(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】認知障害を治療または予防するためのヒト化抗体、その製造プロセス、及びそれを用いた認知障害を治療または予防するための薬剤
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20221028BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20221028BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221028BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221028BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221028BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221028BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221028BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20221028BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221028BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221028BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221028BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/18 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P25/28
A61P25/00
A61P25/16
(21)【出願番号】P 2019545918
(86)(22)【出願日】2018-02-27
(86)【国際出願番号】 IB2018000249
(87)【国際公開番号】W WO2018154390
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2017035594
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519300231
【氏名又は名称】メルク シャープ アンド ドーメ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】江口 広志
(72)【発明者】
【氏名】村上 隆
(72)【発明者】
【氏名】並木 直子
(72)【発明者】
【氏名】田野倉 章
(72)【発明者】
【氏名】ジャンヌ イー. ベイカー
(72)【発明者】
【氏名】ソフィー パルメンティエル バッテウル
(72)【発明者】
【氏名】アンジェラ マリー ジャブロンスキ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ステファン マラショック
(72)【発明者】
【氏名】カール ミエクズコウスキ
(72)【発明者】
【氏名】ゴパラン ラグフ ラグフナサン
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/180238(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号116及び配列番号117から選択される重鎖可変ドメイン;
ならびに
b)配列番号114、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号112、配列番号113及び配列番号103から選択される軽鎖可変ドメイン、を含む抗pSer413タウ抗体。
【請求項2】
a)配列番号116及び配列番号117から選択される重鎖可変ドメイン;
ならびに
b)配列番号114、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号112、配列番号113及び配列番号103から選択される軽鎖可変ドメインを含む抗pSer413タウ抗体であって、配列番号8のリン酸化ペプチドへの前記抗体の結合親和性の、配列番号69の非リン酸化ペプチドへの前記抗体の結合親和性に対する比が少なくとも約40である、前記抗pSer413タウ抗体。
【請求項3】
前記抗体が、配列番号135、配列番号136、配列番号137、配列番号138、配列番号139、配列番号140、配列番号141、配列番号142及び配列番号143から選択される重鎖定常ドメインを含む、請求項1又は2に記載の抗pSer413タウ抗体。
【請求項4】
前記抗体が、配列番号79及び配列番号80から選択される軽鎖定常ドメインを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体。
【請求項5】
前記
軽鎖可変ドメインが配列番号114を有し、前記
重鎖可変ドメインが配列番号116を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体。
【請求項6】
前記抗体の軽鎖が配列番号184を有し、前記抗体の重鎖が配列番号144を有する、請求項5に記載の抗pSer413タウ抗体。
【請求項7】
前記
抗体の軽鎖が配列番号184を有し、前記抗体の重鎖が配列番号152を有する、請求項5に記載の抗pSer413タウ抗体。
【請求項8】
前記重鎖及び前記軽鎖が、LC配列番号184及びHC配列番号144;LC配列番号184及びHC配列番号145;LC配列番号184及びHC配列番号146;LC配列番号184及びHC配列番号147;LC配列番号184及びHC配列番号148;LC配列番号184及びHC配列番号149;LC配列番号184及びHC配列番号150;LC配列番号184及びHC配列番号151;LC配列番号184及びHC配列番号152;LC配列番号184及びHC配列番号153;LC配列番号184及びHC配列番号154;LC配列番号184及びHC配列番号155;LC配列番号184及びHC配列番号156;LC配列番号184及びHC配列番号157;LC配列番号184及びHC配列番号158;LC配列番号184及びHC配列番号159;LC配列番号184及びHC配列番号160;LC配列番号184及びHC配列番号161;LC配列番号185及びHC配列番号144;LC配列番号185及びHC配列番号145;LC配列番号185及びHC配列番号146;LC配列番号185及びHC配列番号147;LC配列番号185及びHC配列番号148;LC配列番号185及びHC配列番号149;LC配列番号185及びHC配列番号150;LC配列番号185及びHC配列番号151;LC配列番号185及びHC配列番号152;LC配列番号185及びHC配列番号153;LC配列番号185及びHC配列番号154;LC配列番号185及びHC配列番号155;LC配列番号185及びHC配列番号156;LC配列番号185及びHC配列番号157;LC配列番号185及びHC配列番号158;LC配列番号185及びHC配列番号159;LC配列番号185及びHC配列番号160、ならびにLC配列番号185及びHC配列番号161のペアから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体。
【請求項9】
a)配列番号162、配列番号163、配列番号164、配列番号165、配列番号166、配列番号167、配列番号168、配列番号169、配列番号170、配列番号171、配列番号172、配列番号173、配列番号174、配列番号175、配列番号176、配列番号177、配列番号178、配列番号179、配列番号180、配列番号181、配列番号182、配列番号183、配列番号184、及び配列番号185から選択される軽鎖をコードする第1の核酸;ならびに
b)配列番号144、配列番号145;配列番号146;配列番号147;配列番号148;配列番号149;配列番号150;配列番号151;配列番号152;配列番号153;配列番号154;配列番号155;配列番号156;配列番号157;配列番号158;配列番号159;配列番号160及び配列番号161から選択される重鎖をコードする第2の核酸を含む、核酸組成物。
【請求項10】
前記第1の核酸が第1の発現ベクターに含まれ、前記第2の核酸が第2の発現ベクターに含まれる、請求項9に記載の核酸組成物を含む発現ベクター組成物。
【請求項11】
前記第1の核酸及び前記第2の核酸が発現ベクターに含まれる、請求項9に記載の核酸組成物を含む発現ベクター組成物。
【請求項12】
請求項10または11に記載の発現ベクター組成物を含む宿主細胞。
【請求項13】
前記抗体を発現さ
せる条件下で請求項12に記載の宿主細胞を培養すること
、及び前記抗体を回収することを含む、抗pSer413タウ抗体の作製方法。
【請求項14】
対象におけるタウオパチーを治療するための医薬組成物であって、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体を含む、前記医薬組成物。
【請求項15】
前記タウオパチーが、アルツハイマー病、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、ピック病、嗜銀顆粒性認知症(嗜銀顆粒病)、初老期の認知症を伴う多系統タウオパチー(MSTD)、第17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTDP-17)、神経原線維変化認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)、球状グリア封入体を伴う白質タウオパチー(WMT-GGI)、タウ病理学を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-タウ)、嗜眠性脳炎後遺症、亜急性硬化性全脳炎、及びボクサー病からなる群から選択される、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
対象のタウオパチーを治療するための医薬の製造における、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体の使用。
【請求項17】
前記タウオパチーが、アルツハイマー病、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、ピック病、嗜銀顆粒性認知症(嗜銀顆粒病)、初老期の認知症を伴う多系統タウオパチー(MSTD)、第17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTDP-17)、神経原線維変化認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)、球状グリア封入体を伴う白質タウオパチー(WMT-GGI)、タウ病理学を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-タウ)、嗜眠性脳炎後遺症、亜急性硬化性全脳炎、及びボクサー病からなる群から選択される、請求項16記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.関連出願の相互参照
本出願は、2017年2月27日に出願された日本出願特願2017-035594の利益を主張し、その内容の全体を参照により本明細書に明示的に援用する。
【0002】
II.配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を含み、その全体を参照により本明細書に援用する。2018年2月27日に作成された前記ASCIIコピーは、名称が063785-06-5002-WO-SeqLstg-_ST25.txtであり、サイズが323,584バイトである。
【0003】
III.技術分野
本開示は、認知障害の治療的または予防的処置において使用するためのヒト化抗体、そのヒト化抗体の製造プロセス、その抗体を使用する認知障害治療薬または予防薬、ならびに本明細書に開示する治療薬を用いた認知障害の治療方法または予防方法に関する。より詳細には、本開示は、認知機能の改善に優れた効果を有する新規ヒト化抗リン酸化タウ抗体、そのヒト化抗体の製造プロセス、そのヒト化抗体を含有する認知障害治療薬もしくは予防薬、およびヒト化抗リン酸化タウ抗体を用いた認知障害の治療方法または予防方法に関する。
【背景技術】
【0004】
IV.発明の背景
認知障害、すなわち認知症は、発達した知能が何らかの後天的原因により悪化し、その結果、社会的適応に支障をきたす病態である。認知障害は、神経変性疾患、血管性認知疾患、プリオン病、感染症、代謝性/内分泌疾患、精神的外傷及び脳外科疾患、中毒性疾患に分類される(Toshifumi Kishimoto & Shigeki Takahashi(Edit.),“STEP Series Seishinka”(Japanese document),2th Edition,Kaibashobo,2008,pp.103-104参照)。2010年の時点で日本には約210万人の認知症患者がおり、罹患率は約8~10%、または65歳超の高齢者の間で10%超である。このことは、世界的な高齢化社会における深刻な問題として認識されている(Takashi Asada,“Igaku no Ayumi”(Japanese document),supplementary volume,“Cognitive disorders”,Ishiyaku Publishing,2011,pp.5-10)。認知障害の基礎疾患に関するデータは、大多数がアルツハイマー病(AD)及び前頭側頭葉変性症(FTLD)などの神経変性疾患であり、約35%がADであり、約15%がADと脳血管疾患の併発であり、5%がFTLD(同上)であることを示す。神経変性疾患に関連する認知障害は、少なくとも6ヶ月以上の期間にわたって進行する記憶障害及び/または人格の変化の潜行性の発症を特徴とする。神経変性プロセスは、認知機能の障害の程度と高度に相関し、そしてそれに含まれる一貫した特徴は、神経原線維変化(NFT)の存在である(Alistair Burns et al.(Edit.),Dementia,3rd Edition,2005,CRC Press,pp.408-464)。
【0005】
タウタンパク質は、ヒトゲノムの第17染色体(17q21)に位置するMAPT遺伝子によってコードされるタンパク質である。タウタンパク質は、中枢神経系において豊富に発現する微小管結合タンパク質の1つである。タウは、最も顕著な神経変性疾患の1つであるADにおいてNFTを形成する対らせん状細線維及び直線状細線維における主要構成タンパク質であることが見出されており、様々な神経病理学的病態においてその細胞内蓄積が示されている。
【0006】
タウは、当初、MAPT遺伝子における突然変異と、第17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う家族性前頭側頭型認知症(FTDP-17)におけるタウの蓄積との間の関連性に基づいて、神経変性疾患に関係付けられた。FTDP-17に関してMAPT遺伝子に40を超える遺伝子変異が報告されている(Tetsuaki Arai,“Shinkei Naika”(Japanese document),Vol.72,special number,(Suppl.6),2010,pp.46-51)。これらの遺伝子変異は、タウアイソフォームの割合を変化させ、または構造を変化させ、及び変異タウと微小管との間の相互作用を変化させ、したがって病理の発達に寄与するものとして示唆される。しかしながら、家族性神経変性疾患とは異なり、MAPTの変異はADなどの散発性神経変性疾患ではめったに観察されることはない。さらに、神経変性疾患において蓄積するタウは、リン酸化を介して高度に修飾されていることを特徴とする。さらに、軽度認知障害(MCI)を示す患者では、脊髄液中のリン酸化タウのレベルと下垂体萎縮の程度との間に相関が観察され、このことはリン酸化タウがタウオパチー患者における神経変性の信頼性の高いバイオマーカーであることを示唆している(Wendy Noble et al.,Expert Opinion on Drug Discovery,2011,Vol.6,No.8,pp.797-810)。これらの知見に基づいて、タウの過剰なリン酸化を阻害するために、リン酸化に関与する酵素であるキナーゼに対する阻害剤、特にGSK-3βに対する阻害剤を使用する治療法を開発する試みがなされてきた(同上)。しかしながら、GSK-3βのようなキナーゼは、病的状態だけでなく正常な生理学的プロセスにおける機能制御にも関与しているため、起こり得る副作用についての懸念がある。実際、タウがGSK-3βによってリン酸化される部位のいくつかは、胎児及び正常なヒトの脳において認められるタウリン酸化の部位と一致しており(Burnesら、前出)、この戦略が正常なタウ機能に影響を及ぼし得る可能性を示唆している。
【0007】
細胞外タウは細胞死の結果としての変性神経細胞からの漏出に由来すると考えられていたが、最近の研究により、過剰な細胞内リン酸化の後にタウが処理され、次いで活発に細胞外に分泌されることが示唆されている。細胞から分泌されたリン酸化タウは、特定のリン酸化部位で脱リン酸化され、続いて周囲の細胞のムスカリン受容体M1及びM3に作用し、細胞内タウリン酸化の促進及び細胞死への寄与などの様々な効果をもたらすと考えられる(Miguel Diaz-Hernandes et al.,Journal of Biological Chemistry,2010,Vol.285,No.42,pp.32539-32548及びVenessa Plouffe et al.,PLoS ONE,2012,Vol.7,p.36873)。タウに対する特定の作用を実行することを目的とした試みとして、タウタンパク質を標的とするタウオパチーに対する免疫療法に関する実験が報告されている(Noble(前出)、Kishimoto(前出)、Asada(前出)及びBurns(前出)参照)。
【0008】
ヒトの認知障害における主な症状は、記憶障害及び認知機能障害であり、認知機能障害は、記憶に基づく判断、コミュニケーション及びパフォーマンスにおける認知機能の役割を考えると、特に重要である。一方、運動機能は、第17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う家族性前頭側頭型認知症(FTDP-17)及び末期アルツハイマー病において認められる症状であるが、認知障害では必ずしも認められる主要な症状ではない。したがって、認知障害を治療するために考慮すべき主な問題は、認知機能の改善である。しかしながら、現在では、タウオパチー関連認知機能障害を試験するための適切な動物モデルが存在し、それによって認知障害を治療するための治療薬または予防薬の同定が可能となるであろう。さらに、認知障害に対して特異的で優れた効果を示すそのような薬剤は存在しない。
【0009】
ヒト対象における認知障害に対する治療的及び予防的適用の観点から、リン酸化タウに対して高い結合親和性を有するだけでなく、ヒトの体に対する抗原性を低下させたヒト化抗リン酸化タウ抗体が必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
V.発明の概要
この背景に対して、本発明者らは、アルツハイマー病の状態において異常なリン酸化を受け得るタウタンパク質中の多数のリン酸化部位のうち、413位のセリン残基のリン酸化部位(Ser413)に注目し、Ser413リン酸化タウに特異的なポリクローナルウサギ抗体及びモノクローナルマウス抗体の作製に成功した。本発明者らはまた、リン酸化タウタンパク質の異常発現を示した認知障害のモデルマウスにモノクローナルマウス抗体を投与し、認知機能の改善が観察されたことを確認した(WO2013/180238A)。
【0011】
いくつかの実施形態では、本開示は、セリン残基413でリン酸化されているタウタンパク質(pS413-タウ)に特異的に結合する抗原結合部分を含む、抗体などのタンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、本開示はそれらのタンパク質をコードする核酸を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、それらのタンパク質をコードするそのような核酸を含む細胞を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書に開示するタンパク質、核酸、または細胞を、それを必要とする患者に投与することによる、タウオパチー(例えば、アルツハイマー病)の治療方法を提供する。
【0012】
したがって、いくつかの態様では、本発明は、少なくとも配列番号1のSer413に対応するアミノ酸残基においてリン酸化されたタウタンパク質またはタウペプチドと抗原-抗体反応を引き起こすヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体を提供する。いくつかの場合では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、タウタンパク質またはタウペプチドに対して1.86×10-8M以下の平衡解離定数を有する。
【0013】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、非リン酸化タウタンパク質(またはタウペプチド、例えば、配列番号69)に比べて、リン酸化タウタンパク質(またはタウペプチド、例えば配列番号8)に対してより高い選択的親和性を有する。
【0014】
さらなる態様では、本明細書に記載のヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、血中に投与した場合に、脳に進入する能力がより高い。
【0015】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、以下のようなCDRを含む:配列1Mに対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるCDR-H1配列;CDR-H2配列として、配列2Mまたは2H1に対して84%以上の相同性を有するアミノ酸配列;CDR-H3配列として、配列3Mに対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列;CDR-L1配列として、配列4L1または4Mに対して87%以上の相同性を有するアミノ酸配列;CDR-L2配列として、配列5Mに対して85%以上の相同性を有するアミノ酸配列;及びCDR-L3配列として、配列6Mに対して77%以上の相同性を有するアミノ酸配列。
【0016】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、以下のようなCDRを含む:CDR-H1配列として、配列1Mのアミノ酸配列;CDR-H2配列として、配列2H1のアミノ酸配列か、または15位のAlaがAspで置換されているという点で配列2H1と異なるアミノ酸配列;CDR-H3配列として、配列3Mのアミノ酸配列;CDR-L1配列として、配列4L1のアミノ酸配列、または5位のSerがAsnで置換されている点で配列4L1と異なるアミノ酸配列;CDR-L2配列として、配列5Mのアミノ酸配列;及びCDR-L3配列として、配列6Mのアミノ酸配列。
【0017】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、以下のようなCDRを有する:(1)CDR-H1配列として、1Mのアミノ酸配列;CDR-H2配列として、2H1のアミノ酸配列;CDR-H3配列として、3Mのアミノ酸配列;CDR-L1配列として、4L1のアミノ酸配列;CDR-L2配列として、5Mのアミノ酸配列;及びCDR-L3配列として、6Mのアミノ酸配列;または(2)CDR-H1配列として、1Mのアミノ酸配列;CDR-H2配列として、2H1のアミノ酸配列;CDR-H3配列として、3Mのアミノ酸配列;CDR-L1配列として、4Mのアミノ酸配列;CDR-L2配列として、5Mのアミノ酸配列;及びCDR-L3配列として、6Mのアミノ酸配列;または(3)CDR-H1配列として、1Mのアミノ酸配列;CDR-H2配列として、2Mのアミノ酸配列;CDR-H3配列として、3Mのアミノ酸配列;CDR-L1配列として、4Mのアミノ酸配列;CDR-L2配列として、5Mのアミノ酸配列;及びCDR-L3配列として、6Mのアミノ酸配列。
【0018】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は:重鎖可変領域として、配列VH11、VH12、VH47、VH61、VH62、VH64、及びVH65から選択される配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;ならびに軽鎖可変領域として、配列VL15、VL36、VL46、VL47、VL48、及びVL50から選択される配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する。
【0019】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は:重鎖可変領域として、配列VH65のアミノ酸配列、または28位のAlaからThrへの置換(Kabatナンバリング:H28)、30位のAsnからSerへの置換(Kabatナンバリング:H30)、49位のValからGlyへの置換(Kabatナンバリング:H49)、64位のAlaからAspへの置換(Kabatナンバリング:H61)、及び78位のGlnからLysへの置換(Kabatナンバリング:H75)からなる群から選択される1つ以上の置換を含む点で配列VH65とは異なるアミノ酸配列を;ならびに軽鎖可変領域として、配列VL47のアミノ酸配列、または17位のAspからGluへの置換(Kabatナンバリング:L17)、28位のSerからAsnへの置換(Kabatナンバリング:L27A)、42位のGlnからLeuへの置換(Kabatナンバリング:L37)、50位のGlnからArgへの置換(Kabatナンバリング:L45)、及び51位のArgからLeuへの置換(Kabatナンバリング:L46)からなる群から選択される1つ以上の置換を含む点で配列VL47とは異なるアミノ酸配列を有する。
【0020】
さらなる態様では、ヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体は、以下の配列の組み合わせのいずれかを含む:(a)重鎖可変領域としての配列VH11及び軽鎖可変領域としての配列VL15;(b)重鎖可変領域としての配列VH11及び軽鎖可変領域としての配列VL36;(c)重鎖可変領域としての配列VH11及び軽鎖可変領域としての配列VL46;(d)重鎖可変領域としての配列VH11及び軽鎖可変領域としての配列VL47;(e)重鎖可変領域としての配列VH11及び軽鎖可変領域としての配列VL48;(f)重鎖可変領域としての配列VH11及び軽鎖可変領域としての配列VL50;(g)重鎖可変領域としての配列VH12及び軽鎖可変領域としての配列VL48;(h)重鎖可変領域としての配列VH47及び軽鎖可変領域としての配列VL48;(i)重鎖可変領域としての配列VH61及び軽鎖可変領域としての配列VL48;(j)重鎖可変領域としての配列VH62及び軽鎖可変領域としての配列VL48;(k)重鎖可変領域としての配列VH64及び軽鎖可変領域としての配列VL47;(l)重鎖可変領域としての配列VH64及び配列VL48、ならびに(m)重鎖可変領域としての配列VH65及び軽鎖可変領域としての配列VL47。
【0021】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載のヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体を含む、認知症を治療または予防するための薬剤を提供する。
【0022】
さらなる態様では、本発明は、アルツハイマー病、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、ピック病、嗜銀顆粒性認知症(嗜銀顆粒病)、初老性認知症を伴う多系統タウオパチー(MSTD)、第17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う家族性前頭側頭型認知症(FTDP-17)、神経原線維変化を伴う認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)、球状グリア封入体を伴う白質タウオパチー(WMT-GGI)、タウ病理学を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-タウ)を含む、認知症またはタウオパチーを治療または予防するための方法及び薬剤を提供する。
【0023】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載のヒト化抗体またはその断片もしくは誘導体と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0024】
さらなる態様では、本発明は:a)配列番号86を有するvhCDR1、配列番号115を有するvhCDR2、及び配列番号88を有するvhCDR3を含む重鎖可変ドメイン;ならびにb):i)配列番号102を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;ii)配列番号91を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;iii)配列番号92を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;iv)配列番号93を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;v)配列番号94を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;vi)配列番号95を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;vii)配列番号96を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;viii)配列番号97を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;ix)配列番号98を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;x)配列番号99を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;xi)配列番号100を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;xii)配列番号101を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3からなる群から選択されるvlCDRのセットを含む軽鎖可変ドメインを含む抗pSer413タウ抗体を提供する。いくつかの場合では、抗体は、配列番号69の非リン酸化ペプチドに結合する抗体に対する、配列番号8のリン酸化ペプチドに結合する抗体の比が少なくとも約40である。
