(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/08 20060101AFI20221028BHJP
【FI】
B60N2/08
(21)【出願番号】P 2018023377
(22)【出願日】2018-02-13
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】598106326
【氏名又は名称】トヨタ車体精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 尚人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 陽一
(72)【発明者】
【氏名】小見山 斉
(72)【発明者】
【氏名】白木 晋
【審査官】井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-002130(JP,A)
【文献】特開2002-079860(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106926757(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/06 - B60N 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションと、
車両のフロアに固定されているロアレールと、
前記シートクッションに固定されており、前記ロアレールに対して車両前後方向に摺動可能に支持されているアッパレールと、
前記ロアレールに対して前記アッパレールをロックするスライドロック機構と、
前記スライドロック機構を解除するハンドルであってロック位置と第1アンロック位置と第2アンロック位置をこの順に切り換えることができるハンドルと、
を備えており、
前記ハンドルを前記ロック位置から前記第1アンロック位置へ移動させると前記スライドロック機構が解除されるとともに、前記アッパレールの前方移動の摺動抵抗に第1摺動抵抗が設定され、
前記ハンドルを前記第1アンロック位置から前記第2アンロック位置へ移動させると、前記摺動抵抗に前記第1摺動抵抗よりも小さい低摺動抵抗が設定される、車両用シート。
【請求項2】
前記シートクッションに対して回転可能に支持されているシートバックと、
前記シートクッションと前記シートバックを、着座可能姿勢にロックするシートロック機構と、
前記シートロック機構を解除するシートアンロックレバーと、
前記シートアンロックレバーと前記ハンドルを連動させるワイヤと、
をさらに備えており、
前記ハンドルは回転式であって回転方向に細長い長孔を有しており、
前記ワイヤの一端が前記長孔にその長手方向に揺動可能に係合しており、他端が前記シートアンロックレバーに接続されており、
前記ハンドルをロック位置から第1アンロック位置へ移動させると前記ワイヤの一端が前記長孔の一方の端から他方の端まで移動し前記ワイヤが引っ張られることなく前記シートロック機構がロック状態に保持されたまま前記スライドロック機構が解除され、
前記ハンドルを前記第1アンロック位置から第2アンロック位置へ移動させると、前記スライドロック機構の解除が保持されたまま前記ワイヤを介して前記シートロックレバーが引っ張られて前記シートロック機構が解除される、請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記第1アンロック位置において、前記アッパレールの後方移動の摺動抵抗に前記第1摺動抵抗よりも小さい第2摺動抵抗が設定される、請求項1
または2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記アッパレールに保持されており、車両前方に向けて先細りになっており、前記ロアレールと前記アッパレールとの間に挟み込まれる第1楔部材と、
前記アッパレールに保持されており、車両後方に向けて先細りになっており、前記ロアレールと前記アッパレールとの間に挟み込まれる第2楔部材と、
前記ハンドルをロック位置から第1アンロック位置へ移動させると前記第1楔部材を車両後方へ移動させる第1連動機構と、
前記ハンドルを前記第1アンロック位置から前記第2アンロック位置へ移動させると前記第2楔部材を車両前方へ移動させる第2連動機構と、
をさらに備えている、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シートを車両の床に対して前後方向にスライドさせるシートスライド装置が知られている。シートスライド装置は、車両の床に固定されるロアレールと、シートクッションに固定され、ロアレールに対して前後方向に摺動可能に係合しているアッパレールを備えている。特許文献1のシートスライド装置は、アッパレールのロックを解除してシートを前方へ移動させるときのアッパレールの摺動抵抗をシートの後方移動時の摺動抵抗よりも大きくする。このシートスライド装置は、前方移動時に適度な摺動抵抗を与える一方、後方移動時に小さい摺動抵抗を与え、前方移動時の安全性を高めるとともに、後方への容易な移動を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシートスライド装置は、乗員の安全を図るため、シートの前方移動の際の摺動抵抗を適度な値に設定する。一方、乗員が座っていないときには、より軽い力でシートを前方に移動させることができるとよい。しかも、アッパレールのロック解除とともに適度な摺動抵抗を与える場合と、アッパレールのロック解除とともに小さな摺動抵抗を与える場合を簡単な操作で分けられるとよい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する車両用シートは、シートクッションと、ロアレールと、アッパレールと、スライドロック機構と、スライドロック機構を解除するハンドルを備えている。ハンドルをロック位置から第1アンロック位置へ移動させるとスライドロック機構が解除されるとともに、アッパレールの前方移動の摺動抵抗に第1摺動抵抗が設定される。ハンドルを第1アンロック位置から第2アンロック位置へ移動させると、摺動抵抗に、第1摺動抵抗よりも小さい低摺動抵抗が設定される。この車両用シートは、ハンドルの移動位置を選択することで、ロック解除とともに適度な摺動抵抗を与える場合と、ロック解除とともに小さい摺動抵抗を与える場合を選択することができる。
【0006】
本明細書が開示するシートでは、第1アンロック位置において、アッパレールの後方移動の摺動抵抗に第1摺動抵抗よりも小さい第2摺動抵抗が設定されるとよい。第1摺動抵抗に適度な値を設定し、前方移動の際には安全性を高める一方、シートの後方への移動を楽にすることができる。
【0007】
本明細書が開示するシートは、さらに、シートクッションに対して回転可能に支持されているシートバックと、シートクッションとシートバックを着座可能姿勢にロックするシートロック機構をさらに備えているとよい。この場合、ハンドルをロック位置から第1アンロック位置へ移動させるとシートロック機構がロック状態に保持されたままスライドロック機構が解除され、ハンドルを第1アンロック位置から第2アンロック位置へ移動させると、スライドロック機構の解除が保持されたままシートロック機構が解除されるように構成されているとよい。第2アンロック位置では、前方移動に対して低摺動抵抗が設定されるとともに、シートバックが折り畳み可能となる。この構成は、3列シート車両のセカンドシートに適している。
【0008】
ハンドル操作に応じて第1摺動抵抗と低摺動抵抗を設定する機構の一例は次の通りである。その機構は、第1楔部材と第2楔部材と第1連動機構と第2連動機構で構成される。第1楔部材は、アッパレールに保持されており、車両前方に向けて先細りになっており、ロアレールとアッパレールとの間に挟み込まれる。第2楔部材は、アッパレールに保持されており、車両後方に向けて先細りになっており、ロアレールとアッパレールとの間に挟み込まれる。第1連動機構は、ハンドルをロック位置から第1アンロック位置へ移動させると第1楔部材を車両後方へ移動させる。そうすると、第1楔部材がロアレールから離れ、摺動抵抗が小さくなる。第2連動機構は、ハンドルを第1アンロック位置から第2アンロック位置へ移動させると第2楔部材を車両前方へ移動させる。そうすると、第2楔部材がロアレールから離れ、摺動抵抗が小さくなる。第1楔部材がロアレールから離れ、第2楔部材がロアレールに接触した状態で、上記した第1摺動抵抗と第2摺動抵抗が実現される。第1楔部材と第2楔部材がともにロアレールから離れると、上記した低摺動抵抗が実現される。
【0009】
上記したシートは、1個のハンドルの移動位置で第1摺動抵抗と低摺動抵抗を切り換えることができる。本明細書が開示するシートは、2個のハンドルを有していてもよい。即ち、本明細書が開示するシートは、上記のハンドルに代えて、スライドロック機構を解除するとともにアッパレールの前方移動時の摺動抵抗に第1摺動抵抗を設定する第1ハンドルと、スライドロック機構を解除するとともに摺動抵抗に前記第1抵抗値よりも小さい低摺動抵抗に設定する第2ハンドルを備えていてもよい。ユーザは、操作するハンドルを選択することで、第1摺動抵抗状態と低抵抗状態のいずれかを選択することができる。
【0010】
第1ハンドルは、スライドロック機構を解除するとともにアッパレールの後方移動時の摺動抵抗に、第1摺動抵抗よりも小さく、低摺動抵抗以下の第2摺動抵抗を設定するように構成されていてもよい。あるいは、第2ハンドルは、スライドロック機構を解除するとともにシートロック機構を解除するように構成されていてもよい。
【0011】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施例のシートにおけるシートスライド装置の内部構造を示す側面図と平面図である。
【
図2】
図1(a)のII-II線に沿った断面図である。
【
図5】
図5(a)は、
図3のV-V線に沿った断面図であり、
図5(b)は
図4のV-V線に沿った断面図である。
【
図7】ハンドルとアンロックレバーの連動機構を説明する図である(1)。
【
図8】ハンドルとアンロックレバーの連動機構を説明する図である(2)。
【
図9】ハンドルとアンロックレバーの連動機構を説明する図である(3)。
【
図10】変形例の連動機構を説明する図である(1)。
【
図11】変形例の連動機構を説明する図である(2)。
【
図12】変形例の連動機構を説明する図である(3)。
【
図13】第2実施例におけるハンドルとアンロックレバーの連動機構を説明する図である。
【
図14】第1変形例のシートスライド装置の内部構造を概略的に示す図である。
【
図15】第2変形例のシートスライド装置の
内部構造を概略的に示す図である。
【
図16】第3変形例のシートスライド装置の内部構造を概略的に示す図である。
【
図17】第3変形例のシートスライド装置の内部構造を概略的に示す図である。
【
図18】第3変形例のシートスライド装置の内部構造を概略的に示す図である。
【
図19】第4変形例のシートスライド装置の内部構造を概略的に示す図である。
【
図20】第1スライダ及び第2スライダの形状を示す斜視図である。
【
図21】第1スライダ及び第2スライダの構造を示す分解組立図である。
【
図23】第1スライダ及び第2スライダの動作を説明するための図である。
【
図24】第1スライダ及び第2スライダの動作を説明するための図である。
【
