(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】多層シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20221028BHJP
B32B 29/02 20060101ALI20221028BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20221028BHJP
D21H 17/70 20060101ALI20221028BHJP
D06M 11/56 20060101ALI20221028BHJP
D06M 11/76 20060101ALI20221028BHJP
D06M 11/44 20060101ALI20221028BHJP
D06M 11/45 20060101ALI20221028BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20221028BHJP
【FI】
B32B5/26
B32B29/02
D21H27/00 E
D21H17/70
D06M11/56
D06M11/76
D06M11/44
D06M11/45
D06M101:06
(21)【出願番号】P 2019544565
(86)(22)【出願日】2018-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2018033964
(87)【国際公開番号】W WO2019065270
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2017187070
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 絢香
(72)【発明者】
【氏名】福岡 萌
(72)【発明者】
【氏名】大石 正淳
(72)【発明者】
【氏名】蜷川 幸司
(72)【発明者】
【氏名】中谷 徹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 至誠
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057154(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/140844(WO,A1)
【文献】特開2011-001675(JP,A)
【文献】特開平08-258400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D21H 11/00-27/42
D06M 11/00-11/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含むシートが2層以上積層しており、
少なくとも1層のシートは、繊維と無機粒子との複合繊維を含み、
別の層のシートとは異なる性質を有し、
前記別の層のシートは、繊維と複合化した無機粒子、および繊維と複合化していない無機粒子の何れか1つ以上の無機粒子を含み、繊維と複合化した無機粒子は複合繊維として含まれ、
前記少なくとも1層のシートに含まれる複合繊維の無機粒子の種類と、前記別の層のシートに含まれる無機粒子の種類とが異なり、
前記複合繊維は、灰分歩留が、
70%以上であり、
前記複合繊維に含まれるセルロース繊維のJIS P 8121-2:2012に規定されるカナダ標準濾水度が600mL以下である、
多層シート。
【請求項2】
前記別の層のシートは、繊維と無機粒子との複合繊維を含まない、
請求項1に記載の多層シート。
【請求項3】
前記繊維と無機粒子との複合繊維を含むシートを2層以上含み、
1層の含有する無機粒子の種類と、少なくとも他の1層の含有する無機粒子の種類とが異なり
、
前記複合繊維を含むシートは表層に配される、
請求項1又は2に記載の多層シート。
【請求項4】
前記無機粒子が炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム及びハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、請求項1~3のいずれかに記載の多層シート。
【請求項5】
前記繊維がセルロース繊維である、請求項1~4のいずれかに記載の多層シート。
【請求項6】
前記繊維と無機粒子との複合繊維が、繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されている、請求項1~5のいずれかに記載の多層シート。
【請求項7】
前記複合繊維に含まれるセルロース繊維が、LBKP:NBKP=50:50~LBKP:NBKP=0:100である、請求項1~6のいずれかに記載の多層シート。
【請求項8】
前記無機粒子がハイドロタルサイトを含む、請求項1~7のいずれかに記載の多層シート。
【請求項9】
繊維を含むシートが2層以上積層しており、少なくとも1層のシートは、繊維と無機粒子との複合繊維を含み、別の層のシートとは異なる性質を有
し、
前記別の層のシートは、繊維と複合化した無機粒子、および繊維と複合化していない無機粒子の何れか1つ以上の無機粒子を含み、繊維と複合化した無機粒子は複合繊維として含まれ、
前記少なくとも1層のシートに含まれる複合繊維の無機粒子の種類と、前記別の層のシートに含まれる無機粒子の種類とが異なる、多層シートの製造方法であって、
繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成して、前記複合繊維を生成する複合繊維生成工程と、
前記
少なくとも1層のシートを形成するための複合繊維を含む複合繊維含有スラリーと、当該別の層のシー
トを形成するための
繊維と複合化した無機粒子、および繊維と複合化していない無機粒子の何れか1つ以上の無機粒子を含むスラリーとを連続抄紙機に供して連続的に抄紙してシートを生成するシート生成工程と、を含み、
前記複合繊維生成工程では、含まれるセルロース繊維のJIS P 8121-2:2012に規定されるカナダ標準濾水度が600mL以下である、多層シートの製造方法。
【請求項10】
前記複合繊維生成工程では、含まれるセルロース繊維が、LBKP:NBKP=50:50~LBKP:NBKP=0:100である、
請求項9に記載の多層シートの製造方法。
【請求項11】
前記連続抄紙機が長網式又は円網式である、請求項9又は10に記載の多層シートの製造方法。
【請求項12】
前記多層シートは、前記繊維と無機粒子との複合繊維を含むシートを2層以上含み、
1層の含有する無機粒子の種類と、少なくとも他の1層の含有する無機粒子の種類とが異なり、
前記複合繊維を含むシートは表層に配され、
前記無機粒子が炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム及びハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、多層シートを製造する、請求項9~11のいずれかに記載の多層シートの製造方法。
【請求項13】
前記無機粒子がハイドロタルサイトを含む、請求項9~12のいずれかに記載の多層シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子複合繊維シートを含む多層シート、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維は、その表面に無機粒子を付着させることによって、様々な特性を発揮させることができる。これついて、繊維の存在下で無機物を合成することにより、無機粒子と繊維との複合体を製造する方法が開発されてきている。例えば、特許文献1には、炭酸カルシウムと、リヨセル繊維又はポリオレフィン繊維との無機粒子複合繊維が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国公開特許公報「特開2015-199655号」(2015年11月12日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、機能性を有する多層シートを製造するためには、機能を有する材料又はシートを、ベースとなるシートに塗布したり貼り合わせ加工したりする必要があり、より容易に、機能性を有する多層シートを製造する方法が求められている。
【0005】