【0025】
さらなる態様では、本発明は:a)配列番号116及び配列番号117から選択される重鎖可変ドメイン、及びb)配列番号103、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号112、配列番号113及び配列番号114から選択される軽鎖可変ドメインを含む抗pSer413タウ抗体を提供する。いくつかの場合では、抗体は、配列番号69の非リン酸化ペプチドに結合する抗体に対する、配列番号8のリン酸化ペプチドに結合する抗体の比が少なくとも約40である。
【0026】
さらなる態様では、本発明の抗体は、配列番号135、配列番号136、配列番号137、配列番号138、配列番号139、配列番号140、配列番号141、配列番号142及び配列番号144から選択される重鎖定常ドメインを含む。
【0027】
さらなる態様では、本発明の抗体は、配列番号79及び配列番号80から選択される軽鎖定常ドメインを含む。
【0028】
さらなる態様では、本発明の抗体は、配列番号116及び配列番号117から選択される重鎖可変ドメインを含む。
【0029】
さらなる態様では、本発明の抗体は、配列番号103、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号112、配列番号113及び配列番号114から選択される軽鎖可変ドメインを含む。
【0030】
さらなる態様では、抗体は、配列番号184のLCと配列番号144のHC;配列番号184のLCと配列番号145のHC;配列番号184のLCと配列番号146のHC;配列番号184のLCと配列番号147のHC;配列番号184のLCと配列番号148のHC;配列番号184のLCと配列番号149のHC;配列番号184のLCと配列番号150のHC;配列番号184のLCと配列番号151のHC;配列番号184のLCと配列番号152のHC;配列番号184のLCと配列番号153のHC;配列番号184のLCと配列番号154のHC;配列番号184のLCと配列番号155のHC;配列番号184のLCと配列番号156のHC;配列番号184のLCと配列番号157のHC;配列番号184のLCと配列番号158のHC;配列番号184のLCと配列番号159のHC;配列番号184のLCと配列番号160のHC;配列番号184のLCと配列番号161のHC;配列番号185のLCと配列番号144のHC;配列番号185のLCと配列番号145のHC;配列番号185のLCと配列番号146のHC;配列番号185のLCと配列番号147のHC;配列番号185のLCと配列番号148のHC;配列番号185のLCと配列番号149のHC;配列番号185のLCと配列番号150のHC;配列番号185のLCと配列番号151のHC;配列番号185のLCと配列番号152のHC;配列番号185のLCと配列番号153のHC;配列番号185のLCと配列番号154のHC;配列番号185のLCと配列番号155のHC;配列番号185のLCと配列番号156のHC;配列番号185のLCと配列番号157のHC;配列番号185のLCと配列番号158のHC;配列番号185のLCと配列番号159のHC;配列番号185のLCと配列番号160のHC;及び配列番号185のLCと配列番号161のHCのペアから選択される重鎖と軽鎖を含む。
【0031】
さらなる態様では、本発明の抗体は、配列番号184を有するかまたはそれからなる軽鎖、及び配列番号144を有するかまたはそれからなる重鎖を含む。
【0032】
さらなる態様では、本発明の抗体は、配列番号184を有するかまたはそれからなる軽鎖、及び配列番号152を有するかまたはそれからなる重鎖を含む。
【0033】
さらなる態様では、本発明は:a)配列番号162、配列番号163、配列番号164、配列番号165、配列番号166、配列番号167、配列番号168、配列番号169、配列番号170、配列番号171、配列番号172、配列番号173、配列番号174、配列番号175、配列番号176、配列番号177、配列番号178、配列番号179、配列番号180、配列番号181、配列番号182、配列番号183、配列番号184及び配列番号185から選択される軽鎖をコードする第1の核酸;ならびにb)配列番号144;配列番号145;配列番号146;配列番号147;配列番号148;配列番号149;配列番号150;配列番号151;配列番号152;配列番号153;配列番号154;配列番号155;配列番号156;配列番号157;配列番号158;配列番号159;配列番号160及び配列番号161から選択される重鎖をコードする第2の核酸を含む核酸組成物を提供する。
【0034】
さらなる態様では、本発明は、第1及び第2の核酸を含む発現ベクター組成物を提供し、第1の核酸は第1の発現ベクターに含まれ、第2の核酸は第2の発現ベクターに含まれる。
【0035】
さらなる態様では、本発明は、第1の核酸及び第2の核酸が単一の発現ベクターに含まれる発現ベクター組成物を提供する。
【0036】
さらなる態様では、本発明は、発現ベクター組成物を含む宿主細胞、及び前記抗体が発現する条件下で宿主細胞を培養し、前記抗体を回収することを含む抗pSer413タウ抗体の作製方法を提供する。
【0037】
さらなる態様では、本発明は、本発明の抗体を投与することを含む、対象のタウオパチーの治療方法を提供する。
【0038】
VI.図面の簡単な説明
本発明は、添付の図面と併せて通読する場合に、以下の詳細な説明から最もよく理解され得る。図面には以下の図が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1A】ClustalWを用いて作成した、タウタンパク質の様々なヒトアイソフォームのアラインメントをまとめて示す。
【
図1B】ClustalWを用いて作成した、タウタンパク質の様々なヒトアイソフォームのアラインメントをまとめて示す。
【0040】
【
図2A】本開示のいくつかの実施形態による軽鎖可変領域配列のアラインメントを示し、Kabatナンバリングシステムにより、いくつかの抗pS413-タウ結合タンパク質のCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3配列を強調している。
【0041】
【
図2B】本開示のいくつかの実施形態による重鎖可変領域配列のアラインメントを示し、Kabatナンバリングシステムにより、いくつかの抗pS413-タウ結合タンパク質のCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3配列を強調している。
【0042】
【
図3】本開示のいくつかの実施形態による、非リン酸化ペプチドPD17と比較した、リン酸化ペプチドPD17Pに対する、いくつかの抗pS413-タウ抗体の選択的結合親和性を示す。
【0043】
【
図4】本開示のいくつかの実施形態による、アルツハイマー病患者由来の脳ホモジネート中のリン酸化タウに対する、いくつかの抗pS413-タウ抗体の結合親和性を示す。
【0044】
【
図5A】マウス血漿中のヒト化抗体変異体の経時的な薬物動態を示す。5つの初期ヒト化抗体変異体2、5、6、9、及び10が、マウス血漿からの迅速な排出を示したことを示す。
【
図5B】マウス血漿中のヒト化抗体変異体の経時的な薬物動態を示す。後に開発された3つのヒト化抗体変異体L15H11、L46H11、及びL47H65が、キメラ抗体に匹敵する薬物動態特性を示したことを示す。
【0045】
【
図6A】異なるヒト化抗体変異体が異なる脳内移動を有することを示す。脳ホモジネート中の様々なヒト化抗体の濃度を示す。
【
図6B】異なるヒト化抗体変異体が異なる脳内移動を有することを示す。脳中の代表的なヒト化抗体のレベルと血漿中の対応する抗体のレベルとの比を示す。
【0046】
【
図7A】代表的なヒト化抗体変異体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列と親マウス抗体とのアラインメントを示す。
【
図7B】代表的なヒト化抗体変異体の重鎖可変領域のアミノ酸配列と親マウス抗体とのアラインメントを示す。
【0047】
【
図8】A~Dは、親マウス抗体(
図8A及び8B)及びキメラ抗体(
図8C及び8D)がリン酸化ペプチド(
図8A及び8C)に結合するが、非リン酸化ペプチド(
図8B及び8D)には結合しないことを示す。
【0048】
【
図9】A~Cは、pS413ペプチドに対する代表的なヒト化抗体変異体の結合を示す。
【0049】
【
図10】A~Eは、アルツハイマー病患者由来の脳ホモジネートにおける、S413リン酸化タウタンパク質への、親マウス抗体(
図10A)、キメラ抗体(
図10B)、及び選択されたヒト化抗体変異体(
図10C~10E)の結合特性が同等であることを示す。
【0050】
【
図11A】本発明のいくつかの抗pSer413タウタンパク質ヒト化抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を示す。
【
図11B】本発明のいくつかの抗pSer413タウタンパク質ヒト化抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を示す。
【
図11C】本発明のいくつかの抗pSer413タウタンパク質ヒト化抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を示す。
【
図11D】本発明のいくつかの抗pSer413タウタンパク質ヒト化抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を示す。
【
図11E】本発明のいくつかの抗pSer413タウタンパク質ヒト化抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を示す。
【0051】
【
図12】抗pSer413タウ抗体の可変重鎖及び可変軽鎖の組み合わせに利用可能な多くの異なるヒトIgG定常ドメインを示す。「ヒト_IgG1_」は、ヒト野生型IgG1の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。「ヒトIgG1_L234A_L235A」は、エフェクター機能を低減/消去する2つのアミノ酸置換L234A及びL235A(場合により「LALA」変異と呼ばれる)を有するヒト野生型IgG1の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。「ヒトIgG1_L234A_L235A_D265S」は、エフェクター機能を低減/消去する3つのアミノ酸置換L234A、L235A及びD265Sを有するヒト野生型IgG1の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。「ヒトIgG1_YTE_」または「ヒトIgG1_YTE(M252Y_S254T_T256E)」は、血清中の抗体の半減期を延ばす3つのアミノ酸置換M252Y、S254T、T256Eを有するヒト野生型IgG1の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。「ヒトIgG1_N297A_」は、アミノ酸置換N297Aを有するヒト野生型IgG1の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)であり、この置換はグリコシル化部位を排除し、エフェクター機能を低減/消去する。「ヒトIgG1_N297Q_」は、アミノ酸置換N297Qを有するヒト野生型IgG1の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)であり、この置換はグリコシル化部位を排除し、エフェクター機能を低減/消去する。「_ヒトIgG2」は、ヒト野生型IgG2の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。「_ヒトIgG4」は、ヒト野生型IgG4の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。「ヒトIgG4_S228P_」は、アーム交換を防ぐためのアミノ酸置換S228Pを有するヒト野生型IgG4の定常ドメイン(CH1-ヒンジ-CH2-CH3)である。
【0052】
【
図13】
図12の主鎖と共に、H11及びH65可変領域の全長重鎖を示す。「スラッシュ」(「/」)は、可変ドメインと定常ドメインとの接合部を示し、CDRには下線が引かれている。
【0053】
【
図14】12種類の異なる可変軽鎖ドメインについて、ヒトκまたはλ軽鎖定常ドメインのいずれかを含む全長軽鎖を示す。「スラッシュ」(「/」)は、可変ドメインと定常ドメインとの接合部を示し、CDRには下線が引かれている。
【0054】
【
図15】本発明の重鎖及び軽鎖の可能な組み合わせのマトリックスを示す。ボックス内の「A」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG1_」が使用されていることを示す。ボックス内の「B」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG1_L234A_L235A」が使用されていることを示す。ボックス内の「C」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG1__L234A_L235A_D265S」が使用されていることを示す。ボックス内の「D」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG1_YTE_」が使用されていることを意味する。ボックス内の「E」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG1_N297A_」が使用されていることを意味する。ボックス内の「F」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG1_N297Q_」が使用されていることを意味する。ボックス内の「G」は、重鎖定常ドメイン「_ヒト_IgG2」が使用されていることを意味する。ボックス内の「H」は、重鎖定常ドメイン「_ヒト_IgG4」が使用されていることを意味する。ボックス内の「I」は、重鎖定常ドメイン「ヒト_IgG4_S228P_」が使用されていることを意味する。ボックス内の「J」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸置換を有するヒトIgG1定常ドメインが使用されていることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0055】
VII.詳細な説明
A.概説
本開示は、セリン残基413でリン酸化されているタウタンパク質(pSer413-タウ)に特異的に結合する抗原結合部分を含む抗体を提供する。そのタンパク質をコードする核酸、及びそのような核酸を含む細胞もまた提供する。いくつかの実施形態では、提供する方法及び組成物を、タウオパチー(例えば、アルツハイマー病)の治療に使用する。
【0056】
タウをコードするMAPT遺伝子は、ゲノム上に配置された13個のエキソンからなるものとして同定されており、選択的スプライシングを介して複数の異なるタンパク質アイソフォームとして発現可能である(前出のArai参照)。タウタンパク質は、エキソン2及びエキソン3の選択的スプライシングに応じて29個のアミノ酸からなる0~2個の反復配列(N)(N0~N2)を含むN末端酸性ドメイン、プロリンに富む中間ドメイン、ならびに微小管結合に寄与する3個(3R)または4個(4R)の反復配列(R)を含むC末端微小管結合ドメイン(エキソン9~12によりコードされる)(Burns(前出)及びArai(前出))を含む。したがって、ヒトタウは、ヒトタウが含む29個のアミノ酸反復配列(N)及び微小管結合反復配列(R)の数に応じて、6つの代表的なアイソフォームを有する:3R0N(352アミノ酸)、3R1N(381アミノ酸)、3R2N(410アミノ酸)、4R0N(383アミノ酸)、4R1N(412アミノ酸)、及び4R2N(441アミノ酸)。これらのアイソフォームのうち、3R0Nのみが胎児脳に存在し、一方、成人のヒトの脳には6個全てのアイソフォームが存在し、4Rが最も豊富である(Burns、前出)。3Rアイソフォームと4Rアイソフォームとの間の相違は、エキソン10が選択的スプライシングを介して除去される(3R)かまたは存在する(4R)かによって生じる。これらのタウアイソフォームのいずれにおいてもアミノ酸残基の位置を明確に同定するために、最も長いアイソフォーム、すなわち4R2N(配列番号1に定義される)のアミノ酸番号(1~441)を、参照として用いる。例えば、「Ser413」は、4R2N(配列番号1に定義される)の413番目のアミノ酸位置のセリン残基を指し、これは4R1N(配列番号2に定義される)の384番目、4R0N(配列番号3に定義される)の355番目、3R2N(配列番号4に定義される)の382番目、3R1N(配列番号5に定義される)の353番目、3R0N(配列番号6に定義される)の324番目のセリンに対応する。
【0057】
タウは、配列番号1に定義されるアミノ酸配列の413位のセリン残基(Ser413、リン酸化されている場合は本明細書中で「pSer413」と呼ばれる)に対応する位置にリン酸化されたアミノ酸残基を有し(したがって、Ser413でリン酸化されたタウタンパク質は、「pSer413タウ」または「pSer413-タウ」である)、これはADにおいて特異的にリン酸化される部位である。WO2013/180238において以前に示されたように、PSer413-タウとの特異的抗原-抗体反応に関与する抗体を、成熟中に認知機能障害を発症するトランスジェニックマウスに投与した結果、対照群とほぼ同じレベルまで認知機能が回復した。興味深いことに、配列番号1に定義されるアミノ酸配列のSer396に対応する位置にリン酸化アミノ酸残基を有するタウタンパク質に、同等の抗原に対して上記抗体に比べてより強い親和性を有するモノクローナル抗体を同様の濃度で投与しても、認知機能の十分な改善は得られなかった。タウの構造及び機能に関して、配列番号1に定義されるアミノ酸配列のSer413に対応する位置のアミノ酸残基を含む領域に関する具体的な情報がなかったため、この領域に結合する抗体がそのような強力な認知機能改善効果を有していたことは全く予想外の結果であった。
【0058】
したがって、本発明は、ヒト対象におけるタウオパチーなどの認知障害を治療するための治療薬または予防薬として有用な、ヒト化及び最適化された抗pSer413タウ抗体に関する。
【0059】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、リン酸化タウに対して高い結合親和性を示す一方で、ヒトの体に対する抗原性が有意に低下しており、ヒト対象におけるタウオパチーなどの認知障害の治療薬または予防薬として有効に使用することができる。さらに、CDR内のアミノ酸修飾は、マウスCDRに比べて、アミド分解を低減し、安定性を高める;実施例8、9及び10参照。
【0060】
B.定義
本明細書中で使用する場合、以下の用語のそれぞれは、本節においてその用語に関連付ける意味を有するものとする。
【0061】
冠詞「a」及び「an」は、冠詞の文法上の目的語の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すために本明細書中で使用される。例えば、「an element」は、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0062】
本明細書中で使用する「約」は、それが量、持続時間などの測定可能な値を指す場合、指定する値から±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらに好ましくは±1%、さらにより好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味するが、そのような変動は開示された方法を実施するのに適切である。
【0063】
本明細書における「消去」とは、活性の減少または除去を意味する。したがって、例えば、「FcγR結合の消去」とは、特定の変異体を含まないFc領域に比べて、Fc領域アミノ酸変異体が50%未満の開始結合を有し、70~80~90~95~98%未満の活性の喪失が好ましく、一般的には、活性がBiacoreアッセイにおける検出可能な結合のレベル未満であることを意味する。
【0064】
本明細書中で使用する「ADCC」または「抗体依存性細胞介在性細胞傷害」とは、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす細胞介在性の反応を意味する。ADCCは、FcγRIIIaへの結合と相関しており;FcγRIIIaへの結合の増加はADCC活性の増加をもたらす。本明細書中で論じるように、本発明の多くの実施形態はADCC活性を完全に消去する。
【0065】
本明細書中で用いられる「ADCP」または抗体依存性細胞介在性食作用とは、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合抗体を認識し、続いて標的細胞の食作用を引き起こす細胞介在性の反応を意味する。
【0066】
本明細書における「抗原結合ドメイン」または「ABD」とは、ポリペプチド配列の一部として存在する場合、本明細書中で論じるように標的抗原に特異的に結合する6つの相補性決定領域(CDR)のセットを意味する。したがって、「抗原結合ドメイン」は、本明細書中に概説するように標的抗原に結合する。当技術分野で公知のように、これらのCDRは、通常、可変重鎖CDR(vhCDRまたはVHCDRまたはCDR-HC)の第1のセット及び可変軽鎖CDR(vlCDRまたはVLCDRまたはCDR-LC)の第2のセットとして存在し、それぞれのセットは、3つのCDR:重鎖についてはvhCDR1、vhCDR2、vhCDR3、軽鎖についてはvlCDR1、vlCDR2及びvlCDR3を含む。CDRは、それぞれ可変重鎖及び可変軽鎖ドメインに存在し、一緒になってFv領域を形成する。したがって、いくつかの場合では、抗原結合ドメインの6つのCDRに可変重鎖と可変軽鎖が寄与する。「Fab」形態では、6つのCDRのセットに、2つの異なるポリペプチド配列、可変重鎖ドメイン(vhまたはVH;vhCDR1、vhCDR2及びvhCDR3を含む)及び可変軽鎖ドメイン(vlまたはVL;vlCDR1、vlCDR2及びvlCDR3を含む)が寄与し、vhドメインのC末端は重鎖のCH1ドメインのN末端に結合し、vlドメインのC末端は定常軽鎖ドメインのN末端に結合する(したがって軽鎖を形成する)。scFv形態では、vh及びvlドメインは、通常、本明細書中に概説するようなリンカーの使用を介して、単一のポリペプチド配列に共有結合し、それは(N末端から開始して)vh-リンカー-vlまたはvl-リンカー-vhのいずれかであり得るが、一般的には前者が好ましい(使用する形態に応じて、各々の側にオプションのドメインリンカーを含む。当技術分野において理解されるように、CDRは可変重鎖ドメイン及び可変軽鎖ドメインのそれぞれにおいて、フレームワーク領域によって分離されており:軽鎖可変ドメインに関しては、これらはFR1-vlCDR1-FR2-vlCDR2-FR3-vlCDR3-FR4であり、重鎖可変ドメインに関しては、これらはFR1-vhCDR1-FR2-vhCDR2-FR3-vhCDR3-FR4であり、これらのフレームワーク領域は、ヒト生殖系列の配列に高い同一性を示す。本発明の抗原結合ドメインには、Fab、Fv及びscFvが含まれる。
【0067】
本明細書における「修飾」とは、ポリペプチド配列中のアミノ酸の置換、挿入、及び/または欠失、あるいはタンパク質に化学的に結合している部分への改変を意味する。例えば、修飾は、タンパク質に結合した改変炭水化物またはPEG構造であってもよい。本明細書における「アミノ酸修飾」とは、ポリペプチド配列中のアミノ酸の置換、挿入、及び/または欠失を意味する。明確にするために、特に明記しない限り、アミノ酸修飾は常に、DNAによってコードされるアミノ酸、例えば、DNAとRNAにコドンを有する20個のアミノ酸に対するものとする。
【0068】
本明細書における「アミノ酸置換」または「置換」とは、親ポリペプチド配列中の特定の位置にあるアミノ酸を異なるアミノ酸で置き換えることを意味する。特に、いくつかの実施形態では、置換は、特定の位置に天然には存在せず、その生物内または任意の生物内に天然には存在しないアミノ酸に対するものである。例えば、置換M252Yは、変異体ポリペプチド、この場合はFc変異体を指し、252位のメチオニンがチロシンで置換されている。明確にするために、核酸コード配列を変更するが最初のアミノ酸から変えないように操作されたタンパク質(例えば、CGG(アルギニンをコードする)をCGA(依然としてアルギニンをコードする)に変換して宿主生物での発現レベルを高める)は「アミノ酸置換」ではない;すなわち、同じタンパク質をコードする新規遺伝子を作成するにもかかわらず、そのタンパク質が特定の位置に最初と同じアミノ酸を有する場合、それはアミノ酸置換ではない。
【0069】
本明細書中で使用する「変異型タンパク質」または「タンパク質変異体」、または「変異体」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾により、親タンパク質のタンパク質とは異なるタンパク質を意味する。タンパク質変異体は、タンパク質自体、タンパク質を含む組成物、またはそれをコードするアミノ配列を指す場合がある。好ましくは、タンパク質変異体は、親タンパク質と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾、例えば、親と比較して、約1~約70個のアミノ酸修飾、好ましくは約1~約5個のアミノ酸修飾を有する。以下に記載するように、いくつかの実施形態では、親ポリペプチド、例えばFc親ポリペプチドは、ヒト野生型配列、例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4由来のFc領域などである。本明細書中のタンパク質変異体配列は、好ましくは、親タンパク質配列に対して少なくとも約80%の同一性、最も好ましくは少なくとも約90%の同一性、より好ましくは少なくとも約95%~98%~99%の同一性を有する。変異体タンパク質は、変異体タンパク質自体、タンパク質変異体を含む組成物、またはそれをコードするDNA配列を指し得る。
【0070】
したがって、本明細書中で使用する「抗体変異体」または「変異型抗体」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾により親抗体と異なる抗体を意味し、本明細書中で使用する「IgG変異体」または「変異型IgG」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾により親IgGと異なる抗体を意味し(ここでも、多くの場合、ヒトIgG配列由来である)、本明細書中で使用する「免疫グロブリン変異体」または「変異型免疫グロブリン」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾により親免疫グロブリン配列の配列と異なる免疫グロブリン配列を意味する。本明細書中で使用する「Fc変異体」または「変異型Fc」とは、Fcドメイン中にアミノ酸修飾を含むタンパク質を意味する。本発明のFc変異体は、それらを構成するアミノ酸修飾に従って定義される。したがって、例えばM252Yまたは252Yは、親Fcポリペプチドと比較して252位に置換チロシンを有するFc変異体であり、その場合のナンバリングはEUインデックスに従う。同様に、M252Y/S254T/T256Eは、親Fcポリペプチドと比較して置換M252Y、S254T及びT256Eを有するFc変異体を定義する。WTアミノ酸の同一性は特定されていなくてもよく、その場合、前述の変異体は252Y/254T/256Eと呼ばれる。置換を示す順序は任意であることに留意されたく、すなわち、例えば、252Y/254T/256Eは、254T/252Y/256Eと同じFc変異体であり、以下同様である。抗体に関して本発明で考察する全ての位置について、特に明記しない限り、アミノ酸位置のナンバリングは、可変ドメインのナンバリングについてはKabatに従い、Fcドメインを含む定常ドメインについてはEUインデックスに従うものとする。EUインデックスまたはKabatに記載のEUインデックスまたはEUナンバリングスキームとは、EU抗体のナンバリングを指す(Edelman et al.,1969,Proc Natl Acad Sci USA 63:78-85、全体を参照により本明細書に援用する)。修飾は、付加、欠失、または置換である。置換は、天然アミノ酸、及びいくつかの場合では、合成アミノ酸を含み得る。
【0071】
本明細書中で使用する場合、本明細書中の「タンパク質」とは、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド及びペプチドを含む、少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を意味する。ペプチジル基は、天然アミノ酸及びペプチド結合を含み得る。
【0072】
本明細書中で使用する「Fab」または「Fab領域」とは、VH、CH1、VL、及びCL免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドを意味する。Fabは、単独でのこの領域を、または全長抗体、抗体断片もしくはFab融合タンパク質に関してのこの領域を指す場合がある。
【0073】
