(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】粗化処理銅箔、キャリア付銅箔、銅張積層板及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C25D 7/06 20060101AFI20221028BHJP
C25D 5/16 20060101ALI20221028BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20221028BHJP
C25D 1/04 20060101ALI20221028BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20221028BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20221028BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20221028BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221028BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
C25D7/06 A
C25D5/16
C25D5/10
C25D1/04 311
B32B15/04 A
B32B15/20
B32B7/06
H05K1/03 630H
H05K3/18 K
(21)【出願番号】P 2020510808
(86)(22)【出願日】2019-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2019011864
(87)【国際公開番号】W WO2019188712
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2018060635
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】加藤 翼
(72)【発明者】
【氏名】松田 光由
(72)【発明者】
【氏名】飯田 浩人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼梨 哲聡
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和広
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/174998(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/138338(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/196576(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158775(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/211951(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/06
C25D 5/16
C25D 5/10
C25D 1/04
B32B 15/04
B32B 15/20
B32B 7/06
H05K 1/03
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の側に粗化処理面を有する粗化処理銅箔であって、前記粗化処理面が複数の粗化粒子を備えてなり、
前記粗化処理銅箔の長さ10μmの断面における前記粗化粒子の面積S(μm
2)に対する前記粗化粒子の周囲長L(μm)の2乗の比L
2/Sの平均値が16以上30以下であり、かつ、前記粗化処理面の十点平均粗さRzが0.7μm以上1.7μm以下である、粗化処理銅箔。
【請求項2】
前記比L
2/Sが19以上27以下である、請求項1に記載の粗化処理銅箔。
【請求項3】
前記粗化処理銅箔の長さ10μmの断面における前記粗化粒子の個数が20個以上70個以下である、請求項1又は2に記載の粗化処理銅箔。
【請求項4】
プリント配線板用の絶縁樹脂層に凹凸形状を転写するために用いられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔。
【請求項5】
セミアディティブ法(SAP)によるプリント配線板の作製に用いられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔。
【請求項6】
キャリアと、該キャリア上に設けられた剥離層と、該剥離層上に前記粗化処理面を外側にして設けられた請求項1~5のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔とを備えた、キャリア付銅箔。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔又は請求項6に記載のキャリア付銅箔を備えた銅張積層板。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔又は請求項6に記載のキャリア付銅箔を用いてプリント配線板を製造することを特徴とする、プリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗化処理銅箔、キャリア付銅箔、銅張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回路の微細化に適したプリント配線板の製造工法として、SAP(セミ・アディティブ・プロセス)法が広く採用されている。SAP法は、極めて微細な回路を形成するのに適した手法であり、その一例としてキャリア付粗化処理銅箔を用いて行われている。例えば、
