(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】原子炉燃料状態監視装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G21C 17/035 20060101AFI20221028BHJP
G21C 17/10 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
G21C17/035
G21C17/10 300
(21)【出願番号】P 2018228188
(22)【出願日】2018-12-05
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂呂居 玲
(72)【発明者】
【氏名】小田 直敬
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏明
(72)【発明者】
【氏名】黒田 英彦
(72)【発明者】
【氏名】竹村 真
(72)【発明者】
【氏名】杉田 宰
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-108810(JP,A)
【文献】特開2013-108905(JP,A)
【文献】特開昭57-110295(JP,A)
【文献】特開2013-130542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00-17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準水柱との水圧差に基づいて圧力容器の炉内水位を計測する差圧式水位計の第1検出信号を受信する第1受信部と、
LPRM検出器集合体に設置されて熱入力に対する昇温値に基づいて前記炉内水位を計測する熱電対式水位計の第2検出信号を受信する第2受信部と、
前記圧力容器の外部に設置されて前記圧力容器の内部から放出される放射線の強度に基づいて前記炉内水位を計測する放射線式水位計の第3検出信号を受信する第3受信部と、
前記第1検出信号、前記第2検出信号及び前記第3検出信号からそれぞれ独立に導かれる前記炉内水位の第1計測値、第2計測値及び第3計測値を三つとも表示する表示部と、
前記第1計測値の示す前記炉内水位の変移の傾向が、前記第2計測値及び前記第3計測値の少なくとも一方が示す前記炉内水位の変移の傾向と相違したことを契機に、前記基準水柱の水喪失を警告する第2警告信号を出力する監視部と、を備える原子炉燃料状態監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉燃料状態監視装置において、
上下方向及び水平方向に複数配置されている前記熱電対式水位計のうち上部に配置されているものによる前記第2計測値が前記炉内水位の下降を示したことを契機に、炉心冷却の不全を警告する第1警告信号を出力する監視部を備える原子炉燃料状態監視装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の原子炉燃料状態監視装置において、
前記第2検出信号がエラーを示したことを契機に、炉心溶融の開始を警告する第3警告信号を出力する監視部を備える原子炉燃料状態監視装置。
【請求項4】
基準水柱との水圧差に基づいて圧力容器の炉内水位を計測する差圧式水位計の第1検出信号を受信するステップと、
LPRM検出器集合体に設置されて熱入力に対する昇温値に基づいて前記炉内水位を計測する熱電対式水位計の第2検出信号を受信するステップと、
前記圧力容器の外部に設置されて前記圧力容器の内部から放出される放射線の強度に基づいて前記炉内水位を計測する放射線式水位計の第3検出信号を受信するステップと、
前記第1検出信号、前記第2検出信号及び前記第3検出信号からそれぞれ独立に導かれる前記炉内水位の第1計測値、第2計測値及び第3計測値を三つとも表示するステップと、
前記第1計測値の示す前記炉内水位の変移の傾向が、前記第2計測値及び前記第3計測値の少なくとも一方が示す前記炉内水位の変移の傾向と相違したことを契機に、前記基準水柱の水喪失を警告する第2警告信号を出力するステップと、を含む原子炉燃料状態監視方法。
【請求項5】
コンピュータに、
基準水柱との水圧差に基づいて圧力容器の炉内水位を計測する差圧式水位計の第1検出信号を受信するステップ、
LPRM検出器集合体に設置されて熱入力に対する昇温値に基づいて前記炉内水位を計測する熱電対式水位計の第2検出信号を受信するステップ、
