(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】電動機、圧縮機、および冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
H02K 3/46 20060101AFI20221028BHJP
【FI】
H02K3/46 B
(21)【出願番号】P 2018179666
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】妙摩 欣弘
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0175992(US,A1)
【文献】特開2013-138585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/00- 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の固定子と、
前記固定子の内側に配置される回転子と、を備え、
前記固定子は、
筒状のヨーク、および前記ヨークの内側へ突出し、かつ間隔を隔てて周方向へ並ぶ複数のティースを有する鉄心と、
前記鉄心のそれぞれの端面に設けられる複数の絶縁端板と、
前記ティースのそれぞれと前記絶縁端板との間に巻き付けられる巻線と、を有し、
前記絶縁端板は、前記鉄心の端面側に突出する突起を有し、
前記鉄心は、前記突起が嵌め込まれる収容部を有し、
前記絶縁端板の前記突起は、前記突起の突出方向に延びる細隙で分割され
、
前記鉄心の前記収容部は、一方の端面から他方の端面まで貫通する貫通孔であり、
前記突起は、前記鉄心の前記貫通孔に通じる第二孔を有している電動機。
【請求項2】
前記第二孔の開口径は、前記細隙の幅よりも大きい請求項
1に記載の電動機。
【請求項3】
前記鉄心は、前記ヨークの内周面、かつ隣り合う前記ティースの間の部分に、前記鉄心の径方向外側へ向かって窪む凹部を有し、
隣り合う前記ティースおよび前記凹部に倣う絶縁シートを備える請求項
1または2に記載の電動機。
【請求項4】
密閉容器と、
前記密閉容器に収容され、冷媒を圧縮可能な圧縮機構部と、
前記密閉容器に収容され、かつ前記圧縮機構部を駆動させる前記請求項
1から3のいずれか1項に記載される電動機と、を備える圧縮機。
【請求項5】
請求項
4に記載される圧縮機と、放熱器と、膨張装置と、吸熱器と、前記圧縮機、前記放熱器、前記膨張装置、および前記吸熱器を接続して冷媒を流通させる冷媒配管と、を備える冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機、圧縮機、および冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄心に設けられる凹部と、絶縁部材に設けられて固定子の凹部に嵌め込み可能な凸部と、を備える電動機が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄心の凹部と絶縁部材の凸部との嵌め合いは、凹部に凸部を挿入する際に必要になる挿入力と、凹部に嵌め込まれた凸部によって一体化された鉄心と絶縁部材との保持力と、に影響する。挿入力が小さいほど鉄心と絶縁部材との組立は容易であり、保持力が大きいほど一体化された鉄心と絶縁部材とに巻線を容易に巻き付けられる。
【0005】
しかしながら、挿入力が小さすぎれば、巻線の巻き付けに支障のない保持力を得ることが難しくなり、挿入力が大きすぎれば、鉄心の凹部によって絶縁部材の凸部が削られてしまう(凸部が細くなる)。削られた凸部の屑は、電動機や圧縮機の動作に好ましくない。
【0006】
換言すると、従来の電動機の凹部と凸部との組合せでは、挿入力と保持力とを両立させることが困難だった。
【0007】
そこで、本発明は、鉄心と絶縁部材とを組み合わせる凹部と凸部との挿入力と保持力とを適宜に両立可能な電動機、圧縮機、および冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するため本発明の実施形態に係る電動機は、筒状の固定子と、前記固定子の内側に配置される回転子と、を備え、前記固定子は、筒状のヨーク、および前記ヨークの内側へ突出し、かつ間隔を隔てて周方向へ並ぶ複数のティースを有する鉄心と、前記鉄心のそれぞれの端面に設けられる複数の絶縁端板と、前記ティースのそれぞれと前記絶縁端板との間に巻き付けられる巻線とを有し、前記絶縁端板は、前記鉄心の端面側に突出する突起を有し、前記鉄心は、前記突起が嵌め込まれる収容部を有し、前記絶縁端板の前記突起は、前記突起の突出方向に延びる細隙で分割され、前記鉄心の前記収容部は、一方の端面から他方の端面まで貫通する貫通孔であり、前記突起は、前記鉄心の前記貫通孔に通じる第二孔を有している。
