IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フジッコ株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ダイセルの特許一覧

特許7166500イソフラボン吸収促進剤及び皮膚水分量低下抑制剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】イソフラボン吸収促進剤及び皮膚水分量低下抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/26 20060101AFI20221028BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20221028BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20221028BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20221028BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221028BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20221028BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20221028BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20221028BHJP
【FI】
A61K47/26
A61K9/20
A61K31/352
A61K36/48
A61P43/00 111
A61P17/16
A23L33/10
A23L33/105
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022537179
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2022002469
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2021009408
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591183625
【氏名又は名称】フジッコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川端 彩加
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 俊也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利雄
(72)【発明者】
【氏名】赤木 良太
(72)【発明者】
【氏名】卯川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】大江 健一
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-153090(JP,A)
【文献】特開2007-119429(JP,A)
【文献】国際公開第2018/169027(WO,A1)
【文献】特開2008-278776(JP,A)
【文献】特開2008-001608(JP,A)
【文献】特開2004-024139(JP,A)
【文献】特開2003-183166(JP,A)
【文献】特開2010-037258(JP,A)
【文献】国際公開第2007/148631(WO,A1)
【文献】HWANG, J.H. et al.,"Ex Vivo Live Full-Thickness Porcine Skin Model as a Versatile In Vitro Testing Method for Skin Barr,International Journal of Molecular Sciences,2021年01月11日,Vol.22, Article No.657,ISSN 1442-0067
【文献】木村 隆,ラクトビオン酸のアンチエイジング作用,FOOD STYLE 21,2009年,Vol.13, No.4,pp.52-54, ISSN 1343-9502
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61K 31/00-33/44
A61K 36/00-36/9068
A61P 17/00
A61P 43/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆由来のイソフラボン類の体内への吸収を促進させる作用を有する、ラクトビオン酸またはその塩を含むイソフラボン吸収促進剤。
【請求項2】
エクオール非産生者に用いられる、請求項1に記載のイソフラボン吸収促進剤。
【請求項3】
イソフラボン類をさらに含む、請求項1または2に記載のイソフラボン吸収促進剤。
【請求項4】
前記イソフラボン類は大豆由来である、請求項3に記載のイソフラボン吸収促進剤。
【請求項5】
経口剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載のイソフラボン吸収促進剤。
【請求項6】
飲食品組成物である、請求項1~5のいずれか1項に記載のイソフラボン吸収促進剤。
【請求項7】
イソフラボン吸収促進剤の製造におけるラクトビオン酸またはその塩の使用。
【請求項8】
請求項1に記載のイソフラボン吸収促進剤と、大豆由来のイソフラボン類む、肌改善剤。
【請求項9】
経口剤である、請求項8に記載の肌改善剤。
【請求項10】
記ラクトビオン酸またはその塩の1日の投与量が、150mg以上であり、
前記イソフラボン類の1日の投与量が、30mg以下である、請求項に記載の肌改善剤。
【請求項11】
