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特許7166339皮膚症状の治療を強化するための局所療法および全身療法の組み合わせ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】皮膚症状の治療を強化するための局所療法および全身療法の組み合わせ
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4035 20060101AFI20221028BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20221028BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20221028BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221028BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221028BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
A61K31/4035
A61K31/352
A61P17/06
A61P43/00 121
A61K9/08
A61K9/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020529170
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 US2018063094
(87)【国際公開番号】W WO2019108814
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】62/592,086
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596171834
【氏名又は名称】ザ ロックフェラー ユニヴァーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】510293969
【氏名又は名称】プロヴェクタス ファーマテック,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100086368
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 誠
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス ジー. クルーガー
(72)【発明者】
【氏名】サンドラ ガーセット
(72)【発明者】
【氏名】ジェイミー シンガー
(72)【発明者】
【氏名】エリック ワクター
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-510728(JP,A)
【文献】国際公開第02/034292(WO,A1)
【文献】Expert Opin Emerging Drugs,2013年,Vol.18, No.4,p.523-532
【文献】Expert Opin Pharmacother,2016年,Vol.17, No.1,p.79-92
【文献】Nature Biotechnology,2011年,Vol.29, No.7,p.615-624
【文献】Curr Rheumatol Rep,2016年,Vol.18:72,p.1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの上皮組織の乾癬治療に使用するための、治療有効量の局所免疫修飾用医薬組成物と治療有効量の標的化全身性抗炎用医薬組成物とを組合せた組成物であって、
前記局所免疫修飾用医薬組成物は、親水性医薬組成物中に溶解又は分散する治療有効量のローズベンガル又は薬学的に許容可能なその塩を含み、前記上皮組織の乾癬に局所塗布され、
前記標的化全身性抗炎用医薬組成物は、経口的に全身投与される治療有効量のアプレミラストであり、
前記局所免疫修飾用医薬組成物及び前記標的化全身性抗炎用医薬組成物は、相乗効果をもたらす、組成物。
【請求項2】
前記親水性医薬組成物は、前記ローズベンガルまたは薬学的に許容可能なその塩を約0.0001重量%~約0.01重量%の濃度で含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記親水性医薬組成物は、その組成物の粘度を25℃の温度および1気圧で約10~約1000センチポアズ(cps)とする量で存在する粘度上昇剤を含有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記親水性医薬組成物は、約0.1~約2重量%の濃度で存在する、または代わりに、約100mOsm/kgより大きく、且つ約600mOsm/kg以下の浸透圧を提供するのに十分なレベルで存在する水溶性電解質を含有する、請求項3に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2017年11月29日に出願された米国仮特許出願第62/592,086号に基づく優先権を主張し、当該米国仮特許出願の開示内容を援用するものである。
【0002】
本発明は、皮膚病学の分野に係り、皮膚病学のための改善された治療レジメンに関する。
【背景技術】
【0003】
過剰増殖性または炎症性皮膚症状を治療するための薬理学的アプローチは、従来、様々な単剤全身療法、単剤局所療法(単剤療法)、または光線療法などの他の局所投与モダリティの使用に依存してきた。これらの療法はいずれも、毒性を回避するため、または断続的に炎症を抑えて、しばしば散発的に現れる症状に対処するために、ローテーションで行われる。これらの疾患は慢性的且つ生涯にわたるものであり、管理が困難である。
【0004】
疾患の根本的な誘因を予測して対処することは困難であり、広範な症状が現れる前の治療介入という課題が生じる。これらの疾患の管理では、乾癬のシクロスポリンとメトトレキサートの場合と同様に、薬品の副作用について患者を監視すること(McClure他、2001 Drug Safety 25:913-927)、または毒性を回避したり、コンプライアンスを向上させるために、連続的または断続的なアプローチにおいて薬品をローテーションさせることが必要である場合が多い。
【0005】
乾癬およびアトピー性皮膚炎のいずれにおいても、患者の疾患はT細胞によって引き起こされる。典型的な治療は、皮膚細胞の潜在的な炎症や増殖、または過剰な免疫細胞機能の抑制を対象としている。局所ステロイドは、過剰増殖性皮膚障害に対して最も一般的に処方される治療である。ただし、局所コルチコステロイドクリームの長期使用は、皮膚の菲薄化、皮膚線条の原因となり、全身に影響を与える可能性がある。局所カルシニューリン阻害剤は、悪性腫瘍のまれな症例に関与している。
【0006】
いわゆるPUVA治療には、ソラレンの使用と、皮膚に投与されるUVA光(長波長紫外線)への曝露とが含まれる。この治療には、皮膚の老化が進行し、皮膚がんにかかりやすくなるという欠点があり、また、診療所で複数回に亘り光線療法を受ける必要があるため、患者にとって不便である。
【0007】
局所および経口ホスホジエステラーゼ-4阻害剤もまた、これらの症状において免疫細胞を標的とするために使用される。メトトレキサート、シクロスポリン、フマル酸エステル、アシトレチン、アレファセプトは、これらの疾患に対処するための低分子アプローチであり、いずれも副作用と有効性のレベルが異なる。
【0008】
アダリムマブ、グセルクマブ、エファリズマブ、エタネルセプト、インフリキシマブ、アバタセプト、ゴリムマブ、およびウステキヌマブなどの新しい生物学的製剤は高価であり、様々な副作用、特に潜伏結核の再活性化、感染リスクの増加、脱髄症状の悪化、肝毒性、および心血管合併症、の組み合わせを有する。
【0009】
TNF-αの阻害(例:グセルクマブ、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、およびゴリムマブ)、IL-17Aの阻害(セクキヌマブおよびイキセキズマブ)、IL-6の阻害(サリルマブ)、IL-12/IL-23の阻害、および最新の生物学的製剤(グセルクマブ)によるIL-23のα-サブユニットp19の阻害のような、炎症経路に向けられた単剤療法の後、一部の患者においては改善が見られない。このような「混在した」反応の結果は、乾癬、湿疹または光線角化症に対して現在承認されている他の局所薬または全身薬でも生じており、治療を個別化する必要性、および潜在的には個々の薬品に対する反応予測バイオマーカを持つ必要性を浮き彫りにしている。
