(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】スクロール型流体機械
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20221028BHJP
【FI】
F04C18/02 311M
F04C18/02 311H
(21)【出願番号】P 2019005569
(22)【出願日】2019-01-16
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 二郎
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-306784(JP,A)
【文献】特開平3-138472(JP,A)
【文献】特開昭55-60686(JP,A)
【文献】特開平4-314986(JP,A)
【文献】特開平2-264180(JP,A)
【文献】特開平10-281083(JP,A)
【文献】特開平11-44295(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0098000(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板と該底板に立設される渦巻状のラップとをそれぞれ有し互いに噛み合わされる固定スクロール及び可動スクロールと、前記可動スクロールの自転を阻止すると共に前記可動スクロールに前記固定スクロールの軸心周りの公転駆動力を伝達するための駆動機構とを、ハウジング内に備え、前記可動スクロールが前記固定スクロールに接しつつ公転し前記固定スクロールとの間に前記公転に伴って容積変化する密閉空間を形成するスクロール型流体機械であって、
前記駆動機構は、
前記固定スクロールの軸心に合わせた回転軸心周りに回転駆動される駆動軸、及び、前記駆動軸の軸方向の一端部に前記回転軸心に対して偏心して設けられる偏心軸を有するクランクシャフトと、
前記偏心軸と嵌合する旋回軸受と、
前記旋回軸受の外周面に外嵌される環状の揺動部材と、
前記可動スクロールの前記底板と前記揺動部材との間に設けられ、前記可動スクロールのスラスト力を受けるスラスト受け部と、
前記可動スクロールの自転を阻止する自転阻止機構部と、
を含み、
前記駆動機構は、前記スラスト受け部の外縁部を貫通する複数の貫通孔を貫通すると共に前記揺動部材の外縁部と前記可動スクロールの前記底板の外縁部との間を連結する連結ピンを有し、当該連結ピンを介して前記公転駆動力を前記可動スクロールに伝達する、スクロール型流体機械。
【請求項2】
前記貫通孔は円形に開口され、
前記連結ピンは前記貫通孔より小径に形成され、
前記自転阻止機構部は、前記貫通孔と前記連結ピンとにより構成され、前記連結ピンの中間部が前記貫通孔の孔壁面に摺接することにより、前記可動スクロールの自転を阻止する、請求項1に記載のスクロール型流体機械。
【請求項3】
前記クランクシャフトにおける一端部である前記偏心軸は、前記スラスト受け部によって前記回転軸心周りに回転可能に支持される、請求項1又は2に記載のスクロール型流体機械。
【請求項4】
前記スラスト受け部の揺動部材側端面の中央部位に、円柱状の凸部が突設され、
前記偏心軸には、前記回転軸心と同心の円形孔又は円形凹部が形成される構成とし、
前記駆動機構は、前記スラスト受け部の前記凸部の外周面と前記偏心軸の前記円形孔又は前記円形凹部の内周面との間に嵌め込まれ、前記クランクシャフトの前記一端部を回転可能に支持するシャフト軸受を、さらに含む、請求項3に記載のスクロール型流体機械。
【請求項5】
前記駆動軸の回転駆動力を発生させる電動モータを前記駆動軸と一体に前記ハウジング内に備え、
前記固定スクロール及び前記可動スクロールは、前記密閉空間により流体を圧縮して吐出し、
前記ハウジングには、前記流体としての冷媒が流入する吸入ポートが形成される構成とし、
前記吸入ポートから前記ハウジング内の前記電動モータの周囲に流入した冷媒は、前記貫通孔を経由して、前記可動スクロール及び前記固定スクロールの前記ラップの渦巻外端部付近に形成される空間へ導かれている、請求項1~4のいずれか一つに記載のスクロール型流体機械。
【請求項6】
前記連結ピンの一端部は、前記揺動部材の前記外縁部に形成される孔に圧入され、
前記連結ピンの他端部は、前記可動スクロールの前記外縁部に形成される孔に遊嵌されている、請求項1~5のいずれか一つに記載のスクロール型流体機械。
【請求項7】
前記偏心軸は、前記駆動軸の前記一端部に前記回転軸心に対して偏心して設けられる偏心ブッシュと、前記偏心ブッシュの外周面と前記旋回軸受の内周面との間に嵌め込まれる筒状のカラーとにより構成され、
前記カラーは、前記偏心ブッシュに対する回転が阻止されると共に前記偏心ブッシュに対して所定の径方向への所定クリアランス分の移動が許容されるように前記偏心ブッシュの外周面に取り付けられている、請求項1~6のいずれか一つに記載のスクロール型流体機械。
【請求項8】
前記可動スクロールに対する重量バランスを確保するためのカウンターウェイトが、前記駆動軸の前記一端部において、当該カウンターウェイトと前記スラスト受け部との間に前記旋回軸受が位置するように設けられている、請求項1~7のいずれか一つに記載のスクロール型流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに噛み合わされる固定スクロール及び可動スクロールを有し、これらにより形成される密閉空間の容積を変化させることで流体を圧縮又は膨張させるスクロール型流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール型流体機械は、互いに噛み合わされる固定スクロール及び可動スクロールと、可動スクロールの自転を阻止すると共に可動スクロールに固定スクロールの軸心周りの公転駆動力を伝達するための駆動機構とをハウジング内に備え、可動スクロールが固定スクロールに接しつつ公転し固定スクロールとの間に前記公転に伴って容積変化する密閉空間を形成している。
【0003】
この種のスクロール型流体機械としては、例えば、特許文献1に記載されたスクロール型圧縮機(以下では、スクロール型流体機械という)が一般的に知られている。特許文献1に記載されたスクロール型流体機械における前記駆動機構は、前記可動スクロールとしての揺動スクロール部材(以下では、可動スクロールという)に前記固定スクロールとしての固定スクロール部材(以下では、固定スクロールという)の軸心周りの公転駆動力を伝達するための駆動力伝達機構部と、可動スクロールの自転を阻止する自転阻止機構部とを、区別して備えている。
【0004】
