(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】硫化検出抵抗器
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20221028BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20221028BHJP
G01N 17/04 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
G01N27/00 L
G01N27/04 Z
G01N17/04
(21)【出願番号】P 2019018198
(22)【出願日】2019-02-04
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 太郎
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0152449(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0059375(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0011142(US,A1)
【文献】米国特許第6258253(US,B1)
【文献】特開2009-250611(JP,A)
【文献】特開2017-3285(JP,A)
【文献】特開2014-153089(JP,A)
【文献】特開2017-9360(JP,A)
【文献】特開2015-230922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00 - G01N 19/10
G01N 27/00 - G01N 27/24
H01C 7/00
H01C 17/00 - H01C 17/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体形状の絶縁基板と、
前記絶縁基板の主面における両端部に形成された一対の表電極と、
一方の前記表電極に並列に接続された銅を主成分とする複数の硫化検出導体と、
他方の前記表電極と前記硫化検出導体との間に接続された複数の抵抗体と、
前記抵抗体の全体および前記硫化検出導体の一部を覆うように形成された保護膜と、
を備え、
前記硫化検出導体は前記保護膜に覆われずに所定のギャップを隔てて対向する硫化検出部を有しており、
複数の前記硫化検出導体に形成された前記ギャップが、前記硫化検出部の累積的な硫化に伴って異なるタイミングで導通することを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項2】
請求項1に記載の硫化検出抵抗器において、
複数の前記硫化検出導体は銅の含有量を異にする材料で形成されていることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項3】
請求項1に記載の硫化検出抵抗器において、
複数の前記硫化検出導体は間隔を異にする前記ギャップを有していることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項4】
請求項1に記載の硫化検出抵抗器において、
前記保護膜は、前記複数の硫化検出導体と一方の前記表電極との接続部を覆うように形成されていることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項5】
請求項1に記載の硫化検出抵抗器において、
並列配置された複数の前記硫化検出部の間に帯状保護膜が形成されていることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項6】
請求項5に記載の硫化検出抵抗器において、
前記帯状保護膜は前記硫化検出部の幅方向エッジ側を覆っていることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項7】
請求項1に記載の硫化検出抵抗器において、
前記一対の表電極間に導通確保回路部が前記硫化検出導体と並列に配置されており、前記導通確保回路部が直列に接続された抵抗体と導体とからなると共に、これら抵抗体と導体の全体が前記保護膜で覆われていることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項8】
請求項7に記載の硫化検出抵抗器において、
前記導通確保回路部の前記抵抗体は、前記硫化検出導体に接続する他の抵抗体よりも抵抗値が低く設定されていることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項9】
