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  • 特許-防水シート敷設装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】防水シート敷設装置
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/38 20060101AFI20221028BHJP
【FI】
E21D11/38 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018083024
(22)【出願日】2018-04-24
(65)【公開番号】P2019190101
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-12-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594036135
【氏名又は名称】株式会社東宏
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅彦
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-338200(JP,A)
【文献】特開平07-054598(JP,A)
【文献】特開平07-324596(JP,A)
【文献】特開平10-317898(JP,A)
【文献】特開平11-117691(JP,A)
【文献】特開平10-018787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00-19/06
23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次覆工後のトンネル内壁に防水シートを敷設する、防水シート敷設装置であって、
トンネルの一次覆工面に対応した略半筒状の外枠を有する基台と、
前記外枠上の少なくとも頂部を含む複数個所に配置した帯状の膨張体であって、前記基台の長手方向に沿って延在し、前記外枠の径方向に間隔を空けて並列配置した複数の膨張体と、
前記複数の膨張体内に送気して膨張させる送気手段と、
前記外枠上における前記複数の膨張体の外側を被覆する押圧シートと、を備え、
前記外枠上における前記押圧シートの外側に防水シートを展開した状態において、前記複数の膨張体を膨張させることによって、防水シートを一次覆工面に押し付け可能に構成したことを特徴とする
水シート敷設装置。
【請求項2】
前記複数の膨張体を個別に膨張可能なことを特徴とする、請求項1に記載の防水シート敷設装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防水シート敷設装置及び防水シートの敷設方法に係り、特に防水シートに適切な弛みを確保することにより背面空洞の発生を防止できるとともに長スパンの防水シートを一度に敷設可能な防水シート敷設装置及び防水シートの敷設方法に係る。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル工事では、トンネルの防水性を確保するため、一次覆工後のトンネル内壁に防水シートを敷設するシート防水工が標準化しつつある。
シート防水工には例えば特許文献1及び2に開示されるような留め片を備えた防水シートを使用する。
まず、ホイストクレーン等を用いて防水シートを複数段のステージを設けたシート台車上に展開する。続いて、防水シートの周方向の中心部をトンネルアーチ部の中央に合わせ、作業員が防水シートを一次覆工面に押し付けながら留め片越しにコンクリート釘を打ち込んで固定する。
前スパンの防水シートと後スパンの防水シートは、端部同士を拝み合わせた状態で熱溶着して接続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公平05-10077号公報
【文献】実開平07-8495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術には以下の問題点がある。
<1>防水シートを一次覆工面に点状に固定してゆくため、展張した防水シートに適切な弛みを確保するのが難しい。防水シートの弛み量が不十分であると、覆工コンクリートの打設時に防水シートが下方に引き込まれることで、アーチ頂部において防水シートの背面に空洞が生じる。これはトンネル構造上の弱点となると共に、凍上によるひび割れや漏水を誘発するおそれがある。
<2>大面積の防水シートを一次覆工面に押さえながら釘打ちして固定するため、作業が困難で作業効率が悪い。
<3>施工難度が高いため、防水シートを一度に2m幅程度しか敷設できない。このため防水シート同士の溶着頻度が高く、施工効率が悪い。
<4>施工スパンが短く、防水シートの溶着箇所が多いため、溶着箇所からの漏水リスクが高い。
<5>昨今の山岳トンネル工事では急速施工が求められており、これに応じて掘削や二次覆工などの各工程において施工の迅速化が進んでいるにもかかわらず、シート防水工がボトルネックとなって工事全体の迅速化を妨げている。
【0005】
