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特許7166273熱可塑性複合材料、並びに対応する製造方法及び物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】熱可塑性複合材料、並びに対応する製造方法及び物品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20221028BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20221028BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
C08J5/04 CFG
C08L77/00
C08K7/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019551946
(86)(22)【出願日】2018-02-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2018054276
(87)【国際公開番号】W WO2018172009
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】17305312.5
(32)【優先日】2017-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フロレス, ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】ラーリー, ピエール-イヴ
(72)【発明者】
【氏名】ボカユット, アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】エピナット, クロエ
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-274061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04
C08L 77/00
C08K 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性複合材料であって、
前記熱可塑性複合材料の総重量に対して少なくとも20重量%の、少なくとも1つの半結晶性ポリフタルアミド(「PPA」ポリマーを含むポリマーマトリックスと、
前記熱可塑性複合材料の総重量に対して少なくとも45重量%の、少なくとも1つの連続強化繊維と、を含み、前記少なくとも1つの連続強化繊維は炭素繊維であり、
前記少なくとも1つの半結晶性PPAポリマーは、それぞれ以下の式
[-M -M ](1)及び
[-M -M ](2)
[式中、(i)-M-及び-M -はそれぞれ、以下の式:
により表され、
(ii)-M-は以下の式:
により表され、且つ
(iii)-M -は以下の式:
{式中、
(i)R、R、R1*、及びR2*は、いずれの場合も、ハロゲン、アルキル、アルケニル、エーテル、チオエーテル、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び四級アンモニウムからなる群から独立して選択され、
(ii)i及びiはいずれの場合も、独立して選択される0~2の整数であり;
(iii)j及びjは、独立して選択される0~4の整数であり;
(iv)n及びnは、独立して選択される5~9の整数である}
のうちの1つにより表され、
且つ
(i)-M-及び-M -は同一であり、且つ-M-及び-M -は異なっており;
(ii)-M -は式(7)により表され;
(iii)モル繰り返し単位(RPA):モル繰り返し単位(R PA)は65:35以下である;
又は
(iv)-M-及び-M -は異なっており、且つ-M-及び-M -は同一であり;
(v)nは9であり、nは8であり;
(vi)少なくとも1つのR1*は、式:-(CH-(CH)(式中、mは0~3の整数である)により表され;
(vii)-M は式(6)により表され、且つ
(viii)モル繰り返し単位(RPA):モル繰り返し単位(R PA)は5545以下である;のいずれかである]
により表される繰り返し単位(RPA)及び(R PA)を含み、且つ、
前記少なくとも1つの半結晶性ポリマーは、
(i)ASTM D5336に従い測定すると、少なくとも0.8デシリットル/グラム(「dL/g」)の固有粘度(「ηinh」)、
(ii)20℃/分の加熱速度及び冷却速度を使用してASTM D3418に従い測定すると、50ジュール/グラム(「J/g」)以下の融解熱(「ΔH」)、及び
(iii)少なくとも60℃である、分解開始温度(「T」)と融解温(「T」)との差であるT-T[Tdは10℃/分の加熱速度を使用して、ASTM E1131-08に従い測定され、Tは、20℃/分の加熱速度及び冷却速度を使用して、ASTM D3418に従い測定される]
を有する、熱可塑性複合材料。
【請求項2】
前記強化繊維の濃度は、前記熱可塑性複合材料の総重量に対して少なくとも50重量%である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記強化繊維の濃度は、前記熱可塑性複合材料の総重量に対して70重量%以下である、請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記熱可塑性複合材料は単方向性複合材料である、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記強化繊維はテープとして配向される、請求項4に記載の複合材料。
