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特許7166102造形データ作成装置、造形データ作成装置用プログラム、造形データ作成方法および造形方法
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  • 特許-造形データ作成装置、造形データ作成装置用プログラム、造形データ作成方法および造形方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】造形データ作成装置、造形データ作成装置用プログラム、造形データ作成方法および造形方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20221028BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20221028BHJP
   B29C 64/386 20170101ALI20221028BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20221028BHJP
   G06F 113/10 20200101ALN20221028BHJP
【FI】
G06F30/10 100
G06F30/23
B29C64/386
B33Y50/00
G06F113:10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018152556
(22)【出願日】2018-08-14
(65)【公開番号】P2020027491
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】只野 智史
(72)【発明者】
【氏名】日野 武久
(72)【発明者】
【氏名】中谷 祐二郎
(72)【発明者】
【氏名】辻 大輔
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-175404(JP,A)
【文献】特開2000-194881(JP,A)
【文献】特開2017-161981(JP,A)
【文献】特開2009-107244(JP,A)
【文献】特開2018-001725(JP,A)
【文献】特開2017-205975(JP,A)
【文献】特開2017-077671(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0320771(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
B29C 64/00 -64/40
B33Y 50/00 -50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形により製作する構造物の形状に関する構造物形状データが入力され、入力された前記構造物形状データを有限要素に分割し第1の要素データを作成する有限要素構築部と、
前記有限要素構築部により作成された第1の要素データに、造形時に生じる変位の逆変位を与え、第2の要素データを作成する逆変位付与部と、
前記逆変位付与部にて作成された第2の要素データのうち前記構造物の表面に関する情報である第3の要素データを出力する表面情報出力部と、
を有し、
前記有限要素構築部は、
入力された前記構造物形状データに基づき前記構造物の表面形状を有限要素に分割し表面要素を作成する表面要素構築部と、
入力された前記構造物形状データに基づき前記構造物の立体形状をボクセル型の有限要素に分割しボクセル要素を作成するボクセル要素構築部と、
前記表面要素構築部により作成された前記表面要素と、前記ボクセル要素構築部により作成された前記ボクセル要素を重ね合わせ重合要素を作成し、前記第1の要素データとする要素重合部と、
を有する積層造形物の造形データ作成装置。
【請求項2】
前記表面要素構築部は、4節点四角形要素または3節点三角形要素にて前記表面要素を作成し、
前記ボクセル要素構築部は、8節点6面体要素にて前記ボクセル要素を作成する、
請求項に記載の造形データ作成装置。
【請求項3】
前記逆変位付与部は、
前記構造物のひずみに関するデータである固有ひずみデータに基づき造形時に生じる変位に対し逆変位となる固有ひずみマトリクスを作成する固有ひずみデータ変換部と、
前記有限要素構築部により作成された前記第1の要素データおよび前記固有ひずみデータ変換部により作成された前記固有ひずみマトリクスに基づき、固有ひずみ法解析を行い前記第2の要素データを作成する固有ひずみ法解析部と、