前記圧力容器の外部に設置されて前記圧力容器の内部から放出される放射線の強度に基づいて前記炉内水位を計測する放射線式水位計の第3検出信号を受信するステップ、
前記第1検出信号、前記第2検出信号及び前記第3検出信号からそれぞれ独立に導かれる前記炉内水位の第1計測値、第2計測値及び第3計測値を三つとも表示するステップ、
前記第1計測値の示す前記炉内水位の変移の傾向が、前記第2計測値及び前記第3計測値の少なくとも一方が示す前記炉内水位の変移の傾向と相違したことを契機に、前記基準水柱の水喪失を警告する第2警告信号を出力するステップを実行させる原子炉燃料状態監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、過酷事故発生時に原子炉燃料の状態を監視する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の沸騰水型原子炉(BWR)の原子炉水位計は、圧力容器(RPV)の蒸気相に接続した基準水柱と圧力容器の炉水相との差圧を検出する差圧方式を採用している。しかし、福島第一原子力発電所の事故では、基準水柱の凝縮水が蒸発したことにより正確な炉内水位を計測することができなかった。このような背景から、過酷事故時における炉内水位の計測手段の強化と多様性の確保が求められている。
【0003】
既設の差圧式水位計の強化方法としては、基準水柱の凝縮水が喪失した場合に、アキュームレータから水を基準水柱に補充する方法がある。また、炉内水位の計測手段の多様化としては、熱電対式水位計や放射線式水位計による水位の計測技術が知られている。また、これら計測原理が異なる複数の水位計を組合せることにより、圧力容器の全体を通して正確に水位計測することを目的として原子炉水位計測システムが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、計測原理が異なる複数の水位計を組合せる上述の従来技術は、単一方式の短所を他方式で補完及び/又は互いの長所の相乗効果を期待するにすぎない。つまり、原子炉の通常運転中に過酷事故が発生し、炉内水位が刻々と低下するなかで、炉心の燃料状態を監視する水準までには至っていない。
【0006】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、計測原理が異なる複数の水位計を利用し、炉内状況の推定が可能な原子炉燃料状態監視技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
原子炉燃料状態監視装置において、基準水柱との水圧差に基づいて圧力容器の炉内水位を計測する差圧式水位計の第1検出信号を受信する第1受信部と、LPRM検出器集合体に設置されて熱入力に対する昇温値に基づいて前記炉内水位を計測する熱電対式水位計の第2検出信号を受信する第2受信部と、前記圧力容器の外部に設置されて前記圧力容器の内部から放出される放射線の強度に基づいて前記炉内水位を計測する放射線式水位計の第3検出信号を受信する第3受信部と、前記第1検出信号、前記第2検出信号及び前記第3検出信号からそれぞれ独立に導かれる前記炉内水位の第1計測値、第2計測値及び第3計測値を三つとも表示する表示部と、前記第1計測値の示す前記炉内水位の変移の傾向が前記第2計測値及び前記第3計測値の少なくとも一方が示す前記炉内水位の変移の傾向と相違したことを契機に前記基準水柱の水喪失を警告する第2警告信号を出力する監視部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、計測原理が異なる複数の水位計を利用し、炉内状況の推定が可能な原子炉燃料状態監視技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る原子炉燃料状態監視装置のブロック図。
【
図2】(A)(B)差圧式水位計により計測される炉内水位の説明図。
【
図3】熱電対式水位計により計測される炉内水位の説明図。
【
図4】(A)(B)放射線式水位計により計測される炉内水位の説明図。
【
図5】(A)(B)過酷事故発生時における炉内水位の計測値の変移を示すグラフ。
【
