(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】表面を予め活性化しないシリンダボアのコーティング
(51)【国際特許分類】
C23C 4/02 20060101AFI20221028BHJP
C23C 4/16 20160101ALI20221028BHJP
C23C 4/06 20160101ALI20221028BHJP
F16J 10/00 20060101ALI20221028BHJP
F02F 1/00 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
C23C4/02
C23C4/16
C23C4/06
F16J10/00 A
F02F1/00 R
(21)【出願番号】P 2019501686
(86)(22)【出願日】2017-07-13
(86)【国際出願番号】 EP2017067748
(87)【国際公開番号】W WO2018011362
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-06-16
(32)【優先日】2016-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515135572
【氏名又は名称】エリコン メテコ アクチェンゲゼルシャフト、ヴォーレン
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルペ、フラヴィオ
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-135017(JP,A)
【文献】特開昭51-141736(JP,A)
【文献】特開2005-307857(JP,A)
【文献】特開平05-195190(JP,A)
【文献】特開昭60-262951(JP,A)
【文献】特開平04-214850(JP,A)
【文献】特開平03-260474(JP,A)
【文献】特開平08-246944(JP,A)
【文献】特開平01-301848(JP,A)
【文献】特開平07-011433(JP,A)
【文献】米国特許第04044217(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0016489(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107810290(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00-4/18
F02F 1/00-1/42;7/00
F16J 1/00-1/24;7/00-10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン型内燃機関のシリンダであって、該シリンダが、基材から形成された内側シェルを有する少なくとも1つのボアを備え、
前記ボアの領域において、前記基材上に少なくとも部分的に設けられた層系を備え、前記基材と前記層系との間に第1の界面が形成され、
前記層系が溶射層を含み、該溶射層が少なくとも部分的に前記ボアのシェル表面を形成して機能層として作用できるようになっており、
前記層系が、第1の界面領域に、界面材料を含む接着層をさらに含み、該界面材料は、モリブデンおよび少なくとも1つの他の元素を含み、前記界面材料は、前記基材の前記内側シェルに化学結合により接合されており、前記内側シェルは、前記ボアの製造から生じる表面粗さを有するが前記表面の活性化のために形成されるプロファイリングを有さず、
前記界面材料は、組成および組織のうちの少なくとも1つが前記機能層の材料とは異なって
おり、
前記基材の元素に対応する少なくとも1つの元素が前記界面材料に存在することを特徴とするピストン型内燃機関のシリンダ。
【請求項2】
前記層系の接着力のための構造的手段が、前記層系内に提供されていることを特徴とする請求項1に記載されたピストン型内燃機関のシリンダ。
【請求項3】
前記構造的手段は、
化学結合および
界面の表面粗さ
のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項2に記載されたピストン型内燃機関のシリンダ。
【請求項4】
前記界面材料と前記基材との間の化学結合が、イオン結合および共有結合のうちの少なくとも1つによって実現されていることを特徴とする請求項1に記載されたピストン型内燃機関のシリンダ。
【請求項5】
前記層系は、前記第1の界面から始まって前記シェル表面の機能層にわたって、化学組成および組織の、層厚さに亘る傾斜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載されたピストン型内燃機関のシリンダ。