【0010】
上記の活性剤のうち、エファリズマブとアレファセプトは製造中止となっている。
【0011】
より多くの皮膚症状は、投与量の低減を余儀なくさせる全身毒性、または単剤治療剤の活性を回避する耐性の発現のいずれかにより、上述のような単剤療法に対して完全に反応しない可能性がある。さらに、過剰増殖性皮膚障害の症状と遺伝的原因には人種差があり、また、例えば、アトピー性皮膚炎(AD:atopic dermatitis)の病因には、発症が小児期または成人期であるかに応じた年齢差がある。これは、小児のADに関する臨床研究の不足によって更に複雑化している。なぜなら、小児に対しては、根本的な疾患が他の炎症マーカによって引き起こされている可能性のある成人に対して最初に承認された医薬品が処方されることが多いためである。これらの問題のため、有効性と安全性の面で大幅な改善の余地がある。
【0012】
複数の局所薬剤の併用は、湿疹においてある程度の効果を示しており(Kim他、Dermatol Ther. 2016 Mar-Apr;29(2):120-125)、この複数の局所薬剤の併用は乾癬に対しても多く行われる(Feldman他、Am Health Drug Benefits 2016 Dec 9(9):504-513)。ただし、このような複数の局所薬剤の併用の多くは満足のいく反応を実現しない。
【0013】
経口プロバイオティクス、プレバイオティクス、およびシンバイオティクスも乾癬と湿疹の両方で使用されており、ある程度の皮膚症状の改善をもたらしている(Notay他、Am J Clin Dermatol. 2017 18(6):721-732)。
【0014】
全身性免疫抑制なしに乾癬の根底にある皮膚の免疫細胞機能障害に局所的に対処する治療戦略は、治療法の開発において強く求められている(Lowes他、Annu Rev Immunol 2014 32:227-255)。現在使用されている1つの方法は、UVB第一選択療法を含む光線力学療法(PDT)である(Wu他、Chem Commun 2018 54:7629-7632)。これらの治療法は、T細胞およびケラチノサイトのアポトーシスを誘導し、骨髄性炎症性樹状細胞および病的サイトカイン(IL-17、INF-ガンマおよびIL-22)を減少させることにより、乾癬の組織構造を正常化することが示されている[Johnson-Huang他、J Invest Derm 2010 130(11):2654-2663]。
【0015】
乾癬における潜在的な免疫薬の標的をより良く理解するために、研究者らは、乾癬病変における免疫マーカおよび遺伝子過剰発現について、病変皮膚と非病変皮膚とを比較して調べた。その結果、病変皮膚におけるmDCおよびCD4T細胞、ならびにINF-ガンマ誘導性遺伝子の過剰発現の関与が示された[Yao他、PLos One July 16, 2008、3(7):e2737]。この研究では、病変皮膚生検および非病変皮膚生検を比較して、疾患の細胞マーカおよび生化学マーカを解明した。
【0016】
治療上の課題を有する皮膚症状は、腸内の刺激に反応して更に複雑化する可能性がある。研究により、腸内細菌は湿疹の発症の一因となることが示されており(D'Mello他、Int J Mol Sci. 2016 Jul;17(7):1144)、腸内細菌は、TH17反応を促進することにより乾癬の一因となる可能性がある(Zakostelska他、PLoS One. 2016 Jul 19;11(7):e0159539)。
【0017】
原因に関わらず、異常な免疫炎症性反応が一旦始まると、従来の治療法で止めることは困難である。
【0018】
局所的に送達される疾患細胞特異的キサンテンの使用は、本発明者の1人以上によって(例えば、本願にその開示全体が組み込まれる特許文献1に)記載されている新たな混成アプローチである。このアプローチは、局所的な有効性を最大化する一方で、塗布された薬剤への患者の全身性曝露と、その結果として生じうる全身性副作用とを最小限にする。
【0019】
本発明者の1人以上は、ある特定の種類の薬剤(例えば、「PH-10」と呼ばれ、乾癬および湿疹の治療のための臨床試験を受けている、生理食塩水中にローズベンガル二ナトリウムを0.001%~10%含有する溶液に代表される、特定のハロゲン化キサンテンの特定の製剤)の局所使用が、これらの疾患における掻痒感および紅斑のような特徴的な症状の軽減を誘発するだけでなく、障害の長期的軽減をもたらし得る、疾患の根本的な原因遺伝子に対する直接的な改変をも誘発し得ることを示した。局所PH-10を用いたケラチノサイトの不適切なシグナル伝達の標的化は、局所炎症に影響を与える可能性のある免疫反応を明確にし、特定の疾患応答を促進する上でアジュバントの役割を果たす可能性があると考えられる。さらに、ハロゲン化キサンテンは、疾患の根本的な原因に影響を与える可能性がある抗微生物(例:抗細菌、抗真菌、および/または抗寄生虫)特性を有する(Kim他、Nanomaterials (Basel). 2016 Dec;6(12):243)。
【0020】
PH-10は、ローズベンガル二ナトリウムを上皮組織に選択的に送達する局所ヒドロゲル製剤である[Wachter他、Lasers Surg Med 2003 32(2):101-110]。インビトロでの研究により、ローズベンガルは、生体系中に存在するときに、非常に低い濃度で、または関連する波長の光に曝されたときに、光活性化できることが実証されている。ローズベンガルは光活性化することで、一重項酸素を生成し(Neckers、J Photochem Photobiol A 1989 47:1-29;Lee他、Photochem Photobiol 1987 45(1):79-86)、標的組織の選択的な局所細胞破壊を誘発して、細胞死、および/または光線力学療法後の有益な免疫反応に関与するサイトカインメディエータの放出をもたらす可能性がある(Diezel他、Dermatol Monatsschr 1980;166:793-797;Neuner他、Photochem Photobiol 1994;59:182-188;Boehncke他、Lancet Mar. 26, 1994 343:801)。
【0021】
生体系中で照明を受け続けると、ローズベンガルは光退色して不活性状態になり得(Tongai他、J Toxicol Sci 1979;4:115-125;HeitzおよびWilson、Mississippi Agriculture and Forestry Experiment Station Publication 1978;8532:35-48)、自己限定的な光活性化活動を引き起こす可能性がある。さらに、光の存在下でのローズベンガルの皮内注射は、ウサギの皮膚の紅斑の増加を伴う多形核白血球の蓄積とヒスタミン放出とをもたらした。この効果は、ベータカロチンの同時投与により可逆的であった(Ranadive他、J Nutr 1989 119:690-701)。
【0022】
さらに、ローズベンガルによって生成されたフリーラジカルは、マクロファージにおける光照射を行う場合(Singh他、Arch Biochem Biophys 1995 324(2):367-373)および光照射を行わない場合(Zamani他、J Immunotoxicol 2014 11(4):367-375)の一酸化窒素の消費に関係している。最近の臨床研究では、乾癬(NCT01247818、NCT00941278)やアトピー性皮膚炎(NCT00690807)などの皮膚症状において、活性光による活性化なしでローズベンガルを評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】米国特許第8974363号
【文献】米国特許第9107887号
【文献】米国特許第5998597号
【文献】米国特許第6331286号
【文献】米国特許第6493570号
【文献】米国特許第2798053号
【文献】米国特許第2909462号
【文献】米国特許第3330729号
【発明の概要】
【0024】