図6】実施形態に係る原子炉燃料状態監視方法及び原子炉燃料状態監視プログラムのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る原子炉燃料状態監視装置10のブロック図である。このように原子炉燃料状態監視装置10は、基準水柱16との水圧差に基づいて圧力容器31の炉内水位32を計測する差圧式水位計33の第1検出信号41を受信する第1受信部11と、LPRM検出器集合体17に設置されて熱入力に対する昇温値に基づいて、圧力容器31の炉内水位32を計測する熱電対式水位計19の第2検出信号42を受信する第2受信部12と、圧力容器31の外部に設置されてその内部から放出される放射線の強度に基づいて圧力容器31の炉内水位32を計測する放射線式水位計18の第3検出信号43を受信する第3受信部13と、第1検出信号41、第2検出信号42及び第3検出信号43からそれぞれ独立に導かれる炉内水位32の第1計測値51、第2計測値52及び第3計測値53を三つとも表示する表示部25と、を備えている。
【0011】
差圧式水位計33は、圧力容器31の蒸気相37に一端が連通する基準水柱16と、この基準水柱16に一端が連通しさらに炉水相38に一端が連通し両者の差圧を検出する差圧検出器15(15a,15b)と、基準水柱16の水が蒸発等で喪失した時に基準水柱16に水を供給するアキュームレータ35と、を備えている。
【0012】
差圧検出器15は、ダイヤフラム等の薄い金属隔壁を介して、基準水柱16と炉水相38とを隔て、この金属隔壁の変形量に基づいて差圧を検出する。そして第1受信部11においてこの差圧の第1検出信号41が受信され、第1導出部21において炉内水位32の第1計測値51が導出される。
【0013】
基準水柱16は、圧力容器31の外側に配置されているため、蒸気相37の温度よりも低温である。このため通常状態では、蒸気相37から基準水柱16に送られた水蒸気は、冷却されて凝縮水となり基準水柱16を満たす。そして、この基準水柱16の保持容量を超えて生成した余剰の凝縮水は、水蒸気とは逆方向に傾斜を流れ落ちて圧力容器31に注がれる。これにより、基準水柱16に満たされた凝縮水の水位レベルは、常に一定レベルに保たれることになる。
【0014】
しかし、過酷事故が発生した場合等に圧力容器31の蒸気相37を急激に圧力開放すると、基準水柱16の凝縮水も急激に減圧されて沸騰し、気化して喪失されてしまう。このようなときは、弁36を開放し、アキュームレータ35の供給水を基準水柱16に圧入することができる。
【0015】
この供給水の圧入力は、アキュームレータ35と基準水柱16との高低差を利用したり、機械的な駆動源を用いたり、ガス圧を用いたりすることができる。このように、炉内水位32の正確な第1計測値51を導出するには、基準水柱16の水位レベルが常に一定値に維持されている必要がある。このため過酷事故が発生し、基準水柱16の凝縮水が蒸発した場合は計測不能となる。
【0016】
図2(A)(B)に基づいて差圧式水位計33により計測される炉内水位32(計測水位32b)について説明する(適宜、
図1参照)。
図2(A)に示すように炉心露出や冷却の可否を検討するのに必要な有効冷却水位32aは、炉心内で発生した蒸気(ボイド)を含む二相水位である。炉内水位32の境界面はボイド部を介して蒸気相37となる。このとき差圧式水位計33は、蒸気(ボイド)を含む二相状態の炉水相38の水圧と蒸気(ボイド)を含まない基準水柱16の水圧との差圧を第1検出信号41として送信する。
【0017】
このため第1導出部21では、
図2(B)に示すように蒸気(ボイド)の体積を除いた分の計測水位32bを第1計測値51として導出する。このように、導かれる計測水位32bは、有効冷却水位32aよりも低いレベルである。このために、差圧式水位計33で計測される炉内水位32の第1計測値51は炉心の一部が露出する水位を示していても、実際の有効冷却水位32aでは炉心が露出していないという状態が有りえる。このため、有効冷却水位を正確に把握することで事故対応に対する時間的尤度を確保する等の余地がある。
【0018】
図1に戻って説明を続ける。核燃料が収容されている炉心14の上下方向及び水平方向には複数の熱電対式水位計19が分散配置されている。実施形態においてこの熱電対式水位計19は、局部出力領域モニタ(LPRM:Local Power Range Monitor)の集合体であるLPRM検出器集合体17に設置された差動型熱電対式水位計である。
【0019】
各々の熱電対式水位計19は、熱電対の検出点27の近傍にヒータ28が配置されて構成されている。ヒータ28に電流を流して発生させたジュール熱は、熱電対の検出点27の周囲が蒸気相37であるか炉水相38であるかによって熱伝達率が異なるために、それぞれの熱電対が出力する電圧信号に違いを生じさせる。
【0020】
