(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】高い遮蔽性を有する高強度ケイ酸リチウムガラス組成物
(51)【国際特許分類】
C03C 10/12 20060101AFI20221028BHJP
C03C 3/076 20060101ALI20221028BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20221028BHJP
A61K 6/84 20200101ALI20221028BHJP
A61C 5/70 20170101ALI20221028BHJP
【FI】
C03C10/12
C03C3/076
A61K6/831
A61K6/84
A61C5/70
(21)【出願番号】P 2018187009
(22)【出願日】2018-10-01
【審査請求日】2021-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2017192531
(32)【優先日】2017-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄己
(72)【発明者】
【氏名】竹内 大輔
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-501098(JP,A)
【文献】特表2013-543831(JP,A)
【文献】国際公開第2016/120146(WO,A1)
【文献】特表2015-517337(JP,A)
【文献】特開2006-219367(JP,A)
【文献】特表2015-504400(JP,A)
【文献】特表2014-524906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 -14/00
A61K 6/00 - 6/90
A61C 5/70
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO
2:60.0~80.0 wt%
Li
2O:10.0~17.0 wt%
K
2O:0.5~10.0 wt%
核生成材:1.0~6.0 wt%
着色材:0.0~10.0 wt%
金属酸化物Me(四価)O
2:5.0~10.0wt%
からなる
、Al
2O
3を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物。
【請求項2】
金属酸化物Me(四価)O
2が、TiO
2、ZrO
2、SnO
2、HfO
2、PbO
2、CeO
2およびこれらの混合物よりなる群から選択される1種又は2種以上である請求項
1に記載のAl
2O
3を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物。
【請求項3】
核生成材が、P
2
O
5
、WO
3
、V
2
O
5
、Pt、Agおよびこれらの混合物よりなる群から選択される1種又は2種以上であり、
着色材がMnO、Fe
2
O
3
、Tb
4
O
7
、Eu
2
O
3
、Ni
2
O
3
、Cr
2
O
3
、Co
2
O
3
、Nd
2
O
3
、Pr
6
O
11
、Sm
2
O
3
、V
2
O
5
、Dy
2
O
3
、Ho
2
O
3
、Er
2
O
3
およびこれらの混合物よりなる群から選択される1種又は2種以上である請求項1又は2に記載のAl
2
O
3
を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のガラス組成物の熱処理物であって、主結晶相としてメタケイ酸リチウム結晶及び/又は二ケイ酸リチウム結晶の析出物を有し、かつ、副結晶相として四価の金属酸化物の単結晶及び/又は複合結晶の析出物を有する歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックス。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のガラス組成物を熱処理することにより得られたガラスセラミックス又は請求項4に記載のガラスセラミックスを、熱圧成形、機械加工、築盛・焼成のうち少なくとも一つの方法により作製した歯冠修復物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科分野の審美修復治療に用いられるセラミックス製歯冠修復物の作製に用いられるケイ酸リチウムガラス組成物及びそれを熱処理したガラスセラミックス並びに該ガラスセラミックスを用いて作製した歯冠修復物に関する。より詳細には、本発明は、主結晶相として二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウムを析出し、副結晶相として四価金属酸化物の単結晶及び/又は複合結晶を析出するケイ酸リチウムガラス組成物、該ケイ酸リチウムガラス組成物から得られるガラスセラミックス並びに、該ガラスセラミックスを用いて作製した歯冠修復物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科分野の審美修復治療においてはセラミックス製の歯冠修復物が臨床に用いられてきたが、それらの殆どはリューサイト結晶(KAlSi2O6)を含んだガラスセラミックスであった。このリューサイト結晶はその周囲にあるガラスマトリックスと屈折率が近似しているため、その結晶を含んだガラスセラミックスは透明性を有しており、その結果審美性が優れた歯冠修復物の作製が可能であった。しかしながら、リューサイト結晶は樹枝状形態であるため、ガラスセラミックス内部で発生したクラックの進展を抑制させることができず、高い材料強度を得ることができなかった。
【0003】
そこで近年、高強度を発現するガラスセラミックスとしてケイ酸リチウムガラスセラミックスが臨床で応用されてきている。このケイ酸リチウムガラスは熱処理により特徴的な形態の結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)が高密度に析出し、結晶同士が絡み合う構造になっていることからクラックの伸展を抑制し、高い材料強度を発現する。現在、これらのケイ酸リチウムガラスは歯科分野において様々な用途に使用が拡大されてきており、例えば築盛・焼成用の粉末陶材及びプレス成形用又はCAD/CAM機械加工用セラミックブランク等が挙げられる。
【0004】
また、ケイ酸リチウムガラスセラミックスは強度だけでなく、天然歯類似の審美性にも特徴がある。透明性の調整により、様々な部位に応じた歯科修復物を作製することができる。また、リューサイト系ガラスセラミックスである上層陶材との親和性・接着性が高く、審美性の高い歯冠修復物を提供することができる。これらケイ酸リチウムガラスセラミックスに関する先行技術も近年数多く報告されている。
【0005】
特許文献1にはケイ酸リチウムガラス組成中にAl2O3とLi2Oをそれぞれ10.1wt%以上含み、それらの含有比を1:1~1.5:1とすることで、熱処理により、第一の結晶(二ケイ酸リチウム)と第二の結晶(LiAlSi2O6、LiAlSiO4、LiAlSi3O8、LiAlSi4O10:リチウムアルミノシリケートからなる群から選択される結晶)が析出し、高い材料強度を発現するとの記載がある。また、2種類の結晶の光学特性(二ケイ酸リチウム結晶相:半透明、リチウムアルミノシリケート:不透明)を利用してグラデーションを発現することも特徴として挙げられる。
【0006】
特許文献2には二ケイ酸リチウムだけではなく、クリストバライト結晶を析出させることで圧縮応力を増加させ、高強度化するとの記載がある。しかし、クリストバライト結晶相が過剰に形成されると、熱膨張係数の差が大きくなり、マイクロクラックが発生し強度が低下する。また、クリストバライト結晶相増加は、光透過率の低下(不透明になる)を招き、光学特性を低下させるとの記載がある。
【0007】
特許文献3には主たる結晶相としての二ケイ酸リチウム、そしてさらなる結晶相としてのアパタイトを含む、二ケイ酸リチウム-アパタイトガラスセラミックに関する記載がある。組成に遷移金属酸化物を組み込むことにより、ガラスセラミックの半透明性を増加させ(不透明になる)、アパタイトの結晶化によって半透明性が減少する(透明になる)。これら反対の効果によって半透明性の調整が可能との記載がある。
