって誘導し、もって骨格筋損傷の治療や骨格筋の再生に寄与することができる。MyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物及びMycファミリー遺伝子もしくはその発現産物の導入においては、上記の本発明の組成物を好適に使用することができる。
【0067】
本発明の誘導方法は、インビトロ(in vitro)でのダイレクト・リプログラミングに加えて、上記のようなインビボ(in vivo)でのダイレクト・リプログラミングをも包含すると理解される。このようなインビボ(in vivo)でのダイレクト・リプログラミングにより、たとえば種々の疾患を治療するための遺伝子治療を行うことができる。疾患の具体例としては、上記に記載のものが挙げられる。
【0068】
インビボ(in vivo)でのダイレクト・リプログラミングは、骨格筋の損傷部の線維芽細胞に、MyoDファミリー遺伝子もしくはその発現産物及びMycファミリー遺伝子もしくはその発現産物を導入する以外は、例えば下記の文献に記載のインビボ(in vivo)での心筋細胞へのダイレクト・リプログラミングに準じて行うことができる。
1: Ieda M. Heart regeneration using reprogramming technology. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2013;89(3):118-28. Review.
2: Ieda M, Fu JD, Delgado-Olguin P, Vedantham V, Hayashi Y, Bruneau BG, Srivastava D. Direct reprogramming of fibroblasts into functional cardiomyocytes by defined factors. Cell. 2010 Aug 6;142(3):375-86.
3: Qian L, Huang Y, Spencer CI, Foley A, Vedantham V, Liu L, Conway SJ, Fu JD, Srivastava D. In vivo reprogramming of murine cardiac fibroblasts into induced cardiomyocytes. Nature. 2012 May 31;485(7400):593-8。
【0069】
上記の文献1~3の内容は本明細書に参考として援用される。
【実施例
【0070】
以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例だけに限定されるものではない。
【0071】
実施例中、HDFはヒト皮膚線維芽細胞(Human Dermal Fibroblast)を示す。
【0072】
実施例1(図1
図1に手法の概要を示す。レトロウイルスベクタープラスミドpMXs.puroに、MyoD1, L-Myc, c-Myc, Oct4, Klf4, 及びSOX2遺伝子のcDNAコーディング配列を、GeneArt Seamless Cloning & Assembly Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて組み込んだ。パッケージング細胞 Plat GP細胞を、100U/mL Penicillinと100μg/ml Streptomycinを加えた1% NEAA 、10% FBS添加 DMEM培地(通常培地)に縣濁し、ゼラチンコートした10cm培養ディシュに5×106 個播種した。
【0073】
24時間培養後、上記の遺伝子を組み込んだpMXsベクターを、種々の組み合わせで、pCMV VSVベクターと伴に、X-tremeGENE 9を用いて以下の比で導入した。
【0074】
すなわち導入遺伝子5μg、pCMV.VSV 2.5μg、Opti-MEM 500μl、X-tremeGENE 9 22.5μlの混和液を10mlの培地入りの10cmディッシュに添加した。
【0075】
24時間後、抗生剤を含まない通常培地に交換。同日に、ヒト正常皮膚線維芽細胞株であるaHDFを、2.2×106cells/mLで10cm培養ディッシュに播種した。
【0076】
24時間後、Plat GP培養上清を、ポアの直径が0.45μmのシリンジフィルターを通した後、ポリブレン(最終濃度4μg/mL)と混和した(ウイルス液)。
【0077】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(aHDF)の培養上清を吸引除去した後、ウイルス液を添加した(Day 0)。
