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  • 特許-窒化物半導体の水素脱離方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】窒化物半導体の水素脱離方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/265 20060101AFI20221028BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20221028BHJP
【FI】
H01L21/265 601Z
H01L21/265 602B
H01L33/32
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019023502
(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2020136305
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 公輝
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-306854(JP,A)
【文献】特開2003-218052(JP,A)
【文献】特開2005-303146(JP,A)
【文献】特開2003-254822(JP,A)
【文献】特開2001-127002(JP,A)
【文献】特開2002-057161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265
H01L 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含まない所定の雰囲気下で、かつ、200℃以上の温度の下において、p型半導体層にHeイオンを照射して、p型ドーパントと水素とが結合した複合物から解離された水素イオンを散乱させて前記p型半導体層から放出する工程、
を含む、窒化物半導体の水素脱離方法。
【請求項2】
前記放出する工程と同時に行われる、前記p型半導体層に前記複合物を解離するエネルギーを有する光を照射して前記複合物から水素を解離する工程、
をさらに含む、請求項1に記載の窒化物半導体の水素脱離方法。
【請求項3】
前記複合物から水素を解離する工程は、400℃以上の温度の下で行う、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体の水素脱離方法。
【請求項4】
前記所定の雰囲気は、酸素系雰囲気である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の窒化物半導体の水素脱離方法。
【請求項5】
前記光は、400nm以下の波長を有する、
請求項2に記載の窒化物半導体の水素脱離方法。
【請求項6】
前記複合物から水素を解離する工程は、所定の強度を有する磁界下で行う、
請求項1から5のいずれか1項に記載の窒化物半導体の水素脱離方法。
【請求項7】
前記p型ドーパントは、Mgである、
請求項1から6のいずれか1項に記載の窒化物半導体の水素脱離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体の水素脱離方法に関し、特に、p型の窒化物半導体の水素脱離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化物半導体において、p型の半導体層の不活性化の原因となっている、p型ドーパントと水素との複合物から水素を分離する方法が提供されている(特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1には、窒化ガリウム系化合物半導体装置に含まれるp型層を活性化する方法であって、紫外線から可視光までの範囲内に含まれる波長を含む光を200~500℃の範囲内の温度の下で前記p型層に照射し、それによって、前記p型層に含まれるp型ドーパントに結合した水素を分離除去して前記p型ドーパントのアクセプタとしての活性化を促進させることを特徴とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-306854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法によれば、熱エネルギーや光のエネルギーによって複合体から解離された水素は、p型半導体層内でイオン化されたエネルギー的に不安定な状態として存在している。そのため、複合体から解離された水素は、p型ドーパントと再結合しやすく、p型層から取り出しきれずにp型層内に残留する虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、p型半導体層に残留する水素の量を低減することができる、窒化物半導体の水素脱離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、水素を含まない所定の雰囲気下で、かつ、200℃以上の温度の下において、p型半導体層にHeイオンを照射して、p型ドーパントと水素とが結合した複合物から解離された水素イオンを散乱させて前記p型半導体層から放出する工程、を含む、窒化物半導体の水素離脱方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、p型半導体層に残留する水素の量を低減することができる、窒化物半導体の水素脱離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る水素脱離方法を適用し得る窒化物半導体発光素子の構成の一例を概略的に示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る水素脱離方法を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0011】
(窒化物半導体発光素子の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る水素脱離方法を適用し得る窒化物半導体発光素子の構成の一例を概略的に示す断面図である。この窒化物半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」ともいう。)は、例えば、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)である。図1に示す例では、特に、中心波長が250nm~350nmの深紫外光を発する発光素子1を例に挙げて説明する。