【0008】
これらの先行技術は、主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)とは別に副結晶を析出させることで、ガラスセラミックスの透明性を調整している。具体的には、析出結晶と結晶以外の残存ガラス相との屈折率の違いにより透明性を変化させる。結晶相の量により所望の透明性を得ることができる。
【0009】
ケイ酸リチウムガラスセラミックスを用いた歯冠修復物作製方法には、いくつか種類があり、その方法・修復部位に応じて透明性調整が必要である。エナメル質部位をケイ酸リチウムガラスセラミックスで作製しステイン等で仕上げを行うステイン法、象牙質部位をケイ酸リチウムガラスセラミックスで作製し、上層陶材でエナメル質部位を築盛するカットバック法、コーピングをケイ酸リチウムガラスセラミックスで作製し、上層陶材でエナメル質部位・象牙質部位を築盛するレイヤリング法が挙げられる。
【0010】
その中でも、コーピングを使用したレイヤリング法では、上層陶材により任意の色調を再現することができ、審美性の高い歯冠修復物を提供することができる。
【0011】
しかし、レイヤリング法に使用するケイ酸リチウムガラスセラミックスの透明性調整が不十分であると、その透明性から変色した支台歯の影響を受けてしまう事もあり、審美性の高い歯冠修復物作製が困難となる。支台歯色を完全に遮蔽するためには、遮蔽性の高いガラスセラミックスを得る必要がある。ガラス中の結晶と結晶以外の残存ガラス相との屈折率の違いにより遮蔽性を上げる事が可能である。しかし、遮蔽性向上には限界があり、完全に支台歯の色を遮蔽することはできない。遮蔽性向上のための大幅な組成調整は、強度低下や歯冠修復物の成形不良を招いてしまい、歯冠修復物作製において求められるガラスセラミックスの特性が失われてしまう。
【0012】
よって、高い遮蔽性を得ようとすると材料強度が低下してしまい、逆に、材料強度を優先させると高い遮蔽性が得られない。このように、従来のケイ酸リチウムガラスセラミックスでは含まれている結晶の影響により、未だ高い遮蔽性かつ高強度を満足できるケイ酸リチウムガラスセラミックスはないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】US9260342B2
【文献】US20160060159A1
【文献】特表2017-501098
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ガラスセラミックスの透明性は、析出結晶と結晶以外の残存ガラス相との屈折率の違いにより変化する。歯冠修復物の種類によっては、その透明性から、支台歯色の影響を受けてしまう事もあり、審美性の高い歯冠修復物作製の妨げとなる。屈折率を調整することを目的に、ケイ酸リチウムガラスの組成調整をすることは可能であるが、調整には限界があり、大きな組成調整は強度低下や歯冠修復物の成形不良を招く。
そこで本発明は、特定の酸化物含有組成からなる歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物により、熱処理後においても効率良く主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)および副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)を析出させた、高い遮蔽性・高強度を有する歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを提供することである。これにより、支台歯色の影響を受けることなく、審美性の高い歯冠修復物を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究の結果、特定の酸化物含有量範囲の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、熱処理後において針状形態を含む結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)とは別に、副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)を効率よく析出させ、歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの透明性調整を図れることを見出し、本発明を提案するに至った。従来技術では析出結晶と結晶以外の残存ガラス相との屈折率の違いによる、ガラスセラミックスの透明性調整には限界があり、大幅な調整は強度低下を招く。しかし、本発明においては副結晶として、四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶を析出させることによって、ガラス安定性や化学的耐久性、高強度を維持した上で歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの透明性調整に成功したのである。さらに従来は、熱処理後の歯科ケイ酸リチウムガラスセラミックスにおいて主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)のみの析出であり、結晶と周囲のガラスマトリックスの屈折率差が小さく、透明性の高いガラスセラミックスであった。本発明においてはガラスマトリックスと主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)に加え、副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)を析出させることで、主結晶及びガラスマトリックスとの屈折率差が大きくなり、その結果、結晶化後のケイ酸リチウムガラスセラミックスの遮蔽性を向上させることができる。
【0016】
即ち本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は
以下の成分:
SiO2:60.0~80.0 wt%
Li2O:10.0~17.0 wt%
K2O:0.5~10.0 wt%
核生成材:1.0~6.0 wt%
着色材:0.0~10.0 wt%
金属酸化物Me(四価)O2:5.0~10.0wt%
を含み、Al2O3を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物である。
【0017】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、
SiO2:60.0~80.0 wt%
Li2O:10.0~17.0 wt%
K2O:0.5~10.0 wt%
核生成材:1.0~6.0 wt%
着色材:0.0~10.0 wt%
金属酸化物Me(四価)O2:5.0~10.0wt%
からなり、Al2O3を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物であることが好ましい。
【0018】
本発明のリチウムガラス組成物は、金属酸化物Me(四価)O2が、TiO2、ZrO2、SnO2、HfO2、PbO2、CeO2およびこれらの混合物から選択される1種又は2種以上であるAl2O3を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物であることが好ましい。
【0019】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは、本発明のリチウムガラス組成物の熱処理物であって、主結晶相としてメタケイ酸リチウム結晶及び/又は二ケイ酸リチウム結晶の析出物を有し、かつ、副結晶相として四価の金属酸化物の単結晶及び/又は複合結晶の析出物を有する歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスである。
本明細書において「主結晶相」とは、他の結晶相と比べて最高の体積割合を有する結晶相を指す。また、「副結晶相」とは、主結晶相以外の結晶相を指す。
