(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】自動注射訓練装置
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20221028BHJP
G09B 19/24 20060101ALI20221028BHJP
A61M 5/20 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B19/24 Z
A61M5/20 510
(21)【出願番号】P 2018185463
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】303046299
【氏名又は名称】旭化成ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】金崎 忍
(72)【発明者】
【氏名】タング キキ
(72)【発明者】
【氏名】ショウ バシュン
【審査官】宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/153077(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0015336(US,A1)
【文献】特表2017-505459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00 - 9/56
G09B 17/00 - 19/26
G09B 23/28
A61M 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の本体部材と、
前記本体部材内で前後動可能に配置されたプランジャと、
前記プランジャを前方へ付勢する第1弾性部材と、を具備し、
使用前の状態では、前記プランジャが前記第1弾性部材の付勢力に抗して前記本体部材内の後方位置において係止され、
前記プランジャの係止が解除されることによる前記プランジャの移動開始に伴い開始音が発せられ、
前記プランジャの移動終了に伴い終了音が発せられることを特徴とする自動注射訓練装置
であって、前記プランジャが第1衝突部を有し、前記第1衝突部が、前記本体部材内に設けられた第2衝突部と衝突することによって、前記開始音が発せられ、前記第1衝突部が前記プランジャの外面に設けられた凹部である、自動注射訓練装置。
【請求項2】
前記プランジャの係止が、前記凹部によって行われる請求項
1に記載の自動注射訓練装置。
【請求項3】
前記本体部材内で前後動可能に配置された衝突部材をさらに具備し、前記プランジャの移動に伴い前記衝突部材の移動が開始され、前記衝突部材が、前記本体部材内に設けられた第3衝突部と衝突することによって、前記終了音が発せられる請求項1
又は2に記載の自動注射訓練装置。
【請求項4】
前記衝突部材が環状部材である請求項
3に記載の自動注射訓練装置。
【請求項5】
前記環状部材の内面に第1突起が形成され、前記プランジャの側面の第2突起が形成され、前記第1突起及び前記第2突起が協働することによって、前記衝突部材の移動が開始される請求項
4に記載の自動注射訓練装置。
【請求項6】
筒状のバレル部材をさらに具備し、前記プランジャの移動時に、前記プランジャの外面と前記バレル部材の内面とで摩擦抵抗が生じるように構成されている請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の自動注射訓練装置。
【請求項7】
筒状の本体部材と、
前記本体部材内で前後動可能に配置されたプランジャと、
前記プランジャを前方へ付勢する第1弾性部材と、を具備し、
使用前の状態では、前記プランジャが前記第1弾性部材の付勢力に抗して前記本体部材内の後方位置において係止され、
前記プランジャの係止が解除されることによる前記プランジャの移動開始に伴い開始音が発せられ、
前記プランジャの移動終了に伴い終了音が発せられることを特徴とする自動注射訓練装置であって、前記本体部材内で前後動可能に配置された衝突部材をさらに具備し、前記プランジャの移動に伴い前記衝突部材の移動が開始され、前記衝突部材が、前記本体部材内に設けられた第3衝突部と衝突することによって、前記終了音が発せられ、前記衝突部材が環状部材であり、前記環状部材の内面に第1突起が形成され、前記プランジャの側面の第2突起が形成され、前記第1突起及び前記第2突起が協働することによって、前記衝突部材の移動が開始される、自動注射訓練装置。
