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特許7166478ヒトヒアルロニダーゼPH20の変異体及び薬物を含む皮下投与用医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】ヒトヒアルロニダーゼPH20の変異体及び薬物を含む皮下投与用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/47 20060101AFI20221028BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221028BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20221028BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221028BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221028BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221028BHJP
   C12N 15/56 20060101ALN20221028BHJP
   C12N 9/14 20060101ALN20221028BHJP
【FI】
A61K38/47 ZNA
A61K39/395 T
A61K47/18
A61K47/26
A61P35/00
A61P43/00 121
C12N15/56
C12N9/14
【請求項の数】 27
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022068166
(22)【出願日】2022-04-18
(62)【分割の表示】P 2020569741の分割
【原出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2022095925
(43)【公開日】2022-06-28
【審査請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0033880
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517432732
【氏名又は名称】アルテオジェン・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】パク スンジェ
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヘシン
(72)【発明者】
【氏名】イ スンジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム ギュワン
(72)【発明者】
【氏名】ピョン ミンス
(72)【発明者】
【氏名】ナム キソク
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0218069(US,A1)
【文献】特表2015-504666(JP,A)
【文献】国際公開第2015/003167(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 39/395
A61K 9/00
A61K 47/00
C12N 15/00
C12N 9/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)、及び
(b)PH20変異体を含む組成物であって、前記PH20変異体は、
(i)配列番号1におけるM345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361Tのアミノ酸残基の置換、及び配列番号1のN末端におけるアミノ酸残基M1~T35、M1~L36、M1~N37、M1~F38、M1~R39、M1~A40、又はM1~P41の欠失、又は
(ii)配列番号1におけるM345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361Tのアミノ酸残基の置換、及び配列番号1のN末端におけるアミノ酸残基M1~T35、M1~L36、M1~N37、M1~F38、M1~R39、M1~A40、又はM1~P41の欠失、及び配列番号1のC末端のI465、D466、A467、F468、K470、P471、P472、M473、E474、T475、E476、P478、I480、Y482、A484、P486、T488又はS490の後のすべてのアミノ酸残基の欠失、
を含む、組成物。
【請求項2】
前記PH20変異体は、配列番号1におけるM345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361Tのアミノ酸残基の置換、及び配列番号1のN末端におけるアミノ酸残基M1~T35、M1~L36、M1~N37、M1~F38、M1~R39、M1~A40、又はM1~P41の欠失を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記PH20変異体は、配列番号1におけるM345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361Tのアミノ酸残基の置換、及び配列番号1のN末端におけるアミノ酸残基M1~T35、M1~L36、M1~N37、M1~F38、M1~R39、M1~A40、又はM1~P41の欠失、及び配列番号1のC末端のI465、D466、A467、F468、K470、P471、P472、M473、E474、T475、E476、P478、I480、Y482、A484、P486、T488又はS490の後のすべてのアミノ酸残基の欠失を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記PH20変異体はさらに、T341S、L342W、S343E、I344N及びN363Gからなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基の置換を含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記PH20変異体はさらに、T341S、L342W、S343E、I344N及びN363Gからなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基の置換を含むことを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記PH20変異体は、以下の群のいずれか一つに記載されたアミノ酸置換を含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物:
(a)T341S、L342W、S343E、I344N、M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T;
(b)L342W、S343E、I344N、M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T;
(c)M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T;
(d)M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D、I361T、及びN363G。
【請求項7】
前記PH20変異体は、以下の群のいずれか一つに記載されたアミノ酸置換を含むことを特徴とする、請求項3に記載の組成物:
(a)T341S、L342W、S343E、I344N、M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T;
(b)L342W、S343E、I344N、M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T;
(c)M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T;
(d)M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D、I361T、及びN363G。
【請求項8】
前記PH20変異体は、以下の群のいずれか一つに記載されたアミノ酸置換を含むことを特徴とする、請求項2又は3に記載の組成物:
(a)I344N、M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T;及び
(b)S343E、I344N、M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T。
【請求項9】
前記PH20変異体が、配列番号5及び7~50のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記PH20変異体が、配列番号5、9、11、12、13、16、17、19、22、23、24、27、32、33、34、35、36、37、38、39、40、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50のアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記PH20変異体が、配列番号5、9、11、12、13、16、17、19、22、23、24、27、32、33、34、35、36、37、38、39、40、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記PH20変異体が、配列番号44のアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記PH20変異体が、配列番号44のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物は25mg/mlのペムブロリズマブ、及び2000Units/mlのPH20変異体を含む、請求項12又は13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物は25mg/mlのペムブロリズマブ、2000Units/mlのPH20変異体、10mMのヒスチジン緩衝液(pH 5.5)、7%のスクロース、及び10mMのメチオニンを含む、請求項12又は13に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物は、0.005%又は0.02%のポリソルベート80を更に含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物は、25mg/mlのペムブロリズマブ、2000Units/mlのPH20変異体、10mMのヒスチジン緩衝液(pH 5.5)、210mMのトレハロース、10mMのメチオニン及び0.02%のポリソルベート80を含む、請求項12又は13に記載の組成物。
【請求項18】
治療を必要とする対象における癌の治療に使用するための、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物は、対象への皮下注射用である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記癌は、皮膚癌、肝癌、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、胃癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、気管支癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、膵癌、膀胱癌、大腸癌、結腸癌、脳癌、前立腺癌、骨癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、腎臓癌、食道癌、胆道癌、精巣癌、直膓癌、頭頸部癌、子宮頸癌、尿管癌、骨肉腫、神経芽細胞腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、星状細胞腫、又は神経膠腫である、請求項18又は19に記載の組成物。
【請求項21】
前記癌は、皮膚癌、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、胃癌、乳癌、肺癌、膀胱癌、大腸癌、結腸癌、子宮頸癌、腎臓癌、食道癌、又は頭頸部癌である、請求項18又は19に記載の組成物。
【請求項22】
治療を必要とする対象における癌の治療のための医薬組成物であって、前記医薬組成物はペムブロリズマブ及び薬学的に許容可能な添加剤を含み、そして、前記医薬組成物は対象に請求項10に記載のPH20変異体との組み合わせで皮下に投与され、医薬組成物。
【請求項23】
治療を必要とする対象における癌の治療のための医薬組成物であって、前記医薬組成物はペムブロリズマブ及び薬学的に許容可能な添加剤を含み、そして、前記医薬組成物は対象に請求項11に記載のPH20変異体との組み合わせで皮下に投与される、医薬組成物。
【請求項24】
治療を必要とする対象における癌の治療のための医薬組成物であって、前記医薬組成物はペムブロリズマブ及び薬学的に許容可能な添加剤を含み、そして、前記医薬組成物は対象に請求項12に記載のPH20変異体との組み合わせで皮下に投与され、医薬組成物。
【請求項25】
治療を必要とする対象における癌の治療のための医薬組成物であって、前記医薬組成物はペムブロリズマブ及び薬学的に許容可能な添加剤を含み、そして、前記医薬組成物は対象に請求項13に記載のPH20変異体との組み合わせで皮下に投与される、医薬組成物。
【請求項26】
前記癌は、皮膚癌、肝癌、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、胃癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、気管支癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、膵癌、膀胱癌、大腸癌、結腸癌、脳癌、前立腺癌、骨癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、腎臓癌、食道癌、胆道癌、精巣癌、直膓癌、頭頸部癌、子宮頸癌、尿管癌、骨肉腫、神経芽細胞腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、星状細胞腫、又は神経膠腫である、請求項22~25のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記癌は、皮膚癌、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、胃癌、乳癌、肺癌、膀胱癌、大腸癌、結腸癌、子宮頸癌、腎臓癌、食道癌、又は頭頸部癌である、請求項22~25のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素活性及び熱安定性が向上したヒトヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)PH20の変異体及び1つ以上の薬物を含む医薬組成物及びこれを用いた疾病の治療方法に関する。