【0020】
本発明の歯冠修復物は、本発明のリチウムガラス組成物を熱処理することにより得られたガラスセラミックス又は本発明のガラスセラミックスを、熱圧成形、機械加工、築盛・焼成のうち少なくとも一つの方法により作製した歯冠修復物である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の詳細について説明する。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は
SiO2:60.0~80.0 wt%
Li2O:10.0~17.0 wt%
K2O:0.5~10.0 wt%
核生成材:1.0~6.0 wt%
着色材:0.0~10.0 wt%
金属酸化物Me(四価)O2:5.0~10.0wt%
を含み、Al2O3を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物であることが特徴である。
このような組成とすることにより、熱処理後において効率よく高密度に主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)及び副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)を析出させることができ、歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの遮蔽性向上を図ることできる。なお、本発明においてAl2O3を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物とは、不純物として0.1wt%未満の範囲のAl2O3を含有した歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物であっても本発明の範囲に包含する。そのためAl2O3含有量の分析測定方法は特に制限はないが、いずれかの分析測定方法において0.1wt%未満のAl2O3含有量が認められる場合は不可避的不純物として、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の範疇に含まれるものである。即ち、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、Al2O3を実質的に含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物であり、あるいは、SiO2:60.0~80.0 wt%、Li2O:10.0~17.0 wt%、K2O:0.5~10.0 wt%、核生成材:1.0~6.0 wt%、着色材:0.0~10.0 wt%、金属酸化物Me(四価)O2:5.0~10.0wt%、Al2O3:0.1 wt%未満を含む歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物である。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、Al2O3を完全に含まないことが好ましい。また、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、SiO2:60.0~80.0 wt%、Li2O:10.0~17.0 wt%、K2O:0.5~10.0 wt%、核生成材:1.0~6.0 wt%、着色材:0.0~10.0 wt%、金属酸化物Me(四価)O2:5.0~10.0wt%、のみからなり、Al2O3を含まないことが好ましい。
【0022】
上記に記載した本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物における各成分の酸化物含有量は互いに独立して、以下の本質的に特定された成分からなる。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれるSiO2はガラス溶融時においてガラス形成酸化物として働き、熱処理後においては析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の成分及び主結晶周囲のガラス相の成分として作用する。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物におけるSiO2含有量は60.0~80.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは60.0~75.0wt%の範囲である。SiO2含有量が60.0wt%より少ない場合は、十分なガラス相を形成できず、ガラスの耐久性が低下すると同時に、熱処理後に析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の比率が変化する。これにより、適切な量の主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)が析出せず、高い材料強度が得られない。また、SiO2含有量が80.0wt%より多い場合には、ガラス相が増えることでガラスの耐久性は向上するものの、熱処理後に十分な主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)が析出せず、且つSiO2単体で結晶化することで主結晶の析出を阻害するため、高い材料強度が得られない。
【0023】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれているLi2Oは、ガラス溶融時においてフリットとして働き、ガラスの低融化を促進すると共に、熱処理により析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の成分として作用する。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物におけるLi2O含有量は10.0~17.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは12.0~17.0wt%の範囲である。
Li2O含有量が10.0wt%より少ない場合、フリットが少ないためガラスを溶融することができない。また、熱処理後に析出する主結晶の比率が変わるため適切な量の主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)が析出せず、高い材料強度が得られない。Li2O含有量が17.0wt%より多い場合は、安定なガラス相を形成できず、ガラスの耐久性が低下すると同時に、熱処理後に析出する主結晶の比率が変わり、高い材料強度が得られない。
【0024】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれているK2Oは、ガラス溶融時においてフリットとして働き、ガラスの低融化を促進すると共に、熱処理により析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の結晶化を促進する。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物におけるK2O含有量は0.5~10.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは2.0~8.0wt%の範囲である。
K2O含有量が0.5wt%より少ない場合、フリットが少ないためガラスを溶融することができない。また、熱処理後に析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の結晶化が抑制されることで、高い材料強度が得られない。K2O含有量が10.0wt%より多い場合は、安定なガラス相を形成できず、ガラスの耐久性が低下すると同時に、熱処理後に析出する主結晶の析出を阻害するため、高い材料強度が得られない。
