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特許7166447自動車両の移動ベクトルを決定するための方法、車両の速度を判断するための方法、および関連する車両
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  • 特許-自動車両の移動ベクトルを決定するための方法、車両の速度を判断するための方法、および関連する車両 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】自動車両の移動ベクトルを決定するための方法、車両の速度を判断するための方法、および関連する車両
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/60 20060101AFI20221028BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
G01S13/60 200
B60W30/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021520157
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2019079534
(87)【国際公開番号】W WO2020089231
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】1860106
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ピタ-ギル, ギジェルモ
(72)【発明者】
【氏名】ソッサール, ロマン
(72)【発明者】
【氏名】ザイル, サリム
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-160777(JP,A)
【文献】特開2016-045767(JP,A)
【文献】特開2018-120460(JP,A)
【文献】特開2017-211265(JP,A)
【文献】特開2020-134517(JP,A)
【文献】特開2017-117386(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112733971(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111784836(CN,A)
【文献】小島 祥子 Yoshiko KOJIMA,車載外界監視センサを用いた高精度自車運動推定および自車位置推定 Precise Estimation of Ego-motion and Ego-localization Using an Outside-monitoring Sensor,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.107 No.161 IEICE Technical Report,日本,社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,第107巻
【文献】Koichiro Yamaguchi, Takeo Kato, Yoshiki Ninomiya,Vehicle Ego-Motion Estimation and Moving Object Detection using a Monocular Camera,The 18th International Conference on Pattern Recgnition (ICPR'06),IEEE,2006年09月18日
【文献】Romain Saussard, Salilm Zair, Guillermo Pita-Gil,Ego-Motion Estimation with Static Object Detections from Low Cost Radars,2018 21st International Conference on Intelligent Transportation Systems (ITSC),IEEE,2018年11月09日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00- 13/95
B60W 30/10
G01C 21/20
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車両(1)の変位ベクトル(T)を決定するための方法であって、
前記車両(1)に取り付けられたレーダーシステム(10A、10B、10C)を用いて、前記車両(1)の周囲(E)における要素の所与の時刻における前記車両(1)に対する位置を決定する、ステップa)を含み、
ステップa)が、前記車両(1)に対する前記要素の前の位置(Oj、n)を決定するために前の時刻(t)に実行されていると、ステップa)は、前記車両(1)に対する前記要素の次の位置(Oi、n+1)を決定するために次の時刻(tn+1)に再び実行され、該方法は、
)前記前の位置(O j、n )を前記次の位置(O i、n+1 )と関連付けることでさまざまな位置の対を形成するステップb)であって、前記さまざまな位置の対の各々は、前記車両の前記周囲における同じ要素の前記前の位置(O j、n および前記次の位置(O i、n+1 を合わせてグループ化するものである、ステップb)と、
c)線形回帰によって、ステップb)で形成される前記位置の対について、前記前の位置(Oj、n)を前記次の位置(Oi、n+1)とマッチさせることができる、前記車両(1)の全並進移動および全回転移動の特徴を決定し、かつ、前記全並進移動および前記全回転移動の特徴を決定することにより前記車両(1)の前記変位ベクトル(T)を決定するステップc)と、をさらに含
ステップb)は、
b1)さまざまな位置の対に対して、前記次の位置(O i、n+1 )のうちの1つおよび前記前の位置(O j、n )のうちの1つをグループ化し、この位置の対の前記前の位置(O j、n )および前記次の位置(O i、n+1 )に基づいて、前記位置の対に関連付けられた個別コスト(D ij )を決定するステップb1)と、
b2)位置の対のさまざまな集合の中から、全コスト関数(F)の値が最小である集合を特定するステップb2)であって、この全コスト関数(F)は前記さまざまな集合における位置の対とそれぞれ関連付けられた前記個別コスト(D ij )に基づいて決定され、ステップb)で最終的に形成される位置の対は、ステップb2)で特定される前記集合の位置の対である、集合を特定するステップb2)と、を含む、方法。
【請求項2】
ステップb1)は、前記位置の対の少なくとも1つに対する以下の動作:
予測位置(O’j、n)を得るために、前記車両の移動速度の推定値(v)、ヨーレートωおよび前記前の時刻と前記次の時刻との間の継続時間(Δt)に基づいて前記前の位置(Oj、n)を移行させること、
前記次の位置(Oi、n+1)と前記予測位置(O’j、n)との間の偏差を決定すること、および、
前記偏差に応じて前記個別コスト(Dij)を決定すること、を含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
ステップb1)では、前記個別コスト(Dij)を計算する前に、位置の各対に対してグループ化の可能性があるか否かを判断し、グループ化する可能性が低いことが判断された時、前記個別コスト(Dij)は所定の閾値(dmax)が割り当てられる、請求項に記載の方法。
【請求項4】
ステップb1)では、以下:
前記偏差は最大偏差より大きい、
記位置の対から推測される前記車両の移動方向は前記車両の前に決定された移動方向と反対である、
記位置の対から推測される前記車両の移動の縦軸からの側方偏位は最大側方偏位より大きい、
という条件のうちの1つ以上が満たされる時に、前記位置の対が、グループ化する可能性が低いことが判断される、請求項に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)は、
c1)ステップb)で形成された前記位置の対の中から位置の少なくとも3つの対をランダムに選択するステップc1)と、
c2)ステップc1)で選択された前記位置の対から線形回帰によって第1の全並進移動および第1の全回転移動を決定するステップc2)と、
c3)ステップb)で形成されかつステップc1)で選択されなかった位置のそれぞれの対について、
ステップc2)で決定された前記第1の並進移動および前記第1の全回転移動を前記次の位置(Oi、n+1)に適用することによって前記次の位置(Oi、n+1)を変換位置(Ot1 i、n+1)に変換し、かつ、
