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  • 特許-単結晶成長方法 図1
  • 特許-単結晶成長方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】単結晶成長方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20221028BHJP
   C30B 23/08 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/08 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018167063
(22)【出願日】2018-09-06
(65)【公開番号】P2020040843
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】藤川 陽平
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105734671(CN,A)
【文献】特開2019-156660(JP,A)
【文献】特開2015-212207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を収容する内底部と、前記内底部と対向する結晶設置部と、を備える坩堝において、
前記内底部に原料を収容する収容工程と、
前記収容工程の後に、前記結晶設置部からの平面視で、前記原料の表面の少なくとも一部を、メタルカーバイド粉末で被覆する被覆工程と、
前記被覆工程の後に、加熱により前記原料を昇華させ、前記結晶設置部に設置された単結晶を成長させる結晶成長工程と、を有し、
前記被覆工程において、前記メタルカーバイド粉末で被覆する領域が、前記原料の表面の中央領域からなる、単結晶成長方法。
【請求項2】
前記被覆工程において、前記中央領域は、前記原料の表面の中央から20面積%の領域である、請求項1に記載の単結晶成長方法。
【請求項3】
前記被覆工程において、前記メタルカーバイド粉末が原料表面内の最高温度より15℃以上低くなる領域を覆う、請求項1又は2に記載の単結晶成長方法。
【請求項4】
前記メタルカーバイド粉末の粒径が、0.1mm以上2.0mm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の単結晶成長方法。
【請求項5】
前記メタルカーバイド粉末が、タンタルカーバイド粉末である、請求項1~4のいずれか一項に記載の単結晶成長方法。
【請求項6】
前記被覆工程で被覆され、メタルカーバイド粉末からなる被覆領域の平均厚みを1.0mm以上30mm以下とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の単結晶成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
半導体等のデバイスには、SiCウェハ上にエピタキシャル膜を形成したSiCエピタキシャルウェハが用いられる。SiCウェハ上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によって設けられたエピタキシャル膜が、SiC半導体デバイスの活性領域となる。SiCウェハは、SiCインゴットを加工して得られる。
【0004】
SiCインゴットは、昇華再結晶法(以下、昇華法という)等の方法で作製できる。昇華法は、原料から昇華した原料ガスを種結晶上で再結晶化することで、大きな単結晶を得る方法である。高品質なSiCインゴットを得るために、欠陥や異種多形(ポリタイプの異なる結晶が混在すること)を抑制する方法が求められている。
【0005】
特許文献1には、SiC原料の表面にSi原料を添加することで、結晶成長面における原料ガスのCとSiとの比(C/Si比)を制御し、欠陥や異種多形を抑制する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-275166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、結晶成長した単結晶内に異種多形が含まれる場合はあり、異種多形をさらに抑制できる方法が求められていた。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、昇華した原料ガスが、原料表面で再結晶化することを抑制し、結晶成長する単結晶内に異種多形が生じることを抑制できる単結晶成長用坩堝及び単結晶成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、結晶成長後の原料表面に析出物が発生すると、成長した単結晶内に異種多形が発生しやすいことを見出した。析出物は、昇華した原料ガスの一部が原料粉末を核として再結晶化したものと考えられる。そこで、析出物が発生する原料の表面を、SiCが吸着生成しにくいメタルカーバイドで覆うことを検討した。その結果、原料ガスの一部が核成長することを抑制し、析出物の発生が抑制され、結晶成長する単結晶内に異種多形が生じることを抑制できることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかる単結晶成長方法は、原料を収容する内底部と、前記内底部と対向する結晶設置部と、を備える坩堝において、前記内底部に原料を収容する収容工程と、前記収容工程の後に、前記結晶設置部からの平面視で、前記原料の表面の少なくとも一部を、メタルカーバイド粉末で被覆する被覆工程と、前記被覆工程の後に、加熱により前記原料を昇華させ、前記結晶設置部に設置された単結晶を成長させる結晶成長工程と、を有する。