また、多層シートを構成する一部のシートが既に定まっていることがある。そして、多層シートの製造者は、当該一部のシートとは異なる機能を付与する目的で、別のシートを積層させることを望む場合がある。また、当該別のシートに無機粒子に由来する機能を持たせる場合、歩留まり高く無機粒子を繊維に付着させることができれば、無機粒子に由来する高い機能を効率的に多層シートに持たせることができる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて成された発明であり、歩留まり高く無機粒子を含有させたシートを用いて、或るシートに別の機能を有するシートを積層させて、容易に多層シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る多層シートは、繊維を含むシートが2層以上積層しており、少なくとも1層のシートは、繊維と無機粒子との複合繊維を含み、別の層のシートとは異なる性質を有する。
【0008】
また、本発明の一態様に係る多層シートの製造方法は繊維を含むシートが2層以上積層しており、少なくとも1層のシートは、繊維と無機粒子との複合繊維を含み、別の層のシートとは異なる性質を有する、多層シートの製造方法であって、繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成して、前記複合繊維を生成する複合繊維生成工程と、前記複合繊維を含む複合繊維含有スラリーと、当該別の層のシートとを形成するためのスラリーとを連続抄紙機に供して連続的に抄紙してシートを生成するシート生成工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、歩留まり高く無機粒子を含有させたシートを用いて、或るシートに別の機能を有するシートを積層させて、容易に製造できる多層シートを提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例における硫酸バリウム及びハイドロタルサイトとセルロース繊維との複合繊維の合成に用いた反応装置の概略の構成を示す模式図である。
【
図2】実施例における炭酸マグネシウムとセルロース繊維との複合繊維の合成に用いた反応装置の概略の構成を示す模式図である。
【
図3】複合繊維の生成で使用し得る開放系の反応装置の概略の構成を示す模式図である。
【
図4】複合繊維の生成で使用し得る加圧反応容器の概略の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。尚、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0012】
<多層シート>
本発明の一態様に係る多層シートは、繊維を含むシートが2層以上積層しており、少なくとも1層のシートは、繊維と無機粒子との複合繊維を含み、別の層のシートとは異なる性質を有する。例えば、少なくとも1層のシートは繊維と無機粒子との複合繊維を含み、別の層のシートは繊維と無機粒子との複合繊維を含まないこと、または、繊維と無機粒子との複合繊維を含むシートを2層以上含み、1層の含有する無機粒子の種類と、少なくとも他の1層の含有する無機粒子の種類とが異なることにより、本発明の一態様に係る多層シートを得ることができる。この構成により、或る層のシートは、多層シートを構成するシートの一つとして予め決定されていても、他のシートに当該決定されているシートとは異なる性質を持たせることで、当該或る層のシートの性質に、異なる性質も併せ持つ多層シートを製造することができる。また、表層に設けるとより効果が発揮される性質を持つシートを表層に配することでより機能を発揮することができる。さらに、後述の通り連続抄紙で好適に製造できるため容易に製造できる。
【0013】
シートの性質は、少なくとも1層のシートの性質が複合繊維を構成する無機粒子に由来する機能に基づく性質であればよい。例えば、難燃性、抗菌性、消臭性、抗ウィルス性、放射線遮蔽性、吸着性等の性質が挙げられる。別の層のシートは無機粒子を含んでもよく、含まなくてもよい。例えば、当該別の層のシートの性質は、シートの厚さ、坪量等の構造等に基づくものでもよい。また、前記少なくとも1層のシートと、前記別の層のシートとは、含有する無機粒子の種類及び含有量のうち少なくとも一方が異なることで性質が異なっていてもよい。シートに所望の機能を発揮させる無機粒子の種類、含有量を調整することで、より容易に、所望の機能を有する多層シートを製造できる。
【0014】
本発明の一態様に係る多層シートを構成するシートの数は特に限定されないが、例えば、2~5層のシートを積層させてもよい。
【0015】
複合繊維は、単に繊維と無機粒子とが混在しているのではなく、水素結合等によって繊維と無機粒子とが複合化していることにより、無機粒子が繊維から脱落し難い。従って、複合繊維を含むことによって、無機粒子の歩留まりが高いシートを提供することができる。本発明の一態様に係る多層シートはこのようなシートを含むので、当該無機粒子に由来する機能を発現する多層シートを効率よく製造できる。
【0016】
複合繊維におけるセルロース繊維と無機粒子との結着の強さは、例えば、灰分歩留(%)によって評価できる。例えば、複合繊維がシート状である場合、(シートの灰分÷離解前の複合繊維の灰分)×100といった数値によって評価することができる。具体的には、複合繊維を水に分散させて固形分濃度0.2%に調整してJIS P 8220-1:2012に規定される標準離解機で5分間離解後、JIS P 8222:1998に従って150メッシュのワイヤーを用いてシート化した際の灰分歩留を評価に用いることができ、好ましい態様において灰分歩留は20質量%以上であり、より好ましい態様において灰分歩留は50質量%以上である。つまり、単に無機粒子を繊維に単に配合した場合と異なり、無機粒子を繊維と複合化しておくと、例えば、シート状の複合繊維とする態様において、無機粒子が複合繊維に歩留易いだけでなく、凝集せずに均一に分散した複合繊維を得ることができる。
【0017】
本発明の一態様において、複合繊維における繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されていることが好ましい。このような面積率で繊維表面が無機粒子に被覆されていると無機粒子に起因する特徴が大きく生じるようになる一方、繊維表面に起因する特徴が小さくなる。また、複合繊維において、無機粒子によるセルロース繊維の被覆率(面積率)は、25%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。また、前記方法によれば、被覆率を60%以上、80%以上の複合繊維を好適に製造できる。被覆率の上限値は用途に応じて適宜設定すればよいが、例えば、100%、90%、80%である。また、本発明の一態様における複合繊維では、無機粒子が繊維の外表面に生成することが電子顕微鏡観察の結果から明らかとなっている。
【0018】
本発明の一態様において、複合繊維の灰分(%)は30%以上、90%以下であることが好ましく、40%以上、80%以下であることがより好ましい。複合繊維の灰分(%)は、ろ紙を用いて複合繊維のスラリー(固形分換算で3g)を吸引濾過した後、残渣をオーブンで乾燥し(105℃、2時間)、さらに525℃で有機分を燃焼させ、燃焼前後の重量から算出することができる。このような複合繊維をシート化することによって、高灰分の複合繊維シートを製造することができる。
【0019】
本発明の一態様において、1層のシートとして、様々な坪量のシートを適用することができる。例えば、30g/m2以上、600g/m2以下、好ましくは、50g/m2以上、600g/m2以下の坪量のものが挙げられる。
【0020】
〔無機粒子〕
複合繊維を構成する無機粒子は、多層シートの用途に応じて適宜選択すればよく、水に不溶性又は難溶性の無機粒子であることが好ましい。無機粒子の合成を水系で行う場合があり、また、複合繊維を水系で使用することもあるため、無機粒子が水に不溶性又は難溶性であると好ましい。
【0021】
無機粒子とは無機化合物の粒子をいい、例えば金属化合物が挙げられる。金属化合物とは、金属の陽イオン(例えば、Na+、Ca2+、Mg2+、Al3+、Ba2+等)と陰イオン(例えば、O2-、OH-、CO3
2-、PO4
3-、SO4
2-、NO3-、Si2O3
2-、SiO3