【0078】
24時間培養して感染させた後、培養上清を吸引除去し、筋芽細胞分化用培地(IGF-1 10ng/ml、100U/mL Penicillinと100μg/ml Streptomycinを加えた1% NEAA、5%Horse Serum添加αMEM培地)を加えた。その後、培養液を2日に1回交換しDay14まで培養した。
【0079】
実施例2(図2
ヒト正常皮膚線維芽細胞から筋芽細胞へのコンバージョンにおける、Myogenin遺伝子およびCKM遺伝子のmRNA発現計測結果。
【0080】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(aHDF)を、12wellプレートに播種し、図1の手法に従い培養を行った。
【0081】
ヒトMyoD1遺伝子、ヒトOct4遺伝子、ヒトSox2遺伝子、ヒトKlf遺伝子、ヒトL-Myc遺伝子、ヒトc-Myc遺伝子を記載の組み合わせで導入した。
【0082】
遺伝子導入14日後にtotal RNAを回収し、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。Myogenin遺伝子、CKM遺伝子とβアクチン遺伝子のmRNAレベルを定量する目的で、Real-time PCR Master Mix、Taqman pobe、Specific PrimerおよびcDNAを混和し、AB7300 Real-time PCR sysytemを用いてReal-time RT-PCRを行った。各細胞のβアクチンmRNAレベルに対するMyogenin mRNAおよびCKM mRNAレベルの値を計算した。
【0083】
結果を図2に示す。MyoD1とL-Myc, の2つの遺伝子を導入した細胞は、controlと比較し、遺伝子レベルにおいて骨格筋細胞特異的マーカーであるMyogenin遺伝子、CKM遺伝子をもっとも強力な発現を認めた。またヒトMyoD1遺伝子、ヒトL-Myc遺伝子の両方の遺伝子を導入した群のみ、プライマリーのヒト骨格筋細胞(pSKM)と同等の発現を示した。
【0084】
実施例3 (図3)
12wellプレートで細胞培養し、骨格筋細胞特異的マーカー(Myogenin, CKM、Dystrophin)の発現を蛍光免染で確認した。
ヒト正常皮膚線維芽細胞aHDFを、12wellプレートに培養し、図1のように実験した。遺伝子導入14日後に、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBS(-)にて3回洗浄した後、Blocking Oneを加えて、室温で60分間インキュベートした。
【0085】
一次抗体(抗CKM抗体、抗Dystrophin抗体、抗Myogenin抗体)を4℃ over nightで反応させた後、Wash bufferにて3回洗浄した。二次抗体(Alexa 488-conjugated anti-rabbit IgG抗体、Alexa 546-conjugated anti-mouse IgG抗体)を室温で1時間反応させた後、Wash bufferにて3回washし、ライフテクノロジー社製のSlowFadeGold anti fade reagent with DAPIを用いて核染色を行った。蛍光顕微鏡(Keyence BZ710)を用いて撮像した。
【0086】
結果を図3-1、3-2、3-3に示す。MyoD1のみを導入した細胞よりも、MyoD1とLMycを導入した細胞がCKM、DMD、Myogeninはより強く陽性となった。
【0087】
また、MyoD1とLMycを導入した細胞はプライマリーのヒト筋芽細胞よりもCKM,DMD,Myogeninにおいてより強く染まった。
【0088】
実施例4 (図4)
12wellプレートで細胞培養し、多核の筋管細胞の出現を観察した。
ヒト正常皮膚線維芽細胞aHDFを、12wellプレートに培養し、図1の手法に従い培養を行った。遺伝子導入14日後、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBS(-)にて3回洗浄し、ライフテクノロジー社製のSlowFadeGold anti fade reagent with DAPIを用いて核染色を行った。蛍光顕微鏡(Keyence BZ710)を用いて撮像した。MyoD1とL-Mycを共導入した群では、多核の筋管細胞が高頻度に観察された。L-Myc またはc-Myc遺伝子をMyoD1遺伝子と共導入すると、細胞融合が亢進することがわかる。
【0089】
実施例5 (図5)
