IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大紀商事株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】抽出バッグ
(51)【国際特許分類】
   B65D 77/00 20060101AFI20221028BHJP
【FI】
B65D77/00 J ZBP
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022507072
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2020010487
(87)【国際公開番号】W WO2021181555
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】396015057
【氏名又は名称】大紀商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 充範
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】実開平4-112059(JP,U)
【文献】実開昭59-69169(JP,U)
【文献】特表平8-508660(JP,A)
【文献】特開2005-118239(JP,A)
【文献】特開2003-267444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通水濾過性シートから形成された袋本体、袋本体の外表面に設けられた薄板状部材、袋本体内に充填された抽出材料を有する抽出バッグであって、
袋本体は対向する第1面と第2面、及びこれら両面の縁辺となる上辺を有し、
該上辺の下側に第1面が位置し、上側に第2面が位置するように袋本体を展開した場合に、
薄板状部材は、袋本体の第1面上の第1部材と袋本体の第2面上の第2部材を有し、第1部材と第2部材は前記上辺に沿った第1横折れ線を介して連続しており、また、
薄板状部材は、第1部材の中央部で袋本体の第1面と貼着した中央貼着部、
第1部材と第2部材にまたがり、袋本体から引き起こし可能で中央貼着部を左右から挟む一対の長尺領域、及び
該一対の長尺領域を、それぞれ袋本体側辺に近い方の辺から引き起こして対向させることを可能とする縦折れ線を有する抽出バッグ。
【請求項2】
第2部材において一対の長尺領域の先端部が縦折れ線を介して連続している請求項1記載の抽出バッグ。
【請求項3】
第2部材が、
一対の長尺領域の間に、第1横折れ線から伸びて一対の長尺領域と折れ線を介して繋がり、袋本体に貼着されていない中央上端部と、
中央上端部と折れ線を介して繋がり、長尺領域から切り離された中央引き上げ部を有し、
中央引き上げ部は中央上端部から離れた部分が袋本体と貼着している請求項1又は2記載の抽出バッグ。
【請求項4】
第1部材において、中央貼着部の左右の側辺と長尺領域とが切り離され、前記縦折れ線が、中央貼着部よりも袋本体底辺側に形成されている請求項1~3のいずれかに記載の抽出バッグ。
【請求項5】
第1部材において、中央貼着部と、その左右に設けられた長尺領域とが前記縦折れ線を介して連続している請求項1~3のいずれかに記載の抽出バッグ。
【請求項6】
第1部材が、長尺領域よりも袋本体底辺側に袋本体と貼着した補強部を有する請求項1~5のいずれかに記載の抽出バッグ。
【請求項7】
第1部材が、長尺領域の外周部に袋本体と貼着した補強部を有する請求項1~5のいずれかに記載の抽出バッグ。
【請求項8】
補強部が上辺を超えて第2部材に延設されている請求項7記載の抽出バッグ。
【請求項9】