図1及び2に示されるように、粗化処理銅箔110を、下地基材111aに下層回路111bを備えた絶縁樹脂基板111上にプリプレグ112とプライマー層113を用いてプレスして密着させ(工程(a))、キャリア(図示せず)を粗化処理銅箔110から引き剥がした後、必要に応じてレーザー穿孔によりビアホール114を形成する(工程(b))。次いで、粗化処理銅箔110をエッチングにより除去して、粗化表面プロファイルが付与されたプライマー層113を露出させる(工程(c))。この粗化表面に無電解銅めっき115を施した(工程(d))後に、ドライフィルム116を用いた露光及び現像により所定のパターンでマスキングし(工程(e))、電気銅めっき117を施す(工程(f))。ドライフィルム116を除去して配線部分117aを形成した(工程(g))後、隣り合う配線部分117a,117a間の不要な無電解銅めっき115をエッチングにより除去して(工程(h))、所定のパターンで形成された配線118を得る。
【0003】
このように粗化処理銅箔を用いたSAP法では、粗化処理銅箔自体はレーザー穿孔後にエッチングにより除去されることになる(工程(c))。そして、粗化処理銅箔が除去された積層体表面には粗化処理銅箔の粗化処理面の凹凸形状が転写されているので、その後の工程において絶縁層(例えばプライマー層113又はそれが無い場合にはプリプレグ112)とめっき回路(例えば配線118)との密着性を確保することができる。しかしながら、めっき回路との密着性を上げるのに適した表面プロファイルは、概して粗い凹凸となる傾向があるため、工程(h)において無電解銅めっきに対するエッチング性が低下しやすい。すなわち、無電解銅めっきが粗い凹凸に食い込んでいる分、残留銅を無くすためにより多くのエッチングを要してしまう。
【0004】
そこで、粗化粒子を小さくし、かつ、くびれ形状を持たせることで、SAP法に用いた場合に、必要なめっき回路密着性を確保しながら良好なエッチング性を実現できる手法が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2016/158775号)には、少なくとも一方の側に粗化処理面を有する粗化処理銅箔であって、粗化処理面が銅粒子からなる複数の略球状突起を備えてなり、略球状突起の平均高さが2.60μm以下であるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
近年、SAP法に要求される回路の更なる微細化に伴い、回路と基板の密着強度(絶対値)が低下している。ところで、
図3A及び
図3Bで示されるように、基板122上に形成された回路124はその長手方向の側面がソルダーレジスト126で覆われる場合(
図3A)と覆われない場合(
図3B)がある。回路124がソルダーレジスト126で覆われる場合は、回路124がソルダーレジスト126で保護されるため、作業工程中に回路124が基板122から剥がれるリスクは小さい、すなわち回路124と基板122の密着が損なわれるリスクは小さいといえる。一方、回路124がソルダーレジスト126で覆われない場合は、回路124がソルダーレジスト126で保護されないため、回路124の微細化により基板122との密着強度が低下すると、作業工程中に回路124が剥がれるリスクが大きくなる。この点、回路と基板の物理密着指標の一つにシェア強度(せん断強度)があり、作業工程中の回路剥がれを回避するためには、シェア強度が一定以上確保できる線幅までしか回路の微細化を行うことができないのが現状である。したがって、ソルダーレジスト126で覆われない回路124を微細化するためには、エッチング性及びドライフィルム解像性に加え、細い線幅でも十分なシェア強度を確保できることが望まれる。しかしながら、特許文献1に開示される手法では良好なピール強度(剥離強度)を確保することは可能であっても、細線化に対応可能な十分なシェア強度を確保することは困難である。
【0007】
本発明者らは、今般、粗化粒子の形状を制御することにより、十点平均粗さRz1.7μm以下という細線回路形成に適したレベルの低粗度の粗化処理銅箔でありながら、シェア強度という観点での優れた回路密着性を実現できるとのとの知見を得た。すなわち、細線回路形成に適した低粗度の粗化処理銅箔でありながら、SAP法に用いた場合に、無電解銅めっきに対するエッチング性のみならず、シェア強度という観点での回路密着性にも優れた表面プロファイルを積層体に付与することができるとの知見を得た。また、上記粗化処理銅箔を用いることで、SAP法におけるドライフィルム現像工程において、極めて微細なドライフィルム解像性を実現できるとの知見も得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、細線回路形成に適した低粗度の粗化処理銅箔でありながら、SAP法に用いた場合に、無電解銅めっきに対するエッチング性及びドライフィルム解像性のみならず、シェア強度という観点での回路密着性にも優れた表面プロファイルを積層体に付与可能な、粗化処理銅箔を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのような粗化処理銅箔を備えたキャリア付銅箔を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、少なくとも一方の側に粗化処理面を有する粗化処理銅箔であって、前記粗化処理面が複数の粗化粒子を備えてなり、
前記粗化処理銅箔の長さ10μmの断面における前記粗化粒子の面積S(μm2)に対する前記粗化粒子の周囲長L(μm)の2乗の比L2/Sの平均値が16以上30以下であり、かつ、前記粗化処理面の十点平均粗さRzが0.7μm以上1.7μm以下である、粗化処理銅箔が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、キャリアと、該キャリア上に設けられた剥離層と、該剥離層上に前記粗化処理面を外側にして設けられた前記粗化処理銅箔とを備えた、キャリア付銅箔が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、前記粗化処理銅箔又は前記キャリア付銅箔を備えた銅張積層板が提供される。
