(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】ディスペンサー及びコック
(51)【国際特許分類】
B67D 3/00 20060101AFI20221028BHJP
【FI】
B67D3/00 Z
(21)【出願番号】P 2020532088
(86)(22)【出願日】2018-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2018028069
(87)【国際公開番号】W WO2020021676
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】720009745
【氏名又は名称】神楽フィースト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180921
【氏名又は名称】峰 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】岩永 満宏
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】実公昭54-026493(JP,Y2)
【文献】特開平03-209071(JP,A)
【文献】実用新案登録第2570739(JP,Y2)
【文献】特許第5043231(JP,B2)
【文献】米国特許第6941968(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2005/0151106(US,A1)
【文献】米国特許第4651770(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B67D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料を排出するディスペンサーであって、
飲料の排出を制御するコックと、
前記コックの回転軸に接続されたレバーと、
前記回転軸に接続されて前記回転軸の回転と共に回転する回転隙を有する回転弁と、
前記コックのコックボディに固定されて前記回転軸が回転しても動かない固定孔を有する固定弁とを備え、
前記レバーが回転して前記回転隙及び前記固定孔の位置が重なることで前記飲料を排出するものであり、
前記コックは、前記固定弁
の固定位置を第1位置
及び前記第1位置とは異なる第2位置
の複数設ける、ディスペンサー。
【請求項2】
前記第2位置は、前記第1位置からみて、前記回転軸の周りに回転した位置である、請求項1記載のディスペンサー。
【請求項3】
前記固定弁は、第1突起部及び第2突起部を有し、
前記コックボディは、
第1溝、第2溝、第3溝及び第4溝を有し、
前記第1突起部及び前記第2突起部をそれぞれ第1溝及び第2溝で保持することにより前記第1位置で固定し、又は、
前記第1突起部及び前記第2突起部をそれぞれ第3溝及び第4溝で保持することにより前記第2位置で固定する、請求項1又は2記載のワインディスペンサー。
【請求項4】
前記コックは、内部に筒型のパッキンをさらに有し、
前記パッキンは、排出側に近い下部の内径である下部内径が排出側から遠い上部の内径である上部内径よりも小さい、請求項1から3のいずれかに記載のディスペンサー。
【請求項5】
前記パッキンは、前記上部と前記下部の間に内径方向に溝を有する、請求項4記載のディスペンサー。
【請求項6】
前記コックが飲料を排出する方向は、当該ディスペンサーを水平に置いた場合に、鉛直方向に対して3度以上25度以下だけ傾いて固定されている、請求項1から5のいずれかに記載のディスペンサー。
【請求項7】
前記コックボディは、
前記飲料を保持する容器部に接続される接続パイプと、
前記接続パイプに接続されて前記回転軸を保持する排出パイプとを有し、
前記接続パイプは、当該ディスペンサーを水平に置いた場合に、前記容器部に接続される端が前記排出パイプに接続される端よりも高い位置に固定されている、請求項1から6のいずれかに記載のディスペンサー。
【請求項8】
飲料を排出するディスペンサーに接続されて飲料の排出を制御するコックであって、
当該コックの回転軸に接続されたレバーと、
当該コックのコックボディに固定されて固定孔を有する固定弁と、
前記回転軸に接続されて回転隙を有する回転弁とを備え、
