(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】祖先ウイルス配列およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/35 20060101AFI20221028BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221028BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20221028BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221028BHJP
C07K 14/015 20060101ALI20221028BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221028BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221028BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221028BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221028BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20221028BHJP
C12N 7/02 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
C12N15/35
A61K35/76
A61K39/00 H
A61K48/00
C07K14/015 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N7/01
C12N7/02
(21)【出願番号】P 2018504699
(86)(22)【出願日】2016-07-29
(86)【国際出願番号】 US2016044819
(87)【国際公開番号】W WO2017019994
(87)【国際公開日】2017-02-02
【審査請求日】2019-06-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-16
(32)【優先日】2015-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511140770
【氏名又は名称】マサチューセッツ アイ アンド イヤー インファーマリー
(73)【特許権者】
【識別番号】516106623
【氏名又は名称】ザ スケペンス アイ リサーチ インスティテュート,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【氏名又は名称】植田 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデンベルゲ,ルク エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ジン,エリック
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】福井 悟
【審判官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/054653(WO,A1)
【文献】特表2007-507223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-15/90
C07K1/00-19/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号42に示されるアミノ酸配列を有するアデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドポリペプチド。
【請求項2】
前記AAVキャプシドポリペプチドまたは前記AAVキャプシドポリペプチドを含むウイルス粒子が、AAV9キャプシドポリペプチドまたはAAV9キャプシドポリペプチドを含むウイルス粒子とほぼ同じまたはより低い血清有病率を示す、請求項1に記載のAAVキャプシドポリペプチド。
【請求項3】
前記AAVキャプシドポリペプチドまたは前記AAVキャプシドポリペプチドを含むウイルス粒子が、AAV9キャプシドポリペプチドまたはAAV9キャプシドポリペプチドを含むウイルス粒子と同程度またはより低い程度にヒト血清によって中和される、請求項1に記載のAAVキャプシドポリペプチド。
【請求項4】
精製されている、請求項1に記載のAAVキャプシドポリペプチド。
【請求項5】
配列番号43に示される核酸配列によってコードされる、請求項1に記載のAAVキャプシドポリペプチド。
【請求項6】
配列番号43に示される核酸配列を有するアデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項9】
請求項1に記載のAAVキャプシドポリペプチドを含む精製されたウイルス粒子。
【請求項10】
導入遺伝子をさらに含む、請求項9に記載の精製されたウイルス粒子。
【請求項11】
導入遺伝子を用いて遺伝子移入および/またはワクチン接種する方法
において使用するための、請求項10に記載のウイルス粒子
を含む組成物であって、
前記方法が、遺伝子移入またはワクチン接種を必要とする対象に
前記組成物を投与することを含み、前記ウイルス粒子はAAV9ウイルス粒子とほぼ同じまたはより低い血清有病率を示す、
組成物。
【請求項12】
前記ウイルス粒子が、AAV9ウイルス粒子と同程度またはより低い程度にヒト血清によって中和される、請求項11に記載の
組成物。
【請求項13】
対象にワクチン接種する方法
において使用するための、請求項1に記載のAAVキャプシドポリペプチドに作動可能に連結した標的抗原
を含む組成物であって、
前記方法が、ワクチン接種を必要とする対象に
前記組成物を投与することを含み、前記AAVキャプシドポリペプチドは、AAV9キャプシドポリペプチドとほぼ同じまたはより低い血清有病率を示す、
組成物。
【請求項14】
前記AAVキャプシドポリペプチドが、AAV9キャプシドポリペプチドと同程度またはより低い程度にヒト血清によって中和される、請求項13に記載の
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、ウイルスに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療ベクターに対する中和または毒性免疫応答を逃れ回避することは、全ての遺伝子移入ベクタータイプを用いる場合に大きな課題である。これまでの遺伝子移入は、ヒトおよび動物内を循環するウイルスに基づくベクター、例えば、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いることで最も効率的に達成される。しかしながら、対象がウイルスに自然に感染している場合は、そのウイルスに基づくベクターによるその後の治療は、細胞性および体液性免疫応答に起因して、安全リスクの増加と遺伝子移入効率の低下をもたらす。キャプシド抗原は、主に、ウイルス粒子に対する先天性免疫および/または適応免疫の原因となるが、しかしながら、ウイルス遺伝子によりコードされたポリペプチドもまた免疫原性であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本開示は、祖先ウイルス配列またはその一部を予測および合成する方法を記載し、さらに、このような祖先ウイルス配列を含有するウイルス粒子を記載する。本明細書に記載される方法は、アデノ随伴ウイルス(AAV)に適用された;したがって、本開示は、予測された祖先AAV配列、およびこのような祖先AAV配列を含有するAAVウイルス粒子を記載する。本開示はまた、同時代の(contemporary)配列を含有するウイルス粒子と比較して、祖先配列を含有するウイルス粒子によって示された血清有病率を記載する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様において、配列番号42に示されるアミノ酸配列を有するアデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドポリペプチドが提供される。いくつかの実施形態において、このようなAAVキャプシドポリペプチド、またはこのようなAAVキャプシドポリペプチドを含むウイルス粒子は、AAV9キャプシドポリペプチドまたはAAV9キャプシドポリペプチドを含むウイルス粒子とほぼ同じまたはより低い血清有病率を示す。いくつかの実施形態において、このようなAAVキャプシドポリペプチド、またはAAVキャプシドポリペプチドを含むウイルス粒子は、AAV9キャプシドポリペプチドまたはAAV9キャプシドポリペプチドを含むウイルス粒子と同程度またはより低い程度にヒト血清によって中和される。いくつかの実施形態では、このようなAAVキャプシドポリペプチドは精製されている。いくつかの実施形態において、このようなAAVキャプシドポリペプチドは、配列番号43に示される核酸配列によってコードされる。
【0005】
このようなAAVキャプシドポリペプチドを含む精製されたウイルス粒子もまた提供される。いくつかの実施形態において、このような精製されたウイルス粒子は導入遺伝子をさらに含む。
【0006】
別の態様において、配列番号43に示される核酸配列を有するアデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドポリペプチドをコードする核酸分子が提供される。いくつかの実施形態において、このような核酸分子を含むベクターが提供される。いくつかの実施形態において、このようなベクターを含む宿主細胞が提供される。
【0007】
別の態様において、導入遺伝子を用いて遺伝子移入および/またはワクチン接種する方法が提供される。このような方法は、典型的には、遺伝子移入またはワクチン接種を必要とする対象に本明細書に記載されるウイルス粒子を投与することを含み、ウイルス粒子はAAV9ウイルス粒子とほぼ同じまたはより低い血清有病率を示す。いくつかの実施形態において、このようなウイルス粒子は、AAV9ウイルス粒子と同程度またはより低い程度にヒト血清によって中和される。
【0008】
別の態様において、対象にワクチン接種する方法が提供される。このような方法は、典型的には、ワクチン接種を必要とする対象に本明細書に記載されるAAVキャプシドポリペプチドに作動可能に連結した標的抗原を投与することを含み、AAVキャプシドポリペプチドは、AAV9キャプシドポリペプチドとほぼ同じまたはより低い血清有病率を示す。いくつかの実施形態において、このようなAAVキャプシドポリペプチドは、AAV9キャプシドポリペプチドと同程度またはより低い程度にヒト血清によって中和される。
【0009】
このように、本開示は、同時代のウイルスまたは一部と比較して、現在のヒト集団において既存の免疫に対する感受性の低減を示す祖先ウイルスまたはその一部を提供する。一般的に、現在のヒト集団における祖先ウイルスまたはその一部によって示される既存の免疫に対する感受性の低減は、中和抗体に対する感受性の低減として反映される。
【0010】
別段の定義がない限り、本明細書において使用される全ての科学技術用語は、対象とする方法および組成物が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料は、対象とする方法および組成物の実施または試験に用いることができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。さらに、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定することを意図するものではない。本明細書において言及されている全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、全体として参照により組み込まれる。
【0011】
特許または出願ファイルは、カラーで作製された少なくとも1つの図面を含有する。カラー図面を含むこの特許または特許出願公開の写しは、要求および必要とされる手数料の支払いにより特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、祖先の/同時代のウイルス感染と祖先の/同時代の宿主免疫応答の間の関係を示す概略図である。
【
図2】
図2Aから2Dは、祖先の再構築手順の一例を示す一連の概略図である。示されたデータは、完全なデータセットから抜粋されたものであり、残基564~584(AAV2-VP1の番号付け)を表す。
【
図3】
図3は、本明細書に記載される方法を用いて生成されたAAVの同時代の配列の系統樹を示す。
【
図4】
図4は、祖先AAV VP1ポリペプチドのアライメントを示す。
【
図5A】
図5Aおよび5Bは共に、機能的な祖先AAV VP1ポリペプチドおよび同時代のAAV VP1ポリペプチドのアラインメントを示す。
【
図5B】
図5Aおよび5Bは共に、機能的な祖先AAV VP1ポリペプチドおよび同時代のAAV VP1ポリペプチドのアラインメントを示す。
【
図6】
図6は、祖先AAV VP1配列が転写され、同時代のAAV VP1配列と同様に選択的にスプライスされることを実証する電気泳動ゲルである。
【
図7】
図7は、祖先AAVベクターで形質導入されたHEK293細胞におけるルシフェラーゼ活性を示すグラフである。
【
図8】
図8は、Anc80ライブラリーとAnc80L65間の配列比較(対角線から上は%、下はaaの相違数)を示すグラフである。
【
図9】
図9A-Dは、Anc80L65が高力価の粒子をアセンブルし、得ることができることを実証する実験結果の画像である。パネルAは、Anc80L65がAAV2に相当するベクター収率を生じさせることができることを示す;パネルBは、Anc80L65を含むウイルス粒子のTEM画像である;パネルCは、Anc80L65を含むウイルス粒子が、変性条件下のSDS-PAGEゲルに基づいて、AAVキャップVP1、2および3タンパク質を産生し得ることを示す;パネルDは、AAVキャプシド抗体、B1を用いたAnc80L65のウェスタンブロットを示す。
【
図10】
図10A-Cは、Anc80L65が、読み出し(パネルA)またはルシフェラーゼ(パネルB)対AAV2および/もしくはAAV8対照として、GFPを用いてインビトロでHEK293細胞上で細胞を感染させることができ、さらに、核のLacZ導入遺伝子をコードするAAVのIV注射後(上段の行、パネルC:肝臓)、GFPをコードするAAVの直接的なIM注射後(中段の行、パネルC:筋肉)およびGFPをコードするAAVによる網膜下注射後(下段の行、パネルC:網膜)効率的に肝臓を標的化することを実証する実験結果の画像である。
【
図11A】
図11Aおよび11Bは、代表的な現存のAAVのアミノ酸配列と整列させた祖先ベクターのVP1タンパク質のアミノ酸配列(
図11A)、および代表的な現存のAAVのアミノ酸配列と整列させた祖先ベクターのVP3タンパク質のアミノ酸配列(
図11B)を示すMAFFTを用いて生成する配列同一性マトリックスである。
【
図11B】
図11Aおよび11Bは、代表的な現存のAAVのアミノ酸配列と整列させた祖先ベクターのVP1タンパク質のアミノ酸配列(
図11A)、および代表的な現存のAAVのアミノ酸配列と整列させた祖先ベクターのVP3タンパク質のアミノ酸配列(
図11B)を示すMAFFTを用いて生成する配列同一性マトリックスである。
【
図12】
図12は、AAVベクターが小規模(6ウェルディッシュ)で三連で生成されたことを実証するグラフである。粗ウイルスは、それぞれのベクターの絶対的な生成を決定するために定量PCRによって評価された。
【
図13】
図13は、AAV8の力価に対して平均され、比較されたそれぞれのベクターの力価を示す表である。
【
図14】
図14は、それぞれのベクターの1.9E3 GC/細胞がHEK293細胞に添加された実験結果を示す写真である(Anc126を除く。この場合、2.5E2-3.1E2 GC/細胞のMOIが達成された。)。60時間後、感染力を蛍光顕微鏡を用いて評価した。
【
図15】
図15は、
図14と同じ細胞を溶解し、ルシフェラーゼ発現についてアッセイした実験結果を示すグラフである。
図14のように、Anc126は、他のベクターで制御された力価でなかったが、むしろ2.5E2-3.1E2 GS/細胞のMOIの範囲であった。
【
図16】
図16は、AAV8の発光に対して平均され、比較された、それぞれのベクターによって形質導入された細胞の発光を示す表である。
【
図17】
図17は、本明細書に記載される祖先AAVベクターの相対的な生成と感染力を決定するためのインビトロ実験の概要を提供するチャートである。
【
図18】
図18は、AAVの最大尤度の系統発生および75種の分離株を用いて作成したAAV進化の系統発生およびASRである。赤色の丸は、ASRによって再構築された進化中間体を表す。青色の丸は、Anc80の周りに設けられた確率的空間のライブラリーを表す。明確にするために、サブクレードは折り畳まれる。完全な系統発生が
図24に示されている。
【
図19】
