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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】窒化物半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20221028BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20221028BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L33/32
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021138622
(22)【出願日】2021-08-27
(62)【分割の表示】P 2020054107の分割
【原出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2021185618
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 貢
(72)【発明者】
【氏名】ペルノ シリル
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-088803(JP,A)
【文献】国際公開第2011/027896(WO,A1)
【文献】特開2010-239066(JP,A)
【文献】特開2014-073918(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151471(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にAlN層を形成する工程と、
前記AlN層上に、前記AlN層の結晶品質に応じた結晶品質を有するn型AlGaNを形成する工程と、
を備える窒化物半導体素子の製造方法であって、
前記AlN層を形成する工程においては、前記AlN層の結晶品質を表すAlNミックス値が460(arcsec)未満となるように、成長温度、Gaのドーピング量、及び前記AlN層の膜厚のうちの少なくとも1つが決定されており、
前記n型AlGaNを形成する工程においては、Al組成比が60%以上70%未満になるとともに、前記n型AlGaNの結晶品質を表すn型AlGaNミックス値が500(arcsec)以下となるように前記n型AlGaNが形成され
前記AlN層を形成する工程においては、成長温度が1150℃以上1350℃以下であり、Gaのドーピング量が1×10 17 (cm -3 )以上1×10 18 (cm -3 )以下であり、形成される前記AlN層の膜厚が2μm以上である、
窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記AlN層を形成する工程においては、前記AlNミックス値が380(arcsec)以上460(arcsec)未満となるように、成長温度、Gaのドーピング量、及び前記AlN層の膜厚のうちの少なくとも1つが決定されている、
請求項1に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トランジスタや、発光ダイオード等の窒化物半導体素子が提供されており、結晶の品質結晶品質を向上させた窒化物半導体素子の開発が進められている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-16711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の窒化物半導体素子は、単結晶基板と、単結晶基板の一表面上に形成されたAlN層と、前記AlN層上に形成された第1導電形の第1窒化物半導体層と、前記第1窒化物半導体層における前記AlN層側とは反対側に形成されたAlGaN系材料からなる発光層と、前記発光層における前記第1窒化物半導体層側とは反対側に形成された第2導電形の第2窒化物半導体層とを備えた窒化物半導体素子であって、前記AlN層におけるN極性のAlN結晶の密度が1000個/cm以下であり、前記AlN層におけるAlN(10-12)面に対するX線回折のωスキャンによるX線ロッキングカーブの半値幅が500arcsec以下である構成を有する。特許文献1に記載の窒化物半導体素子では、AlN層の結晶品質を向上させることにより、窒化物半導体素子の電気的特性の信頼性の向上を図っている。
【0005】
しかし、本発明者らは、AlN層上に第1窒化物半導体層としてのn型AlGaNが形成される窒化物半導体素子では、前記AlN層の結晶品質を向上させたとしても、第1窒化物半導体層としてのn型AlGaNの結晶品質は、必ずしも向上することは限らないこと、及び、前記AlN層は、所定の範囲内の結晶品質のときに、前記n型AlGaNの結晶品質を向上させることができるとの知見を得た。