【0025】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれている核生成材は熱処理により析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の発生起点として作用するものであれば何ら制限なく用いることができる。これらの核生成材を具体的に例示するとP2O5、WO3、V2O5、Pt又はAg等が挙げられる。これらの核生成材の中でも特に効果的な核生成材はP2O5である。これらの核生成材は少なくとも1種を配合するものであるが、2種以上を組み合わせて配合することもできる。核生成材としてP2O5を使用することにより、主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の起点として作用する微細なLi3PO4(リン酸リチウム)を析出させることができ、主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)を効果的に析出させることができる。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物における核生成材含有量は1.0~6.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは1.0~5.0wt%の範囲である。核生成材含有量が1.0 wt%より少ない場合は、主結晶の粗大化及び透明性の低下を招き、十分な透明性及び高い材料強度を得ることが得られない。核生成材含有量が6.0wt%より多い場合は、結晶量の増大及び結晶の微細化を促進するものの、結晶化後に残存するガラス相が減少することで、ガラスの耐久性が低下する。
【0026】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれている着色材は天然歯(象牙質及びエナメル質)に近似させるための色調調整材として作用するものであれば何ら制限なく用いることができる。これらの着色材を具体的に例示するとMnO、Fe2O3、Tb4O7、Eu2O3、Ni2O3、Cr2O3、Co2O3、Nd2O3、Pr6O11、Sm2O3、V2O5、Dy2O3、Ho2O3及びEr2O3等が挙げられる。また、天然歯は紫外線の照射により蛍光色を発するため、これらの着色材が蛍光色を発することが好ましい。これらの着色材は歯冠修復物材の色調に応じて適宜選択することができ、必要に応じて1種又は2種以上を組み合わせて配合することもできる。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物における着色材含有量は0.0~10.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは0.5~10.0wt%の範囲である。これらの着色材が10.0wt%より多い場合は、豊富な色調調整が行えるものの、主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の析出を阻害するため、高い材料強度が得られない。着色材含有量を含まない場合は、無着色の歯冠色に応用することができ好ましい。
【0027】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれている金属酸化物Me(四価)O2は、熱処理後において単結晶及び/又は複合結晶を析出する。これらの金属酸化物Me(四価)O2を具体的に例示するとTiO2、ZrO2、SnO2、HfO2、PbO2、CeO2等が挙げられる。含有量は5.0~10.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは6.0~9.0wt%の範囲である。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物における金属酸化物Me(四価)O2含有量が5.0wt%より少ない場合は、熱処理後に副結晶が析出せず、結晶相とガラス相との屈折率差が小さくなり、遮蔽性が低下してしまう。金属酸化物Me(四価)O2含有量が10.0wt%より多い場合には、結晶相とガラス相との屈折率差が大きくなり、遮蔽性は向上するものの、熱処理時に十分な主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)が析出せず、高い材料強度が得られない。
【0028】
金属酸化物Me(四価)O2は結晶化後のガラス相と結晶相との屈折率差を大きくする(不透明にする)ことができ、遮蔽性向上に寄与する。二ケイ酸リチウム結晶の屈折率は1.56~1.57であり、ガラス相の屈折率は結晶化に関与しない成分の屈折率に依存する。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物における金属酸化物Me(四価)O2は、二ケイ酸リチウム結晶の屈折率より大きく、屈折率の値は1.94~2.30の範囲である。これらの成分が単結晶及び/又は複合結晶になることで、より屈折率が大きくなり、二ケイ酸リチウム結晶との屈折率差の増加に伴い遮蔽性が増加する。
【0029】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、Al2O3を含まない。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物にAl2O3を含んだ場合、ケイ酸リチウムガラス組成から析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)だけでなく、組成中のLi2Oとの反応により様々な結晶(スポジュメンをはじめとするリチウムアルミノシリケート化合物等)も熱処理により析出するため、材料強度の低下を招く。さらにリチウムアルミノシリケート化合物は、二ケイ酸リチウム結晶の屈折率に近く、屈折率差が小さくなるため遮蔽性が低下する。よって、歯科用ガラスセラミックスに求められる高い材料強度および遮蔽性を発現させることができない結果となる。同様に、ケイ酸リチウムガラス組成中に核生成材としてP2O5を添加している場合は、熱処理により組成中のAl2O3とP2O5が反応してリン酸アルミニウム等の結晶も析出するため、材料強度および遮蔽性の低下をさらに助長するものである。
【0030】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造方法は特に制限はなく、いずれの製造方法でも製造することができる。その製造方法を具体的に例示するとガラス原料を混合後、高温により溶融する方法や有機又は無機化合物を溶媒に溶解した溶液中で反応させて溶媒を揮発させる方法(ゾル-ゲル法)等が挙げられるが、ガラス組成設計のし易さ、製造量、製造設備、製造コスト等の観点からガラス溶融法を用いることが好ましい。そのガラス溶融法における製造条件、例えばガラス原料投入温度、昇温速度、溶解温度、係留時間等は特に制限はなく、均一にガラス原料が溶解した融液が得られる状態であれば何等制限はない。その中でも本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は1200℃~1650℃の範囲で溶融することが好ましい。
【0031】
さらに本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の形状も特に制限はなく、粉末状、顆粒状、板状(フリット)、ガラスブロック状(ガラスブランク)等の様々な形状に調整することができる。ガラスブロック形状(ガラスブランク)は前述の融液を、例えばカーボン製、金属製、セラミックス製のモールドに流し込み、室温下まで徐冷することにより製造することができる。
また、ガラス融液は粘性を制御して高粘性状態(700℃~1200℃の温度)で、加圧によりモールドに充填し、ガラスブランク(円柱形状または角柱形状)を成形することもできる。板状形状(フリット)は内部を冷却している二つのロールの間に前述の融液を落とし込み急冷することで製造することができる。さらに顆粒状の場合は前述の融液を冷却された流水中に捲くように投入することで製造することができる。粉末状の場合はこれらの形状のものを、粉砕機等を用いて粉砕することにより得ることができる。これらの歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の形状は次工程である熱処理の製造方法や歯冠修復物を製造する際の製造方法等によって適宜調整することができる。