第1部材が、一対の長尺領域の側辺部にL字型に突出した掛止部を有する請求項1~8のいずれかに記載の抽出バッグ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の抽出バッグにおいて袋本体に抽出材料が充填されておらず、袋本体に抽出材料充填用の開口部が設けられている手詰め用抽出バッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通水濾過性シート製の袋本体に充填された抽出材料を湯に浸漬して抽出液を得る抽出バッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、緑茶、紅茶、ウーロン茶などの飲料を手軽にいれるために、吊し糸付きの通水性の袋本体にこれらの茶葉が充填されたティーバッグが広く用いられている。コーヒーについても、コーヒー粉に注湯するドリップタイプの抽出バッグの他に、コーヒー粉が充填された袋本体を湯に浸漬させるティーバッグタイプのコーヒー抽出バッグが使用されている。しかしながら、ティーバッグタイプのコーヒー抽出バッグを湯に浸漬しようとしても、コーヒー粉に二酸化炭素が含まれるためにコーヒー粉を充填した袋本体が湯中で浮き上がり易く、コーヒーを十分に抽出することが難しい。そこで、薄板状部材で形成されたフック片を、コーヒー粉を充填する袋本体の片面に取り付けておき、コーヒー粉が充填された袋本体が湯中で浮き上がらないように、フック片をカップの縁に掛止できるようにしたものが提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、薄板状部材を折り曲げてパンタグラフのように伸縮する構造とした把手部を、コーヒー粉が充填された袋本体に取り付け、袋本体が浸漬している湯中で該把手部を上下させることによりコーヒーの抽出を促進させることが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案登録第3140084号公報
【文献】特開2006―273379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コーヒー粉が充填された袋本体を湯に浸漬させる従来のコーヒー抽出バッグでは、薄板状部材で形成されたフック片又は把手部を把持し、浮き上がろうとする袋本体を強制的に湯中に沈めようとしても薄板状部材が折れ曲がったり撓んだりして袋本体を湯中に沈めることは困難である。コーヒーの抽出を促進させるために、フック片又は把手部を上下させても、袋本体は湯中で把持部と同様には上下しない。また、一時的に袋本体が湯中に沈んでも、袋本体に充填されたコーヒー粉全体の表層だけが湯で膨潤し、コーヒー粉全体の内部には湯が浸透しにくい。そのため、袋本体を湯に浸漬させるティーバッグタイプの抽出バッグでは、ドリップタイプと同程度の濃さのコーヒー液をドリップタイプと同程度以下の時間で得ることが難しくなっている。
【0006】
これに対し、本発明は、コーヒー粉等の抽出材料が充填されている袋本体を湯に浸漬させることにより抽出液を得るティーバッグタイプの抽出バッグであって、袋本体を湯中に沈めたり、上下させたりすることを容易に行えるようにし、また、袋本体内の抽出材料全体に湯が行き渡るようにし、十分な濃さの抽出液を簡便に得られるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、抽出材料が充填された袋本体に薄板状部材が取り付けられているティーバッグタイプの抽出バッグにおいて、薄板状部材を特定形状とすることにより、その薄板状部材を袋本体の中央部から伸びたリジッドな棒状に成形することができ、棒状部分を把持することで袋本体を容易に湯中に沈めたり、上下させたりすることが可能となること、また、袋本体内の抽出材料が占める部分の上面の面積やヘッドスペースを大きくすることも可能となり、湯中で袋本体を上下させたときに袋本体内の抽出材料の上面に対して下向きに湯が流れ、抽出材料の内部に湯が浸透しやすくなることを想到し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、通水濾過性シートから形成された袋本体、袋本体の外表面に設けられた薄板状部材、袋本体内に充填された抽出材料を有する抽出バッグであって、
袋本体は対向する第1面と第2面、及びこれら両面の縁辺となる上辺を有し、
該上辺の下側に第1面が位置し、上側に第2面が位置するように袋本体を展開した場合に、
薄板状部材は、袋本体の第1面上の第1部材と袋本体の第2面上の第2部材を有し、第1部材と第2部材は前記上辺に沿った第1横折れ線を介して連続しており、また、
薄板状部材は、第1部材の中央部で袋本体の第1面と貼着した中央貼着部、
第1部材と第2部材にまたがり、袋本体から引き起こし可能で中央貼着部を左右から挟む一対の長尺領域、及び