本明細書中で使用する「Fv」または「Fvフラグメント」または「Fv領域」とは、単一の抗原結合ドメイン(ABD)のVLドメイン及びVHドメインを含むポリペプチドを意味する。当業者には理解されるように、これらは通常、2本の鎖で構成されているか、または(一般的に本明細書中で論じるようなリンカーを用いて)組み合わせてscFvを形成することができる。
【0074】
本明細書中で使用する「アミノ酸」及び「アミノ酸同一性」とは、DNA及びRNAによってコードされる20種の天然アミノ酸のうちの1つを意味する。
【0075】
本明細書中で使用する「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域とFc受容体またはリガンドとの相互作用から生じる生化学的事象を意味する。エフェクター機能には、ADCC、ADCP、及びCDCが含まれるがこれらに限定されない。
【0076】
本明細書で使用する「Fcガンマ受容体」、「FcγR」または「FcガンマR」は、IgG抗体のFc領域に結合し、FcγR遺伝子によってコードされるタンパク質ファミリーの任意のメンバーを意味する。ヒトにおいて、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、及びFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131及びR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1及びFcγRIIb-2を含む)、及びFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158及びF158を含む)及びFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIb-NA1及びFcγRIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)(Jefferis et al.,2002,Immunol Lett 82:57-65、全体を参照により援用する)、ならびに、任意の未発見のヒトFcγRまたはFcγRアイソフォームまたはアロタイプが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの場合では、本明細書中に概説するように、1つ以上のFcγR受容体への結合を低減または消去する。例えば、FcγRIIIaへの結合を低下させるとADCCが低下し、いくつかの場合では、FcγRIIIa及びFcγRIIbへの結合を低下させることが望ましい。
【0077】
本明細書中で使用する「FcRn」または「新生児Fc受容体」とは、IgG抗体のFc領域に結合し、少なくとも部分的にFcRn遺伝子によってコードされるタンパク質を意味する。FcRnは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、及びサルを含むがこれらに限定されない任意の生物由来であり得る。当技術分野において公知のように、機能的FcRnタンパク質は、多くの場合に重鎖及び軽鎖と呼ばれる2つのポリペプチドを含む。軽鎖はβ-2-ミクログロブリンであり、重鎖はFcRn遺伝子によってコードされる。本明細書において特段の記載がない限り、FcRnまたはFcRnタンパク質とは、FcRn重鎖とβ-2-ミクログロブリンとの複合体を指す。
【0078】
本明細書中で使用する「親ポリペプチド」とは、その後に修飾を加えて変異体を生成する出発ポリペプチドを意味する。親ポリペプチドは、天然ポリペプチド、または天然ポリペプチドの変異体もしくは改変型であってもよい。親ポリペプチドは、ポリペプチド自体、親ポリペプチドを含む組成物、またはそれをコードするアミノ酸配列を指す場合がある。したがって、本明細書中で使用する「親免疫グロブリン」とは、変異体を生成するように修飾される未修飾免疫グロブリンポリペプチドを意味し、本明細書中で使用する「親抗体」とは、変異抗体を生成するように修飾される未修飾抗体を意味する。「親抗体」には、以下に概説するように、公知の市販の組換え産生抗体が含まれることに留意されたい。
【0079】
本明細書における「重鎖定常領域」とは、通常、ヒトIgG1、IgG2またはIgG4由来の、抗体のCH1-ヒンジ-CH2-CH3部分を意味する。
【0080】
本明細書中で使用する「標的抗原」とは、所与の抗体の可変領域によって特異的に結合される分子を意味する。この場合、標的抗原は、Ser413位でリン酸化されているタウタンパク質(「pSer413-タウ」)である。
【0081】
本明細書中で使用する「標的細胞」とは、標的抗原を発現する細胞を意味する。
【0082】
本明細書中で使用する「可変領域」とは、それぞれ、κ、λ、及び重鎖免疫グロブリン遺伝子座を構成する、Vκ、Vλ、及び/またはVH遺伝子のいずれかによって実質的にコードされる1つ以上のIgドメインを含む免疫グロブリンの領域を意味する。
【0083】
本明細書における「野生型またはWT」とは、対立遺伝子変異を含む、天然に見出されるアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を意味する。WTタンパク質は、意図的に修飾されていないアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有する。
【0084】
本明細書中で使用する用語「タウタンパク質」とは、配列番号1~6に定義されるアミノ酸配列、すなわち、4R2N(配列番号1に定義される)、4R1N(配列番号2に定義される)、4R0N(配列番号3に定義される)、3R2N(配列番号4に定義される)、3R1N(配列番号5に定義される)、及び3R0N(配列番号6に定義される)を有する、ヒトタウタンパク質の6つのアイソフォームのいずれか1つ、ならびにその遺伝子変異体を意味する。上記の「発明の背景」の節で説明したように、認知障害に関連する家族性神経変性疾患であるFTDP-17には40を超える突然変異が関与しているとされてきた。しかしながら、タウタンパク質における突然変異の部位を、FTDP-17と関係がある部位に限定すべきではない。配列番号1~6のアミノ酸配列に導入するアミノ酸変異の数は限定すべきでないが、1~50、特に1~30、さらに特に1~10であってもよい。しかしながら、配列番号1の413位のセリン残基(Ser413)に定義されるアミノ酸配列に対応するアミノ酸残基は、好ましくは保存されるべきである。本発明によるタウタンパク質はまた、BLAST法(PBLASTのデフォルト条件はNCBIによって提供される)に従って、配列番号1で定義されるヒトタウタンパク質のアミノ酸配列に対して80%以上の類似性または同一性を有するタンパク質、及びそれらのアイソフォームを包含する。そのようなタウタンパク質は、チンパンジー、マカク、ウマ、ブタ、イヌ、マウス、ウサギ、及びラットなどの非ヒト種に由来するタウを含む。標的動物の認知機能を改善する目的で、そのような非ヒト動物由来のタウを標的とする治療薬または予防薬を製造することが可能である。
【0085】
本明細書中で使用する用語「タウペプチド」とは、タウタンパク質のアミノ酸配列の一部を含むペプチドを意味する。タウタンパク質に由来するタウペプチドのアミノ酸配列の位置及び長さは限定すべきでないが、好ましくは、少なくともSer413に対応するアミノ酸を含む、配列番号1のアミノ酸番号410~421に対応するアミノ酸残基に由来する、例えば一連の少なくとも3つの連続アミノ酸、特に少なくとも5つの連続アミノ酸、より特別には少なくとも8つの連続アミノ酸を有するべきである。タウペプチドの長さもまた限定すべきでないが、好ましくは4以上、特に6以上、より特別には8以上のアミノ酸長を有するべきである。
【0086】
本明細書中で使用する用語「タウ」は、総じて、タウタンパク質またはタウペプチドを意味する。
【0087】
用語「抗pSer413タウタンパク質」とは、本明細書中に記載するように、413位でセリンがリン酸化されていないタウタンパク質の結合と比較して、413位でセリンがリン酸化されているタウタンパク質に優先的に結合する抗体を意味する。Ser413でリン酸化されたタウタンパク質は、ヒト及び/またはマウスのものであり得る。
【0088】
本明細書中で使用する「位置」とは、タンパク質の配列中の位置を意味する。位置は、連続的に、または確立されたフォーマット、例えば抗体ナンバリングのためのEUインデックスに従ってナンバリングしてもよい。
【0089】
本明細書中で使用する「残基」とは、タンパク質中の位置及びそれに関連するアミノ酸同一性を意味する。例えば、アスパラギン297(Asn297またはN297とも呼ばれる)は、ヒト抗体IgG1の297位の残基である。
【0090】
本発明に関して、タウタンパク質またはタウペプチド中のアミノ酸残基の位置は、明確にするために、配列番号1に定義されるアミノ酸配列に基づいて識別されるアミノ酸番号によって示される。例えば、配列番号1のSer413に対応するアミノ酸残基は、配列番号1(4R2N)の413位、配列番号2(4R1N)の384位、配列番号3(4R0N)の355位、配列番号4(3R2N)の382位、配列番号5(3R1N)の353位、または配列番号6(3R0N)の324位のセリン残基を意味する。タウアイソフォーム間のアミノ酸残基の位置の対応を、以下の表1に示す。
表1.ヒトタウタンパク質のアイソフォーム
【表1】
【0091】
表1が、配列番号1で定義されるアミノ酸配列の410~421位に対応する、これらのアイソフォームのアミノ酸残基の位置を示す一方で、例えば、
図1A及び
図1Bに基づいて、他の領域におけるアミノ酸残基の位置の対応も容易に認識することができる。当業者であれば、Needleman-Wunsch法またはSmith-Waterman法などのペアワイズ配列アラインメント、またはClustalW法またはPRRP法などの多重配列アラインメントを使用して、アイソフォームまたは相同体におけるアミノ酸の対応する位置を決定することができよう。対応位置の解析の一例として、
図1A及び1Bは、ClustalWに基づく6つのヒトアイソフォームのアミノ酸配列のアラインメント(1文字コードで示す)を示す。これらの図は、配列番号1に定義されるアミノ酸配列のSer413に対応するアミノ酸残基を囲む構造が6つのアイソフォーム間で保存されていることを示している。
【0092】
本発明の抗体は一般的に単離されているかまたは組換え体である。「単離された」とは、本明細書中に開示する様々なポリペプチドを記載するために使用する場合、それを発現していた細胞または細胞培養物から同定及び分離及び/または回収したポリペプチドを意味する。通常、単離されたポリペプチドは、少なくとも1つの精製工程によって調製されるであろう。「単離された抗体」とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指す。「組換え」とは、外来性宿主細胞において組換え核酸技術を用いて抗体を生成することを意味する。
【0093】
タンパク質配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」とは、配列をアラインメントし、さらに最大の配列同一性パーセントを達成するために必要であればギャップを導入した後の、そしていかなる保存的置換も配列同一性の一部とみなさない場合の、特定の(親)配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の百分率として定義される。アミノ酸配列同一性パーセントの決定を目的としたアラインメントは、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピューターソフトウェアを使用して、当技術分野の範囲内にある様々な方法で達成することができる。当業者であれば、比較しようとする配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。1つの特定のプログラムは、参照により本明細書に援用される米国公開第20160244525号の段落[0279]~[0280]に概説されているALIGN-2プログラムである。核酸配列についての別の近似的アラインメントは、Smith and Waterman,Advances in Applied Mathematics,2:482-489(1981)の局所相同性アルゴリズムによって提供される。このアルゴリズムは、Dayhoff,Atlas of Protein Sequences and Structure,M.O.Dayhoff ed.,5 suppl.3:353-358,National Biomedical Research Foundation,Washington,D.C.,USAによって開発され、Gribskov,Nucl.Acids Res.14(6):6745-6763(1986)によって正規化されたスコアリングマトリックスを使用することによって、アミノ酸配列に適用することができる。
【0094】
配列同一性パーセントを決定するためのこのアルゴリズムの実施の例は、「BestFit」実用新案出願のGenetics Computer Group(Madison,WI)によって提供されている。この方法のデフォルトパラメータは、Wisconsin Sequence Analysis Package Program Manual,Version 8(1995)(Genetics Computer Group,Madison,WIから入手可能)に記載されている。本発明に関して同一性パーセントを確立する別の方法は、John F.Collins及びShane S.Sturrokによって開発され、IntelliGenetics,Inc.(Mountain View,CA)によって配布されている、エジンバラ大学によって著作権で保護されているMPSRCHプログラムパッケージを使用することである。この一連のパッケージのうち、スコアリングテーブルにデフォルトパラメータを使用する場合ではSmith-Watermanアルゴリズムを使用することができる(例えば、ギャップオープンペナルティ12、ギャップ拡張ペナルティ1、及びギャップ6)。生成されたデータの「一致」値は「配列同一性」を反映するものである。配列間の同一性パーセントまたは類似性を計算するための他の適切なプログラムは、当技術分野で一般的に公知であり、例えば、別のアラインメントプログラムは、デフォルトパラメータを用いるBLASTである。例えば、BLASTN及びBLASTPは、以下のデフォルトパラメータを用いて使用することができる:遺伝子コード=標準;フィルター=なし;ストランド=両鎖;カットオフ=60;期待値=10;マトリックス=BLOSUM62;記述=50配列;ソート順=HIGH SCORE;データベース=非冗長、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS translation+Swiss protein+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は、blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiの前にhttp://を配置することによって位置するインターネットアドレスにおいて見出すことができる。
【0095】
本発明のアミノ酸配列(「本発明の配列」)と親アミノ酸配列との間の同一性の程度は、2つの配列のアラインメントにおける正確な一致の数を、「本発明の配列」の長さか、または親配列の長さのうちのどちらか短い方の長さで割った数として計算される。結果は同一性パーセントで表される。
【0096】
いくつかの実施形態では、2つ以上のアミノ酸配列は、少なくとも50%、60%、70%、80%または90%同一である。いくつかの実施形態では、2つ以上のアミノ酸配列は、少なくとも95%、97%、98%、99%、さらには100%同一である。
【0097】
「特異的結合」または特定の抗原もしくはエピトープに「特異的に結合する」もしくは「特異的な」とは、非特異的相互作用とは測定可能な程度に異なる結合を意味する。特異的結合は、例えば、分子の結合を、一般的に類似の構造の分子であるが結合活性を有さない対照分子の結合と比較して決定することによって測定することができる。例えば、特異的結合は、標的に類似している対照分子との競合によって決定することができる。
【0098】
本明細書中で使用する用語「Kassoc」または「Ka」は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を指すことを意図し、一方、本明細書中で使用する用語「Kdis」または「Kd」は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指すことを意図する。本明細書中で使用する用語「KD」は、Kd対Kaの比(すなわち、Kd/Ka)から得られ、モル濃度(M)として表される解離定数を指すことを意図する。抗体のKD値は、当技術分野において十分に確立されている方法を用いて決定することができる。いくつかの実施形態では、抗体のKDを決定する方法は、表面プラズモン共鳴の使用による、例えばBIACORE(登録商標)システムなどのバイオセンサーシステムの使用によるものである。特定の実施形態では、リン酸化タウタンパク質を用いてKD値を測定する。いくつかの実施形態では、リン酸化ペプチドを用いてKD値を測定する。いくつかの実施形態では、固定化した抗原(例えば、リン酸化タウタンパク質またはリン酸化ペプチド)を用いてKD値を測定する。他の実施形態では、固定化した抗体(例えば、親マウス抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体変異体)を用いてKD値を測定する。さらに他の実施形態では、分析物としてリン酸化タウタンパク質を用いてKD値を測定する。さらに他の実施形態では、分析物としてリン酸化ペプチドを用いてKD値を測定する。特定の実施形態では、二価結合様式でKD値を測定する。他の実施形態では、一価結合様式でKD値を測定する。
【0099】
「疾患」は、ヒトを含む動物の健康状態を含み、その場合、動物は恒常性を維持することができず、疾患が改善されない場合、動物の健康は悪化し続ける。
【0100】
対照的に、ヒトを含む動物における「障害」は、その動物が恒常性を維持することができるが、その動物の健康状態は、障害を有さない場合のその動物の健康状態に比べて好ましくない健康状態を含む。未治療のままにしておいた場合に、障害は必ずしも動物の健康状態をさらに低下させるわけではない。
【0101】
用語「治療」、「治療すること」、「治療する」などは、所望の薬理学的及び/または生理学的効果を得ることを指す。その効果は、疾患もしくはその症状を完全にもしくは部分的に予防するか、または疾患もしくはその症状の可能性を低減するという点で予防的であってもよく、及び/または疾患及び/または疾患に起因する有害作用を部分的にもしくは完全に治療するという点で治療的であってもよい。本明細書中で使用する場合、「治療」は、哺乳類、特にヒトにおける疾患の任意の治療を含み:(a)疾患にかかりやすいがまだ疾患を有すると診断されていない対象における疾患の発生を予防し;(b)疾患を抑制、すなわちその発症または進行を阻止し;(c)疾患を軽減、すなわち、疾患の後退を引き起こし、及び/または1つ以上の疾患の症状を軽減することを含む。「治療」はまた、疾患または病態の非存在下で薬理学的効果をもたらすために薬剤を送達することを包含することを意味する。例えば、「治療」は、例えばワクチンの場合のように、疾患状態の非存在下で免疫応答を誘発するかまたは免疫を付与することができる組成物を送達することを包含する。
【0102】
本明細書中で使用する場合、用語「哺乳類」とは、マウス及びハムスターなどのRodentia目の哺乳類、及びウサギなどのLogomorpha目の哺乳類を含むがこれらに限定されない、任意の哺乳類を指す。いくつかの実施形態では、哺乳類は、ネコ科(ネコ)及びイヌ科(イヌ)を含むCarnivora目に由来する。いくつかの実施形態では、哺乳類は、ウシ属(ウシ)及びブタ類(ブタ)を含むArtiodactyla目に由来するか、またはウマ科(ウマ)を含むPerssodactyla目の哺乳類である。哺乳類が、霊長目、広鼻下目、もしくはシモイド目(サル)、または類人猿目(ヒト及び類人猿)の哺乳類であることが最も好ましい。いくつかの実施形態では、哺乳類はヒトである。
【0103】
本明細書中で使用する場合、用語「退行」、及びそれに由来する用語は、必ずしも100%または完全な退行を意味するわけではない。むしろ、当業者が潜在的な利益または治療効果を有すると認識する様々な程度の退行がある。これに関して、開示する方法は、哺乳類におけるタウオパチーの任意の量の任意のレベルの退行を提供することができる。さらに、本発明の方法によって提供する退行は、疾患、例えばタウオパチーの1つ以上の病態または症状の退行を含み得る。また、本明細書の目的のために、「退行」は、疾患の発症を遅らせ、症状の発症を遅らせ、及び/またはその病態の発症を遅らせることを包含し得る。進行性の疾患及び障害に関して、「退行」は、疾患もしくは障害の進行を遅らせ、疾患もしくは障害の症状の進行を遅らせ、及び/またはその病態の進行を遅らせることを包含し得る。
【0104】
組成物の「有効量」または「治療有効量」は、組成物を投与する対象に有益な効果を提供するのに十分な組成物の量を含む。送達ビヒクルの「有効量」は、組成物を効果的に結合または送達するのに十分な量を含む。
【0105】
「個体」または「宿主」または「対象」または「患者」とは、診断、治療、または療法が望まれる任意の哺乳類対象、特にヒトを意味する。他の対象として、ウシ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマなどが挙げられ得る。
【0106】
本明細書中で使用する用語「~と併用して」とは、例えば、第2の療法の投与の全過程の間に第1の療法を投与する場合の使用を指し;その場合、第1の療法を第2の療法の投与と重複する期間にわたって投与し、例えば、第2の療法の投与の前に第1の療法の投与が始まり、第2の療法の投与が終わる前に第1の療法の投与が終わり;第1の療法の投与の前に第2の療法の投与が始まり、第1の療法の投与が終わる前に第2の療法の投与が終わり;第2の療法の投与が始まる前に第1の療法の投与が始まり、第1の療法の投与が終わる前に第2の療法の投与が終わり;第1の療法の投与が始まる前に第2の療法の投与が始まり、第2の療法の投与が終わる前に第1の療法の投与が終わる。そのように、「併用して」はまた、2つ以上の療法の投与を含むレジメンを指し得る。本明細書中で使用する「~と併用して」とは、同じまたは異なる製剤で、同じまたは異なる経路で、ならびに同じまたは異なる剤形タイプで投与してもよい2つ以上の療法の投与も指す。
【0107】
「コードする」は、定義されたヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNA及びmRNA)または定義されたアミノ酸配列のいずれか、及びそれから生じる生物学的特性を有し、生物学的プロセスにおいて他のポリマー及び高分子を合成するための鋳型として機能する、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどのポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特定の配列の固有の性質を含む。したがって、例えば、遺伝子に対応するmRNAの転写及び翻訳が細胞または他の生物系においてタンパク質を産生する場合、その遺伝子はタンパク質をコードする。コード鎖(そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、多くの場合、配列表に提供されているコード鎖)、及び非コード鎖(遺伝子またはcDNAを転写するための鋳型として使用される非コード鎖)のいずれも、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると呼ぶことができる。
【0108】
用語「核酸」は、一本鎖、二本鎖、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む任意の形態の複数のヌクレオチドを有するRNAまたはDNA分子を含む。用語「ヌクレオチド配列」は、一本鎖形態の核酸中のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドにおけるヌクレオチドの順序を含む。
【0109】
「核酸構築物」とは、天然においては一緒に見出されることのない1つ以上の機能単位を含むように構築された核酸配列を意味する。例として、環状、直鎖状、二本鎖、染色体外DNA分子(プラスミド)、コスミド(ラムダファージ由来のCOS配列を含むプラスミド)、非天然核酸配列を含むウイルスゲノムなどが挙げられる。
【0110】
本明細書中で使用する用語「作動可能に連結された」とは、第2のポリヌクレオチドと機能的な関係にあるポリヌクレオチド、例えば、2つのポリヌクレオチドのうちの少なくとも一方が、それによって特徴付けられる生理学的効果を他方に対して発揮することができるような様式で核酸部分内に配置された2つのポリヌクレオチドを含む一本鎖または二本鎖核酸部分を含む。例として、遺伝子のコード領域に作動可能に連結されたプロモーターは、コード領域の転写を促進することができる。作動可能な連結を示すときに特定される順序は重要ではない。例えば、語句:「プロモーターはヌクレオチド配列に作動可能に連結される」及び「ヌクレオチド配列はプロモーターに作動可能に連結される」は、本明細書中では同じ意味で使用され、同等とみなされる。いくつかの場合では、所望のタンパク質をコードする核酸がプロモーター/調節配列をさらに含む場合、そのプロモーター/調節配列は、細胞内で所望のタンパク質の発現を駆動するように所望のタンパク質コード配列の5’末端に位置する。
【0111】
本明細書中で同じ意味で使用する用語「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」、及び「核酸分子」は、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのいずれかの、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。したがって、この用語には、一本鎖、二本鎖、もしくは多重鎖のDNAもしくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、またはプリン及びピリミジン塩基を含むポリマー、あるいは他の天然の、化学的または生化学的に修飾された、非天然の、または誘導体化されたヌクレオチド塩基が含まれるが、これらに限定されない。ポリヌクレオチドの骨格は、糖及びリン酸基(一般的にRNAまたはDNAに見出され得るような)、または修飾もしくは置換された糖もしくはリン酸基を含み得る。
【0112】
ポリヌクレオチドに適用される用語「組換え」とは、そのポリヌクレオチドが、天然に見出されるポリヌクレオチドとは区別される及び/または異なる構築物をもたらすような、クローニング、制限またはライゲーション工程、及び他の手順の様々な組み合わせの産物であることを意味する。この用語には、元のポリヌクレオチド構築物の複製物及び元のウイルス構築物の子孫がそれぞれ含まれる。
【0113】
本明細書中で使用する用語「プロモーター」は、転写される核酸配列、例えば所望の分子をコードする核酸配列に作動可能に連結されたDNA配列を含む。プロモーターは一般的に、転写される核酸配列の上流に位置し、RNAポリメラーゼ及び他の転写因子による特異的結合のための部位を提供する。
【0114】
「ベクター」は、遺伝子配列を標的細胞に導入することができる。一般的には、「ベクター構築物」、「発現ベクター」、及び「遺伝子導入ベクター」とは、目的の遺伝子の発現を指示することができ、遺伝子配列を標的細胞に導入することができる任意の核酸構築物を意味し、導入は、ベクターの全部もしくは一部をゲノムへ組み込むか、または染色体外エレメントとしてベクターを一過性にもしくは遺伝性に維持することによって達成することができる。したがって、この用語には、クローニング、及び発現ビヒクル、ならびに組込みベクターが含まれる。
【0115】
本明細書中で使用する用語「調節エレメント」は、核酸配列の発現のいくつかの態様を制御するヌクレオチド配列を含む。調節エレメントの例として、例えば、核酸配列の複製、転写、及び/または転写後プロセシングに寄与する、エンハンサー、配列内リボソーム進入部位(IRES)、イントロン、複製起点、ポリアデニル化シグナル(pA)、プロモーター、エンハンサー、転写終結配列、及び上流調節ドメインが挙げられる。場合によっては、調節エレメントはまた、シス調節DNAエレメントならびに転位因子(TE)を含み得る。当業者であれば、日常的な実験だけで、発現構築物中のこれら及び他の調節エレメントを選択し、使用することができる。発現構築物は、遺伝子組換えアプローチを用いて、または周知の方法論を使用して合成的に生成することができる。
【0116】
「制御エレメント」または「制御配列」は、ポリヌクレオチドの複製、複製、転写、スプライシング、翻訳、または分解を含む、ポリヌクレオチドの機能的調節に寄与する分子の相互作用に関与するヌクレオチド配列である。調節は、プロセスの頻度、速度、または特異性に影響を及ぼす場合があり、本質的に促進性または抑制性であり得る。当技術分野において公知の制御エレメントとして、例えば、プロモーター及びエンハンサーなどの転写調節配列が挙げられる。プロモーターは、特定の条件下でRNAポリメラーゼと結合し、多くの場合プロモーターの下流(3’方向)に位置するコード領域の転写を開始することができるDNA領域である。
【0117】
本明細書中で使用する記述、アミノ酸残基が「リン酸化される」とは、リン酸基がアミノ酸残基の側鎖にエステル結合することを意味する。リン酸化され得る一般的なアミノ酸残基として、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、及びチロシン(Tyr)が挙げられる。
【0118】
VIII.抗体
本発明は、413位でリン酸化されたヒトタウタンパク質に結合する抗体及び抗原結合断片に関する。
【0119】
