(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】水溶性コーティング材及びそのコーティング法
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20221028BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221028BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20221028BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20221028BHJP
C09D 171/02 20060101ALI20221028BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221028BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20221028BHJP
C09D 133/02 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
C09D133/00
B05D7/24 301C
B05D7/24 302P
B05D3/12 Z
B05D7/24 303B
B05D7/24 302R
C09D5/14
C09D171/02
C09D7/61
C09D129/04
C09D133/02
(21)【出願番号】P 2020562683
(86)(22)【出願日】2019-05-02
(86)【国際出願番号】 KR2019005267
(87)【国際公開番号】W WO2019216598
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2020-11-06
(32)【優先日】2018-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】10-2018-0089401
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502032105
【氏名又は名称】エルジー エレクトロニクス インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】LG ELECTRONICS INC.
【住所又は居所原語表記】128, Yeoui-daero, Yeongdeungpo-gu, 07336 Seoul,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100109841
【氏名又は名称】堅田 健史
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【氏名又は名称】小林 英了
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ホン,サンヒュン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ソジン
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第107418349(CN,B)
【文献】中国特許第107556852(CN,B)
【文献】特開2015-189793(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0071548(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性コーティング材であって、
アクリル系高分子又はグリコール系高分子と、
モリブデン含有無機化合物と、を含んでなり、
前記無機化合物の含有量は、前記高分子100重量部当たり、7.5~50重量部の範囲であ
り、
前記アクリル系高分子がSynthro PON W 578(登録商標:SYNTHRON社)であり、
前記グリコール系高分子がポリエチレングリコールであることを特徴とする、水溶性コーティング材。
【請求項2】
前記無機化合物は、モリブデン酸亜鉛(ZnMoO
4)又は三酸化モリブデン(MoO
3)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の水溶性コーティング材。
【請求項3】
水を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の水溶性コーティング材。
【請求項4】