詳しくは、特許文献1のスクロール型流体機械では、前記駆動力伝達機構部は、回転駆動される回転軸(以下では、駆動軸という)と、駆動軸の軸方向の一端部に駆動軸の軸心に対して偏心して設けられる偏心軸と、偏心軸の外周面に外嵌される偏心ブッシュと、可動スクロールの底板の背面側に円筒状に突設される装着部(以下では、円筒ボス部という)と、偏心ブッシュの外周面と円筒ボス部の内周面との間に装着されるすべり軸受からなる旋回軸受とにより構成されている。これらにより、駆動軸が外部エンジン等の動力により回転駆動されると、駆動軸の回転動力が前記公転駆動力に変換され、この公転駆動力が可動スクロールの円筒ボス部に伝達され、その結果、可動スクロールが固定スクロールの軸心周りに公転する。また、特許文献1のスクロール型流体機械では、可動スクロールのスラスト力を受けるスラストプレートが前記ハウジングを構成するフロントブロックの内側端面と可動スクロールの背面との間に設けられると共にフロントブロックに固定されている。そして、前記自転阻止機構部として、ピンとホールとからなるいわゆるピン&ホール方式の機構が採用されており、この自転阻止機構部は、可動スクロールの底板の背面側に突設される複数のピンと、前記スラストプレートに各ピンに対応して開口される摺動孔とにより構成されている。これらにより、ピンの先端側の外周面が摺動孔の孔壁面に沿って摺動し、その結果、可動スクロールの自転が阻止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたスクロール型流体機械における前記駆動力伝達機構部では、偏心ブッシュ及び旋回軸受が可動スクロールの底板の背面側に円筒状に突設される円筒ボス部の内側に設けられている。このような構造の場合には、一般的に、旋回軸受は円筒ボス部内に圧入されて固定されることになる。したがって、この圧入による円筒ボス部の変形に応じて、可動スクロールの底板が歪むおそれがある。その結果、可動スクロールの底板と固定スクロールの渦巻状のラップの先端との間等に過大な隙間が生じ、スクロール型流体機械の性能低下を招き易いという問題がある。
【0007】
本発明は上記問題点に着目してなされたものであり、可動スクロールの底板の歪みに起因する性能低下の抑制又は防止を図ることが可能なスクロール型流体機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によると、底板と該底板に立設される渦巻状のラップとをそれぞれ有し互いに噛み合わされる固定スクロール及び可動スクロールと、前記可動スクロールの自転を阻止すると共に前記可動スクロールに前記固定スクロールの軸心周りの公転駆動力を伝達するための駆動機構とを、ハウジング内に備え、前記可動スクロールが前記固定スクロールに接しつつ公転し前記固定スクロールとの間に前記公転に伴って容積変化する密閉空間を形成するスクロール型流体機械が提供される。前記駆動機構は、クランクシャフトと、旋回軸受と、環状の揺動部材と、スラスト受け部と、自転阻止機構部とを含む。前記クランクシャフトは、前記固定スクロールの軸心に合わせた回転軸心周りに回転駆動される駆動軸、及び、前記駆動軸の軸方向の一端部に前記回転軸心に対して偏心して設けられる偏心軸を有する。前記旋回軸受は、前記偏心軸と嵌合する。前記環状の揺動部材は、前記旋回軸受の外周面に外嵌される。前記スラスト受け部は、前記可動スクロールの前記底板と前記揺動部材との間に設けられ、前記可動スクロールのスラスト力を受ける。前記自転阻止機構部は、前記可動スクロールの自転を阻止する。前記駆動機構は、前記スラスト受け部の外縁部を貫通する複数の貫通孔を貫通すると共に前記揺動部材の外縁部と前記可動スクロールの前記底板の外縁部との間を連結する連結ピンを有し、当該連結ピンを介して前記公転駆動力を前記可動スクロールに伝達する。
【発明の効果】
【0009】
前記一側面によるスクロール型流体機械では、前記駆動機構は、前記固定スクロールの軸心に合わせた回転軸心周りに回転駆動される駆動軸、及び、前記駆動軸の軸方向の一端部に前記回転軸心に対して偏心して設けられる偏心軸を有するクランクシャフトと、前記偏心軸と嵌合する旋回軸受と、前記旋回軸受の外周面に外嵌される環状の揺動部材と、前記可動スクロールの前記底板と前記揺動部材との間に設けられ、前記可動スクロールのスラスト力を受けるスラスト受け部と、前記可動スクロールの自転を阻止する自転阻止機構部と、を含み、前記駆動機構は、前記スラスト受け部の外縁部を貫通する複数の貫通孔を貫通すると共に前記揺動部材の外縁部と前記可動スクロールの前記底板の外縁部との間を連結する連結ピンを有している。したがって、前記駆動軸が回転駆動されると、前記偏心軸が前記旋回軸受及び前記揺動部材と伴に前記固定スクロールの軸心周りに公転し、この公転駆動力は、前記連結ピンを介して前記可動スクロールへ伝達される。つまり、前記可動スクロールは、前記連結ピンを介して前記揺動部材と一体に結合されて、前記揺動部材と一体的に公転旋回運動する。このように、前記可動スクロールを前記固定スクロールの軸心周りの公転させる公転駆動力は、前記連結ピンにより伝達されるため、従来のような公転駆動力の伝達構造に起因した可動スクロールの底板の歪みは抑制又は防止され、ひいては、スクロール型流体機械の性能低下の抑制又は防止を図ることができる。
【0010】
このようにして、可動スクロールの底板の歪みに起因する性能低下の抑制又は防止を図ることが可能なスクロール型流体機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態におけるスクロール型流体機械の概略断面図である。
【
図3】前記スクロール型流体機械のクランクシャフトの正面図である。
【
図4】前記スクロール型流体機械の揺動部材の正面図である。
【
図5】前記スクロール型流体機械のスラスト受け部の正面図である。
【
図6】前記スクロール型流体機械の可動スクロールの背面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態におけるスクロール型流体機械の概略断面図である。
【
図9】
図7に示すスクロール型流体機械のクランクシャフトの部分正面図である。
【
図10】
図7に示すスクロール型流体機械の偏心軸の一部の正面図である。
【
図11】
図7に示すスクロール型流体機械の揺動部材の正面図である。
【
図12】前記スクロール型流体機械の自転阻止機構部の変形例を説明するための、概略断面図である。
【
図15】
図12に示す前記自転阻止機構部のオルダムリングの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。尚、本発明に係るスクロール型流体機械は、圧縮機あるいは膨張機として使用することができるが、ここでは圧縮機の例で説明する。
【0013】
まず、本発明の第1実施形態について
図1~
図6により説明する。
図1は本実施形態におけるスクロール型流体機械の全体構成を示す概略の断面図であり、
図2は
図1のA-A矢視断面図である。
図3~
図6はそれぞれスクロール型流体機械の部品図であり、
図3はクランクシャフトの正面図、
図4は揺動部材の正面図、
図5はスラスト受け部の正面図、
図6は可動スクロールの背面図である。
【0014】
本実施形態におけるスクロール型流体機械100は、例えば車両用空調装置の冷媒回路に組み込まれ、冷媒回路の低圧側から吸入した冷媒(流体)を圧縮して吐出する圧縮機である。このスクロール型流体機械100は、スクロールユニット1と、ハウジング10と、駆動力をスクロールユニット1に伝達する駆動機構20とを備えている。スクロールユニット1及び駆動機構20は、ハウジング10内に備えられている。なお、本実施形態においては、スクロール型流体機械100は、スクロールユニット1の駆動源である電動モータ30をもハウジング10内に備える。さらに、スクロール型流体機械100は、電動モータ30の駆動制御用のインバータ40をハウジング10内に備えており、いわゆるインバータ一体型電動圧縮機の例で説明する。
【0015】
スクロールユニット1は、
図1に示すように、互いに噛み合わされる固定スクロール2及び可動スクロール3を有する。スクロール型流体機械100は、可動スクロール3が固定スクロール2に接しつつ固定スクロール2の軸心X’周りに公転し固定スクロール2との間に前記公転に伴って容積変化する後述する密閉空間Sを形成するように構成されている。また、本実施形態では、スクロールユニット1は、密閉空間Sにより冷媒を圧縮して吐出するように構成されている。例えば、固定スクロール2及び可動スクロール3はアルミニウム合金からなる。
【0016】