本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決可能な防水シート敷設装置及び防水シートの敷設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような課題を解決するための本発明の防水シート敷設装置は、略半筒状の外枠を有する基台と、外枠上に長手方向に沿って並列配置した帯状の複数の膨張体と、膨張体内に送気して膨張させる送気手段と、を備え、膨張体の外側に防水シートを展開した状態で膨張体を膨張させることによって、防水シートを一次覆工面に押し付け可能であることを特徴とする。
この構成によれば、長スパンの防水シートを適切な弛み量で一括して敷設することができる。
【0007】
本発明の防水シート敷設装置は、複数の膨張体の外側を被覆する押圧シートを備えていてもよい。
この構成によれば、防水シートの展開が容易になると共に、膨張体による帯状の押し付けを面状に転換して防水シートの弛み量をより適正化することができる。
【0008】
本発明の防水シート敷設装置は、複数の膨張体を個別に膨張可能であってもよい。
この構成によれば、一次覆工面の状態に応じて膨張体の膨張高さを個別に操作することができる。
【0009】
本発明の防水シートの敷設方法は、防水シートに付着可能な帯状の付着手段をトンネルの長手方向に沿って固定する工程と、外枠上に防水シートを展開する工程と、膨張体を膨張させて防水シートを一次覆工面上の付着手段に付着させる工程と、を備えることを特徴とする。
この構成によれば、この構成によれば、長スパンの防水シートを適切な弛み量で一括して敷設することができる。
【0010】
本発明の防水シートの敷設方法は、外枠頂部の膨張体から先に膨張させてもよい。
この構成によれば、防水シートのセンター位置のずれを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0011】
以上の構成より、本発明の防水シート敷設装置及び防水シートの敷設方法は次の効果の少なくともひとつを備える。
<1>略半筒形の外枠上に並列配置した帯状のバルーンを膨張させることで、一次覆工面に対応した適切な弛み量をもって防水シートを敷設できる。このため、アーチ頂部への背面空洞の発生を防止できる。
<2>大面積の防水シートを一括して固定できるため作業効率が非常に高い。
<3>作業効率が高いため、10m超の長スパンの防水シートを一度に敷設することができる。このため、防水シート同士の溶着頻度を従来の1/5程度に減らせるため、施工効率が非常に高い。
<4>防水シートの溶着箇所を減らすことで、溶着部からの漏水リスクを低減できる。
<5>全体工程のボトルネックとなっていたシート防水工の施工効率を高めることで、全体工期を短縮して急速施工を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の防水シート敷設装置の説明図。
図2】本発明の防水シートの敷設方法の説明図。
図3】実施例2の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の防水シート敷設装置及び防水シートの敷設方法について詳細に説明する。なお「上」「下」「左」「右」等の各方位は、防水シート敷設装置の長手方向をトンネルの延長方向に沿って坑内に配置した状態における各方位を指す。
【実施例1】
【0014】
[防水シート敷設装置]
<1>全体の構成(図1)。
本発明の防水シート敷設装置1は、一次覆工後のトンネル内壁に防水シートSを敷設する装置である。
防水シート敷設装置1は、トンネル内壁に対応した形状の枠状体からなる基台10と、基台10上に配置した複数の膨張体20と、膨張体20に送気可能な送気手段30と、を少なくとも備える。
防水シート敷設装置1は、トンネル長手方向に沿って前後進可能である。
【0015】
<1.1>防水シート。
本発明の防水シート敷設装置1で敷設する防水シートSについて説明する。
本例では、防水シートSとして、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)製シートの一面に長繊維不織布を張り合わせたシート材を採用する。
本例では防水シートSの幅を10.5mと従来技術の5倍程度とし、長さは一次覆工面の一端から端までの周長に対応させる。
なお、防水シートSの構成はこれに限られず、所定の遮水性能と強度を備えれば、他の公知の各種シート材を採用してもよい。
【0016】
<2>基台。
基台10は、防水シート敷設装置1の主構造である。
本例では基台10として、トンネルの一次覆工面に対応した略半筒状の外枠12と、外枠12を支持する支持枠11と、支持枠11の下部に付設した複数の車輪13と、を少なくとも備える養生台車を採用する。
支持枠11は、形鋼を枠状に組んでなる。
外枠12は、支持枠11の外殻であって、長手方向に延伸する複数の梁材を有する。
車輪13は、支持枠11の支柱の下部に位置し、防水シート敷設装置1をトンネル長手方向に沿って進退する部材である。
但し基台10の構成はこれに限られず、要は一次覆工面に対応した形状の外枠12を有していればよい。
【0017】
<3>膨張体。
膨張体20は、防水シートSを一次覆工面に押し付けるための構造である。
本例では膨張体20として、気体で膨張する扁平長尺のバルーン体を採用する。
膨張体20の長さは外枠12の長さに対応させ、複数の膨張体20を外枠12の梁に沿って並列配置して固定する。
膨張体20は後述する送気手段30とホース等で接続し、送気手段30からの気体圧送によって主に高さ方向に膨張する。
なお、複数の膨張体20は外枠12の外周全面に配置する必要はなく、少なくともスプリングラインより上部に配置すればよい。
【0018】
<4>送気手段。
送気手段30は、膨張体20内に気体を圧送して膨張させるための構造である。