【0009】
また、本発明の実施形態に係る圧縮機は、密閉容器と、前記密閉容器に収容され、冷媒を圧縮可能な圧縮機構部と、前記密閉容器に収容され、かつ前記圧縮機構部を駆動させる前記電動機と、を備えている。
【0010】
さらに、本発明の実施形態に係る冷凍サイクル装置は、前記圧縮機と、放熱器と、膨張装置と、吸熱器と、前記圧縮機、前記放熱器、前記膨張装置、および前記吸熱器を接続して冷媒を流通させる冷媒配管とを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る冷凍サイクル装置の概略的な図。
【
図2】本発明の実施形態に係る電動機の固定子の分解斜視図。
【
図3】本発明の実施形態に係る電動機の固定子の平面図。
【
図4】本発明の実施形態に係る電動機の突起を径方向外側から見た図。
【
図5】本発明の実施形態に係る電動機の突起を軸方向から見た図。
【
図6】本発明の実施形態に係る電動機の鉄心のスロットおよび絶縁シートを軸方向から見た図。
【
図7】本発明の実施形態に係る電動機の鉄心のスロットおよび絶縁シートを軸方向から見た図。
【
図8】本発明の実施形態に係る電動機の固定子の部分的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る電動機、圧縮機、および冷凍サイクル装置の実施形態について
図1から
図8を参照して説明する。なお、複数の図面中、同じまたは相当する構成には同一の符号が付されている。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る冷凍サイクル装置の概略的な図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1は、密閉型の圧縮機2と、放熱器3と、膨張装置5と、吸熱器6と、アキュームレーター7と、冷媒配管8と、を備えている。冷媒配管8は、圧縮機2と放熱器3と膨張装置5と吸熱器6とアキュームレーター7とを順次に接続して冷媒を流通させる。
【0015】
圧縮機2は、冷媒配管8を通じて吸熱器6を通過した冷媒を吸い込み、圧縮し、冷媒配管8を通じて高温高圧の冷媒を放熱器3へ吐き出す。
【0016】
圧縮機2は、縦置きされる円筒状の密閉容器11と、密閉容器11内の上半部に配置される電動機12と、密閉容器11内の下半部に配置される圧縮機構部13と、電動機12の回転駆動力を圧縮機構部13へ伝達する回転軸15と、回転軸15を回転自在に支持する主軸受16と、主軸受16と協働して回転軸15を回転自在に支持する副軸受17と、を備えている。
【0017】
密閉容器11は、上下方向に延びる円筒形状の胴部11aと、胴部の上端部を塞ぐ半球状または楕円状の鏡板11bと、胴部の下端部を塞ぐ半球状または楕円状の鏡板11cと、を備えている。
【0018】
密閉容器11の上側の鏡板11bには、冷媒の吐出用の吐出管8aが接続されている。吐出管8aは冷媒配管8に繋がれている。また、密閉容器11の上側の鏡板11bには、電力供給用の密封端子部18が設けられている。
【0019】
電動機12は、圧縮機構部13を回転させる駆動力を発生させる。電動機12は、例えばDCブラシレスモーターである。電動機12は密閉容器11の内壁に固定される筒状の固定子21と、固定子21の内側に配置され、かつ回転軸15に固定される回転子22と、固定子21から引き出されて密封端子部18に接続される複数の口出し線23と、を備えている。
【0020】
回転子22は、磁石収容孔(図示省略)を有する回転子鉄心25と、磁石収容孔に収容される永久磁石と、を備えている。回転子22は、固定子21に対して回転可能であり、かつ回転軸15に支持されている。回転子22および回転軸15の回転中心線Cは、実質的に固定子21の中心線Pに一致している。
【0021】
