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▶ サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】注射デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/32 20060101AFI20221028BHJP
   A61M 5/20 20060101ALI20221028BHJP
   A61M 5/315 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
A61M5/32 502
A61M5/20 510
A61M5/315 510
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018527159
(86)(22)【出願日】2016-11-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2016078244
(87)【国際公開番号】W WO2017089256
(87)【国際公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-11-15
(31)【優先権主張番号】15196670.2
(32)【優先日】2015-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】397056695
【氏名又は名称】サノフィ-アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ヴェントラント
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ハルムス
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/131858(WO,A1)
【文献】特表2015-504713(JP,A)
【文献】特開2005-74224(JP,A)
【文献】特表2006-507103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/32
A61M 5/20
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動注射デバイス(100)であって:
デバイスのハウジング内に摺動可能に取り付けられた引き込み可能部材(111)、および該引き込み可能部材をハウジングから押し出してキャップ(12)をデバイスから取り外すキャップ取り外しアクチュエータ(112)を含むキャップ取り外し機構(110)と;
薬剤(16)をデバイスから排出するための駆動要素(121)を含む投薬機構(120)と;
1回目に押したときにキャップ取り外し機構を起動し、放したときに投薬機構に係合し、2回目に押したときに投薬機構を起動するように構成された投薬ボタン(140)とを含み;
ここで、投薬機構は、投薬ボタンを1回目に押して放したときに投薬ボタンに係合するように構成された係合要素(122)を含む前記自動注射デバイス。
【請求項2】
キャップ取り外しアクチュエータはキャップ取り外しばね(112)を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
投薬機構は、ロックされているときに投薬機構の起動を防ぐように構成されたロッキング手段を含み、
引き込み可能部材は、該引き込み可能部材がデバイスのハウジング内に押されたときにロッキング手段をロック解除するように構成される、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
引き込み可能部材は引き込み可能スリーブの形である、請求項1~3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項5】
投薬ボタンは第1の部材と第2の部材とを含み、第1の部材は、1回目に押したときに第2の部材に連結し、放したときに第2の部材と共に引き込まれるように構成される、請求項1~4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
投薬ボタンの第2の部材は、投薬ボタンの第1の部材とは異なる色である、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
投薬ボタンの第2の部材は、第1の部材により引き込まれたときに、投薬機構の係合要素に係合するように配置され、投薬ボタンを2回目に押したときに投薬機構を起動するように構成される、請求項5または6に記載のデバイス。
【請求項8】
係合要素は、投薬ボタンの第2の部材により係合解除位置に拘束され、投薬ボタンを放したときに係合位置に入るように構成され;
係合要素は係合位置で第2の部材に係合するように配置される、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
投薬ボタンは、キャップ取り外し機構により係合解除位置に保持され、キャップ取り外し機構が起動されると係合位置に入るように構成されたばね要素(244)を含み;
ばね要素は、係合位置で投薬機構に係合するように配置される、請求項1~5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項10】
投薬ボタンを1回目に押して放したときに露出されるアクティブ状態マーキング(351)をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項11】
投薬ボタンを1回目に押して放したときにアクティブ状態マーキングと位置合わせされる観察窓(350)をさらに含む、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
初期状態マーキング(351)と最終状態マーキング(351)とをさらに含み;ここで、投薬ボタンを押す前に観察窓が初期状態マーキングと位置合わせされ、投薬ボタンを2回目に押したときに最終状態マーキングと位置合わせされる、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
薬剤リザーバ(18)内に保持され、投薬機構により薬剤リザーバから排出されるように配置された薬剤(16)をさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のデバイスの作動方法であって:
注射デバイスが、1回目に受けた入力に応じてキャップ取り外し機構を起動する工程と;
注射デバイスが、1回目の入力の後、2回目に受けた入力に応じて投薬機構を起動する工程とを含む前記作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の注射部位に薬剤を投薬するための自動注射器などの注射デバイスが、当技術分野で知られている。そのような注射デバイスは、通常、本体とキャップとを含む。ニードルシリンジが本体内に位置する。キャップは本体に着脱可能に取り付けられて、ニードルシリンジの針を覆う。薬剤を投薬するために、最初にキャップを本体から取り外して針を露出させる。その後、針を注射部位で患者の体内に挿入して薬剤を投薬する。
【0003】
キャップを本体上に十分な力で保持して、注射デバイスの輸送および収納中にキャップが本体から誤って外れることが確実にないようにすることが重要となり得る。これによって、針を確実に滅菌状態に維持し、また鋭利な針により生じる損傷を防ぐ。しかしながら、キャップと本体とを共に保持するのに力が必要なため、特に患者が高齢または虚弱である場合には、患者が注射前にキャップを本体から意図的に取り外すことが困難になり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
実施形態によれば、自動注射デバイスであって、デバイスのハウジング内に摺動可能に取り付けられた引き込み可能部材、および引き込み可能部材をハウジングから押し出してキャップをデバイスから取り外すキャップ取り外しアクチュエータを含むキャップ取り外し機構と;薬剤をデバイスから排出するための駆動要素を含む投薬機構と;1回目に押したときにキャップ取り外し機構を起動し、放したときに投薬機構に係合し、2回目に押したときに投薬機構を起動するように構成された投薬ボタンとを含み;ここで、投薬機構は、投薬ボタンを1回目に押して放したときに投薬ボタンに係合するように構成された係合要素を含む自動注射デバイスが提供される。
【0005】
キャップ取り外しアクチュエータは、キャップ取り外しばねを含むことができる。
