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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】安定性の良好な医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20221028BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221028BHJP
   A61P 5/20 20060101ALI20221028BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20221028BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20221028BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20221028BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20221028BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
A61K31/198 ZMD
A61P43/00 111
A61P5/20
A61K47/12
A61K47/04
A61K47/02
A61K47/10
A61K47/26
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020066699
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2020169168
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019071168
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513001606
【氏名又は名称】EAファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000144577
【氏名又は名称】株式会社三和化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】牧田 良道
(72)【発明者】
【氏名】片岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】久山 和雄
(72)【発明者】
【氏名】浅野 謙司
(72)【発明者】
【氏名】芝崎 僚太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 愛希子
(72)【発明者】
【氏名】我妻 広貴
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 敦
(72)【発明者】
【氏名】鷹橋 俊之
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-063971(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119643(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸ナトリウム又はそれらの溶媒和物を有効成分として含み、8.0以下のpHを有し、
維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の成人患者に対し、有効成分が1日あたり0.025mg~0.8mgの用量で週3~5回の透析スケジュールの透析終了時に静脈内投与されるように用いられる、医薬組成物。
【請求項2】
pH調節剤及び/又は緩衝剤を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
pH調節剤が、酢酸、クエン酸、コハク酸、及び酒石酸から選択される有機酸及びそれらの塩類;塩酸及びリン酸から選択される無機酸及びそれらの塩類;並びに、水酸化ナトリウム及びアンモニア水から選択される無機塩基からなる群から選択される1種又は2種以上の組合せである、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
pH調節剤が、リン酸及びその塩類から選択される1種又は2種以上の組合せである、請求項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
pH調節剤が、リン酸一水素ナトリウム水和物及びリン酸二水素ナトリウムである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
5.0~7.5のpHを有する、請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
6.0~7.0のpHを有する、請求項1~6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
医薬的に許容し得る等張化剤を含む、請求項1~7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
等張化剤が、塩化ナトリウム、D-マンニトール、グリセリン、濃グリセリン、ブドウ糖、及びプロピレングリコールからなる群から選択される1種又は2種以上の組合せである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
等張化剤が、塩化ナトリウムである、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記用量が0.05mg~0.2mgである、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸等を含み、所定のpHを有する医薬組成物に関する。本発明に係る医薬組成物は、例えば、維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の治療用途に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
カルシウム受容体は、カルシウムセンシング受容体(Calciumsensing receptor;CaSR)とも呼ばれ、1993年にウシ甲状腺から細胞外カルシウム(Ca2+)を知覚するGタンパク共役7回膜貫通型受容体(G-protein coupled receptor;GPCR)としてクローニングされた。カルシウム受容体は細胞外のCa2+を知覚して細胞内のCa2+濃度を変化させ、それによって副甲状腺ホルモンに代表されるCa2+代謝調節に関与するホルモン等の産生を調節する機能を有している。
【0003】
近年、カルシウム受容体作動薬であるシナカルセト(cinacalcet;CCT)が副甲状腺のカルシウム受容体に作用してカルシウム受容体のCa2+感受性を上げることにより、副甲状腺ホルモンの分泌を抑制する作用を有することが明らかとなっており、透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療薬として上市されている。
【0004】
また、カルシウム受容体は腎、脳、甲状腺、骨や消化管にも発現していることが明らかとなっており、種々の疾患に関与していると考えられている。
【0005】
国際公開第2011/108690号(特許文献1)及び特開2013-63971号公報(特許文献2)は、カルシウム受容体作動薬として、(2S)-2-アミノ-3-{[(3-クロロ-2-メチル-5-スルホフェニル)カルバモイル]アミノ}プロパン酸(別名:3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸)を包含するアルキルアミン誘導体又はその塩を開示する。これらの特許文献1及び2は、当該アルキルアミン誘導体又はその塩を用いた副甲状腺機能亢進症(例えば、維持性透析下の二次性副甲状腺機能亢進症)の治療剤、下痢及び消化性潰瘍の治療剤等を開示する。更に、特許文献1及び2は、これらの治療剤を、経口用製剤、又は非経口用製剤(例えば、透析患者用製剤)とすることも記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2011/108690号
【文献】特開2013-63971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
医薬製剤、特に液剤においては、安定性は品質管理上重要であり、ゆえに、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその塩を含む医薬においても、安定性の良好な医薬製剤の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、安定性の観点から鋭意研究した結果なされたもので、以下に記載の医薬組成物、治療方法等を提供する。
【0009】
(1)3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸、その製薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含み、8.0以下のpHを有する医薬組成物。
(2)pH調節剤及び/又は緩衝剤を含む、(1)に記載の医薬組成物。
【0010】
(3)pH調節剤が、酢酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸及びそれらの塩類;塩酸、リン酸等の無機酸及びそれらの塩類;並びに水酸化ナトリウム、アンモニア水等の無機塩基からなる群から選択される1種又は2種以上の組合せである、(1)又は(2)に記載の医薬組成物。
(4)pH調節剤が、リン酸及びその塩類からなる群から選択される1種又は2種以上の組合せである、(1)~(3)のいずれかに記載の医薬組成物。
