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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】安全層を伴うバッテリーセル
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/131 20210101AFI20221028BHJP
   H01M 50/109 20210101ALI20221028BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20221028BHJP
   H01M 50/122 20210101ALI20221028BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20221028BHJP
   H01M 50/572 20210101ALI20221028BHJP
【FI】
H01M50/131
H01M50/109
H01M50/119
H01M50/122
H01M50/184 E
H01M50/572
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020508592
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 US2018045441
(87)【国際公開番号】W WO2019036218
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】15/677,921
(32)【優先日】2017-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】315014051
【氏名又は名称】デュラセル、ユーエス、オペレーションズ、インコーポレーテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】503196798
【氏名又は名称】ナショナル テクノロジー アンド エンジニアリング ソリューションズ オブ サンディア, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(72)【発明者】
【氏名】マイケル、ポジン
(72)【発明者】
【氏名】ウォルター、フレッド、パクストン
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-532055(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0093183(KR,A)
【文献】国際公開第2017/119033(WO,A1)
【文献】特開2017-126435(JP,A)
【文献】特開2017-126405(JP,A)
【文献】特開2012-153967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10
H01M 50/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングであって、第1及び第2の極を備えるハウジングと、
ポリマー材料を備えるとともに、前記第1及び第2の極のうちの少なくとも一方に隣接して位置される複合水応答性安全層であって、前記複合水応答性安全層が水溶液との接触時に電子非伝導状態から電子伝導状態へと変化するようになっており、前記複合水応答性安全層が少なくとも1つの金属塩を更に含む、複合水応答性安全層と、
を備えるバッテリー。
【請求項2】
前記ポリマー材料は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール及び改質ポリビニルアルコール、水溶性アクリレートコポリマー、ポリビニルエステル、ポリビニルピロリドン、プルラン、ゼラチン、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース(HPMC)、低粘度グレードのヒドロキシプロピルセルロース、多糖類、水溶性天然ポリマー、改質デンプン、前述のコポリマー、及び、前述のいずれかの組み合わせを含む、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項3】
前記ポリマー材料が生物学的に不活性である、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項4】
前記複合水応答性安全層が金属粉末を更に含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項5】
前記金属粉末は、ビスマス(0)(Bi)、銅(0)(Cu)、鉄(0)(Fe)、インジウム(0)(In)、鉛(0)(Pb)、ニッケル(0)(Ni)、マグネシウム(0)(Mg)、水銀(0)(Hg)、銀(0)(Ag)、スズ(0)(Sn)、亜鉛(0)(Zn)、これらの合金、及び、これらの任意の組み合わせから成るグループから選択される、請求項4に記載のバッテリー。
【請求項6】
前記少なくとも1つの極の外面と接触する金属層を更に備える、請求項1から5のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項7】
前記金属層は、負極(前記バッテリーのアノードに対応する)と接触しており、ビスマス(0)(Bi)、インジウム(0)(In)、鉛(0)(Pb)、水銀(0)(Hg)、スズ(0)(Sn)、亜鉛(0)(Zn)、これらの合金、及び、これらの任意の組み合わせから成るグループから選択される金属を含む、請求項6に記載のバッテリー。
【請求項8】
前記複合水応答性安全層は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、及び、これらの組み合わせから選択されるポリマーを含み、前記金属塩が硫酸銅(CuSO)を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項9】
前記複合水応答性安全層は、前記複合水応答性安全層の総重量に基づいて、好ましくは少なくとも5重量%の量の亜鉛(Zn)粒子を含む、請求項8に記載のバッテリー。
【請求項10】
前記硫酸銅は、前記複合水応答性安全層の総重量に基づいて、少なくとも5重量%の量で存在する、請求項8に記載のバッテリー。
【請求項11】
前記複合水応答性安全層は、安定剤、ポロゲン、及び、これらの組み合わせから選択される添加剤を更に含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項12】