複数の口出し線23は、密封端子部18を通じて固定子21に電力を供給する配線であり、いわゆるリード線である。口出し線23は、電動機12の種類に応じて複数配線される。本実施形態では3本の口出し線23が配線されている。
【0022】
回転軸15は、電動機12と圧縮機構部13とを連結している。回転軸15は、電動機12が発生させる回転駆動力を圧縮機構部13に伝達する。
【0023】
回転軸15の中間部分15aは、電動機12と圧縮機構部13とを繋ぎ、主軸受16によって回転可能に支持されている。回転軸15の下端部分15bは、副軸受17によって回転可能に支持されている。主軸受16および副軸受17は、圧縮機構部13の一部でもある。換言すると、回転軸15は、圧縮機構部13を貫通している。
【0024】
また、回転軸15は、主軸受16に支持されている中間部分15aと副軸受17に支持されている下端部分15bとの間に、偏心部26を備えている。偏心部26は、回転軸15の回転中心線に不一致な中心を有する円盤、あるいは円柱である。
【0025】
圧縮機構部13は、冷媒、つまり単一冷媒または混合冷媒を圧縮することができる。電動機12が回転軸15を回転駆動することによって、圧縮機構部13は、冷媒配管8からガス状の冷媒を吸込んで圧縮し、かつ密閉容器11内に吐出する。
【0026】
圧縮機構部13は、円形のシリンダー室31を有するシリンダー32と、シリンダー室31内に配置される環状のローラー33と、を備えている。
【0027】
シリンダー32は、密閉容器11に複数箇所で溶接、例えばスポット溶接によって固定されている。シリンダー32は、密閉容器11内に圧縮機構部13の全体を支えている。
【0028】
シリンダー室31は、シリンダー32の内側の空間であって、主軸受16および副軸受17によって閉鎖されている。シリンダー室31は、回転軸15の偏心部26を収容している。
【0029】
主軸受16は、ボルトなどの締結部材34によってシリンダー32に固定されている。主軸受16には、シリンダー室31内で圧縮された冷媒を吐出する吐出弁機構(図示省略)と、吐出弁機構に覆い被さる吐出マフラー35と、が設けられている。吐出弁機構は、シリンダー室31に接続されている。吐出弁機構は、圧縮機構部13の圧縮作用にともないシリンダー室31内の圧力と吐出マフラー35内の圧力との圧力差が所定値に達したときに吐出ポートを開放して、圧縮された冷媒を吐出マフラー35内に吐出する。吐出マフラー35は、吐出マフラー35の内外を繋ぐ吐出孔(図示省略)を有している。吐出マフラー35内に吐出された圧縮冷媒は、吐出孔を通じて密閉容器11内へ吐出される。
【0030】
副軸受17は、ボルトなどの締結部材36によってシリンダー32に固定されている。
【0031】
ローラー33は、偏心部26の周面に嵌合されてシリンダー室31内に収容され、外周面の一部をシリンダー室31の内周面に線接触させている。ローラー33は、回転軸15の回転にともなって、外周面の一部をシリンダー室31の内周面に線接触させながら偏心運動する。
【0032】
なお、ローラー33とシリンダー32との接触は直接的な接触ではなく、潤滑油39の油膜(図示省略)を介在させた間接的なものであるが、説明の便宜のために、これら油膜を介した接触を単に「接触」と表現する。ローラー33と偏心部26との間、ローラー33と主軸受16との間、およびローラー33と副軸受17との間も同じである。
【0033】
吸込管7aは、密閉容器11を貫いて、シリンダー32のシリンダー室31に接続されている。シリンダー32には、吸込管7aに繋がってシリンダー室31に到達する吸込孔(図示省略)が設けられている。
【0034】
圧縮機構部13は、密閉容器11に収容され、密閉容器11の下部に配置されている。密閉容器11の下部は潤滑油39で満たされている。そして、圧縮機構部13の大部分は、密閉容器11内の潤滑油39中に浸されている。
【0035】
次いで、電動機12の固定子21について詳しく説明する。
【0036】
図2は、本発明の実施形態に係る電動機の固定子の分解斜視図である。
【0037】
図3は、本発明の実施形態に係る電動機の固定子の平面図である。
【0038】
図2および
図3に示すように本実施形態に係る電動機12の固定子21は、筒状のヨーク41(いわゆる継鉄)、およびヨーク41の内側へ突出し、かつ間隔を隔てて周方向へ並ぶ複数のティース42を有する固定子鉄心43と、固定子鉄心43のそれぞれの端面43a、43bに設けられる複数の絶縁端板45A、45Bと、複数の絶縁シート47と、ティース42のそれぞれと絶縁端板45A、45Bとの間に巻き付けられる巻線48と、を備えている。