本発明は、特定の局所治療モダリティ、具体的には、PH-10の名称で呼ばれるようなハロゲン化キサンテン薬剤を用いる、抗微生物指向治療またはケラチノサイト指向治療などの特定の局所免疫修飾療法を、有効量の1以上の特定の全身治療モダリティと組み合わせることによる、予期および予測されなかった相乗効果の結果である。この組み合わせは、両方の治療モダリティの治療活性を高めることができ、またそれぞれの療法を別々に用いた場合に通常生じる副作用(morbidity)を大幅に増大させる恐れがなく、むしろこれを全体的に低減する可能性がある。
【0025】
局所的に送達されるハロゲン化キサンテンは、アトピー性皮膚炎および乾癬の両方において掻痒感の迅速な軽減、ならびに28日間の治療後の皮膚疾患の除去をもたらし得る。この掻痒感の迅速な軽減は患者にとって有益であり、またハロゲン化キサンテンは曝露されていない皮膚や周囲組織または全身組織を通過しないため、ハロゲン化キサンテンへの全身性曝露が制限される。このハロゲン化キサンテンへの全身性曝露の制限は、ハロゲン化キサンテンの抗微生物活性(すなわち、抗細菌、抗真菌、および/または抗寄生虫活性)、またはハロゲン化キサンテンの既知の免疫修飾活性(特許文献2)によるものである可能性がある。原因に関わらず、上記のような治療後には特定の遺伝子マーカが変化し、変化によって生じた遺伝子マーカは、ハロゲン化キサンテンが驚くべきことに通常の抗炎症遺伝子を介して、または現在の治療法と同じ方法で作用しておらず、炎症性皮膚病の原因または一因となる他の遺伝子に作用していることを示している。
【0026】
しかしながら、通常の使用の場合、および疾患が広く播種している、重度である、または局所薬剤で完全にカバーするのが困難な形で存在する場合には、補完的治療モダリティ、特にハロゲン化キサンテンの局所塗布によって得られる活性を補完する抗炎症活性をもたらすモダリティを使用すると、相乗的な利益が得られる。このような補完的な治療法の使用にはさらに、片方または両方の治療法を、高い有効性を維持しながら、(それぞれ単剤療法で個別に用いられた場合に必要な量/継続期間と比べて)少ない投与量または短い継続期間で利用できるようにし、これにより望ましくない副作用を低減することができるという、相乗的相互作用の面での利点がありうる。
【0027】
特に、例えばPH-10またはその他のハロゲン化キサンテン含有組成物を用いた局所塗布など、自己免疫反応によって引き起こされる皮膚細胞の過剰増殖に向けられた強力な局所療法を、皮膚病のための1つ以上の全身療法(特に1つ以上の炎症経路に対処するもの)と組み合わせて用いることは、特に(uniquely)健康に良い組み合わせを生じるため非常に魅力的である:患者の皮膚疾患を、抗炎症経路を標的とした全身性の抗炎症薬または生物製剤の存在下で、ハロゲン化キサンテンのケラチノサイト調節効果、更には抗微生物効果に対して曝露することになるのである。このような組み合わせの効果は、ハロゲン化キサンテンの投与前、投与時、または局所投与後に高められうる。
【0028】
局所塗布は治療を繰り返すのに適しているので、実施形態としては、例えば全身性免疫修飾療法を継続的に実施しながら、キサンテンの局所投与を1回以上実施することにより、根本的な炎症に対して継続的に相乗作用を与えることが好ましい。代替的な実施形態としては、キサンテンの局所投与の後に、全身性抗炎症療法を開始することができる。
【0029】
局所皮膚療法を全身性抗炎症療法のレジメンと組み合わせることで得られる利益によって、これ以外の方法では望ましくないとされる全身療法が、実施できるようになる可能性がある。例えば、併用療法における全身性組成物による効果が結果的に増強されることで、全身投与量を低減したレジメンが可能となり、これに比例する全身療法による副作用を低減することも可能となりうる。さらに、局所療法(即ち、局所キサンテン)の副作用プロファイルは、ほとんどの全身療法の副作用プロファイルとは重複しないので、局所および全身性皮膚病療法の組み合わせは、望ましくない相乗的な副作用を生じうる従来の組み合わせよりも、本質的に安全でより魅力的である。
【0030】
本発明は、皮膚へ適用可能であることに加えて、腸または生殖管の内壁の疾患などの他の上皮組織の疾患にも適用可能である。
【0031】
本開示の一部を構成する図面は、下記の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】PH-10による局所キサンテン治療に対して病変皮膚(LS)が反応したヒト乾癬患者のサブセット(レスポンダ)の遺伝子配列結果に対する、主成分分析(PCA)による生検分析を示す。過剰増殖性皮膚障害の遺伝子発現マーカを、1)ベースライン1日目の非病変皮膚(ベースラインNL);2)1日目の病変乾癬皮膚(ベースラインLS)、28日間の製剤賦形剤塗布後の病変乾癬皮膚(29日目LS)、および6日間の無治療期間後に行った0.005%ローズベンガルによる28日間の局所キサンテン治療後の病変乾癬皮膚(64日目LS)を使用して比較した。64日目の病変皮膚は、ベースラインの非病変皮膚の特徴を有する集団となっている。3桁の数字は患者識別コードである。アッセイは、Kim他、J Invest Dermatol 2016 136:2173-2182、およびKrueger他、J Allergy Clin Immunol 2015 136(1):116-124において述べられたものと同等であった。
図2】図の上部付近に記載されている乾癬に関連する遺伝子のmRNA遺伝子マーカ(KRT16)の固有性(identity)を示す図である。発現mRNAの量は、レスポンダ(R;図2A)および非レスポンダ(NR;図2B)等において64日目に標準化された;すなわち、非病変(NL)皮膚および異なる時点(ベースライン、29日目、および64日目)での病変(LS)乾癬皮膚における、分子応答コホート(レスポンダおよび非レスポンダ)による最小二乗平均mRNA log2(発現/hARP)レベル(qRT-PCR)を示す。アスタリスクは、グループ間の統計的に有意な差を示す:*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001。
図3】図の上部付近に記載されている乾癬に関連する遺伝子のmRNA遺伝子マーカ(CTLA4)の固有性(identity)を示す図である。発現mRNAの量は、レスポンダ(R;図3A)および非レスポンダ(NR;図3B)等において64日目に標準化された;すなわち、非病変(NL)皮膚および異なる時点(ベースライン、29日目、および64日目)での病変(LS)乾癬皮膚における、分子応答コホート(レスポンダおよび非レスポンダ)による最小二乗平均mRNA log2(発現/hARP)レベル(qRT-PCR)を示す。アスタリスクは、グループ間の統計的に有意な差を示す:*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001。
図4】図の上部付近に記載されている乾癬に関連する遺伝子のmRNA遺伝子マーカ(IL19)の固有性(identity)を示す図である。発現mRNAの量は、レスポンダ(R;図4A)および非レスポンダ(NR;図4B)等において64日目に標準化された;すなわち、非病変(NL)皮膚および異なる時点(ベースライン、29日目、および64日目)での病変(LS)乾癬皮膚における、分子応答コホート(レスポンダおよび非レスポンダ)による最小二乗平均mRNA log2(発現/hARP)レベル(qRT-PCR)を示す。アスタリスクは、グループ間の統計的に有意な差を示す:*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001。
図5】図の上部付近に記載されている乾癬に関連する遺伝子のmRNA遺伝子マーカ(S100A12)の固有性(identity)を示す図である。発現mRNAの量は、レスポンダ(R;図5A)および非レスポンダ(NR;図5B)等において64日目に標準化された;すなわち、非病変(NL)皮膚および異なる時点(ベースライン、29日目、および64日目)での病変(LS)乾癬皮膚における、分子応答コホート(レスポンダおよび非レスポンダ)による最小二乗平均mRNA log2(発現/hARP)レベル(qRT-PCR)を示す。アスタリスクは、グループ間の統計的に有意な差を示す:*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001。