2-、Cl-、F-、S2-等)がイオン結合によって結合してできた、一般に無機塩と呼ばれるものをいう。無機粒子の具体例としては、例えば、金、銀、チタン、銅、白金、鉄、亜鉛、及び、アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む化合物が挙げられる。また、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、リン酸カルシウム、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、二酸化チタン、ケイ酸ナトリウムと鉱酸から製造されるシリカ(ホワイトカーボン、シリカ/炭酸カルシウム複合物、シリカ/二酸化チタン複合物)、硫酸カルシウム、ゼオライト、ハイドロタルサイトが挙げられる。炭酸カルシウム-シリカ複合物としては、炭酸カルシウム及び/又は軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物以外に、ホワイトカーボンのような非晶質シリカを併用してもよい。以上に例示した無機粒子については、繊維を含む溶液中で、互いに合成する反応を阻害しない限り、単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0022】
また、複合繊維中の無機粒子がハイドロタルサイトである場合、ハイドロタルサイトとセルロース繊維との複合繊維の灰分中、マグネシウム及び亜鉛のうち少なくとも一つを10重量%以上含むことがより好ましい。
【0023】
本発明の一実施形態において、無機粒子は、難燃性の高いシートを得る目的であれば炭酸マグネシウムがより好ましく、放射線遮蔽機能の高いシートを得る目的であれば硫酸バリウムがより好ましく、消臭、抗菌機能の高いシートを得る目的であればハイドロタルサイトがより好ましい。また、異なる機能を有するシートを積層してもよく、例えば、消臭、抗菌機能を有するシートと難燃性の高いシートを積層すると、パーテーションボードに好適である。
【0024】
一つの好ましい態様として、無機粒子の平均一次粒子径を、例えば、1μm以下とすることができるが、平均一次粒子径が500nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が200nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が100nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が50nm以下の無機粒子を用いることができる。また、無機粒子の平均一次粒子径は10nm以上とすることも可能である。なお、平均一次粒子径は電子顕微鏡写真から算出することができる。
【0025】
また、無機粒子を合成する際の条件を調整することによって、種々の大きさ及び形状を有する無機粒子を繊維と複合化することができる。例えば、鱗片状の無機粒子が繊維に複合化している複合繊維とすることもできる。複合繊維を構成する無機粒子の形状は、電子顕微鏡による観察により確認することができる。
【0026】
また、無機粒子は、微細な一次粒子が凝集した二次粒子の形態を取ることもあり、熟成工程によって用途に応じた二次粒子を生成させてもよく、また、粉砕によって凝集塊を細かくしてもよい。粉砕の方法としては、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、石臼型ミル、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、叩解機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。
【0027】
〔繊維〕
複合繊維を構成する繊維は、例えば、セルロース繊維が好ましい。セルロース繊維の原料としては、パルプ繊維(木材パルプ、非木材パルプ)、バクテリアセルロース、ホヤ等の動物由来セルロース、藻類が例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。
【0028】
木材原料(木質原料)等の天然材料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
【0029】
非木材由来のパルプとしては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。
【0030】
パルプ繊維は、未叩解及び叩解のいずれでもよく、複合繊維の物性に応じて選択すればよいが、叩解を行う方が好ましい。これにより、パルプ繊維の強度の向上及び無機粒子の定着促進が期待できる。また、パルプ繊維を叩解することにより、シート状の複合繊維とする態様において、複合繊維シートのBET比表面積の向上効果が期待できる。尚、パルプ繊維の叩解の程度はJIS P 8121-2:2012に規定されるカナダ標準濾水度(Canadian Standard freeness:CSF)によって表わすことができる。叩解が進むにつれてパルプ繊維の水切れ状態が低下し、濾水度は低くなる。
【0031】
また、セルロース原料はさらに処理を施すことで、微粉砕セルロース、酸化セルロース等の化学変性セルロースとして使用することもできる。
【0032】
また、セルロース繊維の他にも様々な、天然繊維、合成繊維、半合繊維、無機繊維が挙げられる。天然繊維としては、例えば、ウール、絹糸、コラーゲン繊維等の蛋白系繊維、キチン・キトサン繊維、アルギン酸繊維等の複合糖鎖系繊維等が挙げられる。合成繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、半合繊維としてはレーヨン、リヨセル、アセテート等が挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維等が挙げられる。
【0033】
また、合成繊維とセルロース繊維との複合繊維も本発明の一態様において使用することができ、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維等とセルロース繊維との複合繊維も使用することができる。
【0034】
以上に示した例の中でも、木材パルプを含むか、若しくは、木材パルプと非木材パルプ及び/又は合成繊維との組み合わせを含むことが好ましく、木材パルプのみであることがより好ましい。好ましい態様において、複合繊維を構成する繊維はパルプ繊維である。
【0035】
また、繊維の他にも、無機粒子の合成反応には直接的に関与しないが、生成物である無機粒子に取り込まれて複合粒子を生成するような物質を用いることができる。例えば、パルプ繊維等の繊維を使用する態様において、それ以外にも無機粒子、有機粒子、ポリマー等を含む溶液中で無機粒子を合成することによって、さらにこれらの物質が取り込まれた複合粒子を製造することが可能である。
【0036】
以上に例示した繊維については単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0037】
また、複合化する繊維の繊維長は特に制限されないが、例えば、平均繊維長が0.1μm~15mm程度とすることができ、1μm~12mm、100μm~10mm、500μm~8mm等としてもよい。
【0038】
複合化する繊維の量は、繊維表面の15%以上が無機粒子で被覆されるような量とすることが好ましい。例えば、繊維と無機粒子との重量比を、5/95~75/25とすることが好ましく、10/90~70/30とすることがより好ましく、15/85~65/35とすることがさらに好ましい。
【0039】
〔複合体を形成していない繊維〕
複合繊維含有スラリー中には、複合体を形成していない繊維が含まれていてもよい。複合体を形成していない繊維も含むことでシートの強度を向上させることができる。ここでいう「複合体を形成していない繊維」とは、無機粒子が複合化されていない繊維が意図される。複合体を形成していない繊維としては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。複合体を形成していない繊維としては、例えば、上記に例示した繊維の他にも様々な、天然繊維、合成繊維、半合繊維、無機繊維が挙げられる。天然繊維としては、例えば、ウール、絹糸、コラーゲン繊維等の蛋白系繊維、キチン・キトサン繊維、アルギン酸繊維等の複合糖鎖系繊維等が挙げられる。合成繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、半合繊維としてはレーヨン、リヨセル、アセテート等が挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維等が挙げられる。
【0040】
また、合成繊維とセルロース繊維との複合繊維は、複合体を形成していない繊維として使用することができ、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維等とセルロース繊維との複合繊維も複合体を形成していない繊維として使用することができる。
【0041】