【請求項6】
前記機能層の元素に対応する少なくとも1つの元素が前記界面材料に存在することを特徴とする請求項1に記載されたピストン型内燃機関のシリンダ。
【請求項7】
ピストン型内燃機関用のシリンダを製造する方法であって、
基材にボアを形成する段階であって、該ボアは内側シェルを有し、前記ボアの製造から生じる表面粗さを有する、前記ボアを形成する段階と、
前記ボアの前記内側シェルに層系を付着させる段階であって、該層系が、前記基材との界面に界面材料を含む接着層、および前記シリンダの表面としての機能層を形成する溶射層を有し、前記ボアの製造から生じる表面粗さが、前記ボアの表面に層系を付着させるための活性化のために形成されるプロファイリングを含まない、前記層系を付着させる段階と
を含む前記方法において、
前記界面材料が、モリブデンおよび少なくとも1つの他の元素を含み、前記基材と化学結合により接合され、
前記界面材料と溶射された前記機能層の材料とは、組成および組織のうちの少なくとも1つが、化学的に異な
り、
前記基材の元素に対応する少なくとも1つの元素が前記界面材料に存在することを特徴とする方法。
【請求項8】
前記基材と前記機能層との間の前記界面材料を含む領域が、前記機能層との第2の界面を形成する基層として形成され、該第2の界面が、機械的活性化に適した構造を有することを特徴とする請求項
7に記載された方法。
【請求項9】
前記機械的活性化に適した構造が、多孔質又は粗さである、請求項
8に記載された方法。
【請求項10】
前記接着層および前記機能層が、溶射によって付着されることを特徴とする請求項
7に記載された方法。
【請求項11】
前記層系が、少なくとも部分的に層厚さ方向の傾斜層として形成されることを特徴とする請求項
7に記載された方法。
【請求項12】
前記界面材料から前記機能層の材料へ移行する前記層系が、傾斜層として形成されることを特徴とする請求項
11に記載された方法。
【請求項13】
請求項1から請求項
6までのいずれか一項に記載されたシリンダを有するエンジン。
【請求項14】
エンジンの製造方法であって、請求項
7から請求項
12までのいずれか一項に記載されたシリンダを製造する方法を含むことを特徴とするエンジンの製造方法。
【請求項15】
化学的結合及び界面粗さのうちの少なくとも1つが、界面材料の付着および前記界面材料から前記機能層の材料への漸進的遷移のうちの少なくとも1つによって形成される、請求項
3に記載されたピストン型内燃機関のシリンダ。
【請求項16】
前記機能層との結合のために、前記界面材料上に第2の界面をさらに含み、該第2の界面は、機械的活性化のために気孔または粗さを含む、請求項
7に記載された方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ピストン型内燃機関のシリンダボアには、重量および/または摩擦および/または摩耗を最小限に抑えるために、通常は溶射によってコーティングを施こすことがある。それにより、燃料および油の消費量が減少し、好ましくはシリンダボアの表面に耐食性が付与される。
【背景技術】
【0002】
しかし、コーティング層のシリンダ材料への接着力には問題があり、作動中にコーティング層が剥がれ落ちる危険性がある。実用に必要なレベルまで接着力を増大させるために、通常、シリンダボアの表面は粗面化(活性化)される。この活性化により、コーティング層とシリンダブロックの基材との間に機械的な噛み合いが生じること、すなわち形状的噛み合いが確実に達成される。しかし、シリンダ走行面を活性化する前処理により、コーティングのコストが増大する。
【0003】
活性化によって達成されるコーティング層とシリンダブロックの基材との間の絡み合いにより、基材へのコーティング層の接着が改善され、シリンダの長寿命化に寄与する。活性化は、様々な技術により行うことができる。例えば、コランダムジェットによって、レーザーによって、高圧ウォータージェットによって、および/または低圧ウォータージェットによって表面を粗くすることができる。さらに、例えば切断よって、表面にアンダーカットを有するプロフィル(形状)を設けることにより活性化が可能である。例えば、ダブテール形状を使用することが有利である。
【0004】
図1は、コーティング前に基材を活性化することによる溶射層3と基材1との機械的連結を示す。これにより基材1、例えばシリンダボアへの接着が改善されることが知られている。
【0005】
上記の活性化方法は、とりわけ製造工数の増加によってのみ実現できるという不利益がある。追加の工程に必要とされる処理時間の増加に加えて、活性化の工ための工具および/または機械への追加の投資費用も必要になる。
【0006】