親水性被膜形成液を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の水溶性コーティング材。
【請求項5】
前記親水性被膜形成液は、親水性高分子を含み、
前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項4に記載の水溶性コーティング材。
【請求項6】
コーティング法であって、
水にアクリル系高分子又はグリコール系高分子を溶解して第1溶液を形成するステップと、
前記第1溶液にモリブデン含有無機化合物を混合し、攪拌して前記無機化合物が分散した第2溶液を形成するステップと、
前記第2溶液に親水性被膜形成液を混合して第3溶液を形成するステップと、及び
前記第3溶液を母材に塗布し、所定の温度で乾燥してコーティング層を形成するステップと、を含んでなり、
前記コーティング層を形成するステップにおいて、無機粒子が析出することを特徴と
し、
前記アクリル系高分子がSynthro PON W 578(登録商標:SYNTHRON社)であり、
前記グリコール系高分子がポリエチレングリコールである、コーティング法。
【請求項7】
前記第1溶液を形成するステップにおいて、前記第1溶液に含まれる前記高分子の含有量は、前記水100重量部当たり、4~12重量部の範囲であることを特徴とする、請求項6に記載のコーティング法。
【請求項8】
前記第2溶液を形成するステップにおいて、前記無機化合物の含有量は、前記第1溶液に含まれる前記高分子100重量部当たり、7.5~50重量部の範囲であることを特徴とする、請求項6に記載のコーティング法。
【請求項9】
前記第2溶液を形成するステップにおいて、前記無機化合物は、モリブデン酸亜鉛(ZnMoO
4)又は三酸化モリブデン(MoO
3)を含むことを特徴とする、請求項6に記載のコーティング法。
【請求項10】
前記第3溶液を形成するステップにおいて、
前記親水性被膜形成液は、親水性高分子を含み、
前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項6に記載のコーティング法。
【請求項11】
前記コーティング層を形成するステップは、前記母材の表面に親水性官能基を有する親水層を形成するステップを更に含み、
前記第3溶液は、前記母材の前記親水層上に塗布することを特徴とする、請求項6に記載のコーティング法。
【請求項12】
前記コーティング層を形成するステップにおいて、前記所定の温度は、100~230℃の範囲であることを特徴とする、請求項6に記載のコーティング法。
【請求項13】
前記コーティング層を形成するステップは、所定時間行われ、
前記所定時間は、5~10分の範囲であることを特徴とする、請求項12に記載のコーティング法。
【請求項14】
請求項7~13の何れかに記載のコーティング法により製造されたモリブデン含有無機粒子を含むことを特徴とする、コーティング層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性コーティング材及びそのコーティング法に関し、特に、臭気誘発物質の生成を防止するように形成される水溶性コーティング材及びそのコーティング法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌やカビなどの微生物は生活全般にわたって存在する。特に、水分の多い環境にさらされた表面では細菌やカビの繁殖が活発になる。よって、当該表面では細菌やカビが繁殖することにより不快な臭気誘発物質が生成される。
【0003】
上記問題を解決するためには、水分を直ちに除去することにより、細菌やカビの繁殖を防止しなければならない。しかし、水分を除去した環境にするには多くの困難が伴う。例えば、空気調和機、冷蔵庫、洗濯乾燥機の中核部品である熱交換器の作動により生成されて熱交換器の表面に付着する凝縮水などの水分の除去に困難が伴う。それに加えて、水分にさらされ続けて水分環境を避けることが困難な洗濯機などの表面も存在する。
【0004】
よって、細菌やカビから発生する不快な臭いを除去するために、芳香物質を混合して不快な臭いを隠すマスキング技法が用いられている。しかし、他の香りを混ぜることは、芳香物質の投入を続けなければならず、芳香物質に対する個人の感情は主観的であるので、マスキング技法により得られる効果は限定的である。また、マスキング技法は、根本的に不快な臭いを除去できないという欠点がある。
【0005】
そこで、母材に遷移金属酸化物を含むコーティングを適用することにより、母材に抗菌及び触媒特性を付与している。遷移金属酸化物は、大気中の水分にさらされると急速に母材の表面を酸性に変えるので、菌の成長を抑制して菌を破壊する抗菌特性を有する。また、遷移金属酸化物は、一部の悪臭物質を吸着及び酸化させて無臭化合物に変化させる触媒特性も有する。