(5)pH調節剤が、リン酸一水素ナトリウム水和物及びリン酸二水素ナトリウムである、(1)~(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
(6)5.0~7.5のpHを有する、(1)~(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
(7)6.0~7.0のpHを有する、(1)~(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0011】
(8)医薬的に許容し得る等張化剤を含む、(1)~(7)のいずれかに記載の医薬組成物。
(9)等張化剤が、塩化ナトリウム、D-マンニトール、グリセリン、濃グリセリン、ブドウ糖、及びプロピレングリコールからなる群から選択される1種又は2種以上の組合せである、(8)に記載の医薬組成物。
(10)等張化剤が、塩化ナトリウムである、(9)に記載の医薬組成物。
(11)液状の製剤(液剤)である、(1)~(10)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0012】
(12)維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の処置に用いられる、(1)~(11)のいずれかに記載の医薬組成物。
(13)維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の成人患者に対し、有効成分が1日あたり0.025mg~0.8mgの用量で透析終了時に静脈内投与されるように用いられる、(1)~(12)のいずれかに記載の医薬組成物。
(14)前記用量が0.05mg~0.2mgである、(13)に記載の医薬組成物。
(15)前記透析終了時が、週3~5回の透析スケジュールにおける各透析の終了時である、(13)又は(14)に記載の医薬組成物。
(16)(1)~(15)のいずれかに記載の医薬組成物を、維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に用いる方法。
(17)3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含み、8.0以下のpHを有する医薬組成物をバイアル、シリンジ、バック又はボトルに充填した医薬製剤。
(18)3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含む医薬組成物を、8.0以下のpHに調整することによって安定化する方法。
【0013】
上記(1)~(15)のいずれかに記載の医薬組成物、上記(16)に記載の治療方法、上記(17)に記載の医薬製剤、及び上記(18)に記載の安定化方法は、以下の態様A~態様Dの治療用医薬組成物又は治療方法における用法及び用量と組み合わせて使用し得る。
【0014】
態様A:3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を成人1日あたり0.01mg、0.025mg及び0.05mgから選択される用量以上、かつ2.5mg、0.8mg、0.4mg、0.3mg及び0.2mgから選択される用量以下、好ましくは0.025mg~0.8mg、より好ましくは0.025~0.4mg、更に好ましくは0.05~0.2mgの用量で透析終了時に静脈内投与するために用いられる、維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の予防又は治療用医薬組成物、あるいは治療方法。
【0015】
態様B:3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を成人1日あたり0.01mg、0.025mg及び0.05mgから選択される用量以上、かつ2.5mg、0.8mg、0.4mg、0.3mg及び0.2mgから選択される用量以下、好ましくは0.025mg~0.8mg、より好ましくは0.025~0.4mg、更に好ましくは0.05~0.2mgの用量で透析終了時に静脈内投与し、副作用が低減されるために用いられる、維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の予防又は治療用医薬組成物、あるいは治療方法。
【0016】
態様C:3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を成人1日あたり0.01mg、0.025mg及び0.05mgから選択される用量以上、かつ2.5mg、0.8mg、0.4mg、0.3mg及び0.2mgから選択される用量以下、好ましくは0.025mg~0.8mg、より好ましくは0.025~0.4mg、更に好ましくは0.05~0.2mgの用量で透析終了時に静脈内投与し、有意な蓄積性を示さないために用いられる、維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の予防又は治療用医薬組成物、あるいは治療方法。
【0017】
態様D:3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を成人1日あたり0.01mg、0.025mg及び0.05mgから選択される用量以上、かつ2.5mg、0.8mg、0.4mg、0.3mg及び0.2mgから選択される用量以下、好ましくは0.025mg~0.8mg、より好ましくは0.025~0.4mg、更に好ましくは0.05~0.2mgの用量で透析終了時に静脈内投与し、長期投与するために用いられる、維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の予防又は治療用医薬組成物、あるいは治療方法。
【0018】
前記透析終了時が、週3~5回の透析スケジュールにおける各透析の終了時である、上記態様A~態様Dのいずれかに記載の医薬組成物又は治療方法。
【0019】
3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物が、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸ナトリウム又はそれらの溶媒和物である、上記態様A~態様Dのいずれかに記載の医薬組成物、あるいは治療方法。
【0020】
3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物が、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸ナトリウムである、上記態様A~態様Dのいずれかに記載の医薬組成物、あるいは治療方法。
【0021】
好ましくは、上記(1)~(15)のいずれかに記載の医薬組成物、上記(16)に記載の治療方法、上記(17)に記載の医薬製剤、及び上記(18)に記載の安定化方法は、以下の[1]~[7]の医薬組成物における用法及び用量と組み合わせて使用し得る。
[1]
成人1日あたり0.025mg~0.8mgの用量で透析終了時に静脈内投与される、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を含む維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の予防又は治療用医薬組成物。
[2]
成人1日あたり0.025mg~0.8mgの用量で透析終了時に静脈内投与される、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を含む副作用が低減された維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の予防又は治療用医薬組成物。
[3]
成人1日あたり0.025mg~0.8mgの用量で透析終了時に静脈内投与され、有意な蓄積性を示さない、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を含む維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の予防又は治療用医薬組成物。
[4]
成人1日あたり0.025~0.4mgの用量で静脈内投与される、[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5]
成人1日あたり0.05~0.2mgの用量で透析終了時に静脈内投与さる、[1]~[4]のいずれかに記載の医薬組成物。
[6]
前記透析終了時が、週3~5回の透析スケジュールにおける各透析の終了時である、[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
[7]
3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物が、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸ナトリウム又はそれらの溶媒和物である、[1]~[6]のいずれかに記載の医薬組成物。
【0022】
あるいは、上記(1)~(15)のいずれかに記載の医薬組成物、上記(16)に記載の治療方法、上記(17)に記載の医薬製剤、及び上記(18)に記載の安定化方法は、以下の態様E~態様Gの医薬組成物又は治療方法における用法及び用量と組み合わせて使用し得る。
【0023】
態様E:3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を有効成分として含み、前記有効成分が成人1日あたり0.01mg、0.025mg及び0.05mgから選択される用量以上、かつ2.5mg、0.8mg、0.4mg、0.3mg及び0.2mgから選択される用量以下、好ましくは0.025mg~0.8mg、より好ましくは0.025~0.4mg、更に好ましくは0.05~0.2mgの用量で透析終了時に静脈内投与され、血清中のPTH濃度を正常レベルに調整するために用いられる、維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の予防又は治療用医薬組成物、あるいは治療方法。