【0012】
本発明の他の一態様によれば、前記粗化処理銅箔又は前記キャリア付銅箔を用いて得られたプリント配線板が提供される。あるいは、本発明の他の一態様によれば、前記粗化処理銅箔又は前記キャリア付銅箔を用いてプリント配線板を製造することを特徴とする、プリント配線板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】SAP法を説明するための工程流れ図であり、前半の工程(工程(a)~(d))を示す図である。
【
図2】SAP法を説明するための工程流れ図であり、後半の工程(工程(e)~(h))を示す図である。
【
図3A】回路の長手方向の側面がソルダーレジストで覆われる場合を示す模式断面図である。
【
図3B】回路がソルダーレジストで覆われない場合を示す模式断面図である。
【
図4】本発明の粗化処理銅箔における、粗化処理面を示す模式断面図である。
【
図5】
図4の粗化処理銅箔における、粗化粒子の周囲長L及び面積Sを説明するための模式断面図である。
【
図6】シェア強度の測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
本発明を特定するために用いられる用語ないしパラメータの定義を以下に示す。
【0015】
本明細書において「粗化粒子」とは、
図4に模式的に示されるように、粗化処理銅箔10の基底面10aの表面に直接形成される、高さ150nmを超えるサイズの粒子12であり、略球状、針状、柱状、細長い形状等あらゆる形状が含まれるが、好ましくは「略球状突起」の形態を有する。本明細書において「略球状突起」とは、略球状の丸みを帯びた概形を有する突起であり、針状、柱状、細長い形状等の異方形状の突起ないし粒子とは区別されるものである。
図4において粗化粒子12として示されるように、略球状突起は、銅箔の基底面10aと連結されるくびれた根元部分で銅箔の基底面10aと連結しているため、完全なる球体にはなり得ないが、根元部分以外の部分が概ね球状であればよい。したがって、略球状突起は、略球状の丸みを帯びた概形が保持されているかぎり、微細な凹凸や変形等の存在は許容される。なお、上記突起を単に球状突起と称してもよいが、上述のとおり完全なる球体にはなり得ないため、上述した略球状突起を意味するものとして解されるべきである。また、粗化処理銅箔10の基底面10aに直接形成されず、粗化粒子12の表面に形成される突起12aは粗化粒子12の一部を構成するものとする。
【0016】
本明細書において「粗化粒子の周囲長L」とは、
図5に模式的に示されるように、粗化粒子12の断面の輪郭線12p(
図5の実線部分)の長さL
pと、輪郭線12pと粗化処理銅箔10の基底面10aとの接点c
1及びc
2間を結ぶ線分12s(
図5の点線部分)の長さL
Sの合計長さ(L
p+L
s)である。また、「粗化粒子の面積S」とは、
図5に模式的に示されるように、粗化粒子12の断面における、輪郭線12p及び線分12sで囲まれた図形の面積(断面積)である。粗化粒子12の周囲長L及び面積Sは、SEM観察により取得した粗化処理銅箔10の断面画像を市販のソフトウェアを用いて解析することにより、特定することができる。例えば、画像解析ソフトImage-Pro Plus 5.1J(Media Cybernetics, Inc.製)を用い、画像解析については本明細書の実施例に記載される諸条件に従って行うことができる。
【0017】
本明細書において、キャリアの「電極面」とはキャリア作製時に陰極と接していた側の面を指す。
【0018】
本明細書において、キャリアの「析出面」とはキャリア作製時に金属が電解析出されていく側の面、すなわち陰極と接していない側の面を指す。
【0019】
粗化処理銅箔
本発明による銅箔は粗化処理銅箔である。この粗化処理銅箔は少なくとも一方の側に粗化処理面を有する。粗化処理面は、
図4に模式的に示されるように、複数の粗化粒子12を備えてなる。粗化処理銅箔10の長さ10μmの断面における粗化粒子12の面積S(μm
2)に対する粗化粒子12の周囲長L(μm)の2乗の比L
2/Sの平均値は16以上30以下である。また、粗化処理面の十点平均粗さRzは0.7μm以上1.7μm以下である。このように粗化粒子の形状を制御することにより、十点平均粗さRz1.7μm以下という細線回路形成に適したレベルの低粗度の粗化処理銅箔でありながら、シェア強度という観点での優れた回路密着性を実現することができる。すなわち、細線回路形成に適した低粗度の粗化処理銅箔でありながら、SAP法に用いた場合に、無電解銅めっきに対するエッチング性のみならず、シェア強度という観点での回路密着性にも優れた表面プロファイルを積層体に付与することができる。また、上記粗化処理銅箔を用いることで、SAP法におけるドライフィルム現像工程において、極めて微細なドライフィルム解像性を実現することができる。
【0020】
めっき回路密着性と、無電解銅めっきに対するエッチング性は本来的には両立し難いものである。すなわち、前述したように、めっき回路との密着性を上げるのに適した表面プロファイルは、概して粗い凹凸となる傾向があるため、
図2の工程(h)において無電解銅めっきのエッチング性が低下しやすい。すなわち、無電解銅めっきが粗い凹凸に食い込んでいる分、残留銅を無くすためにより多くのエッチングを要してしまう。この点、特許文献1の粗化処理銅箔によればエッチング量の低減を実現しながら、優れためっき回路密着性を確保できるとされている。しかしながら、近年、SAP法に要求される回路の更なる微細化に伴い、回路と基板の密着強度(絶対値)が低下しているところ、特許文献1に開示される手法では良好なピール強度を確保することは可能であっても、細線化に対応可能な十分なシェア強度を確保することは困難である。したがって、回路がソルダーレジストで覆われない場合は、作業工程中に回路剥がれが生じるリスクが大きいといえる。これに対し、本発明においては、粗化粒子12の形状を制御することにより、十点平均粗さRz1.7μm以下という細線回路形成に適したレベルにまで粗化粒子の大幅な小径化を実現しながら、シェア強度という観点での回路密着性を大幅に改善することが可能となる。すなわち、上記範囲内のRzで表される粗化粒子12の小径化によって本来ならば回路密着性が低下しうるが、本発明においては粗化粒子12の断面形状のパラメータを示す比L