皮膚水分量低下抑制剤、経皮水分蒸散抑制剤、または皮膚粘弾性改善剤である、請求項8~10のいずれか1項に記載の肌改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソフラボン吸収促進剤に関するものであり、イソフラボン吸収促進作用により皮膚水分量の低下を抑制する皮膚水分量低下抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆製品に多く含まれるイソフラボン類は、女性ホルモン(エストロゲン)との化学構造の類似性から植物エストロゲンとも呼ばれ、エストロゲン様活性を示し、女性の健康や美容に寄与するだけでなく、更年期症状の緩和、骨密度の維持、乳がんや前立腺がん、高コレステロール血症、心疾患などの予防に対する効果があることが知られている。
【0003】
大豆に含まれるイソフラボン類は発酵食品を除きアグリコンであるゲニステイン(genistein)やダイゼイン(daidzein)の形ではほとんど存在せず、そのほとんどはゲニスチン(genistin)やダイジン(daidzin)などの配糖体として存在しているが、イソフラボン類は配糖体のままでは腸管から吸収されず、腸内細菌が産生するβ-グリコシダーゼによりアグリコンに加水分解され腸管吸収することができる。
【0004】
イソフラボンの吸収を高めることにより、イソフラボンの有益な効果を高める方法が検討されており、例えば、イソフラボンを含むポリフェノール類化合物の体内への吸収を促進させる技術として、多糖体を含有する乳酸菌産生物(特許文献1)、黒麹菌の培養物(特許文献2)、クエン酸塩またはクエン酸(特許文献3)を使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開公報2018/169027号
【文献】特開2018-052889号公報
【文献】特開2010-037258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、イソフラボンの体内への吸収を促進させる新たな剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に例示する〔1〕~〔9〕に関する。
〔1〕 イソフラボン吸収促進剤であって、ラクトビオン酸類を含む剤。
〔2〕 肌改善剤であって、ラクトビオン酸類を含み、かつイソフラボン吸収促進作用を有する肌状態を改善する剤。
〔3〕 皮膚水分量低下抑制剤、経皮水分蒸散抑制剤、または皮膚粘弾性改善剤である、〔2〕に記載の剤。
〔4〕 エクオール非産生者に用いられる、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の剤。
〔5〕 イソフラボン類をさらに含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の剤。
〔6〕 前記イソフラボン類は大豆由来である、〔5〕に記載の剤。
〔7〕 経口剤である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の剤。
〔8〕 飲食品組成物である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の剤。
〔9〕 イソフラボン吸収促進剤の製造におけるラクトビオン酸類の使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、イソフラボンの体内への吸収を促進させる新たな剤を提供することができる。本発明によると、エクオールによるエストロゲン様活性を期待できないエクオール非産生者についても、イソフラボンの体内への吸収を促進させることによりイソフラボンによるエストロゲン様活性を効果的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】試験例1における全被験者(合計)のイソフラボン濃度を示すグラフである。
図2】試験例1における全被験者(合計)のイソフラボンとエクオールの合計濃度を示すグラフである。
図3】試験例1における全被験者(合計)の頬の角層水分量を示すグラフである。
図4】試験例1におけるエクオール非産生者のイソフラボン濃度を示すグラフである。
図5】試験例1におけるエクオール非産生者のイソフラボンとエクオールの合計濃度を示すグラフである。
図6】試験例1におけるエクオール非産生者の頬の角層水分量を示すグラフである。
図7】試験例1におけるエクオール産生者のイソフラボン濃度を示すグラフである。
図8】試験例1におけるエクオール産生者のイソフラボンとエクオールの合計濃度を示すグラフである。
図9】試験例1におけるエクオール産生者の頬の角層水分量を示すグラフである。
図10A】試験例2における全被験者(合計)のイソフラボン濃度を示すグラフである。
図10B】試験例2におけるエクオール産生者のイソフラボン濃度を示すグラフである。
図10C】試験例2におけるエクオール非産生者のイソフラボン濃度を示すグラフである。
図11A】試験例2における全被験者(合計)の左頬の角層水分量を示すグラフである。
図11B】試験例2におけるエクオール非産生者の左頬の角層水分量を示すグラフである。
図12A】試験例2における全被験者(合計)の左脛の角層水分量を示すグラフである。
図12B】試験例2におけるエクオール非産生者の左脛の角層水分量を示すグラフである。
図13A】試験例2における全被験者(合計)の左頬の経皮水分蒸散量を示すグラフである。
図13B】試験例2におけるエクオール非産生者の左頬の経皮水分蒸散量を示すグラフである。
図14A】試験例2における全被験者(合計)の左脛の経皮水分蒸散量を示すグラフである。
図14B】試験例2におけるエクオール非産生者の左脛の経皮水分蒸散量を示すグラフである。
図15A】試験例2における全被験者(合計)の左頬の正味の弾性(R5)を示すグラフである。
図15B】試験例2におけるエクオール非産生者の左頬の正味の弾性(R5)を示すグラフである。
図16A】試験例2における全被験者(合計)の左頬の総体弾性(R2)を示すグラフである。
図16B】試験例2におけるエクオール非産生者の左頬の総体弾性(R2)を示すグラフである。
図17A】試験例2における全被験者(合計)の左頬の戻り率(R7)を示すグラフである。
図17B】試験例2におけるエクオール非産生者の左頬の戻り率(R7)を示すグラフである。
図18A】試験例2における全被験者(合計)の左頬の未回復伸張性・退縮能(R1)を示すグラフである。
図18B】試験例2におけるエクオール非産生者の左頬の未回復伸張性・退縮能(R1)を示すグラフである。
図19A】試験例2における全被験者(合計)の目の下のたるみの評価点を示すグラフである。