【0006】
投薬機構は、ロックされているときに投薬機構の起動を防ぐように構成されたロッキング手段を含むことができる。
【0007】
引き込み可能部材は、引き込み可能部材がデバイスのハウジング内に押されたときにロッキング手段をロック解除することができる。
【0008】
引き込み可能部材は引き込み可能スリーブの形である。
【0009】
投薬ボタンは、第1の部材と第2の部材とを含むことができる。
【0010】
第1の部材は、1回目に押したときに第2の部材に連結することができ、放したときに第2の部材と共に引き込むことができる。
【0011】
投薬ボタンの第2の部材は、投薬ボタンの第1の部材とは異なる色であってよい。
【0012】
投薬ボタンの第2の部材は、第1の部材により引き込まれたときに、投薬機構の係合要素に係合するように配置され、投薬ボタンを2回目に押したときに投薬機構を起動することができる。
【0013】
係合要素は、投薬ボタンの第2の部材により係合解除位置に拘束され、投薬ボタンを放したときに係合位置に入ることができる。
【0014】
係合要素を、係合位置で第2の部材に係合するように配置してもよい。
【0015】
投薬ボタンは、キャップ取り外し機構により係合解除位置に保持され、キャップ取り外し機構が起動されると係合位置に入るばね要素を含むことができる。
【0016】
ばね要素を、係合位置で投薬機構に係合するように配置してもよい。
【0017】
デバイスは、投薬ボタンを1回目に押して放したときに露出されるアクティブ状態マーキングを含むことができる。
【0018】
デバイスは、投薬ボタンを1回目に押して放したときにアクティブ状態マーキングと位置合わせされる観察窓を含むことができる。
【0019】
デバイスは、初期状態マーキングと最終状態マーキングとを含むことができる。
【0020】
投薬ボタンを押す前に観察窓を初期状態マーキングと位置合わせし、投薬ボタンを2回目に押したときに最終状態マーキングと位置合わせすることができる。
【0021】
デバイスは、薬剤リザーバ内に保持され、投薬機構により薬剤リザーバから排出されるように配置された薬剤を含むことができる。
【0022】
別の態様によれば、注射デバイスを操作する方法であって、受けた入力に応じてキャップ取り外し機構を起動する工程と;入力を2回目に受けた場合に入力に応じて投薬機構を起動する工程とを含む方法が提供される。
【0023】
本明細書で区別せずに使用する用語「薬物」または「薬剤」は、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味する。
【0024】
用語「薬物送達デバイス」は、薬物をヒトまたは動物の身体(本開示により動物への適用が明らかに考えられる)に直接投薬するように設計されたあらゆるタイプのデバイス、システム、または装置を包含するものと理解されよう。「直接投薬する」とは、薬物送達デバイスからの薬物の排出とヒトまたは動物の身体への投与との間に、ユーザによる薬物の中間操作が必要ないことを意味する。薬物投薬デバイスの一般的な例が、注射デバイス、吸入器、および胃管栄養補給システムに見られるが、これらに限定されない。また、例示的な注射デバイスは、例えば、シリンジ、自動注射器、注射ペンデバイス、および脊髄注射システムを含み得るが、これらに限定されない。
【0025】
本発明のこれらおよびその他の態様が、以下で説明する実施形態から明らかになり、これらの態様を実施形態に言及して明瞭にするであろう。
【0026】
添付図面を参照しながら、例示的な実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A】キャップが注射デバイスの本体に取り付けられた、例示的な実施形態による注射デバイスの概略側面図である。
図1B】キャップが本体から取り外された、図1Aの注射デバイスの概略側面図である。
図2】例示的な実施形態による、図1Aおよび図1Bの注射デバイスの概略側断面図である。
図3図2の注射デバイスの概略側断面図である。
図4図2の注射デバイスの概略側断面図である。
図5図2の注射デバイスの概略側断面図である。
図6】例示的な実施形態による、図1Aおよび図1Bの注射デバイスの概略側断面図である。
図7図6の注射デバイスの概略側断面図である。
図8】例示的な実施形態による、図1Aおよび図1Bの注射デバイスの概略側断面図である。
図9図8の注射デバイスの概略側断面図である。
図10図8の注射デバイスの概略側断面図である。
図11図8の注射デバイスの概略側断面図である。
図12図8の注射デバイスの概略側断面図である。
図13図8の注射デバイスの概略外側面図である。
図14a図8の注射デバイスの概略外側面図である。
図14b図8の注射デバイスの概略外側面図である。
図14c図8の注射デバイスの概略外側面図である。
図14d図8の注射デバイスの概略外側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1つまたはそれ以上の実施形態が、自動注射デバイス、およびキャップをデバイスから取り外すようにも構成された、自動注射デバイスを起動するための機構を提供する。
【0029】
投薬ボタンがデバイスに設けられ、この投薬ボタンは、1回目に押したときにキャップ取り外し機構を起動し、2回目に押したときに投薬機構を起動するように構成される。これにより、ユーザによる力を用いることなく自動注射器のキャップが取り外されるため、このように提供される自動注射器を安全に使用でき、また単一のボタンを用いてデバイスを準備し起動することができるため、自動注射器を簡単に使用できる。他の態様はまた、デバイス状態の視覚標示を提供し、これにより有用性を向上させる。
【0030】
本明細書に記載の薬物送達デバイスは、薬剤を患者に注射するように構成される。例えば、送達は、皮下、筋肉内、または静脈内であり得る。そのようなデバイスは、患者または看護師もしくは医師などの介護者が操作することができ、様々なタイプの安全シリンジ、ペン注射器、または自動注射器を含むことができる。デバイスは、封止されたアンプルを使用前に穿孔する必要のあるカートリッジベースのシステムを含んでもよい。これらの様々なデバイスにより送達される薬剤の量は、約0.5ml~約2mlであり得る。さらに別のデバイスは、患者の皮膚にある時間(例えば、約5分、15分、30分、60分、または120分)付着して「大量の」薬剤(通常、約2ml~約10ml)を送達するように構成された大容量デバイス(「LVD」)またはパッチポンプを含むことができる。
【0031】
特定の薬剤と組み合わせて、本明細書に記載のデバイスを、必要な仕様の範囲内で動作するようにカスタマイズしてもよい。例えば、デバイスを、ある時間(例えば、自動注射器の場合に約3~約20秒、LVDの場合に約10分~約60分)以内に薬剤を注射するようにカスタマイズしてもよい。他の仕様としては、低レベルまたは最低レベルの不快感、または人的要因、貯蔵寿命、有効期限、生体適合性、環境への配慮などに関連するある条件などが挙げられる。そのような変化は、例えば、薬物の粘性が約3cP~約50cPであるなどの様々な要因によって生じ得る。したがって、薬物送達デバイスは、多くの場合、サイズが約25~約31ゲージの中空針を含む。一般的なサイズは27および29ゲージである。
【0032】
本明細書に記載の送達デバイスは、1つまたはそれ以上の自動化機能も含む。例えば、針の挿入、薬剤の注射、および針の引き込みのうちの1つまたはそれ以上を自動化することができる。1つまたはそれ以上の自動化工程のためのエネルギーを、1つまたはそれ以上のエネルギー源により提供することができる。エネルギー源としては、例えば、機械、空気圧、化学、または電気エネルギーが挙げられる。例えば、機械エネルギー源としては、エネルギーを蓄えるもしくは放出するばね、レバー、エラストマー、または他の機械的機構が挙げられる。1つまたはそれ以上のエネルギー源を単一のデバイスと組み合わせてもよい。デバイスは、エネルギーをデバイスの1つまたはそれ以上の部材の動きに変換する歯車、弁、または他の機構をさらに含んでもよい。
【0033】
自動注射器の1つまたはそれ以上の自動化機能を各々、起動機構により起動することができる。そのような起動機構は、ボタン、レバー、ニードルスリーブ、または他の起動部材のうちの1つまたはそれ以上を含むことができる。自動化機能の起動は、一工程または多工程プロセスであってよい。すなわち、ユーザは、1つまたはそれ以上の起動部材を起動して自動化機能を生じさせる必要があり得る。例えば、一工程プロセスでは、ユーザはニードルスリーブを身体に当てて押し下げることにより、薬剤を注射することができる。他のデバイスは、自動化機能の多工程起動を必要とすることがある。例えば、ユーザは、ボタンを押し下げ、ニードルシールドを引き込んで、注射を行う必要があり得る。