図25】第5変形例に係るシートスライド装置の、第1スライダ及び第2スライダの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施例)図面を参照して第1実施例のシートを説明する。まず、シートを前方へスライドさせる際の摺動抵抗と後方へスライドさせる際の摺動抵抗を異ならしめる機構について説明する。
【0014】
図1(a)は、シートを前後方向にスライドさせるシートスライド装置100の構造を概略的に示す側面図であり、
図1(b)はその平面図である。シートスライド装置100は、車両のフロア及びシート(いずれも不図示)との間に設けられ、シートを前後方向にスライド移動可能な状態で支持する装置である。本実施形態では、1対のシートスライド装置100が、例えば3列シートを有する車両すなわち乗用車の2列目のシートに組み込まれる場面を想定する。
【0015】
図1(a)及び
図1(b)においては、車両の後方側から前方側に向かう方向をx方向としてx軸を設定している。また、車両の右側から左側に向かう方向をy方向としてy軸を設定している。さらに、車両の下方側から上方側に向かう方向をz方向としてz軸を設定している。
図1以降の図面においても、同様にしてx軸、y軸及びz軸を設定している。従って、車両の前後方向が±x方向、車両の幅方向が±y方向、及び、車両の高さ方向が±z方向である。
【0016】
シートは、車両のユーザが着座するシートクッションと、ユーザの背もたれを構成するシートバックと、ユーザの頭を支持するヘッドレストと、を備えている。シートバックは、y軸に平行な揺動軸周りでシートクッションに対して所定の揺動角にわたって揺動することができる。一般に、例えば3列目のシートへの乗降口を確保するために当該2列目のシートを車両の前方に向かってスライド移動させる場合、シートバックは揺動軸周りでシートクッションに対して折り畳まれて折り畳み姿勢を確立する。
【0017】
シートスライド装置100はロアレール1及びアッパレール2を有している。ロアレール1は、車両のフロアに固定される部材である。アッパレール2は、車両のシートの底面に固定される部材である。1つのシートに固定された2組のロアレール1及びアッパレール2は、それぞれの長手方向を車両の前後方向に沿わせた状態で、車両の左右方向に沿って並ぶよう並列に設けられる。アッパレール2はロアレール1に対してx軸に沿って摺動可能に支持されている。
【0018】
図2(a)及び
図2(b)は
図1(a)のII-II線に沿った拡大断面図である。
図2(a)は後述のスライドロック状態を示す図であり、
図2(b)は後述のスライドロックの解除状態を示す図である。
図2(a)及び
図2(b)を併せて参照しつつ、以下、説明する。ロアレール1は、1枚の金属板から折り曲げ加工によって形成される。ロアレール1は、底板部3と、底板部3の両端からそれぞれ上方に向かって延在する側板部4、4と、側板部4、4の上端から内向きにそれぞれ延在する上板部5、5と、上板部5、5の内側端部からそれぞれ下方に延在する口板部6、6と、を備えている。
【0019】
図2(a)及び
図2(b)から明らかなように、底板部3は上板部5、5に対向しており、側板部4、4は口板部6、6にそれぞれ対向している。口板部6、6同士は互いに離間して配置されている。口板部6、6の下端と底板部3との間には隙間が形成されている。口板部6には例えば矩形の複数の開口7が形成されている。
図1(a)に示すように、開口7はx軸に沿って一列に配列されている。
【0020】
ロアレール1の内部に形成された空間のうち、底板部3、側板部4、上板部5及び口板部6によって囲まれている空間はアッパレール2の収容空間8を構成する。収容空間8は口板部6、6同士の間で上方に開放されている。収容空間8にはアッパレール2の一部すなわち下側部が収容されており、アッパレール2の一部すなわち上側部は、ロアレール1において上方に開放された部位から上方に突出している。
【0021】
アッパレール2は、互いに重ね合わせられた1対の金属板9、9を備えている。金属板9は、収容空間8内に配置されてロアレール1の口板部6に対向する1対の側板部10、10と、側板部10から屈曲して側板部4及び口板部6に対向する1対の腕板部11、11と、を備える。つまり、1対の腕板部11、11は、側板部10の下方側から屈曲し鉛直上方に向かって伸びるように形成された部分となっている。
【0022】
1対の側板部10、10のうちy方向側に配置されている側板部10には、例えば矩形の複数の開口10aが形成されている。同様に、1対の腕板部11、11のうちy方向側に配置されている腕板部11には例えば矩形の複数の開口11aが形成されている。開口10a、11aの形状及び配置間隔は、先に述べた開口7の形状及び配置間隔に等しい。
【0023】
腕板部11にはローラ12が回転自在に支持されている。ローラ12は、ロアレール1の底板部3の上面に配置されており、x軸に沿った方向(すなわち、車両の前後方向)にアッパレール2をスライド移動可能に支持している。
図1(a)及び
図1(b)に示すように、y方向側の腕板部11には、2個のローラ12、12がx方向に配列されている。その一方で、-y方向側の腕板部11には、1個のローラ12がx方向における中央位置に配置されている。
【0024】
シートスライド装置100は、x軸に沿ったアッパレール2の移動が規制されるロック状態(
図2(a))と、x軸に沿ったアッパレール2の移動が許容されるロック解除状態(
図2(b))と、の間を切り換えるスライドロック機構13を備えている。スライドロック機構13はロック部材14を備えている。ロック部材14は、屈曲した金属板から形成されている。ロック部材14は、1対の金属板9、9のうちy方向側に配置されたものに対して、ブラケット15を介して取り付けられている。ブラケット15は、x軸と平行な回転軸16によりロック部材14を回転自在に支持している。
【0025】
ロック部材14は爪部14a及び操作部14bを有している。複数の爪部14aがロック部材14の端部に形成されている。それぞれの爪部14aは、短冊状に形成されており、x軸に沿って1列に並ぶよう配列されている。また、それぞれの爪部14aの幅(x方向における寸法)は、開口10a、開口7及び開口11aのそれぞれに挿通し得る幅となっている。さらに、爪部14aの配置間隔は開口10a等の配置間隔に等しい。
図2(a)に示すように、ロック状態は、それぞれの爪部14aが開口10a、開口7、及び開口11aを貫通した状態である。これにより、ロアレール1に対するアッパレール2のスライド移動(つまりx軸に沿った移動)が規制される。
【0026】
操作部14bは、ロック部材14のうち、回転軸16を挟んで爪部14aとは反対側の端部に形成された部分である。操作部14bには、ユーザが操作するハンドル212(後述)の動きに連動するスライドアンロックレバー50の押し下げピン51が係合している。なお、
図1(b)と
図2では、押し下げピン51の先端のみを示してある。スライドアンロックレバー50の全体については後述する。
図2(a)のロック状態から、ユーザがハンドル212を引き上げると、押し下げピン51が下がり、操作部14bを押し下げる。ロック部材14は回転軸16周りで回転し、それぞれの爪部14aが開口10a、開口7、及び開口11aから引き抜かれた状態、すなわち
図2(b)のロック解除状態に移行する。ロック解除状態では、ロアレール1に対するアッパレール2のスライド移動の規制が解除され、アッパレール2がx軸に沿って移動することができる。即ち、スライドロック機構13が解除される。
【0027】
図1(a)及び
図1(b)に示すように、ロック部材14のうち、操作部14bの近傍にはコイルばね18の一端が接続されている。コイルばね18の他端はアッパレール2のz方向側の端部近傍に接続されている。コイルばね18の弾性復元力によって操作部14bはz方向側に付勢されている。このため、ユーザがハンドル212の操作を行っていないときには、それぞれの爪部14aが開口10a、開口7、及び開口11aを貫通した状態、すなわち、
図2(a)のロック状態が維持される。
【0028】
図3及び
図4は、シート200のシートスライド装置100の内部構造を概略的に示す図である。
図3及び
図4には、シート200のシートクッション210とシートバック220を仮想線で示してある。アッパレール2は、シートクッション210の下に固定されている。シートクッション210とシートバック220は、ヒンジ230によってy軸周りに回転可能に連結されている。ヒンジ230の内部には、シートクッション210とシートバック220を、ユーザが着座できる着座可能姿勢にロックするシートロック機構231が組み込まれている。シートロック機構231は、従来の技術であるので、詳しい機構の説明は省略する。シートアンロックレバー60が時計回りに回転すると、シートロック機構231は解除される。シートロック機構231が解除されると、シートバック220がシートクッション210に対してヒンジ230を回転軸としてy軸周りに回転可能となる。シートクッション210の上に障害となる物が何もなければ、シートバック220はシートクッション210の上に折り畳まれる。
【0029】
図3、
図4には、先に述べたハンドル212と、スライドアンロックレバー50も描かれている。スライドアンロックレバー50とシートアンロックレバー60は、ハンドル212の動きに連動する。ハンドル212とスライドアンロックレバー50とシートアンロックレバー60はケーブルで連結されており、ハンドル212の動きに連動してスライドアンロックレバー50とシートアンロックレバー60も動く。
図3、
図4では、ハンドル212とスライドアンロックレバー50とシートアンロックレバー60を連結するケーブルの図示は省略してある。ハンドル212とスライドアンロックレバー50とシートアンロックレバー60の連動機構については後述する。
【0030】
シートスライド装置100の説明に戻る。
図3及び
図4においては、1対の金属板9、9のうちのy方向側に配置されている方の一部、及び、ロアレール1のうちのy方向側(側板部4、上板部5、口板部6)の一部がそれぞれ切り欠かれた状態が示されている。
図3にはスライドロック状態が示されており、
図4にはスライドロック解除状態が示されている。
【0031】
図3及び
図4を併せて参照しつつ説明する。シートスライド装置100は、x軸に沿ってロック部材14の両側の位置に第1レバー20及び第2レバー21が設けられている。第1レバー20及び第2レバー21は概ね平板状の部材であり、その法線方向をy軸に沿わせた状態で、回転軸22を介して金属板9、9に取り付けられている。回転軸22はy軸に平行な軸である。第1レバー20及び第2レバー21は、回転軸22周りに回転自在な状態で金属板9、9にそれぞれ取り付けられている。
図2に示すように、第1レバー20及び第2レバー21は1対の金属板9、9の間に収容されている。
【0032】
ロック部材14よりもx方向側に設けられた第1レバー20は、回転軸22から概ね上方に向かって延在する上腕部20aと、回転軸22を挟んで上腕部20aとは反対向きに回転軸22から概ね下方に向かって延在する下腕部20bと、を有している。上腕部20aには、上腕部20aからロック部材14の上方に向かって突出する伝動部20cが一体的に形成されている。
図3及び
図4から明らかなように、伝動部20cは、ロック部材14に係合して回転軸16周りのロック部材14の揺動を回転軸22周りの第1レバー20の揺動として伝動する機能を有している。
【0033】