伝統的な抗体構造単位は、一般的に四量体を含む。各四量体は、通常、2つの同一のペアのポリペプチド鎖からなり、各ペアは1つの「軽」鎖(通常、約25kDaの分子量を有する)及び1つの「重」鎖(通常、約50~70kDaの分子量を有する)を有する。ヒト軽鎖は、κ及びλ軽鎖として分類される。本発明は、通常IgGクラスに基づく抗体に関し、これは、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含むがこれらに限定されない、いくつかのサブクラスを有する。一般的に、IgG1、IgG2、及びIgG4は、IgG3よりも高頻度で使用される。IgG1は、356(DまたはE)及び358(LまたはM)に多型を有する異なるアロタイプを有することに留意すべきである。本明細書中に示す配列は356D/358Lアロタイプを使用するが、他のアロタイプも本明細書中に含まれる。すなわち、本明細書に含まれるIgG1 Fcドメインを含む任意の配列は、356D/358Lアロタイプの代わりに356E/358Mを有することができる。
【0120】
当業者には理解されるように、CDRの正確なナンバリング及び配置は、異なるナンバリングシステム間で異なり得る。しかしながら、可変重鎖及び/または可変軽鎖配列の開示は、関連する(固有の)CDRの開示を含むことを理解すべきである。したがって、各可変重鎖領域の開示はvhCDR(例えばvhCDR1、vhCDR2及びvhCDR3)の開示であり、各可変軽鎖領域の開示はvlCDR(例えばvlCDR1、vlCDR2及びvlCDR3)の開示である。
【0121】
抗体のCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3のそれぞれの配列の同定方法として:Kabatの方法(Kabat et al.,The Journal of Immunology,1991,Vol.147,No.5,pp.1709-1719)及びChothiaの方法(Al-Lazikani et al.,Journal of Molecular Biology,1997,Vol.273,No.4,pp.927-948)が挙げられる。これらの方法は、当業者にとって技術的な常識の範囲内であり、その概要は、例えば、Andrew C.R.Martin博士のグループのウェブサイト(http://www.bioinf.org.uk/abs/)で入手可能である。
【0122】
CDRナンバリングの有用な比較は以下の通りである(Lafranc et al.,Dev.Comp.Immunol.27(1):55-77(2003)参照):
表1
【表2】
【0123】
本明細書を通して、可変ドメイン中の残基(おおよそ、軽鎖可変領域の残基1~107及び重鎖可変領域の残基1~113)を指す場合にはKabatナンバリングシステムを、Fc領域などの定常領域に対してはEUナンバリングシステムを、通常用いる(例えば、Kabat et al.、前出(1991))。
【0124】
本発明は多くの異なるCDRセットを提供する。この場合、「完全CDRセット」は、3つの可変軽鎖CDRと3つの可変重鎖CDR、例えば、vlCDR1、vlCDR2、vlCDR3、vhCDR1、vhCDR2及びvhCDR3を含む。これらは、それぞれ、より大きい可変軽鎖または可変重鎖ドメインの一部であり得る。さらに、本明細書においてより十分に概説するように、可変重鎖及び可変軽鎖ドメインは、重鎖及び軽鎖を使用する場合(例えば、Fabを使用する場合)、別々のポリペプチド鎖上に、またはscFv配列の場合、単一のポリペプチド鎖上にあり得る。
【0125】
CDRは、抗原結合、またはより具体的には抗体のエピトープ結合部位の形成に寄与する。「エピトープ」とは、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域中の特異的抗原結合部位と相互作用する決定基を指す。エピトープは、アミノ酸または糖側鎖などの分子のグループであり、通常、特定の構造的特徴及び特定の電荷特性を有する。単一の抗原が複数のエピトープを有していてもよい。
【0126】
この場合、エピトープは、本発明の抗体の結合に直接関与するアミノ酸残基だけでなく、Ser413でのリン酸化も含む。
【0127】
各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能に関与する定常領域を規定する。Kabatらは、重鎖及び軽鎖の可変領域の多数の一次配列を収集した。それらの配列の保存度に基づいて、個々の一次配列をCDRとフレームワークとに分類し、そのリストを作成した(全体を参照により援用する、SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST,5th edition,NIH publication,No.91-3242,E.A.Kabat et al.参照)。
【0128】
免疫グロブリンのIgGサブクラスにおいて、重鎖にはいくつかの免疫グロブリンドメインが存在する。本明細書における「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」とは、異なる三次構造を有する免疫グロブリンの領域を意味する。本発明において興味深いのは、定常重鎖(CH)ドメイン及びヒンジドメインを含む重鎖ドメインである。IgG抗体に関しては、IgGアイソタイプはそれぞれ3つのCH領域を有する。したがって、IgGに関する「CH」ドメインは、以下の通りである:「CH1」は、Kabatに記載のEUインデックスよる118~220位を指す。「CH2」は、Kabatに記載のEUインデックスによる237~340位を指し、「CH3」は、Kabatに記載のEUインデックスによる341~447位を指す。
【0129】
重鎖の別の種類のIgドメインはヒンジ領域である。本明細書における「ヒンジ」または「ヒンジ領域」または「抗体ヒンジ領域」または「免疫グロブリンヒンジ領域」とは、抗体の第1の定常ドメインと第2の定常ドメインとの間のアミノ酸を含む柔軟なポリペプチドを意味する。構造的には、IgG CH1ドメインはEU220位で終わり、IgG CH2ドメインはEU237位の残基で始まる。したがって、IgGに関して抗体ヒンジは、本明細書では221位(IgG1ではD221)~236位(IgG1ではG236)を含むものと定義され、その場合、ナンバリングはKabatに記載のEUインデックスに従う。いくつかの実施形態では、例えばFc領域に関して、下側ヒンジが含まれ、「下側ヒンジ」は通常、226位または230位を指す。本明細書に記載するように、ヒンジ領域においてもpI変異体を作製することができる。
【0130】
軽鎖は一般的に、2つのドメイン、可変軽鎖ドメイン(軽鎖CDRを含み、可変重鎖ドメインと共にFv領域を形成する)、及び定常軽鎖領域(しばしばCLまたはCκと呼ばれる)を含む。
【0131】
下記に概説するさらなる置換についての別の関心のある領域は、Fc領域である。
【0132】
したがって、本発明は異なる抗体ドメインを提供する。本明細書中に記載され、当技術分野において公知であるように、本発明の抗体は、重鎖及び軽鎖内に異なるドメインを含み、それらもまた重複し得る。これらのドメインとして、Fcドメイン、CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、ヒンジドメイン、重鎖定常ドメイン(CH1-ヒンジ-FcドメインまたはCH1-ヒンジ-CH2-CH3)、可変重鎖ドメイン、可変軽鎖ドメイン、軽鎖定常ドメイン、Fabドメイン及びscFvドメインが挙げられるが、これらに限定されない。
【0133】
したがって、「Fcドメイン」には、-CH2-CH3ドメイン、及び場合によりヒンジドメインが含まれる。重鎖は、可変重鎖ドメイン及び定常ドメインを含み、定常ドメインは、CH2-CH3を含むCH1-ヒンジ-Fcドメインを含む。軽鎖は、可変軽鎖及び軽鎖定常ドメインを含む。scFvは、可変重鎖、scFvリンカー、及び可変軽鎖ドメインを含む。本発明のいくつかの実施形態は、少なくとも1つのscFvドメインを含み、それは天然には存在しないが、一般的にscFvリンカーによって連結された可変重鎖ドメインと可変軽鎖ドメインを含む。本明細書に概説するように、scFvドメインは、通常、N末端からC末端にかけてvh-scFvリンカー-vlという向きになるが、任意のscFvドメイン(またはFab由来のvh及びvl配列を用いて構築されるもの)について、これを逆向きにvl-scFvリンカー-vhとすることができる。
【0134】
本明細書中に示すように、組換え技術によって生成される、伝統的なペプチド結合を含む、使用可能な多くの適切なscFvリンカーがある。リンカーペプチドは、主に以下のアミノ酸残基:Gly、Ser、Ala、またはThrを含み得る。リンカーペプチドは、それらが所望の活性を保持するように、それらが互いに対して正しい立体配座をとるように2つの分子を連結するのに十分な長さを有するべきである。一実施形態では、リンカーは、約1~50アミノ酸長、好ましくは約1~30アミノ酸長である。一実施形態では、1~20アミノ酸長のリンカーを使用してもよく、いくつかの実施形態では、約5~約10アミノ酸を使用する。有用なリンカーとして、例えば(GS)n、(GSGGS)n、(GGGGS)n、及び(GGGS)nを含むグリシン-セリンポリマー(式中、nは、少なくとも1(そして一般的には3~4)の整数である)、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、及び他の柔軟なリンカーが挙げられる。あるいは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体が挙げられるがこれらに限定されない様々な非タンパク質性ポリマーをリンカーとして利用してもよく、すなわちリンカーとして利用し得る。
【0135】
他のリンカー配列は、任意の長さのCL/CH1ドメインの任意の配列;例えば、CL/CH1ドメインの最初の5~12アミノ酸残基を含み得るが、CL/CH1ドメインの全ての残基を含むことはできない。リンカーは、免疫グロブリン軽鎖、例えばCκまたはCλに由来し得る。リンカーは、例えばCγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cα1、Cα2、Cδ、Cε、及びCμを含む任意のアイソタイプの免疫グロブリン重鎖に由来し得る。リンカー配列はまた、Ig様タンパク質(例えば、TCR、FcR、KIR)などの他のタンパク質、ヒンジ領域由来の配列、及び他のタンパク質由来の他の天然配列に由来し得る。
【0136】
いくつかの実施形態では、リンカーは、本明細書に概説するように任意の2つのドメインを共に連結するために使用される「ドメインリンカー」である。任意の適切なリンカーを使用することができるが、多くの実施形態は、例えば(GS)n、(GSGGS)n、(GGGGS)n、及び(GGGS)nを含むグリシン-セリンポリマー(式中、nは少なくとも1(そして一般的には3~4~5)の整数である)ならびに十分な長さと柔軟性を有して2つのドメインの組換え結合を可能にする任意のペプチド配列を利用して、各ドメインがその生物学的機能を保持できるようにする。
【0137】
A.キメラ抗体及びヒト化抗体
いくつかの実施形態では、本明細書の抗体は、異なる種由来の混合物に由来するもの、例えば、キメラ抗体及び/またはヒト化抗体であり得る。一般的に、「キメラ抗体」及び「ヒト化抗体」はいずれも、複数の種由来の領域を組み合わせた抗体を指す。例えば、「キメラ抗体」は、伝統的にマウス(またはいくつかの場合ではラット)由来の可変領域(複数可)とヒト由来の定常領域(複数可)を含む。「ヒト化抗体」は、一般的に、可変ドメインフレームワーク領域をヒト抗体に見出される配列と交換した非ヒト抗体を指す。一般的に、ヒト化抗体において、CDRを除く抗体全体は、ヒト起源のポリヌクレオチドによってコードされているか、またはそのCDR内を除いてそのような抗体と同一である。その一部または全部が非ヒト生物由来の核酸によってコードされているCDRを、ヒト抗体可変領域のβシートフレームワークに移植して抗体を作製する(その特異性は移植されたCDRによって決定される)。そのような抗体の作製は、例えば、WO92/11018,Jones,1986,Nature 321:522-525、Verhoeyen et al.,1988,Science 239:1534-1536に記載されており、これらはいずれも全体を参照により本明細書に援用する。初期の移植構築物において失われる親和性を取り戻すために、選択したアクセプターフレームワーク残基の対応するドナー残基への「逆突然変異」が多くの場合に必要とされる(US5530101;US5585089;US5693761;US5693762;US6180370;US5859205;US5821337;US6054297;US6407213、いずれもその全体を参照により本明細書に援用する)。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部、一般的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含み、したがって一般的にはヒトFc領域を含む。ヒト化抗体はまた、遺伝子改変した免疫系を有するマウスを用いて作製することもできる。Roque et al.,2004,Biotechnol.Prog.20:639-654、その全体を参照により援用する。非ヒト抗体をヒト化及び再形成するための様々な技術及び方法が当技術分野において周知である(いずれも全体を参照により本明細書に援用するTsurushita & Vasquez,2004,Humanization of Monoclonal Antibodies,Molecular Biology of B Cells,533-545,Elsevier Science(USA)、及び前記文献中に引用されている参考文献参照)。ヒト化方法として、いずれも全体を参照により援用するJones et al.,1986,Nature 321:522-525;Riechmann et al.,1988;Nature 332:323-329;Verhoeyen et al.,1988,Science,239:1534-1536;Queen et al.,1989,Proc Natl Acad Sci,USA 86:10029-33;He et al.,1998,J.Immunol.160:1029-1035;Carter et al.,1992,Proc Natl Acad Sci USA 89:4285-9,Presta et al.,1997,Cancer Res.57(20):4593-9;Gorman et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:4181-4185;O’Connor et al.,1998,Protein Eng 11:321-8に記載されている方法が挙げられるが、これらに限定されない。非ヒト抗体可変領域の免疫原性を低下させるヒト化または他の方法として、例えば、全体を参照により援用するRoguska et al.,1994,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:969-973に記載されているような表面再構成法が挙げられ得る。
【0138】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、特定の生殖系列重鎖免疫グロブリン遺伝子由来の重鎖可変領域及び/または特定の生殖系列軽鎖免疫グロブリン遺伝子由来の軽鎖可変領域を含む。例えば、そのような抗体は、特定の生殖系列配列「の産物」または「由来」である重鎖または軽鎖可変領域を含むヒト抗体を含むかまたはそれからなっていてもよい。ヒト生殖系列免疫グロブリン配列「の産物」または「由来」であるヒト抗体は、ヒト抗体のアミノ酸配列をヒト生殖系列免疫グロブリンのアミノ酸配列と比較し、ヒト抗体の配列に最も近い配列(すなわち、最大の同一性%)であるヒト生殖系列免疫グロブリン配列を選択することによって、それ自体同定することができる。特定のヒト生殖系列免疫グロブリン配列「の産物」または「由来」であるヒト抗体は、生殖系列配列と比較して、例えば、自然発生的な体細胞変異または意図的な部位特異的突然変異導入に起因するアミノ酸の差異を含み得る。しかしながら、ヒト化抗体は、一般的には、アミノ酸配列において、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に対して少なくとも80%同一であり、他の種の生殖系列免疫グロブリンアミノ酸配列(例えば、マウス生殖系列配列)と比較した場合、抗体がヒト配列由来のものであると同定させるアミノ酸残基を含む。特定の場合では、ヒト化抗体は、アミノ酸配列において、生殖系列免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に対して少なくとも95、96、97、98もしくは99%、またはさらに少なくとも96%、97%、98%、もしくは99%同一であり得る。一般的には、特定のヒト生殖系列配列に由来するヒト化抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と10~20アミノ酸以下の差異しか示さないであろう。特定の場合では、ヒト化抗体は、生殖系列免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と、5以下、またはさらには4、3、2、もしくは1以下のアミノ酸の差異を示し得る。
【0139】
一実施形態では、当技術分野で公知のように、親抗体は親和性成熟している。例えば米国特許第7,657,380号に記載されているように、構造に基づく方法をヒト化及び親和性成熟のために使用してもよい。選択に基づく方法を用いて、抗体可変領域をヒト化及び/または親和性成熟させてもよく、その方法として、いずれもその全体を参照により本明細書に援用するWu et al.,1999,J.Mol.Biol.294:151-162;Baca et al.,1997,J.Biol.Chem.272(16):10678-10684;Rosok et al.,1996,J.Biol.Chem.271(37):22611-22618;Rader et al.,1998,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:8910-8915;Krauss et al.,2003,Protein Engineering 16(10):753-759に記載されている方法が挙げられるが、これらに限定されない。他のヒト化方法は、いずれも全体を参照により本明細書に援用するTan et al.,2002,J.Immunol.169:1119-1125;De Pascalis et al.,2002,J.Immunol.169:3076-3084に記載されている方法を含むがこれらに限定されない、CDRの一部分のみを移植することを含み得る。
【0140】
用語「抗体」は、最も広い意味で使用し、例えば、インタクトな免疫グロブリンまたは抗原結合部分を含む。抗原結合部分は、組換えDNA技術によって、またはインタクトな抗体の酵素的もしくは化学的切断によって産生し得る。したがって、抗体という用語には、伝統的な2つの重鎖と2つの軽鎖の四量体抗体、ならびにFv、Fab及びscFvなどの抗原結合断片が含まれる。いくつかの場合では、本発明は、本明細書に概説するように少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む二重特異性抗体を提供する。
【0141】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、好ましくは血漿中動態の向上を示すべきである。本明細書におけるヒト化抗体の血漿中動態の向上とは、血漿中のヒト化抗体の動態を表すパラメータが、ヒト化抗体に対応する非ヒト化抗体に比べて改変されていることを意味する。血漿中動態を表すパラメータの例として:血漿内半減期、血漿中の平均滞留時間、及び血漿クリアランスが挙げられる。そのようなパラメータが「改変された」とは、そのパラメータが増加または減少したことを意味する。ヒト化抗体に「対応する」非ヒト化抗体とは、ヒト化抗体を産生するための基礎として用いられる非ヒト化抗体、例えばマウス抗体またはキメラ抗体を意味する。
【0142】
用語「キメラ抗体」とは、1つの抗体由来の1つ以上の領域と1つ以上の他の抗体由来の1つ以上の領域とを含む抗体を指す。「CDR移植抗体」とは、特定の種またはアイソタイプの抗体に由来する1つ以上のCDR、及び同じまたは異なる種またはアイソタイプの別の抗体のフレームワークを含む抗体である。
【0143】
IX.組成物
本発明は、「抗原-抗体反応」において、Ser413でリン酸化された(pSer413)ヒトタウタンパク質に結合する多くの異なる抗原結合ドメイン(通常、抗体に組み込まれる)を提供する。
【0144】
「抗原-抗体反応」は、リン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチドに対する抗体の親和性、すなわち平衡解離定数(KD)によって測定される。特定の実施形態では、リン酸化タウタンパク質を用いてKD値を測定する。いくつかの実施形態では、リン酸化タウペプチドを用いてKD値を測定する。一実施形態では、リン酸化タウペプチドは1残基のみでリン酸化されている(例えば、配列番号75)。別の実施形態では、リン酸化ペプチドは複数の残基でリン酸化されている(例えば、配列番号76または配列番号78)。いくつかの実施形態では、固定化した抗原(例えば、リン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチド)を用いてKD値を測定し、その場合、親和性測定は、結合活性成分を含む、すなわち二価結合様式である。他の実施形態では、固定化した抗体(例えば、マウス親抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体変異体)を用いてKD値を測定し、その場合、親和性測定は結合活性成分を含まない、すなわち一価結合様式である。さらに他の実施形態では、固定化した抗体及び分析物としてリン酸化タウタンパク質を用いてKD値を測定する。さらに他の実施形態では、固定化した抗体及び分析物としてリン酸化ペプチドを用いてKD値を測定する。特定の実施形態では、二価結合様式でKD値を測定する。他の実施形態では、一価結合様式でKD値を測定する。
【0145】
したがって、特定の実施形態では、KD値は5×10-8M以下であり;いくつかの実施形態では、KD値は5×10-9M以下であり;他の実施形態では、KD値は5×10-10M以下であり;さらに他の実施形態では、KD値は1.86×10-8M以下であり;さらに他の実施形態では、KD値は2×10-9M以下であり;さらに他の実施形態では、KD値は2×10-10M以下である。特定の実施形態では、本明細書に開示する抗体は、固定化した抗体及び分析物としてリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチドを用いて測定される5×10-8M以下のKDでリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチドに結合する。別の特定の実施形態では、本明細書に開示する抗体は、固定化したリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチド及び分析物として抗体を用いて測定される5×10-9M以下のKDでリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチドに結合する。さらに別の特定の実施形態では、本明細書に開示する抗体は、固定化したリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチド及び分析物として抗体を用いて測定される2×10-9M以下のKDでリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチドに結合する。別の特定の一実施形態では、本明細書に開示する抗体は、固定化したリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチド及び分析物として抗体を用いて測定される5×10-10M以下のKDでリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチドに結合する。別の特定の実施形態では、本明細書に開示する抗体は、固定化したリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチド及び分析物として抗体を用いて測定される2×10-10M以下のKDでリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチドに結合する。
【0146】
さらに、本明細書に概説するように、本発明の抗体は、413位にリン酸を含まないタンパク質またはペプチドよりも、S413位でリン酸化されているタウペプチドまたはタンパク質に優先的に結合する。
【0147】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、本発明によるリン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチドと抗原-抗体反応を引き起こすことができる抗体である。
【0148】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体が抗原-抗体反応を引き起こすことができるリン酸化タウタンパク質及びタウペプチドは、ADなどの神経変性疾患において特異的にリン酸化されるアミノ酸残基においてリン酸化されているタウタンパク質及びタウペプチドである。具体的には、そのようなタウタンパク質及びタウペプチドは、配列番号1に定義されるアミノ酸配列の少なくとも413位のセリン残基(Ser413)においてリン酸化されており、またアミノ酸番号410~421に対応する1つ以上のアミノ酸残基、すなわち、配列番号1に定義されるアミノ酸配列のうち、412位のセリン残基(Ser412)、414位のトレオニン残基(Thr414)、及び416位のセリン残基(Ser416)に対応する1つ以上のアミノ酸残基においてリン酸化されていてもよい。一般的なそのようなリン酸化ペプチドとして:配列番号7に定義されるアミノ酸配列を有するpSer412/pSer413(Cys-);配列番号8に定義されるアミノ酸配列を有するpSer413(Cys-)、及び配列番号9に定義されるアミノ酸配列を有するpSer409/pSer412/pSer413(Cys-)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0149】
本発明によるリン酸化タウペプチドは、本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体の製造に、または反応性を研究するための抗原として使用することができる。
【0150】
本発明によるリン酸化タウペプチドは、当業者が適切な合成方法または遺伝子工学的方法を用いることによって製造することができる。合成によりリン酸化ペプチドを製造する方法として、Boc法(Wakamiya T.,Chemistry Letters,Vol.22,p.1401,1993)、Fmoc法(Perich,J.W.,International Journal of Peptide and Protein Research,Vol.40,pp.134-140,1992)及びJP3587390B及びWO2013/180238が挙げられるが、当業者であれば、必要に応じて他の任意の方法を使用することができる。遺伝子工学的にリン酸化ペプチドを製造する方法の例として、製造しようとするペプチドまたはその前駆体をコードする核酸配列を有する遺伝物質(DNAまたはRNA)を調製し、発現ベクターへの導入及びプロモーター配列の付加などの任意の工程の後に、発現のために適切な宿主に導入するか、または無細胞タンパク質合成系に供する方法が挙げられる。この場合、宿主固有のものでも遺伝子工学的に発現させるものでもよいキナーゼなどの酵素を用いて宿主内でリン酸化反応を引き起こすことにより、または目的とするペプチドを宿主から回収し、キナーゼなどの酵素を用いてリン酸化反応を引き起こすことにより、所望の部位でペプチドをリン酸化することができる。後者の場合、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)またはサイクリン依存性プロテインキナーゼ5(CDK5)などの、タウのリン酸化反応において役割を果たすことが知られている酵素に標的ペプチドを供することにより、in vitroでリン酸化反応を引き起こすことができる。上記の方法に従って宿主内またはin vitroでリン酸化したペプチドの中から、例えば抗体-抗原反応を介して上記の抗リン酸化タウ抗体に特異的に結合するものを選択することによって、所望のアミノ酸残基でリン酸化されたペプチドを回収することができる。
【0151】
本発明によるリン酸化タウペプチドは、そのN末端配列及び/またはC末端配列において、所望の目的に適した他の機能を有する物質で修飾することができる。例えば、本発明によるリン酸化タウペプチドは、そのN末端及び/またはC末端に、例えばメチオニン残基、アセチル基またはピログルタミン酸を付加するか、またはそのN末端及び/またはC末端を、例えば蛍光物質で修飾することができる。あるいは、本発明によるリン酸化タウペプチドのN末端及び/またはC末端を、例えばペプチドまたはタンパク質で修飾してもよい。そのような修飾に使用可能なペプチドの例として、適切なタグ配列(一般的にはヒスチジンタグまたはFLAGタグ)、T細胞受容体(TCR)または主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によって認識され得るアミノ酸配列を有するペプチド、そのようなタンパク質に由来する配列を有するウイルスまたは細菌またはペプチド由来のタンパク質が挙げられる。さらに、本発明によるリン酸化タウペプチドには、N末端及びC末端以外のアミノ酸残基が他の任意の化合物またはペプチドで修飾された少なくとも1つのアミノ酸残基を有するものが含まれる。当業者であれば、リン酸化タウペプチドへのそのような修飾を、任意の公知の方法、例えば、Hermanson et al.,“Bioconjugate Techniques”,(US),Academic Press,1996に記載されている方法を用いて実施することができよう。
【0152】