【請求項6】
前記熱可塑性複合材料は多方向性複合材料である、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項7】
前記強化繊維は、織布、層状布、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される構成である、請求項6に記載の複合材料。
【請求項8】
-M-及び-M -は同一であり、-M-及び-M -は異なっており、
(i)-M-及び-M -は、1,5-ジアミノペンタン;2-メチル-1,5-ジアミノペンタン;1,6-ヘキサメチレンジアミン;3-メチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン;2,5-ジメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン;2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン;2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン;1,7-ジアミノヘプタン;1,8-ジアミノオクタン;2-メチル-1,8-オクタンジアミン(「MODA」)及び1,9-ジアミノノナン(「NMDA」)からなる群から選択されるジアミンのジラジカルであり、且つ
(ii)-M-はテレフタル酸ジラジカルであり、-M -はイソフタル酸ジラジカルである、請求項1~7のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項9】
-M-及び-M -は異なっており、-M-及び-M -は同一であり、
(i)-M-はNMDAジラジカルであり、
(ii)-M -はMODAジラジカルであり、且つ
(iii)-M-及び-M -はテレフタル酸ジラジカルである、請求項1~7のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項10】
前記ポリマーマトリックスは、前記ポリマーマトリックスの総重量に対して、少なくとも70重量%の前記少なくとも1つの半結晶性PPAポリマーを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項11】
前記ポリマーマトリックスの総重量に対して、0.1~10重量%の、酸化防止剤、加工助剤、成核剤、潤滑剤、難燃剤、煙抑制剤、静電気防止剤、ブロッキング防止剤、及び伝導性添加剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項12】
前記添加剤は酸化防止剤である、請求項11に記載の複合材料。
【請求項13】
前記ポリマーマトリックスの濃度は、前記熱可塑性複合材料の総重量に対して、少なくとも30重量%である、請求項1~12のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の熱可塑性複合材料を含む物品であって、前記物品は、自動車構成部品、航空宇宙構成部品、石油・ガス採掘構成部品、及びモバイル電子デバイス構成部品からなる群から選択される、物品。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の熱可塑性複合材料の製造方法であって、前記方法は、
(i)前記ポリマーマトリックスを前記強化繊維に含浸することであって、前記含浸は、前記強化繊維をポリマーマトリックス材料の融解物と接触させることを含み、前記融解物は、少なくともTm~Td未満の温度であり、ここで、Tmは、最高の融解温度を有する前記ポリマーマトリックスにおける前記PPAポリマーの前記融解温度であり、Tdは、前記融解物中で最低の分解開始温度を有する前記PPAポリマーの前記分解開始温度である、含浸することと、
(ii)含浸された前記強化繊維を室温まで冷却することと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、欧州特許出願第17305312.5号(2017年3月21日出願)に対する優先権を主張し、この出願の全内容は参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、ポリマーマトリックスを含み、ポリフタルアミドポリマー及び連続強化繊維を有する熱可塑性複合材料に関する。本発明は更に、熱可塑性複合材料の製造に関する。本発明はまた更に、熱可塑性複合材料を組み込む物品に関する。
【背景技術】
【0003】
熱可塑性複合材料は、金属部品の潜在的な代替品として、相当な注目を集めている。金属パーツと比較して、熱可塑性複合材料は、重量及びコストの著しい低下をもたらすことができつつ、同時に所望の、又は優れた機械的性能ももたらすことができる。熱可塑性複合材料に用いられる1種のポリマーは、非晶質ポリフタルアミド(「PPA」)ポリマーである。熱可塑性複合材料における非晶質PPAポリマーの人気は、少なくとも部分的には、ひびのない複合材料を形成するという事実によるものである。しかし、熱可塑性複合材料の今日までの成功により、これらはより幅広い用途設定での使用が調査されており、これにはより大きな機械的性能(例えば引張り強度)及び化学的性能(例えば耐化学性)を必要とする。一般に、これらの用途設定の多くに関して、非晶質PPAポリマーは、これらの新しい用途設定における、増加した機械的性能及び化学的性能の必要条件を満たすことができていない。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】一実施形態の単方向性複合材料の斜視図を示す概略図である。