該一対の長尺領域を、それぞれ袋本体側辺に近い方の辺から引き起こして対向させることを可能とする縦折れ線
を有する抽出バッグを提供する。
【0009】
また本発明は、上述の抽出バッグにおいて袋本体に抽出材料が充填されておらず、袋本体に抽出材料充填用の開口部が設けられている手詰め用抽出バッグを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、抽出材料が充填された袋本体の外表面に設けられた薄板状部材の一対の長尺領域を、これらが対向するように折り曲げることで、一対の長尺領域が互いに撓みを抑制し、袋本体の一方の面内から伸びたリジッドな棒状になる。このため、この棒状部分を把持することで袋本体を容易に湯中に沈めたり、上下させたりすることができる。したがって、袋本体内に容易に湯を通すことができる。
【0011】
また、一対の長尺領域は袋本体の対向する2面にわたって設けられているので、これを棒状とすることにより、袋本体の片面だけに設けられたものを棒状とする場合に比して棒状となる部分が長尺となる。したがって、棒状部分を把持して湯中の袋本体を沈めたり、上下させたりする場合に、棒状部分を把持する手が湯気で熱くなることを防止できる。
【0012】
さらに、本発明によれば棒状部分を傾斜させて把持することにより、袋本体内で抽出材料が占める部分の形状を、その上面の面積が広がるように変化させ、ヘッドスペースも広げることができる。したがって、袋本体内に流入した湯は抽出材料の上面から下向きに流れ易くなり、袋本体内で抽出材料の占める部分の表面だけではなく、全体からの抽出が促進される。特に、袋本体の第2面が薄板状部材の中央引き上げ部で引き上げられるようにした態様では、抽出材料の自重によって袋本体が下方に引っ張られて扁平化することを中央引き上げ部の引き上げによっても防ぎ、ヘッドスペースを広げることができる。さらに棒状部分の下方に袋本体幅方向に伸びた補強部を設けた態様では、袋本体の幅方向のしぼみを妨げ、袋本体内部のスペース全体を広げることができる。
【0013】
よって、本発明によれば、抽出速度を速め、ドリップタイプの抽出方式と同等以上の濃さの抽出液を短時間で容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A図1Aは、実施例の抽出バッグ1Aの正面図(第1部材側平面図)である。
図1B図1Bは、実施例の抽出バッグ1Aの背面図(第2部材側平面図)である。
図2図2は、実施例の抽出バッグ1Aの展開図である。
図3図3は、袋本体の第2面から薄板状部材の第2部材を引き上げた状態の抽出バッグ1Aの斜視図である。
図4A図4Aは、長尺領域を引き起こした状態の実施例の抽出バッグ1Aの側面図である。
図4B図4Bは、長尺領域を引き起こした状態の実施例の抽出バッグ1Aを袋本体の第1面側から見た斜視図である。
図4C図4Cは、長尺領域を引き起こした状態の実施例の抽出バッグ1Aを袋本体の第2面側から見た斜視図である。
図5図5は、抽出バッグ製造用シートの平面図である。
図6図6は、抽出バッグの製造方法の説明図である。
図7図7は、実施例の抽出バッグ1Bの展開図である。
図8図8は、実施例の長尺領域を引き起こした状態の抽出バッグ1Bの側面図である。
図9図9は、実施例の抽出バッグ1Cの展開図である。
図10図10は、長尺領域を引き起こした状態の実施例の抽出バッグ1Cの斜視図である。
図11図11は、実施例の抽出バッグ1Dの展開図である。
図12図12は、長尺領域を引き起こした状態の実施例の抽出バッグ1Dの斜視図である。
図13図13は、長尺領域を引き起こし、カップに掛止部16を掛止させた状態の抽出バッグ1Dの斜視図である。
図14図14は、実施例の抽出バッグ1Eの展開図である。
図15図15は、長尺領域を引き起こした状態の実施例の抽出バッグ1Eの斜視図である。
図16図16は、実施例の抽出バッグ1Fの展開図である。
図17図17は、長尺領域を引き起こした状態の実施例の抽出バッグ1Fの斜視図である。
図18図18は、比較例の抽出バッグ1xの展開図である。
図19図19は、長尺領域を引き起こした状態の比較例の抽出バッグ1xの斜視図である。
図20図20は、実施例の抽出バッグ1Gの展開図である。
図21図21は、実施例の手詰め用抽出バッグ30の斜視図である。