当業者であれば、固相または液相の系において適切な結合アッセイを選択することにより、抗原-抗体反応の測定を実行することができよう。そのようなアッセイの例として、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、酵素免疫アッセイ(EIA)、表面プラズモン共鳴(SPR)、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、及び発光共鳴エネルギー移動(LRET)が挙げられるが、これらに限定されない。抗原-抗体結合親和性の測定は、例えば、抗体及び/または抗原を、例えば、酵素、蛍光物質、発光物質、または放射性同位元素で標識し、使用する標識に特徴的な物理的及び/または化学的特性を測定するのに適した方法を用いて抗原-抗体反応を検出することによって行うことができる。
【0153】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、好ましくは、非リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドに対するその結合親和性に比べて、リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドに対してより高い選択的結合親和性を有するべきである。これに関して、リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドへの抗体の選択的結合親和性の向上とは、リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドへの抗体の結合親和性の、対応する非リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドへのその結合親和性に対する比が増加することを意味する。そのような選択的結合親和性は、例えば、リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドを固定化したプレート及び対応する非リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドを固定化したプレートを用いて、例えば、ELISA(例えば、発光波長の吸光度OD値として)によりこれらのタンパク質またはペプチドの各々に対する抗体の結合親和性を測定することにより、及びリン酸化タウタンパク質またはタウペプチドについて得られた結合親和性の値(例えば、吸光度OD値)を、対応する非リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドについて得られた値で割ることにより、分析できる。ELISAのための特定の条件は、以下の実施例の節に記載するものであってもよい。
【0154】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、以下の実施例2に記載の方法に従って選択的結合親和性を求める限りにおいて、好ましくは、リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドへの選択的結合親和性の、非リン酸化タウタンパク質またはタウペプチドへの結合親和性に対する比が、少なくとも約40以上、特に少なくとも約50以上、より特に少なくとも約60以上であるべきである。一実施形態では、配列番号8などのリン酸化ペプチドへの抗pSer413タウ抗体の結合親和性と、配列番号69の非リン酸化ペプチドへの結合親和性とを比較することによって比を計算する。
【0155】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、好ましくは、血中に投与した場合に、脳への進入能力の向上を示すべきである。これに関連して、血中に投与した場合の抗体の脳への進入能力の向上とは、抗体をヒトまたは他の任意の哺乳類(例えば、マウスまたはラット)の血中に投与した場合に、血漿中の抗体濃度に対する脳内の抗体濃度の比が増加することを意味する。抗体の脳への進入能力は、例えば、血液を介して抗体を動物(例えば、マウスまたはラット)に投与し、所定の期間(例えば、1週間)後に、血液を採取し、脳ホモジネートを調製し、得られた血漿試料及び得られた脳ホモジネート試料それぞれの抗体濃度を公知の方法(例えば、抗ヒトポリクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA)を用いて測定し、脳内の抗体濃度を血漿中の抗体濃度で割ることにより分析できる。ELISAのための特定の条件は、以下の実施例の節に記載されているものであってもよい。脳へ進入する抗体の濃度は、一般的には血漿中の濃度の約0.1~0.3%であることが知られている。
【0156】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、以下の実施例の「[7]実施例7:脳内移行の分析」の節に記載する方法に従ってその比を求める限りにおいて、好ましくは、脳内の抗体濃度が血漿中の抗体濃度に対して、0.30%以上、特に0.35%以上、より特別には0.40%以上、さらにより特別には0.45%以上の比を有するべきである。
【0157】
A.本発明の抗原結合ドメイン
本発明は、本明細書中に記載するように、Ser413でリン酸化されていないタウタンパク質への結合よりもヒトpSer413タウタンパク質に優先的に結合する抗原結合ドメインを提供する。
【0158】
一実施形態では、本発明は、配列番号91を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含む抗原結合ドメインを提供する。
【0159】
一実施形態では、本発明は、配列番号92を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含む抗原結合ドメインを提供する。
【0160】
一実施形態では、本発明は、配列番号93を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含む抗原結合ドメインを提供する。
【0161】
一実施形態では、本発明は、配列番号94を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含む抗原結合ドメインを提供する。
【0162】
一実施形態では、本発明は、配列番号95を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含む抗原結合ドメインを提供する。
【0163】
一実施形態では、本発明は、配列番号96を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含む抗原結合ドメインを提供する。
【0164】
一実施形態では、本発明は、配列番号97を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含む抗原結合ドメインを提供する。
【0165】
一実施形態では、本発明は、配列番号98を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含む抗原結合ドメインを提供する。
【0166】
一実施形態では、本発明は、配列番号99を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含む抗原結合ドメインを提供する。
【0167】
一実施形態では、本発明は、配列番号100を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含む抗原結合ドメインを提供する。
【0168】
一実施形態では、本発明は、配列番号101を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含む抗原結合ドメインを提供する。
【0169】
一実施形態では、本発明は、配列番号102を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2;配列番号83を有するvlCDR3;配列番号86を有するvhCDR1;配列番号115を有するvhCDR2;及び配列番号88を有するvhCDR3を含む抗原結合ドメインを提供する。
【0170】
本発明は、ヒトpSer413タウタンパク質に対する抗原結合ドメインを提供する。実施例に示すように、多くのヒト化可変重鎖及び可変軽鎖ドメインを提供し、これらは、任意の組み合わせで組み合わせることができ、任意の組み合わせでヒトIgG定常ドメインに付加することができる。
【0171】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46(配列番号84)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせて、pSer413タウに結合するFvドメインを形成する。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0172】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46(配列番号84)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0173】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL47(配列番号104)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0174】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL47(配列番号104)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0175】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34A(配列番号105)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0176】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34A(配列番号105)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0177】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34S(配列番号106)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0178】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34S(配列番号106)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0179】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34T(配列番号107)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0180】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34T(配列番号107)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0181】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33Q(配列番号108)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0182】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33Q(配列番号108)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0183】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33Q_G34A(配列番号109)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0184】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33Q_G34A(配列番号109)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0185】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33D(配列番号110)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0186】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33D(配列番号110)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0187】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33S(配列番号111)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0188】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33S(配列番号111)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0189】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33T(配列番号112)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0190】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_N33T(配列番号112)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0191】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_S28N(配列番号113)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0192】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_S28N(配列番号113)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0193】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34A_S28N(配列番号114)を可変重鎖ドメインTa1505-VH11(配列番号116)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0194】
一実施形態では、可変軽鎖ドメインTa1505-VL46_G34A_S28N(配列番号114)を可変重鎖ドメインTa1505-VH65(配列番号117)と組み合わせる。この実施形態では、ヒト重鎖定常ドメインは、配列番号s118、119、120、121、122、123、124、125、及び126、ならびにヒト軽鎖κ定常ドメイン、配列番号52から選択される。
【0195】
本発明のヒト化抗リン酸化タウ抗体はまた、具体的に後述するように、好ましくは特定のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を有するべきである。
【0196】
重鎖可変領域として、本発明の抗体は、配列VH11(配列番号18に定義される)、配列VH12(配列番号20に定義される)、配列VH47(配列番号22に定義される)、VH61(配列番号24に定義される)、配列VH62(配列番号26に定義される)、配列VH64(配列番号28に定義される)、及び配列VH65(配列番号30に定義される)から選択される配列と、好ましくは、80%以上、特に85%以上、より特別には90%以上、さらにより特別には95%以上、さらにより特別には100%の同一性を有するアミノ酸配列を有するべきである。一実施形態では、本発明の抗体は、重鎖可変領域として、配列VH65のアミノ酸配列、または:28位のAla(Kabat番号:H28)からThrへの置換;30位のAsn(Kabat番号:H30)からSerへの置換;49位のVal(Kabat番号:H49)からGlyへの置換;64位のAla(Kabat番号:H61)からAspへの置換;及び78位のGln(Kabat番号:H75)からLysへの置換からなる群から選択される1つ以上の置換による配列VH65に由来するアミノ酸配列を含み得る。
【0197】
軽鎖可変領域として、本発明の抗体は、配列VL15(配列番号32に定義される)、配列VL36(配列番号34に定義される)、配列VL46(配列番号36に定義される)、VL47(配列番号38に定義される)、配列VL48(配列番号40に定義される)、及び配列VL50(配列番号42に定義される)から選択される配列と、好ましくは、80%以上、特に85%以上、より特別には90%以上、さらにより特別には95%以上、さらにより特別には100%の同一性を有するアミノ酸配列を有するべきである。一実施形態では、本発明の抗体は、軽鎖可変領域として、配列VL47のアミノ酸配列、または:17位のAsp(Kabat番号:L17)からGluへの置換;28位のSer(Kabat番号:L27A)からAsnへの置換;42位のGln(Kabat番号:L37)からLeuへの置換;50位のGln(Kabat番号:L45)からArgへの置換;及び51位のArg(Kabat番号:L46)からLeuへの置換からなる群から選択される1つ以上の置換による配列VL47に由来するアミノ酸配列を含み得る。
【0198】
別の実施形態では、本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体は、以下から選択される任意の組み合わせを含み得る:
【0199】
(1)重鎖可変領域として配列VH11(配列番号116)及び軽鎖可変領域として配列VL15(配列番号32);
【0200】
(2)重鎖可変領域として配列VH11(配列番号116)及び軽鎖可変領域として配列VL36(配列番号34);
【0201】
(3)重鎖可変領域として配列VH11(配列番号116)及び軽鎖可変領域として配列VL46(配列番号36);
【0202】
(4)重鎖可変領域として配列VH11(配列番号116)及び軽鎖可変領域として配列VL47(配列番号38);
【0203】
(5)重鎖可変領域として配列VH11(配列番号116)及び軽鎖可変領域として配列VL48(配列番号40);
【0204】
(6)重鎖可変領域として配列VH11(配列番号116)及び軽鎖可変領域として配列VL50(配列番号42);
【0205】
(7)重鎖可変領域として配列VH12(配列番号20)及び軽鎖可変領域として配列VL48(配列番号40);
【0206】
(8)重鎖可変領域として配列VH47(配列番号22)及び軽鎖可変領域として配列VL48(配列番号40);
【0207】
(9)重鎖可変領域として配列VH61(配列番号24)及び軽鎖可変領域として配列VL48(配列番号40);
【0208】
(10)重鎖可変領域として配列VH62(配列番号26)及び軽鎖可変領域として配列VL48(配列番号40);
【0209】
(11)重鎖可変領域として配列VH64(配列番号28)及び軽鎖可変領域として配列VL47(配列番号38);
【0210】
(12)重鎖可変領域として配列VH64(配列番号28)及び軽鎖可変領域として配列VL48(配列番号40);
【0211】
(13)重鎖可変領域として配列VH65(配列番号117)及び軽鎖可変領域として配列VL47(配列番号37);
【0212】
上記のものから重鎖及び軽鎖のCDR及び/または可変領域のアミノ酸配列を選択し、それらを必要に応じてヒト抗体の重鎖及び軽鎖のフレームワーク領域及び/または定常領域のアミノ酸配列と組み合わせることによって、当業者であれば本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体を設計することができよう。ヒト抗体の重鎖及び軽鎖のフレームワーク領域及び/または定常領域のアミノ酸配列は、例えば、ヒトIgG、IgA、IgM、IgE、及びIgDサブタイプまたはそれらの変異体のアミノ酸配列から選択することができる。
【0213】
B.特異的抗pSer413タウ抗体
本発明は、以下のような一対の配列、すなわち重鎖及び軽鎖を含む多くの特異的抗体を提供する:
【0214】
mAb-aPT1:配列番号184のLC及び配列番号144のHC
【0215】
mAb-aPT2:配列番号184のLC及び配列番号145のHC
【0216】
mAb-aPT3:配列番号184のLC及び配列番号146のHC
【0217】
mAb-aPT4:配列番号184のLC及び配列番号147のHC
【0218】
mAb-aPT5:配列番号184のLC及び配列番号148のHC
【0219】
mAb-aPT6:配列番号184のLC及び配列番号149のHC
【0220】
mAb-aPT7:配列番号184のLC及び配列番号150のHC
【0221】
mAb-aPT8:配列番号184のLC及び配列番号151のHC
【0222】
mAb-aPT9:配列番号184のLC及び配列番号152のHC
【0223】
mAb-aPT10:配列番号184のLC及び配列番号153のHC
【0224】
mAb-aPT11:配列番号184のLC及び配列番号154のHC
【0225】
mAb-aPT12:配列番号184のLC及び配列番号155のHC
【0226】
mAb-aPT13:配列番号184のLC及び配列番号156のHC
【0227】
mAb-aPT14:配列番号184のLC及び配列番号157のHC
【0228】
mAb-aPT15:配列番号184のLC及び配列番号158のHC
【0229】
mAb-aPT16:配列番号184のLC及び配列番号159のHC
【0230】
mAb-aPT17:配列番号184のLC及び配列番号160のHC
【0231】
mAb-aPT18:配列番号184のLC及び配列番号161のHC
【0232】
mAb-aPT19:配列番号185のLC及び配列番号144のHC
【0233】
mAb-aPT20:配列番号185のLC及び配列番号145のHC
【0234】
mAb-aPT21:配列番号185のLC及び配列番号146のHC
【0235】
mAb-aPT22:配列番号185のLC及び配列番号147のHC
【0236】
mAb-aPT23:配列番号185のLC及び配列番号148のHC
【0237】
mAb-aPT24:配列番号185のLC及び配列番号149のHC
【0238】
mAb-aPT25:配列番号185のLC及び配列番号150のHC
【0239】
mAb-aPT26:配列番号185のLC及び配列番号151のHC
【0240】
mAb-aPT27:配列番号185のLC及び配列番号152のHC
【0241】
mAb-aPT28:配列番号185のLC及び配列番号153のHC
【0242】
mAb-aPT29:配列番号185のLC及び配列番号154のHC
【0243】
mAb-aPT30:配列番号185のLC及び配列番号155のHC
【0244】
mAb-aPT31:配列番号185のLC及び配列番号156のHC
【0245】
mAb-aPT32:配列番号185のLC及び配列番号157のHC
【0246】
mAb-aPT33:配列番号185のLC及び配列番号158のHC
【0247】
mAb-aPT34:配列番号185のLC及び配列番号159のHC
【0248】
mAb-aPT35:配列番号185のLC及び配列番号160のHC
【0249】
mAb-aPT36:配列番号185のLC及び配列番号161のHC
【0250】
C.結合を競合する抗体
413位でリン酸化された(pSer413)ヒトタウタンパク質に結合する抗原結合ドメイン及びそれらを含む抗体に加えて、本発明は、本明細書中に記載の抗体と結合について競合する抗体を提供する。
【0251】
本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体と、pSer413タウへの競合的結合を引き起こすヒト化抗体も本発明の範囲内に含まれる。本明細書中で使用する用語「競合的結合」とは、抗原と共に2つ以上のモノクローナル抗体が存在する場合に、一方の抗体の抗原への結合がそれ以外の抗体の抗原への結合によって阻害されることを意味する。競合的結合は通常、例えば一定量(濃度)のモノクローナル抗体に対し、別のモノクローナル抗体をその量(濃度)を変動させて添加し、一定量存在する前者のモノクローナル抗体の結合量が減少する場合の、後者のモノクローナル抗体の量(濃度)を決定することによって測定することができる。その阻害の程度は、IC50またはKiの単位で表すことができる。本発明のヒト化抗リン酸化タウ抗体に対して競合的結合を引き起こすヒト化抗体とは、本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体を10nMで用いて本発明の抗原-抗体結合を測定した場合に、IC50が1μM以下、特に100nM以下、より特別には10nM以下である抗体を意味する。
【0252】
当技術分野で公知のように、一般的にSPR/Biacore(登録商標)またはOctet(登録商標)結合アッセイ、ならびにELISA及び細胞ベースのアッセイを用いて競合的結合研究を行うことができる。
【0253】
いくつかの実施形態では、競合的結合抗体の可変重鎖ドメイン及び可変軽鎖ドメインは、本明細書に概説する可変領域の少なくとも1つに対して少なくとも85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有し、定常ドメインにおいては、
図13に概説するヒトIgG配列に対して少なくとも99または100%の同一性を有する。
【0254】
D.アミノ酸置換
【0255】
本明細書に概説する配列に加えて、本発明は、親の出発配列と比較して1つ以上のアミノ酸置換を有し得る抗原結合ドメイン及びそれらを含む抗体を提供する。
【0256】
したがって、例えば、本明細書に列挙する可変重鎖及び軽鎖ドメインの全てについて、さらなる変異体を作製することができる。本明細書に概説するように、いくつかの実施形態では、6個のCDRのセットは、0、1、2、3、4または5個のアミノ酸修飾を有することができる(特定の用途に利用可能なアミノ酸置換を有する)。これらの実施形態では、一般的に、単一のCDRは1または2以下のアミノ酸置換を有し、変異配列はpSer413タウタンパク質への結合を保持する。しかしながら、本明細書に概説する配列のCDRにアミノ酸変異体を作製する場合、得られるCDRは、PCT/JP13/65090に概説された、配列番号81、82及び83(可変軽鎖CDR)ならびに配列番号86、87及び88(可変重鎖CDR)に示されるマウスCDRとは異なる。
【0257】
いくつかの場合では、可変重鎖及び/または軽鎖ドメインのフレームワーク領域(複数可)に変化を生じさせることができる。この実施形態では、フレームワーク領域(例えばCDRを除く)中の好ましい変異体は、ヒト生殖系列配列に対して少なくとも約80、85、90または95%の同一性を保持している。したがって、例えば、フレームワーク領域がヒト生殖系列配列に対して少なくとも80、85、90または95%の同一性を保持する限り、本明細書に記載の同一のCDRを、ヒト生殖系列配列由来の異なるフレームワーク配列と組み合わせることができる。
【0258】
いくつかの実施形態では、本明細書で概説するヒト化軽鎖について、最も近いヒト軽鎖生殖系列は、本明細書の配列に対して81%の同一性を有するIGKV2-30である。したがって、同一性がIGKV2-30に対して少なくとも80%、85%、90%または95%の同一性である限り、軽鎖フレームワーク領域においてさらなる変異体を作製することができる。
【0259】
本明細書のヒト化重鎖について、重鎖について最も近いヒト生殖系列は、本明細書中の配列に対して85%の同一性を有するIGHV3-73である。したがって、同一性がIGHV3-73に対して少なくとも80%、85%、90%または95%の同一性である限り、軽鎖フレームワーク領域においてさらなる変異体を作製することができる。
【0260】
あるいは、CDRは、アミノ酸修飾(例えば、CDRのセット中の1、2、3、4または5個のアミノ酸修飾)を有し得る(すなわち、CDRは、6つのCDRセット内の変化の総数が6個未満のアミノ酸修飾である限り、CDRの任意の組み合わせを変化させてCDRを改変することができ;例えば、vlCDR1に1個、vhCDR2に2個、vhCDR3に0個、など))、ならびにフレームワーク領域がヒト生殖系列配列に対して少なくとも80、85または90%の同一性を保持する限り、フレームワーク領域を変化させることができ、得られるCDRはPCT/JP13/65090に概説された、配列番号81、82及び83(可変軽鎖CDR)及び配列番号86、87及び88(可変重鎖CDR)に示されるマウスCDRとは異なる。
【0261】
一般的に、抗pSer413タウ抗体間の比較のための同一性パーセントは、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%であり、少なくとも約95、96、97、98または99%の同一性パーセントが好ましい。同一性パーセントは、全アミノ酸配列、例えば全重鎖もしくは軽鎖にわたって、または鎖の一部にわたってのものであってもよい。例えば、本発明の抗pSer413タウ抗体の定義内に含まれるのは、可変領域全体にわたって(例えば、可変領域にわたって同一性が95%もしくは98%同一である場合)、または定常領域全体にわたって同一性を共有する抗体である。
【0262】
X.本発明の核酸
本発明の抗pSer413タウ抗体をコードする核酸組成物、ならびにその核酸を含む発現ベクター及びその核酸で形質転換した宿主細胞及び/または発現ベクター組成物も提供する。当業者には理解されるように、本明細書中に示すタンパク質配列を、遺伝暗号の縮重により、任意の数の可能な核酸配列によってコードすることができる。
【0263】
したがって、本発明はさらに、抗原結合ドメインをコードする核酸組成物及びそれらを含有する抗体を提供する。当業者には理解されるように、抗原結合ドメインの場合、核酸組成物は一般的に、可変重鎖ドメインをコードする第1の核酸及び可変軽鎖ドメインをコードする第2の核酸を含む。scFvの場合、タンパク質様リンカーによって分離された、可変重鎖ドメイン及び可変軽鎖ドメインをコードする単一の核酸を作製することができる。伝統的な抗体の場合、核酸組成物は一般的に、重鎖をコードする第1の核酸及び軽鎖をコードする第2の核酸を含み、これらは細胞内で発現すると自発的に2本の重鎖と2本の軽鎖の「伝統的」な四量体形態になる。