図19B】試験例2におけるエクオール非産生者の目の下のたるみの評価点を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<イソフラボン吸収促進剤>
本発明のイソフラボン吸収促進剤(以下、単に「イソフラボン吸収促進剤」ともいう)は、ラクトビオン酸を含む。イソフラボン吸収促進剤は、対象に投与することにより対象の体内へのイソフラボンの吸収を促進することができる。
【0011】
イソフラボンはエストロゲン様活性を示すことが知られている。エストロゲンは女性ホルモンの一種であり、更年期症状の緩和や乳房、皮膚、骨代謝など女性の身体の種々の機能を調整するだけでなく、生殖機能、脳・中枢神経機能、循環器(心臓血管系)機能、脂質代謝(コレステロールや中性脂肪)を調整し改善する作用を有することが知られている。一般的には、特に女性においては40代以降になるとエストロゲンの分泌量が低下する。エストロゲンの分泌量が低下すると、更年期症状、物忘れやうつ症状、脂質代謝異常、乳房の萎縮、皮膚の萎縮、骨量の減少等の症状が生じることがある。イソフラボン吸収促進剤によると、体内へのイソフラボンの吸収が促進され、イソフラボンによるエストロゲン様活性により、上記の症状に対する予防・緩和の効果を期待することができる。
【0012】
イソフラボン吸収促進剤は、女性によりその効果が所望されていることから、女性へ投与して用いられることが好ましい一態様であり、エストロゲン様活性が低下する40代以上の女性への投与が好ましい一態様であり、肌が乾燥しがちな女性への投与が好ましい一態様であり、またエクオール非産生者へ投与して用いられることが好ましい一態様である。エクオール非産生者においては、イソフラボン吸収促進剤によりイソフラボンの体内への吸収が促進されるという本発明によりもたらされる効果は、エクオール産生者よりも所望されるからである。
【0013】
イソフラボン類の一種であるダイゼインは、エストロゲン様活性や抗酸化作用が強いエクオールと活性のないO-デスメチルアンゴレンシンに代謝される。この代謝には腸内細菌のエクオール産生菌の存在が不可欠となる。
【0014】
エクオールはもとのダイゼインよりも強いエストロゲン様活性を有していることから、その有用効果が期待されるが、エクオール産生には個体差があり、体内でエクオールを産生できる者(エクオール産生者)と産生できない者(エクオール非産生者)がいる。その個体差は腸内細菌叢の違いによるものと考えられている。
【0015】
エクオール産生者の割合は、多くの研究で報告されており、日本人で50%程度、欧米人では20~30%といわれている。血中にエクオールが存在しないエクオール非産生者ではイソフラボンの有益な効果が十分にまた効率的に享受できないという問題がある。したがって、イソフラボン吸収促進剤を投与する対象として、エクオール非産生者へ投与して用いられる態様は好ましい一態様である。
【0016】
イソフラボン吸収促進作用の評価方法は、対象の尿中又は血中のイソフラボン類の濃度の変化を測定して評価することができる。本発明者らは、後述する試験例において、ラクトビオン酸類をイソフラボン類とともに投与することにより、イソフラボン類を単独で投与した場合と比較して、尿中のイソフラボン類の濃度を向上させることができることを確認した。
【0017】
本発明において、ラクトビオン酸類とは、ラクトビオン酸またはその塩が含まれ、ラクトビオン酸類を含むとは、ラクトビオン酸類である化合物の少なくとも一種を含むことを意味する。ラクトビオン酸は、グルコン酸とガラクトースからなる二糖及び糖酸である。ラクトビオン酸の塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、マグネシウム、鉄との塩が挙げられる。ラクトビオン酸は、鉄、マグネシウム、カルシウムなどの多価金属と塩を作るときはキレート体となることが知られている。
【0018】
ラクトビオン酸類は、公知の方法によって製造したものであってもよく、または市販品であってもよい。ラクトビオン酸の製造方法として、乳糖を基質としてラクトースデヒドロゲナーゼ活性を有するシュードモナス・グラヴェオレンスなどの微生物を作用させる方法、乳糖を臭素などで酸化することにより製造する方法、乳糖を基質とするオキシダーゼや該酵素を有するアシネトバクター属やブルクホルデリア属などの微生物を用いて乳糖を酸化することによって製造する方法等が知られている。
【0019】
ラクトビオン酸の塩の製造方法として、ラクトビオン酸の中和等、通常の塩変換反応により調製する方法、酵素や微生物を利用した生体変換反応により乳糖からラクトビオン酸を生産する反応系に炭酸カルシウム等をあらかじめ添加しておく方法等が挙げられる。
【0020】
イソフラボン吸収促進剤に含まれるラクトビオン酸類は、結晶状、粉末状、粒状等の固体であってもよいし、液体中に溶解していてもよい。
【0021】
イソフラボン吸収促進剤の投与量は、投与対象の性別、年齢、体重、食餌、投与の形態、症状及び期待する効果の程度等によって異なるが、例えば、成人(体重60kgとして)に対する1日当たりのラクトビオン酸類の投与量は、150mg以上、より好ましくは、200mg以上、さらに好ましくは、250mg以上である。
【0022】
イソフラボン吸収促進剤を投与する対象としては、上述の女性(ヒト)に限定されることはなく、イソフラボンの体内での有効利用を期待しうる個体が好適であり、ヒトに代えてヒト以外の哺乳動物に対して実施することができる。
【0023】
イソフラボン吸収促進剤は、イソフラボン類をさらに含んでいてもよい。以下、イソフラボン類を含むイソフラボン吸収促進剤を「イソフラボン類含有イソフラボン吸収促進剤」ともいう。イソフラボン吸収促進剤は、ラクトビオン酸類によるイソフラボン吸収促進の作用により、投与対象が既に摂取している、または投与対象がその後摂取する、イソフラボン類の体内への吸収を促進させることができる。イソフラボン吸収促進剤が、ラクトビオン酸類とともにイソフラボン類を含むことにより、ここに含まれるイソフラボン類も吸収促進の対象となり、体内のイソフラボンの濃度のさらなる上昇を期待することができる。同じ理由から、イソフラボン吸収促進剤は、イソフラボン類を含む食品とともに、またはイソフラボン類を含む食品の摂取前後1時間の間に摂取するように用いられることが好ましい一態様として挙げられる。
【0024】