【0006】
そこで、本発明は、n型AlGaNの結晶品質を向上するため、所定の範囲内の結晶品質を有したAlN層上に形成されたn型AlGaNを含む窒化物半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、基板上にAlN層を形成する工程と、前記AlN層上に、前記AlN層の結晶品質に応じた結晶品質を有するn型AlGaNを形成する工程と、を備える窒化物半導体素子の製造方法であって、前記AlN層を形成する工程においては、前記AlN層の結晶品質を表すAlNミックス値が460(arcsec)未満となるように、成長温度、Gaのドーピング量、及び前記AlN層の膜厚のうちの少なくとも1つが決定されており、前記n型AlGaNを形成する工程においては、Al組成比が60%以上70%未満になるとともに、前記n型AlGaNの結晶品質を表すn型AlGaNミックス値が500(arcsec)以下となるように前記n型AlGaNが形成され、前記AlN層を形成する工程においては、成長温度が1150℃以上1350℃以下であり、Gaのドーピング量が1×10 17 (cm -3 )以上1×10 18 (cm -3 )以下であり、形成される前記AlN層の膜厚が2μm以上である、窒化物半導体素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、n型AlGaNの結晶品質を向上するため、所定の範囲内の結晶品質を有したAlN層上に形成されたn型AlGaNを含む窒化物半導体素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る窒化物半導体素子の構成を概略的に示す縦断面図である。
図2図2は、n-AlGaNミックス値及び半導体素子の発光出力のデータを示す図ある。
図3図3は、図2に示すn-AlGaNミックス値と半導体素子の発光出力との関係を示すグラフである。
図4図4は、AlNミックス値及びn-AlGaNミックス値のデータを示す図である。
図5図5は、図4に示すAlNミックス値及びn-AlGaNのミックス値の相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。また、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の窒化物半導体素子の寸法比と一致するものではない。
【0011】
(窒化物半導体素子の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る窒化物半導体素子の構成を概略的に示す縦断面図である。窒化物半導体素子1には、例えば、トランジスタ、レーザダイオード(Laser Diode:LD)、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)等が含まれる。本実施の形態では、窒化物半導体素子1(以下、単に「半導体素子1」ともいう。)として、紫外領域の波長の光(特に、中心波長が250nm~350nmの深紫外光)を発する発光ダイオードを例に挙げて説明する。
【0012】
図1に示すように、半導体素子1は、基板10と、バッファ層20と、n型クラッド層30と、多重量子井戸層を含む活性層40と、電子ブロック層50と、p型クラッド層70と、p型コンタクト層80と、n側電極90と、p側電極92とを含んで構成されている。
【0013】
半導体素子1を構成する半導体には、例えば、AlGaIn1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)にて表される2元系、3元系若しくは4元系のIII族窒化物半導体を用いることができる。また、これらのIII族元素の一部は、ホウ素(B)、タリウム(Tl)等で置き換えても良く、また、Nの一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置き換えても良い。
【0014】
基板10は、例えば、サファイア(Al)を含むサファイア基板である。基板10には、サファイア(Al)基板の他に、例えば、窒化アルミニウム(AlN)基板や、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)基板を用いてもよい。
【0015】
バッファ層20は、基板10上に形成されている。バッファ層20は、AlN層22と、AlN層22上に形成されるアンドープのu-AlGa1-pN層24(0≦p≦1)を含んで構成されている。AlN層22は、所定の範囲内の結晶品質を有している。詳細は、後述する。また、基板10及びバッファ層20は、下地構造部2を構成する。なお、基板10がAlN基板またはAlGaN基板である場合、バッファ層20は必ずしも設けなくてもよい。