【0006】
遷移金属酸化物を用いて母材に抗菌及び触媒特性を付与する際に、コーティング層を形成する高分子などの物質特性を失わないようにするためには、遷移金属酸化物が相対的に広い表面積を有する粒子状でなければならない。数マイクロメートル~数百ナノメートルサイズの微粒子がその例である。
【0007】
特許文献1(2016年10月26日公開)においては、遷移金属酸化物として、モリブデン含有無機化合物からなる複合材料を製品の表面に塗布することにより、細菌やカビの繁殖を阻害している。すなわち、モリブデン含有無機化合物からなる複合材料の抗菌効果により、細菌やカビが不快な臭いを生成することを防止している。
【0008】
しかし、特許文献1に開示されているように、モリブデン含有無機化合物の水溶性は非常に低いので、当該無機化合物を含む水溶性コーティングに限界があった。すなわち、従来の抗菌性を有するモリブデン含有無機化合物は、水溶性コーティング材に分散している形態である、懸濁液又は分散液の形態で存在する。よって、当該無機化合物を含むコーティング材は、時間が経過するにつれて沈殿が生じるという問題があった。そこで、本発明においては、前記無機化合物を含有し、時間が経過しても前記無機化合物が均一に分散している水溶性コーティング材及びそのコーティング法を提示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、抗菌又は抗カビ特性を有するコーティング層を形成できる水溶性コーティング材を提案することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、無機化合物が均一に分散した水溶性コーティング材を提案することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、水溶性コーティング材のコーティング法を提案することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、水溶性コーティング材及びコーティング法により形成されたコーティング層を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
〔本発明の一の態様〕
本発明の一の態様は以下の通りである。
〔1〕水溶性コーティング材であって、
アクリル系高分子又はグリコール系高分子と、
モリブデン含有無機化合物と、を含んでなり、
前記無機化合物の含有量は、前記高分子100重量部当たり、7.5~50重量部の範囲であることを特徴とする、水溶性コーティング材。
〔2〕前記無機化合物は、モリブデン酸亜鉛(ZnMoO
4
)又は三酸化モリブデン(MoO
3
)を含むことを特徴とする、〔1〕の水溶性コーティング材。
〔3〕水を更に含むことを特徴とする、〔1〕の水溶性コーティング材。
〔4〕親水性被膜形成液を更に含むことを特徴とする、〔1〕の水溶性コーティング材。
〔5〕前記親水性被膜形成液は、親水性高分子を含み、
前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、〔4〕の水溶性コーティング材。
〔6〕コーティング法であって、
水にアクリル系高分子又はグリコール系高分子を溶解して第1溶液を形成するステップと、
前記第1溶液にモリブデン含有無機化合物を混合し、攪拌して前記無機化合物が分散した第2溶液を形成するステップと、
前記第2溶液に親水性被膜形成液を混合して第3溶液を形成するステップと、及び
前記第3溶液を母材に塗布し、所定の温度で乾燥してコーティング層を形成するステップと、を含んでなり、
前記コーティング層を形成するステップにおいて、無機粒子が析出することを特徴とする、コーティング法。
〔7〕前記第1溶液を形成するステップにおいて、前記第1溶液に含まれる前記高分子の含有量は、前記水100重量部当たり、4~12重量部の範囲であることを特徴とする、〔6〕のコーティング法。
〔8〕前記第2溶液を形成するステップにおいて、前記無機化合物の含有量は、前記第1溶液に含まれる前記高分子100重量部当たり、7.5~50重量部の範囲であることを特徴とする、〔6〕のコーティング法。
〔9〕前記第2溶液を形成するステップにおいて、前記無機化合物は、モリブデン酸亜鉛(ZnMoO
4
)又は三酸化モリブデン(MoO
3
)を含むことを特徴とする、〔6〕のコーティング法。
〔10〕前記第3溶液を形成するステップにおいて、
前記親水性被膜形成液は、親水性高分子を含み、
