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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】タイル健全基準取得装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/12 20060101AFI20221028BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20221028BHJP
   G01N 29/50 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
G01N29/12
G01N29/04
G01N29/50
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019158555
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021038936
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】稲留 康一
(72)【発明者】
【氏名】起橋 孝徳
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-304773(JP,A)
【文献】特開2019-090637(JP,A)
【文献】特開2018-036073(JP,A)
【文献】特開2018-009906(JP,A)
【文献】特開2008-232763(JP,A)
【文献】特開2018-013348(JP,A)
【文献】特開平09-080033(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0016975(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロホンにより検出された周囲音を含む複数のタイルの打音に基いて、所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる周波数特性の群を取得する周波数特性取得部と、
前記周波数特性取得部が取得した周波数特性の群に対してクラスター分析を行い2つのグループに区分するクラスター分析部と、
前記クラスター分析部で区分した各グループにおいて、前記各周波数帯域における音圧レベルの相関係数を算出する相関係数算出部と、
前記相関係数算出部が算出したそれぞれのグループの何れかにおける前記各周波数帯域における音圧レベルの相関係数が所定の閾値を超える場合、当該グループに属する周波数特性を取得した際に打音を発したタイルは健全であると推定する健全性推定部と、
前記健全性推定部がタイルが健全であると推定したグループの各周波数特性の音圧レベルの平均値を健全なタイルの基準周波数特性として記憶する基準記憶部とを備えることを特徴とするタイル健全基準取得装置。
【請求項2】
前記クラスター分析は階層クラスター分析であることを特徴とする請求項1に記載のタイル健全基準取得装置。
【請求項3】
所定の閾値は、所定のパーセントの有意水準の相関係数の値であることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイル健全基準取得装置。
【請求項4】
前記健全性推定部が前記2つのグループが共に健全であると推定した場合、一方のグループの平均値から所定の範囲内に他のグループの平均値が存在していれば、前記2つのグループに属する全ての周波数特性の平均値を前記基準周波数特性として前記基準記憶部に記憶することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のタイル健全基準取得装置。
【請求項5】
マイクロホンにより検出された周囲音を含む複数のタイルの打音に基いて、所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる周波数特性の群を取得する周波数特性取得工程と、
前記周波数特性取得工程において取得した周波数特性の群に対してクラスター分析を行い2つのグループに区分するクラスター分析工程と、
前記クラスター分析工程において区分した各グループにおいて、前記各周波数帯域における音圧レベルの相関係数を算出する相関係数算出工程と、
前記相関係数算出工程において算出したそれぞれのグループの何れかにおける前記各周波数帯域における音圧レベルの相関係数が所定の閾値を超える場合、当該グループに属する周波数特性を取得した際に打音を発したタイルは健全であると推定する健全性推定工程と、
