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特許7166187高周波コイル装置及びそれを備えた磁気共鳴撮像装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】高周波コイル装置及びそれを備えた磁気共鳴撮像装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20221028BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
A61B5/055 350
G01N24/00 570C
G01N24/00 560Y
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019023246
(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2020130221
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 浩二郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和之
(72)【発明者】
【氏名】羽原 秀太
(72)【発明者】
【氏名】大竹 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山下 聡
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-244410(JP,A)
【文献】特開2007-330795(JP,A)
【文献】特開2001-149332(JP,A)
【文献】米国特許第06441612(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0281004(US,A1)
【文献】国際公開第2011/158625(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0076361(US,A1)
【文献】特開平06-098872(JP,A)
【文献】米国特許第05361765(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00 ー 24/14
G01R 33/00 ー 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴撮像装置用の高周波コイル装置であって、可撓性を有するコイルユニットと、検査対象に対し、前記コイルユニットの外側に配置された固定具とを備え、前記固定具は、前記コイルユニットと独立して可動なパネルと、前記パネルを介して、前記検査対象に装着された前記コイルユニットを、前記検査対象に密着させる締め具を備えることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波コイル装置であって、
前記コイルユニットは、複数のループコイル部を有し、ループコイル部間の距離が可変であることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項3】
請求項1に記載の高周波コイル装置であって、
前記固定具は、前記検査対象の両側に配置され、互いの間隔が調整可能な一対のパネルと、前記締め具として、前記一対のパネルを締める固定ベルトとを備えることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項4】
請求項1に記載の高周波コイル装置であって、
前記コイルユニットを支持し、前記検査対象の両側とは異なる位置で前記コイルユニットを前記検査対象に固定する支持部をさらに備えることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項5】
請求項4に記載の高周波コイル装置であって、
前記支持部は、前記コイルユニットを検査位置と退避位置との間で移動する機構を備えることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項6】
請求項1に記載の高周波コイル装置であって、
前記コイルユニットを複数備え、前記固定具は、複数の前記コイルユニット間距離を変化させて、検査対象に密着させることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項7】
請求項6に記載の高周波コイル装置であって、
前記コイルユニットは、前記検査対象の前頭部側を覆う第一のコイルユニットと、前記検査対象の後頭部側を覆う第二のコイルユニットとを備え、頭部用コイルであることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項8】
請求項7に記載の高周波コイル装置であって、
前記第一のコイルユニットは、前記検査対象の視界用の窓部を備えることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項9】
請求項7に記載の高周波コイル装置であって、
前記第一のコイルユニット及び前記固定具の少なくとも一方に、検査対象に対し音を遮断する遮音部材を備えることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項10】
請求項1に記載の高周波コイル装置であって、
前記コイルユニットは、前記検査対象の前頭部側を覆う第一のコイルユニットと、前記検査対象の後頭部側を覆う第二のコイルユニットとを備え、
前記第一のコイルユニットを支持し、前記検査対象の両側とは異なる前記検査対象の位置で前記コイルユニットを固定する支持部をさらに備え、前記支持部は、前記第一のコイルユニットを第一の検査位置と、前記第一の検査位置とは異なる第二の検査位置との間で移動させる機構を有することを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項11】
磁気共鳴撮像装置用の高周波コイル装置であって、可撓性を有するコイルユニットと、検査対象に対し、前記コイルユニットの外側に配置された固定具とを備え、前記固定具は、前記検査対象に装着された前記コイルユニットを、前記検査対象に密着させる締め具を備え、