熱電対の先端が蒸気相37に露出している場合、ヒータ28から供給された熱エネルギーは、熱伝達率が小さい蒸気相37に伝達しないために、熱電対の検出点27の周辺温度を大きく上昇させる。そして、熱電対の先端が炉水相38に浸漬している場合、ヒータ28から供給された熱エネルギーは、熱伝達率が大きい炉水相38に伝達するために、熱電対の検出点27の周辺温度はあまり上昇しない。
【0021】
このようにして熱電対式水位計19は、ヒータ28からの熱入力に対する熱電対の昇温値に基づいて、その位置が蒸気相37であるか炉水相38であるかを判断する。そして、上下方向に複数の熱電対式水位計19が離散的に配置されていることで、炉内水位32が計測される。また炉心14内の水平方向に複数の熱電対式水位計19が配置されることで、炉心14の詳細な冷却状態(冠水状態)の分布情報の提供を受けることができる。
【0022】
図1に戻って説明を続ける。熱電対式水位計19は、熱入力に対する昇温値を検出した第2検出信号42を出力する。そして第2受信部12においてこの昇温値の第2検出信号42が受信され、第2導出部22において「炉水相」であるか「蒸気相」であるかを示した炉内水位32の第2計測値52が導出される。
【0023】
図3は熱電対式水位計19により計測される炉内水位32(計測水位32c)の説明図である。熱電対式水位計19は、炉心14内のLPRM検出器集合体17に組み込こまれて装荷されている。炉内水位32が低下して炉心14の一部が露出している状況では、燃料集合体46内の水位、バイパス領域47の水位、LPRM検出器集合体17の内側の水位、シュラウド外のダウンカマー領域48の水位(サブクール水位)は、炉内構造物による炉心14内部の圧力バランスにより、それぞれの水位が異なる状態となる。
【0024】
LPRM検出器集合体17内の水位は、その周囲のバイパス領域47の水位よりも低レベルとなる。さらにこのバイパス領域47の水位は、サブクール水位よりも低レベルである。なおこのサブクール水位は、第1計測値51として導出される計測水位32bに対応する。またすでに上述したように、このサブクール水位は、有効冷却水位32aを表す燃料集合体46の水位よりも低レベルである。したがって、第2計測値52は有効冷却水位32aよりも低い値が導出される。
【0025】
さらに、上述したように熱電対式水位計19は、炉心の高さ方向に複数の熱電対が離散的に配置されており、それぞれの高さ位置が「炉水相」であるか「蒸気相」を判定するものである。このため、例えば計測水位32cが上から一番目と二番目の熱電対式水位計19の間にある場合は、上から二番目の熱電対式水位計19の高さ位置が第2計測値52として導出される。
【0026】
このように、過酷事故の発生時において熱電対式水位計19による計測水位32cは、有効冷却水位32aよりも、さらには差圧式水位計33による計測水位32bよりも低いレベルである。さらに、事故の進展により炉心14が溶融した場合は、熱電対式水位計19も溶融して炉内水位32の計測が不能となる。
【0027】
図1に戻って説明を続ける。放射線式水位計18は、圧力容器31外側の上下方向に複数個の放射線検出器18aが配置されて構成されている。または、圧力容器の周囲に複数個の放射線水位計18を配置して立体的に測定しても良い。放射線式水位計18は、炉心14内の核燃料から放出され炉水相38を通過して減衰した後のガンマ線の強度分布を検出した第3検出信号43を出力する。そして第3受信部13においてこの強度分布の第3検出信号43が受信され、第3導出部23において炉内水位32の第3計測値53が導出される。
【0028】
放射線式水位計18は、通常運転時においては、炉心14における16O(n,p)16N反応で生じた16Nから放出される高エネルギーのガンマ線(6.1MeV、半減期7.1秒)を検出する。これにより、圧力容器31内の水の存在密度から炉内水位32を推定することができる。また、事故時や原子炉停止時等の制御棒が全挿入された状態においても、燃料棒内の燃料ペレットに貯留する核分裂生成物が発生するガンマ線を用いて同様の原理により炉内水位32を推定することができる。
【0029】
図4(A)(B)は放射線式水位計18により計測される炉内水位32の説明図である。放射線式水位計18は、圧力容器31の外側に設置されていることから、シュラウドで囲まれた炉心14内のバイパス領域47(
図3)、LPRM検出器集合体17、燃料集合体46、及びシュラウド外の水平断面内に存在する水の平均密度分布を測定する。そのために放射線式水位計18により計測された炉内水位32の第3計測値53は、領域によって水位が異なること、また有効冷却水位が二相状態であることの影響を受ける。このため、過酷事故によって水位が変動していく状況において有効冷却水位32aにフォーカスして正確な水位を得ることは困難である。