イソフラボン類は、下式で示される化合物を基本骨格とする化合物の総称である。本明細書において、イソフラボン類を含むとは、イソフラボン類である化合物の少なくとも一種を含むことを意味する。
【0025】
【化1】
【0026】
イソフラボン類としては、大豆由来のイソフラボン類(以下、「大豆イソフラボン類」)であることが好ましい。大豆イソフラボン類には、上記基本骨格を有する化合物(大豆イソフラボンアグリコン)、それに糖が結合した配糖体(大豆イソフラボン配糖体)、並びに当該配糖体のアセチル化体、及びマロニル化体が知られている。本発明における「大豆イソフラボン類」という用語には、これらの大豆イソフラボンアグリコン、大豆イソフラボン配糖体、並びにそのアセチル化体、及びマロニル化体が区別なく含まれる。具体的には、大豆イソフラボンアグリコンとしては、ゲニステイン、ダイゼイン、及びグリシテインが挙げられる。また大豆イソフラボン配糖体は、ゲニスチン、ダイジン、及びグリシチンが挙げられる。大豆イソフラボン配糖体のアセチル化体としては、アセチルゲニスチン、アセチルダイジン、及びアセチルグリシチンが、マロニル化体としてはマロニルゲニスチン、マロニルダイジン、及びマロニルグリシチンが挙げられる。これらの大豆イソフラボン類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本発明では、大豆イソフラボン類は、大豆から精製したものであってもよいが、粗精製物であってもよく、例えば大豆から抽出したもの(抽出物)、大豆の粉砕又は細切物等のいずれを使用してもよい。大豆からイソフラボン類を精製又は抽出する方法は公知であり、本発明では、公知の方法に従って得られた大豆イソフラボン類の精製物又は抽出物を使用することができる。また市販の大豆イソフラボン類を使用することもできる。
【0027】
イソフラボン類含有イソフラボン吸収促進剤に含まれるイソフラボン類の含有量は、イソフラボン類を濃縮した食品、または強化した食品である場合を除き、通常の大豆加工食品である場合には特に制限されるものではない。一方、イソフラボン類を濃縮した食品、または強化した食品である場合には、イソフラボン類含有イソフラボン吸収促進剤に含まれるイソフラボン類の含有量は、イソフラボン類含有イソフラボン吸収促進剤中のイソフラボン類の1日当たりの投与量が、イソフラボンアグリコンの質量換算で30mg以下となるように調整されることが好ましい。
【0028】
イソフラボン吸収促進剤、及びイソフラボン類含有イソフラボン吸収促進剤の投与経路としては、例えば、経口投与、経腸投与等の非経口投与が挙げられる。イソフラボン吸収促進剤は、その用途の別(医薬品、医薬部外品、飲食物[特定保健用食品や栄養機能性食品などの保健機能性食品やサプリメントを含む])は、特に制限されるものではない。
【0029】
(経口剤)
本発明の経口剤としては、例えば、動物薬、医薬部外品、医薬品、治療薬または予防薬等が挙げられる。
【0030】
本発明においては、前述した投与量を投与対象に投与することでイソフラボンの吸収を促進することができるが、その場合、ラクトビオン酸類、またはラクトビオン酸類とイソフラボン類の有効成分のみをそのままあるいは医薬担体と混合して、投与されるべき量、および投与対象(例えば、患者)の状態等を考慮した上で、投与することができる。
【0031】
経口剤としては、具体的には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、チュアブル錠、丸剤、トローチ剤、舌下錠、乳剤、懸濁剤、ゼリー剤、シロップ、液剤、アンプル剤、ガム製剤、ドロップス製剤等が挙げられる。
【0032】
さらにラクトビオン酸類とイソフラボン類の有効成分を分けて製剤化し、投与時に混合する用事調製または投与時に同時に服用する形態も本発明に含まれる。
【0033】
(飲食品組成物)
本発明の飲食品組成物としては、例えば、食品(栄養機能食品、特定保健用食品などを含む)、飲料、栄養補助剤、栄養剤または飼料等が挙げられる。
【0034】
本発明の飲食品組成物が、栄養補助剤、または栄養剤である場合には、その剤形としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、チュアブル錠、丸剤、トローチ剤、舌下錠、ゼリー剤、シロップ、液剤等が挙げられる。
【0035】
イソフラボン吸収促進剤(イソフラボン類含有イソフラボン吸収促進剤を含む)は、イソフラボン吸収促進等の用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。このような表示は特に限定されないが、「イソフラボンの吸収促進」、「イソフラボン濃度の上昇効果を期待することができる」、「女性の健康や美容への寄与」、「更年期症状の緩和」、「骨密度の維持」、「肌状態の改善」、「脂質代謝の改善」、「肌のうるおいを保つ」、「肌の弾力を維持する」、「しわの改善」、「肌のバリア機能を高める」等が挙げられる。「表示」行為には、需要者に対して上記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、上記用途を想起・類推させ得るような表現であれば、表示の目的、表示する対象物・媒体等の如何に問わず、全て本発明の「表示」行為に該当する。イソフラボン吸収促進剤は、好ましい摂取者として「エクオール非産生者」を想起・類推させ得るような表示が付されて提供・販売されることが可能である。
【0036】
表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0037】
「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば特定保健用食品、栄養機能食品、もしくは機能性表示食品に係る制度、またはこれらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、機能性表示食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を挙げることができる。
【0038】
(イソフラボン吸収促進剤の使用)
本発明は、イソフラボン吸収促進剤(イソフラボン類含有イソフラボン吸収促進剤を含む)の製造におけるラクトビオン酸類の使用(方法)を提供する。当該方法は、経口剤および飲食品組成物に、イソフラボンの吸収を促進する作用を付与するためのラクトビオン酸類の使用方法であり、当該方法は、ラクトビオン酸類、またはラクトビオン酸類とイソフラボン類を、対象とする経口剤および飲食品組成物に配合することで実施することができる。なお、当該方法の詳細は、前述した通りである。