前記レバーが回転して前記固定孔及び前記回転隙の位置が重なることで前記飲料を排出するものであり、
前記固定弁
の固定位置を第1位置
及び前記第1位置とは異なる第2位置
の複数設ける、コック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料を排出するディスペンサー、及び、ディスペンサーに接続されて飲料の排出を制御するコックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料を排出するディスペンサーは、店舗に設置するための大型のものが多かったが、家庭でもディスペンサーでワイン等の飲料を楽しみたいとのニーズが存在する。
【0003】
本願出願人らは、そのようなニーズに応えるべく、ワインディスペンサーを開発し、日本のみならず欧米・アジア各国で特許を取得してきた(特許文献1等)。なお、特許文献1等の出願人であった株式会社満宏は、本願出願人のグループ会社である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5043231号明細書
【文献】米国特許8333302号明細書
【文献】露国特許2485045号明細書
【文献】韓国特許101287909号明細書
【文献】欧州特許2426082号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、家庭でディスペンサーを利用する場合、比較的収納に余裕のある店舗とは違い、少しでもスペースをとらずに収納可能とする点に開発の余地が残されていた。
【0006】
例えば、飲料が入ったディスペンサーを家庭用冷蔵庫に保管しようとする場合、大型のものや構造的にかさばるディスペンサーでは保管が困難となり、使い勝手がよいとはいえない。
【0007】
ゆえに、本発明は、従来よりもスペースをとらずに収納可能とするディスペンサー等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、飲料を排出するディスペンサーであって、飲料の排出を制御するコックと、前記コックの回転軸に接続されたレバーと、前記コックに固定されて前記回転軸が回転しても動かない固定孔を有する固定弁と、前記回転軸に接続されて前記回転軸の回転と共に回転する回転隙を有する回転弁とを備え、前記レバーが回転して前記固定孔及び前記回転隙の位置が重なることで前記飲料を排出するものであり、前記コックは、前記固定弁を第1位置で固定し、又は、前記固定弁を第1位置とは異なる第2位置で固定する、ディスペンサーである。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点のディスペンサーであって、前記第2位置は、前記第1位置からみて、前記回転軸の周りに回転した位置である。
【0010】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点のディスペンサーであって、前記固定弁は、第1突起部及び第2突起部を有し、前記コックは、第1溝、第2溝、第3溝及び第4溝を有し、前記第1突起部及び前記第2突起部をそれぞれ第1溝及び第2溝で保持することにより前記第1位置で固定し、又は、前記第1突起部及び前記第2突起部をそれぞれ第3溝及び第4溝で保持することにより前記第2位置で固定する。
【0011】
本発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点のディスペンサーであって、前記コックは、内部に筒型のパッキンをさらに有し、前記パッキンは、排出側に近い下部の内径である下部内径が排出側から遠い上部の内径である上部内径よりも小さい。
【0012】
本発明の第5の観点は、第4の観点のディスペンサーであって、前記パッキンは、前記上部と前記下部の間に内径方向に溝を有する。
【0013】
本発明の第6の観点は、第1から第5のいずれかの観点のディスペンサーであって、前記コックが飲料を排出する方向は、当該ディスペンサーを水平に置いた場合に、鉛直方向に対して3度以上25度以下だけ傾いて固定されている。
【0014】
本発明の第7の観点は、第1から第6のいずれかの観点のディスペンサーであって、前記コックは、前記飲料を保持する容器部に接続される接続パイプと、前記接続パイプに接続されて前記回転軸を有する排出パイプとを有し、前記接続パイプは、当該ディスペンサーを水平に置いた場合に、前記容器部に接続される端が前記排出パイプに接続される端よりも高い位置に固定されている。