図22図22は、実施例の手詰め用抽出バッグ30の開口部を閉じた状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明を具体的に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0016】
(全体構成)
図1A図1Bは、それぞれ、本発明の一実施例の抽出バッグ1Aの薄板状部材の長尺領域を引き起こしていない状態の正面図(第1部材側平面図)、背面図(第2部材側平面図背)である。また、図4Aは薄板状部材の長尺領域を引き起こした状態の抽出バッグ1Aの側面図であり、図4Bはその抽出バッグ1Aを袋本体の第1面側から見た斜視図であり、図4Cは、その抽出バッグ1Aを袋本体の第2面側から見た斜視図である。
【0017】
この抽出バッグ1Aは、通水濾過性シートから形成された平袋からなる袋本体3、袋本体3の外表面に設けられた薄板状部材10、袋本体3内に充填された抽出材料を有する。袋本体3は対向する第1面3Aと第2面3B、及びこれら両面の縁辺となる上辺4aを有する。本実施例において上辺4aは、第1面3Aと第2面3Bの折り山となっている。
【0018】
図2は、この抽出バッグ1Aの展開図であって、上辺4aの紙面下側に袋本体の第1面Aと該第1面3A上に設けられた薄板状部材10の第1部材10Aを表し、上辺4aの紙面上側に袋本体の第2面3Bと該第2面3B上に設けられた薄板状部材10の第2部材10Bを表したものである。同図において、斜め線で塗り潰した領域は薄板状部材10と袋本体3との貼着領域を表し、ドットで塗り潰した領域は展開図において袋本体3が露出している部分を表している。なお、本発明において貼着領域は図示した態様に限られない。
【0019】
第1部材10Aと第2部材10Bは第1横折れ線Lh1を介して連続しており、第1横折れ線Lh1は袋本体の上辺4aと重なり、上辺4aに沿っている。
【0020】
第1部材10Aの中央部には袋本体の第1面3Aと貼着した中央貼着部11が形成されている。中央貼着部11における貼着領域には少なくとも第1横折れ線Lh1の近傍を含めることが好ましく、本実施例では中央貼着部11の略全面が袋本体3と貼着している。
【0021】
薄板状部材10には、中央貼着部11を左右から挟む一対の長尺領域12(図2で2点鎖線で囲んだ領域)が形成されている。長尺領域12は第1部材10Aと第2部材10Bにまたがって形成され、袋本体3から引き起こし可能である。
【0022】
また、薄板状部材10には一対の長尺領域12を、それぞれ袋本体側辺4bに近い方の辺から引き起こし、図4A図4B図4Cに示すように対向させることを可能とする縦折れ線が形成されている。縦折れ線は長尺領域12の長手方向に伸びており、一対の長尺領域12の引き起こし時に、引き起こしの回動軸となる。なお、本発明において、一対の長尺領域12を引き起こして対向させることを可能とする縦折れ線は、厳密に長尺領域の長手方向または袋本体の上下方向に形成されたものでなくてもよく、後述する第4縦折れ線Lv4のように長尺領域12の長手方向に対して斜めに形成されたものでもよい。一方、本発明においてこの縦折れ線は、少なくとも第1部材10Aに一対形成されることが好ましく、第2部材10Bにも少なくとも一対形成されることがより好ましく、第2部材10Bの縦折れ線が第1部材10Aの縦折れ線の延長線上に形成されることがさらに好ましい。本実施例では第1部材10Aにおいて中央貼着部11の左右の側辺11aが長尺領域12と切り離されているため、第1部材10Aには中央貼着部11よりも袋本体底辺4c側にある長尺領域12の端部に一対の第1縦折れ線Lv1が形成されている。また、第2部材10Bには第1横折れ線Lh1から伸びた一対の第2縦折れ線Lv2が形成されており、さらに、一対の長尺領域12の端部同士が連続する部分には第3縦折れ線Lv3が形成されている。
【0023】
なお、薄板状部材10の横折れ線Lh1や縦折れ線Lv1、Lv2、Lv3はミシン目、ハーフカット、筋押し等により形成することができる。
【0024】
第1部材10A及び第2部材10Bにわたる一対の長尺領域12を縦折れ線により袋本体3から引き起こし、対向させられる構成とすることは、本発明の特徴的な構成であり、袋本体3から引き起こした一対の長尺領域12を、袋本体3内の抽出材料を湯中に沈めるときに長尺でリジッドな棒状の柄として機能させることができる。