【0002】
本発明に係る医薬組成物は、好ましくは皮下投与(subcutaneous injection)用途に用いることができる。
【背景技術】
【0003】
高容量又は多量投与が必要な薬物、特に抗体医薬品などは静脈注射で投与されるのが一般であるが、注射だけに約90分以上がかかり、静脈注射のための追加の調製作業が必要なため、患者も医療陣にとっても不便が大きく、追加の費用がかかるという問題点がある。一方、皮下注射は直接投与が可能であるという長所があるが、静脈注射に比べて吸収率が低く、吸収が遅いため、注射液量が3~5mL以上の場合は注射部位に膨潤及び疼痛を誘発することがある。このため、タンパク質治療剤の皮下注射は通常、2mL以内の少量の溶液注射に限って行われている。しかし、ヒアルロニダーゼを治療薬物と共に皮下投与(subcutaneous administration又はsubcutaneous injection)すれば、ヒアルロニダーゼの作用によって細胞外基質に分布するヒアルロン酸が加水分解されることにより、皮下部の粘性が減少し、物質透過性が増加するので、高容量及び多量の医薬品を体内に容易に伝達することができる。
【0004】
ヒトにはHyal1、Hyal2、Hyal3、Hyal4、HyalPS1及びPH20/SPAM1のように6種類のヒアルロニダーゼ遺伝子がある。Hyal1とHyal2は大部分の組織で発現し、PH20/SPAM1(以下、PH20)は精子の細胞膜と先体(acrosome)膜に発現する。HyalPS1は偽遺伝子(pseudogene)であって、発現しない。PH20は、ヒアルロン酸の構成糖であるN-アセチルグルコサミンとグルクロン酸間のβ-1,4結合を切断する酵素(EC 3.2.1.35)である。ヒトヒアルロニダーゼPH20は最適pHが5.5であるが、pH7~8条件でも一部活性を示すのに対し、Hyal1を含めて他のヒトヒアルロニダーゼは最適pHが3~4であり、pH7~8条件では活性が非常に弱い。ヒトの皮下部位は略pH7.4程度の中性であることから、種々のヒアルロニダーゼの中でもPH20が臨床で多く使用されている。PH20が臨床で使用される例には、抗体治療剤の皮下注射、眼科手術時に眼球弛緩剤及び麻酔注射添加剤、腫瘍細胞の細胞外基質のヒアルロン酸を加水分解して抗癌治療剤の腫瘍細胞接近性を高めるための用途、及び組織内に過多存在する体液及び血液の再吸収を促進するための用途などがある。
【0005】
一方、現在商業的に多用されているPH20は、ウシやヒツジの皐丸から抽出した形態である。その例には、AmphadaseTM(ウシヒアルロニダーゼ)とVitraseTM(ヒツジヒアルロニダーゼ)などがある。
【0006】
BTH(Bovine testicular hyaluronidase)は、ウシの野生型(wild-type)PH20から、シグナルペプチド(signal peptide)及びC末端56個のアミノ酸がタンパク質翻訳後修飾(post-translational modification)過程で除去された形態である。BTHも糖タンパク質であり、アミノ酸を含む全成分においてマンノース(mannose)が5%、グルコサミン(glucosamine)が2.2%を占める(Borders and Raftery,1968)。動物由来ヒアルロニダーゼを人体に高容量で反復投与する場合、中和抗体(neutralizing antibody)が生成可能であり、PH20とともに不純物として含まれた動物由来の他の生体物質がアレルギーを誘発することがある。特に、ウシから抽出したPH20は狂牛病の心配から利用に制限がある。このような問題点を改善するために、ヒトPH20の組換えタンパク質に対する研究が行われている。
【0007】
ヒトPH20の組換えタンパク質は、酵母(P.pastoris)、DS-2昆虫細胞、動物細胞などから発現したものが報告されている(Chen et al.,2016,Hofinger et al.,2007)。昆虫細胞と酵母から生産された組換えPH20タンパク質は、タンパク質翻訳後修飾過程でN-糖化の様相がヒトPH20と異なる。
【0008】
ヒアルロニダーゼのうち、Hyal1(PDB ID:2PE4)(Chao et al.,2007)と蜂毒ヒアルロニダーゼ(bee venom hyaluronidase,PDB ID:1FCQ,1FCU,1FCV)のタンパク質構造が明らかにされている。Hyal1は触媒ドメインとEGF様ドメインの2個のドメインで構成されており、触媒ドメインはタンパク質の2次構造を特徴付けるアルファヘリックスとベータ-ストランドがそれぞれ8回ずつ反復される(β/α)8の形態をなす(Chao et al.,2007)。EGF様ドメインは、Hyal1のC末端が異なるようにスプライシングされた変異体において全て保存されている。Hyal1とPH20のアミノ酸配列は35.1%一致し、まだPH20のタンパク質3次構造は明らかにされていない。
【0009】
ヒトPH20に対する構造/機能関係研究によると、PH20のC末端部位はタンパク質発現及び酵素活性に重要であり、特に、C末端が477~483番アミノ酸で終結されることが酵素の発現及び活性度に重要であると報告されている(Frost,2007)。全長(Full Length)PH20(アミノ酸1~509)又はC末端が467番アミノ酸以降に切断されたPH20変異体の活性は、C末端が477~483番のいずれか1個所で切断されたPH20変異体酵素活性の10%以下に過ぎなかった(Frost,2007)。Halozyme Therapeutics社では、成熟したPH20のC末端をY482で切断した形態の組換えタンパク質であるrHuPH20(アミノ酸36~482)を開発した(Bookbinder et al.,2006;Frost,2007)。
【0010】
一方、ヒトPH20を用いて様々な治療用医薬品を皮下注射(subcutaneous injection)剤形の形態で開発しようとする研究が進行中であるが、ヒトPH20自体の安定性が低い問題は依然として解決すべき課題である。
【0011】
このような技術的背景下で、本発明の発明者らは、野生型ヒアルロニダーゼPH20のアミノ酸配列においてアルファヘリックス8部位(S347~C381)、そしてアルファヘリックス7とアルファヘリックス8との連結部位(A333~R346)に1つ以上のアミノ酸置換を含み、PH20のN末端及び/又はC末端部分に位置しているアミノ酸の一部が切断されたヒトPH20変異体が非常に優れた酵素活性及び熱安定性を有することを確認し、特許出願したことがある(PCT/KR2019/009215号)。
【0012】
また、本出願の発明者らは、薬物、例えば抗体医薬品、具体的に高容量の抗HER2抗体又は免疫関門抗体を含む医薬組成物(pharmaceutical composition)又は剤形(formulation)に、本発明に係るPH20の変異体を適用することができ、これによって、本発明に係る抗HER2抗体又は免疫関門抗体などの薬物と共にPH20変異体を含む医薬組成物及び剤形を皮下投与のために使用できるだけでなく、抗体医薬品などの薬物及びPH20変異体の活性が非常に安定的で長持ちできることを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、薬物と共に、酵素活性及び熱安定性が向上したPH20変異体を含み、薬物とPH20変異体の熱安定性及び活性が長期間持続可能な新しい医薬組成物、特に皮下投与用途に利用可能な医薬組成物を提供することを目的とする。
【0014】
本発明の他の目的は、本発明に係る医薬組成物を治療を必要とする対象に投与することを特徴とする疾病の治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、(a)薬物及び(b)PH20変異体を含む医薬組成物を提供する。
【0016】
本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体は、配列番号1のアミノ酸配列を有する野生型ヒトPH20において、S343E、M345T、K349E、L353A、L354I、N356E及びI361Tからなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基の置換を含むことを特徴とし、さらにアルファヘリックス8配列(S347~C381)及び/又はアルファヘリックス7とアルファヘリックス8との連結部位(A333~R346)から選ばれる1つ以上の部位におけるアミノ酸置換を含み、選択的にN末端及び/又はC末端部分に位置しているアミノ酸残基の一部が切断されたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る医薬組成物には、薬学的に許容可能な添加剤、具体的に緩衝剤、安定化剤及び界面活性剤から選ばれる1つ以上がさらに含まれてもよい。
【0018】
本発明に係る医薬組成物は、皮下投与のための注射剤形の形態で用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1の(a)は、45℃苛酷安定性試験においてトラスツズマブのサイズ排除クロマトグラフィークロマトグラム(Size-exclusion chromatography chromatograms)、図1の(b)は、剤形による45℃苛酷安定性試験におけるトラスツズマブ単量体(monomer)タンパク質の純度変化を示すものである。
図2図2は、トラスツズマブ及び新規のPH20変異体HP46が含まれた剤形に対してタンパク質凝集温度を測定した結果を示すものである。
図3図3の(a)は、45℃苛酷安定性試験においてトラスツズマブに対するWCX(weak cation exchange)クロマトグラフィーのクロマトグラム、図3の(b)は、各剤形に対する45℃苛酷安定性試験における酸性変異体(acidic variants)の相対含有量変化(%)、図3の(c)は、各剤形に対する45℃苛酷安定性試験におけるメインピーク(Main peak)の相対含有量変化(%)、図3の(d)は、各剤形に対する45℃苛酷安定性試験における塩基性変異体(basic variants)の相対含有量変化(%)を示すものである。
図4図4は、剤形5~7に対する45℃苛酷安定性試験におけるトラスツズマブ単量体(monomer)タンパク質の純度変化を示すものである。
図5図5の(a)は、剤形5~7による45℃苛酷安定性試験における酸性変異体(acidic variants)の相対含有量変化(%)、図5の(b)は、剤形5、6、7による45℃苛酷安定性試験におけるメインピーク(Main peak)の相対含有量変化(%)、図5の(c)は、剤形5、6、7による45℃苛酷安定性試験における塩基性変異体(basic variants)の相対含有量変化(%)を示すものである。
図6図6の(a)は、40℃苛酷安定性試験において0日と1日目にハーセプチン皮下注射剤形(Herceptin SC)、トラスツズマブ+野生型PH20(HW2)、そしてトラスツズマブ+PH20変異体HP46の残存酵素活性測定結果、図6の(b)は、45℃苛酷安定性試験において0日目と1日目にハーセプチン皮下注射剤形、トラスツズマブ+野生型PH20(HW2)、トラスツズマブ+PH20変異体HP46の残存酵素活性測定結果を示すものである。
図7図7は、14日間の40℃苛酷安定性試験において剤形8~10に対するサイズ排除クロマトグラフィー分析を行った結果を示すものである。
図8図8の(a)は、DLS装備を用いて剤形8~10のタンパク質粒子サイズの変化を測定した結果であり、(b)は、タンパク質凝集温度測定結果を示すものである。
図9図9の(a)は、40℃苛酷安定性試験において剤形8に対するWCX(weak cation exchange)クロマトグラフィーのクロマトグラム、図9の(b)は、剤形8~10に対する40℃苛酷安定性試験における酸性変異体(acidic variants)の相対含有量変化(%)、図9の(c)は、剤形8~10に対する40℃苛酷安定性試験におけるメインピーク(Main peak)の相対含有量変化(%)、図9の(d)は剤形8~10に対する40℃苛酷安定性試験における塩基性変異体(basic variants)の相対含有量変化(%)を示すものである。
図10図10は、剤形8~10に対する40℃苛酷安定性試験における相対的な酵素活性変化(%)を示すものである。
図11図11は、剤形11~13に対する40℃苛酷安定性試験におけるトラスツズマブ単量体(monomer)の純度変化を示すものである。
図12図12の(a)は、40℃苛酷安定性試験において剤形11に対するWCX(weak cation exchange)クロマトグラフィーのクロマトグラム、図12の(b)は、剤形11~13に対する40℃苛酷安定性試験における酸性変異体(acidic variants)の相対含有量変化(%)、図12の(c)は剤形11~13に対する40℃苛酷安定性試験におけるメインピーク(Main peak)の相対含有量変化(%)、図12の(d)は、剤形11~13に対する40℃苛酷安定性試験における塩基性変異体(basic variants)の相対含有量変化(%)を示すものである。
図13図13は、剤形11~13に対する40℃苛酷安定性試験における相対的な酵素活性変化(%)を示すものである。
図14図14は、剤形14~16に対する40℃苛酷安定性試験におけるリツキシマブ単量体(monomer)タンパク質の純度変化を示すものである。
図15図15は、剤形14~16に対する40℃苛酷安定性試験における相対的な酵素活性変化を示すものである。
図16図16は、剤形17~18に対する40℃苛酷安定性試験における相対的な酵素活性変化を示すものである。
図17図17は、剤形19~22に対する40℃サイズ排除クロマトグラフィー分析を行った結果を示すものである。
図18図18は、剤形19~22に対する40℃苛酷安定性試験における相対的な酵素活性変化を示すものである。
図19図19は、組換えヒトPH20及びHP46のpH変化に従う酵素活性変化を示すものである。