2/Sの平均値を16以上30以下にすることで、シェア強度という観点での優れた回路密着性が実現可能となる。そして、そのように優れた密着性と無電解銅めっきに対する優れたエッチング性を両立できたことによって、SAP法におけるドライフィルム現像工程において、極めて微細なドライフィルム解像性を実現できるものと考えられる。したがって、本発明の粗化処理銅箔10は、セミアディティブ法(SAP)によるプリント配線板の作製に用いられるのが好ましい。別の表現をすれば、本発明の粗化処理銅箔10は、プリント配線板用の絶縁樹脂層に凹凸形状を転写するために用いられるのが好ましいともいえる。
【0021】
本発明の粗化処理銅箔10は、少なくとも一方の側に粗化処理面を有する。すなわち、粗化処理銅箔は両側に粗化処理面を有するものであってもよいし、一方の側にのみ粗化処理面を有するものであってもよい。両側に粗化処理面を有する場合は、SAP法に用いた場合にレーザー照射側の面(絶縁樹脂に密着させる面から離れた側の面)も粗化されていることになるので、レーザー吸収性が高まる結果、レーザー穿孔性をも向上させることができる。
【0022】
粗化処理面は、複数の粗化粒子12を備えてなり、これら複数の粗化粒子12はそれぞれ銅粒子からなるのが好ましい。銅粒子は金属銅からなるものであってもよいし、銅合金からなるものであってもよい。しかしながら、銅粒子が銅合金の場合、銅エッチング液に対する溶解性が低下したり、或いは銅エッチング液への合金成分混入によりエッチング液の寿命が低下したりすることがあるため、銅粒子は金属銅からなるのが好ましい。
【0023】
粗化処理銅箔10の長さ10μmの断面における粗化粒子12の面積S(μm2)に対する粗化粒子12の周囲長L(μm)の2乗の比L2/Sの平均値は16以上30以下であり、好ましくは19以上27以下、より好ましくは19以上26以下、さらに好ましくは19以上25以下、特に好ましくは20以上24以下である。これらの範囲内であると、粗化粒子12の脱落を効果的に防止しながら、シェア強度をより一層向上することができる。
【0024】
粗化処理面の十点平均粗さRzは0.7μm以上1.7μm以下であり、好ましくは0.7μm以上1.6μm以下、より好ましくは0.8μm以上1.5μm以下である。これらの範囲内であると、所望のシェア強度を確保しながら、細線形成性をより一層向上することができる。RzはJIS B 0601-1994に準拠して決定される。
【0025】
粗化処理銅箔10の長さ10μmの断面における粗化粒子12の個数が20個以上70個以下であるのが好ましく、より好ましくは20個以上60個以下、さらに好ましくは20個以上40個以下である。これらの範囲内であると、粗化粒子12の脱落を効果的に防止しながら、シェア強度をより一層向上することができる。
【0026】
本発明の粗化処理銅箔10の厚さは特に限定されないが、0.1μm以上18μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上7μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上5μm以下、特に好ましくは0.5μm以上3μm以下である。この厚さは粗化粒子12を含んだ厚さである。なお、本発明の粗化処理銅箔10は、通常の銅箔の表面に粗化処理を行ったものに限らず、キャリア付銅箔の銅箔表面に粗化処理を行ったものであってもよい。
【0027】
粗化処理銅箔の製造方法
本発明による粗化処理銅箔の好ましい製造方法の一例を説明するが、本発明による粗化処理銅箔は以下に説明する方法に限らず、本発明の粗化処理銅箔の表面プロファイルを実現できるかぎり、あらゆる方法によって製造されたものであってよい。
【0028】
(1)銅箔の準備
粗化処理銅箔の製造に使用する銅箔として、電解銅箔及び圧延銅箔の双方の使用が可能である。銅箔の厚さは特に限定されないが、0.1μm以上18μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上7μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上5μm以下、特に好ましくは0.5μm以上3μm以下である。銅箔がキャリア付銅箔の形態で準備される場合には、銅箔は、無電解銅めっき法及び電解銅めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び化学蒸着等の乾式成膜法、又はそれらの組合せにより形成したものであってよい。
【0029】
(2)粗化処理
