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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】樹脂の黄変抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/16 20060101AFI20221028BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
C08L83/16
C08L101/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018062695
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019172824
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】福西 佐季子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 一史
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-122796(JP,A)
【文献】特開平08-311339(JP,A)
【文献】特開2013-107928(JP,A)
【文献】特開2010-248471(JP,A)
【文献】特開2011-140669(JP,A)
【文献】特表平11-508629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に下記式()で表される構造単位を有する鎖状ポリシランを配合して、溶融混錬することを特徴とする、樹脂の黄変抑制方法。
【化1】
(式中、 1-6 アルキル基、 6-10 アリール基を示し、n1は3~500の整数である)。
【請求項2】
前記鎖状ポリシランの重量平均分子量が400~50000である請求項1記載の樹脂の黄変抑制方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリカーボネート系樹脂からなる群より選択された少なくとも1種である請求項1又は2記載の樹脂の黄変抑制方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂と前記鎖状ポリシランとを、前者/後者=99.95/0.05~90/10の重量比で配合する請求項1~のいずれかに記載の樹脂の黄変抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間の使用などによって、水、熱、光などに起因して樹脂が黄変するのを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックなどの樹脂は、過酷な条件に曝されたり、長期間使用すると、水や熱、太陽光などにより劣化して機械的特性が低下したり、黄変する。そのため、樹脂には各種の安定剤が配合されている。安定剤としては、フェノール系化合物やリン系化合物などの熱安定剤、アミン系化合物やフェノール系化合物などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物などの光安定剤などが汎用されている。しかし、これらの安定剤を配合した場合であっても、条件や使用期間によっては、劣化が発生し、特に、熱履歴による黄変を高度に抑制するのは困難であった。
【0003】
一方、ポリシランは、通常、外観が淡黄色の粉末であって、樹脂の改質剤として知られている。特開2003-268247号公報(特許文献1)には、難燃剤や補強剤などの添加剤を樹脂に配合したときに引張強度などの機械的特性が低下するのを抑制するために、ポリシランを改質剤として配合することが開示されている。
【0004】
また、特開2003-277756号公報(特許文献2)には、ハロゲンフリーで安全性が高い難燃剤として、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂にポリシランを添加する方法が開示されている。WO2015/064394(特許文献3)には、配管などのポリオレフィン成形体が、内部を流通する熱水によって劣化し、破断伸びなどの機械的特性が低下するのを抑制するための配合剤として、ポリシランが開示されている。さらに、特開2016-204620号公報(特許文献4)には、ポリオレフィンで形成された成形体における球晶の成長を抑制するための結晶核剤として、ポリシランが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-268247号公報
【文献】特開2003-277756号公報
【文献】WO2015/064394
【文献】特開2016-204620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献には、ポリシランと樹脂の黄変との関係について、何らの記載も示唆もない。
【0007】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂の黄変を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、通常、淡黄色の粉体であるポリシランを樹脂に配合することにより、意外にも熱可塑性樹脂の黄変を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂にポリシランを配合して、溶融混錬することを特徴とする、樹脂の黄変抑制方法である。前記ポリシランの重量平均分子量は、好ましくは400~50000であり、前記ポリシランは、好ましくは、下記式(1)および(2)で表される構造単位のうち少なくとも1つの構造単位を有する、鎖状および/または環状のポリシランである。