図19は、Anc80ベクターの配列および構造解析を示す。パネルAは、Anc80(配列番号37)、AAV2(配列番号38)およびAAV8(配列番号39)VP3タンパク質の配列構造アラインメントである。UCSFキメラ(Pettersen et al., 2004, J. Comp. Chem., 25: 1605-12)で生成されたAAV2(PDB 1LP3)およびAAV8(PDB 2QA0)VP3の結晶構造、ならびにAnc80L65 VP3の予測構造に由来する構造的アラインメントを黒いプリントで示す。青色領域は、AAV2、AAV8およびAn80のVP1/VP2ドメインの非構造的アライメントである(Notredame et al., 2000, J. Mol. Biol, 302:205-17)。Anc80ライブラリー中のあいまいな残基は赤で表され、下の位置はAnc80L65残基に対応する。β鎖およびαヘリックスは、それぞれ緑色および黄色で表される。AAV逆平行βバレルを形成する9つのβ鎖の位置はプレーン矢印で示されているが、一方、保存されたコアαヘリックスの位置は点線矢印で示されている。可変領域(VR)I~IXのおおよその位置は、配列アライメントの上のローマ数字で表される。パネルBは、AAVキャップ配列多様性マトリックスを示す。対角線より上では、マトリックスは、選択されたAAV血清型由来のパーセント配列多様性、およびBLASTによって決定される最も相同なVP1配列であるrh.10を表す。対角線の下では、位置あたりのアミノ酸の相違数が示されている。パネルCは、Anc80L0065 VP3予測構造を有するAAV2およびAAV8 VP3結晶構造の重ね合わせを示す。カラーコードは、パネルAの3つの整列された配列間のアミノ酸保存を示す(赤色:最高保存、青色:最低保存)。変数領域I~IXおよびC/M-末端は黒色で示されている。2倍、3倍および5倍の軸のおおよその位置は、黒の楕円、三角形および五角形でそれぞれ表される。パネルDは、VP1三量体上のAAV2(左)およびAAV8(右)と比較したアミノ酸変化の構造マッピングであり、ビリオンの外部(上部)および内部(下部)を視覚化する。着色した残基はAnc80において多様性である。赤色の残基はASRによって曖昧であり、従ってAnc80Libの二形性である。
【
図20】
図20は、Anc80L65の生物物理学的および生化学的特徴付けの結果である。パネルAは、Anc80L65の陰性染色透過電子顕微鏡(TEM)を示し、Anc80L65が直径約20~25nmの粒子を形成することを実証する。パネルBは、Anc80L65 VP組成物である。精製したAnc80L65の調製物および3つの現存のウイルスをSDS-PAGEによって分析した。Anc80は、モノマーVP1、2および3の同様の取り込みレベルを実証する。パネルCは、精製AAV調製物の空:完全粒子組成を示す。沈降係数分布は、AAV8およびAnc80L65の調製物の分析的超遠心分離中に屈折率光学測定システムで得られた沈降プロファイルから導出された。パネルDはAAV熱安定性を示す。異なる温度下でのAAV粒子の内因性トリプトファン蛍光測定は、Anc80L65と比較したAAV血清型の明確な融解温度を示す。
【
図21】
図21は、Anc80L65のインビボ評価の結果である。パネルAの上段パネルは、7.2×10
10GCの用量で腹腔内送達の28日後の肝臓におけるAAV-2、AAV-8およびAnc80L65.TBG.nLacZの肝臓形質導入およびlacZ導入遺伝子発現比較を示す。パネルAの中段パネルは、右後大腿部(腓腹筋/大腿二頭筋)に1×10
10GCの用量で筋肉内送達の28日後のAAV2、AAV8およびAnc80L65の筋指向性を示す。パネルAの下部パネルは、2×10
9GCの用量で網膜下送達後の網膜におけるAAV2、AAV8、およびAnc80L65の間のeGFP導入遺伝子発現の比較を示す。AAV2はRPE細胞に対して高親和性を示し、一方、RPEと光受容体は両方ともAAV8およびAnc80L65ベクターを用いて標的化され、Anc80L65はAAV2およびAAV8と比較して高い形質導入効率を示す。パネルBは、眼窩後洞静脈内送達によるAAV-8およびAnc80L65と比較した、10
11(上段パネル)、10
10(中段パネル)、および10
09(下段パネル)GCにおける定性的用量応答eGFP発現分析である。AAV8とAnc80L65の両方は、用量範囲の全体にわたって等用量で同等のeGFP発現を示す。パネルCは、AAV-8(黒色シンボル:四角-10
11GC、丸-10
10GC、および正方形-10
9GC)およびAnc80L65(灰色シンボル:菱形-10
11GC、四角-10
10GC、および三角-10
9GC)からの組換えヒトα1-抗トリプシン(hA1AT)導入遺伝子発現のマウス血清レベルを測定する定量的AAV用量応答分析を示す。パネルDは、1×10
12GC/kgの用量の伏在静脈注射後のアカゲザル絨毛性ゴナドトロピン(rhCG)を発現するAAV-8およびAnc80L65のアカゲザル肝臓遺伝子移入のグラフである。マカク肝葉からゲノムDNAを採取し、qPCRアッセイによって二倍体ゲノム(dpg)あたりのウイルスゲノム(vg)を測定した。1匹のAAV8および全3匹のAnc80L65動物は、肝尾状葉の二倍体細胞あたり約1~3vgを首尾よく受けたが、一方、2匹のAAV8動物は、おそらくベクター中和をもたらし、肝臓遺伝子移入を制限する低レベルのNABを有した。パネルEは、TaqManプローブ特異的な定量的逆転写酵素PCR(qRT-PCR)による、NHP肝尾状葉、肝右葉、肝左葉および肝中葉におけるAAV8およびAnc80L65の導入遺伝子mRNA発現を示すグラフである。rhCG転写物の定量化は、内因性GAPDH mRNAレベルで標準化した。
【
図22】
図22は、Anc80L65を免疫学的に特徴付けた実験結果である。パネルAは、ウサギ抗AAV血清交差反応性を示すグラフである:AAV血清型(Y軸)に対して惹起されたウサギ抗血清を、相同性AAV血清型に対してNAB対Anc80L65について試験し、血清交差反応性を評価した。値(X軸)は、50%中和が達成される最小の希釈を表す。免疫血清型間の系統発生の関係は左に描かれている。パネルBは、マウスのインビボ遺伝子移入交差中和を示す表である:C57B1/6マウスは、生理食塩水またはAAV8.TBG.nLacZのいずれかを用いたIM注射の25日後、AAV8またはAnc80L65.CASI.EGFP.2A.A1ATのIV注射を受けた。2回目の注射の14日後、血清をhA1AT発現についてELISAにより滴定した。表は、免疫化群(n=5)における2回目の注射の24時間前に、各ベクターについて非免疫化(%対照)、ならびにAAV8(NAB8)およびAnc80L65(NAB80)についてのNAB力価希釈物に対する、予備免疫されたマウスの相対hA1ATレベルを示す。パネルAおよびBの灰色の分岐矢印は、AAV2およびAAV8系統の表現型の進化を模式的に示す。パネルCは、T-コーヒーアライメントパッケージを用いて生成した、Anc80、Anc126、Anc127およびAAV2 VP3配列間の非構造的多重配列アライメントである。UCSFキメラを用いてAAV2三量体構造を作製した。青色残基は、Anc80に対する可変残基を表す。オレンジ色の残基は、AAV2上の以前に定義されたTおよびB細胞エピトープを表す。緑色の残基は、Anc80L65およびB/T細胞エピトープに対する変異の間の重複である。
【
図23】
図23は、AAV系統再構築が生成、感染力および熱安定性を調節することを示すデータである。パネルAは、qPCRによって決定される、CMVプロモーターによって駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子を含有する9つの祖先および2つの現存のウイルスベクターの生成を示すグラフである。誤差バーは、3つの生物学的複製の標準偏差を表す。パネルBは、祖先および現存のウイルスベクターが、1.9×10
3の粒子-細胞比でHEK293細胞に形質導入するために使用されたことを示すグラフである。誤差バーは、3つの異なるロットのベクターの標準偏差を表す。
*Acn26は、ベクターの収量が低いため、2.1×10
2と3.5×10
2GC/細胞の間の比率で追加された。パネルCは、選択された祖先および現存のAAVベクターの変性温度を指示するsypro-orange熱安定性アッセイを示す。
【
図24】
図24は、ウイルスベクターの筋肉内注射後のeGFP発現を示す(上記の
図21もまた参照されたい)。筋肉標的化eGFP実験のために、マウスは腓腹筋に単回注射を受けた。eGFP発現は、横および縦の筋肉切片(第1および第2のカラム)で観察された。青色染色は核をマークする(DAPI)。筋肉の形態は、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色切片(第3のカラム)に見られるように変化しなかった。
【
図25-1】
図25は、祖先配列再構築に用いられるAAV分離株由来のVP1ポリペプチドの多重配列アラインメントである(上記の
図18および
図23もまた参照されたい)。AAV2(配列番号31);AAV5(配列番号40);AAV7(配列番号34);Anc113
L1(配列番号
54);AAV8(配列番号27);Anc83
L1(配列番号
55);Anc84
L1(配列番号
56);rh10(配列番号41);Anc82
L1(配列番号
57);Anc110
L1(配列番号
58);Anc81
L1(配列番号
59);Anc80
L1(配列番号
60);Anc126
L1(配列番号
61);AAV3(配列番号32);AAV3B(配列番号33);Anc127
L1(配列番号
62);AAV6(配列番号29);AAV1(配列番号30);AAV9(配列番号28);AAV4(配列番号44);rh32.33(配列番号45)。
【
図25-2】
図25は、祖先配列再構築に用いられるAAV分離株由来のVP1ポリペプチドの多重配列アラインメントである(
図25-1の続き)。
【
図25-3】
図25は、祖先配列再構築に用いられるAAV分離株由来のVP1ポリペプチドの多重配列アラインメントである(
図25-2の続き)。
【
図25-4】
図25は、祖先配列再構築に用いられるAAV分離株由来のVP1ポリペプチドの多重配列アラインメントである(
図25-3の続き)。
【
図26】
図26は、AAV進化系統の完全な系統発生および再構築された節を示す(上記の
図18もまた参照されたい)。AAVの75種の分離株に関連する最大尤度系統発生。赤色の丸は、ASRによって再構築された進化中間体を表す。青色の丸は、Anc80の周りに設けられた確率的空間のライブラリーを表す。
【
図27】
図27は、C57B1/6マウスにおけるIV投与後のAAV9と比較した、Anc80、Anc81、Anc82およびAnc110のルシフェラーゼ肝臓形質導入を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実験目的または治療目的のための遺伝子移入は、遺伝情報を標的細胞に往復させるためのベクターまたはベクターシステムを利用する。ベクターまたはベクターシステムは、遺伝子移入反応の効率、特異性、宿主応答、薬理学および寿命の主要な決定要因であると考えられる。現在、遺伝子移入を達成するための最も効率的かつ効果的な方法は、複製欠損がなされているウイルスに基づくベクターまたはベクターシステムの使用を介するものである。
【0014】
しかしながら、血清有病率の研究は、世界的なヒト集団のかなりの割合が、現在、遺伝子移入に使用されている大多数のウイルスに(例えば、自然感染によって)予め曝露され、したがって、既存の免疫を保有していることを示す。これらの予め曝露された個体中のウイルスベクターに対する抗体を中和することは、遺伝子移入の程度を時には有意に制限し、またはウイルスを標的から離れるように変えることが知られている。例えば、Calcedo et al. (2009, J. Infect. Dis., 199:381-90)、およびBoutin et al. (2010, Human Gene Ther., 21:704-12)を参照されたい。このように、本開示は、祖先ウイルスまたはその一部が、同時代のウイルスまたはその一部よりも、現在のヒト集団において既存の免疫に対する感受性の低減(例えば、中和抗体に対する感受性の低減)を示すという認識に基づく。
【0015】
図1は、祖先および同時代のウイルス感染と祖先および同時代の宿主免疫応答の間の関係を示す概略図である。
図1は、祖先AAVが、どのようにして同時代の既存の免疫に不応性であり得るかを示す。同時代の、現存のウイルス(Vc)は、免疫回避のメカニズムを介して、主に宿主免疫の進化的圧力下で祖先種(Vanc)から進化してきたことが推定される。これらの種VancおよびVcの各々は、B細胞免疫およびT細胞免疫(それぞれIancおよびIc)を含む適応免疫を誘導する能力を有する。同時代のウイルスによって誘導される免疫は、現存のウイルスよりもエピトープ組成の点で実質的に異なる可能性がある祖先ウイルス種と必ずしも交差反応しないことが仮定され、本明細書において確認された。
【0016】
本開示は、祖先ウイルスまたはその一部の配列を予測する方法を提供する。本明細書に記載の方法を用いて予測される祖先ウイルス配列の1つまたは複数が生成され、ウイルス粒子にアセンブルすることができる。本明細書において実証されるように、予測される祖先ウイルス配列からアセンブルされるウイルス粒子は、現在の同時代のウイルス粒子よりも少ない、時として有意に低い血清有病率を示し得る。したがって、本明細書に開示されている祖先ウイルス配列は、遺伝子移入のためのベクターまたはベクターシステムにおける使用に適している。
【0017】
祖先ウイルス配列を予測および合成する方法
祖先ウイルス配列を予測するために、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を最初に複数の同時代のウイルスまたはその一部から集める。本明細書に記載される方法は、アデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシド配列を用いて例示されが、同じ方法は、AAV由来の他の配列(例えば、ゲノム全体、rep配列、ITR配列)に適用され、または任意の他のウイルスまたはその一部に適用され得る。AAV以外のウイルスとしては、限定されないが、アデノウイルス(AV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、麻疹、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、パラインフルエンザウイルス、泡沫状ウイルス、または既存する免疫が問題であると考えられる任意の他のウイルスが挙げられる。
【0018】
わずか2つの同時代のウイルスまたはその一部由来の配列を用いることができるが、しかしながら、同時代のウイルスまたはその一部の大多数の配列は、できるだけ多くの現在の配列多様性の状況を含むように所望されるが、さらに、大多数の配列が記載され、使用されるアルゴリズムの予測能力を増加させ得るためであることが理解される。例えば、10個以上の同時代のウイルスもしくはその一部由来の配列を用いることができ、50個以上の同時代のウイルスもしくはその一部由来の配列を用いることができ、または100個以上の同時代のウイルスまたはその一部由来の配列を用いることができる。
【0019】
このような配列は、例えば、限定されないが、GenBank、UniProt、EMBL、国際塩基配列データベースコラボレーション(INSDC)または欧州ヌクレオチドアーカイブを含む任意の数の公共のデータベースから取得することができる。追加的にまたは代替的に、このような配列は、特定の生物に特異的なデータベース(例えば、HIVデータベース)から取得することができる。同時代の配列は、ゲノム全体に対応し得、またはゲノムの一部のみ、例えば、限定されないが、ウイルスキャプシド、複製タンパク質またはITR配列の1つまたは複数の構成成分をコードする配列を使用することができる。
【0020】
次に、同時代の配列は、複数の配列アラインメント(MSA)アルゴリズムを用いて整列される。
図2(a)は複数配列のアラインメントを示す概略図である。MSAアルゴリズムは当技術分野において周知であり、一般的に、異なるサイズのデータセットと異なる入力(例えば、核酸またはタンパク質)に適用され、および特定の方法(例えば、動的プログラミング、プログレッシブ、ヒューリスティック)で配列を整列するように設計され、アラインメントにおける異なるスコアリングスキーム(例えば、マトリックスベースまたは整合性ベース、例えば、最小エントロピー、対の合計、類似性マトリックス、ギャップスコア)を適用する。周知のMSAアルゴリズムとしては、例えば、ClustalW(Thompson et al., 1994, Nuc. Acids Res., 22:4673-90)、Kalign(Lassmann et al., 2006, Nuc. Acids Res., 34:W596-99)、MAFFT(Katoh et al., 2005, Nuc. Acids Res., 33:511-8)、MUSCLE(Edgar, 2004, BMC Bioinform., 5:113)およびT-Coffee(Notredame et al., 2000, J. Mol. Biol., 302:205-17)が挙げられる。
【0021】