【0024】
態様F:3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を有効成分として含み、前記有効成分が成人1日あたり0.01mg、0.025mg及び0.05mgから選択される用量以上、かつ2.5mg、0.8mg、0.4mg、0.3mg及び0.2mgから選択される用量以下、好ましくは0.025mg~0.8mg、より好ましくは0.025~0.4mg、更に好ましくは0.05~0.2mgの用量で透析終了時に静脈内投与され、血清中のPTH濃度及びCa濃度を正常レベルに調整するために用いられる、維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の予防又は治療用医薬組成物、あるいは治療方法。
【0025】
態様G:3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を有効成分として含み、前記有効成分が成人1日あたり0.01mg、0.025mg及び0.05mgから選択される用量以上、かつ2.5mg、0.8mg、0.4mg、0.3mg及び0.2mgから選択される用量以下、好ましくは0.025mg~0.8mg、より好ましくは0.025~0.4mg、更に好ましくは0.05~0.2mgの用量で透析終了時に静脈内投与される維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症患者の血清中PTH濃度を正常レベルに調整するための医薬組成物、あるいは方法、更には、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を成人1日あたり0.01mg、0.025mg及び0.05mgから選択される用量以上、かつ2.5mg、0.8mg、0.4mg、0.3mg及び0.2mgから選択される用量以下、好ましくは0.025mg~0.8mg、より好ましくは0.025~0.4mg、更に好ましくは0.05~0.2mgの用量で透析終了時に静脈内投与される維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症患者の血清中PTH濃度及びCa濃度を正常レベルに調整するための医薬組成物、あるいは方法。
【0026】
本発明はまた、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、及び、静脈内投与する維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の予防又は治療するために、透析終了時の成人1日あたりの投与用量(例えば、0.025mg~0.8mg、より好ましくは0.025~0.4mg、更に好ましくは0.05~0.2mgの用量)を指示するラベル及び/又は添付文書を含むキットにも関する。
【0027】
上記キットは、更に、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を封入する容器(例えば、バイアル、アンプル)、及び/又は当該容器を梱包する箱(パッケージ)を含んでもよい。
【0028】
上記キットにおいて、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物は、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物、及び製薬学的に許容される担体(例えば、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムもしくは水和物、リン酸二水素ナトリウムもしくは水和物)を含む医薬組成物であってもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸又はその製薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含む医薬組成物であって、安定性(例えば、長期保存安定性)において良好な医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】アレニウスプロット(A:0.1 mg/mL、pH1.1、B:0.1 mg/mL、pH7.0、C:10 mg/mL、pH1.1、D:10 mg/mL、pH7.0)
図2-1】参考例2の両腎摘ラットにおける単回静脈内投与後48時間後の血清iPTH濃度と投与用量の関係を示すグラフ
図2-2】参考例2の両腎摘ラットにおける単回静脈内投与後48時間後の血清Ca濃度と投与用量の関係を示すグラフ
図2-3】参考例2の両腎摘ラットにおける単回静脈内投与後48時間後の生存数を比較するグラフ
図2-4】参考例4の各化合物投与による腹腔内肥満細胞からのヒスタミン遊離率を示すグラフ
図2-5】3-コンパートメントモデルを用いたP1血漿中濃度推移の3投与用量同時フィッティングのグラフ
図2-6】リバウンドを組み入れた間接反応モデルを示す模式図
図2-7】リバウンドを組み入れた間接反応モデルを用いたP1のPK/PD解析のグラフ
図2-8】透析患者における予測PKと推定EC50値(>1.4ng/mL)を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について詳述する。
本発明は、3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸(以下、「化合物A」という場合がある)、その製薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含み、8.0以下のpHを有する医薬組成物を提供する。以下、当該医薬組成物を、「本発明の医薬組成物」という場合がある。
【0032】
本発明のいくつかの態様の医薬組成物は、二次性副甲状腺機能亢進症を発症した、又は発症する恐れのある患者、具体的には慢性腎臓病であって、継続的に透析を行っている患者に対して、二次性副甲状腺機能亢進症を治療するために用いられる。好ましくは、当該医薬組成物は、長期投与に用いられる。
【0033】
「二次性副甲状腺機能亢進症」とは、腎機能の障害により生じる骨ミネラル代謝の異常により引き起こされる副甲状腺を刺激する要因が持続することによって発症する副甲状腺機能亢進症を意味し、本発明の医薬組成物の投与前の血清中のPTH濃度が一定範囲を超えた状態をいう。PTH濃度は、種々の測定法によって測定することができ、全長PTHのみを測定して得られるインタクトPTH(iPTH)、生物活性のある全長PTHのみを測定して得られるホールPTH等がある。各測定値について規定される透析患者の基準値に基づき、PTHの測定値が一定範囲を超えた場合を二次性副甲状腺機能亢進症とする。二次性副甲状腺機能亢進症は一般的にiPTHの値により診断され、具体的には、iPTHが300pg/mlを超える状態であり、場合によっては、iPTHが240pg/mlを超える状態も含まれる。
なお、補正血清Ca濃度は、低アルブミン血症(アルブミンが4g/dl以下)の場合、次のような補正を行うことにより得られる値である。
補正血清Ca値(mg/dl)=実測血清Ca値(mg/dl)+4-血清アルブミン値(g/dl)
【0034】
二次性副甲状腺機能亢進症の「治療」とは、二次性副甲状腺機能亢進症を発症している患者に対し、本発明の医薬組成物を投与することにより、血清中のPTH濃度を本発明の医薬組成物の投与前の濃度よりも低下させること、好ましくは透析患者の基準値まで低下させることを意味する。更に好ましくは、血清中のPTH濃度を透析患者の基準値の下限値を超えて低下させず、上限値を透析患者の基準値まで低下させることを意味する。例えば、血清中のPTH濃度を正常レベルに調整することを意味する。更には、血清中のPTH濃度を透析患者の基準値まで低下させるとともに、二次性副甲状腺機能亢進症に関連する症状である副甲状腺過形成、ミネラル代謝障害(特にCaとP)の進行を抑制、好ましくは本発明の医薬組成物の投与前よりも改善すること、あるいはミネラル代謝障害に関係するパラメータを透析患者の基準値内にすることを含んでいても良い。
【0035】
本明細書中、「治療」という用語は、「予防」という意味を包含する意味で用いられる。二次性副甲状腺機能亢進症の「予防」とは、本発明の医薬組成物の投与前の血清中のPTH濃度が透析患者の基準範囲内であるが、腎機能の障害により二次性副甲状腺機能亢進症を発症する恐れがある患者に対し、本発明の医薬組成物を投与することにより、血清中のPTH濃度の測定値が透析患者の基準値の上限を超えないようにすることを意味する。
【0036】
「副作用」とは、同じ適応症を有する既存の薬剤で問題となっている副作用を意味し、具体的には、悪心・嘔吐等の消化器症状、過敏性反応、味覚異常、低カルシウム血症、低カルシウム血症に基づく心不全の増悪、QT延長、しびれ、筋痙攣、気分不良、不整脈、血圧低下、痙攣等を意味する。
【0037】
「副作用が低減された」とは、同じ適応症を有する既存の薬剤で生じる副作用の発生率が、規定する用法・用量で投与される場合に、既存の薬剤に比べて低いことを意味する。具体的には、当該副作用の発生率が、本発明の医薬組成物の投与患者の20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、好ましくは1%以下であることを意味する。
【0038】
「有意な蓄積性を示さない」とは、本発明の医薬組成物を規定する用法・用量で継続的(1ヶ月以上)に投与しても、化合物Aの血中濃度が投与期間に比例して有意に増加しないことを意味する。
【0039】
「長期投与に用いられる」とは、同じ適応症を有する既存の薬剤(シナカルセト、エテルカルセチド)と比較して、投与中止例が少なく、長期間の投与に適する医薬組成物であることを意味する。具体的には、1年以上の継続投与を意味する。
【0040】
