IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンデン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-スクロール圧縮機 図1
  • 特許-スクロール圧縮機 図2
  • 特許-スクロール圧縮機 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20221028BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
F04C18/02 311H
F04C29/00 C
F04C29/00 D
F04C29/00 U
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018104795
(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公開番号】P2019210814
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄太
(72)【発明者】
【氏名】安藤 怜
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-201367(JP,A)
【文献】特開2017-101655(JP,A)
【文献】特開2005-291151(JP,A)
【文献】特開平08-261173(JP,A)
【文献】特開2019-056361(JP,A)
【文献】特開平09-119382(JP,A)
【文献】特開2012-149553(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105705793(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/00- 2/077;18/00-18/077
F04C 18/356-18/46;19/00-21/00
F04C 23/00-29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロールに対して旋回する可動スクロールと、
ハウジングに固定され、前記可動スクロールにおける背面に面接触し、前記可動スクロールにおける軸方向の反力を受けるスラストプレートと、を備え、
前記可動スクロールは、6000系のアルミ合金であるアルミニウム‐マグネシウム‐シリコン系合金であり、前記背面がアルマイト処理され、
前記スラストプレートは、前記可動スクロールとの接触面が樹脂コーティングされていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記樹脂コーティングでは、固体潤滑剤にポリテトラフルオロエチレンが使用され、接着剤にポリアミドイミドが使用されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記樹脂コーティングでは、固体潤滑剤にグラファイトが使用され、接着剤にポリアミドイミドが使用されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記樹脂コーティングでは、固体潤滑剤に二硫化モリブデンが使用され、接着剤にポリアミドイミドが使用されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、スクロール圧縮機において、可動スクロールの背面には軸方向の反力を受けるスラストプレートが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-82326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可動スクロールとスラストプレートとの摩擦抵抗を低減するために、可動スクロールには、例えば4000系、つまりアルミニウム‐シリコン系のアルミ合金を使用することが考えられる。一方、スラストプレートには、鋼板に樹脂コーティングを施す。しかしながら、4000系のアルミ合金は、耐摩耗性に優れたシリコンの含有率が高いため、相対的にスラストプレートにおける樹脂コーティングに摩耗が生じやすいという問題があった。
本発明の課題は、スラストプレートの耐摩耗性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るスクロール圧縮機は、
固定スクロールに対して旋回する可動スクロールと、
ハウジングに固定され、可動スクロールにおける背面に面接触し、可動スクロールにおける軸方向の反力を受けるスラストプレートと、を備え、
可動スクロールは、アルミニウム‐マグネシウム‐シリコン系合金であり、背面がアルマイト処理され、
スラストプレートは、可動スクロールとの接触面が樹脂コーティングされている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、可動スクロールには、4000系よりもシリコンの含有率が低いアルミニウム‐マグネシウム‐シリコン系合金を用い、アルマイト処理をし、スラストプレートには樹脂コーティングを行なっている。これにより、摺動抵抗が低減し、スラストプレートの耐摩耗性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】圧縮機の前後方向に沿った断面図である。
図2】比較例における樹脂コーティングの摩耗について説明した図である。
図3】実施例における樹脂コーティングの摩耗について説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
《一実施形態》
《構成》
図1は、圧縮機の前後方向に沿った断面図である。
圧縮機11は、例えばカーエアコンの冷媒回路で用いられるベルト駆動型のスクロール圧縮機であり、冷媒を吸入し、圧縮してから排出する。
圧縮機11は、前後方向に沿って前側から順に並んだ、フロントハウジング12と、センタハウジング13と、リアハウジング14と、によって気密性を保つように一体化されている。フロントハウジング12の上部には、冷媒を吸入する吸入口(図示省略)が形成され、リアハウジング14の上部には、圧縮された冷媒を排出する排出口16が形成されている。
フロントハウジング12の前側には、回転軸21が回転自在に支持されている。回転軸21の前端側には、電磁クラッチ22を介してプーリ23に連結されている。プーリ23には、例えばエンジンの動力が駆動ベルトを介して伝達される。
【0010】
センタハウジング13の後側には、固定スクロール24が形成されており、フロントハウジング12の後側からセンタハウジング13の前側にかけて、可動スクロール25が収容されている。
固定スクロール24は、センタハウジング13の後側を閉塞するように形成されており、円板状に形成された固定端板26と、この固定端板26の前面に形成された固定渦巻き27と、を備える。