【請求項8】
筒状のバレル部材をさらに具備し、前記プランジャの移動時に、前記プランジャの外面と前記バレル部材の内面とで摩擦抵抗が生じるように構成されている請求項7に記載の自動注射訓練装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動注射訓練装置に関する。
【背景技術】
【0002】
疾患治療のために、患者自らが自動注射装置を用いて自宅等で注射を行い、薬剤を投与する場合がある。こうした治療を開始する前に、医療従事者は、患者に対して自動注射装置の使用方法を教える必要がある。その際に用いられる装置として、自動注射訓練装置が公知である。自動注射訓練装置は、注射針及び薬液を有さない点で、自動注射装置と大きく異なる。自動注射訓練装置の形状や操作方法は、その目的のため、実際に使用される自動注射装置と同様に構成される。自動注射訓練装置を使用することによって、患者は、自動注射装置の操作方法の訓練を繰り返し行うことができ、操作に慣れることができる。
【0003】
自動注射訓練装置として、例えば特許文献1には、穿通の開始時に通常の注射装置が生じる音声を模倣した可聴フィードバックを提供することができる自動注射訓練装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には、可聴フィードバックを実現する具体的な構成について一切開示されていない。特に、自動注射訓練装置の動作開始時及び動作終了時の両方において、使用者に可聴フィードバックを提供することが望ましい。
【0006】
本発明は、動作開始時及び動作終了時の両方において、使用者に可聴フィードバックを提供する自動注射訓練装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、筒状の本体部材と、前記本体部材内で前後動可能に配置されたプランジャと、前記プランジャを前方へ付勢する第1弾性部材と、を具備し、使用前の状態では、前記プランジャが前記第1弾性部材の付勢力に抗して前記本体部材内の後方位置において係止され、前記プランジャの係止が解除されることによる前記プランジャの移動開始に伴い開始音が発せられ、前記プランジャの移動終了に伴い終了音が発せられることを特徴とする自動注射訓練装置が提供される。
【0008】
前記プランジャが第1衝突部を有し、前記第1衝突部が、前記本体部材内に設けられた第2衝突部と衝突することによって、前記開始音が発せられるようにしてもよい。前記第1衝突部が前記プランジャの外面に設けられた凹部であってもよい。前記プランジャの係止が、前記凹部によって行われるようにしてもよい。前記本体部材内で前後動可能に配置された衝突部材をさらに具備し、前記プランジャの移動に伴い前記衝突部材の移動が開始され、前記衝突部材が、前記本体部材内に設けられた第3衝突部と衝突することによって、前記終了音が発せられるようにしてもよい。前記衝突部材が環状部材であってもよい。前記環状部材の内面に第1突起が形成され、前記プランジャの側面の第2突起が形成され、前記第1突起及び前記第2突起が協働することによって、前記衝突部材の移動が開始されるようにしてもよい。筒状のバレル部材をさらに具備し、前記プランジャの移動時に、前記プランジャの外面と前記バレル部材の内面とで摩擦抵抗が生じるように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様によれば、動作開始時及び動作終了時の両方において、使用者に可聴フィードバックを提供する自動注射訓練装置を提供するという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態による自動注射訓練装置の使用前の状態の縦断面図である。
【
図2】
図2は、自動注射訓練装置の動作開始時の状態の縦断面図である。
【
図3】
図3は、自動注射訓練装置の使用後の状態の縦断面図である。
【
図5】
図5は、本体部材内の部品の分解組立図である。
【
図6】
図6は、バレル部材及び係止管を含む分解組立図である。
【
図7】
図7は、プランジャ及び衝突部材の概略側面図である。
【
図8】
図8は、開始音の発生を説明する部分縦断面図である。
【
図9】