【0032】
次に様々な形状の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理することにより、効率よく高密度に主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)及び副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)を析出させることにより、歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを製造できることも本発明の特徴である。この熱処理は熱処理後に析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)及び副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)の析出割合を制御できることから重要な工程となる。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理する熱処理条件、例えば熱処理開始温度、昇温速度、熱処理温度、熱処理係留時間、徐冷温度等は特に制限はなく、熱処理する歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の形状、歯冠修復物を製造する方法、結晶の析出状況の制御等によって適宜選択することができる。その中でも熱処理温度は主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)及び副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)の析出割合を制御できるため特に重要な項目であり、その熱処理温度は450~950℃の範囲で行うことが好ましい。熱処理温度が450℃未満の場合、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を焼成及び結晶化することができない場合がある。また、熱処理温度が950℃以上では本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の性質上、析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の形態が崩壊する場合がある。よって、この温度範囲を逸脱しないことが好ましい。
一方、熱処理開始温度は450℃~550℃、昇温速度は10℃~50℃/min、徐冷速度は10℃~20℃/minであることが好ましい。熱処理を開始する温度は主結晶を適切に析出させるためにガラス転移点付近が好ましい。昇温速度はより安定的に結晶化を促進することが必要であるため、より緩やかに昇温するのが好ましい。また、徐冷速度は結晶析出にはほとんど影響はないものの、急速に冷却した場合、ガラスにクラックが入る可能性があるため、緩やかに冷却するのが好ましい。
【0033】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物から析出するメタケイ酸リチウムの結晶は580℃~780℃の熱処理温度範囲で析出する傾向があり、またこの結晶は非常に微細で様々な結晶形態をとるため、材料強度および靱性が共に低く加工性に優れることが特徴である。一方、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物から析出する二ケイ酸リチウムの結晶は800℃~920℃の熱処理温度範囲で析出する傾向があり、この結晶は前述のメタケイ酸リチウム結晶と比較してサイズが大きく針状の形態を示し、これらが高密度に析出して結晶同士が絡み合う構造をとることによって、クラックの伸展を抑制し高い材料強度を発現する特徴がある。そして、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物から析出する副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)は770~930℃の熱処理温度範囲で析出する傾向があり、この結晶の析出によりガラス相と結晶相との屈折率差を大きくすることができ、遮蔽性向上に寄与する。なお、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物から析出する結晶の析出温度はTG-DTAの発熱ピークより確認することができ、結晶についてはX線回折により同定することができる。
前述のそれぞれの結晶(二ケイ酸リチウム及びメタケイ酸リチウム)及び副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)が析出する熱処理温度範囲内で係留時間を調整することも効率良く高密度に析出させるためには有効な方法である。つまり、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の熱処理として、メタケイ酸リチウム結晶が析出する熱処理温度で一定時間係留した後、次に二ケイ酸リチウム結晶が析出する熱処理温度まで徐々に昇温し、一定時間の係留を経た後、徐冷する2段階熱処理が好ましく、より好ましくはこの2段階処理の前に450℃~550℃の範囲で一定時間係留を行う核生成熱処理を施した3段階熱処理を行うことである。この核生成熱処理は本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物から析出する主結晶の発生起点をつくることを目的としており、効率良く高密度に結晶を析出させるためには有効な方法である。
【0034】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理することにより、主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)及び副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)を析出させて製造するケイ酸リチウムガラスセラミックスの形状に特に制限はなく、歯冠修復物を製造する工程に応じて選択することができる。例えば粉末状、顆粒状、板状の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理して主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)及び副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)を析出させたケイ酸リチウムガラスセラミックスはガラス塊の状態となるが、それらを粉砕加工することにより粉末状のケイ酸リチウムガラスセラミックスを製造することができる。これらの平均粒子サイズは1~100μm、好ましくは10~50μmであることが好ましい。また、粉末状の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物をモールドに充填及び圧縮して成形体(円柱状または角柱状)を作製し、それを熱処理することにより主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)及び副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)を析出させてケイ酸リチウムガラスセラミックスのブランク(円柱状または角柱状)を製造することができる。さらに歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物のガラスブランク(円柱状または角柱状)を粉砕することなくそのままの状態で熱処理することで主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)及び副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)を析出させて、ケイ酸リチウムガラスセラミックスのブランク(円柱状または角柱状)を製造することもできる。これらのように様々な形状に成形した本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理することにより、様々な形状のケイ酸リチウムガラスセラミックスを製造することができるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
