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特許7166317耐高温の変性ポリプロピレンフィルム、その製造方法及び使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】耐高温の変性ポリプロピレンフィルム、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20221028BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
H01L21/316 X
H01L21/318 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020170584
(22)【出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2022042914
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】202010913566.9
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520392177
【氏名又は名称】広東以色列理工学院
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】譚啓
(72)【発明者】
【氏名】宋光輝
(72)【発明者】
【氏名】呉旭東
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/221781(WO,A1)
【文献】特開2018-157055(JP,A)
【文献】特開2019-135325(JP,A)
【文献】特表2019-520277(JP,A)
【文献】国際公開第2021/186674(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01L 21/318
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンフィルムと、ポリプロピレンフィルムの表面における酸化物層及び/又は窒化物層とを含み、前記酸化物層又は窒化物層の厚さは20~500nmであり、
140℃で580kV/mmの耐電圧を有することを特徴とする変性ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
前記酸化物層は、アルミニウムの酸化物、チタンの酸化物、亜鉛の酸化物、ケイ素の酸化物、ジルコニウムの酸化物、タンタラムの酸化物、ニオブの酸化物、マグネシウムの酸化物、カルシウムの酸化物、鉄の酸化物、チタン酸タングステン又はチタン酸バリウムのうちの少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1に記載の変性ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
前記酸化物層は、Al、TiO2-x、TiO、Ti、ZnO、SiO、ZrO、Ta、Nb、MgO、Fe、SrTiO又はBaTiOのうちの少なくとも1種からなり、0<x<1であることを特徴とする請求項2に記載の変性ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
前記窒化物層は、アルミニウムの窒化物、チタンの窒化物、ホウ素の窒化物、ケイ素の窒化物又はタンタラムの窒化物のうちの少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1に記載の変性ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の変性ポリプロピレンフィルムの製造方法であって、ALD技術を用いてポリプロピレンフィルムの表面に酸化物層又は窒化物層を堆積させ、前記変性ポリプロピレンフィルムを製造するステップを含むことを特徴とする変性ポリプロピレンフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ALD技術を用いてポリプロピレンフィルムの表面に酸化物層又は窒化物層を堆積させ、前記変性ポリプロピレンフィルムを製造する具体的な過程は、ポリプロピレンフィルムをALDの反応チャンバの中に置いて、真空吸引をしてから昇温し、キャリヤガスを通し、少なくとも2種の前駆体を交互に反応チャンバ内に通して