12wellプレートで細胞培養し、多核の筋管細胞の出現を評価した。
【0090】
ヒト正常皮膚線維芽細胞aHDFを、12wellプレートに培養し、図1の手法に従い培養を行った。遺伝子導入14日後、各wellから培養液を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBS(-)にて3回洗浄し、ライフテクノロジー社製のSlowFadeGold anti fade reagent with DAPIを用いて核染色を行った。位相差顕微鏡で観察し、細胞と核をカウントした。
【0091】
結果を図5に示す。MyoD1とL-Mycを導入した群では、3個より多く(4個以上の)核を有する筋管細胞が高頻度に出現した。
【0092】
実施例6(図6
ヒト正常皮膚線維芽細胞から筋芽細胞へのコンバージョン、Myogenin遺伝子、CKM遺伝子、MHC3遺伝子のmRNA発現計測結果。
【0093】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(aHDF)を、12wellプレートに培養し、図1と同様の手法より培養を行った。
【0094】
ヒトMyoD1遺伝子、ヒトL-Myc遺伝子、を単独あるいは、2遺伝子同時に導入し14日後にtotal RNAを回収し、Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。Myogenin遺伝子、CKM遺伝子、MHC3遺伝子とβアクチン遺伝子のmRNAレベルを定量する目的で、Real-time PCR Master Mix、Taqman pobe、Specific PrimerおよびcDNAを混和し、AB7300 Real-time PCR sysytemを用いてReal-time RT-PCRを行った。各細胞のβアクチンmRNAレベルに対するMyogenin mRNAおよびCKM mRNAレベルの値を計算した。
【0095】
結果を図6に示す。MyoD1とL-Myc, の2つの遺伝子を導入した細胞は、controlと比較し、遺伝子レベルにおいて骨格筋細胞特異的マーカーであるMyogenin遺伝子、CKM遺伝子、MHC3遺伝子を、プライマリーの骨格筋細胞(pSKM)と同等の強力な発現していた。
【0096】
実施例7(図7
ヒト正常皮膚線維芽細胞から筋芽細胞へのコンバージョン、DMD遺伝子のmRNA発現の経時的計測結果。
【0097】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(aHDF)を、12wellプレートに培養し、図1と同様の手法より培養を行った。
【0098】
ヒトMyoD1遺伝子とヒトL-Myc遺伝子を共導入し、導入後0、2、4、6、8、10、12、および14日目にtotal RNAを回収した。Rever Tra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。DMD遺伝子とβアクチン遺伝子のmRNAレベルを定量する目的で、Real-time PCR Master Mix、Taqman pobe、Specific PrimerおよびcDNAを混和し、AB7300 Real-time PCR sysytemを用いてReal-time RT-PCRを行った。各細胞のβアクチンmRNAレベルに対するDMD mRNAレベルの値を計算した。
【0099】
結果を図7に示す。MyoD1とL-Mycの2つの遺伝子を導入した細胞は、骨格筋細胞の機能発現に必須のタンパクであるDMDの遺伝子の発現が経時的に強くなり、14日目には、プライマリーの骨格筋細胞(pSKM)と同等の発現を示した。
【0100】
実施例8(図8
MyoD1とL-Mycを導入した細胞を7日間培養しマウスの腹部皮下に注入移植し、摘出標本から切片を作製し免疫染色を施行した。
【0101】
図8に手法の概要を示す。レトロウイルスベクタープラスミドpMXs.puroに、MyoD1、L-Myc遺伝子のcDNAコーディング配列を、GeneArt Seamless Cloning & Assembly Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて組み込んだ。パッケージング細胞 Plat GP細胞を、100U/mL Penicillinと100μg/ml Streptomycinを含んだ1% NEAA 10% FBS DMEM(通常培地)に縣濁し、ゼラチンコートした10cm培養ディシュに5×106 個播種した。
【0102】
