(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】ビナフトール系化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 41/03 20060101AFI20221028BHJP
C07C 43/23 20060101ALI20221028BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221028BHJP
【FI】
C07C41/03
C07C43/23 D
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018163141
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷口 範洋
(72)【発明者】
【氏名】杉本 昌繁
(72)【発明者】
【氏名】中居 大貴
(72)【発明者】
【氏名】桑野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】矢部 奈生子
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-18753(JP,A)
【文献】特開2004-323450(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0181099(US,A1)
【文献】特開平8-208550(JP,A)
【文献】特開平9-216846(JP,A)
【文献】J. Heterocyclic Chem.,Vol. 38, No. 1,2001年,pp. 281-284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 41/03
C07C 43/23
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるビナフトール系化合物を製造する方法であって、
下記一般式(2)で表される化合物の存在下で、下記一般式(3)で表される化合物にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを付加する工程を備え
、
前記工程において、前記一般式(3)で表される化合物100質量部と前記一般式(2)で表される化合物50~1000質量部とを混合して、前記一般式(3)で表される化合物にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを付加する、ビナフトール系化合物の製造方法。
【化1】
[式(1)中、R
11及びR
12はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~22の1価の炭化水素基を示し、R
13及びR
14はそれぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示し、Y
11及びY
12はそれぞれ独立に、単結合、又は酸素原子を示し、n1及びm1はそれぞれ0~4の整数を示す。n1が2以上の整数である場合、複数存在するR
11はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数存在するY
11はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。m1が2以上の整数である場合、複数存在するR
12はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数存在するY
12はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【化2】
[式(2)中、R
21及びR
22はそれぞれ独立に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基を示し、R
23は、水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。]
【化3】
[式(3)中、R
31及びR
32はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~22の1価の炭化水素基を示し、Y
31及びY
32はそれぞれ独立に、単結合、又は酸素原子を示し、n3及びm3はそれぞれ0~4の整数を示す。n3が2以上の整数である場合、複数存在するR
31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数存在するY
31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。m3が2以上の整数である場合、複数存在するR
32はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数存在するY
32はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記工程における反応温度が、90~150℃である、請求項
1に記載のビナフトール系化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビナフトール系化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学レンズや光学シートなどの光学系材料として、光学特性に優れている点でビナフタレン骨格を有する樹脂材料が注目されている。例えば、下記特許文献1には、2,2’-ビス(2-ヒドロキシアルコキシ)-1,1’-ビナフタレン類などのビナフトール系化合物を用いてビナフタレン骨格を導入したポリアクリレート樹脂が開示されている。