図6】図の上部付近に記載されている乾癬に関連する遺伝子のmRNA遺伝子マーカ(S100A7A)の固有性(identity)を示す図である。発現mRNAの量は、レスポンダ(R;図6A)および非レスポンダ(NR;図6B)等において64日目に標準化された;すなわち、非病変(NL)皮膚および異なる時点(ベースライン、29日目、および64日目)での病変(LS)乾癬皮膚における、分子応答コホート(レスポンダおよび非レスポンダ)による最小二乗平均mRNA log2(発現/hARP)レベル(qRT-PCR)を示す。アスタリスクは、グループ間の統計的に有意な差を示す:*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001。
図7】図の上部付近に記載されている乾癬に関連する遺伝子のmRNA遺伝子マーカ(IL36A)の固有性(identity)を示す図である。発現mRNAの量は、レスポンダ(R;図7A)および非レスポンダ(NR;図7B)等において64日目に標準化された;すなわち、非病変(NL)皮膚および異なる時点(ベースライン、29日目、および64日目)での病変(LS)乾癬皮膚における、分子応答コホート(レスポンダおよび非レスポンダ)による最小二乗平均mRNA log2(発現/hARP)レベル(qRT-PCR)を示す。アスタリスクは、グループ間の統計的に有意な差を示す:*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001。
図8】PH-10で治療した患者の、非病変(NL)皮膚および異なる時点(ベースライン、29日目、および64日目)での病変(LS)乾癬皮膚における、レスポンダ(R;図8A)および非レスポンダ(NR;図8B)での、図の上部付近に記載されている免疫組織化学マーカ(Thickness)の発現の減少を示す図である。アスタリスクは、グループ間の統計的に有意な差を示す:*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001。
図9】PH-10で治療した患者の、非病変(NL)皮膚および異なる時点(ベースライン、29日目、および64日目)での病変(LS)乾癬皮膚における、レスポンダ(R;図9A)および非レスポンダ(NR;図9B)での、図の上部付近に記載されている免疫組織化学マーカ(Langerin)の発現の減少を示す図である。アスタリスクは、グループ間の統計的に有意な差を示す:*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001。
図10】PH-10で治療した患者の、非病変(NL)皮膚および異なる時点(ベースライン、29日目、および64日目)での病変(LS)乾癬皮膚における、レスポンダ(R;図10A)および非レスポンダ(NR;図10B)での、図の上部付近に記載されている免疫組織化学マーカ(CD3)の発現の減少を示す図である。アスタリスクは、グループ間の統計的に有意な差を示す:*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001。
図11】PH-10で治療した患者の、非病変(NL)皮膚および異なる時点(ベースライン、29日目、および64日目)での病変(LS)乾癬皮膚における、レスポンダ(R;図11A)および非レスポンダ(NR;図11B)での、図の上部付近に記載されている免疫組織化学マーカ(CD11)の発現の減少を示す図である。アスタリスクは、グループ間の統計的に有意な差を示す:*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001。
図12】RT-PCRによって評価された発現mRNAのグラフである。ベースラインNL、ベースラインLS、29日目LS、および64日目LSに対する最小二乗平均値(LSmeans)としての調査対象母集団の全体において、プラセボ投与の最終日からPH-10投与の最終日までの病変皮膚におけるケラチン-16(KRT16)の発現の統計的に有意な低下を明示している。
図13】正常なヒト皮膚の共焦点蛍光顕微鏡写真である:局所PH-10(13A)対H&E染色(13B)。Wachter他、Lasers Surg Med 2003 32:101より。
図14】病巣および連続生検の箇所の概要を示す概略図である。連続生検の箇所は、単一の病巣内における、ベースライン(最初の生検)に対する、連続28日間の賦形剤(2回目の生検、研究29日目)およびPH-10(3回目の生検、64日目)の効果を評価するためにマークされた。隣接する正常皮膚は、ベースラインの7日前に最初の生検と同時に採取された。
図15】ベースライン(左)、賦形剤塗布後(中央)、およびPH-10塗布後(右)の単一の標的病巣の2つの倍率の写真である。
図16A】本研究におけるレスポンダの非病変(NL)皮膚、ならびにベースライン(BL)、賦形剤後(D29)、およびPH-10後(D64)の病変(LS)乾癬皮膚の免疫組織化学(IHC)染色の顕微鏡写真である。
図16B】本研究における非レスポンダの非病変(NL)皮膚、ならびにベースライン(BL)、賦形剤後(D29)、およびPH-10後(D64)の病変(LS)乾癬皮膚の免疫組織化学(IHC)染色の顕微鏡写真である。
図17】評価可能なすべての患者の非病変(NL)皮膚、ならびにベースライン(BL)、29日目、および64日目の病変(LS)乾癬皮膚の遺伝子配列結果のPCA(DEG FCH>2およびfdr<0.05)を示す。Kim他、J Invest Dermatol 2016 136:2173-2182、およびKrueger他、J Allergy Clin Immunol 2015 136(1):116-124で提示されたデータと同様の方法で分析を行った。
図18】データセット内のすべての遺伝子のPCAマイクロアレイデータを示す図である。これらのデータを使用して、D64/LSのPC-1値が非病変(BL/NL)皮膚のベースラインのPC-1値の90パーセンタイルよりも低い患者である、「分子レスポンダ」のコホートを特定した。これらのレスポンダの場合、PH-10治療後のLS組織における遺伝子発現は、ベースラインのNL皮膚に類似している。データは、DEG FCH>2およびfdr<0.05の場合に示される。
図19A】レスポンダの場合の、非病変(NL)皮膚、ならびにベースライン(BL)、29日目(D29)、および64日目(D64)の病変(LS)乾癬皮膚における、分子応答コホートによる最小二乗平均mRNA log2(発現/hARP)レベル(qRT-PCR)のヒートマップ要約である。Kim他、J Invest Dermatol 2016 136:2173-2182、およびKrueger他、J Allergy Clin Immunol 2015 136(1):116-124で提示されたデータと同様の方法で分析を行った。
図19B】非レスポンダの場合の、非病変(NL)皮膚、ならびにベースライン(BL)、29日目(D29)、および64日目(D64)の病変(LS)乾癬皮膚における、分子応答コホートによる最小二乗平均mRNA log2(発現/hARP)レベル(qRT-PCR)のヒートマップ要約である。Kim他、J Invest Dermatol 2016 136:2173-2182、およびKrueger他、J Allergy Clin Immunol 2015 136(1):116-124で提示されたデータと同様の方法で分析を行った。
図20A】レスポンダの場合の、非病変(NL)皮膚、ならびにベースライン(BL)、29日目(D29)、および64日目(D64)の病変(LS)乾癬皮膚における、分子応答コホートによるICOS発現を示すグラフである。
図20B】非レスポンダの場合の、非病変(NL)皮膚、ならびにベースライン(BL)、29日目(D29)、および64日目(D64)の病変(LS)乾癬皮膚における、分子応答コホートによるICOS発現を示すグラフである。
図21】ヒトの皮膚吸収研究の一般的なモデルであるゲッチンゲンミニブタの背部皮膚のうちの面積250cmに、DMSO製剤として14C-ローズベンガルを単回局所塗布し、塗布の24時間後における皮膚の放射能濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、治療有効量の局所ハロゲン化キサンテン医薬組成物を、治療有効量の全身性抗炎症薬剤と組み合わせて投与することを含む、過剰増殖性皮膚障害、即ち、以下で説明および例示する、表皮における皮膚細胞のターンオーバー速度の上昇の治療方法を企図する。
【0034】
本発明はまた、特に、治療有効量のハロゲン化キサンテン医薬組成物を、治療有効量の全身性免疫系下方制御剤と組み合わせて投与することを含む、乾癬および湿疹の治療方法も企図する。
【0035】