請求項1に記載の硫化検出抵抗器において、
前記一対の表電極間に連続して形成された前記抵抗体および前記硫化検出導体のうち、前記抵抗体にトリミング溝が形成されていると共に、該抵抗体の両端部に前記硫化検出導体と測定用導体が接続されていることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【請求項10】
請求項1に記載の硫化検出抵抗器において、
前記ギャップは蛇行形状であることを特徴とする硫化検出抵抗器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食環境の累積的な硫化量を検出するための硫化検出抵抗器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にチップ抵抗器等の電子部品の内部電極としては、比抵抗の低いAg(銀)系の電極材料が使用されているが、銀は硫化ガスに晒されると硫化銀となり、硫化銀は絶縁物であることから、電子部品が断線してしまうという不具合が発生してしまう。そこで近年では、AgにPd(パラジウム)やAu(金)を添加して硫化しにくい電極を形成したり、電極を硫化ガスが到達しにくい構造にする等の硫化対策が講じられている。
【0003】
しかし、このような硫化対策を電子部品に講じたとしても、当該電子部品が硫化ガス中に長期間晒された場合や高濃度の硫化ガスに晒された場合は、断線を完全に防ぐことが難しくなるため、未然に断線を検知して予期せぬタイミングでの故障発生を防止することが必要となる。
【0004】
そこで従来より、特許文献1に記載されているように、電子部品の累積的な硫化の度合いを検出して、電子部品が硫化断線する等して故障する前に危険性を検出可能とした硫化検出センサが提案されている。
【0005】
特許文献1に記載された硫化検出センサは、絶縁基板上にAgを主体とした硫化検出体を形成し、この硫化検出体を覆うように透明で硫化ガス透過性のある保護膜を形成すると共に、絶縁基板の両側端部に硫化検出体に接続する端面電極を形成した構成となっている。このように構成された硫化検出センサを他の電子部品と共に回路基板上に実装した後、該回路基板を硫化ガスを含む雰囲気で使用すると、時間経過に伴って他の電子部品が硫化されると共に、硫化ガスが硫化検出センサの保護膜を透過して硫化検出体に接するため、硫化ガスの濃度と経過時間に応じて硫化検出体の色が変化していく。これにより、硫化検出体の色の変化を保護膜を透して目視したり、硫化検出センサの上面に照射した光の硫化検出体からの反射光を検出したり、あるいは硫化検出体の抵抗値の変化を検出することにより、硫化の度合いを検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、硫化ガスによる硫化検出体の色の変化は微妙であるため、作業員の目視によって硫化の度合いを正確に検出することは困難であり、硫化検出体からの反射光に基づいて硫化の度合いを検出するとしても、検出するための大掛かりな設備が別途必要になるという課題がある。また、硫化検出体は比抵抗の低いAgを主体とした導電体であるため、累積的な硫化量に伴う硫化検出体の抵抗値変化は微量であり、さらにAgは温度特性(TCR)が非常に悪く、温度による抵抗値変化が大きいため、硫化検出体の抵抗値の変化に基づいて硫化の度合いを正確に検出することも困難となる。
【0008】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる硫化検出抵抗器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の硫化検出抵抗器は、直方体形状の絶縁基板と、前記絶縁基板の主面における両端部に形成された一対の表電極と、一方の前記表電極に並列に接続された銅を主成分とする複数の硫化検出導体と、他方の前記表電極と前記硫化検出導体との間に接続された複数の抵抗体と、前記抵抗体の全体および前記硫化検出導体の一部を覆うように形成された保護膜と、を備え、前記硫化検出導体は前記保護膜に覆われずに所定のギャップを隔てて対向する硫化検出部を有しており、複数の前記硫化検出導体に形成された前記ギャップが、前記硫化検出部の累積的な硫化に伴って異なるタイミングで導通することを特徴としている。
【0010】