以上に示した例の中でも、複合体を形成していない繊維は、木材パルプを含むか、若しくは、木材パルプと非木材パルプ及び/又は合成繊維との組合せを含むことが好ましく、木材パルプのみであることがより好ましい。また、繊維長が長く強度の向上に有利なことから、針葉樹クラフトパルプがさらに好ましい。
【0042】
複合繊維と複合体を形成していない繊維との重量比は、10/90~100/0とすることが好ましく、20/80~90/10、30/70~80/20としてもよい。複合繊維の配合量が多い程、得られるシートの機能性が向上するため好ましい。
【0043】
<多層シートの製造方法>
本発明の一態様に係る多層シートの製造方法は、繊維を含むシートが2層以上積層しており、少なくとも1層のシートは、繊維と無機粒子との複合繊維を含み、別の層のシートとは異なる性質を有する、多層シートの製造方法であって、繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成して、前記複合繊維を生成する複合繊維生成工程と、前記複合繊維を含む複合繊維含有スラリーと、当該別の層のシートとを形成するためのスラリーとを連続抄紙機に供して連続的に抄紙してシートを生成するシート生成工程と、を含む。
【0044】
〔複合繊維生成工程〕
複合繊維生成工程は、繊維と無機粒子との複合繊維を生成する工程である。複合繊維生成工程では、繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成することによって、複合繊維を生成する。
【0045】
(複合繊維の生成方法)
繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成することによって、所望の無機粒子が繊維に複合化している複合繊維を生成することができる。繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成する方法としては、気液法と液液法のいずれでもよい。気液法の一例としては炭酸ガス法があり、例えば水酸化マグネシウムと炭酸ガスを反応させることで、炭酸マグネシウムを合成することができる。反応は、キャビテーション発生装置を用いてもよく(
図2参照)、開放系又は加圧反応容器内でウルトラファインバブルを発生させて行ってもよい。開放系及び加圧反応容器内でウルトラファインバブルを発生させる装置の模式図をそれぞれ
図3及び
図4に示す。液液法の例としては、酸(塩酸、硫酸等)と塩基(水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等)を中和によって反応させたり、無機塩と酸もしくは塩基を反応させたり、無機塩同士を反応させたりする方法が挙げられる。例えば、水酸化バリウムと硫酸とを反応させることで硫酸バリウムを得たり、硫酸アルミニウムと水酸化ナトリウムとを反応させることで水酸化アルミニウムを得たり、炭酸カルシウムと硫酸アルミニウムとを反応させることでカルシウムとアルミニウムが複合化した無機粒子を得ることができる。また、このようにして無機粒子を合成する際、反応液中に任意の金属や金属化合物を共存させることもでき、この場合はそれらの金属もしくは金属化合物が無機粒子中に効率よく取り込まれ、複合化できる。例えば、炭酸カルシウムにリン酸を添加してリン酸カルシウムを合成する際に、二酸化チタンを反応液中に共存させることで、リン酸カルシウムとチタンの複合粒子を得ることができる。
【0046】
2種類以上の無機粒子を繊維に複合化させる場合には、繊維の存在下で1種類の無機粒子の合成反応を行なった後、当該合成反応を止めて別の種類の無機粒子の合成反応を行なってもよく、互いに反応を邪魔しなかったり、一つの反応で目的の無機粒子が複数種類合成されたりする場合には2種類以上の無機粒子を同時に合成してもよい。
【0047】
無機粒子を合成する際の条件を調整することによって、種々の大きさや形状を有する無機粒子を繊維と複合化することができる。例えば、鱗片状の無機粒子が繊維に複合化している複合繊維とすることもできる。複合繊維を構成する無機粒子の形状は、電子顕微鏡による観察により確認することができる。
【0048】
複合繊維生成工程では、含まれるセルロース繊維が、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP):針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)=50:50~LBKP:NBKP=0:100であることが好ましい。このような範囲であれば、断紙が起こり難くなる。また、含まれる繊維の長さ加重1.2mm~2.0mmの繊維長分布(%)が16%以上(好ましくは19%以上)、及び、長さ加重1.2mm~3.2mmの繊維長分布(%)が30%以上(好ましくは35%以上)のうち少なくとも一方のスラリーを用いることがより好ましい。複合繊維を構成する繊維が前記の繊維長分布であれば、機能性無機物が高配合した繊維シートを連続抄紙するときの断紙をより抑えることができる。スラリーに含まれている繊維の長さ加重繊維長分布は、例えば、光学的計測方法によって測定することができる(JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.52(パルプ及び紙-繊維長試験方法-光学的自動計測法)又はJIS P 8226(パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法-第1部:偏光法)、JIS P 8226‐2(パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法-第2部:非偏光法)を参照。)。複合繊維生成工程で用いるスラリーに含まれている繊維の長さ加重平均繊維長(length-weighted mean length)が、1.2mm以上、1.5mm以下であることがさらに好ましい。複合繊維を構成する繊維が前記の長さ加重平均繊維長であれば、機能性無機物が高配合した繊維シートを連続抄紙するときの断紙を抑えることができる。
【0049】
スラリーに含まれている繊維の長さ加重繊維長分布が前記範囲となるスラリーの調製方法又はスラリーに含まれている繊維の長さ加重平均繊維長が前記範囲となるスラリーの調製方法は特に限定されないが、例えば、長さ加重平均繊維長が1.0mm以上、2.0mm以下である繊維(便宜上、「繊維群A」と称する。)を、複合繊維の合成に供される繊維の総量に対して60重量%以上混合することによって調製することができる。尚、前記「長さ加重平均繊維長」は、例えば、公知のMetso Fractionater(Metso社製)を用いて測定することができる。繊維群Aとしては、繊維長が長く強度の向上に有利なことから、針葉樹クラフトパルプを用いることが好ましい。
【0050】
繊維群Aの長さ加重平均繊維長は、1.0mm以上、2.0mm以下であればよいが、好ましくは1.2mm以上、1.6mm以下であり、より好ましくは1.4mm以上、1.6mm以下である。長さ加重平均繊維長が1.2mm以上であることにより得られるシートの強度が向上する。1.6mm以下であることによりシートの隙ムラを抑制できる。
【0051】
複合繊維生成工程において用いるスラリーに、長さ加重平均繊維長が1.0mm以上、2.0mm以下である繊維を、前記スラリーに含まれる前記繊維の総量に対して80重量%以上混合することが好ましく、100重量%としてもよい。
【0052】
長さ加重平均繊維長が上記範囲を満たす繊維としては、例えば、公知の針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等を挙げることができる。
【0053】
複合繊維生成工程において用いるスラリーにおいて、繊維群Aと混合される繊維(便宜上、「繊維群B」と称する。)の長さ加重平均繊維長は、特に限定されない。例えば、繊維群Bは、長さ加重平均繊維長が、例えば、1.0mm未満(好ましくは、0.6mm以上、1.0mm未満)のものであってもよく、2.0mmを上回る(好ましくは、2.0mmより大きく、3.2mm以下)ものであってもよく、1.0mm以上、2.0mm以下であってもよい。このような長さ加重平均繊維長を有しているセルロース繊維としては、例えば、公知の広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、機械パルプ(GP)、脱墨パルプ(DIP)、未叩解パルプ等を挙げることができる。
【0054】
複合繊維生成工程において複合繊維の合成に供される繊維の量は、繊維の表面の15%以上が無機粒子で被覆されるような量とすることが好ましい。例えば、繊維と無機粒子との重量比を、5/95~95/5とすることが好ましく、10/90~90/10、20/80~80/20、30/70~70/30、40/60~60/40としてもよい。