ロック部材14よりも-x方向側に設けられた第2レバー21は、回転軸22から概ね上方に向かって延在する上腕部21aと、回転軸22から概ね下方に向かって延在する下腕部21bと、を有している。第1レバー20の上腕部20aの先端と第2レバー21の上腕部21aの先端とは、コイルばね23によって互いに接続されている。コイルばね23の弾性復元力によって上腕部20a及び上腕部21aは互いに近づく方向に付勢されている。その結果、第1レバー20の伝動部20cは回転軸22周りでロック部材14に向かって常に付勢されている。
【0034】
図3から明らかなように、第2レバー21の上腕部21aには、第1レバー20の伝動部20cに対応するものが形成されておらず、従って、第2レバー21にはロック部材14の揺動が伝動されない。代わりに、第2レバー21には、回転軸22から上腕部21aとは異なる上方に向かって延在する伝動部21cが形成されている。伝動部21cの先端にはワイヤ24の一端が接続されている。ワイヤ24の他端は、シートアンロックレバー60に連結されている。シートアンロックレバー60が時計回りに回転すると、第2レバー21も連動して時計回りに回転する。
【0035】
第1レバー20の下腕部20b及び第2レバー21の下腕部21bのそれぞれには、支軸25周りで揺動可能にスライダ26の一端が接続される。スライダ26は、その長手方向を概ねx軸に沿わせた状態で配置された棒状の部材である。第1レバー20に接続されたスライダ26は、下腕部20bの下端から+x方向に延在する一方で、第2レバー21に接続されたスライダ26は、下腕部21bの下端から-x方向に延在する。各スライダ26のうち支軸25とは反対側の端部となる位置には、当接部27が一体的に形成されている。スライダ26及び当接部27は例えば樹脂材料から一体成形される。
【0036】
ロック部材14の操作部14bが-z方向側に押し下げられてロック解除状態が確立されると、
図4に示すように、ロック部材14が伝動部20cに当接し、ロック部材14とともに伝動部20cが持ち上げられる。これにより、第1レバー20の上腕部20aはコイルばね23の弾性復元力に抗しつつ、第2レバー21の上腕部21aから離れる方向に移動する。その結果、第1レバー20が回転軸22の周りを反時計回りに揺動し、これによって第1レバー20側のスライダ26はロック部材14側(-x方向側)に向かって移動することとなる。なお、その後の動作の詳細は後述する。
【0037】
図5(a)は
図3のV-V線に沿った拡大断面図であり、
図5(b)は
図4のV-V線に沿った拡大断面図である。
図5(a)及び
図5(b)を併せて参照すると、当接部27は、中間部27aと、中間部27aの先端で中間部27aに支持されてy方向側及び-y方向側に設けられた1対の腕部27b、27bと、を有している。各腕部27bには、概ねx軸に沿って貫通する矩形の断面を有する貫通孔28が形成されている。貫通孔28には、腕板部11の端部に形成されたガイド部19が挿通されている。
【0038】
図3及び
図4から明らかなように、ガイド部19は、その先端側に行くにつれて上板部5に近づくように、その長手方向がx軸に対して傾斜している。つまり、x方向側に配置されたスライダ26のガイド部19は、x方向側に行くに従って上板部5に近づくように傾斜している。また、-x方向側に配置されたスライダ26のガイド部19は、-x方向側に行くに従って上板部5に近づくように傾斜している。
【0039】
上記のようにガイド部19は傾斜しているので、ガイド部19のうちz方向側の端面は、アッパレール2の一部に形成された傾斜面19aを形成している。傾斜面19aは、ロック部材14から遠ざかるほどz方向側に向かうように水平面に対して傾斜した面である。貫通孔28の内壁面は、これと対向するガイド部19の表面と概ね平行である。このため、z方向側における貫通孔28の内壁面すなわち天面は、傾斜面19aと同様に傾斜した面を形成している。-z方向側における貫通孔28の内壁面(すなわち底面)についても同様である。
【0040】
次に、シートスライド装置100を含むシート200の動作について説明する。まず、ハンドル212がロック位置(
図3におけるハンドル212の位置)にある場合を想定する。このとき、シートロック機構231はロック状態にあり、シートバック220とシートクッション210が、着座可能姿勢にロックされている。シートスライド装置100のスライドロック機構13においてはロック状態が確立されている。ユーザは、シートに着座していてもよく、又は、シートに着座していなくてもよい。ロック状態では、
図2(a)に示すように、それぞれの爪部14aが開口10a、開口7、及び開口11aを貫通した状態にあり、ロアレール1に対するアッパレール2のスライド移動が規制されている。
【0041】
このとき、
図3に示すように、コイルばね23の弾性復元力によって第1レバー20の上腕部20a及び第2レバー21の上腕部21aはx軸に沿って互いに近づく方向に付勢されている。シートは通常の姿勢を確立しており、シートバック220のロック解除状態を確立するためのシートの操作レバー(ハンドル212)は操作されていない。従って、ワイヤ24から伝動部21cには何らの力も作用していない。
【0042】
図3に示すように、コイルばね23の弾性復元力によって上腕部20a及び上腕部21aがx軸に沿って互いに近づく方向に付勢される。これにより、スライダ26、26はx軸に沿って互いに遠ざかる方向に押し出される。こうして、
図5(a)に示すように、各スライダ26の当接部27は、傾斜面19aと上板部5の下面(被当接面)との間に楔のように挟み込まれた状態で維持されている。その結果、当接部27と上板部5との間にはz方向に沿った力及びx方向に沿った摩擦力が働く。これにより、ロアレール1とアッパレール2との間におけるがたつき(z軸に沿った相対変位)が抑制される。
【0043】
なお、
図3、4においては、当接部27のうち、傾斜面19aと上板部5との間に挟み込まれる楔状の部分のみが模式的に示されている。後に説明する
図6においても同様である。車両前側の当接部27の楔状の部分は、車両前方へ向けて先細りになっている。車両後側の当接部27の楔状の部分は、車両後方へ向けて先細りになっている。
【0044】
次に、ユーザがハンドル212を第1アンロック位置(
図4の符号212aが示す位置)へ移動させた場合について説明する。第1アンロック位置は、ロック位置(
図3の位置)から時計回りに角度A1だけハンドル212を回転させた姿勢に相当する。ハンドル212がロック位置から第1アンロック位置へ移動すると、ハンドル212の動きに伴って、スライドアンロックレバー50が反時計回りに回転する(
図4の符号50aが示す位置)。このとき、シートアンロックレバー60は動かない。なお、ハンドル212とスライドアンロックレバー50とシートアンロックレバー60の連動機構については後述する。
【0045】
スライドアンロックレバー50が反時計回りに回転すると、スライドアンロックレバー50に固定されている押し下げピン51が下方へ下がり、ロック部材14の操作部14bを押し下げる。先に
図2を用いて説明したように、操作部14bが押し下げられると、ロック部材14の爪部14aが開口10a、開口7、及び開口11aから引き抜かれ、ロアレール1に対するアッパレール2のスライド移動の規制が解除される(
図2(b)参照)。こうしてアッパレール2のx軸に沿ったスライド移動が許容される。即ち、スライドロック機構が解除される。
【0046】
このとき、
図4に示すように、ロック部材14が伝動部20cを持ち上げる。そうすると、第1レバー20の上腕部20aは、コイルばね23の弾性復元力に抗して第2レバー21から離れる方向に移動する。その結果、第1レバー20が回転軸22の周りを反時計回りに揺動し、これによって第1レバー20側のスライダ26はロック部材14側(-x方向側)に向かって移動することとなる。このスライダ26の移動に伴って、x方向側に配置された当接部27は、上板部5の下面から離間していく。即ち、車両前方側の当接部27の楔状の部分がロアレール1から離間していく。これによって、
図4及び
図5(b)に示すように、当接部27と上板部5の下面との間に隙間が形成される。車両前方側の当接部27を介したアッパレール2とロアレール1の間の摺動抵抗はゼロとなる。
【0047】
その一方で、第2レバー21はロック部材14と直接的には連動しない。ただし、第2レバー21は、コイルばね23からの力によって回転軸22の周りに回転する。具体的には、第1レバー20の上腕部20aの第2レバー21から遠ざかる方向の移動に伴って、第2レバー21の上腕部21aは、回転軸22の周りを反時計回りに回転するよう、ロック部材14側に向かって付勢される。なお、シートアンロックレバー60は動いていないので、前述と同様に、シートは通常の姿勢を確立しており、ワイヤ24から伝動部21cには何らの力も作用していない。
【0048】
こうして第2レバー21の上腕部21aが、回転軸22の周りを反時計回りに回転するよう、ロック部材14側に向かって付勢されているので、第2レバー21側のスライダ26はx軸に沿って車両の後方に向かって(-x方向側に)押し出される。こうして、ロック状態が確立されている場合と同様に、第2レバー21側のスライダ26の当接部27は、傾斜面19aと上板部5の下面(被当接面)との間に楔のように挟み込まれた状態で維持されている。その結果、当接部27と上板部5との間にはz方向に沿った力及びx方向に沿った摩擦力が働くこととなる。
【0049】
以上のような状態で、ユーザが、シートを車両の前方(第1方向)に向かってスライド移動させる場面、すなわち、ロアレール1に対してアッパレール2を車両の前方に向かって移動させる場面を想定する。
図4から明らかなように、車両の後方側のガイド部19の傾斜面19aは、車両の後方に向かうにつれてz方向側に向かうように傾斜しているので、アッパレール2(つまりガイド部19)が車両の前方に向かって移動すると、車両の後方側のスライダ26の当接部27は前述の摩擦力によって傾斜面19aと上板部5の下面との間にさらに進入しようとする。その結果、前述の摩擦力すなわち摺動抵抗は増大する。このとき、車両の前方側のスライダ26の当接部27と上板部5の下面との間には隙間があるので摺動抵抗は0(ゼロ)である。この場合のアッパレール2の摺動抵抗(前方移動に対する摺動抵抗)を第1摺動抵抗と称する。
【0050】
その一方で、ユーザが、シートを車両の後方(第1方向とは反対の第2方向)に向かってスライド移動させる場面、すなわち、ロアレール1に対してアッパレール2を車両の後方に向かって移動させる場面を想定する。
図4から明らかなように、車両の後方側のガイド部19の傾斜面19aは、車両の前方に向かうにつれて-z方向側に向かうように傾斜している。このため、アッパレール2(つまりガイド部19)が車両の後方に向かって移動すると、車両の後方側のスライダ26の当接部27は、前述の摩擦力によって傾斜面19aと上板部5の下面との間から離脱しようとする。その結果、前述の摩擦力すなわち摺動抵抗は減少する。このとき、車両の前方側のスライダ26の当接部27と上板部5の下面との間には隙間があるので摺動抵抗は0(ゼロ)である。この場合のアッパレール2の摺動抵抗(後方移動に対する摺動抵抗)を第2摺動抵抗と称する。ここでは、車両の後方側の当接部27の摺動抵抗が、前方側へのスライド時に比べて減少するので、第2摺動抵抗は第1摺動抵抗より小さくなる。
【0051】
以上によれば、ハンドル212をロック位置(
図3の位置)から第1アンロック位置(