【0034】
加えて、1つの自動化機能の起動により、1つまたはそれ以上の次の自動化機能を起動して、起動シーケンスを形成することができる。例えば、第1の自動化機能の起動により、針の挿入、薬剤の注射、および針の引き込みのうちの少なくとも2つを起動することができる。また、一部のデバイスは、1つまたはそれ以上の自動化機能を生じさせる工程の特定のシーケンスを必要とすることがある。他のデバイスは、独立工程のシーケンスにより動作することがある。
【0035】
一部の送達デバイスは、安全シリンジ、ペン注射器、または自動注射器のうちの1つまたはそれ以上の機能を含むことができる。例えば、送達デバイスは、薬剤を自動で注射するように構成された機械エネルギー源(通常、自動注射器で見られる)と、用量設定機構(通常、ペン注射器で見られる)とを含むことができる。
【0036】
本開示の一部の実施形態によれば、例示的な薬物送達デバイス10が図1Aおよび図1Bに示される。前述したように、デバイス10は、薬剤を患者の体内に注射するように構成される。デバイス10はハウジング11を含み、このハウジング11は、通常、注射する薬剤を含むリザーバ(例えば、シリンジ)と、送達プロセスの1つまたはそれ以上の工程を容易にするために必要な部材とを含む。デバイス10はまた、ハウジング11に取り外し可能に取り付けられたキャップアセンブリ12を含むことができる。通常、ユーザは、デバイス10を操作する前にキャップ12をハウジング11から取り外さなければならない。
【0037】
図示したように、ハウジング11は略円筒形で、長手方向軸Xに沿って略一定の直径を有する。ハウジング11は遠位領域20と近位領域21とを有する。用語「遠位」は注射部位に比較的近い位置を指し、用語「近位」は注射部位から比較的遠い位置を指す。
【0038】
デバイス10はまた、ハウジング11に連結されたニードルスリーブ13を含み、ハウジング11に対するスリーブ13の動きを可能にすることができる。例えば、スリーブ13は、長手方向軸Xに平行な長手方向に動くことができる。詳細には、スリーブ13の近位方向への動きにより、針17がハウジング11の遠位領域20から延びることができる。
【0039】
針17の挿入はいくつかの機構によって行うことができる。例えば、針17をハウジング11に対して固定して位置させ、伸長したニードルスリーブ13内に最初に位置させることができる。スリーブ13の遠位端を患者の身体に当て、ハウジング11を遠位方向に動かすことによるスリーブ13の近位運動によって、針17の遠位端が露出する。そのような相対運動により、針17の遠位端が患者の体内へ延びることができる。そのような挿入は、患者がハウジング11をスリーブ13に対して手動で動かすことにより針17が手動で挿入されるため、「手動」挿入と呼ばれる。
【0040】
別の挿入形態は「自動化されたもの」であり、これにより、針17がハウジング11に対して動く。そのような挿入を、スリーブ13の動きにより、または例えばボタン22などの別の起動形態によりトリガすることができる。図1Aおよび図1Bに示すように、ボタン22はハウジング11の近位端に位置する。しかしながら、他の実施形態では、ボタン22がハウジング11の側面に位置していてもよい。
【0041】
他の手動または自動化機能としては、薬物の注射または針の引き込みまたはこれらの両方が挙げられる。注射は、栓またはピストン23をシリンジ(図示せず)内の近位位置からシリンジ内のさらに遠位位置へ動かして、薬剤をシリンジから針17に通すプロセスである。一部の実施形態において、駆動ばね(図示せず)は、デバイス10の起動前は圧縮されている。駆動ばねの近位端をハウジング11の近位領域21内に固定することができ、駆動ばねの遠位端を、ピストン23の近位面に圧縮力を加えるように構成することができる。起動後、駆動ばねに蓄えられたエネルギーの少なくとも一部をピストン23の近位面に加えることができる。この圧縮力は、ピストン23に作用してピストン23を遠位方向に動かすことができる。そのような遠位運動は、シリンジ内の液体薬剤を圧縮して針17から押し出すように作用する。
【0042】
注射後、針17をスリーブ13またはハウジング11内に引き込むことができる。ユーザがデバイス10を患者の身体から取り外したときにスリーブ13が遠位に動くと、引き込みが生じ得る。これは、針17がハウジング11に対して固定して位置したままであるために生じ得る。スリーブ13の遠位端が針17の遠位端を通り過ぎ、針17が覆われると、スリーブ13をロックすることができる。そのようなロッキングは、ハウジング11に対するスリーブ13の近位運動のロッキングを含み得る。
【0043】
別の形態の針の引き込みは、針17がハウジング11に対して動く場合に生じ得る。そのような動きは、ハウジング11内のシリンジがハウジング11に対して近位方向に動く場合に生じ得る。この近位運動は、遠位領域20に位置する引き込みばね(図示せず)を使用することによって達成される。圧縮された引き込みばねは、起動されると、十分な力をシリンジに供給してシリンジを近位方向に動かすことができる。十分な引き込み後、針17とハウジング11との相対運動を、ロッキング機構によりロックすることができる。加えて、ボタン22またはデバイス10の他の部材を必要に応じてロックすることができる。
【0044】
図2を参照すると、第1の実施形態による注射デバイス100が示される。注射デバイス100は、ハウジング11、液体薬剤16を含むシリンジ18、キャップ12、キャップ取り外し機構110、投薬機構120、および投薬ボタン140を含む。
【0045】
シリンジ18は、薬剤リザーバを形成する開放近位端を有する管状容器である。ゴムストッパ14をシリンジ18の開放端内で受けて、容器を封止し、液体薬剤16を内部に保持する。針17は、シリンジ18の遠位端からハウジング11の遠位端の開口部を通って延びる。針17は、ゴムから形成されたニードルシールド19により覆われる。
【0046】
投薬機構120は、シリンジ18に機械的に連結され、液体薬剤16をシリンジ18から針17を通して投薬するように構成される。コイル圧縮ばねである駆動要素121が、シリンジ18の近位端に隣接して配置され、ゴムストッパ14に機械的に連結される。投薬機構120が起動されると、コイル圧縮ばねは圧縮応力を受けて伸張し、薬剤リザーバを通してゴムストッパ14を駆動する。投薬機構120は係合手段122をさらに含み、この係合手段122は投薬ボタン140に係合して、投薬ボタン140を押したときに投薬機構120を起動する。
【0047】
キャップ12は、ハウジング11の遠位端を囲んで針17を隠すように設けられる。キャップ12は円筒壁と端壁とを含む。キャップ12の内径は、ニードルシールド19にぴったりと適合するように配置される。円筒壁の外面は段付き外形を有し、キャップ12の近位端は遠位端よりも小さい直径を有する。キャップ12が注射デバイス100上にある状態で、円筒壁の外面はハウジング11の遠位端で開口部内に適合し、開口部内の内面に当接して、キャップ12がそこで保持されるようになっている。
【0048】
液体薬剤16を注射するためには、キャップ12とニードルシールド19とを注射デバイス100から取り外して針17を露出させなければならない。キャップ取り外し機構110は、引き込み可能スリーブ111と、引き込み可能スリーブ111を展開するためのスリーブばね112とを含む。引き込み可能スリーブ111は、ハウジング11の遠位端で開口部内に配置され、ハウジング11に摺動可能に連結されて、ハウジング11の遠位端に対して出入りする。引き込み可能スリーブ111の近位端は、ハウジング11の近位端側へ延びる。スリーブばね112は、引き込み可能スリーブ111内に取り付けられ、スリーブばね112の遠位端における引き込み可能スリーブ111の反応面とスリーブばね112の近位端におけるハウジング11の反応面との間に連結される。スリーブばね112は、軸方向力を及ぼして引き込み可能スリーブ111をハウジング11の遠位端から押し出すように配置される。
【0049】
キャップ12は、円筒壁の近位端が引き込み可能スリーブ111の内面に当接した状態で、引き込み可能スリーブ111内に緩く適合するように配置される。引き込み可能スリーブ111の遠位端は、キャップ12の円筒壁の段付き外形に当接する。キャップ取り外し機構110が起動されると、引き込み可能スリーブ111はスリーブばね112により軸方向に遠位方向へ駆動され、軸方向力をキャップ12に及ぼしてキャップ12をハウジング11から取り外す。ニードルシールド19は、キャップ取り外し機構110によりキャップ12と共に取り外される。
【0050】