【0025】
本実施例において第1部材10Aは、長尺領域12の下端部よりも袋本体底辺4c側に、袋本体3と貼着した補強部13を有する(図2)。これにより、長尺領域12の下端部の引き起こしの軸となる縦折れ線LV1が中央貼着部11と補強部13で挟まれることとなり、この下端部の強度が向上する。また、この補強部13は袋本体幅方向に伸びている。したがって、抽出材料の自重による袋本体の幅方向のしぼみが妨げられ、袋本体3内に広いスペースを確保することができる。なお、本発明において、補強部13は必要に応じて設けられる。
【0026】
一方、本実施例において第2部材10Bは、一対の長尺領域12の間に第1横折れ線Lh1から伸びた中央上端部14を有している。中央上端部14は、第2縦折れ線Lv2を介して長尺領域12と繋がっており、袋本体3に貼着されることなく浮いている。また、第2部材10Bは、中央上端部14と第2横折れ線Lh2を介して繋がった中央引き上げ部15を有する。中央引き上げ部15は長尺領域12と切り離されている。また、中央引き上げ部15は、中央上端部14から離れた部分に袋本体との貼着領域15Aを有する。したがって、一対の長尺領域12を袋本体3から引き起こして対向させた状態では、図4A図4Cに示すように、袋本体の第2面3Bの中央部が袋本体の上辺4a方向に引き上げられ、袋本体内では抽出材料が占める部分の上面の面積が広がり、ヘッドスペースも広がる。したがって、袋本体内に流入した湯で抽出材料の抽出を効率よく行い、所定の濃さの抽出液を得るのに要する時間を短縮させることができる。
【0027】
(抽出材料)
袋本体3内に充填される抽出材料としては、コーヒー粉、紅茶、緑茶等の茶葉、漢方薬などをあげることができる。一般に、コーヒー粉を袋本体3内に充填し、湯中に浸漬しようとすると、コーヒー粉に含まれる二酸化炭素により袋本体が浮き上がりやすいので、抽出し難い。しかし、本発明によれば、長尺領域12を引き起こしてリジッドな棒状とすることによりこの棒状部分を袋本体3の中央部から伸びた柄のように使用して袋本体3をカップ内の湯に押し沈めたり、湯中で上下させたりすることが容易である。したがって、袋本体内のコーヒー粉全体の表層に湯が浸透するだけでなく、内部にも湯が浸透するので、コーヒー粉全体から効率よく抽出液を得ることができる。コーヒー粉以外の抽出材料についても同様に抽出材料に湯を浸透させ、抽出材料全体から効率よく抽出液を得ることができる。
【0028】
なお、本発明の抽出バッグでは、抽出材料が袋本体3内に密封された状態で使用されるので、抽出バッグの使用時に抽出材料が袋本体外に散らばることはない。
【0029】
(袋本体)
袋本体3の形状は、本実施例では上辺を通水濾過性シートの折り山とする3方シールの平袋としている。本発明において袋本体3の形状は平袋に限られず、例えば、底部又は側部にマチを有するガゼット袋としてもよい。また、袋本体3の上辺3aは折り山とすることに限られず、シール辺としてもよいが、抽出バッグの製法上は折り山とすることが好ましい。
【0030】
袋本体3の正味の平面寸法は、抽出バッグを用いて抽出液を得る場合に使用するカップ又は容器の大きさに応じて適宜設定することができる。例えば、袋本体3を市販のコーヒーカップに適合した大きさにすればよい。
【0031】
(通水濾過性シート)
袋本体を形成する通水濾過性シートとしては、抽出材料の抽出に使用できるように通水性及び濾過性を有するものを種々使用することができ、抽出材料の種類に応じて通水濾過性シートの構成材料も適宜選択することができる。例えば、一般に、飲料を抽出するための通水濾過性シートとしては、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ビニロン等の合成繊維、レーヨン等の半合成繊維、コウゾ、ミツマタ等の天然繊維の単独又は複合繊維からなる織布あるいは不織布、マニラ麻、木材パルプ、ポリプロピレン繊維等からなる混抄紙等、ティーバッグ原紙等の紙類が知られており、本発明においてもこれらを使用することができる。抽出バッグの使用後の廃棄性の点からは、通水濾過性シートに生分解性繊維を含有させることが好ましい。生分解性繊維としては、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート等を挙げることができる。また、袋本体内の抽出材料の状態がわかるように、通水濾過性シートに透明性をもたせる点からは、無機系顔料の含有量を低減させること又は無機系顔料が含まれないようにすることが好ましい。