本例では、送気手段30として、基台10に搭載したコンプレッサを採用する。
送気手段30は、ホース(不図示)で各膨張体20に接続し、坑内の空気を圧送して膨張体20を個別に膨張させることができる。
なお、送気手段30はコンプレッサに限らず、ファンやブロワであってもよい。
【0019】
[防水シートの敷設方法]
<1>全体の構成。
本発明の防水シート敷設方法は、複数の帯状の付着手段Fを一次覆工面に固定する工程と、外枠上12に防水シートSを展開する工程と、膨張体20を膨張させて防水シートSを一次覆工面上の付着手段Fに付着させる工程と、を少なくとも備える。
【0020】
<1.1>付着手段。
本発明の防水シートの敷設方法で使用する付着手段Fについて説明する。
付着手段Fは、一次覆工面上に予め固定することで防水シートSの一括敷設を可能にするための部材である。
本例では、付着手段Fとして長尺帯状の面ファスナー(オス)を採用する。
防水シートSの一面には長繊維不織布が張り付けてあるから、不織布面に付着手段Fを接触させることで、不織布の繊維に面ファスナーのフック体が絡んで強力に付着する。
付着手段Fはこれに限られず、要は防水シートSの不織布面に付着してこれを一次覆工面に固定可能な手段であればよい。
【0021】
<2>付着手段の固定。
作業に適当な長さの付着手段Fを準備する。
作業台車等の上から一次覆工面に対し、トンネル長手方向に沿って付着手段Fを配置し、コンクリート釘等で固定する。
複数の付着手段Fを長手方向に打ち継いで一列とし、これを少なくともスプリングラインより上部に並列配置する。各列の間隔と固定位置は膨張体20の配置に対応させる。
付着手段Fの一列の長さは防水シートSの幅から溶着用の重ねしろを引いた長さとする。
【0022】
<3>防水シートの展開。
外枠12に配置した複数の膨張体20上に、防水シートSを展開する。
展開方法は、眼鏡巻きした防水シートSをホイストクレーンで基台10上に吊り上げて両側に下ろす方法や、基台10の片側から反対側へウインチ等で引っ張り上げる方法など、いずれを採用してもよい。
防水シートSは不織布面を上向きにして、シートの中央を基台10の中央に合わせてセンタリングする。この際、防水シートSのずれを防ぐために、防水シートSを膨張体20に仮留めするとよい。
【0023】
<4>防水シートの付着(図2)。
送気手段30を作動させて複数の膨張体20の内部に気体を同時圧送し、膨張体20を膨張させる。
すると外枠12外周の全ての膨張体20が高さ方向に膨張することで、防水シートSが一次覆工面の方向に押し広げられる。
防水シートSの不織布面が、一次覆工面上の付着手段Fに接触すると、不織布の繊維に付着手段Fのフック体が絡んで付着することで、防水シートSが付着手段Fを介して一次覆工面に強力に固定される。
本発明の防水シートの敷設方法は、防水シートSを、並列配置した帯状の膨張体20により一次覆工面に近い形状で押し付けるため、長スパンの防水シートSを適切な弛み量を確保しつつ効率的に敷設することができる。
【0024】
<5>防水シートの端部溶着。
一次覆工面から垂れ下がった防水シートSの後端部を前スパンの防水シートSの前端部と拝み合わせて溶着する。
なお、溶着は防水シートSを複数スパン敷設した後にまとめて行ってもよい。
【0025】
<6>作業の繰り返し。
1スパン分の作業が終わったら、防水シート敷設装置1を切羽側に前進させて<1>~<5>の作業を繰り返す。
【実施例2】
【0026】
[押圧シートを備える例]
複数の膨張体の外側を押圧シートで被覆した他の実施例について説明する(図3)。
複数の膨張体20の外側の、外枠12の少なくともスプリングラインより上部を略半筒形の押圧シート40で被覆する。
押圧シート40の長さは少なくとも外枠12の長さ以上とする。
押圧シート40には、内側からの押圧によって押し広げ可能な程度の可撓性と、押し広げ後も略半筒形の形状を維持可能な程度の形状保持性を兼備する素材を採用する。
本例では押圧シート40として、平滑な表面を備える樹脂製シートを採用する。
押圧シート40は平滑な表面を有するから、押圧シート40上にワイヤ等を掛け渡し、基台10の片側から反対側へ防水シートSを引っ張り上げることで、長尺の防水シートSを容易に展開することができる。
また、複数の膨張体20を膨張させると、押圧シート40が一次覆工面に近い曲率で押し広げられ、防水シートSを面状に押し付けることで、防水シートSを適正な弛み量をもって一次覆工面に敷設することができる。
【実施例3】
【0027】
[頂部の膨張体から膨張させる例]
実施例1では、複数の膨張体20を同時に膨張させたが、本例では外枠12の頂部に配置した膨張体20を最初に膨張させる。
送気手段30から頂部の膨張体20に気体を圧送する。すると防水シートSの中央部が持ち上がり、一次覆工面の頂部に設置した付着手段Fに付着する。
続いて、上方から下方へと膨張体20を順次膨張させる。
本例によれば、防水シートSの中央部を最初に一次覆工面に固定してから他の部分を固定するため、防水シートSのセンター位置のずれを防ぐことができる。
なお、頂部の膨張体20を最初に膨張させさえすれば、他の膨張体20は同時に膨張させてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 防水シート敷設装置
10 基台
11 支持枠
12 外枠
13 車輪
20 膨張体
30 送気手段
40 押圧シート
S 防水シート
F 付着手段
図1
図2
図3