前記変換位置(Ot1 i、n+1)とこの対の前記前の位置(Oj、n)との間の距離に基づいて剰余を決定するステップc3)と、
c4)ステップc1)で選択された前記位置の対、および、ステップb)で形成され、ステップc1)で選択されず、且つ前記剰余が所与の限界より小さい前記位置の対を含む、位置の対のサブ集合を選択し、かつ、
このサブ集合の前記対の前記前の位置(Oj、n)および前記次の位置(Oi、n+1)に基づいて、線形回帰によって第2の全並進移動および第2の全回転移動を決定するステップc4)と、
c5)前記第2の並進移動および前記第2の回転移動が、このサブ集合の前記位置の対の前記次の位置をこれらの対の前記前の位置に変換する精度を評価するステップc5)と、を含み、
ステップc1)~c5)は連続して数回実行され、
ステップc)で最終的に決定される前記全並進移動および前記全回転移動の前記特徴は、前記次の位置(Oi、n+1)を前記前の位置(Oj、n)に最も高い精度で変換することを可能にする、前記第2の並進移動および前記第2の回転移動の特徴である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
自動車両(1)の移動速度(v)を決定するための方法であって、
前記車両(1)の変位ベクトル(T)は、請求項1からのいずれか一項に記載の方法に従って決定され、前記車両の前記速度を決定するための方法は、さらに、
d)ステップc)で決定された前記車両の前記変位ベクトル(T)から前記車両の前記速度の第1の推定値(v1A、v1B、v1C)を決定するステップd)と、
e)回転速度センサ(5A、5B、5C、5D)によって取得された前記車両(1)の車輪の回転速度(6A、6B、6C、6D)に基づいて前記車両の前記速度の第2の推定値(vfl、vfr、vrl、vrr)を決定するステップe)と、
f)この速度の前記第1の推定値(v1A、v1B、v1C)およびこの速度の前記第2の推定値(vfl、vfr、vrl、vrr)に基づいて、
f1)前記車両の前記速度および加速度を表す成分を含む前記車両の状態ベクトルの新たな推定値を決定するステップf1)、および
f2)ステップd)およびe)で決定された前記車両の前記速度の前記第1の推定値および前記第2の推定値(v1A、v1B、v1C、vfl、vfr、vrl、vrr)に基づいてステップf1)で決定されたこの状態ベクトルの前記推定値を較正することによって前記車両の前記状態ベクトルの補正推定値を決定するステップf2)
を実行するように構成されるカルマンフィルタによって前記車両の前記速度(v)を決定するステップf)と、を含み、
ステップf1)およびf2)は連続して数回実行され、ステップf1)が再び実行される時、前記車両の前記状態ベクトルの前記新たな推定値は、ステップf2)の前の実行時に決定された前記補正推定値に基づいて決定される、方法。
【請求項7】
前記車両の前記移動速度の前記第2の推定値(vfl、vfr、vrl、vrr)はさらに、前記車輪の公称半径に基づいて決定され、前記値は前記車両において事前記録され、
前記カルマンフィルタによって推定された前記車両の前記状態ベクトルの前記成分のうちの1つは、前記公称半径と、前記車両の前記車輪の有効半径との間の偏差を表すスケールファクタ(f)であり、
ステップf2)では、ステップf1)で決定された前記車両の前記速度の前記推定値(v)は、このスケールファクタ(f)を考慮に入れて、前記車両の前記速度の前記第2の推定値(vfl、vfr、vrl、vrr)と比較される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
ステップf2)では、先のステップf1)で決定された前記スケールファクタの推定値(f)は、レーダーシステムからの測定値からステップd)で決定された前記車両の前記速度の前記第1の推定値(v1A、v1B、v1C)と、先のステップf1)で決定された前記車両の前記速度の前記推定値(v)との間の比率に基づいて較正される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
自動車両(1)であって、
記車両の周囲(E)の要素の所与の時刻での前記車両(1)に対する位置を決定するステップa)を実行するように構成されるレーダーシステム(10A、10B、10C)を備え、
前記レーダーシステム(10A、10B、10C)は、前記車両(1)に対する前記要素の前の位置(Oj、n)を決定するために前の時刻(t)にステップa)を実行した後に、前記車両(1)に対するこれらの要素の次の位置(Oi、n+1)を決定するために次の時刻(tn+1)に再びステップa)を実行するように構成され、
前記車両(1)は、
)前記前の位置(O j、n )を前記次の位置(O i、n+1 )と関連付けることでさまざまな位置の対を形成するステップb)であって、前記さまざまな位置の対の各々は、前記車両の前記周囲における同じ要素の前記前の位置(O j、n および前記次の位置(O i、n+1 を合わせてグループ化するものである、ステップb)、および
c)線形回帰によって、ステップb)で形成される位置の対について、前記前の位置(Oj、n)を前記次の位置(Oi、n+1)とマッチさせることを可能にする、前記車両(1)の全並進移動および全回転移動の特徴を決定し、かつ、この並進移動およびこの全回転移動の前記特徴を決定することにより前記車両(1)の変位ベクトル(T)を決定するステップc)
を実行するようにプログラミングされた電子処理ユニット(3)をさらに備え、
ステップb)は、
b1)さまざまな位置の対に対して、前記次の位置(O i、n+1 )のうちの1つおよび前記前の位置(O j、n )のうちの1つをグループ化し、この位置の対の前記前の位置(O j、n )および前記次の位置(O i、n+1 )に基づいて、前記位置の対に関連付けられた個別コスト(D ij )を決定するステップb1)と、
b2)位置の対のさまざまな集合の中から、全コスト関数(F)の値が最小である集合を特定するステップb2)であって、この全コスト関数(F)は前記さまざまな集合における位置の対とそれぞれ関連付けられた前記個別コスト(D ij )に基づいて決定され、ステップb)で最終的に形成される位置の対は、ステップb2)で特定される前記集合の位置の対である、集合を特定するステップb2)と、を含む、自動車両(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に取り付けられたセンサによる自動車両の移動の特徴付けに関する。
【0002】
本発明は、より詳細には、車両に取り付けられたレーダーシステムが、車両の周囲に存在する要素を検出しかつ車両に対するこれら要素の位置を決定する方法に関する。
【0003】
本発明は、また、このような方法が実装される自動車両に関する。
【背景技術】
【0004】
最近は、障害物検出システム、遠方制御装置、または、さらには車両を空き駐車スペースに案内するように車両を自動操縦するためのシステムなどの運転支援システムを備えた自動車両が増加している。
【0005】
このような運転支援システムの動作は、車両のこの周囲に対する位置に関する精確な知識を必要とするため、この車両の移動を監視することを必要とする。
【0006】
レーダー測定値に基づいて自動車両の位置を決定するための1つの方法は、以下の論文:Intelligent Transportation system-(ITSC)、2013、16th International IEEE Conference on.IEEE、2013、869~874頁におけるDominik Kellnerらの「Instantaneous ego-motion estimation using doppler radar」に記載されている。この方法では、レーダーシステムは、車両の周囲の要素を検出し、かつ検出された要素の車両に対する位置および速度を表すデータを出力する。検出された要素の位置の関数としての速度の依存を利用して、これらのデータを処理することによって、さらには車両の移動速度を判断し、さらにまた、この移動速度からこの車両のその周囲に対する位置を推測することが可能になる。
【0007】
しかしながら、この方法の応用分野は、検出された要素の位置だけでなく速度も供給するレーダーシステムによってのみ実装可能であるため、限定されている。
【発明の概要】
【0008】
先行技術からの上述の欠点を修正するために、本発明は、自動車両の変位ベクトルを決定するための方法であって、車両が移動している車線に対して静止している車両の周囲における要素の所与の時刻における車両に対する位置を決定する、車両に取り付けられたレーダーシステムのステップa)を含み、
