(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】放射線治療システム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20221028BHJP
【FI】
A61N5/10 M
A61N5/10 H
(21)【出願番号】P 2018188541
(22)【出願日】2018-10-03
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長本 義史
(72)【発明者】
【氏名】笠井 茂
(72)【発明者】
【氏名】金井 芳治
(72)【発明者】
【氏名】前田 和孝
【審査官】山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第01431578(US,A)
【文献】特開2013-198579(JP,A)
【文献】特開2018-038670(JP,A)
【文献】特開2006-230721(JP,A)
【文献】特開2004-180711(JP,A)
【文献】特開2014-068928(JP,A)
【文献】国際公開第2018/165423(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
A61G 3/00
A61G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に治療ビームを照射する照射ポートと、
前記照射ポートを軸回転可能に支持する支持体と、
前記軸回転に伴って回転する前記照射ポートに設けられ、オペレータ操作に基づいて前記軸回転をさせるための信号を発信するスイッチと、を備え
、
前記スイッチは、タッチセンサであることを特徴とする放射線治療システム。
【請求項2】
患者に治療ビームを照射する照射ポートと、
前記照射ポートを軸回転可能に支持する支持体と、
前記軸回転に伴って回転する前記照射ポートに設けられ、オペレータ操作に基づいて前記軸回転をさせるための信号を発信するスイッチと、を備え
、
前記スイッチのタッチ面の法線方向が前記照射ポートの回転軌道の接線方向に略一致することを特徴とする放射線治療システム。
【請求項3】
患者に治療ビームを照射する照射ポートと、
前記照射ポートを軸回転可能に支持する支持体と、
前記軸回転に伴って回転する前記照射ポートに設けられ、オペレータ操作に基づいて前記軸回転をさせるための信号を発信するスイッチと、を備え
、
前記照射ポートの回転角度情報を表示する表示パネルが設けられていることを特徴とする放射線治療システム。
【請求項4】
患者に治療ビームを照射する照射ポートと、
前記照射ポートを軸回転可能に支持する支持体と、
前記軸回転に伴って回転する前記照射ポートに設けられ、オペレータ操作に基づいて前記軸回転をさせるための信号を発信するスイッチと、を備え
、
前記スイッチは、正方向に前記軸回転をさせるための第1信号を発信する第1スイッチと、逆方向に前記軸回転をさせるための第2信号を発信する第2スイッチと、からなる放射線治療システム。
【請求項5】
請求項1
から請求項4のいずれか1項に記載の放射線治療システムにおいて、
前記支持体が回転ガントリである放射線治療システム。
【請求項6】
請求項1
から請求項5のいずれか1項に記載の放射線治療システムにおいて、
前記スイッチは、前記照射ポートの外装カバーに設けられている放射線治療システム。
【請求項7】
請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の放射線治療システムにおいて、
前記スイッチは、タッチセンサである放射線治療システム。
【請求項8】
請求項1、請求項3及び請求項4のいずれか1項に記載の放射線治療システムにおいて、
前記スイッチのタッチ面の法線方向が前記照射ポートの回転軌道の接線方向に略一致する放射線治療システム。
【請求項9】
請求項1
、請求項2及び請求項4のいずれか1項に記載の放射線治療システムにおいて、
前記照射ポートの回転角度情報を表示する表示パネルが、さらに設けられている放射線治療システム。
【請求項10】
請求項9に記載の放射線治療システムにおいて、