反応させることで前記変性ポリプロピレンフィルムを得ることであり、前記前駆体は、金属元素又はSiを提供する前駆体と、酸素又は窒素元素を提供する前駆体とを含むことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属元素は、Al、Ti、Zn、Zr、Ta、Nb、Mg、Fe、Sr又はBaのうちの少なくとも1種から選ばれ、前記真空吸引の真空度は250mTorr以下であり、前記前駆体の反応の温度は100℃を超えないことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の製造方法の変性熱可塑性フィルムの製造における使用。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の変性ポリプロピレンフィルムを含む電子製品。
【請求項10】
前記電子製品は、コンデンサであることを特徴とする請求項9に記載の電子製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルム材料の分野に属し、特に耐高温の変性ポリプロピレンフィルム、その製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン(PP)は広く使用されている安価な高分子材料である。水浄化、医療衛生用品、電池セパレータのほか、緻密なPPフィルムは食品工業、包装、高圧絶縁及びエネルギ蓄積コンデンサなどの面で重要な役割を果たしている。現在、PPは近代化の世界の構築に最も重要なポリマーの1つになっている。多くの機能化、複合型PP材料は、物理や化学的に変性された後にエンジニアリングプラスチックとしても工業、商業などでの使用にも役立つ。そのうち、フィルムコンデンサは特にPPフィルムへの依存性が高い。このようなコンデンサは、非常に高いパワー密度、非常に大きい充放電速度、非常に長い耐用年数、自然回復能力と安定性を有するため、新型エネルギー、高速鉄道運送、高圧輸送、電気自動車、石油探査、航空宇宙及び電磁武器などの先端技術分野において極めて重要である。ポリプロピレンフィルムは、2軸延伸した後に2軸延伸ポリプロピレンフィルム(BOPP)となり、BOPPは高い耐電圧性能(破壊強度)と機械的強度を示し、コンデンサ技術には欠かせない優れたフィルム材料である。しかしながら、現在、変性フィルム材料は低い最高動作温度(90~105℃)に制限されており、特に高温側に巨大なサイズ変化と低い耐電圧能力が現れるため、広い高温領域での使用に満足できなく、有機フィルムとコンデンサ工業は更に革新し、有機フィルムの性能を高め、関連する技術的解決策を改善しなければならない。
【0003】
PPは、160~175℃という比較的低い融点を持ち、柔軟で曲げやすい材料である。無機粉材や繊維を充填して製造した複合材料は機械的強度を向上させることができるが、柔軟性や耐電圧の絶縁性能が失われてしまう。このような複合材料はもう超薄型フィルム材料にして高性能コンデンサを製造することができない。ある学者はPPの分子鎖末端の官能基を変更することによって、その誘電率あるいは電気容量を高めようとしたが、誘電損失とフィルム製造のコストとプロセスの難度も同時に大いに増加した。二軸延伸はPPフィルムの結晶性と配向を高めることは従来、公認されている誘電体の耐電圧強度を高める方法であり、もう60~70%に達し、上昇の空間はすでに限られている(非特許文献1)。現在、ヨーロッパと日本のフィルム製造会社はPPの結晶度のさらなる増加と結晶工業制御によってその動作温度を適切に向上させようとしているが、まだ成功しておらず、市場に投入する製品はない。それと同時に、ポリプロピレン原料会社でも添加剤と不純物の低減によってその性能を改善しようとしているが、まだ研究段階にある。
【0004】
また、過去10年間、国際的には、BOPPの製造プロセスが大幅に改善され、フィルムの厚さがさらに低減された(現在は2ミクロンに低減)。このような超薄型BOPPのほうは、表面の粗さと欠陥、及び厚さの不均一性の問題に直面している。要するに、高温でサイズの不安定性、高温では高破壊電圧に耐えられないことがポリプロピレンフィルムの主な欠点である。
【0005】