【0003】
ポリアクリレート樹脂以外にも、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂及びエポキシ樹脂などの樹脂材料が検討されており、これらの樹脂材料の原料モノマーとしても上記のビナフトール系化合物は必要になっている。
【0004】
上記のビナフトール系化合物を製造する方法としては、1,1’-ビ-2-ナフトール類と、アルキレンオキサイド又はアルキレンカーボネートとを反応させる方法が知られている(例えば、下記特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-157437号公報
【文献】特開2010-18753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ビナフトール類に対するアルキレンオキサイド付加反応においては、目的物である、ビナフトール類1モルにオキシアルキレン基が2モル付加したビナフトール系化合物以外に、ビナフトール類にオキシアルキレン基が1モル付加した化合物、ビナフトール類にオキシアルキレン基が3モル付加した化合物及びビナフトール類にオキシアルキレン基が4モル以上付加した化合物などが副生する。これらの副生成物は、樹脂材料の耐熱特性や光学特性を低下させる要因となるため、生成量が多いと精製の負荷も大きくなる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、所望のビナフトール系化合物を高選択率で得ることができるビナフトール系化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、下記一般式(1)で表されるビナフトール系化合物を製造する方法であって、下記一般式(2)で表される化合物の存在下で、下記一般式(3)で表される化合物にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを付加する工程を備えるビナフトール系化合物の製造方法を提供する。
【化1】
[式(1)中、R
11及びR
12はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~22の1価の炭化水素基を示し、R
13及びR
14はそれぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示し、Y
11及びY
12はそれぞれ独立に、単結合、又は酸素原子を示し、n1及びm1はそれぞれ0~4の整数を示す。n1が2以上の整数である場合、複数存在するR
11はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数存在するY
11はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。m1が2以上の整数である場合、複数存在するR
12はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数存在するY
12はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【化2】
[式(2)中、R
21及びR
22はそれぞれ独立に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基を示し、R
23は、水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。]
【化3】
[式(3)中、R
31及びR
32はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~22の1価の炭化水素基を示し、Y
31及びY
32はそれぞれ独立に、単結合、又は酸素原子を示し、n3及びm3はそれぞれ0~4の整数を示す。n3が2以上の整数である場合、複数存在するR
31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数存在するY
31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。m3が2以上の整数である場合、複数存在するR
32はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数存在するY
32はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0009】
本発明のビナフトール系化合物の製造方法によれば、上記一般式(1)で表されるビナフトール系化合物を高い選択率で得ることができる。
【0010】
上記工程において、上記一般式(3)で表される化合物100質量部と上記一般式(2)で表される化合物10~1000質量部とを混合して、上記一般式(3)で表される化合物にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを付加してもよい。
【0011】
上記工程における反応温度は、90~150℃であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所望のビナフトール系化合物を高選択率で得ることができるビナフトール系化合物の製造方法を提供することができる。
【0013】