図9は、終了音の発生を説明する部分縦断面図である。
【
図10】
図10は、自動注射訓練装置の初期化装置の分解組立図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0012】
図1は、本発明の実施形態による自動注射訓練装置100の使用前の状態の縦断面図であり、
図2は、自動注射訓練装置100の動作開始時の状態の縦断面図であり、
図3は、自動注射訓練装置100の使用後の状態の縦断面図であり、
図4は、本体部材の縦断面図であり、
図5は、本体部材1内の部品の分解組立図である。また、
図6は、バレル部材2及び係止管63を含む分解組立図であり、
図7は、プランジャ4及び衝突部材22の概略側面図である。
【0013】
自動注射訓練装置100は、一端が開口した筒状の本体部材1と、本体部材1内に配置された筒状のバレル部材2と、先端にピストン3が設けられた筒状のプランジャ4と、プランジャ4の内部に配置された第1弾性部材である第1コイルスプリング5と、ロック機構6と、本体部材1の底部に固定されたガイドロッド7とを有している。
【0014】
ピストン3及びプランジャ4は、自動注射訓練装置100の動作時において、
図2及び
図3に示されるように、第1コイルスプリング5の付勢力によって、本体部材1の開口端側に移動する。本明細書中では、自動注射訓練装置100の軸線方向において、ピストン3及びプランジャ4が動作時に進行する方向(図中下方)を「前」側と規定し、その反対側(図中上方)を「後」側と規定する。
【0015】
図4を参照すると、本体部材1の内面には、軸線方向に延びる第1係合突起11が形成されている。本体部材1の前端部の内面には、内方へ突出する複数の第2係合突起12が形成されている。本体部材1の側面には、略矩形の貫通孔である窓孔13が形成されている。本体部材1の開口した端部に対して、着脱可能なキャップを配置してもよい。
【0016】
ピストン3及びプランジャ4は、第1コイルスプリング5の付勢力によって、本体部材1内、すなわちバレル部材2内において前方へ移動することができる。プランジャ4は、
図1に示された使用前の状態において、第1コイルスプリング5を圧縮させながらバレル部材2よりも後方に配置されている。第1コイルスプリング5の付勢力によるプランジャ4の前方の移動は、後述するように、ロック機構6によって係止される。ガイドロッド7は、第1コイルスプリング5内に配置され、且つ、
図1に示された使用前の状態においてプランジャ4内に配置されている。ガイドロッド7によって、プランジャ4の前方への移動がガイドされる。
【0017】
特に
図6を参照すると、バレル部材2の後部の外面には、第1環状凹部21が設けられ、第1環状凹部21内には、環状部材である衝突部材22が配置されている。なお、
図6では、便宜上、衝突部材22が第1環状凹部21から外れて描かれている。バレル部材2の後端部には、内方及び外方に弾性変形することができる複数の第1係止片23が設けられている。第1係止片23の各々の内面には、後述するように、第1係止部231が形成されている。第1環状凹部21内において、衝突部材22の後方には第2コイルスプリング24が配置されている。第1環状凹部21には軸線方向に延びる隙間211が形成されている。隙間211には、後方に面する段差である係合段差2111が形成されている。
【0018】
衝突部材22の内面には、隙間211に対応する第3係合突起221が形成されている。第3係合突起221は、隙間211内を前後に移動することができる。したがって、衝突部材22は、第3係合突起221が隙間211に規制されながら、第1環状凹部21内を前後に移動することができる。
図1に示された使用前の状態では、衝突部材22が第2コイルスプリング24を圧縮させながら、第3係合突起221が、隙間211内において、係合段差2111に係止している。
【0019】
特に
図7を参照すると、プランジャ4の外面には第2環状凹部41が形成されている。プランジャ4の外面において、第2環状凹部41の後方にはプッシュ突起42が形成され、第2環状凹部41の前方にはプル突起43が形成されている。プッシュ突起42及びプル突起43は、軸線方向に離間しており、且つ、周方向にずれた位置に配置されている。