また、歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理して得られた歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは熱圧成形、機械加工、築盛・焼成のうち少なくとも一つの製造方法により歯冠修復物を製造することができる。例えば、粉末状の熱処理した歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは練和液と混和後、土台の上にコンデンスしながら築盛して歯冠修復物の形態を再現後、焼成して歯冠修復物を製造することができる。また、熱処理用して得られた歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスのブランクを専用のプレス成型器を用いて加熱加圧下の条件にてブランクを軟化させた後、ワックスが焼成除去された鋳型に圧入して歯冠修復物を製造することができる。さらに、熱処理して得られた歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスのブランクをコンピューターにより制御された切削加工機を用いて切削加工することにより歯冠修復物を製造することもできる。
切削加工機による歯冠修復物の製造において、前述の本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物より析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の析出温度の違いを利用することで、歯冠修復物を効率よく製造することができる。具体的には熱処理温度を制御し、メタケイ酸リチウム結晶を主に析出させることで、切削加工性を向上させる。ケイ酸リチウムガラスセラミックスを所望の歯冠修復物の形状に機械加工した後、再度熱処理を行うことで二ケイ酸リチウム結晶を析出させ高強度化を図る製造方法である。
【0036】
以下に本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造、そのガラス組成物を熱処理した歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの製造、その歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを用いた歯冠修復物の製造までの一連のプロセスの具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0037】
[製造プロセス1]
1-A工程:歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造
(1-A-1)ガラス原料を(炭酸塩・酸化物及び着色材酸化物)混合後、その混合物を1200℃~1650℃の温度範囲で溶融する工程。
(1-A-2)溶融したガラス融液をそのままモールドに充填し、ガラスブランク(円柱形状または角柱形状)を成形する工程。
1-B工程:ケイ酸リチウムガラスセラミックスの製造
(1-B-1)ガラスブランクを500℃~950℃の範囲で少なくとも一度は熱処理する工程。
1-C工程:歯冠修復物の製造
(1-C-1)熱処理したガラスブランクのケイ酸リチウムガラスセラミックスを500℃~1200℃の温度で加熱して軟化させた後、約0.1~1MPaの圧力により、埋没材鋳型の空隙内に圧入し、所望の形態(ブリッジまたはクラウン)である歯冠修復物を製造する工程。
[製造プロセス2]
2-A工程:歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造
(2-A-1)ガラス原料を(炭酸塩・酸化物及び着色材酸化物)混合後、その混合物を1200℃~1650℃の温度範囲で溶融する工程。
(2-A-2)溶融したガラス融液をそのままモールドに充填し、ガラスブランク(円柱形状または角柱形状)を成形する工程。
2-B工程:ケイ酸リチウムガラスセラミックスの製造
(2-B-1)ガラスブランクを500℃~780℃の範囲で少なくとも一度は熱処理する工程。
2-C工程:歯冠修復物の製造
(2-C-1)熱処理したガラスブランクのケイ酸リチウムガラスセラミックスをコンピューターにより制御された切削加工機により切削加工して所望の形態(ブリッジまたはクラウン)に作製し、約700℃~950℃の温度範囲で約5~30分の間で少なくとも一度は熱処理して歯冠修復物を製造する工程。
【0038】
[製造プロセス3]
3-A工程:歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造
(3-A-1)ガラス原料(炭酸塩・酸化物)を混合後、その混合物を1200℃~1650℃の温度範囲で溶融する工程。
(3-A-2)溶融したガラス融液を冷却して、ガラス粒状物またはガラス板(フリット)を成形する工程。
3-B工程:ケイ酸リチウムガラスセラミックスの製造
(3-B-1)ガラス粒状物またはガラス板(フリット)を500℃~780℃の範囲で少なくとも一度は熱処理する工程。
(3-B-2)熱処理したガラス粒状物またはガラス板(フリット)を平均粒子サイズが10~50μmの粉末まで粉砕する工程。
(3-B-3)粉砕した粉末と着色材酸化物を混合する工程。
(3-B-4)上記の混合物粉末を所望の形状のモールドに詰めて不均一構造のガラスブランクである成形体を成形する工程。
(3-B-5)成形体を400℃~950℃の温度範囲において真空下で熱処理に供し、緻密なガラスセラミックブランクを成形する工程。
3-C工程:歯冠修復物の製造
(3-C-1)ブランク形状のケイ酸リチウムガラスセラミックスを500℃~1200℃の温度で加熱して軟化させた後、約0.1~1MPaの圧力により、埋没材鋳型の空隙内に圧入し、所望の形態(ブリッジまたはクラウン)である歯冠修復物を製造する工程。
[製造プロセス4]
4-A工程:歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造
(4-A-1)ガラス原料(炭酸塩・酸化物)を混合後、その混合物を1200℃~1650℃の温度範囲で溶融する工程。
(4-A-2)溶融したガラス融液を冷却して、ガラス粒状物又はガラス板(フリット)を成形する工程。
4-B工程:歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの製造
(4-B-1)ガラス粒状物又はガラス板(フリット)を500℃~780℃の範囲で少なくとも一度は熱処理する工程。
(4-B-2)熱処理したガラス粒状物又はガラス板(フリット)を平均粒子サイズが10~50μmの粉末まで粉砕する工程。
(4-B-3)粉砕した粉末と着色材酸化物を混合する工程、
(4-B-4)上記の混合物粉末を所望の形状のモールドに詰めて不均一構造のガラスブランクである成形体を成形する工程。
(4-B-5)成形体を400℃~950℃の温度範囲において真空下で熱処理に供し、緻密なガラスセラミックスブランクを成形する工程。
4-C工程:歯冠修復物の製造
(4-C-1)ブランク形状のケイ酸リチウムガラスセラミックスをコンピューターにより制御された切削加工機により切削加工して所望の形態(ブリッジまたはクラウン)に作製し、約700℃~950℃の温度範囲で約5~30分の間で少なくとも一度は熱処理して歯冠修復物を製造する工程。
【0039】
[製造プロセス5]
5-A工程:歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造
(5-A-1)ガラス原料(炭酸塩・酸化物及び着色材酸化物)を混合後、その混合物を1200℃~1650℃の温度範囲で溶融する工程。