前記表示パネルに表示されるボタンスイッチに、前記スイッチの機能が割り当てられている放射線治療システム。
【請求項11】
請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載の放射線治療システムにおいて、
前記スイッチは、正方向に前記軸回転をさせるための第1信号を発信する第1スイッチと、逆方向に前記軸回転をさせるための第2信号を発信する第2スイッチと、
から成る放射線治療システム。
【請求項12】
請求項1から
請求項10のいずれか1項に放射線治療システムは、
オペレータ操作に基づいて第3信号を発信する第3スイッチと、
回転駆動部を駆動させるための回転信号を発信する回転信号生成部を備え、
前記スイッチは、
オペレータ操作に応じて第1信号を発信する第1スイッチと、
オペレータ操作に応じて第2信号を発信する第2スイッチであり、
前記回転信号生成部は、前記第1信号と同時に第3信号を受信している期間において正方向の前記軸回転をさせるための回転信号を前記回転駆動部に出力し、
前記第2信号と同時に第3信号を受信している期間において逆方向に前記軸回転をさせるための回転信号を前記回転駆動部に出力する放射線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転ガントリを備える放射線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
陽子、炭素イオン、ガンマ線等の治療ビームを患者の患部(がん)に照射して治療を行う放射線治療が広く実施されている。このような放射線治療の一つとして、治療台に横臥させた患者を位置決めし、大型回転機構(以下、回転ガントリと称す)を用いて、治療ビームを照射する治療技術が存在する。
【0003】
この回転ガントリには、治療ビームを照射する照射ポートが固定されている。この照射ポートを回転ガントリの回転軸周りに回転させることにより、治療台を傾けることなく、治療ビームを任意の方向から患者の患部に照射させることができる。このため治療ビームの角度を細かく調節しながら多方向から照射することにより、腫瘍が重要器官に囲まれるようなケースであっても、脊髄や神経などの重要器官の被ばくを回避して腫瘍への線量を集中することが可能となる。このために、腫瘍に対する治療効果が向上するだけでなく、治療時の患者の負担軽減や治療後の障害や副作用の更なる低減が期待される。
【0004】
放射線治療システムでは、患者に治療ビームを照射する前に、治療計画で決定した位置まで回転ガントリを回転操作し、照射ポートの位置決めを行う。この照射ポートの位置決め操作は、設定した位置情報に基づいて自動操作させたり治療室から離れた操作室において遠隔操作させたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-214273号公報
【文献】特許第3608194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方において、治療台等の静止物体と旋回する照射ポートとの干渉が気になる場合など、照射ポートに近接した位置から手動操作により、照射ポート及び回転ガントリを回転操作させることもある。このような場合、静止系から吊り下げられたケーブルに接続された操作ペンダント又は静止系の壁に固定された操作パネルを手動操作して、照射ポート及び回転ガントリを回転操作させる。
【0007】
しかし大型構造物である照射ポート及び回転ガントリを回転操作させるにあたって、複数のボタンが設けられ静止系に配置されている操作ペンダントを手元で操作することは、直観性に劣る操作となることが避けられない。またオペレータの注意が手元に集中してしまい、治療台(患者)や照射ポートに向けられる注意が散漫となる可能性も否定できない。このため、操作ペンダントや操作パネルを用いて照射ポート及び回転ガントリを回転操作させる場合、オペレータは、思いがけない誤操作を招く不安を常に抱えることとなる。