キャップ取り外し機構110の起動前、引き込み可能スリーブ111は後退位置にあり、ハウジング11の遠位端で完全に開口部内に位置する。引き込み可能スリーブ111が初期後退位置にあるとき、スリーブばね112は完全に圧縮される。引き込み可能スリーブ111は、キャップ取り外し機構110の起動時に解放されるトリガ(図示せず)により後退位置に保持される。キャップ取り外し機構110が起動されると、スリーブばね112は引き込み可能スリーブ111を最終位置に駆動し、この最終位置では、引き込み可能スリーブ111の近位部分がハウジング11内に保持され、引き込み可能スリーブ111の遠位部分がハウジング11の遠位端から延びる。最終位置にある引き込み可能スリーブ111は針17を越えて延び、この針17を、キャップ12およびニードルシールド19を取り外すことにより露出させる。
【0051】
投薬ボタン140は、キャップ取り外し機構110および投薬機構120を順次起動するように構成される。投薬ボタン140は、1回目に押したときにキャップ取り外し機構110を起動し、放したときに投薬機構120に係合して、投薬ボタン140を2回目に押したときに投薬機構120を起動するようになっている。
【0052】
投薬ボタン140は、ハウジング11の近位端で開口部内に配置され、第1の部材141、第2の部材142、および戻しばね143を含む。投薬ボタン140の第1の部材141は、内側部分と外側部分とを含み、これらは共に固定され、ハウジング11に対して長手方向軸に沿って摺動可能に可動である。外側部分はハウジング11の近位端に隣接して配置され、戻しばね143は、戻しばね143の遠位端にあるハウジング11の近位端と戻しばね143の近位端にある第1の部材141の外側部分との間に配置される。戻しばね143は、軸方向力を第1の部材141に近位方向に及ぼして、第1の部材141を初期位置に付勢する。
【0053】
第1の部材141の外側部分は、2つの同心円筒壁から形成され、一方の壁がハウジング11の近位端で開口部内に配置され、別の壁がハウジング11の近位端の外側周囲に位置する。2つの同心円筒の近位端は環状端部により接合されて、内部空間が円筒壁、端部、およびハウジング11の近位端により囲まれる。戻しばね143は、外側部分の内部空間内に配置され、軸方向力を環状端部に及ぼして、投薬ボタン140の第1の部材141をハウジング11から押し離す。
【0054】
第1の部材141の内側部分は、ハウジングの近位端で開口部に対して中心に配置され、第1の部材141の外側部分を越えて近位に延びる。内側部分の遠位端は、投薬ボタン140の第2の部材142に連結するための連結要素144aを含む。
【0055】
投薬ボタン140の第2の部材142は、第1の部材141の内側部分と外側部分との間に配置された円筒形チューブとして形成される。第2の部材142の内面に配置された連結要素144bは、第1の部材141に連結するように構成され、第2の部材142の遠位端は、投薬機構120の係合手段122に係合するように配置される。図2に示すように、投薬ボタン140の第2の部材142は、初期状態で、第1の部材141より前方に位置しているため、注射デバイス100の近位端から突出していない。係合手段122は、最初は投薬機構120に係合せず、第1の部材141の連結要素144aは、初期状態で、第2の部材142の連結要素144bから離間している。
【0056】
投薬ボタン140を1回目に押したときに、投薬ボタン140の第1の部材141はハウジング11側へ軸方向に動き、第2の部材142はハウジング11に対して静止したままとなる。
【0057】
図3は、投薬ボタン140が1回目に押したときの第2の位置にある、第1の実施形態による注射デバイス100を示す。第2の位置で、第1の部材141はハウジング11の近位端に押し込まれ、戻しばね143は圧縮される。第1の部材141の連結要素144aと第2の部材142の連結要素144bとが接触して共に連結され、投薬ボタン140の第2の部材142が第1の部材141に固定されるようになっている。第1の部材141および第2の部材142の連結要素144a、144bは、連動するリテーナクリップにより形成される。
【0058】
第2の位置で、ハウジング11内にある第1の部材141の外側部分の遠位端が、引き込み可能スリーブ111の近位端に押し付けられる。引き込み可能スリーブ111に加わる軸方向力により、キャップ取り外し機構110のトリガを解放し、これにより、スリーブばね112を解放して伸張させ、引き込み可能スリーブ111およびキャップ12を遠位方向に押す。キャップ取り外し機構110は、1回目に押したときの投薬ボタン140により起動される。
【0059】
図4は、引き込み可能スリーブ111が最終位置にある第1の実施形態を示す。スリーブばね112は伸張し、引き込み可能スリーブ111はハウジング11の遠位端で開口部から出て遠位に延びる。引き込み可能スリーブ111の軸方向運動により、キャップ12およびニードルシールド19を注射デバイス100から取り外す。引き込み可能スリーブ111は針17を越えて延び、この針17はキャップ12を取り外すことにより露出される。
【0060】
投薬ボタン140は、1回目に押した後に放したときの第3の位置で示される。共に連結された投薬ボタン140の第1の部材141および第2の部材142は、戻しばね143によりハウジング11から軸方向に押し離される。第1の部材141は初期位置に戻り、第2の部材142も連結要素144a、144bにより軸方向に近位方向へ引かれる。第2の部材142は、投薬ボタン140が第3の位置にあるときに第1の部材141の外側部分を越えて突出するため、ユーザに見えるようになる。一部の実施形態において、第2の部材142を第1の部材141とは異なる色にして、注射デバイス100が注射の準備ができていることを示してもよい。
【0061】
投薬ボタン140は、1回目に押した後に放すと投薬機構120に係合する。投薬ボタン140が第3の位置にあるときに、ボタンの第2の部材142の遠位端は、投薬機構120の係合手段122に押し付けられるように配置される。係合手段122は、投薬機構120の外面上のばね入り要素により形成され、このばね入り要素は、最初に第2のボタンにより拘束され、投薬ボタン140の第2の部材142が第3の位置へ動くときに解放される。ばね入り要素は、解放されると投薬機構120の外面から突出し、第2の部材142の遠位端に係合する。
【0062】
図5は、2回目に押したときの、最終状態にある第1の実施形態の投薬機構120を示す。投薬ボタン140をハウジング11側へ軸方向に押して、投薬機構120の係合手段122に軸方向力を及ぼすようになっている。投薬機構120は、投薬ボタン140を2回目に押すことにより起動される。駆動要素121は解放され、伸張して、薬剤リザーバを通してゴムストッパ14を駆動する。ゴムストッパ14は、薬剤リザーバの遠位端側へ動いて、液体薬剤16が薬剤リザーバから針17を通して噴出または排出されるようになっている。
【0063】
注射デバイス100は、投薬ボタン140が2回目に押される前にユーザの注射部位に当てられる。引き込み可能スリーブ111は、注射部位に接触したときにハウジング11に軸方向に押し込まれて、針17を注射部位に挿入できるようになる。針17が挿入されると、投薬ボタン140を2回目に押して投薬機構120を起動し、針17を通して液体薬剤16を送達する。一部の実施形態において、引き込み可能スリーブ111はロッキング機構に連結され、このロッキング機構は、注射デバイス100が注射部位に当てられていない場合に投薬機構120をロックするように構成される。引き込み可能スリーブ111がハウジング11に押し込まれると、投薬機構120がロック解除され、投薬ボタン140を2回目に押すことにより投薬機構120を起動することができる。
【0064】
第1の実施形態は、簡単かつ安全に使用できる改良された注射デバイス100を提供する。キャップ取り外し機構110により、大きい力を用いる必要なくキャップ12を容易に取り外すことができるため、注射デバイス100の使いやすさおよび安全性が向上する。さらに、キャップ取り外し機構110および投薬機構120の両方を起動するのに単一の投薬ボタン140を使用するため、デバイスの有用性が向上する。投薬ボタン140の第1の部材141と対比するために色付け可能な投薬ボタン140の第2の部材142は、第3の位置で見えるようになり、ユーザに準備ができたことを示し、使いやすさをさらに向上させる。
【0065】