具体的には、固定スクロール2は、円盤状に形成されると共に中心部に吐出孔2a1が開口された第1底板2aと、第1底板2aの一端面に立設される渦巻状の第1ラップ2bとを有する。可動スクロール3は、第1底板2aの前記一端面と対向する一端面を有する円盤状の第2底板3aと、第2底板3aの前記一端面に立設される渦巻状の第2ラップ3bとを有する。また、固定スクロール2の第1底板2aは可動スクロール3の第2底板3aより大きな径を有する。なお、本実施形態において、第1底板2a、第1ラップ2bが本発明に係る「固定スクロール」の「底板」、「ラップ」に相当し、第2底板3a、第2ラップ3bが本発明に係る「可動スクロール」の「底板」、「ラップ」に相当する。
【0017】
固定スクロール2と可動スクロール3は、第1ラップ2bと第2ラップ3bとを互いに噛み合わせるように配置される。具体的には、固定スクロール2と可動スクロール3は、第1ラップ2bの周方向の角度と第2ラップ3bの周方向の角度が互いにずれた状態で、第1ラップ2bの側壁と第2ラップ3bの側壁が互いに部分的に接触するように配設される。これにより、第1ラップ2bと第2ラップ3bとの間に、三日月状の密閉空間S(本実施形態では圧縮室)が形成される。つまり、密閉空間Sが固定スクロール2と可動スクロール3との間に形成される。また、固定スクロール2と可動スクロール3は、第1ラップ2bの突出端部と第2底板3aとの間に隙間(以下、第1ラップ端隙間という)を有し、第2ラップ3bの突出端部と第1底板2aとの間に隙間(以下、第2ラップ端隙間という)を有するように配設される。本実施形態では、第1ラップ2bの突出端部に形成される溝部と、第2ラップ3bの突出端部に形成される溝部とに、それぞれチップシール部材4が嵌め込まれている。このチップシール部材4により、密閉空間Sの気密性が適切に維持され、その結果、スクロール型流体機械100における冷媒の圧縮性能が維持される。
【0018】
より具体的には、固定スクロール2は、第1底板2aの前記一端面における外縁部に立設される円筒状の円筒部2cを有している。円筒部2cは、ハウジング10の後述するセンターハウジング11の一端側(
図1では上側)の開口の内径に合せた外径を有している。固定スクロール2は、第1ラップ2b及び円筒部2cをセンターハウジング11の内側に向けて、センターハウジング11の一端開口を塞ぐように、センターハウジング11内に嵌め込まれている。
【0019】
可動スクロール3は、駆動機構20を介して、その自転が阻止された状態で、固定スクロール2の軸心X’周りに公転可能に構成されている。これにより、スクロールユニット1は、固定スクロール2と可動スクロール3との間の密閉空間Sを中央部に移動させ、その容積を徐々に減少させる。その結果、スクロールユニット1は、第1ラップ2b及び第2ラップ3bの渦巻外端部側から密閉空間S内に流入する冷媒を密閉空間S内で圧縮する。
【0020】
なお、膨張機の場合には、密閉空間Sが逆に第1ラップ2b及び第2ラップ3bの中央部から外端部へ向かって移動されることにより、密閉空間Sの容積が増大方向に変化し、第1ラップ2b及び第2ラップ3bの中央部側から密閉空間S内に取込まれた流体が膨張される。
【0021】
ハウジング10は、センターハウジング11と、フロントハウジング12と、インバータカバー13と、リアハウジング14と、を有する。そして、これら(11,12,13,14)がボルト15などの締結部材によって一体的に締結されてスクロール型流体機械100のハウジング10が構成される。ハウジング10は例えばアルミニウム合金からなる。
【0022】
センターハウジング11は、概ね円筒状の周壁部11aと周壁部11aの長手方向中間の内周面に沿って内側に突設される環状の突設部11bとを有する。センターハウジング11内には、主に、スクロールユニット1、駆動機構20、電動モータ30が収容される。周壁部11aの一端部には、リアハウジング14の外縁部14aの端面が当接されている。また、周壁部11aの他端側(
図1では下側)の開口はフロントハウジング12により閉止される。
【0023】
周壁部11aには、冷媒が流入する吸入ポートP1が形成されている。冷媒回路の低圧側からの冷媒は、この吸入ポートP1を介してセンターハウジング11内に吸入される。したがって、センターハウジング11内の空間は吸入室H1として機能している。なお、冷媒が吸入室H1内で電動モータ30の周囲等を流通することにより、電動モータ30が冷却されるように構成されている。そして、
図1において、電動モータ30の上側の空間は、電動モータ30の下側の空間と連通し、電動モータ30の下側の空間と共に一つの吸入室H1を構成する。また、吸入室H1内には、駆動機構20等の摺動部位の潤滑のために、適量の潤滑オイルが貯留されている。そのため、吸入室H1において、冷媒は潤滑オイルとの混合流体として流れている。
【0024】
突設部11bにおけるリアハウジング14側の端面11b1は駆動機構20の後述する駆動軸21aの回転軸心Xと直交する円環状の面として形成されている。この端面11b1には、駆動機構20の後述するスラスト受け部24の外縁部の端面が当接される。このスラスト受け部24とリアハウジング14との間に、固定スクロール2が挟持されることにより、固定スクロール2がスラスト受け部24と伴にセンターハウジング11内に固定されている。
【0025】
フロントハウジング12は、全体として一端開口の箱状に形成されており、センターハウジング11の周壁部11aの他端側の開口を閉止する箱底部12aと、箱底部12aの外縁部に突設される側壁部12bとを有し、内部にインバータ40を収容する。箱底部12aの中央部には、駆動軸21aの端部(
図1では下端部)を支持するフロントベアリング16を保持する筒状の支持部12a1がセンターハウジング11の内側に向って突設されている。
【0026】
インバータカバー13は、板状に形成され、フロントハウジング12の前記一端開口を閉止するものであり、ボルト15によりフロントハウジング12の側壁部12bに締結される。
【0027】
リアハウジング14は、センターハウジング11の周壁部11aの外径に合わせた外径を有する概ね円盤状に形成され、その中央部14bが外方に膨出するように形成されている。そして、このリアハウジング14は、その外縁部14aが周壁部11aの一端部に適宜本数のボルト15などの締結部材によって締結されている。
【0028】
また、リアハウジング14の外縁部14aにおける径方向の内側部位14a1は、センターハウジング11の周壁部11aの内周面より内側に張り出している。この内側部位14a1の端面が固定スクロール2の第1底板2aの他端面(ラップ2b側の端面と反対側の端面)のうちの外縁部に当接することにより、固定スクロール2がスラスト受け部24とリアハウジング14の外縁部14a(詳しくは、内側部位14a1)との間に挟持される。リアハウジング14の膨出形成された中央部14bと第1底板2aとにより、冷媒の吐出室H2が区画される。固定スクロール2におけるリアハウジング14の内側部位14a1との当接部位(前記外縁部)には、シール部材17が設けられている。吐出室H2は第1底板2aの中心部に形成された吐出孔2a1を経由して密閉空間Sに連通する。そして、この吐出室H2には、一方弁18が吐出孔2a1の開口を覆うように設けられている。この一方弁18は、吐出室H2から密閉空間Sへの流れを規制する逆止弁である。吐出室H2内には、密閉空間Sで圧縮された冷媒が吐出孔2a1及び一方弁18を介して吐出される。吐出室H2内の圧縮冷媒はリアハウジング14に形成される吐出ポート(図示省略)を介して冷媒回路の高圧側に吐出される。
【0029】
駆動機構20は、可動スクロール3の自転を阻止すると共に可動スクロール3に固定スクロール2の軸心X’周りの公転駆動力を伝達するための機構である。