図20図20は、ハーセプチン皮下注射製品(Herceptin SC)とハーセプチン皮下注射バイオシミラー候補(トラスツズマブ+HP46;Herceptin SC BS)に対する9週齢Sprague-Dawleyラットにおける薬物動態学(pharmacokinetics)試験結果を示すものである。ハーセプチンとハーセプチンバイオシミラー候補はそれぞれ18mg/kgで注射し、皮下注射剤形にはrHuPH20とHP46がそれぞれ100units(pH5.3基準)含まれている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
特に定義されない限り、本明細書で使われた全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家に通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使われた命名法は本技術分野によく知られており、通常使用されるものである。
【0021】
一実施例において、本発明は、(a)薬物及び(b)PH20変異体を含む医薬組成物に関し、本発明に係る医薬組成物は、疾病の予防又は治療用途に利用可能であり、好ましくは皮下投与用途に用いられることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る医薬組成物に含まれるヒトPH20の変異体は、野生型PH20(配列番号1のアミノ酸配列を有する)、好ましくは、成熟した野生型PH20のアミノ酸配列(配列番号1のアミノ酸配列のうち、L36~S490からなる配列を有する。)のうち、アルファヘリックス部位及び/又はその連結部位に該当する部位、好ましくはアルファヘリックス8部位(S347~C381)及び/又は、アルファヘリックス7とアルファヘリックス8との連結部位(A333~R346)、より好ましくは、T341~N363間のアミノ酸部位、最も好ましくはT341~I361、L342~I361、S343~I361、I344~I361、M345~I361又はM345~N363に該当するアミノ酸部位において一部のアミノ酸残基が置換されたことを特徴とする。
【0023】
本発明において、“成熟した野生型PH20”は、配列番号1の野生型PH20のアミノ酸配列において、シグナルペプチドであるM1~T35とPH20の実質的な機能とは関係ないA491~L509が欠失された、配列番号1のL36~S490のアミノ酸残基からなるタンパク質を意味する。
【0024】
【表1】
【0025】
具体的に、本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体又はその切片は、配列番号1の配列を有する野生型PH20において、S343E、M345T、K349E、L353A、L354I、N356E及びI361Tからなる群から選ばれる1つ以上の変異、好ましくはアミノ酸残基の置換を含むことを特徴とし、最も好ましくは、L354I及びN356Eからなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基の置換を含むことを特徴とする。
【0026】
本発明において、“PH20変異体”は、野生型ヒトPH20の配列において一部のアミノ酸残基の変異、好ましくはアミノ酸残基の置換を含むものだけでなく、当該アミノ酸残基の置換と共に、N末端及び/又はC末端における一部のアミノ酸残基の欠失が起きたものを全て含む概念で使われ、“PH20変異体又はその切片”という表現と実質的に同じ概念で使われる。
【0027】
本発明の発明者らは以前の研究から、ヒトPH20のアルファヘリックス8部位、及びアルファヘリックス7とアルファヘリックス8との連結部位のアミノ酸配列を、親水性の大きいHyal1のアルファヘリックス8部位、及びアルファヘリックス7とアルファヘリックス8との連結部位のアミノ酸配列に部分的に置換すれば、中性pHにおける酵素活性及びタンパク質凝集温度(aggregation temperature,Tagg.)が増加するという実験結果に基づき、野生型PH20に比べて酵素活性及び熱安定性が増加した新しいPH20変異体又はその切片を提供できることを糾明したことがある。
【0028】
これによって、本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体は、野生型PH20(配列番号1のアミノ酸配列を有する。)、好ましくは成熟した野生型PH20のアミノ酸配列(配列番号1のアミノ酸配列のうちL36~S490からなる配列を有する。)において、S343E、M345T、K349E、L353A、L354I、N356E及びI361Tからなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基の置換、好ましくはL354I及びN356Eからなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基の置換を含み、
アルファヘリックス部位及び/又はその連結部位に該当する部位、好ましくはアルファヘリックス8部位(S347~C381)及び/又はアルファヘリックス7とアルファヘリックス8との連結部位(A333~R346)、より好ましくはT341~N363、T341~I361、L342~I361、S343~I361、I344~I361、M345~I361又はM345~N363に該当するアミノ酸部位において1つ以上のアミノ酸残基が置換されたことを特徴とする。
【0029】
特に、本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体は、前記野生型PH20、好ましくは成熟した野生型PH20のアルファヘリックス8部位(S347~C381)及び/又は、アルファヘリックス7とアルファヘリックス8との連結部位(A333~R346)が、配列番号51の配列を有するHyal1の対応する部位(表2及び表3参照)のアミノ酸配列中の一部のアミノ酸残基に置換され得るが、これに限定されない。
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
より具体的に、本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体又はその切片は、野生型PH20、好ましくは成熟した野生型PH20のアミノ酸配列において、L354I及び/又はN356Eのアミノ酸残基の置換を含み、
さらにT341~N363における1つ以上の位置、特にT341、L342、S343、I344、M345、S347、M348、K349、L352、L353、D355、E359、I361及びN363からなる群から選ばれる1つ以上の位置におけるアミノ酸残基の置換を含むことが好ましいが、これに限定されず、
より好ましくは、T341S、L342W、S343E、I344N、M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、D355K、E359D、I361T及びN363Gからなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基の置換をさらに含むことを特徴とするが、これに限定されない。
【0033】
好ましくは、本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体又はその切片は、M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361Tのアミノ酸残基の置換を含むことを特徴とし、
さらに、T341S、L342W、S343E、I344N及びN363Gからなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基の置換を含むことを特徴としてもよいが、これに限定されない。
【0034】
より好ましくは、本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体又はその切片は、次に構成された群から選ばれるいずれか一つの置換を含んでもよいが、これに限定されない。
(a)T341S、L342W、S343E、I344N、M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T;
(b)L342W、S343E、I344N、M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T;
(c)M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T;
(d)M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D、I361T、及びN363G;
(e)I344N、M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T;及び
(f)S343E、I344N、M345T、S347T、M348K、K349E、L352Q、L353A、L354I、D355K、N356E、E359D及びI361T。
【0035】
本発明において、“S347”のように1文字(one letter)のアミノ酸残基名と数字が共に記載された表現は、配列番号1によるアミノ酸配列の各位置におけるアミノ酸残基を意味する。
【0036】
例えば、“S347”は、配列番号1のアミノ酸配列において347番目位置のアミノ酸残基がセリンであることを意味する。また、“S347T”は、配列番号1の347番目セリンがトレオニンに置換されたものを意味する。
【0037】
本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体は、特定アミノ酸残基位置においてアミノ酸残基が保存的置換された変異体も含む意味で解釈される。
【0038】
本明細書において“保存的置換”とは、1個以上のアミノ酸を当該PH20変異体の生物学的又は生化学的機能の損失を誘発しない類似の生化学的特性を持つアミノ酸に置換することを含むPH20変異体の修飾を意味する。
【0039】
“保存的アミノ酸置換”は、アミノ酸残基を、類似の側鎖を持つアミノ酸残基に代替させる置換である。類似の側鎖を持つアミノ酸残基部類は、当該技術分野に規定されており、よく知られている。それらの部類は、塩基性側鎖を持つアミノ酸(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を持つアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、帯電していない極性側鎖を持つアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を持つアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ-分枝された側鎖を持つアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を持つアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。
【0040】
本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体は保存的アミノ酸置換を有しても相変らず活性を保有できることが予想される。
【0041】
また、本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体又はその切片は、本発明に係るPH20変異体又はその切片と実質的に同じ機能及び/又は効果を有し、80%又は85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上のアミノ酸配列相同性を有するPH20変異体又はその切片も含む意味で解釈される。
【0042】
本発明に係るPH20変異体は、成熟した野生型PH20に比べて動物細胞で発現が増加し、タンパク質フォールディングの速度も増加して熱安定性が増加する効果を示し、さらには熱安定性が増加するにもかかわらず、それらの酵素活性は成熟した野生型PH20に比べて増加又は類似であった。
【0043】
一方、成熟した野生型PH20のS490などのC末端部アミノ酸の一部がさらに切断されると酵素活性が減少すると知られているが、本発明に係るPH20変異体は、成熟した野生型PH20のC末端部がさらに切断された配列を有するにもかかわらず、成熟した野生型PH20に比べて熱安定性が増加するとともに、酵素活性が増加又は類似であり、また、成熟した野生型PH20のN末端アミノ酸が5個も切断された配列を有するにもかかわらず酵素活性を維持し、N末端のP41残基からタンパク質発現及び酵素活性に重要な働きをすることを示した。
【0044】
これによって、本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体は、野生型PH20のアルファヘリックス8部位(S347~C381)及び/又は、アルファヘリックス7とアルファヘリックス8との連結部位(A333~R346)における一部のアミノ酸残基の置換と共に、さらにC末端及び/又はN末端における一部のアミノ酸残基が欠失されたことを特徴とするが、これに限定されない。
【0045】
一側面において、本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体は、配列番号1のアミノ酸配列N末端のM1~P42からなる群から選ばれるアミノ酸残基の前、好ましくはL36、N37、F38、R39、A40、P41又はP42のアミノ酸残基の前で切断が起きてN末端で一部のアミノ酸残基が欠失されたり、及び/又はC末端のV455~W509からなる群から選ばれるアミノ酸残基の次、好ましくはV455~S490からなる群から選ばれるアミノ酸残基、最も好ましくはV455、C458、D461、C464、I465、D466、A467、F468、K470、P471、P472、M473、E474、T475、E476、P478、I480、Y482、A484、P486、T488又はS490のアミノ酸残基の次で切断が起きてC末端で一部のアミノ酸残基が欠失されたことを特徴とし得る。
【0046】
前記N末端のL36、N37、F38、R39、A40、P41又はP42の前で切断が起きたという表現は、それぞれ配列番号1の配列においてM1~L36の直前アミノ酸残基であるT35まで、M1~N37の直前アミノ酸残基であるL36まで、M1~F38の直前アミノ酸残基であるN37まで、M1~R39の直前アミノ酸残基であるF38まで、M1~A40の直前アミノ酸残基であるR39まで、M1~P41の直前アミノ酸残基であるA40まで、M1~P42の直前アミノ酸残基であるP41までが切断して除去されたということを意味する。ただし、前記配列番号1のN末端M1の前で切断が起きたという意味は、いかなるN末端における切断も起きなかったことを意味する。
【0047】