本明細書に記載されるように、本明細書に記載される方法において使用するためのMSAアルゴリズムを選択する場合の主な特徴の1つは、アルゴリズムがアラインメント中のギャップを処理する方法である。配列アラインメント中のギャップは、ギャップの大きさに依存するまたは独立であるペナルティ値を割り当てることができる。本方法において、本明細書に記載される方法において使用されるMSAアルゴリズムは、ギャップのバイアスされた非系統発生学的処理とは対照的に、例えば、挿入および/または欠失に起因して、アラインメント中のギャップが欠失または挿入の結果であるかどうかを予測するために系統発生学的情報を適用することが好ましい。アラインメント中のギャップを処理する適切な方法および進化分析は、Loytynoja and Goldman, 2008, Science, 320:1632-5に記載され、本明細書に記載される方法における使用に適した方法でアラインメント中のギャップを適用する市販のアルゴリズムは、確率的アラインメントキット(PRANK;Goldman Group Software;Loytynoja and Goldman, 2005, PNAS USA, 102:10557-62)であり、PRANKアルゴリズムのバリエーションである。
【0022】
次に、進化モデルは、予測された祖先系統発生を得るために、得られたアラインメントに適用される(
図2(b)参照)。当技術分野において利用可能な多数の進化モデルが存在し、その各々は、アミノ酸について代替率のわずかに異なるマトリックスを適用する。限定されないが、進化のモデルを適用するためのアルゴリズムとしては、Dayhoffモデル(例えば、PAM120、PAM160、PAM250;Dayhoff et al., 1978, In Atlas of Protein Sequence and Structure (ed. Dayhoff), pp. 345-52, National Biomedical Research Foundation, Washington D.C.)、JTTモデル(Jones et al., 1992, Comp. Appl. Biosci., 8:275-82)、WAGモデル(Whelan and Goldman, 2001, Mol. Biol. Evol., 18:691-9)、およびBlosumモデル(例えば、Blosum45、Blosum62、Blosum80;Henikoff and Henikoff, 1992, PNAS USA, 89:10915-9)が挙げられる。
【0023】
さらに、構造と機能が進化モデルに課す制約はそれ自体、例えば、いくつかの位置は不変であること(「+I」;Reeves, 1992, J. Mol. Evol., 35:17-31)、いくつかの位置は異なる速度の変化を受けること(「+G」;Yang, 1993, Mol. Biol. Evol., 10:1396-1401)、および/またはヌクレオチドもしくはアミノ酸の平衡頻度がアラインメントと同じであること(「+F」;Cao et al., 1994, J. Mol. Evol., 39:519-27)を考慮することによってモデリングされ得る。
【0024】
進化の1つまたは複数のモデルの適応度は、赤池情報量規準(AIC;Akaike, 1973, In Second International Symposium on Information Theory, Petrov and Csaki, eds., pp 267-81, Budapest, Akademiai Kiado)、ベイズ情報量規準(BIC;Schwarz, 1978, Ann. Statist. 6:461-4)、またはそれらのバリエーションもしくは組合せを用いて評価することができる。さらに、AIC、BICまたはそれらのバリエーションもしくは組合せは、進化モデルにおける1つまたは複数のパラメータ(例えば、上記で検討した制約)を含むという相対的な重要性を評価するために使用され得る。
【0025】
以下の実施例の項で説明されるように、ProTest3(Darriba et al., 2011, Bioinformatics, 27(8):1164-5)は、最小AICに基づいて、JTT+G+FアルゴリズムがAAV進化のために最も適したモデルであったということを決定するために用いることができる。JTT+G+Fアルゴリズムはまた、AAVキャプシドポリペプチド以外の祖先ウイルス配列を予測するために用いられてもよいことが当業者に理解されるであろうが、しかしながら、また、データセットと適応度スコアに応じて、進化の異なるモデルがより適切であり得ることが当業者に理解されるであろう。
【0026】
進化のモデルが選択され、その適応度が決定されると、ウイルス配列またはその一部の系統樹を構築することができる。系統樹を構築することは、当技術分野において公知であり、典型的には、最大尤度法を採用し、例えば、PhyML(Guindon and Gascuel, 2003, Systematic Biology, 52:696-704))、MOLPHY(Adachi and Hasegawa, 1996, ed. Tokyo Institute of Statistical Mathematics)、BioNJ(Gascuel, 1997, Mol. Biol. Evol., 14:685-95)、またはPHYLIP(Felsenstein, 1973, Systematic Biology, 22:240-9)によって実施されるものが挙げられる。当業者は、コンピュータ計算の複雑さと適応度の有益部分とのバランスがアミノ酸置換のモデルにおいて望ましいことを理解するであろう。
【0027】
所望により、系統樹を有意性について評価することができる。多数の統計的方法が、モデルの有意性を評価するために利用可能であり、日常的に使用され、限定されないが、ブートストラップ、ジャックナイフ、交差検定、並べ替え検定またはそれらの組合せもしくはバリエーションが挙げられる。有意性はまた、例えば、おおよその尤度比検定(aLRT;Anisimova and Gascuel, 2006, Systematic Biology, 55:539-52)を用いて評価され得る。
【0028】
系統発生のいずれかの系統発生的な節(例えば、内部系統発生の節)において、配列は、配列の各位置で特定のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の進化の確率を概算することによって再構築することができまる(
図2(c))。系統発生的な節は、予測された祖先の系統樹内の中間進化の分岐点を指す。本明細書で使用するとき、「進化の確率」とは、考慮されないモデル、例えば、コドン使用における進化シフトとは対照的に、進化モデルに基づいて、特定の位置に特定のヌクレオチドまたはアミノ酸が存在する確率を指す。特定の位置で特定のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の進化の確率を考慮する例示的なモデルは、例えば、限定されないが、最大尤度法による系統発生学的分析(PAML;Yang, 1997, Comp. Applic. BioSci., 13:555-6)または節約法を用いる系統発生学的分析(PAUP;Sinauer Assoc.,Inc.、Sunderland、MA)を含む任意の数の最大尤度法を用いて概算され得る。
【0029】
各位置での特定のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の概算された進化の確率に基づいて、祖先ウイルスまたはその一部の予測される配列はアセンブルされ、完全または部分的に合成の核酸またはポリペプチド配列を形成することができる。所望により、任意の残基が節に沿って所定の節で所定の状態にあった尤度を計算することができ、特定の閾値下に計算された事後確率を有する配列に沿った任意の位置を同定することができる(
図2(d))。このようにして、特定の閾値未満の確率を有するそれらの位置でバリエーションを含み得る祖先足場配列を生成することができる。
【0030】
本明細書に記載の方法を用いて予測される祖先配列が核酸配列である場合、配列は、アミノ酸配列に効率的に翻訳され得るように最適化されたコドンであり得る。様々な生物のコドン使用頻度表は当技術分野において公知である。しかしながら、場合により、コドン使用頻度表は、祖先足場配列に対する相同性(例えば、少なくとも90%の配列同一性)を有する1つまたは複数の同時代の配列に基づいて設計することができ、本明細書に記載される祖先配列は哺乳動物(例えば、ヒト)コドン使用頻度に向けて最適されたコドンであり得る。
【0031】
祖先ウイルス配列を予測するための、本明細書に概説されているいずれかまたは全てのステップは、プロセッサまたはマイクロプロセッサを使用したコンピュータ(例えば、インシリコ)上で実行またはシミュレートすることができる。
【0032】
祖先アデノ随伴ウイルス(AAV)足場配列
本明細書に記載される方法は、(下記の実施例において詳細に説明される)同時代のキャプシド配列を用いてアデノ随伴ウイルス(AAV)に適用された。AAVは、治療用遺伝子移入ベクターおよび遺伝子ワクチンビヒクルとして考えられるが、ヒト集団において高い血清有病率を示す。本明細書に記載される方法を用いて、系統樹は、同時代のAAV配列によりアセンブルされ(
図3を参照)、予測された祖先足場配列は、指定された系統発生学的な節で得られた(表1)。本明細書で使用されるとき、祖先足場配列は、本明細書に記載される方法を用いて(例えば、進化可能性と進化モデリングを用いて)構築され、自然界に存在していたことが知られていない配列を意味する。本明細書で使用するとき、祖先足場配列は、典型的には、特定の位置でのヌクレオチドまたはアミノ酸残基の頻度を用いて構築されるコンセンサス配列とは異なる。
【0033】
【0034】
足場ポリペプチドおよび核酸の配列ならびに確率の位置での可能なヌクレオチドまたは残基のセットを配列表に示す。例えば、Anc80ポリペプチドの足場配列を配列番号1に示し、これは、配列番号2に示されるAnc80核酸の足場配列によってコードされる。配列表に示されるように、Anc80の足場配列は、2つの残基のいずれかが推定された11位を含有する。したがって、Anc80足場配列は、2048(211)個の異なる配列を表す。Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc94、Anc113、Anc126、Anc127およびAnc110ポリペプチドの追加の足場配列を配列番号3、5、7、9、11、13、15、17および42に示す;これらのポリペプチドは、それぞれAnc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc94、Anc113、Anc126、Anc127およびAnc110核酸の足場配列によってコードされ、配列番号4、6、8、10、12、14、16、18および43に示される。各祖先配列について、確率の各位置における可能なヌクレオチドまたは残基のセットが示される。
【0035】
ウイルスまたはその一部の祖先配列を予測するための本明細書に記載される方法の有効性を実証するために、AAV Anc80節での2048個の予測された祖先配列のライブラリーを作製し、本明細書に記載されるように、同時代のキャプシドポリペプチドでアセンブルされたウイルス粒子と比較して、低い血清有病率、いくつかの例では有意に低い血清有病率を示す生存するウイルス粒子を形成することが実証された。
【0036】
祖先ウイルス粒子を作製する方法
ウイルスまたはその一部の予測された祖先配列を取得した後、実際の核酸分子および/またはポリペプチド(単数または複数)を生成することができる。例えばインシリコで得られた配列に基づいて、核酸分子またはポリペプチドを生成する方法は、当技術分野において公知であり、例えば、化学合成または組換えクローニングを含む。核酸分子またはポリペプチドを生成するためのさらなる方法は、当技術分野において公知であり、以下により詳細に検討される。
【0037】
祖先ポリペプチドが生成されると、または祖先核酸分子が生成され、祖先ポリペプチドを生成するように発現されると、祖先ポリペプチドは、例えば、パッケージング宿主細胞を用いて、祖先ウイルス粒子にアセンブルされ得る。ウイルス粒子の構成成分(例えば、rep配列、cap配列、逆方向末端反復(ITR)配列)は、本明細書に記載される1つまたは複数のベクターを使用してパッケージング宿主細胞に、一過性または安定に導入することができる。ウイルス粒子の構成成分の1つまたは複数は、本明細書に記載される予測された祖先配列に基づくことができ、一方、残りの構成成分は同時代の配列に基づくことができる。いくつかの例において、ウイルス粒子全体は、予測された祖先配列に基づくことができる。
【0038】
このような祖先ウイルス粒子は、通常の方法を用いて精製することができる。本明細書で使用するとき、「精製された」ウイルス粒子とは、作製された混合物中の構成成分、例えば、限定されないが、ウイルス構成成分(例えば、rep配列、cap配列)、パッケージング宿主細胞および部分的にまたは不完全にアセンブルされたウイルス粒子から取り除かれるウイルス成分を意味する。
【0039】
アセンブルされると、祖先ウイルス粒子は、例えば、複製する能力;遺伝子移入特性;受容体結合能;および/または集団(例えば、ヒト集団)における血清有病率についてスクリーニングすることができる。ウイルス粒子が複製し得るかどうかの決定は当技術分野において通常行われ、典型的には、ある量のウイルス粒子で宿主細胞を感染させ、ウイルス粒子が経時的に数が増加するかどうかを決定することを含む。また、ウイルス粒子が遺伝子移入を行うことができるかどうかの決定は当技術分野において通常行われ、典型的には、導入遺伝子(例えば、以下でより詳細に検討されるレポーター遺伝子などの検出可能な導入遺伝子)を含有するウイルス粒子で宿主細胞を感染させることを含む。ウイルスの感染およびクリアランス後、宿主細胞は導入遺伝子の存在または非存在について評価され得る。ウイルス粒子がその受容体に結合するかどうかの決定は当技術分野において通常行われ、このような方法はインビトロまたはインビボで行うことができる。
【0040】
ウイルス粒子の血清有病率の決定は当技術分野において通常行われ、典型的には、個体の特定の集団からの試料(例えば、血液試料)中の1つまたは複数の抗体の有病率を決定するためのイムノアッセイの使用を含む。血清有病率は、血清反応陽性である(すなわち、特定の病原体または免疫原に曝露されている)集団中の対象の割合を意味することが当技術分野において理解され、調べられた集団における個体の総数によって割った、特定の病原体または免疫原に対する抗体を産生する集団における対象の数として計算される。イムノアッセイは、当技術分野において周知であり、限定されないが、イムノブロット、ウェスタンブロット、酵素免疫アッセイ(EIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)またはラジオイムノアッセイ(RIA)が含まれる。本明細書に示されるように、祖先ウイルス粒子は、同時代のウイルス粒子(すなわち、同時代のウイルス配列またはその一部を用いてアセンブルされたウイルス粒子)よりも低い血清有病率を示す。単に一例として、Xu et al. (2007, Am. J. Obstet. Gynecol., 196:43.e1-6);Paul et al. (1994, J. Infect. Dis., 169:801-6);Sauerbrei et al. (2011, Eurosurv., 16(44):3);およびSakhria et al. (2013, PLoS Negl. Trop. Dis., 7:e2429)を参照されたい。それぞれは、所定の集団における特定の抗体についての血清有病率を決定した。
【0041】
本明細書に記載されるように、祖先ウイルス粒子は、同時代のウイルス粒子よりも低い程度に中和される。血清試料中の抗体を中和する程度を決定するためにいくつかの方法が利用可能である。例えば、中和抗体アッセイは、実験試料が、抗体を含まない対照試料と比較して50%以上の感染を中和する抗体濃度を含有する力価を測定する。また、Fisher et al. (1997, Nature Med., 3:306-12)およびManning et al. (1998, Human Gene Ther., 9:477-85)を参照されたい。
【0042】
本明細書において例示される祖先AAVキャプシドポリペプチドに関して、血清有病率および/または中和の程度は、例えば、AAV8キャプシドポリペプチドもしくはAAV8キャプシドポリペプチドを含むウイルス粒子、またはAAV2キャプシドポリペプチドもしくはAAV2キャプシドポリペプチドを含むウイルス粒子と比較することができる。一般的に、AAV8キャプシドポリペプチドまたはウイルス粒子は、低いと考えられるヒト集団において、血清有病率および結果として得られる中和を示し、一方、AAV2キャプシドポリペプチドまたはウイルス粒子は、高いと考えられるヒト集団において、血清有病率および結果として中和を示すことが当技術分野において理解される。明らかに、特定の血清有病率は、調べられる集団と使用される免疫学的方法に依存するが、AAV8は約22%から最大約38%の血清有病率を示し、一方、AAV2は約43.5%から最大約72%の血清有病率を示す。例えば、Boutin et al. 2010, “Prevalence of serum IgG and neutralizing factors against AAV types 1, 2, 5, 6, 8 and 9 in the healthy population: implications for gene therapy using AAV vectors,” Hum. Gene Ther., 21:704-12を参照されたい。さらに、Calcebo et al. 2009, J. Infect. Dis., 199:381-90を参照されたい。