【0030】
図1及び
図2に示すように、本実施形態において、駆動機構20は、クランクシャフト21と、旋回軸受22と、環状の揺動部材23と、スラスト受け部24と、自転阻止機構部25と、リアベアリング26と、連結ピン25aと、を含む。なお、本実施形態において、リアベアリング26が本発明に係る「シャフト軸受」に相当する。
【0031】
クランクシャフト21は、
図1及び
図3に示すように、駆動軸21aと偏心軸21bとを有する。駆動軸21aは、回転軸心X周りに回転駆動される。駆動軸21aの回転軸心Xは固定スクロール2の軸心X’に合わせられている。偏心軸21bは駆動軸21aの軸方向の一端部に回転軸心Xに対して偏心して設けられる。クランクシャフト21は例えば鋼材からなる。
【0032】
駆動軸21aの前記一端部には、フランジ状に形成されたフランジ部21a1が偏心軸21bと一体に設けられている。駆動軸21aの他端部は、縮径され、支持部12a1に嵌合されるフロントベアリング16によって回転可能に支持されている。
【0033】
本実施形態では、偏心軸21bと一体に形成されたフランジ部21a1に、可動スクロール3に対する重量バランスを確保するためのカウンターウェイト27がクランクシャフト21と別体で形成されている。カウンターウェイト27は、フランジ部21a1にリベットなどの締結部材(図示省略)により固定されている。具体的には、カウンターウェイト27は、概ね扇状に形成されており、駆動軸21aの前記一端部において、フランジ部21a1の外周部における所定角度部位に、フランジ部21a1のフランジ面と概ね面一になるように固定されている。
【0034】
偏心軸21bは、具体的には、駆動軸21aの回転軸心Xに対して偏心した軸心を中心とした円形断面を有し、スクロールユニット1側に向って延伸している。
【0035】
本実施形態では、偏心軸21bには、回転軸心Xと同心の円形孔21b1が形成されている。つまり、偏心軸21bの外径の中心は、駆動軸21aの回転軸心Xに対して偏心した軸心上に位置するが、偏心軸21bの内径の中心は、駆動軸21aの回転軸心X上に位置している。換言すると、偏心軸21bは筒状に形成されており、筒外径の中心は、固定スクロール2の第1ラップ2b及び可動スクロール3の第2ラップ3bが適切に摺動するように、筒内径の中心に対して偏心している。
【0036】
本実施形態では、偏心軸21bは、駆動軸21aと別体で形成されている。具体的には、偏心軸21bの円形孔21b1の孔径は駆動軸21aの外径に合わせられており、偏心軸21bを貫通している。フランジ部21a1は偏心軸21bの一端部の外周に鍔状に形成されている。駆動軸21aの前記一端部が偏心軸21bの円形孔21b1にリアベアリング26の収容領域を残して圧入されることにより、偏心軸21bが駆動軸21aの前記一端部に固定されている。つまり、円形孔21b1の孔壁面と駆動軸21aの前記一端部の端面とにより、クランクシャフト21の前記一端部(偏心軸側端部)に、円形凹部が形成される。この円形凹部には、後述するスラスト受け部24の凸部24bが挿入される。
【0037】
旋回軸受22は、偏心軸21bと嵌合する軸受であり、例えば、偏心軸21bの外周面に外嵌される軸受である。本実施形態では、旋回軸受22は、円筒状のすべり軸受からなる。旋回軸受22は、概ね偏心軸21bのフランジ部21a1のフランジ面からの突設高さに合わせた高さを有している。
【0038】
揺動部材23は、旋回軸受22の外周面に外嵌される。揺動部材23は、旋回軸受22の高さに合わせた厚みを有した円盤状に形成され、例えば、アルミニウム系合金材からなる。揺動部材23の中心部には、旋回軸受22の外径に合わせた内径を有する旋回軸受用取付孔23aが開口されている。
【0039】
図4に示すように、揺動部材23の外縁部における周方向に等間隔に離間した複数(
図2及び
図4では、6箇所)の部位には、それぞれ、後述する連結ピン25aが挿通される孔(以下では、挿通孔という)23bが貫通されている。揺動部材23は、その外縁部における各挿通孔23bの間の領域がそれぞれ径方向内側に凹むように形成されている。これにより、揺動部材23の軽量化が図られている。また、揺動部材23の外縁部の凹みは、後述するスラスト受け部24の貫通孔24aと伴に、吸入室H1からスクロールユニット1の第1ラップ2b及び第2ラップ3bの渦巻外端部付近に形成される空間H4へ冷媒(詳しくは冷媒と潤滑オイルとの混合流体)を導入するための冷媒導入通路として機能することになる。したがって、揺動部材23の外縁部の凹みにより、前記冷媒導入通路が十分に確保され、前記冷媒導入通路の圧損の低減を容易に図ることができる。そして、揺動部材23の旋回軸受用取付孔23aの孔壁面と偏心軸21bの外周面との間に、旋回軸受22が取り付けられている。旋回軸受22は、例えば、偏心軸21bの外周面と旋回軸受用取付孔23aの孔壁面のいずれか一方の面に沿って圧入されると共に、偏心軸21bの外周面と旋回軸受用取付孔23aの孔壁面のいずれか他方の面に沿って摺動可能に嵌合される。これにより、揺動部材23は、旋回軸受22を介して偏心軸21bの軸心(つまり、駆動軸21aの回転軸心Xに対して偏心した軸心)周りに回動可能に偏心軸21bに取り付けられている。なお、旋回軸受22は、偏心軸21bの外周面と旋回軸受用取付孔23aの孔壁面の双方の面に対して、それぞれ、摺動可能に嵌合されてもよい。
【0040】
スラスト受け部24は、
図1に示すように、可動スクロール3の第2底板3aと揺動部材23との間に設けられ、可動スクロール3のスラスト力を受けるものである。
【0041】
本実施形態では、スラスト受け部24は、ハウジング10と別体で形成されている。具体的には、スラスト受け部24は、例えば、可動スクロール3、揺動部材23及びハウジング10等に採用される材料(例えば、アルミニウム系合金)よりも良好な耐摩耗性を有する鋼材等の適宜の部材からなる。スラスト受け部24は、センターハウジング11の前記一端側(
図1では上側)の開口の内径に合せた外径を有した概ね円盤状に形成されている。スラスト受け部24の外縁部の端面は前述したようにセンターハウジング11の突設部11bの端面11b1に当接している。スラスト受け部24は、例えば、その外縁部が固定スクロール2の円筒部2cの先端面と突設部11bの端面11b1との間に挟持されることにより、センターハウジング11内に固定される。固定スクロール2に対するスラスト受け部24の周方向についての角度位置は、図示省略したピン及びピン穴等の適宜の位置決め手段により定められている。センターハウジング11内の空間は、スラスト受け部24により、スクロールユニット1の収容領域(
図1では、上側の空間)と駆動機構20の主要な構成要素の収容領域(
図1では、下側の空間)とに区画される。また、クランクシャフト21は、スラスト受け部24とフロントベアリング16によって回転軸心X方向の遊び量が規制されている。
【0042】
本実施形態では、スラスト受け部24とカウンターウェイト27との間に、旋回軸受22が位置している。換言すると、カウンターウェイト27が、駆動軸21aの前記一端部において、当該カウンターウェイト27とスラスト受け部24との間に旋回軸受22が位置するように設けられている。
【0043】
図1及び
図5に示すように、スラスト受け部24の外縁部には、当該外縁部を貫通する複数の貫通孔24aが開口されている。本実施形態では、貫通孔24aは、円形に開口され、スラスト受け部24の外縁部における周方向に等間隔に離間した複数(
図5では、6箇所)の部位に開口されている。
【0044】