【0032】
また、ドリップタイプの抽出バッグでは抽出材料へ直接的に湯が注がれるのに対し、本発明の抽出バッグでは、必ず通水濾過性シートを通して抽出材料へ湯が供給されるため、抽出材料の粉漏れが生じない限りで、ドリップタイプの抽出バッグで使用される通水濾過性シートよりも目の粗いものを使用することが好ましい。例えば、コーヒー粉を抽出材料とする場合、通水濾過性シートの通気性は130~600cm3/cm2/sec(JIS LH1096通気性A法(フラジール形通気性試験器を用いる方法))とすることができる。
【0033】
(薄板状部材)
薄板状部材は撥水性を有するものが好ましく、表面に樹脂をラミネートした板紙、プラスチックシート等の薄板状材料の打ち抜きにより形成することができる。抽出バッグ1A使用後の廃棄性の点からは、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート等の生分解性材料から形成したものが好ましい。
【0034】
(使用方法)
抽出バッグ1Aの包装、流通形態としては、図1A図1Bに示したように、薄板状部材10全体が袋本体3の表面上にあり、袋本体が扁平化している状態が好ましい。そこで、この状態からの使用方法としては、まず、図3に示すように、袋本体の第2面3Bから薄板状部材の第2部材10Bを引き起こして第1部材10Aと第2部材10Bとが略同一平面にあるようにする。このとき、袋本体の第2面3Bは中央引き上げ部15の貼着領域15A(図2)が上辺4a方向に引き上げられ、袋本体3の形状が扁平な状態から第1面3Aが屈曲し、袋本体内で抽出材料が占める部分の上面の面積が広がり、ヘッドスペースも広がる。
【0035】
次に図4Bに示すように第1縦折れ線Lv1、第2縦折れ線Lv2、第3縦折れ線Lv3で薄板状部材を折り曲げて一対の長尺領域12を対向させる。これにより、一対の長尺領域12は長尺でリジッドな棒状になる。そこで、この棒状部分を把持して抽出バッグをカップ等の容器に入れ、注湯する。あるいは湯の入った容器に抽出バッグを入れる。そして、長尺領域12からなる棒状部分で袋本体を湯中に沈めたり、湯中で上下させたりして抽出材料の抽出速度を高めることができる。このとき、袋本体の第1面3A及び第2面3Bに渡る長さの棒状部分のうち第1面3Aの長尺領域12で形成された棒状部分が第1面3Aに固定され、第2面3Bから引き起こされた棒状部分が袋本体3の上辺4aの上方に位置し、袋本体3の上辺4aより上方の棒状部分を手で把持することができるので、容器内に熱湯が入っていても棒状部分を把持する手が湯気で熱くなることを防止できる。もちろん、必要に応じて抽出を冷水で行ってもよい。また、棒状部分をカップ等の容器の内壁に立てかけて袋本体を容器内に放置しておいてもよい。
抽出後は、棒状部分を把持して容器内から袋本体を取り出すことができる。
【0036】
こうしてこの抽出バッグ1Aによれば、簡便に迅速に所望の濃さの抽出液を得ることができる。
【0037】
(製造方法)
抽出バッグ1Aの製造方法としては、例えば、図5に示すように、長尺の通水濾過性シート21の長手方向に薄板状部材10の第1横折れ線Lh1を合わせた向きで、通水濾過性シート21に薄板状部材10を所定間隔で並べて貼着した抽出バッグ製造用シート20を用意する。図中、二点鎖線で挟まれた領域が抽出バッグ1個分の製造に使用されることとなる。
【0038】
この抽出バッグ製造用シート20を包装充填機で用いることにより抽出バッグ1Aを連続的に製造することができる。この場合、まず図6に示すように、抽出バッグ製造用シート20の長手方向の両側辺を重ね合わせるように二つ折りにし、その長手方向の側辺同士を溶着して縦シール22を形成することにより筒状体を形成する。次に、筒状体を短手方向に溶着する横シール23の形成と袋本体3内への抽出材料Mの充填とを交互に繰り返すことにより抽出バッグ1Aの袋本体3の側辺で抽出バッグ1Aが上下に繋がった抽出バッグ連続体を製造し、これを個々の抽出バッグに切り離して抽出バッグ1Aを得る。あるいは、筒状体の短手方向の横シール23の形成時に溶断も同時に行い、個々に切り離された抽出バッグ1Aを連続的に製造する。