【0016】
n型クラッド層30は、下地構造部2上に形成されている。n型クラッド層30は、n型AlGaN(以下、単に「n-AlGaN」ともいう。)により形成された層であり、例えば、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされたAlGa1-qN層(0≦q≦1)である。なお、n型の不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)、テルル(Te)、炭素(C)等を用いてもよい。n型クラッド層30は、1μm~5μm程度の厚さを有している。n型クラッド層30は、単層でもよく、多層構造でもよい。
【0017】
多重量子井戸層を含む活性層40は、n型クラッド層30上に形成されている。活性層40は、AlGa1-rNを含んで構成される多重量子井戸層のn型クラッド層30側の障壁層42a、及び後述する電子ブロック層50側の障壁層42cを含む3層の障壁層42a,42b,42cとAlGa1-sNを含んで構成される3層の井戸層44a,44b,44c(0≦r≦1、0≦s≦1、r>s)とを交互に積層した多重量子井戸層を含む層である。なお、本実施の形態では、活性層40に障壁層42及び井戸層44は各3層ずつ設けたが、必ずしも3層に限定されるものではなく、2層以下でもよく、4層以上でもよい。
【0018】
電子ブロック層50は、活性層40上に形成されている。電子ブロック層50は、AlNにより形成されている。電子ブロック層50は、1nm~10nm程度の厚さを有している。なお、電子ブロック層50は、p型AlGaN(以下、単に「p-AlGaN」ともいう。)により形成された層を含んでもよい。また、電子ブロック層50は、必ずしもp型の半導体層に限られず、アンドープの半導体層でもよい。
【0019】
p型クラッド層70は、電子ブロック層50上に形成されている。p型クラッド層70は、p-AlGaNにより形成される層であり、例えば、p型の不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされたAlGa1-tNクラッド層(0≦t≦1)である。なお、p型の不純物としては、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等を用いてもよい。p型クラッド層70は、300nm~700nm程度の厚さを有している。
【0020】
p型コンタクト層80は、p型クラッド層70上に形成されている。p型コンタクト層80は、例えば、Mg等の不純物が高濃度にドープされたp型のGaN層である。
【0021】
n側電極90は、n型クラッド層30の一部の領域上に形成されている。n側電極90は、例えば、n型クラッド層30の上にチタン(Ti)/アルミニウム(Al)/Ti/金(Au)が順に積層された多層膜で形成される。
【0022】
p側電極92は、p型コンタクト層80の上に形成されている。p側電極92は、例えば、p型コンタクト層80の上にニッケル(Ni)/金(Au)が順に積層された多層膜で形成される。
【0023】
(n-AlGaNの結晶品質と半導体素子の発光出力との関係)
次に、図2及び図3を参照して、n型クラッド層30を形成するn-AlGaNの結晶の品質(単に、「結晶品質」ともいう。なお、「結晶性」との表現を用いることもできる。)と半導体素子の発光出力との関係を説明する。発明者らは、n型クラッド層30を形成するn-AlGaNの結晶品質と半導体素子1の発光出力との関係を評価することを目的として、n-AlGaNのミックス値(以下、単に「n-AlGaNミックス値」ともいう。)と半導体素子1の発光出力との関係を調べる実験を行った。ここで、n-AlGaNミックス値とは、n-AlGaN結晶の(10-12)面(Mixed面)に対するX線回折のωスキャンにより得られるX線ロッキングカーブの半値幅(arcsec)であり、n-AlGaNの結晶品質を示す代表的な指標の一例である。n-AlGaNミックス値は、値が小さいほどn-AlGaNの結晶品質が良いことを意味する。
【0024】
図2は、n-AlGaNミックス値及び半導体素子の発光出力のデータを表で示す図ある。図3は、図2に示すn-AlGaNミックス値と半導体素子の発光出力との関係を示すグラフである。図3の横軸は、n-AlGaNミックス値(arcsec)を示し、縦軸は、半導体素子1の発光出力(任意単位)を示す。また、図3の実線は、n-AlGaNミックス値(arcsec)に対する半導体素子1の発光出力(任意単位)の変化の傾向を概略的に示す補助線である。図3の一点鎖線は、500arcsecを示す補助線である。なお、発光出力は、種々の公知の方法で測定することが可能であるが、本実施例では、一例として、上述したn側電極90及びp側電極92の間に電流を流し、半導体素子1の下側に設置した光検出器により測定した。