を有する、
請求項1又は2に記載の造形データ作成装置。
【請求項4】
前記逆変位付与部は、
造形時に生じる変位を実験によって求める変位評価部を有する、
請求項1又は2に記載の造形データ作成装置。
【請求項5】
入力された、積層造形により製作する構造物の形状に関する構造物形状データを有限要素に分割し第1の要素データを作成する有限要素構築ステップと、
前記有限要素構築ステップにより作成された第1の要素データに、造形時に生じる変位の逆変位を与え、第2の要素データを作成する逆変位付与ステップと、
前記逆変位付与ステップにて作成された第2の要素データのうち前記構造物の表面に関する情報である第3の要素データを出力する表面情報出力ステップと、
を有し、
前記有限要素構築ステップは、
入力された前記構造物形状データに基づき前記構造物の表面形状を有限要素に分割し表
面要素を作成する表面要素構築ステップと、
入力された前記構造物形状データに基づき前記構造物の立体形状をボクセル型の有限要素に分割しボクセル要素を作成するボクセル要素構築ステップと、
前記表面要素構築ステップにより作成された前記表面要素と、前記ボクセル要素構築ステップにより作成された前記ボクセル要素を重ね合わせ重合要素を作成し、前記第1の要素データとする要素重合ステップと、
を有する積層造形物の造形データ作成装置用プログラム。
【請求項6】
前記表面要素構築ステップは、4節点四角形要素または3節点三角形要素にて前記表面要素を作成し、
前記ボクセル要素構築ステップは、8節点6面体要素にて前記ボクセル要素を作成する、
請求項に記載の造形データ作成装置用プログラム。
【請求項7】
前記逆変位付与ステップは、
前記構造物のひずみに関するデータである固有ひずみデータに基づき造形時に生じる変位に対し逆変位となる固有ひずみマトリクスを作成する固有ひずみデータ変換ステップと、
前記有限要素構築ステップにより作成された前記第1の要素データおよび前記固有ひずみデータ変換ステップにより作成された前記固有ひずみマトリクスに基づき、固有ひずみ法解析を行い前記第2の要素データを作成する固有ひずみ法解析ステップと、
を有する、
請求項5又は6に記載の造形データ作成装置用プログラム。
【請求項8】
前記逆変位付与ステップは、
造形時に生じる変位を実験によって求める変位評価ステップを有する、
請求項5又は6に記載の造形データ作成装置用プログラム。
【請求項9】
入力された、積層造形により製作する構造物の形状に関する構造物形状データを有限要素に分割し第1の要素データを作成する有限要素構築手順と、
前記有限要素構築手順により作成された第1の要素データに、造形時に生じる変位の逆変位を与え、第2の要素データを作成する逆変位付与手順と、
前記逆変位付与手順にて作成された第2の要素データのうち前記構造物の表面に関する情報である第3の要素データを出力する表面情報出力手順と、
を有し、
前記有限要素構築手順は、
入力された前記構造物形状データに基づき前記構造物の表面形状を有限要素に分割し表面要素を作成する表面要素構築手順と、
入力された前記構造物形状データに基づき前記構造物の立体形状をボクセル型の有限要素に分割しボクセル要素を作成するボクセル要素構築手順と、
前記表面要素構築手順により作成された前記表面要素と、前記ボクセル要素構築手順により作成された前記ボクセル要素を重ね合わせ重合要素を作成し、前記第1の要素データとする要素重合手順と、
を有する積層造形物の造形データ作成方法。
【請求項10】
前記表面要素構築手順は、4節点四角形要素または3節点三角形要素にて前記表面要素を作成し、
前記ボクセル要素構築手順は、8節点6面体要素にて前記ボクセル要素を作成する、
請求項に記載の造形データ作成方法。
【請求項11】
前記逆変位付与手順は、
前記構造物のひずみに関するデータである固有ひずみデータに基づき造形時に生じる変位に対し逆変位となる固有ひずみマトリクスを作成する固有ひずみデータ変換手順と、
前記有限要素構築手順により作成された前記第1の要素データおよび前記固有ひずみデータ変換手順により作成された前記固有ひずみマトリクスに基づき、固有ひずみ法解析を行い前記第2の要素データを作成する固有ひずみ法解析手順と、
を有する、
請求項9又は10に記載の造形データ作成方法。
【請求項12】
前記逆変位付与手順は、
造形時に生じる変位を実験によって求める変位評価手順を有する、
請求項9又は10に記載の造形データ作成方法。
【請求項13】