正極が絶縁ガスケットによって前記負極から電子的に分離され、前記複合水応答性安全層が前記絶縁ガスケットに隣接して位置され、前記複合水応答性安全層が前記正極(バッテリーのカソードに対応する)と前記負極(バッテリーのアノードに対応する)との間で延びて前記正極及び前記負極の両方と接触する、請求項1から11のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項13】
前記複合水応答性安全層は、前記正極と前記負極との間で、前記正極及び前記負極の少なくとも一方の外周にわたって連続的に延在する、請求項12に記載のバッテリー。
【請求項14】
前記複合水応答性安全層は、前記正極と前記負極との間で、前記正極及び前記負極の少なくとも一方の外周の一部にわたって延在する、請求項12に記載のバッテリー。
【請求項15】
前記バッテリーは、AAAA、AAAバッテリー、AAバッテリー、Bバッテリー、Cバッテリー、Dバッテリー、9Vバッテリー、CR2バッテリー、CR123Aバッテリー、1/3Nバッテリー、ボタンセル、及び、コインセルから選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項16】
前記複合水応答性安全層が、ポリ酢酸ビニル、硫酸銅、及び、炭酸銅を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項17】
前記複合水応答性安全層がポリエチレンオキシドを更に含む、請求項16に記載のバッテリー。
【請求項18】
第1及び第2の極を備えるバッテリーハウジングを用意するステップと、
組成物が前記第1及び第2の極のうちの少なくとも一方に隣接するように前記極間に組成物を堆積させることによって前記バッテリーハウジングの前記第1及び第2の極間に複合水応答性安全層を形成するステップであって、前記組成物がポリマー材料及び少なくとも1つの金属塩を含み、前記複合水応答性安全層が水溶液との接触時に電子非伝導状態から電子伝導状態へと変化するようになっている、ステップと、
を含む方法。
【請求項19】
前記ポリマー材料は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール及び改質ポリビニルアルコール、水溶性アクリレートコポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエステル、プルラン、ゼラチン、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース(HPMC)、低粘度グレードのヒドロキシプロピルセルロース、多糖類、水溶性天然ポリマー、改質デンプン、前述のコポリマー、及び、前述のいずれかの組み合わせを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記複合水応答性安全層は、ポリエチレングリコール、硫酸銅粉末、及び、亜鉛粒子の混合物を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記複合水応答性安全層は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンオキシド、及び、これらの組み合わせから選択されるポリマーを含み、前記金属塩が硫酸銅(CuSO)を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
組成物を堆積させる前に、前記負極上に亜鉛金属の少なくとも1つのドットを堆積させるステップを更に含む、請求項18から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記複合水応答性安全層が、ポリ酢酸ビニル、硫酸銅、及び、炭酸銅を含む、請求項18から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記複合水応答性安全層がポリエチレンオキシドを更に含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記複合水応答性安全層が前記バッテリーの外面に配置される、請求項1に記載のバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
優先権は、その全体の内容が参照により本願に組み入れられる2017年8月15日に出願された米国非仮出願第15/677,921号に対して主張される。
【0002】
連邦政府出資の研究又は開発に関する声明
この発明は、Procter&Gamble CompanyとSandia National Laboratoriesとの間のCRADA(SC03/1672)の下で行われ、米国エネルギー省のために運営された。Duracell Company及びその子会社Duracell U.S.Operations、Inc.は、CRADA(SC03/1672)に基づくProcter&Gamble Companyの利益承継者である。政府は、この発明において特定の権利を有する。
【0003】
本開示は、バッテリーセルに関し、より詳細には、バッテリーセルが水溶液又は湿潤組織に晒されるときに、組織の損傷及び/又は電気分解から保護できる水応答性安全層を伴うバッテリーセルに関する。
【背景技術】
【0004】
本明細書中で与えられる背景の説明は、一般に、本開示の前後関係を提示することを目的としている。
【0005】
電気化学セル又はバッテリーは、一般に、電気エネルギー源として使用される。小型バッテリーは、消費者製品の給電において特に役立つ。小型バッテリーには様々なセルタイプがある。一般的な小型バッテリーセルタイプは、AAA、AA、B、C、D、9V、CR2、及び、CR123Aである。ボタンセル(コインセルと呼ばれることもある幅の広いセルも含む)として知られる他のタイプの小型バッテリーは、腕時計、カメラ、電卓、車両等のためのキーレスエントリーシステム、レーザーポインタ、グルコメーターなどを含むがこれらの限定されない様々な製品に給電するために頻繁に使用される。図1は、カソード缶14内に配置されるカソード12と、アノードカップ18内に配置されるアノード16とを備える代表的なボタンセル10の構造を示す。セパレータ20がアノード16をカソード12から物理的に分離して電子的に絶縁する。絶縁ガスケット22が、電解質損失を防止するとともにセル内への周囲の大気成分の侵入を防いでカソード缶14をアノードカップ18から絶縁するべくセルを密閉するのに役立つ。ボタンセルは、通常は長い耐用年数、例えば、一般に腕時計の連続使用においては1年をはるかに超える耐用年数を有する。更に、殆どのボタンセルは、自己放電が少なく、そのため、負荷がかかっていないときに比較的長時間にわたってそれらの電荷を保持する。