このように構成された硫化検出抵抗器では、直列に連続する硫化検出導体と抵抗体の組が一対の表電極間に複数組並列に接続されていると共に、各組の硫化検出導体が所定のギャップを隔てて対向する硫化検出部を有しており、硫化ガスに晒されることで生成する硫化銅の結晶が伸長してギャップ間に跨ることにより、各組の硫化検出導体が異なるタイミングで導通状態となるため、一対の表電極間の抵抗値変化が段階的に変化していき、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる。
【0011】
上記構成の硫化検出抵抗器において、複数の硫化検出導体が銅の含有量を異にする材料で形成されていると、各硫化検出導体が有するギャップの間隔を同じにしても、各組の硫化検出導体が導通するタイミングを異ならせることができる。
【0012】
また、上記構成の硫化検出抵抗器において、複数の硫化検出導体が間隔を異にするギャップを有していると、各硫化検出導体を同一組成の材料で形成しても、各組の硫化検出導体が導通するタイミングを異ならせることができる。
【0013】
また、上記構成の硫化検出抵抗器において、保護膜が複数の硫化検出導体と一方の表電極との接続部を覆うように形成されていると、保護膜によって表電極と硫化検出部が隔てられるため、硫化検出抵抗器を回路基板に半田実装する際に、硫化検出部が半田で覆われてしまうことを防止できる。また、表電極をAg等を用いて形成した場合に、硫化検出導体側へのマイグレーションによって硫化検出部の予期せぬ導通を防止することができる。
【0014】
また、上記構成の硫化検出抵抗器において、並列配置された複数の硫化検出部の間に帯状保護膜が形成されていると、硫化検出部の隣接間距離が狭くなった場合でも、隣接する硫化検出部間の予期せぬ短絡を帯状保護膜によって抑制することができる。この場合において、帯状保護膜は硫化検出部の幅方向エッジ側を覆っていることが好ましい。
【0015】
また、上記構成の硫化検出抵抗器において、一対の表電極間に導通確保回路部が硫化検出導体と並列に配置されており、この導通確保回路部が直列に接続された抵抗体と導体とからなると共に、これら抵抗体と導体の全体が保護膜で覆われていると、複数の硫化検出部が導通する前の初期状態において、導通確保回路部によって両表電極間の導通を確保することができる。
【0016】
この場合において、導通確保回路部の抵抗体の抵抗値が、硫化検出導体に接続する他の抵抗体の抵抗値よりも低く設定されていると、硫化検出導体が導通状態になったときに、抵抗値の低い抵抗体を有する導通確保回路部に多くの電流が流れるため、硫化銅の結晶が硫化検出導体の硫化検出部間に僅かに接触した場合に負荷が少なくなり、不要な過負荷断線等を防止することができる。
【0017】
また、上記構成の硫化検出抵抗器において、一対の表電極間に連続して形成された抵抗体および硫化検出導体のうち、抵抗体にトリミング溝が形成されていると共に、該抵抗体の両端部に硫化検出導体と測定用導体が接続されていると、各組の抵抗体の抵抗値をトリミングする際に、個々の抵抗体の両端部に接続された硫化検出導体と測定用導体にプローブを当接させながらトリミングを行うことができる。
【0018】
また、上記構成の硫化検出抵抗器において、硫化検出導体の硫化検出部間に存するギャップが蛇行形状であると、硫化検出導体の限られた幅寸法内に全長の長いギャップを介在させることができるため、導通を検出する範囲が長くなって検出精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することが可能な硫化検出抵抗器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態例に係る硫化検出抵抗器の平面図である。
【
図3】該硫化検出抵抗器の製造工程を示す平面図である。
【
図4】該硫化検出抵抗器の製造工程を示す断面図である。
【
図5】該硫化検出抵抗器における累積硫化量と抵抗値の関係を示す説明図である。
【
図6】本発明の第2実施形態例に係る硫化検出抵抗器の平面図である。
【
図7】本発明の第3実施形態例に係る硫化検出抵抗器の平面図である。
【
図8】本発明の第4実施形態例に係る硫化検出抵抗器の平面図である。
【
図9】本発明の第5実施形態例に係る硫化検出抵抗器の平面図である。
【
図10】該硫化検出抵抗器における累積硫化量と抵抗値の関係を示す説明図である。
【
図11】本発明の第6実施形態例に係る硫化検出抵抗器の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明の実施の形態について図面を参照しながら説明すると、
図1は本発明の第1実施形態例に係る硫化検出抵抗器の平面図、
図2は
図1のII-II線に沿う断面図である。
【0022】
図1と