以下で論じる14C標識ローズベンガルの非臨床的局所塗布研究は、ほとんどのローズベンガルが角質層に留まり、表皮および真皮に存在する量は減少していることを示す。実施された研究では、放射能は血漿に到達しなかった。それにもかかわらず、臨床試験参加者の皮膚中の免疫マーカは、メッセンジャーRNA(mRNA)のPCAによって測定したところ下方制御されていた。
【0036】
これらの結果は、局所塗布されたPH-10の影響を受けるのはケラチノサイトであることを意味するが、全身薬は皮膚のより深い層や他の離れた器官からの他の遺伝子発現を抑制する。これは、ケラチノサイトを治療するためのハロゲン化キサンテンを用いた局所治療と、他の組織を治療するための全身薬とを使用することにより、皮膚の異なる部分を異なる方法で治療できることを示している。
【0037】
PH-10局所治療により活性が低下した(下方制御された)遺伝子には、KRT16、CTLA4、IL19、S100A12、S100A7A、およびIL36Aが含まれる。図2A、3A、4A、5A、6Aおよび7Aの結果からわかるように、これらの遺伝子の活性の低下は、少なくともベースラインの病変皮膚と64日目(すなわち、4週間のPH-10治療後)の病変皮膚との間で統計的に有意であった。
【0038】
さらに、4週間のPH-10の塗布により、RT-PCRによって評価される通り、IL-17A、IL-22、IL-26、IL-36およびケラチンmRNAが有意に(FC>1.5、p<0.05)下方制御された。また、遺伝子配列結果のPCA分析では、いくつかの治療後生検が非病変皮膚プロファイル内に集団化されていることから、非病変皮膚へのシフトが示された。PH-10塗布後の病変皮膚において有意に改善された経路には、公開された乾癬のトランスクリプトームと、IL-17、IL-22、およびインターフェロンを介した細胞応答とが含まれていた。
【0039】
被験者のサブセット(本明細書では「レスポンダ」と称する)において、IL-23、IL-17、IL-22、S100A7、IL-19、IL-36およびCXCL1を含む「乾癬関連」遺伝子が効果的に正常化された。すなわち、治療された病変皮膚は、ベースラインの非病変皮膚に存在する値と同じ範囲の上記の遺伝子の遺伝子発現値を有していた。これらのレスポンダにおける免疫組織化学では、治療領域生検における骨髄(CD11c)樹状細胞およびT細胞の発現の低下が示された。
【0040】
「レスポンダ」は、評価可能な被験者の27%を占めた。「レスポンダ」と「非レスポンダ」との間の違いは、PH-10塗布時のケラチノサイトの再生段階の機能であったと考えられる。ケラチノサイトは、分化において、基底細胞の段階から角質細胞の脱落の段階迄に平均約3か月(約12週間)を要する。
【0041】
本明細書および図21に示すデータは、放射性標識ローズベンガルをゲッチンゲンミニブタの皮膚の表面に局所的に塗布した場合、放射性標識ローズベンガルが組織の下層または血漿に到達するようには皮膚を浸透しなかったことを明示している。ゲッチンゲンミニブタは、ヒトの皮膚のモデルとして製薬研究で頻繁に使用されている。Nunoya他、J Toxicol Pathol 2007 20:125-132。このローズベンガルの角質層および表皮への局所的な送達は、図13Aのヒトの皮膚に示されている。
【0042】
免疫系下方制御剤治療など、NSAID以外の全身性抗炎症剤を使用して根本的な疾患を標的とすることと、局所的に作用する局所ハロゲン化キサンテンの投与との組み合わせは、炎症や過剰増殖を抑えながら、皮膚への潜在的な治療効果を最大化するため、特に魅力的である。したがって、疾患の目に見える症状の原因となる炎症および過剰増殖は、異なる炎症性物質に作用する両方の薬剤の作用によって軽減することができる。
【0043】
治療のこれらの側面は、基底膜を再生して皮膚を補充するために必要な、最大12週間の可変的な皮膚のターンオーバー速度およびタイミングのために、特に重要である。皮膚疾患に特異的な炎症マーカにさらに対処する全身療法と組み合わせた場合、局所投与の部位と、塗布部位の近位および遠位を含む未治療部位との両方において、根本的な病因への相乗的な効果が得られる。
【0044】
局所キサンテン投与と標的化生物製剤との組み合わせのように、局所療法と全身性標的化療法とを組み合わせると、多くの利点が生じる。「標的化全身性」および「全身性標的化」という語句は、本明細書では同義的に使用される。キサンテンの局所投与は炎症性皮膚病に対して固有の破壊的影響を与えるため、このモダリティと、TNF-α、IL-17、IL-12、IL-23経路、または炎症や過剰増殖に関与する遺伝子の過剰発現を標的とするアプローチなど、全く異なる経路を介して炎症経路を標的とするアプローチとを組み合わせることで、治療される皮膚または腸での効果を高めることができる。
【0045】
たとえば、局所キサンテン投与の後に全身療法を行って炎症を抑えることにより、局所治療で対処された不発性(misfiring)ケラチノサイトは、炎症の減少の結果として免疫系に認識され得るようになる;全身療法が、ハロゲン化キサンテンの投与による免疫反応の進行を妨げることなく疾患の炎症特性のマスキングに対抗するため、PH-10または類似のハロゲン化キサンテン組成物で直接治療されていない組織の反応も増強されて、PH-10治療による免疫活性が可能となる。
【0046】
これらの利点は、ハロゲン化キサンテン組成物の投与による過剰増殖の減少により、免疫抑制、および炎症組織からの生理的要求が低減されることで、さらに増強される。この環境において全身性標的化療法に求められるのは、乾癬または湿疹様皮膚の完全な制御および根絶を達成することではなく、むしろ局所療法の作用を増強する役割を果たすことであるから、投与量を低減して全身療法を実施することが可能となりうる。そうすると潜在的な副作用が最小化され、併用療法は従来の全身療法の組み合わせよりも安全で魅力的なものになる。局所療法の組成物によって生じるケラチノサイトに対する反応の追加は、多くの全身療法で悩まされてきた耐性の問題に対抗する手段を提供し、全身性薬剤が効かなくなる度に療法を切り替えるという必要性を低減する。
【0047】
疾患負担が非常に大きいか、広く拡散しているとき、または疾患が急速に増殖するもので、局所療法の効果的な実施を困難にしたり、効果を低減させたりする可能性があるときなど、局所療法に先立ち、全身性標的化療法を開始することが望ましい場合もありうる。このように、全身療法は、局所療法に対する疾患の反応性を高めるべく、局所療法の実施に先立ち、炎症を制御するのに使用することもできる。全身療法の制御下にある間に、局所塗布ハロゲン化キサンテンなどの局所療法により残存疾患を治療することは、時には刺激により長期免疫を回復させ、最終的な転帰を改善するとともに、残存病変負担を除去するための手段をもたらす。
【0048】
企図される全身併用療法の例は、低分子(分子量約900以下)活性剤およびタンパク質性活性剤を含む。企図される治療方法において有用である例示的な全身活性剤は、以下を非限定的に含む:局所キサンテン局所療法と、1)アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、エタネルセプト、ゴリムマブ、グセルクマブ、またはインフリキシマブなどの1以上のTNF-αの全身性阻害剤;2)イキセキズマブ、ブロダルマブ、またはセクキヌマブなどの1以上の全身性IL-17A阻害剤、または、ウステキヌマブまたはリサンキズマブなどの混合IL-12/IL-23阻害剤;3)サリルマブなどの1以上のIL-6阻害剤;4)アプレミラスト、クリサボロール、およびその他のホスホジエステラーゼ-4(PDE4)阻害剤、特に、皮膚または直接腸へのハロゲン化キサンテンの塗布などの局所キサンテン治療と組み合わせることが可能なPDE4阻害剤のうちの1以上;5)メトトレキサート、シクロスポリン、およびアザチオプリンを含む1以上の全身性免疫系下方制御剤、との組み合わせは、局所療法のために過剰増殖の原因を明らかにすることで、有益となり得る。
【0049】
全身性抗炎症剤として、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、メロキシカム、アセトアミノフェン、セレコキシブなどのCOX-1および/またはCOX-2阻害剤であるNSAIDを、ハロゲン化キサンテンと組み合わせて使用することは企図されていない。
【0050】