そのため、高温に耐えられる変性ポリプロピレンフィルム及びその製造方法を提供することが望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】T.C.Chung,Prog.Polym.Sci.2002,27,39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術における技術的問題の少なくとも1つを解決することを目的とする。そのため、本発明は、耐高温(例えば、150℃以上の高温)性能を有し、高温では歪み量が極めて小さく、良好な機械性能を有し、高温では高い破壊電圧に耐えられる耐高温の変性ポリプロピレンフィルム及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明の第1の態様は、耐高温の変性ポリプロピレンフィルムを提供する。
【0009】
具体的には、耐高温の変性ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンフィルム及びポリプロピレンフィルムの表面における酸化物層及び/又は窒化物層を含み、前記酸化物層又は窒化物層の厚さは20~500nmである。
【0010】
好ましくは、前記酸化物層又は窒化物層の厚さは30~300nmであり、更に好ましくは、前記酸化物層又は窒化物層の厚さは40~200nmである。
【0011】
好ましくは、前記酸化物層は、アルミニウムの酸化物、チタンの酸化物、亜鉛の酸化物、ケイ素の酸化物、ジルコニウムの酸化物、タンタラムの酸化物、ニオブの酸化物、マグネシウムの酸化物、カルシウムの酸化物、鉄の酸化物、チタン酸タングステン又はチタン酸バリウムのうちの少なくとも1種からなる。
【0012】
更に好ましくは、前記酸化物層はAl、TiO2-x、TiO、Ti、ZnO、SiO、ZrO、Ta、Nb、MgO、Fe、SrTiO又はBaTiOのうちの少なくとも1種からなり、ここでは、0<x<1である。
【0013】
好ましくは、窒化物層は、アルミニウムの窒化物、チタンの窒化物、ホウ素の窒化物、ケイ素の窒化物又はタンタラムの窒化物の少なくとも1種からなる。
【0014】
更に好ましくは、前記窒化物層は、AlN、TiN、BN、Si、又はTaNのうちの少なくとも1種からなる。
【0015】
好ましくは、前記ポリプロピレンフィルムの厚さは0.5~50μmであり、更に好ましくは、前記ポリプロピレンフィルムの厚さは1~20μmである。
【0016】
好ましくは、前記ポリプロピレンフィルムの片面又は両面に酸化物層及び/又は窒化物層を含有する。
【0017】
本発明の第2の態様は、前記耐高温の変性ポリプロピレンフィルムの製造方法を提供する。
【0018】
具体的には、前記耐高温の変性ポリプロピレンフィルムの製造方法は、ポリプロピレンフィルムの表面に、ALD(原子層堆積)、PVD(物理気相成長)、PECVD(プラズマ化学気相成長)、e-beam(電子ビーム蒸発)技術を用いて酸化物層又は窒化物層を堆積させて、変性ポリプロピレンフィルムを製造するステップを含む。
【0019】
好ましくは、ALD技術を用いてポリプロピレンフィルムの表面に酸化物層又は窒化物層を堆積させて前記変性ポリプロピレンフィルムを製造する。ALD技術で製造した変性ポリプロピレンフィルムの耐高温性能はPVD、PECVD、e-beam技術で製造した変性ポリプロピレンフィルムの耐高温性能より優れている。
【0020】
好ましくは、ALD技術を用いてポリプロピレンフィルムの表面に酸化物層又は窒化物層を堆積させて、前記変性ポリプロピレンフィルムを製造する具体的な過程は、ポリプロピレンフィルムをALDの反応チャンバの中に置いて、真空吸引をしてから昇温し、キャリヤガスを通し、少なくとも2種の前駆体を交互に反応チャンバ内に通して反応させることで前記変性ポリプロピレンフィルムを製造することであり、前記前駆体は、金属元素又はSiを提供する前駆体と、酸素又は窒素元素を提供する前駆体とを含む。
【0021】
好ましくは、前記金属元素は、Al、Ti、Zn、Zr、Ta、Nb、Mg、Fe、Sr又はBaのうちの少なくとも1種から選ばれる。
【0022】
好ましくは、前記真空吸引の真空度は250mTorr以下である。
【0023】
前記昇温された温度は100℃を超えないことが好ましく、前記昇温された温度は60~100℃であることが好ましい(この温度はポリプロピレンフィルムの変形を避けるだけでなく、酸化物層又は窒化物層を生成する反応にも役立つ)。2種の前駆体を通す前に、ALDの反応チャンバは100℃を超えない温度で3~6分間保温する。
【0024】
好ましくは、前記キャリヤガスは不活性ガスであり、更に好ましくは、前記キャリヤガスはアルゴンガスである。
【0025】
好ましくは、前記キャリヤガスは、ALD全過程において流速を一定に保ち、5~15sccmであり、8~10sccmが好ましい。