【0055】
また、本発明の一態様において、複合繊維の合成に使用する繊維は、どのような濾水度のものでも使用できるが、600mL以下ものでも好適に使用できる。特に、複合繊維生成工程において、含まれる繊維の長さ加重を上述の範囲とすれば、濾水度が600mL以下である繊維を連続抄紙するときの断紙をより抑制することができる。つまり、複合繊維シートの強度及び比表面積を向上させるために叩解等の繊維表面積を増やす処理をすると濾水度が低くなるが、そのような処理を行なった繊維も好適に利用できる。また、繊維の濾水度の下限値は、より好ましくは、50mL以上であり、さらに好ましくは100mL以上である。繊維の濾水度が200mL以上であれば、連続抄紙の操業性が良好である。
【0056】
〔シート生成工程〕
シート生成工程は、前記複合繊維を含む複合繊維含有スラリーと、当該別の層のシートとを形成するためのスラリーとを抄紙してシートを生成する工程である。
【0057】
シート生成工程において生成する複合繊維シートの坪量は、目的に応じて適宜調整できる。複合繊維シートの坪量は、例えば、15g/m2以上、800g/m2以下、好ましくは30g/m2以上、600g/m2以下に調整され得る。また、支持層となるシートと抄き合わせることで、より厚さが薄いシートの生成が可能である。
【0058】
(抄紙)
シート生成工程では、複合繊維含有スラリーと、別の層のシートとを形成するためのスラリーとを連続抄紙機に供して、各スラリー由来のシートが積層するように連続的に抄紙する。連続抄紙機によって多層シートを製造するため、従来のように、機能を有する材料又はシートを、ベースとなるシートに塗布したり貼り合わせ加工したりする必要がなく、より容易に機能性を有する多層シートを製造できる。
【0059】
連続抄紙機は特に限定されず、公知の抄紙機(抄造機)を選択することができる。例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、長網・傾斜コンビネーション抄紙機、ギャップフォーマ、ハイブリッドフォーマ、多層抄紙機、これらの機器の抄紙方式を組合せた公知の抄造機等が挙げられる。本発明の一実施形態において、長網抄紙機を好適に採用することができる。また、本発明の他の実施形態において、円網抄紙機を好適に採用することができる。円網抄紙機は、坪量が多い複合繊維シートの製造に適している。また、円網抄紙機は、長網抄紙機と比較して設備がコンパクトであるという利点を有する。これに対して、長網抄紙機は、円網抄紙機と比較して高速抄紙が可能であるという利点を有している。抄紙機におけるプレス線圧、後述するカレンダー処理を行う場合のカレンダー線圧は、いずれも操業性や複合繊維シートの性能に支障を来さない範囲内で定めることができる。また、形成されたシートに対して含浸や塗布により澱粉や各種ポリマー、顔料及びそれらの混合物を付与してもよい。
【0060】
シート生成工程における抄紙速度は特に限定されない。抄紙速度は、使用する抄紙機の特性、抄紙するシートの坪量等に応じて適宜設定することができる。例えば、長網抄紙機を使用する場合は、抄紙速度を、1m/min以上、1500m/min以下とすることができる。また、例えば、円網抄紙機を使用する場合は、抄紙速度を、10m/min以上、300m/min以下とすることができる。
【0061】
(複合繊維含有スラリー)
シート生成工程において使用する複合繊維含有スラリー(後述する実施例では「紙料スラリー」と称する。)中に含まれている複合繊維としては、1種類のみであってもよく、2種類以上を混合したものであってもよい。
【0062】
複合繊維含有スラリーには、抄紙を妨げない限りにおいて、複合繊維以外の物質を更に添加してもよい。複合繊維以外の物質について、以下に具体的に説明する。
【0063】
(i)複合化されていない繊維
複合繊維含有スラリー中には、上述した複合繊維を形成していない繊維が含まれていてもよい。複合化されていない繊維は、長さ加重平均繊維長が1.0mm以上、2.0mm以下であるものが好ましい。複合繊維含有スラリーが、長さ加重平均繊維長が前記範囲である複合化されていない繊維を更に含むことによって、複合繊維シートの紙力を向上させることができる。
【0064】
(ii)歩留剤
複合繊維含有スラリーには、填料の繊維への定着を促したり、填料及び繊維の歩留を向上させたりするために、歩留剤を添加することもできる。例えば、歩留剤として、カチオン性又はアニオン性、両性ポリアクリルアミド系物質を用いることができる。また、これらに加えて少なくとも一種以上のカチオンやアニオン性のポリマーを併用する、いわゆるデュアルポリマーと呼ばれる歩留りシステムを適用することもでき、少なくとも一種類以上のアニオン性のベントナイトやコロイダルシリカ、ポリ珪酸、ポリ珪酸もしくはポリ珪酸塩ミクロゲル及びこれらのアルミニウム改質物等の無機微粒子や、アクリルアミドが架橋重合したいわゆるマイクロポリマーといわれる粒径100μm以下の有機系の微粒子を一種以上併用する多成分歩留りシステムであってもよい。特に単独又は組合せで使用するポリアクリルアミド系物質が、極限粘度法による重量平均分子量が200万ダルトン以上である場合、良好な歩留りを得ることができ、好ましくは、500万ダルトン以上であり、更に好ましくは1000万ダルトン以上、3000万ダルトン未満の前記アクリルアミド系物質である場合に非常に高い歩留りを得ることが出来る。このポリアクリルアミド系物質の形態はエマルジョン型でも溶液型であっても構わない。この具体的な組成としては、該物質中にアクリルアミドモノマーユニットを構造単位として含むものであれば特に限定はないが、例えば、アクリル酸エステルの4級アンモニウム塩とアクリルアミドとの共重合物、あるいはアクリルアミドとアクリル酸エステルを共重合させた後、4級化したアンモニウム塩が挙げられる。該カチオン性ポリアクリルアミド系物質のカチオン電荷密度は特には限定されない。
【0065】
歩留剤は、複合繊維含有スラリー中の繊維の全重量に対して、好ましくは0.001重量%~0.1重量%、より好ましくは0.005重量%~0.05重量%の量で添加することができる。
【0066】
(iii)繊維と複合化していない無機粒子
複合繊維含有スラリーには、繊維と複合化していない無機粒子を更に添加することができる。このような無機粒子は、複合繊維を構成している無機粒子のように水素結合等によってセルロース繊維と結着せず、繊維と混在している点で区別される。繊維と複合化していない無機粒子(以下、「非複合化無機粒子」という。)の種類は、複合繊維を構成する無機粒子と異なっていても同一であってもよい。また、複合繊維を構成する無機粒子と種類が異なる場合は、非複合化無機粒子は、複合繊維を構成する無機粒子と機能が同一又は類似していてもよく、機能が異なっていてもよい。複合繊維を構成する無機粒子とは異なる種類であり且つ異なる機能を有する非複合化無機粒子を添加することによって、双方の機能を併せ持つ複合繊維シートを製造することができる。また、複合繊維を構成する無機粒子と同一の種類の外添無機粒子又は種類は異なるが機能が同一若しくは類似している非複合化無機粒子を添加することによって、当該機能をより向上させることができる。
【0067】
非複合化無機粒子の種類は、目的に応じて適宜選択すればよい。外添無機粒子は、上述した複合繊維を構成する無機粒子についての説明を準用できる。また、一般に無機填料と呼ばれる粒子を選択することも可能である。無機填料としては上述した無機粒子の他に、金属単体、白土、ベントナイト、珪藻土、クレー(カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン)、タルク、脱墨工程から得られる灰分を再生して利用する無機填料及び再生する過程でシリカ又は炭酸カルシウムと複合物を形成した無機填料等が挙げられる。これらは単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0068】
非複合化無機粒子を添加する場合、複合繊維含有スラリー中の繊維と非複合化無機粒子との重量比は、適宜設定すればよく、例えば、99/1~70/30が好ましい。少量の添加で効果が得られるものもあれば、用途によっては多量に添加が必要なものがある。また、添加量を30%以下とすることで良好に歩留りする。
【0069】
(iv)有機粒子
