(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】MEMS構造体
(51)【国際特許分類】
G01C 19/5769 20120101AFI20221028BHJP
G01P 15/125 20060101ALI20221028BHJP
G01P 15/08 20060101ALI20221028BHJP
G01C 19/5755 20120101ALI20221028BHJP
H01L 29/84 20060101ALI20221028BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
G01C19/5769
G01P15/125 Z
G01P15/08 102D
G01C19/5755
H01L29/84 Z
B81B3/00
(21)【出願番号】P 2019201706
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤塚 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 基弘
(72)【発明者】
【氏名】島岡 敬一
(72)【発明者】
【氏名】明石 照久
(72)【発明者】
【氏名】船橋 博文
(72)【発明者】
【氏名】畑 良幸
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝昭
(72)【発明者】
【氏名】原田 翔太
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-121551(JP,A)
【文献】特開2008-185385(JP,A)
【文献】特開2015-224930(JP,A)
【文献】特開2004-294230(JP,A)
【文献】特開2004-003886(JP,A)
【文献】特開平11-281667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/00-19/72
B81B 1/00-7/04
B81C 1/00-99/00
G01P 15/00-15/18
H01L 29/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板部と、
前記平板部の表面に形成されているMEMSセンサと、
前記平板部を垂直上方からみたときに前記平板部の周囲を取り囲むように配置されている支持枠体と、
前記平板部の外周部の全周と前記支持枠体の内周部の全周とを接続するメンブレン形状の支持部であって、前記平板部または前記MEMSセンサを構成している材料と同一材料で構成されており、前記平板部を空中に支持する前記支持部と、
前記支持枠体の上部を塞ぐキャップ部であって、前記平板部の表面と前記キャップ部の底面との間に第1の空間を形成する前記キャップ部と、
を備え、
前記第1の空間の気密性が保たれている、MEMS構造体
であって、
前記支持枠体、前記平板部、前記支持部、前記MEMSセンサは、積層体によって形成されており、
前記積層体は、半導体を材料とする支持基板層と、前記支持基板層の表面に接する絶縁層と、前記絶縁層の表面に接しており半導体を材料としており前記支持基板層よりも薄い表面層と、を備えており、
前記支持部は、前記平板部の外周に沿って配置された未貫通のトレンチによって形成されており、
前記支持枠体および前記平板部は、前記トレンチによって分離された前記支持基板層で形成されており、
前記MEMSセンサは、前記表面層で形成されている、MEMS構造体。
【請求項2】
前記表面層で形成されているストッパ部であって、前記平板部を垂直上方からみたときに前記平板部と前記支持枠体の境界をまたぐように前記平板部の領域内および前記支持枠体の領域内に配置されている前記ストッパ部をさらに備えており、
前記ストッパ部の底面は、前記平板部の表面または前記支持部の上面の一方にのみ固定されている、請求項
1に記載のMEMS構造体。
【請求項3】
前記第1の空間と、前記支持部の下方側の空間との間に圧力差が存在しており、
前記圧力差によって前記支持部の少なくとも一部が座屈している、請求項
1または2に記載のMEMS構造体。
【請求項4】
前記支持部は、前記メンブレン形状の一部の厚さが薄くなった形状を有している、請求項
1~3の何れか1項に記載のMEMS構造体。
【請求項5】
前記キャップ部の下面に配置されており、前記平板部の表面と対向している第1突起部をさらに備え、
前記第1突起部は、前記平板部を垂直上方からみたときに前記平板部が配置されている領域内に配置されている、請求項
