IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セーレン株式会社の特許一覧

特許7166104インクジェットインクセット、プリント物およびプリント物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】インクジェットインクセット、プリント物およびプリント物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/40 20140101AFI20221028BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20221028BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221028BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
C09D11/40
C09D11/322
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 100
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018155812
(22)【出願日】2018-08-22
(65)【公開番号】P2020029510
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 明広
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-080263(JP,A)
【文献】特開2013-049813(JP,A)
【文献】特開2009-263547(JP,A)
【文献】特開2009-215385(JP,A)
【文献】特表2013-520532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
C09C 1/00- 3/12
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄色色材を含む黄色インク、赤色色材を含む赤色インク、青色色材を含む青色インクを含み、
前記黄色色材、前記赤色色材、および、前記青色色材は、無機顔料であり、
前記黄色インク、前記赤色インク、および、前記青色インクは、それぞれのインクを塗布した場合に形成される塗膜の波長780~2100nmにおける平均反射率が40%以上であり、
黒色色材を含む黒色インクをさらに含み、
前記黒色インクは、前記黒色インクを塗布して形成される塗膜の波長780~2100nmにおける平均反射率が40%以上であり、
前記黒色色材は、ビスマスマンガン系顔料およびイットリウムマンガン系顔料のうち、少なくとも1つを含む、インクジェットインクセット。
【請求項2】
前記黄色色材、前記赤色色材、および、前記青色色材は、平均粒子径が100~1000nmである、請求項1記載のインクジェットインクセット。
【請求項3】
前記黄色インク、前記赤色インク、および、前記青色インクは、それぞれバインダー樹脂を含み、
前記バインダー樹脂は、フッ素樹脂である、請求項1または2記載のインクジェットインクセット。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載のインクジェットインクセットのインクが付与された、インクジェットプリント物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のインクジェットインクセットを用いて、インクジェット方式により基材にインクを付与する印刷工程と、
前記基材を乾燥させる乾燥工程とを含む、プリント物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインクセット、プリント物およびプリント物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、優れた遮熱性および耐候性を示す塗膜を形成し得るインクジェットインクセット、プリント物およびプリント物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の部材の表面に塗装を施すことにより、耐候性等の特性を付与する検討が行われている。たとえば、建築材の外装部材は、屋外に設置されるため、遮熱性や耐候性が求められる。そこで、建築材の外装部材等に、遮熱性や耐候性を付与するための印刷インキ(塗料組成物)が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-185782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、得られる塗膜に充分な耐候性が付与されない。そのため、建築材の外装部材等に付与される塗料組成物としては不充分である。ところで、近年、インクジェット装置を用いてインクジェット方式によって塗膜を形成するためのインクジェットインクが開発されている。しかしながら、これまでのインクジェットインクもまた、充分な遮熱性を維持しつつ、優れた耐候性を示す塗膜を形成することができない。
【0005】
本発明は、このような従来の発明に鑑みてなされたものであり、優れた遮熱性および耐候性を示す塗膜を形成し得るインクジェットインクセット、プリント物およびプリント物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明のインクジェットインクセット、プリント物およびプリント物の製造方法には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)黄色色材を含む黄色インク、赤色色材を含む赤色インク、青色色材を含む青色インクを含み、前記黄色色材、前記赤色色材、および、前記青色色材は、無機顔料であり、前記黄色インク、前記赤色インク、および、前記青色インクは、それぞれのインクを塗布した場合に形成される塗膜の波長780~2100nmにおける平均反射率が40%以上である、インクジェットインクセット。
【0008】
このような構成によれば、インクジェットインクセットは、塗膜形成時の平均反射率が40%以上となるよう、所定の色材を含む各色インクを含む。これにより、得られる塗膜は、優れた遮熱性を示す。また、それぞれの色材は、無機顔料を含む。このような無機顔料を含むそれぞれのインクが用いられることにより、得られる塗膜は、優れた耐候性を示す。
【0009】