【0043】
予測されるアデノ随伴ウイルス(AAV)祖先核酸配列およびポリペプチド配列
Anc80節の予測される祖先キャプシドポリペプチドをコードするライブラリーからの多数の異なるクローンを配列決定し、代表的なAAVの予測されるキャプシドポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号19(Anc80L27);配列番号20(Anc80L59);配列番号21(Anc80L60);配列番号22(Anc80L62);配列番号23(Anc80L65);配列番号24(Anc80L33);配列番号25(Anc80L36);および配列番号26(Anc80L44)に示す。当業者は、それぞれのアミノ酸配列をコードする核酸配列が容易に決定され得ることを理解する。
【0044】
配列番号19、20、21、22、23、24、25または26に示される配列を有する予測される祖先キャプシドポリペプチドに加えて、配列番号19、20、21、22、23、24、25または26に示される配列を有する予測される祖先キャプシドポリペプチドと少なくとも95%の配列同一性(例えば、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性)を有するポリペプチドが提供される。同様に、祖先キャプシドポリペプチドをコードする核酸分子と少なくとも95%の配列同一性(例えば、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性)を有する核酸分子が提供される。
【0045】
配列同一性パーセントの計算において、2つの配列が整列され、2つの配列間のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の同一の合致数が決定される。同一の合致数は、整列された領域の長さ(すなわち、整列されたヌクレオチドまたはアミノ酸残基の数)によって割られ、パーセント配列同一性の値に到達させるために100を乗じる。整列された領域の長さは、最も短い配列の全長サイズまでの1つまたは両方の配列の一部であり得ることが理解される。また、単一の配列は、1を超える他の配列と整列させることができ、したがって、それぞれの整列された領域に対する、異なる配列同一性パーセントの値を有することができることが理解される。
【0046】
配列同一性パーセントを決定するための2つ以上の配列のアラインメントは、ワールドワイドウェブ上のncbi.nlm.nih.govで利用可能なBLAST(基礎局所的アラインメント検索ツール)プログラムに組み込まれた、Altschul et al. (1997, Nucleic Acids Res., 25:3389-3402)によって記載されるアルゴリズムを用いて行うことができる。BLAST検索は、Altschul et al.のアルゴリズムを用いて整列された、配列(核酸またはアミノ酸)と任意の他の配列またはその一部の間の配列同一性パーセントを決定するために行うことができる。BLASTNは、核酸配列を整列させ、核酸配列間の同一性を比較するために使用されるプログラムであり、一方、BLASTPは、アミノ酸配列を整列させ、アミノ酸配列間の同一性を比較するために使用されるプログラムである。配列と別の配列の間の同一性パーセントを計算するためのBLASTプログラムを利用するとき、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータを一般的に使用する。
【0047】
代表的なアラインメントを
図4Aと4Bおよび
図5Aと5Bに示す。
図4Aと4Bは、祖先AAV VP1キャプシドポリペプチドのアラインメントを示し、Anc80L65(配列番号23)、Anc80L27(配列番号19)、Anc80L33(配列番号24)、Anc80L36(配列番号25)、Anc80L44(配列番号26)、Anc80L59(配列番号20)、Anc80L60(配列番号21)およびAnc80L62(配列番号22)と指定される。
図4Aと4Bに示されるアラインメントは、11部位のそれぞれで予測されたバリエーションと、クローニングのアーティファクトであり得る、Anc80L60(配列番号21)の609E位での1つの非同義突然変異を確認する。
図5Aと5Bは、祖先AAV VP1キャプシドポリペプチド(Anc80L65(配列番号23)、Anc80L27(配列番号19)、Anc80L33(配列番号24)、Anc80L36(配列番号25)、Anc80L60(配列番号21)、Anc80L62(配列番号22)、Anc80L44(S配列番号26)およびAnc80L59(配列番号20))と同時代のAAV VP1キャプシドポリペプチド(AAV8(配列番号27)、AAV9(配列番号28)、AAV6(配列番号29)、AAV1(配列番号30)、AAV2(配列番号31)、AAV3(配列番号32)、AAV3B(配列番号33)およびAAV7(配列番号34))の間のアラインメントを示す。
図5Aと5Bにおけるアラインメントは、祖先AAV配列が、同時代のAAV配列と約85%~91%の配列同一性を有することを示す。
【0048】
また、ポリペプチドをコードする核酸分子を含有するベクターが提供される。発現ベクターを含むベクターは市販され、または組換え技術によって生成することができる。核酸分子を含有するベクターは、このような核酸分子に作動可能に連結した、発現のための1つまたは複数のエレメントを有することができ、さらに、選択可能なマーカーをコードする核酸分子(例えば、抗生物質耐性遺伝子)、および/またはポリペプチド(例えば、6xHisタグ)の精製に使用され得る核酸分子を含むことができる。発現のためのエレメントには、核酸コード配列に指向し、その発現を制御する核酸配列を含む。発現エレメントの一例はプロモーター配列である。また、発現エレメントは、1つまたは複数のイントロン、エンハンサー配列、応答エレメント、または核酸分子の発現を調節する誘導可能なエレメントを含むことができる。発現エレメントは、細菌、酵母、昆虫、哺乳動物またはウイルス起源であってもよく、ベクターは、異なる起源からの発現エレメントの組合せを含有することができる。本明細書で使用するとき、作動可能に連結したとは、発現のためのエレメントが、コード配列に指向し、またはその発現を調節するような方法で、コード配列に対してベクターに配置されることを意味する。
【0049】
核酸分子、例えば、ベクター(例えば、発現ベクター、ウイルスベクター)中の核酸分子は、宿主細胞に導入され得る。「宿主細胞」なる用語は、核酸分子が導入された特定の細胞(単数または複数)を意味するだけでなく、このような細胞の後代または潜在的な後代もまた意味する。多数の適切な宿主細胞は当業者に公知である;宿主細胞は、原核細胞(例えば、大腸菌(E. coli))または真核細胞(例えば、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、哺乳動物細胞)であり得る。代表的な宿主細胞としては、限定されないが、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギおよびハムスターを含む哺乳動物に由来するA549、WEHI、3T3、10T1/2、BHK、MDCK、COS1、COS7、BSC1、BSC40、BMT10、VERO、WI38、HeLa、293細胞、Saos、C2C12、L細胞、HT1080、HepG2、ならびに初代線維芽細胞、肝細胞および筋芽細胞が挙げられる。宿主細胞に核酸分子を導入する方法は当技術分野において公知であり、限定されないが、リン酸カルシウム沈殿、エレクトロポレーション、熱ショック、リポフェクション、マイクロインジェクションおよびウイルス媒介核酸移入(例えば、形質導入)が含まれる。
【0050】
ポリペプチドに関して、「精製された」とは、自然にそれに付随する細胞構成成分から分離または精製されたポリペプチド(すなわち、ペプチドまたはポリペプチド)を意味する。典型的には、ポリペプチドは、乾燥重量で少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%または99%)である場合に「精製された」と考えられ、ポリペプチドと自然に会合される天然に存在する分子を含まない。化学的に合成されるポリペプチドは、本質的に、自然にそれに付随する構成成分から分離されるため、合成ポリペプチドは「精製された」と考えられるが、さらに、ポリペプチドを合成するために使用される構成成分(例えば、アミノ酸残基)から取り除くことができる。核酸分子に関して、「単離された」とは、通常、ゲノム中で関連付けられる他の核酸分子から分離された核酸分子を意味する。さらに、単離された核酸分子は、組換えまたは合成の核酸分子などの遺伝子操作された核酸分子を含むことができる。
【0051】
ポリペプチドは、DEAEイオン交換、ゲルろ過および/またはヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどの公知の方法により天然供給源(例えば、生物学的試料)から取得(例えば、精製)され得る。精製されたポリペプチドはまた、例えば、発現ベクターに核酸分子を発現させることによって、または化学合成によって得ることができる。ポリペプチドの純度の程度は、任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはHPLC分析を用いて測定することができる。同様に、核酸分子は、通常行われる方法、例えば、限定されないが、組換え核酸技術(例えば、制限酵素消化およびライゲーション)またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR;例えば、PCR Primer: A Laboratory Manual, Dieffenbach & Dveksler, Eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1995参照)を用いて取得(例えば、単離)され得る。さらに、単離された核酸分子は、化学的に合成することができる。
【0052】
祖先ウイルスまたはその一部を使用する方法
本明細書に記載される祖先ウイルスまたはその一部、特に、同時代のウイルスまたはその一部と比較して低減した血清有病率を示すものは、多数の研究および/または治療用途において使用することができる。例えば、本明細書に記載される祖先ウイルスまたはその一部は、ヒトまたは動物の医療において、遺伝子治療(例えば、遺伝子移入のためのベクターもしくはベクターシステムにおいて)またはワクチン接種(例えば、抗原提示用)のために使用することができる。より具体的には、本明細書に記載される祖先ウイルスまたはその一部は、遺伝子付加、遺伝子増加、ポリペプチド製剤の遺伝子送達、遺伝子ワクチン接種、遺伝子サイレンシング、ゲノム編集、遺伝子治療、RNAi送達、cDNA送達、mRNA送達、miRNA送達、miRNAスポンジング、遺伝子免疫、光遺伝学的遺伝子治療、遺伝子組換え、DNAワクチン接種またはDNA免疫のために使用することができる。
【0053】
宿主細胞は、インビトロで(例えば、培養下で増殖中に)またはインビボで(例えば、対象において)祖先ウイルスまたはその一部により形質導入あるいは感染され得る。インビトロで祖先ウイルスまたはその一部により形質導入または感染され得る宿主細胞は本明細書に記載される;インビボで祖先ウイルスまたはその一部により形質導入または感染され得る宿主細胞としては、限定されないが、脳、肝臓、筋肉、肺、眼(例えば、網膜、網膜色素上皮)、腎臓、心臓、生殖腺(例えば、精巣、子宮、卵巣)、皮膚、鼻腔、消化器系、膵臓、膵島細胞、神経細胞、リンパ球、耳(例えば、内耳)、毛包および/または腺(例えば、甲状腺)が挙げられる。
【0054】
本明細書に記載される祖先ウイルスまたはその一部は、(他のウイルス配列とシスまたはトランスである)導入遺伝子を含むように修飾することができる。導入遺伝子は、例えば、レポーター遺伝子(例えば、β-ラクタマーゼ、β-ガラクトシダーゼ(LacZ)、アルカリホスファターゼ、チミジンキナーゼ、緑色蛍光ポリペプチド(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)もしくはルシフェラーゼ、または赤血球凝集素もしくはMycなどの抗原タグドメインを含む融合ポリペプチド)または治療遺伝子(例えば、ホルモンもしくはそれらの受容体、増殖因子またはその受容体、分化因子またはその受容体、免疫系調節因子(例えば、サイトカインおよびインターロイキン)またはその受容体、酵素、RNA(例えば、阻害性RNAもしくは触媒RNA)または標的抗原(例えば、発癌性抗原、自己免疫抗原)をコードする遺伝子)であり得る。
【0055】
特定の導入遺伝子は、少なくとも部分的に、治療される特定の疾患または欠損症に依存する。単に一例として、遺伝子移入または遺伝子治療は、血友病、網膜色素変性症、嚢胞性線維症、レーバー先天性黒内障、リソソーム貯蔵障害、先天性代謝異常(例えば、フェニルケトン尿症などのアミノ酸代謝の先天性異常、プロピオン酸血症などの有機酸代謝の先天性異常、中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(MCAD)などの脂肪酸代謝の先天異常)、癌、色覚異常、コーンロッドジストロフィー、黄斑変性(例えば、加齢黄斑変性症)、リポポリペプチドリパーゼ欠損症、家族性高コレステロール血症、脊髄性筋萎縮症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、アルツハイマー病、パーキンソン病、肥満症、炎症性腸疾患、糖尿病、うっ血性心不全、高コレステロール血症、難聴、冠状動脈性心臓病、家族性腎アミロイドーシス、マルファン症候群、致死性家族性不眠症、クロイツフェルトヤコブ病、鎌状赤血球病、ハンチントン病、前頭側頭葉変性症、アッシャー症候群、乳糖不耐症、脂質蓄積障害(例えば、ニーマンピック病、C型)、バッテン病、先天性脈絡膜欠如、II型糖原病(ポンペ病)、毛細血管拡張性運動失調症(ルイバー症候群)、先天性甲状腺機能低下症、重症複合免疫不全(SCID)および/または筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療に適用することができる。
【0056】
また、導入遺伝子は、対象(例えば、ヒト、動物(例えば、コンパニオンアニマル、家畜、絶滅寸前の動物)の免疫に有用である免疫原であり得る。例えば、免疫原は、生物(例えば、病原生物)またはその免疫原性部分もしくはその構成成分(例えば、毒素ポリペプチドまたはその副生成物)から得ることができる。一例として、免疫原性ポリペプチドを得ることができる病原生物としては、ウイルス(例えば、ピコルナウイルス、エンテロウイルス、オルトミクソウイルス、レオウイルス、レトロウイルス)、原核生物(例えば、肺炎球菌(Pneumococci)、ブドウ球菌(Staphylococci)、リステリア菌(Listeria)、シュードモナス属(Pseudomonas))および真核生物(例えば、アメーバ症、マラリア、リーシュマニア症、線虫)が挙げられる。本明細書に記載される方法およびこのような方法によって製造される組成物は、任意の特定の導入遺伝子によって限定されるものではないことが理解される。
【0057】
通常、生理学的に適合した担体中に懸濁される祖先ウイルスまたはその一部を対象(例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物)に投与することができる。適切な担体としては、様々な緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)を用いて製剤化されてもよい生理食塩水、ラクトース、ショ糖、リン酸カルシウム、ゼラチン、デキストラン、寒天、ペクチンおよび水が含まれる。祖先ウイルスまたはその一部は、細胞に形質導入または感染させ、過度の副作用なしに治療上の利益を提供するために、遺伝子移入および発現の十分なレベルを与えるのに十分な量で投与される。従来のおよび医薬として許容される投与経路としては、限定されないが、例えば、肝臓もしくは肺などの臓器への直接送達、経口、鼻腔内、気管内、吸入による、静脈内、筋肉内、眼内、皮下、皮内、経粘膜、または他の投与経路によるものが挙げられる。所望により、投与経路を組み合わせることができる。
【0058】
対象に投与される祖先ウイルスまたはその一部の用量は、主に、治療される状態、ならびに対象の年齢、体重および健康などの因子に依存する。例えば、ヒト対象に投与される祖先ウイルスまたはその一部の治療的有効量は、一般的に、祖先ウイルスの約1×101~1×1012のゲノムコピー(GC)(例えば、約1×103~1×109GC)の濃度を含有する約0.1ml~約10mlの溶液の範囲にある。導入遺伝子の導入および/または発現は、DNA、RNAまたはタンパク質アッセイによって、投与後の種々の時点でモニターすることができる。いくつかの例において、導入遺伝子の発現レベルは、投薬の頻度および/または量を決定するためにモニターすることができる。また、治療目的のために記載されたものと類似する投薬計画を免疫化のために利用することができる。