本発明の方法によって得られるビナフトール系化合物は、上記一般式(1)で表される化合物の純度が高く、精製の負荷が小さいものになり得る。また、本発明の方法によって得られるビナフトール系化合物は、ポリアクリレート樹脂などの原料モノマーとして用いられることで、樹脂の光学特性及び耐熱特性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態の下記一般式(1)で表されるビナフトール系化合物(以下、「ビナフトール系化合物1」という場合もある)の製造方法は、下記一般式(2)で表される化合物(以下、「化合物2」という場合もある)の存在下で、下記一般式(3)で表される化合物(以下、「化合物3」という場合もある)にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを付加する工程を備える。
【0016】
【化4】
[式(1)中、R
11及びR
12はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~22の1価の炭化水素基を示し、R
13及びR
14はそれぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示し、Y
11及びY
12はそれぞれ独立に、単結合、又は酸素原子を示し、n1及びm1はそれぞれ0~4の整数を示す。n1が2以上の整数である場合、複数存在するR
11はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数存在するY
11はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。m1が2以上の整数である場合、複数存在するR
12はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数存在するY
12はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0017】
【化5】
[式(2)中、R
21及びR
22はそれぞれ独立に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基を示し、R
23は、水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。]
【0018】
【化6】
[式(3)中、R
31及びR
32はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~22の1価の炭化水素基を示し、Y
31及びY
32はそれぞれ独立に、単結合、又は酸素原子を示し、n3及びm3はそれぞれ0~4の整数を示す。n3が2以上の整数である場合、複数存在するR
31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数存在するY
31はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。m3が2以上の整数である場合、複数存在するR
32はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、複数存在するY
32はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0019】
まず、アルキレンオキサイド付加反応の反応基質である上記一般式(3)で表される化合物について説明する。
【0020】
R31及びR32のうち少なくとも一方がハロゲン原子である場合、ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素であってよい。ハロゲン原子は、目的とするビナフトール系化合物1を高い選択率で得る観点から、塩素、臭素又はヨウ素であることが好ましく、臭素又はヨウ素であることがより好ましい。
【0021】
R31及びR32のうち少なくとも一方が炭素数1~22の1価の炭化水素基である場合、炭化水素基は、脂肪族炭化水素基(鎖式脂肪族炭化水素基)、脂環式炭化水素基(環式脂肪族炭化水素基)、又は芳香族炭化水素基であってよい。
【0022】
脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和のいずれであってもよく、直鎖又は分岐鎖状のいずれであってもよい。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、へプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基、ベヘニル基及びドデシル基等が挙げられる。
【0023】
脂肪族炭化水素基の炭素数は、化合物2に対する溶解性の観点から、1~12であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~3であることが更に好ましい。
【0024】
脂環式炭化水素基は、飽和又は不飽和のいずれであってもよい。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基及びシクロオクチル基等が挙げられる。脂環式炭化水素基が2以上の環状構造を有する場合、そのような脂環式炭化水素基としては、例えば、デカヒドロナフチル基、アダマンチル基及びノルボルニル基等が挙げられる。
【0025】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0026】
芳香族炭化水素基の炭素数は、化合物2に対する溶解性の観点から、6~12であることが好ましく、6~10であることがより好ましく、6~8であることが更に好ましい。
【0027】