【0006】
ボタンセルバッテリーは、多くの携帯できる消費者電子機器において一般的であるが、これらのバッテリー、特に2016リチウムセル及び2032リチウムセルなどの直径が20mmのコインセルのサイズ、形状、及び、外観は、乳児、幼児、及び、ペットに嚥下の危険をもたらす可能性がある。これらの危険は、特に周りの他人が知らないうちにセルが飲み込まれる場合に、身体的危害をもたらす可能性がある。また、これらのボタンセルバッテリーの一部は、他のセルよりも比較的大きな危険をもたらす可能性があり、この危険を消費者が十分に理解していない場合がある。例えば、リチウムと二酸化マンガンとの化学反応に基づく2016 3Vリチウムセル及び2032 3Vリチウムセルなどのコインセルバッテリーは、それらが人の喉に容易に詰まり得るようなサイズであり、したがって、体液の電気分解、或いは、例えば飲み込んだ場合の食道/臓器組織の燃焼を引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
1つの態様において、本開示は、ハウジングであって、第1及び第2の極を備えるハウジングと、ポリマー材料を備えるとともに、第1及び第2の極のうちの少なくとも一方に隣接して位置される複合水応答性安全層であって、該複合水応答性安全層が水溶液との接触時に電子非伝導状態から電子伝導状態へと変化するようになっており、複合水応答性安全層が少なくとも1つの金属塩を更に含む、複合水応答性安全層とを備えるバッテリーを提供する。
【0008】
他の態様において、本開示は、第1及び第2の極を備えるバッテリーハウジングを用意するステップと、組成物が第1及び第2の極のうちの少なくとも一方に隣接するように極間に組成物を堆積させることによってバッテリーハウジングの第1及び第2の極間に複合水応答性安全層を形成するステップであって、組成物がポリマー材料及び少なくとも1つの金属塩を含み、複合水応答性安全層が水溶液との接触時に電子非伝導状態から電子伝導状態へと変化するようになっている、ステップとを含む方法を提供する。
【0009】
本明細書は、本発明を形成すると見なされる主題を特に指摘して明確に請求する特許請求の範囲で締めくくられるが、本発明は、添付図面と併せて解釈される以下の説明からより良く理解される。以下で説明される図は、本明細書中に開示されるバッテリーセルの様々な態様を描く。各図が本明細書中に開示されるバッテリーセルの典型的な態様を描くことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】従来のボタンセルを示す。
図2A】水溶液と接触したときに電子非伝導状態から電子伝導状態に変化するようになっている複合水応答性安全層を有するコインセルの形態を成すバッテリーの一例を示す。
図2B】水溶液と接触したときに電子非伝導状態から電子伝導状態に変化するようになっている複合水応答性安全層を有するコインセルの形態を成すバッテリーの一例を示す。
図3】一例に係るプロトタイプバッテリー形態の概略図であり、複合水応答性安全層がポリエチレングリコール(PEG)、金属塩、及び、金属粉末を備えるポリマーマトリクスを備える。
図4】複合水応答性安全層が水溶液に晒された状態の一例に係る図3のプロトタイプバッテリー形態を使用する異なる試験における経時的な電圧変化のプロットである。
図5】バッテリーの負極と正極との間の特定の位置に堆積された複合水応答性安全層を有する一例に係るボタンセルの形態を成すバッテリーの一例を示す。
図6】複合水応答性安全層が水溶液に晒された状態の一例に係る図5のバッテリー形態に関する異なる試験における経時的な電圧変化のプロットである。
図7】水溶液に晒されたときに複合水応答性安全層を伴う一例のバッテリーセルが短絡するのに要する時間を例示するグラフを示す。
図8】水溶液に晒されたときに複合水応答性安全層を伴う他の例のバッテリーセルが短絡するのに要する時間を例示するグラフを示す。
図9】水溶液に晒されたときに複合水応答性安全層を伴う更なる他の典型的なバッテリーセルが短絡するのに要する時間を例示するグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
電気化学セル又はバッテリーは一次バッテリー又は二次バッテリーであってもよい。一次バッテリーは、例えば消耗するまで一回だけ放電されてその後に廃棄されるようになっている。一次バッテリーは、例えば、David LindenのHandbook of Batteries(McGraw-Hill、第4版、2011年)に記載される。二次バッテリーは充電されるようになっている。二次バッテリーは放電され、その後、何度も、例えば50回を超えて、100回を超えて、又は、1000回を超えて再充電されてもよい。二次バッテリーは、例えば、David LindenのHandbook of Batteries(McGraw-Hill、第4版、2011年)に記載される。バッテリーは、水溶性又は非水溶性電解質を含んでもよい。したがって、バッテリーは、様々な電気化学的結合及び電解質の組み合わせを含んでもよい。消費者バッテリーは、一次バッテリー又は二次バッテリーのいずれかであってもよい。しかしながら、バッテリーに蓄えられる電荷に起因して及び露出した極に起因して、消費者バッテリー、特に小型バッテリーを湿潤組織に晒されたときに消費者が傷付かないように保護することが有益である。特に、消費者を電気分解又は火傷に晒さないようにバッテリーを保護することが有益であり、電気分解又は火傷はいずれも例えばバッテリーが飲み込まれる場合に起こり得る。バッテリーの正極及び負極が湿った体液に晒される場合には、水の電気分解が生じて水酸化物イオンが発生をもたらし、それにより、組織、特に負極に隣接する組織の燃焼が起こり得る。本出願は、そのような状況でバッテリーを短絡させ、それにより、セル電圧を下げて、組織損傷を効果的に防止するための技術について記載する。
【0012】