代替実施形態において、第2の部材142が軸方向に動いたときに投薬ボタン140の第2の部材142を回転させるように構成されたスロット付きリンク機構を使用して、投薬ボタン140を係合手段122に係合させることができる。スロット付きリンク機構は、投薬機構120の外面の傾斜スロットを通って動くように配置された、投薬ボタン140の第2の部材142の内側突起から形成されて、第2の部材142が投薬機構120に対して軸方向に動くときに第2の部材142の回転を作動させる。あるいは、投薬機構120上の突起が、投薬ボタン140の第2の部材142の傾斜スロットと、同様の方法で相互作用することができる。
【0066】
スロット付きリンク機構は、第2の部材142の軸方向運動を回転運動に変える。係合手段122は、第2の部材142が係合手段122と位置合わせされる位置へ回転したときに、第2の部材142の遠位端に当接するように配置される。
【0067】
図6および図7に関し、第2の実施形態による注射デバイス200について説明する。説明しない要素は、第1の実施形態について説明したものと略同じである。
【0068】
第2の実施形態の投薬ボタン240は、ハウジング11の近位端で開口部内に受けられるキャップとして形成される。投薬ボタン240は戻しばね243を含む。戻しばね243は、軸方向力を投薬ボタン240に近位方向へ及ぼして、投薬ボタン240を初期位置に付勢する。投薬ボタン240は、連結要素244をさらに含む。連結要素244は、ハウジング11に形成された係合溝222に連結される。
【0069】
係合溝222はZ字形に形成される。係合溝222は、ハウジング11の長さの一部にわたって長手方向に、かつハウジング11の周囲の一部にわたって横方向に延びる。係合溝222は、第1の部分、第2の部分、および第3の部分を含む。
【0070】
係合溝222の第1の部分は、ハウジング11の長手方向軸に対してある角度で、ハウジング11の長さの一部に沿って遠位方向に延びる。係合溝222の第2の部分は、ハウジング11の長手方向軸に対してある角度で、ハウジング11の長さの一部に沿って近位方向に延びる。第2の部分は第1の部分よりも短く、第2の部分の近位端は第1の部分の近位端よりもハウジング11の近位端から遠くなっている。係合溝222の第3の部分は、ハウジング11の長手方向軸に対してある角度で、ハウジング11の長さの一部に沿って遠位方向に延びる。第3の部分は第2の部分よりも長く、第3の部分の遠位端は第2の部分の遠位端よりもハウジング11の近位端から遠くなっている。
【0071】
投薬ボタン240は、キャップ取り外し機構110と投薬機構120とを順次起動するように構成される。投薬ボタン240は、1回目に押したときにキャップ取り外し機構110を起動し、放したときに投薬機構120に係合して、投薬ボタン140を2回目に押したときに投薬機構120を起動するようになっている。
【0072】
図6に示す初期状態で、投薬ボタン240は初期位置にある。連結要素244は、係合溝222の第1の部分の近位端で初期位置にある。
【0073】
投薬ボタン240が1回目に押されると、投薬ボタン240は、ハウジング11の近位端で開口部内に軸方向に入る。投薬ボタン240の遠位端は、キャップ取り外し機構110の引き込み可能スリーブ111に押し付けられる。前述したように、キャップ取り外し機構110のトリガは解放される。キャップ取り外し機構110は、1回目に押したときの投薬ボタン240により起動される。
【0074】
連結要素244は、係合溝222の第1の部分に沿って遠位方向に動く。連結要素244は、係合溝222の角度だけ周方向に変位して、投薬ボタン240を回転させる。連結要素244の軸方向運動は、係合溝222の第1の部分の遠位端に接触することにより停止する。投薬ボタン240の軸方向運動は、連結要素244により停止する。
【0075】
投薬ボタン240が解放されると、戻しばね243は投薬ボタン240を近位方向に付勢する。連結要素244は、係合溝222の第2の部分に沿って近位方向に動く。連結要素244は、係合溝222の角度だけ周方向にさらに変位して、投薬ボタン240をさらに回転させる。連結要素244の軸方向運動は、係合溝222の第2の部分の近位端に接触することにより停止する。投薬ボタン240の軸方向運動は、連結要素244により停止する。
【0076】
図7は、投薬ボタン240を1回目に押して放したときの、第2の状態にある投薬ボタン240を示す。連結要素244は、係合溝222の第2の部分の近位端で第2の位置にある。連結要素244は、第2の位置で投薬機構120に係合するように配置される。
【0077】
投薬ボタン240を2回目に押すと、投薬ボタン240はハウジング11の近位端に軸方向に入る。連結要素244は、係合溝222の第3の部分に沿って遠位方向に動く。連結要素244は、係合溝222の角度だけ周方向にさらに変位して、投薬ボタン240をさらに回転させる。
【0078】
連結要素244は、係合溝222の第3の部分に沿って動くときに、投薬機構120の係合手段122に軸方向力を及ぼすように配置される。前述したように、駆動要素121は解放される。投薬機構120は、投薬ボタン240を2回目に押すことにより起動される。
【0079】
第2の実施形態は、簡単かつ安全に使用できる改良された注射デバイス200を提供する。キャップ取り外し機構110により、大きい力を用いる必要なくキャップ12を容易に取り外すことができるため、注射デバイス200の使いやすさおよび安全性が向上する。さらに、キャップ取り外し機構110および投薬機構120の両方を起動するのに単一の投薬ボタン240を使用するため、デバイスの有用性が向上する。
【0080】
図8に関し、第3の実施形態による注射デバイス300について説明する。説明しない要素は、第1の実施形態について説明したものと略同じである。第3の実施形態のキャップ取り外し機構310は、引き込み可能スリーブ311とスリーブばね312とを含む。
【0081】
第3の実施形態の投薬ボタン340は、ハウジング11の近位端上に配置されたキャップとして形成され、戻しばね343と1つまたはそれ以上の係合クリップ344とをさらに含む。投薬ボタン340は外側円筒壁と端壁とを有し、外側円筒壁は、ハウジング11の近位端上を摺動可能に動くように配置される。戻しばね343は、ハウジング11の近位端と端壁の内面との間に配置され、戻しばね343により投薬ボタン340がハウジング11から軸方向に押し離されるようになっている。内側円筒壁は、端壁の内面から延び、ハウジング11の近位端内に受けられる。
【0082】
係合クリップ344は、投薬ボタン340の遠位側からハウジング11の内部へ延びる。係合クリップ344は、ハウジング11の中心長手方向軸に向かって内方に圧縮応力を受ける。しかしながら、図6に示す初期位置では、係合クリップ344は、ハウジング11の内面に向かって外方に湾曲する。係合クリップ344の遠位端は、引き込み可能スリーブ311の近位端に当接し、引き込み可能スリーブ311の係合溝314により初期位置に保持される。
【0083】
第3の実施形態のハウジング11は、注射デバイス300の状態を示すように構成された観察窓350をさらに含む。観察窓350の動作について以下でより詳細に説明する。
【0084】
図9は、1回目に押したときの、第2の位置にある第3の実施形態の投薬ボタン340を示す。投薬ボタン340は、ハウジング11に向かって軸方向に遠位方向へ押されて、戻しばね343を圧縮する。係合クリップ344は、軸方向力を引き込み可能スリーブ311に及ぼすことにより、引き込み可能スリーブ311をハウジング11の遠位端側へ動かし、キャップ取り外し機構310のトリガを解放する。スリーブばね112は、トリガにより解放され、伸張して、引き込み可能スリーブ311およびニードルシールド19を有するキャップ12を遠位方向に押す。キャップ取り外し機構310は、1回目に押したときに投薬ボタン340により起動される。
【0085】
図10は、引き込み可能スリーブ311が最終位置にある第3の実施形態を示す。スリーブばね112は伸張し、引き込み可能スリーブ311は、ハウジング11の遠位端で開口部から出て遠位に延びる。引き込み可能スリーブ311の軸方向運動により、キャップ12を注射デバイス300から取り外す。引き込み可能スリーブ311は、針17を越えて延び、針17はキャップ12およびニードルシールド19を取り外すことにより露出される。
【0086】
投薬ボタン340は、1回目に押した後に放したときの第3の位置に示される。スリーブばね112による引き込み可能スリーブ311の遠位方向への動きと、戻しばね343による投薬ボタン340の近位方向への動きとにより、係合クリップ344が引き込み可能スリーブ311の係合溝314から係合解除される。内方に圧縮応力を受けた係合クリップ344は、解放されるとハウジング11の中心長手方向軸に向かって屈曲する。第3の位置における係合クリップ344の遠位端は、投薬機構120の係合要素122に当接する。係合要素122は投薬機構120の外面から突出し、係合要素122の近位面は投薬ボタン340の係合クリップ344の遠位端に当接する。