「正常レベルに調整する」とは、血清中のPTH濃度、あるいはCa濃度を、医師により臨床的に問題ないと診断されるレベル、好ましくは各検査値で規定される透析患者の基準値の範囲内にすることを意味する。より好ましくは、規定される用法・用量の範囲内で投与され、投与期間中に、休薬を行わずに上記レベルに調整することを意味する。
【0041】
透析患者の血清iPTH濃度の基準値は、60pg/mL以上300pg/mL以下の範囲内であり、好ましくは、150pg/mL以上300pg/mL以下、あるいは60pg/mL以上240pg/mL以下の範囲内である。
【0042】
透析患者の血清Ca濃度(低アルブミン血症の場合は補正血清Ca濃度)の基準値は、一般的には8.4mg/dl以上かつ10.0mg/dl以下の範囲内である。
【0043】
なお、一時的に上記基準値の範囲を逸脱することがあっても、投与を中断する等の処置を行う必要がないと判断される場合も、正常レベルに含まれる。
【0044】
本発明に係る医薬組成物は、化合物A、その製薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とし、医薬用無毒性担体等の製薬学的に許容される担体を含む。本発明で用いられる化合物A、その製薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物は、下記式(I)で表される化合物、その製薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物である。
【0045】
【化1】
【0046】
上記構造を有する化合物A、その製薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物は、例えば、国際公開2011/108690号、特開2013-63971号公報等に開示されている方法又はそれに準じる方法にて調製することができる。化合物Aのナトリウム塩(化合物A1)は、後述の参考例1に記載の方法又はそれに準ずる方法にて調製することができる。
【0047】
本発明に係る医薬組成物が液剤である場合、本発明に係る医薬組成物は、化合物A、その製薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を、組成物中、例えば、0.01mg/mL~10mg/mLの濃度で、好ましくは0.01mg/mL~5mg/mLの濃度で、更に好ましくは0.02mg/mL~2mg/mLの濃度で含有する。
【0048】
本発明において用いられる化合物Aは、塩の形態をも包含する。本発明の有効成分である化合物Aが塩の形態を成し得る場合、その塩は製薬学的に許容される塩もしくは可食性の塩であればよく、例えば、前記式(I)中の酸性基に対しては、アンモニウム塩、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛等の金属との塩、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ジシクロへキシルアミン等の有機アミンとの塩、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸との塩を挙げることができる。例えば、前記式(I)中の塩基性基に対しては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸との塩、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩を挙げることができる。これらの塩は、当該化合物と、医薬品の製造に使用可能である酸又は塩基とを接触させることにより製造される。
好ましくは、化合物Aのナトリウム塩である。
【0049】
本発明において化合物A又はその塩は、無水物であってもよく、水和物、アルコール付加物等の溶媒和物を形成していてもよい。ここでいう「溶媒和」とは、溶液中で溶質分子あるいはイオンがそれに隣接している溶媒分子を強く引き付け、一つの分子集団をつくる現象をいい、例えば溶媒が水であれば水和という。溶媒和物は水和物、非水和物のいずれであってもよい。非水和物としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール)、ジメチルホルムアミド等を使用することができる。
好ましくは、化合物Aのナトリウム塩の水和物である。
【0050】
化合物Aがフリー体として得られる場合、当該化合物が形成していてもよい塩又はそれらの水和物もしくはそれらの溶媒和物の状態に、常法に従って変換することができる。
また、化合物Aが、当該化合物の塩、水和物、又は溶媒和物として得られる場合、常法に従って化合物Aのフリー体に変換することができる。
【0051】
化合物Aは、化合物Aを有効成分として含有する医薬組成物として静脈内投与される。そのような医薬組成物の適用方法としては、特に制限されず、有効成分を注射等の投与方法に適した液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態で投与することが出来る。本発明に係る医薬組成物は、通常、液状の製剤(液剤)である。
【0052】
このような製剤としては、例えば、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤の形態、凍結乾燥剤等の形態が挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。
【0053】
上記医薬用無毒性担体としては、例えば、水(例えば、注射用水)、生理食塩水、一価又は多価アルコール(例えば、グリセロール等)が挙げられる。また、必要に応じて、pH調節剤、安定化剤、乳化剤、等張化剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0054】
本発明に係る医薬組成物は、8.0以下のpHを有する。本件発明の他の実施態様に係る医薬組成物のpHは、例えば、1.0~8.0、1.5~7.5、2.0~7.5、3.0~7.5、4.0~7.5、5.0~7.5、6.0~7.5、又は6.0~7.0である。本発明の好ましい態様に係る医薬組成物は、5.0~7.5のpHを有し、更に好ましくは、6.0~7.0のpHを有する。
【0055】
本発明においては、医薬組成物のpHを上記のように調整することによって、良好な安定性を得ることができる。
【0056】
ここで、化合物Aからは、主要な分解生成物として下記分解生成物(1B)及び分解生成物(1C)が生成することが判明している。
【0057】
【化2】
【0058】
したがって、保存中、上記分解生成物(1B)及び分解生成物(1C)の生成量を安定性の指標とすることができる。本発明においては、医薬組成物のpHを8.0以下に調整することによって、長期保存時に、上記分解生成物(1B)及び分解生成物(1C)の生成を抑制することができる。本発明に係る医薬組成物は、長期保存した時に、分解生成物(1B)及び分解生成物(1C)の生成量を合計で、好ましくは、組成物中、当初の化合物Aの重量に対して6重量%以下に、更に好ましくは、5重量%以下に抑制することができる。
ここで、長期保存とは、例えば、5℃で6ヶ月以上又は12ヶ月以上;15℃で6ヶ月以上;25℃で3ヶ月以上;又は40℃で1週間以上の保存を意味し、好ましくは、5℃で6ヶ月以上又は12ヶ月以上;15℃で6ヶ月以上;又は25℃で3ヶ月以上を意味し、より好ましくは、5℃で6ヶ月以上又は12ヶ月以上;又は15℃で6ヶ月以上を意味し、更に好ましくは5℃で12ヶ月以上;又は15℃で6ヶ月以上を意味する。長期保存は、上記各下限の期間以上であることに加えて、例えば、5℃で30ヵ月以下;15℃で12ヵ月以下;25℃で6ヵ月以下;又は40℃で1ヵ月以下であってよい。
【0059】
保存時に分解生成物(1B)及び分解生成物(1C)の生成を抑制できるということは、化合物A又はその製薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物の残存率が高いと言い換えることができる。本発明に係る医薬組成物中の化合物A、その製薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物の長期保存後の残存率は、組成物中、当初の化合物Aの重量に対して94重量%以上であることが好ましく、95重量%以上であることがより好ましい。
【0060】
本発明の医薬組成物において、pHは、pH調節剤及び/又は緩衝剤等によって調整することができる。本発明において用いられる「pH調節剤及び/又は緩衝剤」は、一般に医薬品製剤に用いられるpH調節剤及び/又は緩衝剤である。
【0061】
ここで用いられる「pH調節剤」は、これに限定されないが、例えば、塩酸、硫酸及びリン酸等の無機酸及びその塩、酢酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、及びマレイン酸等の有機酸及びその塩、水酸化ナトリウム、アンモニア水等の無機塩基、あるいはメグルミン等の有機塩基等を含む。本発明において好ましく用いられるpH調節剤は、酢酸、クエン酸、コハク酸及び酒石酸等の有機酸及びそれらの塩類、塩酸及びリン酸等の無機酸及びそれらの塩類、水酸化ナトリウム、アンモニア水等の無機塩類である。特に好ましく用いられるpH調節剤は、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素二ナトリウムである。これらは単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。pH調節剤は、リン酸及びその塩類から選択される1種又は2種以上の組合せであってもよく、好ましくは、リン酸一水素ナトリウム水和物及びリン酸二水素ナトリウムである。
【0062】