前記健全性推定工程においてタイルが健全であると推定したグループの各周波数特性の音圧レベルの平均値を健全なタイルの基準周波数特性として記憶する基準記憶工程とを備えることを特徴とするタイル健全基準取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイルの健全性に係る基準データを取得する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンションなどの建築物の外壁タイルは、10年毎に全面打診検査を実施して定期報告することが義務付けられている。現状の一般的な検査方法は、検査員がタイルを1枚ずつ打診棒などで叩き、その打音から浮きなどの不具合に係る健全性を判定している。しかし、検査員の聴覚によってタイルの健全性を判定しており、検査員の熟練度などによっては判定結果に誤りが生じるおそれがあった。
【0003】
そこで、タイルの打音から自動的に健全性を判定することが提案されている。例えば、特許文献1には、ロータリソレノイドを用いて打撃する打撃装置を用いてタイルを打撃し、健全と判断されるタイルの打音の周波数特性の実効値を教師データとしておき、この教師データと個々のタイルの打音の計測データとの相関係数を算出し、相関係数が所定の閾値よりも大きい場合に健全なタイルであると診断する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-304773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、タイルの種別や大きさ、張り付け剤の種別、下地の種別、日射条件などを含む多数の条件に応じて、健全なタイルであっても打音は相違する。そのため、上記特許文献1における教師データなど、健全なタイルを打音した際の基準となる打音データを、現場毎に最適なものを予め用意しておくことは困難である。また、現場毎に基準となる打音データを取得するには、熟練した検査員が必要となる。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、現場毎に健全性の基準となる打音データを熟練した検査員に依存することなく簡易に取得することが可能なタイル健全基準取得装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のタイル健全基準取得装置は、マイクロホンにより検出された周囲音を含む複数のタイルの打音に基いて、所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる周波数特性の群を取得する周波数特性取得部と、前記周波数特性取得部が取得した周波数特性の群に対してクラスター分析を行い2つのグループに区分するクラスター分析部と、前記クラスター分析部で区分した各グループにおいて、前記各周波数帯域における音圧レベルの相関係数を算出する相関係数算出部と、前記相関係数算出部が算出したそれぞれのグループの何れかにおける前記各周波数帯域における音圧レベルの相関係数が所定の閾値を超える場合、当該グループに属する周波数特性を取得した際に打音を発したタイルは健全であると推定する健全性推定部と、前記健全性推定部がタイルが健全であると推定したグループの各周波数特性の音圧レベルの平均値を健全なタイルの基準周波数特性として記憶する基準記憶部とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明のタイル健全基準取得装置によれば、クラスター分析部で自動的に区分した各グループにおける相関係数の平均値が所定の閾値を超える場合、当該グループの周波数特性を取得した際に打音を発したタイルは健全であると推定し、タイルが健全であると推定したグループの周波数特性の平均値を健全なタイルの基準周波数特性として記憶する。これにより、熟練した検査員が現場に居なくとも、当該現場において健全なタイルであるか否かを判定するための基準周波数特性を自動的に取得することが可能となる。
【0009】
本発明のタイル健全基準取得装置において、例えば、前記クラスター分析は階層クラスター分析である。
【0010】
また、本発明のタイル健全基準取得装置において、例えば、所定の閾値は、所定のパーセントの有意水準の相関係数の値である。
【0011】
さらに、本発明のタイル健全基準取得装置において、前記健全性推定部が前記2つのグループが共に健全であると推定した場合、一方のグループの平均値から所定の範囲内に他のグループの平均値が存在していれば、前記2つのグループに属する全ての周波数特性の平均値を前記基準周波数特性として前記基準記憶部に記憶することが好ましい。
【0012】
この場合、2つのグループの共通性が推定され、良好な基準周波数特性を取得することが可能となる。
【0013】