前記コイルユニットは、複数のサブコイルを備えたアレイコイルであって、各サブコイルは、それぞれ、ループコイル部と、前記ループコイル部のインダクタ成分に対して直列に挿入され、当該ループコイル部を並列共振回路とする並列キャパシタと、前記並列キャパシタと並列に接続され、伝送ケーブルが接続される低インピーダンス信号処理回路とを有し、
前記並列キャパシタの容量は、前記並列共振回路の共振周波数におけるインピーダンスが、前記伝送ケーブルの特性インピーダンスと同等となる容量以下に調整されていることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項12】
磁気共鳴撮像装置用の高周波コイル装置であって、可撓性を有するコイルユニットと、検査対象に対し、前記コイルユニットの外側に配置された固定具とを備え、前記固定具は、前記検査対象に装着された前記コイルユニットを、前記検査対象に密着させる締め具を備え、ヒトの頭部を覆う形状を有し、
前記コイルユニットは、複数のサブコイルを備えたアレイコイルであって、各サブコイルは、それぞれ、ループコイル部と、伝送ケーブルが接続されるインピーダンス信号処理回路を含む回路基板部と、を有し、
前記回路基板部は、前記頭部の頭頂部側に集約して配置されていることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項13】
請求項1、11、12のいずれか一項に記載の高周波コイル装置であって、
前記コイルユニットは、前記磁気共鳴撮像装置の核磁気共鳴信号を受信する受信コイル、又は、前記磁気共鳴撮像装置の高周波磁場印加用の送信コイルであることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項14】
静磁場を発生する磁石と、前記磁石が形成する静磁場空間に傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイルと、前記静磁場空間に置かれた被検体に高周波磁場を印加する送信コイルと、前記被検体から発生する核磁気共鳴信号を受信する受信コイルと、を備え、
前記送信コイル及び前記受信コイルの少なくとも一方が請求項1、11、12のいずれか一項に記載の高周波コイル装置であることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項15】
請求項14に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記高周波コイル装置は、前記コイルユニットに含まれるループコイル部のループ面が前記静磁場の方向に対し、平行となるように配置されていることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴撮像(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置に関わり、特に高周波磁場の照射や、核磁気共鳴信号を検出するRFコイル(Radio Frequency Coil:高周波コイル)に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、検査対象の任意の領域内の核スピンに核磁気共鳴を起こさせ、発生する核磁気共鳴信号からその領域の画像を得る医用画像診断装置である。
【0003】
MRI撮像では、静磁場中におかれた被検体に傾斜磁場を印加しながら高周波コイルにより高周波磁場を照射する。高周波磁場の照射により被検体内の核スピン、例えば、水素原子の核スピンが励起され、励起された核スピンが平衡状態に戻るときに核磁気共鳴信号として円偏波磁場が発生する。この信号を高周波コイルで検出し、信号処理を施して生体内の水素原子核分布を画像化する。
【0004】
高周波コイルは、例えば、核磁気共鳴信号を検出する受信コイルの場合、一般的に被検体の近傍に配置できる表面コイルが使われる。それは、高周波コイルと被検体との距離が小さいほど信号取得効率が高く、MRI画像の高画質化が可能となるからである。通常、表面コイルは、頭部、胸部、四肢など撮像対象の形状に合わせた用途別の受信コイルが用いられる。一般的に製品化されている頭部向けの受信コイルは、耐久性を重視してサイズが固定のコイル筐体を有する。被検体毎に異なるサイズや撮像時の体位の変化に対応するために、サイズを変化可能な機構を備えた頭部向けの受信コイルも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-000098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サイズが固定の一般的な頭部向けの受信コイルは、人口カバー率を上げるために大きな被検体に合わせたサイズで設計される。そのため、多くの被検体にとってはコイルと被検体の距離が大きくなり信号取得効率が低下してしまうという課題がある。また、体動によるMRI画像の画質低下を防止するために、コイル筐体と被検体の間の空間にスポンジを詰める固定作業が行われる。この作業では、技師が頭部の大きさに応じてスポンジの数や形を変更することで十分な固定が得られるようにしている。しかし、スポンジを詰める作業は、コイル筐体と被検体との間の狭い空間に対し行う必要があるため、作業に時間がかかるという課題もある。
【0007】
一方、特許文献1に記載されたコイル装置は、側臥位で寝かせられた被検体の頭部をヘッドレストに載せた状態で、ヘッドレストに載せた被検体頭部の上方に配置された第一のヘッドコイルを、ヘッドレスト上に配置された第二のヘッドコイルに対し、上下動させる手段を備えている。このコイル装置は二つのヘッドコイルの筐体間の距離を変化させることで被検体の大きさに合わせてコイルサイズを変化させることができる。
【0008】
しかし、このコイル装置は、剛性のあるコイル筐体によって頭部を左右から挟む構造であるため、コイルサイズを大きくした場合に2つの筐体間に隙間が生じてしまい、その隙間の部分のコイル感度が低下し、MRI画像の画質が低下するという課題がある。また、頭部の左右から挟むだけでは、被検体がうなずく方向に対しては体動を十分抑制することができないという課題がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、被検体のサイズによらず被検体に密着させることができる高周波コイル装置を提供すること、及びこの高周波コイル装置を用いることによって高画質なMRI画像を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、可撓性を有するコイルユニットを少なくとも1つ備える。コイルユニットの外周を囲むように固定具を配置する。固定具は、例えばコイルユニットの両側に配置された一対のパネルと、パネル間に設けられ、パネルを締め付け固定する固定ベルトとを備える。コイルユニットは固定具を締めることによる変形によって様々な頭部形状に密着配置が可能である。