前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、〔6〕のコーティング法。
〔11〕前記コーティング層を形成するステップは、前記母材の表面に親水性官能基を有する親水層を形成するステップを更に含み、
前記第3溶液は、前記母材の前記親水層上に塗布することを特徴とする、〔6〕のコーティング法。
〔12〕前記コーティング層を形成するステップにおいて、前記所定の温度は、100~230℃の範囲であることを特徴とする、〔6〕のコーティング法。
〔本発明の態様〕
本発明は、抗菌又は抗カビ特性を有するコーティング層を形成できる水溶性コーティング材を提供する。本発明による水溶性コーティング材は、アクリル系高分子又はグリコール系高分子を含む溶解剤を含むので、モリブデン含有無機粒子の混和性が高い。
【0015】
詳細には、本発明による水溶性コーティング材中に含まれるモリブデン含有無機粒子は水分と反応する。前記反応により、酸性物質又は活性酸素が生成される。よって、前記水溶性コーティング材は、細菌やカビに起因する悪臭を低減し、抗菌又は抗カビ特性を有するコーティング層を形成することができる。
【0016】
本発明による水溶性コーティング材は、アクリル系高分子又はグリコール系高分子を含む溶解剤と、モリブデン含有無機粒子とを含み、前記無機粒子の含有量は、前記溶解剤に含まれる高分子100重量部当たり、7.5~50重量部の範囲であってもよい。前記無機粒子は、抗菌又は抗カビ特性を有する素材であってもよい。
【0017】
一実施形態において、前記無機粒子は、モリブデン酸亜鉛(ZnMoO4)又は三酸化モリブデン(MoO3)を含んでもよい。
【0018】
一実施形態において、前記水溶性コーティング材は、水をさらに含んでもよい。
【0019】
一実施形態において、前記水溶性コーティング材は、親水性被膜形成液をさらに含んでもよい。
【0020】
一実施形態において、前記親水性被膜形成液は、親水性高分子を含み、前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、ポリオキシエチレングリコール(polyoxyethylene glycol)、ポリスルホン酸(polysulfonic acid)、ポリアクリル酸(polyacrylic acid)、ポリメタクリル酸(polymethacrylic acid)及びポリプロピレングリコール(polypropylene glycol)からなる群から選択される少なくとも1つを含むものであってもよい。
【0021】
また、本発明は、コーティング法を提供する。本発明によるコーティング法は、水にアクリル系高分子又はグリコール系高分子を含む溶解剤を溶解して第1溶液を形成するステップと、前記第1溶液にモリブデン含有無機粒子を混合し、攪拌して前記無機粒子が溶解した第2溶液を形成するステップと、前記第2溶液に親水性被膜形成液を混合して第3溶液を形成するステップと、前記第3溶液を母材に塗布し、所定の温度で乾燥してコーティング層を形成するステップとを含み、前記コーティング層を形成するステップにおいて、前記無機粒子が析出する。
【0022】
一実施形態において、前記第1溶液を形成するステップで前記第1溶液に含まれる前記高分子の含有量は、水100重量部当たり、4~12重量部の範囲であってもよい。
【0023】
一実施形態において、前記第2溶液を形成するステップでの前記無機粒子の含有量は、前記第1溶液に含まれる前記高分子100重量部当たり、7.5~50重量部の範囲であってもよい。
【0024】
一実施形態において、前記第2溶液を形成するステップでの前記無機粒子は、モリブデン酸亜鉛(ZnMoO4)又は三酸化モリブデン(MoO3)を含んでもよい。
【0025】
一実施形態において、前記第3溶液を形成するステップでの前記親水性被膜形成液は、親水性高分子を含み、前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つを含むものであってもよい。
【0026】
一実施形態において、前記コーティング層を形成するステップは、前記母材の表面に親水性官能基を有する親水層を形成するステップをさらに含み、前記第3溶液は、前記母材の前記親水層上に塗布する。
【0027】
一実施形態において、前記コーティング層を形成するステップでの前記所定の温度は、100~230℃の範囲であってもよい。
【0028】
一実施形態において、前記コーティング層を形成するステップは、所定時間行われ、前記所定時間は、5~10分の範囲であってもよい。
【0029】