(5-A-2)溶融したガラス融液を冷却して、ガラス粒状物又はガラス板(フリット)を成形する工程。
5-B:歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの製造
(5-B-1)ガラス粒状物又はガラス板(フリット)を500℃~780℃の範囲で少なくとも一度は熱処理する工程。
(5-B-2)熱処理したガラス粒状物又はガラス板(フリット)を平均粒子サイズが10~50μmの粉末まで粉砕する工程。
(5-B-3)粉砕した粉末と着色材を混合する工程。
5-C工程:歯冠修復物の製造
(5-C-1)着色材と混合された熱処理後の粉末である歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを練和液と混和後、ジルコニア及びケイ酸リチウム系ガラスセラミックスで作製した土台の上にコンデンスしながら築盛し、焼成炉を用いて500℃~950℃の範囲で焼成することで所望の形態(ブリッジ又はクラウン)である歯冠修復物を製造する工程。
【0040】
前述した本発明のケイ酸リチウムガラスセラミックスから製造した歯冠修復物(例えば、ブリッジまたはクラウン)は最終的にステイン材による着色やグレーズ材による表層のコーティングを行うことで、より天然歯に近似した色調で且つ審美的に仕上げることができる。それらのステイン材及びグレーズ材としては、セラミック、焼結セラミック、ガラスセラミックス、ガラス、うわぐすり及び/又は複合体等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。ステイン材は天然歯の色調を模倣するための色調調整材として用い、グレーズ材は表面の滑沢性及び光沢性を向上するために用いる。それらのステイン材、グレーズ材の中でも650℃~950℃の温度範囲で焼成が可能であり、且つ本発明のケイ酸リチウムガラスセラミックスより作製した歯冠修復物の熱膨張係数との差が1.0±0.5×10-6 K-1の範囲であるものが好ましい。
【0041】
以上、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を用いて適切に成形された歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは、臨床において、インレー、アンレー、コーピング、クラウン、ブリッジ、ポスト、前装冠、ジャケット冠、ラミネートベニア、連結冠等で使用され、好ましくはコーピング、前装冠、ジャケット冠に使用される。
【実施例】
【0042】
本発明について、以下の実施例に基づいて詳細に説明する。ただし本発明は、これら実施例の範囲に限定されるものではない。
実施例及び比較例において採用した試験方法は以下の通りである。
[評価方法]
(1)曲げ強さ(3点曲げ)試験ISO 6872 Dentistry - Ceramic Materials に準拠して実施した。
(2)溶解性試験
ISO 6872 Dentistry - Ceramic Materials に準拠して実施した。
(3)コントラスト比測定
各実施例及び比較例の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを用いて丸板(φ14.0mm×2.0mm)を作製し、厚さ1mmに調整した試料を、分光測色計を用いて測色(白バック、黒バック)し、測色データからコントラスト比を算出した。
計算式:(コントラスト比)=(黒バック測色のY値)/(白バック測色のY値)
測定機器:CM-3500d(コニカミノルタ社製)
(4)結晶系確認
各実施例及び比較例の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを粉砕し、XRDにより各段階での熱処理における析出結晶を確認した。表中の記載は、LDS:ニケイ酸リチウム、LMS:メタケイ酸リチウム、LP:リン酸リチウム、TC:四価金属酸化物からなる単結晶・複合結晶とする。
使用機器:マルチフレックス(Rigaku社製)
測定条件:走査範囲10~70°
スキャンスピード2.0°/分
(5)埋没材との焼きつき性試験
プレス成型器を用いて加熱加圧下の条件にて、各実施例及び比較例のケイ酸リチウムガラスセラミックスブランクを軟化させた後、ワックスで作製した丸板(φ14.0mm×1.4mm)を焼成除去した鋳型に圧入して試験体を作製した。その後、プレス成形した試験体をアルミナサンドブラスト(アルミナ粒径:110μg、圧力:0.4MPa)で埋没材を除去した際の試験体表面を目視で観察し、埋没材の除去状況を評価した。
埋没材:セラベティプレス&キャスト(松風製)
プレス成型器:エステマットプレス(松風製)
【0043】
[結晶加熱処理温度]
まず、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の析出温度(ニケイ酸リチウム及びメタケイ酸リチウム)を、実施例1において析出する主結晶(ニケイ酸リチウム及びメタケイ酸リチウム)の析出温度により特定する。
表1記載の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物:実施例1に相当するガラス原料混合物を1450℃で1時間保持し溶融した。そのガラス融液を500℃に予熱したカーボン製モールド(φ12mm×10mm)に充填し、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物であるガラスブランクを作製した。このガラスブランクは、透明で均質であった。
【0044】
このガラスブランクの結晶析出温度を確認するために、TG-DTA測定(測定条件:25℃~1000℃(昇温速度:10℃/分))を実施した(
図1)。その結果、670℃と803℃にそれぞれ結晶析出に伴う発熱ピークが確認された。次にこのガラスブランクを各発熱ピーク温度で熱処理(開始温度:500℃、昇温速度:10℃/分、焼成温度:各発熱ピーク温度670℃及び803℃)して本発明のケイ酸リチウムガラスセラミックスを製造し、XRDにより析出結晶を測定した。その得られたXRDパターン結果から、670℃ではメタケイ酸リチウム結晶(
図2)、803℃ではニケイ酸リチウム結晶および副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)(
図3)が析出していることを確認した。
【0045】
図4に、670℃で熱処理した本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを1%フッ化水素酸により30秒間エッチングした後の電子顕微鏡観察像を示す。
図4より、メタケイ酸リチウム結晶がエッチングにより消失し、微細な結晶痕(空孔)が確認できた。
【0046】
図5に、803℃で熱処理した本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを1%フッ化水素酸により3分間エッチングした電子顕微鏡観察像を示す。
図5より、ガラス質がエッチングにより消失し、二ケイ酸リチウム由来の針状結晶が確認できた。
【0047】
以上の方法により、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に熱処理(第一の結晶化熱処理(メタケイ酸リチウムの析出):660℃、第二の結晶化熱処理(二ケイ酸リチウムおよび四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶の析出):840℃)を施すことで、主結晶を析出することとした。
【0048】
(プレス成形による試験)
表記載の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物:実施例1~33及び比較例1~24に相当するガラス原料混合物を1450℃で1時間保持し溶融した。そのガラス融液を500℃に予熱したカーボン製モールド(φ12mm×10mm)に充填し、実施例1~33の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物及び比較例1~24のガラス原料混合物のガラスブランクを作製した。このガラスブランクを500℃で10分間熱処理(結晶核の生成)した後、660℃で30分間熱処理(第一の結晶化熱処理)し、さらに840℃で30分間熱処理(第二の結晶化熱処理)した。この3段階熱処理により製造した本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスをプレス成形するためのガラスセラミックスブランクとして用いた。