【0039】
固定子21は、例えば3相、9スロットの固定子である。巻線48は、ティース42毎に集中的に巻き付けられている。つまり、巻線48は、いわゆる集中巻きである。
【0040】
【0041】
また、固定子21の中心線P(実質的に回転子22の回転中心線Cに一致している)の方向を「軸方向」と呼ぶ。また、固定子21の中心線Pに直行する平面において、固定子21の中心線Pを通る方向を「径方向」と呼び、固定子21の中心線Pを中心とする円周方向を「周方向」と呼ぶ。
【0042】
固定子鉄心43は、軸方向に積層され、かつ一体化された複数の薄板(図示省略)を有している。薄板は、プレス等で打ち抜かれた電磁鋼板である。固定子鉄心43は、軸方向の両端に平行な一対の端面43a、43bを有している。一方の端面43aには、絶縁端板45Aが設けられ、他方の端面43bには、絶縁端板45Bが設けられている。
【0043】
筒状のヨーク41の中心線は、固定子21の中心線Pに一致している。
【0044】
それぞれのティース42は、ヨーク41から径方向内側に延びている。それぞれのティース42は、ヨーク41から径方向内側へ向かって延びるティース基部42aと、ティース基部42aの先端側に設けられて周方向へ延びるティース先端部42bと、を有している、ティース先端部42bは、ヨーク41の内側、つまり固定子21を臨むティース先端面42cを有している。
【0045】
ティース先端面42cは、固定子21の中心線Pを中心とする円弧形状に形成されている。回転子22は、複数のティース先端面42cによって画定される回転子収容空間43a内に配置されている。回転子22の外周面とティース先端面42cとの間には、空隙が隔てられている。
【0046】
ヨーク41、および周方向に隣接する2つのティース42は、スロット43bを画定している。スロット43bは、隣接する2つのティース42のティース先端部42bの間にスロット開口部を有している。
【0047】
また、固定子鉄心43は、固定子鉄心43の一方の端面43aから他方の端面43bまで貫通する貫通孔である第一孔49を有している。第一孔49は、固定子鉄心43の外周縁部、かつティース42の根元部分に配置されている。第一孔49は、固定子21の中心線Pに実質的に平行に延びている。
【0048】
絶縁シート47は、スロット43bに挿入されている。絶縁シート47は、例えばポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)をシート状に形成したものである。絶縁シート47は、固定子鉄心43の端面43a、43bから軸方向に突出している。そのため、絶縁シート47は、固定子鉄心43の端面43aと絶縁端板45Aとの境界部分、および固定子鉄心43の端面43bと絶縁端板45Bとの境界部分における絶縁不良を防止することができる。
【0049】
なお、
図2では、ある1つのスロット43bに設けられた絶縁シート47が代表して図示され、他のスロット43bに設けられた絶縁シート47は省略されている。
【0050】
絶縁端板45A、45Bは、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer、Liquid Crystal Plastic、LCP、半・全芳香族ポリエステル)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)の一体成型品である。絶縁端板45A、45Bは同じ構成を有している。そこで、以下の説明では絶縁端板45Bの説明は省略し、絶縁端板45Aについて説明する。
【0051】
絶縁端板45Aは、環状の外壁部材51と、外壁部材51の内側に配置され、かつ間隔を空けて周方向へ並ぶ複数の内壁部材52と、外壁部材51とそれぞれの内壁部材52を連結する複数の連結部材53と、を備えている。
【0052】
外壁部材51は、径方向に薄く、軸方向に延び、かつ周方向にひと続きのリングである。
【0053】
それぞれの内壁部材52は、径方向に薄く、軸方向および周方向へ延びる円弧状の板体である。複数の内壁部材52は、環状に並んでいる。
【0054】