さらに、本発明は、コーティング層を提供する。本発明によるコーティング層は、前記コーティング法により製造されたモリブデン含有無機粒子を含むコーティング層であってもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明による水溶性コーティング材により形成されたコーティング層は、モリブデン含有無機粒子を含むので、前記無機粒子に水分が供給されることにより酸性物質又は活性酸素を生成する。よって、悪臭を低減し、抗菌又は抗カビ特性を有するコーティング層を形成することができる。
【0031】
また、本発明による水溶性コーティング材は、モリブデン含有無機粒子と、アクリル系高分子又はグリコール系高分子を含む溶解剤とを含むので、混和性が向上し、時間が経過しても均一に分散して長期保管安定性が向上するという利点がある。
【0032】
さらに、本発明による水溶性コーティング材と水を混合し、コーティング層を形成する母材に塗布し、所定の温度で乾燥してモリブデン含有無機粒子を含むコーティング層を形成する際に、低温冷却工程の追加が不要であり、簡単な方法でコーティング層を形成することができる。
【0033】
さらに、本発明によるーティング法により形成されたコーティング層は、表面にモリブデン含有無機粒子が形成されるので、排水性が向上するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明による水溶性コーティング材によりコーティング層を形成するコーティング法を示すフロー図である。
【
図2】本発明の実施例と比較例の分散安定性特性を比較する画像である。
【
図3】本発明の実施例と比較例の分散安定性特性を比較する画像である。
【
図4】本発明による水溶性コーティング材及びそのコーティング法により製造されたコーティング層を示す図である。
【
図5】本発明による水溶性コーティング材及びそのコーティング法により製造されたコーティング層の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明するが、図面番号に関係なく同一又は類似の構成要素には同一の符号を付し、それについての重複する説明は省略する。また、本発明の実施形態について説明するにあたり、関連する公知技術についての具体的な説明が本発明の実施形態の要旨を不明にすると判断される場合は、その詳細な説明を省略する。さらに、添付図面は本発明の実施形態の理解を助けるためのものにすぎず、添付図面により本発明の技術的思想が限定されるものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれるあらゆる変更、均等物乃至代替物を含むものと理解すべきである。
【0036】
「第1」、「第2」などのように序数を含む用語は様々な構成要素を説明するために用いられるが、上記構成要素は上記用語により限定されるものではない。上記用語は1つの構成要素を他の構成要素と区別する目的でのみ用いられる。
【0037】
単数の表現には、特に断らない限り複数の表現が含まれる。
【0038】
本明細書において、「含む」や「有する」などの用語は、本明細書に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品又はそれらの組み合わせが存在することを指定しようとするもので、1つ又はそれ以上の他の特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品又はそれらの組み合わせの存在や付加可能性を予め排除するものではないと理解すべきである。
【0039】
本発明は、臭気誘発物質の生成を防止するように形成される水溶性コーティング材に関する。
【0040】
本発明の一実施形態において、水溶性コーティング材は、アクリル系高分子又はグリコール系高分子を含む溶解剤を含んでもよい。また、前記水溶性コーティング材は、モリブデン含有無機粒子を含んでもよい。
【0041】
前記溶解剤は、前記無機粒子と混合されて水溶液中での混和性を向上させる。すなわち、前記溶解剤のアクリル系高分子又はグリコール系高分子により、前記無機粒子は水溶液中で均一な液体状を保つことになる。
【0042】
また、前記無機粒子は、モリブデン酸亜鉛(ZnMoO4)又は三酸化モリブデン(MoO3)を含む粒子であってもよい。前記無機粒子は、水分と反応して活性酸素を生成することにより、悪臭を低減し、抗菌又は抗カビ特性を示す物質である。よって、前記無機粒子は、水分が豊富な環境で細菌やカビの発生を阻害し、細菌やカビの代謝による窒素化合物などの臭気誘発物質の生成を抑制することができる。
【0043】