【0015】
本発明の第8の観点は、飲料を排出するディスペンサーに接続されて飲料の排出を制御するコックであって、当該コックの回転軸に接続されたレバーと、当該コックに固定されて固定孔を有する固定弁と、前記回転軸に接続されて回転隙を有する回転弁とを備え、前記レバーが回転して前記固定孔及び前記回転隙の位置が重なることで前記飲料を排出するものであり、前記固定弁を第1位置で固定し、又は、前記固定弁を第1位置とは異なる第2位置で固定する、コックである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の各観点によれば、使用時にはレバーを手に取りやすい位置で閉状態とし、収納時にはレバーが収納に邪魔にならない位置で閉状態とすることが可能となる。使用時にはレバーが使用者に向いていた方が使用しやすいが、収納時に、例えば冷蔵庫のドアポケットに収納しようとする場合、レバーが外向きだと冷蔵庫の壁や食品等にぶつかって収納の邪魔となってしまう。また、食品等を傷つけることになる。さらには、レバーが食品等にぶつかって冷蔵庫内で回転すると飲料が大量に冷蔵庫内にこぼれることにもなりかねない。そこで、収納時には使用時とは異なるレバーの向きで閉状態とできる構成とすることにより、ディスペンサーを確実に収納することが容易となる。
【0017】
特に、本発明の第2及び第3の観点によれば、使用後にコックを分解して固定弁の固定位置をわずかに動かすだけで、レバーが邪魔にならずに冷蔵庫のドアポケットのような場所に収納可能となる。固定弁をコックに固定するだけであれば、2つの溝があるだけでよいが、使用時と収納時とで固定弁をずらして固定することに意義を見出した本願発明ならではの構成である。なお、上記のコックの分解は工具なしでできる程度のものである。
【0018】
さらに、本発明の第4の観点によれば、大きな課題となるコック先端の液溜まりや液漏れを抑制することが可能となる。万一、ワインのように染みが取れにくい飲料のコック先端からの液漏れは、使用者に多大なストレスを強いることとなる。液溜まりや液漏れを抑制する本観点の構成は、ディスペンサーとして画期的といえる。
【0019】
さらに、本発明の第5の観点によれば、パッキン内部の溝に飲料が進入することを許すことにより、コック先端における液溜まりや液漏れを抑制することがさらに容易となる。また、飲料がコックに及ぼす圧力が高ければ、回転弁及び固定弁が互いに及ぼす圧力をそれだけ適切に調整して液漏れの発生を防ぐ必要がある。パッキンの溝の分だけコック個体差による回転弁及び固定弁がお互いに及ぼす圧力を吸収し。回転軸を回転させる負荷を自動的に調整することも容易となる。パッキンをシリコンゴム等の柔軟性のある材質で構成することにより、この有効性がさらに高まることが期待できる。
【0020】
さらに、本発明の第6の観点によれば、例えばワインが排出された際に自然にワイングラスの湾曲した側面に当たってスムーズかつ見た目にも美しくワイングラスに収めることが可能となる。この角度範囲よりも小さい傾きの場合、自然にワインがワイングラスの側面に当たらず、この角度範囲よりも大きい傾きの場合、コックの傾き方向とワインの排出方向が異なることとなり、排出の見た目が損なわれることとなる。また、コック先端に液溜まりができるのを防止することも容易となる。
【0021】
さらに、本発明の第7の観点によれば、飲料がコック内の経路中に留まらないように排出しきることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係るディスペンサーの概要を示すブロック図である。
【
図2】本発明に係るディスペンサー全体の実施例を示す図である。
【
図3】本発明に係るコック部の構成の一例を示す図である。
【
図4】コックボディの断面図の一例を示す図である。
【
図5】ディスペンサーのレバーが、(a)正面を向いているときと、(b)横を向いているときを示す図である。
【
図6】コックボディ、回転弁及び固定弁の接触部分の一例を示す図である。
【