1~4の何れか1項に記載のMEMS構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
支持基板と、支持基板に対して相対的に変位可能な変位部とを備えるMEMS構造体が知られている。変位部は、梁状部材等によって、支持基板と離間した状態で支持されており、梁状部材が変形することによって、支持基板に対して変位することができる。このようなMEMS構造体は、例えば、加速度、角速度等の慣性力等の物理量を検知するためのセンサとして応用されている。特許文献1には、加速度センサとして用いられるMEMS構造体の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MEMS構造体に作用する熱応力がMEMSセンサまで伝達してしまうと、ゼロ点出力が変動するなどの悪影響がMEMSセンサに発生してしまう。またMEMSセンサは、高いQ値を実現する等のために、気密が保たれた空間(例:一定圧力中や真空中など)で動作させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するMEMS構造体の一実施形態は、平板部と、MEMSセンサと、支持枠体と、支持部と、キャップ部と、基板と、を備えるMEMS構造体である。MEMSセンサは、平板部の表面に形成されている。支持枠体は、平板部を垂直上方からみたときに平板部の周囲を取り囲むように配置されている。支持部は、平板部の外周部と支持枠体の内周部との一部を接続する梁形状の支持部である。支持部は、平板部またはMEMSセンサを構成している材料と同一材料で構成されており、平板部を空中に支持する。キャップ部は、支持枠体の上部を塞ぐ。キャップ部は、平板部の表面とキャップ部の底面との間に第1の空間を形成する。基板は、支持枠体の下部を塞ぐ。基板は、平板部の底面と基板の表面との間に第2の空間を形成する。第1の空間および第2の空間の気密性が保たれている。
【0006】
支持部によって平板部を空中に支持することで、平板部が支持枠体と同様に変位してしまうことを抑制できる。よって、MEMS構造体に熱応力が作用した場合においても、平板部表面のMEMSセンサに熱応力が伝わることを抑制できる。また、支持枠体の上部を塞ぐキャップ部によって第1の空間を形成し、支持枠体の下部を塞ぐ基板によって第2の空間を形成することができる。第1の空間および第2の空間の気密性を保つことができる。熱応力の緩和機能と気密保持機能とを両立することが可能となる。
【0007】
支持枠体、平板部、支持部、MEMSセンサは、積層体によって形成されていてもよい。積層体は、半導体を材料とする支持基板層と、支持基板層の表面に接する絶縁層と、絶縁層の表面に接しており半導体を材料としており支持基板層よりも薄い表面層と、を備えていてもよい。支持枠体および平板部は、支持基板層で形成されていてもよい。支持枠体と平板部とは、平板部の外周に沿って配置された支持基板層を貫通するトレンチによって分離されていてもよい。支持部およびMEMSセンサは、表面層で形成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
支持基板層で形成されている支持枠体の厚さは、支持基板層で形成されている平板部の厚さよりも厚くてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
表面層で形成されているストッパ部であって、平板部を垂直上方からみたときに平板部と支持枠体の境界をまたぐように平板部の領域内および支持枠体の領域内に配置されているストッパ部をさらに備えていてもよい。ストッパ部の底面は、平板部の表面または支持部の上面の一方にのみ固定されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
キャップ部の下面に配置されており、平板部の表面と対向している第1突起部をさらに備えていてもよい。第1突起部は、平板部を垂直上方からみたときに平板部が配置されている領域内に配置されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0011】
基板の表面に配置されており平板部の底面と対向している第2突起部をさらに備えていてもよい。第2突起部は、平板部を垂直上方からみたときに平板部が配置されている領域内に配置されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0012】
基板の表面に形成されており平板部の底面と対向している窪み部をさらに備えていてもよい。窪み部は、平板部を垂直上方からみたときに平板部が配置されている領域内に形成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0013】