図4の符号212aが示す位置)へ移動させると、シートスライド装置100のスライドロック機構13が解除されるとともに、アッパレール2を車両の前方に向かって移動させる際に摺動抵抗が程度な値(第1摺動抵抗)に設定される一方で、アッパレール2を車両の後方に向かって移動させる際の摺動抵抗(第2摺動抵抗)は第1摺動抵抗よりも減少する。一般に、シートスライド装置100は、車両の前方に向かうにつれて地面に近づくようにわずかに前下がりに傾斜して配置されている。従って、本実施形態のシートスライド装置100によれば、前方へのシートの移動時にシートの急激な移動を抑制することができ、着座しているユーザは恐怖感を覚えることなく快適にシートを移動させることができる。
【0052】
次に、ユーザがハンドル212を第2アンロック位置(
図6の符号212bが示す位置)へ移動させた場合について説明する。第2アンロック位置は、第1アンロック位置から時計回りにさらに角度A2だけハンドル212を回転させた姿勢に相当する。ハンドル212が第1アンロック位置から第2アンロック位置へ移動すると、ハンドル212の動きに伴って、シートアンロックレバー60が時計回りに回転する(
図6の符号60aが示す位置)。このとき、シートアンロックレバー60はさらに反時計回りに回転するが、車両前方のスライダ26の当接部27は上板部5からさらに離れる方向に動くだけであるので、スライドロック機構13の動きはここでは影響しない。即ち、スライドロック機構13は解除された状態が保持される。なお、ハンドル212とスライドアンロックレバー50とシートアンロックレバー60の連動機構については後述する。
【0053】
先に述べたように、シートアンロックレバー60が時計回りに回転すると、シートロック機構231が解除され、シートバック220が回転可能な状態になる。
【0054】
また、シートアンロックレバー60が時計回りに回転すると、シートアンロックレバー60の上端に連結されているワイヤ24が車両の後方に向かって引っ張られる。その結果、第2レバー21の伝動部21cは、コイルばね23の弾性復元力に抗してロック部材14から遠ざかる方向に引っ張られる。こうして第2レバー21は回転軸22の周りを時計回り方向に揺動し、第2レバー21側のスライダ26はロック部材14側に向かって移動する。その結果、
図6に示すように、第2レバー21側のスライダ26の当接部27と上板部5の下面との間には隙間が形成される。即ち、車両後方側の当接部27の楔状の部分がロアレール1から離間し、車両後方側の当接部27を介したアッパレール2とロアレール1の間の摺動抵抗はゼロとなる。
【0055】
このとき、スライドロック機構13は解除されたままであるので、第1レバー20側のスライダ26の当接部27は上板部5から離れたままである。第1レバー20側と第2レバー21側のスライダ26の当接部27が共に上板部5から離れているので、アッパレール2はロアレール1に対して前後方向に軽々とスライドすることができる。このときのアッパレール2の摺動抵抗を低摺動抵抗と称する。低摺動抵抗は、第1摺動抵抗及び第2摺動抵抗のいずれよりも小さい。低摺動抵抗は、概ねゼロである。
【0056】
以上によれば、車両の前方側及び後方側の当接部27と上板部5の下面との間で摩擦力はほぼゼロになるので、ロアレール1に対するアッパレール2の摺動抵抗、具体的には低摺動抵抗を極めて小さく設定することができる。その結果、ユーザは、車両の前方及び後方に向かってシート200を軽い力で簡単に快適に移動させることができるようになる。また、上述したように、一般に、シートスライド装置100は、車両の前方に向かうにつれて地面に近づくようにわずかに傾斜して配置されているので、例えばシート200を前方に移動させる際にユーザがシートに力を加えなくてもシートの自重のみによってシート200を車両の前方に移動させることも可能である。
【0057】
車両の前方側及び後方側に配置されたそれぞれの当接部27は、アッパレール2に保持される部材であって、摺動抵抗を増加させるためにロアレール1(上板部5)とアッパレール2(ガイド部19)との間に挟み込まれる部材、ということができる。
【0058】
上記したシート200は、次の構成を有している。シート200は、シートクッション210とシートバック220とシートロック機構231と、ロアレール1と、アッパレール2と、スライドロック機構13とハンドル212を備えている。シートバック220は、ヒンジ230によって、シートクッション210に対して回転可能に支持されている。シートロック機構231は、シートクッション210とシートバック220を、着座可能姿勢にロックする。ロアレール1は、車両のフロアに固定されている。アッパレール2は、シートクッション210に固定されており、ロアレール1に対して車両前後方向に摺動可能に支持されている。スライドロック機構13は、ロアレール1に対してアッパレール2をロックする。ハンドル212は、シートロック機構231とスライドロック機構13を解除するための部材である。ハンドル212は、ロック位置(
図3の符号212の位置)から第1アンロック位置(
図4の符号212aの位置)へ移動させるとシートロック機構231をロック状態に保持したままスライドロック機構13が解除される。このとき、アッパレール2の前方移動に対する摺動抵抗に第1摺動抵抗が設定される。アッパレール2の後方移動に対する摺動抵抗には、第1摺動抵抗よりも小さい第2摺動抵抗が設定される。
【0059】
ハンドル212は、第1アンロック位置から第2アンロック位置(
図6の符号212bの位置)へ移動させると、スライドロック機構13の解除を保持したままシートロック機構231が解除される。同時に、アッパレール2の摺動抵抗が第1及び第2摺動抵抗よりも小さい低摺動抵抗に設定される。
【0060】
実施例のシート200は、ひとつのハンドル212で、適切な摺動抵抗値(第1摺動抵抗)で前方へスライドできる状態と、小さい摺動抵抗値(低摺動抵抗)で前後にスライドできる状態とを切り換えることができる。前者は、シート200にユーザが着座しているときにシートを安全に前方へスライドさせることができる。後者は、2列目のシートを倒して3列目に乗り込むときなどに、少ない力で容易にシートをスライドさせることができる。
【0061】
図7-
図9を参照して、ハンドル212とスライドアンロックレバー50とシートアンロックレバー60の連動の機構を説明する。
図7は、ハンドル212がロック位置にあるときの状態を示している。ハンドル212は、回転軸213を軸にシートクッション210の側面に回転可能に連結されている。ハンドル212は、ユーザが操作する本体部214とレバー部215がL字形状に連結した構造を有している。レバー部215には連結ロッド55の一端が連結されている。連結ロッド55の他端には、スライドアンロックレバー50の上端が連結されている。また、レバー部215には長孔216が設けられている。その長孔216に、ワイヤ62の一端が係合している。ワイヤ62の一端は、長孔216の長手方向に沿って揺動可能に係合している。ワイヤ62は、滑車63を介してその方向が反転しており、他端はシートアンロックレバー60の上端に接続されている。
【0062】
スライドアンロックレバー50の下端は回転軸52に回転可能に連結されている。スライドアンロックレバー50の途中からサブレバー54が延びており、サブレバー54の先端に押し下げピン51が接続されている。押し下げピン51は、図中の座標系のy軸方向に延びている。押し下げピン51の下側に、先に述べたおり、シートスライド装置100のロック部材14の操作部14bが当接している。
【0063】
シートアンロックレバー60の下端は回転軸61に回転可能に連結されている。シートアンロックレバー60はシートロック機構231に連結されており、時計回りに回転すると、シートロック機構231が解除される。レバーの動作によるシートロックの解除の機構は、従来から知られた機構を採用しているので、詳しい説明は省略する。
【0064】
図8は、ハンドル212をロック位置(
図7の位置)から第1アンロック位置(符号212aが示す位置)に移動させた状態を示している。ロック位置から第1アンロック位置へは、ハンドル212の本体部214を角度A1だけ回転させることで移動できる。ハンドル212を第1ロック位置まで移動させると、レバー部215が時計回りに回転し、連結ロッド55が左方向(車両前方)に移動する。連結ロッド55が左方向へ移動すると、その先端に連結されたスライドアンロックレバー50が反時計回りに回転する。スライドアンロックレバー50が反時計回りに回転すると、押し下げピン51が操作部14bを押し下げる。先に述べたように、操作部14bが押し下げられると、スライドロック機構13が解除されてアッパレール2がスライド可能になる。このとき、ロアレール1に対するアッパレール2の摺動抵抗は、前方へのスライドに対して第1摺動抵抗となり、後方へのスライドに対して第2摺動抵抗となる。
【0065】
ハンドル212が角度A1だけ回転する間、ワイヤ62の一端はレバー部215の長孔216の左端から右端へと移動する。ワイヤ62の一端は長孔216の中を動くだけであり、張力が働かない。ワイヤ62が引っ張られることがないので、ハンドル212をロック位置から第1アンロック位置へ移動させてもシートロック機構231はシートバック220のロック状態を保持したままとなる。
【0066】
図9は、ハンドル212を第1アンロック位置からさらに第2アンロック位置(符号212bが示す位置)に移動させた状態を示している。第1アンロック位置から第2アンロック位置へは、ハンドル212の本体部214をさらに角度A2だけ回転させることで移動できる。ハンドル212を第2ロック位置まで移動させると、レバー部215がさらに時計回りに回転する。連結ロッド55はさらに左方向へ移動するが、先に述べた通り、スライドロック機構13の状態には変わりがない。
【0067】
レバー部215がさらに時計回りに回転すると、長孔216の右端に係止されていたワイヤ62が左方向(車両前方側)に引っ張られる。ワイヤ62の他端は滑車63を介してシートアンロックレバー60の上端に連結されており、シートアンロックレバー60が時計回りに回転する。先に述べたように、シートアンロックレバー60が時計回りに回転すると、シートロック機構231が解除され、シートバック220がシートクッション210に対して回転可能となる。シートアンロックレバー60の先端にはワイヤ24が連結されており、ワイヤ24が右方向に引っ張られると、アッパレール2のロアレール1に対する摺動抵抗が低摺動抵抗に変化する。低摺動抵抗は、第1摺動抵抗と第2摺動抵抗よりも小さい。
【0068】
以上、説明したように、ハンドル212をロック位置(
図7の符号212の位置)から第1アンロック位置(
図8の符号212aの位置)へ移動させるとシートロック機構231をロック状態に保持したままスライドロック機構13が解除される。このとき、アッパレール2の前方移動に対する摺動抵抗が第1摺動抵抗に設定される。ハンドル212を第1アンロック位置から第2アンロック位置(
図9の符号212bの位置)へ移動させると、スライドロック機構13の解除を保持したままシートロック機構231が解除されるとともに、アッパレール2の摺動抵抗が第1摺動抵抗よりも小さい低摺動抵抗に設定される。このように、第1実施例のシート200は、ひとつのハンドル212の操作で、着座可能姿勢のままシートを前方移動させるときに適度な摺動抵抗を与えることと、シートバックのロックが解除された状態でシートを前方移動させるときに小さい摺動抵抗を与えることを実現することができる。
【0069】
(変形例)第1実施例のシートの変形例について説明する。変形例のシートは、第1実施例の第1レバー20と第2レバー21の形状が異なる。
図10-図12を参照して、第1レバー120と第2レバー121とロック部材114と、ハンドル212の連携関係を説明する。なお、