図2に示すように、第1実施形態例に係る硫化検出抵抗器10は、直方体形状の絶縁基板1と、絶縁基板1の表面の長手方向両端部に設けられた第1表電極2および第2表電極3と、第1表電極2に並列に接続された複数(本実施形態では3つ)の硫化検出導体4と、各硫化検出導体4と第2表電極3との間に接続された複数の抵抗体5と、各硫化検出導体4の一部と各抵抗体5の全体を覆う保護膜6と、絶縁基板1の裏面の長手方向両端部に設けられ一対の裏電極7と、絶縁基板1の長手方向両端面に設けられた一対の端面電極8と、端面電極8の表面に設けられた外部電極9と、によって主として構成されている。
【0023】
絶縁基板1は、後述する大判基板を縦横の分割溝に沿って分割して多数個取りされたものであり、大判基板の主成分はアルミナを主成分とするセラミックス基板である。
【0024】
第1表電極2と第2表電極3は銅を主成分とするCu系ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成したものであり、これら第1表電極2と第2表電極3は所定間隔を存して対向するように絶縁基板1の長手方向両端部に形成されている。一対の裏電極7も銅を主成分とするCu系ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成したものであり、これら裏電極7は絶縁基板1の表面側の第1表電極2および第2表電極3と対応する位置に形成されている。
【0025】
第1表電極2に並列に接続された3つの硫化検出導体4は、銅を主成分とするCu系ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成したものであるが、Cuペーストに添加されたNi(ニッケル)の含有量が相違している。具体的には、
図1の上段に位置する硫化検出導体4はNiを全く含まないCuペーストからなり、
図1の中段に位置する硫化検出導体4はNiを5%含むCu-Niペーストからなり、
図1の下段に位置する硫化検出導体4はNiを10%含むCu-Niペーストからなる。硫化検出導体4の中央部には幅方向に沿って延びるスリット状のギャップGが形成されており、このギャップGの間隔は各硫化検出導体4で全て同じ寸法に設定されている。
【0026】
複数の抵抗体5はCu-Ni等の抵抗体ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成させたものである。抵抗体5の両端部は硫化検出導体4と第2表電極3に接続されており、1組の硫化検出導体4と抵抗体5の直列回路部が第1表電極2と第2表電極3との間に3組並列に接続されている。
【0027】
保護膜6はアンダーコート層とオーバーコート層の2層構造からなり、そのうちアンダーコート層はガラスペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成させたものであり、オーバーコート層はエポキシ系樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化させたものである。この保護膜6は各硫化検出導体4の中央部分を除く部位と各抵抗体5の全体を覆うように形成されており、保護膜6から外部に露出する各硫化検出導体4の中央部分は、ギャップGを隔てて対向する一対の硫化検出部4aとなっている。なお、硫化検出部4aを挟んで2つに分離した保護膜6のうち、一方(図示左側)の保護膜6は第1表電極2と各硫化検出導体4との接続部を覆う位置まで延びており、他方(図示右側)の保護膜6は第2表電極3と各抵抗体5との接続部を覆う位置まで延びている。
【0028】
一対の端面電極8は、絶縁基板1の端面にNi/Crをスパッタリングしたり、Ag系ペーストを塗布して加熱硬化させたものであり、これら端面電極8は対応する第1表電極2と裏電極7間、および第2表電極3と裏電極7間をそれぞれ導通するように形成されている。
【0029】
一対の外部電極9はバリヤー層と外部接続層の2層構造からなり、そのうちバリヤー層は電解メッキによって形成されたNiメッキ層であり、外部接続層は電解メッキによって形成されたSnメッキ層である。これら外部電極9により、保護膜6から露出する第1表電極2と第2表電極3の表面と、裏電極7および端面電極8の表面がそれぞれ被覆されている。
【0030】
次に、この硫化検出抵抗器10の製造工程について、
図3と
図4を用いて説明する。なお、
図3(a)~(f)はこの製造工程で用いられる大判基板を表面的に見た平面図、
図4(a)~(f)は
図3(a)~(f)のA-A線に沿う1チップ相当分の断面図をそれぞれ示している。
【0031】
まず、絶縁基板1が多数個取りされる大判基板を準備する。この大判基板には予め1次分割溝と2次分割溝が格子状に設けられており、両分割溝によって区切られたマス目の1つ1つが1個分のチップ領域となる。