図7において、衝突部材22は、プランジャ4が挿入された状態で、仮想線によって描かれている。衝突部材22の第3係合突起221の後端には、第1斜面2211が形成され、衝突部材22の第3係合突起221の前端には、第1斜面2211と同一方向に傾斜した第2斜面2212が形成されている。プランジャ4のプッシュ突起42の前端には、第3係合突起221の第1斜面2211に対応する第3斜面421が形成され、プランジャ4のプル突起43の後端には、第3係合突起221の第2斜面2212に対応する第4斜面431が形成されている。
【0020】
ロック機構6は、筒状の押圧管61と、筒状の規制管62と、筒状の係止管63と、第3コイルスプリング64と、筒状のカバー部材65と、第4コイルスプリング66とを有している。
【0021】
押圧管61の内部には、バレル部材2が前後動可能に収容される。押圧管61の外面には、軸線方向に延びる貫通溝611が形成されている。押圧管61の前端部の外面には、梁状に形成され且つ内方及び外方に弾性変形することができる第4係合突起612が形成されている。カバー部材65の外面には、押圧管61の第4係合突起612に対応する矩形の開口部651が形成されている。押圧管61の第4係合突起612が、カバー部材65の開口部651を介して突出することによって、カバー部材65は、押圧管61の前端部の外面に対して前後動可能に嵌合する。カバー部材65の内部には、第4コイルスプリング66が配置され、押圧管61とカバー部材65との間に付勢力が作用する。カバー部材65は、本体部材1の開口端から部分的に突出する。
【0022】
押圧管61の後端は、規制管62の前端部を収容し、規制管62に対して一体的に取り付けられている。係止管63の内部には、
図1に示された使用前の状態では、プランジャ4が収容される。係止管63の後端部は、本体部材1の底部に固定されている。係止管63の外面は、規制管62によって部分的に包囲されている。規制管62及び係止管63は、第3コイルスプリング64内に配置されている。第3コイルスプリング64は、本体部材1の底部に対して、規制管62、ひいては押圧管61を前方に付勢するように配置されている。
【0023】
特に
図6を参照すると、係止管63の前部には、内方及び外方に弾性変形することができる複数の第2係止片631が設けられている。第2係止片631の各々の内面には、第2係止部6311が形成されている。第2係止片631の各々の前端部には、外方へ拡がるように形成された規制部6312が設けられている。
【0024】
図8及び
図9を参照しながら、開始音及び終了音の発生について説明する。
【0025】
図8は、開始音の発生を説明する部分縦断面図である。
図8(A)は、
図1に示された使用前の状態を示しており、プランジャ4は、ロック機構6によって係止している。
図8(B)は、ロック機構6によるプランジャ4の係止が解除された直後の状態を示している。
【0026】
図8(A)では、バレル部材2の後端部と係止管63の前端部とが当接している。すなわち、バレル部材2の第1係止片23は、係止管63の第2係止片631の内側に入り込んでいる。バレル部材2と係止管63の当接部の外側は、規制管62によって包囲されている。第1係止片23の内面には、第1係止部231が形成されている。規制管62の内面には、係止管63の第2係止片631の規制部6312と当接する、前方に面した規制面621が形成されている。第1係止片23の第1係止部231と、第2係止片631の第2係止部6311は、軸線方向に当接しながら第2環状凹部41内に嵌め込まれている。
【0027】
第2係止片631は、第2環状凹部41と、詳細には第2環状凹部41の後側の壁面411と係止することができる。このとき、第2係止片631と第2環状凹部41との当接面の傾斜による分力によって、第2係止片631に対して外方へ拡がる力が作用する。しかしながら、規制部6312と規制面621との当接によって、第2係止片631の外方への移動が規制される。その結果、第1コイルスプリング5によって付勢されたプランジャ4の前方への移動は、ロック機構6によって係止される。
【0028】
さらに、この状態で、規制管62は、第3コイルスプリング64によって、前方へ付勢されている。そのため、規制管62の規制面621が、係止管63の規制部6312との当接によって、第2係止片631を内方へ押圧する。その結果、第2係止部6311が、第2環状凹部41とより強く係止することができる。
【0029】