【0011】
即ち、本発明の高周波コイル装置は、MRI装置用の高周波コイル装置であって、可撓性を有するコイルユニットと、検査対象に対し、前記コイルユニットの外側に配置された固定具とを備え、前記固定具は、前記検査対象に装着された前記コイルユニットを、前記検査対象に密着させる締め具を備えることを特徴とする。
また本発明のMRI装置は、送信コイルまたは受信コイルとして、本発明の高周波コイル装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面コイルを被検体に密着させる固定作業を短縮することができる。被検体のサイズによらず表面コイルを被検体に密着することができ、高画質なMRI画像を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明が適用されるMRI装置の全体構成を示すブロック図。
図2】MRI装置におけるRF送信コイルとRF受信コイルとの関係を示す図。
図3】高周波コイル装置の概要を示す図で、(a)は被検体の上から見た図、(b)はXZ面を見た図。
図4コイルユニットがアレイコイルである場合の例を示す図で、(a)はコイル本体部分を示す展開図、(b)は筐体を含むコイル本体の断面を示す図。
図5】第一実施形態の高周波コイル装置の斜視図。
図6】(a)は第一実施形態の高周波コイル装置を頭部用コイルに適用した場合のコイル本体の配置例を示す図、(b)は頭部用コイルを側面から見た図。
図7】第一実施形態の高周波コイル装置の装着例を示す図で、(a)は比較的サイズの大きい検査対象に密着させた図、(b)は比較的サイズの小さい検査対象に密着させた図。
図8】第一実施形態の高周波コイル装置の位置を示す図で、(a)は頭部検査時の位置、(b)は退避位置、(c)は顔面側への配置、を示す。
図9】(a)第一実施形態の高周波コイル装置のサブコイルの回路図、(b)及び(c)は、それぞれサブコイルに挿入された送受間磁気結合防止回路の例を示す図。
図10】第一実施形態の高周波コイル装置の変形例1を示す斜視図。
図11】(a)、(b)は、それぞれ、第一実施形態の高周波コイル装置の変形例2を示す図。
図12】(a)第二実施形態の高周波コイルのサブコイルの回路図、(b)サブコイルに挿入された送受間磁気結合防止回路の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
最初に、本発明の高周波コイルを適用するMRI装置の実施形態を説明する。
図1は、MRI装置10の概略構成を示すブロック図である。本図に示すように、MRI装置10は、主な構成として、静磁場を発生するマグネット110、静磁場に磁場勾配を与える傾斜磁場コイル120、静磁場の均一度を調整するためのシムコイル125、高周波磁場を発生するRF送信コイル130、核磁気共鳴信号を受信するRF受信コイル140と、シーケンサ150と、画像再構成等の計算やMRI装置の各部の制御を行う計算機(PC)160と、画像やGUIなどを表示する表示装置170と、を備える。
【0015】
マグネット110には、発生する静磁場の方向によって、水平磁場方式や垂直磁場方式があり、本発明はいずれの方式にも適用可能であるが、以下、水平磁場方式を例に説明を進める。図中、静磁場方向はZ方向として示す(以下、同様)。検査対象(一般にはヒト:以下、被検体ともいう)20は、テーブル190に載せられた状態で、マグネット110が生成する静磁場空間に配置される。
【0016】
傾斜磁場コイル120は、傾斜磁場電源121に接続され、傾斜磁場を発生させる。シムコイル125は、シム電源126に接続され、磁場の均一度を調整する。RF送信コイル130は、高周波磁場発生器131に接続され、検査対象20に高周波磁場を照射(送信)する。RF受信コイル140は、受信器141に接続され、検査対象20からの核磁気共鳴信号を受信する。またRF送信コイル130およびRF受信コイル140には、互いの磁気結合を防止するための磁気結合防止回路(不図示)が接続されており、磁気結合防止回路は、磁気結合防止回路駆動装置180により駆動される。
【0017】
シーケンサ150は、計算機(PC)160からの指示に従って傾斜磁場電源121、高周波磁場発生器131、磁気結合防止回路駆動装置180に命令を送り、それぞれ動作させるとともに、受信器141で検波の基準とする磁気共鳴周波数をセットする。
【0018】
計算機(PC)160は、MRI装置10全体の動作の制御、各種の信号処理を行う。例えば、シーケンサ150からの命令に従って、高周波磁場が、RF送信コイル130を通じて検査対象20に照射される。高周波磁場を照射することにより検査対象20から発生する核磁気共鳴信号は、RF受信コイル140によって検出され、受信器141で検波が行われる。受信器141で検波された信号をA/D変換回路を介して受信し、画像再構成などの信号処理を行う。その結果は、表示装置170に表示される。
【0019】
次にRF送信コイル130とRF受信コイル140の配置について、図2を参照して説明する。図2では、RF送信コイル130には一般的な鳥かご型RFコイル(全身コイル)を用い、RF受信コイル140に表面コイルを並べたアレイコイルを用いた例を示している。なお図では、アレイコイルを構成する表面コイル(サブコイルという)を2つだけ示しているが、サブコイルの数は任意である。
【0020】
RF送信コイル130として用いる鳥かご型RFコイルは、円筒状の水平磁場方式のマグネット110に内側(検査空間側)に配置され、2つのリング状の導体を複数の線状導体で連結した形状を有し、リング状導体と線状導体と一方或いは両方にキャパシタの調整素子(不図示)が挿入され、共振周波数が励起対象元素の共鳴周波数に調整されている。また導体の少なくとも一箇所に磁気結合防止回路135が直列に挿入されている。磁気結合防止回路135は、例えば、PINダイオードなどを備え、磁気結合防止回路駆動装置180からの制御信号(直流電流)によってPINダイオードのオン/オフを制御する。すなわち、高周波信号送信時には、PINダイオードを導通状態とする制御電流を流し、鳥かご型RFコイルをRF送信コイル130として機能させる。また、核磁気共鳴信号受信時には、制御電流を停止し、鳥かご型RFコイルを高インピーダンス化し、開放状態とする。