図2】強化繊維が織布として配向された、多方向性複合材料の一実施形態の斜視図を示す概略図である。
図3】連続強化繊維が層状布として配向された、一実施形態の多方向性複合材料の斜視図を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
ポリマーマトリックスを含み、少なくとも1つの半結晶性ポリフタルアミド(「PPA」)ポリマー、及び少なくとも1つの連続強化繊維を有する熱可塑性複合材料を、本明細書に記載する。驚くべきことに、選択された融解プロファイルを有する半結晶性PPAポリマーをポリマーマトリックスに組み込むことで、ひびのない熱可塑性複合材料が提供されることが見い出された。一般に、半結晶性PPAポリマーから熱可塑性複合材料を製造することにより、目視で著しいひびを有する複合材料がもたらされるが、これは複合材料の機械的一体性を損ない、多くの用途設定における使用に関して望ましくないものとなる。出願者らは、半結晶性ポリマーマトリックスを有するひびのない熱可塑性複合材料を、選択された固有粘度、結晶性、及び分解開始温度と融解温度との差を有する半結晶性PPAポリマーから形成することができることを見い出した。PPAポリマーの半結晶性構造に少なくとも部分的に基づいて、熱可塑性複合材料は、非晶質PPAポリマーを組み込んだ複合材料と比較して、改善された引張り強度、耐化学性、及び熱安定性を有することができる。当該技術分野において周知の融解含浸技術を用いて、複合材料を形成することができる。複合材料は、自動車、航空宇宙、石油及びガス、並びにモバイル電子デバイス用途を含むがこれらに限定されない、広範囲にわたる用途設定において所望により使用されることができる。
【0006】
ポリマーマトリックス
ポリマーマトリックスは、少なくとも1つの半結晶性PPAポリマー、及び任意選択的に、少なくとも1つの添加剤を含む。驚くべきことに、選択された加工プロファイルを有する半結晶性PPAポリマーが、ひびのない熱可塑性複合材料をもたらしたことが見い出された。融解プロファイルとは、半結晶性PPAポリマーの複数の性質の組み合わせを意味する。性質としては、固有粘度(「ηinh」)、結晶性、及び熱ウィンドウがある。以下に詳細に記述するとおり、PPAポリマーの結晶性は、融解熱(「ΔH」)に従い測定する。熱ウィンドウとは、次式:T-Tで表される、PPAポリマーの分解開始温度(「Td」)と融解温度(「Tm」)との差を意味する。
【0007】
熱可塑性複合材料は、複合材料の総重量に対して、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、又は少なくとも40重量%のポリマーマトリックスを含む。更に、又は代替的に、熱可塑性複合材料は、複合材料の総重量に対して、80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、又は45重量%以下のポリマーマトリックスを含む。
【0008】
ポリフタルアミドポリマー
ポリマーマトリックスは、少なくとも1つの半結晶性PPAポリマーを含む。本明細書で使用する場合、半結晶性PPAポリマーは、少なくとも3ジュール/グラム(「J/g」)の融解熱を有するPPAポリマーである。更に、PPAポリマーとは、繰り返し単位(RPA)及び繰り返し単位(R PA)を含み、繰り返し単位(RPA)と繰り返し単位(R PA)との合計濃度が、ポリマーの繰り返し単位の合計モル数に対して少なくとも50モルパーセント(「モル%」)である、ポリマーを意味する。繰り返し単位(RPA)及び(R PA)はそれぞれ、以下の式により表され、
[-M-M-](1)及び[-M -M -](2)
式中、-M-及び-M -はそれぞれ、以下の式で表され、
-M-は以下の式で表され、
及び
-M -は以下の式のうちの1つで表され、
及びR、R1*及びR2*は、いずれの場合も、ハロゲン、アルキル、アルケニル、エーテル、チオエーテル、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び四級アンモニウムからなる群から独立して選択され;i及びiはいずれの場合も、独立して選択される0~2の整数であり;j及びjは、独立して選択される0~4の整数であり;n及びnは、独立して選択される5~9の整数である。明確にするために、式(3)及び(4)において、各-(CR )-及び各-(CR1* i*)-における炭素原子はそれぞれ、その炭素原子に結合した2-i個、及び2-i個の水素原子を有する。同様に、式(5)~(7)において、中央のベンゼン環は、水素原子に結合した4-j個(式(5))、並びに4-j個(式(6)及び(7))の環炭素を有する。例えば、式(3)を参照すると、n個の単位-(CR )-のうちの1つについてi=1である場合、一実施形態において、-M-は、---NH-(CHR)-(CR -NH---により表される。別の例として、式(5)を参照すると、j=1である場合、ベンジル炭素のうち3つが水素に結合し、1つがRに結合している。本明細書において対象のPPAポリマーに関して、(i)-M-及び-M -が同一であり、且つ-M-及び-M -が異なっている、又は、(ii)-M-及び-M -が異なっており、且つ-M-及び-M -が同一である、のいずれかである。本明細書で使用する場合、破線の結合(----)は、図示した構造の外にある原子への結合を表す。いくつかの実施形態では、PPAポリマーにおける繰り返し単位(RPA)と繰り返し単位(R PA)の合計濃度は、PPAポリマーの繰り返し単位の合計モル数に対して、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも99モル%、又は少なくとも99.5モル%の繰り返し単位(RPA)である。