モノセラピーの投与計画は、早期臨床試験における最大耐性量(MTD)の決定により設定されるのが典型的である。MTD(またはそのバリエーションである近似の量)は、有効性の評価と、安全性のより詳細な評価のために、後期臨床試験にも適用される(promulgated)。これらのMTDは、臨床試験が完了すると、確立された治療量となることが多い。
【0051】
表1に、本発明において局所療法と組み合わせることが可能な各種の全身性薬剤についての、治療上有効な投与量計画の例を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
本発明の併用療法および治療方法では、標的化全身性薬剤を下記のような局所療法と組み合わせて使用するとき、相加的効果によって、当該標的化全身性薬剤を表1に記載されているような全身性薬剤の典型的な投与計画のレベル以下で使用することが一般的に可能となる。しかしながら、表1に示される治療上有効な投与量計画は、治療を開始する際の有用な指針を提供するものであり、そこから、個々の患者を担当する医師が適切と考える量へ、治療上有効な投与量を減量することが可能である。
【0054】
標的化全身性抗炎症療法は、通常、表1に例示されているような市販の組成物を利用して、経口または非経口的に投与される。表1に記載されていない全身性標的化医薬製品の治療上有効な投与量は、当該製品のラベルに記載されている。
【0055】
2つの薬剤を、ほぼ同時に、あるいは、1時間以上、数日または数週間間隔をあけて投与することが可能である。さらに、局所ケラチノサイト作用性ハロゲン化キサンテン投与の数週間または数か月前に、安定化レジメンとして全身療法を開始することができる。
【0056】
企図される組成物中のハロゲン化キサンテン成分の送達は、組成物が生理学的pH(すなわち、約pH7)に近いpH値を有する場合、特に、pHが約4より大きい場合に行われることが最も好ましく、これによりハロゲン化キサンテンは、組成物中において確実に二塩基の形態を維持する。従って、好適な実施形態において、組成物のpH値は約4~約10であり、より好ましくは約5~約9であり、最も好ましくは約pH6~約pH8である。
【0057】
ハロゲン化キサンテン成分の皮膚組織への分配性を最大化するために、ハロゲン化キサンテンは、好ましくは親水性賦形剤に溶解または分散される。したがって、好適な実施形態において、賦形剤は、このような分配を妨害しうる非親水性成分を最小限含有する。
【0058】
局所塗布可能な組成物の好適な製剤は、親水性の、好ましくは水含有の賦形剤中に以下を含む:
1)適切な医薬組成物中の、特に好適であるローズベンガル(4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’,7’-テトラヨードフルオレセイン)等のハロゲン化キサンテン、または、エリスロシンB、フロキシンB、4,5,6,7-テトラブロモ-2’,4’,5’,7’-テトラヨードフルオレセイン、2’,4,5,6,7-ペンタクロロ-4’,5’,7’-トリヨードフルオレセイン、4,4’,5,6,7-ペンタクロロ-2’,5’,7’-トリヨードフルオレセイン、2’,4,5,6,7,7’-ヘキサクロロ-4’,5’-ジヨードフルオレセイン、4,4’,5,5’,6,7-ヘキサクロロ-2’,7’-ジヨードフルオレセイン、2’,4,5,5’,6,7-ヘキサクロロ-4’,7’-ジヨードフルオレセイン、4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’-トリヨードフルオレセイン、4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,7’-トリヨードフルオレセイン、4,5,6,7-テトラブロモ-2’,4’,5’-トリヨードフルオレセイン、および4,5,6,7-テトラブロモ-2’,4’,7’-トリヨードフルオレセインを含むその他のハロゲン化キサンテン。
【0059】
好ましい形態であるローズベンガル二ナトリウムは、以下の化学式で表される:
【0060】
【化1】
【0061】
この局所用組成物に関する好適な実施形態の詳細は、その全体が本明細書に組み込まれる特許文献1、3、4、および5に記載されている。本明細書では、この本発明の好適な実施形態を、特に乾癬および湿疹との関係において記載する。
【0062】
しかし本発明は、潰瘍性大腸炎、クローン病、光線角化症、および尋常性座瘡を非限定的に含むその他の過剰増殖性皮膚疾患または上皮疾患の治療にも適用できると分かる可能性もあり、またこれらに限定されるべきものでもない。例示的な適応にはさらに、以下の治療が含まれる:慢性の寛解再発性炎症性皮膚病であるアトピー性皮膚炎(湿疹)および乾癬;乾癬および膿疱性乾癬;ライター症候群;鬱滞性皮膚炎、鬱血性潰瘍、虚血性潰瘍、鎌状赤血球下腿潰瘍、糖尿病性潰瘍、炎症性潰瘍を含む皮膚潰瘍;湿疹性疾患および湿疹反応;さまざまな魚鱗癬;アトピー性皮膚炎;良性上皮腫瘍や過誤腫などの良性および悪性の増殖性疾患;光線角化症、基底細胞がん、扁平上皮がん、および角化棘細胞腫を含む前悪性および悪性上皮腫瘍;良性および悪性の付属器腫瘍;悪性黒色腫、日光黒子、母斑、カフェオレ斑などの色素産生細胞の腫瘍;肉腫;リンパ腫;血管腫やポートワイン母斑などの血管障害;細菌感染症、真菌感染症、イースト菌感染症、寄生虫感染症、または他の感染症などの微生物感染症;いぼ;にきび。
【0063】
企図されるハロゲン化キサンテン含有組成物は、典型的には、治療有効量のハロゲン化キサンテンを含有する。ハロゲン化キサンテンの例示的な治療有効量は、約0.0001重量%~約0.01重量%のハロゲン化キサンテンの濃度、さらにより好ましくは約0.0005重量%~約0.005重量%のハロゲン化キサンテンの濃度であり、最も好ましくは、このハロゲン化キサンテンの濃度は約0.001重量%~約0.05重量%である。上記の企図されるハロゲン化キサンテン含有組成物を、以下に述べるような用量で塗布することにより、治療上有効な用量の組成物がもたらされる。
【0064】
2)25℃等の周囲室温で約10~約1000cpsの組成物粘度を達成するのに十分なレベルの、粘度上昇剤または単に「上昇剤」と総称する、1つまたは複数の粘度上昇剤。粘度上昇剤は、典型的には、セルロース、ならびに、デンプン、アルギン酸塩、および様々なカルボキシメチルセルロースおよびその誘導体、特にUSPカルボキシメチルセルロースなどの中~高粘度のもの、などのセルロース誘導体を含む群から選択される。
【0065】
他の企図される上昇剤は、特許文献6、7、および8に記載されている、Carbopol(登録商標)934Pの名称で販売されているものなどの、中和または部分的に中和されたポリ(アクリル酸またはメタクリル酸)ホモポリマおよびコポリマ、ならびに、Carbopol(登録商標)940の名称で販売されている、より高い分子量のポリマを含む。Carbopol(登録商標)934Pは、分子あたり平均少なくとも3つのアリル基を含むと言われているポリアリルスクロースまたはポリアリルペンタエリスリトールなどの、約0.75~約2重量パーセントのポリアリルポリエーテルで架橋されたアクリル酸から調製されると言われている。ここで、アリル基はエーテル結合によって結合されている。
【0066】
上昇剤は、組成物の粘度を25℃の温度および1気圧で約10~約1000センチポアズ(cps)とする量で存在する。より好ましくは、粘度上昇剤は、粘度を約50~約500cpsとし、さらにより好ましくは、粘度は約75~約250cpsである。
【0067】
3)3番目の成分は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸塩、および硝酸塩から選択される水溶性電解質である。電解質は、約0.1~約2重量%の濃度で存在する、または代わりに、約100mOsm/kg~約600mOsm/kgの浸透圧を提供するのに十分なレベルで存在する。より好ましくは、ハロゲン化キサンテン組成物の浸透圧は、250mOsm/kgより大きく、最も好ましくは、約300~500mOsm/kgである。
【0068】
電解質は、好ましくは塩化ナトリウムである。電解質は、好ましくは約0.5~約1.5重量%の濃度で、さらにより好ましくは約0.8~約1.2重量%の濃度で、そして最も好ましくは生理食塩水中に存在するように約0.9重量%の濃度で存在する。
【0069】