24時間培養後、上記の遺伝子を含むpMXsベクターを、種々の組み合わせで、pCMV VSVベクターと伴に、X-tremeGENE 9を用いて以下の比で導入した。
【0103】
すなわち導入遺伝子5μg、pCMV.VSV 2.5μg、Opti-MEM 500μl、X-tremeGENE 9 22.5μlの混和液を10mlの培地入りの10cmディッシュに添加した。
【0104】
24時間後、抗生剤を含まない通常培地に交換。同日に、ヒト正常皮膚線維芽細胞株aHDFを、2.2×106cells/mLで10cm培養ディッシュに播種した。
【0105】
24時間後、Plat GP培養上清を、ポアの直径が0.45μmのシリンジフィルターを通した後、ポリブレン(最終濃度4μg/mL)と混和した(ウイルス液)。
【0106】
aHDFの培養上清を吸引除去した後、ウイルス液を添加した(Day 0)。
【0107】
24時間培養して感染させた後、培養上清を吸引除去し、筋芽細胞分化用培地(IGF-1 10ng/ml、100U/mL Penicillinと100μg/ml Streptomycinを加えた1% NEAA、5%Horse Serum添加αMEM培地)を加えた。その後、培養液を2日に1回交換しDay7まで培養した。
【0108】
Day7にAccutaseを用いてディッシュから細胞を剥がし、3x105個ずつ氷上で100μLのマトリゲル(CORNING REF354234)原液に溶解した。
【0109】
NOD/SCIDマウスの右側上腹部皮下にマトリゲルに混濁した細胞液を注入移植した。コントロールのマウスには、aHDFを3x105個ずつ氷上で100μLのマトリゲル(CORNING REF354234)原液に溶解した細胞を注入移植した。注入移植1週間後、マウスを安楽死させ、上腹部皮下を剥離し、皮下の移植組織を皮膚ごと摘出した。
【0110】
移植1週間後の移植部位と摘出した組織のmacroscopic imagesを図8Bに示す。MyoD1とL-Myc遺伝子を導入した細胞の移植部位には線維性の結節様組織が認められた。
【0111】
実施例9(図9
実施例8で摘出した組織を、4%パラホルムアルデヒドで24時間固定した。その後、24時間かけてパラフィン包埋し、パラフィンブロックを作成した。
【0112】
パラフィン固定したマウス皮下組織標本から3μmの厚みの薄切切片を作製した。切片を60°C で15分インキュベートした後キシレンに5分浸漬し、これを3回繰り返した。さらに100%エタノールに3分浸漬し、これを3回繰り返した。その後脱パラフィンし、蒸留水で5分間洗浄した。
【0113】
次に切片を覆うようにBLOXALLを滴下し、10分間室温で静置した。
【0114】
PBSで5分洗浄し、切片を覆うように2.5%ウマ血清を滴下し、20分室温間で静置した。
【0115】
ペーパータオルの上でスライドを軽く打ち付けて血清を除去した。一次抗体抗として、Desmin抗体、抗CKM抗体、抗Dystrophin抗体、抗ACTA抗体、または抗Myogenin抗体を、切片を覆うように滴下した。30分間室温で静置し、PBSで5分洗浄した。ペーパータオルの上でスライドを軽く打ち付けてPBSを除去した。
【0116】
切片を覆うようにImmPRESS試薬を滴下し、30分間静置し、PBSによる5分間の洗浄を2回行い、ペーパータオルの上でスライドを軽く打ち付けてPBSを除去した。
【0117】
ImmPACT DAB Diluent 1mlを入れ、ImmPACT DAB Chromogen Concentrateを1滴加えてボルテックスでよく混ぜた。切片を覆うように酵素基質溶液を滴下し、30秒から1分間静置したのち、蒸留水で5分間洗浄した。
【0118】
蒸留水でさらに5分間2回洗浄し、ヘマトキシリン液で5分間、核染色を行った。流水で5分間洗浄し、50°Cのウォーターバスに2分間浸した後、流水洗浄を2分間行った。100%エタノールへの3分間の浸漬を3回行い、キシレンへの5分間の浸漬を3回行って脱水した後、切片を覆うように封入剤を滴下し、カバーガラスで覆った。
【0119】
組織の観察はKeyence BZ710にて明視野で行った。
【0120】
結果を図9に示す。
【0121】
線維芽細胞を移植した組織では、皮下組織内に筋繊維様の構造は認められず、多核の細胞は認められず、Desmin陽性の細胞も認められなかった(図9-1)。一方、MyoD1とL-Mycを導入した細胞を移植した組織では、皮下組織内に筋繊維様の構造が認められ、その中にはDesmin陽性、CKM陽性、ACTA陽性の多核の細胞を多数確認できた(図9-2)。これらの結果から、MyoD1とL-Myc 遺伝子で誘導した細胞を移植すると生体内で生着し、筋繊維様の組織を形成することが確認できた。