【0026】
好ましくは、各前駆体毎のパルス化時間は21~200ミリ秒であり、各前駆体のパルス化後の不活性ガスのパージ時間は3~6秒である。
【0027】
好ましくは、ポリプロピレンフィルムが堆積チャンバに入った後も平らな状態を保つためには、酸化物層又は窒化物層を堆積する前にポリプロピレンフィルムの表面をイオンブロワで静電除去処理を行う必要がある。用いられるイオンブロワはブランドTronovoのTR7045型で、室温で200cmのポリプロピレンフィルムごとに3~5秒間吹きつけ、ポリプロピレンフィルムが吹出し口から25~30cm離れている。
【0028】
具体的には、ALD反応チャンバでは、反応開始時に、ガス状態の金属元素やSiを提供する前駆体分子が最初にアルゴンガス流でポリプロピレンフィルムへ持ち込まれ、吸着作用によりポリプロピレンフィルムの表面に滞在し、その後、アルゴンガスにより残りの金属元素やSiを提供する前駆体分子をパージして持ち去り、続いてガス状態の酸素や窒素の元素を提供する前駆体分子はアルゴンガス流によってポリプロピレンフィルムの表面に持ち込まれてそこに滞在していた金属元素やSiを提供する前駆体分子と反応して固体状態の酸化物や窒化物とガス状態の副生成物を生成し、次に、残りの酸素や窒素を提供する前駆体分子とガス状態の副生成物はともにアルゴンガス流でパージして持ち去り、ALDの第1サイクルはこれで終了する。次のALDの第2サイクルでは、金属元素やSiを提供する前駆体分子と酸素や窒素元素を提供する前駆体分子が次々にアルゴンガス流によってポリプロピレンフィルムの表面に交互に持ち込まれ、先ほど反応や付着によってポリプロピレンフィルムの表面に付着していた別の前駆体分子と反応する。ガス状態の副生成物を生成するとともに、金属やSiと酸素や窒素を交互にポリプロピレンフィルムの表面に層ごとに堆積させる。2種の前駆体は交互にALD反応チャンバに通し、即ち各前駆体はパルス化の形で通す。一定時間の2種類の前駆体パルス化の間で、副生成物と残留反応物を持ち去るように、いずれも不活性ガスによるパージを一定時間行う必要がある。堆積した酸化物層あるいは窒化物層の厚さは、全体的にはALDの総サイクル数(総時間長)に比例し、ALDの温度依存反応の動力特性と密接な関係があり、前駆体パルス化と不活性ガスパージの時間とも関係がある。
【0029】
前記ALD技術を用いてポリプロピレンフィルムの表面に酸化物層又は窒化物層を堆積させ、前記変性ポリプロピレンフィルムを製造する方法は変性熱可塑性フィルムの製造にも適する。
【0030】
好ましくは、前記変性熱可塑性フィルムは、変性ポリ塩化ビニルフィルム、変性ポリスチレンフィルム、変性ポリエステルフィルム、変性ポリカーボネートフィルム、変性ポリエチレンナフタレートフィルム又は変性ポリフッ化ビニリデンのうちのいずれか1種を含む。製造された変性熱可塑性フィルムの性能は変性ポリプロピレンフィルムの性能と類似している。
【0031】
本発明の第3の態様は、上記耐高温の変性ポリプロピレンフィルムの使用を提供する。
【0032】
上記の耐高温の変性ポリプロピレンフィルムを含む電子製品。
好ましくは、前記電子製品はコンデンサである。
【0033】
発明者らは、ALD技術を用いてポリプロピレンフィルムの表面に適切な厚さの酸化物層又は窒化物層を堆積させることでポリプロピレンフィルムの熱安定性を著しく向上させることを思いがけず発見し、本発明で製造された変性ポリプロピレンフィルムが良好な高温耐電圧性能を有することをより意外にも見出した。
【発明の効果】
【0034】
従来技術と比較して、本発明の有益な効果は以下の通りである。
(1)本発明に係る変性ポリプロピレンフィルムは、耐高温(例えば、150℃以上の高温)性能を有し、高温では依然として歪み量が極めて小さく、良好な機械的特性を有し、しかも高温では高破壊電圧(例えば、140℃では変性ポリプロピレンフィルムが耐え得る電圧は580kV/mm)に耐え得る。
(2)本発明により製造される変性ポリプロピレンフィルムは、温度に対する要件の高い電子製品分野、例えばコンデンサ分野において広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施例1で製造された変性ポリプロピレンフィルムのサイズが温度によって変化する図である。
図2】実施例1で製造された変性ポリプロピレンフィルムの貯蔵弾性率が温度によって変化する図である。
図3】実施例1で製造された変性ポリプロピレンフィルムのXRDパターンが温度によって変化する図である。