図7】本発明に係るコック部における固定弁の固定位置とレバーの向きの関係を示す図であり、(a)レバーが正面を向いて閉状態、(b)レバーが横を向いて開状態、(c)レバーが横を向いて閉状態、(d)レバーが正面を向いて開状態となっていることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本願発明の実施例について述べる。なお、本願発明の実施の形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
図1は、本願発明の実施例に係るディスペンサー1(本願請求項の「ディスペンサー」の一例)の概要を示すブロック図である。
図1を参照して、ディスペンサー1は、容器部3とコック部5(本願請求項の「コック」の一例)とを備える。容器部3は、飲料保持部7と、上ぶた9と、落としぶた11とを有する。コック部5は、回転軸13(本願請求項の「回転軸」の一例)と、レバー15(本願請求項の「レバー」の一例)と、コックボディ17(本願請求項の「コックボディ」の一例)と、回転弁19(本願請求項の「回転弁」の一例)と、固定弁21(本願請求項の「固定弁」の一例)と、溝付パッキン23(本願請求項の「パッキン」の一例)と、コックキャップ25とを有する。回転軸13は、レバー穴31と、軸受パッキン33と、ガイドリング35と、足部37とを有する。コックボディ17は、ステンレス製であり、第1溝41(本願請求項の「第1溝」の一例)と、第2溝43(本願請求項の「第2溝」の一例)と、第3溝45(本願請求項の「第3溝」の一例)と、第4溝47(本願請求項の「第4溝」の一例)とを有する。固定弁21は、第1突起部49(本願請求項の「第1突起部」の一例)と、第2突起部51(本願請求項の「第2突起部」の一例)とを有する。以下、複数ある部位を符号に添え字を付して示すことがあるが、総称的に示す場合には添え字を省略して示すこともある。
【0025】
図2は、本発明に係るディスペンサー1全体の実施例を示す図である。
図2を参照して、ディスペンサー1は、使用者のレバー15の操作により飲料保持部7に保持する飲料61を排出する。容器部3は、円筒状の飲料保持部7に飲料61を保持する。上ぶた9は、飲料保持部7の上部をふさいで飲料保持部7に空気やほこり等が混入するのを防ぐ。落としぶた11は、飲料保持部7の内部で飲料61に浮かべられ、自重により飲料61をコック部5に排出する。落としぶた11の外径は、飲料保持部7の内径に合わせて設計されており、飲料61が排出されると共に飲料保持部7の内部を摺動する。そのため、飲料保持部7に保持された飲料61は、外気にほとんど触れることがなく酸化が抑制される。
【0026】
コック部5は、飲料保持部7からの飲料の排出を制御する。
図3は、本発明に係るコック部5の構成の一例の理解を容易にするために分解して示す図である。以下、
図3を参照して、コック部5について説明する。
【0027】
回転軸13は、回転してコック部5の開閉を制御する。回転軸13は、細い軸部14と、軸部14よりも外径が大きい端部16とからなる。レバー穴31及び軸受パッキン33は、軸部14にあり、ガイドリング35及び足部37は、端部16にある。レバー15は、回転軸13のレバー穴31に固定されて回転軸13と共に回転軸13周りに回転する。
【0028】
ここで、レバー15の開閉方式を上げ下げ式ではなく回転式としたことにより、使用者がレバー15を操作する際にディスペンサー1が転倒するおそれがなくなる利点がある。
【0029】
コックボディ17は、固定部63と、接続部65(本願請求項の「接続パイプ」の一例)と、軸保持部67(本願請求項の「排出パイプ」の一例)とからなる。コックボディ17は、固定部63が容器部3に固定されると共に、軸保持部67が有する回転軸穴69に回転軸13を貫通させて保持する。接続部65は、固定部63と軸保持部67とを接続する。固定部63は、固定部63が有するネジ穴711,712にそれぞれローレットネジ731,732が貫通し、インサートナット751,752を介して容器部3のネジ穴771,772に固定される。また、容器部3から飲料61が排出される容器排出口78のところには、容器部3とコックボディ17の間にシールパッキン79が挟まれて飲料61が漏れることを防止する。
【0030】
足部37は、回転弁19に接する。回転弁19は、固定弁21にも接する。固定弁21は、溝付パッキン23にも接する。溝付パッキン23は、コックキャップ25にも接する。コックキャップ25は、軸保持部67にネジ方式で固定される。