連結部材53は、外壁部材51の内周面と内壁部材52の径方向外側の面との間に架け渡されている。
【0055】
外壁部材51、内壁部材52、連結部材53は、巻線48の端部を収容する空間を区画している。
【0056】
また、絶縁端板45Aは、固定子鉄心43の端面43aに接する端面(図示省略)を有している。絶縁端板45Aの端面は、外壁部材51、内壁部材52、および連結部材53に跨がっている。
【0057】
複数の内壁部材52の径方向内側の面52a(内周面52a)に画定される空間45aは、固定子鉄心43の回転子収容空間43aに対向している。外壁部材51、隣接する2つの内壁部材52および連結部材53によって画定される空間45bは、固定子鉄心43のスロット43bに対向している。
【0058】
絶縁端板45Aの外壁部材51、内壁部材52、および連結部材53は、それぞれ固定子鉄心43のヨーク41、ティース42のティース先端部42b、およびティース基部42aに隣合わさるように配置される。
【0059】
なお、内壁部材52の内周面52aは、ティース42のティース先端面42cより回転子22側、つまり径方向内側に突出しない。また、外壁部材51の径方向外側の面51a(外周面51a)は、ヨーク41の外周面41aより外側、つまり径方向外側突出しない。
【0060】
ティース42のティース先端面42cは、固定子鉄心43の内周面に対応する。ヨーク41の外周面41aは、固定子鉄心43の外周面に対応する。内壁部材52の内周面52aは、絶縁端板45Aの内周面に対応する。外壁部材51の外周面51aは、絶縁端板45Aの外周面に対応する。
【0061】
巻線48は、集中巻き方式により、固定子鉄心43のティース42のティース基部42aと絶縁端板45Aの連結部材53、絶縁端板45Bの連結部材53に巻き付けられている。
【0062】
また、固定子21は、絶縁端板45Aを固定子鉄心43に位置決めする位置決機構55を備えている。
【0063】
位置決め機構55は、絶縁端板45Aの外壁部材51、内壁部材52、および連結部材53が、固定子鉄心43のヨーク41、ティース先端部42b、およびティース基部42aに隣り合うように、絶縁端板45Aを固定子鉄心43に位置決めする。
【0064】
位置決め機構55は、絶縁端板45A、45Bのそれぞれに設けられ、絶縁端板45A、45Bのそれぞれと固定子鉄心43との位置関係を定める突起61と、固定子鉄心43に設けられて、絶縁端板45A、45Bの突起61が嵌め込まれる収容部である第一孔49と、を備えている。なお、固定子鉄心43の収容部である第一孔49は、貫通孔でなくても良い。
【0065】
第一孔49と突起61との形状は、突起61を第一孔49に嵌合可能な限り、種々の形状に設定することができる。位置決め機構55は、複数あれば良い。
【0066】
第一孔49が固定子鉄心43における磁束の流れを妨げないよう、位置決め機構55が配置されていることが好ましい。例えば、第一孔49は、ヨーク41を貫通していることが好ましい。また、第一孔49の中心は、ティース42を周方向へ二等分する仮想的な面に配置されていることが好ましい。
【0067】
突起61は、絶縁端板45Aの外壁部材51の外周面に設けられ、径方向外側へ延びる片持ち状の支持部62(いわゆるブラケット)から突出している。支持部62は、絶縁端板45Aの外壁部材51に一体成形されている。突起61は、絶縁端板45Aの端面45cから軸方向に突出している。
【0068】
次いで、絶縁端板45A、45Bの突起61について詳しく説明する。
【0069】
図4は、本発明の実施形態に係る電動機の突起を径方向外側から見た図である。
【0070】
図5は、本発明の実施形態に係る電動機の突起を軸方向から見た図である。
【0071】
なお、
図4は、
図2における実線矢印Aの方向へ突起61を見た図である。
図5は、
図4における実線矢印Bの方向へ突起61を見た図である。
【0072】
図4および
図5に示すように、本実施形態に係る電動機12の突起61は、突起61の突出方向に延びる細隙63で複数に分割されている。
【0073】
本実施形態に係る突起61は、細隙63によって二等分されている。細隙63は、突起61を固定子21の周方向へ分割している。つまり、細隙63は、突起61の突出長さの全長に渡り、かつ固定子21の径方向に延びている。
【0074】