ここで用いられる「緩衝剤」は、これに限定されないが、例えば、リン酸等の無機酸及びそれらの塩、酢酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、及びマレイン酸等の有機酸及びそれらの塩、ヒスチジン、アルギニン等のアミノ酸及びそれらの塩類、あるいはトロメタモール及びメグルミン等の有機塩基等を含む。本発明において好ましく用いられる緩衝剤は、酢酸、クエン酸及び酒石酸等の有機酸及びそれらの塩類、ヒスチジン、アルギニン等のアミノ酸及びそれらの塩類である。特に好ましく用いられる緩衝剤は、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素二ナトリウムである。これらは単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
pH調節剤と緩衝剤は、いずれか一方のみを用いてもよいし、両方を用いてもよい
【0063】
本発明の医薬組成物において、pH調節剤及び/又は緩衝剤の含有量は、pH調節剤及び/又は緩衝剤の種類、目的とするpH値等に応じて適宜決定されるが、例えば、それぞれ医薬組成物中に、0.0001~30重量%、好ましくは、0.001~20重量%、更に好ましくは0.005~10重量%である。
【0064】
本発明の医薬組成物は、必要に応じて、pH調整剤及び/又は緩衝剤以外に、医薬の分野で使用し得る添加剤を含んでいてもよい。
【0065】
添加剤としては、特に限定されないが、例えば、等張化剤、溶解補助剤及び防腐剤等が挙げられる。
【0066】
等張化剤としては、これに限定されないが、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリセリン、濃グリセリン、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、ブドウ糖、プロピレングリコール、マクロゴール、D-マンニトール、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。好ましくは、塩化ナトリウム、D-マンニトール、グリセリン、濃グリセリン、ブドウ糖、及びプロピレングリコールである。これらは単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
溶解補助剤としては、例えば、エタノール、エチレンジアミン、カプリン酸、L-グルタミン酸、L-リジン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、セスキオレイン酸ソルビタン、D-ソルビトール、ニコチン酸アミド、プロピレングリコール、ポリソルベート80、ラウロマクロゴール等が挙げられる。
【0068】
防腐剤としては、例えば、フェノール、エデト酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、クロロクレゾール、クロロブタノール、サリチル酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル及びパラオキシ安息香酸ブチル等が挙げられる。
【0069】
本発明の医薬組成物においては、添加剤を1種又は2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0070】
本発明の医薬組成物は、通常、容器に充填して保存される。 容器としては、例えば、ガラス容器及びプラスチック容器等が挙げられる。プラスチック容器の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン及び環状ポリオレフィン等のオレフィン系樹脂等が挙げられる。容器の形状は、特に限定されないが、例えば、バイアル、シリンジ、バック及びボトル等が挙げられる。したがって、本発明は、化合物Aを含み、8.0以下のpHを有する医薬組成物をバイアル、シリンジ、バック又はボトルに充填した製剤を含む。
【0071】
本発明の医薬組成物は、通常、2~8℃(例えば、5℃)で保存される。
【0072】
本発明の医薬組成物においては、例えば、化合物Aを成人1日あたり0.01mg、0.025mg及び0.05mgから選択される用量以上、かつ2.5mg、0.8mg、0.4mg、0.3mg及び0.2mgから選択される用量以下、好ましくは0.025mg~0.8mg、より好ましくは0.025~0.4mg、更に好ましくは0.05~0.2mgの用量で透析終了時に静脈内投与する。
【0073】
「成人1日あたり0.01mg、0.025mg及び0.05mgから選択される用量以上、かつ2.5mg、0.8mg、0.4mg、0.3mg及び0.2mgから選択される用量以下」の化合物Aとは、0.01mg~2.5mg、0.01mg~0.8mg、0.01mg~0.4mg、0.01mg~0.3mg、0.01mg~0.2mg、0.025mg~2.5mg、0.025mg~0.8mg、0.025mg~0.4mg、0.025mg~0.3mg、0.025mg~0.2mg、0.05mg~2.5mg、0.05mg~0.8mg、0.05mg~0.4mg、0.05mg~0.3mg、0.05mg~0.2mgのいずれかの用量を意味する。化合物Aが溶媒和物である場合には、化合物Aの非溶媒和物として換算した量を意味し、化合物Aが塩の溶媒和物である場合には、遊離の化合物Aの非溶媒和物に換算した量を意味する。患者が日本人の場合、好ましくは0.025mg~0.8mgである。なお、好適な投与量は人種によって異なる場合があり、例えば、コーカソイドやオーストラロイドの投与量は、一般的に日本人等のモンゴロイドの好適な投与量より多くの投与量が必要と考えられる。
【0074】
本発明の医薬組成物は透析を行う際(透析時)に投与されるため、本発明の医薬組成物は、一般的な透析スケジュールが、週3回の場合、週3回の各透析時に本発明の医薬組成物を投与することを意味する。この場合、一週間の始まりを1日目とした場合、例えば1日目、3日目、5日目に透析を行い、当該透析時に本発明の医薬組成物を投与し、次週から同じスケジュールで繰り返す。透析スケジュールが、週4回である場合、あるいは患者の状態等により一時的に週4回以上の透析を行う場合は、当該週4回以上の透析と同じスケジュールで、本発明の医薬組成物を投与する。好ましくは、本発明の医薬組成物を週3~5回の透析スケジュールにおける各透析の透析終了時に投与する。
【0075】
ここで、「透析終了時」とは、透析終了の直前を意味し、具体的には透析終了直前の返血時を意味する。「静脈内投与」とは、薬剤を静脈内に直接投与することを意味するが、透析患者においては、透析回路静脈側から投与することが好ましい。
更に好ましくは、透析終了時の返血時に透析回路静脈側に注入するのが好ましい。
【0076】
本発明の医薬組成物は、それらを含むパッケージに、使用に関する説明を記載した記載物を含ませることができる。記載物としては、用途・効能や投与方法等に関する説明事項を記載したいわゆる能書等が挙げられる。
【0077】
本発明の医薬組成物は、患者の症状に応じてカルシウム剤やビタミンD製剤を併用してもよい。併用されるカルシウム剤やビタミンD製剤の用法・用量は、血中Ca濃度の程度に応じて、適宜定められる。
【実施例
【0078】
以下、本発明を実施例の記載によって具体的に説明するが本発明は当該記載によって限定して解釈されるものではない。
化合物A1及びその合成方法の例を、後述の参考例1に記載した。
ここで、実施例1A、1B,4A及び4Bにおいて、各製剤のpHは、pH計(メトラートレド社、製品名:HM-30G)を用いて、製剤調製後に測定した。
【0079】
実施例1A
0.1mg/mLの濃度になるように、化合物A1を各緩衝液に溶解させた。これらの溶液をそれぞれガラスバイアルに分注し、5℃でそれぞれ保存した。各緩衝液の調製方法及び化合物A1溶解液の保存期間を下記表1に示す。保存後は、以下に記載した試験方法に従い、残存率を算出した。
【0080】

【表1】
【0081】
試験方法:保存後の溶液について、液体クロマトグラフィー装置Prominence(島津製作所社製)及び紫外吸光光度計(測定波長:254 nm;Prominence(島津製作所社製))を用いて常法に従い分析した。このとき、カラムとして、SUMIPAX ODS(3 mm×150 mm、5 μm、SCAS製)を用いた。
【0082】
5℃における各保存期間での化合物A1の残存率(%)を求めた計算は、以下の通りである。
各保存期間における化合物A1の残存率(%)=試料溶液の化合物A1のピーク面積/試料溶液のピーク面積の総和×100
その結果を下記の表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
本実施例により、化合物A1を含むpH1.1~7.0の製剤が、5℃で安定であった。
【0085】
実施例1B
下記の表3に従い、化合物A1を2濃度で各緩衝液に溶解させた。これらの溶液をそれぞれガラスバイアルに分注し、5℃でそれぞれ保存した。各緩衝液の調製方法及び化合物A1溶解液の保存期間を下記の表3に示す。保存後は、以下に記載した試験方法に従い、化合物A1の残存率を算出した。
【0086】
【表3】
【0087】
試験方法:保存後の溶液について、液体クロマトグラフィー装置Prominence(島津製作所社製)及び紫外吸光光度計(測定波長:254 nm;Prominence(島津製作所社製))を用いて常法に従い分析した。このとき、カラムとして、SUMIPAX ODS(3 mm×150 mm、5 μm、SCAS製)を用いた。
【0088】
5℃における各保存期間での化合物A1の残存率(%)を求めた計算は、以下の通りである。
各保存期間における化合物A1の残存率(%)=試料溶液の化合物A1のピーク面積/試料溶液のピーク面積の総和×100
その結果を下記の表4に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
本実施例により、化合物A1を含むpH1.1及びpH7.0の製剤が、化合物A1の製剤中での濃度にかかわらず、5℃で安定であった。
【0091】
実施例1A及び1Bの結果から、化合物A1を含む製剤は、製剤中の化合物A1の濃度に関係なく、pH8.0以下の場合に安定であることが分かった。
【0092】
実施例2
以下の表5の組成となるように秤取した化合物A1、各緩衝液を注射用水に溶解し、均一な溶液を得た。これらの溶液をガラスアンプルに充填し、溶封した。実施例2-1~2-4及び比較例のpHは、pH計S20(メトラートレド社製)を用いて、すべて溶解後に測定した。