(2)前記黄色色材、前記赤色色材、および、前記青色色材は、平均粒子径が100~1000nmである、(1)記載のインクジェットインクセット。
【0010】
このような構成によれば、インクジェットインクセットは、基材にインクを付与する際にノズルに詰まりにくい。また、得られる塗膜は、より優れた耐候性を示す。
【0011】
(3)黒色色材を含む黒色インクをさらに含み、前記黒色インクは、前記黒色インクを塗布して形成される塗膜の波長780~2100nmにおける平均反射率が40%以上であり、前記黒色色材は、ビスマスマンガン系顔料およびイットリウムマンガン系顔料のうち、少なくとも1つを含む、(1)または(2)記載のインクジェットインクセット。
【0012】
このような構成によれば、インクジェットインクセットは、得られる塗膜が赤みを帯びにくく、所望の黒色度を示しやすい。
【0013】
(4)前記黄色インク、前記赤色インク、および、前記青色インクは、それぞれバインダー樹脂を含み、前記バインダー樹脂は、フッ素樹脂である、(1)~(3)のいずれかに記載のインクジェットインクセット。
【0014】
このような構成によれば、インクジェットインクセットは、得られる塗膜の耐熱性および耐候性がより優れる。
【0015】
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のインクジェットインクセットのインクが付与された、インクジェットプリント物。
【0016】
このような構成によれば、上記インクジェットインクセットが使用されることにより、得られるプリント物は、優れた遮熱性および耐候性を示す塗膜が形成されている。そのため、プリント物は、たとえば建築材の外装部材等として好適である。
【0017】
(6)(1)~(4)のいずれかに記載のインクジェットインクセットを用いて、インクジェット方式により基材にインクを付与する印刷工程と、前記基材を乾燥させる乾燥工程とを含む、プリント物の製造方法。
【0018】
このような構成によれば、上記インクジェットインクセットが使用されることにより、優れた遮熱性および耐候性を示す塗膜が形成されたプリント物が作製される。得られたプリント物は、たとえば建築材の外装部材等として好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた遮熱性および耐候性を示す塗膜を形成し得るインクジェットインクセット、プリント物およびプリント物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<インクジェットインクセット>
本発明の一実施形態のインクジェットインクセット(以下、単にインクセットともいう)は、黄色色材を含む黄色インク、赤色色材を含む赤色インク、青色色材を含む青色インクを含む。また、インクセットは、好適には、黒色色材を含む黒色インクをさらに含む。黄色色材、赤色色材、および、青色色材は、無機顔料である。黄色インク、赤色インク、および、青色インクは、それぞれのインクを塗布した場合に形成される塗膜の波長780~2100nmにおける平均反射率が40%以上である。これにより、得られる塗膜は、優れた遮熱性を示す。また、無機顔料を含むそれぞれのインクが用いられることにより、得られる塗膜は、優れた耐候性を示す。以下、それぞれについて説明する。
【0021】
(各色インク)
・黄色インク
黄色インクは、黄色色材を含む。黄色色材は、無機顔料を含んでいればよく、特に限定されない。一例を挙げると、黄色色材を構成する無機顔料は、酸化鉄系顔料、水酸化鉄系顔料、クロム酸系顔料、チタンニッケル系顔料、チタンクロム系顔料、ビスマス系顔料、バナジウム系顔料、プラセオジウムジルコン系顔料等である。黄色色材は併用されてもよい。これらの中でも、黄色色材は、後述する塗膜の平均反射率が40%以上となりやすく、遮熱性の優れた塗膜を形成しやすい点から、酸化鉄系顔料、水酸化鉄系顔料、チタンニッケル系顔料、チタンクロム系顔料であることが好ましく、酸化鉄系顔料、水酸化鉄系顔料、チタンニッケル系顔料であることがより好ましく、水酸化鉄系顔料であることがさらに好ましい。
【0022】
黄色インク中の黄色色材の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、黄色色材の含有量は、黄色インク中、0.5質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。また、黄色色材の含有量は、黄色インク中、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。黄色色材の含有量が上記範囲内であることにより、得られるインクセットは、発色性が優れたプリント物が得られやすく、かつ、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れる。
【0023】
・赤色インク
赤色インクは、赤色色材を含む。赤色色材は、無機顔料を含んでいればよく、特に限定されない。一例を挙げると、赤色色材を構成する無機顔料は、酸化鉄系顔料、ジルコン鉄系顔料、鉄アルミ系顔料、鉄亜鉛系顔料、マンガンアルミ系顔料等である。赤色色材は併用されてもよい。これらの中でも、赤色色材は、後述する塗膜の平均反射率が40%以上となりやすく、遮熱性の優れた塗膜を形成しやすい点から、酸化鉄系顔料、ジルコン鉄系顔料であることが好ましく、酸化鉄系顔料であることがよりに好ましい。
【0024】
赤色インク中の赤色色材の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、赤色色材の含有量は、赤色インク中、0.5質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。また、赤色色材の含有量は、赤色インク中、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。赤色色材の含有量が上記範囲内であることにより、得られるインクセットは、発色性が優れたプリント物が得られやすく、かつ、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れる。
【0025】
・青色インク
青色インクは、青色色材を含む。青色色材は、無機顔料を含んでいればよく、特に限定されない。一例を挙げると、青色色材を構成する無機顔料は、コバルト系顔料、コバルトアルミ系顔料、コバルトクロム系顔料等である。青色色材は併用されてもよい。これらの中でも、青色色材は、後述する塗膜の平均反射率が40%以上となりやすく、遮熱性の優れた塗膜を形成しやすい点から、コバルト系顔料、コバルトアルミ系顔料、コバルトクロム系顔料であることが好ましく、コバルトアルミ系顔料であることがより好ましい。