また、C末端のV455、C458、D461、C464、I465、D466、A467、F468、K470、P471、P472、M473、E474、T475、E476、P478、I480、Y482、A484、P486、T488又はS490の次で切断が起きたという表現は、それぞれ配列番号1の配列において前記V455、C458、D461、C464、I465、D466、A467、F468、K470、P472、M473、E474、T475、E476、P478、I480、Y482、A484、P486、T488又はS490以降の次のアミノ酸残基から切断して除去されたことを意味する。例えば、S490の次で切断が起きたという意味は、S490とA491との間で切断が起きたことを意味する。
【0048】
好ましくは、本発明に係る医薬組成物に含まれるヒトPH20変異体は、配列番号5~配列番号50のアミノ酸配列からなる群から選ばれてもよく、より好ましくは、配列番号44のアミノ酸配列を有し得るが、これに限定されない。本発明に係る具体的実施例で作製したPH20変異体において置換又は切断されたアミノ酸の配列は、表4に記載の通りである。
【0049】
【表4】
【0050】
一方、先行研究において野生型ヒトPH20の場合、C末端に位置しているアミノ酸残基の切断位置にしたがって酵素活性が変わることが報告されたが、本発明では、ヒトPH20の2次構造をなす特定アルファヘリックスを他のヒトヒアルロニダーゼのアルファヘリックスに置換して野生型ヒトPH20に比べて安定性の高いヒトPH20変異体を作製し、これらの変異体は、置換されたアルファヘリックスドメインとPH20の他の2次構造がなす相互作用が野生型PH20と異なる様相を示すことによって、C末端切断位置に関係なく一定レベル以上の酵素活性を有することを特徴とする。
【0051】
また、本発明では、ヒトPH20固有のシグナルペプチドではなく動物細胞で高いタンパク質発現量を示す他のタンパク質のシグナルペプチドを用いて組換えPH20タンパク質の発現を向上させようとした。
【0052】
これによって、他の側面において、本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体は、M1~T35の野生型PH20のシグナルペプチドに代えて、N末端にヒトヒアルロニダーゼ-1(Hyal1)、ヒト成長ホルモン又はヒト血清アルブミン由来のシグナルペプチドを含むことを特徴とし、好ましくは、表5に記載のような配列番号2によるMATGSRTSLLLAFGLLCLPWLQEGSAのアミノ酸配列を持つヒト成長ホルモン由来のシグナルペプチド、配列番号3によるMKWVTFISLLFLFSSAYSのアミノ酸配列を持つヒト血清アルブミン由来のシグナルペプチド、又は配列番号4によるMAAHLLPICALFLTLLDMAQGのアミノ酸配列を持つヒトHyal1由来のシグナルペプチドを含むことを特徴とするが、これに限定されない。
【0053】
【表5】
【0054】
本発明に係る医薬組成物に含まれるPH20変異体のうち、C末端に6xHis-tagが付着している変異体はHMと命名し、6xHis-tagのない変異体はHPと命名した。また、C末端に6xHis-tagが付着している成熟した野生型PH20(L36~S490)はWTと命名し、6xHis-tagがないとともにC末端がY482の次で切断された成熟した野生型PH20(L36~Y482)はHW2と命名した。
【0055】
HP46(配列番号44)は、タンパク質3次構造が知られたヒトヒアルロニダーゼであるHyal1(PDB ID:2PE4)(Chao et al.,2007)を用いてタンパク質構造をモデリングした後、ヒトPH20のアルファヘリックス8のアミノ酸及びアルファヘリックス7とアルファヘリックス8との連結部位のアミノ酸配列がHyal1のアミノ酸配列に置換され、N末端がF38で切断され、C末端がF468の次で切断されたヒトPH20の変異体である。特に、アルファヘリックス8はPH20のタンパク質3次構造において外側に位置しており、隣り合うアルファヘリックス又はベータ-ストランドとの相互作用が他のアルファヘリックスに比べて少ない。一般に、酵素の活性と熱安定性は交換(trade-off)の関係が成立し、タンパク質の熱安定性が増加するほど酵素活性が減少し、逆に、タンパク質構造の柔軟性向上によって酵素活性が増加すれば熱安定性は減少する傾向がある。しかし、pH7.0条件で比濁分析(Turbidimetric assay)方法で測定したHP46の非活性度は約46units/μgであり、野生型PH20の約23units/μgよりも2倍程度高く評価された。
【0056】
タンパク質の熱安定性は、タンパク質3次構造の50%が変性される温度である変性温度(melting temperature,Tm)とタンパク質間の凝集が起きる温度である凝集温度(aggregation temperature,Tagg)によって評価できる。一般に、タンパク質の凝集温度が変性温度よりも低い傾向を示す。Hyal1のアルファヘリックス8はPH20のアルファヘリックス8に比べて高い親水性を示す。置換されたHyal1のアルファヘリックス8がHP46のタンパク質表面親水性を増加させることによって、疎水性相互作用によって起きるタンパク質間の凝集を遅延させる効果を誘発して凝集温度が51℃となり、野生型PH20の凝集温度46.5℃よりも4.5℃増加したと評価される。
【0057】
HP46は、PH20のアルファヘリックス8、及びアルファヘリックス7とアルファヘリックス8との連結部位のアミノ酸を置換しながらT341をセリンに置換したものである。341番アミノ酸残基がトレオニンであるときは、酵素活性が野生型PH20と類似するが、セリンに置換されると酵素活性が約2倍に増加する特徴を示し、またSubstrate gel assayからも、ヒアルロン酸を野生型PH20に比べて5~6倍多く加水分解することが確認された。Substrate gel assayはタンパク質の変性及びリフォールディング(denaturation & refolding)過程を伴うので、HP46のタンパク質3次構造リフォールディング(refolding)及び復原力が野生型PH20に比べて増強していることを意味する。
【0058】
本発明に係る医薬組成物にPH20の変異体は最小で50units/mL含まれ、好ましくは100~20,000units/mL、より好ましくは約150~18,000units/mL、より好ましくは1,000~16,000units/mL、最も好ましくは1,500~12,000units/mL含まれる。
【0059】
本発明に係る医薬組成物に含まれる薬物としては、タンパク質医薬品(protein drugs)、抗体(antibody)医薬品、低分子化合物(small molecules)、アプタマー(aptamer)、RNAi、アンチセンス、CAR(chimeric antigen receptor)-T又はCAR-NK(Natural Killer)などの細胞治療剤などが挙げられるが、これに限定されず、現在商用化して使用されている薬物の他、臨床及び開発進行中の薬物も使用可能である。
【0060】
前記薬物には好ましくはタンパク質医薬品や抗体(antibody)医薬品が用いられ得る。
【0061】
本発明に係る医薬組成物に含まれる“タンパク質医薬品”は、アミノ酸で構成され、タンパク質の活性によって疾病の治療又は予防効果を示す薬物であり、抗体医薬品以外のタンパク質からなる医薬品を意味し、サイトカイン(cytokines)、治療用酵素(therapeutic enzyme)、ホルモン(hormone)、可溶性受容体(soluble receptor)及びその融合タンパク質、インスリン(insulin)又はその類似体(analogue)、BMP(Bone Morphogenetic Protein)、EPO(erythropoietin)及び血漿由来タンパク質(serum derived protein)などからなる群から選ばれ得るが、これに限定されない。
【0062】
本発明に係る医薬組成物に含まれるサイトカインは、インターフェロン(interferon)、インターロイキン(interleukin)、CSF(colony stimulating factor)、TNF(tumor necrosis factor)及びTGF(tissue growth factor)などからなる群から選ばれ得るが、これに限定されない。
【0063】
治療用酵素は、ベータ-グルコセレブロシダーゼ(β-Glucocerebrosidase)及アガルシダーゼベータ(agalsidase β)などが挙げられるが、これに限定されない。
【0064】
本発明に係る医薬組成物に含まれる可溶性受容体(soluble receptor)は、受容体の細胞外ドメイン(extracellular domain)を意味し、その融合タンパク質は、前記可溶性受容体に抗体のFc領域などが融合されたタンパク質を意味する。前記可溶性受容体は、疾病と関連したリガンドが結合する受容体の水溶性形態であり、TNF-α可溶性受容体にFc領域が融合された形態(例えば、エタネルセプト(Etanercept)という成分名の製品及びこれと類似の形態)及びVEGF可溶性受容体にFc領域が融合された形態(アフリベルセプト(Aflibercept)という成分名の製品及びこれと類似の形態)、CTLA-4にFc領域が融合された形態(例えば、アバタセプト(Abatacept)又はベラタセプト(Belatacept)という成分名の製品及びこれと類似の形態)、インターロイキン1可溶性受容体にFc領域が融合された形態(例えば、リロナセプト(Rilonacept)という成分名の製品及びこれと類似の形態)、LFA3可溶性受容体にFc領域が融合された形態(例えば、アレファセプト(Alefacept)という成分名の製品及びこれと類似の形態)などが挙げられるが、これに限定されない。
【0065】
本発明に係る医薬組成物に含まれるホルモンは、ホルモン欠乏などによって発生する疾患の治療又は予防のために体外から注入するホルモン又はその類似体を意味し、ヒト成長ホルモン(human growth hormone)、エストロゲン(estrogen)、プロゲステロン(Progesterone)などが挙げられるが、これに限定されない。
【0066】
本発明に係る医薬組成物に含まれる血漿由来タンパク質は血漿に存在するタンパク質であり、血漿から抽出したもの及び組換えで生産されたものを全て意味し、フィブリノーゲン(fibrinogen)、フォンウィレブランド因子(von Willebrand Factor)、アルブミン(albumin)、トロンビン(thrombin)、FII(Factor II)、FV(Factor V)、FVII(Factor
VII)、FVIII(Factor VIII)、FIX(Factor IX)、FX(Factor X)及びFXI(Factor XI)などが挙げられるが、これに限定されない。
【0067】
本発明に係る医薬組成物に含まれる抗体医薬品は、単クローン抗体医薬品(monoclonal antibody drug)又は多クローン抗体医薬品(polyclonal antibody drug)であり得る。
【0068】
本発明に係る単クローン抗体医薬品は、特定疾病に関連した抗原に特異的に結合可能な単クローン抗体及び単クローン抗体断片を含むタンパク質を意味する。単クローン抗体には二重抗体も含まれ、単クローン抗体又はその断片を含むタンパク質はADC(Antibody-drug conjugate)を含む意味で使われる。
【0069】
特定疾病に関連した抗原は、4-1BB、インテグリン(integrin)、アミロイドベータ(amyloid beta)、アンジオポエチン(アンジオポエチン1又は2)、アンジオポエチン類似物質3、B細胞活性因子(B-cell activating factor,BAFF)、B7-H3、補体5(complement 5)、CCR4、CD3、CD4、CD6、CD11a、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、CD52、CD62、CD79b、CD80、CGRP、クローディン18(Claudin-18)、補体要素D(complement factor D)、CTLA4、DLL3、EGF受容体、血友病因子、Fc受容体、FGF23、フォレート(folate)受容体、GD2、GM-CSF、HER2、HER3、インターフェロン受容体、インターフェロンガンマ、IgE、IGF-1受容体、インターロイキン1、インターロイキン2受容体、インターロイキン4受容体、インターロイキン5、インターロイキン5受容体、インターロイキン6、インターロイキン6受容体、インターロイキン7、インターロイキン12/23、インターロイキン13、インターロイキン17A、インターロイキン17受容体A、インターロイキン31受容体、インターロイキン36受容体、LAG3、LFA3、NGF、PVSK9、PD-1、PD-L1、RANK-L、SLAMF7、組織因子(Tissue factor)、TNF、VEGF、VEGF受容体及びVWF(von Willebrand Factor)であり、これに限定するものではない。
【0070】
次は、上記の特定疾病に関連した抗原に対する単クローン抗体及び単クローン抗体断片を含むタンパク質であり、これに限定するものではない;
4-1BBに対する抗体は、ウトミルマブ(Utomilumab);
インテグリンに対する抗体は、ナタリズマブ(Natalizumab)、エトロリズマブ(Etrolizumab)、ベドリズマブ(Vedolizumab)、ビマグルマブ(Bimagrumab);
アミロイドベータに対する抗体は、バピネオズマブ(Bapineuzumab)、クレネズマブ(Crenezumab)、ソラネズマブ(Solanezumab)、アデュカヌマブ(Aducanumab)、ガンテネルマブ(Gantenerumab);
アンジオポエチンに対する抗体は、アンジオポエチン1及び2に対するAMG 780、アンジオポエチン2に対するMEDI 3617、ネスバクマブ(Nesvacumab)とアンジオポエチン2とVEGFの二重抗体であるバヌシズマブ(Vanucizumab);
アンジオポエチン類似物質3に対する抗体は、エビナクマブ(Evinacumab);
B細胞活性因子(B-cell activating factor,BAFF)に対する抗体は、タバルマブ(Tabalumab)、ラナルマブ(Lanalumab)、ベリムマブ(Belimumab);
B7-H3に対する抗体は、オムブルタマブ(omburtamab);
補体5(complement 5)に対する抗体は、ラブリズマブ(Ravulizumab)、エクリズマブ(Eculizumab);
CCR4に対する抗体は、モガムリズマブ(Mogamulizumab);
CD3に対する抗体は、オテリキシズマブ(Otelixizumab)、テプリズマブ(Teplizumab)、ムロモナブ(Muromonab)、GP100とCD3に対する二重抗体であるテベンタフスプ(Tebentafusp)、CD19とCD3に対する二重抗体であるブリナツモマブ(Blinatumomab)、及びCD20とCD3に対する二重抗体であるREGN1979;