【0039】
<皮膚水分量低下抑制剤、経皮水分蒸散抑制剤、皮膚弾力向上剤>
本発明の皮膚水分量低下抑制剤(以下、単に「皮膚水分量低下抑制剤」ともいう)は、ラクトビオン酸類を含む。皮膚水分量低下抑制剤は、対象に投与することにより、対象の体内へのイソフラボンの吸収を促進させる作用により対象の皮膚水分量の低下を抑制することができる。皮膚水分量の低下の抑制としては、例えば、角層(又は角質)水分量の改善(例えば、角層水分量の低下抑制、増大など)が挙げられ、また、角層水分量の改善に起因する肌の改善として、例えば、肌の保湿性の改善、柔軟性の改善、キメの改善、肌バリア機能の改善、シワの改善等が挙げられる。角層水分量の測定は、例えば、Corneometer(登録商標)CM825(Courage+Khazaka electronic GmbH)を用いて、皮膚表面の静電容量を測定することで行うことができる。
【0040】
本発明の経皮水分蒸散抑制剤(以下、単に「経皮水分蒸散抑制剤」ともいう)は、ラクトビオン酸を含む。経皮水分蒸散抑制剤は、対象に投与することにより、対象の体内へのイソフラボンの吸収を促進させる作用により対象の皮膚を介して蒸散される水分量を抑制することができる。皮膚を介して蒸散される水分量を抑制することに起因する肌の改善として、例えば、肌の保湿性の改善、柔軟性の改善、キメの改善、肌バリア機能の改善、シワの改善等が挙げられる。経皮水分蒸散量(TEWL)の測定は、例えば、Tewameter(登録商標)TM300(Courage+Khazaka electronic GmbH)を用いて、プローブの先端に配置されている2組の高感度温度・湿度センサーを通過する水分の温度差と湿度差を測定することで行うことができる。
【0041】
本発明の皮膚粘弾性改善剤(以下、単に「皮膚粘弾性改善剤」ともいう)は、ラクトビオン酸を含む。皮膚粘弾性改善剤は、対象に投与することにより、対象の体内へのイソフラボンの吸収を促進させる作用により対象の皮膚の粘弾性を改善したり、肌の柔軟性を改善したりすることができる。皮膚の粘弾性の改善は、例えば、正味の弾性(R5)、総体弾性(R2)、戻り率(R7)、未回復伸張性・退縮能(R1)等に着目して判断することができる。正味の弾性(R5)、総体弾性(R2)、及び戻り率(R7)は加齢とともに低下する値であるため、値の低下が抑制されることや値が増大することで改善されたと判断することができる。一方、未回復伸張性・退縮能(R1)は加齢とともに増大する値であるため、値の増大が抑制されることや値が低下することで改善されたと判断することができる。皮膚粘弾性の測定は、例えば、Cutometer(登録商標)MPA580(Courage+Khazaka electronic GmbH、プローブ直径2 mm)を用いて行うことができる。
【0042】
上述のように、イソフラボンはエストロゲン様活性を示すことが知られており、エストロゲンには皮膚の機能を調整する作用を有することが知られている。具体的には、エストロゲンは、体内でエストロゲン受容体に結合すると皮膚繊維芽細胞を活性化し、コラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進するという報告がある(Bentley JP, et al. J Invest Dermatol. 87(5):668-73:1986、等)。本発明者らは、後述の試験例において、ラクトビオン酸類をイソフラボン類とともに投与することにより、イソフラボン類を単独で投与した場合と比較して、尿中のイソフラボン類の濃度を向上させることができること、即ち血中イソフラボン類の濃度が増加するという事実、さらには、皮膚水分量の低下を抑制することができること、経皮水分蒸散量を抑制することができること、皮膚の粘弾性を改善することができること、を確認した。イソフラボンの有益な効果を効率的に享受できないエクオール非産生者においても、血中イソフラボン類の濃度が有意に増加し、皮膚水分量の低下を抑制することができること、経皮水分蒸散量を抑制することができること、皮膚の粘弾性を改善することができること、を確認した。イソフラボンのエストロゲン様活性及びエストロゲンに皮膚の機能を調整する公知の作用に基づくと、皮膚水分量を向上させることができる効果の少なくとも一部、経皮水分蒸散量を抑制することができる効果の少なくとも一部、及び皮膚の粘弾性を改善することができる効果の少なくとも一部は、イソフラボンの吸収を促進させる作用によりもたらされているものと推測することができる。
【0043】
皮膚水分量低下抑制剤、経皮水分蒸散抑制剤、及び皮膚粘弾性改善剤において改善の対象となる皮膚、は、特に限定されず、例えば、顔面(例えば、額、頬、口元等)や、腕、肘、手の甲、指先、足、膝、脛、かかと、首、脇、背中等が挙げられる。
【0044】
皮膚水分量低下抑制剤、経皮水分蒸散抑制剤、及び皮膚粘弾性改善剤は、上述のイソフラボン吸収促進剤そのものであってもよく、イソフラボン吸収促進剤と他の成分をさらに含むものであってもよく、他の成分としては皮膚水分量の低下を抑制させることが知られている他の成分が挙げられる。他の成分としては、アスタキサンチン、プラセンタ、N-アセチルグルコサミン、セラミド、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、ビタミンC、コエンザイムQ10、乳酸菌等が挙げられる。皮膚水分量低下抑制剤、経皮水分蒸散抑制剤、及び皮膚粘弾性改善剤として用いられ得るイソフラボン吸収促進剤、及び皮膚水分量低下抑制剤、経皮水分蒸散抑制剤、及び皮膚粘弾性改善剤に含まれ得るイソフラボン吸収促進剤については、上述のイソフラボン吸収促進剤に関する説明が適用される。
【0045】
皮膚水分量低下抑制用の飲食品組成物は、皮膚水分量低下抑制等の用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。このような表示は特に限定されないが、「皮膚水分量低下抑制」、「イソフラボンの吸収促進作用により皮膚水分量の低下抑制効果を期待することができる」、「女性の健康や美容への寄与」、「みずみずしい肌へ導く」、「肌を乾燥しにくくするのを助ける」、「肌コンディションの維持」、「肌のうるおいを保つ」等が挙げられる。