【0026】
青色インク中の青色色材の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、青色色材の含有量は、青色インク中、0.5質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。また、青色色材の含有量は、青色インク中、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。青色色材の含有量が上記範囲内であることにより、得られるインクセットは、発色性が優れたプリント物が得られやすく、かつ、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れる。
【0027】
・黒色インク
黒色インクは、本実施形態のインクセットにおいて、好適に含まれる。黒色インクは、黒色色材を含むことが好ましい。無機顔料は特に限定されない。一例を挙げると、黒色色材を構成する無機顔料は、ビスマスマンガン系顔料、イットリウムマンガン系顔料、銅クロム系顔料、銅鉄マンガン系顔料、コバルト鉄クロム系顔料、酸化ルテニウム、コバルトマンガン系顔料、チタンマンガン系顔料等である。黒色色材は併用されてもよい。これらの中でも、黒色色材は、後述する塗膜の平均反射率が40%以上となりやすく、遮熱性の優れた塗膜を形成しやすい点から、ビスマスマンガン系顔料およびイットリウムマンガン系顔料のうち、少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。また、黒色色材としてビスマスマンガン系顔料およびイットリウムマンガン系顔料のうち、少なくともいずれか1つが含まれるよう用いられる場合、たとえば他の黒色色材(鉄クロム系顔料等)が用いられる場合と比較して、インクジェットインクセットは、得られる塗膜が赤みを帯びにくく、所望の黒色度を示しやすい。
【0028】
黒色インク中の黒色色材の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、黒色色材の含有量は、黒色インク中、0.5質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。また、黒色色材の含有量は、黒色インク中、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。黒色色材の含有量が上記範囲内であることにより、得られるインクセットは、発色性が優れたプリント物が得られやすく、かつ、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れる。
【0029】
各色インク全体の説明に戻り、それぞれの各色インクに含まれる上記黄色色材、赤色色材、青色色材および黒色色材の平均粒子径は、100nm以上であることが好ましく、120nm以上であることがより好ましく、150nm以上であることがさらに好ましい。また、平均粒子径は、1000nm以下であることが好ましく、400nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましい。平均粒子径が100nm未満である場合、得られる塗膜は、耐候性が劣りやすい。特に黒色色材の平均粒子径が100nm未満である場合、得られる塗膜は、赤みを帯びやすい。一方、平均粒子径が1000nmを超える場合、各色インクは、色材が沈降する可能性があり、安定性が低下しやすい。また、各色インクは、インクジェット方式により基材に付与される際に、ノズル等に詰まりやすくなり、吐出安定性が低下しやすい。本実施形態のインクセットは、各色インクに含まれる色材のうち、少なくとも1つの色材の平均粒子径が上記範囲内であることが好ましく、黄色色材、赤色色材および青色色材の平均粒子径が上記範囲内であることがより好ましく、さらに黒色色材を含む4つすべての色材の平均粒子径が上記範囲内であることがさらに好ましい。4つすべての色材の平均粒子径が上記範囲内であることにより、基材にインクを付与する際のノズルの詰まりがさらに改善されやすく、得られる塗膜の耐候性がさらに優れる。また、黒色色材の平均粒子径が上記範囲内であることにより、ノズルの詰まり改善効果や塗膜の耐候性向上効果に加え、得られる塗膜が赤みを帯びにくく、所望の黒色度を再現した優れた色彩を発現させる効果が得られやすい。なお、本実施形態において、平均粒子径は、Malvern Instruments社製のゼータサイザーナノシリーズを用いて、動的光散乱法により測定され得る。
【0030】
また、本実施形態の各色インク(黄色インク、青色インクおよび赤色インク)は、それぞれのインクを塗布した場合に形成される塗膜の波長780~2100nmにおける平均反射率が40%以上であり、42%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましい。なお、各色インクの平均反射率の上限は特に限定されない。平均反射率の上限は、所望される遮熱性等に基づいて適宜設定される。平均反射率が40%未満である場合、インクセットは、得られる塗膜の遮熱性が劣りやすい。なお、本実施形態において、上記平均反射率は、基材(クロメート処理を行ったアルミ鋼板に市販のフッ素塗料(ボンフロン#1000SR上塗り、AGCコーテック(株)製)をエアスプレーで約150g/m2塗布し、200℃環境下で3分間の乾燥を行った)に対して、上記色材を含むインクを、Wet膜厚が10μmとなるよう塗布し、得られた塗膜の平均反射率を、紫外可視近赤外分光光度計(UV-3600plus、(株)島津製作所製)を用いて、JIS K 5602に準じた条件で測定した場合に測定された近赤外線領域である780nm~2100nmにおける平均反射率(%)である。
【0031】
また、本実施形態のインクセットに好適に含まれる黒色インクは、上記平均反射率が40%以上であることが好ましく、42%以上であることがより好ましい。黒色インクの平均反射率が上記範囲内であることにより、得られる塗膜は、優れた遮熱性を示す。
【0032】
(その他の成分)
本実施形態のインクセットを構成する各色インクは、上記各色材を含み、かつ、それぞれのインクを塗布した場合に形成される塗膜の波長780~2100nmにおける平均反射率が40%以上となる組成であればよく、この条件を満たす限りにおいて、他の成分を適宜含んでよい。各色インクは、たとえば、バインダー樹脂、分散剤、溶剤および各種任意成分を含んでもよい。