【0021】
アレイコイル(受信RFコイル140)は、各サブコイルが検査対象20にできるだけ近接するように配置されるもので、検査対象20に対し装着、取り外しできる構造を有している。
【0022】
各サブコイルには、コイルを構成する導体にキャパシタ等の調整素子が挿入されており、その共振周波数は、鳥かご型RFコイル130が励起可能な元素の核磁気共鳴信号を検出可能な共振周波数となるように調整される。また各サブコイルには、RF送信コイル130と同様に、磁気結合防止回路145が接続されている。磁気結合防止回路145は、例えば、核磁気共鳴信号の周波数で高インピーダンスとなる並列共振回路を含み、高周波信号送信時には磁気結合防止回路駆動装置180からの直流電流(制御電流)により磁気結合防止回路145を駆動することにより、磁気結合防止回路145に含まれる並列共振回路が高いインピーダンスとなって、RF送信コイル130との磁気結合を除去する。
【0023】
図2は、RF受信コイル140としてアレイコイルを用いる例であるが、RF送信コイル130として、このようなアレイコイルを用いることも可能である。
【0024】
本実施形態のMRI装置は、RF送信コイル130またはRF受信コイル140として、検査対象への装着性を向上した高周波コイル装置を用いるものであり、以下、高周波コイル装置の実施形態を説明する。以下の実施形態では、頭部コイルに適用した実施形態を説明するが、本発明の高周波コイル装置は頭部コイルに限定されるものではない。
【0025】
まず後述する各実施形態に共通する高周波コイル装置40の概要を、図3を参照して、説明する。
【0026】
高周波コイル装置40は、図3(a)、(b)に示すように、1ないし複数のコイルユニットからなるコイル本体400と、コイル本体400を検査対象(被検体)20に対し固定するための固定具500とを備える。
【0027】
コイル本体400は、図3に示す例では、2つのコイルユニット410A、410Bからなる。なお、2つのコイルユニットを区別しない場合には、符号410と記す。各コイルユニット410は、図4(a)に示すように、1ないし複数(図では複数)のループコイル部411と、ループコイル部411と外部ケーブル(不図示)とを連結する回路部(回路基板)413とを有しており、少なくともループコイル部411は、図4(b)に示すように、可撓性のある筐体480で覆われている。筐体480は、スポンジ、エラストマーや網又は繊維などの可撓性のある材料からなり、形状を任意に変更可能である。例えば図4(b)では直線状の断面を示しているが、被検体の表面に沿って曲線状に変形させることができる。
【0028】
筐体480の変形に伴い、2つのコイルユニット410(のループコイル部)間の距離やオーバーラップ度も変化する。またループコイル部411が複数ある場合には、ループコイル部411の距離やオーバーラップ度も変化する。コイルユニット410は、このようなループコイル部間の位置変化があっても互いの磁気結合が最小となるように調整されている。コイルの調整の詳細については後述する。
【0029】
各コイルユニット410におけるループコイル部411の配置は、MRI装置の静磁場方向(図中、Z方向)と直交する方向の磁場(回転磁場)を検出するために、ループ面がX-Y面に対し角度を持つように配置される。最も好適には、ループ面がZ方向とほぼ平行となるように配置される。
【0030】
固定具500は、被検体20に対し、コイル本体400より外側に配置され、被検体の左右と上方の三方からコイル本体400を被検体20に密着させる構造を持つ。さらに頭頂部側からも密着させる構成をとることも可能である。
【0031】
このように本実施形態の高周波コイル装置は、コイル本体400が可撓性を持ち、且つその外側に被検体に対しコイル本体400を密着させる構造(固定具500)を備えることにより、作業性よく被検体に装着することができ、またコイル本体と被検体とを確実に密着させることができるため、送信コイルとして用いた場合にも受信コイルとして用いた場合にも、MR画像の画質を向上することができる。
【0032】
次に、高周波コイル装置の詳細な実施形態を説明する。
【0033】
<第一実施形態>
本実施形態の高周波コイル装置40は、可撓性のあるコイル本体400と、それを被検体20に密着させる固定具500とを備える。コイル本体400は2つのコイルユニットを備え、各コイルユニットは複数のサブコイルで構成されるアレイコイルである。固定具500は、一対のパネル510と、一対のパネルを締結する固定ベルト520(締め具)とを備え、さらにコイル本体を支持する支持部530を備える。
【0034】
コイルユニット(アレイコイル)を構成するサブコイルは、核磁気共鳴信号の周波数で並列共振するように調整され、且つコイル本体の変形によるサブコイル間の距離の変動に対しても、サブコイル同士の磁気結合が防止されるように調整されている。
【0035】
[構造の特徴]
以下、図5図8を参照して本実施形態の高周波コイル装置の構造を詳述する。
コイル本体400は、図5に示すように、被検体の前頭部から側頭部の少なくとも一部を覆うようにループコイル部が配置されたアレイコイルを含むコイルユニット410Aと、後頭部から側頭部の少なくとも一部を覆うようにループコイル部が配置されたアレイコイルを含むコイルユニット410Bと、を有する。コイルユニット410Aは支持部530に固定され、コイルユニット410Bは固定具500側に固定されている。
【0036】
各コイルユニット410は、スポンジや樹脂等の可撓性のある部材からなる筐体(図4(b))480に組み込まれており、外力を加えなければ外形を保持し、外力を加えると変形可能である性質を有する。これにより後述する固定具500(パネル510)でコイル本体400を被検体20側に寄せたときに、変形して被検体20に密着させることができる。
【0037】
さらに筐体480には被検体の装着感を良くするための付属部が備えられていてもよい。このような付属部として、図5に示す例では、被検体の視界を確保するための視界窓481や、被検体の首を保護するための保護シート483などが設けられている。