【0046】
経皮水分蒸散抑制用の飲食品組成物は、経皮水分蒸散抑制等の用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。このような表示は特に限定されないが、「肌のバリア機能を高める」、「経皮水分蒸散抑制」、「イソフラボンの吸収促進作用により皮膚水分量の低下抑制効果を期待することができる」、「女性の健康や美容への寄与」、「みずみずしい肌へ導く」、「肌を乾燥しにくくするのを助ける」、「肌コンディションの維持」、「肌のうるおいを保つ」等が挙げられる。
【0047】
皮膚粘弾性改善用の飲食品組成物は、皮膚粘弾性改善等の用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。このような表示は特に限定されないが、「肌の弾力を維持する」、「皮膚粘弾性改善」、「肌の柔軟性改善」、「女性の健康や美容への寄与」、「もちもちの肌へ導く」、「肌コンディションの維持」等が挙げられる。
【0048】
「表示」行為には、需要者に対して上記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、上記用途を想起・類推させ得るような表現であれば、表示の目的、表示する対象物・媒体等の如何に問わず、全て本発明の「表示」行為に該当する。皮膚水分量抑制用の飲食品組成物は、好ましい摂取者として「エクオール非産生者」を想起・類推させ得るような表示が付されて提供・販売されることが可能である。
【0049】
<肌改善剤>
本発明の肌改善剤(以下、単に「肌改善剤」ともいう)は、ラクトビオン酸類を含む。肌改善剤は、対象に投与することにより、対象の体内へのイソフラボンの吸収を促進させる作用により対象の肌状態を改善することができる。
【0050】
肌状態の改善とは、皮膚水分量の低下抑制すること、経皮水分蒸散を抑制すること、皮膚の粘弾性を改善すること、等計測に基づき確認することができる肌状態の改善であってもよく、または官能によって確認される肌状態の改善であってもよい。
【0051】
肌改善剤としては、例えば、上述の皮膚水分量低下抑制剤、経皮水分蒸散抑制剤、皮膚弾力向上剤が挙げられる。また、肌改善としては、例えば、毛穴が気になることが改善すること、キメが粗いことが改善すること、肌がざらつくことが改善すること、しみ・そばかすが気になることが改善すること、顔色が悪いことが改善すること、肌に透明感がないことが改善すること、肌がくすむことが改善すること、肌が乾燥することが改善すること、目尻の小皺が気になることが改善すること、目の下がたるむことが改善すること、ハリ・つやがないことが改善すること、肌にふっくら感がないことが改善すること、化粧崩れしやすいことが改善すること、化粧ノリが悪いことが改善すること、肌の調子が悪いことが改善すること、顔が脂っぽいことが改善すること、ニキビができやすいことが改善すること、肌のかゆみ(肌の掻痒感)ことが改善することが挙げられる。これらは、例えば、客観的な評価を行うことができように訓練された被験者をパネラーとして肌状態アンケートを行い、その結果に基づいて判断することができる。
【実施例
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
[試験例1]
フジッコ株式会社に勤務する30歳以上の女性33名を被験者にして、事前検査後に試験例1を行った。なお、該被験者は、肌機能に疾患がなく日常的に乾燥肌ではない成人女性(頬の角層水分量が60以上)を対象とし、試験期間は、肌機能が低下し始める秋期(9~12月)にて行った。
【0054】
<事前検査>
被験者にフジフラボンK25を含む錠剤(フジッコ株式会社製、3錠あたりイソフラボンをアグリコン換算で25mgのイソフラボン類を含有)を1日3錠(300mg)を2日間摂取させ、3日目の早朝の尿中のエクオール濃度を高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所、SPD-20A)により測定した。このときのエクオール濃度が1.0[nmol/mg Cre]未満である場合には「エクオール非産生者」と分類し、エクオール濃度が1.0[nmol/mg Cre]以上である場合には「エクオール産生者」と分類した。エクオール非産生者は16名でエクオール濃度の平均値は0.4[nmol/mg Cre]であり、エクオール産生者は16名でエクオール濃度の平均値は11.4[nmol/mg Cre]であった。ここで、単位[nmol/mg Cre]は、クレアチニン1mg当たりの量を表す単位である。
【0055】
<試験例1>
被験者を、エクオール非産生者とエクオール産生者とがほぼ同数各群に分類されるように、プラセボ群、イソフラボン類の単独摂取群(以下、「単独群」ともいう)、イソフラボン類及びラクトビオン酸類の併用摂取群(以下、「併用群」ともいう)の3群に分けた。表1に3群の被験者数の人数を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
各群用に表2に示す組成の試験食錠を調製し、各群1日3錠の試験食錠を水またはぬるま湯で摂取させ、かかる摂取を12週間継続させた。各群の1日当たりの試験食錠由来のイソフラボン類(イソフラボンアグリコンの質量換算)及びラクトビオン酸類(ラクトビオン酸の質量換算)の摂取量は表3に示すとおりであった。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
被験者の尿中のイソフラボン濃度Cis[nmol/mg Cre]とエクオール濃度Ceq[nmol/mg Cre]を、試験食錠摂取開始直前、及び摂取開始後4週経過した翌日に測定した。尿中のイソフラボン濃度及びエクオール濃度は、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所、Prominence、LC-20 system)より測定した。イソフラボン濃度はイソフラボンアグリコン換算値とする。表4に全被験者(合計)の測定値の平均値を、表5にエクオール非産生者の測定値の平均値を、表6にエクオール産生者の測定値の平均値を示す。
【0061】