【0030】
図5(A)は過酷事故が発生し、炉内水位32が炉心14の下部(BAF;Bottom of Active Fuel)まで低下した後に、注水機能を回復させた時における炉内水位32の計測値の変移を示すグラフである。
図5(B)は過酷事故が発生し、炉内水位32が圧力容器31の炉底部近くまで低下した後に、注水機能を回復させた時における炉内水位の計測値の変移を示すグラフである。表示部25は、第1検出信号41、第2検出信号42及び第3検出信号43からそれぞれ独立に導かれる炉内水位32の第1計測値51、第2計測値52及び第3計測値53を三つとも表示する。なお、前述したように熱電対式水位計19の計測値は離散的なものになるため、実際には第2計測値52は
図5のように連続的ではなく階段状の変移を示す。
【0031】
通常運転している原子炉に過酷事故があるタイミング71で発生すると、炉心14に制御棒が直ちに挿入されて核分裂反応は停止する。しかし、炉心14を冷却するための注水機能も同時に喪失してしまうと、炉内水位32が低下する。このとき炉内水位32の低下が、差圧検出器15及び放射線式水位計18によりそれぞれ第1計測値51及び第3計測値53として計測される。
【0032】
さらに、炉内水位32の低下が炉心14の上部(TAF;Top of Active Fuel)をさらに下回る際、熱電対式水位計19による第2計測値52が「炉水相」から「蒸気相」に切り替わることが計測される。より厳密には、一番高い位置にある熱電対式水位計19の周囲が蒸気相になることで、第2計測値52がTAFを下回る。ここで、熱電対式水位計19による第2計測値52、差圧検出器15による第1計測値51及び放射線式水位計18による第3計測値53は、主に
図3を用いて説明した理由により、熱電対式水位計19、差圧検出器15、放射線式水位計18の順番で、炉内水位32が炉心14の上部(TAF)を下回ることを検出する。
【0033】
ここで、炉内注水を実施する事前の操作として圧力容器31内の減圧操作をあるタイミング72で実施する。すると、基準水柱16内の凝縮水が気化して喪失するために、差圧検出器15で検出される差圧が0に近づいていき、破線で示すように、水位が回復したと見せかける誤った第1計測値51を導出する。
【0034】
タイミング73aで注水機能が回復して炉内水位32が上昇すると放射線式水位計18による第3計測値53は上昇に転じる。ここで、熱電対式水位計19は炉心下部(BAF)を下回った位置には配置されないので、炉内水位32が炉心下部(BAF)を下回ると水位を計測できない。注水機能の回復により炉内水位32が炉心下部(BAF)を超えると、熱電対式水位計19による第2計測値52も計測されるようになる。しかし、差圧式水位計33による第1計測値51は、タイミング74でアキュームレータ35の弁36が開放されて基準水柱16に水が供給されるまでは回復しない。
【0035】
なお、熱電対式水位計19は炉心14の内側に配置されるため、炉心14の溶融事故に発展した場合は溶融炉心に巻き込まれて破損し、検出信号は消失するか、異常な出力(大きい幅でランダムに上下する値、極大値、極小値、等)になる。
【0036】
図5(A)(B)において炉内水位32の回復後に第2計測値52が得られていることは、少なくとも熱電対式水位計19の健全性を損なうほどの炉心溶融は発生していないことを表している。なお、注水機能の回復までに炉心が溶融し、熱電対式水位計19が破損した場合は、タイミング73b以降に炉内水位32が回復しても、第2計測値52は観測されない。
【0037】
図1に戻って説明を続ける。監視部26は、上下方向及び水平方向に複数配置されている熱電対式水位計19のうち上部に配置されているものによる第2計測値52が炉内水位32の下降を示したことを契機に、炉心冷却の不全を警告する第1警告信号61を出力する。すでに説明したように熱電対式水位計19の第2計測値52は、差圧検出器15による第1計測値51及び放射線式水位計18による第3計測値53よりも、炉内水位32をより低レベルで計測する。
【0038】
このように熱電対式水位計19により、炉心14のTAF以下の水位低下をいち早く検知し、警報発報、強調表示等を表示部25に表示してオペレータに情報提供することができる。これにより炉心損傷防止から緩和対策に移行するためのアクシデントマネジメントやその実施の判断における時間的尤度を含む合理的な情報を提供することができる。