【0011】
(2)上記態様にかかる単結晶成長方法の前記被覆工程において、前記メタルカーバイド粉末で被覆する領域が、前記原料の表面の中央領域を含んでもよい。
【0012】
(3)上記態様にかかる単結晶成長方法の前記被覆工程において、前記メタルカーバイド粉末が前記原料の表面全面を覆ってもよい。
【0013】
(4)上記態様にかかる単結晶成長方法において、前記メタルカーバイド粉末の粒径が、0.1mm以上2.0mm以下であってもよい。
【0014】
(5)上記態様にかかる単結晶成長用坩堝において、前記メタルカーバイド粉末が、タンタルカーバイド粉末であってもよい。
【0015】
(6)上記態様にかかる単結晶成長用坩堝において、前記被覆工程で被覆され、メタルカーバイド粉末からなる被覆領域の平均厚みを1.0mm以上30mm以下としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記態様にかかる単結晶成長用坩堝及び単結晶成長方法によれば、昇華した原料ガスが、原料表面で再結晶化することを抑制し、結晶成長する単結晶内に異種多形が生じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態にかかる単結晶成長方法を説明するための模式図である。
図2】第1実施形態にかかる単結晶成長方法の別の例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
「単結晶成長方法」
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかる単結晶成長方法を説明するための模式図である。まず単結晶成長方法に用いる単結晶成長装置100について説明する。図1に示す単結晶成長装置100は、坩堝10と加熱手段30とを有する。図1では、坩堝10の内部構造を同時に図示する。
【0020】
坩堝10は、内部空間を取り囲む容器である。坩堝10は、内底部11と、内底部11と対向する結晶設置部12と、を備える。内底部11には、原料Mが収容される。結晶設置部12には、種結晶1が設置される。例えば結晶設置部12は、原料M側から見て中央の位置に、円柱状に原料Mに向かって突出している。結晶設置部12には、黒鉛等の炭素材料を用いることができる。
【0021】
加熱手段30は、坩堝10の外周を覆っている。加熱手段30として例えばコイルを用いることができる。コイルの内部に電流を通電すると、坩堝10に誘導電流が生じ、原料Mが加熱される。
【0022】
第1実施形態にかかる単結晶成長方法は、上述の単結晶成長装置100を用いる。以下、単結晶成長装置100を用いた単結晶成長方法について説明する。第1実施形態にかかる単結晶成長方法は、収容工程と、被覆工程と、結晶成長工程とを有する。
【0023】
収容工程では、坩堝10の内底部11に原料Mを収容する。例えば、SiCの粉末原料を内底部11に充填する。原料Mの原料表面Maは、結晶設置部12に対する対称性を高めるために、平坦にならすことが好ましい。収容されるSiC粉末原料の平均粒径は、0.05mm以上1.0mm以下であることが好ましい。
【0024】
被覆工程では、原料Mの原料表面Maの少なくとも一部をメタルカーバイド粉末18で覆う。
【0025】
メタルカーバイト粉末18は、例えば、タンタルカーバイド(TaC)、タングステンカーバイド(WC)、ニオブカーバイド(NbC)、モリブデンカーバイド(MoC)、ハフニウムカーバイド(HfC)等の遷移金属炭化物である。これらの材料は耐熱性、安定性に優れる。またこれらの材料は、原料MよりSiCが吸着生成しにくい材料であり、再結晶化の起点となるSiCの結晶核が生じることを防止できる。原料粒子も再結晶化の起点になりうるが、メタルカーバイド粉末18の被覆により、原料ガスに対して露出することを防止し、再結晶化に伴う析出物の発生が抑制される。
【0026】
メタルカーバイド粉末18の平均粒径は、原料Mを構成するSiC粉末原料の平均粒径より大きいことが好ましい。メタルカーバイド粉末18の平均粒径は、例えば、0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましい。坩堝10内に生じる対流等によりメタルカーバイド粉末が巻き上がることが抑制される。またメタルカーバイド粉末18の間に十分なすき間が確保され、原料Mから昇華した原料ガスが種結晶1に効率的に供給される。
【0027】
メタルカーバイド粉末18は、原料表面Maの中央領域を覆うことが好ましい。中央領域は、原料表面Maの中央から20面積%の領域である。中央領域の平面視形状は、原料表面Maの平面視形状と相似形とする。
【0028】
坩堝10の中央領域の温度は、外周領域より低い。したがって、原料ガスの再結晶化は、外周領域より中央領域で生じやすい。再結晶化が生じやすい中央領域をメタルカーバイド粉末18で被覆し、原料Mが昇華しやすい外周領域をメタルカーバイド粉末18で被覆しないことで、種結晶1に原料ガスを効率的に供給できる。
【0029】