本発明のタイル健全基準取得方法は、マイクロホンにより検出された周囲音を含む複数のタイルの打音に基いて、所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる周波数特性の群を取得する周波数特性取得工程と、前記周波数特性取得工程において取得した周波数特性の群に対してクラスター分析を行い2つのグループに区分するクラスター分析工程と、前記クラスター分析工程において区分した各グループにおいて、前記各周波数帯域における音圧レベルの相関係数を算出する相関係数算出工程と、前記相関係数算出工程において算出したそれぞれのグループの何れかにおける前記各周波数帯域における音圧レベルの相関係数が所定の閾値を超える場合、当該グループに属する周波数特性を取得した際に打音を発したタイルは健全であると推定する健全性推定工程と、前記健全性推定工程においてタイルが健全であると推定したグループの各周波数特性の音圧レベルの平均値を健全なタイルの基準周波数特性として記憶する基準記憶工程とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明のタイル健全基準取得方法によれば、クラスター分析工程で自動的に区分した各グループにおける相関係数の平均値が所定の閾値を超える場合、当該グループの周波数特性を取得した際に打音を発したタイルは健全であると推定し、タイルが健全であると推定したグループの周波数特性の平均値を健全なタイルの基準周波数特性として記憶する。これにより、熟練した検査員が現場に居なくとも、当該現場において健全なタイルであるか否かを判定するための基準周波数特性を自動的に取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るタイル健全基準取得装置として機能するコンピュータの構成を示すブロック図。
図2】タイル健全基準取得装置のブロック図。
図3】本発明の実施形態に係るタイル健全基準取得方法のフローチャート。
図4】実施例における各タイルの音圧データの各周波数帯域の相対音圧レベルを示す表。
図5】実施例におけるクラスター分析を行った状態を示す樹形図。
図6】実施例における2つのグループにそれぞれ属する各音圧データ群の周波数帯域別の音圧レベル毎の相関係数を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係るタイル健全基準取得装置10について図1及び図2を参照して説明する。
【0017】
マンションなどの建築物の外壁面に張り付けられたタイルに対して、検査員が打診棒などで叩き又は擦り、これにより発生した打音によって、浮き、割れ、欠けなどの不具合の有無を判定する打撃検査が行われる。タイル健全基準取得装置10は、不具合のない健全なタイルに係る基準となる打音検査の際の音データ(以下、基準データという)を好適に取得することが可能なものである。なお、基準データは本発明の基準周波数特性に相当する。
【0018】
タイル健全基準取得装置10は、アナログ/デジタル(A/D)変換器20を介して、マイクロホン30に接続されている。A/D変換器20は、マイクロホン30から出力されたアナログの音信号をデジタルの音信号にA/D変換し、タイル健全基準取得装置10に出力する。
【0019】
マイクロホン30は、検査員が打診棒などでタイルを叩く又は擦るなどして発生した音(打音)を周囲音を含んで集音して検出した音信号を、A/D変換器20に出力する。マイクロホン30は、検査員が携帯するものであっても、タイルの近傍に三脚などを用いて設置されるものであってもよい。A/D変換器20、マイクロホン30及び打診棒は、市販品などを用いればよい。
【0020】
タイル健全基準取得装置10は、例えば、パーソナルコンピュータやPDAなどのコンピュータから構成される。なお、タイル健全基準取得装置10は、A/D変換器20やマイクロホン30と一体化していてもよい。
【0021】
タイル健全基準取得装置10は、CPU11、メインメモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15及び通信部16を備えている。メインメモリ12は、例えば、DRAMからなる。記憶部13は、例えば、ハードディスクやソリッドステートドライブからなる。記憶部13は、本発明の基準記憶部に相当する。入力部14は、例えば、キーボードやマウスなどである。表示部15は、例えば、液晶ディスプレイである。通信部16は、A/D変換器20から有線又は無線にて音信号を受信するインターフェイス回路である。
【0022】
タイル健全基準取得装置10は、コンピュータが健全基準取得プログラムPを実行することにより、周波数特性取得部1、クラスター分析部2、平均値算出部3、相関係数算出部4、健全性推定部5及び健全データ取得部6を機能ブロックとして備えることとなる。
【0023】
周波数特性取得部1は、マイクロホン30からA/D変換器20を介して入力された音信号から、所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる周波数特性(スペクトル)を取得する機能ブロックである。
【0024】
具体的には、周波数特性取得部1は、高速フーリエ変換(FFT)などの既知の手法を用いて、A/D変換器20から入力されたデジタル音信号を、例えば、1/3オクターブバンドレベルなどの所定の周波数間隔に分割し、各周波数帯域の音圧レベルを算出する。なお、分割する際の周波数間隔は、1/3オクターブバンドレベルに限定されず、1/1オクターブバンドレベルや1/4オクターブバンドレベル、さらには250kHzなどの周波数を間隔とするものであってもよい。
【0025】