図3には1個分のチップ領域に相当する大判基板10Aが代表して示されているが、実際は多数個分のチップ領域に相当する大判基板に対して以下に説明する各工程が一括して行われる。
【0032】
すなわち、
図3(a)と
図4(a)に示すように、この大判基板10Aの表面にCu系ペーストをスクリーン印刷した後、これを乾燥・焼成して一対の第1表電極2と第2表電極3を形成する。なお、これと同時あるいは前後して、大判基板10Aの裏面にCu系ペーストをスクリーン印刷した後、これを乾燥・焼成することにより、第1表電極2および第2表電極3に対応する一対の裏電極7を形成する。
【0033】
次に、
図3(b)と
図4(b)に示すように、大判基板10Aの表面に銅を主成分とするCu系ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成することにより、ギャップGを有して第1表電極2に接続する3つの硫化検出導体4を形成する。これら3つの硫化検出導体4はCuに含有されるNiの含有量を相違しており、便宜上、図中の各硫化検出導体4に上から順に符号4A,4B,4Cを付すと、硫化検出導体4AはNiを全く含まないCuからなり、硫化検出導体4BはNiを5%含むCu-Niからなり、硫化検出導体4CはNiを10%含むCu-Niからなる。そして、まず、Niを含まないCuペーストをスクリーン印刷して乾燥した後、Niを5%含むCu-Niペーストをスクリーン印刷して乾燥し、最後にNiを10%含むCu-Niペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成することにより、第1表電極2に並列に接続された3つの硫化検出導体4A,4B,4Cを形成する。なお、各硫化検出導体4A,4B,4CのギャップGの間隔は全て同じ寸法に設定されている。
【0034】
次に、Cu-Ni等の抵抗体ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成することにより、
図3(c)と
図4(c)に示すように、両端部が硫化検出導体4(4A,4B,4C)と第2表電極3に接続する3つの抵抗体5を形成する。
【0035】
次に、各抵抗体5を覆う領域にガラスペーストをスクリーン印刷した後、このガラスペーストを乾燥・焼成してアンダーコート層を形成し、必要に応じてアンダーコート層の上から抵抗体5に図示せぬトリミング溝を形成して抵抗値調整する。しかる後、アンダーコート層の上からエポキシ系樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化させることにより、
図3(d)と
図4(d)に示すように、各硫化検出導体4A,4B,4Cの一部と各抵抗体5の全体を覆う2層構造の保護膜6を形成する。その際、各硫化検出導体4A,4B,4Cの中央部分が保護膜6から露出し、この露出部分がギャップGを介して対向する硫化検出部4aとなる。また、第1表電極2と各硫化検出導体4A,4B,4Cの接続部が保護膜6によって覆われると共に、第2表電極3と各抵抗体5の接続部も保護膜6によって覆われる。
【0036】
次に、可溶性材料等からなる図示せぬマスキングで各硫化検出導体4A,4B,4Cの硫化検出部4aを覆い、この状態で大判基板10Aを一次分割溝に沿って短冊状基板10Bに1次分割した後、短冊状基板10Bの分割面にNi/Crをスパッタリングすることにより、
図3(e)と
図4(e)に示すように、第1表電極2と裏電極7間および第2表電極3と裏電極7間を接続する端面電極8を形成する。なお、短冊状基板10Bの分割面にNi/Crをスパッタリングする代わりに、Ag系ペーストを塗布して加熱硬化させることにより端面電極8を形成するようにしても良い。
【0037】
次に、短冊状基板10Bを二次分割溝に沿って複数のチップ状基板10Cに2次分割し、これらチップ状基板10Cに対して電解メッキを施してNi-Snメッキ層を形成した後、前述したマスキングを溶剤を用いて除去する。これにより、
図3(f)と
図4(f)に示すように、第1表電極2と第2表電極3と裏電極7および端面電極8の表面に外部電極9が形成され、
図1,2に示す硫化検出抵抗器10が完成する。
【0038】
図5は、本実施形態例に係る硫化検出抵抗器10を硫化ガス雰囲気中に配置した場合における累積硫化量と抵抗値の関係を示す説明図である。
図5に示すように、硫化検出抵抗器10が硫化ガスに晒される前の初期状態において、第1表電極2と第2表電極3との間に並列配置された3つの硫化検出導体4(4A,4B,4C)にギャップGが形成されているため、硫化検出抵抗器10の初期抵抗値はオープン状態となっている。