【0033】
・バインダー樹脂
バインダー樹脂は、たとえば、インクの粘度の調整、得られるプリント物の硬度の調整や形状を制御するために好適に含まれる。
【0034】
バインダー樹脂の種類は特に限定されない。一例を挙げると、バインダー樹脂は、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂、アクリロニトリルアクリレートスチレン共重合樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリル塩化ポリエチレンスチレン共重合樹脂、エチレン酢ビ樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、ポリスチレンマレイン酸共重合樹脂、ポリスチレンアクリル酸共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、メチルペンテン樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート樹脂、ブチラール樹脂、ホルマール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、およびこれらの共重合樹脂等が例示される。バインダー樹脂は、膜強度、粘度、インクジェットインクの残部粘度、色材の分散安定性、熱安定性、非着色性、耐水性、耐薬品性を考慮し、適宜選択され得る。バインダー樹脂は、併用されてもよい。本実施形態のインクセットを構成する各色インクは、バインダー樹脂としてフッ素樹脂を含むことが好ましい。バインダー樹脂としてのフッ素樹脂は、各色インクのうち、いずれのインクに含まれてもよい。フッ素樹脂を含むインクが用いられることにより、インクセットは、得られる塗膜の耐熱性および耐候性が向上させることができる。中でも、本実施形態のインクセットは、各色インクのうち、黄色インク、赤色インクおよび青色インクにバインダー樹脂としてフッ素樹脂が含まれていることが好ましく、さらに黒色インクを含む4つすべての各色インクにバインダー樹脂としてフッ素樹脂が含まれていることがより好ましい。すべての各色インクに、バインダー樹脂としてフッ素樹脂が含まれていることにより、インクセットは、得られる塗膜の耐熱性および耐候性がより向上する。
【0035】
・フッ素樹脂
フッ素樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、フッ素樹脂は、各種含フッ素モノマーと、ビニルモノマーとの共重合体であることが好ましい。また、フッ素樹脂は、ビニルモノマーの中でも、ビニルエーテルモノマーとの共重合体であることがより好ましい。さらに、フッ素樹脂は、フルオロエチレンと、ビニルエーテルモノマーとの共重合体であることがより好ましい。なお、重合方法は特に限定されない。一例を挙げると、重合方法は、溶液重合、懸濁重合、塊状重合、乳化重合等である。
【0036】
得られるフッ素樹脂は、交互共重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。これらの中でも、フッ素樹脂は、フルオロエチレンとビニルモノマーとの交互共重合体であることが好ましい。このようなフッ素樹脂を含むインクを含むインクセットによれば、耐候性がさらに優れるプリント物が得られやすい。そのため、このようなインクセットが用いられることにより、得られるプリント物は、さらに長期にわたり、所望の色彩が保持され得る。なお、本実施形態において、「交互共重合体」とは、フルオロエチレン単位と、ビニルモノマー単位との結合が、フルオロエチレン単位とフルオロエチレン単位との結合、および、ビニルモノマー単位とビニルモノマー単位との結合の合計よりも、はるかに多く含まれる共重合体を意味する。具体的には、本実施形態の交互共重合体は、フルオロエチレン単位と、ビニルモノマー単位との結合を、90~100モル%含むことが好ましい。なお、本実施形態において、交互共重合体は、少数のランダム結合部分やブロック結合部分を含んでいてもよい。また、上記結合は、たとえば1H NMR測定および29Si NMR測定等により区別し得る。また、交互共重合体の分析方法については、たとえば、Journal of Applied Polymer Science, Vol. 106, 1007-1013 (2007)等を参照し得る。
【0037】
フッ素樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、Mwは、5000以上であることが好ましく、8000以上であることがより好ましい。Mwは、50000以下であることが好ましく、40000以下であることがより好ましい。Mwが上記範囲内である場合、フッ素樹脂は、溶剤に溶解しやすい。また、得られるインクは、乾燥性が改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れている。Mwが5000未満である場合、得られるプリント物は、ベタツキが生じやすく、ブロッキング防止性が低下する傾向がある。一方、Mwが50000を超える場合、フッ素樹脂の溶解性が低下したり、インクジェットプリント時におけるインクの吐出安定性が低下する傾向がある。なお、本明細書において、Mwおよび後述する数平均分子量(Mn)は、たとえばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、高速GPC装置(東ソー(株)製、HLC-8120GPC)を用いて測定し得る。
【0038】
・アクリル樹脂
アクリル樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、アクリル樹脂は、アクリル酸エステル(アクリレート)またはメタクリル酸エステル(メタクリレート)の重合体が例示される。より具体的には、アクリル樹脂は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2-エチルへキシル等のアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル類;アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有アクリル酸エステル類;メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有メタクリル酸エステル類などの重合体が例示される。これらは併用されてもよい。