ステップa)が、車両に対する上記の要素の前の位置を決定するために前の時刻に実行されていると、ステップa)は、車両に対する上記の要素の次の位置を決定するために次の時刻に再び実行され、該方法は、
b)それぞれが、車両の周囲の同じ要素の前の位置および次の位置を合わせてグループ化する位置のさまざまな対を形成するために上記の前の位置を上記の次の位置と関連付けるステップと、
c)線形回帰によって、ステップb)で形成される位置の対について、上記の前の位置を上記の次の位置とマッチさせることができる、全並進および全回転の各特徴を判断し、かつ、上記の全並進および全回転の特徴に基づいて車両の変位ベクトルを決定するステップと、をさらに含む、方法を提案している。
【0009】
多くの市販の自動車両レーダーシステムは、検出する車両の周囲の要素の中から、車両が移動している車線に対して静止している要素を判断することができる。これらのシステムは、さらにまた、所与の時刻での車両に対するこれらの静止要素の位置を表すデータを出力する。他方では、これらのシステムのいくつかは、そのように検出される静止要素の速度に関連する情報を出力する。このような静止要素の速度に関する精確な情報を出力するレーダーシステムはまた、一般的に高価である。
【0010】
本発明による方法は、検討中のレーダーシステムが、車両の周囲で検出する静止要素の速度を供給しない場合でも、車両の変位ベクトルを決定することを可能にする。
【0011】
さらに、いわば、関連付けステップb)における取得済みデータを前提条件として、変位ベクトルが2つの段階で判断される事実によって、レーダーシステムによって検出された要素の数が限定される場合でも、および、先のステップa)の実行で検出された要素のいくつかが新たなこのステップの実行で再び検出されない場合でも、このベクトルのロバストな判断が可能になる。
【0012】
そのように得られる結果は、とりわけ、ICP(「Iterative Closest Point」の頭字語による)処理によって比較条件下で得られた結果よりもロバストであることを証明している。ここで、車両の変位ベクトルは、ステップごとに、平均して、先のステップa)で判断されたそれぞれの位置を、これに最も近い、次のステップa)で判断された位置のうちの1つに移動させることを可能にする変換を検索することによって判断されることが考えられる。
【0013】
ここでの文脈における「ICP」方法のロバスト性の欠如についての1つの説明は、まさに、レーダーシステムによって毎回判断される位置の数が、最高でもおよそ50で実際には比較的低く、かつ前の時刻に検出された要素のいくつかがもはや次の時刻では検出されない場合があるという事実にある。
【0014】
個々にまたは任意の技術的に可能な組み合わせで挙げられる、車両の変位ベクトルを決定するための方法の他の非限定的で有利な特徴は、以下のようになる。
- ステップb)は:
b1)それぞれが次の位置のうちの1つおよび前の位置のうちの1つを合わせてグループ化する位置のさまざまな実現可能な対に対して、位置のこの実現可能な対の
前の位置および次の位置に基づいて、検討中の位置の実現可能な対と関連付けられた個別コストを判断するステップと、
b2)位置の実現可能な対のさまざまなセットの中から、全コスト関数の値が最小であるセットを特定するステップであって、この全コスト関数は検討中のセットの位置のさまざまな対とそれぞれ関連付けられた個別コストに基づいて判断され、ステップb)で最終的に形成される位置の対はステップb2)でそのように特定されるセットの位置の対である、セットを特定するステップと、を含み、
- ステップb1)は、位置の実現可能な対の少なくとも1つに対する以下の動作:
- 予測位置を得るために、車両の移動速度の推定値、および上記前の時刻と次の時刻との間の継続時間に基づいて前の位置を移行させること、
- 次の位置と上記の予測位置との間の偏差を判断すること、および、
- 上記の偏差が大きくなると大きくなるように位置のこの対と関連付けられた個別コストを判断すること、を含み、
- ステップb1)では、位置の実現可能な対の少なくともいくつかについて、
- 検討中の位置の実現可能な対と関連付けられた個別コストを計算する前に、この対は、車両の周囲の同じ要素の2つの連続する位置を合わせてグループ化することが可能である、またはこれに反して可能性が低いかどうかが判断され、
- この対は車両の周囲の同じ要素の2つの連続する位置を合わせてグループ化する可能性が低いことが判断された時、上記の個別コストは所定の閾値が割り当てられ、
- ステップb1)では、検討中の位置の実現可能な対が、以下:
- 上記の偏差は実現可能な最大偏差より大きい、
- 検討中の位置の実現可能な対から推測される車両の移動方向は車両の前に決定された移動方向と反対である、
- 検討中の位置の実現可能な対から推測される車両の移動の縦軸からの側方偏位は実現可能な最大側方偏位より大きい
という条件のうちの1つが満たされると車両の周囲の同じ要素の2つの連続する位置を合わせてグループ化する可能性が低いことが判断され、
- ステップc)は、
c1)ステップb)で形成された位置の対の中から位置の少なくとも3つの対をランダムに選択するステップと、
c2)ステップc1)で選択された位置の対から線形回帰によって第1の全並進および第1の全回転を判断するステップと、
c3)ステップb)で形成されかつステップc1)で選択されなかった位置のそれぞれの対について、
- ステップc2)で判断された第1の並進および第1の全回転を次の位置に適用することによって次の位置を変換位置に変換し、かつ
- 上記の変換位置とこの対の前の位置との間の距離に基づいて剰余を判断するステップと、
c4)- ステップc1)で選択された位置の対、および
- ステップb)で形成され、ステップc1)で選択されておらず、および上記の剰余が所与の限界より小さい、位置の対を含む、位置の対のサブセットを選択し、かつ
このサブセットの対の前の位置および次の位置に基づいて、線形回帰によって第2の全並進および第2の全回転を判断するステップと、
c5)第2の並進および第2の回転が、このサブセットの位置の対の次の位置をこれらの対の前の位置に変換する精度を評価するステップと、を含み、
ステップc1)~c5)のセットは連続して数回実行され、
ステップc)で最終的に判断される全並進および全回転の特徴は、上記の次の位置を上記の前の位置に最も高い精度で変換することを可能にする、第2の並進および第2の回転の特徴である。
【0015】
本発明はまた、自動車両の移動速度を判断するための方法を提案している。ここで、車両の変位ベクトルは、上述される車両の変位ベクトルを決定するための方法に従って判断され、車両の速度を判断するための方法は、さらに、
d)ステップc)で判断された車両の変位ベクトルから車両の速度の第1の推定値を判断するステップと、
e)回転速度センサによって取得された車両の車輪の回転速度に基づいて車両の速度の第2の推定値を判断するステップと、
f)この速度の第1の推定値およびこの速度の第2の推定値に基づいて車両の速度を、
f1)とりわけ、車両の速度および加速度を表す成分を含む車両の状態ベクトルの新たな推定値を判断するステップ、および
f2)ステップd)およびe)で判断された車両の速度の第1の推定値および第2の推定値に基づいてステップf1)で判断された状態ベクトルの推定値を較正することによって車両の状態ベクトルの補正推定値を判断するステップ、を実行するように構成されるカルマンフィルタによって判断するステップと、を含み、
ステップf1)およびf2)は連続して数回実行され、ステップf1)が再び実行される時、車両の状態ベクトルの上記の新たな推定値は、ステップf2)の前の実行時に判断された補正推定値に基づいて判断される。
【0016】
個々にまたは任意の技術的に可能な組み合わせで挙げられる、車両の速度を判断するための方法の他の非限定的で有利な特徴は、以下のようになる。
- 車両の移動速度の第2の推定値はさらに、上記の車輪の公称半径に基づいて判断され、この値は車両において事前記録され、
- カルマンフィルタによって推定された車両の状態ベクトルの成分のうちの1つは、上記の公称半径と、車両の車輪の有効半径との間の偏差を表すスケールファクタであり、
- ステップf2)では、ステップf1)で判断された車両の速度の推定値は、このスケールファクタを考慮に入れて、車両の速度の第2の推定値と比較され、
- ステップf2)では、先のステップf1)で判断されたスケールファクタの推定値は、
- レーダーシステムからの測定値からステップd)で判断された車両の速度の第1の推定値と、