【0122】
実施例10
実施例8及び9と同様に、遺伝子導入をしなかったヒト線維芽細胞(aHDFs)またはMyoD1遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターとL-Myc遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターとの両方を感染させた後7日間培養した細胞(dMBs(directly converted myoblasts))を、マトリゲル(BD Bioscience, San Jose, CA)と体積比1:1 で混合し、NOG/SCIDマウスの側腹部に移植した(細胞数は3~5x105個/マウス)。7日後に移植部位の組織を摘出し、実施例9と同様に、4% paraformaldehyde で8 h 固定後paraffinで包埋し、薄切した。抗デスミン抗体を用いた免疫組織化学を行い、蛍光顕微鏡(Keyence BZ710)を用いて400倍の倍率で観察し、1視野あたりのデスミン陽性細胞のパーセンテージを算出した。
【0123】
結果を図10に示す。ML導入細胞を移植した群(dMBs(directly converted myoblasts))において、デスミン陽性細胞が有意に多数移植部位の組織に存在したことがわかる。値は平均値±標準偏差。各群N=3 mice。*P<0.05 vs. 非導入細胞移植群。
【0124】
実施例11
実施例1と同様に、ヒト線維芽細胞に、MyoD1遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターを感染させた(M)。また別の細胞に、L-Myc遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクター(L)とMyoD1遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクター(M)との両方を感染させた(ML)。コントロールとしてレトロウイルス・ベクターを感染させない細胞も準備した(-)。これらを実施例1と同様に、筋芽細胞分化用培地で培養した。感染14日後に、実施例3と同様に、抗CKM抗体を用いた免疫蛍光染色と核染色を行った。蛍光顕微鏡(Keyence BZ710)を用いて撮像し、総細胞数に対するCKM陽性細胞のパーセンテージを計測した。
結果を図11に示す。MyoD1遺伝子を単独導入した細胞は、約26%がCKM陽性であったが、MyoD1遺伝子とL-Myc遺伝子とを共導入した細胞は、約90%がCKM陽性であった。したがって、MyoD1とL-Myc遺伝子を共導入するとヒト線維芽細胞の約90%が筋芽細胞にコンヴァートすることが分かった。値は平均値±標準偏差。N=3ウェル/群。*P<0.05 vs. 非導入細胞。
【0125】
実施例12
実施例1と同様に、ヒト線維芽細胞に、MyoD1遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクター(M)、L-Myc遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクター(L)、c-Myc遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクター(C)を、記載の組み合わせで感染させた。コントロールとしてレトロウイルス・ベクターを感染させない細胞も準備した(-)。これらを実施例1と同様に、筋芽細胞分化用培地で培養した。感染14日後に、実施例3と同様に核染色を行った。蛍光顕微鏡(Keyence BZ710)を用いて撮像した(図12A)。また、3個よりも多くの核を有する細胞のパーセンテージを計測した(図12B)。
【0126】
MyoD1遺伝子を単独導入した細胞は、約6%が3個よりも多くの核を有する細胞であったが、MyoD1遺伝子とL-Myc遺伝子とを共導入した細胞は、約43%が3個よりも多くの核を有する細胞であった。MyoD1遺伝子とc-Myc遺伝子とを共導入した細胞は、約27%が3個よりも多くの核を有する細胞であった。したがって、MyoD1遺伝子とL-Myc遺伝子とを共導入した細胞はもっとも高い効率で多核の細胞になることが分かった。図12Bの値は平均値±標準偏差。各群N=3ウェル。*P<0.05 vs. 非導入細胞。
【0127】
実施例13