一実施形態において、前記無機粒子の含有量は、前記溶解剤に含まれる高分子100重量部当たり、7.5~50重量部の範囲であってもよい。詳細には、前記無機粒子の含有量が、前記溶解剤に含まれる高分子100重量部当たり、7.5重量部未満の場合は、前記無機粒子の濃度が低いことから、前記コーティング材により形成されたコーティング層中で抗菌又は抗カビ特性を十分に発揮することができない。
【0044】
それに対して、前記無機粒子の含有量が、前記溶解剤に含まれる高分子100重量部当たり、50重量部を超える場合は、前記無機粒子を含む水溶性コーティング材において前記無機粒子の混和性が劣る。よって、前記無機粒子は、不完全に混和するので、時間が経過するにつれて相分離し、沈殿を形成することがある。
【0045】
一実施形態において、前記無機粒子がモリブデン酸亜鉛(ZnMoO4)を含む場合、前記溶解剤としては、アクリル系高分子を含む溶解剤であるSynthro(登録商標) PON W 578(SYNTHRON社)を用いてもよい。こうすることにより、モリブデン酸亜鉛(ZnMoO4)を含む無機粒子は、水溶液中で十分な混和性を有する。
【0046】
一実施形態において、前記水溶性コーティング材の無機粒子が三酸化モリブデン(MoO3)を含む場合、前記溶解剤は、前記グリコール系高分子のうちポリエチレングリコールを含んでもよい。こうすることにより、三酸化モリブデン(MoO3)を含む無機粒子は、水溶液中で十分な混和性を有する。
【0047】
また、本発明による水溶性コーティング材は、水をさらに含み、前記コーティング層を形成するのに適した濃度にしてもよい。また、前記水溶性コーティング材は、商用の親水性被膜形成液をさらに含んでもよい。前記親水性被膜形成液は、親水性高分子を含む。詳細には、前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つを含むものであってもよい。
【0048】
よって、本発明による水溶性コーティング材に前記親水性被膜形成液が添加され、母材上に前記親水性高分子と共に前記無機粒子が形成された場合、前記親水性高分子に結合した水は前記無機粒子に供給される。すなわち、前記無機粒子は、前記親水性高分子から供給された水と反応して活性酸素を生成し、悪臭物質を分解することにより、悪臭が低減される。また、前記反応により、前記水溶性コーティング材により製造されるコーティング層の抗菌又は抗カビ特性がさらに向上する。
【0049】
図1は本発明による水溶性コーティング材によりコーティング層を形成するコーティング法を示すフロー図である。
【0050】
図1に示すように、本発明によるコーティング法は、第1溶液を形成するステップ(S100)、第2溶液を形成するステップ(S200)、第3溶液を形成するステップ(S300)及びコーティング層を形成するステップ(S400)を含んでもよい。
【0051】
詳細には、第1溶液を形成するステップ(S100)においては、水にアクリル系高分子又はグリコール系高分子を含む溶解剤を溶解して第1溶液を形成する。前記第1溶液に含まれる前記高分子の含有量は、後述するモリブデン含有無機粒子を十分に混和できる含有量であってもよい。
【0052】
よって、前記第1溶液に含まれる前記高分子の含有量は、前記水100重量部当たり、4~12重量部の範囲であることが好ましい。前記高分子の含有量が、水100重量部当たり、4重量部未満の場合は、後述する無機粒子が水溶液中で十分に混和しない。それに対して、前記高分子の含有量が、水100重量部当たり、12重量部を超える場合は、後述するコーティング層の形成に問題が生じる。詳細には、前記高分子の含有量が多くなると、後述する第3溶液に含まれ、コーティング層の主成分を構成する親水性被膜形成液に含まれる親水性高分子の濃度が低くなるので、母材の表面に親水性高分子を含むコーティング層を均一に形成することができない。
【0053】
第2溶液を形成するステップ(S200)においては、前記第1溶液にモリブデン含有無機粒子を混合し、攪拌して第2溶液を形成する。前記無機粒子の含有量は、前記第1溶液に含まれる前記高分子100重量部当たり、7.5~50重量部の範囲であってもよい。前記無機粒子の含有量が、前記第1溶液に含まれる高分子100重量部当たり、7.5重量部未満の場合は、前記無機粒子の濃度が低いことから、前記コーティング材により形成されたコーティング層中で抗菌又は抗カビ特性を十分に発揮することができない。それに対して、前記無機粒子の含有量が、前記第1溶液に含まれる高分子100重量部当たり、50重量部を超える場合は、前記無機粒子を含む第2溶液中で前記無機粒子の混和性が劣る。よって、前記無機粒子は、不完全に混和するので、時間が経過するにつれて相分離し、沈殿を形成することがある。
【0054】