【0012】
発光素子1を構成する半導体には、例えば、AlGaIn1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)にて表される2元系、3元系若しくは4元系のIII族窒化物半導体を用いることができる。また、これらのIII族元素の一部は、ホウ素(B)、タリウム(Tl)等で置き換えても良く、また、Nの一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置き換えても良い。
【0013】
図1に示すように、発光素子1は、透明基板11と、透明基板11上に形成されたAlGaN系の窒化物半導体層10と、電極16と、を有している。窒化物半導体層10は、透明基板11側から順に、AlNを含むバッファ層12と、n型AlGaNを含むnクラッド層13と、AlGaNを含む発光層14と、p型半導体層15と、を含んで構成されている。
【0014】
p型半導体層15は、p型AlGaNを含むpクラッド層152と、p型GaNを含むpコンタクト層154とで構成されている。電極16は、コンタクト層154上に形成されたアノード側電極部(p側電極部)162及びnクラッド層13上に形成されたカソード側電極部(n側電極部)164と、を有している。
【0015】
透明基板11は、例えば、サファイア(Al)基板である。透明基板11には、サファイア(Al)基板の他に、例えば、窒化アルミニウム(AlN)基板や、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)基板を用いてもよい。バッファ層12には、アンドープのu-AlGaN層(不図示)を含んでもよい。
【0016】
nクラッド層13は、n型AlGaNに、例えば、n型の不純物(以下、「n型ドーパント」ともいう。)としてシリコン(Si)がドープされた層である。なお、n型ドーパントとしては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)、テルル(Te)、炭素(C)等を用いてもよい。また、nクラッド層13は、単層でもよく、多層構造でもよい。
【0017】
発光層14は、所定のAl組成比(「AlNモル分率(%)」ともいう。)を有するAlGaNにより形成されている。Al組成比は、所定の波長を有する光を出力できるバンドギャップが実現されるように適宜調整される。一例として波長350nm以下の深紫外光を出力する場合、Al組成比は、バンドギャップが3.4eV以上となるように調整される。なお、発光層14は、単層でもよく、複数の障壁層と複数の井戸層とを交互に積層した多重量子井戸層でもよい。また、発光層14とpクラッド層152との間には、GaNを含まないAlNや、p型AlGaNにより形成された電子ブロック層をさらに設けてもよい。
【0018】
pクラッド層152は、p型AlGaNに、例えば、p型の不純物(以下、「p型ドーパント」ともいう。)としてマグネシウム(Mg)がドープされた層である。なお、p型ドーパントとしては、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等を用いてもよい。pコンタクト層154は、例えば、pGaNに上述のMg等のp型ドーパントが高濃度にドープされた層である。
【0019】
p側電極部162は、例えば、pコンタクト層154の上に順に積層されるニッケル(Ni)/金(Au)の多層膜で形成される。n側電極部164は、例えば、nクラッド層13の上に順にチタン(Ti)/アルミニウム(Al)/Ti/金(Au)が順に積層された多層膜で形成される。
【0020】
(発光素子1の製造方法)
次に、発光素子1の製造方法について説明する。結晶成長には、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)、分子線エピタキシ法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)、ハライド気相エピタキシ法(Halide Vapor Phase Epitaxy:NVPE)等の周知のエピタキシャル成長法を用いることができる。また、原料ガスには、Ga源としてTMG(トリメチルガリウム)、Al源としてTMA(トリメチルアルミニウム)、N源としてアンモニア、n型ドーパント源としてシラン、p型ドーパント源としてCpMg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いることができる。
【0021】
具体的には、まず、エピタキシャル成長法によって、透明基板11上に、バッファ層12、nクラッド層13、発光層14、pクラッド層152及びpコンタクト層154を順に積層する。次に、pコンタクト層154の成長後、透明基板11上に形成された窒化物半導体層10(特に、p型半導体層15)に対して、本発明の実施の形態に係る水素脱離方法によって水素を脱離する処理を行う。水素脱離方法の詳細は、後述する。
【0022】
次に、pコンタクト層154の上の一部にマスクを形成し、マスクが形成されていない露出領域の発光層14、pクラッド層152及びpコンタクト層154を除去する。発光層14、pクラッド層152及びpコンタクト層154の除去は、例えば、プラズマエッチングにより行うことができる。nクラッド層13の露出面13a(図1参照)上にn側電極部164を形成し、マスクを除去したpコンタクト層154上にp側電極部162を形成する。n側電極部164及びp側電極部162は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法などの周知の方法により形成することができる。
【0023】
(水素脱離方法)
次に、図2を参照して、本発明の実施の形態に係る水素脱離方法を説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る水素脱離方法を模式的に説明する図である。この水素脱離方法は、主として、上述した窒化物半導体層10のうち特にp型半導体層15(図1に示す例では、pクラッド層152及びpコンタクト層154)に作用する。
【0024】
水素脱離方法は、p型半導体層15に、p型ドーパントがアンモニアから分解された水素と結合した複合物を分解するエネルギー(すなわち、結合解離エネルギー)を有する光3を照射する工程を含む。この光3の波長は、好ましくは、400nm以下(すなわち、3.10eV以上)の紫外線である。この光3が、例えば、p型ドーパントとしてのMgと水素とが結合したMg-H(50)に照射されることによって、Mg-Hは、MgとH(水素イオン)とに解離する。Mg-H(50)は、複合物の一例である。