入力された、積層造形により製作する構造物の形状に関する構造物形状データを有限要素に分割し第1の要素データを作成する有限要素構築手順と、
前記有限要素構築手順により作成された第1の要素データに、造形時に生じる変位の逆変位を与え、第2の要素データを作成する逆変位付与手順と、
前記逆変位付与手順にて作成された第2の要素データのうち前記構造物の表面に関する情報である第3の要素データを出力する表面情報出力手順と、
前記表面情報出力手順により出力された第3の要素データに基づき積層造形により前記構造物を造形する手順と、
を有し、
前記有限要素構築手順は、
入力された前記構造物形状データに基づき前記構造物の表面形状を有限要素に分割し表面要素を作成する表面要素構築手順と、
入力された前記構造物形状データに基づき前記構造物の立体形状をボクセル型の有限要素に分割しボクセル要素を作成するボクセル要素構築手順と、
前記表面要素構築手順により作成された前記表面要素と、前記ボクセル要素構築手順により作成された前記ボクセル要素を重ね合わせ重合要素を作成し、前記第1の要素データとする要素重合手順と、
を有する積層造形物の造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、金属の三次元積層造形により構造物を造形するための造形データ作成装置、造形データ作成装置用プログラム、造形データ作成方法および造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の三次元積層造形には、原料として金属粉末や金属ワイヤが用いられる。これらの金属粉末やワイヤ等の原料が、電子ビームやレーザ光による熱により選択的に溶融凝固され、構造物が造形される。溶融凝固の際には熱ひずみや変態ひずみ、金属流動などが発生するため、造形物は変形する。積層造形によって発生する変形を解析する解析装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-161981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三次元積層造形は、従来の製造プロセスでは困難であったニアネット製造を可能にすることができる、製造コストを削減することができる、製品機能を向上させることができる等の利点を有する。
【0005】
構造物全体が三次元積層造形にかかる原料の溶融凝固プロセスにより造形される。
【0006】
構造物が複雑な形状である場合、変形が構造物全体に発生する。構造物の変形は、寸法精度等の造形品質を劣化させる。
【0007】
従来から、三次元積層造形による変形を軽減するために、製造対象である構造物に強固なサポートを取り付けて変形を抑制する手段、変形を予測し予測量に応じて製造対象である構造物の修正を行う手段等が用いられている。
【0008】
しかしながら、これらの手段では、三次元積層造形における構造物の変形が、効率的且つ精度よく軽減されないとの問題点があった。強固なサポートを取り付ける場合には、サポート除去工程や表面研磨工程などの後工程が煩雑なものになり、変形を予測する場合には、予測結果を造形データに精度良く反映する手法が無い、という問題があった。
【0009】
本実施形態は、製造対象である構造物の、三次元積層造形における変形を見込んだ造形データ作成装置、造形データ作成装置用プログラム、造形データ作成方法および造形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態の造形データ作成装置は次のような構成を有することを特徴とする。
(1)積層造形により製作する構造物の形状に関する構造物形状データが入力され、入力された構造物形状データを有限要素に分割し第1の要素データを作成する有限要素構築部。
(2)前記有限要素構築部により作成された第1の要素データに、造形時に生じる変位の逆変位を与え第2の要素データを作成する逆変位付与部。
(3)前記逆変位付与部にて作成された第2の要素データのうち前記構造物の表面に関する情報である第3の要素データを出力する表面情報出力部。
【0011】
また、上記に対応する特徴を有する造形データ作成装置用プログラム、造形データ作成方法、造形方法も本実施形態の一態様である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態にかかる造形データ作成装置を示すブロック図
図2】第1実施形態にかかる造形データ作成装置用プログラムのフローを示す図
図3】第1実施形態にかかる造形データの作成プロセスを説明する図