【0009】
参照を容易にするために、場合により、-M-及び-M-はそれぞれ、ジアミンジラジカル及びジカルボン酸ジラジカルと呼ばれる。H-M-H及びHO-M-OHはそれぞれジアミン及びジカルボン酸モノマーであり、H-M-HをHO-M-OHと重縮合することにより、繰り返し単位(RPA)(-M-と-M-との間のアミド結合、及び水の喪失)が形成されるということを、当業者は認識するであろう。したがって、ジアミンジラジカルとしての-M-の言及は、式H-M-H中の末端-H原子の脱プロトン化により形成されたラジカルを意味する。同様に、ジカルボン酸ジラジカルとしての-M-の言及は、式HO-M-OH中の末端-OH基の脱水酸化により形成したラジカルを意味する。例えば、1,6-ヘキサメチレンジアミンジラジカルとしての-M-の言及は、各iがゼロでありnが6である式(3)を意味する。別の例として、テレフタル酸ジラジカルとしての-M-の言及は、jがゼロである式(5)を意味する。-M -及びM -に関して、類似の用語法を用いる。
【0010】
上述のとおり、いくつかの実施形態では、-M-及び-M -が同一であり、-M-及び-M -が異なる。このような実施形態では、-M -は式(7)により表される。更に、-M-及び-M -が同一であり、且つ-M-及び-M -が異なっている実施形態では、繰り返し単位(R PA)に対する繰り返し単位(RPA)の濃度(繰り返し単位(RPA)のモル:繰り返し(R PA)のモル)は、約65:35以下、約60:40以下、約55:45以下、又は約50:50以下である。いくつかの実施形態では、各i及びiはゼロである、各j又はjはゼロである、又はこれらの両方である。いくつかの実施形態では、-M-及び-M -は、1,5-ジアミノペンタン;2-メチル-1,5-ジアミノペンタン;1,6-ヘキサメチレンジアミン;3-メチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン;2,5-ジメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン;2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン;2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン;1,7-ジアミノヘプタン;1,8-ジアミノオクタン;並びに2-メチル-1,8-オクタンジアミン(「MODA」)及び1,9-ジアミノノナン(「NMDA」)からなる群から選択されるジアミンのジラジカルである。更に、又は代替的に、-M-はテレフタル酸ジラジカルであり、-M -はイソフタル酸ジラジカルである。-M-及び-M -としては1,6-ヘキサメチレンジアミンジラジカル、-M-としてはテレフタル酸ジラジカル、そして-M -としてはイソフタル酸ジラジカルにより、素晴らしい結果がもたらされた。
【0011】
別の実施形態において、-M-及び-M -は異なっており、-M-及び-M -は同一である。このような実施形態では、nは9であり、nは8であり;-M -は式(6)により表され;少なくとも1つのR1*は、式:-(CH-(CH)[式中、mは0~3、0~2、又は0~1、好ましくは0の整数である]により表される。更に、-M-及び-M -が異なっており、-M-及び-M -が同一である実施形態では、繰り返し単位(R PA)に対する繰り返し単位(RPA)の濃度(繰り返し単位(RPA)のモル:繰り返し(R PA)のモル)は、約75:25以下、約70:30以下、約65:35以下、60:40以下、55:45以下、又は50:50以下である。いくつかのそのような実施形態において、各iは、ゼロである。-M-はNMDAジラジカルであり、-M -はMODAジラジカルであるのが好ましい。-M-及び-M -はテレフタル酸ジラジカルであるのが好ましい。
【0012】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの半結晶性PPAポリマーは、繰り返し単位(RPA)及び繰り返し単位(R PA)とは異なる、追加の繰り返し単位を含むことができる。このような実施形態では、繰り返し単位(RPA)、繰り返し単位(R PA)、及び式(1)に従った式により表される別の異なる繰り返し単位の合計濃度は、ポリマーの繰り返し単位の合計モル数に対して、少なくとも50モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも99モル%、又は少なくとも99.5モル%である。
【0013】