- 先のステップf1)で判断された車両の速度の推定値と、の間の比率に基づいて較正される。
【0017】
本発明はまた、自動車両であって、
- 該車両が移動している車線に対して静止している車両の周囲の要素の所与の時刻での車両に対する位置を決定するステップa)を実行するように構成され、車両に対する上記の要素の前の位置を決定するために前の時刻にステップa)を実行した後に、車両に対するこれらの要素の次の位置を決定するために次の時刻に再びステップa)を実行するように構成される、レーダーシステムと、
- b)それぞれが、車両の周囲の同じ要素の前の位置および次の位置を合わせてグループ化する位置のさまざまな対を形成するために上記の前の位置を上記の次の位置と関連付けるステップ、および
c)線形回帰によって、ステップb)において形成された位置の対に対して、上記の前の位置を、実際には上記の次の位置と一致する位置に変換すること、または上記の次の位置を、実際には上記の前の位置と一致する位置に変換することを可能にする、全並進および全回転の特徴を判断し、かつ、この並進およびこの全回転の特徴に基づいて車両の変位ベクトルを決定するステップ、を実行するようにプログラミングされる電子処理ユニットと、を備える、自動車両を提案している。
【0018】
方法に関して上で提示されたオプションの特徴はまた、まさに説明されている車両に適用されてよい。
【0019】
非限定的な例によって示される添付の図面を参照して後述される説明によって、本発明が何を備え、かつどのように実装され得るのかが容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】上から見た自動車両を概略的に示す図である。
図2】この車両に実装される、図1による車両の速度および位置を決定するための方法の主なステップを概略的に示す図である。
図3図2による方法の間にこの車両のレーダーシステムによって判断される、図1による車両の周囲のいくつかの要素の2つの連続する位置を概略的に示す図である。
図4】行程の1つの例として、図2による方法を使用して判断される車両の速度の経時的な進展、およびこの行程中に基準センサによって判断されるこの車両の基準速度の進展を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、適切なデータ処理によって、車両の変位ベクトルを決定し、かつこの変位ベクトルから、この周囲Eに対する車両1の速度および位置を推測することを可能にする、少なくとも1つのレーダーシステム10A、10B、10Cを備えた自動車両を概略的に示す。
【0022】
一つ目に、これを行うために使用される車両1のさまざまな機器について説明する。二つ目に、車両の変位ベクトルのみならず、この速度およびこの位置を決定するために実装される方法について説明する。最後に、この方法を使用して得られる結果について提示する。
【0023】
自動車両
図1に示されるように、車両1は、
- 慣性計測装置4、
- それぞれが車両の車輪6A、6B、6C、6Dのうちの1つと関連付けられる4つの回転速度センサ5A、5B、5C、5D、
- ステアリング角度センサ7、および
- 3つのレーダーシステム10A、10B、および10C
を含むさまざまなセンサに接続される電子処理ユニット3を備える。
【0024】
これらのレーダーシステム10A、10B、10Cのそれぞれは、例えば、製造業者のContinental AutomotiveによるARS430モデルのレーダーによって具現化されてよく、この検出視野は、およそ150度の開口角によってレーダーの最高250メートル前まで及ぶ。
【0025】
これらの3つのレーダーシステム10A、10B、および10Cは、車両1の前部に配置される。
【0026】
第1のレーダーシステム10Aは、この検出視野11Aが、車両の縦軸x1を中心として車両1に向かって及ぶように配向される。
【0027】
第2のレーダーシステム10Bは、この検出視野11Bが、車両1の前に及ぶが、例えば、縦軸x1の左に45度オフセットするように配向される。
【0028】
第3のレーダーシステム10Cに関して、これは、この検出視野11Cがまた、車両1の前に及ぶが、例えば、縦軸x1の右に45度オフセットするように配向される。
【0029】
さらに、これら3つのレーダーシステム10A、10B、10Cのそれぞれは、取得ステップa)において、
- 木、ポスト、パラペットもしくはガードレールの一部、またはさらには他の車両などの車両の周囲Eの要素を検出するためにレーダーエコーを使用することであって、これら要素は検討中のレーダーシステムの検出視野11A、11B、11Cにおいて時刻tに存在する、レーダーエコーを使用すること、および
- 車両1に対して検出された要素の位置を決定すること、を行うように構成される。
【0030】
これらの位置は、同じ時刻tに、さまざまな検出される要素によって占有される位置である。したがって、レーダーシステム10A、10B、10Cは、いわば、検討中の時刻tにおけるこの検出視野11A、11B、11Cの内容を表す瞬間的なレーダー画像を記録する。
【0031】
3つのレーダーシステム10A、10B、10Cのそれぞれは、さらに、検出された要素の中から、車両1が走行している車線2に対して静止している、すなわち静止状態の要素を特定するように構成される。レーダーシステム10A、10B、10Cは、さらにまた、静止していると特定される周囲Eのさまざまな要素の車両1に対する時刻tにおける位置Oj、nを表すデータのデータ記録を、処理ユニット3に出力するように構成される。
【0032】
ここで慣性計測装置4に関して、これは、少なくとも、ジャイロメーターおよび加速度計を備え、かつ
- 車両1のヨーレートω、すなわち、車両の床面に垂直な軸z1を中心として、車線2に対するこの回転速度、
- 車両1の縦加速度a、すなわち、縦軸x1に沿ったこの加速度ベクトルの成分、および
- 車両1の横加速度a、すなわち、横軸y1に沿ったこの加速度ベクトルの成分
を表すデータを出力する。
【0033】
それぞれの回転速度センサ5A、5B、5C、5Dは、関連付けられる車輪6A、6B、6C、6Dの回転速度を取得するように構成される。この回転速度は、例えば、車両のシャーシに接合され、かつ検討中の車輪6A、6B、6C、6Dの軸に接合される磁性材料から作られる歯車の歯の連続する通路を検出する磁場センサによって取得されてよい。対応する回転センサによって取得される車輪6A、6B、6C、6Dの回転速度はさらにまた、車輪の公称半径を乗じることで、車線2に対するこの車輪の移動速度vfl、vfr、vrl、vrr(例えば、1時間当たりのキロメートルで表される速度)を得る。車輪の公称半径の値は、車両のメモリに、例えば、回転速度センサ5A、5B、5C、5Dのメモリまたは電子処理ユニット3のメモリに記録される。当該乗算演算は、直接回転速度センサによってまたは処理ユニット3によってのどちらかで行われてよい。
【0034】
4つの回転速度センサ5A、5B、5C、および5Dはそのように、
- 左前輪6Aの移動速度vfl
- 右前輪6Bの移動速度vfr
- 左後輪6Cの移動速度vrl、および
- 右後輪6Dの移動速度vrr
を判断できるようにする。
【0035】
これらのさまざまな車輪の移動速度は、車両1の移動速度、および湾曲の場合、車輪のステアリング角度に直接依存する。さらに以下に詳細に説明されるように、これら車輪の移動速度は、処理ユニット3によって行われるような車両1の移動速度を判断する一因となっている。
【0036】
実際には、これは、車両のメモリに記録された車輪の公称半径が極めてまれに車輪の半径に厳密に対応するという、車輪の移動速度の概算である。
【0037】
ステアリング角度センサ7に関して、これは、例えば、車両のステアリングコラムに装着される角度位置センサによって形成されてよい。これは、車両1の操舵輪のステアリング角度δを表すデータ項目、または、少なくとも、処理ユニット3がこのステアリング角度δを判断できるようにするデータ項目を出力する。ステアリング角度δは、車両の縦軸x1と、操舵輪のどれか一方の回転面との間に形成される角度であり、これはここでは、車両の左前輪6Aおよび右前輪6Bに対応する。
【0038】
処理ユニット3は、上述されるさまざまなセンサ4、5A、5B、5C、5D、7、10A、10B、および10Cによって出力されるデータを受信するための通信手段を備える。処理ユニット3はまた、1つまたは複数の電子メモリおよび1つまたは複数のプロセッサを備える。処理ユニット3は、後述される方法を実行するようにプログラミングされる。
【0039】
車両の変位ベクトルおよびこの移動速度を判断するための方法