【0059】
また、本明細書に記載される方法は、ウイルスまたはその一部の1つまたは複数の免疫原性ドメインを修飾または除去するように、前方進化をモデリングするために使用することができる。
【0060】
本発明によれば、当業者の技術範囲内の従来の分子生物学、微生物学、生化学および組換えDNA技術を採用してもよい。このような技術は、文献に十分に説明されている。本発明は、特許請求の範囲に記載される、対象とする方法および組成物の範囲を限定するものではない以下の実施例においてさらに説明される。
実施例
【実施例1】
【0061】
祖先配列のコンピュータ計算による予測
AAVキャプシドの75個の異なるアミノ酸配列のセットは、GenBankなどの多数の公共データベースから取得し、配列は、PRANK-MSAアルゴリズム、バージョン121002を用いて整列し、オプションは「-F」である。
【0062】
ProtTest3(例えば、Darriba et al., 2011, Bioinformatics, 27(8):1164-5;ワールドワイドウェブ上のdarwin.uvigo.es/software/prottest3で利用可能である)は、様々な条件下(例えば、ProTest3に含まれるもの、すなわち、「+I」、「+F」、「+G」およびそれらの組合せ)でポリペプチド進化の様々なモデル(例えば、ProTest3に含まれるもの、すなわち、JTT、LG、WAG、VT、CpRev、RtRev、Dayhoff、DCMut、FLU、Blosum62、VT、HIVb、MtArt、MtMam)を評価するために使用された。+Gおよび+F(Yang, 1993, Mol. Biol. Evol., 10:1396-1401; およびCaoet al., 1994, J. Mol. Evol., 39:519-27)を用いたJTTモデル(Jones et al., 1992, Comp. Appl. Biosci., 8:275-82)は、ProTest3において実行されるその赤池情報量規準(AIC;Hirotugu, 1974, IEEE Transactions on Automatic Control, 19:716-23)に基づいて選択した。
【0063】
AAV進化の系統発生をPhyML(Guindon and Gascuel, 2003, Systematic Biology, 52:696-704)を用いて構築した。
図3を参照されたい。系統樹は、JTT+F置換モデルを用いて作成し、4つの離散置換カテゴリと概算ガンマ形状パラメータを有した。得られた系統樹は、最近隣交換(Nearest Neighbor Interchange)(NNI)とサブツリー枝刈りおよび再移植(Subtree Pruning and Re-Grafting)(SPR)を介して改善し、「SH様」バリアントを用いて、ブートストラップと近似尤度比テスト(aLRT;Anisimova and Gascuel, 2006, Systematic Biology, 55:539-52)を介して有意性について評価した。
【0064】
次に、上記で構築された系統樹は、系統発生内部の全ての節でAAVキャプシドの祖先状態を概算するために使用した。祖先キャプシド配列は、Lazarus(sf.netのSourceforge)に含まれる最大尤度の系統発生学的分析(PAML)ソフトウェア(Yang, 1997, Comp. Applic. BioSci., 13:555-6;ワールドワイドウェブ上のabacus.gene.ucl.ac.uk/software/paml.htmlで利用可能である)を介した最大尤度原理を用いて再構築した。より具体的には、Lazarus/PAML再構築は、4ガンマ分布カテゴリを用いたJTT+F置換モデルによるアミノ酸再構築を生成するように設定した。AAV5を外集団として使用した。最後に、「I」オプションは、PAML再構築を行った後、インデルを配置するために追加した(すなわち、フィッチアルゴリズムを用いた最大節約を介して二値コード化し、配置した)。
【0065】
再構築が最大尤度法で行われたため、任意の残基を所定の節で所定の位置にあった尤度を計算することができる。これを行うために、追加のスクリプトは、特定の閾値下に計算された事後確率を有する配列に沿った全ての位置を同定するために記述した。0.3の閾値を選択し、これは、0.3を超える計算された事後確率を有する任意のアミノ酸がライブラリーの合成に含まれたことを意味する。これらの残基は、ライブラリー中の目的とするバリアントであるように選択した。
【0066】
配列を確定するために、追加の有用性は、コドンを選択するようにコード化されなければならなかった。スクリプトは、別のAAV配列(ANC80足場配列と約92%の配列同一性を有するAAVRh10)と同様のコドンを導き出し、コドン置換マトリックスに基づく配列の不一致があった場合にコドンを置換するための新規なアルゴリズムを適用するように記述した。新規なアルゴリズムを以下に示す:
前提:アミノ酸配列、Pt、対応するヌクレオチド配列を有する、Nt、この場合、NtはPtをコードする;およびタンパク質配列、Pi、この場合、PiはPtに強い相同性を示す。
スコアリングのためのBlosum62表を用いてNeedleman-WunschによりPiとPtを整列させる。Ntからの対応するコドンを用いて、タンパク質アラインメントに踏み込むことによって、新しいヌクレオチド配列、Niを生成する。
この場合、Ptにおけるアミノ酸はPiに正確に合致し、
コドン-PAMマトリックス(Schneider et al., 2005, BMC Bioinform., 6:134)からの「最良スコアリング」コドン、この場合、置換が存在する、
ギャップ、この場合、Ptにおけるアミノ酸に対して整列されたPiにギャップが存在する、および
Nt(所定のアミノ酸をコードする)において最も頻繁に生じるヌクレオチド、この場合、Ptにおけるギャップに対して整列されるPiにアミノ酸が存在する。
【0067】
さらに、2つの単一ヌクレオチド変化は、野生型AAVにおけるAAVキャプシド遺伝子内のフレームのうちコードされているアセンブリ活性化タンパク質(AAP)の転写を除去するために行った。AAP(同時代または祖先)のコーディングは、この再構築の一部ではなかったので、AAPの発現はcap配列中に同義突然変異を作製することによって除去し、AAP配列はウイルス生成中にトランスで提供した。
【実施例2】
【0068】
祖先AAV VP1配列の発現
実験は、予測された祖先AAVキャプシド配列がウイルスベクターを作製するために使用され得るかどうかを決定するために行った。
【0069】
多数の予測された祖先AAVキャプシド配列をクローニングした。祖先キャプシドのライブラリーは、一過性トランスフェクションにおいてウイルス粒子の形成を可能にするようにrep-cap発現プラスミドに移した。適切な発現レベルならびにVP1、VP2およびVP3のスプライシングを維持するために、ライブラリーcap遺伝子は、repコード配列におけるcapの5’に位置したHindIIIと、cap終止コドンとポリアデニル化シグナルの間で遺伝子操作されたSpeIとを切断することによってクローニングした。結果として、より従来の「REP/CAP」構築物に祖先キャプシドをクローニングするために、継代プラスミドをHindIIIとSpeIで消化し、ゲル精製し、同様に消化されたrep/capプラスミドにライゲーションした。
【0070】
発現されたポリペプチドを10%SDSゲル上で分離した。
図6に示されるように、キャプシドポリペプチドは適切に発現し、多数の祖先AAV配列(Anc80L44、Anc80L27およびAnc80L65)ならびに同時代のAAV配列のAAV2/8からVP1、VP2およびVP3にスプライシングされた。
【実施例3】
【0071】
ウイルス力価
AAVは、ウイルス粒子アセンブリに必要とされる全てのエレメントをコードするプラスミドの一過性共トランスフェクションを介してHEK293細胞中で産生した。簡単には、HEK293細胞を90%コンフルエントになるまで増殖させ、(a)AAV2 ITRによって挟まれたルシフェラーゼ導入遺伝子(CMVプロモーターによって発現される)をコードするウイルスゲノムプラスミド、(b)AAV2 repと本明細書に開示されている合成されたキャプシドタンパク質をコードするAAVパッケージングプラスミド、(c)キャプシドを発現するAAV2-AAP、および(d)AAVパッケージングとアセンブルに必要とされるアデノウイルスヘルパー遺伝子を用いてトランスフェクトした。細胞を37℃にて2日間インキュベートし、細胞および培地を採取し、回収した。
【0072】
細胞-培地懸濁液を3回連続した凍結融解サイクルによって溶解した。次に、溶解物を遠心分離によって清澄化し、徹底的なDNA消化を行う条件下で酵素、ここではBenzonase(商標)を用いて処置し、ウイルス粒子の外側に存在する任意のDNAを消化した。AAV調製物は、対照DNAテンプレート、この場合は、ベクターゲノムと比べて、同一のTaqMan(商標)プライマーとプローブ結合配列を含む線状化プラスミドの線形測定範囲に含まれるように希釈した。TaqMan(商標)PCRは、選択したウイルスベクターゲノムにアニーリングするプライマーとプローブを用いて行った。以下の表2に示すように、ミリリットル(ml)あたりのゲノムコピー(GC)におけるTaqMan(商標)測定に基づいて力価を計算した。
【0073】
【0074】
祖先的に再構築されたAAVキャプシド粒子による小規模ベクター生成結果は、AAV2に類似したが、AAV8に対して低減した収量を実証し、これらの両方は同時代のAAVに基づくベクター調製物である。
【実施例4】
【0075】
インビトロのウイルス形質導入
インビトロのウイルス形質導入は、細胞を感染させる、予測された祖先AAV配列を含有するウイルスの能力を評価するために行った。
【0076】
配列のAnc80ライブラリーを使用したハイスループットベクター生成後、HEK293細胞をそれぞれのウイルスベクターで形質導入した。Anc80配列に加えて、それぞれのウイルスベクターはルシフェラーゼ導入遺伝子を含有した。ルシフェラーゼは、形質導入細胞または細胞溶解物にルシフェリン基質を添加後、96ウェルプレートリーダーで生物発光を定量することによって測定した。定量化後、4つの連結された96ウェルプレートにおけるルシフェラーゼ発現のヒートマップを作製した(各プレートにおいて対照の列を除く)。ハイスループットベクター生成のプロセスに関連した、大多数の挿入、欠失および遷移に起因して、多数のベクターは非機能的であった。本明細書の目的のために、このアッセイにおいて機能的である(すなわち、HEK293細胞を形質導入し、導入遺伝子を発現することができる)ウイルスだけをさらに評価した。
【0077】
HEK293細胞は、2つの同時代のAAVベクター(AAV2/2およびAAV2/8)と3つの予測された祖先AAVベクター(Anc80L27、Anc80L44およびAnc80L65)を用いて、細胞あたり1×10
4ゲノムコピー(GC)の等しい感染の多重度(MOI)で形質導入した。各ベクターは、ルシフェラーゼをコードする導入遺伝子またはeGFPをコードする導入遺伝子のいずれかを含有した。細胞は、60時間後、AMG EvosFl光学顕微鏡のGFPチャネルを用いて撮像した。
図7は、インビトロで形質導入後のルシフェラーゼ発現を示す。祖先AAVウイルスの各々は、HEK293細胞の効率的な形質導入を実証した。
【実施例5】
【0078】
インビボでのレチナール形質導入
レチナール形質導入は、祖先AAVベクターがインビボでマウス網膜細胞を標的とすることができるかどうかを決定するために行った。
【0079】
マウスの目は、2×108個のゲノムコピー(GC)の3種の異なる祖先AAV(Anc80L27、Anc80L44およびAnc80L65)と同時代のAAV(AAV2/8)で形質導入し、それらの全てはeGFPをコードする導入遺伝子を含んでいた。形質導入のために、各AAVベクターは、注射装置を用いたベクターボーラスの送達を介して、光受容体と網膜色素上皮層の間に空間を生成することにより網膜下に外科的に送達した。ベクターボーラスは網膜下空間に残存し、サブ網膜下の剥離を経時的に解決した。GFP発現は、Tropicamide(商標)を用いた瞳孔拡張後、動物の網膜の眼底撮影により非侵襲的にモニターした。示された網膜の全ては、網膜への祖先AAVの、様々な程度の成功した標的化を実証した。
【0080】
また、網膜組織学を行い、形質導入された細胞型を同定するために蛍光顕微鏡下で可視化した。組織学は、上述したAnc80L65祖先AAVベクターで形質導入されたマウス網膜上で行った。Anc80L65を媒介したeGFP発現は、外核層(ONL)、内部セグメント(IS)および網膜色素上皮(RPE)において明らかであり、祖先Anc80L65ベクターがマウス光受容体と網膜色素上皮細胞を標的とすることを示した。
【実施例6】
【0081】
中和抗体アッセイ
中和抗体アッセイは、祖先AAVウイルスが、同時代のAAVウイルスよりも抗体中和に対してより抵抗性であるか否かを評価するために行われる。中和抗体アッセイは、抗体の不存在下における対照と比較して、50%以上の感染を中和する抗体濃度(または実験試料が抗体濃度を含有する力価)を測定する。
【0082】
血清試料またはIVIG原液(200mg/ml)を連続して2倍希釈し、希釈していない試料および希釈した試料は、104のMOIで約30分間37℃にて、祖先AAVウイルス、Anc80L65、および同時代のAAVウイルス、AAV2/8と同時にインキュベートされる。各ウイルスはルシフェラーゼ導入遺伝子を含む。次に、混合ベクターおよび抗体試料をHEK293細胞に形質導入する。これらの実験について、使用された抗体試料は、静注用イムノグロブリン(IVIG)、1000を超える血液ドナーの血漿から抽出し、プールされたIgG(例えば、Gammagard(商標)(Baxter Healthcare;Deerfield、IL)またはGamnex(商標)(Grifols;Los Angeles、CA)として市販されている)である。形質導入の開始から48時間後、細胞は、ルシフェラーゼを検出するために生物発光によりアッセイされる。中和抗体力価は、50%以上の中和(試料の形質導入/試料の不存在下での対照ウイルスの形質導入)が到達する試料の希釈を同定することによって決定される。
【実施例7】
【0083】
Anc80の特徴付け
本明細書に記載される方法に基づいて、最も可能の高いAnc80配列(事後確率によって決定される)が得られ、Anc80L1(配列番号35はAnc80L1キャプシドの核酸配列を示し、配列番号36はAnc80L1 VP1ポリペプチドのアミノ酸配列を示す)と指定された。Anc80確率ライブラリーは、営利企業によって、本明細書に記載される配列を用いて合成し、発現ベクターにサブクローニングした。
【0084】
Anc80ライブラリーは、組合せアッセイにおいてベクター収率および感染力についてクローン的に評価した。このスクリーニングのうち、Anc80L65(配列番号23)、およびいくつかの他の変異体をさらに特徴付けた。
【0085】
Anc80ライブラリーとAnc80L65を配列の相違の観点から比較した(
図8;対角線から上は%、下はアミノ酸の相違数)。NCBI-BLASTを用いて、Anc80L65に最も近い公的に利用可能な配列はrh10(GenBank受託番号AAO88201.1)である。
【0086】
図9は、Anc80L65はAAV2に相当するベクター収率を生成したこと(パネルA)、透過型顕微鏡検査(TEM)下でウイルス粒子を生成したこと(パネルB)、変性条件下でのSDS pageに基づくAAV capとVP1、2および3タンパク質を生化学的に生成したこと(パネルC)、およびAAVキャプシド抗体、B1を用いたウェスタンブロット(パネルD)を示す。これらの実験は、以下の段落でより詳細に記載される。
【0087】
簡単には、AAV2/8、AAV2/2、AAV2/Anc80L27、AAV2/Anc80L44およびAAV2/Anc80L65ベクターは、eGFPで構成されるレポーター構築物を含有する小規模において生成し、CMVプロモーター下のホタルルシフェラーゼは小規模において生成した。次に、ウイルスのこれらの小規模製剤の力価は、定量PCRを介して得た。これらの実験に基づいて、Anc80L27、Anc80L44およびAnc80L65ベクターは、AAV2に匹敵するウイルスレベルを生成することが見出された(
図9A)。
【0088】
Anc80L65キャプシドタンパク質が、適切な大きさおよび立体構造の完全なウイルス様粒子にアセンブルされていることを確認するために、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて顕微鏡写真を得た。Anc80-L065の大規模の精製された調製物は、フォルムバール被覆した銅グリッドに装填し、次に、酢酸ウラニルで染色した。顕微鏡写真は、20~25nmの直径を有する無傷な六角形の粒子を示した(
図9B)。
【0089】
合成祖先キャプシド遺伝子が正常に処理(すなわち、スプライスおよび発現)されたかどうかを決定するために、AAV2/8、AAV2/2およびAAV2/Anc80L65ベクターの大規模で精製された調製物を変性条件下でSDS-PAGEゲルに装填した(1E10 GC/ウェル)。ウイルスキャプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3を表すバンドは、明らかに、各ベクター調製物に存在した(