上述したとおり、驚くべきことに、特異的に選択される融解プロファイルを有する半結晶性PPAポリマーを組み込んだポリマーマトリックスから、ひびのない複合材料を形成することができることが見い出された。本明細書で対象の半結晶性PPAポリマーは、少なくとも0.8デシリットル/グラム(「dL/g」)の固有粘度を有する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの半結晶性PPAポリマーは、少なくとも0.9dL/g、又は少なくとも1.0dL/gの固有粘度を有する。更に、又は代替的に、PPAポリマーは、1.6dL/g以下、1.5dL/g以下、又は1.4dL/g以下の固有粘度を有することができる。固有粘度は、以下の実施例にて記載するとおりに測定することができる。PPAポリマーの結晶性は、PPAポリマーの融解熱を測定することにより測定することができる。本明細書で対象のPPAポリマーは、50ジュール/グラム(「J/g」)以下の融解熱を有する。いくつかの実施形態では、PPAポリマーは、45J/g以下、又は40J/g以下の融解熱を有する。実施例にて記載のとおりに融解熱を測定することができる。また更に、PPAポリマーは、TとTとの差(T-T)により規定される、少なくとも60℃の選択された熱ウィンドウを有する。いくつかの実施形態では、PPAポリマーは、200℃以下、又は120℃以下の熱ウィンドウを有する。Td及びTmは、以下の実施例にて記載のとおりに測定することができる。
【0014】
ポリマーマトリックス中における少なくとも1つの半結晶性PPAポリマーの濃度は、マトリックス組成物の総重量に対して、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、又は少なくとも99.5重量%である。もちろん、ポリマーマトリックスの少なくとも1つの半結晶性PPAポリマーは、複数の異なる半結晶性PPAポリマーを含むことができる。このような実施形態では、半結晶性PPAポリマーの合計濃度は、上記範囲内である。
【0015】
添加剤
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの半結晶性PPAポリマーに加えて、ポリマーマトリックスは、酸化防止剤(例えば、紫外線安定剤及び熱安定剤)、加工助剤、成核剤、潤滑剤、難燃剤、煙抑制剤、静電気防止剤、ブロッキング防止剤、並びにカーボンブラックなどの伝導性添加剤を含むがこれらに限定されない任意選択的な添加剤を、更に含むことができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、酸化防止剤が特に望ましい添加剤であることができる。酸化防止剤は、複合材料中でのポリマーマトリックスの熱安定性及び光安定性を改善することができる。例えば、熱安定剤である酸化防止剤は、例えば、ポリマー分解の防止に役立つ一方で、ポリマーをより高温でも加工可能にすることにより、製造中における(又は、高温用途設定における)複合材料の熱安定性を改善することができる。更に、光安定剤である酸化防止剤は更に、光に暴露される複合材料の用途設定における使用中(例えば、外側の自動車又は航空機部品)での、ポリマー分解を防止することができる。望ましい酸化防止剤としては、銅塩(例えば、CuO及びCuO)、アルカリ金属ハロゲン化物(例えば、CuI/KIが挙げられるがこれに限定されないアルカリ金属ハロゲン化物の組み合わせを含む、CuI、KI、及びKBr)、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン光安定剤(「HALS」)(例えば、三級アミンの光安定剤)、並びに、有機又は無機リン含有安定剤(例えば、次亜リン酸ナトリウム又は次亜リン酸マンガン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
ポリマーマトリックス中における添加剤の合計濃度は、ポリマーマトリックスの総重量に対して、0重量%、少なくとも0.1重量%、少なくとも0.2重量%、少なくとも0.3重量%、又は少なくとも0.4重量である。更に、又は代替的に、ポリマーマトリックス中における添加剤の合計濃度は、ポリマーマトリックスの総重量に対して、10重量%以下、8重量%以下、6重量%以下、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、又は1重量%以下である。
【0018】
強化繊維
熱可塑性複合材料は、少なくとも1つの連続強化繊維を含む。少なくとも1つの連続強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、マグネシウム繊維、炭化ホウ素繊維、岩綿繊維、鋼繊維、アラミド繊維、天然繊維(例えば綿、亜麻布、及び木材)、並びにこれらの1つ以上の組み合わせから選択される。少なくとも1つの連続強化繊維はガラス繊維又は炭素繊維であることが好ましい。少なくとも1つの強化繊維は連続強化繊維であり、これは、強化繊維が、少なくとも5ミリメートル(「mm」)、少なくとも10mm、少なくとも25mm、又は少なくとも50mmの、最長寸法における平均長さを有することを意味する。
【0019】
熱可塑性複合材料は、熱可塑性複合材料の総重量に対して、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも40重量%、少なくとも45重量%、少なくとも50重量%、又は少なくとも55重量%の連続強化繊維を含む。更に、又は代替的に、熱可塑性複合材料は、熱可塑性複合材料の総重量に対して、80重量%以下、75重量%以下、70重量%以下、65重量%以下、又は60重量%以下の連続強化繊維を含む。少なくとも1つの連続強化繊維が複数の連続強化繊維である実施形態では、連続強化繊維の合計濃度は上記範囲内である。