【0093】
【表5】
【0094】
ガラスアンプルに充填した各溶液を40℃で1ヶ月保存した後、化合物A1の残存率及び各類縁物質の生成を評価した。評価は液体クロマトグラフィーを用いて以下のように行った。
【0095】
試験方法:保存後の溶液について、液体クロマトグラフィー装置(ACQUITY UPLC H-Class;測定波長:210 nm)を用いて常法に従い分析した。このとき、カラムとして、XSELECT CSH C18(2.1 mm×100 mm、3.5 μm、Waters製)を用いた。
【0096】
各保存期間での化合物A1の残存率(%)及び個々の類縁物質の生成率(%)を求めた計算は、以下の通りである。
化合物A1の残存率(%)=試料溶液の化合物A1のピーク面積/試料溶液のピーク面積の総和×100
個々の類縁物質(%)=試料溶液の個々の類縁物質のピーク面積/試料溶液のピーク面積の総和×100
【0097】
その結果を以下の表6に示す。表6に示されるようにpH3.0~7.0では,類縁物質1B及び1Cの生成を閾値以内(すなわち、類縁物質1B及び1Cの合計が6%以内)に抑えられ安定であるのに対して、pH8.5では閾値を超えて不安定であった。以上の結果からpH3.0~7.0であれば、40℃でも良好な保存安定性であった。
【0098】
【表6】
【0099】
本実施例により、化合物A1を含むpH8.0以下の製剤が、40℃で1月間安定であることが確認できた。製剤の安定性は、保存時の温度に大きく影響を受けるため、種々の温度条件で保存安定性試験を実施した。
【0100】
実施例3
以下の表7の組成となるように秤取した化合物A1、各緩衝液を注射用水に溶解し、均一な溶液を得た。これらの溶液をガラスアンプルに充填し、溶封した。実施例3のpHは、pH計HM-30R(東亜ディーケーケー社製)を用いて、すべて各保存期間において測定した。
【0101】
【表7】
以下に記載した試験方法に従い、5℃、15℃及び25℃での化合物A1の残存率及び各類縁物質の生成を評価した。
【0102】
試験方法:保存後の溶液について、液体クロマトグラフィー装置(ACQUITY UPLC H-Class;測定波長:210 nm)を用いて常法に従い分析した。このとき、カラムとして、XSELECT CSH C18(2.1 mm×100 mm、3.5 μm、Waters製)を用いた。
【0103】
各保存期間での化合物A1の残存率(%)及び個々の類縁物質(%)を求めた計算は、以下の通りである。
化合物A1の残存率(%)=試料溶液の化合物A1のピーク面積/試料溶液のピーク面積の総和×100
個々の類縁物質(%)=試料溶液の個々の類縁物質のピーク面積/試料溶液のピーク面積の総和×100
【0104】
化合物A1を10mg/mLの濃度で含む製剤の結果を表8に、及び化合物A1を0.1mg/mLの濃度で含む製剤の結果を表9に示す。表8及び表9に示されるように、化合物A1を含むpH6.4~6.9の範囲の製剤が、化合物A1の濃度に関係なく5~25℃の条件下(25℃の時は更に60%RH)で、5℃で保存した場合は30ヶ月、15℃で保存した場合は12ヶ月、25℃で保存した場合は6ヶ月、それぞれ良好な保存安定性が得られた。
本実施例から、pH8.0以下の製剤が、化合物A1の濃度に関係なく5~25℃の条件下で安定であることが分かった。
【0105】
【表8】
【0106】
【表9】
【0107】
更に化合物A1を含む製剤の安定性を予測するために、以下の試験を行った。
実施例4A
0.1mg/mLの濃度になるように、化合物A1を表10に示す各緩衝液に溶解させた。これらの溶液をそれぞれガラスバイアルに分注し、60℃でそれぞれ保存した。各緩衝液の調製方法及び化合物A1溶解液の保存期間を下記表10に示した。保存後は、以下に記載した試験方法に従い、残存率を算出した。
【0108】
【表10】
【0109】
試験方法:保存後の溶液について、液体クロマトグラフィー装置Prominence(島津製作所社製)及び紫外吸光光度計(測定波長:254 nm;Prominence(島津製作所社製))を用いて常法により分析した。このとき、カラムとして、SUMIPAX ODS(3 mm×150 mm、5 μm、SCAS製)を用いた。
【0110】
各保存期における化合物A1の残存率(%)を求めた計算は、以下の通りである。
各保存期間における化合物A1の残存率(%)=試料溶液の化合物A1のピーク面積/標準溶液の化合物A1のピーク面積×100
ここで、「標準溶液の化合物A1」とは、0.1mg/mLの濃度になるように、化合物A1を表10に示す各緩衝液に溶解させた後、5℃で保存した溶液を指す。実施例1の結果から、化合物A1の溶液は、5℃で保存させた場合に安定であることが明らかになっているため、標準溶液とした。
【0111】
【表11】
【0112】
得られた残存率より、60℃における反応速度定数を算出した。結果を表12に示す。60℃における反応速度定数は、製剤のpHを変化させても大幅な変化は認められなかった。
【0113】
【表12】
【0114】
実施例4B
下記表13に従い、化合物A1を2濃度で、実施例4Aの両端となるpHを有する各緩衝液に溶解させた。これらの溶液をそれぞれガラスバイアルに分注し、50℃、60℃及び70℃でそれぞれ保存した。各緩衝液の調製方法及び化合物A1溶解液の保存期間を下記表13に示す。保存後は、以下に記載した試験方法に従い、残存率を算出した。
【0115】
【表13】
【0116】
試験方法:保存後の溶液について、液体クロマトグラフィー装置Prominence(島津製作所社製)及び紫外吸光光度計(測定波長:254 nm;Prominence(島津製作所社製))を用いて常法により分析した。このとき、カラムとして、SUMIPAX ODS(3 mm×150 mm、5 μm、SCAS製)を用いた。
【0117】
各保存期における化合物A1の残存率(%)を求めた計算は、以下の通りである。
各保存期間における化合物A1の残存率(%)=試料溶液の化合物A1のピーク面積/標準溶液の化合物A1のピーク面積×100
ここで、「標準溶液の化合物A1」とは、0.1mg/mLの濃度になるように、化合物A1を表13に示す各緩衝液に溶解させた後、5℃で保存した溶液を指す。実施例1の結果から、化合物A1の溶液は、5℃で保存させた場合に安定であることが明らかになっているため、標準溶液とした。
その結果を、表14に示す。
【0118】
【表14】
【0119】
得られた残存率より、各保存温度における反応速度定数を算出した。アレニウスプロットを実施することで、任意の温度における反応速度定数(h-1)を算出した。一例として、25℃における残存率予測を、表15及び図1に示す。
【0120】
【表15】
【0121】
表15に示されるように、化合物A1を含むpH1.1及び7.0の製剤が、25℃の条件下でも12箇月に亘って良好な保存安定性が得られることが分かった。
【0122】
参考例1
3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸ナトリウム(化合物A1)の合成
【0123】
(工程1)
3-({[(2S)-2-アミノ-3-メトキシ-3-オキソプロピル]カルバモイル}アミノ)-5-クロロ-4-メチルベンゼン-1-スルホン酸の合成
3-アミノ-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸(ACTS) 5g(22.56mmol)に対し、アセトニトリル 37.5mL(7.5L/kg vs ACTS)、ピリジン 3.81mL(47.38mmol、2.1eq.)を加えて25℃で撹拌した。ClCOPh 2.99mL(23.68mmol、1.05eq.)を滴下し、30分撹拌後にHPLCでカルバメート反応終了を確認した。3-アミノ-N-(tert-ブトキシカルボニル)-L-アラニン メチルエステル塩酸塩 5.92g(23.23mmol、1.03eq.)を加えてトリエチルアミン 9.75mL(69.93mmol、3.1eq.)を滴下し、25℃で3時間撹拌した。3-アミノ-N-(tert-ブトキシカルボニル)-L-アラニン メチルエステル塩酸塩 0.4g(1.58mmol、0.07eq.)、トリエチルアミン 0.22mL(1.58mmol、0.07eq.)を追加し、HPLCでウレア化反応終了を確認した。メタンスルホン酸 7.32mL(112.8mmol、5.0eq.)を加えて50℃に昇温し、4時間撹拌した。HPLCで脱保護終了を確認した後、25℃に冷却してアセトニトリル 37.5mL(7.5L/kg)、水7.5mL(1.5L/kg)を加えて固体を析出させた。5℃に冷却して16時間熟成させた。析出した固体を減圧ろ過し、水/アセトニトリル(1/2) 20mL(4.0L/kg)で洗浄した後、40℃で5時間減圧乾燥して目的物7.72gを白色固体として得た(net 7.20g、87.3%)。
【0124】
1H-NMR (400MHz, DMSO-d6): δ 8.39 (bs, 3H), 8.16 (d, 1H, J=1.2Hz), 7.90 (d, 1H, J=1.6Hz), 7.28 (d, 1H, J=1.6Hz), 6.78 (t, 1H, J=5.6Hz), 4.20-4.10 (m, 1H), 3.77(s, 3H), 3.70-3.60 (m, 1H), 3.55-3.45 (m, 1H), 2.21 (s, 3H)
HRMS (FAB-):calcd for m/z 364.0369(M-H), found m/z 364.0395(M-H)
【0125】
(工程2)
(2)3-{[(2S)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]カルバモイルアミノ}-5-クロロ-4-メチルベンゼンスルホン酸ナトリウムの合成