この方法では、処理ユニット3は、車両のレーダーシステム10A、10B、および10Cによって連続して2回検出される周囲の要素の位置から車両の変位ベクトルを決定する(図2におけるステップa)~c))。
【0040】
処理ユニット3はさらにまた、この変位ベクトルから、車両の速度の第1の推定値v1A、v1B、v1Cを推測する(ステップd))。
【0041】
また、車両1の速度の第2の推定値と同数である車輪の移動速度vfl、vfr、vrl、およびvrrは、ステップe)において、回転速度センサ5A、5B、5C、および5Dによって取得された回転速度に基づいて判断される。
【0042】
処理ユニット3はさらにまた、車両1の移動速度のみならず、この周囲における車両の位置を精確に判断するために、車両の速度の第1の推定値v1A、v1B、およびv1Cを車輪の移動速度vfl、vfr、vrl、およびvrrと融合させる。この融合は、ステップf)において特有のカルマンフィルタを使用して行われる。
【0043】
車両1の速度の第1の推定値v1A、v1B、v1Cが対応するレーダーシステムによって出力されるデータから判断されるやり方は、ここでは、3つのレーダーシステム10A、10B、および10Cのそれぞれについて同じである。したがって、この判断法について、第1のレーダーシステム10Aの場合、一度だけ詳細に説明する。
【0044】
一つ目に、処理ユニット3が車両1の変位ベクトルおよびこの速度の第1の推定値v1Aを判断するステップa)~d)について説明する。
【0045】
次いで、処理ユニット3が車両1の速度vの値をより正確に判断する融合ステップf)について説明する。
【0046】
車両の変位ベクトルおよびこの速度の第1の推定値の判断
この方法では、レーダーシステム10Aは、数回の連続する時刻tn-1、t、tn+1などに、連続して数回取得ステップa)を実行する(ステップa)はこのレーダーシステムを提示した際に上述されている)。これによって、周囲Eの要素が車両1に対して移動する方式を判断すること、したがって、逆に言えば、この方式から、車両が周囲Eにおけるこれらの固定された要素に対して移動する方式を推測することが可能になる。上記のレーダーモデルの場合、ステップa)を連続して2回実行する間の継続時間は、およそ70ミリ秒である。
【0047】
図3は、例として、車両の第1のレーダーシステム10A(前方レーダー)によって2回の連続する時刻tおよびtn+1に検出される静止要素の位置を示す。位置のこれら2つのセットは、車両1が1時間当たりおよそ100キロメートルで前方に移動している状況で判断された。
【0048】
前の時刻tに検出された静止要素の位置O1、n、…、Oj、n、…、OM、nは、「プラス」記号(+)の形態の十字形によってこの図において特定される。次の時刻tn+1に検出された静止要素の位置O1、n+1、…、Oi、n+1、…、ON、n+1は、これらの一部が「乗算」記号(×)の形態の十字形によって特定される。
【0049】
これらのさまざまな位置は、車両1に関連させる基準系{x1、y1}において特定される。この基準系は、車両の後部から前部に及ぶ車両の縦軸x1、および縦軸x1に垂直であり、かつここでは車両の右から左に及ぶ横軸y1によって形成される。縦軸x1および横軸y1は両方共、車両の床面に平行である。
【0050】
図3において、前の時刻tと次の時刻tn+1との間に、検出された要素が車両に近くなるように移動しているため、これら2つの時刻の間に車両1の前方移動が反映されることを見ることができる。この移行を利用することによって、車両の変位ベクトルが判断されることは正確に行われる(このベクトルは、前の時刻tと次の時刻tn+1との間の車両の変位を表している)。
【0051】
この変位ベクトルは2つの段階で判断される。
【0052】
まず、ステップb)において、処理ユニット3は、前の位置O1、n、…、Oj、n、…、OM、nを次の位置O1、n+1、…、Oi、n+1、…、ON、n+1と関連付けることで、それぞれが、車両1の周囲Eの同じ要素の前の位置および次の位置を合わせてグループ化する位置のさまざまな対を形成する。
【0053】
次に、ステップc)では、処理ユニット3は、線形回帰によって、ステップb)で形成された位置の対の前の位置および次の位置から、車両の変位ベクトルを決定する。
【0054】
当該ステップb)、c)、およびd)についてここでより詳細に説明する。
【0055】
ステップb):関連付け
ステップb)で形成された位置のそれぞれの対は、
- 前の時刻tに検出された周囲Eの要素のうちの1つの前の位置Oj、n、および
- 次の時刻tn+1にこの同じ要素の位置に対応すると特定される次の位置O1、n+1、…、Oi、n+1、…、ON、n+1のうちの1つを含む。
【0056】
それぞれが、次の位置Oi、n+1のうちの1つおよび前の位置Oj、nのうちの1つを合わせてグループ化する位置のさまざまな実現可能な対{Oj、n、Oi、n+1}の中で、ステップb)で最終的に形成される対は、車両の速度vの前の推定値およびこのヨーレートωの前の推定値と最も一致する対である。
【0057】
連続する位置のこれらの対を特定するために、ここで、
b1)位置のさまざまな実現可能な対に対して、位置のこの実現可能な対の前の位置Oj、nおよび次の位置Oi、n+1に基づいて、検討中の位置の実現可能な対{Oj、n、Oi、n+1}と関連付けられた個別コストDijを判断すること、および
b2)位置の実現可能な対のさまざまなセットの中から、それぞれ、検討中のセットの位置のさまざまな対と関連付けられた個別コストDijに基づいて判断される全コスト関数Fの値が最小である位置の実現可能な対のセットを特定すること、が行われる。
【0058】
個別コストDijはさらに、車両の速度vの前の推定値に基づいて、ここではこのヨーレートωの前の推定値に基づいて判断される。
【0059】
ステップb)で最終的に形成された位置の対は、ステップb2)における最小化によって特定されるセットの位置の対である。
【0060】
ステップb1)では、位置のそれぞれの実現可能な対{Oj、n、Oi、n+1}について、位置のこの対と関連付けられた個別コストDijを計算する前に、処理ユニット3は、位置のこの対は、車両1の周囲Eの同じ要素の2つの連続する位置を合わせてグループ化することが可能である、またはこれに反して可能性が低いかどうかを判断する。
【0061】
ここで、処理ユニット3は、後述される条件のうちの1つが満たされる時、位置の対{Oj、n、Oi、n+1}が車両1の周囲Eの同じ要素の2つの連続する位置を合わせてグループ化する可能性が低いことを判断する。これとは逆に、これらの条件のうちどれも満たされない時、処理ユニット3は、位置の対{Oj、n、Oi、n+1}が車両1の周囲Eの同じ要素の2つの連続する位置を合わせてグループ化することが可能であることを判断する。
【0062】
条件1:検討中の位置の対{Oj、n、Oi、n+1}から推測される車両の移動方向は、前の時刻に判断された車両の移動方向と反対である。
【0063】
条件2:検討中の対の2つの位置Oi、n+1およびOj、nの間の車両の横軸y1に平行な側方偏位は、車両が基本的にまっすぐに移動していることが先に判断されている時、実現可能な最大側方偏位より大きい。例として、実現可能な最大側方偏位は、前の時刻tおよび次の時刻tn+1が、この場合のように、およそ0.07秒離れている時、およそ1メートルに等しい場合がある。
【0064】
条件3:検討中の対の次の位置Oi、n+1と、この対の前の位置Oj、nから推測される予測位置O’j、nとの間の偏差d(Oi、n+1、Oj、n)は、実現可能な最大偏差dmaxより大きい。
【0065】
当該予測位置O’j、nは、
- 車両の速度vの前の推定値およびこのヨーレートωの前の推定値(当該前の推定値は例えば、さらに説明される、ステップf)の前の実行で判断されている)、ならびに、
- 前の時刻tと次の時刻tn+1との間の継続時間Δt=tn+1-t
に基づいて、検討中の対の前の位置Oj、nを移行させることによって判断される。
【0066】
予測位置O’j、nは、車両が、前の時刻と次の時刻との間で、速度vでかつヨーレートωで移動し続けたとしたら、前の位置Oj、nにおける要素が次の時刻tn+1で占有することが考えられる位置である。例として、ヨーレートの前の推定値がゼロである場合、予測位置O’j、nは、続時間Δt、および車両1の速度vの前の推定値の積に等しい量で、縦軸x1に平行に車両の方へ前の位置Oj、nを移行させることによって判断される。
【0067】
ここで説明される実施形態では、偏差d(Oi、n+1、Oj、n)は、
- 検討中の対の次の位置Oi、n+1と、
- この対に対して判断された予測位置O’j、n
との間の距離の2乗に等しい平方偏差である。