シート化の際には、有機粒子を添加してもよい。有機粒子とは有機化合物を粒子状にしたものである。有機粒子としては、例えば、難燃性を高めるための有機系の難燃材料(リン酸系、ホウ素系等)、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子、アクリルアミド複合繊維、木材由来の物質(微細繊維、ミクロフィブリル繊維、粉体ケナフ)、印刷適性を向上させるための変性不溶化デンプン、未糊化デンプン、ラテックス等が挙げられる。これらは単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0070】
有機粒子を添加する場合、複合繊維含有スラリー中の繊維と有機粒子との重量比は、適宜設定すればよく、例えば、99/1~70/30が好ましい。また、有機粒子の添加量を30%以下とすることで良好に歩留りする。
【0071】
(v)その他の添加剤
複合繊維含有スラリーには、湿潤及び/又は乾燥紙力剤(紙力増強剤)を添加することができる。これにより、複合繊維シートの強度を向上させることができる。紙力剤としては例えば、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド、ポリアミン、エピクロロヒドリン樹脂、植物性ガム、ラテックス、ポリエチレンイミン、グリオキサール、ガム、マンノガラクタンポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアミン、ポリビニルアルコール等の樹脂;前記樹脂から選ばれる2種以上からなる複合ポリマー又は共重合ポリマー;澱粉及び加工澱粉;カルボキシメチルセルロース、グアーガム、尿素樹脂等が挙げられる。紙力剤の添加量は特に限定されない。
【0072】
また、填料の繊維への定着を促したり、填料及び繊維の歩留を向上させたりするために、高分子ポリマーや無機物を添加することもできる。例えば凝結剤として、ポリエチレンイミン及び第三級及び/又は四級アンモニウム基を含む改質ポリエチレンイミン、ポリアルキレンイミン、ジシアンジアミドポリマー、ポリアミン、ポリアミン/エピクロヒドリン重合体、並びにジアルキルジアリル第四級アンモニウムモノマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド及びジアルキルアミノアルキルメタクリルアミドとアクリルアミドの重合体、モノアミン類とエピハロヒドリンからなる重合体、ポリビニルアミン及びビニルアミン部を持つ重合体やこれらの混合物等のカチオン性のポリマーに加え、前記ポリマーの分子内にカルボキシル基やスルホン基等のアニオン基を共重合したカチオンリッチな両イオン性ポリマー、カチオン性ポリマーとアニオン性又は両イオン性ポリマーとの混合物等を用いることができる。
【0073】
その他、目的に応じて、濾水性向上剤、内添サイズ剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、嵩高剤、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカ等の無機粒子(いわゆる填料)等が挙げられる。各添加剤の使用量は特に限定されない。
【0074】
(別の層のシートを形成するためのスラリー)
別の層のシートを形成するためのスラリーは、多層シートの用途等に応じて適宜準備すればよい。例えば、別の層のシートを形成するためのスラリーは、或る層のシートとは異なる性質となるように無機粒子の種類及び/又は含有量を調整した上で、上述の複合繊維生成工程を行なって得た複合繊維含有スラリーを用いてもよい。また、別の層のシートを形成するためのスラリーは、繊維を含むスラリーに予め合成された無機粒子等の従来公知の填料を添加したものであってもよい。
【0075】
(多層シートの形成方法)
シート生成工程では、複合繊維シート同士が2層以上積層した多層シートからなる無機粒子複合繊維シートを製造する。この場合、複合繊維シートを複数枚重ね合わせて積層体とすればよい。多層シートの製造方法は特に限定されない。例えば、公知の長網・傾斜コンビネーション抄紙機を用いて、複合繊維シートに、複合繊維を含まないシートを抄き合わせて、多層シートを製造することができる。これにより、複合繊維シートの紙力を向上させることができるので、連続抄紙機によって断紙することなく複合繊維シートを製造することができる。
【0076】
〔効果〕
本発明の一態様に係る多層シートの製造方法によれば、多層シート(複数の複合繊維シートのみからなる場合)の比引裂き強度が3.0mN/(g/m2)以上、15.0mN/(g/m2)以下の多層シートを、連続抄紙機によって断紙することなく製造することができる。また、多層シートが、複合繊維シートと非複合繊維シートからなる場合の比引裂き強度はさらに高くなる。
【0077】
また、本発明の一態様に係る多層シートの製造方法によれば、70%以上の紙料歩留にて、連続抄紙機によって断紙することなく多層シートを製造することができる。
【0078】
また、本発明の一態様に係る多層シートの製造方法によれば、60%以上の灰分歩留にて、連続抄紙機によって断紙することなく無機粒子複合繊維シートを製造することができる。
【0079】
〔まとめ〕
本発明は、これに制限されるものでないが、以下の発明を包含する。
【0080】
(1)繊維を含むシートが2層以上積層しており、少なくとも1層のシートは、繊維と無機粒子との複合繊維を含み、別の層のシートとは異なる性質を有する、多層シート。
【0081】
(2)前記別の層のシートは、繊維と無機粒子との複合繊維を含まない、(1)に記載の多層シート。
【0082】
(3)前記繊維と無機粒子との複合繊維を含むシートを2層以上含み、1層の含有する無機粒子の種類と、少なくとも他の1層の含有する無機粒子の種類とが異なる、(1)又は(2)に記載の多層シート。
【0083】
(4)前記無機粒子が炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム及びハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、(1)~(3)のいずれかに記載の多層シート。
【0084】
(5)前記繊維がセルロース繊維である、(1)~(4)のいずれかに記載の多層シート。
【0085】
(6)前記繊維と無機粒子との複合繊維が、繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されている、(1)~(5)のいずれかに記載の多層シート。
【0086】
(7)繊維を含むシートが2層以上積層しており、少なくとも1層のシートは、繊維と無機粒子との複合繊維を含み、別の層のシートとは異なる性質を有する、多層シートの製造方法であって、繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成して、前記複合繊維を生成する複合繊維生成工程と、前記複合繊維を含む複合繊維含有スラリーと、当該別の層のシートとを形成するためのスラリーとを連続抄紙機に供して連続的に抄紙してシートを生成するシート生成工程と、を含む、多層シートの製造方法。
【0087】
(8)前記複合繊維生成工程では、含まれるセルロース繊維が、LBKP:NBKP=50:50~LBKP:NBKP=0:100である、(7)に記載の多層シートの製造方法。
【0088】
(9)前記セルロース繊維のJIS P 8121-2:2012に規定されるカナダ標準濾水度が600mL以下である、(7)又は(8)に記載の多層シートの製造方法。
【0089】
(10)前記連続抄紙機が長網式又は円網式である、(7)~(9)に記載の多層シートの製造方法。
【0090】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0091】
〔実施例1:硫酸バリウム複合繊維シートを含む多層シートの製造〕
(1)硫酸バリウムとセルロース繊維との複合繊維の合成
複合化するセルロース繊維として、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)とを0:100の重量比で含み、シングルディスクリファイナー(SDR)を用いてカナダ標準濾水度(CSF)を290mLに調製したパルプ繊維を用いた。実施例1で複合化に使用したセルロース繊維の長さ加重1.2mm以上、2.0mm以下の繊維長分布は22%、長さ加重1.2mm以上、3.2mm以下の繊維長分布は39%であり、全体の長さ加重平均繊維長は1.4mmである。尚、本実施例において、以下、前記「広葉樹晒クラフトパルプ」を、「LBKP」と省略して記載する。また、前記「針葉樹晒クラフトパルプ」を、「NBKP」と省略して記載する。LBKP及びNBKPは、共に日本製紙製のものを使用した。また、前記「カナダ標準濾水度」を「CSF」と省略して記載する。
【0092】
<測定方法>
・カナダ標準濾水度(CSF):JIS P 8121-2:2012