本明細書が開示するMEMS構造体の一実施形態は、平板部と、MEMSセンサと、支持枠体と、支持部と、キャップ部と、を備えるMEMS構造体である。MEMSセンサは、平板部の表面に形成されている。支持枠体は、平板部を垂直上方からみたときに平板部の周囲を取り囲むように配置されている。支持部は、平板部の外周部の全周と支持枠体の内周部の全周とを接続するメンブレン形状の支持部である。支持部は、平板部またはMEMSセンサを構成している材料と同一材料で構成されており、平板部を空中に支持する。キャップ部は、支持枠体の上部を塞ぐ。キャップ部は、平板部の表面とキャップ部の底面との間に第1の空間を形成する。第1の空間の気密性が保たれている。効果の詳細は実施例で説明する。
【0014】
支持枠体、平板部、支持部、MEMSセンサは、積層体によって形成されていてもよい。積層体は、半導体を材料とする支持基板層と、支持基板層の表面に接する絶縁層と、絶縁層の表面に接しており半導体を材料としており支持基板層よりも薄い表面層と、を備えていてもよい。支持部は、平板部の外周に沿って配置された未貫通のトレンチによって形成されていてもよい。支持枠体および平板部は、トレンチによって分離された支持基板層で形成されていてもよい。MEMSセンサは、表面層で形成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0015】
表面層で形成されているストッパ部であって、平板部を垂直上方からみたときに平板部と支持枠体の境界をまたぐように平板部の領域内および支持枠体の領域内に配置されているストッパ部をさらに備えていてもよい。ストッパ部の底面は、平板部の表面または支持部の上面の一方にのみ固定されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0016】
第1の空間と、支持部の下方側の空間との間に圧力差が存在していてもよい。圧力差によって支持部の少なくとも一部が座屈していてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0017】
支持部は、メンブレン形状の一部の厚さが薄くなった形状を有していてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0018】
キャップ部の下面に配置されており、平板部の表面と対向している第1突起部をさらに備えていてもよい。第1突起部は、平板部を垂直上方からみたときに平板部が配置されている領域内に配置されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1のMEMS構造体の概略平面図である。
【
図5】MEMS構造体1の製造工程を説明する図である。
【
図6】実施例2に係るMEMS構造体の概略平面図である。
【
図8】メンブレン部の製造工程を説明する図である。
【
図9】メンブレン部の製造工程を説明する図である。
【
図10】実施例3に係るMEMS構造体の概略平面図である。
【
図12】変形例のMEMS構造体の概略断面図である。
【
図13】変形例のMEMS構造体の概略断面図である。
【
図14】変形例のMEMS構造体の概略断面図である。
【
図15】変形例のMEMS構造体の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0020】
図1に、実施例1に係るMEMS構造体1の平面図を示す。
図1は、分かりやすさのために、キャップ部を除去した状態を示している。また、支持基板層BL(
図2~
図4参照)をグレーの塗りつぶしで示すとともに、表面層SLをハッチングで示している。
図2は、
図1のII-II線における断面図である。
図3は、
図1のIII-III線における断面図である。
図4は、
図1のIV-IV線における断面図である。
【0021】
MEMS構造体1は、平板部10、MEMSセンサ20、支持枠体30、支持梁41~44、アンカー部45、キャップ部50、基板60、配線部71および72、電源パッド部73および74、パッド電極81および82、貫通電極84、突起パッド部91~94を備えている。
【0022】
図2の断面図に示すように、MEMS構造体1のうち、キャップ部50および基板60以外の構造は、SOI(Silicon on Insulator)ウェハを材料として形成されている。SOIウェハは、z軸の負方向から正方向に向かってこの順序で積層された、支持基板層BL、絶縁層IL、表面層SL、を備えた積層体である。支持基板層BLおよび表面層SLの材料はシリコンである。支持基板層BLは、表面層SLと比較して積層方向の厚さが厚い。絶縁層ILは、シリコン酸化物であり、支持基板層BLおよび表面層SLよりも薄い。