【0025】
図2及び図3に示すように、半導体素子1の発光出力は、n-AlGaNミックス値が500arcsecの前後で変化する。具体的には、n-AlGaNミックス値が500arcsecを超えると、半導体素子1の発光出力が低下しはじめる。この実験は、半導体素子1の発光出力の低下を抑制するには、好ましくはn-AlGaNミックス値が550arcsec以下、さらに好ましくはn-AlGaNミックス値が500arcsec以下であることを示している。
【0026】
(AlNミックス値とn-AlGaNミックス値との関係)
次に、図4及び図5を参照して、AlNのミックス値(以下、単に「AlNミックス値」ともいう。)とn-AlGaNミックス値との関係を説明する。AlNミックス値は、AlN層22を形成するAlNの結晶の(10-12)面(Mixed面)に対するX線回折のωスキャンにより得られるX線ロッキングカーブの半値幅(arcsec)であり、AlNの結晶品質を示す代表的な指標の一例である。AlNミックス値は、値が小さいほどAlNの結晶品質が良いことを意味する。発明者らは、鋭意検討の結果、AlNミックス値とn-AlGaNミックス値と間には相関関係があることを見出した。以下、詳細を説明する。
【0027】
具体的には、発明者らは、まず、40%~70%のAlNモル分率(%)(以下、「Al組成比」ともいう。)を有するn-AlGaNにより形成されたn型クラッド層30を含む上記の半導体素子1を122個作製した。次に、この122個の半導体素子1をAl組成比の範囲別に3つのグループ(グループA、グループB及びグループC)に分類した。そして、グループごとに、各半導体素子1のAlNミックス値、及びn-AlGaNミックス値を測定した。
【0028】
図4は、AlNミックス値及びn-AlGaNミックス値のデータを表で示す図である。図4に示すように、グループAには、60%~70%のAl組成比を有するn-AlGaNにより形成されたn型クラッド層30を有す半導体素子1を分類した。グループBには、50%~60%のAl組成比を有するn-AlGaNにより形成されたn型クラッド層30を有する半導体素子1を分類した。グループCには、40%~50%のAl組成比を有するn-AlGaNにより形成されたn型クラッド層30を有する半導体素子1を分類した。なお、グループAには、上記122個のうちの44個の半導体素子1が分類された。グループBには、上記122個のうちの62個のサンプルが分類された。グループCには、上記122個のうちの16個のサンプルが分類された。
【0029】
図5は、図4に示すAlNミックス値及びn-AlGaNミックス値の相関関係を示すグラフである。図5の三角印は、グループAに分類された半導体素子1のデータを示す。四角印は、グループBに分類された半導体素子1のデータを示す。丸印は、グループCに分類された半導体素子1のデータを示す。また、図5の一点鎖線は、グループAの半導体素子1のデータにおいて、AlNミックス値に対するn-AlGaNミックス値の変化の傾向を概略的に示す線である。破線は、グループBの半導体素子1のデータにおいて、AlNミックス値に対するn-AlGaNミックス値の変化の傾向を概略的に示す線である。点線は、グループCの半導体素子1のデータにおいて、AlNミックス値に対するn-AlGaNミックス値の変化の傾向を概略的に示す線である。細線は、n-AlGaNミックス値の500arcsecを示す線である。
【0030】
図5に示すように、AlNミックス値に対するn-AlGaNミックス値のグラフは、下側に略凸状の形状を有している。換言すれば、AlNミックス値とn-AlGaNミックス値との間には、AlNミックス値に対してn-AlGaNミックス値の極小値が存在するような関係がある。
【0031】
具体的には、グループA、すなわちn-AlGaNのAl組成比が60%~70%の半導体素子1では、AlNミックス値が390±10arcsecの近辺にn-AlGaNミックス値の極小値が存在する(図5の一点鎖線参照)。グループB、すなわちn-AlGaNのAl組成比が50%~60%の半導体素子1では、AlNミックス値が450±10arcsecの近辺にn-AlGaNミックス値の極小値が存在する(図5の破線参照)。グループC、すなわちn-AlGaNのAl組成比が40%~50%の半導体素子1では、AlNミックス値が450±10arcsecの近辺にn-AlGaNミックス値の極小値が存在する(図5の破線参照)。
【0032】