【0008】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、照射ポート及び回転ガントリを直観的に回転操作することができる放射線治療システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る放射線治療システムにおいて、患者に治療ビームを照射する照射ポートと、前記照射ポートを軸回転可能に支持する支持体と、前記軸回転に伴って回転する前記照射ポートに設けられ、オペレータ操作に基づいて前記軸回転をさせるための信号を発信するスイッチと、を備え、前記スイッチはタッチセンサであるか、前記スイッチのタッチ面の法線方向が前記照射ポートの回転軌道の接線方向に略一致するか、前記照射ポートの回転角度情報を表示する表示パネルが設けられているか、もしくは前記スイッチは正方向に前記軸回転をさせるための第1信号を発信する第1スイッチと逆方向に前記軸回転をさせるための第2信号を発信する第2スイッチと、からなるかする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態により、照射ポート及び回転ガントリを直観的に回転操作することができる放射線治療システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る放射線治療システムの第1の実施形態を示す断面図。
【
図2】第1の実施形態に係る放射線治療システムの斜視図。
【
図3】(A)(B)第1の実施形態に係る放射線治療システムにおける回転ガントリの手動による基本動作の説明図。
【
図4】(A)(B)第1の実施形態に係る放射線治療システムにおける回転ガントリの手動による基本動作の説明図。
【
図5】第1の実施形態に係る放射線治療システムの上面図。
【
図7】(A)(B)第1の実施形態に係る放射線治療システムの照射ポートにおけるスイッチの配置例の説明図。
【
図8】(A)(B)第1の実施形態に係る放射線治療システムの照射ポートにおけるスイッチの配置例の説明図。
【
図9】第2の実施形態に係る放射線治療システムの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の第1の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように実施形態に係る放射線治療システム10は、患者11に治療ビーム19を照射する照射ポート18と、この照射ポート18を胴体に固定し軸回転(図示はZ軸周り回転)する回転ガントリ15(支持体)と、この回転ガントリ15の軸回転に伴って回転する部材(図示は照射ポート18)に設けられオペレータ操作に基づいて軸回転を正方向に生じさせる第1信号Aを発信する第1スイッチ31(
図3参照)と、回転ガントリ15の軸回転に伴って回転する部材(図示は照射ポート18)に設けられオペレータ操作に基づいて軸回転を逆方向に生じさせる第2信号Bを発信する第2スイッチ32(
図3参照)と、を備えている。ここで治療ビーム19は、陽子線、重粒子線などの高い運動エネルギーをもって流れる粒子放射線及びガンマ線やX線のような高エネルギーの電磁放射線である。以降では、治療ビーム19が粒子放射線の例を説明する。
【0013】
さらに放射線治療システム10は、第1信号A又は第2信号Bと同時に発信された場合に軸回転を生じさせる第3信号Cをオペレータ操作に基づいて発信する第3スイッチ33を、さらに備えている。さらに放射線治療システム10には、回転ガントリ15又は照射ポート18の回転角度情報を表示する表示パネル35が設けられている。
【0014】
図2に基づいて放射線治療システムの全体概要を説明する。
回転ガントリ15は、一般に円筒形状を有する大型構造物であり、その両縁端の外周面に外接する複数の回転駆動部23の回転駆動により、回転軸(Z軸)周りに回転する。そして回転ガントリ15は、回転駆動部23を介して、基礎21(静止系)によりその重量が支えられている。そしてこの回転ガントリ15は、静止系に固定されたベッド24を内側に配置させ、照射ポート18を胴体に固定させた状態で軸回転する。
【0015】
この回転ガントリ15には、照射ポート18の他に、ビーム輸送用ダクト27、ビームの偏向電磁石28、その他の制御機器や構造物が、多数設けられている。治療ビーム19は、図示略のイオン源で発生したイオン(重粒子あるいは陽子イオン)を直線加速器で加速し、さらに円形加速器(図示略)に入射して設定エネルギーまでに高めることにより生成される。