図4】実施例1で製造された変性ポリプロピレンフィルムの直流電圧の破壊強度が温度によって変化する図である。
図5】実施例2で製造された変性ポリプロピレンフィルムの収縮率が温度によって変化する図である。
図6】実施例3で製造された変性ポリプロピレンフィルムのサイズが温度によって変化する図である。
図7】実施例1、実施例3、実施例4及び実施例5における800サイクルのALD堆積により製造された変性ポリプロピレンフィルムの150℃で半時間保温した収縮率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の技術的解決手段を当業者がより明確に理解できるように、以下の実施例を挙げて説明する。なお、以下の実施例は、本発明の特許請求の範囲を制限するものではない。
【0037】
以下の実施例に用いられる原料、試薬又は装置は、特に記載が無い限り、全て、従来の商業的なルートで入手することも、既に知られている方法で入手することもできる。
【実施例
【0038】
以下は型番GEMSTAR TX型のヒートALD設備を用いて変性ポリプロピレンフィルムを製造する。以下の実施例で用いる国産ポリプロピレンフィルムCPPは国内で商業化されたポリプロピレンフィルムであり、輸入ポリプロピレンフィルムHCPPは国外で高結晶度のポリプロピレンフィルムである。
【0039】
実施例1:耐高温の変性ポリプロピレンフィルムの製造
耐高温の変性ポリプロピレンフィルムは、国産ポリプロピレンフィルムCPPと国産ポリプロピレンフィルムCPPの表面におけるAl層を含み、Al層の厚さは20~200nmである。
【0040】
上記耐高温の変性ポリプロピレンフィルムの製造方法は以下のとおりである。
ポリプロピレンフィルムをALDの反応チャンバ内に置き、250mTorrまで真空吸引してから90℃まで昇温し、アルゴンガスを通し、アルゴンガスの流速は10sccmであり、トリメチルアルミニウム(TMA)と水(HO)の前駆体を交互に反応チャンバ内に通して反応を行った。1サイクルごとのALDプロセスは、TMAパルス化、アルゴンガスによるパージ、HOパルス化、アルゴンガスによるパージを含み、時間はそれぞれ21ミリ秒、6秒、21ミリ秒、6秒であり、これによって変性ポリプロピレンフィルムが得られた。
【0041】
本実施例の製造方法により、それぞれ、ALD堆積サイクル数が200(即ち、ALDプロセスは200回のサイクルを有する)、400(即ち、ALDプロセスは400回のサイクルを有する)及び2000(即ち、ALDプロセスは2000回のサイクルを有する)の変性ポリプロピレンフィルムを製造した。堆積サイクル数が大きいほどAl層の厚さは厚い。
【0042】
実施例2:耐高温の変性ポリプロピレンフィルムの製造
実施例2は実施例1に対し、国産ポリプロピレンフィルムCPPを輸入ポリプロピレンフィルムHCPPで代替することで異なり、他の製造方法は実施例1と同じである。
【0043】
本実施例の製造方法により、それぞれ、ALD堆積サイクル数が400、800及び2000の変性ポリプロピレンフィルムを製造した。堆積サイクル数が大きいほどAl層の厚さは厚い。
【0044】
実施例3:耐高温の変性ポリプロピレンフィルムの製造
耐高温の変性ポリプロピレンフィルムは、国産ポリプロピレンフィルムCPPと国産ポリプロピレンフィルムCPPの表面におけるTiO層を含み、TiO層の厚さは20~200nmである。
【0045】
上記耐高温の変性ポリプロピレンフィルムの製造方法は以下のとおりである。
ポリプロピレンフィルムをALDの反応チャンバ内に置き、250mTorrまで真空吸引してから100℃まで昇温し、アルゴンガスを通し、アルゴンガスの流速は10sccmであり、チタンイソプロポキシド(TIP)と水(HO)の前駆体を交互に反応チャンバ内に通して反応を行った。1サイクルごとのALDプロセスは、TIPパルス化、アルゴンガスによるパージ、HOパルス化、アルゴンガスによるパージを含み、時間はそれぞれ200ミリ秒、6秒、200ミリ秒、6秒であり、ALD堆積を800サイクル行って、変性ポリプロピレンフィルムを製造した。
【0046】
実施例4:耐高温の変性ポリプロピレンフィルムの製造
耐高温の変性ポリプロピレンフィルムは、国産ポリプロピレンフィルムCPPと国産ポリプロピレンフィルムCPPの表面におけるZnO層を含み、ZnO層の厚さは20~200nmである。
【0047】
上記耐高温の変性ポリプロピレンフィルムの製造方法は以下のとおりである。