銅粒子を用いて銅箔の少なくとも一方の表面を粗化する。この粗化は、粗化処理用銅電解溶液を用いた電解により行われる。この電解は3段階のめっき工程を経て行われるのが好ましい。1段階目のめっき工程では、銅濃度5g/L以上20g/L以下、硫酸濃度30g/L以上200g/L以下、塩素濃度20ppm以上100ppm以下、及び9-フェニルアクリジン(9PA)濃度20ppm以上100ppm以下を含む硫酸銅溶液を用いて、液温20℃以上40℃以下、電流密度5A/dm2以上25A/dm2以下、時間2秒以上10秒以下のめっき条件で電着を行うのが好ましい。2段階目のめっき工程では、銅濃度65g/L以上80g/L以下、及び硫酸濃度200g/L以上280g/L以下を含む硫酸銅溶液を用いて、液温45℃以上55℃以下、及び電流密度1A/dm2以上10A/dm2以下、時間2秒以上25秒以下のめっき条件で電着を行うのが好ましい。3段階目のめっき工程では、銅濃度10g/L以上20g/L以下、硫酸濃度30g/L以上130g/L以下、塩素濃度20ppm以上100ppm以下、及び9PA濃度100ppm以上200ppm以下を含む硫酸銅溶液を用いて、液温20℃以上40℃以下、電流密度10A/dm2以上40A/dm2以下、時間0.3秒以上1.0秒以下のめっき条件で電着を行うのが好ましい。9PA等の添加剤を用いた3段階目のめっき工程が行われることにより、1段階目及び2段階目のめっき工程で形成した粗化粒子の表面に微小な突起を形成させて、比L2/Sを増大させることができる。特に、1段階目のめっき工程が9PA等の添加剤等を用いて行われるのが好ましく、1段階目のめっき工程における電気量Q1と2段階目のめっき工程における電気量Q2の合計電気量(Q1+Q2)が100C/dm2以下となるように設定するのが好ましい。また、1~3段階目のめっき工程における銅箔に対するめっき液の線流速をいずれも0.10m/s以上0.50m/s以下とするのが好ましく、より好ましくは0.15m/s以上0.45m/s以下である。こうすることで、十点平均粗さRz≦1.7μmを満たす比較的低粗度の表面プロファイルが形成されるとともに、3段階目のめっきが粗化粒子の表面全体に行き渡り、比L2/Sが大きな粗化粒子が形成される。
【0030】
(3)防錆処理
防錆処理は粗化粒子の形状、周囲長及び面積、並びに粗化処理面の十点平均粗さRzに影響を及ぼさないので、所望により、粗化処理後の銅箔に防錆処理を施してもよい。防錆処理は、亜鉛を用いためっき処理を含むのが好ましい。亜鉛を用いためっき処理は、亜鉛めっき処理及び亜鉛合金めっき処理のいずれであってもよく、亜鉛合金めっき処理は亜鉛-ニッケル合金処理が特に好ましい。亜鉛-ニッケル合金処理は少なくともNi及びZnを含むめっき処理であればよく、Sn、Cr、Co等の他の元素をさらに含んでいてもよい。亜鉛-ニッケル合金めっきにおけるNi/Zn付着比率は、質量比で、1.2以上10以下が好ましく、より好ましくは2以上7以下、さらに好ましくは2.7以上4以下である。また、防錆処理はクロメート処理をさらに含むのが好ましく、このクロメート処理は亜鉛を用いためっき処理の後に、亜鉛を含むめっきの表面に行われるのがより好ましい。こうすることで防錆性をさらに向上させることができる。特に好ましい防錆処理は、亜鉛-ニッケル合金めっき処理とその後のクロメート処理との組合せである。
【0031】
(4)シランカップリング剤処理
所望により、銅箔にシランカップリング剤処理を施し、シランカップリング剤層を形成してもよい。これにより耐湿性、耐薬品性及び接着剤等との密着性等を向上することができる。シランカップリング剤層は、シランカップリング剤を適宜希釈して塗布し、乾燥させることにより形成することができる。シランカップリング剤の例としては、4-グリシジルブチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性シランカップリング剤、又は3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-3-(4-(3-アミノプロポキシ)ブトキシ)プロピル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ官能性シランカップリング剤、又は3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性シランカップリング剤又はビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシシラン等のオレフィン官能性シランカップリング剤、又は3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリル官能性シランカップリング剤、又はイミダゾールシラン等のイミダゾール官能性シランカップリング剤、又はトリアジンシラン等のトリアジン官能性シランカップリング剤等が挙げられる。
【0032】
キャリア付銅箔
本発明の粗化処理銅箔は、キャリア付銅箔の形態で提供することができる。この場合、キャリア付銅箔は、キャリアと、このキャリア上に設けられた剥離層と、この剥離層上に粗化処理面を外側にして設けられた本発明の粗化処理銅箔とを備えてなる。もっとも、キャリア付銅箔は、本発明の粗化処理銅箔を用いること以外は、公知の層構成が採用可能である。
【0033】
キャリアは、粗化処理銅箔を支持してそのハンドリング性を向上させるための層(典型的には箔)である。キャリアの例としては、アルミニウム箔、銅箔、表面を銅等でメタルコーティングした樹脂フィルムやガラス板等が挙げられ、好ましくは銅箔である。銅箔は圧延銅箔及び電解銅箔のいずれであってもよい。キャリアの厚さは典型的には200μm以下であり、好ましくは12μm以上35μm以下である。
【0034】
キャリアの剥離層側の面は、0.5μm以上1.5μm以下の十点表面粗さRzを有するのが好ましく、より好ましくは0.6μm以上1.0μm以下である。RzはJIS B 0601-1994に準拠して決定することができる。このような十点表面粗さRzをキャリアの剥離層側の面に付与しておくことで、その上に剥離層を介して作製される本発明の粗化処理銅箔に望ましい表面プロファイルを付与しやすくすることができる。
【0035】