【0264】
当技術分野で公知のように、本発明の成分をコードする核酸を、当技術分野で公知のように、及び本発明のヘテロ二量体抗体を産生するために使用する宿主細胞に応じて、発現ベクターに組み込むことができる。当業者には理解されるように、これら2つの核酸を、単一の発現ベクターまたは2つの異なる発現ベクターに組み込むことができる。一般的に、核酸を、任意の数の調節エレメント(プロモーター、複製起点、選択マーカー、リボソーム結合部位、インデューサーなど)に作動可能に連結させる。発現ベクターは、染色体外ベクターまたは組込みベクターであり得る。
【0265】
次いで、本発明の核酸及び/または発現ベクターを、多くの実施形態に利用できる哺乳類細胞(例えばCHO細胞)とともに、哺乳類細胞、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞及び/または真菌細胞を含む当技術分野で周知の任意の数の異なる種類の宿主細胞に形質転換する。
【0266】
本発明の抗体は、当技術分野において周知であるように、発現ベクター(複数可)を含む宿主細胞を培養することによって作製する。一旦製造した後は、伝統的な抗体精製工程を行う。
【0267】
XI.生物学的及び生化学的アッセイ
本発明の抗pSer413タウ抗体を、その有効性についていくつかの方法でアッセイすることができる。予備的事項として、ELISA技術(例えば実施例2(1)参照)、Octet、BiacoreまたはFACSなどの当技術分野で公知の技術を使用して、S413位でリン酸化されているヒトタウタンパク質またはペプチドへの結合について、抗体を試験することができ、その場合、本明細書に概説するように、リン酸化ペプチド(例えば配列番号8)への結合と非リン酸化ペプチド(例えば配列番号69)への結合とを比較する。
【0268】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示する抗体の結合効率をBiacoreアッセイによって測定する。特定の実施形態では、リン酸化タウタンパク質を用いてKD値を測定する。いくつかの実施形態では、リン酸化タウペプチドを用いてKD値を測定する。一実施形態では、リン酸化タウペプチドは1残基のみでリン酸化されている(例えば、配列番号75)。別の実施形態では、リン酸化ペプチドは複数の残基でリン酸化されている(例えば、配列番号76または配列番号78)。いくつかの実施形態では、固定化した抗原(例えば、リン酸化タウタンパク質またはリン酸化タウペプチド)を用いてKD値を測定し、その場合、親和性測定は、結合活性成分を含む、すなわち二価結合様式である。他の実施形態では、固定化した抗体(例えば、マウス親抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体変異体)を用いてKD値を測定し、その場合、親和性測定は、結合活性成分を含まない、すなわち一価結合様式である。さらに他の実施形態では、固定化した抗体及び分析物としてリン酸化タウタンパク質を用いてKD値を測定する。さらに他の実施形態では、固定化した抗体及び分析物としてリン酸化ペプチドを用いてKD値を測定する。特定の実施形態では、二価結合様式でKD値を測定する。他の実施形態では、一価結合様式でKD値を測定する。
【0269】
さらに、本発明の抗pSer413タウ抗体はまた、ヒトAD脳ホモジネートにおける結合親和性についてアッセイすることもでき、ならびにHEC293 タウP301L凝集アッセイにおけるAD由来au種子の中和試験において、及び/またはマイクロ流体チャンバーにおけるヒトiPSCニューロンを用いたAD由来タウ接種及び伝播モデルにおいてアッセイすることができる。
【0270】
さらに、本発明の抗pSer413タウ抗体はまた、AD患者の脳試料の免疫組織化学的アッセイにおいても使用することができる。
【0271】
さらに、本発明の抗pSer413タウ抗体を、アルツハイマー病(AD)を含む認知障害の動物モデルにおけるその有効性についてアッセイすることができる。本発明の認知障害のための治療薬または予防薬を研究するための動物には、認知障害のための動物モデル、特にタウオパチーの動物モデルが含まれる。タウオパチーの動物モデルは、脳内に正常型または変異型タウを発現する動物、特に認知機能の障害を示す動物モデルである。脳内で正常型または変異型タウを発現するそのような動物は、遺伝子工学によって調製することができ、典型的な例はトランスジェニックマウス(Tgマウス)である。変異型タウを発現するTgマウスなどの動物モデルは、遺伝性家族性タウオパチーのモデルとして有用であるが、ヒトの大多数の症例を構成する散発性タウオパチーに対する治療薬または予防薬の薬効試験については、正常型タウを発現するTgマウスにおいて効果を示すのが好ましい。正常型タウを発現するTgマウスとして最も適しているのは、本発明の製造例で調製するマウスであるが、特にトランスジェニックマウスの作製及び使用についていずれも全体を参照により本明細書に援用するKambe et al.(Neurobiology of Disease,Vol.42,P.404-414,2011)及びKimura et al.(The EMBO J.vol.26.P.5143-5152,2007)によって報告されたTgマウスを使用してもよい。しかしながら、認知機能障害はKambeら及びKimuraらのマウスに認められるが、それはそれぞれ14ヶ月齢及び20ヶ月齢後に出現するため、発症時にはかなり老齢に達しており、加齢効果もまた一因となる可能性があるが、一方で長期繁殖の影響や労力も課題である。
【0272】
動物モデルにおいて本発明による認知障害に対する治療薬または予防薬の効果を試験する好ましい方法は、認知機能を試験する記憶学習試験などの方法である。そのような方法は、モリス水迷路試験、ステップスルー学習試験または新奇物質認識試験であってもよいが、好ましくは、行動量と動物の不安の条件を考慮するために、オープンフィールド試験などの行動測定試験の組み合わせである。
【0273】
本発明による認知障害の治療薬または予防薬の効果を調べる方法としては、認知障害の動物モデルへの投与中に、脳組織中のタウタンパク質またはリン酸化タウのレベルを調べる方法を使用することができる。AD及び他の神経変性疾患において、タウタンパク質の発現レベルまたは異常なリン酸化タウの増加は病理と関連している(Khalid Iqbal et al.,Curr.Alzheimer Res.,Vol.7,p654-664,2010)。いくつかの病理学的モデル動物においてタウ発現及び異常なリン酸化タウレベルを低下させることが認知機能及び運動機能の改善をもたらすこともまたよく知られている(K.Santa Cruz et al.,Science,30,Vol.9,p.476-481,2005;Sylvie Le Corre et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA,Vol.103,p.9673-9678,2006)。タウタンパク質またはリン酸化タウの変化を調べる方法としては、実施例に記載のように脳組織ホモジネートを用いたウエスタンブロッティングなどの方法によって達成することができるが、当業者であれば、ELISA(Xiyun Chai et al.,J.Biol.Chem.,Vol.286,p.34457-34467,2011)または免疫組織化学的方法(David J.Irwin et al.,BRAIN,Vol.135,p.807-818,2012)などの他の適切な方法を選択することができる。
【0274】
XII.製剤
本発明に従って使用する抗体の製剤は、所望の純度の抗体を任意の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定化剤と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で保存用に調製される(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.[1980]において一般的に概説されているように)。
【0275】
本発明による認知障害の治療薬または予防薬は、本発明によるヒト化抗リン酸化タウ抗体に加えて、薬学的に許容される担体及び/または他の賦形剤を含有する医薬組成物の形態で製剤化してもよい。薬学的に許容される担体及び/または他の賦形剤を用いた製剤化は、例えばUniversity of the Sciences in Philadelphia,“Remington:The Science and Practice of Pharmacy,20th EDITION”,Lippincott Williams & Wilkins,2000に記載される方法を用いて実施することができる。そのような治療薬または予防薬は、成分を滅菌水性媒体もしくは油性媒体に溶解、懸濁、もしくは乳化することによって調製される液体製剤として、またはそれらの凍結乾燥製剤として提供してもよい。そのような製剤を調製するための媒体または溶媒は、水性媒体であってもよく、その例として、注射用蒸留水及び生理食塩水溶液が挙げられ、これらを、場合により浸透圧調節剤(例えば、D-グルコース、D-ソルビトール、D-マンニトール、及び塩化ナトリウム)を添加して使用してもよく、及び/または適切な溶解助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール)、または非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80またはポリオキシエチレン水添ヒマシ油50)と併用してもよい。そのような製剤を、油性媒体または油性溶媒を用いて調製することもでき、その例として、ゴマ油及びダイズ油が挙げられ、これらを、場合により溶解助剤、例えば安息香酸ベンジル及びベンジルアルコールと併用することができる。そのような液体薬物は、多くの場合、緩衝剤(例えば、リン酸緩衝剤及び酢酸緩衝剤)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム及び塩酸プロカイン)、安定化剤(例えば、ヒト血清アルブミン及びポリエチレングリコール)、保存剤(例えば、アスコルビン酸、エリソルビン酸、及びそれらの塩)、着色剤(例えば、銅クロロフィルβ-カロチン、赤#2及び青#1)、防腐剤(例えば、パラオキシ安息香酸エステル、フェノール、塩化ベンゼトニウム、及び塩化ベンザルコニウム)、増粘剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びそれらの塩)、安定化剤(例えば、ヒト血清アルブミンマンニトール及びソルビトール)、及び矯味矯臭剤(例えば、メントール及び柑橘系香料)などの適切な添加剤を用いて調製され得る。様々な形態の治療薬または予防薬として、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、及びロゼンジ剤などの固形製剤が挙げられる。経口剤形で投与するための固体製剤については、賦形剤(例えば結晶セルロース、ラクトース及びデンプン)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム及びタルク)、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴールなど)、及び崩壊剤(例えば、デンプン及びカルボキシメチルセルロースカルシウム)などの添加剤を使用してもよい。必要に応じて、防腐剤(例えば、ベンジルアルコール、クロロブタノール、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル)、酸化防止剤、着色剤、甘味料などの添加剤を使用してもよい。他の代替形態として、粘膜上に塗布するための治療薬または予防薬が挙げられ、そのような製剤は、多くの場合、主に粘膜吸着または保持特性を付与する目的のために、感圧接着剤、感圧性増強剤、粘度調整剤、増粘剤などの添加剤を含む(例えば、ムチン、寒天、ゼラチン、ペクチン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、トラガカントガム、アラビアゴム、キトサン、プルラン、ワキシーデンプン、スクラルファート、セルロース及びその誘導体(ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アクリル酸アルキル(メタ)アクリレート共重合体、またはそれらの塩及びポリグリセリン脂肪酸エステル)。しかしながら、体に投与する治療薬または予防薬の形態、溶媒及び添加剤はこれらに限定されるものではなく、当業者が適宜選択してもよい。
【0276】
本発明の認知障害治療薬または予防薬は、本発明のヒト化抗リン酸化タウ抗体に加えて、認知障害の治療または予防の効果を有する他の公知の薬物、特に認知障害の進行を抑制する効果を有する特定の薬物を含有していてもよい。あるいは、本発明のヒト化抗リン酸化タウ抗体を含有する本発明の認知障害治療薬または予防薬を、認知障害の治療または予防効果を有する公知の薬物、特に認知障害の進行を抑制する効果を有する薬物を含有する他の治療薬または予防薬と組み合わせて、キットの形態で製造してもよい。認知障害の進行を抑制する効果を有する成分として、ドネペジル、ガランタミン、メマンチン、及びリバスチグミンが挙げられるが、これらに限定されない。認知障害の進行を抑制する効果を有する成分の用量及び認知障害の進行を抑制する効果を有する成分を含む治療薬または予防薬の用量は、通常の治療に用いる用量の範囲内であってもよいが、条件に応じて増減させることができる。
【0277】
本発明者らは、WO2013/180238A(特許文献4)において、腹腔内投与により末梢投与した場合でも抗体が血液脳関門を介して脳に作用して薬効を発揮することを示す実験結果を示したが、本発明の認知障害治療薬または予防薬に含まれる本発明のヒト化抗リン酸化タウ抗体を脳組織に効率よく供給する製剤を調製することも可能である。そのような製剤はまた、本発明による認知障害のための治療薬または予防薬に包含される。血液脳関門を介して脳組織に抗体またはペプチドを効率的に供給する方法、例えば、標的物質を添加する方法またはリポソームもしくはナノ粒子に封入する方法が公知である。標的化に使用する物質として、抗体、または特定の受容体もしくは輸送体と結合する性質を有するペプチド、タンパク質もしくは他の化合物との結合によって電荷特性が全体的または部分的に変化する物質が挙げられる。特定の受容体または膜タンパク質と結合する性質を有するペプチド、タンパク質または他の化合物の例として、受容体リガンドまたは膜タンパク質と結合するリガンド、及びそれらの類似体、ならびに受容体リガンドまたは膜タンパク質と結合する抗体、アゴニスト化合物/アンタゴニスト化合物/アロステリック調節薬、及びそれらの類似化合物が挙げられる。特定の受容体または輸送体に結合する性質を有するペプチド、タンパク質または他の化合物の標的としての受容体リガンドまたは膜タンパク質の例として、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体(IR)、インスリン様増殖因子受容体(IGFR)、LDL受容体関連タンパク質(LRP)及びジフテリア毒素受容体(HB-EGF)が挙げられるが、これらに限定されない(Angela R.Jones et al.,Pharm.Res.,2007,Vol.24,No.9,pp.1759-1771)。本発明の認知障害治療薬または予防薬に用いる抗体に標的物質を化学的に添加してもよく、その方法は当業者であれば公知の方法、例えば、Hermanson et al.,Bioconjugate techniques,USA,Academic Press,1996に記載されている方法を適宜参照して実施することができる。標的物質はまた、抗体またはペプチドを封入しているリポソームまたはナノ粒子に結合させてもよい(Sonu Bhaskar et al.,Particle and Fibre Toxicology,2010,7:3)。さらに、標的物質がペプチドまたはタンパク質である場合は、当業者が遺伝子工学技術を用いて、ペプチド化学合成により融合ペプチドを製造するか、またはペプチドもしくはタンパク質のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸と、使用する抗体もしくはペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を組み合わせるかのいずれかにより、適切な融合タンパク質として製造することができる。
【0278】
本発明による治療薬または予防薬は、症状の改善を目的として、それを必要とする患者に経口的または非経口的に投与してもよい。経口投与の場合、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤またはエリキシル剤などの剤形を選択してもよい。非経口投与の場合、経鼻剤を調製してもよく、また、液剤、懸濁剤または固体製剤を選択してもよい。異なる形態の非経口投与として注射剤を調製してもよく、注射は、皮下注射、静脈内注射、注入、筋肉内注射、脳室内注射または腹腔内注射として選択される。非経口投与に使用する他の製剤として、坐剤、舌下剤、経皮剤及び経鼻剤以外の経粘膜投与剤が挙げられる。さらに、ステントまたは血管内閉塞具へ添加するかまたはコーティングする方式での血管内局所投与が可能である。
【0279】
本発明による治療または予防のための薬剤の用量は、患者の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、治療時間、または医薬組成物中に含まれる有効成分の種類に応じて異なるであろうが、通常、成人への投与あたり0.1mg~1g、好ましくは0.5mg~200mgの活性化合物の範囲で投与してもよい。しかしながら、用量は様々な条件によって変化するため、上記の用量より少ない用量で十分であるか、またはこれらの範囲を超える用量が必要な場合もある。本発明の治療薬または予防薬は、短い投与期間のうちに効果を発揮することができる。
【0280】
XIII.抗体の投与
【0281】
一旦作製すると、本発明の抗体は、タウオパチーなどの認知障害の治療に利用することができる。本明細書中で考察するように、タウタンパク質の細胞内蓄積が様々な神経病理学的病態において示されている。そのようなタウの細胞内蓄積によって引き起こされる疾患は、まとめて「タウオパチー」と呼ばれる(全体を参照により本明細書に援用するとともに、障害について概説している前出のArai参照)。タウオパチーとして、神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病(AD)、皮質基底核変性症(CBD)または皮質基底核症候群(CBS)、進行性核上性麻痺、ピック病、嗜銀顆粒性認知症(嗜銀顆粒病)、認知症を伴う多系統タウオパチー(MSTD)、第17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う家族性前頭側頭型認知症(FTDP-17)、神経原線維変化認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)、球状グリア封入体を伴う白質タウオパチー(WMT-GGI)、タウ病理学を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-タウ)などが挙げられる。タウオパチーには:嗜眠性脳炎後遺症、亜急性硬化性全脳炎などの感染症;ボクサー病などの外傷による病態を含む、非神経変性疾患も含まれる。
【0282】
認知障害は、一旦発達したまたは獲得した知的機能が低下した状態を含む一種の知的障害として定義されるが(“New Psychiatry(Nankodo’s Essential Well-Advanced Series)”(日本語文献),Kunitoshi Kamijima and Shin-ichi Niwa(編),Nankodo Co.,Ltd.,2008,pp.69-70)、広義には、知的障害及び/または記憶障害を示す疾患であると考えられている。ADなどの神経変性疾患の診断において、病態が「神経変性」であるかどうかは、例えば、死後の組織学的分析によって神経原線維変化(NFT)が存在するかどうかについて分析することによって判定するが、その一方で、医師は、様々な手段、例えば:改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)及びミニメンタルステート検査(MMSE)などの問診による神経心理学的検査;臨床認知症評価(CDR)または機能的評価病期分類(FAST)などの観察による神経心理学的検査;例えば、タウ及びリン酸化タウのレベルの増加、または脳脊髄液中のAβのレベルの増加に基づく生化学的検査;ならびに、例えば頭部CT、頭部MRI、SPECT、またはPETを介して得られた情報に基づく画像検査を用いて、認知障害、特に神経変性疾患であると診断する。本発明の認知障害治療薬または予防薬は、神経変性疾患の診断指標の少なくとも1つに基づいて、医師が認知障害を患っていると診断した患者に対して投与され、投与前の病態に比べて患者の病態を改善するか、投与を介して病態の進行を制御するか、または投与前の病態を維持するか、または投与前の病態に回復させる効果を有する。
【0283】
本発明による認知障害の治療薬または予防薬は、ヒトまたはヒト以外の動物において、認知機能を改善するか、または認知機能の低下を阻害するか、または認知機能を維持する効果も有し得る。そのような非ヒト動物の例は、好ましくは、ヒトタウと高い相同性を有するタウを発現する動物であるべきであり:チンパンジー、マカク、ウマ、ブタ、イヌ、マウス、ウサギ、ラット及びネコが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0284】
XIV.実施例
A.実施例1:抗体の産生
1.マウス抗体(親抗体)
キメラ抗体及びヒト化抗体の親抗体としてマウス抗体Ta1505を使用した。マウス抗体Ta1505の詳細は、国際公開第WO2013/180238A号の実施例に記載されている。マウス抗体Ta1505の軽鎖(L鎖)のアミノ酸配列は配列番号44に定義され、それをコードするヌクレオチド配列は配列番号45に定義される。マウス抗体Ta1505の重鎖(H鎖)のアミノ酸配列は配列番号46に定義され、それをコードするヌクレオチド配列は配列番号47に定義される。
【0285】
2.キメラ抗体
マウス抗体Ta1505の軽鎖(L鎖)及び重鎖(H鎖)の可変領域を、それぞれヒト免疫グロブリン(Ig)G1(κ)のL鎖及びH鎖の定常領域と組み合わせることにより、キメラ抗体を産生した。キメラ抗体の軽鎖(L鎖)のアミノ酸配列は配列番号48に定義され、それをコードするヌクレオチド配列は配列番号49に定義される。キメラ抗体の重鎖(H鎖)のアミノ酸配列は配列番号50に定義され、それをコードするヌクレオチド配列は配列番号51に定義される。本明細書を通して、このキメラ抗体は、「キメラ抗体」または「キメラ抗体Ta1505」と呼ばれる。
【0286】
3. ヒト化抗体
a.VL及びVHの設計
ヒト生殖系列から高い相同性を有する一次配列を選択し、相補性決定領域(CDR)の移植によってヒト化を実施し、様々なヒト化抗体を設計した。
【0287】
詳細には、高い相同性を有するヒトフレームワークをデータベースから選択し;マウス抗体Ta1505のCDR領域を各フレームワークに挿入し;例えば活性を維持しながら免疫原性を低下させるために、アミノ酸置換を行った。それにより、様々な軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列を設計した。VLのアミノ酸配列の配列番号及びそれらをコードする遺伝子のヌクレオチド配列の配列番号を表2Aに示し、VHのアミノ酸配列及びそれらをコードする遺伝子のヌクレオチド配列の配列番号を表2Bに示す。VL及びVHのアミノ酸配列のアラインメントをそれぞれ
図2A及び
図2Bに示す。
表2A:軽鎖可変領域(VL)
【表3】
表2B:重鎖可変領域(VH)
【表4】
【0288】
b.免疫原性スコアに基づくVLとVHの組み合わせの選択
上記の手順によって設計したVL及びVHを任意に組み合わせ、各組み合わせの免疫原性スコア(DRB1スコア)をin vitroアッセイソフトウェアEpibase(Lonza)によって計算した。以降の実験で使用するVLとVHの組み合わせは、免疫原性スコアが所定値以下(DRB1スコア:1500)の低免疫原性を示す組み合わせから選択した。選択したVLとVHの組み合わせを表3Aに示し、これらの組み合わせの免疫原性スコア(DRB1スコア)を表3Bに示す。
表3A:選択したVLとVHの組み合わせ
【表5】
表3B:免疫原性スコア(DRB1スコア)
【表6】
【0289】
c.ヒト化抗体の発現培養及び精製
上記の手順によって選択したVL及びVHの各組み合わせについて、VL及びVHのアミノ酸配列をコードする遺伝子を調製した。VL遺伝子をヒト免疫グロブリンκL鎖定常領域(CL)遺伝子にインフレームで融合させ(そのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号52及び配列番号53に定義される)、VH遺伝子をヒト免疫グロブリンγ-1H鎖定常領域(CH)遺伝子にインフレームで融合させ(そのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、配列番号54及び配列番号55に定義される)、それにより、各結合部位に突然変異または欠失は生じないはずである。VL遺伝子及びVH遺伝子の5’末端を、それぞれヒト免疫グロブリンκL鎖遺伝子由来のシグナル配列(そのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号56及び配列番号57に定義される)及びヒト免疫グロブリンγ-1H鎖遺伝子由来のシグナル配列(そのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号58及び配列番号59に定義される)にインフレームで融合させ、それにより、各結合部位に突然変異または欠失は生じないはずである。
【0290】
上記手順で設計したシグナル配列融合L鎖及びH鎖をそれぞれコードする核酸構築物を動物細胞発現用の発現ベクターに組み込み、ExpiCHO(Thermo Fisher Scientific K.K.製)を用いて、抗体を発現させるための標準的なプロトコルに従って培養した。各培養物を遠心分離により清澄化し、得られた培養上清をプロテインAアフィニティーカラムに供してヒト化抗体を精製した。pH2.8~3.5の酸性溶液で溶出した画分を速やかに中和し、濃縮し、ゲルろ過カラムにかけて凝集物を除去した。緩衝液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に変えて主要画分を集め、これを溶媒で適切な濃度に希釈した後、以下の試験に用いた。
【0291】
以下の記載において、上記の手順によって産生した各ヒト化抗体は、そのVL及びVHのコード名の組み合わせを使用して略記され得る。例えば、VLとしてL15及びVHとしてH11を使用して産生したヒト化抗体は、L15H11と呼ばれる。
【0292】
以下の試験では、特に指定しない限り、3%BSA/PBSを抗体濃度を調整するための溶媒として使用した。
【0293】
B.実施例2:抗原ペプチド結合親和性のELISA分析
1.抗原ペプチドに対する結合親和性のELISA分析
表3Aに示すVLとVHの組み合わせを有するいくつかのヒト化抗体を、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって抗原ペプチドに対する結合親和性について分析した。
【0294】
非リン酸化タウペプチドPD17(Ser413)、及びSer413がリン酸化されているリン酸化タウペプチドPD17P(pSer413)をそれぞれ冷PBSで1μg/mLに希釈し、得られた溶液を、それぞれプレートに50μL/ウェルで分注し、4℃で一晩静置した。溶液を除去した後、ブロッキング緩衝液(3%ウシ血清アルブミン(BSA)-PBS)を270μL/ウェルで分注し、プレートを4℃で一晩静置した。溶液を除去した後、抗体溶液を3%BSA-PBSで段階的に希釈し、次いで50μL/ウェルでプレートに添加し、室温で90分間反応させた。非リン酸化タウペプチドPD17(Ser413)及びリン酸化タウペプチドPD17P(pSer413)のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号60及び配列番号8に定義される。
【0295】
0.05%のTween20を含有するTween20含有トリス緩衝食塩水(TBS-T)で各ウェルを洗浄した。希釈緩衝液(3%BSA-PBS)で2000倍に希釈したヤギ抗ヒトIgG-アルカリホスファターゼ標識(Sigma-Aldrich Co.LLC製)を、50μL/ウェルでプレートに添加し、室温で60分間反応させた。TBS-Tで洗浄した後、発色溶液(1mg/mLのp-ニトロフェニルリン酸(pNPP)溶液)を100μL/ウェルでプレートに添加して40分間発色させた。405nmの波長で吸光度(光学濃度(OD)値)を測定した。
【0296】
各抗体のOD値と0.25nMキメラ抗体のOD値との比を決定し、得られた比を以下の3点尺度で評価することにより、反応性を評価した。
【0297】
+:十分な反応性(0.6≦OD比)、
【0298】
±:非常にわずかな反応性(0.15<OD比<0.6)、及び
【0299】
-:反応性なし(OD比≦0.15)。
【0300】
表4Aは、抗体とリン酸化タウペプチドPD17Pとの反応性の評価結果を示す。表4Bは、抗体と非リン酸化タウペプチドPD17との反応性の評価結果を示す。キメラ抗体に比べて、全てのヒト化抗体はリン酸化タウペプチドPD17Pとより高い反応性を示したが、非リン酸化タウペプチドPD17とはより低い反応性を示した。これらの結果は、ヒト化抗体がリン酸化タウペプチドと選択的反応性を有することを示している。
表4A:リン酸化ペプチドPD17Pとの反応性のELISA分析
【表7】
表4B:非リン酸化ペプチドPD17との反応性のELISA分析
【表8】
【0301】
2.リン酸化タウペプチドへの選択的結合親和性のELISA分析
表3Aに示すVL及びVHの組み合わせを有するヒト化抗体のいくつかを、キメラ抗体Ta1505を参照抗体として用いて、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって、抗タウヒト化抗体のリン酸化タウペプチドに対する選択的結合親和性について分析した。
【0302】