一実施形態において、前記第2溶液を形成するステップでの前記無機粒子は、モリブデン酸亜鉛(ZnMoO4)又は三酸化モリブデン(MoO3)を含んでもよい。
【0055】
一実施形態において、前記無機粒子がモリブデン酸亜鉛(ZnMoO4)を含む場合、前記溶解剤としては、アクリル系高分子を含む溶解剤であるSynthro(登録商標) PON W 578(SYNTHRON社)を用いてもよい。こうすることにより、モリブデン酸亜鉛(ZnMoO4)を含む無機粒子は、水溶液中で十分な混和性を有する。
【0056】
一実施形態において、前記水溶性コーティング材の無機粒子が三酸化モリブデン(MoO3)を含む場合、前記溶解剤は、前記グリコール系高分子のうちポリエチレングリコールを含んでもよい。こうすることにより、三酸化モリブデン(MoO3)を含む無機粒子は、水溶液中で十分な混和性を有する。
【0057】
第3溶液を形成するステップ(S300)においては、前記第2溶液に親水性被膜形成液を混合して第3溶液を形成する。前記親水性被膜形成液は、親水性高分子膜を形成する商用の被膜形成液であってもよい。詳細には、前記親水性被膜形成液は、親水性高分子を含み、前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つを含むものであってもよい。
【0058】
コーティング層を形成するステップ(S400)においては、コーティング層を形成する母材の表面に前記第3溶液を塗布し、所定の温度で乾燥することにより、無機粒子を含むコーティング層を形成してもよい。前記所定の温度で乾燥する過程においては、前記無機粒子が析出して前記コーティング層中に形成される。前記第3溶液を塗布する過程は、ディップコート、スピンコート、ロールコート及びスプレーコートのように、液体を母材の表面に塗布する方法であれば、その方法は特に限定されない。
【0059】
一方、前記所定の温度は、100~230℃の範囲であってもよい。前記所定の温度が100℃未満の場合は、コーティング層の形成に要する時間が長くなり、前記無機粒子が前記コーティング層に適したサイズの結晶として析出しない。それに対して、前記所定の温度が230℃を超える場合は、前記アクリル系高分子や前記グリコール系高分子などの水溶性高分子が劣化して変成し、コーティング層を形成することができない。
【0060】
また、前記所定の温度でコーティング層を形成する時間は、5~10分の範囲であることが好ましい。コーティング層を形成するステップ(S400)においては、前記所定の温度で乾燥してモリブデン含有無機粒子を含むコーティング層を形成する際に、低温冷却工程の追加が不要であり、簡単な方法でコーティング層を形成することができる。
【0061】
また、コーティング層を形成するステップ(S400)は、前記母材の表面に親水性官能基を有する親水層を形成するステップをさらに含んでもよい。一実施形態において、前記親水層は、アルミニウムからなる母材の表面を酸化又はエッチングして得られたアルミニウム酸化物からなるようにしてもよい。また、前記親水層は、親水性を有する高分子を塗布して形成してもよい。
【0062】
例えば、前記親水層は、ヒドロキシ基(-OH)などの親水性官能基を表面上に含むようにしてもよい。こうすることにより、前記親水層の親水性官能基と本発明のコーティング層に含まれる親水性高分子の接着力が向上する。また、前記親水層は、エッチング工程で形成してもよい。前記エッチング工程で、前記母材の表面に特定の形状を有する親水層が形成される。よって、前記親水層の表面積が前記特定の形状に大きくなり、前記親水層と本発明のコーティング層の接着力が向上する。
【0063】
以下、本発明による水溶性コーティング材の実施例について説明する。
【0064】
図2及び
図3は本発明の実施例と比較例の分散安定性特性を比較する画像である。
【実施例】
【0065】
<実施例:水溶性コーティング材の形成>
【0066】
水溶性コーティング材は、上記説明に従って、詳細には、
図1で説明した水溶性コーティング材のコーティング法、すなわち、第1溶液を形成するステップ(S100)、第2溶液を形成するステップ(S200)及び第3溶液を形成するステップ(S300)により製造した。詳細には、実施例の水溶性コーティング材は、無機粒子、溶解剤及び親水性被膜形成液を含む。ここで、無機粒子としてはモリブデン酸亜鉛(ZnMoO
4)を含み、溶解剤としてはアクリル系高分子を含む溶解剤であるSynthro(登録商標) PON W 578(SYNTHRON社)を含む。
【0067】
<比較例1>
【0068】