これらの結果は、AlNミックス値が特定の値(n-AlGaNミックス値が極小値となるときのAlNミックス値)よりも大きい場合、n-AlGaNミックス値は、AlNミックス値が小さくなるとともに小さくなること、及びAlNミックス値が該特定の値以下の場合、n-AlGaNミックス値は、AlNミックス値が小さくなるとともに大きくなることを示している。すなわち、上記の結果は、n-AlGaNの結晶品質は、AlNが所定の範囲内の結晶品質を有する場合、AlNの結晶品質に伴って良くなる一方で、AlNが所定の結晶品質以上になった場合、AlNの結晶品質がさらに良くなったとしてもn-AlGaNの結晶品質は、低下するということを示している。この結果を上述した半導体素子1に当てはめると、AlN層22は、所定の結晶品質のときに、n型AlGaNの結晶品質を向上させることができるといえる。
【0033】
また、グループA、グループB及びグループCの結果にはいずれも、n-AlGaNミックス値が500arcsecを超えるものと、500arcsec以下のものとがともに存在する。すなわち、500±10arcsec以下のn-AlGaNミックス値を与え得るAlNミックス値の所定の範囲が存在する。
【0034】
上述したように、n-AlGaNミックス値が500±10arcsec以下のとき、半導体素子1の発光出力の低下が抑制される(図3参照)。この図3に示された結果を図5に示すデータに適用すると、AlNミックス値が所定の範囲にある場合に、n-AlGaNミックス値が500arcsec±10以下に抑えられ、半導体素子1の発光出力の低下が抑制されると考えられる。換言すれば、AlNが所定の範囲の結晶品質を有するとき、半導体素子1の発光出力の低下が抑制されると考えられる。
【0035】
具体的には、図5に示すように、グループAの結果において、AlNミックス値の所定の範囲は、480arcsec以下である。グループBの結果において、AlNミックス値の所定の範囲は、380~520arcsecである。グループCの結果において、AlNミックス値の所定の範囲は、410~490arcsecである。グループB及びグループCの結果が示すように、AlNミックス値は、半導体素子1の発光出力の低下を抑制するために第1の所定の値以上の値と第2の所定の値以下の値とによって定まる所定の範囲を有する。すなわち、AlNミックス値には、半導体素子1の発光出力の低下を抑制するための下限値と上限値とによって定まる所定の範囲が存在する。
【0036】
上記グループA、グループB及びグループCの結果をまとめると、n-AlGaNのAl組成比が40%~70%において、AlNミックス値の所定の範囲は、350~480arcsecである。特に、グループB及びグループCの結果をまとめると、n-AlGaNのAl組成比が40%~60%において、AlNミックス値の所定の範囲は、380~520arcsecである。
【0037】
以上を換言すれば、n-AlGaNのAl組成比が40%~70%において、AlN層22は、所定の範囲内の結晶品質として、(10-12)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が350~520arcsecに応じた結晶品質を有する。また、n-AlGaNのAl組成比が40%~60%において、AlN層22は、所定の範囲内の結晶品質として、(10-12)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が380~520arcsecに応じた結晶品質を有する。また、n-AlGaNのAl組成比が40%~50%において、AlN層22は、所定の範囲内の結晶品質として、(10-12)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が410~490arcsecに応じた結晶品質を有する。
【0038】
(半導体素子の製造方法)
次に、半導体素子1の製造方法について説明する。基板10上にバッファ層20、n型クラッド層30、活性層40、電子ブロック層50、p型クラッド層70を、この順に連続的に高温成長させて形成する。これら層の成長には、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)、分子線エピタキシ法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)、ハライド気相エピタキシ法(Halide Vapor Phase Epitaxy:NVPE)等の周知のエピタキシャル成長法を用いて形成することができる。
【0039】
バッファ層20のAlN層22を形成する工程は、AlN結晶の(10-12)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が所定の範囲内になるように形成する工程を含む。AlN層22の形成をMOCVDで行う場合、例えば、成長温度を1150~1350℃の範囲とし、Gaのドーピング量を約1x1017~1x1018(cm-3)の範囲とし、AlN層22の膜厚を約2μmとする条件下で結晶成長を行うことができる。
【0040】