1μg/mLの非リン酸化ペプチドPD17またはリン酸化ペプチドPD17Pを含有する溶液を50μL/ウェルでプレートに分注し、4℃で一晩静置した。溶液を除去した後、ブロッキング緩衝液(3%ウシ血清アルブミン(BSA)-PBS)を270μL/ウェルで分注し、プレートを4℃で一晩静置し、それにより各ウェルに非リン酸化ペプチドPD17またはリン酸化ペプチドPD17Pを固定化したプレートを調製した。
【0303】
一連の5つの濃度の各抗体を、0.6μg/mL(4nM)の初期濃度から始めて、4倍連続希釈によって調製した。各溶液を50μL/ウェルでプレートのウェルに添加して、室温で1時間反応させた。洗浄工程後、ヤギ抗ヒトIgGアルカリホスファターゼ標識(Sigma-Aldrich Co.LLC.製)を2000倍に希釈した後、50μL/ウェルで各ウェルに添加してさらに一時間反応させた。
【0304】
洗浄工程後、1mg/mLのp-ニトロフェニルリン酸(pNPP)溶液を各ウェルに100μL/ウェルずつ添加して20分間反応させた。405nmの波長で吸光度(OD)を測定した。
【0305】
調製した各抗体の各濃度における吸光度ODのデータを、SoftMax ProソフトウェアVer.6.5(Molecular Devices Corporation)を用いて分析し、下記の4つのパラメータロジスティック回帰曲線に割り当てられた以下の数値A~Dを決定した:
【0306】
【数1】
式中、
xは抗体の濃度を表し、及び
yは吸光度(OD値)を表す。
【0307】
1nMの濃度の非リン酸化ペプチドPD17の吸光度OD値を発現に入力して、OD値に対応する各抗体の濃度xを計算した。PD17の濃度は1nMであったため、各ペプチドについてのPD17への結合親和性に基づくリン酸化タウペプチドPD17Pへの結合親和性のスケールファクターを1/xで計算し、リン酸化タウペプチドへの選択的結合親和性の指標として使用した。
【0308】
結果を
図3のグラフに示す。リン酸化タウペプチドPD17Pに対するキメラ抗体Ta1505の結合親和性は、非リン酸化ペプチドPD17に対する親和性の30倍であった。対照的に、ヒト化抗体における選択的結合親和性は、高い選択性を示し、スケールファクターは40~210倍であった。この結果は、ヒト化抗体がリン酸化ペプチドに対して特異的結合親和性を有することを示している。
【0309】
3.リン酸化タウペプチドを用いたSer413リン酸化部位への選択的結合親和性のELISA分析
表3Aに示すVLとVHの組み合わせを有するヒト化抗体を、様々なリン酸化ペプチドを用いたELISAにより、タンパク質の主要リン酸化部位のうちSer413リン酸化部位に選択的に結合する能力について、それぞれ分析した。
【0310】
表5に示すように、12個のリン酸化ペプチドを使用した。「エピトープ」と命名された列は、4R2N型タウタンパク質のリン酸化部位(複数可)を示しており(例えば、ペプチド番号1の「pS46」は、Ser46の部位がリン酸化エピトープであることを示し、複数のエピトープの記載は、1つのペプチドが2つまたは3つのリン酸化部位を有することを示す)、例外として、ペプチド番号12は、Ser413部位を含むエピトープを有するがリン酸化されていない(PD17)。
表5:タウタンパク質Ser413リン酸化部位への特異的結合を分析するためのペプチド
【表9】
【0311】
表5に示した12個のペプチド、すなわちペプチド番号1~12、またはこれらのペプチドとウシ血清アルブミン(BSA)もしくはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)との複合体を、4℃に冷却したPBSでそれぞれ希釈して1μg/mLとし、得られた溶液を50μL/ウェルでプレートに分注し、4℃で一晩静置した。溶液を除去した後、ブロッキング緩衝液(3%BSA-PBS)を270μL/ウェルで分注し、プレートを4℃で一晩静置した。溶液を除去した後、精製抗体を3%BSA-PBSで150ng/mLに希釈し、次いで50μL/ウェルでプレートに添加し、室温で90分間反応させた。0.05%Tween20を含むトリス緩衝食塩水(TBS-T)で各ウェルを洗浄した。希釈緩衝液(3%BSA-PBS)で2000倍希釈したヤギ抗ヒトIgG(H+L)-アルカリホスファターゼ標識(Sigma-Aldrich Co.LLC.製)を50μL/ウェルでプレートに添加し、室温で60分間反応させた。TBS-Tで洗浄した後、発色溶液(1mg/mL pNPP溶液)を100μL/ウェルでプレートに添加し、40分間発色させた。測定波長405nm、基準波長550nmで吸光度(OD値)を測定した。
【0312】
反応性は、以下の3点尺度で評価した。
+:十分な反応性(1.0≦OD値)、
±:非常にわずかな反応性(0.5≦OD値<1.0)、及び
-:反応性なし(OD値<0.5)。
【0313】
結果を表6に示す。全てのヒト化抗体は、ペプチド番号9(pSer412/pSer413:PRHLSNV(pS)(pS)TGSIDMVD)、ペプチド番号10(pSer413:PRHLSNVS(pS)TGSIDMVD)、及びペプチド番号11(pSer409/pSer412/pSer413:PRHL(pS)NV(pS)(pS)TGSIDMVD)に対してのみ強い結合親和性を示したが、タウタンパク質のSer413に対応する部位がリン酸化されていなかった他のペプチドには結合しなかった。結合のパターン及び強度は、キメラ(キメラ抗体Ta1505)と実質的に同じであった。これらの結果は、ヒト化抗体がリン酸化Ser413部位を有するタウタンパク質に特異的な結合親和性を有することを示している。
表6:様々なリン酸化タウペプチドとの反応性のELISA分析の結果
【表10】
【0314】
C.実施例3:抗原タンパク質に対する結合親和性のELISA分析
表3Aに示すVLとVHの組み合わせを有するいくつかのヒト化抗体を、ELISAにより、抗原タンパク質に対する結合親和性について分析した。
【0315】
リン酸化タウタンパク質pTauを調製するために、バキュロウイルス系を用いて昆虫細胞中でタウタンパク質4R2Nを発現させた。また、高リン酸化タウタンパク質hpTauを作製するために、タウタンパク質とGSK3βを同時に発現することが可能な組換えバキュロウイルスを作製した。
【0316】
組換えバキュロウイルスの製造において、pFastBac1及びpFastBac Dualベクターを使用した。リン酸化タウタンパク質pTauについては、Hisタグ付加C末端を有するタウタンパク質4R2NをコードするcDNAをpFastBac1に挿入した。高リン酸化タウタンパク質hpTauについては、Hisタグ付加C末端を有するタウタンパク質4R2NをコードするcDNA及びGSK3βをコードするcDNAをpFastBac Dualに挿入した。Hisタグ付加タウタンパク質4R2Nのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号70及び71に定義される。GSK3βのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号72及び73に定義される。
【0317】
得られたベクターを、それぞれリポフェクションにより細胞株Sf9に導入し、細胞を培養して組換えバキュロウイルスを調製した。次いで、得られた組換えバキュロウイルスを用いて細胞株Sf9またはTn5を感染させ、それによってリン酸化タウタンパク質(pTau)及び高リン酸化タウタンパク質(hpTau)を発現させた。
【0318】
所望のタンパク質を発現する細胞を収集し、超音波処理及び遠心分離にかけて細胞溶解物を得て、次いでこれをNi-NTAカラムにかけてタウタンパク質を精製した。精製タウタンパク質の濃度は、標準試料としてウシ血清アルブミン(BSA)を用いて、ビシンコニン酸(BCA)アッセイにより決定した。
【0319】
得られた高リン酸化タウタンパク質(hpTau)及びリン酸化タウタンパク質(pTau)を、冷却したPBSを用いて1μg/mLに希釈し、希釈液を50μL/ウェルでプレートに分注し、4℃で一晩静置した。溶液を除去した後、ブロッキング緩衝液(3%BSA-PBS)を270μL/ウェルで分注し、プレートを4℃で一晩静置した。緩衝液を除去した後、3%BSA-PBSで段階希釈して調製した一連の抗体溶液を50μL/ウェルでプレートに添加し、室温で90分間反応させた。
【0320】
その後、0.05%Tween20を含むトリス緩衝食塩水(TBS-T)でウェルを洗浄した。希釈緩衝液(3%BSA-PBS)で2000倍希釈したヤギ抗ヒトIgG-アルカリホスファターゼ標識(Sigma-Aldrich Co.LLC.製)を50μL/ウェルでプレートに添加し、室温で60分間反応させた。TBS-Tで洗浄した後、発色溶液(1mg/mL pNPP溶液)を100μL/ウェルでプレートに添加し、40分間発色させた。405nmの波長で吸光度(OD値)を測定した。
【0321】
各抗体のOD値と0.25nMキメラ抗体のOD値との比を決定し、得られた比を以下の3点尺度で評価することによって反応性を評価した。
+:十分な反応性(0.6≦OD比)、
±:非常にわずかな反応性(0.15<OD比<0.6)、及び
-:反応性なし(OD比≦0.15)。
【0322】
表7Aは、ヒト化抗体と高リン酸化タウタンパク質hpTauとの反応性を評価した結果を示す。表7Bは、ヒト化抗体とリン酸化タウタンパク質pTauとの反応性を評価した結果を示す。結果は、全てのヒト化抗体が、キメラ抗体の反応性に比べて、高リン酸化タウタンパク質hpTau及びリン酸化タウタンパク質pTauの両方に対して高い反応性を有することを示している。
表7A:高リン酸化タウタンパク質hpTauとの反応性のELISA分析の結果
【表11】
表7B:リン酸化タウタンパク質pTauとの反応性のELISA分析の結果
【表12】
【0323】
D.実施例4:SPRによる結合親和性の分析
表3Aに示すVLとVHの組み合わせを有するいくつかのヒト化抗体を、参照抗体としてキメラ抗体Ta1505を用いて、表面プラズモン共鳴(SPR)による結合親和性分析に供した。
【0324】
抗原タンパク質として高リン酸化タウタンパク質4R2N(hpTau:実施例3参照)を用い、陰性対照としてEscherichia coliにより産生した非リン酸化タウタンパク質(Tau:Hisタグ付加非リン酸化タウタンパク質4R0N:ATGen Co.Ltd.、カタログ番号:ATGP0795)を用いた。使用した抗原ペプチドは、Ser413のみがリン酸化されたモノリン酸化タウペプチド(1×P)、及びSer413に加えてSer409及びSer412がさらにリン酸化されたトリリン酸化タウペプチド(3×P)であった。これらのペプチドのアミノ酸配列を表8に示す。使用した陰性対照ペプチドは非リン酸化タウペプチド(Non P)であり、そのアミノ酸配列も表8に示す。Hisタグ付加非リン酸化タウタンパク質4R0Nのアミノ酸配列は、配列番号74に定義される。モノリン酸化タウペプチド1×P、トリリン酸化タウペプチド3×P、及び非リン酸化タウペプチドNon Pのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号75、76、及び77に定義される。
表8:SPRに使用する抗原ペプチド
【表13】
【0325】
高リン酸化タウタンパク質4R2N(hpTau)、非リン酸化タウタンパク質4R0N、モノリン酸化タウペプチド1×P、トリリン酸化タウペプチド3×P、及び非リン酸化タウペプチドNon Pと、各抗体との結合親和性を、SPRシステムBiacore T200(GE Healthcare Japan)を用いて、そのシステムに添付された評価用の取扱説明書に従って測定した。
【0326】
結合親和性を:NTAセンサーチップ(ニトリロ三酢酸(NTA)が既に固定化されているカルボキシメチルデキストラン層を含む:コード番号BR-1005-32)を調製し;アミンカップリングキット(GE Healthcare Japan、コード番号BR-1006-33)を用いたアミンカップリング反応を介して、His-tagと融合した上記各ペプチド及び表8に示す各抗原ペプチドを共有結合によりセンサーチップ上に固定化し;及び固定化したタンパク質及びペプチドに対する抗体の結合速度を測定することを含む方法により測定した。
【0327】
固定化反応溶液としてHBS-N緩衝液(コード番号BR-1003-69)を用い、塩化ニッケル溶液と、NiをNTAに結合させるためのNTAセンサーチップとを反応させることにより、Hisタグ付加hpTauまたはTauタンパク質をそれぞれセンサーチップ上に固定化した。続いて、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩:EDC)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の混合溶液でセンサーチップを活性化した。4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液(0.01M HEPES、150mM KCl、2mM DTT、1mM EDTA、pH7.2)で100~500ng/mLの濃度に調整した、各Hisタグ付加タンパク質の溶液をセンサーチップに塗布し、それによってタンパク質をNi-NTAとの共有結合によりセンサーチップ上に固定化した。残りの活性NHSをエタノールアミンでブロックし、NiイオンをEDTA溶液で除去した(Ni-親和性アミンカップリング:国際公開第WO2005/022156号参照)。NTAセンサーチップをN-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)塩酸塩とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の混合溶液で活性化することにより、抗原ペプチド(1×P、3×P、及びNon P)をそれぞれセンサーチップ上に固定化し、その後、10mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4~4.5)で1~10μMに希釈した抗原ペプチドの溶液をセンサーチップに塗布し、それにより、ペプチドをセンサーチップ上に共有結合させた。残りの活性NHSをエタノールアミンでブロックした。このようにして、上記のタンパク質及びペプチドをそれぞれ固定化したセンサーチップを作製した。
【0328】
CAPS緩衝液(pH 10.5)をこれらのセンサーチップに37℃で塗布して、タンパク質またはペプチドで固定化したセンサーチップ表面を安定化させた。特異的結合反応溶液としてHEPES緩衝液(pH7.2)を用いて調製した各抗体の溶液を、反応させるために150秒間(同じ評価では一様)、センサーチップ表面に0.2~1nMの範囲(推定結合解離定数[KD]付近)の濃度で塗布し、結合速度を測定した。得られたデータを、Biacore分析ソフトウェア(Biacore T200評価ソフトウェア、バージョン3.0)を用いて分析した。
【0329】
各抗体の結合速度は、抗原タンパク質4R2N(hpTau)のセンサーチップへの結合速度から陰性対照としての非リン酸化タンパク質4R0Nのセンサーチップへの結合速度を差し引くことによって補正した。各抗原ペプチドの結合速度は、抗原ペプチド1×P及び3×Pのそれぞれの結合速度から陰性対照としての非リン酸化ペプチドNon Pのセンサーチップへの結合速度を差し引くことによって補正した。測定に供した試料濃度の範囲内で、非リン酸化タウタンパク質4R0Nまたは非リン酸化ペプチドNon Pへの各抗体の結合は観察されなかった。
【0330】
表9Aは、リン酸化タウタンパク質4R2N(hpTau)に対するヒト化抗体の結合活性を示す。表9Bは、モノリン酸化タウペプチド1×P及びトリリン酸化タウペプチド3×Pに対するヒト化抗体の結合活性の結果を示す。結果は、各ヒト化抗体が、高リン酸化タウタンパク質hpTau、モノリン酸化タウペプチド1×P、及びトリリン酸化タウペプチド3×Pの全てに対して高い結合活性を示したことを示している。
表9A:リン酸化タウタンパク質(hpTau)に対するヒト化抗体の結合活性(1:1結合モデル)
【表14】
表9B:リン酸化ペプチド(1×P、3×P)に対するヒト化抗体の結合活性(1:1結合モデル)
【表15】
【0331】
E.実施例5:AD患者脳ホモジネート中のpSer413-タウの結合親和性分析
参照抗体としてマウス抗体Ta1505及びキメラ抗体を用いて、表3Aに示すVL及びVHの組み合わせを有するヒト化抗体のうち、L15H11、L46H11、及びL47H65を、液相中のアルツハイマー病(AD)患者臨床試料由来のSer413リン酸化タウタンパク質(pSer413-タウ)への結合親和性について評価した。
【0332】
ヒト化抗体、マウス抗体、及びキメラ抗体を、N-ヒドロキシスクシンイミド-LC-ビオチン(NHS-LC-ビオチン)(Thermo Fisher Scientific K.K.)を用いてそれぞれビオチン化し、続いてPBSで透析した。
【0333】
Braak病期V/VIのAD患者の脳由来の凍結海馬組織(160mg)を0.8mLのTBS-I(トリス緩衝食塩水、プロテアーゼ阻害剤カクテル、ホスファターゼ阻害剤カクテル)に添加し、氷水中で超音波処理した。超音波処理した溶液を4℃、3000×gで10分間遠心し、上清を回収し、さらに4℃、100000×gで15分間超遠心して脳ホモジネートを取得した。Innotest pTau(pT181)キット(Fijirebio Inc.)をSer413リン酸化タウタンパク質(pSer413-タウ)のELISAシステムとして使用したが、キットに含まれるビオチン化抗体(CONJ1と表示)を上記で生成したビオチン化抗体で置換した。
【0334】
上記で作製したビオチン化抗体のそれぞれを0.1nMの濃度で溶液にし、1000倍希釈の脳ホモジネートと共にHT7抗体固定化MTプレート(キットに含まれる)に添加した。得られた試料を混合し、4℃で一晩インキュベートした。翌日、プレートを洗浄し、HRP標識ストレプトアビジン(キットにCONJ2として含まれる)をプレートに添加し、続いて1時間インキュベートした。洗浄後、発色試薬TMBを加え、遮光下室温で30分間インキュベートした。次いで反応停止剤溶液(キット中にSTOP溶液として含まれる)を用いて反応を停止させ、450nmの波長での吸光度を測定した。
【0335】
結果を
図4に示す。
図4のグラフに示すように、ヒト化抗体L15H11、L46H11、及びL47H65は全て、AD患者の臨床試料由来のSer413リン酸化タウタンパク質(pSer413-タウ)に対して高い結合親和性を示した。
【0336】
F.実施例6:血中速度試験
5つの初期ヒト化抗体変異体を、正常マウスにおけるその薬物動態について、市販の抗体ハーセプチン(Genentech,south San Francisco,CA)及びキメラTa1505抗体と比較して試験した。各ヒト化抗体変異体の軽鎖及び重鎖を以下の表10にまとめる。
【0337】
表10.いくつかの初期ヒト化抗体変異体の軽鎖及び重鎖
【表16】
【0338】
11週齢のオスのC57BL/6Jマウス(Charles River Laboratories Japan,Inc.)に10mg/kgの用量で抗体を腹腔内注射した。投与後1、3、8、24、及び72時間に収集した血液から血漿を得た。試料サイズは、抗体あたり動物2匹であった。
【0339】
抗ヒトIgGポリクローナル抗体によるサンドイッチELISAを用いて血漿抗体濃度を決定した。マウス血漿を用いて各抗体を段階希釈することにより検量線をプロットした。
【0340】
血漿を1,000倍に希釈し、抗体濃度を測定した。
【0341】
ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体の1μg/mLのPBS溶液を96ウェルプレート(MaxSorp(NUNC))にピペットで移し、4℃で一晩静置した。その後、3%BSA/PBSでブロッキングを行い、固定化ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体を含むプレートを調製した。マウス血漿を用いて抗体を段階希釈し、標準物質を得た。血漿及び標準物質を3%BSA/PBSで希釈し、固定化ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体を含むプレートに50μL/ウェルで、ピペットで移した。混合物を室温で1.5時間反応させ、次いでプレートをTBS-T(TBS、0.05%Tween20)で洗浄した。その後、アルカリホスファターゼ標識抗ヒトIgG(H+L)ポリクローナル抗体(Southern Biotech、カタログ番号2087-04)を3%BSA/PBSで2000倍に希釈した溶液を50μL/ウェルで、ピペットで移し、反応を室温で1時間進行させた。次にプレートをTBS-Tで洗浄し、発色試薬を100μL/ウェルで添加し、プレートを室温で1時間インキュベートした。その後、プレートリーダーを用いて405nmと550nmの吸光度を測定した。
【0342】
検量線を標準物質でプロットし、これを用いて血漿抗体濃度を計算した。結果を
図5Aに示す。
【0343】
試験した最初のヒト化変異体(変異体2、5、6、9、及び10)は、投与後8時間で、ハーセプチン及びキメラ抗体のレベルに比べて血漿濃度の急速な減少を示し、これは注射後最大3日間、高く安定していた。これらの初期ヒト化抗体は、キメラ抗体に比べてより短い半減期及び低いPK特性を示したが、これは、これらの変異体の高いpI値に起因する可能性が高い。キメラ抗体のPKに達するためにはさらなる改良が必要であった。
【0344】
【0345】
表3Aに示すVLとVHの組み合わせを有するヒト化抗体のうち、L15H11、L46H11、及びL47H65を血中動態の試験に供した。使用した参照抗体は、特許情報またはデータベース情報に開示されているアミノ酸配列情報に基づく組換え発現により作製した、AD治療の臨床試験に使用するキメラ抗体Ta1505及び公知のヒト化抗体である。具体的には、international ImMunoGeneTics information system(登録商標)(IMGT)(http://www.imgt.org)のデータベースをソラネズマブ(抗A□抗体、Eli Lilly and Company)について参照し;IPN007(抗タウN末端抗体、Bristol-Myers Squibb iPierian)には、WO2014/200921A1に開示されているVH2Vk3のアミノ酸配列を使用し;また、MAb3221(抗タウ-pS422抗体、Roche Diagnostics K.K.)には、WO2015/091656A1に開示されているVH32VL21のアミノ酸配列を使用した。
【0346】
各抗体を11週齢のオスのC57BL/6Jマウス(Charles River Laboratories Japan,Inc.)にそれぞれ10mg/kgの濃度で腹腔内投与した。投与後1、3、8、及び24時間時点、さらには3日目及び7日目に血液を採取して血漿を収集した。各抗体を3回試験した(N=3)。
【0347】
血漿中の抗体濃度は、抗ヒトポリクローナル抗体を用いたサンドイッチELISAにより測定した。具体的には、96ウェルプレート(Max Sorp(NUNC))に1μg/mLのヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体(Southern Biotech)を含むPBS溶液を加え、4℃で一晩固定化し、3%BSA-PBSでブロッキングし、これによりヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体固定化プレートを作製した。
【0348】
これとは別に、既知濃度の一連の標準抗体試料を、抗体を投与しなかったマウスから採取した血漿で各抗体を段階希釈することにより調製し、検量線の作成のために測定した。
【0349】
測定対象の血漿試料及び標準試料をそれぞれ10000倍に希釈し、ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体固定化プレートに50μL/ウェルで添加し、室温で1時間30分反応させ、その後、プレートをTBS-T(トリス緩衝食塩水、0.05%Tween20)で洗浄した。その後、3%BSA-PBSで2000倍に希釈したアルカリホスファターゼ標識抗ヒトIgG(H+L)ポリクローナル抗体(Southern Biotech)の溶液を50μL/ウェルでプレートに添加して室温で1時間反応させた。TBS-Tで洗浄後、発色溶液(1mg/mL pNPP溶液)を100μL/ウェルでプレートに添加し、室温で1時間インキュベートした。次いで、プレートリーダーを用いて405nmの測定波長及び550nmの基準波長で吸光度を測定した。標準試料の測定結果に基づいて検量線を作成し、この検量線を用いて各血漿試料中の抗体濃度を算出した。
【0350】
図5Bは、血漿中の抗体濃度の経時変化を示すグラフである。グラフから明らかなように、ヒト化抗体L15H11(LC配列番号32 HC配列番号18)、L46H11(LC配列番号36、HC配列番号18)、及びL47H65(LC配列番号38、HC配列番号30)(全てヒトIgG1(配列番号135)及びヒトκ(配列番号79)を使用)は、キメラ抗体Ta1505と実質的に同じ血中動態を示した。これらのヒト化抗体L15H11、L46H11、及びL47H65の血中動態は、公知のヒト化抗体IPN007及びMAb3221の血中動態に匹敵し、公知のヒト化抗体ソラネズマブの血中動態より有意に優れていた。
【0351】
G.実施例7:脳内移行の分析
血漿中薬物動態を向上させたヒト化変異体の脳内濃度を分析する試験を実施した。
【0352】
抗体の注射の1週間後に、親マウス抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体変異体(L15H11、L36H11、L46H11、L48H12、L48H47、L48H64、L47H65、またはL48H11)を注射したマウスから血液を採取した。次に、動物を3種麻酔カクテルで麻酔し、開腹し、そして腹部大動脈を介して放血させた。その後、脳組織を採取した。この採取した脳組織を左右の半球に分け、ドライアイス/エタノールで凍結させ、-80℃で保存した。凍結させた各半球を秤量し、2mLチューブに移した。次に、0.8mLのTBS-I(トリス緩衝食塩水、プロテアーゼ阻害剤カクテル及びホスファターゼ阻害剤カクテル)を加え、混合物を氷水中で超音波処理した。超音波処理した混合物を3000×g、4℃で10分間遠心分離し、上清を集めた。上清をさらに100,000×g、4℃で15分間遠心して脳ホモジネートを得た。
【0353】
ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体の10μg/mLのPBS溶液を96ウェルプレート(MaxSorp(NUNC))にピペットで移し、4℃で一晩静置した。その後、3%BSA/PBSでブロッキングを行い、固定化ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体を含むプレートを作製した。抗体を注射していないマウスから得た脳ホモジネートを用いて抗体を段階希釈し、標準物質を得た。
【0354】
脳ホモジネート及び標準物質を10倍に希釈し、固定化ヤギ抗ヒトIgG(Fc)ポリクローナル抗体を含むプレートに50μL/ウェルで、ピペットで移した。混合物を室温で2時間反応させ、次いでプレートをTBS-T(TBS、0.025%Tween20)で洗浄した。次に、アルカリホスファターゼ標識抗ヒトIgG(H+L)ポリクローナル抗体(Sigma、カタログ番号SAB3701337-1MG)を3%BSA/PBSで2000倍に希釈した溶液を50μL/ウェルで、ピペットで移し、反応を室温で1時間進行させた。次に、プレートをTBS-Tで洗浄し、発色試薬pNPP(Sigma、カタログ番号P7998)を100μL/ウェルで加え、プレートを室温で1時間インキュベートした。その後、プレートリーダーを用いて405nmと550nmの吸光度を測定した。
【0355】
標準物質を用いて検量線をプロットし、これを用いて脳ホモジネート中の抗体濃度を計算した。脳重量(全脳容積)あたりの抗体濃度を決定し、血漿濃度に対する比を計算した。
【0356】
図6Aは、良好な薬物動態を有するヒト化抗体変異体(例えば、
図5BによるL15H11、L46H11、及びL47H65)の脳内濃度が向上していたことを示す。
【0357】
AD治療のための臨床試験に使用したキメラ抗体Ta1505及び公知のヒト化抗体ソラネズマブ、IPN007、及びMAb3221を参照抗体として用いて、ヒト化抗体L15H11、L46H11、及びL47H65のそれぞれの脳内移行を分析した。
【0358】
実施例6における各抗体の投与の1週間後、マウスから血液を採取し、次いでマウスを3種類の混合麻酔薬による麻酔下で開腹術に供した。腹部大静脈からの放血による死亡後、脳組織を採取した。収集した脳組織を左右の半球に分け、それらをドライアイスエタノール中で凍結させ、-80℃で保存した。凍結させた半球のそれぞれを秤量し、2mLのチューブに移し、そこに0.8mLのTBS-I(トリス緩衝食塩水、プロテアーゼ阻害剤カクテル、及びホスファターゼ阻害剤カクテル)を加えた。次いで各半球を氷水中で超音波処理した。超音波処理した溶液を4℃、3000×gで10分間遠心し、上清を回収し、さらに4℃、100000×gで15分間超遠心して脳ホモジネートを得た。
【0359】
脳ホモジネート中の抗体レベルを、抗ヒトポリクローナル抗体を用いた抗原ELISAによって測定した。具体的には、10μg/mLのヤギ抗ヒトIgG Fcを含むPBS溶液を96ウェルプレート(Max Sorp(NUNC))に添加し、4℃で一晩固定化した後、3%BSA-PBSでブロッキングし、それによって固定化プレートを製造した。
【0360】
これとは別に、既知濃度の一連の抗体標準試料を、抗体を投与していないマウスから採取した脳ホモジネートで各抗体を段階希釈することによって調製し、検量線の作成のために測定した。
【0361】
脳ホモジネート及び測定する標準試料をそれぞれ0.1%スキムミルク-3%BSA-PBSで10倍希釈し、50μL/ウェルでPD17(P)固定プレートに添加し、室温で2時間反応させた。次にプレートをTBS-T(TBS、0.05%Tween20)で洗浄した。続いて、0.1%スキムミルク-3%BSA-PBSで2000倍に希釈したアルカリホスファターゼ標識抗ヒトIgG(H+L)ポリクローナル抗体(Sigma-Aldrich Co.LLC.、カタログ番号SAB3701337:1mg)の溶液を50μL/ウェルでプレートに添加し、室温で1時間反応させた。プレートをTBS-Tで洗浄した後、pNPP(Sigma-Aldrich Co.LLC.、カタログ番号P7998:100mL)を発色基質として100μL/ウェルで添加し、続いて室温で1時間インキュベートした。次いで、プレートリーダーを用いて405nmの測定波長及び550nmの参照波長で吸光度を測定した。標準試料の測定結果に基づいて検量線を作成し、その検量線を用いて各脳ホモジネート試料中の抗体レベルを求め、脳内抗体レベルとして評価した。