比較例1のコーティング材は、親水性被膜形成液に無機粒子を含む溶液である。詳細には、比較例1の溶液は、溶解剤を排除する点で上記実施例の水溶性コーティング材とは異なり、他は上記実施例と同様に製造した。
【0069】
<比較例2>
【0070】
比較例2のコーティング材は、上記実施例の水溶性コーティング材から溶解剤及び無機粒子を排除した親水性被膜形成液である。
【0071】
図2に示すように、Turbiscan(登録商標) LAB(Formulaction Co., France)を用いて分散安定性を測定した。詳細には、
図2のグラフはそれぞれ実施例、比較例1、比較例2のコーティング材の分散安定性を示す。実施例においては、時間の経過に関係なく高い透過率を有し、分散が安定して維持されることが分かる。
【0072】
一方、比較例1においては、無機粒子の分散状態が維持されず、直ちに沈殿が生じたことが分かる。また、比較例2においては、分散安定性を示す結果値が上下する変動はあったが、粒子が形成されて沈殿するなどの変化は観察されなかった。
【0073】
すなわち、比較例1における沈殿が生じる分散安定性の変化は無機粒子に起因することが分かる。また、溶解剤を含めることにより、前記無機粒子の混和性が向上することも分かる。
【0074】
つまり、実施例の水溶性コーティング材は、モリブデン含有無機粒子と、アクリル系高分子又はグリコール系高分子を含む溶解剤とを含むので、混和性が向上し、時間が経過しても均一に分散して長期保管安定性が向上するという利点がある。
【0075】
図3は実施例の水溶性コーティング材と比較例1の水溶性コーティング材を肉眼で観察した結果を示す画像である。詳細には、
図3の(a)は実施例であり、
図3の(b)は比較例1である。
図3からは、
図2の分散安定性の結果と同様に、実施例のコーティング材は、無機粒子が十分な混和性を有するので、沈殿することなく均一に形成されて透明な溶液になったことが分かる。一方、比較例1のコーティング材は、無機粒子の混和性が劣るので、不透明に形成されて懸濁液になったことが分かる。
【0076】
図4は本発明による水溶性コーティング材及びそのコーティング法により製造されたコーティング層100を示す図である。
【0077】
図4に示すように、本発明のコーティング層100は、母材20の表面に積層された形態であってもよい。母材20は、射出物からなる様々な製品であり得る。
【0078】
コーティング層100は、親水性高分子層10と、親水性高分子層10に分布又は分散する無機粒子11とを含んでもよい。無機粒子11は、親水性高分子層10に析出してフィラー又は充填材の形態で存在し、親水性高分子層10の内部と表面のいずれにも位置する。
【0079】
また、析出した無機粒子11は、母材20に抗菌、抗カビ特性及び触媒特性を付与しながらも、親水性高分子などの物質特性を失わないように維持する必要がある。よって、無機粒子11は、平均粒子を数百ナノメートルサイズにすることにより、コーティング層100中で均一に分散して安定して存在するようにする。
【0080】
すなわち、無機粒子11は、相対的に広い表面積を有する粒子状であるので、大気中の水分にさらされると急速にコーティング層100の表面を酸性に変えたり、活性酸素を生成することにより、細菌やカビの成長を抑制又は破壊する抗菌及び抗カビ特性を有する。つまり、コーティング層100は、抗菌及び抗カビ特性を有するので、細菌やカビが繁殖して不快な臭気を誘発する物質を生成することを防止することができる。
【0081】
また、析出した無機粒子11は、平均粒子を数百ナノメートルサイズにすることにより、コーティング層100の表面に水分が適切に付着できるようになる。よって、コーティング層100の排水性が向上する。
【0082】
なお、
図1で説明したように、コーティング層を形成するステップ(S400)は、母材20の表面に親水性官能基を有する親水層(図示せず)を形成するステップをさらに含み、母材20に親水層がさらに積層されるようにしてもよい。
【0083】
図5は本発明による水溶性コーティング材及びそのコーティング法により製造されたコーティング層の電子顕微鏡画像である。
【0084】
図5から分かるように、コーティング層中には球状の無機粒子が均一に分散している。
【0085】
以上説明した水溶性コーティング材及びそのコーティング法は、上記実施形態の構成や方法に限定されるものではなく、本発明の必須の特徴を逸脱しない範囲で他の特定の形態に具体化できることは当業者にとって自明である。
【0086】
また、本発明の詳細な説明は例示的なものであり、あらゆる面で制限的に解釈されてはならない。本発明の範囲は添付の請求の範囲の合理的解釈により定められるべきであり、本発明の等価的範囲内でのあらゆる変更が本発明の範囲に含まれる。