なお、突起61は、3つ以上に分割されていても良い。このとき、突起61の分割の態様は、固定子鉄心43と絶縁端板45A、45Bとの周方向における位置ずれよりも、固定子鉄心43と絶縁端板45A、45Bとの同心度を優先することが好ましい。
【0075】
突起61は、細隙63によって軸径を弾性的に変化させることができる。つまり、突起61は、固定子鉄心43の第一孔49に嵌め込まれる際に、挿入に無理のない軸径に変形することができる。また、突起61は、固定子鉄心43の第一孔49に嵌め込まれた後には、挿入時に生じた変形に起因する復元力を第一孔49から突起61が抜け出すことを防ぐ抵抗力に変換させ、固定子鉄心43と絶縁端板45Aとの結合力を向上させる。換言すると、細隙63を有する突起61は、突起61の第一孔49への挿入力を低減し、かつ位置決め機構55の保持力を向上させる。
【0076】
さらに、位置決め機構55は、第一孔49に挿入される突起61の屑(樹脂の屑、絶縁端板45Aの屑)の発生を抑制できる。
【0077】
支持部62は、突起61の根元部61aの周りに、絶縁端板45Aの端面45cよりも窪んだ凹部65を有している。凹部65は、第一孔49の開口縁(エッジ)と突起61の根元部61aとの接触に起因する絶縁端板45Aと固定子21との間の隙間の発生を防止する。
【0078】
凹部65は、突起61の径方向に、実質的に一様な隙間を隔てる環状溝である。そのため、凹部65は、突起61を支持する支持部62の強度および剛性に実質的な影響を及ぼさない。
【0079】
突起61の細隙63は、凹部65に達している。そのため、突起61は、固定子鉄心43の第一孔49に嵌め込まれる部分、つまり凹部65の外側に突出している部分を、第一孔49に適合するように突起61の軸径を容易に変化させることができる。
【0080】
突起61は、固定子鉄心43の第一孔49に通じる第二孔67を有している。第二孔67は、突起61を突出方向に貫き、突起61の中心を通っている。第二孔67は、突起61および支持部62を貫いている。つまり、密閉容器11の下方側から順に、絶縁端板45Bの第二孔67、固定子鉄心43の第一孔49、および絶縁端板45Aの第二孔67は、固定子21の下方領域(圧縮機構部13が配置されている領域)と固定子21の上方領域(密閉容器11の上側の鏡板11bの内面を望む領域)とを繋いでいる。
【0081】
ところで、第二孔67は、固定子21の下方領域と上方領域とを繋ぐ冷媒の流通路の一部である一方、突起61を貫く構造上、突起61が嵌め込まれる固定子鉄心43の第一孔49よりも流路断面積(開口径)が小さくならざるを得ない。そこで、第二孔67の開口径dは、細隙63の幅Wよりも大きい。そのため、第二孔67は、固定子21の下方領域と上方領域との間の圧力損失を低減させて、圧縮機構部13から吐出された冷媒を、圧縮機2の吐出管8aへより多く流通させることができる。
【0082】
なお、突起61の先端部は、先細ったテーパ形状を有している。そのため、突起61を固定子鉄心43の第一孔49に嵌め込む際に、突起61を第一孔49に容易に差し込むことができる。
【0083】
また、絶縁端板45Aが樹脂の一体成型品の場合には、突起61は、その全長に渡って先細っていることが好ましい。
【0084】
次いで、固定子鉄心43および絶縁シート47について詳しく説明する。
【0085】
図6および
図7は、本発明の実施形態に係る電動機の鉄心のスロットおよび絶縁シートを軸方向から見た図である。
【0086】
図6は、固定子21に巻線48が巻き付けられる前の状態を概略的に示し、
図7は、固定子21に巻線48が巻き付けられた後の状態を概略的に示している。
【0087】
図6および
図7に示すように、本実施形態に係る電動機12の固定子鉄心43は、ヨーク41の内周面41b、かつ隣り合うティース42の間の部分に、固定子鉄心43の径方向外側へ向かって窪む凹部71を有している。つまり、凹部71は、スロット43bを画定する壁面のうち、ヨーク41の内周面41bに設けられている。凹部71は、スロット43bのスロット開口部へ向かって開放されている。また、凹部71を周方向へ二等分する仮想的な線分は、スロット43bを周方向へ二等分する仮想的な線分に一致している。換言すると、軸方向から見た凹部71は、スロット43bを周方向へ二等分する仮想的な線分を中心にして、両脇のティース42へ向かって窪んでいる。
【0088】