実施例12と同様に、ヒト線維芽細胞に、MyoD1遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターとL-Myc遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターとの両方を感染させた(ML)。コントロールとしてレトロウイルス・ベクターを感染させない細胞も準備した(-)。一部の群ではERK5パスウェイ阻害剤、XMD8-92 を記載の濃度で添加した。これらを実施例12と同様に、筋芽細胞分化用培地で培養した。感染14日後に、実施例3と同様に核染色を行った。蛍光顕微鏡(Keyence BZ710)を用いて撮像したイメージを示す(図13A上段)。また、4個以上の核を有する細胞、2~3個の核を有する細胞、1個の核を有する細胞のパーセンテージを算出した(図13A下段)。
【0128】
遺伝子導入しなかった線維芽細胞はすべて単核の細胞であったが、MLを感染させた細胞は約40%が4個以上の核を有する細胞であり、約16%が2~3個の核を有する細胞であった。しかしERK5阻害剤であるXMD8-92を2~5 μM添加することで、4個以上の核を有する細胞は約10~12%に低下し、2~3個の核を有する細胞は約21~23%になった。
【0129】
また、感染14日後に細胞からRNAを抽出した。コントロールとして、プライマリーのヒト骨格筋細胞(pSKMs (primary skeletal muscle cells) )からもRNAを抽出した。Real time RT-PCRにより、Myogenin、CKM、DystrophinのmRNAを定量した。結果を図13Bに示す。ML遺伝子導入によるこれらの筋芽細胞特異的遺伝子の発現誘導は、XMD8-92 の添加によって抑制されなかった。したがって、ERK5パスウェイ阻害による多核化の抑制は、筋芽細胞へのコンヴァージョンの抑制ではないことが分かった。
【0130】
これらの結果から、MyoD1遺伝子とL-Myc遺伝子とを共導入した細胞の多核化は、ERK5パスウェイ依存性の細胞融合によるものであることが分かった。
【0131】
実施例14
実施例8、9と同様の実験後、移植部位の組織切片を、実施例10と同様の方法で、抗CKM抗体と抗αアクチン抗体をそれぞれ用いた免疫組織化学に供した。
【0132】
結果を図14に示す。MyoD1遺伝子とL-Myc遺伝子とを導入した細胞(dMBs(directly converted myoblasts))を移植した群において、CKM及びαアクチンが陽性の筋繊維様の組織が移植部位に多数形成されたことがわかる。
【0133】
実施例15
実施例1と同様に、ヒト線維芽細胞に、MyoD1遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターとL-Myc遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターとの両方を感染させた後、筋芽細胞分化用培地で10日間培養した(ML)。コントロールとして遺伝子導入しないヒト線維芽細胞も用いた(-)。褐色脂肪細胞マーカーであるUCP1遺伝子とCIDEA遺伝子、軟骨細胞マーカーであるSOX9遺伝子とアグリカン遺伝子、骨芽細胞マーカーであるRunx2遺伝子とオステオカルシン遺伝子について、それぞれのmRNA発現をreal time RT-PCRで計測した。
【0134】
結果を図15に示す。MyoD1遺伝子とL-Myc遺伝子とを導入した細胞(ML導入細胞)は、これらの間葉系の細胞のマーカーをいずれも有意に発現上昇しないことがわかる。値は平均値±標準偏差。各群N=3群。*P<0.05 vs. 非導入細胞。
【0135】
実施例16
実施例1と同様に、ヒト線維芽細胞に、MyoD1遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクター(M)、L-Mycを組み込んだレトロウイルス・ベクター(L)、及びc-Mycを組み込んだレトロウイルス・ベクター(C)を、図に記載のとおりにM単独、MC及びMLの組み合わせで感染させた。コントロールとしてレトロウイルス・ベクターを感染させない細胞も準備した(-)。これらを実施例1と同様に、筋芽細胞分化用培地で培養した。感染後14日後に、200 nM のMitoTracker Red probe (Invitrogen) で37℃で15分間染色した。蛍光顕微鏡(Keyence BZ710)を用いて撮像した。
【0136】
結果を図16に示す。上の写真は位相差像、下の写真は蛍光像である。遺伝子導入しないヒト線維芽細胞やMyoD1遺伝子を単独導入した細胞に比して、MCを共導入させた細胞は、多くのミトコンドリアを有しており、MLを共導入した細胞はさらに多くのミトコンドリアを有していた。