【0016】
そして、円形加速器から出力された治療ビーム19は、回転ガントリ15と一体回転するように設けられたビーム輸送系(図示略)の回転軸Zの延長線上から入射する。照射ポート18は、回転ガントリ15の内側に向かって挿入され、この回転ガントリ15と共にベッド24の周囲を±180度回転する。このようにビーム輸送系に入射した治療ビーム19は、その軌道が偏向電磁石28により曲げられて、照射ポート18からベッド24に横臥する患者に、360度の任意の方向から照射される。なお、照射ポート18及び回転ガントリ15の回転角度は±180度に限定されず、例えば0度から180度まで部分的に回転するもの(ハーフタイプ)でもよい。また、回転ガントリ15が円筒形状でなくトラス形状などフレーム構造であってもよい。
【0017】
このベッド24は、建屋側の基礎(静止系)21に土台が固定されており、回転ガントリ15の内部を移動し、治療ビーム19の照射位置に、患者の患部を位置決めする。治療ビーム19が患部に向かって照射されると、患者の体内を通過する際に運動エネルギーを失って速度を低下させるとともに、速度の二乗にほぼ反比例する抵抗を受けてある一定の速度まで低下すると急激に停止する。そして、治療ビーム19の停止点近傍では、ブラッグピークと呼ばれる高エネルギーが放出される。このブラッグピークの放出位置が患部に一致するようベッド24の位置決めがなされているために、患部組織のみを死滅させ正常組織の障害が少ない治療が実行される。
【0018】
図1に戻って放射線治療システムの概要を引き続き説明する。
移動床12は、その一部に設けた開口に、照射ポート18を貫通させることにより、回転ガントリ15の回転に同期して移動床12を回転させることができる。この環状に形成された移動床12の両端には、円弧及び直線からなる閉軌道を有し基礎(静止系)21に対して回転しない第1レール13A(
図3参照)及び第2レール13Bが、摺動自在に係合している。
【0019】
これにより、移動床12は、フラットな水平形状とアーチで囲まれたトンネル形状からなる内部空間を形成し、トンネル形状を維持しながら回転軸Z周りに回転することが可能になる。なお図示を省略しているが、第1レール13A及び第2レール13Bに対し、移動床12を回転軸Z周りに回転させるための駆動機器が設けられている。この駆動機器としては、具体的にラック・アンド・ピニオン機構を採用することができる。
【0020】
この場合、ピニオンとよばれる小口径の円形歯車を回転させるモータが、移動床12を構成する板材に設けられている。そして、第1レール13A及び第2レール13Bの少なくとも一方に、歯切りをしたラックを設ける。このラックとピニオンを組み合わせピニオンに回転力を加えると、ラックの長手方向への直線力に変換され、移動床12は、レール13の閉軌道に沿って移動することになる。なお駆動機器は、ラック・アンド・ピニオン機構に限定されることはなく、レール13の閉軌道に対し、移動床12を走行させることができるものであれば適宜採用することができる。
【0021】
回転ガントリ15の回転制御部40は、第1スイッチ31から発信された第1信号Aを受信する第1信号受信部41と、第2スイッチ32から発信された第2信号Bを受信する第2信号受信部42と、第3スイッチ33から発信された第3信号Cを受信する第3信号受信部43と、回転信号生成部44とを備えている。
【0022】
回転信号生成部44は、第1信号Aと第3信号Cを同時に受信している期間において、回転ガントリ15を正方向に回転させる回転信号CWを回転駆動部23に出力する。さらに回転信号生成部44は、第2信号Bと第3信号Cを同時に受信している期間において、回転ガントリ15を逆方向に回転させる回転信号CCWを回転駆動部23に出力する。
【0023】
さらに回転制御部40は、回転ガントリ15の回転角度又は回転量を検出する回転センサ36の出力信号Rを受信する回転信号受信部45と、この出力信号Rに基づいて回転ガントリ15又は照射ポート18の回転角度情報Dを送信する回転角度送信部46と、を有している。ここで、回転センサ36は、基礎21(静止系)に配置されるものが例示されているが、回転駆動部23に組み込まれている場合もある。また回転センサ36は、回転ガントリ15(回転系)に配置される場合もあり、この場合、回転信号受信部45及び回転角度送信部46も回転ガントリ15(回転系)に設けることがある。