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1を参照して本実施形態の一例として、造形データ作成装置1について説明する。造形データ作成装置1は、コンピュータ等により構成された装置である。造形データ作成装置1は、製造対象である構造物の製造を行う製造ラインが配置された工場等に設置される。
【0014】
(造形データ作成装置1の全体構成)
本造形データ作成装置1は、入力部2、有限要素構築部3、逆変位付与部4、表面情報出力部5を有する。造形データ作成装置1の各部は、コンピュータ内の演算部または、ソフトウェアモジュールにより構成される。また、造形データ作成装置1の各部は、個別のマイクロコンピュータやマイクロコンピュータチップまたはハードウェアにより実現されていてもよい。
【0015】
造形データ作成装置1は、製造対象である構造物の形状に関する構造物形状データが入力され、有限要素構築部3にて入力された構造物形状データを有限要素に分割し第1の要素データを作成する。また、造形データ作成装置1は、有限要素構築部3により作成された第1の要素データに、造形時に生じる変位の逆変位を与え、第2の要素データを逆変位付与部4にて作成する。造形データ作成装置1は、逆変位付与部4にて作成された第2の要素データのうち構造物の表面に関する情報である第3の要素データを表面情報出力部5にて出力する。
【0016】
(入力部2)
入力部2は、インターネットやイントラネット等の通信回線との通信インタフェース、USBメモリやハードディスク等の外部メモリインタフェースまたは、キーボード、マウス、タッチパネル等のマンマシンインタフェースにより構成される。入力部2は、積層造形により製作する製造対象である構造物の形状に関する構造物形状データが入力される。
【0017】
構造物の形状に関する構造物形状データは、通信電文、外部メモリに記憶されたデータ、または作業者によるマンマシンインタフェースの操作により入力される。入力部2は、有限要素構築部3に接続される。入力部2は、構造物形状データを有限要素構築部3に出力する。
【0018】
(有限要素構築部3)
有限要素構築部3は、表面要素構築部31、ボクセル要素構築部32、要素重合部33により構成される。有限要素構築部3の表面要素構築部31、ボクセル要素構築部32、要素重合部33は、コンピュータ内の演算部または、ソフトウェアモジュールにより構成される。また、有限要素構築部3の表面要素構築部31、ボクセル要素構築部32、要素重合部33は、個別のマイクロコンピュータやマイクロコンピュータチップまたはハードウェアにより実現されていてもよい。
【0019】
有限要素構築部3は、製造対象である構造物の形状に関する構造物形状データが入力され、入力された構造物形状データを有限要素に分割し第1の要素データを作成し、逆変位付与部4に出力する。
【0020】
表面要素構築部31は、入力側が入力部2に、出力側が要素重合部33に接続される。表面要素構築部31は、構造物形状データを入力部2から受信し、製造対象である構造物の表面形状を有限要素に分割し表面要素を作成する。表面要素構築部31は、入力された構造物形状データの外表面データに基づき表面要素を構築する。表面要素は4節点四角形要素にて構成されることが望ましい。表面要素は4節点四角形要素にて構成されるものに限られない。作成された表面要素は、要素重合部33に出力される。
【0021】
ボクセル要素構築部32は、入力側が入力部2に、出力側が要素重合部33に接続される。ボクセル要素構築部32は、構造物形状データを入力部2から受信し、製造対象である構造物の立体形状全体をボクセル型の有限要素に分割しボクセル要素を作成する。ボクセル要素構築部32は、入力された構造物形状データの立体データに基づきボクセル要素を構築する。
【0022】
ボクセル要素は、製造対象である構造物の表面部分を含む部分においても作成される。ボクセル要素は8節点6面体要素にて構成されることが望ましい。ボクセル要素は8節点6面体要素にて構成されるものに限られない。作成されたボクセル要素は、要素重合部33に出力される。
【0023】
要素重合部33は、入力側が表面要素構築部31およびボクセル要素構築部32に、出力側が逆変位付与部4に接続される。要素重合部33は、表面要素構築部31により作成された表面要素と、ボクセル要素構築部32により作成されたボクセル要素を重ね合わせ重合要素を作成する。重合要素は、表面要素を含むボクセル要素において、表面要素の節点とボクセル要素の辺または節点が連結され作成される。作成された重合要素は、第1の要素データとされる。第1の要素データは、逆変位付与部4に出力される。