上記一般式(3)で表される化合物は、化合物2に対する溶解性の観点から、R31及びR32が、臭素、ヨウ素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基及びフェネチル基であることが好ましい。
上記一般式(3)で表される化合物は、化合物2に対する溶解性の観点から、Y31及びY32が、単結合であることが好ましい。
【0028】
n3及びm3は、化合物2に対する溶解性の観点から、それぞれ0~3であることが好ましく、0~2であることがより好ましく、0、すなわち無置換であることが更に好ましい。
【0029】
上記一般式(3)で表される化合物としては、例えば、1,1’-ビ-2-ナフトールが挙げられる。
【0030】
上記一般式(3)で表される化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
次に、上記一般式(2)で表される化合物について説明する。当該化合物は、上記一般式(3)で表される化合物の溶媒として機能することができる。
【0032】
R21及びR22は、目的とするビナフトール系化合物1を高い選択率で得る観点から、メチル基、又はエチル基であることが好ましい。
【0033】
R23は、化合物3を溶解させる観点から、水素原子、又はメチル基であることが好ましい。
【0034】
上記一般式(2)で表される化合物としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチルメチルホルムアミド、エチルメチルアセトアミド、ジエチルホルムアミド、及びジエチルアセトアミド等が挙げられる。化合物3を溶解させる観点から、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミドが好ましい。
【0035】
上記一般式(2)で表される化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
上記一般式(1)で表される化合物は、本実施形態の方法によって製造される目的物であり、R11及びR12はそれぞれ、上記一般式(3)におけるR31及びR32に対応する。また、Y11及びY12はそれぞれ、上記一般式(3)におけるY31及びY32に対応する。また、n1及びm1はそれぞれ、上記一般式(3)におけるn3及びm3に対応する。
【0037】
本実施形態の方法によって製造されるビナフトール系化合物1としては、例えば、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシプロポキシ)-1,1’-ビナフタレン及び2-(2-ヒドロキシエトキシ)-2’-(2-ヒドロキシプロポキシ)-1,1-ビナフタレン等が挙げられる。樹脂材料の光学特性及び耐熱特性を向上させる原料モノマーを得る観点から、ビナフトール系化合物1は2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレンであることが好ましい。
【0038】
次に、付加反応工程の実施形態について説明する。
【0039】
本実施形態においては、化合物2と化合物3とを所定の反応容器内で混合し、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを付加する反応を行うことができる。
【0040】
反応容器としては、例えば、オートクレーブが挙げられる。
【0041】
混合の割合としては、100質量部の化合物3に、化合物2を10~1000質量部混合することが好ましく、50~1000質量部混合することがより好ましく、100~1000質量部混合することが更に好ましく、200~800質量部混合することが特に好ましい。混合割合が上記の範囲であると、化合物2に化合物3の一部又は全部を溶解させることが容易となるとともに、化合物2の使用量を抑えられるため経済的である。
【0042】
エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを付加する反応は、上記の混合物にエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドからなる群より選択される1種以上のアルキレンオキサイド原料を添加することにより行うことができる。
【0043】
ビナフトール系化合物1の収量を高める観点から、アルキレンオキサイド付加反応を開始する前(アルキレンオキサイド原料を添加する前)又は反応中に、化合物3が化合物2に完全に溶解している状態であることが好ましく、アルキレンオキサイド付加反応を開始する前に、化合物3が化合物2に完全に溶解している状態であることがより好ましい。
【0044】
化合物3が化合物2に完全に溶解している状態であるか否かの判断は、目視により確認することができる。なお、不溶の状態であると、白濁がみられる。
【0045】
本実施形態においては、予め、溶媒としての化合物2に対する化合物3の溶解度曲線を作成し、付加反応工程における反応温度(以下、単に「反応温度」ともいう。)に応じて、化合物3が完全に溶解するように化合物2と化合物3との混合割合を設定してもよい。
【0046】
アルキレンオキサイド原料の添加量(仕込み量)は、ビナフトール系化合物1を高純度で得る観点から、化合物3の仕込み量1.00モルに対して、2.00~3.00モルであることが好ましく、2.30~2.70モルであることがより好ましい。
【0047】
反応温度は、特に制限されないが、反応性の観点から、90~150℃であることが好ましく、100~140℃であることがより好ましい。
【0048】