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、R~Rは、同一または相異なって、水素原子、ヒドロキシル基、有機基またはシリル基を示す)。
【0012】
前記熱可塑性樹脂は、好ましくは、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリカーボネート系樹脂からなる群より選択された少なくとも1種である。本発明においては、前記熱可塑性樹脂と前記ポリシランとを、前者/後者=99.95/0.05~90/10の重量比で配合することが好ましい。
【0013】
なお、本願明細書及び特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC、C、C10などで示すことがある。すなわち、例えば、炭素数が1のアルキル基は「Cアルキル」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール」で示す。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、ポリシランを熱可塑性樹脂に配合して、熱可塑性樹脂の黄変を抑制できる。特に、熱履歴を受け易い熱可塑性樹脂にポリシランを配合することで、熱可塑性樹脂の黄変を効果的に抑制できる。また、黄変の抑制効果が大きく、少量の配合であっても、熱可塑性樹脂の黄変を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ポリシランは、Si-Si結合を有する、鎖状(直鎖状もしくは分岐鎖状)、環状または網目状の化合物であれば特に限定されない。ポリシランは、通常、下記式(1)および(2)で表される構造単位のうち少なくとも1つの構造単位を有する場合が多い。ポリシランの分子構造は、鎖状(直鎖状もしくは分岐鎖状)、または環状であるのが好ましい。
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、R~Rは、前記と同じである)。
【0018】
前記式(1)および(2)において、R~Rで表される有機基としては、炭化水素基、これらの炭化水素基に対応するエーテル基などが挙げられる。前記炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。前記エーテル基としては、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが挙げられる。通常、前記有機基は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基である場合が多い。また、R~Rで表される水素原子やヒドロキシル基、アルコキシ基、シリル基などは、末端に置換している場合が多い。
【0019】
前記式(1)および(2)のR~Rにおいて、アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシルなどのC1-14アルキル基が挙げられる。C1-14アルキル基の中でも、C1-10アルキル基が好ましく、C1-6アルキル基がさらに好ましい。
【0020】
アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t-ブトキシ、ペンチルオキシなどのC1-14アルコキシ基が挙げられる。
【0021】
アルケニル基としては、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニルなどのC2-14アルケニル基が挙げられる。
【0022】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシルなどのC5-14シクロアルキル基などが挙げられる。シクロアルキルオキシ基としては、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシなどのC5-14シクロアルキルオキシ基などが挙げられる。シクロアルケニル基としては、シクロペンテニル、シクロヘキセニルなどのC5-14シクロアルケニル基などが挙げられる。
【0023】
アリール基としては、フェニル、メチルフェニル(トリル)、ジメチルフェニル(キシリル)、ナフチルなどのC6-20アリール基などが挙げられる。C6-20アリール基の中でも、C6-15アリール基が好ましく、C6-12アリール基がさらに好ましい。
【0024】
アリールオキシ基としては、フェノキシ、ナフチルオキシなどのC6-20アリールオキシ基などが挙げられる。
【0025】
アラルキル基としては、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピルなどのC6-20アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。
【0026】
アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ、フェネチルオキシ、フェニルプロピルオキシなどのC6-20アリール-C1-4アルキルオキシ基などが挙げられる。
【0027】