図9C)。AAVキャプシド抗体B1を用いたウェスタンブロットにより、さらに、これらのバンドが予測されたタンパク質を表すことを確認した(
図9D)。
【0090】
さらに、
図10は、Anc80L65が、読み出し(パネルA)またはルシフェラーゼ(パネルB)対AAV2および/またはAAV8対照として、GFPを用いて、MOI 10E4 GC/細胞でHEK293細胞においてインビトロで哺乳動物組織および細胞を感染させたことを示す。また、Anc80L65は、核のLacZ導入遺伝子をコードする指示されたAAVのIV注射後(上段の行、パネルC)、GFPをコードする指示されたAAVの直接的な筋肉内(IM)注射後(中段の行、パネルC)、およびGFPをコードする指示されたAAVによる網膜下注射後(下段の行、パネルC)に肝臓の標的に効果的であった。これらの実験は、以下の段落でより詳細に記載される。
【0091】
祖先ビリオンの感染度の相対的尺度を得るために、CMVプロモーターの制御下でeGFP配列とホタルルシフェラーゼ配列を含む二シストロン性の受容体構築物を含有するAAV2/2、AAV2/8、AAV2/Anc80L65、AAV2/Anc80L44、AAV2/Anc80L27、AAV2/Anc80L121、AAV2/Anc80L122、AAV2/Anc80L123、AAV2/Anc80L124およびAAV2/Anc80L125を生成した。次に、HEK293細胞でコンフルエントした96ウェルプレートを、1E4 GC/細胞のMOI(上記したqPCRにより取得された力価)で各ベクターによる形質導入に供した。48時間後、蛍光顕微鏡検査により、形質導入された細胞中のGRPの存在を確認した(
図10A)。次に、細胞をルシフェラーゼの存在についてアッセイし(
図10B)、これは、Anc80由来のベクターで形質導入された細胞におけるルシフェラーゼの発現が、AAV8(低レベルの形質導入)とAAV2(高レベルの形質導入)の間にあることを決定した。
【0092】
インビボという事情において遺伝子移入の相対的効率を評価するために、AAV2/2、AAV2/8およびAAV2/Anc80L65の精製された高力価の調製物を得た。3.9E10 GCの各ベクターは、TBGプロモーターの制御下で核のLacZをコードする導入遺伝子を封入し、一般的な麻酔後にIP注射によりC57BL/6マウス(条件あたり3匹)に注射した。注射から28日後、マウスを屠殺し、組織を回収した。肝臓は、標準的な組織学的技術により切片にし、β-ガラクトシダーゼについて染色した。次に、切片を顕微鏡で画像化し、代表的な画像を
図10Cの上段の行に示す。
【0093】
続いて、pCASIプロモーターの制御下でeGFPおよびhA1ATをコードする二シストロン性の導入遺伝子を含有する同じ血清型のベクターを得た。マウス骨格筋を形質導入するAnc80L65の能力を評価するために、1E10GCの各ベクターは、一般的な麻酔後、C57BL/6マウス(条件あたり5匹のマウス)の骨格筋に注射した。注射から28日後、マウスを屠殺し、組織を凍結切片し、eGFPの存在を蛍光共焦点顕微鏡を用いて評価した(青色はDAPIであり、緑色のeGFPである)。代表的な画像を
図10Cの中段の行に示す。これらの実験は、Anc80L65ベクターが筋肉内注射によりマウスの骨格筋を形質導入することができたことを実証した。
【0094】
今回、CMVプロモーターの制御下でeGFP導入遺伝子のみをコードする構築物をキャプシド形成する、同じ血清型のベクターを取得した。2E9粒子は、一般的な麻酔後、C57BL/6マウスに網膜下注射した。注射から28日後、マウスを屠殺し、眼を回収し、凍結切片し、およびeGFPの存在を蛍光共焦点顕微鏡を用いて評価した(青色はDAPIであり、緑色はeGFPである)。代表的な画像を
図10Cの下段に示す。これらの実験は、Anc80L65ベクターが、AAV8ベクターに匹敵するレベルでマウス網膜に形質導入することができることを実証する。
【0095】
簡単には、CMVプロモーターの制御下でeGFPとホタルルシフェラーゼを含む二シストロン性の導入遺伝子を封入するAAV2/8、AAV2/2、AAV2/rh32.33およびAAV2/Anc80L65ウイルスベクターの精製された高力価調製物を得る。次に、これらのベクターは、IVIGの2倍連続希釈物(10mg、5mg、2.5mgなど)と共にインキュベートし、またはIVIGなし(条件あたり1E9 GC)でインキュベートする。インキュベーション後、ベクターを用いて、ウェルあたり1E4のMOI(ウェルあたり1希釈)でHEK293細胞に形質導入する。48時間後、ルシフェラーゼの相対量を発光アッセイによりアッセイする。
【実施例8】
【0096】
追加の祖先AAVキャプシドの産生
次に、最も可能性の高い祖先AAVキャプシド配列(事後確率により決定される)は、民間の研究所(Gen9)を介して合成し、線形dsDNAとして提供した。続いて、これらのアミノ酸配列は、それらが異なる程度を確認するために、現存のAAVの配列と比較した(
図11)。各々の祖先VP1タンパク質は、3.6%~9.3%で選択された代表的な現存のAAVのものと相違し(
図11A)、一方、祖先VP3タンパク質は4.2~9.4%で相違する(
図11B)。Anc110は、VP1について89%の配列同一性であり、強力なCNS形質導入ベクターであるAAV9に最も近い再構築された祖先ベクターである。これらのキャプシドは、それぞれ、制限酵素消化(HindIII&SpeI)およびT4ライゲーションによりAAV産生プラスミド(pAAベクター2/空)にサブクローニングされた。これらのクローンを制限消化およびサンガー配列決定により確認し、その後、プラスミドDNAの中規模調製物を生成した。
【0097】
次に、これらのプラスミドの各々を、eGFPとホタルルシフェラーゼの両方をコードするレポーター遺伝子を含有するAAVベクターを生成させるために使用した。前述のように、これらのベクターを小規模で三連で生成した。その後、ウイルスの粗調製物を、qPCRを介して力価測定し、AAV8と比較して2.71%~183.1%のウイルス粒子を生成することを見出した(
図12および13)。Anc110の産生および感染数はAAV9について報告されたものと同様である。続いて、これらの力価を用いて、相対感染力を評価するために力価制御実験を設定した。Anc126は、その産生が有意に低下したため、力価制御されなかった。その結果、Anc126の感染力に関するデータは、この実験における他のウイルスの感染力と正確に比較することができない。他のベクターを用いて、1.9E3 GC/細胞の感染の多重度(MOI)でHEK293細胞を形質導入した。
【0098】
形質導入から60時間後、細胞を、蛍光顕微鏡検査によりGFP発現について評価した。eGFP陽性細胞は、陰性対照を除き、各条件下で検出された(
図14)。これは、Anc110を含む、予測され、合成されおよびクローン化された祖先配列の各々が、生存可能な感染性ウイルス粒子を生成することができることを示す。感染力の相対的レベルという概念を得るために、ルシフェラーゼアッセイをまた、同じ細胞について行った。結果は、祖先ベクターの各々が、AAV8と比較して28.3%~850.8%でHEK293細胞に形質導入することが可能であることを示す(
図15および16)。Anc110の形質導入効率は、AAV9について報告されたものと同様であることに留意されたい。力価制御されなかったため、Anc126は相対的な形質導入の分析から除外した。
【0099】
まとめると、8つの新規な祖先AAVキャプシド遺伝子を合成し、AAV8、AAV2、Anc110および前述のAnc80L65ベクターと一緒に機能的ウイルスベクターの生成に用いた。生成および感染力をインビトロで評価し、それらの知見の概要を
図17に示す。Anc110のインビトロ産生および感染力は、AAV9および血液脳関門を通過することができる他のウイルスについて期待される範囲内であった。
【実施例9】
【0100】
ベクター免疫予防
ベクター免疫予防において、遺伝子治療用ビヒクル(AAVなど)は、感染性物質に対する広範に中和する抗体をコードする導入遺伝子を送達するために使用される。例えば、Balazs et al. (2013, Nat. Biotechnol., 31:647-52); Limberis et al.(2013, Sci. Transl. Med., 5:187ra72); Balazs et al.(2012, Nature, 481:81-4); およびDeal et al.(2014, PNAS USA, 111:12528-32)を参照されたい。この治療の1つの利点は、宿主がそれら自体の細胞に抗体を産生することであり、これは、単一の投与が病因物質に対する保護の寿命を付与する可能性を有することを意味する。
【実施例10】
【0101】
ドラッグデリバリービヒクル
LUCENTIS(ラニビズマブ)およびAVASTIN(ベバシズマブ)は共に、血管内皮増殖因子A(VEGF-A)に対して同じヒト化マウスモノクローナル抗体に基づく抗血管形成剤である。ベバシズマブは全長抗体であり、ラニビズマブは断片(Fab)であるが、それらは共に、VEGFを拮抗することによって、同じメカニズムを介して滲出型加齢黄斑変性症を治療するように作用する。例えば、Mao et al.(2011, Hum. Gene Ther., 22:1525-35); Xie et al.(2014, Gynecol. Oncol., doi: 10.1016/j.ygyno.2014.07.105); およびWatanabe et al.(2010, Gene Ther., 17:1042-51)を参照されたい。これらの両分子はタンパク質であるため、それらはDNAにコードされ、導入遺伝子を含有するベクターを用いて形質導入された細胞において産生され、AAVベクターにパッケージングされるのに十分小さい。
【実施例11】
【0102】
AAVキャプシドの祖先配列再構築
祖先キャプシド配列は、Finniganら(2012, Nature, 481:360-4)のような最大尤度法を用いて再構築した。75個のAAVキャプシド(本明細書に提供されるGenBank受託番号)のアラインメントは、PRANK v.121002を使用して、-Fオプション(Loytynoja & Goldman, 2005, PNAS USA, 102: 10557-62;Loytynoja & Goldman, 2008, Science, 320: 1632-5)を用いて生成し、JTT+F+Gモデルは、ProtTest3(Darriba et al., 2011, Bioinform., 27: 1164-5)において実行される赤池(Aikake)情報量規準により、最良適合の系統発生モデルであることが決定された。完全アライメントを
図25に見ることができる。次に、アラインメントおよび最適適合モデルを使用して、PhyML3.0(Guindon et al ., 2010, System. Biol, 59:307-21)による系統発生を推測し、PhyMLにおいて実行される近似尤度比検定(aLRT)(Anismova & Gascuel, 2006, Syst. Biol., 55:539-52)により評価した。分析に含まれる全てのAAVを有する系統発生の詳細なバージョンを
図26に示す。次に、Thorntonグループによって開発されたLazarusパッケージにより、PAML4.6(Yang, 2007, Mol. Biol. Evol., 24: 1586-91)を用いて祖先キャプシド配列を推測した。本明細書に示されるように、Anc110再構築祖先ベクターは、進化的に、AAV9およびRh.8に近く、両者は強力なCNS形質導入ベクターであることが知られている。
【0103】
再構築に内在する不確実性を補うために、コンピュータ計算された事後確率を評価して、あいまいな再構築部位を同定するためのスクリプトを作成した。事後確率が0.3より大きい1を超えるアミノ酸を有する祖先的に再構築されたキャプシドに沿った全ての位置が含まれた。11個のこのような部位を同定し、それぞれ2つの可能性のあるアミノ酸を有する。次に、これらの11個の二形性部位は、現代のウイルス由来のコドンを用いてDNAライブラリーに組み込まれた(rh.10)。再構築はAAPおよびキャプシドの共進化を考慮しなかったため、ライブラリー設計中に非標準的CTG開始コドンをCAGに変えることによってAAPオープンリーディングフレームを除去した。さらに、AAP ORF中の別の下流ATGもまた、コドンをAAGに変えることによって除去した。これらの修飾は、キャップORF中のアミノ酸を変更させなかった。次に、DNAライブラリーをDNA2.0により合成し、続いて制限酵素消化およびライゲーションを介して発現ベクターにサブクローニングした。
【実施例12】
【0104】
ベクターおよび配列
アデノ随伴ウイルスベクターは、現存または祖先のウイルスキャプシドのいずれかを用いて偽型とした。現存のキャプシドには、AAV1(GenBank受託番号AAD27757.1)、AAV2(GenBank受託番号AAC03780.1)、AAV5(GenBank受託番号AAD13756.1)、AAV6.2(GenBank受託番号EU368910)、Rh.10(GenBank受託番号AAO88201.1)、AAV8(GenBank受託番号AAN03857.1)、AAV9(GenBank受託番号AAS99264.1)、およびRh32.33(GenBank受託番号EU368926)が含まれる。祖先AAVキャプシドには、Anc80L65、Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110、Anc113、Anc126、およびAncl27(GenBank保留中の提出物)が含まれる。ベクター導入遺伝子カセットには、CMV.eGFP.T2A.ffLuciferase.SVPA、CMV.ffLucifease.SVPA(インビトロ試験)、TBG.LacZ.RBG(肝臓)、TBG.eGFP.WPRE.bGH(肝臓および筋肉免疫試験)、CASI.hA1AT.FF2A.eGFP.RBG(肝臓、筋肉)およびCMV.eGFP.WPRE(網膜)が挙げられる。
【実施例13】
【0105】
配列-構造分析
AAV8結晶構造(PDB 2QA0)を鋳型として用いて、SWISS-MODEL構造相同性モデリングサーバー(Biasini et al., 2014, Nucl. Acids Res., 42:W252-8)を用いてAnc80L65 VP3の擬似原子モデルを作成した。UCSFキメラパッケージ(Pettersen et al ., 2004, J. Comp. Chem., 25: 1605-12)を用いて、AAV2(PDB 1LP3)、AAV8(PDB 2QA0)およびAnc80 VP3構造をさらに重ね合わせ、残基保存に従って色分けした。次に、Anc80、AAV2およびAAV8 VP3の構造的アライメントを生成し、T-コーヒーアライメントパッケージ(Notredame et al., 2000, J. Mol . Biol., 302:205-17)で生成されたこれらの3つの血清型のVP1/2ドメインの非構造的アラインメントによって完成した。Anc80L65およびAAV8を分離する突然変異の空間分布はまた、AAV8三量体構造の内外表面で視覚化し、この場合、Anc80L65およびAAV8 VP3の構造的アラインメントにおける可変残基を青で表し、多型残基を赤で表した。
【実施例14】
【0106】
AAV祖先系統ベクターのインビトロにおける特徴付け
Anc80Lib内の機能的AAVキャプシドを同定および特徴付けるために、サブクローニングされたDNAライブラリーからの個々のクローンを単離し、6ウェルまたは96ウェルのいずれかにおいて、トランスで提供されるAAP2を含むルシフェラーゼ含有ベクターを産生させるために使用した。トランスフェクションから48時間が経過した後、細胞溶解物を、0.4μmフィルターを通してろ過することにより粗ベクターを単離した。次に、この粗ベクター調製物の等量をHEK293細胞がコンフルエントである96ウェルプレートに添加し、さらに48時間後にルシフェラーゼ活性について評価した。合計776クローンを評価した。CMV由来ルシフェラーゼを含有するベクターの粗調製物を6ウェルフォーマットの三連トランスフェクションによって産生させ、祖先AAVベクターに対してトランスでAAPを補充した。合計で、3種の独立した異なる生物学的複製物がベクターごとに産生された。DNAseI耐性導入遺伝子を上記のように定量した。次に、これらの粗ウイルス調製物は、各々、2.1×102~3.5×102GC/細胞のMOIで添加されたAnc126を除いて、1.9×103GC/細胞のMOIでHEK293細胞を技術的に三連にして形質導入する粗ウイルス調製物の能力について評価された。48時間が経過した後、形質導入された細胞をルミネッセンスアッセイによってルシフェラーゼについて評価した。
【実施例15】
【0107】
AAVベクター調製