本実施形態では、スラスト受け部24の揺動部材側端面の中央部位に、円柱状の凸部24bが突設されている。凸部24bはリアベアリング26の内径に合せた外径を有する。凸部24bの突出高さは、概ね旋回軸受22の高さに合わせられている。凸部24bの外周面には、リアベアリング26が外嵌される。
【0045】
図1に示すように、可動スクロール3の第2底板3aの背面である他端面(つまり、スラスト受け部側端面)には、シール部材19が配置される。シール部材19により、第2底板3aの背面とスラスト受け部24の可動スクロール側端面との間に区画される背圧室H3の気密性が保たれる。背圧室H3は、シール部材19のつぶし代等により定まる駆動軸21aの回転軸心X方向についての隙間高さを有しており、
図1ではこの隙間高さは現れていない。可動スクロール3の第2底板3aの中央部には、密閉空間Sと背圧室H3とを連通する連通路3dが開口されている。
【0046】
可動スクロール3の第2底板3aの背面には、シール部材19を取り付けるための溝部3eが形成されている。
図1及び
図6に示すように、可動スクロール3が固定スクロール2の軸心X’周りに公転旋回運動する際に、シール部材19がスラスト受け部24における複数の貫通孔24aの領域に入り込まないように、溝部3eの形成経路が定められている。
【0047】
また、スラスト受け部24の貫通孔24aは、前述したように、空間H4へ冷媒を導入するための冷媒導入通路として機能する。この貫通孔24aは、空間H4と吸入室H1との間を連通しているので、空間H4内の圧力は吸入室H1内の圧力(吸入室内圧力)と等しい。
【0048】
図1及び
図6に示すように、可動スクロール3の第2底板3aの外縁部には、複数の孔3cが開口されている。この可動スクロール3の孔3cは、揺動部材23に開口される挿通孔23bの開口位置と同一の位置に開口されている。
【0049】
自転阻止機構部25は、可動スクロール3の自転を阻止するための機構である。本実施形態では、自転阻止機構部25は、スラスト受け部24の外縁部を貫通する前述した複数の貫通孔24aと、貫通孔24aを貫通すると共に揺動部材23の外縁部と可動スクロール3の第2底板3aの外縁部との間を連結する連結ピン25aとにより構成されている。連結ピン25aは、その中間部が貫通孔24aの孔壁面に摺接することにより、可動スクロール3の自転を阻止すると共に可動スクロール3の前記公転駆動力を可動スクロール3に伝達する。つまり、本実施形態では、連結ピン25aは、前記公転駆動力の伝達機能と可動スクロール3の自転阻止機能とを兼ね備えている。揺動部材23における挿通孔23b及び可動スクロール3における孔3cは、貫通孔24aに対応した位置に形成されている。貫通孔24aの内径は、挿通孔23b及び孔3cの内径より大きく、例えば、可動スクロール3の必要とする公転旋回半径に応じて定められる。連結ピン25aは、例えば、スラスト受け部24と同様に鋼材からなり、貫通孔24aより小径の円柱状に形成されている。このようにして、連結ピン25aの中間部が貫通孔24aの孔壁面に摺接することにより、可動スクロール3の自転を阻止する自転阻止機構部25が構成されている。また、自転阻止機構部25を備える駆動機構20は、連結ピン25aを有し、当該連結ピン25aを介して前記公転駆動力を可動スクロール3に伝達している。
【0050】
本実施形態では、連結ピン25aの一端部は、揺動部材23の外縁部に形成される孔である挿通孔23bに圧入され、連結ピン25aの他端部は、可動スクロール3の外縁部に形成される孔3cに遊嵌されている。可動スクロール3は、連結ピン25aにより揺動部材23と連結されることにより、揺動部材23と一体に結合される。
【0051】
リアベアリング26は、スラスト受け部24の凸部24bの外周面と偏心軸21bの円形孔21b1の内周面との間に嵌め込まれ、クランクシャフト21における一端部である偏心軸21bを回転軸心X周りに回転可能に支持する軸受である。リアベアリング26は、例えば、リアベアリング26の外周面が円形孔21b1の内周面に対して摺動すると共に、リアベアリング26の内周面が凸部24bの外周面に対して摺動可能に、凸部24bの外周面と円形孔21b1の内周面との間に嵌め込まれている。リアベアリング26は、例えば、旋回軸受22と同様に円筒状のすべり軸受からなる。これにより、クランクシャフト21における前記一端部(偏心軸側端部)は、リアベアリング26により回転可能に支持され、クランクシャフト21における他端部(インバータ側端部)は、支持部12a1に嵌合されるフロントベアリング16によって回転可能に支持され、クランクシャフト21の両端部がハウジング10内において回動可能に支持される。また、クランクシャフト21の前記一端部はスラスト受け部24の凸部24bを介して回転可能に支持されている。つまり、本実施形態では、クランクシャフト21における前記一端部である偏心軸21bは、スラスト受け部24によって回転軸心X周りに回転可能に支持されている。なお、リアベアリング26における円形孔21b1や凸部24bに対する径方向の合計クリアランス(つまりラジアルクリアランス)は、旋回軸受22における揺動部材23や偏心軸21bに対する径方向の合計クリアランス(ラジアルクリアランス)よりも小さくなるように設定されている。
【0052】
電動モータ30は、スクロールユニット1の駆動源であり、駆動軸21aの回転駆動力を発生させるものである。電動モータ30は、駆動軸21aと一体にハウジング10(詳しくは、センターハウジング11)内に備えられる。電動モータ30は、ロータ31と、ロータ31の径方向外側に配置されるステータコアユニット32とを含んで構成される。電動モータ30としては、例えば、三相交流モータが適用される。例えば車両のバッテリー(図示省略)からの直流電流が、インバータ40により交流電流に変換され、電動モータ30へ給電される。
【0053】
ロータ31は、その径方向中心に形成された軸孔に嵌合(例えば圧入)される駆動軸21aを介して、ステータコアユニット32の径方向内側で回転可能に支持される。インバータ40からの給電によりステータコアユニット32に磁界が発生すると、ロータ31に回転動力が作用して駆動軸21aが回転駆動される。
【0054】
以上のように構成されたスクロール型流体機械100では、電動モータ30により駆動軸21aが回転駆動されると、偏心軸21bが旋回軸受22、揺動部材23と伴に固定スクロール2の軸心X’周りに公転し、この公転駆動力は、連結ピン25aを介して可動スクロール3へ伝達される。このとき、可動スクロール3は、連結ピン25aを介して揺動部材23と一体に結合されて、揺動部材23と一体的に公転旋回運動する。スクロール型流体機械100は、この公転旋回運動により、固定スクロール2と可動スクロール3との間の密閉空間Sに流入する冷媒を圧縮する。
【0055】
次に、スクロール型流体機械100における冷媒の流れを説明する。
冷媒回路の低圧側からの冷媒は、吸入ポートP1を介して吸入室H1に導入され、電動モータ30を冷却しつつ、揺動部材23側に向って流れる。揺動部材23側に導かれた冷媒は、その後、冷媒導入通路としての貫通孔24aや揺動部材23の外縁部の凹みを介してスクロールユニット1の渦巻外端部付近の空間H4に導かれる。そして、空間H4内の冷媒は、第1ラップ2bと第2ラップ3bとの間の密閉空間S内に取り込まれ、この密閉空間S内で圧縮される。圧縮された冷媒は、吐出孔2a1及び一方弁18を経由して吐出室H2に吐出され、その後、吐出室H2から図示省略した吐出ポートを介して冷媒回路の高圧側に吐出される。つまり、本実施形態では、吸入ポートP1からハウジング10内の電動モータ30の周囲に流入した冷媒は、貫通孔24aを経由して、固定スクロール2の第1ラップ2b及び可動スクロール3の第2ラップ3bの渦巻外端部付近に形成される空間H4へ導かれている。