剥離層は、キャリアの引き剥がし強度を弱くし、該強度の安定性を担保し、さらには高温でのプレス成形時にキャリアと銅箔の間で起こりうる相互拡散を抑制する機能を有する層である。剥離層は、キャリアの一方の面に形成されるのが一般的であるが、両面に形成されてもよい。剥離層は、有機剥離層及び無機剥離層のいずれであってもよい。有機剥離層に用いられる有機成分の例としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸等が挙げられる。窒素含有有機化合物の例としては、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物等が挙げられ、中でもトリアゾール化合物は剥離性が安定し易い点で好ましい。トリアゾール化合物の例としては、1,2,3-ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、N’,N’-ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア、1H-1,2,4-トリアゾール及び3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾール等が挙げられる。硫黄含有有機化合物の例としては、メルカプトベンゾチアゾール、チオシアヌル酸、2-ベンズイミダゾールチオール等が挙げられる。カルボン酸の例としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸等が挙げられる。一方、無機剥離層に用いられる無機成分の例としては、Ni、Mo、Co、Cr、Fe、Ti、W、P、Zn、クロメート処理膜等が挙げられる。なお、剥離層の形成はキャリアの少なくとも一方の表面に剥離層成分含有溶液を接触させ、剥離層成分をキャリアの表面に固定されること等により行えばよい。キャリアの剥離層成分含有溶液への接触は、剥離層成分含有溶液への浸漬、剥離層成分含有溶液の噴霧、剥離層成分含有溶液の流下等により行えばよい。また、剥離層成分のキャリア表面への固定は、剥離層成分含有溶液の吸着や乾燥、剥離層成分含有溶液中の剥離層成分の電着等により行えばよい。剥離層の厚さは、典型的には1nm以上1μm以下であり、好ましくは5nm以上500nm以下である。
【0036】
粗化処理銅箔としては、上述した本発明の粗化処理銅箔を用いる。本発明の粗化処理は銅粒子を用いた粗化が施されたものであるが、手順としては、先ず剥離層の表面に銅層を銅箔として形成し、その後少なくとも粗化を行えばよい。粗化の詳細については前述したとおりである。なお、銅箔はキャリア付銅箔としての利点を活かすべく、極薄銅箔の形態で構成されるのが好ましい。極薄銅箔としての好ましい厚さは0.1μm以上7μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上5μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上3μm以下である。
【0037】
剥離層とキャリア及び/又は銅箔との間に他の機能層を設けてもよい。そのような他の機能層の例としては補助金属層が挙げられる。補助金属層はニッケル及び/又はコバルトからなるのが好ましい。このような補助金属層をキャリアの剥離層側及び/又は粗化処理銅箔の剥離層側に形成することで、高温又は長時間の熱間プレス成形時にキャリアと粗化処理銅箔の間で起こりうる相互拡散を抑制し、キャリアの引き剥がし強度の安定性を担保することができる。補助金属層の厚さは、0.001μm以上3μm以下とするのが好ましい。
【0038】
銅張積層板
本発明の粗化処理銅箔ないしキャリア付銅箔はプリント配線板用銅張積層板の作製に用いられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、上記粗化処理銅箔又は上記キャリア付銅箔を備えた銅張積層板が提供される。本発明の粗化処理銅箔ないしキャリア付銅箔を用いることで、SAP法に特に適した銅張積層板を提供することができる。この銅張積層板は、本発明の粗化処理銅箔と、この粗化処理銅箔の粗化処理面に密着して設けられる樹脂層とを備えてなるか、あるいは本発明のキャリア付銅箔と、このキャリア付銅箔における粗化処理銅箔の粗化処理面に密着して設けられる樹脂層とを備えてなる。粗化処理銅箔又はキャリア付銅箔は樹脂層の片面に設けられてもよいし、両面に設けられてもよい。樹脂層は、樹脂、好ましくは絶縁性樹脂を含んでなる。樹脂層はプリプレグ及び/又は樹脂シートであるのが好ましい。プリプレグとは、合成樹脂板、ガラス板、ガラス織布、ガラス不織布、紙等の基材に合成樹脂を含浸させた複合材料の総称である。絶縁性樹脂の好ましい例としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。また、樹脂シートを構成する絶縁性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂等の絶縁樹脂が挙げられる。また、樹脂層には絶縁性を向上する等の観点からシリカ、アルミナ等の各種無機粒子からなるフィラー粒子等が含有されていてもよい。樹脂層の厚さは特に限定されないが、1μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以上400μm以下であり、さらに好ましくは3μm以上200μm以下である。樹脂層は複数の層で構成されていてよい。プリプレグ及び/又は樹脂シート等の樹脂層は予め粗化処理銅箔の粗化処理表面に塗布されるプライマー樹脂層を介して粗化処理銅箔ないしキャリア付銅箔に設けられていてもよい。
【0039】
プリント配線板
本発明の粗化処理銅箔ないしキャリア付銅箔はプリント配線板の作製に用いられるのが好ましく、特に好ましくはセミアディティブ法(SAP)によるプリント配線板の作製に用いられる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、前述した粗化処理銅箔又は上記キャリア付銅箔を用いて得られたプリント配線板が提供される。本発明の粗化処理銅箔ないしキャリア付銅箔を用いることで、プリント配線板の製造において、十分なシェア強度を確保して作業工程中の回路剥がれを効果的に防止できるとともに、無電解銅めっきに対するエッチング性にも優れた表面プロファイルを積層体に付与することができる。また、上記粗化処理銅箔を用いることで、SAP法におけるドライフィルム現像工程において、極めて微細なドライフィルム解像性を実現することができる。したがって、極めて微細な回路形成が施されたプリント配線板を提供することができる。本態様によるプリント配線板は、樹脂層と、銅層とが積層された層構成を含んでなる。SAP法の場合には本発明の粗化処理銅箔は