【0038】
コイルユニット410(アレイコイル)は、図4に示したように、ループコイル部411と、ループコイル部411を外部のケーブルに接続するための低インピーダンス回路430等を含む給電基板部413とを備えたサブコイル420を複数配列したものである。各ループコイル部411には、送受間磁気結合防止回路145とキャパシタ等の調整用の回路素子が挿入されている。サブコイル420の電気的特性と調整用の回路素子による調整については後に詳述する。
【0039】
高周波コイル装置が、頭部用のコイルの場合、コイルユニット410内のサブコイルの給電基板部413は、図6(a)に示すように、頭頂側に集約されていてもよい。これにより、固定具500によるコイル装着時に、給電基板部413と固定パネル510とが物理的に衝突することを抑制できる。
【0040】
固定具500は、一対のパネル510と、固定ベルト520と、パネル510及び支持部530を固定する台座550とを備えている。固定ベルト520は、一対のパネル510の上端に近い位置に固定され、面ファスナ、バックル等の締結手段によって締めることができる。台座550には、その面と平行となるように軸540が固定され、パネル510は、軸540対し回動可能に固定されている。またパネル510は、軸540をガイドとして、Z方向に移動可能であってもよい。このような構成において、パネル510は軸540を中心に回動することで、一対のパネル510の上端の間隔を広げたり狭めたりすることが可能であり、固定ベルト520を締めることにより、パネル510と被検体20との間にあるコイルユニット410を被検体20に密着させることが可能である。パネル510が軸に沿って移動可能な場合には、パネル510のZ方向の位置も調整可能となる。
【0041】
支持部530は、図6(b)に示すように、頭頂部側においてコイル本体400(コイルユニット410A)を被検体に密着させるための機構であり、図示する実施形態では、コイルユニット410Aに固定された固定部531と、台座550に固定された固定部(不図示)と、これら固定部に対し屈曲自在に連結され、且つ互いに屈曲自在に連結された複数のアーム532~534とを備える。図示する例では、固定部材531に固定されたアーム532はアーチ形状であり、コイル本体の装着位置の高い自由度を確保できるように構成されている。
支持部530は、アームを連結するヒンジ部の角度を変化させることで、コイルユニット410Aの位置を、所定の可動範囲内で任意に変化させることができ、頭部に密着させることができる。
【0042】
次に本実施形態の高周波コイル装置の機能を説明する。まず、固定具500により様々な被検体サイズに対して密着配置ができる機能について図7を用いて説明する。
【0043】
図7(a)は、比較的大きな被検体20の頭部に対してコイル本体(アレイコイル)400を配置した場合の断面図を示す。この断面は、頭部の眉間付近の体軸方向に垂直な断面である。図7(a)に示すように、固定ベルト520を締めることによりパネル510が顔に寄せられ、可撓性を有するコイルユニット410Aおよび410Bが変形によって頭部形状に密着配置が可能である。これにより、信号取得効率が向上し画質が向上する。
【0044】
図7(b)に、小さな被検体20の頭部に対してコイル本体(アレイコイル)400を配置した場合の断面図を示す。この断面は、図7(a)同様に頭部の眉間付近の体軸方向に垂直な断面である。支持部530(図7では不図示)を操作し顔面側のコイルユニット410Aと後頭部側のコイルユニット410Bの距離を小さくすることで小さな頭部形状にも密着配置が可能である。固定ベルト520を締めることにより固定パネル510が顔に寄せられ、可撓性を有するアレイコイルユニット410Aおよび410Bが変形によって頭部形状に密着配置が可能である。これにより、信号取得効率が向上し画質が向上する。
【0045】
このように、可撓性を有するコイルユニット410Aおよび410Bが、被検体の頭部サイズによらず、隙間なく頭部を覆うことができるため、隙間によるコイル感度の低下を防止することができる。また固定具500により体動を防止できる。具体的には、固定パネル510により被検体の首を横に振る回転や首をかしげる回転に対する体動を抑制することができる。また、固定ベルト520により被検体の額を抑えるため、頭部の左右から挟むだけの場合に比べて、被検体がうなずく方向に対する体動も抑制することができる。
【0046】
次に支持部530の機能を説明する。図8にアーム532~534によるコイルユニット410Aの装着の様子を示す。図8では、アームの連結部を黒丸で示し、コイルユニット410Aは黒く塗りつぶして示している。またアーム534と固定部材531は図示を省略している。
【0047】
図8(a)は、被検体20の脳を検査する場合の状態を示す図である。この状態では、支持部530で支持されたコイルユニット410Aを被検体20の脳の前頭葉側を覆うように設置する。図8(b)は、コイルユニット410Aを被検体20の頭頂側へ退避させた場合の状態を示す図である。この状態では、被検体20が寝台に寝る際、または寝台から起き上がる際にコイルユニット410Aが邪魔になることを防ぐことができる。図8(c)は、被検体20の口腔領域を検査する場合の状態を示す図である。
【0048】
このような構成の高周波コイル装置40を被検体に対し設置し、固定する作業は、次のように行われる。まず、図8(b)に示すようにコイルユニット410Aが退避している状態で、被検体を後頭部側のコイルユニット410Bの上に仰臥位で寝かせる。そこに、図8(a)に示すようにコイルユニット410Aを設置する。固定ベルト520を締めて面ファスナなどで固定する。以上で、本実施形態のコイル本体400の被検体に対する設置と固定作業が一通り完了する。これにより、これまで一般的に行われていたスポンジを詰める固定作業の時間を短縮できる。また、一般的にはコイル筐体と被検体との間の狭い空間で固定作業を行っていたのに対し、本実施形態ではコイルユニット410Aの外側の広い空間を利用して固定ベルト520を操作できるため、技師の姿勢による身体的負担を軽減できる。
【0049】