図2を用いて具体的に説明する。支持枠体30および平板部10は、支持基板層BLで形成されている。支持梁41および42、MEMSセンサ20、突起パッド部91および92は、表面層SLで形成されている。
【0023】
支持枠体30は、平板部10を垂直上方(z軸正方向)からみたときに平板部10の周囲を取り囲むように配置されている。支持枠体30と平板部10とは、支持基板層BLを貫通するトレンチTL1によって分離されている。
【0024】
支持梁41~44は、平板部10の外周部の四隅部分と、支持枠体30の内周部の四隅部分とを接続する、梁形状の支持部である。支持梁41~44は、平板部10を空中に支持している。
図2を用いて、支持梁41の構造を説明する。支持梁41は、梁部41b、アンカー部41aおよび45を備えている。梁部41b、アンカー部41aおよび45は、MEMSセンサ20を構成している材料(表面層SL)と同一材料で構成されている。アンカー部41aは、絶縁層41cによって平板部10の表面に固定されている。アンカー部45は、絶縁層45cによって支持枠体30の表面に固定されている。絶縁層41cおよび45cは、SOIウェハの絶縁層ILで形成された層である。支持梁41の両端は、アンカー部41aおよび45に接続されている。なお、支持梁42~44の構造は、支持梁41と同様であるため、説明を省略する。
【0025】
図2~
図4の断面図に示すように、キャップ部50は、支持枠体30の上部を塞いでいる。平板部10の表面とキャップ部50の底面との間に、第1の空間SP1が形成されている。また基板60は、支持枠体30の下部を塞いでいる。平板部10の底面と基板60の表面との間に、第2の空間SP2が形成されている。キャップ部50および基板60により、第1の空間SP1および第2の空間SP2の気密性が保たれている。
【0026】
キャップ部50の下面には、窪み部53が形成されている(
図2参照)。窪み部53は、平板部10を垂直上方(z軸の正方向)からみたときに、平板部10が配置されている領域を含むように形成されている。これにより、キャップ部50の裏面とMEMSセンサ20とのクリアランスCL1を確保することができる。
【0027】
窪み部53の一部には、第1突起部51~54が配置されている。なお
図2では、第1突起部51および52のみが図示されている。第1突起部51~54は、平板部10を垂直上方からみたときに、平板部10が配置されている領域内に配置されている。具体的には、第1突起部51~54の各々は、突起パッド部91~94の各々と対向する位置に配置されている。
【0028】
基板60の表面には、窪み部63が形成されている(
図2参照)。窪み部63は、平板部10を垂直上方からみたときに、平板部10が配置されている領域を含むように形成されている。これにより、平板部10の裏面と基板60表面とのクリアランスCL2を確保することができる。
【0029】
窪み部63の一部には、第2突起部61および62が配置されている。第2突起部61および62は、平板部10の底面と対向するように配置されている。すなわち第2突起部61および62は、平板部10を垂直上方からみたときに、平板部10が配置されている領域内に配置されている。
【0030】
第1突起部51~54および突起パッド部91~94により、平板部10の上方側(z軸の正方向側)への変位を抑制することができる。同様に、第2突起部61および62により、平板部10の下方側(z軸の負方向側)への変位を抑制することができる。よって例えば、熱応力が印加されて平板部10が上方側や下方側に変位した場合においても、平板部10がキャップ部50や基板60に固着してしまうことがない。また例えば、過度の衝撃が印加された場合(例:MEMS構造体1を搭載した車両が段差を乗り越える場合など)においても、平板部10の変位量を所定量以下に規制できるため、支持梁41~44が損傷してしまうことがない。
【0031】
平板部10の表面には、MEMSセンサ20が形成されている(
図1参照)。本実施例では、MEMSセンサ20は角速度センサである。MEMSセンサ20は、本技術の説明のために簡略化して示している。MEMSセンサ20は、アンカー部21a~24a、梁部21b~24b、変位部25、櫛歯電極26、固定電極27、を備えている。変位部25は、矩形形状であり、平板部10の略中央位置に配置されている。アンカー部21a~24aは、変位部25の四隅に配置されている。梁部21b~24bは、変位部25の外周部の四隅部分と、アンカー部21a~24aとを接続する、梁形状の支持部である。