【0056】
本実施形態によるスクロール型流体機械100では、駆動機構20は、スラスト受け部24の外縁部を貫通する複数の貫通孔24aを貫通すると共に揺動部材23の外縁部と可動スクロール3の第2底板3aの外縁部との間を連結する連結ピン25aを有している。したがって、駆動軸21aが回転駆動されると、偏心軸21bが旋回軸受22及び揺動部材23と伴に固定スクロール2の軸心X’周りに公転し、この公転駆動力は、連結ピン25aを介して可動スクロール3へ伝達される。このように、可動スクロール3を固定スクロール2の軸心X’周りの公転させる公転駆動力は、連結ピン25aにより伝達されるため、従来のような公転駆動力の伝達構造に起因した可動スクロール3の第2底板3aの歪みは抑制又は防止され、ひいては、スクロール型流体機械の性能低下の抑制又は防止を図ることができる。
【0057】
このようにして、可動スクロール3の第2底板3aの歪みが抑制又は防止されると共に小型化を図ることが可能なスクロール型流体機械100を提供することができる。
【0058】
ここで、前述した特許文献1に記載されたスクロール型流体機械における前記駆動力伝達機構部では、前記旋回軸受(本実施形態に係る旋回軸受22に相当)が前記可動スクロールの前記底板の背面側の中央に円筒状に突設される前記円筒ボス部の内側に設けられている。つまり、前記可動スクロールの前記底板の背面における中央の領域は、前記旋回軸受を取り付けるための領域として用いられている。例えば、このスクロール型流体機械の小型化を図るために、前記可動スクロールの外径を小さくできたとしても、前記旋回軸受の外径を小さくすることが困難な場合がある。この場合、前記可動スクロールの底板の外径を小さくしたとしても、前記可動スクロールの底板の外径に対する前記円筒ボス部の外径の比が比較的に大きくなる。したがって、特許文献1のスクロール型流体機械の構造において、小型化を図ると、前記スラストプレート(本実施形態に係るスラスト受け部24に相当)と前記可動スクロールとの摺動面積が減少し、この摺動面積の減少により、前記スラストプレートと前記可動スクロールとの接触面圧が高まる。その結果、特許文献1のスクロール型流体機械の構造において、小型化を図ると、前記スラストプレートと前記可動スクロールの前記底板との間において、油膜切れ等が生じ易くなり、信頼性が低下するおそれがある。
【0059】
上記信頼性の低下の点について、本実施形態におけるスクロール型流体機械100では、旋回軸受22は、可動スクロール3の第2底板3aの背面ではなく、スラスト受け部24とクランクシャフト21の前記一端部との間に設ける構造としたため、可動スクロール3の第2底板3aの背面全体をスラスト受け部24との摺動面として用いることができる。したがって、本実施形態におけるスクロール型流体機械100の構造においては、可動スクロール3の第2底板3aの外径を小さくして小型化を図る場合においても、可動スクロール3の第2底板3aの背面において、スラスト受け部24との摺動面積を十分に確保することができ、小型化により、スラスト受け部24と可動スクロール3の第2底板3aの背面との間における油膜切れ等の発生を抑制又は防止することができる。
【0060】
また、特許文献1に記載されたスクロール型流体機械における前記自転阻止機構部では、前記摺動孔の開口される前記スラストプレートの背面が前記フロントブロックの端面に接触しているため、前記ピンの先端面が前記フロントブロックの端面(換言すると、孔底)に接触しないように前記ピンの先端面と前記フロントブロックの端面(孔底)との間にスペースを確保する必要がある。そのため、前記スペースがデットスペースとなり、前記スペースを確保した分、摺動孔の深さ方向(換言すると、駆動軸の軸心の延伸方向)についての流体機械サイズが長くなるという問題がある。
【0061】
上記流体機械サイズの点について、本実施形態におけるスクロール型流体機械100では、自転阻止機構部25は、貫通孔24aと連結ピン25aとにより構成され、連結ピン25aの中間部が貫通孔24aの孔壁面に摺接することにより、可動スクロール3の自転を阻止する構成であるため、貫通孔24aの孔壁面における孔深さ方向の全体(つまり、本実施形態では、スラスト受け部24の厚み全体)に亘って前記孔壁面を連結ピン25aの摺接用の面として有効に用いることができる。したがって、従来のような孔深さ方向についてのデットスペースの問題を解消することができ、その分、ハウジングの小型化を図ることができる。
【0062】
本実施形態では、駆動機構20の連結ピン25aは、前記公転駆動力の伝達機能に加えて、可動スクロール3の自転阻止機能も有している。これにより、駆動機構20の構造を簡素化することができる。
【0063】
本実施形態では、クランクシャフト21における前記一端部である偏心軸21b(換言すると、クランクシャフト21における偏心軸側端部)は、スラスト受け部24によって回転軸心X周りに回転可能に支持される。つまり、クランクシャフト21の前記一端部についての軸受構造は、スラスト受け部24の一部(詳しくは凸部24b)とクランクシャフト21の一部(偏心軸21b)を用いて構成されている。したがって、クランクシャフト21の前記一端部側の軸受を支持するために、ハウジング10に従来のような軸受支持部を形成する必要はなく、その結果、ハウジング10の構造が従来より簡素化される。
【0064】
本実施形態では、スラスト受け部24の揺動部材側端面の中央部位に、円柱状の凸部24bが突設され、偏心軸21bには、回転軸心Xと同心の円形孔21b1が形成される構成としている。そして、駆動機構20は、凸部24bの外周面と円形孔21b1の内周面との間に嵌め込まれ、クランクシャフト21における前記一端部(偏心軸側端部)を回転可能に支持するリアベアリング26を、さらに含んでいる。つまり、クランクシャフト21の前記一端部についての軸受構造は、揺動部材23を回動可能に支持する旋回軸受22の内側の領域内に集約されている。これにより、クランクシャフト21の前記一端部(換言すると、可動スクロール側端部)の軸受位置を可動スクロール3の近傍に設定することができるため、冷媒の圧縮時に生じる圧縮反力に起因してクランクシャフト21と係合する軸受に作用する回転モーメント荷重を低減することができ、当該軸受の耐久性が向上する。また、駆動機構20の主要部位(揺動部材23、旋回軸受22、偏心軸21b、リアベアリング26は揺動部材23の外形に応じた領域内に集約されることになるため、ハウジング10の小型化やハウジング10内の空間を有効活用することができる。
【0065】
本実施形態では、電動モータ30を駆動軸21aと一体にハウジング10内に備え、スクロールユニット1は密閉空間Sにより冷媒を圧縮して吐出し、ハウジング10には、冷媒が流入する吸入ポートP1が形成される構成としている。そして、吸入ポートP1からハウジング10内の電動モータ30の周囲に流入した冷媒は、貫通孔24aを経由して、第1ラップ2b及び第2ラップ3bの渦巻外端部付近に形成される空間H4へ導かれている。つまり、貫通孔24aは、自転阻止機構部25としての機能だけでなく、吸入室H1から空間H4へ冷媒を導入するための冷媒導入通路としての機能も有している。したがって、前記冷媒導入通路をハウジング10等に別に形成する必要がなく、スクロール型流体機械100の生産性等を向上させることができる。また、揺動部材23の外縁部の前記凹みについても冷媒導入通路としての機能を有し、貫通孔24aと同様の効果を奏する。
【0066】