・長さ加重平均繊維長(Ll):Metso Fractionater(Metso社製)を用いて測定した。
・長さ加重繊維長分布(%):Metso Fractionater(Metso社製)を用いて測定した。
【0093】
図1に示すような装置を用いて、容器(マシンチェスト、容積:4m
3)に、前記パルプ繊維を含むパルプスラリー(パルプ繊維濃度:1.8重量%、パルプ固形分36kg)と水酸化バリウム八水和物(日本化学工業、147kg)とをアジテーターで撹拌しながら混合後、硫酸バンド(和光純薬、198kg)を1.3kg/minで混合した。混合終了後、そのまま60分間撹拌を継続して実施例
1の複合繊維のスラリーを得た。尚、実施例1では、硫酸バリウムを合成する際の原料として硫酸バンドを用いているので、硫酸バリウムだけでなく水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物も合成されている。従って、実施例1では、硫酸バリウム及び水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物とセルロース繊維との複合繊維が合成されている。
【0094】
得られた複合繊維をエタノールで洗浄後、電子顕微鏡を用いて、得られた複合繊維の表面を観察した。観察の結果、繊維表面は無機物質によって15%以上覆われており、自己定着している様子が観察された。繊維に定着している無機粒子の多くは板状であり、サイズが小さいものは不定形の粒子として観察された。また、観察の結果見積もられた無機粒子の平均一次粒子径は、1μm以下であった。
【0095】
得られた複合繊維について、繊維:無機粒子の重量比を測定したところ、25:75であった(灰分:75%)。尚、重量比(灰分)は、ろ紙を用いて複合繊維スラリー(固形分換算で3g)を吸引濾過した後、残渣をオーブンで乾燥し(105℃、2時間)、さらに525℃で有機分を燃焼させ、燃焼前後の重量から算出した。
【0096】
(2)複合繊維を含有する紙料スラリーの調製
得られた複合繊維のスラリー(濃度:1.2重量%)に、カチオン性の歩留剤(ND300、ハイモ)とアニオン性の歩留剤(FA230、ハイモ)とを対固形分で100ppmずつ添加して、複合繊維を含有する紙料スラリー(1層目(表)用の紙料スラリー)を調製した。
【0097】
(3)別の層の紙料スラリーの調製
硫酸バリウムを合成しないこと以外は(1)と同じ操作を行ない、2層目用の紙料スラリーを調製した。
【0098】
(4)多層シートの製造
長網抄紙機(鈴木製機所製)を用いて、抄速10m/minの条件で2種類のスラリーから実施例1の2層のシート(坪量180g/m2)を製造した。厚さは169μm、灰分は60%であった。なお、坪量はJIS P 8124:1998に従って測定した。また、灰分はJIS P 8251:2003に基づき、無機物単体の灰分にて換算した。
【0099】
(5)効果の確認
(5-1)放射線(X線)遮蔽能力評価
サンプルを20枚重ねたときの放射線(X線)遮蔽能力を評価した。具体的には、JIS Z 4501「X線防護用品の鉛当量試験法」に準じて、透過X線量率及び鉛当量を測定した。
【0100】
(透過X線量率) JIS Z 4501の試験方法に準じた線質及び配置でX線を照射し、透過X線量率を測定した。各依頼品及び各測定位置につき5回測定を行い、平均値及び標準偏差を求めた。得られた透過線量率から、以下の式で線量減少率を算出した。
線量減少率(%)=(各サンプルの透過線量率/ブランク(サンプルなし)の透過線量率)×100
(鉛当量) JIS Z 4501「X線防護用品の鉛当量試験方法」に準じて、透過X線量を測定して鉛当量を求めた。各サンプルの鉛当量は、標準鉛版から減弱率曲線を作成して求めた。減弱率曲線は、厚みの異なる4枚の標準鉛板の減弱率から二次補間で作成した。標準鉛版には、各試験品の減弱率よりも減弱率の大きな2枚、減弱率の小さな2枚を選んだ。
【0101】
(測定条件)
・X線装置:エクスロン・インターナショナル社 MG-452型(平滑回路、焦点寸法5.5mm、Be窓)
・X線管電圧及び管電流:MG-452型 100kV 12.5mA 付加ろ過版0.25mmCu
・X線管焦点―試料間距離:1500mm
・試料―測定器間距離:50mm
・測定器:電離箱照射線量率計 東洋メディック社 RAMTEC―1000D型 A-4プローブ使用
・X線量測定単位:空気衝突カーマ
・X線ビーム:狭いビーム
(5-2)結果
X線の線量減少率が50%以上であれば「A」と評価した。結果を表1に示す。表1に示す通り、実施例1の多層シートは優れた放射線遮蔽効果を示した。
【0102】
(5-3)灰分歩留
灰分歩留りを以下の方法で算出した。
・灰分歩留(質量%):抄紙中に原料(インレット)と白水を採取し、灰分から以下の式で算出した。
灰分歩留(質量%)=(原料濃度×原料灰分-白水濃度×白水灰分)/原料濃度×原料灰分×100
(5-4)結果
灰分歩留が70%以上である場合を「A」と評価し、70%未満である場合を「B」と評価した。結果を表1に示す。表1に示す通り、実施例1の多層シートは優れた灰分歩留を示した。
【0103】
〔実施例2:ハイドロタルサイト複合繊維シートを含む多層シートの製造〕
(1)ハイドロタルサイトとセルロース繊維との複合繊維の合成
(1-1)アルカリ溶液及び酸溶液の調製
ハイドロタルサイト(HT)を合成するための溶液を準備した。アルカリ溶液(A溶液)として、Na2CO3(和光純薬)及びNaOH(和光純薬)の混合水溶液を調製した。また、酸溶液(B溶液)として、ZnCl2(和光純薬)及びAlCl3(和光純薬)の混合水溶液を調製した。
・アルカリ溶液(A溶液、Na2CO3濃度:0.05M、NaOH濃度:0.8M)
・酸溶液(B溶液、Zn系、ZnCl2濃度:0.3M、AlCl3濃度:0.1M)
(1-2)複合繊維の合成
複合化するセルロース繊維として、パルプ繊維(LBKP/NBKP=20:80、CSF=390mL)を用いた。実施例2で複合化に使用したセルロース繊維の長さ加重1.2mm以上、2.0mm以下の繊維長分布は19%、長さ加重1.2mm以上、3.2mm以下の繊維長分布は35%であり、全体の長さ加重平均繊維長は1.3mmである。
【0104】
アルカリ溶液にパルプ繊維を添加し、パルプ繊維を含む水性懸濁液を準備した(パルプ繊維濃度:4.0重量%、pH:13)。この水性懸濁液(パルプ固形分80kg)を反応容器(マシンチェスト、容積:4m
3)に入れ、水性懸濁液を撹拌しながら、酸溶液(Zn系)を滴下してハイドロタルサイト微粒子と繊維との複合繊維(Zn
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2O)を合成した。
図2に示すような装置を用いて、反応温度は60℃、滴下速度は1.5kg/minであり、反応液のpHが約6.5になった段階で滴下を停止した。滴下終了後、60分間、反応液を撹拌し、同等量の水を用いて水洗して塩を除去した。
【0105】
電子顕微鏡観察の結果、繊維表面は15%以上覆われていること、平均一次粒子径が1μm以下であることが分かった。また、得られた複合繊維における繊維:無機粒子の重量比は、50:50であった(灰分:50%)。
【0106】
(2)複合繊維を含有する紙料スラリーの調製
ハイドロタルサイトとセルロース繊維との複合繊維のスラリー(濃度:1.2重量%)を用いた以外は、実施例1(2)と同じ操作を行い、複合繊維を含有する紙料スラリーを調製した。
【0107】
(3)別の層の紙料スラリーの調製
ハイドロタルサイトを合成しないこと以外は(1)と同じ操作を行い、2層目用及び3層目用の紙料スラリーを調製した。
【0108】
(4)多層シートの製造
本実施例で調製したスラリーを用いた以外は実施例1(4)と同じ操作を行なって3層のシート(坪量300g/m2)を製造した。厚さは488μm、灰分は17%であった。
【0109】
(5)効果の確認
(5-1)消臭特性評価
実施例2で製造した多層シートの消臭特性を評価した。消臭試験は、SEKマーク繊維製品認証基準(JEC301、繊維評価技術協議会)の方法に基づいて実施し、アンモニア、硫化水素、メチルメルカプタン、ノネナールに対する消臭特性を評価した。アンモニア、硫化水素、メチルメルカプタン、トリメチルアミンは検知管、ノネナールはガスクロマトグラフィーを用いて定量した。
【0110】
サンプルは20℃、65%RHで24時間以上調湿してから、臭気成分の消臭特性(減少率、%)を評価した。ここで、減少率(%)とは、臭気成分の初期濃度と測定時の濃度から下式によって求めることができる。
減少率(%)={(A-B)/A}×100
A:2時間後の空試験濃度
B:2時間後の試料試験濃度
(5-2)結果