また、被験者の頬の角層水分量[a.u.]を試験食錠摂取開始直前、及び摂取開始後4週、8週、12週経過した翌日に測定した。頬の角層水分量は、Corneomater CM825(Courage+Khazaka Electronic GmbH社製)により頬の5か所を測定し、その平均値を1回分のデータとした。なお、角層水分量は、水の誘電定数を利用して、角層の水分量に応じて異なる静電容量により角層水分量を間接的に算出したものであり、これを相対値で数値化したものである。表7に全被験者(合計)、エクオール非産生者およびエクオール産生者の測定値の平均値を示す。なお、頬の角層水分量は任意単位(arbitrary unit; a.u.)で示す。
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
全被験者(合計)について、図1,2は、表4に示すCis、Cis+Ceqの結果をそれぞれ棒グラフで示した図であり、図3は表7に示す頬の角層水分量の結果をプロットした図である。エクオール非産生者について、図4,5は、表5に示すCis、Cis+Ceqの結果をそれぞれ棒グラフで示した図であり、図6は表7に示す頬の角層水分量の結果をプロットした図である。エクオール産生者について、図7,8は、表6に示すCis、Cis+Ceqの結果をそれぞれ棒グラフで示した図であり、図9は表7に示す頬の角層水分量の結果をプロットした図である。図1~9中の「♯」は群間有意差あり(p<0.05)を示し、「♯♯」は群間有意差あり(p<0.01)を示す。
【0067】
表4及び図1に示す結果から、全被験者(合計)について、併用群(イソフラボン類とラクトビオン酸類を併用摂取)において、単独群(イソフラボン類を単独摂取)と比較して、尿中のイソフラボン類の濃度の平均値が4週目で向上していることを確認した。表5及び図4に示す結果から、エクオール非産生者について、併用群(イソフラボン類とラクトビオン酸類を併用摂取)において、単独群(イソフラボン類を単独摂取)と比較して、尿中のイソフラボン類の濃度の平均値が4週目で向上していることを確認した。表6及び図7に示す結果から、エクオール産生者について、併用群(イソフラボン類とラクトビオン酸類を併用摂取)において、単独群(イソフラボン類を単独摂取)と比較して、尿中のイソフラボン類の濃度の平均値が4週目で向上していることを確認した。
【0068】
表7及び図3に示す結果から、全被験者(合計)について、併用群(イソフラボン類とラクトビオン酸類を併用摂取)において、単独群(イソフラボン類を単独摂取)と比較して、12週目の頬の角層水分量が向上していることを確認した。表7及び図6に示す結果から、エクオール非産生者について、併用群(イソフラボン類とラクトビオン酸類を併用摂取)において、単独群(イソフラボン類を単独摂取)と比較して、8週目、12週目の頬の角層水分量が向上していることを確認した。
【0069】
イソフラボンはエストロゲン活性を有することが知られており、また、エストロゲンには、体内でエストロゲン受容体に結合すると皮膚繊維芽細胞を活性化し、コラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進するということが報告されている。皮膚のコラーゲンとヒアルロン酸は皮膚の構造維持に関与する主要な高分子であり、皮膚の水分保持に寄与していることが知られている。そのため、併用群において尿中のイソフラボン類の濃度が向上、即ちイソフラボンの吸収が促進されたことが、皮膚の水分量の向上に寄与したと考えられる。
【0070】
[試験例2]
肌の乾燥が気になる30歳以上の健常な成人女性70名を被験者にして、事前検査後に試験例2を行った。
【0071】
<事前検査>
被験者にフジフラボンK25を含む錠剤(フジッコ株式会社製、3錠あたりイソフラボンをアグリコン換算で25mgのイソフラボン類を含有)を1日3錠(300mg)を2日間摂取させ、3日目の早朝の尿中のエクオール濃度を高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所、SPD-20A)により測定した。このときのエクオール濃度が1.0[nmol/mg Cre]未満である場合には「エクオール非産生者」と分類し、エクオール濃度が1.0[nmol/mg Cre]以上である場合には「エクオール産生者」と分類した。エクオール非産生者は46名であり、エクオール産生者は24名であった。ここで、単位[nmol/mg Cre]は、クレアチニン1mg当たりの量を表す単位である。
【0072】
<試験例2>
被験者を、プラセボ群35名、イソフラボン類及びラクトビオン酸類の併用摂取群(以下、「併用群」ともいう)35名の2群に分け、二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験を行った。試験期間中プラセボ群で試験辞退者1名が生じ、試験終了後の被験者のうち、禁止薬服薬者と試験期間中の制限事項違反者を除外した。表8に2群の最終の被験者数の人数を示す。
【0073】
【表8】
【0074】
(i)プラセボ群:プラセボ錠剤を摂取する群
(ii)併用群:大豆由来のイソフラボン類の配糖体であるダイジン、グリシチン、及びゲニスチンを高純度に含む大豆胚芽抽出物(粉末)(アグリコン換算で25mg)とラクトビオン酸250mgとを含む錠剤を摂取する併用群
【0075】
前記錠剤はいずれも、直径9mmの打錠(300mg/粒)処理をしたものである。該錠剤は、マルトデキストリン、結晶セルロース、微粒二酸化ケイ素、ステアリン酸カルシウムをベースとするものである。いずれの群でも、コップ1杯程度の水またはぬるま湯と共に、1日1錠(朝食後)、12週間摂取させた。有効性評価のために、4週間毎に来院させ、(a)尿中のイソフラボン濃度の測定、(b)皮膚測定、(c)肌状態アンケート、を行った。(b)皮膚測定は、(b1)角層水分量の測定、(b2)経皮水分蒸散量(TEWL)の測定、(b3)皮膚粘弾性の測定を行った。
【0076】
(a)尿中のイソフラボン濃度の測定
被験者の尿中のイソフラボン濃度Cis[nmol/mg Cre]を、試験食錠摂取開始直前、及び摂取開始後4週、8週、12週経過した翌日に測定した。尿中のイソフラボン濃度は、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所、Prominence、LC-20 system)より測定した。イソフラボン濃度はイソフラボンアグリコン換算値とする。図10A図10B図10Cに被験者中の尿中のイソフラボン濃度Cis[nmol/mg Cre]の平均値を示す(図10A:全被験者、図10B:エクオール産生者、図10C:エクオール非産生者)。