本開示は、複合水応答性安全層が唾液、胃液、又は、他の流体の形態を成す水溶液に晒されるときなど、湿らされるときに電気化学的に生成される短絡をもたらすことができる安全なレベルの良性材料を内部に組み込むポリマーを含む複合水応答性安全層及び/又はポリマーを含む複合水応答性及びpH応答性安全層を伴うバッテリーセルを提供する。結果として生じる短絡は、バッテリーセルの電圧を所望の閾値レベル未満に低下させ、それにより、水の電気分解及びそれに伴う有害な電気化学的に生成されるイオン(例えば、水酸化物イオン)の形成を低減及び/又は効果的に防止することができる。望ましい閾値レベルは様々となり得るが、本明細書中で詳述される幾つかの例において、セルは、好適には、1.4V未満、1.3V未満、1.2V未満、1.1V未満、1.0V未満、0.9V未満、0.8V未満、0.7V未満、0.6V未満、0.5V未満、0.4V未満、0.3V未満、0.2V未満、0.1V未満を含む1.5V未満まで、更には約0Vまで短絡され得る。好適には、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の単なる適用は、通常の使用状態下でバッテリーセル性能に影響を及ぼさず、したがって、例えば、バッテリーは、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層がバッテリーに設けられる前後で実質的に同じ電圧及び容量を有する。複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層を組み込むバッテリーが、ボタンセル、より詳細にはコインセルを使用して本明細書で例示及び説明されるが、一般的には、AAAA、AAA、AA、B、C、D、9V、CR2、CR123A、1/3N、ボタンセル、及び、コインセルなどの一般的な消費者バッテリーを含むがこれらに限定されない任意のバッテリータイプが、本開示に係る複合水応答性安全性及び/又は複合水及びpH応答性安全層を含むように改変されてもよい。一般に、バッテリーセルの電圧を約1.2V未満に短絡すると、水の電気分解が完全に防止されるが、1.5V未満に電圧を下げると、さもなければ起こるであろう電気分解の量を減らすのに役立つ。したがって、好ましい実施形態では、食道組織の著しい燃焼が生じることが2時間後まで分からないため、セルの電圧が2時間(又は7200秒)以内に1.5V未満、より好ましくは1.2V未満に低下される。
【0013】
本明細書中で使用される「水応答性」という用語は、空気に晒されたときに電子非伝導状態から電子伝導状態へと移行しない複合安全層を指す。代わりに、複合安全層が電子非伝導状態から電子伝導状態へと移行する前に特定量の水分を吸収することが必要である。したがって、複合水応答性安全層自体は吸湿性である。特に、複合水応答性安全層に含まれる各構成要素は一般に吸湿性ではなく、別の言い方をすれば、複合水応答性安全層は、一般に、吸湿性の構成要素と非吸湿性の構成要素とを含む。結果として、大気は、複合水応答性安全層を電子非伝導状態から電子伝導状態へと移行させない、したがって短絡させないはずである。しかしながら、複合水応答性安全層は、高湿度環境に長時間にわたって晒された場合に短絡する可能性がある。例えば、本明細書中に記載される複合水応答性安全層を有するセルは、好ましくは、最大90%の相対湿度値を有する環境下で少なくとも2時間、少なくとも12時間、少なくとも10日間、少なくとも30日間、及び/又は、少なくとも60日間にわたって保存され得る。加えて、本明細書中に記載される複合水応答性安全層を有するセルは、好ましくは、最大65%の相対湿度値を有する環境下で少なくとも2日間、少なくとも10日間、少なくとも60日間、及び/又は、少なくとも90日間にわたって保存され得る。
【0014】
本明細書中で使用される「水応答性及びpH応答性」という用語は、水のみに晒されたときに電子非伝導状態から電子伝導状態へと必ずしも移行しない複合安全層を指す。具体的には、水応答性及びpH応答性複合安全層は、第1の所定のpH範囲を有する水溶液と接触するときに非伝導状態のままであり、第2の異なる所定のpH範囲を有する水溶性流体との接触に応じて非伝導状態から伝導状態へと移行する。
【0015】
1つの実施形態では、酸性又は中性に近いpH値を有する水溶液中で非伝導状態のままであって、複合水応答性及びpH応答性安全層を5.0を超える、例えば約5.0~約12.0、約5.5~約8.0、約6.0~約7.8、約6.2~約7.6、約8.0~約10.0、約10.0~約12.0、又は、12.0を超えるpHを有する水溶性流体と接触させることに応じて非伝導状態から伝導状態に変化する、複合水応答性及びpH応答正複合安全層が提供される。したがって、水の電気分解の結果として変えられる唾液のpH又は体液のpHは、デンドライト成長とそれに伴うセルの短絡とを促進させ得る。一例として、複合水応答性及びpH応答性安全層は、ポリマー、例えば、ポリ酢酸ビニル、炭酸アンモニウムなどの塩、及び、金属粉、例えば、銅粉末又は亜鉛粉末を備えてもよい。複合水応答性及びpH応答性安全層を唾液などのアルカリ性媒体と接触させると、炭酸アンモニウムがアンモニアと炭酸陰イオンとを形成し、また、金属粉末が酸化してバッテリーの負極で還元され得る金属陽イオンを形成する可能性があり、それにより、デンドライト金属構造が、複合水応答性安全層内で成長して、安全な状態下で、例えば人や幼児がバッテリーセルを飲み込むときに、負極を正極に電子的に接続し得る。
【0016】
他の実施形態では、中性又は酸性のpH、例えば7.0未満のpHを有する水溶液中で非伝導状態のままであって、複合水応答性層を7.0を超える、例えば約8.0~約12.0のアルカリ性pHを有する水溶性流体と接触させることに応じて非伝導状態から伝導状態へと変化する、複合水応答性及びpH応答性安全層が提供される。一例として、複合水応答性及びpH応答性安全層は、ポリマー、例えば、ポリ酢酸ビニル、塩化アンモニウムなどの水溶性塩、及び、炭酸銅などの水不溶性銅金属塩を備えてもよい。複合水応答性及びpH応答性安全層と唾液などのアルカリ性媒体とを接触させると、塩化アンモニウム(NHCl)が安全層の近傍及び安全層内で溶解し得る。水の電気分解に起因して負電極で生成された水酸化物イオンは、アンモニウムイオンを脱プロトン化してアンモニア水(NH)を形成する。水溶性/可溶性アンモニアは、実質的に不溶性の金属塩炭酸銅と反応して、バッテリーの負極で還元され得る可溶性の複合イオンCu(NH 2+を形成することができ、それにより、デンドライト金属構造が、複合水応答性安全層内で成長して、安全な状態下で、例えば人や幼児がバッテリーセルを飲み込むときに、負極を正極に電子的に接続し得る。
【0017】