本実施形態では、連結ピン25aの一端部は揺動部材23の外縁部に形成される挿通孔23bに圧入され、連結ピン25aの他端部は可動スクロール3の外縁部に形成される孔3cに遊嵌されている。つまり、連結ピン25aにおける駆動側(揺動部材23側)については遊び(ピン外面と孔3cの孔壁面との隙間)を無くし、連結ピン25aにおける従動側(可動スクロール3側)については遊びを設けている。これにより、第1ラップ2b、第2ラップ3b等の製造公差は連結ピン25aの前記従動側の遊びにより吸収される。
【0067】
本実施形態では、偏心軸21bは、駆動軸21aと別体で形成されている。これにより、偏心軸21bを駆動軸21aと一体に形成する場合と比較すると、容易に、クランクシャフト21を製造することができる。つまり、一体形成の場合、例えば、偏心軸21bを成形加工機等のタイムチャージの高い機械等により成形加工しなければならないところ、別体形成とすることにより、汎用機械により加工することができ、その結果、製造コストを低減することができる。
【0068】
本実施形態では、スラスト受け部24は、ハウジング10と別体で形成されている。これにより、耐摩耗性の要求の高いスラスト受け部24については耐摩耗性を考慮した材料を採用し又は表面処理等を施し、ハウジング10については軽量化等を優先した材料を用いることができる。
【0069】
本実施形態では、カウンターウェイト27がクランクシャフト21と別体に形成されている。これにより、カウンターウェイト27の製造コストを低減することができる。また、特許文献1に記載された従来のスクロール型流体機械では、カウンターウェイトは、可動スクロールとクランクシャフトの可動スクロール側の軸受との間において、ハウジングの径方向に狭い空間に配置される構成であるため、カウンターウェイトの径方向についてのサイズを短くする必要があった。そのため、カウンターウェイトの重心位置が駆動軸の回転軸心に近くなり、その結果、必要とする重量バランス確保のためにはカウンターウェイトの重量を重くせざるを得なかった。一方、本実施形態では、カウンターウェイト27は、駆動軸21aの前記一端部において、当該カウンターウェイト27とスラスト受け部24との間に旋回軸受22が位置するように設けられている。したがって、カウンターウェイト27は、駆動軸21aの前記一端部の外周部とハウジング10(センターハウジング11)の内周面との間の広い空間に配置することができるため、カウンターウェイト27の重心位置を駆動軸21aの回転軸心Xから従来よりも遠ざけることができる。したがって、カウンターウェイト27を従来のカウンターウェイトよりも軽量化することができる。
【0070】
次に、本発明の第2実施形態について
図7~
図11により説明する。
図7は、本発明の第2実施形態を示すスクロール型流体機械の断面図である。
図8は、
図7のB-B矢視要部断面図である。
図9はクランクシャフト21の部分正面図であり、
図10は偏心軸21bの一部の正面図であり、
図11は揺動部材23の正面図である。なお、
図8ではリアベアリング26及びスラスト受け部24の凸部24bは図示省略されている。第1実施形態と同一要素には同一符号を付してあり、第1実施形態と異なる部分について説明する。
【0071】
第1実施形態では、旋回軸受22及びリアベアリング26はすべり軸受からななるものとした。これに対し、第2実施形態では、旋回軸受22及びリアベアリング26は、
図7及び
図8に示すように、転がり軸受からなる。
【0072】
第1実施形態では、偏心軸21bは一部品により構成されている。これに対し、第2実施形態では、
図7~
図10に示すように、偏心軸21bは、偏心ブッシュ21b’とカラー21b”の二部品により構成されている。円形孔21b1は、段付き状に開口され、大径部と大径部より小径の小径部とを有する。前記小径部に駆動軸21aの前記一端部が圧入され、前記大径部にリアベアリング26が収容される。偏心ブッシュ21b’が駆動軸21aの前記一端部に圧入されると共に、この偏心ブッシュ21b’の外側にカラー21b”が嵌め込まれることにより、駆動軸21aの軸方向の一端部に回転軸心Xに対して偏心して設けられる偏心軸21bが構成されている。
【0073】
具体的には、偏心ブッシュ21b’は、駆動軸21aの前記一端部に駆動軸21aの回転軸心Xに対して設けられ、回転軸心Xに対して偏心した軸心に沿って筒状に延伸している。偏心ブッシュ21b’の筒外面には、
図9に示すように、互いに平行に対向するように切欠かれた切欠き面21b’1が形成されている。つまり、偏心ブッシュ21b’の筒外面は、互いに対向する平坦な切欠き面21b’1と、互いに対向する円弧状の円弧面21b’2とにより構成されており、円弧面21b’2の円弧中心が駆動軸21aの回転軸心Xに対して偏心した軸心上に位置している。また、回転軸心Xと同心の円形孔21b1は、偏心ブッシュ21b’に形成され、フランジ部21a1は偏心ブッシュ21b’の一端部の外周に鍔状に形成されている。
【0074】
カラー21b”は、駆動軸21aの回転軸心Xに対して偏心した軸心を中心とした円形断面を有する。カラー21b”は、
図10に示すように、概ね筒状に形成され、筒内面は偏心ブッシュ21b’の筒外面に対応した形状を有している。つまり、カラー21b”の筒内面は、互いに対向する平坦な係合面21b”1と、互いに対向する円弧状の円弧面21b”2とにより構成されている。駆動軸21aが回転軸心X周りに回転駆動されると、カラー21b”は偏心ブッシュ21b’、旋回軸受22、揺動部材23と伴に固定スクロール2の軸心X’周りに公転する。偏心ブッシュ21b’の切欠き面21b’1とカラー21b”の係合面21b”1との間のクリアランスは、偏心ブッシュ21b’の円弧面21b’2とカラー21b”の円弧面21b”2との間のクリアランスの1/5~1/20程度に設定されている。したがって、カラー21b”の偏心ブッシュ21b’に対する周方向の移動が切欠き面21b’1及び係合面21b”1により規制される。また、円弧面21b’2と円弧面21b”2との間のクリアランスにより、各構成部品の製造公差の積み上げ公差に対する遊びが確保されると共に、液圧縮時において過大な圧縮反力が生じた場合における移動の逃げ代が確保される。例えば、圧縮動作中に圧縮反力が
図8に矢印Cで示す方向で可動スクロール3に作用すると、この圧縮反力は連結ピン25aを介して揺動部材23に伝達される。このとき、カラー21b”の係合面21b”1は可動スクロール3の公転旋回半径を大きくする方向(
図8中白抜き矢印Dで示す方向)に偏心ブッシュ21b’の切欠き面21b’1に沿って円弧面21b’2と円弧面21b”2との間のクリアランス分だけ摺動移動し、この摺動移動の方向に、可動スクロール3が揺動部材23と共に付勢される。
【0075】
このように、第2実施形態では、偏心軸21bは、駆動軸21aの前記一端部に回転軸心Xに対して偏心して設けられる偏心ブッシュ21b’と、偏心ブッシュ21b’の外周面と旋回軸受22の内周面との間に嵌め込まれる筒状のカラー21b”とにより構成されている。そして、カラー21b”は、偏心ブッシュ21b’に対する回転が阻止されると共に偏心ブッシュ21b’に対して所定の径方向(矢印Dで示す方向)への所定クリアランス分の移動が許容されるように偏心ブッシュ21b’の外周面に取り付けられている。
【0076】
第1実施形態では、カウンターウェイト27はクランクシャフト21と別体で形成された。これに対し、第2実施形態では、
図10に示すように、カウンターウェイト27はクランクシャフト21の一部と一体に形成されている。具体的には、カウンターウェイト27はクランクシャフト21の偏心軸21bを構成するカラー21b”と一体に形成されている。より詳しくは、カウンターウェイト27は、カラー21b”のフランジ部21a1側における外周部における所定角度部位に形成されている。また、カウンターウェイト27は、フランジ部21a1と旋回軸受22及び揺動部材23との間に配置されている。そして、カウンターウェイト27及び揺動部材23はフランジ部21a1及びスラスト受け部24によって、駆動軸21aの回転軸心X方向の遊び量及び傾き量が規制されている。