【0025】
また、水素脱離方法は、上述した光3を照射する工程と同時に、p型半導体層15にHe(ヘリウム)イオン4をさらに照射する工程を含む。Mg-Hを解離すると同時に、解離によって発生したH(水素イオン)を散乱させるためである。照射されたHeイオン4は、光3のエネルギーによって複合物から解離された水素イオン51Aに衝突する。Heイオン4が水素イオン51Aに衝突すると、水素イオン51Aは散乱される(RS:Rutherford scattering)。特に、Heイオン4より質量の小さい水素イオン51Aは、Heイオン4の入射方向(図2の矢印参照)に対して前方向に散乱される(HFS:Hydrogen Forward Scattering)。Heイオン4によって前方に散乱された水素イオン51Aは、p型半導体層15の外部に放出される。
【0026】
照射するHeイオン4のエネルギーや、Heイオン4を照射する角度(例えば、型半導体層15の上面と照射方向とのなす角(図2の「θ」参照))は、p型半導体層15の結晶構造を壊さないようにする観点から適宜調整される。Heイオン4の照射エネルギー(衝突エネルギーともいう。)は、GaNやAlGaNの結合解離エネルギーより小さくする必要がある。なお、Heイオン4を照射する工程は、必ずしも光3を照射する工程を伴って行う必要はなく、例えば、Heイオン4の照射エネルギーが一定の値(例えば、Mg-Hの結合解離エネルギー)よりも大きい場合は、単独で行ってもよい。Heイオン4の照射エネルギーがMg-Hの結合解離エネルギーよりも大きい場合、光3を照射しなくとも、Heイオン4の照射によってMg-Hを解離させることができるためである。
【0027】
また、Heイオン4の入射角度θは、深さに依存するが1μm程度であれば、例えば、45±30°がよい。より好ましくは、Heイオン4の入射角度θは、40°~75°がよい。結合解離エネルギーが十分小さいのであれば、衝突方向に鉛直成分(すなわち、90°)を含む全方向から衝突させても良い。
【0028】
上述の工程は、水素を含まない所定の雰囲気で行う。この所定の雰囲気には、例えば、窒素、酸素、活性酸素、オゾン等の酸化物雰囲気が含まれる。所定の雰囲気は、好ましくは、酸素2を多く含む酸素系雰囲気である。また、水素脱離方法は、200℃以上、好ましくは、400℃以上の温度の下で行う。温度を400℃以上にすることにより、Mg-Hが解離され、順方向電圧(V)を低くすることができる。なお、高温付加は透明基板11や設備に負担となり、リードタイムも長いため、200℃以上が好ましい。
【0029】
酸素系雰囲気下では、水素イオンは、酸素と結合しやすくなる。すなわち、p型半導体層15の外部に放出された水素イオン51Bは、酸素系雰囲気下において、酸素2により捕捉されやすくなる。水素イオン51Bが酸素と結合すると水(HO)となるため、水分として蒸発させることができる。このように、p型半導体層15から放出された水素イオン51Bが周囲の酸素2と結合することにより、p型半導体層15内に混入して再びMgと結合することを抑制することができる。
【0030】
また、上述の工程は、好ましくは、所定の強度を有する磁界下で行う。磁力により水素イオン51Aをドリフトさせることにより、p型半導体層15のより深い位置にある水素イオン51A(すなわち、より発光層14に近い側に存在する水素イオン51A)をp型半導体層15の表面に移動させることができ、より多くの水素イオン51Aをp型半導体層15の外部に放出させることができる。好ましくは、所定の強度は、5.6×10-7~4.5×10A/m(0.5Tの場合)である。
【0031】
また、Heイオンにより被照射側がプラスに帯電することを防ぐため、被照射側を接地してもよい。その際、被照射側に磁界を設け、高密度なHeイオンを被照射上に集め、ドリフトさせることができ、効率よく大面積に被照射側にスパッタさせることできる。なお、磁石を回転させる(好ましくは偏心回転)ことでより大きな面積にスパッタさせることが可能である。
【0032】
また、透明基板11の温度が高熱になるのを避けたい場合は、透明基板11の裏面にヒートシンク(例えば、内部に冷水が流れる部材)を設けてもよい。
【0033】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る水素脱離方法は、Heイオンをp型半導体層に照射して、複合物から解離された水素イオンを散乱させてp型半導体層から放出する工程を含むため、p型半導体層内に残留する水素の量を低減することができる。
【0034】
(実施形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0035】
[1]水素を含まない所定の雰囲気下で、かつ、200℃以上の温度の下において、p型半導体層(15)にHeイオン(4)を照射して、p型ドーパントと水素とが結合した複合物(50)から解離された水素イオン(51A)を散乱させて前記p型半導体層(15)から放出する工程、を含む、窒化物半導体の水素脱離方法。
[2]前記放出する工程と同時に行われる、前記p型半導体層(15)に前記複合物(50)を解離するエネルギーを有する光(3)を照射して前記複合物(5)から水素を解離する工程、をさらに含む、前記[1]に記載の窒化物半導体の水素脱離方法。
[3]前記複合物から水素を解離する工程は、400℃以上の温度の下で行う、前記[1]又は[2]に記載の窒化物半導体の水素脱離方法。
[4]前記所定の雰囲気は、酸素系雰囲気である、前記[1]から[3]のいずれか1つに記載の窒化物半導体の水素脱離方法。
[5]前記光は、400nm以下の波長を有する、前記[2]から[4]のいずれか1つに記載の窒化物半導体の水素脱離方法。
[6]前記複合物から水素を解離する工程は、所定の強度を有する磁界下で行う、前記[1]から[5]のいずれか1つに記載の窒化物半導体の水素脱離方法。
[7]前記p型ドーパントは、Mgである、前記[1]から[6]のいずれか1つに記載の窒化物半導体の水素脱離方法。
【符号の説明】
【0036】
1…窒化物半導体発光素子(発光素子)
10…窒化物半導体層
11…透明基板
12…バッファ層
13…nクラッド層
13a…露出面
14…発光層
15…p型半導体層
152…pクラッド層
154…pコンタクト層
16…電極
162…アノード側(p側)電極部
164…カソード側(n側)電極部
2…酸素
3…光
4…Heイオン
50…Mg-H(複合物)
51A…水素イオン(p型半導体層内)
51B…水素イオン(放出された)
図1
図2