シリル基としては、シリル基、ジシラニル基、トリシラニル基などのSi1-10シラニル基などが挙げられる。Si1-10シラニル基の中でも、Si1-6シラニル基が好ましい。
【0028】
また、R~Rが、アルキル基、アリール基などの前記有機基またはシリル基である場合には、その水素原子の少なくとも1つが、置換基(または官能基)により置換されていてもよい。このような置換基(または官能基)は、例えば、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基などの前記と同様の基であってもよい。
【0029】
これらのうち、R~Rは、アルキル基、アリール基が汎用される。アルキル基の中でも、C1-4アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。アリール基の中でも、C6-20アリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。さらに、R~Rは、C1-4アルキル基とC6-20アリール基との組み合わせが好ましく、メチル基とフェニル基との組み合わせが特に好ましい。
【0030】
ポリシランが直鎖状、分岐鎖状、網目状などの非環状構造の場合、末端は、封止されていてもよく、封止されていなくてもよい。末端が封止されていないポリシランにおいて、末端のケイ素原子は、通常、前記有機基に加えて、水素原子、ヒドロキシル基、塩素原子などのハロゲン原子などを有している場合が多く、ヒドロキシル基を有している場合が特に多い。さらに、末端が封止されていないポリシランにおいて、末端のケイ素原子は、黄変を抑制する効果が大きい点から、前記有機基として、アルキル基またはアリール基を含むのが好ましく、メチル基などのC1-3アルキル基およびフェニル基などのC6-12アリール基を含むのが特に好ましい。
【0031】
具体的なポリシランとしては、例えば、前記式(1)で表される構造単位を有する直鎖状ポリシラン、前記式(1)で表される構造単位を有する環状ポリシラン、前記式(2)で表される構造単位を有する分岐鎖状ポリシラン、前記式(2)で表される構造単位を有する網目状ポリシラン、前記式(1)および(2)で表される構造単位を組み合わせて有するポリシラン(分岐鎖状または網目状ポリシラン)などが挙げられる。これらのポリシランにおいて、前記式(1)および(2)で表される構造単位は、それぞれ、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。なお、分岐鎖状または網目状ポリシランは、下記式(3)で表される構造単位をさらに含んでいてもよい。
【0032】
【化3】
【0033】
代表的なポリシランとしては、鎖状(直鎖状又は分岐鎖状)のポリシランのポリシランである、ポリジアルキルシラン、ポリアルキルアリールシラン、ポリジアリールシラン、ジアルキルシラン-アルキルアリールシラン共重合体や、環状のポリシランであるポリ環状ジアリールシランなどが挙げられる。
【0034】
鎖状のポリジアルキルシランとしては、ポリジメチルシラン、ポリメチルプロピルシラン、ポリメチルブチルシラン、ポリメチルペンチルシラン、ポリジブチルシラン、ポリジヘキシルシラン、ジメチルシラン-メチルへキシルシラン共重合体などの直鎖状のポリジアルキルシランや、その直鎖状ポリジアルキルシランの一部に前記式(2)で表される構造単位(Rがアルキル基)を含むポリシランが挙げられる。
【0035】
前記ポリアルキルアリールシランとしては、ポリメチルフェニルシラン、メチルフェニルシラン-フェニルヘキシルシラン共重合体などの直鎖状のポリアルキルアリールシランや、その直鎖状ポリアルキルアリールシランの一部に前記式(2)で表される構造単位(Rがアルキル基又はアリール基)を含むポリシランが挙げられる。
【0036】
前記ポリジアリールシランとしては、環状または直鎖状のポリジフェニルシランや、この直鎖状ポリジアルキルシランの一部に前記式(2)で表される構造単位(Rがアリール基)を含むポリシランなどが挙げられる。
【0037】
前記ジアルキルシラン-アルキルアリールシラン共重合体としては、ジメチルシラン-メチルフェニルシラン共重合体、ジメチルシラン-フェニルヘキシルシラン共重合体、ジメチルシラン-メチルナフチルシラン共重合体などが挙げられる。
【0038】
これらのポリシランは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0039】
これらのうち、黄変の抑制効果が大きい点から、Rがアルキル基またはアリール基であり、かつRがアリール基である構造単位(1)を有する鎖状または環状ポリシランが好ましく、鎖状ポリC1-6アルキルC6-10アリールシランなどの鎖状ポリアルキルアリールシラン、および環状ポリジC6-10アリールシランなどの環状ポリジアリールシランからなる群より選択された少なくとも1種がさらに好ましく、鎖状ポリメチルフェニルシランなどの鎖状ポリC1-3アルキルC6-10アリールシランが最も好ましい。
【0040】
ポリシランの重量平均分子量は、GPC(ポリスチレン換算)による測定方法において、例えば400~50000程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、700~30000、800~20000、1000~10000、1200~5000、1300~3000であり、最も好ましい範囲は1500~2000である。ポリシランの分子量が小さすぎると、ポリオレフィン成形体における球晶の成長を抑制する効果が低下する。ポリシランの分子量が小さすぎると、黄変の抑制効果が低下する虞があり、逆に大きすぎると、樹脂中で均一に分散させるのが困難となり、樹脂との相溶性が低下する虞がある。