AAVシス、AAVトランス、およびアデノウイルスヘルパープラスミドの大規模ポリエチレンイミン(PEI)トランスフェクションを、HEK293細胞のコンフルエントに近い単層を有する10層ハイパーフラスコ(Corning)で行った。プラスミドを2:1:1の比(260μgのアデノウイルスヘルパープラスミド/130μgのシスプラスミド/130μgのトランスプラスミド)でトランスフェクトした。Ancベクターの生産のためのトランスフェクションには、AAVシスプラスミドと同等量のpAAP2を補充した。PEI Max(Polysciences、Warrington、PA)/DNA比は1.375:1(w/w)に維持した。トランスフェクションおよび下流の精製プロセスは、以前に記載されたように行った(Lock et al, 2010, Hum. Gene Ther., 21 : 1259-71)。DNAseI耐性ベクターゲノムコピーを用いて、導入遺伝子カセットのプロモーター、導入遺伝子またはポリアデニル化シグナルコード領域を検出するプライマーおよびプローブを使用して、TaqMan qPCR増幅(Applied Biosystems 7500, Life Technologies)によってAAV調製物を滴定した。大規模調製物の純度をSDS-PAGEゲル電気泳動によって評価した。
【実施例16】
【0108】
構造的および生物物理学的ベクターの特徴付け
Anc80L65粒子形態を、Anc80L65ベクターの精製調製物5μLをformvar被覆された400メッシュの銅グリッド上に装填し、酢酸ウラニルで染色して、透過型電子顕微鏡で評価した。分析用超遠心分離によって空/完全粒子比を決定した。10~30μg/mLのグリセロールを含まないAnc80L65サンプル500μLの含有量は、MIT生物物理施設で入手可能なBeckman Coulter ProteomeLab XL-I分析用超遠心分離機を使用して分析した。実験は、8ホール(50Ti)ローターを用いて20℃、15,000rpmで行った。沈降プロファイルは、屈折率光学測定によって定期的な時点で得られた。ソフトウェアSEDFIT(Schuck et al., 2002, Biophys. J., 82: 1096-111)を用いてLamm方程式を解き、沈降係数分布分析を行って、AAV試料に含まれる異なる種を同定した。UV蛍光分光法および示差走査蛍光(DSF)によってAnc80L065の熱安定性を評価した。各血清型のトリプトファン蛍光(Ausar et al., 2006, J. Biol. Chem., 281 : 19478-88)に対して、4.5μLのアリコート6個を200μLのエッペンドルフチューブで調製し、30℃、45℃、60℃、75℃、90℃または99℃で5分間インキュベートし、スピンダウンし、室温で5分間冷却し、二連にして(それぞれ2μL)Take 3TM Micro Volume Plate(Bio-Tek)上に装填した。Synergy HI Hybrid Plate Reader(Bio-Tek)を用いて、試料を293nmで照射し、発光スペクトルを1nmの解像度で323~400nmで取得した。移動平均フィルター(スパン:15)を用いて、サンプルおよびブランク発光スペクトルをさらに平滑化した。バックグラウンドを差し引いた後、最大発光波長を各血清型および各温度条件について決定した。その後、これらの波長値を温度の関数としてプロットして、異なるAAV血清型の熱安定性プロファイルを導出した。示差走査蛍光(Rayaprolu et al., 2013, J. Virol., 87: 13150-60)について、各AAV25μLは、5×SYPRO(登録商標)Orange(Life Technologies)で補充され、96ウェルPCRプレート(Denville Scientific Inc)に装填され、2000rpmで2分間遠心沈殿させ、Reaplex 2S MasterCycler Real-Time PCR装置(Eppendorf)(励起:450nm;発光:550nm)を用いて、SYPRO(登録商標)Orange色素の蛍光をモニターしながら温度勾配(30~99℃、0.1℃/6s)に曝露させた。各アッセイにおいて、共に5×SYPRO(登録商標)オレンジで補充された25μLのFFB(21-031、Corning)および25μLの0.25mg/mLリゾチーム溶液(Sigma-Aldrich)をそれぞれ陰性対照および陽性対照として用いた。25μLのAAVベクターの蛍光はまた、蛍光バックグラウンド除去のための色素の非存在下でモニターした。蛍光強度は0~100%でさらに標準化し、温度の関数としてプロットした。
【実施例17】
【0109】
マウス実験
Charles River Laboratories(Wilmington、MA)からC57BL/6雄マウス(6~8週齢)を購入し、Schepens Eye Research Institute(SERI)動物施設に保管した。全ての動物手順は、SERIの動物実験委員会(Institute of Animal Care and Use Committees)によって承認されたプロトコールに従って行われた。肝臓標的化遺伝子移入研究について、100μlの単回腹腔内注射または150μl中の単一の後眼眼窩静脈叢静脈注射を受けた。筋肉標的化eGFP実験について、50μlを右後腓腹筋に注射した。GoldenRod動物ランセット(MEDIpoint, Inc.)を顎下顎のマウス出血に使用した。ブラウンキャップチューブ(マイクロチューブ1.1ml Z-Gel、Sarstedt)を血清収集に使用した。ベクターの体内分布研究は、28dpiのベクター投与で屠殺にしたマウスからの肝臓、心臓、腎臓、肺および脾臓を含む組織に対して行われた。肝臓におけるeGFP発現を視覚化するために、組織を4%パラホルムアルデヒド(PFA)中で一晩固定し、リン酸緩衝食塩水PBSで30分間洗浄し、10%、20%および30%スクロース勾配で逐次インキュベートし、OCT化合物(Sakura Finetek USA、Torrance、CA)において凍結した。lacZのマウス肝臓発現をβ-Gal染色キット(Life Technologies)を用いて測定した。4%:パラホルムアルデヒド固定肝組織を10μmで切片化した。組織切片をPBSで洗浄して残留固定液を除去し、市販の染色溶液(400mMフェリシアン化カリウム、400mMフェロシアン化カリウム、200mM塩化マグネシウム、X-gal 95-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド)を用いて0.5~2時間、37℃で染色した。凍結切片を10μmで調製した。筋肉におけるeGFP発現を視覚化するために、組織を10%のトラガカントガム(Sigma-Aldrich カタログ番号G1128)を保持するコルクディスク上に載せ、液体窒素を用いて-150℃に冷却したイソペンタン(Sigma-Aldrich 27、034-2)を用いて瞬時凍結した。筋肉の凍結切片を10μmで調製した。網膜下注射は2μlの容量で行い、2×109GCの動物あたりの絶対用量を用いた。各ベクターは、分析した血清型あたり合計4つの眼に注射した。注射後4週間で動物を安楽死させ、組織学的分析のために眼を回収した。除核した眼を4%パラホルムアルデヒド(PFA)中、氷上で1時間固定し、次にOCTに包埋し、凍結し、その後凍結切片にした。網膜切片をDAPI(1μg/ml)で10分間染色し、共焦点画像化のためにスライドに載せた。
【実施例18】
【0110】
非ヒト霊長類モデル
アカゲザルを用いた実験は、ニューイングランド霊長類研究センター(Harvard Medical School)で行われた。全ての実験手順は、the Office for Research Subject Protection、Harvard Medical Area(HMA) Standing Committee on Animals、ハーバード大学医学大学院の動物実験委員会(the Harvard Medical School institutional Animal Care and Use Committee)委員会によって承認された。動物をデキサメタゾンと組み合わせてケタミンまたはテラゾールで鎮静させた。分泌型rhCGを発現するウイルスベクターを1ml/分の速度で20ml容量で静脈内投与した。注射から回復した後、動物を臨床的に一般的な健康状態についてモニターし、2カ月間追跡した。この間に、定期的な間隔で静脈切開を行い、AAVに対する免疫応答および毒性を評価した。70日後、サルを安楽死させ、肝臓サンプルを採取した。
【実施例19】
【0111】
ヒトα1-アンチトリプシン(hA1AT)の定量化
血清試料中のhA1ATの発現レベルを、ELISAを用いて定量した。プレートを1000ng/ウェルの一次コーティングウサギ抗A1AT抗体(Sigma)でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。プレートを洗浄し、2時間ブロックした。血清サンプルを5倍に希釈し、4℃で一晩インキュベートした。HRPコンジュゲートヤギ抗ヒトA1AT抗体(Abcam)を2時間インキュベートした。ABTSペルオキシダーゼ基質を添加した。1時間以内に分光光度計プレートリーダーを用いてOD405nm値を測定した。
【実施例20】
【0112】
組織生体分布
スナップ凍結組織をプロテイナーゼKで消化し、指示通りにBlood&Cell Culture DNA Miniキット(Qiagen)を用いてゲノムDNA(gDNA)を抽出した。単離したgDNAを、BioTekプレート読み取り分光光度計(Biotek Instruments, Inc. Winooski、VT)を用いて定量した。二倍体細胞におけるウイルスゲノム(vg)分布を、TaqMan(登録商標)PCRマスターミックス試薬(Applied Biosystems(登録商標))を用いたApplied Biosystems(登録商標)7500リアルタイムPCRシステムおよび先に記載した導入遺伝子特異的プライマー/プローブ(Wang et al., 2010, Mol. Ther., 18: 118-25)を用いてQPCRにより検出および定量した。
【実施例21】
【0113】
mRNA発現
Qiagen RNeasyミニキット(Qiagen)を用いて全RNAを単離した。全RNA(1μg)をDNase処理し、Qiagen QuantiTect逆転写キット(Qiagen)を用いてcDNAに逆転写した。リアルタイムmRNA発現は、特定のプライマー/プローブ反応混合物;GAPDH(Rh02621745_gl)、アカゲザル絨毛性ゴナドトロピン(Rh02821983_gl)と共に、TaqMan(登録商標)PCRプライマーミックス試薬を用いたApplied Biosystems(登録商標)7500リアルタイムPCRシステムを用いて検出および定量した。TaqManカスタムプライマー/プローブの示唆された反応条件を適用した。
【実施例22】
【0114】
中和抗体アッセイ
NABは、以下の改変を伴って以前に記載されたように(Calcedo et al, 2009, J. Infect. Dis., 199:38 1 -90)、インビトロで評価した。AAV1、AAV2、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9、rh.10およびrh32.33(Dr.Roberto CalcedoおよびJames M.Wilson,UPennからの親切な贈呈)(Gao et al, 2004, J. Virol, 78:6381-88)で予備免疫化されたウサギの血清を1:40から1:20,971,520まで連続希釈し、CMV.ルシフェラーゼ2.SVPAトランスジェニック構築物を保有する、一致する血清型またはAnc80L65のいずれかの109個のGC粒子と共に37℃で1時間インキュベートした。次に、24時間前にヒトアデノウイルス5(hAd5)のMOI(感染多重度)=20で感染させた、96ウェルプレート上のHEK-293細胞に混合物を添加した。細胞を48時間インキュベートした後、D-ルシフェリン含有緩衝液を添加し、Synergy H1マイクロプレートリーダー(BioTek;Winooski、VT)を用いて発光を測定した。血清を含まずにインキュベートしたAAVに感染した対照細胞に対して、発光を標準化した。発光が対照ウェルと比較して<50%である希釈で中和力価を決定した。
【実施例23】
【0115】
AAVキャプシドタンパク質のインシリコ祖先配列再構築
プロウイルスDNAまたは考古学的サンプル由来の無傷の祖先ウイルス配列を単離することを試みる代わりに、AAVキャップの推定上の祖先アミノ酸配列を推測するために、現代のAAV配列データを系統解析および最大尤度ASRにより統合した。以前のバイオマイニング努力からの合計75個の配列AAV血清型単離物および変異体(Gao et al., 2003, PNAS USA, 100:6081-6; Gao et al., 2004, J. Virol., 78:6381-8; Gao et al., 2005, Current Gene Ther., 5:285-97)からは、AAV5を外れ値として、PHYML(Guindon et al., 2010, System . Biol, 59:307-21)を用いて生成された頑健なAAVキャップ系統発生が得られた。この分析には、(a)霊長類集団において天然に存在し、(b)以前は効率的にアセンブルして感染することが実証されており、および(c)その自然の経歴において組換え事象により生じたことが知られていない全長AAVキャプシドだけが含まれた。これは、伝統的な系統発生解析およびASRは、水平的進化事象を説明していないためである。
図18の樹状図は、Anc80と命名された単一節と並行した、AAV4および5の血清型の早期分化を伴うAAVの進化的経路をモデル化する。知られている現代のAAVのほとんどがこのAnc80から進化した。これらの血清型には、現在、遺伝子治療試験における臨床開発中のAAV1、2、8および9が含まれる。この系統樹の節はAncと命名され、順番に番号が付けられた。AAVに対するASRの本明細書に記載されるアプローチを検証するために、Anc80を、遺伝子治療ベクターとしての可能な使用のために組換えウイルスに発生させるための節として選択した。
【0116】
この節のこの再構築は、この進化中間体からの自然発生したAAV臨床的に関連する子孫の豊富さによって非常に知らされていたため、Anc80が部分的に選択された。さらに、Anc80は、Anc80の種分化に先立って生じた公知のヘルパー依存性霊長類AAVを有するディペンドパルボビリダエ(Dependoparvoviridae)系統発生に組み込まれており(
図18)、祖先再構築粒子がこのファミリー内で共有される基本特性を保持する可能性が高くなる。最大尤度法を使用して、特定の位置の各残基の計算された事後確率に基づいて、Anc80についてタンパク質配列予測を導出した。各位置において適切なアミノ酸を選択する際の不確実性を説明するために、p≧0.3の個々のアミノ酸事後確率を有する位置についての全ての可能な配列置換を生成することが目的であった。このライブラリーAnc80Libの表示は、
図19Aに、AAV2およびAAV8参照キャプシド配列との部分-構造アラインメントで示されている。実際には、これは
図18に示されるような確率的な配列空間をもたらした;736個のAnc80キャプシドのアミノ酸位置のうちの11個を除く全てがASRに固有の残基を占める一方で、11個の位置について2つのアミノ酸オプションが提供され、結果として2
11=2048個の置換を含む配列空間が得られた。
【0117】
既存のAAVおよびそれらのX線結晶学データと共にAnc80Libの構造および配列アラインメントは、現在知られている循環AAVからの顕著な相違を強調する。BLAST検索によって決定された最も近い相同体は、rh.10、霊長類ディペンドパルボビリダエ(Dependoparvoviridae)のクレードE内のアカゲザル単離物であり、これは最小8.0%でAnc80Libと異なり、59個の多様なアミノ酸位置を占める(
図19B)。AAV8およびAAV2は、それぞれ9.5%および12.0%相違し、これらの70~87個の可変部位は、VP1、2の固有のドメインを含むVP1タンパク質全体に広がっている(
図19A、19B)。多様性は、AAV2および8モノマー構造をオーバーレイしたAnc80Libクローンの構造モデリングに基づくだけでなく、配列に関しても超可変領域ドメインI、IV、VIIおよびVIIIにおいて最も高い(
図19A、19C)。
図19DのAAV2およびAAV8の三量体X線結晶構造モデルへの可変Anc80残基のマッピングは、ビリオンの外面上の3倍対称軸の周りの突起のピークおよびフランク上で生じるほとんどの変化を強調する。しかしながら、粒子の内部表面上およびX線では解析されない構造であるCapの領域上にある少数の変異に加えて、かなりの数の可変残基も、3倍軸の外側の表面に露出したドメイン上に認められた。
【実施例24】
【0118】
Anc80合成および基本的特徴