【0137】
実施例17
ヒト線維芽細胞に、MyoD1遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターとL-Myc遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターとの両方を感染させた後、6日間培養した(ML)。コントロールとして遺伝子導入しないヒト線維芽細胞も用いた(-)。抗デスミン抗体または抗CKM抗体による免疫染色と、DAPIによる核染色を記載のように行った。
【0138】
結果を図17に示す。上の写真は位相差像、下の写真は蛍光像である。遺伝子導入後6日間という比較的短期の培養の後でも、ML導入細胞は筋芽細胞特異的遺伝子DesminとCKMを発現することがわかる。
【0139】
実施例18
実施例1と同様に、ヒト線維芽細胞に、MyoD1遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターを感染させた。(M)、またL-Myc遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクター(L)とMyoD1遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターとの両方を感染させた(ML)。これらを筋芽細胞分化用培地で培養し、感染後14日目に各細胞からRNAを抽出した。コントロールとして、レトロウイルス・ベクターを感染させない細胞(-)とプライマリーのヒト骨格筋細胞(pSKMS)からもRNAを抽出した。これらのRNAを、GeneChip human Gene 1.0 ST (Affymetrix)を用いたDNAマイクロアレイ解析に供した。
【0140】
骨格筋の発生に関与する遺伝子群(図18A)、骨格筋の収縮に関与する遺伝子群(図18B)、ミオシンフィラメントに関する遺伝子群(図18C)、及びアクチンフィラメントに関する遺伝子群(図18D)のそれぞれのヒートマップとクラスタリング解析の結果を示す。骨格筋に関するこれらの遺伝子群の発現はいずれも、ML導入細胞はpSKMSとの相同性が最も高く、線維芽細胞との相同性は低かった。M単独導入細胞は、pSKMSよりも線維芽細胞との相同性の方が高かった。
【0141】
実施例19
実施例1と同様に、ヒト線維芽細胞に、MyoD1遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターとL-Mycを遺伝子を組み込んだレトロウイルス・ベクターの両方を感染させ(ML)、筋芽細胞分化用培地で培養した。感染後2日おきにrBC2LCN-FITC (Wako 180-02991) で染色し、また細胞核をHoechst33342で染色した。コントロールとして、レトロウイルス・ベクター感染前の細胞(一番左)も同様に染色した。陽性コントロールとして、ヒトiPS細胞(hiPS235G1)も同様に染色した。これらの細胞を、蛍光顕微鏡(Keyence BZ710)を用いて撮像した。
【0142】
結果を図19に示す。上の写真は位相差像、下の写真は蛍光像である。線維芽細胞はMLを感染させてもrBC2LCN-FITCでは染色されないことから、ML遺伝子導入による線維芽細胞から筋芽細胞へのコンヴァージョンにおいては、その途上でiPS細胞様の幹細胞を経由しないことがわかる。
【0143】
実施例20
MyoD1遺伝子とL-Myc遺伝子とをそれぞれプラスミド・ベクターpCXに導入し、発現ベクターを構築した。ヒト線維芽細胞(HDFs)に、MyoD1プラスミドのみ、またはMyoD1プラスミドとL-Mycプラスミドの両方を、electroporationで導入し、筋芽細胞分化用培地中で14日間培養した。これらの細胞、およびコントロールとして遺伝子導入しなかった線維芽細胞(HDF)からRNAを抽出し、Myogenin遺伝子とCKM遺伝子のmRNAをreal time RT-PCRで定量した。結果を図19に示す。
【0144】
MyoD1遺伝子単独導入細胞に比して、MyoD1とL-Myc遺伝子を共導入した細胞は、MyogeninとCKM遺伝子をより強く発現していた。したがって、プラスミド・ベクターを用いたトランスフェクションによっても、MyoD1+L-Myc遺伝子導入は線維芽細胞から筋芽細胞へのコンヴァージョンを誘導できることが示された。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図18D
図19
図20