複合材料及び複合材料の製造
【0020】
複合材料は、ポリマーマトリックスを含浸させた強化繊維を含む。いくつかの実施形態では、複合材料は単方向性複合材料であることができる。別の実施形態において、複合材料は、繊維がより複雑な構造を有する多方向性複合材料であることができる。
【0021】
単方向性複合材料(例えばテープ)に関して、ポリマーマトリックス材料内における強化繊維の配向は通常、強化繊維の長さ(繊維の最長寸法)に沿ってアライメントされる。単方向性複合材料はまた、複合材料テープとも呼ばれる場合がある。図1は、一実施形態の単方向性複合材料の斜視図を示す概略図である。図1を参照すると、テープ100は、強化繊維102及びポリマーマトリックス104を含む。強化繊維102は通常、それらの長さに沿ってアライメントされる。破線106(明確性のため、全てが標識されているわけではない)は、連続強化繊維102の配向を表す。本明細書で使用する場合、一般的に、アライメントされる繊維は、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%の強化繊維が、繊維のうちの1つの長さに沿って、30°以内、25°以内、20°以内、15°以内、又は10°以内の長さを有するように配向される。
【0022】
別の実施形態において、複合材料は、多方向性複合材料(例えば積層体)であることができる。上記のとおり、単方向性複合材料は、通常単一方向に沿ってアライメントされた繊維を有する。複合材料の引張り強度は、繊維の長さよりも大きいため、単方向性複合材料は、単一次元に沿って優れた引張り強度、及び別の(例えば垂直)方向に沿って、低下した引張り強度を有する。対照的に、多方向性複合材料は、複数の次元に沿ってアライメントされた強化繊維を有し、それ故、複数の次元において改善された引張り強度を有する(例えば、より等方性である)。このような実施形態では、ポリマーマトリックス中の強化繊維は、織布又は層状布として、あるいはこれらの1つ以上の任意の組み合わせで配置されることができる。図2は、強化繊維が織布として配向された、一実施形態の多方向性複合材料の斜視図を示す概略図である。図2を参照すると、多方向性複合材料200は、ポリマーマトリックス206、及び、通常互いに垂直な強化繊維202と204を含む。明確にするために、全ての強化繊維が図2に標識されているわけではない。いくつかの実施形態では、それぞれの強化繊維202及び204は、強化繊維の束を含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、強化繊維202及び204は、強化繊維の編み糸又は層(例えば、互いに隣接する、単一強化繊維が平面に分布したもの)であることができる。図3は、連続強化繊維が層状布として配向された、一実施形態の多方向性複合材料の斜視図を示す概略図である。図3を参照すると、多方向性複合材料300は、強化繊維302及び304、並びにポリマーマトリックス306を含む。明確にするために、全ての強化繊維304を標識しているわけではない。強化繊維302及び304は異なる層としてポリマーマトリックス306の中に存在しており、強化繊維302は一般に、互いに平行にアライメントされており、強化繊維304は一般に、互いに平行にアライメントされている。強化繊維302はまた、通常、強化繊維304とある角度にてアライメントされている。破線308は、多方向性複合材料300内での繊維304のアライメントを示す。正の符号(「+」)310は、多方向性複合材料300内での繊維302の整列を示す。明確にするために、全ての繊維302及び304が破線又は正の符号で示されている。いくつかの実施形態では、それぞれの長さに沿った繊維302及び304の角度は、少なくとも15°、少なくとも30°、又は少なくとも40°、且つ約75°以下、約60°以下、又は約50°以下である。もちろん、層状布は、多方向性複合材料内の別の層の中に強化繊維として、同じ角度又は異なる角度でアライメントされた、強化繊維の追加の層を有することができる。
【0023】
複合材料は、当該技術分野において周知の方法により製造することができる。一般に、方法の種類に関係なく、複合材料の製造には、強化繊維をポリマーマトリックス材料と含浸すること(「融解含浸」)を含み、その後室温(20℃~25℃)まで冷却することにより、最終的な固体複合材料が形成される。融解含浸は、強化繊維をポリマーマトリックス材料の融解物と接触させることを含む。ポリマーマトリックス材料を加工可能にするために、融解物は、少なくともTmからTd未満の温度にあり、ここで、Tmは、最高の融解温度を有するポリマーマトリックスにおけるPPAポリマーの融解温度であり、Tdは、融解物中で最低の分解開始温度を有するPPAポリマーの、分解開始温度である。いくつかの実施形態では、融解含浸は更に、融解物を繊維に対して機械的に圧縮することを含むことができる。例えば、熱圧縮において、ポリマーマトリックス材料を加熱して融解物を形成し、同時に繊維に対して機械的に圧縮する。機械的圧縮を組み込む他の融解含浸の実施形態において、繊維をまず融解物と接触させ、次いで機械的に圧縮することができる。融解含浸の後、含浸した強化繊維を冷却して固体複合材料を形成する。いくつかの実施形態では、複合材料を、室温まで冷却する前に所望の幾何学的形状に形状化することができる。いくつかのかかる実施形態では、融解含浸の後、又は冷却前若しくは冷却中に、含浸した強化繊維をダイに通して、所望の幾何学的形状を有する複合材料を形成することができる。