図3に示すように、アンカー部21aおよび22aは、絶縁層21cおよび22cを介して平板部10の表面に固定されている。絶縁層21cおよび22cは、SOIウェハの絶縁層ILで形成された層である。一方、梁部21bおよび22b、変位部25、櫛歯電極26の下面には、絶縁層が存在しない。これにより、梁部21bおよび22bによって、変位部25が空中に支持されている。なお、アンカー部23a、24aおよび梁部23b、24bの構造は、アンカー部21a、22aおよび梁部21b、22bの構造と同様であるため、説明を省略する。
【0032】
アンカー部21aは、配線部72を介して電源パッド部74に接続されている。電源パッド部74上には、パッド電極82が形成されている。パッド電極82の表面には、キャップ部50を貫通する貫通電極84(
図3参照)が接続している。
【0033】
変位部25には、櫛歯電極26が配置されている。また平板部10には、櫛歯形状の固定電極27が、絶縁層27aを介して固定されている(
図1および
図2参照)。固定電極27は、配線部71を介して電源パッド部73に接続されている。電源パッド部73上には、パッド電極81(
図1参照)が形成されている。パッド電極81の表面には、キャップ部50を貫通する貫通電極83(不図示)が接続している。櫛歯電極26および固定電極27は、変位部25を振動させるための駆動用電極である。なお
図1では、駆動用電極を1つのみ記載しているが、駆動用電極は複数配置されていてもよい。また
図1では、角速度に伴う変位を検出する検出用電極は、記載を省略している。
【0034】
貫通電極83および84に不図示のボンディングワイヤを介して検出回路を接続することによって、組立・実装を可能にすることができる。MEMS構造体1に角速度が加わり、変位部25が平板部10に対して変位すると、不図示の検出用電極が備える櫛歯電極の重なり面積が変化して、静電容量が変化する。この静電容量の変化を不図示の検出回路で観測することで、角速度に伴う変位を検知することができる。
【0035】
(製造工程)
図5を用いて、MEMS構造体1の製造工程を説明する。
図5は、
図3に対応する断面図である。ステップS1において、SOIウェハを準備する。ステップS2において、SOIウェハを加工し、
図5の中央に示す中間形成体2を作成する。中間形成体2の作成は、周知のフォトリソグラフィおよびエッチング技術により可能であるため、詳細な説明を省略する。これにより、多数の中間形成体2が上にアレイ状に並んでいるSOIウェハが形成される。
【0036】
ステップS3において、基板60の接合が行われる。具体的には、多数の窪み部63がアレイ状に並んでいるシリコンウェハを形成する。シリコンウェハ上の窪み部63の各々の位置は、SOIウェハ上の中間形成体2の各々の位置に対応している。SOIウェハの裏面に、基板60を接合する(
図5、矢印Y1)。
【0037】
ステップS4において、キャップ部50の接合が行われる。具体的には、多数の窪み部53がアレイ状に並んでいるシリコンウェハを形成する。シリコンウェハ上の窪み部53の各々の位置は、SOIウェハ上の中間形成体2の各々の位置に対応している。SOIウェハの表面に、キャップ部50を接合する(
図5、矢印Y2)。
【0038】
ステップS5において、貫通電極83および84(
図3参照)を形成する。ステップS6において、MEMS構造体1を貼り合わせウェハから個片化する。キャップ部50および基板60の接合後に、MEMS構造体1をSOIウェハから個片化することで、WLP(Wafer Level Package)での気密保持が可能となる。WLPにより、MEMS構造体1の製造コストを削減することができる。
【0039】
またキャップ部50や基板60を接合することで、MEMS構造体1のフットプリントを増大させることなく、厚みおよび体積を増加させることができる。これにより、MEMS構造体1の熱容量を増加することができるため、温度変化に対する安定性を高めることが可能となる。
【0040】
(効果)
MEMS構造体1を回路基板等に接合して使用するに際して、回路基板が熱変形によって反る等によって、MEMS構造体1の支持枠体30がz方向に変位してしまう場合がある。そこで実施例1のMEMS構造体1では、SOIウェハの支持基板層BLを貫通するトレンチTL1を形成することによって、支持枠体30と平板部10とを分離している。そして、支持枠体30と平板部10とを、可撓性の支持梁41~44によって接続している。支持梁41~44が弾性変形することによって、平板部10が支持枠体30と同様に変位することを抑制することができる。すなわち、MEMS構造体1に作用する熱応力を、支持梁41~44の変形によって吸収することができるため、平板部10上のMEMSセンサ20に熱応力が伝わることを抑制できる。MEMSセンサ20のゼロ点出力が変動することを抑制することが可能となる。