親水性の、好ましくは水含有の賦形剤は、好ましくは局所用組成物での使用の基準を満たす水のみを含有する。賦形剤の最大約20体積パーセントを、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、第2ブタノール、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、エリトリトール、トレイトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの、1つ以上のC-C1価または多価アルコールとすることができる。より好ましくは、アルコールは、賦形剤の約10体積パーセント未満、さらにより好ましくは約5体積パーセント未満で企図される組成物中に存在する。
【0070】
上記のハロゲン化キサンテン医薬組成物の典型的な治療上有効な用量は、約0.5mL/100cm病変皮膚から約2mL/100cm病変皮膚、最も好ましくは約1mL/100cm病変皮膚で局所投与される。このような用量は、典型的には、約1mg~約15mgのハロゲン化キサンテンの患者累積投与量に相当する(これは、肝臓診断検査または腫瘍学用途で使用される投与量よりも著しく少ない)。
【0071】
治療可能な皮膚表面の大きさ(amount)には、既知の制限はない。しかしながら、塗布が困難であるため、頭皮はしばしば除外される。その他の除外は、生検における安全性のための除外であり、ハロゲン化キサンテン医薬組成物の顔への塗布を妨げる既知の理由は存在しない。
【0072】
ハロゲン化キサンテン医薬組成物が塗布された最も大きい治療面積の1つは、600cmであった。成人の総皮膚表面積は約20,900cmである。皮膚表面積の30%(6,270cm)を超える疾患は重症であると考えられ、これは局所治療がカバーできる最大の面積であると推定される。過剰増殖中であるが、発疹が表れていない(まだ視認されない)皮膚の問題もある。
【0073】
代替的な観点では、本発明は、下記の化学式1の化合物を使用し、化学式1中、Rは独立的にF、Cl、Br、I、H、またはC-Cのアルキル基であり、R、R、R、およびRは独立的にCl、H、またはIであり、R、R、R、およびRから選択される少なくとも1つの置換基はIであるとともに、少なくとも1つの置換基はClまたはHであり、Rは独立的にHまたはC-Cのアルキル基であり、R11はHまたはC-Cのアルキル基であり、R12はHまたはC-Cのアシル基である。また、本発明は、(a)互変異性形態、(b)アトロプ異性体、(c)下記の化学式2に示される閉鎖したラクトン形態、(d)化学式2に示されるラクトン形態の鏡像異性体、および(e)それらの薬学的に許容可能な塩の全てを使用する。
【0074】
【化2】
【0075】
「生理的に許容可能な塩」および「薬学的に許容可能な塩」という語句、およびその様々な文法形態の語句は、当業界で公知の方法により調整可能な、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アンモニウム、およびプロタミン亜鉛塩を含め、製薬業界で一般的に使用される、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびアンモニウム塩等のあらゆる非毒性カチオンを指す。企図されるカチオンは、水溶性キサンテン塩を提供する。好ましくは、塩は一塩基塩または二塩基塩形態の、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびアンモニウムである。医薬化合物と共に生理的に許容可能な塩を形成する、一般的に使用される生理的に(または薬学的に)許容可能な酸および塩基のリストについて、読者はBerge、J. Pharm. Sci. 1977 68(1):1-19を参照されたい。
【0076】
ハロゲン化キサンテン医薬組成物のpH値は、当業者に周知のあらゆる適切な手段によって制御または調整することができる。酸または塩基の追加により、組成物を中和するか、またはpH値を調整することができる。
【0077】
ハロゲン化キサンテンまたはその生理的に許容可能な塩は弱酸であるから、ハロゲン化キサンテンの濃度および/または電解質の濃度によっては、組成物のpH値のために中和剤および/またはpH値調整剤を使用せずにすむ可能性がある。しかしながら、組成物は、投与されてから生体環境に適合できるよう、いかなる中和剤も含まないことが特に好ましい。
【0078】
好ましくは、医薬組成物はいかなる防腐剤も含まない。防腐剤は、その多くが医薬組成物またはその製剤を有害にも妨害し得る、または、ハロゲン化キサンテン組成物の活性成分の送達を複雑にするか、相互作用を生じるか、または妨害する可能性のあるものである。防腐剤を用いる限りにおいては、イミド尿素が、医薬組成物中においても投与後においても、ハロゲン化キサンテンと相互作用を起こさないので好ましい。
【0079】
単一の活性成分治療として利用される場合、ハロゲン化キサンテン医薬組成物の使用に続いて、可視光源を使用して組成物が塗布された皮膚領域を有効に照射することが推奨されている。これは、特許文献1に教示されている。ハロゲン化キサンテン医薬組成物塗布後の可視光による有効照射は、本治療方法では必要でなく、好ましくは使用されない。
【0080】
本明細書に開示される薬剤の組み合わせは、ヒトおよび他の動物の皮膚および関連臓器に影響を与える様々な症状への改善された治療に広く適用可能である。薬剤の組み合わせのうちのハロゲン化キサンテンの部分は、皮膚、爪、頭皮、および口腔などの治療対象の組織に直接、または実質的にその近位に塗布できる一方、全身薬の部分は、経口投与、口腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、およびその他の非経口投与の周知の方法によって全身投与される。
【0081】
本発明の好適な実施形態は、乾癬や湿疹などの、患者の過剰増殖性皮膚障害を治療する方法をもたらす。この方法は、局所療法と1つ以上の全身療法との組み合わせによる患者(必要とする対象者)の治療を含み、局所療法は、4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’,7’-テトラヨードフルオレセイン(即ち、ローズベンガル)等のハロゲン化キサンテン、またはその生理的に許容可能な塩が溶解または分散された賦形剤、を含む治療有効量の医薬組成物の表面投与を含む。
【0082】
好適なハロゲン化キサンテンの濃度および/またはその医薬組成物の投与量は、皮膚疾患部の大きさ、および病変皮膚または病巣の数および位置を非限定的に含む因子に依存する。潰瘍性大腸炎またはクローン病などの腸障害に対しては、キサンテン製剤を経口投与用に製剤化して摂取することができる。
【0083】
通常、ハロゲン化キサンテン組成物は局所投与されるが、潰瘍性大腸炎またはクローン病などの腸障害の治療のために、上記のように経口投与用に製剤化して経口投与することができる。
【0084】
企図される治療方法は、それを必要とする哺乳動物において利用される。治療される哺乳動物は、ヒトなどの霊長類、チンパンジーまたはゴリラなどの類人猿、カニクイザルまたはマカクなどのサル、ラット、マウスまたはウサギなどの実験動物、犬、猫、馬などのコンパニオン動物、あるいは、雌牛または去勢雄牛、羊、子羊、ブタ、ヤギ、ラマなどの食用動物であり得る。
【0085】
企図される各組成物は、典型的には、治療された皮膚症状が検出されなくなる等の所望の程度まで軽減するまで、それを必要とする哺乳動物にインビボで繰り返し投与される。したがって、組成物を必要とする哺乳動物への投与は、治療を行う医師の指示の下で、1日に複数回、または毎日、毎週、毎月、あるいは数ヶ月から数年の期間にわたって行われ得る。
【0086】
結果:
4週間の賦形剤による治療では、コアIL-23/IL-17変調遺伝子の発現または全体的な疾患トランスクリプトームは有意に変化しなかった(主成分分析、PCAを使用)。しかしながら、4週間のPH-10による治療では、RT-PCRによって評価される通り、IL-17A、IL-22、IL-26、IL-36およびケラチン16mRNAが有意に(FC>1.5、p<0.05)(FC=Fold Change(倍率変化);p=統計的p値)下方制御された。遺伝子配列結果のPCA分析では、いくつかの治療後生検が非病変皮膚プロファイル内に集団化されていることから、非病変皮膚へのシフトが示された(図17および図18)。
【0087】
PH-10投与によって有意に改善された経路には、公開された乾癬のトランスクリプトームと、IL-17、IL-22、およびインターフェロンを介した細胞応答とが含まれていた。PH-10による免疫および乾癬関連遺伝子の調節に関する分析を補強するために、4週間の治療後のPCA分析に基づいて(ベースラインでの非病変皮膚と比較して)、患者をレスポンダと非レスポンダとに分類した(図18のAおよびB)。