図10-図12には、ハンドル212のユーザが把持する部分のみを描いてある。ハンドル212は、第1実施例のハンドル212と同じものである。ただし、変形例のハンドル212にはワイヤ62は接続されていない。ロック部材114は、第1実施例のロック部材14と同じ構造であるが、
図10-図12では、形状を簡略化して描いてある。
【0070】
第1レバー120と第2レバー121は、夫々、回転軸22を介して回転自在に金属板9(
図10-
図12では不図示)に取り付けられている。回転軸22は、y軸に平行な軸である。
【0071】
ロック部材114よりもx方向側に設けられた第1レバー120は、回転軸22から概ね上方に向かって延在する上腕部120aと、回転軸22を挟んで上腕部120aとは反対向きに回転軸22から概ね下方に向かって延在する下腕部120bと、を有している。上腕部120aには、上腕部120aからロック部材114の上方に向かって突出する伝動部120cが一体的に形成されている。伝動部120cは、ロック部材114に係合して回転軸16(
図2参照)回りのロック部材114の揺動を回転軸22回りの第1レバー120の揺動として伝動する機能を有している。
【0072】
ロック部材114よりも-x方向側に設けられた第2レバー121は、回転軸22から概ね上方に向かって延在する上腕部121aと、回転軸22から概ね下方に向かって延在する下腕部121bと、を有している。上腕部121aには、上腕部121aからロック部材114の上方に向かって突出する伝動部121cが一体的に形成されている。伝動部121cは、ロック部材114に係合して回転軸16回りのロック部材114の揺動を回転軸22回りの第2レバー121の揺動として伝動する機能を有している。ただし、
図10の状態では、ロック部材114と伝動部121cの先端との間には、隙間dHが確保されている。また、第2レバー121の上腕部121aには、連結ロッド124の一端が連結されている。連結ロッド124の他端は、シートアンロックレバー60が連結されている。第2レバー121が時計回りに回転すると、連結ロッド124で連結されたシートアンロックレバー60も時計回りに回転する。シートアンロックレバー60が時計回りに回転すると、シートロック機構231が解除され、シートバックがシートクッションに対して回転可能となる。
【0073】
第1レバー120の上腕部120aの先端と第2レバー121の上腕部121aの先端とは、コイルばね123によって互いに接続されている。コイルばね123の弾性復元力によって上腕部120a及び上腕部121aは互いに近づく方向に付勢されている。その結果、第1レバー120の伝動部120cは回転軸22周りでロック部材114に向かって常に付勢されている。第2レバー121の側には、第2レバー121の反時計回りの回転範囲を制限するストッパ129が設けられている。ストッパ129は不図示の金属板9に設けられている。第2レバー121の上腕部121aの先端はコイルばね123によって左方向に付勢されているが、第2レバー121の反時計回りの回転は、ストッパ129によって、伝動部121cの先端とロック部材114の間に隙間dHが確保される位置で制限される。
【0074】
第1レバー120の下腕部120bと第2レバー121の下腕部121bには、第1実施例と同様のスライダ26が連結されている。第1レバー120、第2レバー121の動きとスライダ26の動きは第1実施例の場合と同様なので、図示と説明は省略する。
【0075】
ロック部材114とハンドル212の連動関係は、第1実施例の場合と同様である。即ち、ハンドル212をロック位置から
第1アンロック位置(図11の符号212aの位置)に移動させると、不図示のスライドアンロックレバー50の押し下げピン51がロック部材114の操作部を押し下げ、ロック部材114がx軸に平行な回転軸の回りに回転する。ロック部材114が回転し、スライドロック機構13が解除され、シートが前後方向に移動可能な状態となる。
【0076】
ロック部材114の操作部14bが-z方向側に押し下げられてロック解除状態が確立されると、ロック部材114とともに伝動部120cが持ち上げられる。これにより、第1レバー120の上腕部120aはコイルばね23の弾性復元力に抗しつつ、第2レバー121の上腕部121aから離れる方向に移動する。その結果、第1レバー120が回転軸22の周りを反時計回りに回転し、これによって第1レバー120側のスライダ26はロック部材14の側(-x方向側)に向かって移動することとなる。このとき、第1実施例の場合と同様に、第1レバー120側のスライダ26の当接部27と上板部5の下面との間に隙間が形成され、摺動抵抗が下がる。このときの摺動抵抗は、前方移動に対して第1摺動抵抗となり、後方移動に対しては第2摺動抵抗となる。
【0077】
ハンドル212がロック位置から第1アンロック位置(
図11の符号212aの位置)まで移動すると、ロック部材114が
図11の符号114aの位置まで持ち上がる。ロック部材114は、初期位置(
図10の位置)から距離dHだけ持ち上がる。第2レバー121の伝動部121cの先端とロック部材114との間の初期の隙間もdHである。それゆえ、ハンドル212がロック位置から第1アンロック位置まで移動しても、第2レバー121は動かない。
【0078】
ハンドル212を第1アンロック位置から第2アンロック位置(
図12の符号212bが示す位置)まで移動させると、ロック部材114がさらに持ち上がり、第2レバー121の伝動部121cを持ち上げる。その結果、第2レバー121は回転軸22の周りを時計回りに揺動し、これによって第2レバー121側のスライダ26はロック部材114側(x方向側)に向かって移動することとなる。このとき、第1実施例の場合と同様に、第2レバー121側のスライダ26の当接部27と上板部5の下面との間に隙間が形成され、摺動抵抗がさらに下がる。このときの摺動抵抗値は低摺動抵抗である。
【0079】
また、第2レバー121が回転軸22の回りを時計回りに回転すると、連結ロッド124を介して上腕部121aと連結されているシートアンロックレバー60も時計方向に回転し、シートロック機構231が解除される。
【0080】
変形例のハンドル212と第1レバー120と第2レバー121の連携動作の結果をまとめると次の通りである。ハンドル212をロック位置から第1アンロック位置までに移動すると、シートロック機構231は保持されたまま、スライドロック機構13が解除されるとともに、アッパレール2のロアレール1に対する摺動抵抗が、前方移動に対して第1摺動抵抗に設定され、後方移動に対して第2摺動抵抗に設定される。ハンドル212を第1アンロック位置から第2アンロック位置まで移動すると、スライドロック機構13の解除状態が維持されたまま、シートロック機構231が解除されるとともに、アッパレール2のロアレール1に対する摺動抵抗が、第1、第2摺動抵抗よりも小さい低摺動抵抗に設定される。変形例のシートも、第1実施例の場合と同様に、ハンドル212の操作で、シートがロックされたまま適度な摺動抵抗でシートをスライドできる状態と、シートのロックが解除された状態で軽い摺動抵抗でシートをスライドできる状態が選択できる。
【0081】
(第2実施例)次に、第2実施例のシート300を説明する。
図13に、第2実施例のシート300を模式的に示す。
図13では、シートクッション310の一部とシートバック320の一部を仮想線で描いてある。
【0082】
シート300のシートスライド装置は、第1実施例のシート200の場合と同じなので説明は省略する。第2実施例のシート300は、第1ハンドル312と第2ハンドル322を備えている。第1ハンドル312は、シート300のシートクッション310の側面に取り付けられている。第2ハンドル322は、シートバック320の側面に取り付けられている。
【0083】
第1ハンドル312は、y軸に平行な回転軸313を中心に回転可能にシートクッション310に取り付けられている。第1ハンドル312はL字形状をなしており、L字の一方の側をユーザが操作し、L字の他方の側であるレバー部314にはワイヤ315の一端が接続されている。ワイヤ315の他端はスライドアンロックレバー50に接続されている。ユーザが第1ハンドル312を時計回りに回転させると、ワイヤ315が左側(車両前方側)に引っ張られ、スライドアンロックレバー50が回転軸52を中心に反時計回りに回転する。スライドアンロックレバー50が反時計回りに回転すると、サブレバー54の先端からy軸方向に延びている押し下げピン51がシートスライド装置100のロック部材14の操作部14bを押し下げる。操作部14bが下がると、先に述べたように、スライドロック機構13が解除されるとともに、アッパレール2の摺動抵抗が第1摺動抵抗(前方へのスライド時)と第2摺動抵抗(後方へのスライド時)に設定される。第1ハンドル312はシートアンロックレバー60とは連携しないので、第1ハンドル312を操作してスライドロック機構13を解除するとき、シートロック機構231はシートバック320をロックしたままである。
【0084】
第2ハンドル322は、y軸に平行な回転軸323を中心に回転可能にシートバック320の側面に取り付けられている。第2ハンドル322はL字形状をなしており、L字の一方の側をユーザが操作し、L字の他方の側であるレバー部324にはワイヤ325の一端とワイヤ327の一端が接続されている。
【0085】
ワイヤ325は、滑車326を介してその方向が変更され、その他端はスライドアンロックレバー50に接続されている。ユーザが第2ハンドル322を反時計回りに回転させると、ワイヤ325によってスライドアンロックレバー50が回転軸52を中心に反時計回りに回転する。そうすると、第1ハンドル312の場合と同様に、スライドロック機構13が解除されるとともに、アッパレール2の摺動抵抗が第1摺動抵抗(前方へのスライド時)と第2摺動抵抗(後方へのスライド時)に設定される。
【0086】
ワイヤ327は、滑車328、329を介してその方向が変更され、その他端はシートアンロックレバー60に接続されている。ユーザが第2ハンドル322を反時計回りに回転させると、ワイヤ327によってシートアンロックレバー60が回転軸61を中心に時計回りに回転する。そうすると、第1実施例の場合と同様に、シートロック機構231が解除される。シートアンロックレバー60にはワイヤ24の一端が接続されており、ワイヤ24の他端は、第1実施例の場合と同様に、第2レバー21に接続されている(
図3、4、6参照)。ワイヤ24が右方向(車両後方側)に引っ張られると、アッパレール2の摺動抵抗が、第1、第2摺動抵抗よりも小さい低摺動抵抗に設定される。
【0087】
上記の通り、第2ハンドル322を操作すると、スライドロック機構13とシートロック機構231の両方が解除されるとともに、シート300の前後方向への移動の摺動抵抗が低摺動抵抗に設定される。
【0088】
第2実施例のシート300は、ユーザが第1ハンドル312と第2ハンドル322のいずれかを選択することで、着座可能姿勢のままシートを前方移動させるときに適度な摺動抵抗を与えることと、シートバックのロックが解除された状態でシートを前方移動させるときに小さい摺動抵抗を与えることを選択することができる。
【0089】