【0024】
図3に示すように、第1スイッチ31及び第2スイッチ32は、照射ポート18の外装カバー14に設けられている。第1スイッチ31は、オペレータのタッチ操作により、回転ガントリ15を正方向(図中、時計周り方向)に軸回転させる。また第2スイッチ32は、オペレータのタッチ操作により、回転ガントリ15を逆方向(図中、反時計周り方向)に軸回転させる。
【0025】
第1スイッチ31及び第2スイッチ32は、タッチ面の法線方向17(17a,17b)が照射ポート18の回転軌道の接線方向に略一致するようにかつタッチ方向が互いに逆方向になるように、外装カバー14に設定されている。また、第1スイッチ31、第2スイッチ32のタッチ応力に依存させたり図示略の第4スイッチを設けたりすることで、第1信号A、第2信号Bを変化させ、それに伴って回転信号CW、回転信号CCWを変化させて回転ガントリ15の回転速度を変化させることもできる。
【0026】
図7(A)(B)及び
図8(A)(B)にスイッチの配置例を示す。
図7(A)のように照射ポート18及び外装カバー14が下向きに凸形状の場合、ベッド24が固定されている静止系から照射ポート18を見て、左側に第1スイッチ31a、右側に第2スイッチ32aを配置すると良い。また、照射ポート18の角に沿うように、前面及び側面に第1スイッチ31a及び第2スイッチ32aを配置するとオペレータが直感的に触れやすい。これは外装カバー14の側面が略垂直の場合も当てはまる。
【0027】
図7(B)のように照射ポート18及び外装カバー14が上向きに凸形状の場合、ベッド24が固定されている静止系から照射ポート18を見て、左側に第2スイッチ32b、右側に第1スイッチ31bを配置すると良い。これにより、特に外装カバー14の傾斜角度が水平面に対して45度より小さい場合、オペレータが直感的に触れやすい。
【0028】
図8(A)のように、ベッド24が固定されている静止系から照射ポート18を見て、外装カバー14の前面左側に第1スイッチ32c、右側に第2スイッチ31cを配置しても良い。また、
図8(B)のように、外装カバー14が複雑な形状(法線)を持つ場合は、同じ側面(図では左側)に第1スイッチ31dと第2スイッチ32dを場所に応じて配置しても良い。このとき、タッチ面の法線方向が照射ポート18の回転軌道の接線方向に略一致させるように配置すると、オペレータが直感的に触れやすい。
【0029】
なお第1スイッチ31及び第2スイッチ32の設置位置は、特に外装カバー14に限定されるものではなく、回転ガントリ15の軸回転に伴って回転する任意の部材に設けられていることにより、回転ガントリ15を直観的に回転操作することが可能になる。回転する任意の部材としては、例えば、移動床12、回転ガントリ15の内周面に固定された部材、外装カバー14ではない照射ポート18に固定された部材等が挙げられる。
【0030】
第1スイッチ31及び第2スイッチ32は、静電方式や抵抗膜方式を採用したタッチセンサを採用することができる。また、複数個のタッチセンサ素子を並べて接続し、一体として機能させることができる。あるいは、押し込み感覚が得られるよう所定のストロークを持たせたパネル状にしてもよい。第3スイッチ33(
図1)は、オペレータが意図せず第1スイッチ31及び第2スイッチ32を操作してしまった場合に、回転ガントリ15の誤回転を防止するデッドマンスイッチとしての役割を果たす。この第3スイッチ33は、
図1に示されるように、押し込み感覚が得られるフット操作スイッチで、移動床12の近傍で足場が安定している静止系に配置されている。
【0031】
第3スイッチ33の形態は、図示される形態に限定されることはなく、ハンド操作スイッチであったり、レーザや赤外線等のビームセンサであったり、回転系に配置されたりしてもよい。なお、第3スイッチ33を排して回転信号を生成するように構成することも可能だが、安全性の観点から設置が要請されるものである。
【0032】