CD4に対する抗体は、イバリズマブ(Ibalizumab)、ザノリムマブ(Zanolimumab);
CD6に対する抗体は、イトリズマブ(Itolizumab);
CD11aに対する抗体は、エファリズマブ(Efalizumab);
CD19に対する抗体は、イネビリズマブ(Inebilizumab)、タファシタマブ(Tafasitamab)、及びADCであるロカツキシマブテシリン(Loncastuximab tesirine);
CD20に対する抗体は、オクレリズマブ(Ocrelizumab)、ウブリツキシマブ(Ublituximab)、オビヌツズマブ(Obinutuzumab)、オファツムマブ(Ofatumumab)、リツキシマブ(Rituximab)、トシツモマブ(Tositumomab)、及びADCであるイブリツモマブチウキセタン(Ibritumomab tiuxetan);
CD22に対する抗体は、エプラツズマブ(Epratuzumab)、ADCであるイノツズマブオゾガマイシン(Inotuzumab ozogamicin)、及びモキセツモマブパスドトックス(Moxetumomab pasudotox);
CD30に対するADCは、ブレンツキシマブベドチン(Brentuximab vedotin);
CD33に対するADCは、バダスツキシマブタリリン(Vadastuximab talirine)、ゲムツズマブオゾガマイシン(Gemtuzumab ozogamicin);
CD38に対する抗体は、ダラツムマブ(Daratumumab)、イサツキシマブ(Isatuximab);
CD52に対する抗体は、アレムツズマブ(Alemtuxumab);
CD62に対する抗体は、クリザンリズマブ(Crizanlizumab);
CD79bに対するADCは、ポラツズマブベドチン(Polatuzumab vedotin);
CD80に対する抗体は、ガリキシマブ(Galiximab);
CGRPに対する抗体は、エプチネズマブ(Eptinezumab)、フレマネズマブ(Fremanezumab)、ガルカネズマブ(Galcanezumab)、エレヌマブ(Erenumab);
クローディン18(Claudin-18)に対する抗体は、ゾルベツキシマブ(Zolbetuximab);
補体要素D(complement factor D)に対する抗体は、ランパリズマブ(Lampalizumab);
CTLA4に対する抗体は、トレメリムマブ(Tremelimumab)、ザリフレリマブ(Zalifrelimab)、イピリムマブ(Ipilimumab);
DLL3に対するADCは、ロバルピツズマブテシリン(Rovalpituzumab tesirine);
EGF受容体に対する抗体は、セツキシマブ(Cetuximab)、デパツキシズマブ(Depatuxizumab)、ザルツムマブ(Zalutumumab)、ネシツムマブ(Necitumumab)、パニツムマブ(Panitumumab);
血友病因子であるcoagulation factor IX及びFactor Xに対する二重抗体は、エミシズマブ(Emicizumab);
Fc受容体に対する抗体は、ニポカリマブ(Nipocalimab)、ロザノリキシズマブ(Rozanolixizumab);
FGF23に対する抗体は、ブロスマブ(Burosumab);
フォレート(folate)受容体に対する抗体は、ファルレツズマブ(Farletuzumab)、及びADCであるミルベツキシマブソラブタンシン(Mirvetuximab soravtansine);
GD2に対する抗体は、ジヌツキシマブ(Dinutuximab)、ナキシタマブ(Naxitamab);
GM-CSFに対する抗体は、オチリマブ(Otilimab);
HER2に対する抗体は、マルゲツキシマブ(Margetuximab)、ペルツズマブ(Pertuzumab)、トラスツズマブ(Trastuzumab)とADCはトラスツズマブデルクステカン(Trastuzumab deruxtecan)、トラスツズマブエムタンシン(Trastuzumab emtansine)、トラスツズマブデュオカルマジン(Trastuzumab duocarmazine);
HER3に対する抗体は、パトリツマブ(Patritumab);
インターフェロン受容体に対する抗体は、アニフロルマブ(Anifrolumab);
インターフェロンガンマに対する抗体は、エマパルマブ(Emapalumab);
IgEに対する抗体は、リゲリズマブ(Ligelizumab)、オマリズマブ(Omalizumab);
IGF-1受容体に対する抗体は、ダロツズマブ(Dalotuzumab)、フィギツムマブ(Figitumumab)、テプロツムマブ(Teprotumumab);
インターロイキン1に対する抗体は、ゲボキズマブ(Gebokizumab)、カナキヌマブ(Canakinumab);
インターロイキン2受容体に対する抗体は、ダクリズマブ(Daclizumab)、バシリキシマブ(Basiliximab);
インターロイキン4受容体に対する抗体は、デュピルマブ(Dupilumab);
インターロイキン5に対する抗体は、メポリズマブ(Mepolizumab)、レスリズマブ(Reslizumab);
インターロイキン5受容体に対する抗体は、ベンラリズマブ(Benralizumab);
インターロイキン6に対する抗体は、クラザキズマブ(Clazakizumab)、オロキズマブ(Olokizumab)、シルクマブ(Sirukumab)、シルツキシマブ(Siltuximab);
インターロイキン6受容体に対する抗体は、サリルマブ(Sarilumab)、サトラリズマブ(Satralizumab)、トシリズマブ(Tocilizumab)、REGN88;
インターロイキン7に対する抗体は、セクキヌマブ(Secukinumab);
インターロイキン12/23に対する抗体は、ウステキヌマブ(Ustekinumab)、ブリアキヌマブ(Briakinumab);
インターロイキン13に対する抗体は、レブリキズマブ(Lebrikizumab)、トラロキヌマブ(Tralokinumab);
インターロイキン17Aに対する抗体は、イキセキズマブ(Ixekizumab)、ビメキズマブ(Bimekizumab);
インターロイキン17受容体Aに対する抗体は、ブロダルマブ(Brodalumab);
インターロイキン23に対する抗体は、ブラジクマブ(Brazikumab)、グセルクマブ(Guselkumab)、リサンキズマブ(Risankizumab)、ティルドラキズマブ(Tildrakizumab)、ミリキズマブ(Mirikizumab);
インターロイキン31受容体に対する抗体は、ネモリズマブ(Nemolizumab);
インターロイキン36受容体に対する抗体は、スペソリマブ(Spesolimab);
LAG3に対する抗体は、レラトリマブ(Relatlimab);
NASP2に対する抗体は、ナルソプリマブ(Narsoplimab);
NGFに対する抗体は、ファシヌマブ(Fasinumab)、タネズマブ(Tanezumab);
PVSK9に対する抗体は、アリロクマブ(Alirocumab)、エボロクマブ(Evolocumab)、ボコシズマブ(Bococizumab);
PD-1に対する抗体は、ランブロリズマブ(Lambrolizumab)、バルスチリマブ(Balstilimab)、カムレリズマブ(Camrelizumab)、セミプリマブ(Cemiplimab)、ドスタリマブ(Dostarlimab)、プロゴリマブ(Prolgolimab)、シンチリマブ(Sintilimab)、スパルタリズマブ(Spartalizumab)、チスレリズマブ(Tislelizumab)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)、ニボルマブ(Nivolumab);
PD-L1に対する抗体は、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、アベルマブ(Avelumab)、エンバホリマブ(Envafolimab)、デュルバルマブ(Durvalumab)とTGF beteとPD-L1の二重抗体であるビントラフスアルファ(Bintrafusp alpha);
RANK-Lに対する抗体は、デノスマブ(Denosumab);
SLAMF7に対する抗体は、エロツズマブ(Elotuzumab);
組織因子(Tissue factor)に対する抗体は、コンシズマブ(Concizumab)、マルスタシマブ(Marstacimab);
TNF、特にTNFαに対する抗体は、インフリキシマブ(Infliximab)、アダリムマブ(Adalimumab)、ゴリムマブ(Golimumab)と抗体断片であるセルトリズマブペゴル(Certolizumab pegol)、TNFとアルブミンに対する二重抗体であるオゾラリズマブ(Ozoralizumab);
VEGFに対する抗体は、ブロルシズマブ(Brolucizumab)、ラニビズマブ(Ranibizumab)、ベバシズマブ(Bevacizumab)とVEGFとAng2の二重抗体であるファリシマブ(Faricimab);
VEGF受容体に対する抗体は、ラムシルマブ(Ramucirumab);及び
vWFに対する抗体は、カプラシズマブ(Caplacizumab)
【0071】
一方、乳癌患者の約20~25%では細胞分裂を促進するHER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)の過発現が観察され、HER2が過発現した乳癌は、そうでない乳癌に比べて進行が速く、攻撃的であり、抗癌化学療法への反応が低いため、予後がよくない。トラスツズマブ(Trastuzumab)は、HER2を標的にする単クローン抗体医薬品であり、HER2過発現癌細胞表面のHER2に特異的に結合して細胞複製及び増殖の信号伝達を抑制することによって腫瘍の進行を遅らせる。トラスツズマブは、米国で1998年に乳癌治療剤として米国食薬庁(FDA)の承認を受け、韓国では2003年食品医薬品安全処(KFDA)の承認を受けた。その後、HER2過発現胃癌でも効能が認められて胃癌治療剤にも用いられている。
【0072】
Roche社のハーセプチン静脈注射剤形(商品名Herceptin)は、440mgのトラスツズマブが主成分であり、凍結乾燥させたトラスツズマブを生理食塩水と混合して静脈に注射する。一方、トラスツズマブの皮下注射剤形(商品名Herceptin SC)は、5mL液状剤形であって、トラスツズマブ600mg(120mg/mL)が主成分であり、添加剤として20mMヒスチジン(pH5.5)、210mMトレハロース、10mMメチオニン、0.04%ポリソルベート20、10,000UnitsのrHuPH20(2,000Units/mL、0.004%、40(g/mL))を含む。
【0073】
ハーセプチン皮下注射剤形の有効期間は21ヶ月である。トラスツズマブの静脈注射剤形は凍結乾燥形態であり、有効期間が30ケ月であるが、トラスツズマブの皮下注射剤形は液状であり、有効期間が21ヶ月と短い。その理由としては、液状剤形においてトラスツズマブと組換えヒトヒアルロニダーゼPH20のうち1つ以上の安定性が制限されることが推定できる。
【0074】
これを考慮して、本発明では、本発明に係るPH20変異体がヒトヒアルロニダーゼPH20野生型及びHalozyme社の組換えヒトPH20に比べて酵素活性が高いだけでなく、測定されたタンパク質凝集温度が高くて熱安定性が改善された特性を持つという点に着目して、皮下注射剤形の有効期間を長期間、好ましくは21ヶ月以上に設定することを目的とする。
【0075】
本発明に係る医薬組成物において抗体医薬品の含有量は、5~500mg/mL、好ましくは20~200mg/mL、より好ましくは100~150mg/mL、最も好ましくは120±18mg/mLであり得、例えば、約110mg/mL、約120mg/mL又は約130mg/mLであり得る。
【0076】
本発明に係る医薬組成物に含まれる多クローン抗体は、免疫グロブリン(immune
globulin)などの血漿などから抽出した血漿抗体(serum antibody)などが好ましいが、これに限定されない。
【0077】
低分子化合物の場合には、予防や治療の目的で速い効果が要求される薬物であればいずれも使用可能である。例えば、モルヒネ(Morphine)系列の抗鎮痛剤を用いることができる(Thomas et al.,2009)。また、抗癌剤による組織壊死の治療剤として使用する場合、単独で使用したり、或いは解毒(Antidote)薬物であるビンカアルカロイド(Vinca Alkaloid)系統、タキサン系統の薬物と共に使用できる(Kreidieh et al.,2016)。
【0078】
本発明に係る医薬組成物には緩衝剤、安定化剤及び界面活性剤からなる群から選ばれる1つ以上がさらに含まれ得る。
【0079】
本発明に係る組成物に含まれる前記緩衝剤は、4~8、好ましくは5~7のpHを提供するものであればいずれも使用可能であり、前記緩衝剤はリンゴ塩酸(malate)、ぎ酸塩(formate)、クエン酸塩(citrate)、アセテート(acetate)、プロピオネート(propionate)、ピリジン(pyridine)、ピペラジン(piperazine)、カコジル酸塩(cacodylate)、コハク酸塩(succinate)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid,MES)、ヒスチジン(histidine)、トリス(Tris)、ビス-トリス(bis-Tris)、リン酸塩(phosphate)、エタノールアミン(ethanolamine)、炭酸塩(carbonate)、2-エタンスルホン酸(piperazine-N,N’-bis(2-ethanesulfonic acid)、PIPES)、イミダゾール(imidazole)、ビス-トリスプロパン(BIS-TRIS propane)、BES(N,N-bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)、MOPS(3-(N-morpholino)propanesulfonic acid)、HEPES(Hydroxyethyl piperazine Ethane Sulfonic acid)、ピロリン酸塩(pyrophosphate)、及びトリエタノールアミン(triethanolamine)からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、ヒスチジン緩衝剤、例えばL-ヒスチジン/HClがより好ましいが、これに限定されない。
【0080】