車両前方側のスライダ26の先端の当接部27は、アッパレール2に保持されており、車両前方に向けて先細りになっている。車両前方側の当接部27は、ロアレール1とアッパレール2との間に挟み込まれる。車両後方側の当接部27が第1楔部材に相当する。車両後方側のスライダ26の先端の当接部27は、アッパレール2に保持されており、車両後方に向けて先細りになっている。車両後方側の当接部27は、ロアレール1とアッパレール2との間に挟み込まれる。車両後方側の当接部27が第2楔部材に相当する。車両前方側のスライダ26、第1レバー20、スライドアンロックレバー50が、ハンドル212をロック位置から第1アンロック位置へ移動させると第1楔部材を車両後方へ移動させる第1連動機構に相当する。ワイヤ24、62、シートアンロックレバー60、第2レバー21、車両後方のスライダ26が、ハンドル212を第1アンロック位置から第2アンロック位置へ移動させると第2楔部材を車両前方へ移動させる第2連動機構に相当する。
【0090】
さらに別の変形例を説明する。第1実施例のシート200において、ハンドル212とシートアンロックレバー60がワイヤ62で連結され、シートアンロックレバー60と第2レバー21がワイヤ24で連結されていた。シートアンロックレバー60からワイヤを外し、ワイヤ62がワイヤ24に直接に連結されていてもよい。即ち、上記した実施例のシート200において、ハンドル212からシートアンロックレバー60を切り離してもよい。そのような構造では、ハンドル212を第1アンロック位置212a(
図4)から第2アンロック位置212b(
図6)へ移動させると、シートロック機構231に変化はなく、アッパレール2の摺動抵抗が第1、第2摺動抵抗から低摺動抵抗に切り換わる。シートロック機構231を解除するハンドルは、別途設けられればよい。そのような構造のシートは、ハンドル212の移動位置により、アッパレール2(即ちシート200)の摺動抵抗を第1、第2摺動抵抗から低摺動抵抗に切り換えることができる。
【0091】
第2実施例のシート300においても、ワイヤ327をワイヤ24からシートアンロックレバー60を外し、ワイヤ327をワイヤ24に直接に連結してもよい。そうすると、第2ハンドル322を操作すると、スライドロック機構13が解除されるとともに、アッパレール2の摺動抵抗が低摺動抵抗に設定される。
【0092】
以下、シートスライド装置の変形例を説明する。
【0093】
図14は、第1変形例に係るシートスライド装置100Aの内部構造を概略的に示す図である。
図14は、ロック機構13においてロック状態が確立された状態を示している。以下においては、第1実施例のシートスライド装置100と相違する点についてのみ説明し、シートスライド装置100と共通する点については適宜説明を省略する。
【0094】
第1変形例に係るシートスライド装置100Aでは、第1実施例における第1レバー20の組み込みが省略されている。すなわち、ロック部材14の動作には何も連動しないことになる。
図14から明らかなように、コイルばね23の一端は、金属板9に形成された係止孔9aに係止されている。コイルばね23の他端は第2レバー21の上腕部21aに接続されている。このため前述と同様に、コイルばね23の弾性復元力によって上腕部21aは回転軸22の周りを反時計回り方向に回転するようにロック部材14側に付勢されている。従って、車両の後方側のスライダ26の当接部27は-x方向側に付勢されており、傾斜面19aと上板部5の下面との間に楔のように挟み込まれた状態で維持されている。
【0095】
その一方で、車両の前方側のスライダ26の一端は、x軸に沿って延在するコイルばね30の一端に接続されており、コイルばね30の他端は、金属板9に形成された係止孔9bに係止されている。スライダ26の他端(x方向側の端部)には前述の当接部27が一体的に形成されている。方側のスライダ26は、コイルばね30の弾性復元力により、-x方向側に付勢されている。
【0096】
第1変形例では、車両の前方側の当接部27及びガイド部19の傾斜面19aは、車両の後方側の当接部27及びガイド部19の傾斜面19aと同様に構成されている。すなわち、車両の前方側のガイド部19の傾斜面19aは、車両の前方に向かうにつれて-z方向側に向かうように傾斜している。従って、車両の前方側のスライダ26の当接部27は、コイルばね30の弾性復元力によって-x方向側に付勢されており、傾斜面19aと上板部5の下面との間に楔のように挟み込まれた状態で維持されている。前方側の当接部27は、車両後方に向けて先細りの形状を成しており、アッパレール2とロアレール1の間に挟み込まれている。
【0097】
以上のように構成されたシートスライド装置100Aによっても前述の第1実施例のシートスライド装置100と同様の作用効果を実現することができる。すなわち、スライドのロック状態及びアンロック状態に関わらず、コイルばね23の弾性復元力によって、車両の後方側のスライダ26は車両の後方に向かって押し出されるので、当該スライダ26の当接部27は、傾斜面19aと上板部5の下面との間に楔のように挟み込まれた状態で維持される。同様に、コイルばね30の弾性復元力によって、車両の前方側のスライダ26は車両の後方に向かって引っ張られるので、当該スライダ26の当接部27は、傾斜面19aと上板部5の下面との間に楔のように挟み込まれた状態で維持される。
【0098】
次に、乗員の着座時に、スライドロック機構13においてアンロック状態(解除状態)が確立された場面を想定する。既に述べたように第1変形例では、車両の前方側及び後方側の両方の傾斜面19a、19aが、車両の後方に向かうにつれてz方向側に向かうように傾斜している。このため、シートすなわちアッパレール2が車両の前方に向かって移動しようとすると、車両の前方側及び後方側の両方の当接部27、27が、上板部5から受ける摩擦力によって傾斜面19aと上板部5の下面との間にさらに進入しようとする。その結果、アッパレール2が受ける摩擦力すなわち摺動抵抗(第1摺動抵抗)は増大する。
【0099】
その一方で、乗員が、ロアレール1に対してアッパレール2を車両の後方に向かって移動させる場面では、シートすなわちアッパレール2が車両の後方に向かって移動すると、車両の前方側及び後方側の両方の当接部27、27が、上板部5から受ける摩擦力によって傾斜面19aと上板部5の下面との間から離脱しようとする。その結果、前述の摩擦力すなわち摺動抵抗(第2摺動抵抗)は減少する。
【0100】
また、前述と同様に、ハンドル212が第2アンロック位置212b(
図9参照)に移動すると、ハンドル212の動作に連動してワイヤ24は車両の後方に向かって引っ張られる。その結果、第2レバー21の伝動部21cは、コイルばね23の弾性復元力に抗してロック部材14から遠ざかる方向に引っ張られる。また、第2レバー21は回転軸22の周りを時計回り方向に揺動し、第2レバー21側のスライダ26はロック部材14側に向かって移動する。
【0101】
これによって、車両の後方側のスライダ26の当接部27と上板部5の下面との間には隙間が形成される。車両の後方側の当接部27と上板部5の下面との間の摺動抵抗は、シートの移動方向によらず0になる。一方、車両の前方側の当接部27と上板部5の下面との間の摺動抵抗は、先に述べた乗員の着座時の場合と同様に、移動方向に応じて異なる大きさとなる。つまり、シートを前方側に移動させる際の摺動抵抗が、シートを後方側に移動させる際の摺動抵抗よりも大きくなる。
【0102】
以上のように、第1変形例では、車両の後方側の当接部27と上板部5の下面との間の摺動抵抗のみを、ハンドル212を第1アンロック位置212aから第2アンロック位置212bへ移動させたときに変化させる。なお、シートアンロックレバー60は、ハンドル212と連動させてもよいし、連動させなくともよい。
【0103】
本変形例においても、車両の前方側及び後方側に配置されたそれぞれの当接部27は、アッパレール2に保持される部材であって、摺動抵抗を増加させるためにロアレール1(上板部5)とアッパレール2(ガイド部19)との間に挟み込まれる部材、ということができる。前方側に配置された方の当接部27は、本変形例における「第1楔部材」に該当する。また、上記第1楔部材よりも後方側となる位置に配置された方の当接部27は、本変形例における「第2楔部材」に該当する。
【0104】
車両の前方側及び後方側に配置されたそれぞれのスライダ26は、当接部27を同一の所定方向(具体的には-x方向)に移動させ、当接部27とロアレール1との間に働く摩擦力を増加させることにより摺動抵抗を増加させる部材、ということができる。前方側に配置された方のスライダ26は、第1楔部材を-x方向に移動させ、第1楔部材とロアレール(上板部5)との間に働く摩擦力を増加させることにより摺動抵抗を増加させるための「第1支持部材」に該当する。また、上記第1支持部材よりも後方側となる位置に配置された方のスライダ26は、第2楔部材を-x方向に移動させ、第2楔部材とロアレール(上板部5)との間に働く摩擦力を増加させることにより摺動抵抗を増加させるための「第2支持部材」に該当する。
【0105】
以上のようなシートスライド装置100Aには、
図15に示すように、車両の前方側のスライダ26と車両の後方側のスライダ26とを連結する連結部材31がさらに組み込まれてもよい(シートスライド装置の第2変形例)。連結部材31のうち-x方向側の端部は、車両の後方側のスライダ26と共に、下腕部21bの下端部に対して回転自在に連結されている。また、連結部材31のうちx方向側の端部は、車両の前方側のスライダ26に対して連結されている。
【0106】
このため、ハンドル212(あるいは第2ハンドル322)の動作に連動してワイヤ24が車両の後方に向かって引っ張られた場合には、車両の前方側のスライダ26は、連結部材31によって車両の前方に向かって押し出される。その結果、車両の前方側の当接部27と上板部5の下面との間に隙間が形成される。これにより、車両の前方側においても、(後方側と同様に)当接部27と上板部5の下面との間の摩擦力が0になるので、車両の前方に向かってシートを移動させる際のロアレール1に対するアッパレール2の摺動抵抗をさらに小さく設定することができる。
【0107】
図16は、本発明の第3変形例に係るシートスライド装置100Bの内部構造を概略的に示す図である。
図16は、ロック機構13においてロック状態が確立された状態を示している。以下においては、第1実施例と相違する点についてのみ説明し、第1実施例と共通する点については適宜説明を省略する。
【0108】
第3変形例に係るシートスライド装置100Bでは、第1実施例のシートスライド装置100において第2レバー21の構成が変更された。具体的には、第2レバー21の上腕部21aには、棒状の部材である揺動部材32が、y軸に平行に規定される揺動軸33の回りに揺動自在に連結される。揺動部材32は、上記の揺動軸33と、直線部32bと、軸部分32aと、を備える。直線部32bは、揺動軸33からy軸に対して垂直な方向に伸びる直線状の部分である。軸部分32aは、直線部32bのうち揺動軸33とは反対側の端部から、
図16における紙面奥行方向(つまり-y方向)に向かって伸びる直線状の部分である。軸部分32aは、第2レバー21の上腕部21aのうち、ロック部材14側の側面に沿って配置されている。
【0109】
本変形例における揺動軸33は、直線部32bのうち軸部分32aとは反対側の端部から、
図16における紙面奥行方向(つまり-y方向)に向かって伸びる直線状の部分となっている。揺動軸33は、例えば上腕部21aに形成された穴に挿通されている。揺動部材32は、第2レバー21に対して、揺動軸33の周りに回転自在な状態で支持されている。
【0110】
この揺動部材32には、回転軸22に回転自在に支持される伝動部材34が関連付けられる。伝動部材34は、第1レバー20の伝動部20cと同様に、ロック部材14に係合してロック部材14の揺動を第2レバー21の揺動として伝動する機能を有している。伝動部材34の+z方向の上側の側面には+z方向に突出する突部34aが形成される。突部34aを境界にして、伝動部材34の基端側(つまり回転軸22側)の側面に第1領域が規定され、伝動部材34の先端側の側面に第2領域が規定される。