複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、ポリマー材料を備える。任意の数のポリマーを単独で又は組み合わせて使用して、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層を形成してもよい。好ましい実施形態では、複合水応答性安全層中及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層中のポリマーのうちの少なくとも1つが吸湿性ポリマーであるが、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、そこに含まれる金属塩によって吸湿性にされる場合もある。ポリエチレングリコール(PEG)に加えて、他のポリマー又はその組み合わせを使用して層マトリクスを形成することができる。非限定的な例は、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリメチルメタクリル酸を含むがこれに限定されないポリアクリル酸(PAA)、ポリアミド(PA)、ポリメチルメタクリレートなどのポリメタクリレートを含むがこれに限定されないポリアクリレート、ポリビニルアルコール及び改質ポリビニルアルコール、アクリレートコポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリ(ビニルブチレート)、ポリ(ビニルプロピオネート)、及び、ポリ(ビニルホルメート)を含むがこれらに限定されないポリビニルエステル、ポリビニルピロリドン、プルラン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、低粘度グレードのヒドロキシプロピルセルロース、多糖類、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、及び、デンプンを含むがこれらに限定されない水溶性天然ポリマー、エトキシル化デンプン及びヒドロキシプロピル化デンプンを含むがこれらに限定されない改質デンプン、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)などのポリビニルエステル共重合体を含むがこれに限定されない前述したものの共重合体、及び、前述したもののいずれかの共重合体を含むが、これらに限定されない。ポリマーは、毒性がない又は毒性が殆どない生物学的に不活性な材料であることが好ましい。ポリマーの分子量は、限定されないが、一般に少なくとも1kD、例えば1kD~1000kD、5kD~750kD、50kD~750kD、例えば約500kDである。
【0018】
実施形態において、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は金属塩を備える。金属塩がバッテリーの負極で還元可能な犠牲物質をもたらすため、デンドライト金属構造が、複合水応答性膜内で成長して、安全な状態下で、例えば人や幼児がバッテリーセルを飲み込むときに、負極を正極に電子的に接続することができ、それにより、バッテリーセルが唾液、胃液、又は、他の流体の形態を成す水溶液に晒され、その結果、水の著しい電気分解並びにそれに伴う水酸化物イオンの生成及び組織の燃焼を伴うことなくセルが戦略的に短絡する。ビスマス(III)(Bi+3)、銅(II)(Cu+2)、鉄(II)(Fe+2)、インジウム(III)(In+3)、鉛(II)(Pb+2)、水銀(II)(Hg+2)、ニッケル(II)(Ni+2)、銀(I)(Ag)、スズ(II)(Sn+2)、亜鉛(II)(Zn+2)、並びに、これらの組み合わせを含むがこれらに限定されない陽イオンを備える適切な金属塩が使用されてもよい。特定の金属塩としては、炭酸ビスマス、塩化ビスマス、硫酸ビスマス、硝酸ビスマス、サブサリチル酸ビスマス、酸化ビスマス、炭酸銅、塩化銅、硫酸銅、シュウ酸銅、水酸化銅、炭酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄、炭酸インジウム、塩化インジウム、硫酸インジウム、炭酸鉛、塩化鉛、硫酸鉛、炭酸水銀、塩化水銀、硫酸水銀、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸銀、塩化銀、硫酸銀、炭酸スズ、スズ塩化物、硫酸スズ、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、及び、これらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。また、炭酸アンモニウム((NHCO)や塩化アンモニウム(NHCl)などの非金属塩が金属塩と組み合わせて使用されてもよい。更に、バッテリーの負極で還元可能な犠牲物質をもたらさないが例えば保湿剤としての機能を果たすことによって及び/又は複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の伝導性を高めることによって電子非伝導状態から電子伝導状態への移行をサポートできる塩化ナトリウム(NaCl)などの他の金属塩が含まれてもよい。
【0019】
1つの実施形態において、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、ポリマーを備えるが、(添加)金属塩が実質的にない。これに関して、負極の金属材料は、酸化され、それにより、デンドライト成長のための犠牲物質として役立つことができるイオン源をもたらし得る。したがって、他の実施形態において、本開示は、ハウジングを備えるバッテリーを提供し、ハウジングは第1及び第2の極を備え、複合水応答性安全層は、ポリマー材料を備えるとともに、第1及び第2の極の少なくとも一方に隣接して位置され、複合水応答性安全層は、水溶液と接触されるときに電子非伝導状態から電子伝導状態へと変化するようになっている。
【0020】
実施形態において、複合水応答性及びpH応答性安全層は非金属塩を備える。特定の非金属塩は、炭酸アンモニウム((NHCO)及び塩化アンモニウム(NHCl)を含むがこれらに限定されない。
【0021】
複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、随意的には、還元剤を更に備えてもよい。本明細書中で使用される「還元剤」という用語は、一般に、有機還元剤、無機還元剤、又は、その完全に還元された状態の金属元素又は金属合金の粒子を指す。還元剤は、負電極から遠く離れた場所であってもセル電位の印加を伴うことなく可溶性金属イオンを導電性元素金属に還元することができる(つまり、金属の無電解析出が起こる)。金属の無電解析出は、架橋デンドライト部分をそれらが複合水応答性安全膜中で成長する際にもたらして、バッテリー極間に電子接続を確立し、それにより、セルの短絡を促進させるのに役立ち得る。したがって、1つの実施形態において、複合水応答性安全層は、ポリマー材料と、亜鉛粉末などの金属粉末と、それに含まれる硫酸銅などの粉末金属塩とを含んでもよい。乾燥状態では、亜鉛と硫酸銅との間の反応が防止され、安全層が非導電性である。偶然の摂取の場合のように水溶性環境に晒されると、銅が溶解して銅イオンを生成することができ、銅イオンは、亜鉛金属によって還元されて銅デンドライトをもたらし、銅デンドライトは、成長して隣接するデンドライトに接続し、それにより、アノードとカソードとの間の隙間にまたがる導電経路がもたらされ、その結果、セルが短絡する。アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩、トコフェロール、水素化ホウ素ナトリウム、アルミニウム(0)(Al)、カルシウム(0)(Ca)、鉄(0)(Fe)、マグネシウム(0)(Mg)、ニッケル(0)(Ni)、スズ(0)(Sn)、チタン(0)(Ti)、亜鉛(0)(Zn)、並びに、それらの合金及び組み合わせを含むがこれらに限定されない還元剤が使用されてもよい。