緩衝剤の濃度は0.001~200mM、好ましくは1~50mM、より好ましくは5~40mM、最も好ましくは10~30mMであり得る。
【0081】
本発明に係る組成物に安定化剤としてはタンパク質の安定化目的で当業界で通常用いられる物質であればいずれも使用可能であり、好ましい例としては、炭水化物、糖類又はそれらの水和物、糖アルコール類又はそれらの水和物及びアミノ酸からなる群から選ばれる1種以上が用いられ得る。
【0082】
前記安定化剤として用いられる炭水化物、糖類又は糖アルコール類は、トレハロース又はその水和物、スクロース、サッカリン、グリセロール、エリスリトール、トレイトール、キシリトール、アラビトール、リビトール、マンニトール、ソルビトール、ガラクチトール、フシトール、イジトール、イノシトール、ボレミトール、イソマルトール、マルチトール、ポリグリシトール、シクロデキストリン(cyclodextrin)、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(Hydroxypropyl Beta-cyclodextrin)及びグルコースからなる群から選ばれる1種以上を挙げることができるが、これに限定するものではない。
【0083】
前記アミノ酸は、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、リシン、リシルリシン(lysilysine)、ロイシン、メチオニン、バリン、セリン、セレノメチオニン、シトルリン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、オルニチン、イソロイシン、タウリン、テアニン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、プロリン、ピロールリシン、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選ばれる1種以上を挙げることができるが、これに限定するものではない。
【0084】
本発明に係る医薬組成物に安定化剤として用いられる前記糖類又は糖アルコール類の濃度は0.001~500mM、好ましくは100~300mM、より好ましくは150~250mM、最も好ましくは180~230mMであり、具体的には約210mMであり得る。
【0085】
また、本発明に係る医薬組成物に安定化剤として用いられるアミノ酸の濃度は1~100mM、好ましくは3~30mM、より好ましくは5~25mM、最も好ましくは7~20mMであり、具体的には約8~15mMであってもよい。
【0086】
本発明に係る組成物にはさらに界面活性剤が含まれてもよい。
【0087】
好ましくは、前記界面活性剤は、ポリオキシエチレン-ソルビタン脂肪酸エステル[ポリソルベート(polysorbate)又はツイン(Tween)]、ポリエチレン-ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン-ステアレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えばポリオキシエチレンモノラウリルエーテル、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル[トリトン(Triton)-X]、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体[ポロキサマー(Poloxamer)、プルロニック(Pluronic)]及びナトリウムドデシルサルフェート(SDS)などの非イオン性界面活性剤が好ましいが、これに限定されない。
【0088】
より好ましくは、ポリソルベート(polysorbate)が用いれ得る。前記ポリソルベートはポリソルベート20又はポリソルベート80であり得るが、これに限定されない。
【0089】
本発明に係る医薬組成物内の非イオン性界面活性剤の濃度は、0.0000001%~0.5%(w/v)、好ましくは0.000001%~0.4%(w/v)、より好ましくは0.00001%~0.3%(w/v)、最も好ましくは0.001%~0.2%(w/v)であり得る。
【0090】
一具体例において本発明に係る医薬組成物は、50~350mg/mLの抗体、例えば抗HER2抗体又は免疫関門抗体、pH5.5±2.0を提供するヒスチジン緩衝液、10~400mMのα,α-トレハロース、1~50mMのメチオニン及び0.0000001%~0.5%(w/v)ポリソルベートを含むことができる。
【0091】
より具体的な実施例において、本発明に係る医薬組成物は、120mg/mLの抗HER2抗体又は免疫関門抗体、pH5.5±2.0を提供する20mMヒスチジン緩衝液、210mMのα,α-トレハロース、10mMメチオニン及び2,000units/mLのPH20変異体を含み、さらに0.005~0.1%(w/v)ポリソルベートを含んでもよい。
【0092】
本発明に係る医薬組成物は、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与及び直腸内投与などで投与でき、皮下注入で皮下投与されることが好ましく、皮下注射投与のための注射剤形の形態で用いられることがより好ましい。
【0093】
これによって、本発明は他の側面において、本発明に係る医薬組成物を含む剤形(formulation)、好ましくは皮下投与用注射剤形を提供する。
【0094】
前記皮下投与用注射剤形は追加の希釈過程無しで直ちに投与可能な形態(ready-to-injection)として提供可能であり、プレフィルドシリンジ(pre-filled syringe)又はガラスアンプルやプラスチック容器に含まれて提供され得る。
【0095】
また、本発明は、本発明に係る医薬組成物又は剤形を用いた疾病の治療方法に関する。
【0096】
本発明に係る医薬組成物又は剤形で治療可能な疾病には特に制限はなく、本発明に係るPH20変異体と併用する薬物で治療可能な疾患であれば何ら制限もない。
【0097】
本発明に係る医薬組成物又は剤形で治療可能な疾患は、癌、自己免疫疾患などが挙げられるが、これに限定されない。
【0098】
本発明に係る医薬組成物又は剤形で治療可能な癌又は癌腫は特に制限されず、固形癌及び血液癌のいずれも含む。このような癌の例には、黒色腫などの皮膚癌、肝癌、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、胃癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、気管支癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、膵癌、膀胱癌、大腸癌、結腸癌、子宮頸癌、脳癌、前立腺癌、骨癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、腎臓癌、食道癌、胆道癌、精巣癌、直膓癌、頭頸部癌、頸椎癌、尿管癌、骨肉腫、神経芽細胞腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、星状細胞腫、神経芽細胞腫及び神経膠腫からなる群から選ばれ得るが、これに限定されない。好ましくは、本発明の医薬組成物又は剤形で治療可能な癌は、胃癌、大腸癌、乳癌、肺癌及び腎臓癌からなる群から選ばれ得るが、これに限定されない。
【0099】
本発明に係る医薬組成物又は剤形で治療可能な自己免疫疾患は、リウマチ関節炎(rheumatoid arthritis)、喘息(asthma)、乾癬(psoriasis)、多発性硬化症(multiple sclerosis)、アレルギー性鼻炎(allergic Rhinitis)、クローン病(Crohn’s disease)、潰瘍性大膓炎(ulcerative colitis)、全身性紅斑性ループス、第1型糖尿病(type I diabetes)、炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease,IBD)及びアトピー性皮膚炎(Atopic dermatitis)からなる群から選ばれ得るが、これに限定されない。
【0100】
また、本発明は、本発明に係る医薬組成物又は剤形を、治療を必要とする対象に投与することを特徴とする疾病の治療方法を提供し、さらに、本発明に係る医薬組成物又は剤形を疾病の治療のための薬剤を製造するための用途に提供する。
【0101】
本発明で使われる技術用語及び科学用語において特に定義がないと、この発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が通常理解する意味を有する。また、従来と同じ技術的構成及び作用に関する反復説明は省略するものとする。
【0102】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がそれらの実施例によって制限されると解釈されないことが当該技術分野における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0103】
実施例
実施例1.剤形開発
【0104】
表6に記載のように4種類のトラスツズマブ皮下注射剤形を製造した。剤形1~剤形4はいずれも、120mg/mLのトラスツズマブを含み、20mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl(pH5.5)、210mMトレハロース、10mMメチオニン、PH20変異体で構成する。剤形1~4における差異は非イオン性界面活性剤の濃度であり、剤形1:0%ポリソルベート20、剤形2:0.005%ポリソルベート20、剤形3:0.04%ポリソルベート20、剤形4:0.1%ポリソルベート20を含む。
【0105】
【表6】
【0106】
実施例2.分光光度計を用いた測定
【0107】
45℃で14日間剤形1~剤形4の剤形を放置し、タンパク質濃度変化をBeckman社の分光光度計で分析した。試料の濃度が0.4mg/mLとなるように蒸留水で希釈した後、分光光度計で280nmでタンパク質の吸光度を測定した。14日間の45℃苛酷安定性試験において剤形1~剤形4で有意のタンパク質濃度の変化はなかった。しかし、ヒアルロニダーゼの活性が45℃で急に減少する現象を示し、本実施例では酵素活性を測定しなかった(図6参照)。
【0108】
実施例3.サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)を用いた各剤形におけるトラスツズマブの単量体比率調査
【0109】
サイズ排除クロマトグラフィー分析のためにShimadzu Prominence社のHPLCシステムとTSK-gel G3000SWXL(7.8×300mm、5μm)及びTSKガードカラム(6.0×4.0mm、7μm)を使用した。移動相としては、0.25M塩化カリウムが含まれた0.2Mリン酸カリウム(pH6.2)を使用した。流速0.5mL/minの等速(Isocratic)分離モードを適用して35分間分析を行った。試料は分析溶媒で希釈して最終濃度が10mg/mLとなるようにし、20μLをHPLCカラムに注入した後、280nmでカラム溶出液の吸光度を記録した。HPLCクロマトグラムでトラスツズマブの単量体比率を計算し、グラフで示した。
【0110】
14日間の45℃苛酷安定性試験においてサイズ排除クロマトグラフィー分析を行ったとき、剤形1~4は類似の変化様相を示した。主な変化は、高分子量(High molecular weight,HMW)及び低分子量(Low molecular weight,LMW)分解産物の増加及び単量体の減少(約1.5%)であり、剤形による差異は有意でなかった。結論的に、45℃苛酷安定性試験においてサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果、ポリソルベート20の濃度(0~0.1%(w/v))による剤形間安定性プロファイルに有意の差はなかった(図1)。
【0111】
実施例4.トラスツズマブとHP46が含まれた剤形に対するタンパク質の凝集温度測定
【0112】
動的光散乱(dynamic light scattering,DLS)は、熱によるタンパク質の変性特性を分析するのに用いられる。この試験では温度変化に従うタンパク質分子のサイズ変化を測定してタンパク質凝集温度を算出するための目的に使用した。DLS分析のためにMalvern社のZetasizer-nano-ZS機器と石英製キュベット(quartz cuvette)(ZEN2112)を使用した。分析過程において温度は1℃間隔で25℃から85℃まで増加させ、各剤形バッファーを用いて試料を1mg/mLに希釈後、150μLの試料をキュベットに入れて分析した。
【0113】
ポリソルベート20が含まれていない剤形1では凝集温度が74℃であり、剤形2~剤形4における凝集温度は76℃であった(図2)。
【0114】
実施例5.トラスツズマブとHP46が含まれた剤形に対するWCXクロマトグラフィー測定
【0115】
WCXクロマトグラフィー分析のために、Shimadzu Prominence社のHPLCシステムと、カラムとしてTSKgel CM-STAT(4.6×100mm、7μm)、TSKgel guard gel CMSTAT(3.2mm l.D.×1.5cm)などを使用した。移動相Aは10mMリン酸ナトリウム(pH7.5)であり、移動相Bは0.1MのNaClが含まれた10mMリン酸ナトリウム(pH7.2)である。流速0.8mL/minで0~30%移動相B線形濃度勾配を期しつつ55分間分析を行った。試料は移動相Aで希釈して最終濃度が1.0mg/mLとなるようにし、80μLの試料をHPLCに注入した後、280nmでカラム溶出液の吸光度を記録した。HPLCクロマトグラムでトラスツズマブの単量体比率を計算し、グラフで示した。
【0116】
14日間の45℃苛酷安定性試験でWCX分析を行ったとき、剤形1~剤形4は類似の変化推移を示した。特定変化としては酸性変異体相対含有量の増加(14日間約30%変化)、メインピーク相対含有量の減少(14日間約44%変化)、塩基性変異体相対含有量の増加(14日間約15%変化)があり、剤形による差異は有意でなかった。結論的に、45℃苛酷安定性試験におけるWCX分析ではポリソルベート20(0~0.1%)によるタンパク質の安定性は類似していた(図3)。
【0117】
実施例6.剤形開発
【0118】
表7に記載のように3種類のトラスツズマブ皮下注射剤形を製造した。剤形5~剤形7はいずれも、120mg/mLのトラスツズマブ、20mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl(pH5.5)、210mMトレハロース、10mMメチオニン、HP46を含む。剤形5~7における差異は安定化剤3(Stabilizer)の成分であり、剤形5:0.04%ポリソルベート20、剤形6:50mmのLys-Lys、剤形3:グリシンを含む。