また図8に示す例では、コイルユニット410Aは、被検体の装着感を良くするための付属部として、2つの位置(図8(a)、(c))に対応した視界窓481、482が備えられている。即ち、視界窓481は、コイルユニット410Aのループコイル部から張り出した筐体部分に形成された、光透過性の部材からなる窓或いは開口であり、図8(a)に示す装着位置において、この視界窓481が被検体の目の前に位置する。また視界窓482は、2つのループコイル部の、それぞれ導体がない部分(ループで囲まれた部分)に形成される。視界窓481と同様の光透過性の部材からなる窓或いは開口であり、図8(c)に示す装着位置において、この視界窓482が被検体の目の前に位置する。
これにより図8(a)の状態では、第一の視界窓481により、図8(c)の状態では、第二の視界窓482により、被検体20は視界が確保される。
【0050】
なお支持部530には、アームの可動域を制限する制限手段を設けてもよい。例えば、例えば、退避時に支持部530のアームが頭頂側に寝台長を超えてはみ出さないようにヒンジにストッパを設けるなどして可動域が制限されていてもよい。これにより、寝台を上下動させた場合に支持部530がガントリに物理的に衝突することを抑制できる。制限手段を構成する機構は、特に限定されず、手動で作動するストッパを設けてもよいし、アームの連結部にアームの可動範囲を制限する機構を設けておいてもよい。
【0051】
また、支持部530の構造として、剛性のアームとヒンジの組み合わせで構成されている場合を説明したが、支持部530はコイル本体400を退避位置から装着位置に移動させる機構であればよく、これに限らない。例えば、ボールジョイントで構成されていてもよい。これにより、可動方向の自由度が増える。
【0052】
本実施形態によれば、被検体に装着されるコイル本体400に可撓性を持たせた構造とするとともに、コイル本体400の外側の少なくとも三方からコイル本体400を被検体に対し密着させる固定具500(パネル510及び固定ベルト520)を設けたことにより、簡単な作業で被検体に対しコイル全体が近距離となるように配置し、且つ、被検体の体動を防止することができる。
【0053】
また本実施形態によれば、固定具500に加えて、可動域の広い支持部530を設けることにより、頭頂部側からもコイル本体400を被検体に密着させることができる。また、支持部材530の可動域を、顔面側のコイルユニット410が後頭部側のコイルユニット410の頭頂側へ退避する位置から、顔面側のコイルユニット410の一部が被検体のあごに届く位置までとすることで、追加のアレイコイルを必要とすることなく、脳検査と顔面部分の検査を併せて行うことができる。さらに可動域に対応して、二つの視界窓481、視界窓482を備えることにより、顔面部分に対する開放性を与え、被検体が感じる圧迫感を低減することができる。
【0054】
以上、本実施形態の高周波コイル装置40の構造とその機械的な機能について説明したが、本発明の高周波コイル装置40の構成は上記説明に限定されない。
【0055】
例えば、コイル本体400を構成するコイルユニットが2つの場合を示したが、コイルユニットの数は2つに限定されず、1つ或いは3以上であってもよい。但し、コイルユニットが2つの場合には、1つだけの場合に比べ、様々な被検体サイズに対しても密着配置が可能であり、またユニット数が多い場合に比べ、設置および固定作業の時間を短縮できるという効果がある。またコイルユニットが例えば3つ以上の場合には、異なるコイルユニット間の重なる可変量を低減しても広い被検体サイズをカバーできる。異なるコイルユニット間の重なる可変量を低減すると、サブコイル間の磁気結合を低減でき、MRI画像の画質低下を防止できる。
【0056】
また、本実施形態において、コイルユニット410は被検体20の頭部に対して配置される例を示したが対象部位は頭部に限らない。コイルユニット410の形状を工夫することで、例えば、腹部や四肢を対象部位としても同様の効果が得られる。さらに、本実施形態では、2つのコイルユニット410を被検体の頭部に設置する例を示したが、これに限らない。例えば、コイルユニット410Aを使用せず、コイルユニット410Bのみで撮像してもよい。これにより、簡便に後頭部領域のみの撮像や、新生児頭部などのさらに小さな検査対象も撮像できる。
【0057】
[コイルユニットの調整]
次にこのように近接して配置されるコイルユニット410の電気的特性の調整について説明する。コイルユニット410を構成する個々のサブコイル420の構成は、共通しているので、一つのサブコイルを代表して説明する。
【0058】
図9(a)は、本実施形態のコイルユニット(アレイコイル)410を構成する複数のサブコイルのうちひとつのサブコイル420の構成を説明するためのブロック図である。サブコイル420は、図4に示したように導体ループを有する表面コイルであり、それぞれが、核磁気共鳴信号を受信する。受信した信号は、MRI装置の受信器(不図示)に送られる。
【0059】
サブコイル420は、核磁気共鳴信号を受信するループコイル部411と、給電基板部413から構成される。給電基板部413は、低(入力)インピーダンス信号処理回路430と、ループコイル部411と低インピーダンス信号処理回路430とを接続する磁気結合調整部425と、を備える。磁気結合調整部425は、キャパシタもしくはインダクタの少なくとも一方から構成される。
【0060】
ループコイル部411のループ421は、導体で形成される。そして、ループコイル部411は、ループ421のインダクタ成分に対して直列に挿入されるキャパシタ424を備える。このインダクタ成分とキャパシタ424とは、並列共振回路を構成する。このキャパシタ424を、他のキャパシタと区別するため、並列キャパシタ424と呼ぶ。
【0061】
また、ループ421には、共振周波数を調整するキャパシタ422と、送受間磁気結合防止回路450(図2:145)とが直列に挿入される。このキャパシタ422を、他のキャパシタと区別するため、直列キャパシタ422と呼ぶ。なお、ここでは、直列キャパシタ422を2つ備える場合を例示するが、直列キャパシタ422の数は1以上であればよい。
【0062】
このように、本実施形態のサブコイル420は、調整用の回路素子として、磁気結合調整部425と、ループ421のインダクタ成分に対して直列に挿入される直列キャパシタ422と、インダクタ成分に対して直列に挿入され、ループコイル部410を並列共振回路とする並列キャパシタ424と、を備える。
【0063】