【0077】
また、
図11に示すように、揺動部材23の旋回軸受用取付孔23aは、旋回軸受22の外径に合せた内径で大きく開口されている。
【0078】
第2実施形態におけるスクロール型流体機械100においても、可動スクロール3を固定スクロール2の軸心X’周りの公転させる公転駆動力は連結ピン25aにより伝達されるため、従来のような公転駆動力の伝達構造に起因した可動スクロール3の第2底板3aの歪みは抑制又は防止され、ひいては、スクロール型流体機械の性能低下の抑制又は防止を図ることができる。また、従来のような孔深さ方向についてのデットスペースの問題を解消することができ、その分、ハウジングの小型化を図ることができる。
【0079】
なお、各実施形態において、自転阻止機構部25は、貫通孔24aと連結ピン25aとにより構成されるものとしたが、これに限らない。例えば、自転阻止機構部25として、オルダムカップリング方式を採用してもよいし、可動スクロール3の第2底板3aの背面とスラスト受け部24との間にボールカップリングを設けたボールカップリング方式を採用してもよい。
【0080】
図12~
図15は、オルダムカップリング方式を採用したスクロール型流体機械100の一例を説明するための図である。
図12は、オルダムカップリング方式を採用したスクロール型流体機械100の断面図である。
図13は揺動部材23の正面図であり、
図14はスラスト受け部24の正面図であり、
図15は後述するオルダムリング28の正面図である。なお、第1実施形態と同一要素には同一符号を付してあり、第1実施形態と異なる部分について説明する。以下では、オルダムカップムリング方式を採用したスクロール型流体機械100について、第1実施形態のスクロール型流体機械100の変形例として説明するが、第2実施形態のスクロール型流体機械100にも採用することができる。
【0081】
自転阻止機構部25は、例えば、揺動部材23に形成される一対の第1キー溝23c、23cと、スラスト受け部24に形成される一対の第2キー溝24c、24cと、オルダムリング28とにより構成されている。
図12及び
図13に示すように、揺動部材23のスラスト受け部側端面には、旋回軸受用取付孔23aより大径の大径凹部23dが形成されている。この大径凹部23d内にオルダムリング28が収容される。一対の第1キー溝23c、23cは、揺動部材23の大径凹部23dの底面において、互いに一列に並ぶように形成されている。
図14に示すように、一対の第2キー溝24c、24cは、スラスト受け部24の揺動部材側端面の外縁部において、貫通孔24aの開口位置を避けて、互いに一列に並ぶように形成されている。揺動部材23とスラスト受け部24とが組立てられた状態において、揺動部材23の一対の第1キー溝23c、23cと、スラスト受け部24の一対の第2キー溝24c、24cとは、互いに直交するように配置される。
図15に示すように、オルダムリング28は、大径凹部23dの深さに合わせた厚みを有する円環状のリング28aと、一対の第1キー部28b、28bと、一対の第2キー部28c、28cとを有する。一対の第1キー部28b、28bは、リング28aの厚み方向の一端面において、互いに一列に並ぶように突設され、一対の第1キー溝23c、23cに嵌め込まれる。一対の第2キー部28c、28cは、リング28aの厚み方向の他端面において、一対の第1キー部28b、28bと直交し、且つ、互いに一列に並ぶように突設され、一対の第2キー溝24c、24cに嵌め込まれる。揺動部材23は、一対の第1キー部28b、28bと一対の第2キー部28c、28cによって、自転運動が規制(阻止)される。そして、可動スクロール3は自転運動の阻止された揺動部材23に連結ピン25aを介して一体に連結されているため、可動スクロール3の自転が阻止される。
【0082】
なお、各実施形態において、クランクシャフト21の前記一端部側(偏心軸側)についての軸受構造は、スラスト受け部24の凸部24bと、偏心軸21bに円形孔21b1と駆動軸21aの前記一端部の端面とにより形成される前記円形凹部と、凸部24bと前記円形凹部との間のリアベアリング26とを備えて構成されているが、これに限らない。例えば、スラスト受け部24に円形凹部が設けられ、偏心軸21bの端面に凸部が設けられ、スラスト受け部24の前記円形凹部と偏心軸21bの前記凸部との間にリアベアリング26が設けられてもよい。また、前記円形凹部は、円形孔21b1の孔壁面と駆動軸21aの前記一端部の端面とにより形成されるものとしたが、これに限らない。図示を省略するが、偏心軸21bに、円形孔21b1に替って、回転軸心Xと同心の円形凹部を設けてもよい。
【0083】
また、各実施形態において、クランクシャフト21の前記一端部側(偏心軸側)についての軸受構造は、揺動部材23を回動可能に支持する旋回軸受22の内側の領域内に集約される構成としたが、これに限らない、例えば、リアベアリング26に替って、クランクシャフト21の可動スクロール側端部を支持する軸受をフランジ部21a1と電動モータ30との間の領域に設け、この軸受を支持する軸受支持部をハウジング10(センターハウジング11)の内周面から張り出すように設けてもよい。また、連結ピン25aの一端部が揺動部材23の挿通孔23bに圧入され、連結ピン25aの他端部が可動スクロール3の孔3cに遊嵌されるものとしたが、これに限らず、連結ピン25aの両端部が対応する孔(挿通孔23b、孔3c)に圧入されてもよいし、適度に遊嵌されていてもよい。さらに、偏心軸21bは駆動軸21aと一体に形成されてもよいし、スラスト受け部24はハウジング10と一体に形成されてもよい。また、リアベアリング26を収容するために、偏心軸21bを貫通する円形孔21b1を設けたが、これに限らない。貫通孔24aの他に、吸入室H1と空間H4との間を連通する孔がスラスト受け部24に貫通形成されていてもよい。これにより、冷媒導入通路が増え、圧力損失がさらに軽減し、その結果、消費動力がさらに低減する。
【0084】
また、各実施形態では、スクロール型流体機械100は、いわゆるインバータ一体型の場合を一例に挙げて説明したが、これに限らず、インバータ40と別体であってもよい。また、電動モータ30を内蔵するものとしたが、電動モータ30をハウジング10外に設けてもよい。そして、駆動源として電動モータ30を用いたが、これに限らず、車両のエンジンから駆動軸21aに回転動力を伝達するように構成してもよい。また、各実施形態では、流体は冷媒であるものとしたが、これに限らず、適宜の流体を適用することができる。
【0085】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態及び上記変形例に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0086】
2…固定スクロール、2a…第1底板(底板)、2b…第1ラップ(ラップ)、3…可動スクロール、3a…第2底板(底板)、3b…第2ラップ(ラップ)、3c…孔、10…ハウジング、20…駆動機構、21…クランクシャフト、21a…駆動軸、21b…偏心軸、21b1…円形孔、22…旋回軸受、23…揺動部材、23b…挿通孔(孔)、24…スラスト受け部、24a…貫通孔、24b…凸部、25…自転阻止機構部、25a…連結ピン、26…リアベアリング(シャフト軸受)、27…カウンターウェイト、30…電動モータ、100…スクロール型流体機械、H4…空間、P1…吸入ポート、S…密閉空間、X…回転軸心、X’…固定スクロールの軸心