【0039】
この硫化検出抵抗器10が硫化ガスを含む雰囲気中に配置されると、各硫化検出導体4の硫化検出部4aが硫化ガスに接するため、硫化検出部4aに生成した硫化銅の結晶がギャップG内に向かって徐々に伸長していく。ここで、3つの硫化検出導体4は銅の含有量を異にする材料で形成されており、本実施形態例の場合、
図1の上段側の硫化検出導体4(4A)に含まれる銅の含有量が最も多いため、累積硫化量が増えていくことに伴って、まず、当該硫化検出導体4の硫化検出部4a間に存するギャップGが硫化銅を介して短絡する。その結果、第1表電極2と第2表電極3間が上段側の硫化検出導体4(4A)とそれに接続する抵抗体5を介して導通状態となり、各抵抗体5の抵抗値を例えばRとすると、硫化検出抵抗器10から1つ分の抵抗体5の抵抗値Rが検出される。
【0040】
このように1つの硫化検出導体4(4A)が導通状態になった後、さらに累積硫化量が増えていくと、2番目に銅の含有量が多い中段側の硫化検出導体4(4B)の硫化検出部4a間に存するギャップGが硫化銅を介して短絡する。その結果、第1表電極2と第2表電極3間が、並列接続された上・中段の硫化検出導体4(4A,4B)とそれらに接続する抵抗体5を介して導通状態となるため、硫化検出抵抗器10から2つの抵抗体5を並列接続した分の抵抗値R/2が検出される。
【0041】
さらに累積硫化量が増えていくと、3番目に銅の含有量が多い下段側の硫化検出導体4(4C)の硫化検出部4a間に存するギャップGも硫化銅を介して短絡する。その結果、第1表電極2と第2表電極3間が、並列接続された上・中・下段の硫化検出導体4(4A,4B,4C)とそれらに接続する抵抗体5を介して導通状態となるため、硫化検出抵抗器10から3つの抵抗体5を並列接続した分の抵抗値R/3が検出される。
【0042】
以上説明したように、第1実施形態例に係る硫化検出抵抗器10では、直列に連続する硫化検出導体4と抵抗体5の組が一対の表電極2,3間に複数組並列に接続されていると共に、各組の硫化検出導体4が所定のギャップGを介して対向する硫化検出部4aを有しており、硫化ガスに晒されることで生成する硫化銅の結晶が伸長してギャップG間に跨ることにより、各組の硫化検出導体4が異なるタイミングで導通状態となるため、一対の表電極2,3間の抵抗値変化が段階的に変化していき、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる。なお、第1表電極2と第2表電極3との間に並列接続される硫化検出導体4と抵抗体5の組は、本実施形態例のような3組に限らず2組または4組以上であっても良い。
【0043】
また、第1実施形態例に係る硫化検出抵抗器10では、複数の硫化検出導体4の硫化検出部4a間が導通するタイミングを異ならせる手段として、各硫化検出導体4が銅の含有量を相違する材料、具体的にはNiの含有量を異にするCu系ペーストを用いて形成されているため、Cuに添加するNiの含有量を調整することによって、用途に合わせた硫化検出導体4を容易に形成することができる。しかも、複数の硫化検出導体4にギャップGを介して対向する硫化検出部4aが形成されており、これら硫化検出部4aが保護膜6から同じ表面積で露出しているため、硫化ガスを複数の硫化検出部4aに対して同一条件で作用させることができ、各硫化検出導体4に形成されたギャップGの導通タイミングを適切に異ならせることができる。
【0044】
なお、各硫化検出導体4のギャップG間が導通するタイミングを異ならせる手段として、各硫化検出導体4を銅の含有量が相違する材料で形成する代わりに、銅の含有量が同じ材料の膜厚を各硫化検出導体4毎に異ならせるようにしても良、その場合、膜厚の厚い硫化検出導体4ほど硫化銅が多く生成するため、膜厚の厚い硫化検出導体4のギャップG間が早いタイミングで導通する。
【0045】
また、第1実施形態例に係る硫化検出抵抗器10では、保護膜6が各硫化検出導体4と第1表電極2の接続部を覆う位置まで形成されており、保護膜6によって第1表電極2と硫化検出部4aが隔てられているため、硫化検出抵抗器10を回路基板に半田実装する際に、硫化検出部4aが半田で覆われてしまうことを防止できる。また、表電極2,3をAg等を用いて形成した場合に、硫化検出導体4側へのマイグレーションによって硫化検出部4aの予期せぬ導通を防止することができる。
【0046】
図6は本発明の第2実施形態例に係る硫化検出抵抗器20の平面図であり、
図1に対応する部分には同一符号を付すことで重複説明を省略する。
【0047】