低インピーダンス信号処理回路430のループコイル部411側の一方の端子は、磁気結合調整部425を介してループコイル部411の並列キャパシタ424の一方の端に接続される。低インピーダンス信号処理回路430のループコイル部411側のもう一方の端子は、直接ループコイル部411の並列キャパシタ424の他方の端に接続される。低インピーダンス信号処理回路430のループコイル部411側でない他方の端子は、伝送ケーブルを介してMRI装置の受信器に接続される。
【0064】
送受間磁気結合防止回路450は、送信コイルとの間の磁気結合を除去する。送受間磁気結合防止回路450の回路例を図9(b)、(c)に示す。図9(b)に示す送受間磁気結合防止回路450は、直列に接続されたPINダイオード451とインダクタ452を備え、ループ421に挿入されたキャパシタ423に対し並列に接続されている。インダクタ452とキャパシタ423とは、受信する核磁気共鳴信号の周波数で並列共振するように調整される。
【0065】
また、PINダイオード451の両端には、MRI装置側に備えられた磁気結合防止回路駆動装置180(図2)に接続された制御用信号線453が接続される。制御用信号線453には高周波の混入を避けるためチョークコイルが挿入されている(不図示)。
【0066】
この送受間磁気結合防止回路450では、制御用信号線453からの信号により、並列共振回路を形成するPINダイオード451に電流が流れると、PINダイオード451はオンになり、ループ421のキャパシタ423は、受信する核磁気共鳴信号の周波数でインダクタ452と共に並列共振して高インピーダンス状態(高抵抗)となる。従って、受信する核磁気共鳴信号の周波数で、ループコイル部411は、その一部が高インピーダンスとなり、開放状態となり、そのループコイル部411を有するサブコイル420も開放状態となる。
【0067】
このように、PINダイオード451に電流が流れてオンとなることによって、各サブコイルとRF送信コイル130(図2)との磁気結合は除去される。従って、各サブコイル420をコイル素子とするアレイコイル(コイルユニット)410とRF送信コイル130との磁気結合も除去される。
【0068】
なお、サブコイル420に挿入される送受間磁気結合防止回路450の数は1つに限定されない。各ループ421に、二つ以上挿入されても良い。複数挿入することで磁気結合を十分に低下させることができる。
【0069】
図9(c)に示す送受信間磁気結合防止回路450mは、PINダイオード451の代わりに、クロスダイオード451mを用いたものである。これにより、ループ421を構成する導体に大きな信号が流れた場合、クロスダイオード451mはオンになり、ループ421のキャパシタ423は、受信する核磁気共鳴信号の周波数でインダクタ452と共に並列共振して高インピーダンス状態となる。この場合、制御用信号線は不要である。
【0070】
次に、上記構成において、各サブコイル420間の磁気結合を防止するための調整について説明する。
【0071】
並列キャパシタ424の容量は、コイルユニット410Aおよび410Bが検査対象の頭部に密着する配置において、低インピーダンス信号処理回路430から見たループコイル部411の並列共振回路の共振周波数におけるインピーダンスが、低インピーダンス信号処理回路430が接続される伝送ケーブルの特性インピーダンス(例えば50Ω)と同等となるように調整する。並列キャパシタ424はインピーダンス変換を行う機能を果たす。ループコイル部411と被検体20との距離が小さいほど、生体負荷が大きくなり、共振回路のインピーダンスを調整するために並列キャパシタ424の容量は小さくなる。
【0072】
また、磁気結合調整部425(キャパシタ等)を調整し、磁気結合調整部425と並列キャパシタ424からなる共振回路が、低インピーダンス信号処理回路430から見たときに受信する核磁気共鳴信号の周波数で直列共振するようにする。この共振回路は、並列キャパシタ424の両端からみたときには並列共振回路となっている。この並列共振回路では、上述したように、低インピーダンス信号処理回路430の入力インピーダンスが低いため、共振周波数における並列キャパシタ424の両端のインピーダンスが大きくなる。従って、他のサブコイルから見たとき、当該サブコイルのループコイル部411の一部が高インピーダンスとなりサブコイル間の磁気結合が防止される。つまり、共振周波数における並列キャパシタ424の両端のインピーダンスが大きくなることで、磁気結合が防止されるので、このインピーダンスをここではブロックインピーダンスと呼ぶ。
【0073】
具体的には、核磁気共鳴周波数に対する角周波数をω、並列キャパシタ424の容量をC、低インピーダンス信号処理回路430の入力インピーダンスをZinとすると、ブロックインピーダンスは次式で表される。
(数1)
block=1/(ω in
【0074】
ループコイル部411と被検体20の距離が小さいほど、並列キャパシタ424の容量Cは小さくなるため、コイル本体と被検体との密着配置することによって、ブロックインピーダンスを向上することができる。これにより、サブコイル間の磁気結合防止機能を向上し、画質低下を防止することができる。
【0075】
なお、以上説明した調整例では、コイルユニット410Aおよび410Bが被検体の頭部に密着する配置において、低インピーダンス信号処理回路430から見たループコイル部411の並列共振回路の共振周波数におけるインピーダンスが、低インピーダンス信号処理回路430が接続される伝送ケーブルの特性インピーダンス(例えば50Ω)と同等となるように、並列キャパシタ424の容量を調整したが、並列キャパシタ424の容量はそれより小さくてもよい。これにより、ブロックインピーダンスが向上できる。
【0076】
以上、第一実施形態の高周波コイル装置の構造上の特徴と電気特性(特にコイルの形状・位置関係の変化に伴う磁気結合防止効果)について説明したが、図面で示す実施形態は単なる例示であり、種々の変更が可能である。以下、第一実施形態を基本とするいくつかの変形例を挙げて説明する。
【0077】
<変形例1>
第一実施形態において、固定具500は固定パネル510と固定ベルト520のみから構成されていたが、これに限らない。例えば、図10に示すように、あごバンド560を追加してもよい。あごバンド560は、パネル510の外側に固定してもよいし、パネル510とあごバンド560にそれぞれ面ファスナを設け、あごバンドを着脱可能にする構成であってもよい。あごバンド560を設けることにより、被検体のうなずき方向の体動をさらに抑制することができる。
【0078】
<変形例2>