【0077】
(b)皮膚測定
皮膚測定は、測定部位の洗浄後、測定部位を露出させた状態で、温度20±5℃、湿度50±10%の恒温恒湿度室にて20分間以上の馴化後に指定部位の測定を行った。
【0078】
(b1)角層水分量の測定
角層水分量の測定は、Corneometer(登録商標)CM825(Courage+Khazaka electronic GmbH)を用いて、皮膚表面の静電容量を測定することで行った。角層水分量は値が大きい方が良好である。図11A図11Bに被験者の左頬の測定値の平均値を示し(図11A:全被験者、図11B:エクオール非産生者)、図12A図12Bに被験者の左脛の測定値の平均値を示す(図12A:全被験者、図12B:エクオール非産生者)。
【0079】
(b2)経皮水分蒸散量(TEWL)の測定
経皮水分蒸散量(TEWL)の測定は、Tewameter(登録商標)TM300(Courage+Khazaka electronic GmbH)を用いて、プローブの先端に配置されている2組の高感度温度・湿度センサーを通過する水分の温度差と湿度差を測定することで行った。図13A図13Bに被験者の左頬の測定値の平均値を示し(図13A:全被験者、図13B:エクオール非産生者)、図14A図14Bに被験者の左脛の測定値の平均値を示す(図14A:全被験者、図14B:エクオール非産生者)。経皮水分蒸散量(TEWL)は値が小さい方が良好である。
【0080】
(b3)皮膚粘弾性の測定
皮膚粘弾性の測定は、Cutometer(登録商標)MPA580(Courage+Khazaka electronic GmbH、プローブ直径2mm)を用いて、左頬を対象にして行った。図15A図15Bに正味の弾性(R5)の平均値を示し(図15A:全被験者、図15B:エクオール非産生者)、図16A図16Bに総体弾性(R2)の平均値を示し(図16A:全被験者、図16B:エクオール非産生者)、図17A図17Bに戻り率(R7)の平均値を示し(図17A:全被験者、図17B:エクオール非産生者)、図18A図18Bに未回復伸張性・退縮能(R1)の平均値を示す(図18A:全被験者、図18B:エクオール非産生者)。測定した値のうち、正味の弾性(R5)、総体弾性(R2)、及び戻り率(R7)は加齢とともに低下する値であり、値が大きい方が良好である。一方、未回復伸張性・退縮能(R1)は加齢とともに増大する値であり、値が小さい方が良好である。
【0081】
(c)肌状態アンケート
肌状態アンケートでは、アンケート実施時の直近4週間の肌の症状について、毛穴が気になる、キメが粗い、肌がざらつく、しみ・そばかすが気になる、顔色が悪い、肌に透明感がない、肌がくすむ、肌が乾燥する、目尻の小皺が気になる、目の下がたるむ、ハリ・つやがない、肌にふっくら感がない、化粧崩れしやすい、化粧ノリが悪い、肌の調子が悪い、顔が脂っぽい、ニキビができやすい、肌のかゆみ(肌の掻痒感)の各項目について、被験者が自覚症状を答えた。尚、当該被験者は、肌状態アンケートに対して客観的な評価を行うことができように訓練された被験者である。評価点として、「1点:まったく思わない」、「2点:あまり思わない」、「3点:どちらとも言えない」、「4点:少しそう思う」、「5点:強くそう思う」とした。いずれの項目についても得点が小さい方が良好である。図19A図19Bに目の下のたるみの被験者の評価点の平均値を示す(図19A:全被験者、図19B:エクオール非産生者)。
【0082】
上記図面において、結果における群間での有効性解析では、下記の結果が得られた。図11Aから図19Bの結果はいずれも摂取前を0としたときの結果である。尚、図中の「#」は群間有意差あり(P<0.05)を示し、「##」は群間有意差あり(P<0.01)を示し、「*」は摂取前に対して有意差あり(P<0.05)を示し、「**」は摂取前に対して有意差あり(P<0.01)を示す。
【0083】
<結果>
角層水分量(左頬・左脛)については、摂取後ずっとプラセボ群に比べて併用群の値が大きかった。特に摂取後4週において有意に大きかった(図11A図12A)。
経皮水分蒸散量(TEWL)(左頬)については、摂取後4、8週においてプラセボ群に比べて併用群で値が小さかった。(左脛)については、摂取後ずっとプラセボ群に比べて併用群で値が小さかった。特に摂取後4週において有意に小さかった(図14A)。
皮膚粘弾性(左頬)の正味の弾性(R5)、総体弾性(R2)、及び戻り率(R7)については、摂取後ずっとプラセボ群に比べて併用群で値が大きかった。特に摂取後8週と12週において有意に大きかった(図15A図16A図17A)。皮膚粘弾性(左頬)の未回復伸張性・退縮能(R1)については、摂取後ずっとプラセボ群に比べて併用群で値が小さかった。特に摂取後8週と12週において有意に小さかった(図18A)。
肌状態アンケートでは、「目の下のたるみ」について、摂取後ずっとプラセボ群に比べて併用群で得点が小さかった。特に摂取後8週と12週において有意に小さかった(図19A)。エクオール非産生者についても、被験者全体の上記傾向とほぼ同様の傾向が確認された(図12B図13B図14B図15B図16B図17B図18B図19B)。
【0084】
イソフラボンはエストロゲン活性を有することが知られており、また、エストロゲンには、体内でエストロゲン受容体に結合すると皮膚繊維芽細胞を活性化し、コラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進するということが報告されている。皮膚のコラーゲンとヒアルロン酸は皮膚の構造維持に関与する主要な高分子であり、皮膚の水分保持に寄与していることが知られている。そのため、併用群において尿中のイソフラボン類の濃度が向上し(図10A図10B図10C図1図4図7参照)、即ちイソフラボンの吸収が促進されたことが、角層水分量の向上、経皮水分蒸散量の抑制、皮膚粘弾性の改善、肌状態の改善、目の下のたるみの抑制に寄与したと考えられる。
【要約】
イソフラボンの体内への吸収を促進させる新たな剤を提供することを目的とする。イソフラボン吸収促進剤であって、ラクトビオン酸類を含む剤を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B