成長温度を高くすると、AlN結晶の(10-12)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅を小さくすることができる。また、Gaのドーピング量を多くすると、AlN結晶の(10-12)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅を小さくすることができる。また、AlN層22の膜厚を2μmよりも厚くすると、AlN結晶の(10-12)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅を小さくすることができる。したがって、成長温度、Gaのドーピング量、AlN層22の膜厚のうち少なくとも1つ以上の条件を適宜変更することにより、所望のX線ロッキングカーブの半値幅を有するAlN層20を形成することができる。すなわち、AlN層22を形成する工程は、所定の結晶品質を得るために、成長温度を変更する工程、Gaのドーピング量を変更する工程、及びAlN層22の膜厚を変更する工程のうち少なくとも1つ以上の工程を含む。
【0041】
また、n型クラッド層30を形成する工程は、n-AlGaNが所定のAl組成比を有するように形成する工程を含む。
【0042】
次に、p型クラッド層70の上にマスクを形成し、マスクが形成されていない露出領域の活性層40、電子ブロック層50、及びp型クラッド層70を除去する。活性層40、電子ブロック層50、及びp型クラッド層70の除去は、例えば、プラズマエッチングにより行うことができる。n型クラッド層30の露出面30a(図1参照)上にn側電極90を形成し、マスクを除去したp型コンタクト層80上にp側電極92を形成する。n側電極90及びp側電極92は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法などの周知の方法により形成することができる。以上により、図1に示す半導体素子1が形成される。
【0043】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る半導体素子1は、(10-12)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅が所定の範囲内であるAlN層22と、所定のAl組成比を有するn型AlGaNにより形成されたn型クラッド層30とを含む。n型AlGaNが所定のAl組成比を有する場合において、AlN層22の(10-12)面に対するX線ロッキングカーブの半値幅を所定の範囲内とすることより、n型AlGaNの結晶品質の低下を抑制することが可能となる。この結果、半導体素子1の発光出力の低下を抑制することが可能となる。
【0044】
(実施形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0045】
[1]基板(10)上にAlN層(22)を形成する工程と、前記AlN層(22)上に、前記AlN層(22)の結晶品質に応じた結晶品質を有するn型AlGaNを形成する工程と、を備える窒化物半導体素子(1)の製造方法であって、前記AlN層(22)を形成する工程においては、前記AlN層(22)の結晶品質を表すAlNミックス値が460(arcsec)未満となるように、成長温度、Gaのドーピング量、及び前記AlN層(22)の膜厚のうちの少なくとも1つが決定されており、前記n型AlGaNを形成する工程においては、Al組成比が60%以上70%未満になるとともに、前記n型AlGaNの結晶品質を表すn型AlGaNミックス値が500(arcsec)以下となるように前記n型AlGaNが形成される、窒化物半導体素子(1)の製造方法。
【0046】
[2]前記AlN層(22)を形成する工程においては、前記AlNミックス値が380(arcsec)以上460(arcsec)未満となるように、成長温度、Gaのドーピング量、及び前記AlN層(22)の膜厚のうちの少なくとも1つが決定されている、請求項1に記載の窒化物半導体素子(1)の製造方法。
【0047】
[3]前記AlN層(22)を形成する工程においては、成長温度が1150℃以上1350℃以下であり、Gaのドーピング量が1×1017(cm-3)以上1×1018(cm-3)以下であり、形成される前記AlN層(22)の膜厚が2μm以上である、請求項1又は2に記載の窒化物半導体素子(1)の製造方法。
【符号の説明】
【0048】
1…窒化物半導体素子(半導体素子)
2…下地構造部
10…基板
20…バッファ層
22…AlN層
24…u-AlGa1-pN層
30…n型クラッド層
30a…露出面
40…活性層
42,42a,42b,42c…障壁層
44,44a,44b,44c…井戸層
50…電子ブロック層
70…p型クラッド層
80…p型コンタクト層
90…n側電極
92…p側電極
図1
図2
図3
図4
図5