【0039】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、Mwは、5000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましい。Mwは、100000以下であることが好ましく、50000以下であることがより好ましい。Mwが上記範囲内である場合、このようなアクリル樹脂を含むインクは、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れている。
【0040】
・塩化ビニル樹脂
塩化ビニル樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルと、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、マレイン酸、ビニルアルコール等の他のモノマーとの共重合体等が例示される。これらの中でも、塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルおよび酢酸ビニルに由来する構成単位を含む共重合体(塩ビ酢ビ共重合体)であることが好ましい。
【0041】
塩ビ酢ビ共重合体は、たとえば懸濁重合によって得ることができる。塩ビ酢ビ共重合体は、塩化ビニル単位を70~90質量%含有することが好ましい。上記範囲であれば、塩ビ酢ビ共重合体は、インク中に安定して溶解するため長期の保存安定性が優れる。また、得られるインクは、吐出安定性が優れる。
【0042】
塩ビ酢ビ共重合体は、塩化ビニル単位および酢酸ビニル単位のほかに、必要に応じて、その他の構成単位を備えていてもよい。一例を挙げると、その他の構成単位は、カルボン酸単位、ビニルアルコール単位、ヒドロキシアルキルアクリレート単位等が例示される。これらの中でも、その他の構成単位は、ビニルアルコール単位であることが好ましい。
【0043】
塩化ビニル樹脂の数平均分子量(Mn)は特に限定されない。一例を挙げると、塩化ビニル樹脂のMnは、10000以上であることが好ましく、12000以上であることがより好ましい。また、Mnは、50000以下であることが好ましく、42000以下であることがより好ましい。なお、Mnは、GPCによって測定することが可能であり、ポリスチレン換算とした相対値として求めることができる。
【0044】
・シリコーン樹脂
シリコーン樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、シリコーン樹脂は、メチル系ストレートシリコーンレジン(ポリジメチルシロキサン)、メチルフェニル系ストレートシリコーンレジン(メチル基の一部をフェニル基に置換したポリジメチルシロキサン)、アクリル樹脂変性シリコーンレジン、ポリエステル樹脂変性シリコーンレジン、エポキシ樹脂変性シリコーンレジン、アルキッド樹脂変性シリコーンレジンおよびゴム系のシリコーンレジン等が例示される。これらは併用されてもよい。これらの中でも、シリコーン樹脂は、メチル系ストレートシリコーンレジン、メチルフェニル系ストレートシリコーンレジン、アクリル樹脂変性シリコーンレジンが好ましい。
【0045】
シリコーン樹脂は、有機溶媒等に溶解されたものであってもよい。有機溶媒は、キシレン、トルエン等が例示される。
【0046】
シリコーン樹脂の数平均分子量(Mn)は特に限定されない。一例を挙げると、シリコーン樹脂のMnは、10000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましい。また、Mnは、5000000以下であることが好ましく、3000000以下であることがより好ましい。なお、Mnは、GPCによって測定することが可能であり、ポリスチレン換算とした相対値として求めることができる。
【0047】
バインダー樹脂全体の説明に戻り、バインダー樹脂の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、バインダー樹脂は、固形分換算で、各色インク中、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、バインダー樹脂は、インク中、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましい。バインダー樹脂の含有量が1質量%未満である場合、バインダーとしての所望の性能が得られにくく、基材への密着性などが低下する傾向がある。一方、バインダー樹脂の含有量が40質量%を超える場合、インクの粘度が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。
【0048】
(分散剤)
分散剤は、上記色材を分散させるために好適に含まれる。分散剤は特に限定されない。一例を挙げると、分散剤は、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、高分子分散剤等である。分散剤は併用されてもよい。
【0049】
アニオン系界面活性剤は、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩およびこれらの置換誘導体等が例示される。
【0050】
ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマーおよびこれらの置換誘導体等が例示される。
【0051】
高分子分散剤は、酸価と塩基価を両方持ち、かつ、酸価が塩基価より大きいものが、より安定な分散特性が得られる観点から好ましい。一例を挙げると、高分子分散剤は、味の素ファインテクノ(株)製のPBシリーズ、川研ファインケミカル(株)製のヒノアクトシリーズ、日本ルーブリゾール(株)製のソルスパースシリーズ、楠本化成(株)製のDISPARLONシリーズ、BASFジャパン(株)製のEfka(登録商標)シリーズ等が例示される。
【0052】
分散剤がインクに含まれる場合、分散剤の含有量は、分散すべき色材の種類および含有量によって適宜決定される。一例を挙げると、分散剤の含有量は、色材100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。また、分散剤の含有量は、色材100質量部に対して、150質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましい。分散剤の含有量が5質量部未満である場合、色材が分散されにくい傾向がある。一方、分散剤の含有量が150質量部を超える場合、原料コストが上がったり、色材の分散が阻害される傾向がある。