図16では揺動部材32の軸部分32aは第1領域に配置されている。
【0111】
揺動部材32にはさらに、回転軸22に回転自在に支持されるカム部材35が関連付けられる。カム部材35の+z方向の上側の側面にはカム面35aが形成されている。カム面35aには揺動部材32の軸部分32aが関連付けられている。これにより、回転軸22回りのカム部材35の揺動に応じて、揺動部材32の軸部分32aが伝動部材34の第1領域から第2領域にその位置を変化させることができる。なお、カム部材35には、上方に延在するレバー36が一体化されている。例えば乗員がレバー36を手動操作することにより、カム部材35を揺動させることができる。
【0112】
次に、シートスライド装置100Bの動作について説明する。スライドロック機構13においてロック状態が確立されている場面では、コイルばね23の弾性復元力によって第1レバー20の上腕部20a及び第2レバー21の上腕部21aはx軸に沿って互いに近づく方向に付勢されている。その結果、スライダ26、26はx軸に沿って互いに遠ざかる方向に押し出される。こうして、それぞれの当接部27が傾斜面19aと上板部5の下面(被当接面)との間に楔のように挟み込まれる結果、当接部27と上板部5との間にはz方向に沿った力及びx方向に沿った摩擦力が働く。
【0113】
次に、スライドロック機構13においてアンロック状態が確立されると、
図17に示すように、ロック部材14が伝動部20c及び伝動部材34を持ち上げる。第1レバー20の上腕部20aは、コイルばね23の弾性復元力に抗して第2レバー21から離れる方向に揺動する。一方で、揺動部材32の軸部分32aが伝動部材34の突部34aに係止して第1領域に留まるので、伝動部材34の突部34aは第2レバー21をコイルばね23の弾性復元力に抗して第1レバー20から離れる方向に(つまり時計回り方向に)揺動させる。その結果、両方のスライダ26が互いに近づくように移動するので、それぞれの当接部27は上板部5の下面から離間し、当接部27と上板部5の下面との間に隙間が形成される。このため、シートを前方側にスライドさせる際の摺動抵抗、及びシートを後方側にスライドさせる際の摺動抵抗は、いずれも小さくなる。このような状態は、乗員がシートに着座していないときに設定される。
【0114】
その一方で、アンロック状態の確立時、レバー36の操作によってカム部材35を
図17において時計回りに揺動させると、カム部材35のカム面35aが揺動部材32の軸部分32aを持ち上げる。カム部材35がさらに時計回りに揺動すると、揺動部材32の軸部分32aは突部34aとの係止から解放される。その結果、コイルばね23の弾性復元力によって第2レバー21の上腕部21aはロック部材14側に揺動する。これによって、
図18に示すように、揺動部材32の軸部分32aは伝動部材34の第1領域から第2領域に移動する。
【0115】
その結果、車両の後方側のスライダ26は車両の後方に向かう方向に押し出される。こうして、後方側の当接部27が傾斜面19aと上板部5の下面(被当接面)との間に楔のように挟み込まれる結果、この当接部27と上板部5との間にはz方向に沿った力及びx方向に沿った摩擦力が働く。従って、前述の第1実施例と同様に、アッパレール2を車両の前方に向かって移動させる際における摺動抵抗(第1摺動抵抗)を増大させることができる。
【0116】
本変形例におけるレバー36は、ロアレール1に対するアッパレール2の摺動の摺動抵抗を調節するための「調節機構」の一部に該当する。上記のように、当該調節機構は、レバー36に対して使用者が行う操作に基づいて摺動抵抗を変化させるように構成されている。
【0117】
先に説明した第1及び第2実施例では、シートスライド装置100、100Aの傾斜を検出するセンサが組み込まれてもよく、このセンサによって検出された傾斜の大きさに応じてアッパレール2の摺動抵抗が動的に調節されてもよい。例えば乗員の着座時に、シートスライド装置100、100Aの傾斜が増大したことがセンサによって検知された場合には、電動アクチュエータによって伝動部21cを反時計回りに揺動させ、車両の後方側のスライダ26の当接部27を傾斜面19aと上板部5の下面との間にさらに進入させるような構成としてもよい。このような構成であっても、アッパレール2の摺動抵抗を適切に増加させることができる。
【0118】
また、例えば乗員の非着座時にシートスライド装置100、100Aの傾斜が所定の閾値よりも大きくなり過ぎた場合には、アッパレール2の摺動抵抗を増大させるような制御が行われてもよい。このためには、例えば、電動アクチュエータ等によりワイヤ24を引っ張る量を減少させて、当接部27を傾斜面19aと上板部5の下面(被当接面)との間に楔のように挟み込んでいくことが想定される。
【0119】
ワイヤ24の他端は、乗員が操作可能なハンドル(ハンドル212又は第2ハンドル322)に接続され、シートに着座していない乗員が当該ハンドルを操作することによってワイヤ24を引っ張る量、すなわち、アッパレール2の摺動抵抗を動的に調節することができるように構成されてもよい。先に述べたように、この場合、シートロック機構231がロック状態にあり、シートバックやシートクッションは互いに対して折り畳まれておらず、シートは通常の姿勢を確立しているが、こうした場合にも乗員の操作によって、着座時及び非着座時における摺動抵抗の動的な調節を実現することができる。なお、第1実施例では、ワイヤ24の他端はシートアンロックレバー60に連結され、さらにそのシートアンロックレバー60がワイヤ62によってハンドル212に連結されている。そのような構造により、ハンドル212を第1アンロック位置から第2アンロック位置へ移動させると、スライドロック機構13の解除が保持されたままシートロック機構231が解除される。また、第2実施例では、ワイヤ24の他端はシートアンロックレバー60に連結され、さらにそのシートアンロックレバー60がワイヤ327によって第2ハンドル322に連結されている。そのような構造により、第2ハンドル322を操作すると、スライドロック機構が解除されるとともにシートロック機構231が解除される。
【0120】
また、例えば第3変形例のシートスライド装置100Bには、シートに乗員が着座した場合のシートの沈み込みを検出するセンサが組み込まれてもよい。この変形例では、当該センサによって検出された乗員の着座に応じて、電動アクチュエータ等によりレバー36が操作されることによって、揺動部材32の軸部分32aが伝動部材34の第1領域から第2領域に移動し、シートスライド装置100Bにおいて第1摺動抵抗が設定されてもよい。こうしてシートスライド装置100Bでは、着座時及び非着座時が自動的に切り換えられてもよい。
【0121】
ところで、
図15を参照しながら説明した第2変形例のシートスライド装置100Aの変形例においては、第2レバー21の回転により、前後それぞれの当接部27が互いに離間する方向に移動する。このとき、前方側の当接部27が上板部5に押し付けられるタイミングと、後方側の当接部27が上板部5に押し付けられるタイミングとが同時であれば、シートを摺動させる際の摺動抵抗を設計通りの大きさに変化させることができる。
【0122】
しかしながら、例えば部品の寸法誤差に起因して上記のタイミングが互いに異なってしまった場合には、一方の当接部27が先に上板部5に押し付けられた段階で、それぞれの当接部27がそれ以上変位し得ない状態となってしまう。つまり、一方の当接部27のみが上板部5に押し付けられる一方で、他方の当接部27は上板部5に押し付けられない状態となってしまう。このような状態においては、シートを摺動させる際の摺動抵抗が、設計値よりも小さくなってしまう。
【0123】
これを解決するための構成例として、本発明の第4変形例のシートスライド装置100Cを説明する。
図19は、第4変形例に係るシートスライド装置100Cの内部構造を概略的に示す図である。以下では、
図15に示されるシートスライド装置100Aの変形例と異なる点について主に説明し、当該変形例と共通する点については適宜説明を省略する。
【0124】
図19では、上板部5の下面に符号5aを付してある。以下では、この下面のことを「下面5a」と表記する。
図12では、図示が煩雑となってしまうことを避けるために、ロック部材14やローラ12の外形が点線で示されている。
【0125】
本実施形態でも、
図15に示される変形例と同様に、それぞれのガイド部19の上面には傾斜面19aが形成されている。具体的には、前方側のガイド部19に形成された傾斜面19aは、前方側に行くほど下面5aから遠ざかるように傾斜している。また、後方側のガイド部19に形成された傾斜面19aは、後方側に行くほど下面5aに近づくように傾斜している。
【0126】
第4変形例においても、車両の前方側及び後方側に配置されたそれぞれの当接部27は、アッパレール2に保持される部材であって、摺動抵抗を増加させるためにロアレール1(上板部5)とアッパレール2(ガイド部19)との間に挟み込まれる部材、ということができる。前方側に配置された方の当接部27は、本実施形態における「第1楔部材」に該当する。また、上記第1楔部材よりも後方側となる位置に配置された方の当接部27は、本実施形態における「第2楔部材」に該当する。
【0127】
第4変形例では、一対のスライダ26、26に替えて、第1スライダ260と第2スライダ270とが設けられている。第1スライダ260は、前方側の当接部27を支持する部材である。第2スライダ270は、後方側の当接部27を支持する部材である。
【0128】
第1スライダ260及び第2スライダ270は、それぞれの当接部27を同一の所定方向(具体的には-x方向)に移動させ、当接部27とロアレール1(下面5a)との間に働く摩擦力を増加させることにより摺動抵抗を増加させる部材、ということができる。前方側に配置された第1スライダ260は、第1楔部材を-x方向に移動させ、第1楔部材とロアレール(下面5a)との間に働く摩擦力を増加させることにより摺動抵抗を増加させるための「第1支持部材」に該当する。また、上記第1支持部材よりも後方側となる位置に配置された第2スライダ270は、第2楔部材を-x方向に移動させ、第2楔部材とロアレール(下面5a)との間に働く摩擦力を増加させることにより摺動抵抗を増加させるための「第2支持部材」に該当する。
【0129】
第1スライダ260及び第2スライダ270の具体的な構成について、
図20乃至22を参照しながら説明する。
図20は、互いに組み付けられた状態の第1スライダ260及び第2スライダ270を、下方側から見て描いた斜視図である。
図21はその分解組立図である。
図22は、第2スライダ270を上方側から見て描いた斜視図である。
【0130】
第1スライダ260は、棒状に形成された直線部261を有している。直線部261は、その長手方向に対して垂直な断面の外形が矩形となるように形成されている。直線部261のうちx方向側の端部には、
図5を参照しながら説明したものと同様の当接部27が形成されている。直線部261のうち-x方向側の端部には、支持部265が形成されている。支持部265は、
図19に示されるように、第2レバー21の下腕部21bの下端部に対して回転自在に支持される部分である。
【0131】
直線部261のうち-z方向側の面には、z方向側に向かって後退するような凹部263が形成されている。