【0068】
実現可能な最大偏差dmaxに関して、この値は例えば、上述した継続時間Δtおよび速度閾値vの積の2乗に等しい。速度閾値vは例えば、1秒当たり3~20メートルであってよい。
【0069】
ここで、個別コストDijの値に関して、位置の対{Oj、n、Oi、n+1}は、車両1の周囲Eの同じ要素の2つの連続する位置を合わせてグループ化する可能性が低いと処理ユニット3が判断した時、処理ユニット3は、例えば、上述した実現可能な最大偏差dmaxに等しい所定の閾値を、個別コストDijに割り当てる。
【0070】
これに反して、位置の対{Oj、n、Oi、n+1}は、車両1の周囲Eの同じ要素の2つの連続する位置を合わせてグループ化することが可能であると処理ユニット3が判断した時、処理ユニット3は、上述した偏差d(Oi、n+1、Oj、n)の値を、個別コストDijに割り当てる:Dij=d(Oi、n+1、Oj、n)。
【0071】
ここで、ステップb1)では、処理ユニットは、それぞれが、前の位置O1、n、…、Oj、n、…、OM、nのうちの1つおよび次の位置O1、n+1、…、Oi、n+1、…、ON、n+1のうちの1つを合わせてグループ化する、位置の別個の実現可能な対がある分の個別コストDijを判断する。したがって、処理ユニットは、個別コストの数N×Mを判断する。ここで、Mは、ステップa)の前の実行時に判断された前の位置O1、n、…、Oj、n、…、OM、nの数であり、Nは、ステップa)が再び実行される時に判断される次の位置O1、n+1、…、Oi、n+1、…、ON、n+1の数である。これらのさまざまな個別コストは、例えば、指数iおよびjの係数(行数iおよび列数jの係数)が、次の位置O1、n+1および前の位置Oj、nを含む対と関連付けられた個別コストDijである、N行およびM列のコストマトリックスの形態で合わせてグループ化されてよい。
【0072】
次に、ステップb2)では、処理ユニット3は、位置の実現可能な対のさまざまなセットの中から、全コスト関数Fの値が最小であるものを特定する。
【0073】
この場合、コスト関数Fは、対のこれらのセットのそれぞれについて、検討中のセットの位置のさまざまな実現可能な対と関連付けられた個別コストDijの和に等しい。
【0074】
位置の実現可能な対のこれらのセットのそれぞれは、対において、前の位置O1、n、…、Oj、n、…、OM、nを次の位置O1、n+1、…、Oi、n+1、…、ON、n+1と関連付ける1つのやり方に対応する。それぞれの前の位置は次の位置のせいぜい1つと関連付けられる。
【0075】
位置の実現可能な対のそれぞれのセットは、例えば、N行およびM列を有する関連付けマトリックスによって表されてよい。この関連付けマトリックスの係数Aijはさらにまた、対のこのセットに対して、(指数jの)前の位置Oj、nが(指数iの)次の位置Oi、n+1と関連付けられる場合、1に設定されてよく、その他の場合、係数Aijはゼロである。コスト関数Fはさらにまた、以下の式F1に従って表されてよい。
【0076】
位置の実現可能な対のこれらのさまざまなセットの中で、処理ユニット3は、例えば、Kuhn-Munkresアルゴリズム(Hungarianアルゴリズムとしても既知)によって、コスト関数Fが最小であるものを特定する。このアルゴリズムによって、具体的には、さまざまな実現可能な対と関連付けられた個別コストの和を最小化する(文献では「結合(coupling)」と呼ばれる時がある)対のセットを見出すことが可能になる。専門家の文献では、アルゴリズムがグラフベースの表現に基づいて説明される時、これらの対は、検討中の対の2つの要素を関連させる「エッジ」として指定される時がある(この場合、これらの「エッジ」のうちの1つによって関連させられる2つの要素はしたがって、当該位置の対の前の位置および次の位置である)。(ここでは、とりわけ元々のやり方で計算される)それぞれの対の個別コストに関して、これは、専門家の文献ではエッジの「重み」と呼ばれる時がある。
【0077】
今説明したステップb)では、次の位置と予測位置との間の偏差の基準によって前の位置を次の位置と関連付けることによって、この関連付けが次の位置と前の位置との間の偏差に基づいていた場合よりもはるかに精確かつロバストな関連付けになる。得られる関連付けは、とりわけ、通常は、上述される「ICP」方法と呼ばれるもので使用されるものより信頼性があり、この場合、それぞれの前の位置は、移動速度または変位ベクトルの前の推定値を考慮に入れることなく、最も近い次の位置のうちの1つと単に関連付けられる。
【0078】
また、位置の所与の対が、この対と関連付けられた個別コストDijを計算する前に車両の周囲の同じ要素の2つの連続する位置を合わせてグループ化することが可能である、またはこれに反して可能性が低いかどうかを判断することによって、関連のステップb)を実行するのに必要な計算時間を低減することが可能になる。具体的には、この規定によって、条件1または条件2が満たされる時、これは、検討中の対が同じ要素の2つの連続する位置を合わせてグループ化しないことを明確に指示しており、これによって、この対の次の位置と予測位置との間の偏差dの不必要な計算が回避される。
【0079】
また、同じ要素の2つの連続する位置を合わせてグループ化する可能性が低い位置の対に対して、個別コストDijの値を閾値dmaxに限定することによって、位置のこれらの対が(これらの対の偏差dの高い値により)コスト関数Fにおいて支配的な影響力を有さないようにすることが可能になる。これによって、これが、そのように形成される位置の対のセットが位置のいくつかの「成り立たない」対を含んでいることを意味する場合でも、最良の全体的な合意に従って次の位置を前の位置と関連付けることが可能になる。位置のこれらの成り立たない対はさらにまた、線形回帰のステップc)において廃棄されることになる。
【0080】
図3に見られ得る次の位置および前の位置の例について、ステップb)で形成される位置の対は線の形態で示されており、それぞれが、前の位置Oj、nのうちの1つを、関連付けられる次の位置Oi、n+1に関連させている。
【0081】
この例について、いくつかの次の位置または前の位置がステップb)の終わりに対で関連付けられていないことを見ることができる。関連付けられていない位置は、例えば、図3の円で囲まれる位置の場合のように、次の時刻に検出されるが前の時刻では検出されない周囲の要素の位置であってよい。より一般的には、関連付けられていない位置は、車両の速度およびこのヨーレートの前の推定値と類似した隣接する位置が見出されなかった位置に対応する。
【0082】
ステップc):線形回帰
前の時刻tと次の時刻tn+1との間の車両1の移動は、「固体」移動と呼ばれるものに対応するため、
- 変位ベクトルT=(t、t(数量tおよびtは車両に関連させる基準系{x1、y1}における変位ベクトルTの成分である)を特徴とする並進移動、および
- 回転角度θによって、前の時刻tと次の時刻tn+1との間の車両の向首角の変化量に対応する、軸z1を中心とした回転移動
に分解される。
【0083】
ステップc)では、処理ユニット3は、線形回帰によって、「固体」移動、すなわち、ステップb)で形成される位置の対に対して、上記の前の位置(Oj、n)を上記の次の位置(Oi、n+1)とマッチさせることが可能である、すなわち、実質的に、次の位置Oi、n+1を前の位置Oj、nに変換しこの逆もまた同様に行うことが可能である、全並進移動および全回転移動を判断することによって、変位ベクトルTおよび回転角度θを判断する。
【0084】
この場合、この全並進移動およびこの全回転移動の特徴は、ステップb)で形成される位置の対の少なくともいくつかに対して、
置の対の前の位置Oj、n
- 上記の並進移動および全回転移動をこの対の次の位置Oi、n+1に適用することによって得られる変換位置
との間の偏差eの平均eを最小化するようにより精確に判断される。
【0085】
処理ユニット3は、さらにまた、車両1の変位ベクトルTがこの全並進移動を特徴付ける並進ベクトルに等しく、かつこの回転角度θが線形回帰によって判断される全回転角度に等しい(この回転がまた軸z1を中心とした回転である)ことを判断する。
【0086】
既に指示されたように、ステップb)で形成される位置の対は、対の次の位置が、上述される並進移動および全回転移動と大幅に異なっている変換によってのみこの前の位置に変換されることが可能である、いくつかの成り立たない位置の対を含む場合がある。
【0087】
れらの成り立たない位置の対がステップc)で判断される変位ベクトルTおよび回転角度θに影響しないように、回転移動および全並進移動の特徴は、(頭字語「RANdom SAmple Consensus」による)「RANSAC」タイプの反復線形回帰手順によって特定される。