【0041】
MEMSセンサ20は、櫛型電極の間や、変位部25と平板部10との間にダストが噛み込むと動作しなくなるという問題がある。またMEMSセンサ20は、一定圧力中や真空中で動作する。よってMEMS20センサは、気密を保つ必要がある。しかし実施例1のMEMS構造体1(
図2~
図4参照)では、熱応力を緩和するために、支持基板層BLを貫通するトレンチTL1を形成している。このトレンチTL1により、MEMSセンサ20の裏面側(z軸の負方向側)へ、気体のリークパスが形成されてしまう。そこで、基板60によってMEMSセンサ20の裏面側を塞ぐとともに、キャップ部50によってMEMSセンサ20の表面側(z軸の正方向側)を塞ぐ構造を採用している。これにより、MEMSセンサ20の裏面側および表面側への、気体のリークパスを消滅させることができる。熱応力の緩和機能と気密保持機能とを両立することが可能となる。
【実施例2】
【0042】
実施例2は、未貫通のトレンチTL201によって形成された、メンブレン形状の支持部を備える実施例である。実施例1と異なる点のみ説明する。
図6に、実施例2に係るMEMS構造体201の平面図を示す。
図7は、
図6のVII-VII線における断面図である。実施例1のMEMS構造体1と同様の部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また、実施例2に特有の部位については、符号を200番台にすることで区別する。
【0043】
実施例2のMEMS構造体201は、実施例1の支持梁41~44に代えて、メンブレン部241を備えている。
図6では、分かりやすさのために、メンブレン部241を点線で示している。メンブレン部241は、平板部10の外周部の全周と支持枠体30の内周部の全周とを接続する、メンブレン形状の支持部である。
【0044】
図7の断面図に示すように、支持枠体30と平板部10とは、トレンチTL201によって分離されている。トレンチTL201は、支持基板層BLの裏面側から表面側(z軸の負方向側から正方向側)へ伸びており、支持基板層BLの表面に到達することなく未貫通に形成されている。未貫通のトレンチTL201の上端には、残存する支持基板層BLによってメンブレン部241が形成されている。すなわちメンブレン部241は、平板部10を構成している材料(支持基板層BL)と同一材料で構成されている。メンブレン部241は、平板部10を空中に支持している。
【0045】
平板部10は、n型領域10nと、その表面に配置されているp型領域10pを備えている。支持枠体30は、n型領域30nと、その表面に配置されているp型領域30pを備えている。p型領域10pおよび30pの厚さは、n型領域10nおよび30nの厚さよりも薄い。メンブレン部241は、p型領域10pおよび30pと同一平面内に位置しており、p型領域10pおよび30pと同等の厚さを有している。メンブレン部241は、p型領域である。メンブレン部241の厚さは、例えば10μm以下である。また、実施例2のMEMS構造体201は、実施例1の基板60(
図2)を備えていない。
【0046】
(効果)
MEMS構造体201に作用する熱応力を、メンブレン部241の変形によって吸収することができるため、平板部10上のMEMSセンサ20に熱応力が伝わることを抑制できる。またメンブレン部241により、MEMSセンサ20の裏面側(z軸の負方向側)への気体のリークパスを封止することができる。よって、MEMSセンサ20の裏面側を封止する基板60を備えることなく、MEMSセンサ20の気密を保つことが可能となる。
【0047】
(製造工程)
図8および
図9を用いて、メンブレン部241の製造工程を説明する。ステップS201において、支持基板層BLと絶縁層ILとの間に、シリコンのp型層BLpが挿入されているSOIウェハを準備する。このようなSOIウェハの作成方法の一例を説明する。n型シリコンの支持基板層BLの表面に、イオン注入により厚さ10μmのp型層を形成する。その後、絶縁層ILおよび表面層SLを積層する。
【0048】
ステップS202において、SOIウェハを加工し、表面層SLを用いてMEMSセンサ20等を作成する。ステップS203において、