図8(B)では、プランジャ4の第2環状凹部41に対する、係止管63の第2係止片631の係止が解除された直後の状態を示している。
図8と共に
図1も参照すると、自動注射訓練装置100を使用する場合は、使用者が本体部材1を把持し、腕等のターゲットに対して本体部材1から突出するカバー部材65を押圧する。カバー部材65が押圧されると、カバー部材65を介して押圧管61が後方へ押圧されて移動する。押圧管61が後方へ移動すると、押圧管61に対して一体的に取り付けられた規制管62が後方へ移動する。その結果、係止管63の規制部6312と規制管62の規制面621との当接による、第2係止片631の外方への移動の規制が解除され、第2係止片631が外方へ弾性変形可能となる。第2係止片631に対して外方へ拡がる分力が作用することによって、第2係止片631が、第2環状凹部41から離脱し、プランジャ4の第2環状凹部41に対する、第2係止片631の係止が解除される。言い換えると、ロック機構6によるプランジャ4の係止が解除される。
【0030】
ロック機構6によるプランジャ4の係止が解除された瞬間、第1コイルスプリング5の付勢力によってプランジャ4が前方へ移動する。このとき、本体部材1内に設けられた第1衝突部である第2環状凹部41内の後側の壁面411と、第2衝突部であるバレル部材2の後端部、すなわち第1係止片23の第1係止部231とが衝突し、衝突音が発生する(
図8(B))。この衝突音が、自動注射訓練装置100の開始音として、使用者に認識される。なお、プランジャ4の第2環状凹部41は、衝突音を発生させた後、第1係止片23を外方へ弾性変形させて、さらに前方へ移動する。
【0031】
図9は、終了音の発生を説明する部分縦断面図である。
図9(A)は、
図1に示された使用前の状態を示している。
図9(A)では、衝突部材22が第2コイルスプリング24によって前方へ付勢されながら、衝突部材22の第3係合突起221が、隙間211内において、係合段差2111に係止している。
【0032】
図1に示された使用前の状態から、プランジャ4が前方へ移動するとき、プランジャ4のプッシュ突起42が、隙間211を介して内方へ突出する衝突部材22の第3係合突起221と協働する。すなわち、プッシュ突起42の第3斜面421が、衝突部材22の第1斜面2211と係合し、衝突部材22は、周方向の分力を受けて軸線回りに回転する。すなわち、衝突部材22は、第3係合突起221と係合段差2111との係止が解除される方向に回転する。第3係合突起221と係合段差2111との係止が解除された瞬間、第2コイルスプリング24の付勢力によって衝突部材22が前方へ移動する。このとき、衝突部材22の前端面と、本体部材1内に設けられた第3衝突部である第1環状凹部21内の前側の壁面212とが衝突し、衝突音が発生する(
図9(B))。この衝突音が、自動注射訓練装置100の終了音として、使用者に認識される。
【0033】
以上より、自動注射訓練装置100は、
図1に示された使用前の状態から、使用者が、本体部材1を把持し、腹部、大腿部、上腕部等のターゲットに対して本体部材1から突出するカバー部材65を押圧すると、
図2に示された動作開始時の状態を経て、開始音が発生する。次いで、終了音が発生し、終了音を認識した使用者が、自動注射訓練装置100をターゲットから離すと、すなわち押圧を解除すると、後述するように
図3に示された状態に遷移する。
【0034】
ロック機構6による係止が解除されたプランジャ4は、ピストン3と共に本体部材1内を前方へ移動する。プランジャ4の前方への移動の過程において、プランジャ4の外面と第2係止片631の第2係止部6311との間に摩擦抵抗を生じさせる。また、プランジャ4が、係止管63を超えて前進すると、詳細には、プランジャ4の後端部が、第2係止片631の第2係止部6311を超えて前進すると、第2係止片631が内方へ変形することが可能となる。その結果、第3コイルスプリング64の付勢力によって、規制管62が、第2係止片631を内方へ変形させながら、すなわち、規制管62の内面と第2係止片631の規制部6312との間の摩擦抵抗に抗して、押圧管61と共に前方へ移動する。また、ピストン3を弾性部材で形成することによって、プランジャ4の前進に伴い、ピストン3とバレル部材2の内面との間にも摩擦抵抗が生じる。
【0035】