図6に示すように、第2実施形態例に係る硫化検出抵抗器20は、複数の硫化検出導体4が有するギャップGの間隔を異ならせることにより、各硫化検出導体4の硫化検出部4a間が導通するタイミングを異ならせるようにしており、それ以外の構成は第1実施形態例に係る硫化検出抵抗器10と基本的に同じである。具体的には、
図6中の上段に位置する硫化検出導体4のギャップをG1、中段に位置する硫化検出導体4のギャップをG2、下段に位置する硫化検出導体4のギャップをG3とすると、これらギャップG1,G2,G3の間隔はG1<G2<G3に設定されている。
【0048】
このように構成された第2実施形態例に係る硫化検出抵抗器20では、硫化ガスを含む雰囲気中に配置されると、まず、ギャップG1の間隔が最も狭い上段側の硫化検出導体4が導通状態となり、次にギャップG2の間隔が狭い中段側の硫化検出導体4が導通状態となり、最後に、ギャップG3の間隔が最も広い下段側の硫化検出導体4が導通状態となる。
したがって、前述した第1実施形態例と同様に、一対の表電極2,3間の抵抗値変化が段階的に変化していき、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる。
【0049】
また、第2実施形態例に係る硫化検出抵抗器20では、各硫化検出導体4に形成されたギャップG1,G2,G3の間隔を異ならせることにより、累積硫化量の増加に伴って各硫化検出導体4が異なるタイミングで導通状態となるため、同一組成の材料(例えばCu100%)を用いて各硫化検出導体4を同一工程で形成することができる。また、この時に、各硫化検出導体4を第1表電極2および第2表電極3と同一組成の材料にて同一工程で形成しても良く、あるいは、同一組成の材料(例えばNiを30%含有するCu)を用いて各硫化検出導体4を抵抗体5と同一工程で形成しても良い。ただし、第1実施形態と同様に、各硫化検出導体4を銅の含有量が相違する材料で形成することも可能であり、その場合、ギャップの間隔が最も狭く設定された硫化検出導体4を銅の含有量が最も多い材料で形成することが好ましい。
【0050】
図7は本発明の第3実施形態例に係る硫化検出抵抗器30の平面図、
図8は本発明の第4実施形態例に係る硫化検出抵抗器40の平面図であり、
図1に対応する部分には同一符号を付すことで重複説明を省略する。
【0051】
図7に示すように、第3実施形態例に係る硫化検出抵抗器30は、保護膜6に各硫化検出導体4の硫化検出部4aの間に位置する帯状保護膜6aが形成されており、それ以外の構成は第2実施形態例に係る硫化検出抵抗器20と基本的に同じである。
【0052】
このように構成された第3実施形態例に係る硫化検出抵抗器30では、第1表電極2と第2表電極3との間に並列配置された各硫化検出導体4の硫化検出部4aの隣接間距離が狭くなった場合でも、隣接する硫化検出部4a間の予期せぬ短絡を帯状保護膜6aによって抑制することができる。
【0053】
ここで、帯状保護膜6aの幅寸法は隣接する硫化検出部4aの間隔より狭くても良いが、
図8に示す第4実施形態例に係る硫化検出抵抗器40のように、帯状保護膜6aの幅寸法を隣接する硫化検出部4aの間隔よりも幅広に形成し、帯状保護膜6aによって硫化検出部4aの幅方向エッジ側を覆うようにすると、予期せぬ短絡をより効果的に抑制することができる。
【0054】
なお、第3実施形態例と第4実施形態例では、各硫化検出導体4にギャップGの間隔を異にする硫化検出部4aが形成されており、これら硫化検出部4aの間に帯状保護膜6aを形成した場合について説明したが、このような帯状保護膜6aを第1実施形態例に係る硫化検出抵抗器10に適用し、ギャップGの間隔が同じに設定された硫化検出部4aの間に帯状保護膜6aを形成しても良い。
【0055】
図9は本発明の第5実施形態例に係る硫化検出抵抗器50の平面図であり、
図1に対応する部分には同一符号を付すことで重複説明を省略する。
【0056】
図9に示すように、第5実施形態例に係る硫化検出抵抗器50は、第1表電極2と第2表電極3間に並列に接続された複数組の硫化検出導体4と抵抗体5のうち、例えば図中の上段と中段の硫化検出導体4にだけ保護膜6から露出する硫化検出部4aが形成されており、保護膜6に覆われた下段の硫化検出導体4は外部に露出する硫化検出部を有していない。また、上段の硫化検出部4aにギャップG1が形成されていると共に、中段の硫化検出部4aにギャップG1よりも間隔の広いギャップG2が形成されているが、保護膜6に覆われた下段の硫化検出導体4にギャップは形成されていない。そして、この下段の硫化検出導体4とそれに接続する抵抗体5とで導通確保回路部を構成しており、それ以外の構成は第1実施形態例に係る硫化検出抵抗器10と基本的に同じである。
【0057】