メタルカーバイド粉末18は、原料表面内最高温度より15℃以上低くなる領域を覆っている状態が望ましい。原料表面Maにおいて、原料表面内最高温度よりも20℃以上低い領域ができると原料表面Maに析出物を生じやすくなる。メタルカーバイド粉末18による原料表面Maの被覆面積が高まると、析出防止効果が高まる。一方で、メタルカーバイド粉末18による原料表面Maの被覆面積が高まると、昇華ガスが種結晶側へ出る流れを阻害するおそれがある。求められる仕様に応じてメタルカーバイド粉末の原料表面Maの被覆量は適宜設定できる。
【0030】
メタルカーバイド粉末18は、中央領域より広い範囲を覆っていてもよい。例えば、析出防止部材13は、中心から内底部11の50面積%以上の領域を覆っていることが好ましく、中心から内底部11の80面積%以上の領域を覆っていることがより好ましい。
【0031】
メタルカーバイド粉末18が原料表面Maの一部のみを被覆する場合、仕切り板19を用いて被覆する領域を区分してもよい。仕切り板19を用いることで、原料表面Maの高さ位置と、メタルカーバイド粉末18の表面18aの高さ位置を変えることができる。原料表面Maとメタルカーバイド粉末18の表面18aの高さ位置は一致していても、異なっていてもよい。メタルカーバイド粉末18の表面18aは、原料表面Maから20mm以内の領域にあることが好ましい。メタルカーバイド粉末18の表面18aは原料表面Maより上方(結晶設置部12側)に位置してもよいし、下方(内底部11側)に位置してもよい。
【0032】
またメタルカーバイド粉末18は、図2に示すように、原料Mの表面全面を覆ってもよい。メタルカーバイド粉末18の間の隙間を通って、原料Mから昇華した原料ガスが種結晶1に到達する。
【0033】
メタルカーバイド粉末18からなる被覆領域の平均厚みは1.0mm以上30mm以下であることが好ましい。被覆領域の平均厚みを所定の範囲にすることで、原料ガスを種結晶1に効率的しつつ、原料ガスの原料表面Maでの再結晶化を抑制できる。
【0034】
メタルカーバイド粉末18の表面は、平坦にならしてもよいし、坩堝10の中央に向かって凸の山型形状でもよい。
【0035】
次いで、原料Mと対向する位置の結晶設置部12に種結晶1を設置する。種結晶1の設置は、原料Mを収容する前でも収容後でもよい。種結晶1及び原料Mを収容後に、坩堝10を密閉する。
【0036】
結晶成長工程では、加熱手段30によって加熱する。例えば、コイルに通電する。コイルからの誘導電流が坩堝10に生じ発熱する。坩堝10により加熱された原料Mは昇華し、種結晶1の表面で再結晶化し、種結晶1が結晶成長する。
【0037】
第1実施形態にかかる単結晶成長方法によれば、昇華した原料ガスが、原料表面Maで再結晶化することを抑制でき、結晶成長する単結晶内に異種多形が生じることを抑制できる。
【0038】
坩堝10はコイル30により外側から加熱される。坩堝10の中央領域の温度は外側より低い。坩堝10内に収容された原料Mの昇華は坩堝10の外周領域で主に生じる。外周領域とは、坩堝10の内部で中央領域より外側の領域を意味する。メタルカーバイド粉末18がない場合、外周領域で昇華した原料ガスの一部は、中央領域に位置する原料粒子を核に結晶成長する。原料粒子を核に再結晶化したものが、結晶成長後の原料表面に析出物として残存する。安定的に単結晶成長させるためには、成長空間内の昇華ガスのC/Si比を安定させる必要がある。原料面の析出現象はこのC/Si比を不安定化させ、異種多形発生の原因になると考えられる。
【0039】
これに対し、メタルカーバイド粉末18が原料表面Maを被覆すると、析出物の発生が抑制される。メタルカーバイド粉末18は、SiCが吸着生成しにくいメタルカーバイドからなる。そのため、昇華した原料ガスがメタルカーバイド粉末18上で再結晶化することも抑制される。つまり、第1実施形態にかかる単結晶成長装置100は、析出物の発生を抑制し、結晶成長する単結晶内に異種多形が生じることを抑制する。
【0040】
またメタルカーバイド粉末18からなる被覆領域の大きさは、自由に調整できる。部材の場合、大サイズの加工等の制約があるが、粉末の場合、制約が少ない。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施の形態の一例について詳述したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例
【0042】
「実施例1」
まず内部に円柱状の内部空間が設けられた結晶成長用坩堝を準備した。そして、結晶成長用坩堝の内底部に原料として粉末状態のSiC粉末原料を充填した。次いで、充填したSiC粉末原料上に、タンタルカーバイド粉末を設置した。タンタルカーバイド粉末は、原料の中央領域を被覆していた。
【0043】
そして結晶設置部に4H-SiCの種結晶を設置して、6インチのSiCインゴットを結晶成長させた。作製されたSiCインゴットは、全て4H-SiCであり、異種多形を含まなかった。また設置したタンタルカーバイド粉末上に析出物は確認されなかった。
【0044】
「比較例1」
比較例1では、タンタルカーバイド粉末を用いなかった点が実施例1と異なる。すなわち、原料表面を被覆せずに、SiCインゴットを結晶成長させた。その他の条件は、実施例1と同様にして単結晶の結晶成長を行った。
【0045】
作製されたSiCインゴットは、4H-SiCの中に6H-SiCおよび菱面体晶の15R-SiCの異種多形が含まれていた。また原料表面に多数の析出物が確認された。
【符号の説明】
【0046】
1 種結晶
10 容器
11 内底部
12 結晶設置部
18 メタルカーバイド粉末
18a 表面
19 仕切り板
30 コイル
100 単結晶成長装置
M 原料
Ma 原料表面
図1
図2