これら摩擦抵抗の結果、ダンパーのように第1コイルスプリング5による付勢力を減衰させ、ピストン3の進行速度が調整されることで、実際の自動注射装置による薬液の送達に模したピストン3の動きがシミュレートされる。使用者は、本体部材1に形成された窓孔13を介してピストン3の移動を視認することができる。押圧管61及び規制管62の前方への移動は、押圧管61の貫通溝611の後部が、本体部材1の第1係合突起11と係止することによって規制される。
【0036】
使用者が、自動注射訓練装置100をターゲットから離すと、すなわち押圧を解除すると、ピストン3を介した第1コイルスプリング5の付勢力、及び、規制管62を介した第3コイルスプリング64の付勢力によって、押圧管61が前方へ移動する。このとき、押圧管61の第4係合突起612が、本体部材1の第2係合突起12と係合し、内方へ弾性変形する。終了音の発生と略同時に、押圧管61の第4係合突起612が本体部材1の第2係合突起12を超える(
図3)。言い換えると、第4係合突起612が第2係合突起12を超えるように、第2係合突起12及び第4係合突起612の位置及び形状が構成されている。弾性変形した第4係合突起612は、本体部材1の第2係合突起12を超えた瞬間、元の形状に復帰する。したがって、
図3に示された使用後の状態では、第4係合突起612が第2係合突起12に係止し、押圧管61及びカバー部材65は、後方へ移動することができない。それによって、実際の自動注射装置における使用済みの注射針の再使用を防止する機構と同様の機構を再現することができる。
【0037】
自動注射訓練装置100は、実際の自動注射装置と異なり、訓練という目的のため、何度も使用できるように初期化可能(リセット可能)でなければならない。そこで、
図10乃至
図12を参照しながら、自動注射訓練装置100の初期化装置8について説明する。
図11及び
図12を参照すると、自動注射訓練装置100は、初期化装置8に挿入される。初期化装置8の軸線方向において、自動注射訓練装置100が挿入時に進行する方向(図中下方)を「前」側と規定し、その反対側(図中上方)を「後」側と規定する。
【0038】
図10は、自動注射訓練装置100の初期化装置8の分解組立図である。
図11は、初期化装置8の使用前の縦断面図であり、
図12は、初期化装置8の使用後の縦断面図である。
【0039】
初期化装置8は、後端が開口した筒状のベース部材81と、縦ロッド部材82と、圧縮管83と、第5コイルスプリング84と、ピン85とを有している。ベース部材81は、初期化装置8全体を自立させることができるように構成されている。縦ロッド部材82の前端部はベース部材81の底部に固定されている。縦ロッド部材82の前半部分には、軸線方向に延び且つ反対側まで貫通する縦孔821が形成されている。圧縮管83は、前端部にピン85を取り付け可能な貫通孔が形成されている。圧縮管83の後部には、フランジ部831と、フランジ部831から後方に向かって延びる2つの押圧板832とが形成されている。
【0040】
縦ロッド部材82は、圧縮管83内に挿入される。このとき、ピン85は、縦ロッド部材82の縦孔821を介して、圧縮管83に対して取り付けられる。したがって、圧縮管83は、ピン85が縦孔821に規制される範囲において、前後動可能である。第5コイルスプリング84は、ベース部材81の底部と、圧縮管83のフランジ部831との間に配置され、圧縮管83を後方に付勢している。
【0041】
図11は、初期化装置8の使用前の縦断面図であり、
図12は、初期化装置8の使用後の縦断面図である。
【0042】
初期化装置8を使用する際には、まず、載置された初期化装置8の後端部に対して、自動注射訓練装置100を把持しながら前端部を挿入する。詳細には、カバー部材65をベース部材81内の2つの押圧板832間に挿入し、カバー部材65の前端面を圧縮管83のフランジ部831の内側面に当接させる。このとき、押圧板832は、押圧管61の第4係合突起612に対向して配置され、縦ロッド部材82は、カバー部材65の前端面の開口を介して、自動注射訓練装置100内に挿入される(
図11)。
【0043】
次いで、自動注射訓練装置100を初期化装置8に対して押し込む。それによって、押圧板832が、押圧管61の第4係合突起612を内方へ弾性変形させ、第4係合突起612と本体部材1の第2係合突起12との係止が解除される。その結果、カバー部材65、ひいては押圧管61を後方へ移動させることが可能となる。
【0044】