第一実施形態のパネルにおいて、コイル本体400及びパネル510の少なくとも一方に、音を抑制する機構(遮音部材)を追加してもよい。例えば、図11(a)に示すように、コイルユニット410Aの内側にイヤマフ機構60を取り付ける。または、図11(b)に示すように、コイルユニット410Aの、被検体20の耳に当たる部分に穴が開いており、パネル510にイヤマフ機構60を取り付ける。これにより、MRI検査中に被検体が聞く騒音を低減できる。また、追加でイヤマフや耳栓などを取り付ける作業時間を短縮することができる。
【0079】
以上、第一実施形態と変形例の高周波コイル装置を、水平磁場方式のMRI装置に適用する場合を説明したが、これら高周波コイル装置は垂直磁場方式のMRI装置にも適用することができる。
【0080】
<第二実施形態>
第一実施形態は、本発明の高周波コイル装置をMRI装置の受信コイルとして用いる実施形態であったが、本実施形態では高周波コイル装置を送信コイルとして用いる。本実施形態においても、高周波コイル装置が、可撓性を有するコイル本体と固定具或いは固定具及び支持部を備えること、固定具/支持部によりコイル本体が変形したりコイルユニット間の距離が変わることによって、被検体に対し密着するように固定されるものであること、は第一実施形態と同様であり、固定具の変形例は本実施形態にも適用できる。
【0081】
以下、第一実施形態と異なる点を説明する。図12は、本実施形態の高周波コイル装置40Bを送信コイルとして用いる場合の回路図である。図12においても、コイルユニットを構成するサブコイルの一つを示すが、コイルユニットが複数のサブコイルからなるアレイコイルの場合には、図4に示したように、複数のサブコイルが配列しており、それぞれが図12の回路構成を持つ。
【0082】
送信コイルとして動作するアレイコイルの各サブコイル920は、図12(a)に示すように、ループコイル部911と、低出力インピーダンス信号処理回路930とを有し、ループコイル部911と、低出力インピーダンス信号処理回路930との間に磁気結合調整部925を備える。またループコイル部911の導体ループ921には、直列キャパシタ922及び並列キャパシタ924が挿入されている。この構成は、基本的には第一の実施形態のサブコイル420(図9(a))と同様である。ただし、ループコイル部911が、磁気結合調整部925を介して接続されるのは、低入力インピーダンス信号処理回路430ではなく、低出力インピーダンス信号処理回路930である。低出力インピーダンス信号処理回路930としては、低出力インピーダンスのRFアンプ(低出力インピーダンス信号増幅器)などが用いられる。
【0083】
また、サブコイル920は、受信コイルとの磁気結合を防止する送受信間磁気結合防止回路350(図2:135)を備える。送受信間磁気結合防止回路350は、受信コイルの送受信間磁気結合防止回路450と同様に、図9(b)に示すものでもよいし、図12(b)に示すように、ループコイル部911の導体ループ921に直列に接続されたPINダイオード351でもよい。この場合、MRI装置側の制御回路から駆動信号352によってPINダイオード351に電流が流れると、ループコイル部911が閉となり、伝送ケーブルを介して供給される高周波信号によりループコイル部911に電流が流れ、高周波磁場が発生する。このとき、この高周波コイル装置とは別に受信コイルが備えられている場合には、その受信コイルに備えられた送受信間磁気結合防止回路を作動し、受信コイルをオフとする。また高周波コイル装置が送信と受信とを兼ねる場合には、ループコイル部911への高周波信号の供給と送受信間磁気結合防止回路350(PINダイオード351)への駆動信号352の送信とを同期することで、送受切替を行うことができる。
【0084】
アレイコイル(サブコイル920)における各回路素子の構成とその調整も、基本的に第一の実施形態のアレイコイル(コイルユニット)410と同様である。調整は、ループコイル部911のループ921に直列に挿入される直列キャパシタ922と、並列に挿入される並列キャパシタ924と、磁気結合調整部925とにより行われる。
【0085】
具体的には、並列キャパシタ924によって並列共振回路となる各サブコイル920の共振周波数を、MRI装置の核磁気共鳴周波数と同じになるように回路素子の容量を調整する。また磁気結合調整部925と並列キャパシタ924からなる共振回路が、低インピーダンス信号処理回路930から見たときに核磁気共鳴信号の周波数で直列共振するように調整する。この共振回路は、並列キャパシタ924の両端から見たとき並列共振回路となっており、アレイコイル910を被検体20に密着するほど、並列キャパシタ924の容量が小さくなるため、前掲の式(1)により並列キャパシタ924の両端のインピーダンス(ブロックインピーダンス)は大きくなり、サブコイル同士の磁気結合が防止される。
【0086】
以上のように、本実施形態の送信アレイコイル910を構成する各サブコイル920は、所望の周波数(例えば、64MHz)で共振するため、効率良くRFを送信できる。同時に、様々な頭部形状に密着配置が可能なため、第一の実施形態と同様に感度が向上する。そのため、送信効率が向上し撮像に必要なパワーを低減できる。
【0087】
また、複数のサブコイル920は互いに結合せず他のサブコイルとは異なる感度領域を有する。このため、マルチチャンネルとして機能する。
なお、本実施形態も、第一の実施形態同様、水平磁場方式のマグネットを備えるMRI装置、および、垂直磁場方式のマグネットを備えるMRI装置のいずれも適用可能である。
【符号の説明】
【0088】
10:MRI装置、20:検査対象(被検体)、40:高周波コイル装置、60:イヤマフ、130:RF送信コイル、140:RF受信コイル、350:送受磁気結合防止回路、400:コイル本体、410:コイルユニット(アレイコイル)、420:サブコイル、424:並列キャパシタ(調整用素子)、425:磁気結合調整回路、430:低インピーダンス信号回路、450:送受磁気結合防止回路、480:筐体、481:視界窓、482:視界窓、500:固定具、510:固定パネル、520:固定ベルト、530:支持具、560:あごバンド、910:コイルユニット、920:サブコイル、924:並列キャパシタ(調整用素子)、930:低インピーダンス信号回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12