【0087】
図11に示すように、注射デバイス300は、投薬ボタン340を2回目に押す前に、ユーザの注射部位に当てられる。引き込み可能スリーブ311は、注射部位に接触したときにハウジング11に軸方向に押し込まれて、針17を注射部位に挿入できるようになる。針17が挿入されると、投薬ボタン340を2回目に押して投薬機構120を起動し、針17を通して液体薬剤16を送達する。一部の実施形態において、引き込み可能スリーブ311はロッキング機構に連結され、このロッキング機構は、注射デバイス300が注射部位に当てられていない場合に投薬機構120をロックするように構成される。引き込み可能スリーブ311がハウジング11に押し込まれると、投薬機構120がロック解除され、投薬ボタン340を2回目に押すことにより投薬機構120を起動することができる。
【0088】
図12は、投薬ボタン340を2回目に押して放した後の、最終状態にある第3の実施形態を示す。投薬ボタン340を2回目にハウジング11側へ軸方向に押すと、係合クリップ344により投薬機構120の係合手段122に軸方向力を及ぼす。投薬機構120は、投薬ボタン340を2回目に押すことにより起動される。駆動要素121は解放され、伸張して、薬剤リザーバを通してゴムストッパ14を駆動する。ゴムストッパ14は、薬剤リザーバの遠位端側へ動いて、液体薬剤16が薬剤リザーバから針17を通して噴出または排出されるようになっている。
【0089】
図12に示す最終状態で、投薬ボタン340を放し、針17が注射部位から取り外されている。投薬ボタン340は、戻しばね343によりハウジング11から押し離され、引き込み可能スリーブ311は、スリーブばね112によりハウジング11の遠位端から押し出される。引き込み可能スリーブ311は、注射完了後の最終状態で針17を覆う。引き込み可能スリーブ311は、注射完了後、伸長位置にロックされて、針による損傷を防ぐ。
【0090】
第3の実施形態は、単純で安全に使用できる改良された注射デバイス300を提供する。キャップ取り外し機構310により、大きい力を用いる必要なくキャップ12を容易に取り外すことができるため、デバイスの使いやすさおよび安全性が向上する。さらに、キャップ取り外し機構310および投薬機構120の両方を起動するのに単一の投薬ボタン340を使用するため、デバイスの有用性が向上する。観察窓350は、注射プロセスの各段階における注射デバイス300の状態を示すため、デバイスの有用性がさらに向上する。
【0091】
図13および図14a~図14dは、第3の実施形態による注射デバイス300の観察窓350に関する。図13は、ハウジング11の外面における観察窓350の位置を示す。観察窓350はハウジング11を通る開口部であり、外面上で長手方向および周方向に対して斜めに延びる。観察窓350は、ハウジング11上のある位置に配置されて、引き込み可能スリーブ311が観察窓350を通して見えるようになっている。
【0092】
図14aは、初期状態にある第3の実施形態の観察窓350を示す。複数の状態マーキング351が引き込み可能スリーブ311の外面上に作られ、注射プロセスの各段階で観察窓350と引き込み可能スリーブ311とを位置合わせすることにより、対応する状態マーキング351が観察窓350を通して見えるようになる。状態マーキング351は、観察窓350内における状態インジケータの位置により、注射デバイス300の現在の状態を示す。一部の実施形態において、各状態インジケータはまた、異なる色もしくは形状、または異なる単語ラベルを有してもよい。初期状態で、初期状態に対応する第1の状態マーキング351が観察窓350と位置合わせされ、ユーザに見えるようになっている。
【0093】
図14bは、アクティブ状態にある第3の実施形態の観察窓350を示す。アクティブ状態は、1回目に押して放した後の、投薬ボタン340の第3の位置に対応する。引き込み可能スリーブ311は、スリーブばね112により軸方向に遠位方向へ押されて、キャップ12を注射デバイス300から取り外す。
【0094】
引き込み可能スリーブ311は、さらにスロット付きリンク機構によりハウジング11に連結され、このスロット付きリンク機構は、引き込み可能スリーブ311の遠位方向への軸方向運動を長手方向軸周りの回転に変えるように構成される。ハウジング11の内面上の突起が引き込み可能スリーブ311の傾斜スロットに係合して、引き込み可能スリーブ311に回転力を及ぼす。
【0095】
したがって、引き込み可能スリーブ311は、軸方向に動き、ハウジング11に対して回転して、第1の状態マーキング351が観察窓350と位置合わせされなくなる。アクティブ状態に対応する第2の状態マーキング351が観察窓350と位置合わせされて、ユーザに見えるようになる。
【0096】
図14cは、アクティブ状態の注射デバイス300が注射部位に当てられた、準備完了状態における第3の実施形態の観察窓350を示す。引き込み可能スリーブ311は、注射部位に接触したときにハウジング11に軸方向に押し込まれて、針17を注射部位に挿入できるようになる。スロット付きリンク機構は、引き込み可能スリーブ311を回転せずにハウジング11内へ軸方向に引き込むことができるように構成される。したがって、引き込み可能スリーブ311はハウジング11に対して軸方向に動いて、第2の状態マーキング351が観察窓350と位置合わせされなくなる。準備完了状態における引き込み可能スリーブ311の位置を、初期状態における位置に対して回転させ、準備完了状態に対応する第3の状態マーキング351を観察窓350と位置合わせする。
【0097】
図14dは、投薬ボタン340を2回目に押して放し、注射デバイス300が注射部位から取り外されたときの、最終状態にある第3の実施形態の観察窓350を示す。引き込み可能スリーブ311は、スリーブばね112によりハウジング11の遠位端から押し出され、スロット付きリンク機構により、対応する回転を引き込み可能スリーブ311に加える。したがって、引き込み可能スリーブ311は軸方向に動き、ハウジング11に対して回転して、第3の状態マーキング351が観察窓350と位置合わせされなくなる。
【0098】
最終状態における引き込み可能スリーブ311の位置を、アクティブ状態における位置に対して回転させ、最終状態に対応する第4の状態マーキング351が観察窓350と位置合わせされる。あるいは、注射完了後に引き込み可能スリーブ311を異なる軸方向位置に戻してもよく、第4の状態マーキング351を第3の状態マーキング351から軸方向に離してもよい。引き込み可能スリーブは、注射完了後に定位置にロックされる。
【0099】
第3の実施形態は、注射プロセスの各段階で注射デバイス300の状態を示すように構成された観察窓350を設けるため、デバイスの有用性がさらに向上する。代替実施形態において、スロット付きリンク機構の配置を逆にして、引き込み可能スリーブ311が軸方向に近位方向へ動くときに回転するようにしてもよい。
【0100】
いくつかの実施形態について図示し説明したが、添付の特許請求の範囲においてその範囲を定義する本発明から逸脱することなく、これらの実施形態に変更を行ってもよいことを当業者は理解するであろう。実施形態の基礎となる原理が両立する場合に、異なる実施形態の様々な構成要素を組み合わせてもよい。例えば、第3の実施形態に関して説明した観察窓を、第1の実施形態による注射デバイスの一部として実施してもよい。
【0101】
代替実施形態において、観察窓を、ハウジングの近位端上に適合する、投薬ボタンの外側円筒壁のアパーチャとして形成してもよい。複数の状態マーキングがハウジングの外面に作られ、観察窓とハウジングとの位置合わせによって、どの状態マーキングが観察窓を通して見えるようになるかが決まる。観察窓とハウジングとの位置合わせは、投薬ボタンとハウジングとの相対位置によって決まる。投薬ボタンの軸方向位置は、ボタンが1回目および2回目に押されるにつれて変化することができ、前述したように、スロット付きリンク機構により投薬ボタンをハウジングに対してさらに回転させることができる。
【0102】
どの実施形態のハウジング、キャップ、および投薬ボタンも、方形、円形、または三角形断面またはその他の適切な形状を有することができる。キャップを、キャップの内部でハウジングの遠位端を受けるように形成して、キャップの内面がハウジングの外面に当接してキャップを外面上に保持するようにしてもよい。あるいは、キャップは、ハウジング内に適合するが、引き込み可能スリーブの外側の周囲に適合してもよい。ニードルシールドは、ゴム、または人工ゴム状材料から形成された可撓性シールドであってよく、または、例えば、剛性プラスチック材料から形成された剛性ニードルシールドであってよい。