【0041】
ポリシランの平均重合度は、ケイ素原子換算(すなわち、一分子当たりのケイ素原子の平均数)で3~500程度の範囲から選択でき、例えば7~100、好ましくは8~50、さらに好ましくは9~30、最も好ましくは10~20である。
【0042】
好ましいポリシランは、例えば、下記式(A)で表される鎖状ポリアルキルアリールポリシランや下記式(B)で表される環状ポリアリールシランであってもよい。
【0043】
【化4】
【0044】
(式中、Rはアルキル基を示し、R~Rはアリール基を示し、n1およびn2は3~500の整数である)。
【0045】
ポリシランは、20℃程度の室温で、液体状であってもよいが、取り扱い性などの点から、固体状が好ましい。
【0046】
ポリシランは、慣用の方法により得ることができる。慣用の方法としては、マグネシウムを還元剤としてハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(「マグネシウム還元法」、WO98/29476号公報など)、アルカリ金属の存在下でハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(「キッピング法」、J.Am.Chem.Soc.,110,124(1988)、Macromolecules,23,3423(1990)など)、電極還元によりハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1161(1990)、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.897(1992)など)、金属触媒の存在下にヒドロシラン類を脱水素縮重合させる方法(特開平4-334551号公報など)、ビフェニルなどで架橋されたジシレンのアニオン重合による方法(Macromolecules,23,4494(1990)など)、環状シラン類の開環重合による方法などが挙げられる。
【0047】
樹脂は、熱履歴を受け易く、黄変が問題となり易い熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリα-C2-10オレフィンや、シクロペンタジエン系樹脂やノルボルネン系樹脂などの環状ポリオレフィンなどのオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、酢酸ビニル系樹脂などのビニル系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン樹脂、スチレン-メタクリル酸メチル樹脂、ABS樹脂などの芳香族ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体の単独または共重合体、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体などのアクリル系樹脂;ビスフェノールA型ポリカーボネートなどのポリカーボネート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリC2-10アルキレン-C6-10アリレートまたはコポリエステルや、フルオレン含有ポリエステル、ポリアリレート、液晶ポリエステルなどのポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンなどのポリアセタール系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロンMXDなどのポリアミド系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどのスルホン系樹脂;ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテルなどのフェニレンエーテル系樹脂;スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0048】
これらの熱可塑性樹脂のうち、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリカーボネート系樹脂からなる群より選択された少なくとも1種が特に好ましい。
【0049】
オレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ノルボルネン系樹脂などが挙げられる。これらのオレフィン系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンなどのポリエチレンが好ましい。
【0050】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステルなどが挙げられる。芳香族ポリエステルは、芳香環としてフルオレン環を有する芳香族ポリエステルであってもよい。これらのポリエステル系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、PETなどのポリアルキレンアリレート、フルオレン含有ポリエステルが好ましい。
【0051】
ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールA型ポリカーボネートが好ましい。
【0052】