【0031】
図4は、コックボディ17の断面図の一例である。
図4を参照して、コックボディ17について説明を加える。
【0032】
回転軸穴69は、内径の細い軸穴部70と、軸穴部70よりも内径が大きい穴端部72とからなる。軸部14は、軸穴部70に入るが、端部16は、穴端部72には入るものの軸穴部70には入らない外径の大きさとなっている。回転軸13は、軸部14が穴端部72の側から回転軸穴69に挿入された際にゴム製のоリングである軸受パッキン331,332が軸穴部70の内部に接して固定される。2つの軸受パッキン331,332が一定の間隔で設けられていることにより、回転軸13が回転しやすくなり、干渉を自動制御し、回転軸13の中心軸のぶれを抑制できる。また、軸受パッキン33より硬い樹脂製のガイドリング35は、端部16と軸穴部70とが直接当たらない緩衝材となる。さらに、軸受パッキン33及びガイドリング35は、空気が抜けて飲料61が逆流することを防ぐ役割もある。
【0033】
容器排出口78からコックボディ17に入った飲料61は、接続穴66を通って穴端部72に導かれる。さらに、レバー15によりコックが開いた状態であれば、飲料61は回転弁19、固定弁21、溝付パッキン23、及び、コックキャップ25を通って排出される。
【0034】
ここで、
図4に示すように、接続穴66は、容器部3側から穴端部72に向かって、水平方向から4度下に傾いている。これは、コック部5が閉状態となった際に接続穴66の経路中に飲料を残さないためである。また、回転軸穴69は、容器部3側から外側に向かって鉛直方向から8度傾いている。これは、飲料、特にワインが、ワイングラスに対してスムーズにグラス内に注がれることを容易とするためである。
【0035】
続いて、本発明に係るディスペンサー1の作用について述べる。
図5は、ディスペンサー1のレバー15が、(a)正面を向いているときと、(b)横を向いているときを示す図である。
【0036】
図5を参照して、使用者は、
図5(b)に示すようにレバーが横を向いている場合に比べて、
図5(a)に示すようにレバーが自分の方を向いている場合の方が心理的に操作を促される。これは、レバーの向きが使用者に及ぼす意味・影響であり、デザインの基礎となるアフォーダンスの考え方である。そこで、ディスペンサー1が冷蔵庫等の外にある使用時においては、コック部5が閉状態であるときに、
図5(a)に示すようにレバーが使用者の方(正面)を向いていることが好ましいといえる。
【0037】
他方、ディスペンサー1を冷蔵庫等に収納する収納時においては、レバー15が正面を向いていると冷蔵庫の壁や食品等にぶつかって収納の邪魔となってしまう。また、食品等を傷つけることになる。さらには、レバーが食品等にぶつかって冷蔵庫内で回転すると飲料が大量に冷蔵庫内にこぼれることにもなりかねない。そこで、収納時には、コック部5が閉状態であるときに、
図5(b)に示すようにレバーが横を向いていることが好ましいといえる。
【0038】
上記のように、使用時と収納時とで閉状態におけるレバー15の向きが異なることが好ましいことに気付いた結果、本願発明者は、固定弁21の固定位置を複数設ける本願発明の技術思想に想到した。以下、
図6及び
図7を参照して詳細を述べる。
【0039】
図6は、コックボディ17、回転弁19及び固定弁21の接触部分の一例を示す図であり、(a)回転軸13を回転軸穴69に挿入してレバー15を取り付けたコックボディ17を、穴端部72側から見たところの一例を示す図、(b)回転弁19の足部37に接する側の一例を示す図、(c)回転弁19の固定弁21に接する側の一例を示す図、(d)固定弁21の回転弁19に接する側の一例を示す図、(e)固定弁21の溝付パッキン23に接する側の一例を示す図である。
【0040】
図6を参照して、コックボディ17に回転弁19及び固定弁21がどのように接するかについて説明する。
図6(a)を参照して、穴端部72には、第1溝41、第2溝43、第3溝45、第4溝47が設けられている。第1溝41と第2溝43、及び、第3溝45と第4溝47とは、それぞれ回転中心をはさんで向かい合う位置にある。また、第1溝41、第4溝47、第2溝43、第3溝45は、順に時計回りに90度ずつ回転中心周りに回転した位置にある。
【0041】
図6(b)を参照して、回転弁19は、扇形をした回転扇部81を面対称に2つ合わせた形状をしており、回転扇部81