前述の評価試験(1)~(3)に用いる試験体形状と同一形状のワックスを埋没材(セラベティプレス&キャスト;松風製)に埋没し、硬化した鋳型を850℃で1時間焼却することによりワックスを除去した。焼却処理後の鋳型に製造したガラスセラミックスブランクを挿入し、プレス器(エステマットプレス;松風)によりプレス成形(プレス開始温度:700℃、プレス温度:920℃、係留時間:20分、昇温速度:60℃/分、プレス時間:3分)を行った。鋳型を冷却した後、サンドブラスト処理により各試験体を掘り出し、試験体のサイズを調製後、前述の評価試験(1)~(3)を実施した。また、試験体掘り出し時において、埋没材との焼き付き状況を確認するために前述の評価試験(5)も合わせて実施した。最終の試験体における結晶系を確認するために前述の評価試験(4)を実施した。
【0049】
(機械加工による試験)
表記載の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物:実施例1~33及び比較例1~24に相当するガラス原料混合物を1450℃で1時間保持し溶融した。そのガラス融液を500℃に予熱したカーボン製鋳型(5mm×22mm×22mm)に充填し、実施例1~33の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物及び比較例1~24のガラス原料混合物のガラスブランクを作製した。このガラスブランクを500℃で10分間熱処理(結晶核の生成)した後、660℃で30分間熱処理(第一の結晶化熱処理)し、この2段階熱処理により製造した本発明のガラスセラミックスを機械加工するためのガラスセラミックスブランクとして用いた。
このガラスセラミックスブランクは、歯科用CAD/CAMシステムを用いて前述の評価試験(1)~(3)に用いる試験体形状と同一形状に切削加工した後、さらに熱処理(第二の結晶化熱処理:開始温度:700℃、焼成温度:840℃、係留時間:30分、昇温速度:10℃/分)を行い、試験体サイズを調整後、前述の評価試験(1)~(3)を実施した。また、最終の試験体における結晶系を確認するために前述の評価試験(4)を実施した。
【0050】
(粉末成形による試験)
表記載の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物:実施例1~33及び比較例1~24に相当するガラス原料混合物を1450℃で1時間保持し溶融した。そのガラス融液を500℃に予熱したカーボン製鋳型(5mm×22mm×22mm)に充填し、実施例1~33の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物及び比較例1~24のガラス原料混合物のガラスブランクを作製した。このガラスブランクを500℃で10分間熱処理(結晶核の生成)した後、660℃で30分間熱処理(第一の結晶化熱処理)し、この2段階熱処理により製造した本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックブランクを得た。
このガラスセラミックスブランクを粉砕して平均粒子径20μmである本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックス粉末を得た。この粉末を蒸留水と練和しスラリー状にしたものを前述の評価試験(1)~(3)の各試験に用いる試験体形状と同一形状のシリコン型に注いだ。この注いだスラリーの水分を十分に除去した後、シリコン型より成形体を離型し、熱処理(熱処理開始温度:500℃、熱処理終了温度:950℃、昇温速度:50℃/分)を行い、試験体サイズを調整後、前述の評価試験(1)~(3)を実施した。最終の試験体における結晶系を確認するために前述の評価試験(4)を実施した。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
全ての実施例において、コントラスト比は0.88~0.99と高い遮蔽性を示し、また、プレス成形、機械加工及び粉末成形のいずれにおいても、曲げ強度が380MPa以上であり、高い材料強度を示した。
一方で、比較例1~4では、コントラスト比が低く(0.80未満)、十分な遮蔽性が得られなかった。また比較例5~24では、プレス成形、機械加工及び粉末成形のいずれかで曲げ強度が350MPa以下であり、十分な材料強度が得られなかった。
全ての実施例において、溶解性はISO6872の規格値(100μg/cm2)内の値であり、高い化学的耐久性(低溶解性)を示した。
一方で、比較例の一部において、ISO6872の規格値(100μg/cm2)を逸脱する値であった。また、比較例においてISO6872の規格値(100μg/cm2)内の値であっても、プレス成形、機械加工及び粉末成形のいずれかで曲げ強度が350MPa以下であり、十分な材料強度が得られなかった。
また、実施例は埋没材との焼きつきも無く良好な結果であった。一方で比較例は試験体表面に埋没材との焼つきが多く見受けられた。
【0063】
以上の結果から、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは、従来の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスでは達成することができなかった高い遮蔽性かつ高い材料強度を満足する良好な結果を示した。また本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは、高い化学的耐久性をも示した。これは、特定の酸化物含有量範囲からなる本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理することにより、主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)および副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)が効率よく高密度に析出したことに起因しているものと考えられる。具体的に、遮蔽性の向上は副結晶(四価金属酸化物からなる単結晶及び/又は複合結晶)を含むことで屈折率の差を向上させたことによるものである。
よって、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は従来の主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)のみを含んだケイ酸リチウムガラス組成物の遮蔽性を飛躍的に改善したものである。
本明細書において、発明の構成要素が単数もしくは複数のいずれか一方として説明された場合、又は、単数もしくは複数のいずれとも限定されずに説明された場合であっても、文脈上別に解すべき場合を除き、当該構成要素は単数又は複数のいずれであってもよい。
本発明を図面及び詳細な実施の形態を参照して説明したが、当業者であれば、本明細書において開示された事項に基づいて種々の変更又は修正が可能であることが理解されるべきである。従って、本発明の実施形態の範囲には、いかなる変更又は修正が含まれることが意図されている。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により提供される歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物はプレス成形用ブランク、機械加工用ブランク及び粉末陶材に応用できる高い遮蔽性、高い材料強度及び高い化学的安定性(高い化学的耐久性、低反応性)を有するものであり、歯科分野の修復治療において、様々な歯冠修復物への応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】