【0022】
複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、随意的に、金属粉末を更に備えてもよい。本明細書中で使用される「金属粉末」という用語は、一般に、その完全に還元された状態の金属元素又は金属合金の粒子を指す。金属粉末は、水応答性安全層中及び/又は水応答性及びpH応答性安全層中において還元された形態のままとなることができ、その中でそれらが成長する際に架橋デンドライト部分を助け、それにより、バッテリー極間で電子的接続を確立し、その結果、セルの短絡を促進させる。ビスマス(0)(Bi)、銅(0)(Cu)、鉄(0)(Fe)、インジウム(0)(In)、鉛(0)(Pb)、マグネシウム(0)(Mg)、水銀(0)(Hg)、ニッケル(0)(Ni)、銀(0)(Ag)、スズ(0)(Sn)、亜鉛(0)(Zn)、並びに、それらの合金及び組み合わせを含むがこれらに限定されない元素金属が使用されてもよい。更に、金属粉末は、正極によって酸化可能であり、それにより、デンドライト成長の犠牲物質としての機能を果たすことができるイオン源をもたらす。また、金属粉末は、同時にデンドライト成長のためのブリッジ及び犠牲物質としての機能を果たすこともできる。したがって、更なる他の実施形態において、複合水応答性安全層は、その中に金属塩を実質的に含むことなく、前述したようなポリマー材料と金属粉末とを含んでもよい。
【0023】
複合水応答性安全層は、1つ以上のポリマー、1つ以上の金属塩、及び、随意的に1つ以上の金属粉末を含んでもよい。複合水応答性安全膜をもたらすために、金属塩と金属粉末との任意の組み合わせが1つ以上のポリマーと組み合わせて含まれてもよい。金属塩、ポリマー、及び、随意的な金属粉末のいずれかは、粒径を小さくするためにボールミリングを含むがこれに限定されない様々な方法によって処理されてもよい。金属塩、ポリマー、及び、随意的な金属粉末の組み合わせは、金属塩、ポリマー、及び、随意的な金属粉末を備える安全ポリマー層をもたらすために堆積されてもよい。
【0024】
一般に、ポリマー、1つ以上の金属塩、及び、随意的な金属粉末の組み合わせは、処理を促進するための溶媒を含んでもよい。一般に、溶媒は限定される必要がない。適切な溶媒としては、脂肪族溶媒、芳香族溶媒、及び、イソパラフィン溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。具体例としては、アセトン、酢酸エチル、トルエン、キシレン、テルピネオール、n-メチル-2-ピロリドン、ヘキサン、ペンタン、及び、ジグリムが挙げられるが、これらに限定されない。溶媒を利用することにより、スピンキャスティングなどの溶媒キャスト法を使用して、複合水応答性安全層をもたらすことができる。加えて、溶媒を利用することにより、インクジェット印刷堆積及び様々な既知の噴射方法を使用して、複合水応答性安全層を堆積させることができる。直接インク書き込み(本明細書中で説明するように組成物がノズルから押し出されてバッテリーに直接に塗布される)、及び、フレキソ印刷及びグラビア印刷などの接触印刷技術を含むがこれらに限定されない他の堆積方法が使用されてもよい。同じ溶媒と方法とを使用して、複合水応答性及びpH応答性安全層をもたらすことができる。
【0025】
複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、安定剤及びポロゲンなどの添加剤を更に備えてもよい。安定剤を使用して、組成物のレオロジーを維持して、組成物が急速に沈降しないようにしてもよい。典型的な安定剤としては、それぞれEfka(登録商標)PU及びEfka(登録商標)PAの商標名(BASF Corporation)で入手可能なポリウレタン系及びポリアクリル系分散剤などの分散剤、Aerosil(登録商標)の商標名(Evonik)で入手可能なものを含むがこれらに限定されないヒュームドシリカレオロジー添加剤、及び、エチレンジアミン四酢酸ナトリウムなどのキレート剤が挙げられる。ポロゲンは、湿潤を促進して接着を促すために使用されてもよい。典型的なポロゲンとしては、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、クエン酸、水溶性糖類(例えば、グルコース、スクロース、フルクトースなど)、ポリエチレングリコール、塩化ナトリウム、及び、酢酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
ポリマー材料は、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の重量に基づいて、5重量%~90重量%、例えば10重量%~85重量%の量で存在してもよい。金属塩は、複合水応答性安全層の重量に基づいて、5重量%~95重量%、例えば10重量%~90重量%の量で存在してもよい。同様に、非金属塩は、複合水応答性及びpH応答性安全層の重量に基づいて、5重量%~95重量%、例えば10重量%~90重量%の量で存在してもよい。金属粉末は、存在する場合、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の重量に基づいて、5重量%~95重量%、例えば10重量%~90重量%の量で存在してもよい。
【0027】