工程1で得られた化合物 10.64g(net 10.0g、27.34mmol)に対し、水18mL(1.8L/kg vs 工程1の化合物)を添加して8℃で撹拌した。48%水酸化ナトリウム水溶液3.42mL(57.41mmol、2.1eq.)を滴下し、水1.0mL(1.0L/kg)で洗いこみを行った後、8℃で15分間撹拌した。HPLCで加水分解終了を確認した後、25℃に昇温して48% HBr aq.約3.55mLを加えてpHを5.8に調整した。イソプロピルアルコール 65mL(6.5L/kg)を滴下して目的物の析出を確認後、1時間熟成させた。イソプロピルアルコール 81mL(8.1L/kg)を滴下して8℃で一晩熟成させた。析出した固体を減圧ろ過し、イソプロピルアルコール 20mL(2.0L/kg)で洗浄した後、40℃で4時間減圧乾燥して目的物を白色固体として10.7g得た(net 9.46g、92.6%)。
【0126】
1H-NMR (400MHz, DMSO-d6): δ8.76 (s, 1H), 7.91 (d, 1H, J=1.6Hz), 8.00-7.50 (bs, 2H), 7.24 (d, 1H, J=1.6Hz), 7.20(t, 1H, J=5.6Hz), 3.58-3.54(m, 1H), 3.47-3.43(m, 1H), 3.42-3.37(m, 1H), 2.23(s, 3H)
【0127】
参考例2 両腎摘ラットの血清Ca濃度及び血清iPTH濃度に対する化合物A1の作用
7週齢のラット(Crl:CD(SD)、雄性)51匹を6日間の検疫・順化後、手術4日前から100%スクロース食を自由摂餌させた。手術当日、イソフルラン麻酔下で、背部から左右腎臓部位の皮膚を切開し、腎の被膜をとって腎動静脈及び尿管を縫合糸で結紮した後、左右の腎臓を切除した。ペニシリン溶解液を添加して縫合し、生理食塩液5mLを腹腔内投与した後、飼育ケージに戻した。
【0128】
両腎摘手術翌日の被験物質投与日に無麻酔下で尾静脈からキャピラリーを用いて約100μLを採血し、微量高速冷却遠心機にて遠心(10000rpm、5min、4℃)して血清を分離した後、血清Ca濃度をドライケム分析装置(型番:富士ドライケム
7000、メーカー:富士フィルムメディカル(株))で測定し、血清Ca濃度が8.0mg/dL以上14.0mg/dL未満の個体を選別した。
【0129】
両腎摘手術の翌日に、選別された動物について当日の体重をもとに投与用量を算出し、1群に媒体(生理食塩液)を、2群、3群及び4群にそれぞれ0.3、3及び30mg/mLの化合物A1溶液を、5群、6群、7群及び8群(1群は5匹)にそれぞれ0.3、1、3及び10mg/mLの比較化合物を各1mL/kgの容量で尾静脈内に単回投与した。投与前(0時間とした)、投与24及び48時間後に、無麻酔下で尾静脈からキャピラリーで血清用血液約300μLを採血した。血清用血液は室温で静置し、採血後30分以上2時間以内に微量高速冷却遠心機にて遠心(10000rpm、5min、4℃)して血清を採取した。
【0130】
その後、血清はCOBAS分析装置(型番:COBASINTEGRA 400plus、メーカー:ロシュ・ダイアグノスティックス(株))でCaを分析し、残りの血清をiPTH測定日まで超低温冷凍庫(設定温度-80±15℃)に保存した。iPTH測定日に血清を室温にて融解して測定を行った。
【0131】
(化合物A1溶液)
338mgの化合物A1を生理食塩水10mlに溶解した30mg/mlの化合物A1溶液を用い、生理食塩水により希釈して0.3mg/ml、1mg/mlの化合物A1溶液を調製した。
(ここで、本発明は、参考例2~4に具体的に記載の化合物A1溶液を除く態様も包含し得る。)
【0132】
(比較化合物溶液)
149mgのエテルカルセチド(Ac-c(C)arrrar-NH)TFA塩(WO 2011014707)を生理食塩水7ml及び0.5N NaOH水溶液でpH6~8に調製し、更に生理食塩水を加え10mlとし、10mg/mlの比較化合物溶液を調製し、生理食塩水により希釈して0.3mg/ml、1mg/mlの比較化合物溶液を調製した。
【0133】
(結果)
(1)両腎摘ラットの血清iPTH濃度
投与前(0時間)の全個体の血清iPTH濃度の平均値±標準誤差は231±16pg/mLであった。化合物A1の0.3、3及び30mg/kg投与により血清iPTH濃度は低下し、投与24時間後の平均値はそれぞれ140、138及び118mg/dLであり、投与48時間後はそれぞれ338、280及び245mg/dLであった。なお、両腎摘ラットにおける化合物A1の30mg/kg単回静脈内投与の投与48時間後の血漿中化合物A1濃度は18.8μg/mLと推定され、血清iPTH濃度低下作用の50%有効濃度EC50値75ng/mLより十分高い濃度を維持していた。
【0134】
一方、比較化合物の0.3、1、3及び10mg/kg投与によっても血清iPTH濃度は低下し、投与24時間後の血清iPTH濃度の平均値はそれぞれ122、52、22及び104mg/dLであり、投与48時間後はそれぞれ510、280、41及び230(n=1)mg/dLであった。なお、両腎摘ラットにおける比較化合物の3mg/kg単回静脈内投与の投与48時間後の血漿中比較化合物濃度は0.13μg/mLと推定され、血清iPTH濃度低下作用の50%有効濃度EC50値40ng/mLより十分高い濃度を維持していた。投与48時間後の血清iPTH濃度と投与用量の反応関係について、ロジスティック曲線でカーブフィッティングを行った結果、化合物A1及び比較化合物投与による血清iPTH濃度の下限値はそれぞれ203.0pg/mL及び48.18pg/mLとシミュレートされた(図2-1)。
【0135】
(2)両腎摘ラットの血清Ca濃度
投与前(0時間)の全個体の血清Ca濃度の平均値±標準誤差は11.25±0.28mg/dLであった。
化合物A1の0.3、3及び30mg/kg投与により血清Ca濃度は低下し、投与24時間後の平均値はそれぞれ9.07、7.97及び7.99mg/dLであり、投与48時間後ではそれぞれ10.24、8.55及び8.14mg/dLであった。
【0136】
また、比較化合物の0.3、1、3及び10mg/kg投与によっても血清Ca濃度は低下し、投与24時間後の血清Ca濃度の平均値はそれぞれ8.33、6.42、6.82及び6.95mg/dLであり、投与48時間後はそれぞれ10.44、7.33、5.85及び6.65(n=1)mg/dLであった。
【0137】
投与48時間後の血清Ca濃度と投与用量の反応関係について、ロジスティック曲線でカーブフィッティングを行った結果、化合物A1及び比較化合物投与による血清Ca濃度の下限値はそれぞれ8.072mg/dL及び5.880mg/dLとシミュレートされた(図2-2)。
【0138】
(3)化合物A1及び比較化合物単回投与後の両腎摘ラット生存数
各群の投与前の匹数は5匹であった。投与48時間後に、媒体群及び化合物A1投与群では全匹数の5匹が生存していたのに対し、比較化合物投与群では3mg/kg群が4匹、10mg/kg群が1匹の生存数であった(図2-3)。
【0139】
化合物A1は静脈内投与に用いられるCaSR活性化剤である。非臨床成績から主な排泄経路が腎排泄であることが示されており、正常ラットに静脈内投与した場合は速やかに血漿中から消失される。腎不全モデルラットにおいては、投与48時間の血清iPTH及びCa濃度は十分な低下作用を示したが、用量増加に対するこれらの濃度低下作用は緩やかであった。
【0140】
一方、既に上市されている同じ作用機序を有するエテルカルセチドは、用量依存的に血清iPTH及びCa濃度を低下させたが、用量依存的に死亡ラット数が増加した。
【0141】
この結果から、化合物A1は、エテルカルセチドと比較して血清iPTH及びCa濃度を生命維持に影響がでる程度まで下げないという有利な効果を有し、腎障害患者の血清iPTH及びCa濃度のコントロールに有用であることが示された。
【0142】
参考例3 化合物A1のイヌに対する催吐性の検討
雄性ビーグル犬(ノーサンビーグル、月齢:14~87か月、体重:10.2kg~15.8kg)を用いたクロスオーバー試験を行った。参考例2で用いた化合物A1の0.3、1、10mg/kg溶液をボーラス投与(0.5mL/kg、1mL/sec)で、各用量3~6例のイヌに投与し、投与直後の嘔吐の有無について確認した。投与は1週間に1又は2回行い、投与間隔は2日以上設けた。投与は給餌前に実施した。
投与前、投与直後、投与後15及び30分の症状を観察した。
【0143】
(結果)
結果を表16-1に示す。
【0144】
【表16-1】
【0145】
イヌにおいて嘔吐例がない1mg/kg投与時は、C=18.8μMであった。後述の参考例5からヒト有効投与用量を0.1mg/manと仮定すると、全ドーズ同時フィッティングの解析結果から、C=0.0436μMであった。
【0146】
以上の結果から、化合物A1における嘔吐作用の対ヒト薬効マージンは430倍以上であることが分かった。
【0147】
シナカルセトは悪心や嘔吐等の消化器症状が高頻度に発現することが知られており、継続的な投与の阻害要因となっている。これに対し、本化合物A1は、イヌで嘔吐を発現する用量がヒトの投与用量と大きく異なるため、ヒトにおいて嘔吐等の副作用発現が少なく、安全であり、長期的投与に適した医薬組成物であるといえる。
【0148】
参考例4 ラットの腹腔内肥満細胞を用いたヒスタミン遊離試験
SD系雄性ラット(10週齢)を用い、Kimura らの方法(Kimura T., Eur J Pharmacol. 2000 Nov 3;407(3):327-32.)に準じてラット腹腔肥満細胞を単離し、これらの肥満細胞に化合物A1を投与することにより遊離ヒスタミンの量をLiu J らの方法(Liu J J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci. 2014 Nov 15;971:35-42)に準じて測定し、ヒスタミン遊離に対する化合物A1、比較化合物及び陽性対照であるCompound48/80による作用を比較した。すなわち、SD系ラットから腹腔細胞浮遊液を得た。細胞濃度0.4×10細胞/mlの腹腔細胞浮遊液に被験物質を添加し、37℃で30分間インキュベートした後、細胞上清中のヒスタミン濃度を測定した。なお、比較化合物としてエテルカルセチドを用い、化合物A1及び比較化合物は参考例2と同様にして0.1μM~1000μMの各5群に調製したものを、Compound48/80(シグマ社製)は0.1mg/ml、10.0mg/mlの濃度で用いた。