【0119】
【表7】
【0120】
実施例7.分光光度計を用いた測定
【0121】
45℃で14日間剤形5~剤形7の剤形を放置し、タンパク質濃度変化をBeckman社の分光光度計で分析した。蒸留水で試料の濃度が0.4mg/mLとなるように希釈した後、分光光度計で280nmでタンパク質の吸光度を測定した。14日間の45℃苛酷安定性試験において剤形5~剤形7で有意のタンパク質濃度の変化はなかった。しかし、ヒアルロニダーゼの活性が45℃で急に減少する現象を示し、本実施例では酵素活性を測定しなかった(図6参照)。
【0122】
実施例8.サイズ排除クロマトグラフィーを用いて各剤形でトラスツズマブの単量体比率調査
【0123】
サイズ排除クロマトグラフィー分析のためにShimadzu Prominence社のHPLCシステムと、カラムとしてTSK-gel G3000SWXL(7.8×300mm、5μm)、TSKガードカラム(6.0×4.0mm、7μm)を使用した。移動相は、0.25M塩化カリウムが含まれた0.2Mリン酸カリウム(pH6.2)である。0.5mL/minの流速で無勾配(isocratic)分離モードを35分間適用した。試料は分析溶媒で希釈して最終濃度が10mg/mLとなるようにし、20μLの試料をHPLCに注入し、280nmで吸光度を測定した。HPLCクロマトグラムでトラスツズマブの単量体の比率を計算し、グラフで示した。
【0124】
14日間の45℃苛酷安定性試験においてサイズ排除クロマトグラフィー分析を行ったとき、剤形5~7の剤形は類似の変化推移を示した。主な変化は、高分子量(High molecular weight,HMW)及び低分子量(Low molecular weight,LMW)不純物の増加と単量体の減少(約1.5%)であり、剤形による差異は有意でなかった。結論的に、45℃苛酷安定性試験においてサイズ排除クロマトグラフィー分析によるタンパク質安定性は、0.04%ポリソルベート20と50mMのLys-Lys、50mMグリシン剤形が類似していた(図4)。
【0125】
実施例9.トラスツズマブとHP46が含まれた剤形に対するWCXクロマトグラフィー分析
【0126】
WCXクロマトグラフィー分析のために、Shimadzu Prominence社のHPLCシステムと、カラムとしてTSKgel CM-STAT(4.6×100mm、7μm)、TSKgel guard gel CM-STAT(3.2mm l.D.×1.5cm)を使用した。移動相Aは10mMリン酸ナトリウム(pH7.5)であり、移動相Bは0.1M NaClが含まれた10mMリン酸ナトリウム(pH7.2)である。流速0.8mL/minで0~30%線形濃度勾配の分離モードを55分間適用して分析した。試料は移動相Aで希釈して最終濃度が1.0mg/mLとなるようにし、80μLの試料をHPLCに注入し、280nmで吸光度を記録した。HPLCクロマトグラムでトラスツズマブの単量体比率を計算し、グラフで示した。
【0127】
14日間の45℃苛酷安定性試験でWCX分析を行ったとき、剤形5~剤形7で類似の変化推移を示した。特定変化としては、酸性変異体相対含有量の増加(14日間約30%変化)、メインピーク相対含有量の減少(14日間約44%変化)、塩基性変異体相対含有量の増加(14日間約15%変化)があり、剤形による差異は有意でなかった。結論的に、45℃苛酷安定性試験におけるWCX分析によるタンパク質安定性は、0.04%ポリソルベート20、50mMリシルリシン(Lys-Lys)、そして50mMグリシン剤形で類似していた(図5)。
【0128】
実施例10.トラスツズマブとHP46の皮下注射剤形において40℃及び45℃温度によるHP46の安定性評価
【0129】
トラスツズマブの皮下注射剤形においてHP46の安定性を評価するために、トラスツズマブ(120mg/mL)とPH20(200units/mL)を混合した。ここで使用した緩衝液は20mMヒスチジン(pH5.5)、210mMトレハロース、10mMメチオニン、0.04%ポリソルベート20であった。対照試料は、0日目に酵素活性を測定し、試験試料は、40℃又は45℃で1日間放置後に酵素活性を測定した。
【0130】
ハーセプチン皮下注射剤形、トラスツズマブ+HW2、及びトラスツズマブ+HP46を40℃で1日間放置後にヒアルロニダーゼの活性を測定したとき、それぞれ51%、47%、94%の活性を示し、HP46が40℃で熱安定性が高いことを示した(図6)。また、ハーセプチン皮下注射剤形、トラスツズマブ+HW2及びトラスツズマブ+HP46を45℃で1日間放置後にヒアルロニダーゼの活性を測定したとき、ハーセプチン皮下注射剤形とトラスツズマブ+HW2は酵素活性が消滅したが、トラスツズマブ+HP46は22%の酵素活性が残存した(図6)。
【0131】
実施例11.剤形開発
【0132】
表8に記載のように3種類のトラスツズマブ皮下注射剤形を製造した。剤形8~剤形10はいずれも、120mg/mLのトラスツズマブ、20mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl(pH5.5)、210mMトレハロース、10mMメチオニン及びPH20変異体を含む。剤形8~10における差異は、非イオン性界面活性剤の濃度であり、剤形8:0%ポリソルベート20、剤形9:0.005%ポリソルベート20、剤形10:0.04%ポリソルベート20を含む。
【0133】
【表8】
【0134】
実施例12.分光光度計を用いた測定
【0135】
40℃で14日間剤形8~剤形10の剤形を放置し、タンパク質濃度変化をBeckman社の分光光度計で分析した。試料の濃度が0.4mg/mLとなるように蒸留水で希釈した後、分光光度計で280nmでタンパク質の吸光度を測定した。14日間の40℃苛酷安定性試験において剤形8~剤形10で有意のタンパク質濃度の差はなかった。
【0136】
実施例13.サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)を用いた各剤形におけるトラスツズマブの単量体比率調査
【0137】
サイズ排除クロマトグラフィー分析のために、Shimadzu Prominence社のHPLCシステムとTSK-gel G3000SWXL(7.8×300mm、5μm)及びTSKガードカラム(6.0×4.0mm、7μm)を使用した。移動相としては、0.25M塩化カリウムが含まれた0.2Mリン酸カリウム(pH6.2)を使用した。流速0.5mL/minの等速(Isocratic)分離モードを適用して35分間分析を行った。試料は分析溶媒で希釈して最終濃度が10mg/mLとなるようにし、20μLの試料をHPLCカラムに注入した後、280nmでカラム溶出液の吸光度を記録した。HPLCクロマトグラムでトラスツズマブの単量体比率を計算し、グラフで示した。
【0138】
14日間の40℃苛酷安定性試験においてサイズ排除クロマトグラフィー分析を行ったとき、剤形8~10は類似の変化様相を示した。主な変化は、高分子量(High molecular weight,HMW)及び低分子量(Low molecular weight,LMW)分解産物の増加及び単量体の減少(約1.0%未満)であり、剤形による差異は有意でなかった。結論的に、40℃苛酷安定性試験においてサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果、ポリソルベート20の濃度(0~0.04%)による剤形間安定性プロファイルに有意の差異はなかった(図7)。
【0139】
実施例14.トラスツズマブとHP46が含まれた剤形に対するタンパク質の凝集温度測定
【0140】
動的光散乱(dynamic light scattering,DLS)はタンパク質医薬品分野で熱によるタンパク質の変性特性を分析するのに用いられる。この試験では温度変化に従うタンパク質分子のサイズ変化を測定してタンパク質凝集温度を算出するための目的で用いた。DLS分析のために、Malvern社のZetasizer-nano-ZS機器と石英製キュベット(ZEN2112)を使用した。分析過程において温度は1℃間隔で25℃から85℃まで増加させ、試料は各剤形緩衝液を使用して1mg/mLに希釈後、キュベットに150μLの試料を入れて分析した。
【0141】
ポリソルベート20が含まれていない剤形8における凝集温度は78.3℃であり、剤形9における凝集温度は77.3℃、剤形10における凝集温度は77.7℃であった。実施例13では、ポリソルベート20が含まれなくてもタンパク質単量体比率には変化がないことを示し、ポリソルベート20が含まれていない場合とポリソルベート20が含まれた場合を比較した結果、タンパク質間の凝集において差異がないことを確認した。この結果は、トラスツズマブの皮下注射剤形に最小限のポリソルベート20が必須要素でないことを意味する(図8参照)。
【0142】
実施例15.トラスツズマブとHP46が含まれた剤形に対するWCXクロマトグラフィー分析
【0143】
WCXクロマトグラフィー分析のために、Shimadzu Prominence社のHPLCシステムと、カラムとしてTSKgel CM-STAT(4.6×100mm、7μm)、TSKgel guard gel CMSTAT(3.2mm l.D.×1.5cm)などを使用した。移動相Aは10mMリン酸ナトリウム(pH7.5)であり、移動相Bは0.1M NaClが含まれた10mMリン酸ナトリウム(pH7.2)である。流速0.8mL/minで0~30%移動相B線形濃度勾配を期しつつ55分間分析を行った。試料は移動相Aで希釈して最終濃度が1.0mg/mLとなるようにし、80μLの試料をHPLCに注入した後、280nmでカラム溶出液の吸光度を記録した。HPLCクロマトグラムでトラスツズマブの単量体比率を計算し、グラフで示した。
【0144】
14日間の40℃苛酷安定性試験でWCX分析を行ったとき、剤形8~剤形10で類似の変化推移を示した。特定変化としては酸性変異体相対含有量の増加(14日間約10%変化)、メインピーク相対含有量の減少(14日間約40%変化)、塩基性変異体相対含有量の増加(14日間約300%変化)があり、剤形による差異は有意でなかった。結論的に40℃苛酷安定性試験におけるWCX分析ではポリソルベート20(0~0.04%)によるタンパク質の安定性は類似していた(図9)。
【0145】
実施例16.トラスツズマブとHP46が含まれた剤形に対する酵素活性測定
【0146】
酵素活性を測定する比濁分析方法は、反応溶液に残存するヒアルロン酸が酸性化したアルブミン(BSA)と結合して凝集体を形成する程度を吸光度で測定する方法であり、PH20によってヒアルロン酸が加水分解されると、アルブミンと結合する量が減少して吸光度が減少する。標準品としてBTH(Sigma)を1、2、5、7.5、10、15、20、30、50、60unit/mLとなるように希釈して各チューブに用意する。精製されたPH20変異体試料を酵素希釈バッファー(enzyme diluent buffer)(20mMトリス・HCl、pH7.0、77mM NaCl、0.01%(w/v)ウシ血清アルブミン)で100X、300X、600X、1200X、2400Xとなるように希釈して各チューブに用意する。新しいチューブに3mg/mLのヒアルロン酸溶液を濃度が0.3mg/mLとなるように10倍希釈して各チューブの体積が180μLとなるようにする。希釈したヒアルロン酸溶液にヒアルロニダーゼが含まれた試料を60μL入れて混合し、37℃で45分間反応させる。反応が終わると、96ウェルプレートに反応させた酵素50μLと酸性アルブミン溶液(acidic albumin solution)250μLを各ウェルに入れて10分間振盪した後、600nmで分光光度計で吸光度を測定する。
【0147】
14日間の40℃苛酷安定性試験で活性分析を行ったとき、ポリソルベート20の濃度が高いほど経時的に活性減少幅がより大きくなることを確認した(図10)。
【0148】
実施例17.剤形開発
【0149】
表9に記載のように3種類のトラスツズマブ皮下注射剤形を製造した。剤形11~剤形13はいずれも、120mg/mLのトラスツズマブ、20mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl(pH5.5)、210mMトレハロース、10mMメチオニン、PH20変異体を含む。剤形11~13における差異は非イオン性界面活性剤の濃度であり、剤形11:0%ポリソルベート80、剤形12:0.005%ポリソルベート80、剤形13:0.04%ポリソルベート80を含む。
【0150】
【表9】
【0151】
14日間の40℃苛酷安定性試験においてサイズ排除クロマトグラフィー分析を行ったとき、剤形11~13は類似の変化様相を示した。主な変化は、高分子量(High molecular weight,HMW)及び低分子量(Low molecular weight,LMW)分解産物の増加及び単量体の減少(約1.0%未満)であり、剤形による差異は有意でなかった。結論的に40℃苛酷安定性試験においてサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果、ポリソルベート80濃度(0~0.04%)による剤形間安定性プロファイルに有意の差異はなかった(図11)。
【0152】
実施例18.トラスツズマブとHP46が含まれた剤形に対するWCXクロマトグラフィー分析
【0153】
WCXクロマトグラフィー分析のために、Shimadzu Prominence社のHPLCシステムと、カラムとしてTSKgel CM-STAT(4.6×100mm、7μm)、TSKgel guard gel CMSTAT(3.2mm l.D.×1.5cm)などを使用した。移動相Aは10mMリン酸ナトリウム(pH7.5)であり、移動相Bは0.1M NaClが含まれた10mMリン酸ナトリウム(pH7.2)である。流速0.8mL/minで0~30%移動相B線形濃度勾配を期しつつ55分間分析を行った。試料は移動相Aで希釈して最終濃度が1.0mg/mLとなるようにし、80μLの試料をHPLCに注入した後、280nmでカラム溶出液の吸光度を記録した。HPLCクロマトグラムでトラスツズマブの単量体比率を計算し、グラフで示した。
【0154】
14日間の40℃苛酷安定性試験でWCX分析を行ったとき、剤形11~剤形13で類似の変化推移を示した。特定変化としては酸性変異体相対含有量の増加(14日間約10%変化)、メインピーク相対含有量の減少(14日間約40%変化)、塩基性変異体相対含有量の増加(14日間約300%変化)があり、剤形による差異は有意でなかった。結論的に40℃苛酷安定性試験におけるWCX分析ではポリソルベート80(0~0.04%)によるタンパク質の安定性は類似していた(図12)。
【0155】
実施例19.トラスツズマブとHP46が含まれた剤形に対する酵素活性測定
【0156】