可動スクロール25は、固定端板26の前側に配置されており、円板状に形成された可動端板28と、この可動端板28の後面に形成され、固定渦巻き27と噛み合う可動渦巻き29と、を備える。
【0011】
固定端板26の前面と可動端板28の後面とが対向し、固定渦巻き27と可動渦巻き29とが噛み合っている。固定渦巻き27の先端は、図示しないチップシールを介して可動端板28の後面に摺動可能に接触し、可動渦巻き29の先端は、図示しないチップシールを介して固定端板26の前面に摺動可能に接触している。固定端板26の前面、固定渦巻き27、可動端板28の後面、及び可動渦巻き29で囲まれた区画によって、冷媒を圧縮するための圧力室31が形成されている。前後方向から見ると、圧力室31は、三日月状の密閉空間となる。
【0012】
可動端板28の前面には、ボス32が形成され、回転軸21の後端には、偏心させたクランク端部33が形成され、クランク端部33がボス32に回転自在の状態で嵌め込まれている。回転軸21の回転運動は、クランク端部33によって旋回運動として可動スクロール25に伝達される。可動スクロール25は、例えばピン&ホールを介して自転が阻止され、且つ固定スクロール24に対する公転が許容されている。
固定端板26の中央には、前後方向に貫通した吐出孔(図示省略)が形成され、吐出孔は、固定端板26の後側に形成された吐出室35に連通している。固定端板26の後面には、吐出孔の後端側を開閉可能な吐出弁36が設けられている。
【0013】
固定スクロール24に対して可動スクロール25が公転すると、圧力室31は、前後方向から見て、スクロール中心に向かって変位してゆき、且つ容積が縮小してゆく。圧力室31は、スクロール外側にあるときに吸入口(図示省略)と連通して冷媒を吸入し、スクロール中心にあるときに吐出孔(図示省略)と連通して圧縮した冷媒を吐出する。吐出弁36は、吐出圧を受けるときに、吐出室35に冷媒を吐出させる。
フロントハウジング12には、フロントハウジング12に固定され、可動端板28の前面、つまり可動スクロール25の背面に面接触し、可動スクロール25における軸方向の反力を受ける円環状のスラストプレート37が設けられている。固定スクロール24に対して可動スクロール25が公転するときに、スラストプレート37に対しても可動スクロール25の可動端板28が摺動することになる。
【0014】
可動スクロール25は、6000系のアルミ合金、つまりアルミニウム‐マグネシウム‐シリコン系(Al‐Mg‐Si系)合金である。ここでは、A6061‐T6を使用している。なお、A4032では、シリコンの含有率が11.0~13.5[%]であるのに対して、A6061では、シリコンの含有率が0.4~0.8[%]である。また、少なくとも可動スクロール25の背面、つまり可動端板28の前面が、アルマイト処理(陽極酸化処理)されている。
一方、スラストプレート37は、鋼板に樹脂コーティングを施して形成されている。樹脂コーティングでは、固体潤滑剤にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が使用され、接着剤にポリアミドイミドが使用されている。もしくは、固体潤滑剤にグラファイトが使用され、接着剤にポリアミドイミドが使用されている。もしくは、固体潤滑剤に二硫化モリブデンが使用され、接着剤にポリアミドイミドが使用されている。
【0015】
《作用》
次に、一実施形態の主要な作用効果について説明する。
可動スクロール25とスラストプレート37との摩擦抵抗を低減するために、可動スクロール25には、例えば4000系、つまりアルミニウム‐シリコン系(Al‐Si系)のアルミ合金を使用することが考えられる。一方、スラストプレート37には、鋼板に樹脂コーティングを施す。しかしながら、4000系のアルミ合金は、耐摩耗性に優れたシリコンの含有率が高いため、相対的にスラストプレート37における樹脂コーティングに摩耗が生じやすいという問題があった。
【0016】
図2は、比較例における樹脂コーティングの摩耗について説明した図である。
図中の(a)は、スラストプレート37を示し、図中の(b)は、スラストプレート37の測定部位ごとの膜厚及び摩耗量を示すグラフである。スラストプレート37のうち、周方向に沿って等間隔に離れたA~Dにおいて、夫々、径方向の外側、中央、内側で、膜厚及び摩耗量を測定している。ここでは、膜厚を折れ線で示し、摩耗量を棒グラフで示してあり、スラストプレート37に対して可動スクロール25を予め定めた時間だけ摺動させる試験を行ない、試験前の膜厚を点線で示し、試験後の膜厚を実線で示している。可動スクロール25に4000系のアルミ合金を使用した場合、試験後に樹脂コーティングの膜厚が大幅に低下していることが分かり、特に荷重中心に近い径方向の内側になるほど顕著である。
【0017】
そこで本実施形態では、可動スクロール25には、4000系よりもシリコンの含有率が低い6000系のアルミ合金、つまりアルミニウム‐マグネシウム‐シリコン系(Al‐Mg‐Si系)合金を用い、アルマイト処理を施している。また、スラストプレート37には、少なくとも可動スクロール25との接触面に樹脂コーティングを行なっている。これにより、摺動抵抗が低減し、スラストプレート37の耐摩耗性が向上する。樹脂コーティングとしては、固体潤滑剤にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用し、接着剤にポリアミドイミドを使用することが望ましい。もしくは、固体潤滑剤にグラファイトを使用し、接着剤にポリアミドイミドを使用することが望ましい。もしくは、固体潤滑剤に二硫化モリブデンを使用し、接着剤にポリアミドイミドを使用することが望ましい。
図3は、実施例における樹脂コーティングの摩耗について説明した図である。
図中の(a)は、スラストプレート37を示し、図中の(b)は、スラストプレート37の測定部位ごとの膜厚及び摩耗量を示すグラフである。比較例と同様の試験を行なっているが、可動スクロール25に6000系のアルミ合金を使用し、アルマイト処理を施した場合、樹脂コーティングの摩耗量が大幅に低減し、良好な膜厚を維持することができている。
【0018】
以上、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく実施形態の改変は、当業者にとって自明のことである。
【符号の説明】
【0019】
11…圧縮機、12…フロントハウジング、13…センタハウジング、14…リアハウジング、16…排出口、21…回転軸、22…電磁クラッチ、23…プーリ、24…固定スクロール、25…可動スクロール、26…固定端板、27…固定渦巻き、28…可動端板、29…可動渦巻き、31…圧力室、32…ボス、33…クランク端部、35…吐出室、36…吐出弁、37…スラストプレート
図1
図2
図3