本発明の方法では、例えば、これらの熱可塑性樹脂を押出成形や射出成形に供することにより熱履歴を受けても熱可塑性樹脂の黄変を抑制でき、さらに熱可塑性樹脂のリサイクルなどによって繰り返し熱履歴を受けたり、製造条件や使用条件によって過酷な熱履歴を受けても熱可塑性樹脂の黄変を抑制できる。
【0053】
本発明の方法では、熱可塑性樹脂に対するポリシランの割合が少量であっても、樹脂の黄変を抑制できる。熱可塑性樹脂とポリシランとの重量比は、熱可塑性樹脂/ポリシラン=99.95/0.05~90/10程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、99.94/0.06~95/5、99.92/0.08~97/3、99.9/0.1~98/2、99.88/0.12~99/1、99.85/0.15~99.5/0.5、99.8/0.2~99.6/0.4であり、最も好ましくは99.75/0.25~99.65/0.35である。
【0054】
本発明の方法では、ポリシランに加えて、慣用の安定剤をさらに配合してもよい。慣用の安定剤としては、フェノール系化合物やリン系化合物などの熱安定剤、アミン系化合物やフェノール系化合物などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物などの光安定剤などが挙げられる。但し、ポリシランを配合することにより、熱可塑性樹脂にとって異物である安定剤の割合を抑制できるのも本発明の重要な特徴の一つである。そのため、慣用の安定剤の割合は、ポリシラン100重量部に対して50重量部以下であってもよく、例えば30重量部以下、好ましくは10重量部以下、さらに好ましくは5重量部以下であり、慣用の安定剤を含まないのが最も好ましい。慣用の安定剤を含む場合、慣用の安定剤の割合は、ポリシラン100重量部に対して0.1~50重量部であってもよい。
【実施例
【0055】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で使用した原料の詳細および黄変の評価方法を以下に示す。
【0056】
[使用原料]
LLDPE:低密度ポリエチレン、添加剤無添加
MDPE:SK-Global chemical(株)製「商品名YUCLAIR DX800」
PC:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「商品名ノバレックス 7022PJ」
ポリメチルフェニルシラン(分子量12700):大阪ガスケミカル(株)製「商品名オグソールSI-10-10」、末端が封止されてない直鎖状ポリメチルフェニルシラン、重量平均分子量12700
ポリメチルフェニルシラン(分子量1800):大阪ガスケミカル(株)製「商品名オグソールSI-10-20」、末端が封止されてない直鎖状ポリメチルフェニルシラン、重量平均分子量1800
ポリジフェニルシラン(分子量911):大阪ガスケミカル(株)製「商品名オグソールSI-30-10」、環状ポリジフェニルシラン、重量平均分子量911
フェノール系安定剤:BASFジャパン(株)製「イルガノックス1010」
リン系安定剤:BASFジャパン(株)製「イルガフォス168」。
【0057】
[黄色度YI]
実施例および比較例で得られたペレットまたは三段プレートを、ASTM E313-3に準拠して黄色度YIを測定した。
【0058】
実施例1~4
表1に示す樹脂99.7重量部に対して、表1に示すポリシラン0.3重量部を添加し、押出成形機を用いて、170~250℃の温度で溶融混練し、ペレットを造粒した。造粒を5回繰り返し、1回目のペレットの黄色度と、5回目のペレットの黄色度とを測定し、両者の差(ΔYI)を求めた。
【0059】
比較例1~2
ポリシランを添加せずに実施例1または4と同様の方法で造粒し、ΔYIを求めた。
【0060】
比較例3~4
ポリシランの代わりに表1に示す安定剤を使用する以外は実施例1と同様の方法で造粒し、ΔYIを求めた。
【0061】
実施例1~4および比較例1~4の結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1の結果から明らかなように、実施例のペレットは、ポリシランを配合し比較例1および2のペレットと比較すると、熱履歴を受けても、黄変が抑制されていた。また、慣用の安定剤を配合した比較例3および4は黄変を抑制できなかった。
【0064】
実施例5
ポリカーボネート99.7重量部に対して、ポリメチルフェニルシラン(分子量1800)0.3重量部を添加し、押出成形機を用いて、280℃の温度で溶融混練し、造粒した後、射出成形機を用いて得られたペレットから三段プレート(1mm厚/2mm厚/3mm厚)を作製し、黄色度を測定した。さらに、得られた三段プレートを、表2に示す3種の条件(85℃および85%RHの条件で622時間、85℃および85%RHの条件で1335時間、100℃大気下の条件で550時間)で放置した後の黄色度を測定した。
【0065】
比較例5
ポリシランを添加せずに実施例5と同様の方法で三段プレートを作製し、黄色度を測定した。
【0066】
実施例5および比較例5の結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2の結果から明らかなように、実施例5のプレートは、比較例5のプレートよりも黄変が抑制された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の方法は、熱可塑性樹脂の黄変を抑制する方法として利用でき、特に、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂の黄変を抑制する方法として好適である。