中間層により表面活性化を回避しようとする試みが既に初期にあった。例えば、シェパード(Shepard)は、US2588422に、中間層としてモリブデン層を使用することを開示している。中間層は、一方では基材と、そして他方では溶射された機能層との界面を形成する。モリブデン元素が非常に軟らかい材料であるという事実とは別に、この手法は、満足できる方法で両方の界面での接着を改善することが不可能であるという問題をも有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、コーティングすべき表面の活性化、特に機械的活性化を必要とせずに、溶射層をシリンダボアのシェルに付着させることを可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、この目的は、請求項1に記載された本発明のシリンダおよび請求項8に記載された本発明の方法によって達成される。請求項2~請求項7および請求項9~請求項12は、本発明の有利な具体例に関するものである。請求項13および請求項14は対応するエンジンまたはその製造に関するものである。
【0010】
シリンダは、基材から形成された内側シェルを有する少なくとも1つのボアを有する。このボアの領域において、基材は少なくとも部分的に層系を備えている。これに関して、第1の界面が基材と層系との間に形成される。第1の界面は、ボアの製造から生じる表面粗さは別として、表面の活性化に利用されるいかなるプロファイリング(表面形状)も有さず、特に表面の機械的活性化に利用されるプロファイリングを有さない。
【0011】
層系は、少なくとも1つの溶射層、特にプラズマ溶射によって溶射される層、好ましくは回転プラズマガンによって溶射される層を含み、溶射層は少なくとも部分的にボアのシェル表面を形成し、機能層として作用することができる。以下において、機能層は、好ましくは機能層、特に溶射機能層として理解することもできる。
【0012】
この方法の核心は、接着層をシリンダボアシェルの基材上に直接付着させ、それによって接着層を少なくとも基材と化学結合を形成させることであり。接着層は界面材料を含むことができ、特に界面材料からなることができる。接着層は、界面材料から構成することができる。これは、界面における基材への接着が、機械的連結によってではなく本質的に化学結合によって決定的に達成されることを意味する。
【0013】
界面材料は、モリブデン(Mo)および少なくとも1つの他の元素を含むが、特にモリブデンおよび少なくとも1つの他の元素から本質的になることができ、特に界面材料はモリブデンおよび少なくとも1つの他の元素からなることができる。本明細書または特許請求の範囲において他の元素の存在が言及される場合、これは成分元素の形態で存在してもしなくてもよいが、分子としておよび/または化合物内に存在してもよい。
【0014】
本発明の一具体例として、界面材料中、特に接着層中のモリブデンの割合は、30~90重量%の範囲であり、界面材料中、特に接着層中の他の元素の割合は、70~10重量%の範囲である。好ましくは、界面材料中のモリブデンの割合は、40~80重量%の範囲であり、界面材料中の他の元素の割合は、60~20重量%の範囲である。特に好ましくは、界面材料中のモリブデンの割合は、50~70重量%の範囲であり、界面材料中の他の元素の割合は、50~30重量%の範囲である。特に、界面材料中のモリブデンの割合は、55~65重量%、または58~62重量%、または60重量%であり、界面材料中の他の元素の割合は、45~35重量%、または42~38重量%、または40重量%の範囲とすることができる。界面材料は、0.01~0.2重量%、好ましくは0.01~0.1重量%の範囲のSおよびPなどの不純物を含有してもよい。
【0015】
本発明の一具体例では、他の元素および/または機能層は以下の材料を含むことができ、特に以下の材料からなることができる。
【0016】
他の元素および/または機能層に、粉末形態の材料、好ましくは鉄基材料(以下、Fe基とも称する)、特に以下の化学組成のガスアトマイズ粉末を使用できる。
C=0.4~1.5重量%
Cr=0.2~2.5重量%
Mn=0.2~3重量%
Fe=100重量%となる残部。
特に、粉末はさらに以下を含有しても良い。
S=0.01~0.2重量%
P=0.01~0.1重量%。
【0017】
好ましくは、他の元素および/または機能層に、粉末の形態のFe基材料、特に以下の化学組成のガスアトマイズ粉末を使用できる。
C=0.1~0.8重量%
Cr=11~18重量%
Mn=0.1~1.5重量%
Mo=0.1~5重量%
Fe= 100重量%となる残部。
特に、粉末はさらに以下を含有しても良い。
S=0.01~0.2重量%
P=0.01~0.1重量%。
【0018】