【0053】
(溶剤)
溶剤は、各色インクにおいて、バインダー樹脂を溶解するために好適に含まれる。溶剤の種類は特に限定されない。一例を挙げると、溶剤は、水、グリコールエーテル系溶剤、アセテート系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤、脂肪酸エステル系溶剤、芳香族系溶剤等である。溶剤は併用されてもよい。本実施形態の溶剤は、これらの中でも、グリコールエーテル系溶剤およびアセテート系溶剤のうち、少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。グリコールエーテル系溶剤およびアセテート系溶剤は、いずれも低粘度であり、かつ、比較的沸点が高い。そのため、これらを溶剤として含むインクは、乾燥性がより改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れている。
【0054】
グリコールエーテル系溶剤は、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等が例示される。
【0055】
アセテート系溶剤は、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-sec-ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ-sec-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-エトキシブチルアセテート、3-メチル-3-プロポキシブチルアセテート、3-メチル-3-イソプロポキシブチルアセテート、3-メチル-3-n-ブトキシエチルアセテート、3-メチル-3-イソブトキシシブチルアセテート、3-メチル-3-sec-ブトキシシブチルアセテート、3-メチル-3-tert-ブトキシシブチルアセテート等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、トリプロピレングリコールジアセテート等が例示される。
【0056】
本実施形態の溶剤は、沸点が150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。また、溶剤は、沸点が300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。沸点が上記範囲内である場合、得られるインクは、乾燥性がより改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れている。また、インクによれば、滲みの少ない鮮明なプリント物が形成されやすい。溶剤の沸点が150℃未満である場合、インクがヘッドノズル付近で乾燥しやすくなり、吐出安定性が低下する傾向がある。一方、溶剤の沸点が300℃を超える場合、インクは乾燥しにくくなり、プリント物の形成時における乾燥工程に時間がかかりやすい。また、得られるプリント物は、画像が滲みやすい。
【0057】
溶剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、溶剤は、各色インク中、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、溶剤は、各色インク中、99質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。溶剤の含有量が50質量%未満である場合、インクの粘度が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。一方、溶剤の含有量が99質量%を超える場合、インク中に添加できる色材やバインダー樹脂の割合が低くなり、所望の発色性や性能が得られにくい傾向がある。
【0058】
(任意成分)
本実施形態のインクセットを構成する各色インクは、上記した成分のほかに、適宜任意成分が含有されてもよい。一例を挙げると、任意成分は、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、浸透剤、還元防止剤、レベリング剤、pH調整剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤および光安定剤等である。
【0059】
インク全体の説明に戻り、インクの粘度は特に限定されない。一例を挙げると、インクの粘度は、2mPa・s以上であることが好ましく、5mPa・s以上であることがより好ましい。また、粘度は、50mPa・s以下であることが好ましく、30mPa・s以下であることがより好ましい。粘度が上記範囲内であることにより、インクは、インクジェットヘッドからの吐出不良を生じにくく、吐出安定性が優れる。本実施形態において、インクの粘度は、B型粘度計(東機産業(株)製、TVB-20LT、ロータ回転数60rpm)を用いて測定することができる。なお、粘度を上記範囲内に調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、粘度は、各成分の添加量や、溶剤の種類および添加量によって調整され得る。粘度は、必要に応じて増粘剤等の粘度調整剤が使用されることにより調整されてもよい。
【0060】
インクの表面張力は特に限定されない。インクの表面張力は、25℃において、20dyne/cm以上であることが好ましく、22dyne/cm以上であることがより好ましい。また、インクの表面張力は、25℃において、40dyne/cm以下であることが好ましく、35dyne/cm以下であることがより好ましい。表面張力が上記範囲内である場合、インクは、吐出安定性が優れる。なお、本実施形態において、表面張力は、静的表面張力計(プレート法)(協和界面科学(株)製、CBVP-A3)を用いて測定することができる。
【0061】
本実施形態のインクセットは、インクジェット方式を採用したインクジェット装置を用いて基材に吐出することにより、基材上にインク画像を形成し、プリント物を製造することができる。インクセットは、塗膜形成時の平均反射率が40%以上となるよう、所定の色材を含むインクを含む。これにより、得られる塗膜は、優れた遮熱性を示す。また、それぞれの色材は、上記無機顔料を含む。このような無機顔料を含む各色インクが用いられることにより、得られる塗膜は、優れた耐候性を示す。したがって、本実施形態のインクセットは、遮熱性および耐候性が求められる種々の用途に好適である。すなわち、インクセットは、建築材の外装用途、屋外のサイン広告等の用途に好適に用いられる。