1及び81
2に、それぞれ回転溝83
1及び83
2を有する。また、回転扇部81
1及び81
2の間に扇形の間隙である回転隙85
1及び85
2(本願請求項の「回転隙」の一例)を有する。回転弁19は、足部37が回転溝83に収まり、レバー15を回すと回転軸13の動きに伴って回転する。
【0042】
他方、
図6(d)を参照して、固定弁21は、扇形の孔である固定孔87
1及び固定孔87
2(本願請求項の「固定孔」の一例)と、第1突起部49及び第2突起部51を有する。第1突起部49及び第2突起部51は、第1溝41及び第2溝43、又は、第3溝45及び第4溝47に収まる。そのため、レバー15を回しても、固定弁21は回転せず固定される。
【0043】
ここで、コックボディ17は、ステンレス製であり、回転弁19及び固定弁21は、セラミック製である。そのため、飲料61が例えばワインのように酸性が強いものであっても、飲料61にコック部5の部材が溶け出さない。また、アルコール飲料の液体に対して影響が少ないと考えられる。材質によっては弁同士が擦れて微小な粉が出ることや環境ホルモン等の溶出リスクが懸念されるが、セラミック製であればその懸念がなくなる。欧州等の規制をふまえると、ステンレス18-8等のステンレスの他、鉛やカドミウムが溶出しない合金で回転弁19及び固定弁21を製造してもよい。
【0044】
さらに、
図7を用いてコック部5の開閉状態とレバーの向きの関係について述べる。
図7は、本発明に係るコック部5における固定弁21の固定位置とレバー15の向きの関係の一例を示す図であり、(a)レバー15が正面を向いて閉状態、(b)レバー15が横を向いて開状態、(c)レバー15が横を向いて閉状態、(d)レバー15が正面を向いて開状態となっていることを示す図である。ディスペンサー1は、レバー15が回転して回転隙85及び固定孔87の位置が重なることで飲料61を排出する
【0045】
まず、固定弁21の第1突起部49及び第2突起部51を、それぞれ第1溝41及び第2溝43に収めた位置(第1位置(本願請求項の「第1位置」の一例))に固定弁21を固定する場合について述べる。このとき、
図7(a)を参照して、レバー15が正面を向いたときに、回転扇部81と固定孔87が重なって閉状態となっている。また、
図7(b)を参照して、レバー15が横を向いたときに、回転隙85と固定孔87が重なって開状態となっている。つまり、ディスペンサー1の使用時には、固定弁21を第1位置に固定するのが好ましいといえる。
【0046】
続いて、固定弁21の第1突起部49及び第2突起部51を、それぞれ第3溝45及び第4溝47に収めた位置(第2位置(本願請求項の「第2位置」の一例))に固定弁21を固定する場合について述べる。このとき、
図7(c)を参照して、レバー15が横を向いたときに、回転扇部81と固定孔87が重なって閉状態となっている。また、
図7(d)を参照して、レバー15が正面を向いたときに、回転隙85と固定孔87が重なって開状態となっている。つまり、ディスペンサー1の収納時には、固定弁21を第2位置に固定するのが好ましいといえる。
【0047】
上記のように、固定弁21を互いに回転軸13周りに回転した位置である2つの固定位置で固定可能としたことにより、使用時と収納時でレバー15の位置を異なる位置で閉状態とすることが可能となった。これにより、本発明に係るディスペンサー1は、使用時は閉状態においてレバー15の位置を使用者に使用を促す位置とし、収納時は閉状態においてレバー15の位置を収納に邪魔にならない位置とすることが可能となった。結果として、収納スペースが限られる家庭においても、本格的なディスペンサーの使用を楽しむことを容易としたものである。
【0048】
さらに、ディスペンサー1の使い勝手を向上させる溝付パッキン23について述べる。
図8は、溝付パッキン23の構造の一例を示す図であり、溝付パッキン23の(a)平面図、(b)側面図、(c)底面図、(d)A-A’線参考断面図である。
【0049】
図8を参照して、溝付パッキン23は、シリコーンゴム製であり、筒型の形状をしている。
図8(a)は、溝付パッキン23を固定弁21に接する側から見た図である。
図8(b)は、溝付パッキン23を側面から見た図であり、正面図、右側面図、左側面図、背面図は、同一に表れる。