しかし、他の元素および/または機能層は、以下の化学組成を有するFe基材料でもよい。Fe0.2C1.4Cr1.4Mn、特に、Mo=0.1~5重量%も含有できる。
【0019】
他の元素および/または機能層の粉末の粒径は、5~25μm、10~45μm、または15~60μmの範囲にできる。
【0020】
しかし、他の元素および/または機能層は、以下の材料を含むことができ、特にそれらは以下の材料からなることができる。
・Fe基+30%Mo-特にFe0.2C1.4Cr1.4Mn+30%Mo
・MMC=Fe基材料および酸化物セラミックからなる金属マトリックス複合材料であり、酸化物セラミックは、特にトライボロジー酸化物セラミック、好ましくはTiO2またはAl2O3TiO2および/またはAl2O3ZrO2および/またはAl2O3?20ZrO2合金系からなる酸化物セラミック、および/または使用される材料、特に粉末中の酸化物セラミックの割合は、5~50重量%、好ましくは35重量%である。特に、MMCは、Fe14Cr2Mo、および5~50重量%、好ましくは35重量%の酸化物セラミックとすることができる。
・全てTiO2やCr2O3などのセラミックス
・Cr3C2-25NiCr、特にCr3C2-25NiCrおよび20%Mo
・AlSi及びセラミック(例えばTiO2、ZnO2)、特にAlSi及び20重量%のMo及びセラミック。
【0021】
本明細書または特許請求の範囲が、例えば層系内の接着層に言及する場合、別段の定義がない限り、必ずしも層系の他の層に対する明確な界面に形成される必要はない。例えば、これは傾斜組成によって別の層に侵入したり、界面プロファイリング(界面形状)のために明確に定義された層でない場合がある。
【0022】
本明細書または特許請求の範囲が化学元素の存在に言及する場合、これは元素形態で存在する必要はなく、化合物内にも存在できる。
【0023】
本発明の好ましい第1の具体例によれば、接着層の材料は、付着される溶射機能層の材料と化学結合を形成し接合するようにさらに選択される。
【0024】
他の(好ましい)第2の具体例によれば、接着層は表面粗さを有するように設計され、それにより、付着すべき溶射機能層が少なくとも機械的に接着層に十分な程度に接合するようになる。例えば、その粗さは、目標とされる柱状晶成長によって達成できる。気孔率を増加させることによって接着層の粗さを達成することも可能である。
【0025】
図2に示す本発明による具体例では、溶射機能層3の基材1への接着は、基材1の表面を活性化させることなく確実に行われる。それは、接着層5と基材との間の化学結合、および接着層5と機能層3との間の機械的および/または化学的結合による。
【0026】
一具体例では、シリンダボアのコーティング、特に層系は、特に化学組成および/または組織構造に関して、漸進的移行および/または傾斜の形態で設計することができる。このようにして、実際に組成および/または形態が徐々に変化する1つの層、すなわち傾斜層、特に傾斜層系が存在する。したがって、傾斜層、特に傾斜層系は、傾斜層が直接に第1の界面にある材料、すなわちシリンダの基材の表面と化学結合を形成する材料、特に接着層の材料、すなわち界面材料を含むことを意味すると理解することができる。この面からの距離が増すにつれて、すなわち層の厚さが増すにつれて、コーティング材料は次に実際に付着されるべき溶射層、好ましくは機能層のコーティング材料に徐々に溶け込む。
【0027】
本発明の一具体例では、徐々に変化する組成、すなわち漸進的移行および/または傾斜を有する傾斜層、特に傾斜層系は、以下の2つの変形例を有することができる。
【0028】
変形例1
界面材料は、機能層の材料、特に機能層に徐々に融合する。その場合、機能層の材料0重量%および界面材料100重量%を有する、組成が徐々に変化する層の第1の界面から始まる。ここで、界面材料は60重量%のモリブデンおよび40重量%の他の元素からなることができる。好ましくは、界面材料は、60重量%のモリブデンと40重量%のNi5Alからなることができる。組成が徐々に変化する層の終端部は100重量%の機能層と0重量%の界面材料を有し、組成が徐々に変化する層の終端部は、少なくとも部分的にシリンダのボアのシェル表面を形成して機能層として作用できる。
【0029】
変形例2
界面材料は、モリブデンおよび他の元素を含むことができ、特にモリブデンおよび他の元素からなることができる。好ましくは、他の元素は機能層の材料に対応し、界面材料は徐々に機能層の材料に融合する。特に、接着層が機能層に融合する。その場合、40重量%の他の元素、50~70重量%、好ましくは60重量%のモリブデンを有する組成が徐々に変化する層の第1の界面から始まる。組成が徐々に変化する層の終端部は、特に機能層の材料に対応する0~40重量%のモリブデンおよび60~100重量%の他の元素、好ましくは20~40重量%のモリブデンおよび60~80重量%の他の元素、特に好ましくは30重量%のモリブデンおよび70重量%の他の元素を有し、組成が徐々に変化する層の終端部は、少なくとも部分的にシリンダのボアの内側シェル表面を形成して機能層として作用できる。