図21に示されるように、凹部263は、支持部265のうち-x方向側の部分に形成されている。x方向側における凹部263の端部となる位置には、仕切り板262が形成されている。また、-x方向側における凹部263の端部となる位置には、仕切り板264が形成されている。仕切り板262、264はいずれも、x軸に対して垂直な平板状に形成されている。
【0132】
図22に示されるように、第2スライダ270は、中間部271と、一対の水平腕272と、一対の垂直腕273とを有している。中間部271は、第2スライダ270のうちy方向における中央の部分である。中間部271には、前方板2711と、後方板2712とが形成されている。前方板2711は、中間部271のうちx方向側の端部となる位置において、z方向側に突出するように形成されている。後方板2712は、中間部271のうち-x方向側の端部となる位置において、z方向側に突出するように形成されている。前方板2711及び後方板2712は、いずれも、x軸に対して垂直な平板状に形成されている。
【0133】
一対の水平腕272は、中間部271の下端から、それぞれ-y方向及びy方向に向かって伸びるように形成された部分である。それぞれの水平腕272は、いずれも、z軸に対して垂直な平板状に形成されている。
【0134】
一対の垂直腕273は、それぞれの水平腕272の先端からz方向に向かって伸びるように形成された部分である。それぞれの垂直腕273は、いずれも、y軸に対して垂直な平板状に形成されている。また、それぞれの垂直腕273は、後方板2712よりも更に-x方向側に向かって伸びている。それぞれの垂直腕273のうち-x方向側の端部となる位置には、当接部27が形成されている。この当接部27は、
図5に示される構成と異なり、中間部27aを有しておらず腕部27bのみを有する形状となっている(本実施形態の中間部271が、
図5の中間部27aに対応するもの、ということもできる)。
【0135】
図20及び
図21に示されるように、第1スライダ260と第2スライダ270とが互いに組み付けられている状態においては、第2スライダ270の中間部271が、第1スライダ260の凹部263に対して下方側から挿入された状態となっている。第2スライダ270は、このように中間部271が凹部263に挿入された状態のまま、第1スライダ260に対しx軸に沿って移動することが可能となっている。
【0136】
凹部263にはコイルばね280が配置されている。コイルばね280は、その一端が第1スライダ260の仕切り板262に当接しており、その他端が第2スライダ270の前方板2711に当接している。コイルばね280は、仕切り板262と前方板2711とに対し、これらをx軸に沿って互いに押し広げるような方向の力を加えている。換言すれば、コイルばね280は、第1スライダ260をx方向側に付勢しており、第2スライダ270を-x方向側に付勢している。第1スライダ260及び第2スライダ270のそれぞれに外力が加えられていない状態(つまり
図20のような状態)においては、第2スライダ270の後方板2712が、第1スライダ260の仕切り板264に対して押し付けられた状態となっている。
【0137】
このように、コイルばね280は、第1スライダ260(第1支持部材)と第2スライダ270(第2支持部材)との間に設けられており、両者の間を広げるように力を加えている。このようなコイルばね280は、本実施形態における「弾性部材」に該当する。コイルばね280に替えて、他の態様の弾性部材が用いられてもよい。
【0138】
次に、シートスライド装置100Cの動作について説明する。
図19においては、スライドロック機構13によりロック状態が確立されている。また、ワイヤ24は車両の後方に向かって引っ張られており、第2レバー21は回転軸22の周りを時計回り方向に揺動している。その結果、第1スライダ260及びその先端の当接部27はx方向に移動しており、当該当接部27と上板部5の下面5aとの間には隙間が形成されている。
【0139】
また、後方板2712と仕切り板264とは互いに当接した状態となっている。このため、第2レバー21が上記のように時計回り方向に揺動したことに伴って、第2スライダ270及びその先端の当接部27は-x方向に移動しており、当該当接部27と上板部5の下面5aとの間にも隙間が形成されている。
【0140】
以上のように、
図19に示される状態では、前方側の当接部27及び後方側の当接部27はいずれも、下面5aに当接していない。このため、シートを前方側に移動させる際の摺動抵抗(第3摺動抵抗)、及び、シートを後方側に移動させる際の摺動抵抗(第4摺動抵抗)は、いずれも小さくなっている。
【0141】
図19に示される状態から、ワイヤ24が後方側に向かって引っ張られる力が弱められると、コイルばね23の弾性復元力により、第2レバー21は回転軸22の周りを反時計回り方向に揺動する。
図23には、その途中の段階が模式的に示されている。
図23の状態では、第2レバー21の上記揺動に伴って、第1スライダ260及び第2スライダ270のそれぞれが-x方向側に移動している。これにより、第2スライダ270に設けられた後方側の当接部27は、傾斜面19aと上板部5の下面5aとの間に楔のように挟み込まれた状態となっている。
【0142】
一方、後方側の当接部27が下面5aに当接した直後の状態(つまり
図23の状態)では、前方側の当接部27は、未だ下面5aに当接していない。このように、シートスライド装置100Cでは、後方側の当接部27が先に下面5aに当接した状態となるように、直線部261の長さ等が設計されている。
【0143】
図23の状態から、ワイヤ24が後方側に向かって引っ張られる力が更に弱められると、コイルばね23の弾性復元力により、第2レバー21は更に反時計回り方向に揺動する。このとき、後方側の当接部27が既に下面5aに当接しているので、第2スライダ270はそれ以上-x方向側には移動しない。つまり、
図23の状態から後述の
図24の状態に移行するに当たっては、x軸に沿った第2スライダ270の位置は変化しない。
【0144】
一方、第1スライダ260は、コイルばね280の弾性復元力に抗しながら更に-x方向側に移動する。このとき、第1スライダ260は、(静止している)第2スライダ270に対して相対的に移動することとなる。換言すれば、第2スライダ270の中間部271は、凹部263の内部を相対的にスライド移動することとなる。最終的には
図24に示されるように、第1スライダ260に設けられた前方側の当接部27が、傾斜面19aと上板部5の下面5aとの間に楔のように挟み込まれた状態となる。
【0145】
このように、本実施形態では、第2レバー21が反時計回り方向に回転する際に、先に後方側の当接部27を下面5aに当接させる構成としながらも、前方側の当接部27も下面5aに当接させることができる。第1スライダ260等の寸法に誤差が生じている場合であっても、それぞれの当接部27を下面5aに確実に当接させることができるので、シートを移動させる際の摺動抵抗の大きさを設計通りの大きさとすることができる。
【0146】
第2レバー21は、第1支持部材である第1スライダ260を-x方向側に移動させ、これにより摺動抵抗を増加させるものである。このような第2レバー21は、本実施形態における「レバー部材」に該当する。
【0147】
本実施形態では、前方側の当接部27を支持する第1スライダ260と、後方側の当接部27を支持する第2スライダ270とが、互いに別体の部品として構成されている。このような態様に替えて、
図25に示される第5変形例のように、第1スライダ部310と第2スライダ部320とが一体に形成されているような態様であってもよい。第1スライダ部310は、この変形例における「第1支持部材」に該当する部分である。第2スライダ部320は、この変形例における「第2支持部材」に該当する部分である。
【0148】
この変形例では、第1スライダ部310と第2スライダ部320との間がバネ部330によって繋がれており、第1スライダ部310、第2スライダ部320、及びバネ部330の全体が一体の部品として形成されている。バネ部330は、この変形例における「弾性部材」に該当する部分である。
【0149】
第1スライダ部310のうちバネ部330寄りの部分には、支持部311が形成されている。支持部311は、第4変形例(
図19)の支持部265と同様に、第2レバー21の下腕部21bの下端部に対して回転自在に支持される部分である。
【0150】
このような構成においては、第4変形例について説明したものと同様の効果に加えて、第1支持部材や第2支持部材を構成するための部品点数を削減できるという効果も奏する。
【0151】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。ユーザが操作するハンドルとスライドアンロックレバー50、シートアンロックレバー60の連動機構は、実施例の態様に限定されない。
【0152】
シートロック機構231が解除されると、シートバックが回転自在となる。シートバックは前方に付勢されており、シートロック機構231の解除とともにシートバックが前方に折り畳まれるように構成されていてもよい。
【0153】
シートスライド装置100は、次の特徴を備えている。シートスライド装置100は、第1楔部材(第1レバー20と連動する当接部27)と、第1支持部材(第1レバー20と連動するスライダ26)と、第2楔部材(第2レバー21と連動する当接部27)と第2支持部材(第2レバー21と連動するスライダ26)を備えている。第1楔部材は、アッパレール2に保持される部材であって、摺動抵抗を増加させるためにロアレール1とアッパレール2との間に挟み込まれる。第1支持部材は、第1楔部材を車両前方に移動させ、第1楔部材とロアレール1との間に働く摩擦力を増加させることにより摺動抵抗を増加させる。第2楔部材は、第1楔部材よりも後方側となる位置においてアッパレール2に保持される部材であって、摺動抵抗を増加させるためにロアレール1とアッパレール2との間に挟み込まれる。第2支持部材は、第2楔部材を車両後方側に移動させ、第2楔部材とロアレール1との間に働く摩擦力を増加させることにより、摺動抵抗を増加させる。
【0154】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0155】
1:ロアレール
2:アッパレール
3:底板部
4:側板部
5:上板部
6:口板部
7:開口
8:収容空間
9:金属板
10:側板部
11:腕板部
12:ローラ
13:スライドロック機構
14、114:ロック部材
14a:爪部
14b:操作部
15:ブラケット
16:回転軸
18:コイルばね
19:ガイド部
19a:傾斜面
20、120:第1レバー
20a、21a、120a、121a:上腕部
20b、21b、120b、121b:下腕部
20c、21c、120c、121c:伝動部
21:第2レバー
22:回転軸
23、123:コイルばね
24:ワイヤ
25:支軸
26:スライダ
27:当接部
27a:中間部
27b:腕部
28:貫通孔
50:スライドアンロックレバー
51:押し下げピン
52、61、213、313、323:回転軸
54:サブレバー
55:連結ロッド
60:シートアンロックレバー
62、315、325、327:ワイヤ
63、326、328、329:滑車
100:シートスライド装置
124:連結ロッド
129:ストッパ
200、300:シート
210、310:シートクッション
212:ハンドル
214:本体部
215、314、324:レバー部
216:長孔
220、320:シートバック
230:ヒンジ
231:シートロック機構
312:第1ハンドル
322:第2ハンドル