ポリプロピレンフィルムをALDの反応チャンバ内に置き、250mTorrまで真空吸引してから90℃まで昇温し、アルゴンガスを通し、アルゴンガスの流速は10sccmであり、ジエチル亜鉛(DEZ)と水(HO)の前駆体を交互に反応チャンバ内に通して反応を行った。1サイクルごとのALDプロセスは、DEZパルス化、アルゴンガスによるパージ、HOパルス化、アルゴンガスによるパージを含み、時間はそれぞれ200ミリ秒、6秒、200ミリ秒、6秒であり、ALD堆積を800サイクル行って、変性ポリプロピレンフィルムを製造した。
【0048】
実施例5:耐高温の変性ポリプロピレンフィルムの製造
耐高温の変性ポリプロピレンフィルムは、国産ポリプロピレンフィルムCPPと国産ポリプロピレンフィルムCPPの表面におけるAlN層を含み、AlN層の厚さは20~200nmである。
【0049】
上記耐高温の変性ポリプロピレンフィルムの製造方法は以下のとおりである。
ポリプロピレンフィルムをALDの反応チャンバ内に置き、250mTorrまで真空吸引してから100℃まで昇温し、アルゴンガスを通し、アルゴンガスの流速は10sccmであり、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリエチルアミンと水(HO)の前駆体を交互に反応チャンバ内に通して反応を行った。1サイクルごとのALDプロセスは、TMAパルス化、アルゴンガスによるパージ、HOパルス化、アルゴンガスによるパージを含み、時間はそれぞれ200ミリ秒、6秒、200ミリ秒、6秒であり、ALD堆積を800サイクル行って、変性ポリプロピレンフィルムを製造した。
【0050】
製品効果のテスト
1 実施例1で製造された変性ポリプロピレンフィルムの性能テスト
1.1 サイズの温度による変化テスト
実施例1で製造されたALD堆積サイクル数が200、400、2000の変性ポリプロピレンフィルム(初期長さが16mm)と未変性のCPP(初期長さが16mm)を取り、その延伸方向に沿ったサイズの温度による変化を測定した結果を図1に示す。図1は実施例1で製造された変性ポリプロピレンフィルムのサイズが温度によって変化する図であり、図1のa)はテスト過程において、テスト対象のサンプルが125℃で半時間保温することを示し、図1のb)はテスト過程において、テスト対象のサンプルが150℃で半時間保温することを示し、図1中のCPP曲線は未変性のポリプロピレンフィルムのサイズ変化と温度の関係を示し、CPP+ALD堆積200サイクル、CPP+ALD堆積400サイクル、CPP+ALD堆積2000サイクルは実施例1で製造された変性ポリプロピレンフィルムのサイズ変化と温度の関係を示す。CPPで示す曲線から、未変性のCPPは100℃ですでに収縮が発生しており、150℃では収縮率が3%に達していることが分かる。変性ポリプロピレンフィルムは150℃での収縮率が3%よりはるかに小さい。
【0051】
1.2 貯蔵弾性率の温度による変化テスト
実施例1で製造されたALD堆積サイクルが2000の変性ポリプロピレンフィルムと未変性のCPPを取り、その貯蔵弾性率と損失弾性率が温度による変化を測定した結果を図2に示す。図2は実施例1で製造された変性ポリプロピレンフィルムの貯蔵弾性率が温度によって変化する図である。図2のa)は、未変性のCPPの貯蔵弾性率と損失弾性率が温度によって変化する関係を示し、図2のb)は実施例1で製造されたALDが2000サイクルの変性ポリプロピレンフィルムの貯蔵弾性率と損失弾性率が温度によって変化する関係を示す。図2から分かるように、未変性のCPPは温度の上昇に伴い、その貯蔵弾性率は急速に低下し、実施例1で製造されたALD堆積が2000サイクルの変性ポリプロピレンフィルムはその貯蔵弾性率が150℃の高温でも依然として200MPaである。
【0052】
1.3 XRDパターン(X-線回折パターン)の温度による変化テスト
実施例1で製造されたALD堆積が2000サイクルの変性ポリプロピレンフィルムと未変性のCPPを取り、そのXRDパターン(X-線回折パターン)が温度によって変化する様子を測定した結果を図3に示す。図3は実施例1で製造された変性ポリプロピレンフィルムのXRDパターンが温度によって変化する図であり、図3のa)は未変性のCPPのXRDパターンが温度によって変化する図であり、図3のb)は実施例1で製造されたALD堆積が2000サイクルの変性ポリプロピレンフィルムが温度によって変化する図を示す。図3から、未変性のCPPは高温で結晶配向を失っていることが分かる。実施例1で製造されたALD堆積が2000サイクルの変性ポリプロピレンフィルムは高温で結晶配向を実質的に失うことがない。