【0024】
複合材料製造方法の一例としては、引抜成形が挙げられる。引抜成形において、複数の繊維がそれらの長さに沿ってアライメントされ、それらの長さに沿った方向に引っ張られる。いくつかの実施形態では、複数の繊維は強化繊維のスプールから送達される。繊維を含浸するために、ポリマーマトリックスの融解物を含む浴を通して、繊維を引っ張る。融解物を通して引っ張った後、いくつかの実施形態において、含浸した繊維を更に加熱して、含浸を補助することができる。更に、又は代替的に、含浸した繊維をダイを通して引っ張り、室温まで冷却する前に所望の形状を複合材料に付与することができる。引抜成形は、単方向性複合材料の形成において特に望ましい場合がある。複合材料製造方法の別の例としては、スラリープロセスが挙げられる。スラリープロセスにおいて、粉末形態のポリマーマトリックスを液体媒質に添加することによりスラリーを形成し、懸濁液を作製する。例えば、繊維をスラリー浴に通過させることにより、スラリーを繊維表面にコーティングする。その後、コーティングした繊維を(例えば、加熱した機械的ローラーにより)加熱して強化する。スラリー製造は、複合材料テープの形成において望ましい場合がある。複合材料製造方法の更に別の例としては、直接粉末付着が挙げられる。このような方法において、粉末形態のポリマーマトリックスを繊維表面に付着させた後加熱し、ポリマーマトリックスを融解する。直接粉末付着は、織布組成物を形成するのに望ましい場合がある。
【0025】
いくつかの実施形態では、複合材料は、2つ以上の複合材料を熱圧縮することにより形成することができる。このような実施形態では、2つ以上の複合材料を熱圧縮して(例えば、加熱して機械的に一緒にプレスして)、新しい複合材料を形成することができる。例えば、図3を参照すると、複合材料300は、2つの単方向性複合材料(例えば、複合材料100)であって、各複合材料の強化繊維が互いに所望の角度に配向されている単方向性複合材料を、熱圧縮することにより形成することができる。別の例として、図2を参照すると、複合材料200に従った1つ以上の複合材料を、一緒にプレスして別の複合材料を形成することができる。このようないくつかの実施形態では、熱圧縮前に、各複合材料を配向して、熱圧縮される複合材料のそれぞれの間で、所望の相対的な繊維のアライメントを達成することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、複合材料は、別のポリマー組成物でオーバーモールドすることができる。このようないくつかの実施形態では、強化繊維を含むポリマー組成物を、複合材料の少なくとも一部の上に射出成形することができる。このような実施形態では、強化繊維は一般に、5mm未満の長さを有する。一実施形態では、ポリアミドと、強化ガラス又は炭素繊維とを含むポリマー組成物を、複合材料の一部の上に射出成形することができる。ポリアミドは非晶質又は半結晶性ポリアミド、好ましくは半結晶性ポリアミドであることができる。
【0027】
物品
本明細書に記載する熱可塑性複合材料は、多種多様の用途設定で使用するための物品に所望により組み込まれることができる。自動車用途に関しては、熱可塑性複合材料を、受け皿(例えば油受け)、パネル(例えば、クォーターパネル、トランク、フードを含むがこれらに限定されない外装体パネル;並びに、ドアパネル及びダッシュパネルを含むがこれらに限定されない内装体パネル)、サイドパネル、ミラー、バンパー、バー(例えばトーションバー、及びスウェイバー)、ロッド、サスペンション構成部品(例えば、サスペンションロッド、板バネ、サスペンションアーム)、並びにターボチャージャー構成部品(例えばハウジング、ボリュート、圧縮機ホイール、及びインペラー)を含むがこれらに限定されない自動車構成部品に組み込むことができる。本明細書に記載する熱可塑性複合材料はまた所望により、航空宇宙構成部品、石油・ガス採掘構成部品(例えば、ダウンホール掘削管、化学注入管、海底供給線、及び水力制御線)、並びにモバイル電子デバイス構成部品に組み込むことができる。
【0028】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【実施例
【0029】
以下の実施例は、半結晶性PPAポリマーを有するPPAポリマーマトリックス、並びに連続炭素繊維を含む連続繊維強化複合材料の形成、及び構造的完全性を示す。
【0030】
半結晶性PPAポリマー
複合材料のサンプルを製造するために、10種類の異なる半結晶性PPAポリマーを使用した。PPAポリマー1Aは、6T:6Iを50:50の比で有するPA6T、6Iコポリマーであり、以下のとおりに調製した:撹拌したバッチの容器に、8.5kgのDI水、21.12kgのヘキサメチレンジアミン、並びに、ジカルボン酸構成成分(9.83kgのテレフタル酸(「TA」)、及び9.83kgのイソフタル酸(「IA」)からなる)を仕込んだ。反応容器に、9.4gのリン酸及び204.7gの氷酢酸もまた仕込んだ。上述した混合物を145℃で加熱することにより、食塩水を得た。内容物を、約180psig及び216℃に維持した反応容器のゾーンに、続いて、約298℃及び1800ポンド重量ポンド毎平方インチ(「psig」)に維持したゾーンに、連続してポンプで汲み上げ、次に、100psigにて管状反応容器を通して、オイルにより349℃にて加熱し、最終的に、順行の真空ベントを装着したベント式二軸スクリュー押出機にポンプで入れた。ダイの温度を335℃に設定した。完成したポリマーを、ストランドダイを通して水浴中に、約5.5~6.5kg/時のスループット速度にて押し出し、その後ストランドを切断してペレットにした。