複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、正極と負極との間の隙間上に配置され、一般に、30μm~1000μm、例えば30μm~100μm、50μm~200μm、100μm~300μm、50μm~500μm、及び/又は、100μm~1000μmの厚さを有する。一般に、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、アノードカップとカソード缶との間に画定される外周の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は、ほぼ100%を覆う。一般に、複合水応答性層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、アノードカップの一部及びカソード缶の一部の両方と接触するが、以下で更に詳しく説明するように、一般に、バッテリー極のうちの1つだけとの接触で十分である。実施形態において、複合水応答性層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、200μm~2000μmの幅を有する(コインセルにおける正極と負極との間の隙間に対応する)。
【0028】
図2A及び図2Bは、任意のタイプの一次又は二次バッテリーであってもよく且つ図示の例ではボタンセルタイプのバッテリーであるバッテリー50を示す。バッテリー50は、バッテリーを取り囲むバッテリーハウジングを含み、ハウジングはカソード缶54及びアノードカップ58を含み、カソード缶54はハウジング内にカソード52を収容し、アノードカップ58はハウジング内にアノード56を収容し、カソード52及びアノード56はセル50内のセパレータ60によって電子的に分離される。カソード缶54及びアノードカップ58のそれぞれは、バッテリー50の異なる極を形成する。
【0029】
カソード缶54及びアノードカップ58は、カソード52の横方向の範囲にわたって、例えば実質的にバッテリー50の直径にわたって延びるセパレータ60によって離間される。缶54とカップ58とを電子的に分離して、絶縁ガスケット62がカソード缶54内へと延び、それにより、電解質損失を防ぐべくセルも密閉するアノードカップ58を取り囲む絶縁バッファがもたらされる。
【0030】
図示のように、バッテリー50は、絶縁ガスケット62の少なくとも一部を取り囲む複合水応答性安全層64を更に含み、複合水応答性安全層64は、アノードカップ58の一部及びカソード缶54の一部の両方と接触する。複合水応答性安全層64は、バッテリーセル10の通常の動作状態に対応する電子非伝導状態から、セルを安全状態に、一般的には唾液、胃液、又は、他の水溶性流体に晒すことによって引き起こされる電子伝導状態へと変化する電子短絡層である。例えば、安全な状態は、人又は幼児がバッテリーセル50を飲み込むとき、バッテリーセル50を唾液、胃液、又は、他の水溶性流体の形態の水溶液に晒すことであり得る。本明細書中で更に説明するように、複合水応答性安全層64は、水溶液と接触すると、例えば唾液又は胃液、水、又は、他の水溶性流体などの水溶液との接触に応じて、電子非伝導状態から電子伝導状態へと変わる。
【0031】
代表的な例において、複合水応答性安全層64は、ポリエチレングリコール(PEG)、約10重量%の亜鉛(Zn)粒子(約20メッシュサイズ)、及び、約10重量%の硫酸銅(CuSO)粒子を約50℃に保持された攪拌プレート上のガラスバイアル内で混ぜ合わせた後に絶縁ガスケット62の少なくとも一部上又はその周囲に組成物を堆積させることによって形成される。絶縁ガスケット62の少なくとも一部を酸化金属成分を含む組成物で覆うことにより、例えば人又は幼児がバッテリーセル50を飲み込むときに、安全状態下でデンドライト金属構造が成長してアノードをカソードに電気的に接続できるように還元可能な犠牲物質が負極で有利にもたらされ、それにより、バッテリーセル50が唾液、胃液、又は、他の流体の形態を成す水溶液に晒され、その結果、戦略的に、水の著しい電気分解とそれに伴う水酸化物イオンの生成及び組織の燃焼とを伴うことなくボタンセルが短絡する。複合水応答性層は、アノードカップ58の一部及びカソード缶54の一部の両方と接触するように示されるが、例えば、装置が複合水応答性層のデンドライトと他のバッテリー極との間で電子的接触を確立するのに役立つ接触パッドを備えることができるため、一般にバッテリー極の一方のみとの接触で十分である。
【0032】
本開示に係る複合水応答性安全層で用いるためのポリマーマトリクスを評価するために、図3に示されるように、2リード線試験が行われた。サンプル材料組成物の50μLのサンプルが2本の亜鉛配線間に(約200μm離れて)堆積された。組成物は、試験されるべき材料に応じて異なる。図示の例において、組成物は、ポリエチレングリコール(PEG)、10重量%の亜鉛粒子(Zn粉末)、及び、10重量%の硫酸銅、CuSO粒子を含むポリマーマトリクスを備えた。定格3.0ボルトのCR2032ボタンセルリチウムバッテリーをシミュレートするために、2本の亜鉛配線への電圧源が3Vに設定され、また、電流コンプライアンスが30mA(CR2032バッテリーの最大電流)に設定された。唾液代用溶液の200μLアリコート(具体的には、25%リンゲル液)がポリマーマトリクス上に堆積された。電位は最大1時間にわたって監視された。
【0033】
それぞれが複合水応答性安全層を有する異なるCR2032バッテリーに関する幾つかの繰り返し試験の結果が図4に示される。各試験は異なる開始時間で実行されたが、それぞれの試験は、アノード及びカソードが短絡してわずか90秒で有効バッテリー電圧を3Vから1V未満まで低下させることを示している。
【0034】
図5は、カソード缶102、アノードカップ104、及び、ポリマー層106を伴うバッテリーセル100の他の例を示す。セルが水溶液に晒されるときに良好な金属デンドライト成長を妨げ得る金属デンドライト成長中の水素バブリングの生成の抑制に役立つように、露出したアノードカップ104を最初にZn層108でメッキした後、例えば、本明細書中に開示されるように、アノードカップ104上に亜鉛金属のドットをメッキした後にそこで1つ以上のポリマー材料と1つ以上の金属塩とを含む組成物上にわたって1つ以上の金属材料と随意的に更に組み合わせて堆積させることによって複合水応答性安全層106が形成された。Zn層108は、局所的に、水素過電圧を増大させ、それにより、亜鉛層が堆積された特定の位置での水素バブリングを有利に抑制する。或いは、スズ(Sn)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、及び、水銀(Hg)を含む水素放出の(負電極の材料、一般にNi又はステンレス鋼の水素過電圧と比べて)かなり高い過電圧を有する他の金属層を単独で又は組み合わせて使用して、水素バブリングを抑制し、カソード缶102とアノードカップ104との間の金属デンドライト短絡接続の形成を促進することができる。
【0035】