【0362】
さらに、開腹前に採取した血液を用いて実施例6と同様にして血漿中の抗体レベルを測定し、血漿中の抗体レベルに対する脳内の抗体レベルの比を算出した。
【0363】
図6Bは、脳内の各抗体のレベルの、血漿中の対応する抗体のレベルに対する比を示すグラフである。ヒト化抗体L15H11、L46H11、及びL47H65の血漿中の抗体濃度に対する脳内の抗体濃度の比は、キメラ抗体Ta1505及び公知のヒト化抗体IPN007、MAb3221、及びソラネズマブの抗体濃度比に比べて高かった。この結果は、これらのヒト化抗体が脳への高い移行性を有することを示している。
【0364】
実施例8:選択的ヒト化抗体のさらなる開発
VL46のCDR1配列にさらなる変異を導入し、脱アミド化ホットスポットを除去し、及び/またはCDR配列を親マウス配列に戻した。表11は、VL46 CDR1に導入した変異をまとめたものである。
表11.VL46 CDR1に導入した変異
【表17】
【0365】
さらに、新たに生成されたヒト化抗体変異体において、S228P変異を有するIgG1及びIgG4を含む異なるIgGアイソタイプを試験した。表12は、親マウス抗体及びキメラ抗体とともに、新たに生成されたヒト化抗体変異体の軽鎖及び重鎖をまとめたものである。
表12.特異的抗体の軽鎖及び重鎖
【表18】
【0366】
H.実施例9:新たに生成されたヒト化抗体変異体のBiacore(商標)結合分析
新たに生成されたヒト化抗体変異体の結合親和性を、Biacore(商標)T200及び4000のバイオセンサー(GE Healthcare、Chicago、IL)を用いて測定した。以下のランニング緩衝液:10mM HEPES(GE Healthcare、BR100671)、150mM NaCl(GE Healthcare、BR100671)、0.05%v/v界面活性剤P20(GE Healthcare、BR100671)、2mM DTT(Sigma、10708984001、St.Louis,MO)、及び1mM EDTA(GE Healthcare、28995043)を、以下に特に記載のない限り、固定化、試料希釈及びデータ収集に使用した。
【0367】
固定化したタンパク質とは、チップ上に固定化した組換えヒトリン酸化タウタンパク質を指し;固定化した1×Pペプチドとは、チップ上に固定化したリン酸化ペプチド(TSPRHLSNVS(pS)TGSIDMVDSPC、配列番号75)を指す。これらの方法は両方とも、親和性測定に対する結合活性成分を有する。4×Pペプチド分析物は、チップ上に捕捉された抗体及び溶液中の4×リン酸化ペプチド(GAEIVYK(pS)PVVSGDT(pS)PRHLSNVS(pS)TGSIDMVD(pS)PQLATLADEVSASLAKQGL、配列番号78)を有する。
【0368】
固定化したリン酸化タウタンパク質への抗体の結合を、シリーズSセンサーチップNTA(GE Healthcare、BR100034)を用いて測定した。固定化のためのランニング緩衝液は、10mM HEPES、150mM NaCl2、0.05%v/v界面活性剤P20、pH7.4(GE Healthcare、BR100671)であり、流速は10μL/分であった。350mMのEDTAを1分間注入してチップを洗浄し、続いて0.5mMのNiCl2(GE Healthcare、NTA試薬キット)を2分間注入して、hisタグ付加タンパク質を捕捉するためのチップを調製した。アミンカップリングキット(GE Healthcare、BR100633)を使用して製造元の指示に従ってチップを活性化し、次に300nMのリン酸化タウタンパク質(80AWB)を所望の量のタンパク質が固定化されるまで注入した。アミンカップリングキットのエタノールアミンでチップをブロックした。各実験は、複数レベルの固定化リン酸化タウタンパク質を使用した。最低レベルは54レゾナンスユニット(RU)~452RUの範囲で様々であり、最高レベルは463RU~1020RUの範囲で様々であった。固定化リン酸化タウタンパク質に結合するTa1505抗体の親和性を測定するために、0.37nM~30nMの濃度が得られる、各抗体の5点構成の3倍希釈系列を調製した。各濃度及びいくつかの緩衝液のブランクを流速45μl/分で3分間注入した。抗体の解離を15分間モニタリングした後、100mM CAPS(Sigma、C6070)、1M KCl(Sigma、P9541)、1mM EDTA、2mM DTT、pH10.5を30秒~1分注入して表面を再生させた。
【0369】
固定化したリン酸化タウペプチドへの抗体結合を、シリーズSセンサーチップCM3(GE Healthcare、BR100536)を用いて測定した。アミンカップリングキットを使用してチップを活性化し、次いで、10mM酢酸ナトリウム、pH5.0中の30μg/mLリン酸化タウペプチド(配列番号75)を、51RUが固定化されるまで注入した。チップをエタノールアミンでブロックした。非リン酸化タウペプチド(TSPRHLSNVSSTGSIDMVDSPC、配列番号77)を用いて、陰性対照の参照表面を同様に調製した。固定化リン酸化タウペプチドに結合するTa1505抗体の親和性を測定するために、0.37nM~30nMの濃度が得られる、各抗体の5点構成の3倍希釈系列を調製した。各濃度及び数種類の緩衝液ブランクを流速45μL/分で3分間注入した。抗体の解離を15分間モニタリングした。100mM塩酸(Fisher Scientific、SA56-1、Waltham,MA)の30秒間の注入により、表面を再生させた。
【0370】
固定化抗体へのリン酸化タウペプチドの結合を、シリーズSセンサーチップCM5(GE Healthcare、29149603)を用いて測定した。アミンカップリングキットを用いてチップを活性化し、次いで、10mM酢酸ナトリウム、pH5.0中の1~3μg/mlの抗体(Ge Healthcare、BR100351)を、280~9100RUの抗体が固定化されるまで注入した。チップをエタノールアミンでブロックした。固定化Ta1505抗体に結合するリン酸化タウペプチド(配列番号78)の親和性を測定するために、5.1nM~500nMの濃度が得られる、ペプチドの6点構成の2.5倍希釈系列を調製した。試料と数種類の緩衝液ブランクを30~50μL/分で3分間注入し、解離を15分間モニタリングした。調整をせずに、または塩酸でpHを3.5に調整して、20mM酢酸ナトリウム、pH4.5を30秒間注入して表面を再生させた。
【0371】
Biacore(商標)T200評価ソフトウェアバージョン2.0またはBiacore(商標)4000評価ソフトウェアバージョン1.1(GE Healthcare)を使用して、データを処理し、フィッティングした。陰性対照フローセルから反応を差し引き、及び緩衝液注入から反応を差し引くかまたは2回の緩衝液の注入結果から反応の平均を差し引くことによって、データを「二重参照」した。次いで、データを「1:1結合」モデルに当てはめて、会合速度定数k
a(M
-1s
-1、式中「M」はモル濃度に等しく、「s」は秒に等しい)及び解離速度定数k
d(s
-1)を決定した。これらの速度定数を用いて平衡解離定数、K
D(M)=k
d/k
aを計算した。表13は、新たに生成されたヒト化抗体変異体のK
D値を、親マウス抗体及びキメラ抗体のK
D値と比較してまとめたものである。
表13.リン酸化タウタンパク質またはペプチドに対する抗体のK
D(nM)値
【表19】
【0372】
I.実施例10:親マウス抗体、キメラ抗体、及びいくつかのヒト化抗体変異体のELISA結合分析
親マウス抗体、キメラ抗体、及び新たに生成されたヒト化抗体変異体の、リン酸化ペプチド(PRHLSNVS(pS)TGSIDMVD、配列番号79)及び対応する非リン酸化ペプチド(PRHLSNVSTGSIDMVD、配列番号80)への結合をELISAによって分析した。
【0373】
PBS中の1μg/mlのリン酸化または非リン酸化ペプチド50μLをELISAプレートの各ウェルに添加し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。翌日、プレートを3回洗浄し、4℃で一晩、200μLのsuperblockでブロッキングした。3日目に、プレートを3回洗浄した。次に、10μg/mLから開始して1:3で段階希釈したELISA緩衝液中の50μLの抗体をプレートの各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートし、次いで3回洗浄した。親マウス抗体の測定については、1:3000希釈した50μLのヤギ抗マウスHRP(Southern Biotech、1030-05)を添加した。キメラ抗体及びヒト化抗体の測定については、1:3000希釈した50μLのヤギ抗ヒトHRP(Jackson Immunologics、109-036-098)を添加した。ELISAプレートを室温で45分間インキュベートし、3回洗浄し、次いで室温で5分間、ABTSで発色させた。その後、プレートリーダーを用いて405nmの吸光度を測定した。
【0374】
図8A及び8Bは、ハイブリドーマまたは組換え法によって生成した親抗体は、リン酸化ペプチドに結合したが(
図8A)、非リン酸化ペプチドには結合しなかった(
図8B)ことを示す。同様に、キメラ抗体(IgG1またはIgG4骨格のいずれかを有する)は、リン酸化ペプチドに結合したが(
図8C)、非リン酸化ペプチドには結合しなかった(
図8D)。
【0375】
図9A~9Cは、新たに生成されたヒト化抗体変異体のほとんどが、キメラIgG4抗体に匹敵する親和性でリン酸化ペプチドに結合したが、その一方でいくつかの変異体はリン酸化ペプチドに対する結合親和性を失ったことを示す。特に
図9Bでは、アミノ酸N33からDへの完全な脱アミド化を模倣するヒトVL46/VH11_N33D_IgG4変異体が、リン酸化ペプチドへの結合を大幅に減少させ、完全に脱アミド化された抗体がリン酸化タウタンパク質への結合親和性を劇的に失わせるであろうことを示唆する。したがって、ヒト化抗体変異体におけるN33での脱アミド化の減少は不可欠である。
【0376】
XV.実施例11:アルツハイマー病患者の脳ホモジネート中の新たに生成されたヒト化抗体変異体の抗原結合分析
親マウス抗体、キメラ抗体、及び選択したヒト化抗体変異体を、液相中のアルツハイマー病(AD)患者臨床試料由来のSer413リン酸化タウタンパク質(pSer413-タウ)へのそれらの結合力について評価した。
【0377】
図10A~10Eに記載するように、それぞれ、濃度を増大させた対照ヒトIgG(Sigma、カタログ番号I2511)及び選択した抗体変異体と共にAD脳試料をインキュベートした後に、マウスビオチン化Ta1505 IgG2a抗体を用いて検出した全抗原結合と遊離抗原結合との差によって、pSer413-タウ上の抗体占有率を決定した。
【0378】
同じマウスビオチン化Ta1505 IgG2a抗体を用いた検出により、抗体変異体間の結合力価の直接比較が可能である。N-ヒドロキシスクシンイミド-LC-ビオチン(NHS-LC-ビオチン)(Thermo Fisher Scientific K.K.)を用いてマウスTa1505 IgG2a抗体をビオチン化し、続いてPBSで透析した。
【0379】
AD患者の脳由来の凍結前頭前皮質組織(100mg)を、プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテル(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号1861281)を含有する1mLのTBS-I(Tris緩衝食塩水、カタログ番号BP2471-1、Thermo Fisher Scientific)に添加し、Qiagen Tissue Lyzer IIを使用して氷水上で溶解させた。ホモジナイズした試料をBeckman Coulter Optima Max-XP超遠心機で27,000g(TLA-55ローター)、4℃で20分間遠心分離し、上清を回収し、さらにBeckman Coulter Optima Max-XP 超遠心機で150,000×g(TLA-55ローター)、4℃で20分間遠心分離し、P2画分と呼ばれるペレットを得た。超音波処理によってP2画分を均質化緩衝液TBS-Iに再懸濁した。P2画分のタンパク質濃度は、Pierce(商標)BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号23225)を製造元の指示に従って使用して決定した。タンパク質濃度は4μg/mLに調整した。
【0380】
INNOTEST(登録商標)pTau(pT181)キット(Fijirebio Inc.、カタログ番号81581)を、Ser413リン酸化タウタンパク質(pSer413-タウ)のためのELISAシステムとして使用したが、キットに含まれるビオチン化抗体(CONJ1と表示)を上記で作製したビオチン化マウスTa1505 IgG2a抗体に置き換えた。
【0381】
親マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体変異体、または対照ヒトIgGを、試料希釈緩衝液(INNOTEST(登録商標)キットにより提供される)中でストックから200nMに希釈した。抗体溶液を次いで段階希釈し、アッセイプレート中で1/1000に予め希釈したAD脳P2画分と共に室温で4時間インキュベートした。次いで、抗体-抗原混合物を、希釈したビオチン化抗体マウスTa1505 IgG2a(INNOTEST(登録商標)キットにより提供されるCONJ DIL1中1/10)と共にHT7抗体固定化MTプレート(キットに含まれる)に加えた。得られた試料を混合し、4℃で一晩インキュベートした。翌日、プレートを洗浄し、HRP標識ストレプトアビジン(CONJ2としてキットに含まれる)をプレートに添加し、続いて1時間インキュベートした。洗浄後、発色試薬TMBを加え、遮光下室温で30分間インキュベートした。次いで反応停止剤溶液(STOP溶液としてキットに含まれる)を用いて反応を停止させ、450nmの波長での吸光度を測定した。
【0382】
図10A~10Eに示す濃度反応曲線の非線形分析により、AD脳ホモジネート中のタウ pSer413の50%占有率に必要な各抗体の濃度、及び各抗体の最大占有率の割合を決定することができる。
図10A~10Eは、AD患者の脳ホモジネートにおける親マウス抗体、キメラ抗体、及び選択したヒト化抗体変異体について、in vitroでの占有率レベル及びpSer413タウ抗原の最大結合などの結合特性が同等であることを示す。
【0383】
XVI.実施例12:新たに生成されたヒト化抗体変異体の安定性及び純度分析
ナノDSFを介して融解温度(Tml)及び凝集温度(Tagg)を測定することによって、様々な抗体の安定性を決定した。各抗体の純度は、SEC及び非還元キャピラリーSDS(NR-cSDS)によって測定した。
【0384】
Tm及びTaggの決定:PR.ThermControl v2.0.4ソフトウェアによって制御されるPrometheus NT.48示差走査蛍光光度計(Nanotemper Technologies)を使用してナノDSFによってTm及びTaggを決定した。励起電力は40%であり、温度は1℃/分の速度で20℃から95℃に上昇させた。TmとTaggは自動的に測定した。試料を、20mM酢酸ナトリウム、pH5.5の緩衝液中で1mg/mLに希釈することによって調製し、毛管現象によってPrometheusガラス毛細管(PR-L002)中に引き入れた。
【0385】
SECによる純度の決定:ACQUITY UPLC H-Classシステム上でSECを実施した。使用したカラムは、Waters(Milford,MA)のACQUITY UPLC Protein BEH SECカラム(部品番号186005225、1.7μm、200A、4.6mm×150mm)であった。カラム温度は25℃で、1mg/mLの試料10μLを0.5mL/分のシステム流量で注入した。移動相は100mMリン酸ナトリウム、200mM塩化ナトリウム、及び0.02%アジ化ナトリウム、pH7.0であった。データを214及び280nmの両方で定量し、Empower3ソフトウェアを使用して分析した。Waters(Milford,MA)のBEH200 SECタンパク質標準混合物(部品番号186006518)を10μgで注入し、USP分解能、理論段、及びテーリングを測定した。
【0386】
NR-cSDSによる純度の決定:NR-cSDSによる純度の評価のために、1mg/mLの各試料5μLを、50mMのヨードアセトアミドを含むローディングバッファー(HT Protein Express Sample Buffer(Perkin Elmer))35μLと96ウェルプレートで混合した。プレートを70℃で20分間インキュベートし、75μLの水を各ウェルに加えた。各試料を、HT Protein Express Chip(Perkin Elmer)を用いてLabChip GXIIシステム(Perkin Elmer)上で分析した。試料の蛍光を経時的に測定することによってエレクトロフェログラムを収集し、LabChip GXソフトウェアV4.1.1619.0 SP1(Perkin Elmer)を使用して統合した。
【0387】
表14は、試験した抗体の安定性及び純度をまとめたものである。
表14.様々な抗体の安定性と純度
【表20】
【0388】
新たに生成されたヒト化抗体変異体は全て、親マウス抗体またはキメラ抗体に比べて安定性及び純度が維持されるかまたは向上していた。元のヒト化変異体であるヒトVL47/VH65_IgG1のうちの1つは、Tml/Taggによって測定されるように安定性の低下が際立っていた。
【0389】
XVII.実施例13:新たに生成されたヒト化抗体変異体の脱アミド化分析
様々な抗体の軽鎖CDR1中のアミノ酸N33の脱アミド化レベルを測定した。50℃またはpH10でのインキュベーションなどのストレス条件を試験した。対照として4℃でのインキュベーションを行った。
【0390】
4℃及び50℃でのインキュベーション:20mM酢酸ナトリウム、pH5.5中に配合した2mg/mlの試料を、温度制御下の安定チャンバー内に50℃で1週間保持した。比較用の4℃対照については、試料を4℃に保持した。
【0391】
pH10でのインキュベーション:20mM酢酸ナトリウム、pH5.5中に配合した2mg/mLの試料を、0.5M NaOHを用いてpH10に調整し、温度制御下の安定チャンバー内に25℃で1週間保持した。その後、Zeba Spin脱塩カラム(7K MWCO、Thermo Fisher 2mL、89890)を用いて、試料を20mM酢酸ナトリウム、pH 5.5の緩衝液中にバッファー交換した。
【0392】
ペプチドマッピングによる脱アミド化分析:質量分析によるペプチドマッピングのために、100μgの各試料を30μLの8Mグアニジン/1Mトリス塩酸塩溶液(15:1)で変性させ、1M DTT 2μLで60℃で、30分間還元し、1Mヨードアセトアミド5μLで、暗所において45分間アルキル化した。消化の前に、7キロダルトンの分子量カットオフのZEBAカートリッジを用いて試料を50mM重炭酸アンモニウムにバッファー交換した。試料を異なるチューブに分け、2μgのトリプシンとキモトリプシンで並行して37℃で2時間消化した。各試料に3μLの5M塩酸塩を添加することによって消化を停止させた。40℃に維持したPeptide BEH-C18-1x50mm Waters UPLCカラム(部品番号186005592)に2μLの試料を注入した。Dionex/QE plus MSにおいて、0.1%ギ酸中2%~36%のアセトニトリルの50分間にわたる線形勾配を用いてデータを取得した。データベース検索についてはPEAKS DB(Bioinformatics Solutions Inc.)、ならびにパーセント変化評価についてはPepFinder(Thermo Fisher Scientific)及び手動検証を用いて試料を分析した。表15は、試験した抗体の軽鎖CDR1中のアミノ酸N33の脱アミド化の割合をまとめたものである。
表15.様々な条件下での軽鎖CDR1中のN33の脱アミド化割合(%)
【表21】
【0393】
親マウス抗体及び元のヒト化変異体(VL46/VH11)IgG1またはIgG4抗体に比べて、新たに生成されたヒト化抗体変異体は、軽鎖CDR1中のN33の脱アミド化レベルの有意な減少を示した。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
a)配列番号116及び配列番号117から選択される重鎖可変ドメイン;及び
b)配列番号114、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号112、配列番号113及び配列番号103から選択される軽鎖可変ドメイン、を含む抗pSer413タウ抗体。
(態様2)
a)配列番号116及び配列番号117から選択される重鎖可変ドメイン;及び
b)配列番号114、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号112、配列番号113及び配列番号103から選択される軽鎖可変ドメインを含む抗pSer413タウ抗体であって、配列番号8のリン酸化ペプチドへの前記抗体の結合親和性の、配列番号69の非リン酸化ペプチドへの前記抗体の結合親和性に対する比が少なくとも約40である、前記抗pSer413タウ抗体。
(態様3)
前記抗体が、配列番号135、配列番号136、配列番号137、配列番号138、配列番号139、配列番号140、配列番号141、配列番号142及び配列番号144から選択される重鎖定常ドメインを含む、態様1又は2に記載の抗pSer413タウ抗体。
(態様4)
前記抗体が、配列番号79及び配列番号80から選択される軽鎖定常ドメインを含む、態様1~3のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体。
(態様5)
前記可変軽鎖ドメインが配列番号114を有し、前記可変重鎖ドメインが配列番号116を有する、態様1~4のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体。
(態様6)
前記抗体の軽鎖が配列番号184を有し、前記抗体の重鎖が配列番号144を有する、態様5に記載の抗pSer413タウ抗体。
(態様7)
前記軽鎖が配列番号184を有し、前記抗体の重鎖が配列番号152を有する、態様5に記載の抗pSer413タウ抗体。
(態様8)
前記重鎖及び前記軽鎖が、LC配列番号184及びHC配列番号144;LC配列番号184及びHC配列番号145;LC配列番号184及びHC配列番号146;LC配列番号184及びHC配列番号147;LC配列番号184及びHC配列番号148;LC配列番号184及びHC配列番号149;LC配列番号184及びHC配列番号150;LC配列番号184及びHC配列番号151;LC配列番号184及びHC配列番号152;LC配列番号184及びHC配列番号153;LC配列番号184及びHC配列番号154;LC配列番号184及びHC配列番号155;LC配列番号184及びHC配列番号156;LC配列番号184及びHC配列番号157;LC配列番号184及びHC配列番号158;LC配列番号184及びHC配列番号159;LC配列番号184及びHC配列番号160;LC配列番号184及びHC配列番号161;LC配列番号185及びHC配列番号144;LC配列番号185及びHC配列番号145;LC配列番号185及びHC配列番号146;LC配列番号185及びHC配列番号147;LC配列番号185及びHC配列番号148;LC配列番号185及びHC配列番号149;LC配列番号185及びHC配列番号150;LC配列番号185及びHC配列番号151;LC配列番号185及びHC配列番号152;LC配列番号185及びHC配列番号153;LC配列番号185及びHC配列番号154;LC配列番号185及びHC配列番号155;LC配列番号185及びHC配列番号156;LC配列番号185及びHC配列番号157;LC配列番号185及びHC配列番号158;LC配列番号185及びHC配列番号159;LC配列番号185及びHC配列番号160、ならびにLC配列番号185及びHC配列番号161のペアから選択される、態様1~7のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体。
(態様9)
a)配列番号162、配列番号163、配列番号164、配列番号165、配列番号166、配列番号167、配列番号168、配列番号169、配列番号170、配列番号171、配列番号172、配列番号173、配列番号174、配列番号175、配列番号176、配列番号177、配列番号178、配列番号179、配列番号180、配列番号181、配列番号182、配列番号183、配列番号184、及び配列番号185から選択される軽鎖をコードする第1の核酸;ならびに
b)配列番号144、配列番号145;配列番号146;配列番号147;配列番号148;配列番号149;配列番号150;配列番号151;配列番号152;配列番号153;配列番号154;配列番号155;配列番号156;配列番号157;配列番号158;配列番号159;配列番号160及び配列番号161から選択される重鎖をコードする第2の核酸を含む、核酸組成物。
(態様10)
前記第1の核酸が第1の発現ベクターに含まれ、前記第2の核酸が第2の発現ベクターに含まれる、態様9に記載の核酸組成物を含む発現ベクター組成物。
(態様11)
前記第1の核酸及び前記第2の核酸が発現ベクターに含まれる、態様9に記載の核酸組成物を含む発現ベクター組成物。
(態様12)
態様10または11に記載の発現ベクター組成物を含む宿主細胞。
(態様13)
前記抗体を発現させ、前記抗体を回収する条件下で態様12に記載の宿主細胞を培養することを含む、抗pSer413タウ抗体の作製方法。
(態様14)
態様1~8のいずれか一項に記載の抗pSer413タウ抗体を対象に投与することを含む、前記対象におけるタウオパチーの治療方法。
(態様15)
a)配列番号86を有するvhCDR1、配列番号115を有するvhCDR2、及び配列番号88を有するvhCDR3を含む重鎖可変ドメイン;ならびに
b)
i)配列番号102を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
ii)配列番号91を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
iii)配列番号92を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
iv)配列番号93を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
v)配列番号94を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
vi)配列番号95を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
vii)配列番号96を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
viii)配列番号97を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
ix)配列番号98を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
x)配列番号99を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
xi)配列番号100を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;ならびに
xii)配列番号101を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3
からなる群から選択される一組のvlCDRを含む軽鎖可変ドメイン、を含む抗pSer413タウ抗体。
(態様16)
a)配列番号86を有するvhCDR1、配列番号115を有するvhCDR2、及び配列番号88を有するvhCDR3を含む重鎖可変ドメイン;ならびに
b)
i)配列番号102を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
ii)配列番号91を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
iii)配列番号92を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
iv)配列番号93を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
v)配列番号94を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
vi)配列番号95を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
vii)配列番号96を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
viii)配列番号97を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
ix)配列番号98を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
x)配列番号99を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;
xi)配列番号100を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3;ならびに
xii)配列番号101を有するvlCDR1、配列番号82を有するvlCDR2、及び配列番号83を有するvlCDR3
からなる群から選択される一組のvlCDRを含む軽鎖可変ドメイン、を含む抗pSer413タウ抗体であって、
配列番号8のリン酸化ペプチドへの前記抗体の結合親和性の、配列番号69の非リン酸化ペプチドへの前記抗体の結合親和性に対する比が少なくとも約40である、前記抗pSer413タウ抗体。
【配列表】