表示パネル35は、ベッド24が固定されている静止系から見て、照射ポート18の外装カバー14の前面に配置されている。この表示パネル35は、回転ガントリ15のステータス情報、すなわち回転モード、現在の回転角度(回転角度情報D)、設定されている回転角度、第3スイッチのON/OFF、回転中を示す表示等を表示する。なおこの表示パネル35は、回転角度等の設定情報を入力することもできる。またこの表示パネル35に表示されるボタンスイッチに、第1スイッチ31、第2スイッチ32及び第3スイッチ33の機能を割り当てることもできる。
【0033】
図3(A)(B)及び
図4(A)(B)の流れに沿って、回転ガントリ15の手動による基本動作を説明する。オペレータは床面の第3スイッチ33(
図1)を踏んだ状態で、照射ポート18の外装カバー14(図示は第1スイッチ31)にタッチすると所定の方向に回転する。そして、この照射ポート18の外装カバー14から手を離すか、又は床面の第3スイッチ33から足を離すと、回転ガントリ15の回転は止まる。
【0034】
なお、回転ガントリ15には、次のいずれかの回転モードを設定する。(1)治療室の外にあるコンソール等から操作指令を行うリモート(遠隔操作)モード、(2)指定角度を設定し、そこまで回転すると停止するローカル・指令値モード、(3)タッチしている期間は継続的に回転するローカル・ジョグモード。回転モードの設定は回転モード設定部50(
図6)により行う。
【0035】
図5は第1の実施形態に係る放射線治療システムの上面図であり、
図6は回転モード設定部のブロック図である。デフォルトはリモートモードで運用し、治療室内で操作するときにローカルモードに切り替える。開閉信号受信部54は、治療室扉51に設置した開閉センサ52から開閉信号Eを受信する。モード設定部55では、開閉信号受信部54が受信した開閉信号Eに基づき、扉閉の間はリモートモード、扉開のタイミングでローカル・指令値モード、となるようモード設定信号Gを上位制御系へ発信する。
【0036】
こうして、モード切り替えを治療室の扉と連動させ、オペレータは余計な設定作業をすることなく、すぐに回転操作を行うことができる。また、切替信号受信部53は、表示パネル35から切替信号Fを受信し、モード設定部55では、切替信号Fに基づくモード設定信号Gを上位系へ発信する。こうして、治療室内では、表示パネル35上でローカル・指令値モードとローカル・ジョグモードを容易に変更することができる。
【0037】
ローカル・指令値モードの指定角度の初期値は、リモートモード時に上位系から送信された設定値を適用する。そのような初期値は、患者ごとに治療計画で定められた値であって、照射角度30°などといった値である。なお、この指定角度の設定値は、表示パネル35上で設定変更したり、リセットボタンでいつでも初期値に戻したりすることが可能である。
【0038】
なお、治療室内での操作完了後に、治療室外からリモートモードで角度設定、回転を行うこともある。例えば、患者11の位置決め中だけローカル・ジョグモードにより照射ポート18を適当な場所にずらし、この位置決めを終了して治療室を出た後にリモートモードで初期値の照射角度に合わせることもできる。
【0039】
こういったケースでは、操作パネル16等との往復移動が不要で、直感的な操作により衝突リスクも下がるため、操作を短時間で終了でき治療効率が顕著に高まる。このリモートモードの設定により、初期値の照射角度で一回目の治療ビームを照射した後、自動的に二回目の治療ビームの照射角度に照射ポート18を回転させることができる。
【0040】
なお、回転ガントリ15の手動動作の操作性を高めるために次の機能を追加してもよい。回転ガントリ15が操作中(回転中)であることがわかるように発光LEDを照射ポート18の外装カバー14に追加する。この発光LEDは、回転モードによって異なる点灯色としてもよい。また、回転の停止時に数度点滅するようにしてもよい。
【0041】
さらに、現在角度と指定角度とを比較する角度比較部を設け、ローカル・指令値モードにおいて、指定角度と逆向きにタッチ(操作)すると、角度比較部の判定をもとに回転せずに表示パネル35の表示や発行LEDの点灯、または音で注意喚起する機能を設定することもできる。
【0042】