また、凹部71は、固定子鉄心43の一方の端面43aから他方の端面43bに達している。
【0089】
絶縁シート47は、隣り合うティース42、および凹部71を含むヨーク41の内周面41bに倣っている。
【0090】
ここで、固定子21に巻線48が巻き付けられる前の状態(
図6)では、絶縁シート47は、凹部71の壁面に接触するように、極力、凹部71の奥(底)へ倣った状態で配置される。
【0091】
そして、固定子21に巻線48を巻き付けると(
図7)、絶縁シート47には、ティース42へ引き付けられる、または押し付けられるような力Fが作用する(
図7中の実線矢印F)。この力Fの分力Fyは、ある1つの絶縁シート47を、径方向内側(スロット43bのスロット開口部の方向)へ引き込むように作用する。
【0092】
このとき、凹部71のない従来の電動機では、絶縁シートのうち、巻線に押さえ付けられていない部位、つまりヨークの内周面に倣っている部位は、径方向内側(スロットのスロット開口部の方向)へ引き込まれてヨークの内周面から離れてしまう(
図7中に二点鎖線で示す絶縁シートPA)。ヨークの内周面から離れた絶縁シートPAは、巻線の巻き付けに用いられる工具、例えば巻線ノズルの移動を妨げ、巻線の品質を低下させる。また、ヨークの内周面から離れた絶縁シートPAは、巻線から作用する力Fによって引き伸ばされて薄くなる可能性がある。薄くなった絶縁シートPAは、絶縁耐力を低下させる。
【0093】
そこで、本実施形態に係る固定子21は、凹部71と、凹部71に倣う絶縁シート47を備えている。換言すると、本実施形態に係る絶縁シート47は、凹部71に倣う部分を、いわゆる弛みを備えている。この絶縁シート47の弛み(凹部に倣う部分)は、巻線48をティース42に巻き付けることで絶縁シート47に作用する力Fによって、絶縁シート47がヨーク41の内周面41bから離れてしまうことを防ぐ。また、絶縁シート47の弛み(凹部に倣う部分)は、力Fによって絶縁シート47が引き伸ばされて薄肉化してしまうことを防いでいる。つまり、本実施形態に係る固定子21では、ヨーク41の内周面41bから離れた絶縁シート47が、巻線48を巻き付けに用いられる工具(図示省略)、例えば巻線ノズルの移動を妨げることがない。また、絶縁シート47が薄くなって、絶縁耐力が低下することもない。
【0094】
なお、ヨーク41における磁束の流れを妨げないよう、径方向における凹部71の深さは、小さい(浅い)ことが好ましい。凹部71は、力Fによって絶縁シート47の弛み部分が凹部71の外側へ移動することのない深さ寸法を有していることが好ましい。
【0095】
次いで、絶縁端板45A、45Bおよび絶縁シート47について詳しく説明する。
【0096】
図8は、
図3のVIII-VIII線における、本発明の実施形態に係る電動機の固定子の部分的な断面図である。
【0097】
図8に示すように、本実施形態に係る電動機12の絶縁端板45Aは、絶縁シート47を保持する保持部72を備えている。
【0098】
保持部72は、固定子鉄心43の端面43aから突出している絶縁シート47の突出部分47aを保持している。具体的には、保持部72は、突出部分47aを差し込む凹部75を有している。凹部75は、絶縁端板45Aの端面45c(固定子鉄心43の端面43a)に開口し、軸方向へ固定子鉄心43から離れるように窪んでいる。
【0099】
また、保持部72は、固定子鉄心43のヨーク41に設けられる凹部71の軸方向における延長上に配置されている。周方向における保持部72の幅、つまり、凹部71で保持する絶縁シート47の幅は、凹部71の幅と実質的に同じであっても良いし、凹部71よりも幅広であっても良いし、凹部71よりも幅狭であっても良い。
【0100】
保持部72は、巻線48をティース42に巻き付けることで絶縁シート47に作用する力Fによって、絶縁シート47がヨーク41の内周面41bから離れてしまうことを防ぐ。特に、保持部72は、絶縁シート47の突出部分47aを保持しておくことで、絶縁シート47に作用する力Fによって、絶縁シート47が固定子鉄心43の凹部71の外側へ移動することを妨げる。
【0101】