ただし、音圧レベルを算出する対象となる周波数帯域から所定の低周波数帯域又は高周波数帯域を除去することが好ましい。これは、これらの周波数帯域はタイルの打音、特に不健全なタイルに特徴的な打音に関連せず、また、タイルの打音以外の周囲音に大きく影響されるおそれがあるからである。算出する対象から除く周波数帯域は、例えば、0~500Hz程度の低周波数帯域及び10kHzを超える高周波数帯域とすればよい。なお、これらの周波数帯域の音データを、A/D変換器20に入力される前に、ローパスフィルタやハイパスフィルタなどによって除去してもよい。
【0026】
また、音圧レベルは、相対化された音圧相対レベルであることが好ましい。例えば、所定の周波数帯域における音圧レベルは、所定の周波数帯域における音圧レベルを周波数帯域全体の音圧レベルで正規化することにより相対化した音圧相対レベルとすることが好ましい。周波数帯域全体の音圧レベルとして、例えば、バンドフィルタを通していない全周波数成分の音圧レベルの総和を取った合成レベルを表すオールパス(AP)値の他、バンドフィルタを通した後の周波数成分全体の強さを表す値、又は、各周波数帯域における音圧レベルの最大値などを用いればよい。
【0027】
健全基準取得プログラムPを実行するときには、健全基準取得プログラムPと各周波数帯域の音圧レベルからなるデータ(以下、音圧データ群という)はメインメモリ12に複写転送される。CPU11は、メインメモリ12を作業用メモリとして利用して、メインメモリ12に記憶された健全基準取得プログラムPを実行することにより、メインメモリ12に記憶された音圧データ群を処理する。なお、以上に述べたタイル健全基準取得装置10の構成は一例に過ぎず、任意のコンピュータを用いてタイル健全基準取得装置10を構成することができる。
【0028】
クラスター分析部2は、複数のタイルを打音して得た音データをそれぞれ周波数特性取得部1で取得した複数の音圧データ群に対してクラスター分析を行うことにより、これらを2つのグループに区分する機能ブロックである。音圧データ群の個数は、数十個であればよく、例えば、10個から20個程度であってもよい。このように本発明においては音圧データ群の個数が左程多くないので、クラスター分析として、階層的クラスター分析を行うことが好ましい。クラスター間の距離計算方法としては、特に限定されず、例えば、ウォード法、群平均法、最短距離法、最長距離法などを用いればよい。ただし、K-means法(K平均法)などの非階層的クラスター分析を行ってもよい。
【0029】
平均値算出部3は、クラスター分析部2によって区分した2つのグループにそれぞれ属する音圧データ群の周波数帯域別の平均値を算出する機能ブロックである。
【0030】
相関係数算出部4は、平均値算出部3が算出した平均値を用いて、2つのグループにそれぞれ属する各音圧データ群の周波数帯域別の音圧レベル毎に相関係数を算出する機能ブロックである。
【0031】
健全性推定部5は、クラスター分析部2によって区分した2つのグループに属する音圧データ群に係るタイルが健全であるか否かを推定する機能ブロックである。
【0032】
健全性推定部5は、具体的には、グループ内において、相関係数算出部4が算出した音圧レベル毎の相関係数が全て、記憶部13に記憶されている相関係数の閾値を超える場合、そのグループに属する音圧データ群に係るタイルは全て健全であると推定する。これは、健全なタイルは、浮き、割れ、欠けなどの不具合がなく良好に外壁に張り付けられており、その打音に大きな差異が生じないからである。なお、相関係数の閾値は、例えば、5%有意水準の0.811などの所定の値を用いることができるが、これに限定されず、さらに、打音検査したタイルの枚数などによって相違させてもよい。
【0033】
そして、2つのグループのうち一方のグループのみが健全であると健全性推定部5が推定した場合、健全と推定されたグループを構成する音圧データ群の平均値を健全データとして健全データ取得部6が取得する。ここで、健全データは、周波数帯域別の音圧レベル毎の平均値の群からなる基準周波数特性である。健全データ取得部6が取得した健全データは記憶部13に記憶される。なお、音圧データ群の単なる平均値ではなく、音圧データ群のうちの例えば最大値及び最小値を除いた値の平均値を用いて、基準データを求めてもよい。
【0034】
ただし、健全と推定されたグループに属する音圧データ群に係るタイルが1枚、又は2枚などの少数枚である場合、さらに他のタイルを打音して、音圧データ群を増加させたうえで、再度分析を行うことが好ましい。
【0035】
一方、2つのグループの何れもが不健全であると健全性推定部5が推定した場合、健全データが得られないので、さらに他のタイルを打音して、音圧データ群を増加させたうえで、再度分析を行う必要がある。
【0036】
そして、2つのグループの何れもが健全であると健全性推定部5が推定した場合、クラスター分析部2で強引に2つのグループに区分していないかを確認する。具体的には、一方のグループの各周波数帯域の平均値から所定の範囲内に、他方のグループの当該周波数帯域の平均値が存在するか否かを判定する。なお、所定の範囲は、記憶部13に記憶されている所定の範囲であってもよいが、例えば、各グループの周波数帯域の音圧レベルを標準偏差σとしたときの±3σや、各グループの周波数帯域の音圧レベルを不偏標準偏差sとしたときの±sであってもよい。