付加反応工程における反応時間は、特に制限されないが、生産性の観点から、2~12時間であることが好ましく、4~10時間であることがより好ましい。
【0049】
付加反応工程における圧力条件は、特に制限されないが、例えば大気圧であってよく、加圧下であってもよい。加圧下である場合、安全性の観点から、1.00MPa以下であることが好ましく、0.50MPa以下であることがより好ましい。
【0050】
付加反応工程は、窒素下、アルゴン下などの不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
【0051】
付加反応工程においては、触媒、化合物2以外の溶媒(その他の溶媒)を共存させてもよい。
【0052】
触媒としては、特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルホスフィン、ピリジン及びN,N-ジメチル-4-アミノピリジン等のジメチルアミノピリジン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0053】
触媒の添加量は、化合物3の仕込み量100質量部に対して、0.01~1.0質量部とすることができる。
【0054】
本実施形態の方法によれば、触媒を使用せずとも、ビナフトール系化合物1を高純度で得ることができる。この場合、反応終了後に触媒を除去する工程が不要となり、ビナフトール系化合物1の製造プロセスの簡略化を図ることができる。
【0055】
その他の溶媒としては、特に制限されないが、例えば、ジメチルグリコール、ジメチルジグリコール、ジメチルトリグリコール、メチルエチルジグリコール、ジエチルジグリコール、ジブチルジグリコール、ジメチルプロピレンジグリコールなどの炭素数1から4のジアルキルグリコールエーテル類。メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノールなどのアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、などの脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素類などが挙げられる。これらは2種以上を併用して用いてもよい。
【0056】
その他の溶媒は、化合物3を溶解させる観点から、ジアルキルグリコールエーテル類、アルコール類及び芳香族炭化水素類であることが好ましく、ジアルキルグリコールエーテル類及び芳香族炭化水素類であることがより好ましい。
【0057】
化合物2と、その他の溶媒との配合割合は、質量比で、化合物2:その他の溶媒=1:0.01~1:10とすることができる。
【0058】
付加反応工程で得られる反応生成物にはビナフトール系化合物1が高純度で含まれる。反応生成物におけるビナフトール系化合物1の純度は、ガスクロマトグラフィー分析によるGC面積%で、60%以上とすることができ、85%以上とすることができ、90%以上とすることができる。
【0059】
得られるビナフトール系化合物1は、ポリアクリレート樹脂などの原料モノマーとして用いられることで、樹脂の光学特性及び耐熱特性を向上させることができる。
【0060】
本実施形態においては、上記工程で得られた反応生成物を精製するための精製工程を更に備えてもよい。精製する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、再結晶等の晶折、クロマトグラフィー及びろ過等が挙げられる。
【0061】
再結晶により精製を行う場合、再結晶に用いる溶媒としては、例えば、炭素数1~4のアルコール、又はその水溶液等が挙げられる。炭素数1~4のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノール等が挙げられる。再結晶に用いる溶媒におけるアルコール濃度は、化合物3を溶解させる観点から、20~80質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。
【0062】
再結晶により精製を行う場合、再結晶に用いる溶媒の使用量は、結晶1質量部に対して2~5質量部であることが好ましい。このような再結晶を行うことで、精製後のビナフトール系化合物1の純度を、ガスクロマトグラフィー分析によるGC面積%で、99%以上にすることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0064】
(実施例1)
1,1’-ビ-2-ナフトール50.0g(0.17モル)及びN,N-ジメチルホルムアミド200.0gを1Lのオートクレーブに仕込んで密閉した。次いで、オートクレーブ内を20~30℃に保ち、オートクレーブ内を窒素により置換した。オートクレーブ内を120℃まで加熱し、1,1’-ビ-2-ナフトールをN,N-ジメチルホルムアミドに完全に溶解させた。次いで、オートクレーブ内の圧力が0.5MPaを超えないように、エチレンオキサイドを19.2g(0.44モル)をオートクレーブ内に導入した。その後、反応温度120℃、反応時間4時間の反応条件でアルキレンオキサイド付加反応を進行させた。反応終了後、オートクレーブの内容物を50℃以下となるまで冷却を行い、266.6gの反応物を得た。
【0065】
(実施例2)
N,N-ジメチルホルムアミドの代わりにN,N-ジメチルアセトアミドを用いたこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、265.9gの反応物を得た。
【0066】
(実施例3)