【0088】
処理ユニット3はよって、ステップc)において、後述されるステップc1)~c5)を連続して数回実行するようにプログラミングされる。
【0089】
ステップc1)では、位置の少なくとの3つの対は、ステップb)で形成される位置の対の中からランダムに選択される。
【0090】
次のステップc2)では、処理ユニット3は、線形回帰によって、ステップc1)で選択された位置の対の前の位置および次の位置から、第1の全並進移動および第1の全回転移動を判断する。この第1の並進移動およびこの第1の回転移動は、これらの対の次の位置を、平均して、これらの前の位置にできるだけ近くなるような位置に変換するように判断される。
【0091】
ステップc3)では、ステップb)で形成され、かつステップc1)で選択されなかった位置の対について、
- ステップc2)で判断された第1の並進移動および第1の全回転移動を当該次の位置Oi、n+1に適用することによって、この対の次の位置Oi、n+1を第1の変換位置Ot1 i、n+1に変換すること、および
- ここでは、検討中の対の前の位置と、第1の変換位置Ot1 i、n+1との間の偏差e1(例えば、平方偏差)に等しいこの対と関連付けられた剰余を判断すること、が行われる。
【0092】
ステップc4)では、処理ユニット3は、
- ステップc1)で選択された位置の対、および
- ステップb)で形成され、ステップc1)で選択されず、および上記の剰余が所与の限界より小さい、位置の対(この限界は、例えば、上述した実現可能な最大偏差dmaxに等しい)
を含む位置の対のサブセットを選択する。
【0093】
処理ユニットはさらにまた、線形回帰によって、このサブセットの対の前の位置および次の位置に基づいて、第2の全並進移動および第2の全回転移動を判断する。また、第2の並進移動および回転移動、対の次の位置を、平均して、これらの前の位置にできるだけ近い位置に変換するように判断される。
【0094】
次に、ステップc5)では、処理ユニット3は、第2の並進移動および第2の回転移動が、
- ステップc4)で選択された対のサブセットの対の前の位置を、
- これらの対の次の位置の全て
に変換する精度を判断する。
【0095】
この目的のために、処理ユニットは、例えば、
- 検討中の位置の対の前の位置Oj、nと、
- ステップc4)で判断された第2の並進移動および第2の全回転移動を、この対の次の位置Oi、n+1に適用することによって得られる第2の変換位置Ot2 j、n
との間の偏差eから対のこのサブセットに対して平均値eを計算してよい。
【0096】
ステップc1)からc5)のセットを数回実行した後、処理ユニット3は、判断された第2の全並進移動および回転移動の中から、上記の精度が最良である、すなわち例えば、偏差eの平均値eが最小であるものを選択する。
【0097】
ステップc)で最終的に選択された全並進移動および全回転移動の特徴は、処理ユニット3によって選択された第2の並進移動および第2の回転移動の特徴である。
【0098】
ステップc2)およびc4)で実行される、線形回帰動作自体の詳細は、厳密に言えば本発明の一部ではないため、ここで詳細に説明されていない。この動作は、例えば、以下の論文:「Least-squares fitting of two 3-dpoint sets」、S.Arun、T.S.Huang、およびS.D.Blostein、IEEE Transactions on pattern analysis and machine intelligence、no.5、698~700頁、1987に説明される方法に従って行われてよい。
【0099】
ステップd)
ステップd)では、処理ユニット3は、ステップc)で判断される変位ベクトルTおよび回転角度θに基づいて、車両1の速度の第1の推定値v1Aのみならず、このヨーレートの第1の推定値ω1Aを判断する。
【0100】
車両1の速度vはここで、車線2に対する車両の代数的速度(algebraic speed)を示す。換言すれば、これは、車両が前方移動している場合はプラス記号、していない場合はマイナス記号が割り当てられたこの速度ベクトルのノルムである。
【0101】
したがって、ステップd)では、車両1の速度の第1の推定値v1Aは、このベクトルの成分tの記号が割り当てられた変位ベクトルTのノルムを計算することによって、および、全てを、次の時刻と前の時刻との間の継続時間Δtで除算することによって、判断される。
【0102】
このヨーレートの第1の推定値ω1Aは、この一部分について、回転角度θを継続時間Δtで除算することによって判断される。
【0103】
また、ステップd)では、処理ユニット3は、車両の速度の第1の推定値v1Aと関連付けられた不確定性σを判断する。この不確定性は、ステップc)で特定される「固体」変換が検出された要素の前の位置をこれらの次の位置に変換する精度を表している。この不確定性σは、例えば、変換位置と前の位置との間の偏差eの平均値eに基づいて判断される。
【0104】
今説明したステップa)~d)のセットは、さまざまな時間増分t、tn+1、tn+2などで、連続して数回実行される。
【0105】
よって、ステップa)が再び実行される度に、車両1の速度およびこのヨーレートの第1の推定値v1Aおよびω1Aの、検討中の時刻tn+1での値を判断するために、ステップb)、c)、さらにはd)も再び実行される。
【0106】
他方では、既に指示したように、第2のレーダーシステム10Bおよび第3のレーダーシステム10Cからのデータの処理は、第1のレーダーシステム10Aの場合に上述された処理と類似している。よって、この方法の間、処理ユニット3はまた、数回の連続する時刻に車両1の速度の第1の推定値v1Bおよびv1Cの値のみならず、このヨーレートの第1の推定値ω1Bおよびω1Cの値を判断する。
【0107】
レーダーデータおよびオドメータデータを融合させることによる車両の速度および位置の判断
既に指示したように、ステップf)で実行されたデータ融合は、特有のカルマンフィルタによって行われる。
【0108】
したがって、ステップf)は、(予測ステップとも呼ばれる)伝搬ステップf1)、および(較正ステップまたは観察ステップとも呼ばれる)更新ステップf2)を含み、これらは連続しておよび繰り返して数回実行される。
【0109】
ステップf1)の間、車両1の状態ベクトル[x]の新たな推定値[x]k+1は、この状態ベクトルの前の推定値[x]k、c、および、車両の移動力学をモデル化する「伝搬」モデルに基づいて判断される。この場合、状態ベクトルの前の推定値[x]k、cは、更新ステップf2)の前の実行時に判断される補正推定値である。
【0110】
ステップf2)の間、ステップf1)で判断された状態ベクトルの推定値[x]k+1は、車両の状態ベクトルの新たな補正推定値[x]k+1、Cを得るために、車両の状態に関するさまざまな「測定値」に基づいて較正される。
【0111】
(「観察」と呼ばれる時がある)これらの測定値は、上で提示されたセンサ4、5A、5B、5C、5D、7、10A、10B、および10Cによってもたらされ、ここでは、
- レーダーシステム10A、10B、10Cによって取得されるデータから判断される車両1の速度の第1の推定値v1A、v1B、v1C、ならびに、車両のヨーレートの第1の推定値ω1A、ω1B、およびω1C
- 回転速度センサ5A、5B、5C、5Dによって取得されるデータから判断される車輪の移動速度vfl、vfr、vrl、およびvrr
- ステアリング角度センサ7によって判断されるステアリング角度の測定値δ
- 慣性計測装置4によって出力される、ヨーレートの測定値ωおよび車両の縦加速度の測定値a
を含む。
【0112】
車両の状態ベクトル[x]に関して、これはここでは以下の成分:
- (車線2に対して固定される)車両の周囲Eに対して固定される基準系{x、y}における車両1の位置を指示するX座標およびY座標、
-車両の縦軸x1と固定された基準系{x、y}のx軸との間にここで形成される向首角α、
- 車線2に対する車両1の速度v、
- 車両1の加速度a(記号が割り当てられたこの加速度ベクトルのノルム)、
- ステアリング角度δ、
- 車輪6A、6B、6C、6Dの公称半径と、これらの車輪の有効平均半径との間の偏差を表すスケールファクタf、および、
- 慣性処理ユニット4によって行われるヨーレートωの測定に影響するバイアスb
を含む。
【0113】