【0149】
抑制率は下記の式により算出した。
抑制率(%)=(各群のヒスタミン濃度(μM)-陰性対照群のヒスタミン濃度(μM))×100/(総ヒスタミン量測定群のヒスタミン濃度(μM)-陰性対照群のヒスタミン濃度(μM))
【0150】
(結果)
図2-4に示すように、化合物A1は、遊離ヒスタミンをほとんど惹起しないことが示された。一方、比較化合物は用量依存的に遊離ヒスタミン量が増加した。
【0151】
エテルカルセチドは過敏性反応を発現する危険性が知られており、投与には十分な注意が必要とされる。これに対し、本化合物A1は、過敏性反応の主な原因とされるヒスタミン遊離作用が低いため、過敏性反応を発現する可能性が低く、副作用が低減された医薬組成物であることが確認された。
【0152】
参考例5 臨床第I相試験及び臨床有効量の設定
(1)臨床第I相試験(P1)
日本人の健康成人男性32例に、絶食下で0.01mg、0.1mg、1.0mg及び2.5mgの被験薬(化合物A1)を単回静脈内投与し、薬物動態、薬力学及び安全性について、プラセボを対照として二重盲検比較試験で検討を行った。なお、治験薬は、下記で調整した化合物A1のバイアル製剤より、投与用量に応じて必要用量を注射用滅菌水で希釈し、注射筒に充填して投与した。
【0153】
(化合物A1のバイアル製剤)
注射用滅菌水10ml中に脱水物に換算した化合物A1を100mg、添加剤として塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム十二水和物及びリン酸二水素ナトリウム二水和物を溶解し封入するバイアル製剤。
(ここで、本発明は、参考例5に具体的に記載の化合物A1のバイアル製剤を除く態様も包含し得る。)
【0154】
(プラセボ)
化合物A1を含有しない注射用滅菌水10ml封入するバイアル製剤
【0155】
(結果)
健康成人男子を対象とした第I相試験において、プラセボを対照とし、0.01mg、0.1mg、1.0mg及び2.5mgの化合物A1を単回静脈内投与した結果、血漿中にはほぼ未変化体として存在し、速やかに消失した。また、投与用量に対してほとんどが未変化体のまま尿中へ排泄されたことから、未変化体の主な消失経路が腎排泄であることが示された。薬力学的評価において、0.01mg投与群より投与前と比較して血清iPTH濃度の低下が確認され、投与用量の上昇によって血清iPTH濃度が低下した時間が持続した。安全性については、1.0mg投与群以上で嘔吐等非重篤・軽度の副作用が認められたが、その他に問題となる事象は認められなかった。
【0156】
(2)臨床有効量の決定
P1の結果から臨床有効投与用量を予測するためにPK/PD解析を実施した。投与用量2.5mgの結果は過剰投与であることが推定されたため解析から除外し、投与用量0.01mg、0.1mg及び1mgにおけるPK(血漿中濃度平均値)及びPD(iPTHの平均値をプラセボ群、及び0時間値でノーマライズした値)データを使用した。PK/PD解析にはリバウンドを組み入れた間接反応モデルを使用した。
P1における3投与用量(0.01mg、0.1mg及び1mg)のPKの結果から、3-コンパートメントモデルによる3投与用量同時解析を実施しPKパラメータを算出した(図2-5及び表16-2)。
【0157】
【表16-2】
【0158】
算出したPKパラメータを入力関数とし、リバウンドを組み入れた間接反応モデル(図2-6)によるPK/PD解析を実施し、健康成人におけるEC50値を算出した(図2-7及び表16-3)。
【0159】
【表16-3】
【0160】
算出した健康成人におけるEC50値、並びに、正常ラット及びアデニンモデルラット(病態モデルラット)における同様の解析結果から、腎不全患者におけるEC50値を推定した。まず、ラットにおいて同様にEC50値を算出したところ、正常ラットでは<22.9ng/mL、アデニンモデルラットでは74.8ng/mLとなった。ラットでの正常、病態におけるEC50値の相異は、正常と病態で大きく異なるPK推移に起因するものと考えられることから、ヒトにおいても同様の傾向が得られると推察される。従って、健常及び腎不全患者間におけるEC50値のscaling factorとして、「>3.3」を設定した。このscaling factorをヒトに適用することにより、腎不全患者におけるEC50値として>1.4ng/mLを推定した。
【0161】
PKフィッティングの結果、及びPK-sim(登録商標)より算出された本薬の腎消失の寄与率(3.2%)を用いて、腎不全患者におけるPK予測シミュレーションを実施した。本PK予測シミュレーションと、先に推定した腎不全患者におけるEC50値>1.4ng/mLを用いて、腎不全患者において本薬の血漿中濃度が、EC50値を72時間維持できる投与用量を予測し、推定臨床有効投与用量とすることとした。その結果、0.06mg/man投与時に、72時間、1.4ng/mLを上回ると見積もられた(図2-8)。EC50値は1.4ng/mLを上回ると推定されていることを考慮し、臨床有効投与用量=0.1mg/manと予測した。
【0162】
参考例6 臨床第I/II相試験
維持血液透析下のSHPT患者を対象として、化合物A1の単回又は反復静脈内投与時の薬物動態、薬力学及び安全性について、プラセボを対照とした二重盲検比較試験を実施して検討した。
【0163】
単回投与:投与用量は参考例5で算出した臨床有効投与用量に基づき0.025mg、0.05mg、0.1mg、0.2mg、0.4mg、0.6mg、0.8mgの7Stepとした。治験薬は治験薬投与日の透析終了後2時間以上4時間以内にできるだけゆっくりと60秒以内で静脈内に投与した。なお、治験薬は、下記で調整した化合物A1のバイアル製剤より、投与用量に応じて必要用量を注射用滅菌水で希釈し、注射筒に充填して投与した。
【0164】
反復投与:投与用量は参考例5で算出した臨床有効投与用量に基づき0.05mg、0.1mg、0.2mgの3Stepとした。治験薬は治験薬投与開始日より週3回22日間(計9回投与)、透析終了直前に透析回路静脈側に注入(静注)した。なお、治験薬は、下記で調整した化合物A1のバイアル製剤より、投与用量に応じて必要用量を注射用滅菌水で希釈し、注射筒に充填して投与した。
【0165】
所定の評価スケジュールに従い、各種評価項目を評価した。
【0166】
(化合物A1のバイアル製剤)
注射用滅菌水10ml中に脱水物に換算した化合物A1を1mg、添加剤として塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム十二水和物及びリン酸二水素ナトリウム二水和物を溶解し封入するバイアル製剤。
(ここで、本発明は、参考例6に具体的に記載の化合物A1のバイアル製剤を除く態様も包含し得る。)
【0167】
(プラセボ)
化合物A1を含有しない注射用滅菌水10ml封入するバイアル製剤
【0168】
(結果)
(1)単回投与44例(化合物A1投与群:29例、プラセボ投与群:15例)
薬物動態評価:血漿中化合物A1のCmax及びAUCは投与用量の増加に伴い増加した。t1/2は65.0~122時間であった。投与66時間後に血液透析を実施した結果、透析直後の血漿中化合物A1濃度は透析直前の値より75~81%低下していた。
血清iPTH濃度:単回投与により血清iPTH濃度は、化合物A1投与群において投与直後より低下し、投与66時間後(透析直前)までその効果を維持した。なお、当該血清iPTH濃度変化率は投与66時間後において、0.025mg投与群で27%、0.05mg投与群で48%、0.1mg投与群で44%、0.2mg投与群で57%、0.4mg投与群で78%、0.6mg投与群で69%、0.8mg投与群で66%低下した。
安全性:単回投与において、因果関係ありと判断された嘔吐が0.4mg投与群 以上の用量で認められ、悪心が0.6mg投与群で認められたが、いずれも非重篤、軽度な事象であり、その他に臨床的に問題となる所見は認められなかった。
【0169】
(2)反復投与39例(化合物A1投与群:28例、プラセボ投与群:11例)
薬物動態評価:反復投与において、血漿中には主に未変化体として存在した。また、最大透析間隔後における透析前化合物A1トラフ濃度は概ね一定であったことから、反復投与によって透析前の血漿中化合物A1トラフ濃度は上昇しないことが示された。すなわち、本発明の医薬組成物は、透析により速やかに除去され蓄積性がないことがわかった。
【0170】
血清iPTH濃度:反復投与により血清iPTH濃度は、化合物A1投与群において試験期間中低下し、その効果を維持した。なお、当該血清iPTH濃度変化率は試験22日目(9回目の化合物A1投与の3日後)において、0.05mg投与群で8%、0.1mg投与群で25%、0.2mg投与群で36%低下していた。
【0171】
安全性:反復投与において、補正Ca減少が0.2mg投与群、0.05mg投与群で認められたが、いずれの症例においても軽度で、安全性上重大な問題に至るようなことはなかった。0.1mg投与群の症例では、補正Ca減少は認められなかった。
【0172】
上記結果から、本発明の医薬組成物は、日本人に対しては成人1日あたり0.025mg~0.8mgの範囲内において用いられる場合、副作用が少なく、二次性副甲状腺機能亢進症の予防又は治療剤として有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明の医薬組成物は、安定生が良好である、維持透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療剤を提供することができる。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図2-5】
図2-6】
図2-7】
図2-8】