【0039】
さらに監視部26は、第1計測値51の示す炉内水位32の変移の傾向が、第2計測値52及び第3計測値53の少なくとも一方が示す炉内水位32の変移の傾向と相違したことを契機に、基準水柱16の水喪失を警告する第2警告信号62を出力する。すでに説明したように差圧検出器15は、圧力容器31の減圧操作等の実施により、基準水柱16の凝縮水が蒸発して機能が喪失してしまう可能性がある。一方において熱電対式水位計19や放射線式水位計18は、圧力容器31の減圧操作等の実施による影響を受けない。
【0040】
この第2警告信号62は、警報発報、強調表示等として表示部25に表示され、オペレータに情報提供される。そして、第2警告信号62が出力されることにより、弁36が閉状態から開状態に切り替わりアキュームレータ35から水が基準水柱16に供給される。これにより基準水柱16の機能が回復する。
【0041】
さらに監視部26は、第2検出信号42がエラーを示したことを契機に、炉心溶融の開始を警告する第3警告信号63を出力する。炉心14が溶融すると熱電対式水位計19の出力信号に異常が発生する。これは熱電対式水位計19が炉心14の内部に位置しており、炉心溶融が起こると溶融炉心に巻き込まれて破壊されるためである。なお、1つ又は少数の信号異常だと単なる故障も有りえるので、隣接した所定数以上の熱電対式水位計19で信号異常となった場合に発報するものとしてもよい。
【0042】
さらに監視部26は、第1計測値51及び第2計測値52を用いて第3計測値53を補正した炉内水位32の代表値を出力する。具体的には、炉心14の露出時(=水位がTAF以下の場合)に、燃料集合体46内の二相状態の有効冷却水位32aを計測するため、燃料の核分裂生成物が発生するガンマ線に対して、熱電対式水位計19で計測されるLPRM検出器集合体17やバイパス領域47の単相状態の計測水位32c、差圧式水位計33で計測されるダウンカマー部のサブクール水の単相状態の計測水位32bによる遮蔽効果を加味し、放射線式水位計18で計測された第3計測値53を補正する。
【0043】
ここで、燃料の核分裂生成物が発生するガンマ線の強度を“x”で表し、バイパス領域47及びLPRM検出器集合体17内の単相状態の水位による遮蔽効果を“a”で表し、燃料集合体46内の二相状態の有効冷却水位32aによる遮蔽効果を“b”で表し、シュラウド外のサブクール水の単相状態の水位による遮蔽効果を“c”で表し、放射線式水位計18で実際に計測されたガンマ線の強度を“y”で表す。すると、”y=Σ(1-a)ij・(1-b)ij・(1-c)ij”・xij”( ここで、ijは炉心内の燃料配置(i,j)) の関係性を有する。
【0044】
またここで、線源の“x”が一定であるとし、“a”及び“c”の遮蔽効果が既知とすると、計測により“y”を得ることにより、未知である燃料集合体内の二相状態の水位による遮蔽効果“b”がわかり、結果として有効冷却水位32aがわかる。このようにして、熱電対式水位計19と差圧式水位計33との計測値に基づいて放射線式水位計18による計測値を補正することで、有効冷却水位32aの計測精度を高めることができる。
表示部25
【0045】
図6のフローチャートに基づいて実施形態に係る原子炉燃料状態監視方法及び原子炉燃料状態監視プログラムを説明する(適宜、
図1~
図5参照)。まず、第1受信部11において差圧式水位計33の第1検出信号41を受信し(S11)、炉内水位32の第1計測値51を導出する(S12)。
【0046】
そして、第2受信部12において熱電対式水位計19の第2検出信号42を受信し(S13)、炉内水位32の第2計測値52を導出する(S14)。この第2計測値52は、通常運転から過酷事故の発生直後は、炉心14全体が「炉水相」であることを示す値を返している。
【0047】
そして、第3受信部13において放射線式水位計18の第3検出信号43を受信し(S15)、炉内水位32の第3計測値53を導出する(S16)。それぞれ独立に導かれた炉内水位32の第1計測値51、第2計測値52及び第3計測値53を三つとも表示したグラフ(
図5)を表示部25に表示する(S17,S18 No)。
【0048】