次いで、自動注射訓練装置100をさらに押し込むと、初期化装置8の縦ロッド部材82によって、ピストン3及びプランジャ4が、第1コイルスプリング5の付勢力に抗して押圧されて後方へ移動する。プランジャ4が後方へ移動すると、プランジャ4のプル突起43が、隙間211を介して内方へ突出する衝突部材22の第3係合突起221と協働しながら、第2コイルスプリング24の付勢力に抗して衝突部材22を後方へ移動させる。隙間211内において、衝突部材22の第3係合突起221が、係合段差2111を超えるまで後方へ移動すると、プル突起43の第4斜面431が、衝突部材22の第2斜面2212と係合し、衝突部材22は、周方向の分力を受けて軸線回りに回転する。すなわち、衝突部材22は、第3係合突起221と係合段差2111とが係止する方向に回転する。その結果、衝突部材22は、初期位置(
図9(A))に復帰する。
【0045】
次いで、自動注射訓練装置100をさらに押し込むと、初期化装置8の縦ロッド部材82によって、プランジャ4がさらに押圧されて後方へ移動する。このとき、第3コイルスプリング64の付勢力に抗して押圧管61及び規制管62が後方へ移動し、さらには押圧管61の内面と係合することによってバレル部材2が後方へ移動する。後方へ移動したバレル部材2の第1係止片23は、係止管63の第2係止片631の内側に入り込む。このとき、第1係止片23の第1係止部231及び第2係止片631の第2係止部6311は、プランジャ4の第2環状凹部41内に嵌め込まれ、初期位置(
図8(A))に復帰する。その結果、自動注射訓練装置100の初期化が完了する。
【0046】
自動注射訓練装置100によれば、使用前の状態では、プランジャ4が第1コイルスプリング5の付勢力に抗して本体部材1内の後方位置において係止され、プランジャ4の係止が解除されることによるプランジャ4の移動開始に伴い開始音が発せられ、プランジャ4の移動終了に伴い終了音が発せられる。したがって、動作開始時及び動作終了時の両方において、使用者に可聴フィードバックを提供することができる。そのため、使用者は、自動注射訓練装置100の動作状況を認識することができ、安心して自動注射装置の訓練を行うことができる。また、自動注射訓練装置100は、初期化装置8によって容易に初期化可能であることから、使用者は、繰り返し自動注射装置の訓練を行うことができる。
【0047】
自動注射訓練装置において、筒状の本体部材と、本体部材内で前後動可能に配置されたプランジャと、プランジャを前方へ付勢する第1弾性部材と、を具備し、使用前の状態では、プランジャが第1弾性部材の付勢力に抗して本体部材内の後方位置において係止され、プランジャの係止が解除されることによるプランジャの移動開始に伴い開始音が発せられ、プランジャの移動終了に伴い終了音が発せられる限りにおいて、任意の構成を採用し得る。例えば、上述した実施形態において、複数の第2係止片631と、第2環状凹部41とが係止することによって、プランジャ4が係止されたが、単一の係止片と、環状ではない凹部との係止であってもよい。また、衝突部材22は環状部材であったが、衝突部材を、完全な環状ではなく、C字型の部材であってもよい。さらに、開始音を発生し得る、プランジャの第1衝突部と、本体部材内の第2衝突部とを任意に配置してもよい。さらに、終了音を発生し得る、衝突部材と衝突する第3衝突部を任意に配置してもよい。
【0048】
上述した本実施形態では、開始音及び終了音を、部品間の衝突によって発生させたが、例えば、音に加え又は音に代えて、動作の開始時及び終了時における部品間の当接によって通電させ、光や音声等その他の識別信号を発生させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 本体部材
2 バレル部材
3 ピストン
4 プランジャ
5 第1コイルスプリング
6 ロック機構
7 ガイドロッド
8 初期化装置
11 第1係合突起
12 第2係合突起
13 窓孔
21 第1環状凹部
22 衝突部材
23 第1係止片
24 第2コイルスプリング
41 第2環状凹部
42 プッシュ突起
43 プル突起
61 押圧管
62 規制管
63 係止管
64 第3コイルスプリング
65 カバー部材
66 第4コイルスプリング
81 ベース部材
82 縦ロッド部材
83 圧縮管
84 第5コイルスプリング
85 ピン
100自動注射訓練装置