【0031】
PPAポリマー2A~2Cを、Solvay Specialty Polymers USA,L.L.C.から入手した。これらはAmodel(登録商標)PPAとして市販されている。PPAポリマー2A~2Cは、6T:6Iを70:30の比で有するPA6T、6Iコポリマーであった。PPAポリマー3A~4Bをクラレ株式会社から入手した。これらはGenestar(商標)として市販されている。PPAポリマー3A~3Cは、PA9T異性体コポリマーであり、1,9-ノナンジアミン(「NMDA」)及びテレフタルの重縮合により形成される第1の繰り返し単位、及び、2-メチル-1,8-オクタンジアミン(「MODA」)のテレフタル酸との重縮合により形成される第2の繰り返し単位を有した。PPAポリマー3A~3Cについて、NODA:MODAは50:50であったが、PPAポリマー4A及び4Bについて、NODA:MODAは85:15であった。PPAポリマー5Aは、Kingfa Science及びTechnology Co.,Ltdから商品名Vicnylで入手した、PA10Tポリマーであった。
【0032】
複合材料の製造
PPAポリマー、及びポリマーマトリックスの総重量に対して0.5重量%の熱安定剤(Cu/KI)を、標準的な実験室用ミルを使用して粉砕した。粉末を、織り込んだ炭素繊維布地(TRX26 T300 NT、6k、5Hサテン、54インチ 373gsm、糊抜き済み、Cytec Engineered Materials製)の層の間に拡散させ、これを2つの2mmステンレス鋼の間に挟んだ。ポリイミドフィルム(DuPont USAよりKapton(登録商標)として市販)を、ステンレス鋼プレートと布地/樹脂の間のそれぞれの側に配置した。2mmのステンレス鋼スペーサーもまた、布地/PPAポリマーの周り、及び2つのステンレス鋼プレートの間に配置した。アセンブリ全体を、ホットプレスの中に移した。315~345℃の最大温度(5分間)にて、81ポンド毎平方インチ(「psi」)の効果的な圧力を加えて、融解及び固化を行った。温度の傾斜及び冷却を含め、合計の加工時間は35分であった。各樹脂系に関して、織り込んだ炭素繊維マット(6層)と50重量%の樹脂を有する熱可塑性複合材料(積層体として)を、上述した方法に従い調製した。サイクル及び室温までの冷却の後、積層体を除去し、ひびを分析した。
【0033】
性質の測定
示差走査熱量計(TA Instruments DSC Q20)、並びに、TA Thermal Advantage及びUniversal Analysisソフトウェアを用いて操作される液体窒素冷却システムを用いる、ASTM D3418の標準法に従い、PPAポリマーの融解温度(「T」)及び融解熱(「ΔH」)を測定した。測定は、窒素雰囲気中で20℃/分の加熱速度及び冷却速度を用いて実施した。T及びΔHの値を、第2加熱走査から測定した。ASTM E1131-08(窒素雰囲気下、TA Instruments TGA Q500、10℃/分、30℃~800℃)に従った熱重量分析により、熱分解開始温度(「T」)を測定した。温度の関数としての、重量損失曲線の一次導関数を用いて、重量損失速度が0.1重量%/分であるときのT値を同定した。
【0034】
ASTM D5336に従い、PPAポリマーの固有粘度を測定した。混合物を、100℃に設定したヒートブロックに45分間配置することにより、サンプルを溶媒としてのフェノール-テトラクロロエタン(P:TCE=60:40)に溶解した。冷却後、分配ポンプとオートサンプラーを装着したViscotek Viscometer(Y500シリーズ)に、溶液を注入した。装置により、各サンプル溶液のIV値を計算した。
【0035】
複合材料でのひびの存在を測定するために、ウェットソーを使用して積層体を切断し、顕微鏡評価のために20×20mmの被検査物を用意した。マウント表面に対して垂直に、被検査物をエポキシマウントに埋め込んだ。次に、顕微鏡サンプル調製のための標準手順に従い、マウントを研磨した。所望の表面の質が達成されると、光学顕微鏡及び/又は走査電子顕微鏡(「SEM」)で被検査物を調査した。SEM分析のために、サンプルを金の薄膜でスパッタリングした。サンプルの中には、光学顕微鏡の下で目視可能なひびを示したものがあり、これらはSEMにより更に分析しなかった。光学顕微鏡の下でひびを示さなかったサンプルを更に、SEMを用いて分析し、光学顕微鏡では確認されなかった、小型のあらゆるひびが存在するか否かを確認した。サイズに関係なく、被検査物にて見い出されたあらゆるひびを記録した(すなわち、光学顕微鏡又はSEM評価のいずれかで、少なくとも1つのひびが観察された場合、「ひびあり」と記録した)。
【0036】
結果
サンプルのパラメーター、性質測定、及びひびの試験結果を以下の表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1を参照すると、ηinhが≧0.8dL/g;ΔHが≦50J/g、及び(T-T)が≧60℃の複合材料サンプルはひびを示さなかったが、上述の範囲外のηinh、ΔH、及び(T-T)を有するサンプルは全て、ひびを示した。ポリマー2C及び5Aを用いて作製した積層体において、ひびは、炭素繊維の含浸が不完全であったため、評価することが困難であった。
図1
図2
図3