臭気成分の減少率が90%以上であれば「A」と評価した。結果を表1に示す。表1に示す通り、本実施例の多層シートは優れた消臭効果を示した。
【0111】
(5-3)抗菌特性評価
実験2で製造した多層シートの抗菌特性を評価した。抗菌性試験は、JIS L 1902に定める菌液吸収法(試験接種菌液を直接試験片上に接種する定量試験方法)にて実施した。試験菌種として黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732)と大腸菌(Escherichia coil NBRC 3301)の2種類を使用し、18時間培養後の生菌数を混釈平版培養法にて測定した。基準として、標準綿布を用いた。試験手順を以下に示す。
1.試験片0.4gをバイアル瓶に入れ、試験菌液0.2mL(0.05%の界面活性剤(Tween80)を含む)を滴下後、バイアル瓶のふたをする。
2.バイアル瓶を37℃で18時間培養する。
3.洗い出し液20mLを加えて試験片から試験菌を洗い出し、洗い出し液中の生菌数を混釈平板培養法又は発光測定法により測定する。
4.下記の式に従い抗菌活性値を算出する。抗菌活性値が2.0以上とは、菌の死滅率が99%以上であることを意味する。
【0112】
抗菌活性値 = {log(対照試料・培養後生菌数) - log(対照試料・接種直後生菌数)} - {log(試験試料・培養後生菌数) - log(試験試料・接種直後生菌数)}
(5-4)結果
抗菌活性値が2.0以上であれば〇と評価した。結果を表1に示す。表1に示す通り、本実施例の多層シートは、対象とした菌種に対し、極めて高い抗菌特性を示した。
【0113】
なお、標準綿布を使用して抗菌性試験をした結果、増殖値が1.0以上であったことから、試験が正しく行われていることを確認した。
【0114】
(5-5)灰分歩留
多層シートの灰分歩留を実施例1と同様の方法で算出し評価した。結果を表1に示す。表1に示す通り、実施例2の多層シートは優れた灰分歩留を示した。
【0115】
〔実施例3:ハイドロタルサイト複合繊維シートと炭酸マグネシウム複合繊維シートを含む多層シートの製造〕
(1)ハイドロタルサイトとセルロース繊維との複合繊維の合成
実施例2と同じ操作を行ない合成した。
【0116】
(2)炭酸マグネシウムとセルロース繊維との複合繊維の合成
複合化するセルロース繊維として、パルプ繊維(LBKP/NBKP=20:80、CSF=390mL)を用いた。複合化に使用したセルロース繊維の長さ加重1.2mm以上、2.0mm以下の繊維長分布は19%、長さ加重1.2mm以上、3.2mm以下の繊維長分布は35%であり、全体の長さ加重平均繊維長は1.3mmであった。
【0117】
水酸化マグネシウム8.0kg(宇部マテリアルズ、UD653)と前記パルプ繊維8.0kgとを水中に添加して水性懸濁液(400L)を準備した。
図2に示すように、この水性懸濁液をキャビテーション装置(500L容)に入れ、反応溶液を循環させながら、反応容器中に炭酸ガスを吹き込んで炭酸ガス法によって炭酸マグネシウム微粒子と繊維との複合繊維を合成した。反応開始温度は約40℃、炭酸ガスは市販の液化ガスを供給源とし、炭酸ガスの吹き込み量は20L/minとした。反応液のpHが約7.4になった段階でCO
2の導入を停止し(反応前のpHは10.3)、その後30分間、キャビテーションの発生と装置内でのスラリーの循環を続け、複合繊維のスラリーを得た。
【0118】
複合繊維の合成においては、
図2に示すように反応溶液を循環させて反応容器内に噴射することよって、反応容器内にキャビテーション気泡を発生させた。具体的には、ノズル(ノズル径:1.5mm)を介して高圧で反応溶液を噴射してキャビテーション気泡を発生させたが、噴流速度は約70m/sであり、入口圧力(上流圧)は7MPa、出口圧力(下流圧)は0.3MPaであった。
【0119】
電子顕微鏡観察の結果、繊維表面は15%以上覆われていること、平均一次粒子径が1μm以下であることが分かった。また、得られた複合繊維における繊維:無機粒子の重量比は、50:50であった(灰分:50%)。
【0120】
(3)ハイドロタルサイト複合繊維を含有する紙料スラリーの調製
ハイドロタルサイトとセルロース繊維との複合繊維のスラリー(濃度:1.2重量%)を用いた以外は、実施例1(2)と同じ操作を行い、複合繊維を含有する1層目用の紙料スラリーを調製した。
【0121】
(4)炭酸マグネシウム複合繊維を含有する紙料スラリーの調製
炭酸マグネシウムとセルロース繊維との複合繊維のスラリー(濃度:1.2重量%)を用いた以外は、実施例1(2)と同じ操作を行い、複合繊維を含有する2層目及び3層目用の紙料スラリーを調製した。
【0122】
(5)多層シートの製造
本実施例で調製したスラリーを用いた以外は実施例1(4)と同じ操作を行なって3層のシート(坪量300g/m2)を製造した。厚さは460μm、灰分は50%であった。
【0123】
(6)効果の確認
(6-1)消臭特性及び抗菌特性評価
実施例2と同じ方法で、本実施例で製造した多層シートの消臭特性及び抗菌を評価した。結果を表1に示す。表1に示す通り、本実施例の多層シートは優れた消臭効果を示した。
【0124】
(6-3)難燃特性評価
実施例3で製造した多層シートの難燃特性を評価した。JIS A 1322(JIS Z 2150)を基にして、以下の手順により評価した。
【0125】
一定の大きさ(20cm×30cm)に切り揃えたボードを50℃で48時間乾燥した後、乾燥用シリカゲルを入れたデシケータ中に24時間放置し、燃焼試験(加熱試験)のサンプルとした。
【0126】
サンプルを支持枠(枠の内寸16cm×25cm)に取り付けて、加熱試験装置に装着し、ガスバーナーに点火後、2分間、サンプルを加熱し、炭化面積、残炎時間、残じん時間を測定した。
【0127】
なお、燃焼試験には、45°燃焼性試験器(スガ試験機社製、FL-45M)を用いた。加熱には、メッケルバーナー(高さ160mm、内径20mm)を用い、1次空気を混入しないでガスだけを送入して燃焼させた。燃料は液化石油ガス5号(ブタン及びブチレンを主体とするもの、JIS K 2240)を用い、サンプルを取り付けない状態で、炎の長さが65mmになるように調整した。
・残炎時間:加熱終了時から試験体が炎をあげて燃え続ける時間を測定した。
・残じん:加熱終了時から無炎燃焼している状態をいう。
・炭化長面積:試験体の加熱面の炭化部分(炭化して明らかに強度が変化)している部分について最大長と最大幅を測定し、それらを掛け合わせて算出した。
【0128】
(6-4)結果
残炎時間が10秒以下、残じん時間が30秒以下、炭化面積が50cm2以下であれば、防炎物品(合板)に求められる基準を満たしており(参考:消防庁「防炎の知識と実際」)、「A」と評価した。結果を表1に示す。表1に示す通り、本実施例の多層シートは優れた難燃特性を示した。
【0129】
(6-5)灰分歩留
多層シートの灰分歩留を実施例1と同様の方法で算出し評価した。その結果を表1に示す。表1に示す通り、実施例3の多層シートは優れた灰分歩留を示した。
【0130】
〔比較例1:無機粒子を含有しない繊維シートのみからなる多層シートの製造〕
硫酸バリウムを合成しないこと以外は実施例1と同じ操作を行なって紙料スラリーを調製した。当該紙料スラリーを1層目用及び2層目用のスラリーとして、実施例1と同じ操作を行なって2層のシート(坪量180g/m2)を製造した。厚さは281μm、灰分は全く含まない。放射線遮蔽特性、消臭特性、抗菌特性及び難燃特性は全てそれぞれの機能を持たせた実施例より劣っていた。
【0131】
〔比較例2:ハイドロタルサイト混合繊維シートを含有する多層シートの製造〕
(1)ハイドロタルサイト混合繊維を含有する紙料スラリーの調整
硫酸バリウムの合成を行なわず、予め用意されたハイドロタルサイトをパルプ固形分重量に対して50%添加した以外は実施例1と同じ操作を行なって1層目用の紙料スラリーを調製した。
【0132】
(2)別の層の紙料スラリーの調整
ハイドロタルサイトを添加しないこと以外は(1)と同じ操作を行い、2層目用の紙料スラリーを調整した。
【0133】
(3)多層シートの製造
本比較例で調製したスラリーを用いた以外は実施例1と同じ操作を行なって2層のシート(坪量180g/m2)を製造した。厚さは298μm、灰分は25%であった。
【0134】
(4)効果の確認
(4-1)灰分歩留
多層シートの灰分歩留を実施例1と同様の方法で算出し評価した。比較例2の多層シートの灰分歩留は60%であり、歩留が悪かった。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の一態様は製紙分野に好適に利用することができる。