N,N-ジメチルホルムアミドの仕込み量を200.0gから25.0gに変更し、エチレンオキサイドの仕込み量を19.2g(0.44モル)から18.4g(0.42モル)に変更したこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、92.5gの反応物を得た。
【0067】
(実施例4)
N,N-ジメチルホルムアミドの仕込み量を200.0gから50.0gに変更し、エチレンオキサイドの仕込み量を19.2g(0.44モル)から18.4g(0.42モル)に変更したこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、115.6gの反応物を得た。
【0068】
(実施例5)
N,N-ジメチルホルムアミドの仕込み量を200.0gから75.0gに変更したこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、141.7gの反応物を得た。
【0069】
(実施例6)
N,N-ジメチルホルムアミドの仕込み量を200.0gから100.0gに変更したこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、166.7gの反応物を得た。
【0070】
(実施例7)
1,1’-ビ-2-ナフトール50.0g(0.17モル)及びN,N-ジメチルホルムアミド200.0gに加えて、触媒として水酸化カリウム0.10gを1Lのオートクレーブに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、267.9gの反応物を得た。
【0071】
(実施例8)
1,1’-ビ-2-ナフトール50.0g(0.17モル)及びN,N-ジメチルホルムアミド200.0gに加えて、触媒としてトリエチルアミン0.18gを1Lのオートクレーブに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、267.1gの反応物を得た。
【0072】
(実施例9)
1,1’-ビ-2-ナフトール50.0g(0.17モル)及びN,N-ジメチルホルムアミド200.0gに加えて、触媒としてトリフェニルホスフィン0.46gを1Lのオートクレーブに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、266.8gの反応物を得た。
【0073】
(実施例10)
1,1’-ビ-2-ナフトール50.0g(0.17モル)及びN,N-ジメチルホルムアミド200.0gに加えて、触媒としてN,N-ジメチル-4-アミノピリジン0.21gを1Lのオートクレーブに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、268.0gの反応物を得た。
【0074】
(実施例11)
1,1’-ビ-2-ナフトール50.0g(0.17モル)及びN,N-ジメチルホルムアミド25.0gを1Lのオートクレーブに仕込んで密閉した。次いで、オートクレーブ内を20~30℃に保ち、オートクレーブ内を窒素により置換した。オートクレーブ内を105℃まで加熱し、1,1’-ビ-2-ナフトールをN,N-ジメチルホルムアミドに一部溶解させた。次いで、オートクレーブ内の圧力が0.5MPaを超えないようにエチレンオキサイドを18.4g(0.42モル)をオートクレーブ内に導入した。その後、1,1’-ビ-2-ナフトールがN,N-ジメチルホルムアミドに完全に溶解していることを確認した。次いで、反応温度105℃、反応時間4時間の反応条件でアルキレンオキサイド付加反応を進行させた。反応終了後、オートクレーブの内容物を50℃以下となるまで冷却を行い、91.5gの反応物を得た。
【0075】
(参考例12)
1,1’-ビ-2-ナフトール50.0g(0.17モル)及びN,N-ジメチルホルムアミド5.0gを1Lのオートクレーブに仕込んで密閉した。次いで、オートクレーブ内を20~30℃に保ち、オートクレーブ内を窒素により置換した。オートクレーブ内を120℃まで加熱し、1,1’-ビ-2-ナフトールをN,N-ジメチルホルムアミドに一部溶解させた。次いで、オートクレーブ内の圧力が0.5MPaを超えないようにエチレンオキサイドを19.2g(0.44モル)をオートクレーブ内に導入した。その後、1,1’-ビ-2-ナフトールがN,N-ジメチルホルムアミドに完全に溶解していることを確認した。次いで、反応温度120℃、反応時間4時間の反応条件でアルキレンオキサイド付加反応を進行させた。反応終了後、オートクレーブの内容物を50℃以下となるまで冷却を行い、65.8gの反応物を得た。
【0076】
(比較例1)
1,1’-ビ-2-ナフトール50.0g(0.17モル)、30質量%イソプロパノール水溶液200.0g及び触媒として水酸化カリウム0.10gを1Lのオートクレーブに仕込んで密閉した。次いで、オートクレーブ内を20~30℃に保ち、オートクレーブ内を窒素により置換した。オートクレーブ内を90℃まで加熱し(このとき1,1’-ビ-2-ナフトールは未溶解の状態であることが確認された)、オートクレーブ内の圧力が0.5MPaを超えないようにエチレンオキサイドを19.2g(0.44モル)をオートクレーブ内に導入した。その後、反応温度90℃、反応時間3時間の反応条件でアルキレンオキサイド付加反応を進行させた。反応終了後、オートクレーブの内容物を50℃以下となるまで冷却を行い、258.9gの反応物を得た。
【0077】
(比較例2)