【0024】
(逆変位付与部4)
逆変位付与部4は、固有ひずみデータ記憶部41、固有ひずみデータ変換部42、固有ひずみ法解析部43により構成される。逆変位付与部4の固有ひずみデータ変換部42、固有ひずみ法解析部43は、コンピュータ内の演算部または、ソフトウェアモジュールにより構成される。また、逆変位付与部4の固有ひずみデータ変換部42、固有ひずみ法解析部43は、個別のマイクロコンピュータやマイクロコンピュータチップまたはハードウェアにより実現されていてもよい。
【0025】
逆変位付与部4は、入力された有限要素構築部3により作成された第1の要素データに、造形時に生じる変位の逆変位を与え、第2の要素データを作成し、表面情報出力部5に出力する。
【0026】
固有ひずみデータ記憶部41は、半導体メモリやハードディスクのような記憶媒体にて構成される。固有ひずみデータ記憶部41は、固有ひずみデータ変換部42に接続される。固有ひずみデータ記憶部41は、製造対象である構造物のひずみに関するデータである固有ひずみデータを記憶する。固有ひずみデータは、製造対象である構造物のひずみに関する固有ひずみ値を含むデータである。記憶された固有ひずみデータは、固有ひずみデータ変換部42に出力される。
【0027】
固有ひずみ値は、造形条件や材料物性値などから算出される。または、固有ひずみ値は、熱弾塑性解析にて算出される。固有ひずみ値の算出に用いられる造形条件は、例えば、熱源の出力、熱源の種類、ビームプロファイル、走査速度、走査シーケンス、ラインオフセット又は予熱条件などである。
【0028】
固有ひずみ値の算出に用いられる材料物性値は、例えば、ヤング率、耐力、線膨張係数などの材料の機械的物性値、熱伝導率、比熱などの熱物性値等である。固有ひずみデータは、入力部2から入力される。または、固有ひずみデータは、外部の固有ひずみデータベースなどから通信にて入力されるものであってもよい。
【0029】
固有ひずみデータ変換部42は、入力側が固有ひずみデータ記憶部41に、出力側が固有ひずみ法解析部43に接続される。固有ひずみデータ変換部42は、固有ひずみデータを固有ひずみデータ記憶部41から受信し、構造物のひずみに関するデータである固有ひずみデータに基づき造形時に生じる変位に対し逆変位となる固有ひずみマトリクスを作成する。
【0030】
例えば、固有ひずみデータ変換部42は、固有ひずみデータ記憶部41からから受信した固有ひずみ値のマトリクス成分にマイナスを乗算し、固有ひずみマトリクスを作成する。作成された固有ひずみマトリクスは、固有ひずみ法解析部43に出力される。
【0031】
固有ひずみ法解析部43は、入力側が固有ひずみデータ変換部42に、出力側が表面情報出力部5に接続される。固有ひずみ法解析部43は、有限要素構築部3により作成された第1の要素データおよび固有ひずみデータ変換部42により作成された固有ひずみマトリクスに基づき、固有ひずみ法解析を行い第2の要素データを作成する。
【0032】
固有ひずみ法解析部43は、有限要素構築部3の要素重合部33から有限要素法解析モデルにより構成された第1の要素データと、固有ひずみデータ変換部42から固有ひずみマトリクスを受信し、固有ひずみ法による変形解析、応力解析を行う。
【0033】
固有ひずみ法は、固有ひずみをボクセル要素に付与した際の節点変位と残留応力を節点荷重や剛性マトリクスの計算を経て求めるものである。固有ひずみ法解析部43では、要素のアクティブ状態を切り替えることもできる。固有ひずみ法解析部43により、未造形部は非アクティブ要素とされ、熱源が通過した領域はアクティブ要素とされ固有ひずみマトリクスに基づく固有ひずみが入力され、実際の積層造形プロセスを再現した解析が行われる。固有ひずみ法解析により作成された第2の要素データは、表面情報出力部5に出力される。
【0034】
(表面情報出力部5)
表面情報出力部5は、インターネットやイントラネット等の通信回線との通信インタフェース、USBメモリやハードディスク等の外部メモリインタフェース、表示装置、プリンタにより構成される。表面情報出力部5は、入力側が逆変位付与部4の固有ひずみ法解析部43に接続される。表面情報出力部5は、逆変位付与部4にて作成された第2の要素データのうち製造対象である構造物の表面に関する情報である第3の要素データを出力する。
【0035】