【0039】
(変形態様)
本発明の抽出バッグは種々の変更点をもつことができる。例えば、図7に示した展開図を有する抽出バッグ1Bは、図2に示した展開図の抽出バッグ1Aに対して中央引き上げ部15を省略し、その部分の袋本体を露出させたものである。この抽出バッグ1Bによれば、図8に示すように一対の長尺領域12からなる棒状部分を傾斜させても棒状部分で袋本体3の中央貼着部11を保持することができる。したがって、抽出材料の抽出時に棒状部分を傾斜させることで、棒状部分を鉛直方向に立てた場合に比して袋本体3内で抽出材料が占める部分の形状を、その上面が広がるように変化させ、ヘッドスペースも広げることができる。したがって、この抽出バッグ1Bによっても袋本体内の抽出材料全体から抽出することが容易となる。
【0040】
図9に示した展開図を有する抽出バッグ1Cは、図2に示した展開図の抽出バッグ1Aに対し、第1部材において中央貼着部11の左右に切れ線を介して設けられた長尺領域12を縦折れ線Lv1’を介して連続させたものである。この縦折れ線Lv1’は、第2部材10Bにおいて中央上端部14とその左右に設けられた長尺領域12との間の第2縦折れ線Lv2を第1部材10Aに延長したものとなっている。これにより長尺領域12の引き起こし時の回動軸であって袋本体の表面に保持されている部分が、図2に示した展開図の抽出バッグ1Aよりも長くなり、一対の長尺領域12を引き起こして形成される棒状部材の袋本体3に対する取り付け強度が向上する。
【0041】
また、この抽出バッグ1Cでは第1部材10Aが長尺領域12の外周部に袋本体3と貼着した補強部13aを有し、この補強部13aが袋本体の上辺4aを越えて第2部材10Bの上部に延設され、第2部材10Bの上部にも袋本体と貼着した補強部13bが形成されている。したがって、長尺領域12を引き起こした状態では、図10に示すように、袋本体の第2面3Bの上部が補強部13bによって押さえられ、中央引き上げ部15による袋本体の第2面3Bの部分的な引き上げにより袋本体内のヘッドスペースがより広がり易くなり、抽出速度をさらに向上させることが可能となる。
【0042】
図11に示した展開図を有する抽出バッグ1Dは、図9に示した展開図を有する抽出バッグ1Cに対し、第1部材10Aに、一対の長尺領域12の側辺部にL字型に突出した掛止部16を設けたものである。抽出バッグ1Dにおいて長尺領域12を引き起こすと、図12に示すように中央貼着部11の形成面に対して掛止部16を突出させることができるので、図13に示すように抽出材料の抽出時にカップ100の開口部壁に掛止部16を掛止させることができる。したがって、抽出時に湯中に袋本体3を浸漬させたまま抽出バッグ1Dから手を離してもよく、抽出後の抽出バッグ1Dの廃棄前に抽出バッグ1Dの水切りをするために空のカップに抽出バッグ1Dを掛止してもよい。
【0043】
図14に示した展開図を有する抽出バッグ1Eは、図11に示した展開図を有する抽出バッグ1Dに対し、第2部材10Bにおける一対の長尺領域の端部を、第3縦折れ線Lv3を介して連続させることなく、独立させたものである。また、第2部材10Bにおける一対の長尺領域12の端部には、それぞれノッチ17が設けられている。したがって、図15に示すように、袋本体から引き起こした長尺領域12の端部同士をノッチ17で係合させることができる。この抽出バッグ1Eにおいても、長尺領域12はリジッドな棒状部分として機能する。
【0044】
図16に示した展開図を有する抽出バッグ1Fは、上述した抽出バッグに対して中央引き上げ部15、補強部13、13a、13b等が省略されているが、第1部材10Aの中央部に中央貼着部11を有し、中央貼着部11を挟む一対の長尺領域12が第1部材10A及び第2部材10Bにまたがって形成されている。また、中央貼着部11と長尺領域12の間には、長尺領域12の長手方向に対して斜めに形成された一対の第4縦折れ線Lv4が形成されている。
【0045】