【0037】
所定の範囲内に他方のグループの平均値が入っていれば、2つのグループを統一して1つのグループとし、このグループを構成する音圧データの平均値を健全データとして健全データ取得部6が取得する。一方、所定の範囲内に他方のグループの平均値が入っていなければ、2つのグループにそれぞれ属するタイルに何らかの相違する条件(例えば、タイルの種別や大きさ、張り付け剤の種別、外壁の種別、日射条件)が存在すると考えられる。よって、これらを検討したうえで、同一の条件で打音検査を行うことが可能なタイルに関して、打音検査を追加して行う。
【0038】
さらに、健全データ取得部6が健全データを取得した場合、タイル健全基準取得装置10は、表示部15においてその旨を表示し、さらに必要に応じて、健全データを表示部15において表示する。
【0039】
一方、健全データ取得部6が健全データを取得できなかった場合、タイル健全基準取得装置10は、表示部15においてその旨を表示し、さらに必要に応じて、健全データを取得するためにはさらに打音検査を行う必要がある旨などを表示部15において表示する。
【0040】
次に、タイル健全基準取得装置10を用いた、本発明の実施形態に係るタイル健全性判定方法について図3を参照して説明する。
【0041】
まず、初期データ収集工程(STEP1)において、検査員は、例えば10枚程度のタイルに対して打音検査を行う。
【0042】
そして、音圧データ群取得工程(STEP2)において、初期データ収集工程(STEP1)において、マイクロホン30を介して収集されたアナログの音信号をA/D変換部20によってデジタルの音信号にA/D変換し、これから周波数特性取得部1にて音圧データ群を求める。
【0043】
次に、クラスター分析工程(STEP3)において、クラスター分析部2は、複数の音圧データ群に対してクラスター分析を行うことにより、これらを2つのグループに区分する。
【0044】
次に、平均値算出工程(STEP4)において、平均値算出部3は、クラスター分析部2によって区分した2つのグループにそれぞれ属する音圧データ群の周波数帯域別の平均値を算出する。
【0045】
また、相関係数算出工程(STEP5)において、相関係数算出部4は、2つのグループにそれぞれ属する各音圧データ群の周波数帯域別の音圧レベル毎に相関係数を算出する。
【0046】
次に、健全性判定工程(STEP6)において、健全性推定部5は、グループ内において、求めた音圧レベル毎の相関係数が全て、記憶部13に記憶されている相関係数の閾値を超える否かによって、各グループに属する音圧データ群に係るタイルが健全であるか否かを推定する。
【0047】
そして、2つのグループのうち一方のグループのみが健全であると推定した場合(STEP6:一方が健全)、健全データ取得工程(STEP8)において、健全データ取得部6は、健全と推定されたグループを構成する音圧データ群の平均値を健全データとして取得し、記憶部13に格納する。
【0048】
一方、2つのグループの何れもが不健全であると推定した場合(STEP6:共に不健全)、健全データが得られないので、STEP1に戻る。
【0049】
また、2つのグループの何れもが健全であると健全性推定部5が推定した場合(STEP6:共に健全)、グループ間平均値比較工程(STEP7)において、クラスター分析部2で本来は1つのグループであるできものを2つのグループに区分していないかを確認する。
【0050】
グループ間平均値比較工程(STEP7)においては、具体的には、一方のグループの各周波数帯域の平均値から所定の範囲内に、他方のグループの当該周波数帯域の平均値が存在するか否かを判定する。
【0051】
所定の範囲内に他方のグループの平均値が入っていなければ(STEP7:NO)、複数健全データ取得工程(STEP9)において、2つのグループを異なるグループとし、健全データ取得部6は、これら各グループを構成する音圧データの平均値及び不偏標準偏差をそれぞれ健全データとして取得し、記憶部13に格納する。
【0052】
一方、一方のグループの各周波数帯域の平均値から所定の範囲内に他方のグループの平均値が入っていれば(STEP7:YES)、グループ間データ統合工程(STEP10)において、2つのグループを統一して1つのグループとし、このグループを構成する音圧データの平均値及び不偏標準偏差を求める。
【0053】
そして、確認工程(STEP11)において、統一したグループ内において、音圧レベル毎の相関係数が全て、記憶部13に記憶されている相関係数の閾値を超える否かによって、グループに属する音圧データが1つのグループとみなしてよいか否かを判断する。
【0054】
音圧レベルの相関係数が全て閾値を超える場合(STEP11:YES)、健全データ取得工程(STEP8)において、健全データ取得部6は、このグループを構成する音圧データの平均値及び不偏標準偏差を健全データとして取得し、記憶部13に格納する。
【0055】