アセトンと溶解又は懸濁したポリエチレングリコール(MW=4000g/mol)、硫酸銅粉末(スラリー中の15重量%の溶解又は懸濁した固体)、及び、亜鉛金属ダスト(スラリー中の15重量%の溶解又は懸濁した固体))とを含む組成物がホットプレート上で約50℃まで加熱されてテフロンコーティングされた磁気攪拌棒で完全に混合された。この組成物のサンプル(15μL)は、Zn層108を有するバッテリー100の半分のクリップエッジ112の周りの位置へとピペットで入れられた。
【0036】
したがって、複合水応答性安全層106は、特に複合水応答性安全層がアノードカップ104の外周に沿って好ましくはアノードカップ104の外周と接触して配置されるとともにカソード缶102の外周に沿って好ましくはカソード缶102の外周と接触して配置されるようにアノードカップ104のバッテリー表面の周囲に実質的に連続した層として形成されてもよく、或いは、より一般的には、バッテリーセル100の上端を介して示されるように第1及び第2(例えば、正及び負)のバッテリー極間に配置されてもよい。バッテリーセル100の底部を介して示される他の例において、複合水応答性安全層106は、連続的である必要はなく、むしろ、周期的に位置され(例えば、堆積され、層状にされるなど)、例えば、図5に示されるように離散ドット110として堆積されてもよい。
【0037】
バッテリーが25%リンガー水溶液中に浸漬されたときのバッテリー100にわたる電圧の直接的な測定値は、外部バッテリーセルの短絡を確認するために使用された。結果は、図6に示されるように、セル短絡を来たしてセル短絡がバッテリーセル100の電圧を1V未満の非脅威値まで低下させるのに役立つように金属デンドライトが成長したことを示した。
【0038】
図7に示される例において、複合水応答性安全層は、約12.5重量%のポリ酢酸ビニル(PVAc)、約4.16重量%の酸化ポリエチレン(PEO)、約8.33重量%の硫酸銅粒子(CuSO)、及び、約75重量%の炭酸銅粒子(CuCO)を備える。好適には、図7に示されるように、セルの電圧は、水溶液と接触すると非常に迅速且つ効率的に低下する。電圧降下は20分間しか示されないが、時間が経過するにつれて電圧は更に低くなる。加えて、前述の混合物を備えるポリマー安全層を有するセルは、少なくとも2時間にわたって90%の相対湿度に晒された後であってもセル電圧の変化を示さなかった。
【0039】
図8に示される例において、複合水応答性安全層は、約16.75重量%のポリ酢酸ビニル(PVAc)、約6.25重量%の酸化ポリエチレン(PEO)、約12.5重量%の硫酸銅粒子(CuSO)、及び、約62.5重量%の炭酸銅粒子(CuCO)を備える。好適には、図8に示されるように、セルの電圧は、水溶液と接触すると非常に迅速且つ効率的に低下する。図8では電圧降下が20分間しか示されないが、時間が経過するにつれて電圧は更に低くなる。それと一致して、以下の表に見られるように、2時間後、前述の安全層を備えるセルの電圧が1.2Vをはるかに下回り、また、pHは、比較的低く、したがって組織を火傷させることができなかった。
【表1】
加えて、前述の混合物を備えるポリマー安全層を有するセルは、少なくとも2時間にわたって90%の相対湿度に晒された後であってもセル電圧の変化を示さなかった。
【0040】
図9に示される例において、ポリマー安全層は、約16.67重量%のポリ酢酸ビニル(PVAc)、約41.67重量%の硫酸銅粒子(CuSO)、及び、約41.67重量%の炭酸銅粒子(CuCO)を備える。一般に、ポリ酢酸ビニルがキシレン中に溶解され、また、それに対してボールミル粉砕されたCuSO及びCuCOが加えられた。組成物がシリンジ内に充填され、また、組成物は、室温で平衡化できるようにされた後、セル上に堆積された。堆積後、組成物は空気中で乾燥できるようにされた(約24時間)。好適には、図9に示されるように、セルの電圧は、水溶液と接触すると非常に迅速且つ効率的に低下する。実際に、これらのセルでは、400秒未満で電圧が1.2V未満に低下する。
【0041】
この明細書の全体にわたって、複数の事例は、単一の事例として説明される構成要素又は構造を実施し得る。幾つかの構成例において別個の構成要素として与えられる構造及び機能は、組み合わされた構造又は構成要素として実装されてもよい。同様に、単一の構成要素として与えられる構造及び機能は、別個の構成要素として実装されてもよい。これら及び他の変形、修正、付加、及び、改良は、本明細書中の主題の範囲内にある。
【0042】
本明細書中で使用される「1つの実施形態」又は「一実施形態」への任意の言及は、その実施形態に関連して記載される特定の要素、特徴、構造、又は、特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書中の様々な箇所における「1つの実施形態では」という表現の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態に言及しているとは限らない。
【0043】
本明細書中で使用される用語「備える」、「備えている」、「含む」、「含んでいる」、「有する」、「有している」、又は、これらの任意の他の変形は、非排他的な包含を網羅するように意図される。例えば、要素のリストを含むプロセス、方法、物品、又は、装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されず、明示的に挙げられていない或いはそのようなプロセス、方法、物品、又は、装置に固有の他の要素を含んでもよい。更に、反対のことが明示的に述べられなければ、「又は」は、包括的な「又は」を指し、排他的な「又は」を指すのではない。例えば、要素A又はBは、以下のいずれか1つによって満たされる。すなわち、Aが存在しBが存在せず、Aが存在せずBが存在し、及び、AとBの両方が存在する。
【0044】
更に、「1つ(a)」又は「1つ(an)」の使用は、本明細書中の実施形態の要素及び構成要素を説明するために使用される。これは単に便宜上及び説明の一般的な意味を与えるために行われる。この説明及び以下の特許請求の範囲は、1つの或いは少なくとも1つを含むように読まれるべきであり、また、それが別のことを意味していることが明らかでなければ、単数形は複数形も含む。
【0045】
全ての可能な実施形態を説明することは不可能ではないにしても実用的でないので、詳細な説明は一例として解釈されるべきであり、全ての可能な実施形態を説明するものではない。現在の技術又はこの出願の出願日以降に開発された技術のいずれかを使用して、多数の代替的な実施形態を実施することができる。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9