図8に示すように、支持基板層BLの裏面にハードマスクHMを形成する。ハードマスクHMは、トレンチTL201に対応した開口部OPを有している。ハードマスクHMは、例えば、シリコン酸化膜である。ステップS204において、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)技術により、支持基板層BL側からトレンチTL201を加工する。このとき、p型層BLpまで到達しないように、加工を途中で終了する(領域R1参照)。
【0049】
ステップS205において、ウェットエッチングによりトレンチTL201を完成させる。
図9を用いて説明する。エッチング薬液ECが満たされているエッチング槽ETを用意する。エッチング薬液ECの一例としては、KOH(水酸化カリウム)溶液、またはTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)溶液が挙げられる。エッチング槽ET内には、白金電極PEが配置されている。次に、p型層BLpに接続する配線WRを、SOIウェハに接続する。また、表面層SLの上面を、レジストなどの保護層PLで被覆する。その後、SOIウェハをエッチング槽ET内に浸漬する。同時に、p型層BLpと白金電極PEの間に、所定電圧V1を印加する。支持基板層BLのn型シリコンが等方エッチングされ、エッチングがp型層BLpまで到達すると、エッチングが停止する。これは、PN接合エッチングストップ技術として公知である。これにより、メンブレン部241が完成する。
【0050】
PN接合エッチングストップ技術により、メンブレン部241の厚さを、p型層BLpと同等の厚さに正確に制御することができる。p型層BLpはイオン注入で形成するため、p型層BLpの厚さおよび面内分布は正確に設定可能である。よって、メンブレン部241の厚さおよび面内分布を、高精度に制御することができる。メンブレン部241の剛性を一定にすることができるため、安定した応力緩和効果を実現可能となる。
【実施例3】
【0051】
実施例3は、ストッパ部を備える実施例である。実施例1と異なる点のみ説明する。
図10に、実施例3に係るMEMS構造体301の平面図を示す。
図11は、
図10のXI-XI線における断面図である。実施例1のMEMS構造体1と同様の部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また、実施例3に特有の部位については、符号を300番台にすることで区別する。
【0052】
実施例3のMEMS構造体301は、実施例1のMEMS構造体1に対して、さらにストッパ部311~314を備えている。ストッパ部311~314は、平板部10を垂直上方(z軸の正方向)からみたときに、平板部10と支持枠体30の境界であるトレンチTL1をまたぐように配置されている(
図10)。ストッパ部311~314の一端は平板部10の領域内に配置され、他端は支持枠体30の領域内に配置されている。
【0053】
図11の断面図を用いて、ストッパ部313および314の構造を説明する。ストッパ部313および314は、表面層SLで形成されている。ストッパ部313の底面は、SOIウェハの絶縁層313cによって支持枠体30の表面のみに固定されている。ストッパ部314の底面は、絶縁層314cによって平板部10の表面のみに固定されている。絶縁層313cおよび314cは、SOIウェハの絶縁層ILで形成された層である。なお、ストッパ部312および311の各々の構造は、ストッパ部313および314と同様であるため、説明を省略する。
【0054】
(効果)
ストッパ部313の下面と平板部10の上面との干渉(領域R301参照)により、平板部10の上方側(z軸の正方向側)への変位を抑制することができる。同様に、ストッパ部314の下面と支持枠体30の上面との干渉(領域R302参照)により、平板部10の下方側(z軸の負方向側)への変位を抑制することができる。よって、過度の衝撃が平板部10に印加された場合においても、平板部10の上下方向の変位量を所定量以下に規制できるため、支持梁41~44が損傷してしまうことがない。
【0055】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0056】
(変形例1)
実施例2において、メンブレン形状の支持部を形成する方法は様々であって良い。例えば、
図12に示す、MEMS構造体401のような構造であってもよい。
図12において、実施例2(
図7)と同様の部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また、変形例1に特有の部位については、符号を400番台にすることで区別する。MEMS構造体401は、W-SOIウェハを材料として形成されている。W-SOIウェハは、支持基板層BL、第1絶縁層IL1、中間層ML、第2絶縁層IL2、表面層SL、がこの順番に積層された積層体である。中間層MLの材料はシリコンである。中間層MLは、表面層SLと比較して積層方向の厚さが薄い。第1絶縁層IL1および第2絶縁層IL2は、シリコン酸化物である。