製造対象である構造物の表面に関する情報である第3の要素データは、インターネットやイントラネット等の通信回線に対応した通信電文、USBメモリやハードディスク等の外部メモリに対応した形式を有する電子データ、表示、印刷により出力される。表面情報出力部5は、製造対象である構造物の表面に関する情報である第3の要素データを、積層造形により構造物を造形する手順にて利用可能な形式にて出力する。
【0036】
以上が、造形データ作成装置1の構成である。作業者は、表面情報出力部5から出力された第3の要素データに基づき、積層造形により構造物を造形する。
【0037】
[1-2.作用]
次に、図1~3に基づき本実施形態の造形データ作成装置1の動作の概要を説明する。図2に示す手順により製造対象である構造物は造形される。図2は、造形データ作成装置1用プログラムのフロー、造形データ作成方法にかかる手順、造形方法にかかる手順を示す。
【0038】
造形データ作成装置1により、入力された製造対象である構造物の形状に関する構造物形状データが有限要素に分割され有限要素構築部3にて第1の要素データが作成され、有限要素構築部3により作成された第1の要素データに、造形時に生じる変位の逆変位が与えられ逆変位付与部4にて第2の要素データが作成され、逆変位付与部4にて作成された第2の要素データのうち構造物の表面に関する情報である第3の要素データが表面情報出力部5にて出力される。表面情報出力手順5により出力された第3の要素データに基づき積層造形により製造対象である構造物が造形される。
【0039】
(ステップS01: 構造物形状データが入力される)
最初に、造形データ作成装置1の入力部2に、構造物形状データが入力される。構造物形状データは、入力部2を構成するインターネットやイントラネット等の通信回線との通信インタフェース、USBメモリやハードディスク等の外部メモリインタフェースまたは、キーボード、マウス、タッチパネル等のマンマシンインタフェースから、作業者により入力される。
【0040】
構造物の形状に関する構造物形状データは、通信電文、外部メモリに記憶されたデータ、または作業者によるマンマシンインタフェースの操作により入力される。構造物形状データは、積層造形により製作する製造対象である構造物の形状に関するデータである。構造物形状データは、図3(a)に示すようなデータが積層されて構成される。入力部2に入力された構造物形状データは、有限要素構築部3の表面要素構築部31およびボクセル要素構築部32に出力される。
【0041】
(ステップS02: 表面要素構築部31により表面要素を作成する)
次に、造形データ作成装置1は、有限要素構築部3の表面要素構築部31により、表面要素を作成する。表面要素構築部31は、構造物形状データを入力部2から受信し、製造対象である構造物の表面形状を有限要素に分割し、図3(b)に示すような表面要素を作成する。表面要素構築部31は、入力された構造物形状データの外表面データに基づき表面要素を構築する。表面要素は4節点四角形要素にて構成されることが望ましい。表面要素構築部31により作成された表面要素は、要素重合部33に出力される。
【0042】
(ステップS03: ボクセル要素構築部32によりボクセル要素を作成する)
次に、造形データ作成装置1は、有限要素構築部3のボクセル要素構築部32により、ボクセル要素を作成する。ボクセル要素構築部32は、構造物形状データを入力部2から受信し、製造対象である構造物の立体形状全体をボクセル型の有限要素に分割し、図3(c)に示すようなボクセル要素を作成する。ボクセル要素構築部32は、入力された構造物形状データの立体データに基づきボクセル要素を構築する。
【0043】
ボクセル要素は、製造対象である構造物の表面部分を含む部分においても作成される。ボクセル要素は8節点6面体要素にて構成されることが望ましい。ボクセル要素構築部32により作成されたボクセル要素は、要素重合部33に出力される。
【0044】
(ステップS04: 要素重合部33により第1の要素データを作成する)
次に、造形データ作成装置1は、有限要素構築部3の要素重合部33により、第1の要素データを作成する。要素重合部33は、表面要素構築部31により作成された表面要素と、ボクセル要素構築部32により作成されたボクセル要素を重ね合わせ、図3(d)に示すような重合要素を作成する。重合要素は、表面要素を含むボクセル要素において、表面要素の節点とボクセル要素の辺または節点が連結され作成される。作成された重合要素は、第1の要素データとされる。作成された第1の要素データは、逆変位付与部4の固有ひずみ法解析部43に出力される。
【0045】