図1の工程(c)において除去されるため、SAP法により作製されたプリント配線板は本発明の粗化処理銅箔をもはや含まず、粗化処理銅箔の粗化処理面から転写された表面プロファイルが残存するのみである。また、樹脂層については銅張積層板に関して上述したとおりである。いずれにしても、プリント配線板は公知の層構成が採用可能である。プリント配線板に関する具体例としては、プリプレグの片面又は両面に本発明の粗化処理銅箔ないしキャリア付銅箔を接着させ硬化した積層体とした上で回路形成した片面又は両面プリント配線板や、これらを多層化した多層プリント配線板等が挙げられる。また、他の具体例としては、樹脂フィルム上に本発明の粗化処理銅箔ないしキャリア付銅箔を形成して回路を形成するフレキシブルプリント配線板、COF、TABテープ等も挙げられる。さらに他の具体例としては、本発明の粗化処理銅箔ないしキャリア付銅箔に上述の樹脂層を塗布した樹脂付銅箔(RCC)を形成し、樹脂層を絶縁接着材層として上述のプリント基板に積層した後、粗化処理銅箔を配線層の全部又は一部としてモディファイド・セミアディティブ(MSAP)法、サブトラクティブ法等の手法で回路を形成したビルドアップ配線板や、粗化処理銅箔を除去してセミアディティブ(SAP)法で回路を形成したビルドアップ配線板、半導体集積回路上へ樹脂付銅箔の積層と回路形成を交互に繰りかえすダイレクト・ビルドアップ・オン・ウェハー等が挙げられる。より発展的な具体例として、上記樹脂付銅箔を基材に積層し回路形成したアンテナ素子、接着剤層を介してガラスや樹脂フィルムに積層しパターンを形成したパネル・ディスプレイ用電子材料や窓ガラス用電子材料、本発明の粗化処理銅箔に導電性接着剤を塗布した電磁波シールド・フィルム等も挙げられる。特に、本発明の粗化処理銅箔ないしキャリア付銅箔はSAP法に適している。例えば、SAP法により回路形成した場合には
図1及び2に示されるような構成が採用可能である。
【実施例】
【0040】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0041】
例1~3
キャリア付銅箔の作製及び評価を以下のようにして行った。
【0042】
(1)キャリアの作製
陰極として表面を#2000のバフで研磨したチタン製の電極を用意した。また、陽極としてDSA(寸法安定性陽極)を用意した。これらの電極を用い、銅濃度80g/L、硫酸濃度260g/Lの硫酸銅溶液に浸漬して、溶液温度45℃、電流密度55A/dm2で電解し、厚さ18μmの電解銅箔をキャリアとして得た。
【0043】
(2)剥離層の形成
酸洗処理されたキャリアの電極面側を、CBTA(カルボキシベンゾトリアゾール)濃度1g/L、硫酸濃度150g/L及び銅濃度10g/LのCBTA水溶液に、液温30℃で30秒間浸漬し、CBTA成分をキャリアの電極面に吸着させた。こうして、キャリアの電極面の表面にCBTA層を有機剥離層として形成した。
【0044】
(3)補助金属層の形成
有機剥離層が形成されたキャリアを、硫酸ニッケルを用いて作製されたニッケル濃度20g/Lの溶液に浸漬して、液温45℃、pH3、電流密度5A/dm2の条件で、厚さ0.001μm相当の付着量のニッケルを有機剥離層上に付着させた。こうして有機剥離層上にニッケル層を補助金属層として形成した。
【0045】
(4)極薄銅箔形成
補助金属層が形成されたキャリアを、銅濃度60g/L、硫酸濃度200g/Lの硫酸銅溶液に浸漬して、溶液温度50℃、電流密度5A/dm2以上30A/dm2以下で電解し、厚さ1.2μmの極薄銅箔を補助金属層上に形成した。
【0046】
(5)粗化処理
上述の極薄銅箔の析出面に対して粗化処理を行った。この粗化処理は、以下の3段階めっきにより行った。各段階のめっき工程では、表1に示す銅濃度、硫酸濃度、塩素濃度及び9-フェニルアクリジン(9PA)濃度を有する硫酸銅溶液を用い、表1に示す液温で、表2に示す電流密度で電着を行った。1段階目及び2段階目のめっきにおける通電時間は1回あたり4.4秒とし、3段階目のめっきにおける通電時間は0.6秒とした。また、極薄銅箔に対するめっき液の線流速はいずれも0.25m/s以上0.35m/s以下とした。こうして例1~3の3種類の粗化処理銅箔を作製した。
【0047】
【0048】
【0049】
(6)防錆処理
得られたキャリア付銅箔の粗化処理層の表面に、亜鉛-ニッケル合金めっき処理及びクロメート処理からなる防錆処理を行った。まず、亜鉛濃度0.2g/L、ニッケル濃度2g/L及びピロリン酸カリウム濃度300g/Lの電解液を用い、液温40℃、電流密度0.5A/dm2の条件で、粗化処理層及びキャリアの表面に亜鉛-ニッケル合金めっき処理を行った。次いで、クロム酸1g/L水溶液を用い、pH11、液温25℃、電流密度1A/dm2の条件で、亜鉛-ニッケル合金めっき処理を行った表面にクロメート処理を行った。
【0050】
(7)シランカップリング剤処理
3-アミノプロピルトリメトキシシラン3g/Lを含む水溶液をキャリア付銅箔の銅箔側の表面に吸着させ、電熱器により水分を蒸発させることにより、シランカップリング剤処理を行った。このとき、シランカップリング剤処理はキャリア側には行わなかった。
【0051】
(8)粗化処理銅箔表面の評価
得られた粗化処理銅箔について、表面プロファイルの諸特性を以下のとおり評価した。
【0052】
(8-1)粗化粒子の観察
得られた粗化処理銅箔の断面画像を取得し、比L2/Sの平均値及び粗化処理銅箔10μmあたりの粗化粒子の個数を以下のとおり求めた。
【0053】
(8-1-1)断面画像の取得
FIB-SEM装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SMI3200SE)を用いて、粗化処理銅箔の表面からFIB(Focused Ion Beam)加工を行って銅箔の厚み方向と平行な断面を作製し、この断面を粗化処理面に対して60°の方向からSEM観察(倍率:36000倍)することにより、断面画像を取得した。