一方、相関係数が閾値を超ない音圧レベルが存在する場合(STEP11:NO)、複数健全データ取得工程(STEP9)において、健全データ取得部6は、統一したグループを元の2つのグループに分裂させて、これら各グループを構成する音圧データの平均値及び不偏標準偏差をそれぞれ健全データとして取得し、記憶部13に格納する。
【0056】
なお、本発明は、上述した実施形態に具体的に記載したタイル健全基準取得装置10及びこれを用いたタイル健全基準取得方法に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内であれば適宜変更することができる。
【0057】
例えば、上述した実施形態においては、タイルを検査員が打診棒などで叩き又は擦り、これによりタイルに発生した音信号に基づいて、タイルの健全性を判定する場合について説明した。しかし、これに限定されず、タイルを加振させたことにより発生する振動に関する情報を基づいて、タイルの健全性を判定してもよい。
【0058】
この場合、タイルは、検査員が打診棒で叩き又は擦ることなどにより、加振させればよい。そして、振動情報取得器によって振動に関する情報を取得し、取得した振動に関する情報に基づき、タイルの健全性を判定するものであってもよい。振動情報取得器は、例えば、加速度センサ、速度センサ、変位センサなどである。また、振動情報取得器は、非接触型の振動検出器、例えば、レーザドップラー振動計であってもよい。
【0059】
また、本発明のタイル健全基準取得方法は、上述したようにタイル健全基準取得装置10において実施されるものに限定されず、例えば、各工程をコンピュータ(CPU、マイクロプロセッサ等)に実行させるプログラムとして実現することもできる。そして、そのようなプログラムは、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)などの非一時的な記録媒体やインターネットなどの通信ネットワ
ークを介して流通させることも可能である。
【実施例
【0060】
以下、タイル健全基準取得装置10を用いた、本発明の実施例に係るタイル健全性判定方法について説明する。
【0061】
まず、初期データ収集工程(STEP1)において、検査員は、30枚のタイルに対して打音検査を行った。具体的には、同じ打診棒を用いて、同じように各タイルの中央部付近を同等の力で叩いた。
【0062】
そして、音圧データ群取得工程(STEP2)において、初期データ収集工程(STEP1)において、マイクロホン30を介して収集されたアナログの音信号をA/D変換部20によってデジタルの音信号にA/D変換し、これから周波数特性取得部1にて音圧データ群を取得した。ここで、分割する際の周波数間隔は、1/3オクターブバンドレベルであった。図4に、1から30のデータ番号の各タイルの音圧データの各周波数帯域の相対音圧レベルを示した。なお、図4において、1/3オクターブ中心周波数は各周波数帯域における中心周波数を意味し、表内の単位はdBである。
【0063】
次に、クラスター分析工程(STEP3)において、複数の音圧データ群に対してクラスター分析を行うことにより、図5の樹形図に示すように、これらを2つのグループに区分した。グループ1(G1)には25枚のタイルが、グループ2(G2)には5枚のタイルが所属していた。
【0064】
次に、平均値算出工程(STEP4)において、クラスター分析部2によって区分した2つのグループにそれぞれ属する音圧データ群の周波数帯域別の平均値を算出した。
【0065】
また、相関係数算出工程(STEP5)において、2つのグループにそれぞれ属する各音圧データ群の周波数帯域1~6のそれぞれについて、音圧レベル毎に相関係数を算出した。相関関数の算出結果を図6に示した。
【0066】
次に、健全性判定工程(STEP6)において、健全性推定部5は、各グループ内において求めた音圧レベル毎の相関係数が全て閾値(0.811)以下である否かを比較することにより、2つのグループのうちグループ1のみに属する音圧データ群に係るタイルが健全であると推定した。
【0067】
次に、健全データ取得工程(STEP8)において、健全と推定されたグループ1を構成する音圧データ群の平均値を健全データをとして取得し、記憶部13に格納した。
【0068】
最後に、打音検査した30枚のタイルを引き剥がした。グループ1を構成する25枚のタイルは浮き、割れ、欠けなどが見い出せず、健全に貼り付けられていたが、グループ12構成する5枚のタイルは浮きなどが見い出され、不健全に貼り付けられていたことが分かった。
【符号の説明】
【0069】
1…周波数特性取得部、 2…クラスター分析部、 3…平均値算出部、 4…相関係数算出部、 5…健全性推定部、 6…健全データ取得部、 10…タイル健全基準取得装置、 11…CPU、 12…メインメモリ、 13…記憶部、 14…入力部、 15…表示部、 16…通信部、 20…A/D変換器、 30…マイクロホン、 P…健全基準取得プログラム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6