酵素活性を測定する比濁分析方法は、反応溶液に残存するヒアルロン酸が酸性化したアルブミン(BSA)と結合して凝集体を形成する程度を吸光度で測定する方法であり、PH20によってヒアルロン酸が加水分解されると、アルブミンと結合する量が減少して吸光度が減少する。標準品としてBTH(Sigma)を1、2、5、7.5、10、15、20、30、50、60unit/mLとなるように希釈して各チューブに用意する。精製されたタンパク質サンプルを酵素希釈バッファー(20mMトリス・HCl、pH7.0、77mM NaCl、0.01%(w/v)ウシ血清アルブミン)で100X、300X、600X、1200X、2400Xとなるように希釈して各チューブに用意する。新しいチューブに3mg/mLのヒアルロン酸溶液を濃度が0.3mg/mLとなるように10倍希釈して各チューブの体積が180μLとなるようにする。希釈したヒアルロン酸溶液にヒアルロニダーゼが含まれた試料を60μL入れて混合し、37℃で45分間反応させる。反応が終わると、96ウェルプレートに反応させた酵素50μLと酸性アルブミン溶液250μLを各ウェルに入れて10分間振盪した後、600nmで分光光度計で吸光度を測定する。
【0157】
14日間の40℃苛酷安定性試験で活性分析を行ったとき、ポリソルベート80の濃度が高いほど経時的に活性減少幅がより大きくなることを確認した(図13)。
【0158】
実施例20.剤形開発
【0159】
表10に記載のように3種類のリツキシマブ剤形を製造した。剤形14~剤形16はいずれも、120mg/mLのリツキシマブ、20mMヒスチジン/ヒスチジン-HCl(pH5.5)、210mMトレハロース、10mMメチオニン、PH20変異体を含む。剤形14~16における差異は非イオン性界面活性剤の濃度であり、剤形1:0%ポリソルベート80、剤形2:0.005%ポリソルベート80、剤形3:0.06%ポリソルベート80を含む。
【0160】
【表10】
【0161】
7日間の40℃苛酷安定性試験においてサイズ排除クロマトグラフィー分析を行ったとき、剤形14~16は類似の変化様相を示した。主な変化は、高分子量(High molecular weight,HMW)及び低分子量(Low molecular weight,LMW)分解産物の増加及び単量体の減少(約1.0%未満)であり、剤形による差異は有意でなかった。結論的に40℃苛酷安定性試験においてサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果、ポリソルベート80濃度(0~0.06%)による剤形間安定性プロファイルに有意の差異はなかった(図14)。
【0162】
実施例21.リツキシマブとHP46が含まれた剤形に対する酵素活性測定
【0163】
酵素活性を測定する比濁分析方法は、反応溶液に残存するヒアルロン酸が酸性化したアルブミン(BSA)と結合して凝集体を形成する程度を吸光度で測定する方法であり、PH20によってヒアルロン酸が加水分解されると、アルブミンと結合する量が減少して吸光度が減少する。標準品としてBTH(Sigma)を1、2、5、7.5、10、15、20、30、50、60unit/mLとなるように希釈して各チューブに用意する。精製されたタンパク質サンプルを酵素希釈バッファー(20mMトリス・HCl、pH7.0、77mM NaCl、0.01%(w/v)ウシ血清アルブミン)で100X、300X、600X、1200X、2400Xとなるように希釈して各チューブに用意する。新しいチューブに3mg/mLのヒアルロン酸溶液を濃度が0.3mg/mLとなるように10倍希釈して各チューブの体積が180μLとなるようにする。希釈したヒアルロン酸溶液にヒアルロニダーゼが含まれた試料を60μL入れて混合し、37℃で45分間反応させる。反応が終わると、96ウェルプレートに反応させた酵素50μLと酸性アルブミン溶液250μLを各ウェルに入れて10分間振盪した後、600nmで分光光度計で吸光度を測定する。
【0164】
7日間の40℃苛酷安定性試験で活性分析を行ったとき、ポリソルベート80の濃度が高いほど経時的に活性減少幅がより大きくなることを確認した(図15)。
【0165】
実施例22.ポリソルベートを含まない商用製品の剤形で酵素活性測定
【0166】
表11に記載のように2種類の商用リツキシマブ剤形を製造した。剤形17は商用皮下注射剤形バッファーであり、剤形18は商用静脈注射剤形バッファーである。それぞれ120、100mg/mLのリツキシマブとPH20変異体を含むが、商用製品の剤形と違い、ポリソルベート80を含まない。
【0167】
【表11】
【0168】
酵素活性を測定する比濁分析方法は、反応溶液に残存するヒアルロン酸が酸性化したアルブミン(BSA)と結合して凝集体を形成する程度を吸光度で測定する方法であり、PH20によってヒアルロン酸が加水分解されると、アルブミンと結合する量が減少して吸光度が減少する。標準品としてBTH(Sigma)を1、2、5、7.5、10、15、20、30、50、60units/mLとなるように希釈して各チューブに用意する。精製されたタンパク質サンプルを酵素希釈バッファー(20mMトリス・HCl、pH7.0、77mM NaCl、0.01%(w/v)ウシ血清アルブミン)で100X、300X、600X、1200X、2400Xとなるように希釈して各チューブに用意する。新しいチューブに3mg/mLのヒアルロン酸溶液を濃度が0.3mg/mLとなるように10倍希釈して各チューブの体積が180μLとなるようにする。希釈したヒアルロニダーゼ溶液に酵素を60μL入れて混合し、37℃で45分間反応させる。反応が終わると、96ウェルプレートに反応させた酵素50μLと酸性アルブミン溶液250μLを各ウェルに入れて10分間振盪した後、600nmで分光光度計で吸光度を測定する。
【0169】
6日間の40℃苛酷安定性試験で活性分析を行ったとき、ポリソルベート80を含まない剤形でも活性が高く維持され、特に剤形18で高く維持されたことが確認できた(図16)。
【0170】
実施例23.剤形開発
【0171】
表12に記載のように4種類のペムブロリズマブ皮下注射剤形を製造した。剤形19、20、21はいずれも、25mg/mLのペムブロリズマブを含み、10mMヒスチジン(pH5.5)、7%スクロース、10mMメチオニン、PH20変異体で構成する。剤形19、20、21における差異は、非イオン性界面活性剤の濃度であり、剤形19:0%ポリソルベート80、剤形20:0.005%ポリソルベート80、剤形21:0.02%ポリソルベート80を含む。剤形22の場合、25mg/mLのペムブロリズマブを含み、10mMヒスチジン(pH5.5)、210mMトレハロース、10mMメチオニン、0.02%ポリソルベート80、PH20変異体で構成する。
【0172】
【表12】
【0173】
実施例24.分光光度計を用いた測定
【0174】
40℃で7日間剤形19、20、21、22の剤形を放置し、タンパク質濃度変化をBeckman社の分光光度計で分析した。試料の濃度が0.4mg/mLとなるように蒸留水で希釈した後、分光光度計で280nmでタンパク質の吸光度を測定した。
【0175】
7日間の40℃苛酷安定性試験において剤形19~剤形22で有意のタンパク質濃度の差はなかった。
【0176】
実施例25.サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)を用いた各剤形におけるペムブロリズマブの単量体比率調査
【0177】
サイズ排除クロマトグラフィー分析のために、Shimadzu Prominence社のHPLCシステムとTSK-gel G3000SWXL(7.8×300mm、5μm)及びTSKガードカラム(6.0×4.0mm、7μm)を使用した。移動相としては0.25M塩化カリウムが含まれた0.2Mリン酸カリウム(pH6.2)を使用した。流速0.5mL/minの等速(Isocratic)分離モードを適用して35分間分析を行った。試料は分析溶媒で希釈して最終濃度が10mg/mLとなるようにし、20μLの試料をHPLCカラムに注入した後、280nmでカラム溶出液の吸光度を記録した。HPLCクロマトグラムでペムブロリズマブの単量体比率を計算し、グラフで示した。
【0178】
7日間の40℃苛酷安定性試験においてサイズ排除クロマトグラフィー分析を行ったとき、剤形19、20、21、22は類似の変化様相を示した。高分子量(High molecular weight,HMW)及び低分子量(Low molecular weight,LMW)分解産物の変化様相において剤形による差異は有意でなかった。結論的に、40℃苛酷安定性試験においてサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果、剤形19、20、21、22で有意の差異はなく、糖の種類による差異もなかった(図17)。この結果は、上の実施例のトラスツズマブ及びリツキシマブの結果と一致した。
【0179】
実施例26.ペムブロリズマブとHP46が含まれた剤形に対する酵素活性測定
【0180】
酵素活性を測定する比濁分析方法は、反応溶液に残存するヒアルロン酸が酸性化したアルブミン(BSA)と結合して凝集体を形成する程度を吸光度で測定する方法であり、PH20によってヒアルロン酸が加水分解されると、アルブミンと結合する量が減少して吸光度が減少する。標準品としてBTH(Sigma)を1、2、5、7.5、10、15、20、30、50、60units/mLとなるように希釈して各チューブに用意する。精製されたタンパク質サンプルを酵素希釈バッファー(20mMトリス・HCl、pH7.0、77mM NaCl、0.01%(w/v)ウシ血清アルブミン)で100X、300X、600X、1200X、2400Xとなるように希釈して各チューブに用意する。新しいチューブに3mg/mLのヒアルロン酸溶液を濃度が0.3mg/mLとなるように10倍希釈して各チューブの体積が180μLとなるようにする。希釈したヒアルロニダーゼ溶液に酵素を60μL入れて混合し、37℃で45分間反応させる。反応が終わると、96ウェルプレートに反応させた酵素50μLと酸性アルブミン溶液250μLを各ウェルに入れて10分間振盪した後、600nmで分光光度計で吸光度を測定する。
【0181】
7日間の40℃苛酷安定性試験で活性分析を行ったとき、ポリソルベート80の濃度が高いほど経時的に活性減少幅が若干大きくなることを確認した。同じポリソルベート80が含まれたとき、スクロースが含まれた剤形に比べてトレハロースが含まれた剤形において活性減少幅がより小さいことを確認した。(図18
【0182】
実施例27.HP46と野生型HW2のpH活性プロファイル
【0183】
HP46と野生型HW2のpH活性プロファイルを確認する実験のために、マイクロ比濁分析(Microturbidimetric assay)方法を用いた。基質であるヒアルロン酸を溶解するヒアルロン酸緩衝液と酵素を希釈する酵素緩衝液をpH別に用意した。
【0184】
酵素と基質の反応のために総3個の96ウェルプレートを用意し、A、B、Cと定めて試験を行った。
【0185】
ヒアルロン酸緩衝液でpH4.0、4.5、5.0の範囲は20mM酢酸、70mM NaClを用いて調製し、pH5.5、6.0、6.5、7.0、8.0の範囲は20mMリン酸ナトリウム、70mM NaClを用いて調製した。用意したそれぞれのヒアルロン酸緩衝液10mLに20mgのヒアルロン酸を溶解させて最終ヒアルロン酸基質溶液を用意し、pH別に用意したヒアルロン酸緩衝液でそれぞれを希釈して0.1、0.25、0.45、0.7mg/mL濃度となるように500μLずつ用意し、A番の96ウェルプレートに100μLずつ分注した。希釈して濃度別に用意したヒアルロン酸緩衝液は、ヒアルロン酸濃度を測定するための検量曲線に用いられた。
【0186】
酵素緩衝液においてpH4.0、4.5、5.0の範囲は、20mM酢酸、0.01%(w/v)BSA、70mM NaClを用いて調製し、pH5.5、6.0、6.5、7.0、8.0の範囲は20mMリン酸ナトリウム、0.01%(w/v)BSA、70mM NaClを用いて調製した。
【0187】
HP46と野生型HW2酵素を各pH別に用意した酵素緩衝液で10units/mLとなるように希釈してB番の96ウェルプレートに50μLずつ分注した。
【0188】
A番の96ウェルプレートからB番の96ウェルプレートに50μLずつ移し込め、37℃振盪培養器で45分間反応させた。反応の終了する15分前に酸性アルブミン溶液を200μLずつC番の96ウェルプレートに分注して用意し、酵素基質反応が終了するとB番の96ウェルプレートから40μLずつC番の96ウェルプレートに移して20分間反応させた。20分が経過すると、600nmで吸光度を測定し、酵素基質反応後に残っているヒアルロン酸の量を計算してpH別酵素の活性プロファイルを完成した(図19)。
【0189】
実施例28.Sprague-Dawleyラットでハーセプチン皮下注射剤形及びトラスツズマブとHP46を用いた薬物動態学試験
【0190】
トラスツズマブとHP46の皮下注射剤形がハーセプチンの皮下注射剤形と同等な薬物動態学特性を示すかを調べるために、9週齢のSprague-Dawleyラットを用いて試験をした。投与したハーセプチンとトラスツズマブの量はラット体重対比18mg/kgであり、ハーセプチン皮下注射剤形に含まれたrHuPH20は100Uであり、HP46も同様に100Uである。薬物動態学試験においてトラスツズマブとHP46はハーセプチン皮下注射剤形と同じ曲線下面積(Area Under the Curve,AUC)を示した(図20)。
【産業上の利用可能性】
【0191】
本発明に係る医薬組成物は、皮下投与(subcutaneous injection)のために使用可能であるとともに非常に安定なため、薬物、好ましくは抗体医薬品など、及びPH20変異体の活性を長期間維持させることができ、よって、皮下注射剤形の生産費用の他に医療費用の節減にも寄与でき、患者の便宜性面でも非常に有利である。
【0192】
参考文献
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図1
図2
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図5
図6
図7
図8
図9a-9b】
図9c-9d】
図10
図11
図12a-12b】
図12c-12d】
図13
図14
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図16
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図19
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【配列表】
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