ここで第2計測値52は、炉内水位32が炉心14よりも高いレベルにあるときは、「炉水相」であること示す信号を返している。そして、第1計測値51及び第3計測値53は、前者が後者よりも低いレベルを示すように推移する。熱電対式水位計19のうち炉心上部(TAF)に配置されているものによる第2計測値52が、「炉水相」から「蒸気相」に切り替わったとする(S18 Yes)。これは、炉内水位32が炉心上部(TAF)よりも下降して、炉心14が蒸気相に露出し始めたことを暗示している。よって、第2計測値52が、「炉水相」から「蒸気相」に切り替わったことを契機に、炉心冷却の不全を警告する第1警告信号61が出力される(S19)。なお第2計測値52が、炉心14全体が「炉水相」にあることを示す値の場合は(S18 No)、次のステップ(S20)にすすむ。
【0049】
炉内注水を実施する事前の操作として、あるタイミング72で圧力容器31内の減圧操作を実施すると、基準水柱16内の凝縮水が気化して喪失する。そして、第1計測値51の示す炉内水位32の変移の傾向が第2計測値52及び第3計測値53の示す傾向と相違したことを契機に(S20 Yes)、基準水柱16の水喪失を警告する第2警告信号62が出力される(S21)。そして、この第2警告信号62の出力を契機として、アキュームレータ35から基準水柱16に水を供給し基準水柱16の機能を回復させる。なお第1計測値51が第2計測値52及び第3計測値53と同じ変移傾向を示しているときは(S20 No)、次のステップ(S22)にすすむ。
【0050】
炉心14の蒸気相への露出時間が長引くと、炉心溶融が開始され、炉心14に組み込まれている熱電対式水位計19が破壊される。そこで、この熱電対式水位計19が出力する第2検出信号42がエラーを示したことを契機に(S22 Yes)、炉心溶融の開始を警告する第3警告信号63が出力される(S23)。なお第2検出信号42が正常を示しているときは(S22 No)、次のステップ(S24)にすすむ。
【0051】
そして、第1計測値51及び第2計測値52を用いて第3計測値53を補正した補正計測値を炉内水位32の代表値として出力する(S24)。そして、この(S11)から(S24)までのフローを炉内水位32の計測が終了するまで繰り返す(S25 No Yes,END)。
【0052】
以上説明した原子炉燃料状態監視装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。これにより原子炉燃料状態監視装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、原子炉燃料状態監視プログラムにより動作させることが可能である。
【0053】
また装置10で実行されるプログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0054】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の原子炉燃料状態監視装置によれば、差圧式水位計、熱電対式水位計、放射線式水位計の、特性が異なる水位計による炉内水位の計測値を三つとも表示することにより、オペレータの炉内状況推定に資する。
【0055】
また、炉内水位のTAF近傍への低下時に、他の水位計よりも早くTAFを下回る信号を出力する熱電式水位計によって警報を発報することで、炉心の一部の露出が迫っていることを通知することができる。
【0056】
また、熱電対式水位計の検出信号の異常による炉心溶融の推定、炉心水位の指示値の違いに基づいた差圧式水位計の基準水柱の喪失や放射線式水位計の補正等を行うことができる。
【0057】
ここで、炉内水位の計測値はグラフ表示するものとして説明したが、もちろん数値を表示、または数値とグラフの併記であってもよい。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0059】
10…原子炉燃料状態監視装置、11…第1検出信号の受信部(第1受信部)、12…第2検出信号の受信部(第2受信部)、13…第3検出信号の受信部(第3受信部)、14…炉心、15…差圧検出器、16…基準水柱、17…LPRM検出器集合体、18…放射線式水位計、19…熱電対式水位計、21…第1計測値の導出部(第1導出部)、22…第2計測値の導出部(第2導出部)、23…第3計測値の導出部(第3導出部)、25…表示部、26…監視部、27…熱電対の検出点、28…ヒータ、31…圧力容器、32…炉内水位、32a…有効冷却水位、32b…計測水位、32c…計測水位、33…差圧式水位計、35…アキュームレータ、36…弁、37…蒸気相、38…炉水相、41…第1検出信号、42…第2検出信号、43…第3検出信号、46…燃料集合体、47…バイパス領域、48…ダウンカマー領域、51…第1計測値、52…第2計測値、53…第3計測値、61…第1警告信号、62…第2警告信号、63…第3警告信号。