(ステップS05: 固有ひずみデータ変換部42により固有ひずみマトリクスを作成する)
次に、造形データ作成装置1は、逆変位付与部4の固有ひずみデータ変換部42により、固有ひずみマトリクスを作成する。固有ひずみデータ変換部42は、固有ひずみデータを固有ひずみデータ記憶部41から受信し、構造物のひずみに関するデータである固有ひずみデータに基づき、造形時に生じる変位に対し逆変位となる固有ひずみマトリクスを作成する。
【0046】
固有ひずみデータは、固有ひずみデータ記憶部41に記憶されている。固有ひずみデータは、製造対象である構造物のひずみに関する固有ひずみ値を含むデータである。固有ひずみ値は、造形条件や材料物性値などから算出される。または、固有ひずみ値は、熱弾塑性解析にて算出される。固有ひずみ値の算出に用いられる造形条件は、例えば、熱源の出力、熱源の種類、ビームプロファイル、走査速度、走査シーケンス、ラインオフセット又は予熱条件などである。
【0047】
固有ひずみ値の算出に用いられる材料物性値は、例えば、ヤング率、耐力、線膨張係数などの材料の機械的物性値、熱伝導率、比熱などの熱物性値等である。固有ひずみデータは、入力部2から入力される。または、固有ひずみデータは、外部の固有ひずみデータベースなどから通信にて入力されるものであってもよい。
【0048】
固有ひずみデータ変換部42は、例えば、固有ひずみデータ記憶部41からから受信した固有ひずみ値のマトリクス成分にマイナスを乗算し、固有ひずみマトリクスを作成する。固有ひずみデータ変換部42により作成された固有ひずみマトリクスは、固有ひずみ法解析部43に出力される。
【0049】
(ステップS06: 固有ひずみ法解析部43により第2の要素データを作成する)
次に、造形データ作成装置1は、逆変位付与部4の固有ひずみ法解析部43により、第2の要素データを作成する。固有ひずみ法解析部43は、有限要素構築部3の要素重合部33により作成された第1の要素データおよび固有ひずみデータ変換部42により作成された固有ひずみマトリクスに基づき、固有ひずみ法解析を行い第2の要素データを作成する。
【0050】
固有ひずみ法解析部43は、有限要素構築部3の要素重合部33から有限要素法解析モデルにより構成された第1の要素データと、固有ひずみデータ変換部42から固有ひずみマトリクスを受信し、固有ひずみ法による変形解析、応力解析を行う。
【0051】
固有ひずみ法は、図3(e)に示すように固有ひずみをボクセル要素に付与した際の節点変位と残留応力を節点荷重や剛性マトリクスの計算を経て求めるものである。固有ひずみ法解析部43では、要素のアクティブ状態が切り替えられる。固有ひずみ法解析部43により、未造形部は非アクティブ要素とされ、熱源が通過した領域はアクティブ要素とされ固有ひずみマトリクスに基づく固有ひずみが入力され、実際の積層造形プロセスを再現した解析が行われる。固有ひずみ法解析部43により作成された第2の要素データは、表面情報出力部5に出力される。
【0052】
(ステップS07: 表面情報出力部5により第3の要素データを出力する)
次に、造形データ作成装置1は、表面情報出力部5により第3の要素データを出力する。表面情報出力部5は、逆変位付与部4にて作成された第2の要素データのうち製造対象である構造物の表面に関する情報である第3の要素データを出力する。
【0053】
製造対象である構造物の表面に関する情報である第3の要素データは、インターネットやイントラネット等の通信回線に対応した通信電文、USBメモリやハードディスク等の外部メモリに対応した形式を有する電子データ、表示、印刷により出力される。表面情報出力部5は、製造対象である構造物の表面に関する情報である第3の要素データを、積層造形により構造物を造形する手順にて利用可能な形式にて出力する。
【0054】
作業者は、表面情報出力手順5により出力された第3の要素データに基づき、積層造形により構造物を造形する。以上が、製造対象である構造物が、造形される手順である。また、上記は、造形データ作成装置1用プログラムのフロー、造形データ作成方法にかかる手順、造形方法にかかる手順である。
【0055】
[1-3.効果]
(1)本実施形態によれば、積層造形物の造形データ作成装置1は、積層造形により製作する構造物の形状に関する構造物形状データが入力され、入力された構造物形状データを有限要素に分割し第1の要素データを作成する有限要素構築部3と、有限要素構築部3により作成された第1の要素データに、造形時に生じる変位の逆変位を与え、第2の要素データを作成する逆変位付与部4と、逆変位付与部4にて作成された第2の要素データのうち構造物の表面に関する情報である第3の要素データを出力する表面情報出力部5と、を有するので、製造対象である構造物の、三次元積層造形における変形を軽減することができる造形データ作成装置、造形データ作成装置用プログラム、造形データ作成方法および造形方法を提供することができる。