続いて、Anc80Libタンパク質配列を逆翻訳し、プールされたライブラリーフォーマットの遺伝子合成によって作製した。キャプシド遺伝子を、AAV2 RepをpAnc80LibにコードするAAVパッケージングプラスミドにクローニングし、続いてそのライブラリーをクローン的にデコンボリューションした。個々のクローン(pAnc80LXと称し、Xは連続番号である)は、最小限多様なライブラリー集団において潜在的に干渉する競合相互作用を回避するために、単離して評価された。個々のAnc80クローンの一部は、完全性および複雑性要件を確認するためにサンガー配列決定された。クローンAnc80プラスミドは、ΔF6アデノウイルスヘルパープラスミド、AAV2由来のAAP(AAP2)の発現構築物、およびルシフェラーゼをコードするITR隣接発現構築物と共に同時トランスフェクトされた。合計776個のライブラリークローンを産生させ、組み合わせた粒子アセンブリおよび形質移入効率を評価することを目的とした半ハイスループットアッセイにおいて、HEK293細胞上の等容量のプロデューサー細胞溶解物に接種した。Anc80クローンの約50%が、この初歩的スクリーニングアッセイにおいてバックグラウンドよりも検出可能なシグナルをもたらした。最も高いルシフェラーゼシグナルを有するいくつかのリード候補が、DNase耐性ゲノム粒子(GC)の配列決定および滴定、ならびにHEK293細胞上の感染力に進行した。これらの結果に基づいて、評価された第65番目のAnc80LibクローンであるAnc80L65をさらなる特徴付けのために選択した。細胞溶解物からのAnc80L65ベクター収率は、AAV2収率の82~167%であるが、高収率AAV8(3~5%相対的AAV8収率)と比較して低下した。HEK293のインビトロでの感染力はAAV2より劣るが、しかしながら、細胞あたりの粒子に基づきAAV8より優れている。
【0119】
Anc80L65ベクター調製物は、従来のプロトコールに従ったスケールでイオジキサノール勾配上で生成および精製し、種々の生化学的、生物物理学的および構造的分析に供した。Anc80L65の精製された調製物内の粒子を電子顕微鏡(EM)による陰性染色下で視覚化した(
図20A)。Anc80L65ビリオンは、他のAAVカプソマーと異なり、約20~25nmの直径を有する比較的均一な六角形の粒子となっている。変性粒子は、SDS電気泳動下で、AAV2およびAAV8粒子からのVP1-3タンパク質に対応する約1:1:10の比で、60、72および90kDaの3つのバンドに分離した(
図20B)。分析的超遠心分離(AUG)により、AAV8(85.9S)からわずかに増加した88.9SのAnc80L65を含むゲノムまたは完全なAnc80L65の沈降係数を決定することができた(
図20C)。この分析は、ベクターゲノムが欠如していると推定される、空のまたはより低い密度のアセンブルされた粒子の相対存在量ならびに全体的な純度のさらなる決定を可能にした。1つの懸念は、祖先キャプシド配列の不正確なモデリングが、ゲノムをパッケージングする能力が不十分である構造をもたらし得、Anc80L65調製物における空対完全比が偏る結果となることであった。結果は、AAV8による観察と一致して、調製物中の約85%の完全粒子に対して約16%が空粒子であることを示した(
図20C)。さらに、祖先キャプシド組成物の次善のモデル化により粒子の安定性が低下する可能性があると仮定し、粒子を熱安定性アッセイに供すると、その指示された予測に対して、Anc80L65は、その推定されるAAV2およびAAV8よりも15~30℃熱安定性であることが決定された(
図20D)。
【実施例25】
【0120】
マウスモデルにおけるAnc80L65のインビボ遺伝子移入および形質導入
次に、C57B1/6マウスにおける3つの臨床的に関連する標的組織および投与経路(ROA)から、送達され、発現されるAnc80L65パッケージされた導入遺伝子の能力を評価した:(a)全身注射後の肝臓、(b)直接筋肉内注射後の骨格筋、および(c)網膜外側標的化のための網膜下注射。Anc80L65の大規模調製物は、レポーター遺伝子を有するAAV2およびAAV8対照と一緒に産生させ、成体雄性C57B1/6マウスの肝臓、筋肉および網膜指向性遺伝子移入のために等用量で注射した。
図21に示される発現は、3つの標的組織の全てについて定性的に(eGFPおよび/またはLacZ)モニターされ、様々な時点で分泌されたhA1AT(肝臓)の血清ELISA測定によって定量的にモニターした。肝臓への遺伝子移入は、2つの投与経路および導入遺伝子を介して堅牢であることが観察された(
図21A、21B、21C)。AAV8と同様に、肝細胞は、AAV2について許容的に記載される制限(Nakai et al., 2005, J. Virol., 79:214-24; Nakai et al., 2002, J. Virol., 76: 1 1343-9)を超えるLacZおよびGFP染色によって観察されるように効率的に標的化した。定量的に、Anc80は、細胞内レポーターおよび分泌型血清タンパク質導入遺伝子産物によるAAV8への形質導入の同様の効率を実証した。用量範囲決定研究は、10
10GC/マウスを上回る用量での遺伝子移入の線形性を実証したが、hA1ATについてはある閾値より下では線形性が維持されない(およびeGFPによってはあまり明らかではない)(
図21B、21C)。生体分布試験は、対照としてのAAV8と共に、Anc80L65の肝臓、心臓、脾臓、腎臓および肺におけるベクターゲノムの組織分布を評価するために、5×10
11GC/マウスの高用量で注入の7日後および28日後に行った(表3)。結果は、試験した組織におけるAnc80のAAV8への遺伝子移入の同様の範囲を示し、脾臓、心臓および肺におけるAnc80L65について中程度の増加である。直接骨格筋肉内注射により、Anc80は、注入部位の近位および繊維を縦方向に伸長する筋繊維を効率的に標的化した(
図21Aおよび
図24)。網膜下注射後の網膜形質導入は、前述したようにAAV2およびAAV8と同様に、網膜色素上皮(RPE)を標的とするのに有効である。AAV2について記載されているように、より難しい細胞標的である光受容体標的化は、AAV8およびAnc80L65を用いて観察された。AAV8とAnc80L65の両方が光受容体細胞の大部分を標的としたが、Anc80L65による形質導入は一貫して細胞あたりより高い発現レベルをもたらす。内網膜の限られた数の細胞はまた、Anc80L65形質導入によってGFP陽性であることが観察された(
図21A)。
【0121】
【実施例26】
【0122】
非ヒト霊長類肝臓におけるAnc80L65遺伝子移入および発現
マウスにおけるAnc80L65の強力な肝向性を考慮すると、大型動物モデルにおけるAnc80L65の遺伝子移入を評価することが目的であった。AAVと無関係の先行研究に登録された6匹の雌アカゲザルに、伏在静脈からAAV8またはAnc80L65のいずれかを臨床的に関連する用量10
12GC/kgで注射した(表4)。rhCGレポーターを使用して、絨毛性ゴナドトロピンのβサブユニットのアカゲザルcDNAを発現させた。この絨毛性ゴナドトロピンは、非自己導入遺伝子免疫応答を回避するために動物を寛容化する導入遺伝子産物である。この実験に登録された動物は、AAV8およびAnc80L65へのNABについて予めスクリーニングされた。注射の数週間前のNAB血清レベルは、この研究に登録するのに1/4力価以下であった。遺伝子移入は、注射後の70~71日間に全肝臓DNA(尾状葉)のvgについてTaqman qPCRによって評価された(
図21D)。驚くべきことに、対照AAV8を注射した3匹の動物のうち2匹は、おそらく以前の研究で報告された標準的なNABアッセイによっては検出されなかった注射時の低レベルNABのために、圧倒的な遺伝子移入(<0.1vg/dg)を示した。おそらくAAV8に対するNABがないかまたは最小のNABを有する1匹のAAV8動物は、期待される0.81vg/dgの範囲内の肝臓に対する遺伝子移入レベルを実証した。Anc80L65遺伝子移入は、明らかにNABによって阻害されず(Anc80L65 NABは注射前に検出しなかった)、3匹の動物は0.73~3.56vg/dgの範囲の肝臓導入遺伝子のコピー数を生じた。肝臓発現を定量的RT-PCRによってモニターした(
図21E)。Anc80L65は、AAV8よりも優れた発現をもたらし、全ての肝臓葉において全GAPDH mRNA量の13~26%のrhCG転写産物レベルを達成した。
【0123】
【実施例27】
【0124】
Anc80L65の安全性、免疫学および毒性
治療的適用のための効率的な遺伝子送達ベクターシステムを使用することの検討は、臨床使用に関してその安全性の広範な評価を必要とする。さらに、ディペンドパルボウイルスの祖先状態に近似し得る新規な薬剤の使用は、それらの懸念をさらに高め得る。ここでは、非公式な臨床前の状況において、Anc80L65を安全性の観点から制限する可能性があるいくつかの重要な側面を検討した。動物の発現研究(
図21)は、研究の生存段階の間、および標的組織特異的毒性について可能な限り、毒性の明白な徴候についてモニターした。ベクター注入と関連した顕著な逆行は見られなかった。簡単には、腹腔内(最大用量試験[mdt]:3.9×10
10GC/マウス)、眼窩後静脈注射(mdt:5×10
11GC/マウス)、網膜下(mdt:2×10
9GC/眼)、硝子体内(mdt:2×10
9GC/眼)、および直接筋肉内(10
10GC/マウス)によるベクター投与は明白な毒性を示さなかった。より直接的な評価は、以下の対照と一緒に、5×10
11GC/マウス(約2×10
13GC/kg)のAnc80L65.TBG.eGFPの高用量静脈内注射で行われた:(a)同じ導入遺伝子カセットを有するAAV8、および(b)等容量の生理食塩水注射。注射前、注射の2時間後、1日後、3日後、7日後、14日後および28日後にマウスを静脈切開し、血液を細胞血液計数(CBC)および血清化学(Chem)について分析した(表5および6)。これはAnc80L65の対照範囲内または同等であり、したがって重大な懸念は生じなかった。2時間、24時間、3日および7日の時点からの血清は、多重23サイトカイン分析によってベクター抗原に対する自然免疫応答の尺度としてサイトカインについてさらに評価した(表7)。Anc80L65のサイトカインは、生理食塩水およびAAV8対照血清に対するものと全体的に一致しており、主要なサイトカインの上昇または低下は観察されなかったが、しかしながら、いくつかの場合において、AAV8よりもAnc80L65についてより明らかな形で生理食塩水対照値によって設定された範囲のやや外にあった。
図21Dおよび21Eに記載されたアカゲザルの研究からの血液について同様の分析を行った。マウス研究と同様に、得られたCBCおよびChem値から、AAV8またはAnc80L65試験品に関する毒性の徴候は同定されなかった(表8および9)。
【0125】
AAV血清型に対する既存の免疫は遺伝子移入を遮断することが知られており、一次感染に関与する天然に存在する野生型ウイルスと共有されるベクター抗原に対する記憶T細胞のリコールにより有害な状況が生じるリスクに患者を曝す可能性がある。AAV血清型1、2、5、6.2、8、9およびrh.32.33に対して産生された高力価ウサギ抗血清を使用したが、rh.10はまた含まれ、これは、その配列がAnc80L65と最も相同であり、8.0%の残基が異なるためである。
図22Aにおいて、血清は、Anc80L65に対して生じた同種のベクターキャプシドに対するAnc80L65を中和する血清の能力について血清を試験した。結果は、AAV5およびrh.32.33、構造的に高い多様性のAAVに対する交差反応性を示さなかったが、一方、AAV2、6.2および8は、Anc80L65の子孫であると推定され、相同性の抗血清力価よりも16倍またはそれより低いレベルであるにもかかわらず、低レベルの交差反応性を実証した。Anc80系統のメンバーの中で、AAV9およびrh.10の感度の限界を超える交差反応は観察されなかった。次に、筋肉内経路を介してAAV8の動物を前免疫し、免疫化の25日後にAAV8と比較して静脈注射後のAnc80L65の中和を評価することにより、中和に関してインビボモデルにおいてこれらの結果を検証することが目的であった(
図22B)。中和は、AAV8前免疫動物におけるAAV8について完了した。Anc80L65は、5匹のうち2匹の動物において中和されたが、5匹のうち3匹の動物においては、これらの動物におけるAAV8 NABの実証にもかかわらず、形質導入の60~117%を示した。これらの結果は、ウサギおよびマウスにおけるAAV8とのAnc80L65の部分的交差反応性を実証する。
【実施例28】
【0126】
AAVの系統分析および再構築
ASRに基づくAnc80L65の合成が成功し、遺伝子療法のための生産性が高く、安定した感染力剤としてのその証拠によって強化されたが、AAVの系統をさらに再構築することによって、アプローチおよびモデリング方法論のさらなる検証を提供することが目的であった。この追加セットの試薬を生成することの野望は、このウイルスファミリー内の構造-機能関係の実験的評価を可能にし、将来のAAVの合理的設計アプローチに有益な重要なエピスタシスカップリングを強調する、Anc80および現存のAAVの構造中間体を提供することであった。AAVの合計8つの追加の進化中間体をASRによって再構成し、実験室で合成した(
図18):Anc81、Anc82、Anc83、Anc84、Anc110およびAnc113は、AAV7、8および/または9に向かう分岐において分離され、一方、Anc126およびAnc127は、AAV1、2および/または3の自然の経歴中に位置付けられる。これらの各々について、位置あたりの事後確率が最も高いアミノ酸を選択することによって配列を決定した。最初に、GCウイルスベクター収率は、ベクター成分についてのHEK293標準三重トランスフェクション、およびベクターゲノムについてのTaqman qPCRを用いたアデノウイルスヘルプにおいて決定した。
図23Aに示される結果は、AAV8などの血清型のより高い産生収率に一致して、AAV7-9系統における推定上の祖先としてのAnc-80からの生産性の増加を実証する。AAV1-3分枝は、収率の増加を示さず、Anc126については非常に乏しい粒子収率が観察された。Anc80と同様に、統計的空間を活用することでAnc126収率を改善し得ることが可能であるが、しかしながら、AAV系統発生のこの分岐のアンダーサンプリングのためにAnc126 ASRについては情報が少ない可能性も同等にある。等しい粒子用量での産生粒子の感染力は、GFPおよびルシフェラーゼによるHEK293においてインビトロでさらに試験した。しかしながら、新しく合成された全てのAncベクターは、様々な程度で感染力を示した(
図23B)。AAV7-9系統において、感染力価は全体的に低下し、Anc80のものよりもAAV8表現型により類似していた。等量で試験することができるAnc80からAAV2系統の唯一の中間体であるAnc127は、Anc80とAAV2の両方と比較して形質導入効率が低下していることを実証した。この系列の両方の分岐において選択された進化中間体の熱安定性プロファイルをさらに試験した(
図23C)。興味深いことに、Anc81およびAnc82は、Anc80L65と比較して熱安定性アッセイでは高いが、中程度に低下した融解温度を示し、これは、おそらくこの分岐における進化年齢と共に熱安定性が徐々に減少することを示唆している。対照的に、Anc127は、既に非常に熱安定性の高いAnc80L65ベクターからのさらなる増加を実証した。
【0127】
最後に、既知のエピトープをAAV2に破壊するASRの能力が探究した。ほんの僅かなB細胞またはT細胞エピトープだけがこれまでにAAV2上にマッピングされ、その全ては、AAV2系統に相当するAnc80L65、Anc126、Anc127およびAAV2上にマッピングされた。これらの推定上の進化中間体間の順次変異の導入は、
図22Cにおいて、突然変異と2/4ヒトT細胞エピトープと2/2マウスB細胞エピトープの間の重複を強調する。これらのデータは、ASRがAAVキャプシド上の抗原性領域を排除または調節する方法として使用される可能性を強調し、免疫がAAVの自然の経歴における主要な選択的圧力であったことを示唆し得る。
【実施例29】
【0128】
Anc110のインビボ機能性
C57B1/6マウスのAAV9と比較して、Anc80、Anc81、Anc82およびAnc110によるルシフェラーゼの肝臓形質導入を評価するための実験を行った。
図27の結果は、指示されたベクターの静脈注射後、Anc110が、ルシフェラーゼレポーター遺伝子の導入遺伝子発現に基づいて、C57B1/6マウスにおけるAAV9と同等レベルの肝臓標的化を示したことを実証する。特に、AAV9は、現在臨床研究中である。
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
他の態様
対象の方法および組成物は、多数の異なる態様と併せて本明細書に記載されるが、様々な態様の前述の記載は、説明することを意図しており、対象の方法および組成物の範囲を限定しないことを理解するべきである。他の態様、利点および修飾は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
【0135】
開示された方法および組成物に使用できるか、それと組み合わせて使用できるか、その調製に使用できるか、またはその生成物である方法および組成物が開示される。これらの物質および他の物質は、本明細書に開示され、これらの方法および組成物の組合せ、サブセット、相互作用、群などが開示されていると理解される。すなわち、様々な個々のおよび集合的な組合せならびにこれらの組成物の並べ替えについての具体的な言及は明示的に記載されていない場合もあるが、それぞれは本明細書において具体的に意図され、記載される。例えば、対象の特定の組成物または特定の方法が開示され、検討され、多数の組成物または方法が検討される場合、組成物および方法のそれぞれおよび全ての組合せおよび並び替えは、具体的な記載に反しない限り、具体的に意図される。同様に、これらのあらゆるサブセットまたは組合せもまた、特に意図され、開示される。
【配列表】