【0053】
1.4 直流電圧での破壊強度の温度による変化テスト
実施例1で製造されたALD堆積が2000サイクルの変性ポリプロピレンフィルムと未変性のCPPを取り、その直流電圧での破壊強度が温度によって変化する様子を測定した結果を図4に示す。図4において、CPPは未変性CPPの直流電圧(DC)での破壊強度が温度によって変化することを示し、CPP+ALD堆積2000サイクルは実施例1で製造されたALD堆積が2000サイクルの変性ポリプロピレンフィルムの直流電圧(DC)での破壊強度が温度によって変化することを示す。図4から分かるように、未変性のCPPは高温での直流電圧(DC)での破壊強度が明らかに低下し、実施例1で製造されたALD堆積が2000サイクルの変性ポリプロピレンフィルムは高温(140℃)での直流電圧(DC)での破壊強度の低下が明らかではない。
【0054】
2 実施例2で製造された変性ポリプロピレンフィルムの性能テスト
実施例2で製造されたALD堆積が400サイクル、800サイクル、2000サイクルの変性ポリプロピレンフィルムと未変性のHCPP(すなわち、ALD堆積が0サイクル)を取り、その延伸方向の収縮率の温度による変化を測定した結果を図5に示す。図5は実施例2で製造された変性ポリプロピレンフィルムの収縮率が温度によって変化する図である(125℃、半時間とは、テスト対象のサンプルが125℃で半時間保温することを意味し、150℃、半時間とは、テスト対象のサンプルが150℃で半時間保温することを意味する)。図5から分かるように、未変性のHCPPは125℃で収縮率がすでに3%以上に達したが、実施例2で製造された変性ポリプロピレンフィルムは125℃で半時間保温した後に収縮率が3%以下になった。
【0055】
3 実施例3で製造された変性ポリプロピレンフィルムの性能テスト
実施例3で製造されたALD堆積が800サイクルの変性ポリプロピレンフィルム及び未変性のCPPを取り、その延伸方向に沿ったサイズの温度による変化を測定した結果を図6に示す。図6は、実施例3で製造された変性ポリプロピレンフィルムのサイズが温度によって変化する図である。図6におけるCPP 125℃とは、125℃で半時間保温した未変性のCPPの延伸方向に沿ったサイズの温度による変化様子を示し、CPP 150℃とは、150℃で半時間保温した未変性のCPPの延伸方向のサイズの温度による変化を示し、CPP 125℃ ALD堆積800サイクルとは125℃で半時間保温した、実施例3で製造されたALD堆積が800サイクルの変性ポリプロピレンフィルムの延伸方向のサイズの温度による変化を示し、CPP 150℃ ALD堆積800サイクルとは150℃で半時間保温した、実施例3で製造されたALD堆積が800サイクルの変性ポリプロピレンフィルムの延伸方向に沿ったサイズの温度による変化を示す。図6から分かるように、実施例3で製造されたALD堆積が800サイクルの変性ポリプロピレンフィルムのサイズ変化は、未変性のCPPのサイズ変化よりも小さく、実施例3で製造されたALD堆積が800サイクルの変性ポリプロピレンフィルムの収縮率は、2%未満である。
【0056】
4 実施例1、実施例3、実施例4及び実施例5における800サイクルのALD堆積で製造された変性ポリプロピレンフィルムの性能テスト
実施例1、実施例3、実施例4及び実施例5における800サイクルのALD堆積で製造された変性ポリプロピレンフィルムと未変性のCPPを取り、150℃で半時間保温した後に、その延伸方向に沿った収縮率を測定した結果を図7に示す。図7は実施例1、実施例3、実施例4及び実施例5における800サイクルのALD堆積で得られた変性ポリプロピレンフィルムを150℃で半時間保温した後の収縮率を示す図である。図7中のCPPは、未変性のCPPを示し、CPP+TiOは実施例3で製造された変性ポリプロピレンフィルムを示し、CPP+Alは実施例1で製造された変性ポリプロピレンフィルムを示し、CPP+ZnOは実施例4で製造された変性ポリプロピレンフィルムを示し、CPP+AlNは実施例5で製造された変性ポリプロピレンフィルムを示す。図7から分かるように、実施例1、実施例3、実施例4及び実施例5における800サイクルのALD堆積で製造された変性ポリプロピレンフィルムの収縮率は明らかに未変性のCPPの収縮率より低い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7