【0056】
本実施形態により、予測される変形量の逆変形を造形形状データに反映することができ、製造対象である構造物の、三次元積層造形における変形を軽減することができる。
【0057】
(2)本実施形態によれば、有限要素構築部3は、入力された構造物形状データに基づき構造物の表面形状を有限要素に分割し表面要素を作成する表面要素構築部31と、入力された構造物形状データに基づき構造物の立体形状をボクセル型の有限要素に分割しボクセル要素を作成するボクセル要素構築部32と、表面要素構築部31により作成された表面要素と、ボクセル要素構築部32により作成されたボクセル要素を重ね合わせ重合要素を作成し、第1の要素データとする要素重合部33と、を有するので、製造対象である構造物の、三次元積層造形における変形を軽減することができる造形データ作成装置、造形データ作成装置用プログラム、造形データ作成方法および造形方法を提供することができる。
【0058】
従来技術では、ボクセル要素である8節点6面体要素を有限要素とした有限要素法解析により、製造対象である構造物の造形後の全体変形を予測していた。このため、製造対象である構造物がボクセル要素と一致しない形状を有している場合、精度よく変形を解析することができなかった。その結果、製造対象である構造物の、三次元積層造形における変形を精度よく軽減することができなかった。
【0059】
本実施形態によれば、構造物の表面形状を有限要素に分割し表面要素を作成する表面要素構築部31を有し、この表面要素とボクセル要素が要素重合部33により重ね合わせられるので、製造対象である構造物がボクセル要素と一致しない形状を有している場合でも、表面要素により製造対象である構造物を有限要素化することができる。その結果、より精度よく変形を解析することができる。その結果、製造対象である構造物の、三次元積層造形における変形をより精度よく軽減することができる。
【0060】
(3)本実施形態によれば、表面要素構築部31は、4節点四角形要素にて表面要素を作成し、ボクセル要素構築部32は、8節点6面体要素にてボクセル要素を作成するので、より精度よくモデル構築を行うことができ、より精度よく変形を解析することができる。その結果、製造対象である構造物の、三次元積層造形における変形をより精度よく軽減することができる。
【0061】
(4)本実施形態によれば、逆変位付与部4は、構造物のひずみに関するデータである固有ひずみデータに基づき造形時に生じる変位に対し逆変位となる固有ひずみマトリクスを作成する固有ひずみデータ変換部42と、有限要素構築部3により作成された第1の要素データおよび固有ひずみデータ変換部42により作成された固有ひずみマトリクスに基づき、固有ひずみ法解析を行い第2の要素データを作成する固有ひずみ法解析部43と、を有するので、より精度よく変形を解析することができる。その結果、製造対象である構造物の、三次元積層造形における変形をより精度よく軽減することができる。
【0062】
[他の実施形態]
変形例を含めた実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。以下は、その一例である。
【0063】
(1)上記実施形態では、ボクセル要素構築部32により、製造対象である構造物の立体形状をボクセル型の有限要素に分割しボクセル要素を作成するものとした。作成されるボクセル要素は、製造対象である構造物の立体形状全体にわたり、同等の大きさのボクセル型の有限要素に分解して作成されることが望ましい。しかしながら、作成されるボクセル要素は、表面要素と共通となる領域を小さなボクセル型の有限要素に分解し、表面要素と共通となる領域を除く領域を大きなボクセル型の有限要素に分解して作成されるようにしてもよい。このようにすることで、ボクセル要素のデータ容量を削減することができる。
【符号の説明】
【0064】
1・・・造形データ作成装置
2・・・入力部
3・・・有限要素構築部
4・・・逆変位付与部
5・・・表面情報出力部
31・・・表面要素構築部
32・・・ボクセル要素構築部
33・・・要素重合部
41・・・固有ひずみデータ記憶部
42・・・固有ひずみデータ変換部
43・・・固有ひずみ法解析部

図1
図2
図3