このように本実施形態に係る冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、一方の端面43aから他方の端面43bへ達する第一孔49を有する固定子鉄心43と、第一孔49に挿入されて絶縁端板45A、45Bと固定子鉄心43との位置関係を定める突起61を有する絶縁端板45A、45Bと、を備えている。そして、突起61は、突起61の突出方向に延びる細隙63で分割されている。細隙63で分割された突起61は、弾性的に軸径を変形させることができる。そのため、軸径を弾性的に変化させることができない従来の突起と比べて、本実施形態に係る突起61は、第一孔49に嵌め込まれる際に必要な力(挿入力)を低下させ、かつ第一孔49に対する保持力を向上させることができる。また、軸径を弾性的に変化させることができない従来の突起と比べて、突起61は、第一孔49に嵌め込まれる際に軸径を適宜に変形させるため、屑(削れ屑)が発生しにくい。
【0102】
また、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、固定子鉄心43の第一孔49に通じる第二孔67を有する突起61を備えている。そのため、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、固定子21の軸方向の両端面43a、43b間で通気のための通路断面積を増大させることができる。このことは、電動機12を圧縮機2に適用する際には、圧縮機構部13と吐出管8aとの間の圧力損失を低減させることに寄与する。
【0103】
さらに、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、細隙63の幅よりも大きい開口径の第二孔67を有している。そのため、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、固定子21の軸方向の両端面43a、43b間で通気のための通路断面積をさらに増大させることができる。
【0104】
また、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、ヨーク41の内周面41b、かつ相互に隣り合うティース42の間の部分に、固定子鉄心43の径方向外側へ向かって窪む凹部71と、隣り合うティース42および凹部71に倣う絶縁シート47と、を備えている。そのため、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、巻線48をティース42に巻き付けることによって生じる力Fによる、径方向内側向きの絶縁シート47の変形を低減する。つまり、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、巻線48の品質の低下、および絶縁耐力の低下を防ぐことができる。
【0105】
したがって、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12によれば、固定子鉄心43と絶縁端板45A、45Bとを組み合わせる第一孔49と突起61との挿入力と保持力とを適宜に両立できる。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0107】
1…冷凍サイクル装置、2…圧縮機、3…放熱器、5…膨張装置、6…吸熱器、7…アキュームレーター、7a…吸込管、8…冷媒配管、8a…吐出管、11…密閉容器、11a…胴部、11b…鏡板、11c…鏡板、12…電動機、13…圧縮機構部、15…回転軸、15a…中間部分、15b…下端部分、16…主軸受、17…副軸受、18…密封端子部、21…固定子、22…回転子、23…口出し線、25…回転子鉄心、26…偏心部、31…シリンダー室、32…シリンダー、33…ローラー、34…締結部材、35…吐出マフラー、36…締結部材、39…潤滑油、41…ヨーク、41a…ヨークの外周面、41b…ヨークの内周面、42…ティース、42a…ティース基部、42b…ティース先端部、42c…ティース先端面、43…固定子鉄心、43a…回転子収容空間、43b…スロット、44a、44b…固定子鉄心の端面、45A、45B…絶縁端板、45a…空間、45b…空間、45c…端面、47…絶縁シート、47a…突出部分、48…巻線、49…第一孔、51…外壁部材、51a…外周面、52…内壁部材、52a…内周面、53…連結部材、55…位置決め機構、61…突起、61a…根元部、62…支持部、63…細隙、65…突起の根元の凹部、67…第二孔、71…スロットの凹部、72…保持部、75…保持部の凹部。