【0103】
キャップ取り外し機構は、ボタンを押すことによりトリガ可能な他のそのような機構であってもよく、例えば、投薬ボタンを1回目に押すことにより、圧縮ガスの放出をトリガし、または電動機を起動してキャップを取り外すことができる。キャップ取り外し機構は、1つまたはそれ以上の引き込み可能アームなどの引き込み可能部材を含むことができ、この引き込み可能部材を軸方向に遠位方向へ駆動してキャップを取り外すことができる。
【0104】
また、投薬機構は適切な投薬機構であってよい。例えば、投薬ボタンを2回目に押すことにより、圧縮ガスの放出をトリガし、または電動機を起動して、薬剤リザーバを通してゴムストッパを駆動することができる。シリンジおよび投薬機構は無針配置であってもよく、無針配置は、液体薬剤の細かい噴流を十分な圧力で噴出させて、注射部位で皮膚に貫入するように構成される。投薬機構は、液体薬剤を高圧で排出する圧縮ガス源を含んでもよい。注射デバイスがアクティブ状態にある場合に引き込み可能スリーブをハウジング内に完全に押したとき、すなわち、デバイスを注射部位に押し付けることにより、投薬機構を自動で起動してもよい。
【0105】
用語「薬物」または「薬剤」は、本明細書において同意語として使用され、1つまたはそれ以上の医薬品有効成分または薬学的に許容されるその塩もしくは溶媒和物と、場合により、薬学的に許容される担体とを含む医薬製剤を示す。医薬品有効成分(「API」)とは、最も広範な言い方で、ヒトまたは動物に生物学的影響を及ぼす化学構造のことである。薬理学では、薬物または薬剤が、疾患の処置、治療、予防、または診断に使用され、またはそれとは別に、身体的または精神的健康を向上させるために使用される。薬物または薬剤は、限られた継続期間、または慢性疾患では定期的に、使用される。
【0106】
以下に説明されるように、薬物または薬剤は、1つまたはそれ以上の疾患を処置するための、様々なタイプの製剤の少なくとも1つのAPI、またはその組み合わせを含むことができる。APIの例としては、分子量が500Da以下である低分子;ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(例えばホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素);炭水化物および多糖類;ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(裸およびcDNAを含む)、RNA、アンチセンスDNAおよびRNAなどのアンチセンス核酸、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドが含まれ得る。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに組み込まれる。1つまたはそれ以上の薬物の混合物もまた企図される。
【0107】
用語「薬物送達デバイス」は、薬物または薬剤をヒトまたは動物の体内に投薬するように構成されたあらゆるタイプのデバイスまたはシステムを包含するものである。それだけには限らないが、薬物送達デバイスは、注射デバイス(例えばシリンジ、ペン型注射器、自動注射器、大容量デバイス、ポンプ、潅流システム、または眼内、皮下、筋肉内、もしくは血管内送達にあわせて構成された他のデバイス)、皮膚パッチ(例えば、浸透圧性、化学的、マイクロニードル)、吸入器(例えば鼻用または肺用)、埋め込み型デバイス(例えば、薬物またはAPIコーティングされたステント、カプセル)、または胃腸管用の供給システムとすることができる。ここで説明される薬物は、例えば24以上のゲージ数を有する、例えば皮下針である針を含む注射デバイスでは特に有用であり得る。
【0108】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスで使用するように適用された主要パッケージまたは「薬物容器」内に含まれる。薬物容器は、例えば、カートリッジ、シリンジ、リザーバ、または1つもしくはそれ以上の薬物の保存(例えば短期または長期保存)に適したチャンバを提供するように構成された他の固体もしくは可撓性の容器とすることができる。例えば、場合によって、チャンバは、少なくとも1日(例えば1日から少なくとも30日まで)の間薬物を収納するように設計される。場合によって、チャンバは、約1カ月から約2年の間薬物を保存するように設計される。保存は、室温(例えば約20℃)または冷蔵温度(例えば約-4℃から約4℃まで)で行うことができる。場合によって、薬物容器は、投与予定の医薬製剤の2つまたはそれ以上の成分(例えばAPIおよび希釈剤、または2つの異なるタイプの薬物)を別々に、各チャンバに1つずつ保存するように構成された二重チャンバカートリッジとすることができ、またはこれを含むことができる。そのような場合、二重チャンバカートリッジの2つのチャンバは、ヒトまたは動物の体内に投薬する前、および/または投薬中に2つまたはそれ以上の成分間で混合することを可能にするように構成される。例えば、2つのチャンバは、これらが(例えば2つのチャンバ間の導管によって)互いに流体連通し、所望の場合、投薬の前にユーザによって2つの成分を混合することを可能にするように構成される。代替的に、またはこれに加えて、2つのチャンバは、成分がヒトまたは動物の体内に投薬されているときに混合することを可能にするように構成される。
【0109】
本明細書において説明される薬物送達デバイス内に含まれる薬物または薬剤は、数多くの異なるタイプの医学的障害の処置および/または予防に使用される。障害の例としては、例えば、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病に伴う合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症が含まれる。障害の別の例としては、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチがある。APIおよび薬物の例としては、例えば、それだけには限らないが、ハンドブックのRote Liste 2014、主グループ12(抗糖尿病薬物)または主グループ86(腫瘍薬物)、およびMerck Index、第15版などに記載されているものがある。
【0110】
1型もしくは2型の糖尿病、または1型もしくは2型の糖尿病に伴う合併症の処置および/または予防のためのAPIの例としては、インスリン、例えばヒトインスリン、またはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1類似体もしくはGLP-1受容体アゴニスト、またはその類似体もしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、または薬学的に許容されるその塩もしくは溶媒和物、またはそれらの任意の混合物が含まれる。本明細書において使用される用語「類似体」および「誘導体」は、元の物質と構造的に十分に類似しており、それによって同様の機能または活性(例えば治療効果性)を有することができる任意の物質を指す。特に、用語「類似体」は、天然のペプチドの構造、例えばヒトのインスリンの構造から、天然のペプチド中に見出される少なくとも1つのアミノ酸残基を欠失させるおよび/もしくは交換することによって、ならびに/または少なくとも1つのアミノ酸残基を付加することによって式上で得られる分子構造を有するポリペプチドを指す。付加および/または交換されるアミノ酸残基は、コード可能なアミノ酸残基、または他の天然の残基もしくは完全に合成によるアミノ酸残基とすることができる。インスリン類似体は「インスリン受容体リガンド」とも呼ばれる。特に、用語「誘導体」は、1つまたはそれ以上の有機置換基(例えば、脂肪酸)が1つまたはそれ以上のアミノ酸に結合している、天然のペプチドの構造、例えばヒトのインスリンの構造から式上で得られる分子構造を有するポリペプチドを指す。場合により、天然のペプチド中に見出される1つまたはそれ以上のアミノ酸が、欠失され、かつ/もしくはコード不可能なアミノ酸を含む他のアミノ酸によって置換されていてもよく、または、コード不可能なアミノ酸を含むアミノ酸が、天然のペプチドに付加されていてもよい。
【0111】