【0057】
図12の断面図に示すように、支持枠体30と平板部10とは、トレンチTL401によって分離されている。トレンチTL401は、支持基板層BLの裏面側から表面側(z軸の負方向側から正方向側)へ伸びており、支持基板層BLおよび第1絶縁層IL1を貫通して、中間層MLの下面で停止している。未貫通のトレンチTL401の上端には、中間層MLによってメンブレン部441が形成されている。すなわちメンブレン部441は、平板部10を構成している材料(中間層ML)と同一材料で構成されている。
【0058】
変形例1に係るメンブレン部441の製造工程を説明する。ステップS201~S203までの内容は、実施例2と同様である。ステップS204aにおいて、DRIE技術により、支持基板層BL側からトレンチTL401を加工する。このとき、シリコン酸化膜に対してシリコンのエッチングレートが十分に高い条件を用いることで、第1絶縁層IL1の下面でエッチングを停止する。ステップS205aにおいて、シリコンに対してシリコン酸化膜のエッチングレートが十分に高い条件に切り替える。これにより、中間層MLの下面でエッチングを停止する。エッチング選択比を用いることで、メンブレン部441の厚さを、中間層MLと同等の厚さに正確に制御することができる。
【0059】
(変形例2)
実施例2において、メンブレン部の形状は様々であって良い。例えば、
図13のメンブレン部541に示すように、メンブレン部の少なくとも一部が座屈している形状であってもよい。
図13のMEMS構造体501では、第1の空間SP1と、メンブレン部541の下方側(z軸の負方向側)の空間との間に圧力差が存在している。具体的には、第1の空間SP1側が負圧である。よって、メンブレン部541は、第1の空間SP1側に突出するように座屈している。これにより、メンブレン部541を、座屈していない場合に比して変形しやすくすることができるため、熱応力の緩和能力を高めることが可能となる。
【0060】
また例えば、
図14のMEMS構造体601が備えるメンブレン部641に示すように、メンブレン部の一部の厚さが薄くなった形状であってもよい。具体的には、メンブレン部641は、上面に段差STが形成されている。段差STは、局所的なエッチングを行うことにより形成することができる。段差STを起点としてメンブレン部541を変形しやすくすることができるため、熱応力の緩和能力を高めることが可能となる。なお、段差STの断面形状は、半円形状や溝形状など、様々であってよい。また段差STは、メンブレン部の裏面に形成されていてもよい。
【0061】
(変形例3)
実施例1において、平板部10の裏面と基板60表面とのクリアランスを確保するための構造は、様々であってよい。例えば、
図15(A)および
図15(B)のような構造でもよい。
図15(A)および
図15(B)は、
図2に対応する断面図である。
図15(A)の構造では、平板部10の厚さT1が、支持枠体30の厚さT2よりも薄い。これにより、クリアランスCL3が確保できる。
図15(B)の構造では、支持枠体30が、追加層31を介して基板60上に配置されている。これにより、追加層31の厚さと同等のクリアランスCL4が確保できる。
【0062】
(その他の変形例)
本実施例の梁部41b~44b(
図1、
図2参照)の形状は、ストレートとしたが、この形状に限られず、様々な形状の梁を使用可能である。例えば、蛇行するミアンダ構造など、より剛性を低くすることができる構造であってもよい。また梁部の数も4本に限られず、要求スペックに応じて任意に設定することができる。
【0063】
実施例1~3および変形例は、少なくとも2つを組み合わせて実施することが可能である。
【0064】
なお本明細書においては、角速度検出器を基本とした実施例を挙げてその動作を説明したが、この形態に限られない。各種の物理量、化学量、または光学量を検出する一般的なセンサに対しても、本明細書の技術を適用および展開することができる。
【0065】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0066】
1、201、301、401、501、601:MEMS構造体 10:平板部 20:MEMSセンサ 30:支持枠体 41~44:支持梁 41b~44b:梁部 50:キャップ部 60:基板 TL1:トレンチ BL:支持基板層 IL:絶縁層 SL:表面層