車両の状態ベクトルにスケールファクタfを含み、かつこの値を推定することによって、速度の推定値vを車輪の移動速度vfl、vfr、vrl、vrrのうちの1つと比較する時、車輪の有効半径のいずれの変化量も考慮に入れることが可能になる。これらの変化量は、例えば、車輪のタイヤの圧力の変化量、またはこれらの温度の変化量によるものであってよい。車輪のうちの1つの半径と事前記録された公称半径との間の偏差の発生時に、対応する回転速度センサによって出力される車輪の移動速度は、車両の速度が大きくなるとより大きくなる系統的誤差によって損なわれるため、これらの変化量を考慮に入れることは有益である。実際には、(検討中の時刻に車両の車輪が実際に有する平均半径に対応する)車輪の有効半径は、公称半径から数パーセント逸れる場合が多いため、これを考慮に入れることが望ましい。
【0114】
ここでステップf1)で使用される伝搬モデルは、「一定ステアリング角度および加速度」モデル(または頭字語式にCSAA)と呼ばれるものである。このモデルでは、2つの連続する時間増分の間に、加速度aおよびステアリング角度δは一定であることが想定される。また、このモデルでは、ヨーレートωは以下の数量に等しい。
ω=v.tan(δ)/L (F3)
式中、Lは、車両のホイールベース、すなわち、この前軸とこの後軸との間の距離である。
【0115】
ステップf1)では、状態ベクトルの新たな推定値[x]k+1を判断するために、それ故に、状態ベクトル[x]が、以下の式F4に従って、先の補正推定値[x]k、cの判断から進展したことが想定される。
【0116】
車両のさまざまなセンサがここでは非同期的に動作する。上述されるさまざまな測定値は、よって、一般的に、異なる時に判断され、かつ全てが同時に利用可能であるわけではない。
【0117】
したがって、ステップf2)は、ステップf1)のそれぞれの実行後に、これらの測定値のうちの1つが利用可能になるとすぐに、この測定値に基づいて状態ベクトルの推定値を較正することによってここで実行される。
【0118】
よって、例として、センサが最初にヨーレートおよび縦加速度の測定値ωおよびa を、さらにまたその後、車輪の移動速度vfl、vfr、vrl、vrrを出力することが考えられる状況では、ステップf1)およびf2)の一連の実行が以下のように行われることが考えられる:
- 測定値ωおよびa に基づいて(これらの測定値が利用可能になるとすぐに)状態ベクトル[x]の推定値を較正するためにステップf2)を実行し、その後、
- 伝搬ステップf1)を実行し、その後、
- ステップf2)を再び実行するが、車輪の移動速度vfl、vfr、vrl、およびvrrに基づいて状態ベクトル[x]の推定値を較正し、次いで、
- 伝搬ステップf1)を再び実行し、以下同様に行う。
【0119】
注目すべきことは、ステップf2)において、変動を表すが不偏になり得る車両1の速度の第1の推定値v1A、v1B、v1Cは、車輪の有効半径とこれらの公称半径との間のいずれの偏差も考慮に入れるようにスケールファクタの推定値fを較正するために使用される。
【0120】
この較正を行うために、車両1の速度の第1の推定値v1A、v1B、v1Cのうちの1つが判断される度に、スケールファクタの測定値はここから推測される。よって、例えば、第1の推定値v1Aの新たな値が利用可能である時、スケールファクタの新たな測定値fは、以下の式に従って判断される。
式中、σは、車両の速度の第1の推定値v1Aと関連付けられた不確定性σに依存する偏差である。
【0121】
スケールファクタのこの新たな測定値fはさらにまた、カルマンフィルタの通常の技法を使用して、すなわち、補正ゲイン(カルマンゲインと呼ばれる時がある)を判断することによって、さらにまた、スケールファクタの測定値fと以前の推定値fとの間の差異を乗じたカルマンゲインに等しい補正項を以前の推定値fに加えることによって補正推定値fk+1、cを計算することによって、スケールファクタの以前の推定値fを補正するために使用される。
【0122】
他方では、速度の推定値vが車輪の移動速度vfl、vfr、vrl、vrrのうちの1つに基づいて較正される時、スケールファクタfによって、車輪の有効半径が必ずしもこれらの事前記録された公称半径に厳密に等しい必要はない事実を考慮に入れる。
【0123】
この目的のために、ステップf2)で使用される観察モデルでは、左前輪の移動速度vflが以下の数量の測定値であることが想定される。
式中、lは2つの前輪6Aおよび6Bの間の距離である。
【0124】
車両の速度の前の推定値vはよって、いわば、測定値vflと比較される前にスケールファクタfに基づいて前もって補償されることで、この測定値に影響する系統的誤差を考慮に入れる。
【0125】
類似のやり方で、このカルマンフィルタでは、右前輪の移動速度vflは以下の数量の測定値として使用される。
【0126】
左後輪の移動速度vrlはこの一部分が以下の数量の測定値として使用される。
式中、lは2つの後輪6Cおよび6Dの間の距離である。
【0127】
また、右後輪の移動速度vrrは以下の数量の測定値として使用される。
【0128】
よって、車輪のうちの1つの移動速度の新たな値が判断される度に、処理ユニットは、
- 検討中の測定値vfl、vfr、vrl、またはvrrと、
- 上述した対応する数量
との間の偏差に基づいて車両の状態ベクトルの推定値[x]k+1を較正する。
【0129】
最後に、ステップf2)のそれぞれの実行後、処理ユニット3は、図ではより簡易にX、Y、およびvと示される、車両の位置および速度の補正推定値Xk+1、c、Yk+1、c、およびvk+1、cを出力する。
【0130】
レーダーシステムからのデータを回転速度センサからのデータと融合させるためにここで使用される特有のカルマンフィルタによって、測定値に影響する誤差の原因を非常に効果的に補正することが可能になる。
【0131】
具体的には、移動速度vfl、vfr、vrl、vrrを、(一定のバイアスによってのみ影響されるかのように)第1の「レーダー」推定値v1A、v1B、およびv1Cと直接比較することによって補正するのではなく、ここで、スケールファクタfによって、これらの「オドメータ」速度vfl、vfr、vrl、vrrが、車両の速度が大きくなると大きくなる変化誤差によって損なわれる(これは、この誤差が車輪の平均半径の変化量によって生じるからである)という事実を考慮に入れる。変動を表すが不偏になり得る、移動速度の第1の「レーダー」推定値に基づいてこのスケールファクタfの値を較正することによって、さらにまた、車輪の移動速度vfl、vfr、vrl、vrrに影響する誤差を、これらの誤差が車両の速度によって変動しても、安定的に補正することが可能になる。
【0132】
結果の例
図4は、行程の1つの例として、今説明した方法を使用して判断される、車両の速度の補正推定値vの時刻tにわたる進展を概略的に示す。この行程の例について、車両1は実質的にまっすぐに移動しており、この速度vは1時間当たり80~100キロメートルである。
【0133】
比較のために、車両の基準速度vrefはまた、同じ行程について図4に示されている。この基準速度は、一時的に、この試行中車両に取り付けられた、とりわけ信頼できる基準センサ(この場合、製造業者OXTSによるRT3000モデルのセンサ)を使用して測定された。この基準速度vrefは、1秒当たり0.03メートルより良好な精度で車両の実速度vに対応する。
【0134】
さらに、vと示される車両の速度の基本推定値はまた、図4に示される。この基本推定値は慣性計測装置4および回転速度センサ5A、5B、5C、5Dによって出力されるデータに基づいて判断されたが、レーダーシステム10A、10B、10Cによって供給されるデータを考慮していない。
【0135】
この図で見ることができるように、上述される方法を使用して得られる車両の速度の補正推定値vは、車両の速度の実際の値vに非常に近い。また、上述されるようにレーダーシステム10A、10B、10Cによって供給されるデータを考慮に入れることによって、車両の速度が判断される精度を大幅に改善することが可能であることが観察されるが、これは、補正推定値vが基本推定値vよりも基準速度vrefに極めて近いからである。
【0136】
上述されている方法および車両にはさまざまな別形が加えられてよい。
【0137】
例えば、車両に取り付けられるレーダーシステムの数は異なっている可能性があり、これらのレーダーシステムは、異なるように位置付けられるまたは配向される可能性がある。車両はまた、単一のレーダーシステムを備えることが可能である。
【0138】
さらに、関連付けステップb)では、位置のそれぞれの対と関連付けられた個別コストは、直接この偏差dに等しいのではなく、予測位置と、検討中の対の前の位置との間の偏差dに基づいて増大する任意の関数を使用して計算可能である。
図1
図2
図3
図4