インスリン類似体の例としては、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン(インスリングルリジン);Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン(インスリンリスプロ);Asp(B28)ヒトインスリン(インスリンアスパルト);B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置換されているヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンがある。
【0112】
インスリン誘導体の例としては、例えば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;Lys(B29)(N-テトラデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデテミル、Levemir(登録商標))、B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ω-カルボキシヘプタデカノイル-γ-L-グルタミル-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデグルデク、Tresiba(登録商標))、B29-N-(N-リトコリル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン、およびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンがある。
【0113】
GLP-1、GLP-1類似体およびGLP-1受容体アゴニストの例としては、例えば、リキシセナチド(Lyxumia(登録商標)、エキセナチド(エキセンディン-4、Dyetta(登録商標)、Bydureon(登録商標)、アメリカドクトカゲの唾液腺によって産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(Victoza(登録商標))、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド(Syncria(登録商標))、デュラグルチド(Trulicity(登録商標))、rエキセンディン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン(Eligen)、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン(Nodexen)、ビアドール(Viador)-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenがある。
【0114】
オリゴヌクレオチドの例としては、例えば:家族性高コレステロール血症の処置のためのコレステロール低下アンチセンス治療薬である、ミポメルセンナトリウム(Kynamro(登録商標))がある。
【0115】
DPP4阻害剤の例としては、ビルダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンがある。
【0116】
ホルモンの例としては、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンなどの、脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストが含まれる。
【0117】
多糖類の例としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、例えば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩が含まれる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。ヒアルロン酸誘導体の例としては、ハイランG-F20(Synvisc(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムがある。
【0118】
本明細書において使用する用語「抗体」は、免疫グロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。免疫グロブリン分子の抗原結合部分の例には、抗原を結合する能力を保持するF(ab)およびF(ab’)フラグメントが含まれる。抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、組換え型、キメラ型、非免疫型またはヒト化、完全ヒト型、非ヒト型(例えばネズミ)、または一本鎖抗体とすることができる。いくつかの実施形態では、抗体はエフェクター機能を有し、補体を固定することができる。いくつかの実施形態では、抗体は、Fc受容体と結合する能力が低く、または結合することはできない。例えば、抗体は、アイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは変異体とすることができ、これはFc受容体との結合を支持せず、例えば、突然変異した、または欠失したFc受容体結合領域を有する。用語の抗体はまた、四価二重特異性タンデム免疫グロブリン(TBTI)および/または交差結合領域の配向性を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質(CODV)に基づく抗体結合分子を含む。
【0119】
用語「フラグメント」または「抗体フラグメント」は、全長抗体ポリペプチドを含まないが、抗原と結合することができる全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を依然として含む、抗体ポリペプチド分子(例えば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)由来のポリペプチドを指す。抗体フラグメントは、全長抗体ポリペプチドの切断された部分を含むことができるが、この用語はそのような切断されたフラグメントに限定されない。本発明に有用である抗体フラグメントは、例えば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、直鎖抗体、単一特異性抗体フラグメント、または二重特異性、三重特異性、四重特異性および多重特異性抗体(例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)などの多重特異性抗体フラグメント、一価抗体フラグメント、または二価、三価、四価および多価抗体などの多価抗体フラグメント、ミニボディ、キレート組換え抗体、トリボディまたはバイボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体を含む。抗原結合抗体フラグメントのさらなる例が当技術分野で知られている。
【0120】
用語「相補性決定領域」または「CDR」は、特異的抗原認識を仲介する役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。用語「フレームワーク領域」は、CDR配列ではなく、CDR配列の正しい位置決めを維持して抗原結合を可能にする役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、通常、当技術分野で知られているように、抗原結合に直接的に関与しないが、特定の抗体のフレームワーク領域内の特定の残基が、抗原結合に直接的に関与することができ、またはCDR内の1つまたはそれ以上のアミノ酸が抗原と相互作用する能力に影響を与えることができる。
【0121】
抗体の例としては、アンチPCSK-9mAb(例えばアリロクマブ)、アンチIL-6mAb(例えばサリルマブ)、およびアンチIL-4mAb(例えばデュピルマブ)がある。
【0122】
本明細書において説明される任意のAPIの薬学的に許容される塩もまた、薬物送達デバイスにおける薬物または薬剤の使用に企図される。薬学的に許容される塩は、例えば酸付加塩および塩基性塩である。
【0123】
当業者は、本明細書に記載の医薬品有効成分、製剤、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素を、本発明の全範囲および精神から逸脱することなく修正(追加および/または除去)してもよく、本発明はそのような修正およびそのあらゆる等価物を包含するものであることを理解するであろう。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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図12
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図14b
図14c
図14d