1,1’-ビ-2-ナフトール50.0g(0.17モル)、イオン交換水200.0g、及び触媒として水酸化カリウム0.10gを1Lのオートクレーブに仕込んで密閉した。次いで、オートクレーブ内を20~30℃に保ち、オートクレーブ内を窒素により置換した。オートクレーブ内を100℃まで加熱し(このとき1,1’-ビ-2-ナフトールは未溶解の状態であることが確認された)、オートクレーブ内の圧力が0.5MPaを超えないようにエチレンオキサイドを16.9g(0.38モル)をオートクレーブ内に導入した。その後、反応温度100℃、反応時間10時間の反応条件でアルキレンオキサイド付加反応を進行させた。反応終了後、オートクレーブの内容物を50℃以下となるまで冷却を行い、257.3gの反応物を得た。
【0078】
(比較例3)
1,1’-ビ-2-ナフトール50.0g(0.17モル)、トルエン200.0g、及び触媒として水酸化カリウム0.10gを1Lのオートクレーブに仕込んで密閉した。次いで、オートクレーブ内を20~30℃に保ち、オートクレーブ内を窒素により置換した。オートクレーブ内を150℃まで加熱し、1,1’-ビ-2-ナフトールをトルエンに完全に溶解させた。オートクレーブ内の圧力が0.5MPaを超えないようにエチレンオキサイドを16.9g(0.38モル)をオートクレーブ内に導入した。その後、反応温度150℃、反応時間8時間の反応条件でアルキレンオキサイド付加反応を進行させた。反応終了後、オートクレーブの内容物を50℃以下となるまで冷却を行い、257.9gの反応物を得た。
【0079】
(比較例4)
1,1’-ビ-2-ナフトール25.0g(0.09モル)、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレン100.0g、及び触媒として水酸化カリウム0.06gを1Lのオートクレーブに仕込んで密閉した。次いで、オートクレーブ内を20~30℃に保ち、オートクレーブ内を窒素により置換した。オートクレーブ内を120℃まで加熱し、(このとき1,1’-ビ-2-ナフトールは未溶解の状態であることが確認された)、オートクレーブ内の圧力が0.5MPaを超えないようにエチレンオキサイドを8.5g(0.19モル)をオートクレーブ内に導入した。その後、反応温度120℃、反応時間12時間の反応条件でアルキレンオキサイド付加反応を進行させた。反応終了後、オートクレーブの内容物を50℃以下となるまで冷却を行い、130.5gの反応物を得た。
【0080】
<組成分析>
上記で得られた反応物の組成を、下記の方法に従い分析した。結果を表1~表3に示した。
【0081】
[サンプルの前処理]
上記で得られた反応物30~50mgに対してシリル化剤(トリメチルクロロシラン、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン、ピリジンの混合液、東京化成工業株式会社製、商品名:TMS-HT)1mLを加え、溶液を得た。次いで、70~80℃に加温された湯浴で2~3分間得られた溶液を加熱し、サンプル溶液を得た。
【0082】
[ガスクロマトグラフィーの測定条件]
以下にガスクロマトグラフィーの測定条件を示す。
【0083】
ガスクロマトグラフィー:島津 GC-16A〔(株)島津製作所製〕
キャリアーガス:ヘリウム
メイクアップガス:ヘリウム
メイクアップガス流量:50mL/分
検出器:水素炎イオン化検出器
ヘリウム圧力:1.5kg/cm2
水素圧力:0.6kg/cm2
空気圧力:0.5kg/cm2
カラム:GLサイエンス TC-1(15m×0.25mm I.D. 0.25μm)
カラム温度:180~300℃(昇温速度:15℃/分)
インジェクション温度:320℃
検出器温度:320℃
スプリット比:1:25
サンプル注入量:1μL
【0084】
上記の条件でサンプル溶液のガスクロマトグラフィーによる分析を行い、1,1’-ビ-2-ナフトールの未反応物、1,1’-ビ-2-ナフトールのEO1モル付加物、EO2モル付加物、EO3モル付加物及びEO4モル以上付加物の成分組成を算出した。成分組成は、ガスクロマトグラフィーの全ピーク面積値から溶媒に由来するピーク面積値を除いた値に対する、1,1’-ビ-2-ナフトールの未反応物、1,1’-ビ-2-ナフトールのEO1モル付加物(1EO)、EO2モル付加物(2EO)、EO3モル付加物(3EO)及びEO4モル以上付加物(4EO以上)に由来するピーク面積値の割合をそれぞれ百分率で表したものである。結果を表1~3に示した。
【0085】
表1~表3中で用いられている略称は下記のとおりである。
BINOL:1,1’-ビ-2-ナフトール
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
DMAP:N,N-ジメチル-4-アミノピリジン
AO:アルキレンオキサイド
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
30%IPA:30質量%イソプロパノール水溶液
IEW:イオン交換水
BINOL-1EO:1,1’-ビ-2-ナフトールのEO1モル付加物
BINOL-2EO:2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレン
BINOL-3EO:1,1’-ビ-2-ナフトールのEO3モル付加物
BINOL-4EO以上:1,1’-ビ-2-ナフトールのEO4モル以上付加物
化合物2:上記一般式(2)で表される化合物
化合物3:上記一般式(3)で表される化合物
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
表1及び表2に示されるように、DMF又はDMAcの存在下で、BINOLにEO付加した実施例1~11及び参考例12は、30%IPA、IEW、トルエン又はBINOL-2EOの存在下で、BINOLにEO付加した比較例1~4に比べて、2EOの割合が高くなることが確認された。