【0062】
<プリント物の製造方法>
本発明の一実施形態のプリント物の製造方法は、上記したインクジェットインクセットを用いて、インクジェット方式により基材にインクを付与する印刷工程と、基材を乾燥させる乾燥工程とを含む。本実施形態のプリント物の製造方法は、これら印刷工程および乾燥工程を含んでいればよく、他の工程は特に限定されない。また、乾燥工程は、インクジェットインクの種類(紫外線硬化型インクジェットインクであるか等)によって、適宜条件が最適化され得る。以下、それぞれについて説明する。
【0063】
(紫外線硬化型インクジェットインク以外の場合)
・付与工程
インクジェット記録方式によりインクセットを構成するインクを基材に付与する方式は特に限定されない。このような方式は、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式、インクミスト方式等の連続方式、ピエゾ方式、パルスジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、静電吸引方式等のオン・デマンド方式等が例示される。
【0064】
インクを付与するためのインクジェット装置は、インクタンクからインク供給路を介して圧力室にインクを供給し、画像データに応じた電気信号を圧電素子に付与して圧電素子を駆動することにより、圧力室の一部を構成する振動板を変形させて、圧力室の容積を減少させ、圧力室内のインクをノズル(ヘッド)の吐出口から液滴として吐出する装置である。
【0065】
ヘッドは、シャトル方式(マルチパス方式)とライン方式(シングルパス方式)とがある。マルチパス方式は、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを基材の幅方向に走査させながら記録を行う方式である。一方、シングルパス方式は、基材の全域をカバーするフルラインヘッドを用いて、フルラインヘッドと基材とを相対的に一回だけ移動させる動作で、基材の全面に画像を形成する方式である。
【0066】
インクが付与される基材は特に限定されない。一例を挙げると、基材は、鋼板、アルミ、ステンレス等の金属板、アクリル、ポリカーボネート、ABS、ポリプロピレン、ポリエステル、塩化ビニル等のプラスチック板またはフィルム、窯業板、コンクリート、木材、ガラス等である。これらの基材は、プリント前に、前処理剤により処理されることが好ましい。前処理剤は、フッ素系塗料、シリコーン系塗料、アクリルシリコーン系塗料、アクリル系塗料、エポキシ系塗料、ウレタン系塗料等が例示される。これら前処理剤を基材に付与する方法は、スプレー法、ロールコーター法、カーテンフローコーター法、ハケ塗り法、ヘラ塗り法、浸漬法、インクジェット法等が例示される。本実施形態によれば、上記のとおり、遮熱性および耐候性の優れたプリント物が得られる。そのため、本実施形態のプリント物の製造方法は、特に基材がフッ素系塗料やシリコーン系塗料、アクリルシリコーン系塗料である場合に、建築材の外装用途として好適に利用されるプリント物が得られる。
【0067】
・乾燥工程
インクが付与された基材は、次いで、乾燥される。乾燥条件は特に限定されない。一例を挙げると、乾燥温度は、50℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。また、乾燥温度は、400℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。乾燥時間は、1分以上であることが好ましく、2分以上であることがより好ましく、3分以上であることがさらに好ましい。また、乾燥時間は、60分以下であることが好ましく、30分以下であることがより好ましく、10分以下であることがさらに好ましい。このような乾燥により、インク中の色材が変色等を起こしにくく、かつ、溶剤が取り除かれ得る。乾燥は、インクの滲みを防止するために、インクが基材に付与された同時もしくは直後に行われることが好ましい。
【0068】
得られるプリント物は、上記インクジェットインクが付与された、インクジェットプリント物である。このようなプリント物は、上記インクセットが使用されたことにより、優れた遮熱性および耐候性を示す塗膜が形成されている。そのため、プリント物は、たとえば建築材の外装部材等として特に好適である。
【0069】
・プリント物の製造方法(紫外線硬化型インクジェットインクの場合)>
本発明の一実施形態のインクジェットプリント物の製造方法(以下、単にプリント物の製造方法ともいう)は、特に上記した紫外線硬化型インクを用いてインクジェットプリント物を製造する場合には、インクジェット方式により基材上に付与する工程と、付与したインクに紫外線を照射して乾燥させる工程(硬化工程)と、を含む。以下、それぞれについて説明する。
【0070】
・付与工程
付与工程は、上記したインクを、インクジェット方式により基材上に付与する工程である。基材は特に限定されない。基材は、上記したものと同様のものを使用し得る。また、インクを付与するためのインクジェット装置は、上記したものと同様のものを使用し得る。
【0071】
・乾燥工程(硬化工程)
乾燥工程(硬化工程)は、付与したインクに紫外線を照射して硬化させる工程である。基材上に吐出されたインクは、インクジェット装置に付帯された紫外線照射ランプによって紫外線が照射され、硬化される。紫外線照射ランプは、水銀ランプやガス・固体レーザー等が例示される。これらの中でも、紫外線照射ランプは、水銀ランプ、メタルハライドランプであることが好ましい。ほかにも、紫外線照射ランプは、紫外線発光ダイオード(UV-LED)や紫外線レーザダイオード(UV-LD)であってもよい。
【0072】
硬化時の紫外線の積算光量は特に限定されない。積算光量は、40mJ/cm2以上であることが好ましく、60mJ/cm2以上であることがより好ましい。また、積算光量は、500mJ/cm2以下であることが好ましく、400mJ/cm2以下であることがより好ましい。なお、積算光量は、たとえば紫外線照度計・光量計(UV-351-25 (株)オーク製作所製)を用い、測定波長域240~275nm、測定波長中心254nmの条件で測定することができる。
【0073】
以上、本実施形態のプリント物の製造方法によれば、得られるプリント物は、インクジェットインクが付与された、インクジェットプリント物である。このようなプリント物は、上記インクセットが使用されたことにより、優れた遮熱性および耐候性を示す塗膜が形成されている。そのため、プリント物は、たとえば建築材の外装部材等として特に好適である。
【実施例