第1スイッチ31及び第2スイッチ32から、第1信号A及び第2信号B以外に次の信号を発生させてもよい。所定時間以内に2回以上タッチした場合に、ローカル・指令値モードとローカル・ジョグモードを切り替える切替信号を発生させてもよい。また、第1スイッチ31及び第2スイッチ32をタッチセンサとし、タッチした状態のままタッチ位置をセンサ上で所定距離スライドさせた場合に、ローカル・指令値モードの指定角度をスライド距離に応じてシームレスに変更する角度変更信号を発生させてもよい。あるいは、1つのスイッチで第1スイッチ31及び第2スイッチ32の機能を兼ねて、スライド方向に応じて第1信号Aまたは第2信号Bを発生させてもよい。
【0043】
表示パネル35は、回転ガントリ15の動作設定以外に、治療台の動作設定、X線撮像装置の動作設定、室内照明のON/OFF設定等の役割を担わせてもよい。また、リモートモードで回転ガントリ15を動作させている工程で、第1スイッチ31、第2スイッチ32及び表示パネル35に、安全センサとしての役割を担わせてもよい。すなわち、リモートモードでの動作中に物体が回転ガントリ15に接触した場合、事故を防止するために、回転動作を緊急停止させる。
【0044】
以下、本発明の第2の実施形態を添付図面に基づいて説明する。第1の実施形態と重複する部分は省略する。
図9に示すように実施形態に係る放射線治療システム10は、回転ガントリ15(
図1)が存在しない。患者11に治療ビーム19を照射する照射ポート18が支持フレーム56(支持体)にローラ等を介して支持されており、照射ポート18はポート駆動部57により支持フレーム56に沿って軸回転し、水平位置から垂直位置まで移動できる。
【0045】
支持フレーム56、ビーム輸送系用ダクト(図示略)、ビームの偏向電磁石(図示略)、その他の制御機器や構造物はすべて静止系21に固定されている。ビーム輸送系(図示略)は、水平位置と垂直位置にそれぞれ設けられ、照射ポート18がその位置に来た時に、患者11に治療ビーム19を照射できるようになっている。
【0046】
回転信号生成部44(
図1参照)は、第1信号Aと第3信号Cを同時に受信している期間において、照射ポート18を正方向(垂直位置から水平位置)に回転させる回転信号CWをポート駆動部57に出力する。さらに回転信号生成部44は、第2信号Bと第3信号Cを同時に受信している期間において、照射ポート18を逆方向(水平位置から垂直位置)に回転させる回転信号CCWをポート駆動部57に出力する。
【0047】
第1スイッチ31及び第2スイッチ32は、タッチ面の法線方向17(17a,17b)が照射ポート18の回転軌道の接線方向に略一致するようにかつタッチ方向が互いに逆方向になるように、外装カバー14に設定されている。また、第1スイッチ31、第2スイッチ32のタッチ応力に依存させたり図示略の第4スイッチを設けたりすることで、第1信号A、第2信号Bを変化させ、それに伴って回転信号CW、回転信号CCWを変化させて照射ポート18の回転速度を変化させることもできる。
【0048】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の放射線治療システムによれば、照射ポート及び回転ガントリの軸回転に伴って回転する部材にこの軸回転を手動操作するスイッチを設けることにより、照射ポート及び回転ガントリを直観的に回転操作することが可能となる。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0050】
10…放射線治療システム、11…患者、12…移動床、13…レール、13A…第1レール、13B…第2レール、14…外装カバー、15…回転ガントリ(支持体)、16…操作パネル、17(17a,17b)…法線方向、18…照射ポート、19…治療ビーム、21…基礎、23…回転駆動部、24…ベッド、27…ビーム輸送用ダクト、28…偏向電磁石、30…照射角度、31…第1スイッチ、32…第2スイッチ、33…第3スイッチ、35…表示パネル、36…回転センサ、40…回転制御部、41…第1信号受信部、42…第2信号受信部、43…第3信号受信部、44…回転信号生成部、45…回転信号受信部、46…回転角度送信部、50…回転モード設定部、51…治療室扉、52…開閉センサ、53…切替信号受信部、54…開閉信号受信部、55…モード設定部、56…支持フレーム(支持体)、57…ポート駆動部。