【0054】
(8-1-2)比L2/Sの算出
粗化処理銅箔の長さ10μm分の断面画像を画像解析ソフトImage-Pro Plus 5.1J(Media Cybernetics, Inc.製)に取り込み、この解析ソフトの機能「自由曲線AO」により断面中の粗化粒子を1つずつ抽出した。断面画像中に含まれる全ての粗化粒子を抽出した後、粗化粒子の内側が白色となるようにコントラストを調整した。次いで、解析ソフトの機能「カウント/サイズ」を用いて、明るい色に変えた粗化粒子を自動で認識させた後、測定機能により個々の粗化粒子の周囲長L及び面積Sを測定し、比L2/Sを算出した。各例につき以上の操作を異なる3視野について行い、観察された全ての粗化粒子における比L2/Sの平均値を当該サンプルの比L2/Sの平均値として採用した。
【0055】
(8-1-3)粗化粒子の個数
断面画像にて視野中の粗化粒子の個数と視野の横幅を測定し、長さ10μmあたりの個数に換算した。各例につき異なる3視野について測定を行い、その平均値を当該サンプルにおける長さ10μmあたりの粗化粒子の個数として採用した。
【0056】
(8-2)十点平均粗さRzの測定
150倍の対物レンズを備えたレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-9510)を用いて粗化処理面を観察し、6550.11μm2の視野画像を取得した。得られた視野画像から10μm×10μmの領域を互いに重複しない範囲で任意に10箇所選び、JIS B 0601-1994に準拠して十点平均粗さRzをそれぞれ測定した。10箇所のRzの平均値を当該サンプルのRzとして採用した。
【0057】
(9)銅張積層板の作製
キャリア付銅箔を用いて銅張積層板を作製した。まず、内層基板の表面に、プリプレグ(三菱瓦斯化学株式会社製、GHPL-830NSF、厚さ0.1mm)を介してキャリア付銅箔の粗化処理銅箔を積層し、圧力4.0MPa、温度220℃で90分間熱圧着した後、キャリアを剥離し、銅張積層板を作製した。
【0058】
(10)SAP評価用積層体の作製
次いで、硫酸-過酸化水素系エッチング液で表面の銅箔をすべて除去した後、脱脂、Pd系触媒付与、及び活性化処理を行った。こうして活性化された表面に無電解銅めっき(厚さ:1μm)を行い、SAP法においてドライフィルムが張り合わせられる直前の積層体(以下、SAP評価用積層体という)を得た。これらの工程はSAP法の公知の条件に従って行った。
【0059】
(11)SAP評価用積層体の評価
上記得られたSAP評価用積層体について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0060】
<めっき回路密着性(シェア強度)>
SAP評価用積層体にドライフィルムを張り合わせ、露光及び現像を行った。現像されたドライフィルムでマスキングされた積層体にパターンめっきで厚さ14μmの銅層を析出させた後、ドライフィルムを剥離した。硫酸-過酸化水素系エッチング液で表出している無電解銅めっきを除去し、高さ15μm、幅10μm、長さ150μmのシェア強度測定用回路サンプルを作製した。接合強度試験機(Nordson DAGE社製、4000Plus Bondtester)を用い、シェア強度測定用回路サンプルを横から押し倒した際のシェア強度を測定した。すなわち、
図6に示されるように、回路136が形成された積層体134を可動ステージ132上に載置し、ステージ132ごと図中矢印方向に移動させて、予め固定されている検出器138に回路136を当てることで、回路136の側面に対して横方向の力を与えて押し倒し、その時の力(gf)を検出器138にて測定してシェア強度として採用した。このとき、テスト種類は破壊試験とし、テスト高さ10μm、降下スピード0.050mm/s、テストスピード100.0μm/s、ツール移動量0.05mm、破壊認識点10%の条件で測定を行った。
【0061】
<エッチング性>
SAP評価用積層体に対して硫酸-過酸化水素系エッチング液で0.2μmずつエッチングを行い、表面の銅が完全になくなるまでの量(深さ)を計測した。この計測は、光学顕微鏡(500倍)で確認することにより行った。より詳しくは、0.2μmエッチングする毎に光学顕微鏡で銅の有無を確認する作業を繰り返し、(エッチングの回数)×0.2μmにより得られた値(μm)をエッチング性の指標として用いた。例えば、エッチング性が1.2μmということは、0.2μmのエッチングを6回行ったところで、光学顕微鏡で残存銅が検出されなくなったことを意味する(すなわち0.2μm×6回=1.2μm)。すなわち、この値が小さいほど少ない回数のエッチングで表面の銅を除去できることを意味する。換言すれば、この値が小さいほどエッチング性が良好であることを意味する。
【0062】
<ドライフィルム解像性(最小L/S)>
SAP評価用積層体の表面に厚さ25μmのドライフィルムを張り合わせ、ライン/スペース(L/S)が2μm/2μmから15μm/15μmまでのパターンが形成されたマスクを用いて露光及び現像を行った。このときの露光量は125mJとした。現像後のサンプルの表面を光学顕微鏡(倍率:500倍)で観察し、問題なく現像が行えたL/Sにおける最小の(すなわち最も微細な)L/Sをドライフィルム解像性の指標として採用した。例えば、ドライフィルム解像性評価の指標である最小L/S=10μm/10μmということは、L/S=15μm/15μmから10μm/10μmまでは問題無く解像できたことを意味する。例えば、問題無く解像できた場合はドライフィルムパターン間で鮮明なコントラストが観察されるのに対し、解像が良好に行われなかった場合にはドライフィルムパターン間に黒ずんだ部分が観察され鮮明なコントラストが観察されない。
【0063】
結果
例1~3において得られた評価結果は表3に示されるとおりであった。
【0064】