図8(c)は、溝付パッキン23をコックキャップ25に接する側から見た図である。
【0050】
コック部5から飲料を排出する際、コックキャップ25の液溜まりが生じると問題となる。ワインのような飲料の液溜まりが思わぬときに滴として落ちると、テーブルクロスやカーペットの染みを生じさせるからである。
【0051】
そこで、
図8(d)に示すように、固定弁21に接する面である上部面91の内径d1(本願請求項の「上部内径」の一例)を、コックキャップ25に接する面である下部面93の内径d2(本願請求項の「下部内径」の一例)よりも大きくする。下部面93は、上部面91よりも排出側に近い。流出量とデザインの観点から、溝付パッキン23の口径(大きさ)をセラミック固定弁と溝付パッキン出口までの空間に空気溜を残さない寸法の構造とすることにより、液体だけの負圧で溝付パッキンの中に液溜まりをとどめることができる。さらに、上部面91の内径から下部面93の内径に向かってテーパー角θを付ける。テーパー角としては20度以上が望ましい。これにより、飲料61が排出されやすいこととなり、コック部5を閉状態とした後に、コックキャップ25に液溜まりが生じることを防止することが容易となる。
【0052】
ここで、コックキャップ25は、溝付パッキン23を収容するパッキン収容部と、飲料61が通過して排出されるキャップ穴とを有する。パッキン収容部の内径は、溝付パッキン23の外径d3と合わせてある。そのため、飲料61が確実に溝付パッキン23の筒内を通過する。また、下面部93の内径d2は、キャップ穴の内径よりも小さく作られている。このため、飲料61が流れやすく溝付パッキン23の排出口に液溜まりが生じることを防止することがさらに容易となる。
【0053】
また、
図8(b)には、うっすらと溝付パッキン23が有する内径方向の溝である内径溝95(本願請求項の「溝」の一例)があることが見てとれる。
図8(d)には、内径溝95の存在が明示されている。内径溝95は、回転軸13を回転させる負荷を自動的に調整する。また、内径溝95に飲料61が収納される余地があることにより、仮にコック部5を閉状態とした後に液溜まりができても滴となって落ちることを抑制することが可能となる。なお、当然に内径溝95の内径d4は、溝付パッキン23の外径d3よりも小さい。
【0054】
さらに、
図8(c)に示すように、下部面93に、3ヶ所の凹部97
1,97
2,97
3が設けられていることにより、使用者が溝付パッキン23の上下を容易に判別できる。同様に、上下を判別する手段として、上下のいずれか又は両方に判別できるように色を付けることとしてもよい。
【0055】
なお、固定弁21を複数の位置で固定することが可能であれば、固定弁が有する突起部の数は2つでなくともよく、穴端部が有する溝の数も4つでなくともよい。
【0056】
また、回転弁19は、2つの回転扇部の間に2つの回転隙を有するとしたが、他の数の回転扇部及び回転隙を有するものであってもよい。同様に、回転弁21も、2つの固定孔を有するとしたが、他の数の固定孔を有するものであってもよい。さらに、回転弁が隙間ではなく孔を有するものであってもよいし、固定弁が孔ではなく隙間を有するものであってもよいし、回転弁及び固定弁の少なくとも一方が、孔と隙間を兼ね備えるものであってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1・・・ディスペンサー、3・・・容器部、5・・・コック部、7・・・飲料保持部、9・・・上ぶた、11・・・落としぶた、13・・・回転軸、14・・・軸部、15・・・レバー、16・・・端部、17・・・コックボディ、19・・・回転弁、21・・・固定弁、23・・・溝付パッキン、25・・・コックキャップ、31・・・レバー穴、33・・・軸受パッキン、35・・・ガイドリング、37・・・足部、41・・・第1溝、43・・・第2溝、45・・・第3溝、47・・・第4溝、49・・・第1突起部、51・・・第2突起部、61・・・飲料、63・・・固定部、65・・・接続部、67・・・軸保持部、69・・・回転軸穴、70・・・軸穴部、71・・・ネジ穴、72・・・穴端部、73・・・ローレットネジ、75・・・インサートナット、77・・・ネジ穴、79・・・シールパッキン、81・・・回転扇部、83・・・回転溝、85・・・回転隙、87・・・固定孔、91・・・上部面、93・・・下部面、95・・・内径溝、97・・・凹部