【0088】
このアプローチを使用した場合、PH-10による4週間の治療後に500を超える疾患関連遺伝子が下方制御され、IL-23、IL-17、IL-22、S100A7、IL-19、IL-36、およびCXCL1を含む広範な主要「乾癬関連」遺伝子の発現が効果的に正常化された;すなわち、治療された病変皮膚は、ベースラインの非病変皮膚と同じ範囲の値を有していた(図19Aおよび図19B)。
【0089】
ICOSおよびCTLA4を含むT細胞活性化マーカの発現低下も測定され、IHCを使用して測定された骨髄(CD11c)樹状細胞およびT細胞の減少に対応する変化が示された(図20Aおよび図20B)。これらの2つのマーカは、29日目に対して64日目で有意に低下した。
【0090】
結論:
これらの結果は、PH-10に、乾癬性炎症を調節する(疾患の主要なドライバーサイトカインの調節も含む)非常に重要な能力があることを証明しているが、病変の表現型が非病変皮膚の表現型に戻るのは一部の患者においてのみである。このような「混在した」反応の結果は、乾癬に対して現在承認されている他の局所薬または全身薬でも生じており、治療を個別化する必要性、および潜在的には個々の薬品に対する反応予測バイオマーカを持つ必要性を浮き彫りにしている。重要なことに、賦形剤の場合には、病変生検において、上記のT細胞活性化マーカの検出可能な変化は一切誘発されなかった。
【0091】
材料および方法
序論:
PH-10は、ローズベンガル二ナトリウム(RB)を上皮組織に選択的に送達する局所ヒドロゲル製剤である(図13)。RBは、光活性化時に一重項酸素を生成可能なフルオレセイン誘導体であるが、尋常性乾癬におけるその治療メカニズムはこれまでに確立されていない。
【0092】
調査対象母集団
米国の3つの施設で実施された第2相臨床試験に30人の患者が参加した;適格患者は、胴体または四肢に、直径5cm以上の生検に適した軽度から中程度の乾癬の病変を呈する患者である。登録された被験者は主に男性(63%)と白人(77%)で、年齢中央値は45歳、年齢範囲は18~70歳であった。被験者の大多数は5年より長く(93%)乾癬を患っており、研究者病巣評価スコアリングによると、ベースラインで中程度の疾患(73%)を呈していた。21名の被験者が、28日間の賦形剤投与、7日間の生検回復期間、続く28日間のPH-10塗布からなる全研究過程を完了して、評価可能な生検の全ての組(ベースラインの病変および非病変;29日目および64日目の病変のみ)を有した。追加の被験者は、29日目の病変生検と64日目の病変生検との間に明確な違いがあり、レスポンダ分析グループに含まれた。
【0093】
免疫組織化学
すべての被験者の生検において、白血球に対する免疫組織化学を行った。凍結組織切片を、ヘマトキシリン(Thermo fisher Scientific)およびエオシン(Shandon)で、またはマウス抗ヒトモノクローナル抗体(Fuentes-Duculan他、J Invest Dermatol 2010 130:2412-2422)で染色した。ビオチン標識ウマ抗マウス抗体(Vector Laboratories)を使用して、アビジン-ビオチン複合体で一次シグナルを増幅し、クロモゲン-3-アミノ-9-エチルカルバゾール(Sigma-Aldrich)を用いて発色した。1ミリメートルあたりの陽性染色細胞を画像解析ソフトウェア(Image J、バージョン1.38 x、国立衛生研究所)を使用して手動でカウントし、表皮の線長1mmあたりの数を報告した(Fuentes-Duculan他、J Invest Dermatol 2010 130:2412 -2422)。
【0094】
マイクロアレイ
21名の被験者の全層皮膚生検(ベースラインのNL、LS;29日目および64日目のLS)からRNAを抽出した。患者は、PCA分析に基づき、ベースラインでの非病変生検と比較してレスポンダとして分類された。RNeasy(登録商標)Mini Kit(Qiagen、Valencia、CA)を使用して、RNAを抽出した。HGU 133 2.0 Affymetrix(登録商標)gene chipごとに、2μgの全RNAを逆転写、増幅、標識した(Guttman-Yassky他、J Immunol 2008;181 (10):7420-7427)。研究は、マイクロアレイ実験に関する最低限の情報ガイドラインに従って実施された。
【0095】
ソフトウェアR(R-project.org)とBioconductorのパッケージ(bioconductor.org)とを使用して、分析を行った。Harshlightのパッケージ(Suarez-Farinas他、BMC Bioinformatics 2005 6:294)を使用して、空間アーチファクトについてCELファイルを精査した。affyQCReportのパッケージを使用して、標準的なマイクロアレイ品質管理レポートを取得した。GCRMAアルゴリズムを使用して、発現値を求めた。
【0096】
少なくとも2つのサンプルにおいて、標準偏差(SD)が0.1より大きく、且つ発現値が3より大きいプローブセットを、さらなる分析のために保持した(13405個のプローブセット)。時間を固定効果、患者をランダム因子とした混合効果モデルを使用して、発現値をモデル化した。モデル推定と仮説検定を、limmaの枠組みで行った。モデレートt検定(moderated-t test)を使用して関心の対象である比較を評価し、その結果のp値を、Benjamini-Hochberg法を使用して複数の仮説に合わせて調整した。倍率変化(FCH)が2より大きく、且つ偽陽性率(FDR)が0.05より小さいプローブセットを、PH-10変調遺伝子として選択した。前述の通り、複数の遺伝子に対してPT-PCRを行った。
【0097】
皮膚浸透研究
ヒトの皮膚吸収研究の一般的なモデルであるゲッチンゲンミニブタの背部皮膚のうちの面積250cmに、14Cローズベンガル(DMSO中に1mg/mL)を塗布した。投与の0.5時間後より、曝露された動物から採取した血漿から定期的に放射能を採取した。同様に、適切な時点で動物のケージから尿と糞を採取した。
【0098】
168時間の終わりに、皮膚の塗布部位を採取した。これらのサンプルの全てを放射能について評価し、投与量あたりの放射性元素の累積率を算出した。皮膚の深さ20μm毎に測定した放射能から、ヒストグラムを作成した。
【0099】
この研究の結果は、皮膚以外のいかなる組織からも放射能が採取されなかったことを示した。どの時点においても血漿から放射能は回収されず、局所投与後に全身性曝露は生じなかったことが示された。24時間後、皮膚の放射能濃度は角質層で最も高く、表皮へ向かうにつれて深さ依存的に減少し、表皮と真皮では放射能はほとんど検出されなかった。
【0100】
方法
賦形剤および有効薬を各4週間順次投与する治療を使用して、30名の尋常性乾癬の患者を対象とした、PH-10のメカニズムに焦点を当てた研究を行った(登録済み臨床試験NCT02322086)。治療前(ベースライン)、賦形剤終了時(29日目)、およびPH-10治療終了時(64日目)に皮膚生検を採取した(図14および図15)。
【0101】
免疫組織化学(図16)と、Affymetrix(登録商標)U133 2.0PlusアレイおよびRT-PCRを用いた遺伝子発現プロファイリング(図17図20Aおよび図20B)とを使用して、細胞免疫浸潤物、乾癬のドライバーサイトカイン、および全体的な疾患トランスクリプトームに基づき、賦形剤の効果に対するPH-10治療の効果を評価した。
【0102】
本明細書で引用した特許、特許出願、および論文の各々は、参照により組み込まれる。冠詞「a」および「an」は、本明細書では、その冠詞の文法上の目的語の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。本明細書で引用した特許、特許出願、および論文の各々は、参照により組み込まれる。
【0103】
前述の説明および実施例は、例示を目的としたものであり、限定として解釈されるべきではない。本発明の主旨および範囲内で更に他の変更が可能であり、当業者はこれらの変更に容易に想到するであろう。例えば、本明細書で詳細に説明するように、本発明は、皮膚へ適用可能であることに加えて、腸または生殖管の内壁の疾患などの他の上皮組織の疾患に適用可能である。
図1
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