【0030】
例えば、変形例2は、以下の化学組成および過程を有することができる。
例1
他の元素=Fe基、特に機能層=他の元素=Fe基
開始部:Fe基材および60重量%のモリブデン、好ましくはFe0.2C1.4Cr1.4Mn+60%Mo。
終端部:Fe基、好ましくはFe0.2C1.4Cr1.4Mn
【0031】
例2
他の元素=Fe基、特に機能層=他の元素=Fe基
開始部:Fe基材および60重量%のモリブデン、好ましくはFe0.2C1.4Cr1.4Mn+60%モリブデン
終端部:Fe基材および30重量%のモリブデン、好ましくはFe0.2C1.4Cr1.4Mn+30%モリブデン
【0032】
本発明の一具体例では、特に変形例1および/または変形例2においては、組成が徐々に変化する組成変化層内の界面材料の割合は、開始部から終端部まで線形的または指数関数的に減少することが好ましい。および/または、特に変形例1および/または変形例2においては、組成が徐々に変化する層内の機能層の割合は、開始部から終端部まで線形的または指数関数的に増加することができる。
【0033】
本発明の特に好ましい第3の具体例によれば、シリンダボアのコーティングは傾斜の形態で設計される。界面に直接に付着されるべきコーティングは、シリンダの基材の表面と化学結合を形成する材料を含む、すなわち特に接着層の材料である。この表面からの距離が増加するにつれて、すなわち層の厚さが増加するにつれて、コーティング材料は実際に付着されるべき保護溶射層のコーティング材料と徐々に融合する。これは、例えば、接着層を時間的に減少させる噴射および/または機能層を時間的に増加させる噴射を伴う二重噴射によって実現することができた。このようにして、実際には徐々に変化する組成および/または形態を有するただ1つの層、すなわち組成変化層、特に組成変化層系ができる。
【0034】
本発明の一具体例では、組成が徐々に変化する層、すなわち漸進的移行、すなわち組成変化層は、接着層の材料および機能層の材料の2つを別々に供給できる単一噴射によって実現できる。特にY字型部材によって統合される2つの粉末コンベヤを使用することができる。
【0035】
そのような接着層の例として、NiAlおよびMoを含む材料組成物を挙げることができる。
【0036】
本発明の一具体例では、界面材料は、モリブデンおよびNi5Alを含むことができ、好ましくはモリブデンおよびNi5Alからなることができる。以下の表1は、従来の活性化(機械的、コランダム)とモリブデンおよびNi5Alからなる界面材料を用いて達成される平均接着引張強さを示す。特に、界面材料は、モリブデン、Ni5Al、および0.1~0.3重量%の範囲の不純物からなることができる。
【0037】
【0038】
以下、本発明を、実施例を参照しながら、また図を用いて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【発明を実施するための形態】
【0040】
実施例は、本発明の第1の具体例に関するものである。シリンダのボアは被覆されており、それによってシリンダの基材はアルミニウム合金であり、そしてボアは85mmの直径を有し、170mm深さである。このボアは、厚さ200~300μmの鉄基溶射コーティング(95%Fe、1.5%Cr、1%Mn、1%C)で被覆されることになる。溶射の被覆方法として大気圧プラズマ溶射(APS)が使用されるべきである。この場合、コーティング材料粉末は、エネルギーおよびプロセスガスの供給下、プラズマ中で連続的に溶融され、液体形態で霧化され、内側のシリンダ壁の基材に付着されて凝固して閉じた層を形成する。プラズマガンは溶融プロセス中に回転するので、シリンダ壁の内側は均一にコーティングされる。
【0041】
もしも上記の方法を単に適用してこの層を基材に直接被覆した場合、基材への接着は十分ではないであろう。従来技術によれば、基材の表面は、粗面化されるかまたはプロファイリング(形状付与)されていた。
【0042】
それに対して、本発明による実施形態では、モリブデンとニッケル-アルミニウムの混合粉末による5~150μm厚の接着層が基材に直接付着される。この材料は、基材および実際の層材料の両方と化学結合を形成するという利点を有する。基材との界面には、例えばイオン性の化合物が形成され、そして接着層と被覆材料との界面にはイオン結合も形成され、さらに溶射被覆の粗さによる機械的結合も生じる。それにより、両方の界面における十分な接着が保証される。