【0074】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0075】
使用した原料を以下に示す。
(色材)
黄色色材1:HY-100、酸化鉄系無機顔料、チタン工業(株)製
黄色色材2:NF-5850、Ti-Ni系無機顔料、日研(株)製
黄色色材3:Cromophtal Yellow D1085、アゾニッケル系有機顔料、BASF社製
赤色色材1:R-516P、酸化鉄系無機顔料、チタン工業(株)製
赤色色材2:M-663、Zr-Fe系無機顔料、日陶顔料(株)製
赤色色材3:Ink Jet Red E5B02、キナクリドン系有機顔料、クラリアントジャパン(株)製
青色色材1:#9410、Co-Al系無機顔料、大日精化工業(株)製
青色色材2:NF-2500、Co-Cr系無機顔料、日研(株)製
青色色材3:Hostaperm Blue P-BFS、銅フタロシアニン系有機顔料、クラリアントジャパン(株)製
黒色色材1:Black L 0095、Fe-Cr系無機顔料、BASF社製
黒色色材2:NF-550、Y-Mn系無機顔料、日研(株)製
黒色色材3:Black 6301、Bi-Mn系無機顔料、アサヒ化成工業(株)製
黒色色材4:NiPex35、カーボンブラック、オリオン・エンジニアドカーボンズ(株)製
(樹脂)
樹脂1:LF-200F、フッ素樹脂、旭硝子(株)製、三フッ化エチレン/ビニルモノマー交互共重合体
樹脂2:ウレタンアクリレート、アルケマ社製、CN991、脂肪族系ウレタンアクリレート
樹脂3:アクリロイルモルフォリン、KJケミカルズ(株)製、ACMO、アクリルアミド系モノマー
樹脂4:アクリルモノマー、大阪有機化学工業(株)製、MEDOL-10、単官能アクリルモノマー
(分散剤)
分散剤1:高分子分散剤、Solsperse 33000、ルーブリゾール社製
(溶剤)
溶剤1:ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEDG)、グリコールエーテル系溶剤、日本乳化剤(株)製、沸点:189℃
【0076】
<インクジェットインクセット>
以下の表1~表8に示される処方(単位は質量部)にしたがって、実施例1~6、比較例1~2の各色インクからなるインクセットを調製した。具体的には、各成分を樹脂にミキサー混合し、濾過することにより、各色インクを調製し、組み合わせてそれぞれのインクセットを作製した。得られたインクセットを用いて、以下のインクジェット条件にて基材(クロメート処理を行ったアルミ鋼板に市販のフッ素塗料(ボンフロン#1000SR上塗り、AGCコーテック(株)製)をエアスプレーで約150g/m2塗布し、200℃環境下で3分間の乾燥を行った)に対してインクジェットプリントを行い、プリント物を作製した。
【0077】
<インクジェット条件>
シングルパス方式
ドットサイズ:30pl
ノズル径:40μm
駆動電圧:80V
パルス幅:10μm
周波数:10kHz
解像度:400×600dpi
塗布量:10g/m2
基材温度:50℃(加温)
柄:各色インクのベタ柄
【0078】
<乾燥条件>
溶剤系インクジェットインクである実施例1~4および実施例6、比較例1~2は、プリント後200℃環境下で1分間乾燥を行った。紫外線硬化型インクジェットインクである実施例5は、プリント後直ちに以下の条件にて乾燥を行った。
紫外線照射ランプ:メタルハライドランプ
照射強度:0.5mW/cm2
積算光量:400mJ/cm2
照射高さ:40mm
【0079】
上記プリント物の作製に際し、それぞれのインクの初期粘度、インクの安定性、吐出安定性、赤外反射率、黒色度(黒色インクのみ)について、以下の評価基準にしたがって評価した。また、上記プリント物に関して、耐候性を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
<インクの初期粘度>
調製後のインクを50℃に調整し、B型粘度計(東機産業(株)製、TVB-20LT、ロータ回転数60rpm)を用いて粘度を測定した。
【0081】
<赤外反射率>
各色インクを、基材(クロメート処理を行ったアルミ鋼板に市販のフッ素塗料(ボンフロン#1000SR上塗り、AGCコーテック(株)製)をエアスプレーで約150g/m2塗布し、200℃環境下で3分間の乾燥を行った)に対して、上記プリント物と同様の条件でインクジェット印刷を行い、塗膜を形成した。得られた塗膜の乾燥膜厚は約10μmであった。得られた塗膜を、紫外可視近赤外分光光度計という装置(型番:UV-3600plus、販売者名:島津製作所(株)製)を用いて、JIS K 5602に準じた条件で測定した場合に測定された近赤外線領域である780nm~2100nmにおける平均反射率を測定した。
(評価基準)
○:平均反射率がいずれの色インクも40%以上であった。
△:平均反射率がいずれかの色インクが30%以上40%未満であった。
×:平均反射率がいずれの色インクも30%以下であった。
【0082】
<耐候性>
プリント物に対して、スーパーUVテスター(岩崎電気(株)製、SUV-W161)を用いて、超促進耐候試験として紫外線照射6時間(UV条件100mW/cm2、温度63℃、湿度50%)実施後、次いでシャワー30秒の後、なりゆきで結露2時間実施を1サイクルとし、合計600時間実施した後の色差を測定した。
(色差測定方法)
プリント物の超促進耐候試験前に対する試験後のΔEを色差とした。色差は分光測色計(コニカミノルタ(株)製、CM-3700)を用いて、測定した。
(評価基準)
○:色差がΔE≦3であった。
△:色差が3<ΔE≦5であった。
×:色差がΔE>5であった。
【0083】
<黒色度>
赤外反射率と同様な条件で作製した塗膜を分光測色計(コニカミノルタ(株)製、CM-3700)を用いて、L*値を測定値とし、黒色度とした。
(評価基準)
◎:黒色度がL*≦30であった。
○:黒色度が30<L*≦40であった。
×:黒色度がL*>40であった。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
【表7】
【0091】
【表8】
【0092】
表1~表8に示されるように、実施例1~6のインクセットを用いて得られたプリント物は、赤外反射率が40%以上である各色インクを使用したことにより、優れた遮熱性を示した。また、これらのプリント物は、優れた耐候性を示した。一方、比較例1~2のインクセットは、インクセットを構成する各色インクのうち、平均反射率が40%未満であるインク(青色インク4または5)を含んでいたため、遮熱性が劣ると考えられた。