図10は、第5実施形態例に係る硫化検出抵抗器50を硫化ガス雰囲気中に配置した場合における累積硫化量と抵抗値の関係を示す説明図である。
図10に示すように、硫化検出抵抗器50が硫化ガスに晒される前の初期状態において、保護膜6に覆われた導通確保回路部の硫化検出導体4とそれに接続する抵抗体5を介して両表電極2,3間が導通されているため、各抵抗体5の抵抗値を例えばRとすると、硫化検出抵抗器50の初期抵抗値として1つ分の抵抗体5の抵抗値Rが検出される。
【0058】
そして、この硫化検出抵抗器50が硫化ガスを含む雰囲気中に配置されると、まず、間隔の狭いギャップG1が形成された上段側の硫化検出導体4が導通状態となり、この時点で、上段側の硫化検出導体4に接続する抵抗体5と導通確保回路部の硫化検出導体4に接続する抵抗体5とを並列接続した2つ分の抵抗値R/2が検出される。さらに累積硫化量が増加していくと、間隔の広いギャップG2が形成された中段側の硫化検出導体4が導通状態となり、この時点で、上・中段側の硫化検出導体4に接続する抵抗体5と導通確保回路部の硫化検出導体4に接続する抵抗体5とを並列接続した3つ分の抵抗値R/3が検出される。したがって、前述した第1乃至第4実施形態例と同様に、一対の表電極2,3間の抵抗値変化が段階的に変化していき、硫化の度合いを正確かつ容易に検出することができる。
【0059】
このように構成された硫化検出抵抗器50において、導通確保回路部の抵抗体5の抵抗値が、保護膜6から露出する各硫化検出導体4に接続する他の抵抗体5の抵抗値よりも低く設定されていると、累積硫化量の増加に伴って硫化検出導体4が導通したときに、抵抗値の低い抵抗体5を有する導通確保回路部に多くの電流が流れるため、硫化銅の結晶が硫化検出導体4の硫化検出部4a間に僅かに接触した場合に負荷が少なくなり、不要な過負荷断線等を防止することができる。
【0060】
なお、第5実施形態例に係る硫化検出抵抗器50において、導通確保回路部の硫化検出導体4は硫化ガスの検出に関与しないため、第1表電極2に第2表電極3に向かって延びる突出部を一体形成し、この突出部を導通確保回路部の硫化検出導体4とすることも可能である。また、保護膜6から露出する複数の硫化検出導体4に形成されるギャップGの間隔は同じであっても良く、その場合は、各硫化検出導体4を銅の含有量が異なる材料で形成したり、銅の含有量が同じ材料の膜厚を各硫化検出導体4毎に異ならせるようにすれば良い。
【0061】
図11は本発明の第6実施形態例に係る硫化検出抵抗器60の平面図であり、
図1に対応する部分には同一符号を付すことで重複説明を省略する。
【0062】
図11に示すように、第6実施形態例に係る硫化検出抵抗器60は、第1表電極2に接続された3つの硫化検出導体4に対応するように、第2表電極3に3つの測定用導体11を並列に接続し、これら対応する硫化検出導体4と測定用導体11との間にそれぞれ抵抗体5を直列に接続すると共に、各抵抗体5に抵抗値調整用のトリミング溝5aが形成されており、それ以外の構成は第2実施形態例に係る硫化検出抵抗器20と基本的に同じである。
【0063】
このように構成された第6実施形態例に係る硫化検出抵抗器60では、並列配置された各抵抗体5の両端部に、硫化検出導体4の一方の硫化検出部4aと測定用導体11とが接続されているため、各組の抵抗体5の抵抗値をトリミングする際に、個々の抵抗体5の両端部に接続された硫化検出部4aと測定用導体11にプローブを当接させながらトリミングを行うことができる。
【0064】
また、第6実施形態例に係る硫化検出抵抗器60において、抵抗体5の一端部だけでなく両端部に測定用導体11を接続し、これら測定用導体11を第2表電極3と硫化検出導体4の一方の硫化検出部4aとに接続するようにしても良く、このように構成すると、より高精度に抵抗体5の抵抗値調整を行うことができる。
【0065】
なお、上述した各実施形態例では、各硫化検出導体4の硫化検出部4a間に存するギャップGが絶縁基板1の短手方向に沿って直線状に延びる形状となっているが、ギャップGをくの字状、クランク状、鋸刃形状、波形形状、渦巻き形状等の蛇行形状にすると、全長の長いギャップGを一対の硫化検出部4a間に介在させることができるため、導通を検出する範囲が長くなって検出精度が向上する。
【符号の説明】
【0066】
10,20,30,40,50,60 硫化検出抵抗器
1 絶縁基板
2 第1表電極
3 第2表電極
4,4A,4B,4C 硫化検出導体
4a 硫化検出部
5 抵抗体
6 保護膜
6a 帯状保護膜
7 裏電極
8 端面電極
9 外部電極
10A 大判基板
10B 短冊状基板
10c チップ状基板
11 測定用導体
G,G1,G2,G3 ギャップ