この抽出バッグ1Fにおいても縦折れ線Lv3、Lv4で薄板状部材を折り曲げて一対の長尺領域12を袋本体3から引き起こし、対向させると、図17に示すように、長尺領域12によって袋本体の第1面3Aから伸びたリジッドは棒状部分を形成することができ、この棒状部分を把持することで袋本体3を湯中に沈めたり、湯中で上下させたりすることができ、抽出速度を速めることができる。
【0046】
また、第2部材10Bにおいて一対の長尺領域12に挟まれた部分には、袋本体と貼着した上部貼着部18が形成されているので、長尺領域12を引き起こして対向させると図17に示すように袋本体の胴部が膨らみ、ヘッドスペースが広がる。この膨らみによっても抽出バッグ1Fは抽出材料の抽出速度を速めることができる。
【0047】
一方、図18に示した展開図を有する比較例の抽出バッグ1xは、図16に示した展開図を有する抽出バッグ1Fに対し、一対の長尺領域12が第2部材10Bのみに形成されている。このため、一対の長尺領域12を袋本体から引き起こして対向させると図19に示すように、第1横折れ線Lh1で第1部材10Aと第2部材10Bが折れ曲がる。また、第1横折れ線Lh1から袋本体3が扁平な状態で垂下する。このため、袋本体3から引き起こした長尺領域12で袋本体3を湯中に沈めたり、湯中で袋本体を上下させたりすることが難しくなり、本発明の効果は得られない。
【0048】
本発明において、第1部材と第2部材の長手方向の長さは同一でも異なっていてもよい。例えば、図20に示した展開図を有する抽出バッグ1Gは、前述した図2の展開図の抽出バッグ1Aにおいて第2部材の長さを袋本体の第2面3Bの底辺4c側に延長して長尺領域12の長さを長くすることで把持できる部分を長くしたものである。
【0049】
(手詰め用抽出バッグ)
上述した各抽出バッグ1A、1B、1C、1D、1E、1F、1Gにおいて、袋本体3に抽出材料を充填せずに袋本体3を空袋としておき、袋本体3に抽出材料充填用の開口部が設け、手詰め用抽出バッグとしてもよい。手詰め用抽出バッグによれば、個々の抽出バッグユーザーがそれぞれの好みに応じて抽出材料を空袋に充填し、抽出液を得ることができる。
【0050】
手詰め用抽出バッグの開口部には、抽出材料を充填後、その開口部を閉じる手段を設けておくことが好ましい。例えば、前述の抽出バッグ1Aに対応する手詰め用空袋としては、図21に示した手詰め用抽出バッグ30のように、袋本体3の第1面3Aの下部に、該第1面3を形成する通水濾過性シートを表面側に折り返した折り返し部5を設け、袋本体3の下端をシールせずに開口部6を形成しておけばよい。抽出バッグユーザーは、空袋となっている袋本体3の開口部6から抽出材料Mを手詰めした後、折り返し部5の表裏面を引っ繰り返すことで図22に示すように開口部6を閉じることができる。
【0051】
空袋の開口部6を閉じる手段としては、袋本体3の下部に折り返し部5を設けることに限られず、例えば、特許第4289363号に記載のチャックを開口部6に設けてもよく、食品包装用の両面テープを使用してもよい。
【0052】
以上、本発明の種々の態様について説明したが、本発明において種々態様における変更点は適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0053】
1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G、1x 抽出バッグ
2 通水濾過性シート
3 袋本体
3a 袋本体の上辺
3A 第1面
3B 第2面
4a 上辺
4b 側辺
4c 底辺
5 折り返し部
6 開口部
10 薄板状部材
10A 第1部材
10B 第2部材
11 中央貼着部
11a 中央貼着部の側辺
12 長尺領域
13、13a、13b 補強部
14 中央上端部
15 中央引き上げ部
15A 貼着領域
16 掛止部
17 ノッチ
18 上部貼着部
20 抽出バッグ製造用シート
21 長尺の通水濾過性シート
22 縦シール
23 横シール
30 手詰め用抽出バッグ
100 カップ
Lh1 第1横折れ線
Lh2 第2横折れ線
Lv1 第1縦折れ線
Lv1’ 縦折れ線
Lv2 第2縦折れ線
Lv3 第3縦折れ線
Lv4 第4縦折れ線
M 抽出材料
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22